説明

抗炎症剤、抗老化剤、一酸化窒素産生促進剤及び皮膚化粧料

【課題】抗炎症剤、TNF−α産生抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤、抗老化剤、I型コラーゲン産生促進剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、一酸化窒素産生促進剤及び皮膚化粧料を提供する。
【解決手段】抗炎症剤、TNF−α産生抑制剤、抗老化剤又はI型コラーゲン産生促進剤に、マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンを含有せしめ、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤又は一酸化窒素産生促進剤に、マルツロシルアルギニンを含有せしめる。また、皮膚化粧料にマルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンを配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症剤、抗老化剤、一酸化窒素産生促進剤及び皮膚化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性の疾患、例えば、接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、その他肌荒れを伴う各種皮膚疾患等の原因や発症機構は多種多様であるが、その原因の一つとして、主にマクロファージから産生される腫瘍壊死因子(以下「TNF−α」という)によるものが知られている。
【0003】
TNF−αは、腫瘍を壊死させる因子として見出されたが、最近では腫瘍に対してだけでなく、正常細胞の機能を調節するメディエーター的な役割を担うサイトカインであると考えられている。TNF−αは炎症の初発から終息までの過程において重要な役割を担っているが、その持続的かつ過剰な産生は、皮膚を含めた組織の障害を引き起こし、全身的には発熱やカケクシアの原因となり、炎症の悪化を引き起こす。そのような炎症としては、例えば、関節リューマチ、変形性関節症などの慢性炎症性疾患が代表的である。したがって、病的な炎症においてはTNF−αの過剰な産生を抑制することが重要となる。TNF−α産生抑制作用を有するものとしては、ヒルガオ科ヨウサイからの抽出物等が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、炎症は、発赤、浮腫、発熱、痛み、機能障害等の症状を示す複雑な反応である。微視的に見ると、炎症は、血漿漏出を起こす血管反応、白血球の浸潤、炎症性細胞による組織破壊等の共通する反応からなり、発熱反応や痛覚過敏等の中枢神経系も関与する、全身反応も引き起こす場合もある。このような炎症の個々の反応には、プロスタグランジンが重要な役割を果たしており、この炎症時におけるプロスタグランジンの産生には、主として誘導型のシクロオキシゲナーゼであるシクロオキシゲナーゼ−2が関与することが明らかとなっている。
【0005】
このため、炎症反応の防止及び予防を図る目的で、アスピリンに代表される多くのシクロオキシゲナーゼ阻害剤が用いられている(非特許文献1参照)。また、植物由来のシクロオキシゲナーゼ阻害剤としては、マンゴスチン果皮抽出物中のα−マンゴスチン及びγ−マンゴスチン等が知られている(特許文献2参照)。また、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用を有する化合物としては、2−フェニル−1,2−ベンズイソセレナゾール−3(2H)−オン、その塩又はその水和物等が知られている(特許文献3参照)。
【0006】
皮膚の構造は、大きく分けて、表皮、基底膜、真皮、皮下組織からなる。基底膜は、表皮と真皮との境界部に存在しており、その機能は多岐にわたり、表皮の真皮への接着、表皮の極性の決定、表皮の分化・増殖の制御、さらには真皮細胞が産生する因子や血成分由来の栄養供給の制御に関与している。そのため、基底膜は、皮膚の構造、恒常性の維持にとってきわめて重要な役割を果たしている。したがって、基底膜の構造が変化すると、しわ、たるみ等の皮膚の老化症状を呈するようになる。特に、基底膜の主要成分であるIV型コラーゲンの産生量が減少すると、基底膜の構造が変化し、しわ、たるみ等の皮膚の老化症状を呈するようになる。
【0007】
また、皮膚の真皮は、繊維芽細胞及びこれらの細胞の外にあって皮膚構造を支持するエラスチン、ヒアルロン酸、I型コラーゲン等の細胞外マトリックスにより構成されている。そのため、真皮は、皮膚の張りや艶に必要な、水分保持、柔軟性、弾力性の確保に重要な役割を果たしている。したがって、紫外線の照射や、乾燥等、ある種の外的因子の影響、加齢等によりI型コラーゲンの産生量が減少すると、真皮の構造が変化し、保湿機能の低下、肌の弾力性の低下、張りや艶の低下等の皮膚の老化症状を呈するようになる。
【0008】
従来、コラーゲン産生促進作用を有するものとしては、五斂子抽出物(特許文献4参照)、加水分解カゼイン、ブナの芽、エリスリナ、可溶性卵殻膜、カッコン、西洋キヅタよりなる群から選ばれる植物及び動物由来の抽出物等が知られている(特許文献5参照)。
【0009】
表皮は、外部刺激を緩和し、水分等の体内成分の逸失を制御する働きをしており、基底層、有棘層、顆粒層及び角質層から構成されている。基底層で分裂、増殖した細胞は、有棘層、顆粒層を通過しながら分化し、強固な架橋結合をもったケラチン蛋白線維で構成された角質層になり、最終的には垢として角質層から脱落する。特に、顆粒層では、細胞膜が肥厚して肥厚細胞膜を形成するとともに、トランスグルタミナーゼ−1の作用により、蛋白分子間がグルタミル−リジン架橋され、強靭なケラチン蛋白線維が形成される。さらに、その一部にセラミド等が共有結合し、疎水的な構造をとることで、細胞間脂質のラメラ構造の土台を供給し、角質バリア機能の基礎が形成される。
【0010】
しかし、加齢とともに表皮におけるトランスグルタミナーゼ−1の産生量が減少すると、角質バリア機能及び皮膚の保湿機能が低下するため、肌荒れ、乾燥肌等の皮膚の老化症状を呈するようになる。そのため、表皮におけるトランスグルタミナーゼ−1の産生を促進することにより、皮膚の老化症状を予防又は改善することができると考えられる。このような考えに基づき、トランスグルタミナーゼ−1産生促進作用を有するものとして、ニガリ又はその構成成分である塩化カルシウム等が知られている(特許文献6参照)。
【0011】
皮膚の真皮及び表皮は、表皮細胞、線維芽細胞、及びこれらの細胞の外にあって皮膚構造を支持するエラスチン等の細胞外マトリックスによって構成されている。若い皮膚では、これら皮膚組織の相互作用が恒常性を保つことによって、水分保持、柔軟性、弾力性等が確保され、肌は外見的にも張りや艶があって、みずみずしい状態が維持される。
【0012】
ところが、紫外線、著しい乾燥、過度の皮膚洗浄等のある種の外的因子の影響を受けたり、加齢が進んだりすると、エラスチンの分解及び変質が起こる。また、外的因子の影響や加齢に伴う線維芽細胞の増殖率低下も、天然保湿因子であるヒアルロン酸の産生量の低下を生じる。その結果、皮膚の弾力性や保湿機能は低下し、角質は異常剥離を引き起こし、肌は張りや艶を失い、荒れ、しわ、くすみ等の老化症状を呈するようになる。
【0013】
このような皮膚の老化に伴う、しわ、くすみ、きめの消失、及び弾力性の低下等には、ヒアルロン酸の減少、変性が関与している。近年、紫外線等がこの変化を誘導する因子とされており、皮膚のしわ形成等の大きな要因となると考えられる。したがって、ヒアルロン酸産生の促進は、皮膚の老化を防止及び改善する上で重要である。従来、ヒアルロン酸産生促進作用を有するものとしては、ラカシシュからの抽出物等が知られている(特許文献7参照)。
【0014】
一酸化窒素については、その生理学的作用又は薬理学的作用が注目されており、様々な研究が行われてきている。一酸化窒素は、生体内において、L−アルギニンと分子状酸素とを基質とし、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、テトラヒドロビオプテリンを補酵素として、一酸化窒素合成酵素(NOS)により生成される。NOSには、酵素学的にもタンパク質分子としても異なる3種のアイソフォームが存在し、それぞれ誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)、血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)が知られている。
【0015】
これらNOSのうちeNOSは、血管内皮細胞に局在しており細胞膜に結合している。このeNOSが活性化されると、一酸化窒素が継続的に産生され、その一酸化窒素は直ちに血管平滑筋に取り込まれ、グアニル酸シクラーゼを活性化する。これによりサイクリックグアノシン3’,5’−一リン酸(cGMP)が産生され、cGMP依存性タンパク質リン酸化酵素の活性化を介して、血管平滑筋が弛緩されることにより、血圧が低く保たれる。また、eNOSにより産生された一酸化窒素は、血液中の血小板に作用することにより、血小板の凝集を阻害するとともに、凝固した血液の血管壁への接着を阻害する(非特許文献2参照)。
【0016】
したがって、生体内、特に血管内皮細胞における一酸化窒素の産生を促進することで、血流障害、動脈硬化、高脂血症、虚血性心疾患や各種臓器での循環不全等の血管内皮機能低下に起因する疾患等を予防、治療又は改善することができると考えられる。このような考えに基づき、従来、一酸化窒素産生促進作用を有するものとして、フェネチルニコチンアミド誘導体又はその製薬学的に許容される塩等が知られている(特許文献8参照)。
【特許文献1】特開2004−250344号公報
【特許文献2】特開2002−47180号公報
【特許文献3】特開2000−16935号公報
【特許文献4】特開2002−226323号公報
【特許文献5】特開2004−18471号公報
【特許文献6】特開2004−51596号公報
【特許文献7】特開2007−210977号公報
【特許文献8】特開2007−277096号公報
【非特許文献1】「薬理学アトラス」,福原武彦監訳,文光堂,1995年,p.184
【非特許文献2】中根正樹,「NO研究の新しい展開」,実験医学,1999年,第17巻,第8号,p.914−917
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、抗炎症作用、TNF−α産生抑制作用、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用、抗老化作用、I型コラーゲン産生促進作用、IV型コラーゲン産生促進作用、トランスグルタミナーゼ−1産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用及び一酸化窒素産生促進作用を有する物質を見出し、当該物質を有効成分とする抗炎症剤、TNF−α産生促進剤、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤、抗老化剤、I型コラーゲン産生促進剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、一酸化窒素産生促進剤及び皮膚化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明の抗炎症剤、TNF−α産生抑制剤、抗老化剤又はI型コラーゲン産生促進剤は、マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンを有効成分として含有することを特徴とし、本発明の皮膚化粧料は、マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンを配合したことを特徴とする。
【0019】
また、本発明のシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤又は一酸化窒素産生促進剤は、マルツロシルアルギニンを有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンを有効成分として含有する抗炎症剤、TNF−α産生促進剤、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤、抗老化剤、I型コラーゲン産生促進剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、一酸化窒素産生促進剤及び皮膚化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について説明する。
〔抗炎症剤,TNF−α産生抑制剤,シクロオキシゲナーゼ活性阻害剤,抗老化剤,I型コラーゲン産生促進剤,IV型コラーゲン産生促進剤,トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤,ヒアルロン酸産生促進剤,一酸化窒素産生促進剤〕
本発明の抗炎症剤、TNF−α産生抑制剤、抗老化剤又はI型コラーゲン産生促進剤は、マルツロシルアルギニン(Maltulosyl Arginine)及び/又はフルクトシルアルギニン(Fructosyl Arginine)を有効成分として含有する。また、本発明のシクロオキシゲナーゼ活性阻害剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤又は一酸化窒素産生促進剤は、マルツロシルアルギニン(Maltulosyl Arginine)を有効成分として含有する。
【0022】
マルツロシルアルギニン及びフルクトシルアルギニンは、糖質とアミノ酸との反応により生成されるアマドリ化合物の一種である。なお、本発明において、マルツロシルアルギニンには、Nα−[4−O−α−D−グルコピラノシル−1−デオキシ−β−D−フルクトピラノース−1−イル]−L−アルギニン、Nα−[4−O−α−D−グルコピラノシル−1−デオキシ−α−D−フルクトピラノース−1−イル]−L−アルギニン、Nα−[4−O−β−D−グルコピラノシル−1−デオキシ−β−D−フルクトピラノース−1−イル]−L−アルギニン、及びNα−[4−O−β−D−グルコピラノシル−1−デオキシ−α−D−フルクトピラノース−1−イル]−L−アルギニンのアノマー炭素の配置が異なる構造を有する4種のものが含まれる。
【0023】
また、本発明において、フルクトシルアルギニンには、Nα−[1−デオキシ−β−D−フルクトピラノース−1−イル]−L−アルギニン、及びNα−[1−デオキシ−α−D−フルクトピラノース−1−イル]−L−アルギニンのアノマー炭素の配置が異なる構造を有する2種のものが含まれる。
【0024】
マルツロシルアルギニン又はフルクトシルアルギニンは、アルギニンと、マルトース又はグルコースとを、酸の共存下でメイラード反応させることにより製造することができる。なお、本発明において、マルツロシルアルギニン又はフルクトシルアルギニンは、それらを含む天然物、又は天然物の加工物であってそれらを含むものから単離・精製することにより得られるものであってもよい。上記天然物の加工物としては、例えば、生薬が修治されたもの;天然物(植物、動物、担子菌類等を含む)に抽出処理、乾燥処理、加熱処理、熱湯処理、水蒸気処理、燻蒸処理、燻製処理、発酵処理等が施されたもの等が挙げられる。
【0025】
具体的には、まず、マルツロシルアルギニンを製造する場合、アルギニンとマルトースとを反応溶媒としての酸に溶解させ、フルクトシルアルギニンを製造する場合、アルギニンとグルコースとを反応溶媒としての酸に溶解させる。
【0026】
アルギニンとマルトース又はグルコースとの反応溶媒への添加量は、アルギニン100質量部に対してマルトース又はグルコース1〜1000質量部であるのが好ましく、50〜300質量部であるのが好ましい。
【0027】
上記酸としては、アルギニンとマルトース又はグルコースとのメイラード反応の進行を妨げない限り特に限定されるものではないが、一般に酢酸、酪酸等の有機酸を用いることができる。なお、水溶液中で両者を反応させると、その反応効率が低下するおそれがあるため、氷酢酸等の無水状態で液状を示す酸を反応溶媒として用いるのが好ましい。
【0028】
上記反応の温度条件としては、常温から沸点までの任意の温度であればよいが、反応速度、反応効率の点から60〜80℃の温度条件であるのが好ましい。また、反応時間は、反応温度や反応溶媒として用いる酸の種類によって異なるが、通常5〜300分程度であり、10〜60分であるのが好ましい。
【0029】
反応終了後、不溶性の物質をろ過又は遠心分離して除去し、得られた濾液又は上清から反応溶媒を留去することにより、マルツロシルアルギニン又はフルクトシルアルギニンを含む粗精製物を得ることができる。
【0030】
このようにして得られる粗精製物を精製処理に供することで、マルツロシルアルギニン又はフルクトシルアルギニンを得ることができる。精製は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。
【0031】
例えば、上記粗精製物を、陽イオン交換樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付して、陽イオン交換樹脂の約2〜6倍容量の水、陽イオン交換樹脂の約4〜8倍容量のアンモニア水溶液の順で溶出させ、アンモニア水溶液で溶出される画分を得る。
【0032】
さらに、上記のようにして得られたアンモニア水溶液画分を、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、逆−逆相クロマトグラフィー(HILIC)、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等に基づく、ペーパークロマトグラフィー(PC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、オープンカラムクロマトグラフィー、フラッシュクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、分取HPLC、分取リサイクルHPLC等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製することにより、マルツロシルアルギニン又はフルクトシルアルギニンを得ることができる。
【0033】
このようにして得られたマルツロシルアルギニン又はフルクトシルアルギニンは、抗炎症作用、TNF−α産生抑制作用、抗老化作用及びI型コラーゲン産生促進作用を有するため、抗炎症剤、TNF−α産生抑制剤、抗老化剤及びI型コラーゲン産生促進剤の有効成分として用いることができる。また、マルツロシルアルギニンは、さらにシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用、IV型コラーゲン産生促進作用、トランスグルタミナーゼ−1産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用及び一酸化窒素産生促進作用を有するため、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤及び一酸化窒素産生促進剤の有効成分としても用いることができる。
【0034】
なお、本発明の抗炎症剤、TNF−α産生抑制剤、抗老化剤及びI型コラーゲン産生促進剤においては、マルツロシルアルギニン及びフルクトシルアルギニンのいずれか一方のみを上記有効成分として用いてもよいし、両者を混合して上記有効成分として用いてもよい。両者を混合して上記有効成分として用いる場合、その配合比は、それらの作用の程度に応じて適宜決定すればよい。
【0035】
ここで、マルツロシルアルギニンが有する抗炎症作用は、例えば、TNF−α産生抑制作用及び/又はシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用に基づいて発揮される。ただし、マルツロシルアルギニンが有する抗炎症作用は、上記作用に基づいて発揮される抗炎症作用に限定されるものではない。
【0036】
また、フルクロシルアルギニンが有する抗炎症作用は、TNF−α産生抑制作用に基づいて発揮される。ただし、フルクトシルアルギニンが有する抗炎症作用は、上記作用に基づいて発揮される抗炎症作用に限定されるものではない。
【0037】
さらに、マルツロシルアルギニンが有する抗老化作用は、例えば、I型コラーゲン産生促進作用、IV型コラーゲン産生促進作用、トランスグルタミナーゼ−1産生促進作用及びヒアルロン酸産生促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用に基づいて発揮される。ただし、マルツロシルアルギニンが有する抗老化作用は、上記作用に基づいて発揮される抗老化作用に限定されるものではない。
【0038】
さらにまた、フルクトシルアルギニンが有する抗老化作用は、例えば、I型コラーゲン産生促進作用に基づいて発揮される。ただし、フルクトシルアルギニンが有する抗老化作用は、上記作用に基づいて発揮される抗老化作用に限定されるものではない。
【0039】
本発明の抗炎症剤、TNF−α産生抑制剤、抗老化剤又はI型コラーゲン産生促進剤は、マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンのみからなるものであってもよいし、マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンを製剤化したものであってもよい。また、本発明のシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤又は一酸化窒素産生促進剤は、マルツロシルアルギニンのみからなるものであってもよいし、マルツロシルアルギニンを製剤化したものであってもよい。
【0040】
マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンは、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンは、他の組成物(例えば、後述する皮膚化粧料等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0041】
なお、本発明の抗炎症剤、TNF−α産生抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤、抗老化剤、I型コラーゲン産生促進剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤又は一酸化窒素産生促進剤は、必要に応じて、抗炎症作用、TNF−α産生抑制作用、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用、抗老化作用、I型コラーゲン産生促進作用、IV型コラーゲン産生促進作用、トランスグルタミナーゼ−1産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用又は一酸化窒素産生促進作用を有する他の物質(天然抽出物等を含む)を配合して有効成分として用いることができる。
【0042】
本発明の抗炎症剤、TNF−α産生抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤、抗老化剤、I型コラーゲン産生促進剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤又は一酸化窒素産生促進剤の投与方法としては、一般に経皮投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。
【0043】
また、本発明の抗炎症剤、TNF−α産生抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤、抗老化剤、I型コラーゲン産生促進剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤又は一酸化窒素産生促進剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0044】
本発明の抗炎症剤は、マルツロシルアルギニンが有するTNF−α産生抑制作用及びシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用、並びにフルクトシルアルギニンが有するTNF−α産生抑制作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を通じて、接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、その他肌荒れを伴う各種炎症性皮膚疾患等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明の抗炎症剤は、これらの用途以外にもTNF−α産生抑制作用及び/又はシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0045】
本発明のTNF−α産生抑制剤は、マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンが有するTNF−α産生抑制作用を通じて、TNF−αの産生を抑制し、これにより接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、その他肌荒れを伴う各種炎症性皮膚疾患等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明のTNF−α産生抑制剤は、これらの用途以外にもTNF−α産生抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0046】
本発明のシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤は、マルツロシルアルギニンが有するシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用を通じて、シクロオキシゲナーゼ−2の活性を阻害し、これにより接触性皮膚炎(かぶれ)、乾癬、尋常性天疱瘡、その他肌荒れを伴う各種炎症性皮膚疾患、アトピー性皮膚炎等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明のシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤は、これらの用途以外にもシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0047】
本発明の抗老化剤は、マルツロシルアルギニンが有するI型コラーゲン産生促進作用、IV型コラーゲン産生促進作用、トランスグルタミナーゼ−1産生促進作用及びヒアルロン酸産生促進作用、並びにフルクトシルアルギニンが有するI型コラーゲン産生促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を通じて、しみ、しわ形成等の皮膚の老化症状を予防又は改善することができる。ただし、本発明の抗老化剤は、これらの用途以外にもI型コラーゲン産生促進作用、IV型コラーゲン産生促進作用、トランスグルタミナーゼ−1産生促進作用及びヒアルロン酸産生促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0048】
本発明のI型コラーゲン産生促進剤は、マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンが有するI型コラーゲン産生促進作用を通じて、I型コラーゲンの産生を促進し、しみ、しわ形成等の皮膚の老化症状を予防又は改善することができる。ただし、本発明のI型コラーゲン産生促進剤は、これらの用途以外にもI型コラーゲン産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0049】
本発明のIV型コラーゲン産生促進剤は、マルツロシルアルギニンが有するIV型コラーゲン産生促進作用を通じて、IV型コラーゲンの産生を促進し、しみ、しわ形成等の皮膚の老化症状を予防又は改善することができる。ただし、本発明のIV型コラーゲン産生促進剤は、これらの用途以外にもIV型コラーゲン産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0050】
本発明のトランスグルタミナーゼ−1産生促進剤は、マルツロシルアルギニンが有するトランスグルタミナーゼ−1産生促進作用を通じて、トランスグルタミナーゼ−1の産生を促進し、肌荒れ、乾燥肌等の皮膚の老化症状を予防又は改善することができる。ただし、本発明のトランスグルタミナーゼ−1産生促進剤は、これらの用途以外にもトランスグルタミナーゼ−1産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0051】
本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、マルツロシルアルギニンが有するヒアルロン酸産生促進作用を通じて、ヒアルロン酸の産生を促進し、しわ形成、くすみ、きめの消失、及び弾力性の低下等の皮膚の老化症状を予防又は改善することができる。ただし、本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、これらの用途以外にもヒアルロン酸産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0052】
本発明の一酸化窒素産生促進剤は、マルツロシルアルギニンが有する一酸化窒素産生促進作用を通じて、特に血管内皮細胞における一酸化窒素の産生を促進し、血流障害、動脈硬化、高脂血症、虚血性心疾患や各種臓器での循環不全等の血管内皮機能低下に起因する疾患等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明の一酸化窒素産生促進剤は、これらの用途以外にも一酸化窒素産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0053】
〔皮膚化粧料〕
マルツロシルアルギニン及びフルクトシルアルギニンは、抗炎症作用、TNF−α産生抑制作用、抗老化作用及びI型コラーゲン産生促進作用を有しており、さらにマルツロシルアルギニンは、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用、IV型コラーゲン産生促進作用、トランスグルタミナーゼ−1産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用及び一酸化窒素産生促進作用を有しており、皮膚に適用した場合の使用感又は安全性に優れているため、皮膚化粧料に配合するのに好適である。この場合、皮膚化粧料には、マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンをそのまま配合してもよいし、上記のようにして製剤化した抗炎症剤、TNF−α産生抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤、抗老化剤、I型コラーゲン産生促進剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤又は一酸化窒素産生促進剤を配合してもよい。マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニン;上記抗炎症剤、TNF−α産生抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤、抗老化剤、I型コラーゲン産生促進剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤又は一酸化窒素産生促進剤を配合することにより、皮膚化粧料に抗炎症作用、TNF−α産生抑制作用、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用、抗老化作用、I型コラーゲン産生促進作用、IV型コラーゲン産生促進作用、トランスグルタミナーゼ−1産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用又は一酸化窒素産生促進作用を付与することができる。
【0054】
マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンを配合し得る皮膚化粧料の種類は特に限定されるものではなく、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション等が挙げられる。
【0055】
マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンを皮膚化粧料に配合する場合、その配合量は、皮膚化粧料の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、皮膚化粧料中のマルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンの濃度が約0.0001〜10質量%であり、特に好適な配合率は、約0.001〜1質量%である。
【0056】
本発明の皮膚化粧料は、マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンが有する抗炎症作用、TNF−α産生抑制作用、抗老化作用又はI型コラーゲン産生促進作用;マルツロシルアルギニンがさらに有するシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用、IV型コラーゲン産生促進作用、トランスグルタミナーゼ−1産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用又は一酸化窒素産生促進作用を妨げない限り、通常の皮膚化粧料の製造に用いられる主剤、助剤又はその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された上記成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた使用効果をもたらすことがある。
【0057】
なお、本発明の抗炎症剤、TNF−α産生抑制剤、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤、抗老化剤、I型コラーゲン産生促進剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、一酸化窒素産生促進剤又は皮膚化粧料は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0058】
以下、製造例、試験例及び配合例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0059】
〔製造例1〕マルツロシルアルギニンの製造
マルトース(2.0g)とアルギニン(1.0g)とを精密分析用酢酸(10mL)に溶解させ、沸騰水浴上にて1時間加熱攪拌した。得られた溶液を濃縮し、乾燥した後、陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR−120B,ローム・アンド・ハース社製)を充填したカラムに供し、水、4容量%アンモニア水溶液の順で溶出させ、アンモニア水溶液画分として粗マルツロシルアルギニン(2.85g)を得た。
【0060】
このようにして得られた画分を、順相カラムクロマトグラフィー(ChromatorexNH、富士シリシア化学社製)にて70%アセトニトリルを溶媒として分画し、マルツロシルアルギニン画分(2.75g)を得た。このようにして得られたマルツロシルアルギニン画分(1.59g)を下記条件の分取リサイクルHPLCにて精製し、マルツロシルアルギニン(1.08g)を得た(試料1)。
【0061】
<HPLC条件>
固定相:JAIGEL GS−310(日本分析工業社製)
カラム長:500mm
カラム径:21.5mm
温度:室温
移動相:水
移動相流速:5mL/min
検出器:RI
【0062】
〔製造例2〕フルクトシルアルギニンの製造
グルトース(1.0g)とアルギニン(1.0g)とを精密分析用酢酸(10mL)に溶解させ、沸騰水浴上にて1時間加熱攪拌した。得られた溶液を濃縮し、乾燥した後、陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR−120B,ローム・アンド・ハース社製)を充填したカラムに供し、水、4容量%アンモニア水溶液の順にて溶出させ、アンモニア水溶液画分として粗フルクトシルアルギニン(1.07g)を得た。
【0063】
このようにして得られた画分を、順相カラムクロマトグラフィー(ChromatorexNH、富士シリシア化学社製)にて70%アセトニトリルを溶媒として分画し、フルクトシルアルギニン画分(1.03g)を得た。このようにして得られたフルクトシルアルギニン画分(1.03g)を下記条件の分取リサイクルHPLCにて精製し、フルクトシルアルギニン(315mg)を得た(試料2)。
【0064】
<HPLC条件>
固定相:JAIGEL GS−310(日本分析工業社製)
カラム長:500mm
カラム径:21.5mm
温度:室温
移動相:水
移動相流速:5mL/min
検出器:RI
【0065】
〔試験例1〕TNF−α産生抑制作用試験
製造例1で得られたマルツロシルアルギニン(試料1)及び製造例2で得られたフルクトシルアルギニン(試料2)について、以下のようにしてTNF−α産生抑制作用を試験した。
【0066】
マウスマクロファージ細胞(RAW264.7)を、10%FBS含有ダルベッコMEM培地を用いて培養した後、セルスクレーパーにより細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有ダルベッコMEM培地で希釈した後、96ウェルプレートに1ウェル当たり100μLずつ播種し、4時間培養した。
【0067】
培養終了後、培地を抜き、終濃度2%DMSOを含む10%FBS含有ダルベッコMEMで溶解した試料溶液(試料1及び試料2,試料濃度は下記表1を参照)を各ウェルに100μLずつ添加し、終濃度1μg/mLで10%FBS含有ダルベッコMEMに溶解したリポポリサッカライド(LPS,E.coli0111;B4,DIFCO社製)を100μL加え、24時間培養した。培養終了後、各ウェルの培養上清中のTNF−α量を、サンドイッチELISA法を用いて測定し、測定結果から下記式によりTNF−α産生抑制率(%)を算出した。
【0068】
TNF−α産生抑制率(%)={(B−A)/B}×100
式中、Aは試料溶液添加時のTNF−α量を表し、Bは試料溶液無添加時のTNF−α量を表す。
結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示すように、マルツロシルアルギニン(試料1)及びフルクトシルアルギニン(試料2)は、TNF−α産生抑制作用を有することが確認された。
【0071】
〔試験例2〕シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)活性阻害作用試験
製造例1で得られたマルツロシルアルギニン(試料1)について、以下のようにしてシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用を試験した。
【0072】
マウスマクロファージ細胞(RAW264.7)を、10%FBS含有ダルベッコMEM培地を用いて培養した後、セルスクレーパーにより細胞を回収した。回収した細胞を2.0×10cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有ダルベッコMEMで希釈した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、18時間培養した。
【0073】
培養終了後、すでに存在するCOX−1及び少量発現しているCOX−2をアセチル化して失活させるため、培地を500μmol/Lアスピリン含有培地に交換し、4時間培養した。細胞をPBS(−)で3回洗浄し、終濃度0.5%DMSOを含む10%FBS含有ダルベッコMEMで溶解した試料溶液(試料1,試料濃度は下記表2を参照)を各ウェルに150μLずつ添加した後、終濃度1μg/mLで10%FBS含有ダルベッコMEMに溶解したリポポリサッカライド(LPS,E.coli 0111;B4,DIFCO社製)を50μL添加し、24時間培養した。
【0074】
培養終了後、各ウェルの培養上清中のプロスタグランジンE量を、PGE EIA Kit(Cayman Chemical社製)を用いて定量した。定量結果から、下記式によりシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害率(%)を算出した。
【0075】
COX−2活性阻害率(%)={1−(A−C)/(B−C)}×100
式中、Aは「試料添加・LPS刺激時のプロスタグランジンE量」を表し、Bは「試料無添加・LPS刺激時のプロスタグランジンE量」を表し、Cは「試料無添加・LPS無刺激時のプロスタグランジンE量」を表す。
結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示すように、マルツロシルアルギニン(試料1)は、シクロオキシゲナーゼ−2活性阻害作用を有することが確認された。
【0078】
〔試験例3〕I型コラーゲン産生促進作用試験
製造例1で得られたマルツロシルアルギニン(試料1)及び製造例2で得られたフルクトシルアルギニン(試料2)について、以下のようにしてI型コラーゲン産生促進作用を試験した。
【0079】
ヒト正常線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBS含有ダルベッコMEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.6×10cells/mLの細胞密度になるように上記培地で希釈した後、96ウェルマイクロプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、一晩培養した。
【0080】
培養終了後、培地を抜き、0.25%FBS含有ダルベッコMEM培地に溶解した試料溶液(試料1及び試料2,試料濃度は下記表3を参照)を各ウェルに150μLずつ添加し、3日間培養した。培養後、各ウェルの培地中のI型コラーゲン量をELISA法により測定した。測定結果から、下記式によりI型コラーゲン産生促進率(%)を算出した。
【0081】
I型コラーゲン産生促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時のI型コラーゲン量」を表し、Bは「試料無添加時のI型コラーゲン量」を表す。
結果を表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
表3に示すように、マルツロシルアルギニン(試料1)及びフルクトシルアルギニン(試料2)は、優れたI型コラーゲン産生促進作用を有することが確認された。
【0084】
〔試験例4〕IV型コラーゲン産生促進作用試験
製造例1で得られたマルツロシルアルギニン(試料1)について、以下のようにしてIV型コラーゲン産生促進作用を試験した。
【0085】
ヒト正常線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBS含有ダルベッコMEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.6×10cells/mLの細胞密度になるように上記培地で希釈した後、96ウェルマイクロプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、一晩培養した。
【0086】
培養終了後、培地を抜き、0.25%FBS含有ダルベッコMEM培地に溶解した試料溶液(試料1,試料濃度は下記表4を参照)を各ウェルに150μLずつ添加し、3日間培養した。培養後、各ウェルの培地中のIV型コラーゲン量をELISA法により測定した。測定結果から、下記式に基づいてIV型コラーゲン産生促進率(%)を算出した。
【0087】
IV型コラーゲン産生促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時のIV型コラーゲン量」を表し、Bは「試料無添加時のIV型コラーゲン量」を表す。
結果を表4に示す。
【0088】
【表4】

【0089】
表4に示すように、マルツロシルアルギニン(試料1)は、優れたIV型コラーゲン産生促進作用を有することが確認された。
【0090】
〔試験例5〕トランスグルタミナーゼ−1産生促進作用試験
製造例1で得られたマルツロシルアルギニン(試料1)について、以下のようにしてトランスグルタミナーゼ−1産生促進作用を試験した。
【0091】
ヒト正常新生児皮膚表皮角化細胞(NHEK)を、ヒト正常新生児表皮角化細胞用培地(KGM)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10cells/mLの細胞密度になるようにKGMを用いて希釈した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、2日間培養した。
【0092】
培養終了後、KGMで溶解した試料溶液(試料1,試料濃度は下記表5を参照)を各ウェルに100μLずつ添加し、24時間培養した。培養終了後、培地を抜き、細胞をプレートに固定させて細胞表面に発現したトランスグルタミナーゼ−1の量を、モノクロナール抗ヒトトランスグルタミナーゼ−1抗体を用いたELISA法により測定した。得られた測定結果から、下記式によりトランスグルタミナーゼ−1産生促進率(%)を算出した。
【0093】
トランスグルタミナーゼ−1産生促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時の波長405nmにおける吸光度」を表し、Bは「試料無添加時の波長405nmにおける吸光度」を表す。
結果を表5に示す。
【0094】
【表5】

【0095】
表5に示すように、マルツロシルアルギニン(試料1)は、優れたトランスグルタミナーゼ−1産生促進作用を有することが確認された。
【0096】
〔試験例6〕ヒアルロン酸産生促進作用試験
製造例1で得られたマルツロシルアルギニン(試料1)について、以下のようにしてヒアルロン酸産生促進作用を試験した。
【0097】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBS含有α−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2.2×10cells/mLの細胞密度になるように0.5%FBS含有α−MEMで希釈した後、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、一晩培養した。
【0098】
培養終了後、0.5%FBS含有α−MEMに溶解した試料溶液(試料1,試料濃度は下記表6を参照)を各ウェルに100μLずつ添加し、3日間培養した。培養後、各ウェルの培地中のヒアルロン酸量を間接的ELISA法により測定した。測定結果から、下記式によりヒアルロン酸産生促進率(%)を算出した。
【0099】
ヒアルロン酸産生促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時のヒアルロン酸量」を表し、Bは「試料添加時のヒアルロン酸量」を表す。
結果を表6に示す。
【0100】
【表6】

【0101】
表6に示すように、マルツロシルアルギニン(試料1)は、ヒアルロン酸産生促進作用を有することが確認された。
【0102】
〔試験例7〕一酸化窒素産生促進作用試験
製造例1で得られたマルツロシルアルギニン(試料1)について、以下のようにして一酸化窒素産生促進作用を試験した。
【0103】
ヒト正常皮膚微小血管内皮細胞(HMVEC)を、ヒト正常皮膚微小血管内皮細胞増殖培地(HuMedia−MvG)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞をアルギニン(NOの基質)及びフェノールレッドフリーのHuMedia−MvG(特別培地)を用いて2.0×10cells/mLの細胞密度になるように希釈した後、96ウェルプレートに0.2mLずつ播種し、一晩培養した。
【0104】
培養終了後、培地を除去し、特別培地に溶解した試料溶液(試料1,試料濃度は下記表7を参照)を0.2mLずつ添加し、さらに24時間培養した。培養終了後、400μLのPBS(−)にて洗浄した後、25mMのアルギニン及び10μMのDiaminofluorescein-2を含む特別培地を0.2mLずつ添加し、1分後に励起波長495nm、蛍光波長515nmにおける蛍光強度を測定した。測定結果から、下記式により一酸化窒素(NO)産生促進率(%)を算出した。
【0105】
NO産生促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料添加時の蛍光強度」を表し、Bは「試料無添加時の蛍光強度」を表す。
結果を表7に示す。
【0106】
【表7】

【0107】
表7に示すように、マルツロシルアルギニン(試料1)は、優れた一酸化窒素産生促進作用を有することが確認された。
【0108】
〔配合例1〕
下記組成の乳液を常法により製造した。
マルツロシルアルギニン(製造例1) 0.1g
ホホバオイル 4.0g
オリーブオイル 2.0g
スクワラン 2.0g
セタノール 2.0g
モノステアリン酸グリセリル 2.0g
ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.5g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 2.0g
黄杞エキス 0.1g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
イチョウ葉エキス 0.1g
コンキオリン 0.1g
オウバクエキス 0.1g
カミツレエキス 0.1g
1,3−ブチレングリコール 3.0g
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0109】
〔配合例2〕
下記組成の化粧水を常法により製造した。
フルクトシルアルギニン(製造例2) 0.1g
グリセリン 3.0g
1,3−ブチレングリコール 3.0g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 0.5g
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
クエン酸 0.1g
クエン酸ソーダ 0.1g
油溶性甘草エキス 0.1g
海藻エキス 0.1g
キシロビオースミクスチャー 0.5g
クジンエキス 0.1g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の抗炎症剤、TNF−α産生抑制剤及びシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤は、各種炎症性皮膚疾患の予防、治療又は改善に、本発明の抗老化剤、I型コラーゲン産生促進剤、IV型コラーゲン産生促進剤、トランスグルタミナーゼ−1産生促進剤及びヒアルロン酸産生促進剤は、皮膚の老化症状の予防又は改善に、本発明の一酸化窒素産生促進剤は、血流障害の予防又は改善に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンを有効成分として含有することを特徴とする抗炎症剤。
【請求項2】
マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンを有効成分として含有することを特徴とするTNF−α産生抑制剤。
【請求項3】
マルツロシルアルギニンを有効成分として含有することを特徴とするシクロオキシゲナーゼ−2活性阻害剤。
【請求項4】
マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンを有効成分として含有することを特徴とする抗老化剤。
【請求項5】
マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンを有効成分として含有することを特徴とするI型コラーゲン産生促進剤。
【請求項6】
マルツロシルアルギニンを有効成分として含有することを特徴とするIV型コラーゲン産生促進剤。
【請求項7】
マルツロシルアルギニンを有効成分として含有することを特徴とするトランスグルタミナーゼ−1産生促進剤。
【請求項8】
マルツロシルアルギニンを有効成分として含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項9】
マルツロシルアルギニンを有効成分として含有することを特徴とする一酸化窒素産生促進剤。
【請求項10】
マルツロシルアルギニン及び/又はフルクトシルアルギニンを配合したことを特徴とする皮膚化粧料。

【公開番号】特開2010−90076(P2010−90076A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263461(P2008−263461)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】