説明

抗ストレス組成物

【課題】日常的に連用可能で、安全かつ十分な抗ストレス作用を有する組成物を提供する。
【解決手段】
本発明はローヤルゼリーの酵素処理物およびマカ抽出物を含有することを特徴とする抗ストレス組成物に関するものである。本発明の抗ストレス組成物は、ストレスによるグルココルチコイド分泌を抑制した。ローヤルゼリーの酵素処理物およびマカ抽出物を含有する食品、医薬部外品、医薬品は、ストレスによるグルココルチコイド分泌抑制作用を有し、ストレスからくる諸症状の予防や改善に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローヤルゼリー酵素処理物とマカ抽出物を含有することを特徴とする抗ストレス組成物、並びにこれを添加した医薬品及び食品に関するものである。より詳細には、ストレスによる血中グルココルチコイド濃度上昇の抑制作用を有し、ストレスに伴う諸症状の予防又は改善を目的とするための組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ストレスとは、何らかの刺激が体に与えられた結果、体が示すゆがみや変調のことをいう。ストレスの種類としては、騒音、温度変化、酸素の欠乏、飢え、過労のような肉体的なものと、不安、緊張、怒りといった精神的なものがある。特に、現代社会においては学校や会社における高度化された競争社会、機械化やコンピュータの普及に伴う技術の著しい変化、都市部における人口過密、核家族化と高齢化社会の問題など、人々は老若男女にかかわらず様々なストレスにさらされている。
【0003】
生体がストレス刺激を受けると、視床下部が脳下垂体に働きかけることによりACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌され、ACTHは副腎皮質を刺激することによりコルチゾール、コルチコステロン、コルチゾンなどのグルココルチコイドが分泌される。グルココルチコイドは生体の恒常性を維持し、ストレスから身を守るため必要不可欠なホルモンであり、糖代謝の促進や脂肪代謝の調節、抗炎症作用を担う。しかし、ストレスが慢性的に続くとグルココルチコイドの分泌が過剰になり免疫機能低下や記憶障害、糖尿病、肥満、慢性疲労など重篤な症状を引き起こす。
【0004】
ストレスにより生ずる精神的・身体的症状の緩和のため、精神安定剤、抗不安剤、睡眠薬などの合成薬剤が用いられる。しかし、これらの薬剤は習慣性や副作用の問題もあり、長期的に使用することには好ましくない。そこで、日常的に連用可能で安全な抗ストレス剤が求められ、各方面で開発が行われてきた。
【0005】
たとえば、トリペプチドを有効成分とする抗ストレス剤及び機能性食品(特許文献1参照)、ラクトフェリン類を有効成分とする抗ストレス剤(特許文献2参照)、松樹皮抽出物を含有する抗ストレス剤(特許文献3参照)などが提案されている。しかし、これらの抗ストレス剤の効果はいずれも充分なものとは言えなかった。
【0006】
ローヤルゼリーは働き蜂から分泌される乳白色の物質で、タンパク質、炭水化物、脂質などから構成されており、抗菌作用や免疫増強作用、抗腫瘍作用、抗炎症作用、血圧調節作用などの生理活性を有することが知られている。ローヤルゼリーのタンパク質は不溶性のものが大半を占めているため、液状食品に添加すると白色沈殿を生じて外観上好ましくないことから、酵素処理による可溶性ローヤルゼリーの開発が行われている(特許文献4参照)。またローヤルゼリーについては、ラットを用いた環境温度交代ストレスに対する効果が報告されている。しかし、ここで報告されたローヤルゼリーは酵素処理物ではない(非特許文献1)。
【0007】
【特許文献1】特開平11−100328号公報
【特許文献2】特開2001−354583号公報
【特許文献3】特開2003−95964号広報
【特許文献4】特許2623044号
【非特許文献1】鷲塚ら 薬理と治療 1996 Vol.24 No.7 p1469−1473
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ストレスに伴う諸症状を効果的に予防又は改善し、かつ安全性の高い新規の抗ストレス剤およびそれを含有する医薬品、食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、酵素処理したローヤルゼリーとマカ抽出物を組み合わせると、それらを単独で用いた場合や、未処理ローヤルゼリーとマカ抽出物を組み合わせた場合よりも顕著にグルココルチコイド分泌を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明におけるローヤルゼリーとしては、働き蜂が分泌する生ローヤルゼリーを用いることもでき、また一般に市販されているものや冷凍したもの、または凍結乾燥したものなど必要に応じて任意に使用することができる。
【0011】
本発明に用いるローヤルゼリー酵素処理物とは、ローヤルゼリーを酵素処理したものであれば良い。酵素の種類はローヤルゼリーを分解できる酵素であれば良く、そのような酵素として、タンパク質分解酵素、糖分解酵素、リパーゼなどがあげられるが、ローヤルゼリーを十分に分解するにはタンパク質分解酵素が好ましく、例えば、微生物や植物起源のプロテアーゼやペプチダーゼ、哺乳動物由来のペプシン、トリプシン、パンクレアチンのようなプロテアーゼなどを用いることができる。
【0012】
上記の酵素は1種又は任意の2種以上を組み合わせて使用して用いることができる。酵素処理は、使用する酵素それぞれに応じて一般的な方法で行うことができる。たとえば、20℃から60℃で処理することで実施することができる。この際、反応液のpHや反応溶媒は、使用する酵素の種類に応じて適宜選択することができる。
【0013】
マカ(Lepidium meyenii)は、南米ペルーの高地を原産とするアブラナ科の植物で、アンデス地方においては2000年以上前から栽培されており、その根が昔から食用として用いられてきた。
【0014】
本発明におけるマカは全草、花、果実、葉、茎、根などいずれの部位を用いても良いが、根が最も好ましい部位である。本発明に用いるマカ抽出物としては、それぞれの部位を乾燥・粉砕してそのまま用いても良いが、好ましくは水もしくはメタノール、エタノール、プロパノール、アセトンなどの親水性有機溶媒、又はこれらの混合溶媒で抽出することにより得られる抽出物を用いた方が良い。
【0015】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良く、必要に応じて、濃縮、希釈、濾過して用いても良い。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥などの処理を行い、乾燥物として用いても良い。
【0016】
本発明の抗ストレス組成物は、食品又は医薬品のいずれにも用いることができる。例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、粉末剤、飲料、ガム、チョコレート、飴、麺、パン、ケーキ、ビスケット、缶詰、レトルト食品、畜肉食品、水産練食品、マーガリン、バター、マヨネーズなどの通常の医薬品、食品の形態を採用することができる。中でも、摂取量を調節しやすいカプセル剤、錠剤、顆粒剤、飲料などが好ましい。
【0017】
本発明に用いる組成物の摂取量は、投与形態、使用目的、年齢、体重などによって異なるが、通常、製剤全量中、固形分換算して、0.001重量%以上、好ましくは0.01〜50.0重量%の配合が良い。また、製剤化における薬効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加しても良く、作業性を考えて適宜選択すれば良い。一日の投与量は、ローヤルゼリー酵素処理物はローヤルゼリーに換算して0.001〜20g、好ましくは0.1〜10g、より好ましくは0.5〜4gである。マカ抽出物はマカの乾燥物に換算して0.001〜20g、好ましくは0.1〜10g、より好ましくは0.5〜4gである。投与方法や投与量は種々の条件で変動するので、上記投与範囲より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する必要がある場合もある。
【発明の効果】
【0018】
本発明のローヤルゼリー酵素処理物及びマカ抽出物は、グルココルチコイド分泌を抑制し、ストレスにより生ずる精神的・身体的症状の予防、改善に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる酵素処理物および抽出物の製造例、本発明の処方例および実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例に示す%は重量%を示す。
【実施例1】
【0020】
製造例1 ローヤルゼリーのペプシン処理物
生ローヤルゼリー10gを精製水100mLに溶解し、攪拌した。この溶液に10%クエン酸ナトリウム溶液を加えてpHを4.0に調整した。この溶液に豚の胃粘膜由来ペプシン0.1gを添加し、45℃で6時間酵素処理を行った。酵素処理終了後、10%クエン酸ナトリウム溶液を加えてpHを6.0に調整した後、凍結乾燥させ、ローヤルゼリーペプシン処理物3.0gを得た。
【0021】
製造例2 ローヤルゼリーのプロテアーゼ処理物
生ローヤルゼリー10gを精製水100mLに溶解し、攪拌した。この溶液に10%水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを7.0に調整した。この溶液にAspergillus
oryzae由来のプロテアーゼ0.1gを添加し、50℃で6時間酵素処理を行った。酵素処理終了後凍結乾燥させ、ローヤルゼリープロテアーゼ処理物3.3gを得た。
【0022】
製造例3 マカの熱水抽出物
マカの根の乾燥粉末10gに精製水100mLを加えて95〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して熱水抽出物を2.5g得た。
【0023】
製造例4 マカの50%エタノール抽出物
マカの根の乾燥粉末10gにエタノール50mLと精製水50mLを加え、常温で3日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して50%エタノール抽出物を2.0g得た。
【実施例2】
【0024】
処方例1 カプセル剤
<処方> 配合量(%)
1.ローヤルゼリーのペプシン処理物(製造例1) 20.0
2.マカの熱水抽出物(製造例3) 20.0
3.コーンスターチ 57.0
4.ショ糖脂肪酸エステル 3.0
<製造方法>
成分1〜4を混合し、2号硬カプセルに250mg充填してカプセル剤を得る。当該カプセル剤は、1日6カプセル摂取することで、ローヤルゼリーを1.0g/日、マカの乾燥物に換算して1.2g/日に相当するマカ抽出物を摂取できる。
【0025】
処方例2 錠剤
<処方> 配合量(%)
1.ローヤルゼリーのプロテアーゼ処理物(製造例2) 20.0
2.マカの熱水抽出物(製造例3) 10.0
3.乳糖 41.0
4.還元麦芽糖水飴 25.0
5.ショ糖脂肪酸エステル 4.0
<製造方法>
成分1〜4に70%エタノールを適量加えて練和し、押出し造粒した後に乾燥して顆粒を得る。成分5を加えて打錠成形し、0.5gの錠剤を得る。当該錠剤を1日6錠摂取することで、ローヤルゼリーを1.8g/日、マカの乾燥物に換算して1.2g/日に相当するマカ抽出物を摂取できる。
【0026】
処方例3 顆粒剤
<処方> 配合量(%)
1.ローヤルゼリーのペプシン処理物(製造例1) 6.0
2.マカの50%エタノール抽出物(製造例4) 6.0
3.乳糖 58.0
4.セルロース 30.0
<製造方法>
成分1〜4に70%エタノールを適量加えて練和して押出し造粒し、乾燥して顆粒剤を得る。当該顆粒剤は、1回2gずつ1日3回摂取することで、ローヤルゼリーを1.2g/日、マカの乾燥物に換算して1.8g/日に相当するマカ抽出物を摂取できる。
【0027】
処方例4 飲料
<処方> 配合量(%)
1.ローヤルゼリーのプロテアーゼ処理物(製造例2) 2.0
2.マカの50%エタノール抽出物(製造例4) 1.4
3.ショ糖 10.0
4.クエン酸 0.7
5.香料 適量
6.精製水で全量を100とする。
<製造方法>
成分6に成分1〜5を加え、撹拌溶解して濾過し、加熱殺菌して30mLガラス瓶に充填する。当該飲料は、1日1本摂取することでローヤルゼリーを1.8g/日、マカの乾燥物に換算して2.1g/日に相当するマカ抽出物を摂取できる。
【比較例】
【0028】
比較例1 従来の飲料
処方例4の飲料において、ローヤルゼリーのプロテアーゼ処理物およびマカの50%エタノール抽出物を水に置き換えたものを従来の飲料とした。
【実施例3】
【0029】
実験例1
マウスを用いた過密ストレスにおける血中グルココルチコイド分泌を抑制する効果
6週齢のICR雄性マウスを1群8匹とし、通常飼育条件における予備飼育を行った。すなわち通常のマウス飼育用ケージ(高さ13cm、底面積460cm2)を用いて1ケージあたり4匹の条件で7日間飼育した。尚、全群とも実験期間中は通常の固形飼料を与え、水は自由摂取とした。その後、通常飼育条件で飼育しながら、以下に示す試料について、それぞれローヤルゼリー及びマカ乾燥物に換算して1日1g/kgとなる量を、10mL/kgの蒸留水で希釈して7日間経口投与した。対照群及び第1群には10mL/kgの蒸留水を経口投与した。
対照群;蒸留水
第1群;蒸留水
第2群;ローヤルゼリー(未処理)
第3群;ローヤルゼリープロテアーゼ処理物(製造例2)
第4群;マカ抽出物(製造例4)
第5群;ローヤルゼリー(未処理)+マカ抽出物(製造例4)
第6群;ローヤルゼリープロテアーゼ処理物(製造例2)+マカ抽出物(製造例4)
【0030】
7日間の飼料投与後、対照群は引き続き通常のマウス飼育用ケージ(高さ13cm、底面積460cm2)を用いて通常の条件で飼育した。第1、第2、第3、第4、第5及び第6群については過密飼育条件において72時間飼育した。すなわち、通常のマウス飼育用ケージを4つに仕切った1区画(高さ13cm、底面積115cm2)に8匹という通常の8倍の過密条件で72時間飼育を行った。過密飼育期間中も引き続き1日1回試料を経口投与した。飼育終了後、心臓採血により得た血清を用いて、血中コルチコステロン量を定量した。コルチコステロンはマウスにおける主要なグルココルチコイドであり、コルチコステロンの定量は、AssayMax Cortcosterone ELISA Kit(Assay Pro社)を用いて測定した。表1に各群の血清中コルチコステロン量を示す。表1より、過密飼育で蒸留水を投与した第1群は、通常飼育で蒸留水を投与した対照群と比較して血清中コルチコステロン量の著しい上昇が認められた。また、過密飼育でローヤルゼリー(未処理)を投与した第2群およびローヤルゼリープロテアーゼ処理物を投与した第3群について、第1群と比較して血清中コルチコステロン濃度の上昇を抑制したがその効果は僅かであった。しかし、これらをマカ抽出物と組み合わせると、ローヤルゼリー(未処理)と組み合わせた第5群よりも、ローヤルゼリープロテアーゼ処理物と組み合わせた第6群において、第1群と比較して血清中コルチコステロン量の上昇が著しく抑制され、それぞれの単独における抑制効果と比較しても相乗的に抑制効果が認められた。
【0031】


【0032】
実験例2 使用試験
日頃ストレスを感じている女性40人(25〜50才)を20名ずつ試験群と対照群に分け、試験群には処方例4の飲料を、対照群には比較例1の従来の飲料を用いて、1日1本、3ヶ月間摂取させ、試験開始時および終了時におけるストレス由来の症状についてアンケートにより判定した。以下に示す各症状に対して症状がほとんどみられない場合は0点、症状がまれにみられる場合は1点、症状が時々みられる場合は2点、症状がしばしばみられる場合は3点、症状が常にみられる場合は4点として点数化し、その合計点をストレス指数として試験開始時と終了時における20名の平均値を比較した。
【0033】
症状項目
(1)頭が重い(2)胃が痛い(3) 肩や首がこる(4)動悸や息切れがする(5)めまいがする(6)目が疲れる(7)食欲がない(8)便秘(9)下痢(10)寝つきが悪い(11)眠りが浅い(12)イライラする(13)意欲がわかない(14)物事に集中できない(15)体がだるい(16)疲れがとれない
【0034】
これらの試験結果を表2に示した。その結果、ローヤルゼリープロテアーゼ処理物およびマカ抽出物を含む処方例4の飲料は、従来の飲料に比べてストレス由来の症状を緩和した。なお、試験期間中、体調を崩した被験者は一人もなく、安全性においても問題なかった。また、処方成分の劣化についても問題なかった。
【0035】


【産業上の利用可能性】
【0036】
ローヤルゼリー酵素処理物およびマカ抽出物を含有することを特徴とする抗ストレス組成物は、ストレスによるグルココルチコイド分泌抑制効果を有するため、食品、医薬部外品又は医薬品などに配合することにより、ストレス由来の精神的および身体的症状の予防および改善などに有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローヤルゼリー酵素処理物及びマカ抽出物を含有することを特徴とする抗ストレス組成物。
【請求項2】
酵素の種類が、タンパク質分解酵素であることを特徴とする、請求項1記載の抗ストレス組成物。
【請求項3】
血中グルココルチコイド濃度上昇を抑制することを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の抗ストレス組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の抗ストレス組成物を含有することを特徴とする医薬品、及び食品。

【公開番号】特開2007−290969(P2007−290969A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117319(P2006−117319)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】