説明

抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤、及び抗バンコマイシン耐性腸球菌剤

【課題】抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤及び抗バンコマイシン耐性腸球菌剤を提供する。
【解決手段】抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤及び抗バンコマイシン耐性腸球菌剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有する。オオバギ抽出物の原料であるオオバギは、マカランガ・タナリウスとも呼ばれる植物であって、トウダイグサ科オオバギ属に属する常緑広葉樹である。オオバギは、樹木の中でも成長が極めて早く、荒廃地における成長も可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤、及び抗バンコマイシン耐性腸球菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Stapylococcus aureus:MRSA)は、メチシリンが分類されるペニシリン系抗生物質の他に、セフェム系抗生物質、モノバクタム系抗生物質、カルバペネム系抗生物質等のβ−ラクタム系抗生物質に対して耐性を示す多剤耐性の黄色ブドウ球菌である。しかも、MRSAは、β−ラクタム系抗生物質以外にも、アミノグルコシド系抗生物質、マクロライド系抗生物質等に対しても耐性を示すことが知られている。こうした抗生物質の中でも、バンコマイシン、テイコプラニン、アルベカシン、リネゾリド等の抗生物質は、抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌薬として使用されている。特に、バンコマイシンは、耐性菌の出現が少ない抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌薬としてMRSA感染症の治療に有効とされていた。ところが、近年ではバンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin-resistant Enterococcus:VRE)の出現が確認されるようになった。こうしたMRSA又はVREに対して抗菌活性を示す有効成分として、天然由来の成分が知られている。MRSAに対して抗菌活性を示す有効成分としては、ワタヨモギから抽出された化合物が報告されている(特許文献1参照)。VREに対して抗菌活性を示す有効成分としては、ヒノキチオールが報告されている(特許文献2参照)。
【0003】
一方、トウダイグサ科オオバギ属に属するオオバギ(大葉木)の抽出物は抗菌作用を発揮することが知られている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−201234号公報
【特許文献2】特開2001−131061号公報
【特許文献3】特開2007−45754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌及びバンコマイシン耐性腸球菌について、抗菌作用を発揮していた有効成分であっても、それらの有効成分に対して、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌及びバンコマイシン耐性腸球菌は耐性を獲得するおそれがある。このため、それら菌について抗菌作用を発揮する有効成分を見出すことは極めて重要な課題である。本発明は、本研究者らによる鋭意研究の結果、オオバギ抽出物がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌及びバンコマイシン耐性腸球菌に対して抗菌作用を発揮することを見出すことでなされたものである。なお、上記特許文献3では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌及びバンコマイシン耐性腸球菌に対するオオバギ抽出物の作用は解明されていない。
【0005】
本発明の目的は、抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤及び抗バンコマイシン耐性腸球菌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明の抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有することを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤において、前記有効成分は、オオバギ抽出物由来であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明の抗バンコマイシン耐性腸球菌剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明の抗バンコマイシン耐性腸球菌剤は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有することを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の抗バンコマイシン耐性腸球菌剤において、前記有効成分は、オオバギ抽出物由来であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤及び抗バンコマイシン耐性腸球菌剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、本発明の抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤を具体化した第1の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有する。オオバギ抽出物の原料であるオオバギ(大葉木)は、マカランガ・タナリウス(Macaranga tanarius)とも呼ばれる植物であって、トウダイグサ科オオバギ属に属する常緑広葉樹(雌雄異株)である。オオバギは、沖縄、台湾、中国南部、マレー半島、フィリピン、マレーシア、インドネシア、タイなどの東南アジア、オーストラリア北部などに生育している。また、オオバギは、樹木の中でも成長が極めて早く、荒廃地における成長も可能である。
【0014】
オオバギ抽出物の原料としては、オオバギの各器官やそれらの構成成分を用いることができる。原料としては、単独の器官又は構成成分を用いてもよいし、二種以上の器官や構成成分を混合して用いてもよい。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対するオオバギ抽出物の抗菌作用が高まるという観点から、原料には果実、種子、花、根、幹、茎の先端部、葉身、及び分泌物(ワックス等)を含むことが好ましい。茎の先端部は、茎の成長点及び葉芽を含んでおり、葉身に比べて柔軟であるため、抽出操作を効率的に行うことが容易である。また、オオバギの全体に対して各器官が占める割合を比較すると、幹、根、及び葉の占める割合は高い。このため、オオバギの葉身をオオバギ抽出物の原料として用いることは、原料確保が容易であるという観点から、工業的に好適である。こうした原料は、採取したままの状態、採取後に破砕、粉砕若しくはすり潰した状態、採取・乾燥後に粉砕、破砕若しくはすり潰した状態、又は、採取後に粉砕、破砕若しくはすり潰した後に乾燥させた状態として、抽出操作を行うことができる。抽出操作を効率的に行うべく、破砕した原料を用いることが好ましい。こうした破砕には、例えばカッター、裁断機、クラッシャー等を用いることができる。また、粉砕した原料を調製する際には、例えばミル、クラッシャー、グラインダー等を用いることができる。すり潰した原料を調製する際には、ニーダー、乳鉢等を用いることができる。
【0015】
上述した原料からオオバギ抽出物を抽出するための抽出溶媒としては、水と有機溶媒との混合溶媒、低級アルコール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、グリセリン、プロピレングリコール等の有機溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられる。有機溶媒としては、単独種を用いてもよいし、複数種を混合した混合溶媒を用いてもよい。抽出溶媒として水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中における有機溶媒の含有量は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは80体積%以上である。混合溶媒中における有機溶媒の含有量が50体積%未満の場合、オオバギに含まれる有効成分を効率的に抽出できないおそれがある。なお、有機溶媒としては、低級アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。
【0016】
なお、抽出溶媒中に、有機塩、無機塩、緩衝剤、乳化剤、デキストリン等を溶解させてもよい。
抽出操作としては、抽出溶媒中に上記原料を所定時間浸漬させる。こうした抽出操作においては、抽出効率を高めるべく、必要に応じて攪拌操作、加温等を行ってもよい。また、原料から抽出される夾雑物を削減すべく、抽出操作に先だって、別途水抽出操作又は熱水抽出操作を行ってもよい。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対して有効に抗菌作用を発揮する成分は、オオバギに含まれるニムフェオール類である。ニムフェオール類は、水のみに対して不溶の成分であるため、オオバギを例えば熱湯で煮沸することで、ニムフェオール類以外の不必要な侠雑物を効率的に除去することができる。
【0017】
抽出操作の後には固液分離操作が行われることで、オオバギ抽出液と原料の残渣とを分離する。こうした固液分離操作の分離法としては、例えばろ過、遠心分離等の公知の分離法を利用することができる。得られたオオバギ抽出液は、必要に応じて濃縮してもよい。
【0018】
また、オオバギ抽出液に含まれる抽出溶媒を必要に応じて除去することにより、固体状のオオバギ抽出物を得ることができる。こうした溶媒の除去は、例えば減圧下で加熱することにより行ってもよいし、凍結乾燥により行ってもよい。
【0019】
少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物には、ニムフェオール類が含有されている。ニムフェオール類は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種を含む。ニムフェオール−A(nymphaeol−A)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-6-ゲラニルフラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-6-geranylflavanone)である。ニムフェオール−B(nymphaeol−B)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-2´-ゲラニルフラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-2´-geranylflavanone)である。ニムフェオール−C(nymphaeol−C)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-6-(3´´´,3´´´-ジメチルアリル)-2´-ゲラニルフラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-6-(3´´´,3´´´-dimethylallyl)-2´-geranylflavanone)である。
【0020】
オオバギ抽出物の主要な成分は、上述したニムフェオール類であり、こうしたニムフェオール類がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用に大きく寄与していると推測される。
【0021】
さらにオオバギ抽出物には、プロポリンAが含有されている。プロポリンA(propolinA)は、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-2´-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-2´-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimethyl-2´´-octenyl)-flavanone)である。オオバギ抽出物には、微量成分として、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-5´-ゲラニルフラバノン(イソニムフェオールB:isonymphaeol−B:5,7,3´,4´-tetrahydroxy-5´-geranylflavanone)、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-5´-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-5´-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimethyl-2´´-octenyl)-flavanone)、5,7,3´,4´-テトラヒドロキシ-6-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,3´,4´-tetrahydroxy-6-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimethyl-2´´-octenyl)-flavanone)、5,7,4´-トリヒドロキシ-3´-(7´´-ヒドロキシ-3´´,7´´-ジメチル-2´´-オクテニル)-フラバノン(5,7,4´-trihydroxy-3´-(7´´-hydroxy-3´´,7´´-dimetyl-2´´-octenyl)-flavanone)、5,7,4´-トリヒドロキシ-3´-ゲラニルフラバノン(5,7,4´-trihydroxy-3´-geranylflavanone)等が挙げられる。なお、オオバギの各部位から抽出された抽出液の中でも、花、種子及び実の部位(ワックスを含む)から抽出された抽出液には、ニムフェオールA,B,C及びイソニムフェオールBが高濃度で含有されている。
【0022】
抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤には、その抗菌作用を損なわない範囲でオオバギ抽出物以外の成分を含有させてもよい。オオバギ抽出物以外の成分としては、例えば賦形剤、基剤、乳化剤、安定剤、香料等が挙げられる。抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤は、液状であってもよいし、固体状であってもよい。剤形としては、特に限定されないが、例えば散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、液剤等が挙げられる。
【0023】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Stapylococcus aureus:MRSA)は、病原菌である黄色ブドウ球菌が複数の薬剤に対して耐性化した多剤耐性菌である。MRSAが耐性を示す物質としては、メチシリンが分類されるペニシリン系抗生物質の他に、セフェム系抗生物質、モノバクタム系抗生物質、カルバペネム系抗生物質等のβ−ラクタム系抗生物質が挙げられる。更に、MRSAは、β−ラクタム系抗生物質以外にも、アミノグルコシド系抗生物質、マクロライド系抗生物質等に対しても耐性を示すことが知られている。なお、MRSAの感染力及び病原性は、黄色ブドウ球菌と同様とされている。第1の実施形態の抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤は、そうしたMRSAに対して抗菌活性を有することで、MRSAの感染を予防することができる。
【0024】
抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤は、例えば医薬品、医薬部外品、各種洗浄剤等として利用することができる。ここで、MRSAは、院内感染の起炎菌として知られており、MRSAの感染症は患者、高齢者等の免疫力の低下した人において発症することが多い。こうした観点から、抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤は、例えば医療用品、医療器具、病院の内装材、病院のクリーンルームの吸気口や排気口、高齢者施設の内装材等に適用されることが好適である。この場合、抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤は、例えば成形材料、塗料等に添加して利用してもよい。
【0025】
なお、抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤は、MRSAの感染源となり得る箇所において、ニムフェオールA、ニムフェオールB及びニムフェオールCの合計量が好ましくは25ppm以上となるように使用されることが好適である。MRSAの感染源となり得る箇所において、ニムフェオールA、ニムフェオールB及びニムフェオールCの合計量が25ppm以上であると、MRSAを殺菌する作用が十分に発揮され易くなる。
【0026】
第1の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有している。そして本研究者らは、こうしたオオバギ抽出物に含まれるニムフェオール類がMRSAに対して抗菌活性を有することを見出している。こうした抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤は、オオバギ抽出物の新規な用途を提供するものであり、MRSAの過剰な増殖を要因とする感染を予防することができる。
【0027】
(2)オオバギは、樹木の中でも成長が極めて早く、荒廃地における成長も可能である。このようにオオバギは、その栽培管理に手間がかからない。また、オオバギ抽出物は、植物由来の原料であるため、安全性が高い。従って、抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤は、MRSAに対して抗菌活性を有することに加えて、原料の供給、生産性、安全性等についても優れている。
(第2の実施形態)
本発明の抗バンコマイシン耐性腸球菌剤を具体化した第2の実施形態について、上記第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0028】
抗バンコマイシン耐性腸球菌剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有する。オオバギ抽出物については上記第1の実施形態と同様である。抗バンコマイシン耐性腸球菌剤には、その抗菌作用を損なわない範囲でオオバギ抽出物以外の成分を含有させてもよい。オオバギ抽出物以外の成分としては、例えば賦形剤、基剤、乳化剤、安定剤、香料等が挙げられる。抗バンコマイシン耐性腸球菌剤は、液状であってもよいし、固体状であってもよい。剤形としては、特に限定されないが、例えば散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、液剤等が挙げられる。
【0029】
バンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin-resistant Enterococcus:VRE)は、バンコマイシンに対して薬剤耐性を獲得した腸球菌である。VREとしては、例えばエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等が挙げられる。第2の実施形態の抗バンコマイシン耐性腸球菌剤は、そうしたVREに対して抗菌活性を有することで、VREの感染を予防することができる。
【0030】
抗バンコマイシン耐性腸球菌剤は、例えば医薬品、医薬部外品、各種洗浄剤等として利用することができる。ここで、VREはMRSAと同様に、院内感染の起炎菌として知られており、VREの感染症は患者、高齢者等の免疫力の低下した人において発症することが多い。こうした観点から、抗バンコマイシン耐性腸球菌剤は、例えば医療用品、医療器具、病院の内装材、病院のクリーンルームの吸気口や排気口、高齢者施設の内装材等に適用されることが好適である。この場合、抗バンコマイシン耐性腸球菌剤は、例えば成形材料、塗料等に添加して利用してもよい。
【0031】
なお、抗バンコマイシン耐性腸球菌剤は、VREの感染源となり得る箇所において、ニムフェオールA、ニムフェオールB及びニムフェオールCの合計量が好ましくは8ppm以上となるように使用されることが好適である。VREの感染源となり得る箇所において、ニムフェオールA、ニムフェオールB及びニムフェオールCの合計量が8ppm以上であると、VREの増殖を抑制する作用が十分に発揮され易くなる。
【0032】
第2の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(3)抗バンコマイシン耐性腸球菌剤は、少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有している。そして本研究者らは、こうしたオオバギ抽出物に含まれるニムフェオール類がVREに対して抗菌活性を有することを見出している。こうした抗バンコマイシン耐性腸球菌剤は、オオバギ抽出物の新規な用途を提供するものであり、VREの過剰な増殖を要因とする感染を予防することができる。
【0033】
(2)オオバギは、樹木の中でも成長が極めて早く、荒廃地における成長も可能である。このようにオオバギは、その栽培管理に手間がかからない。また、オオバギ抽出物は、植物由来の原料であるため、安全性が高い。従って、抗バンコマイシン耐性腸球菌剤は、VREに対して抗菌活性を有することに加えて、原料の供給、生産性、安全性等についても優れている。
【0034】
なお、前記各実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・前記抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤、又は、抗バンコマイシン耐性腸球菌剤は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有した構成としてもよい。すなわち、MRSA又はVREに対して抗菌活性を有する有効成分は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種であるため、その有効成分は、オオバギ抽出物を由来とする以外に、例えば化学合成により得られるものであってもよい。
【0035】
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cを有効成分として含有する抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤。
【0036】
・前記オオバギ抽出物が、水と有機溶媒との混合溶媒から抽出されたものである請求項1に記載の抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤。
・ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cを有効成分として含有する抗バンコマイシン耐性腸球菌剤。
【0037】
・前記オオバギ抽出物が、水と有機溶媒との混合溶媒から抽出されたものである請求項4に記載の抗バンコマイシン耐性腸球菌剤。
【実施例】
【0038】
次に、試験例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
<オオバギ抽出物の調製1>
沖縄県で採集して冷凍したオオバギの生葉を解凍した後に、はさみでその生葉を細かくカットした。カットした生葉30gと、溶媒100mlとをチューブ内に入れ、室温で2週間浸漬させて溶媒抽出を行った後に、ろ過することにより、ろ液としてオオバギ抽出液を採取した。なお、前記溶媒抽出には、エタノールと水とを体積比率でエタノール:水=90:10とした混合溶媒を使用した。次に、オオバギ抽出液を凍結乾燥することにより、オオバギ抽出液に含まれる固形分の粉末であるオオバギ抽出物を調製した。このオオバギ抽出物中に含まれるニムフェオールの濃度を、HPLC条件で分析して得られたクロマトグラムから算出した結果、50質量%であった。なお、このニムフェオールの濃度は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B、及びニムフェオール−Cを合計した濃度を示している。以下においても、ニムフェオールの量は、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B、及びニムフェオール−Cの合計量を示している。
【0039】
(HPLC条件)
システム: PDA−HPLCシステム(島津製作所)、LC10ADvpシリーズ、UV;SPD−10Avp、PDA;SPD−M10Avp
カラム : Luna C18 (2.0×250mm)(島津GLC)
溶媒 : A:水(5%酢酸)、B:アセトニトリル(5%酢酸)
溶出条件: 0−20min
(グラジエント溶出;A:B=80:20→A:B=30:70)
20−50min
(グラジエント溶出;A:B=30:70→A:B=0:100)
50−60min(A:B=0:100)
60−75min(A:B=80:20)
流速 : 0.2ml/min
PDA検出:UV190−370nm
UV検出: UV287nm
注入量 : 20μl
温度 : 40℃
この50質量%のサンプルのクロマトグラムを図1に示す。
【0040】
<MRSAに対するオオバギ抽出物の抗菌活性試験>
MRSAの菌株(Methicillin-resistant Stapylococcus aureus ATCC 33591株)をスタフィロコッカスNo.110寒天平板培地(株式会社日本生物材料センター製)に白金耳にて接種し、37℃で48時間培養した。増殖したコロニーを白金耳で採取し、生理食塩水1mlに溶解して菌液を調整した。調整した菌液を滅菌PBS及びミューラー・ヒントン液体培地(株式会社日本生物材料センター製)にて希釈し、1×10、1×10、1×10cfu/ml接種菌液を得た。
【0041】
一方、オオバギ抽出物の終濃度が0.005質量%、0.01質量%、0.05質量%、0.2質量%となるように、ミューラー・ヒントンブイヨン培地(DIFCO社製)にて希釈することにより試験サンプルの調製を行った。
【0042】
各試験用サンプルのブイヨン培地1mlに対して接種菌液10μlを接種した。一方、対照としてオオバギ抽出物を含まないブイヨン培地についても、同様に接種菌液を接種した。それらブイヨン培地を接種後37℃で20時間静置培養した後、各0.1mlをスタフィロコッカスNo.110寒天平板培地(株式会社日本生物材料センター製)に塗抹した。次いで、37℃で48時間培養後、発育したコロニーについての感受性試験を行った。表1には、各被検物質の濃度と感受性度との関係を示している。なお、表1における感受性度の結果欄には、コロニーの発生が確認できた場合については、“+”を示すとともに、コロニーの発生が確認できなかった場合については、“−”を示している。
【0043】
【表1】

オオバギ抽出物は、いずれの菌濃度においても、0.005質量%(50ppm)以上の濃度において、MRSAを完全に殺菌する効果が得られた。この結果から、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cの3成分の合計が25ppm以上の濃度においてMRSAを完全に殺菌する効果が得られることがわかる。
【0044】
<VREに対するオオバギ抽出物の抗菌活性試験>
VREの菌株(Enterococcus faecium NCTC 12204株)を増殖用培地としてミューラー・ヒントン・ブロス培地(Difco社製)に接種し、37℃で18〜20時間培養後、菌数が約1×10cfu/mlになるように増殖用培地にて希釈することにより接種用菌液を得た。
【0045】
一方、オオバギ抽出物の10質量%溶液について、99.5体積%のエタノールを用いて、5質量%のオオバギ抽出物溶液を調整した。これを99.5体積%のエタノールで順次2倍希釈し、2倍希釈系列溶液を調整した。次に、50〜60℃に保ったミューラー・ヒントン寒天培地(Difco社製)に2倍希釈系列溶液をそれぞれ1/99量(各溶液添加後の濃度:1000、500、250、125、62.5、31.3、15.6ppm)添加し十分に混合後、シャーレに分注するとともに固化させて感受性測定用平板を得た。
【0046】
感受性測定用平板に接種用菌液を、樹脂製ループを用いてそれぞれ1〜2cm程度に画線塗布し、37℃で18〜20時間培養した。培養後、発育が阻止された最小濃度をもって上記菌に対するオオバギ抽出物の最小発育阻止濃度とした。その結果、オオバギ抽出物の最小発育阻止濃度は、15.6ppmであった。実施例1のオオバギ抽出物には、ニムフェオールA、ニムフェオールB及びニムフェオールCの3成分が50質量%含まれているため、この結果から、ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cの3成分の合計が7.8ppm以上の濃度においてVREの発育阻止効果が得られることがわかる。
【0047】
(実施例2)
<オオバギ抽出物の調製2>
カットした生葉30gをまず水(95℃)で30分浸漬し、これを濾過した。濾過した後の残った葉に100%エタノールを添加し、3日間浸漬させて溶媒抽出を行った。この抽出液をろ過してオオバギ抽出液を採取した後、そのオオバギ抽出液を凍結乾燥することにより、オオバギ抽出液に含まれる固形分の粉末であるオオバギ抽出物を調製した。
【0048】
このオオバギ抽出物中に含まれるニムフェオールの濃度を、上記のHPLC条件で分析して得られたクロマトグラムから算出した結果、40質量%であった。
この40質量%のサンプルのクロマトグラムを図2に示す。
【0049】
<MRSA及びVREに対するオオバギ抽出物の抗菌活性試験>
実施例1と同様に抗菌活性試験を実施した結果、実施例2で調製したオオバギ抽出物においても同様の抗菌活性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1に係るオオバギ抽出物について高速液体クロマトグラフィーにて分析した結果を示すクロマトグラム。
【図2】実施例2に係るオオバギ抽出物について高速液体クロマトグラフィーにて分析した結果を示すクロマトグラム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤。
【請求項2】
ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有することを特徴とする抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤。
【請求項3】
前記有効成分は、オオバギ抽出物由来であることを特徴とする請求項2に記載の抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌剤。
【請求項4】
少なくとも有機溶媒を含む抽出溶媒により抽出されたオオバギ抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗バンコマイシン耐性腸球菌剤。
【請求項5】
ニムフェオール−A、ニムフェオール−B及びニムフェオール−Cから選ばれる少なくとも一種を有効成分として含有することを特徴とする抗バンコマイシン耐性腸球菌剤。
【請求項6】
前記有効成分は、オオバギ抽出物由来であることを特徴とする請求項5に記載の抗バンコマイシン耐性腸球菌剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−215210(P2009−215210A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59783(P2008−59783)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(308009277)株式会社ポッカコーポレーション (31)
【Fターム(参考)】