抗炎症剤
【課題】炎症を効率的に抑制でき、且つ副作用の少ない安全性の高い抗炎症剤を提供する。
【解決手段】4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジン、その薬学的に許容される塩、その誘導体、または4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンを含有するミセル体を含有する抗炎症剤である。4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンは、さらに、スチレンマレイン酸コポリマーやPEG、アクリル酸、ビニル酢酸等の高分子化合物と結合することで水溶性と血中滞留性が向上し、なお且つ、病巣により効率よく集積することにより、副作用が減少することも特徴とする。
【解決手段】4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジン、その薬学的に許容される塩、その誘導体、または4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンを含有するミセル体を含有する抗炎症剤である。4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンは、さらに、スチレンマレイン酸コポリマーやPEG、アクリル酸、ビニル酢酸等の高分子化合物と結合することで水溶性と血中滞留性が向上し、なお且つ、病巣により効率よく集積することにより、副作用が減少することも特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンの水可溶性医薬製剤に係り、詳しくは、抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
組織が損傷を受けると、損傷箇所の血管内皮細胞でプロスタグランジンや炎症性サイトカインが産生される。プロスタグランジンや炎症性サイトカインは、発熱、血管拡張、血管透過性の亢進、白血球の走化性亢進、白血球や血管内皮細胞の活性化、活性化白血球の血管内皮細胞への粘着や浸潤など、様々な生理作用を示す。そしてさらに、活性化した白血球からもプロスタグランジンやロイコトリエンなどが産生され、炎症反応は加速される。走化性の亢進した白血球は、血管内皮細胞の結合部から血管外の炎症部位へ浸潤し、そこで感染防御のために微生物、病原体や不要物質の貪食を行う。その結果、病原体や抗原など有害な不要物質が減少して組織細胞が増殖することで治癒に至る。しかし、白血球の浸潤が持続すると、逆に更なる組織損傷が起きてしまい、炎症が慢性化してしまう。
このような、炎症反応を抑える抗炎症剤としては、従来からステロイド系抗炎症剤や非ステロイド系抗炎症剤、例えばシクロオキシゲナーゼ(以下、COXと記載することもある)阻害剤などが使用されている。非ステロイド系抗炎症剤としては、アスピリン、サリチル酸やインドメタシン等が挙げられる。これらの抗炎症剤は、プロスタグランジンの生合成につながるアラキドン酸カスケードでのCOXとアラキドン酸との結合を阻害することにより、抗炎症活性を示す。このように、ステロイド系抗炎症剤や非ステロイド系抗炎症剤は、シクロオキシゲナーゼ活性を阻害することにより、患部での炎症や痛みは抑えることができる。しかし、反面、COX活性が阻害されることにより、胃や肝臓では血流が減少してしまい、胃潰瘍や腎機能に悪い影響を及ぼすことが指摘されている。
【0003】
また、4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジン(以下、AHPPと記載することもある)の活性に関しては、血圧降下作用を有することが当発明者らの特許文献1に開示されている。しかし、AHPPは、水不溶性であるため、水可溶性とする必要があり、これまで、AHPPを水可溶性にした血圧降下製剤は得られていない。
【特許文献1】特開平9−118622号公報
【非特許文献1】T. Oda et al, Science, 244, 974−976(1989)
【非特許文献2】T. Akaike et al, J. Clin. Invest., 85,739−745 (1990)
【非特許文献3】T. Akaike et al, PNAS., 93, 2448−2453(1996)
【非特許文献4】Y.Matsumura, and H.Maeda, Cancer Res., 46, 6387−6392, (1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、炎症を効率的に抑制でき、且つ副作用を示さず、安全性の高い抗炎症剤を提供することを目的とする。
さらに、また本発明は、水可溶性のキサンチンオキシダーゼ(以下、XOと記載することもある)の阻害能を有するAHPP製剤を提供することを目的とする。水可溶性のAHPP製剤は、活性酸素であるスーパーオキサイド(以下、O2-と記載することもある)の生成を抑え、従ってそのO2-による一酸化窒素(以下、NOと記載することもある)の消費を抑え、逆に消費されないNOによりその濃度が上昇することにより血圧降下製剤や、さらにまたO2-とNOより生じる起炎症性のパーオキシナイトライト(ONOO-)を抑え、従って抗炎症剤として使用することができる。
【0005】
本発明者らは、これまでにインフルエンザの増悪化のメカニズムにO2-やNOが深く関与することを解明した(非特許文献1〜3)。
さらに、O2-がXOにより生成されていることも明らかにしている。O2-は、NO、即ち血管内皮由来弛緩因子(endothelial−derived relaxing factor;降圧物質EDRF)と反応しONOO-となり、NOを消費することから、血圧降下作用を有するNOの欠乏により正常な血圧が困難となり、高血圧症を招来すると考えられる。本発明者らはそこで、AHPPによりO2-を抑えることによりラットの血圧上昇抑制効果を有することを発見し、特許出願を行っている(特許文献1)。
【0006】
また、本発明者らはO2-やONOO-となどの活性酸素分子種は、ウィルス感染や薬物、その他による炎症の原因に深く関わっていることを明らかにしている。そこで、O2-の生成を触媒する主要な酵素の一つであるXOに対する阻害剤を投与することにより、XOより生成する活性酸素分子種が関わる炎症を抑制することができると考え、鋭意研究を進め、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジン、その薬学的に許容される塩、その誘導体、または4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンを含有するミセル体を活性本体とする抗炎症剤である。
本発明はまた、4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンの誘導体、または4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンを含有するミセル体を含有する医薬製剤である。本発明の医薬製剤は、抗炎症剤や血圧降下剤としXOの酵素活性を抑えることによって得られる薬効をめざして使用することができる。
4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンは、式1で表わされる化合物である。そして、その誘導体は、式2で表される化合物である。式2中、Xは、式3〜式6で表わされる何れか1つの置換基である。
【0008】
【化1】
【0009】
【化2】
【0010】
【化3】
なお、ここで、kは3〜200の自然数を表わす。重合度の上限を200としたのは、ミセルの形成がSMAの3本鎖により成っていると考えると、1個の薬剤活性部位(AHPP)に対し、SMAは3倍となり、相対的にAHPPの濃度(含量)が希釈される。従って、高い比活性を維持するためにはSMAの量を相対的に低く抑えた。
【0011】
【化4】
なお、ここで、式中のl(エル)は1〜1000の自然数を表わす。1000以上の場合は、水系での溶解度が低下するため実用性に欠ける。
【0012】
【化5】
【0013】
【化6】
なお、ここで、m、nは夫々1〜1000の自然数を表わす。なお、m>nが好ましい。1000以上の場合は、水系での溶解度が低下するため実用性に欠ける。
【0014】
また、4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンを含有するミセル体は、4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンの、スチレンマレイン酸コポリマー(以下、SMAと記載することもある)を用いて非共有結合により形成されるミセル化した製剤である。具体的には、式7で表わされる。これはAHPPとSMAは、非共有結合物(複合体)であることが特徴といえる。
【0015】
【化7】
なお、ここで、pは3〜200の自然数を表わす。その重合度の範囲が限られているのは、上記kと同じ理由である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、炎症を効率的に抑制でき、且つ副作用の少ない安全性の高い抗炎症剤を提供することが可能となる。本発明の抗炎症剤は、AHPPの水可溶性の誘導体ある。これらの誘導体(剤形)は、溶液中、血中、体内では高分子として挙動しているため、血中投与時の血中滞留性の向上と病巣、即ち、炎症部への指向性が一段と強くなっている。これは、その性状の特性である腫瘍部や炎症部におけるEnhanced Permeability and Retention effect (EPR)効果(非特許文献4)による集積性の向上といえる。即ち、これらの手法により一段と優れた医薬品にすることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
AHPPは、公知の化合物であり、3−アミノ−4−シアノピラゾールと尿素との反応により合成することができる。またAHPPの薬学的に許容される誘導体としては、特に、ここに例示するものだけに制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸、コハク酸等)、クエン酸塩、グルコン酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸誘導体、グルコース、マルトース、フルクトース、ソルビトール、キシロース、マンノース等、ε‐カプロラクタム等が挙げられる。
また、AHPP誘導体は、AHPPをSMA、ポリエチレングリコール(以下、PEGと記載することもある)、アクリル酸又はポリビニル酢酸(以下、PVと記載することもある)等の水溶性の低〜高分子残基とアミド結合した化合物である。また、AHPPをSMA、PEG、アクリル酸又はPV、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシプロピルメタアクリレート(HPMA)コポリマー、ジビニルマレイン酸(無水)コポリマー(ピランコポリマー)等を用い、非共有結合により形成されるミセル化した製剤である。
AHPPは水不溶性物質であるが、水溶性高分子あるいは重合度の低いPEGなどと結合あるいはミセル化することにより、水可溶性となるばかりでなく高分子化によって一段と優れた医薬品となる。
【0018】
本発明の抗炎症剤の投与形態は、経口投与剤又は注射剤あるいは座薬のいずれでもよい。経口での投与量は患者の年齢、体重、疾患の程度に応じて調節すればよく、例えば、成人一人当たり100〜9000mgを1日1回ないし数回に分けて投与するのが好ましい。注射剤は、静脈内投与とするのが好ましく、点滴等により静脈内へ投与してもよい。注射の場合、AHPP含有量は3〜500mg/kgの範囲が好ましい。
以下に実施例に基づき本発明を説明する。
【実施例1】
【0019】
SMA−AHPPを図1に示すスキームで合成した。
36.3mgのAHPP(分子量151.1、微粉末状、和光純薬、大阪)に5.0mlの0.1M NaOHまたは0.1M KOHを加えて溶解させ、7.3mg/ml(48mM)のアルカリ溶液を調製した。得られたAHPP溶液に、撹拌下で約2倍のモル量(分子量を1200と仮定)の576mg(96mM)のSMA無水物(微粉末状)を約50mgずつ数時間にわたりゆっくり加え、反応させた。SMA無水物を完全に加えた後、撹拌させながらさらに6時間反応させた。反応液を、0.1M HClによりpH9.0に調整し、さらに暗所で24時間反応させた。24時間後、0.1M HClを添加し、pH6.0以下で沈澱させ分別取得した。ついで、冷却した0.01M HClと0.1M酢酸の弱酸性水溶液を加え懸濁液となし、遠心沈澱により洗浄した。次いで、得られた沈澱物を5mlの0.1M Na2CO3で再溶解させ、100mlに希釈しpH9.5付近の溶液となし、分子量3000の分子ふるい膜を用い、Laboscale TFF system(Millipore, Billerica, MA)により加圧下で、低分子を除きつつ濃縮・洗浄した。さらに、濃縮した溶液に0.01M Na2CO3/NaHCO3(pH 9.0)を加え、希釈し、上記システムを用いて、濃縮・洗浄を再度繰り返した。濃縮した高分子分画の溶液を凍結乾燥した。凍結乾燥物を0.1M Na2CO3に溶かし、Sephadex G−100ゲル(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)カラムクロマトグラフィー[size: 35cm(h)×2.5cm(d)]により精製した。また、AHPPは260nmの吸収で検出した。
【0020】
牛乳由来のXOによるO2−の生成に対するSMA−AHPPの阻害活性は、10μMのルシゲニン、10μMのキサンチン、10、100μMのAHPPまたは10〜5000μMのSMA−AHPPを含む10mMのリン酸緩衝液(pH7.4)に20mU/mlになるようにXOを添加し、化学発光を測定した(マルチプレートリーダーMTP−700CL,CoronaCo.Ltd.,Ibaraki,Japan)。また、XOの酵素活性に対するSMA−AHPPの阻害活性は、基質のキサンチンを2、5、10、20μMの濃度に対し、SMA−AHPPを22、44及び132μMの含む10mMのリン酸緩衝液(pH7.4)中で反応させた。酵素のXOは、3.33mU/mlになるように添加して撹拌し、生成する尿酸は290nmの吸収で測定(可視紫外分光光度計modelUV/Vis−550,JASCOCorp,Japan)して阻害活性定数(Ki)を求めた。
【0021】
SMA−AHPP結合物のFT−IRスペクトラムは図2に示すとおり、1375及び1397cm−1(カルボン酸のC−O−Hに由来)、1477及び1570cm−1(N−H)、1638cm−1(C=O伸縮)、3350−3500cm−1付近(O−H伸縮)の吸収ピークが観察された。
また、元素分析の結果から、SMA−AHPPには、SMAにはないN(AHPP由来)が2.86%含まれていた。このことから、AHPPは、SMA鎖(重合度6)1本に対し、1個結合していると考えられた。
また、図3にAHPPとSMA−AHPPのXO酵素活性の阻害活性を示した。SMA−AHPPのKiは0.25μMであり、AHPPは0.17μMとほぼ同様の強い阻害活性を示した。また、図4にAHPPとSMA−AHPPのXOによるO2−の生成阻害活性を示した。図4に示すとおり、XOによるO2−の生成の阻害も濃度依存的に抑制した。なお、測定は前述した方法に準じて行った。
【実施例2】
【0022】
SMA−AHPPの虚血再灌流による肝障害に対する防御作用を調べた。
6週令の雄性Wisterラット(平均体重約250gで1群約5匹、九動、熊本)を1週間予備飼育後に実験に供した。ラットは試験を行う9時間前に絶食させた後、SMA−AHPPを各ラット当たり0.5ml中に6、10及び20mg/kgになるように生理食塩水に溶かし尾静脈より投与した。2時間後、ラットを麻酔下で開腹し、門脈をクリップで30分間結紮し阻血した後、クリップを門脈よりはずし、再灌流(Ischemia reperfusion, I/R)させ開腹部を糸で縫合した。3時間後ラットをエーテル麻酔下に屠殺し、血液を採取し、肝障害の指標として血漿中の乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase, LDH)、アラニンアミノ基転移酵素(alanine aminotransferase, AST)及びアスパラギン酸基転移酵(aspartate aminotransferase, ALT)を測定した(N.Ikebe et al,J.Pharm.Exp.Ther.,295 904−911(2000))。また、肝臓は、病理組織学的観察を行うために、組織の一部を10%ホルマリンで固定し、さらにそのパラフィンブロックを作りその5〜10μm切片をヘマトキシリンエオシンで染色後、顕微鏡観察により肝臓傷害を観察した。さらに、肝臓の過酸化度は、肝ホモジネートを作成し、チオバルビツール(TBA)法(J.Fung et al,Cancer Res.,62 3138−3143(2002))により肝臓中の過酸化物の生成も測定した。
【0023】
図5に示すように、I/R処置ラットにおける血中の肝障害の指標となる酵素LDHはSMA−AHPPの投与により、コントロール(SMA−AHPP投与なし)と比較して濃度依存的に有意に血清中のLDHの増加を抑制した。
図6は、SMA−AHPPによるALT及びASTの変化を示すグラフである。LDHと同様に、SMA−AHPPはALT及びASTの増加を濃度依存的に有意に抑制した。また、図7にI/R処置ラット肝臓中の過酸化物の生成量を示す。I/R処置ラット肝臓中の過酸化物の生成もSMA−AHPPの投与により有意に抑制されている。以上のように、SMA−AHPPはI/Rに起因するXOの活性化によるO2-の生成を抑え、肝障害を抑えることが明らかである。
【実施例3】
【0024】
SMA−AHPPのデキストラン硫酸ナトリウム塩(DSS、MP Biomedicals,LLC、CA、USA)により惹起した大腸炎に対する治療効果を調査した。DSSは蒸留水に2%溶かして、一週間連日飲用水として与えた。
5週令の雄性ICR(平均体重約25g)マウスを1週間予備飼育し、体重を測定し、
(a)正常群(DSS投与なし)、
(b)コントロール大腸炎群(DSS投与し1日後からのSMA−AHPP投与なし)、
(c)治療群(DSS投与し1日後より、100mg/kg SMA−AHPPの経口投与群)、及び
(d)治療群(DSS投与し1日後より、30mg/kg SMA−AHPPの静脈投与群3日間連日)の4群を設けた。
正常群以外の(b)、(c)、(d)の3群に、7日間の2%DSSの飲水投与を開始した。DSSの投与開始から1日後に(c)に100mg/kgでSMA−AHPPをゾンデにより経口投与した。また、(d)に30mg/kgでSMA−AHPPを尾静脈より3日間連日で投与した。
7日後、すべてのマウスの体重を測定した後、エーテル麻酔により屠殺し、血液、肝臓及び大腸を摘出した。肝臓は重量を、大腸は長さを測定した。また、血清中の炎症性サイトカインであるインターロイキン−12(IL−12)及び腫瘍壊死因子(TNF−α)をMouseTNF−αELISA kit、Total IL−12 Mouse ELISA kit(Pierce Biotechnology, Rockford, IL)を用いてELISA法により測定した。
【0025】
図8に、2%DSS飲水投与の7日目における各群の体重、肝臓重量及び大腸の長さを示した。データは平均±SD(n=5)で表した。なお、ここで印*:P<0.05、**:P<0.01は、正常群あるいはSMA−AHPPの投与群vs.コントロール大腸炎群を示す。
図8に示すように、(b)コントロール大腸炎群(無治療)は(a)正常群(DSS無処理)と比較して、さらに体重の減少を示した。一方、SMA−AHP投与の治療群の(c)群及び(d)群は(a)と同様に体重の減少は見られなかった。また、肝臓の重量も(c)及び(d)は、(a)と比較して同様に変化はなく、副作用はみとめられなかった。
また、(b)コントロール大腸炎群(無治療)は、(a)正常群(DSS無処理)と比較して有意に大腸の長さの減少を示し、萎縮していた。その際に、(b)コントロール大腸炎群(無治療)は、下痢の発生が顕著に増加していた。一方で、SMA−AHPPの投与による治療群の(c)及び(d)は、(b)と比較して有意な大腸の長さの減少を抑制していた。(c)及び(d)は(a)と比較しても有意な差はなく、大腸の長さの萎縮はなかった。
さらに、SMA−AHPP投与の(c)及び(d)は、下痢の発生を抑制した。
炎症性サイトカインの抑制に関しては図9及び図10に示すように、SMA−AHPP投与群の(c)及び(d)においては、無治療群の(b)と比較して血清中のIL−12及びTNF−αの産生を有意に抑制した。
【実施例4】
【0026】
PEG(2000)−AHPPを図11に示すスキームにより合成した。
AHPPの微粉末100mg(0.7mmol)を0.1M NaOHの15ml中に溶かしたものと1.3gの活性化PEG(分子量2000、NOF製サンブライトMEC−20AS)を20mlのクロロホルムに溶かした溶液を氷上で撹拌下に滴下しながら40分間懸濁状態で加え反応させた。PEGを完全に加えた後もさらに室温下で2時間反応した。二成分よりなる反応溶液に0.1M HClを加えpH1.0に調整した。反応溶液のクロロホルム相を分液ロートにより分取し、無水硫酸ナトリウムを加え乾燥した。その溶液をろ紙によりろ過し、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下にクロロホルムを除去し乾燥標品を得た。ついで、この標品を5〜8mlの蒸留水に溶かし上記Sephadex G−100にてゲルクロマトグラフィーを行った。その溶出画分を260nmの吸収により検出し、そのピークを分取し凍結乾燥して純化物を得た。その標品について動的光散乱解析を行った。また、乾燥標品を元素分析、FT−IR、UV吸収スペクトル、動的散乱による粒子サイズの分布の測定及びXOによるO2-の産生に対する阻害効果を実施例1と同様に測定した。
【0027】
次に、PEG(300)とAHPPとの合成を行った。例を示す。
縮合反応のための活性化エステルの合成は、まず、5.0gのPEG(分子量300、和光純薬、164−09055、Lot No.WKG6642、大阪)と、0.6gのp−ニトロフェニールクロロフーメイトを、50mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶かし、さらに、トリエチルアミンを0.29g添加し、24−30時間室温で撹拌下に反応させた。次第にトリエチルアミン塩酸塩が析出し、これをろ過して除いた。この溶液に対し、300mlのエチルエーテルを加え、沈澱を生じさせて沈澱物を得た。このものをさらに冷エチルエーテルにより洗浄した。この沈澱物を再び約50mlのTHFを加え、溶解させ、このTHF溶液にエチルエーテルを加え、両溶媒の混液より、活性化PEG(p−ニトロフェニールクロロフーメイト)の結晶化物を得た。収量はPEGに対し〜80w/w%)であった。この活性化PEGを1.0gとり、20mlのTHFに溶かし、これに0.1M NaOHにより溶かしたAHPP溶液(0.5g/25mlのNaOH)を撹拌下で滴下しながら加え30〜40時間室温で反応させた。このときすべて可溶化している状態である。この反応溶液をロータリーエバポレーターにより濃縮乾固させ、乾燥物を得た。このものをTHFでさらに溶かし、エチルエーテルで沈澱させ、WhatmanのNo.1フィルターでろ過し、沈澱物を分別した。この沈澱物に10mlの蒸留水を加え、溶解し、凍結乾燥により、PEG(300)−AHPPの標品を得た。このもののUV吸収スペクトル及び光動的散乱法により粒子サイズの分布を測定した。
【0028】
AHPPの吸収スペクトラムを図12に、PEG(2000)−AHPP、PEG(300)−AHPPの吸収スペクトラムをそれぞれ図13(A)、(B)に示す。図12に示すとおり、AHPPは、222及び270nmで最大吸収を示した。また、図13(A)に示すとおりPEG(2000)−AHPPは230及びAHPPの特徴的な270nmに最大吸収を示した。図13(B)に示すとおりPEG(300)−AHPPは222及びAHPPの特徴的な270nmに最大吸収を示した。
【0029】
AHPPのFT−IRスペクトラムを図14に、PEG(2000)−AHPPのFT−IRスペクトラムを図15に示す。図14に示すとおり、PEG(2000)−AHPPは、特徴的な1638cm−1(C=O伸縮)、2850cm−1付近(−OCH3)の吸収ピークが観察された。
図16(A)、(B)は、PEG(2000)−AHPPおよびPEG(300)−AHPPの溶液中での動的散乱による粒子サイズの分布の測定の結果を示した。その結果、PEG(2000)−AHPPおよびPEG(300)−AHPPの粒子サイズは、それぞれ平均約287nm、235.5nmであった。このデータは、PEG−AHPP分子が溶液中で会合体を形成していることを証明している。
また、図17に、AHPPとPEG(2000)−AHPPのXOの酵素活性に対する阻害活性を示した。図17に示すとおり、XOの酵素活性に対するPEG(2000)−AHPPの阻害もAHPPとほぼ同程度に抑制した。
【実施例5】
【0030】
AHPP−アクリレートモノマー結合化合物を図18に示すスキームで合成した。
AHPPの微粉末500mg(3.3mmol)を15mlの0.075M NaOHに溶かしたものと、塩化アクリロイル(アクロイルクロリド)を299mg(3.3mmol)を10mlのクロロホルムに溶かした溶液を、氷上で撹拌下に滴下しながら30分間で加え反応させた。塩化アクリロイルを完全に加えた後もさらに撹拌しながら室温下で30分間反応した。水相反応溶液のクロロホルム相を分液ロートにより除去し、この水溶液を0.1M HClを用いて約pH3.0に調整することで沈澱物が生成する。その沈澱物をろ過により分取し、50mlの0.1M HClで2回洗浄し、50mlのアセトンで2回洗浄し、乾燥した。AHPP−アクリレートモノマーの収量は0.6g(98%)であった。
【0031】
AHPP−アクリレートモノマーの吸収スペクトラムを図19に示した。サンプル溶液は1.5mg/mlの0.1M NaOH溶液として測定した。図19に示すとおり、AHPP−アクリレートモノマーは224及び270nmで最大吸収を示した。
【実施例6】
【0032】
AHPP−オリゴエチレングリコール(OEG)メタアクリレートコポリマーの合成は図20のスキームのように反応させた。
1.0g 4.0mmol)のオリゴエチレングリコールエチルエステルメタアクリレート(3〜4のエチレングリコールが結合した状態なので、ポリではなくオリゴエチレングリコールとした。平均分子量246, OEG−MA, CatNo.409545、Batch No−02824AH、Aldrich)を20mlのジメチルスルホキシド(以下、DMSOと記載することもある)に溶かした溶液と、0.2gのAHPP−アクリルレートモノマー結合化合物を15mlのDMSOに溶かした溶液を、重合開始剤である2,2’−azobis[2−methylpropanenitrile]を2.0mg加え65℃で24時間反応させた。その反応溶液をロータリーエバポレーターにより濃縮乾固し、乾燥物をジエチルエーテルで3回洗浄し精製した。この標品を上記と同様に蒸留水にとかしSephadex G−100にてゲルクロマトグラフィーを行った。その溶出画分は260nmの吸収により検出し、そのピークを分取して凍結乾燥し純化物を得た。AHPP−OEGメタアクリレートコポリマーの収量は0.95g(79%)であった。
【0033】
図21にAHPP−OEGメタアクリレートポリマーの吸収スペクトルを示す。
図21に示すとおり、AHPP−OEGメタアクリレートポリマーは230及び270nmの最大吸収を示した。また、AHPP−OEGメタアクリレートコポリマーのFT−IRスペクトラムを図22に示した。図22に示すとおり、AHPP−OEGメタアクリレートポリマーは1650cm−1付近にピーク(アミドのC=O伸縮)が観察された。
【0034】
AHPP−OEGメタアクリレートポリマーの分子量をSephadex G−100ゲル(GE Healthcare)クロマトグラフィー[size:35cm(h) × 2.5cm (d)]により、human immunoglobulin IgG(155kDa)、bovine serum albumin(67kDa)、ovalbumin(43kDa)、lysozyme(14kDa)、phenolred(0.3kDa)を分子量マーカーとして用いて、見かけ上の溶液状態での分子量を推定した。結果を図23に示した。AHPP−OEGメタアクリレートポリマーは見かけ上99kDaの分子量を示した。
得られたAHPP−OEGメタアクリレートコポリマーはXOの酵素活性の阻害を実施例1と同様に測定したところ、AHPPとほぼ同程度にXOの酵素活性を阻害した。結果を図24に示す。
【実施例7】
【0035】
AHPPのSMAによるミセル化物(SMA−AHPPミセル化包摂物ともいう)を調製した。
SMA無水物(200mg)を0.1M NaOHまたは0.1M KOHを加え、50〜60℃の保温下にスターラーにより撹拌させ、SMA無水物の加水分解反応を約12時間かけて進行させ、ついで、このSMA加水分解を行った。反応溶液に、撹拌下に0.1M HClを滴下し、SMA加水分解物を沈澱させた。得られた沈殿物をガラスろ過フィルター(2〜4μm)を通して分取し、さらに冷0.001MHClで洗浄後凍結乾燥し、SMA加水分解物を調製した。
SMAとは別に、AHPP(微粉末状)378mgを50mlの0.1M NaOHに加え、37〜40℃撹拌下に一夜放置し、AHPPの飽和溶液を調製した。このAHPPの飽和溶液をPTFEフィルター(0.45μm、Toyo Roshi Kaisha, Ltd, Tokyo, Japan)でろ過し、SMA加水分解物576mgを10mlの0.01M Na2CO3/NaHCO3(pH9.0)で溶解したものを、ゆっくりと室温下にスターラーで撹拌しながら滴下した。SMA加水分解溶液を完全に加えた後、さらに撹拌させながら、5時間反応させた。撹拌下、生成した水可溶性のミセルに0.01M HClを加えpHを4.0とし、生じた沈澱物を遠心分離し、もう一度、冷0.001M HClで洗浄した。次に0.1M NaHCO3を加え再溶解させた後、分子量1000〜10000の分子ふるい膜を用いて実施例1に準じて濃縮し、凍結乾燥物を得た。この凍結乾燥物を0.1M Na2CO3に溶かしSephadex G−100ゲル(GE Healthcare)クロマトグラフィー[size:35cm(h) × 2.5cm (d)]により単一ピークとして精製した。また、AHPPは260nmの吸収で検出した。推定されるミセル化会合/包摂物を図25に示す。
【0036】
SMA−AHPPを各ラット当たり0.5ml中に15及び30mg/kg(AHPP換算)になるように生理食塩水に溶解し、自然高血圧ラット(spontaneoushypertensive rat, SHR、平均体重約300g、1群3−4匹)に尾静脈より投与した。また、もう1群には100mg/kgラット(AHPP換算)のSMA−AHPPをSHRにゾンデにより経口投与した。投与してから3時間後に無加温型非観血式血圧計(ModelMK−2000MT、室町機器)を用いて血圧の変動を測定した。
【0037】
図26にSMA−AHPPの尾静脈投与の結果を示す。SMA−AHPPの15及び30mg/kgを1回尾静脈投与後、24時間にわたり観察したところ、SMA−AHPP投与群はコントロール群と比較して血圧降下作用(抗高血圧作用)を示した。30mg/kgのSMA−AHPPの静脈投与ではSHR高血圧ラットの無治療コントロール群の血圧の約75%(−25%低下)にまで有意に抑制した。この作用は、1回の投与により、24時間以上にわたり降圧作用を持続した。図中◆プロットは、コントロール、■プロットは30mg/kg、▲プロットは30mg/kgの投与量を示す。
さらに重要なことに、図27に示すように、100mg/kgのSMA−AHPPの経口投与では、投与24時間後に血圧のもとの値より20mmHg低値と有意に血圧を減少させ、さらに48時間後まで有意に低い血圧を維持した。しかし、その後は緩やかな上昇を示しつつも、72時間後に二回目の治療をした結果、216時間後までコントロール群と比較して、有意に降圧作用を示した(P<0.01)。図中▲プロットはコントロール、●プロットは100mg/kgのSMA−AHPP投与量を示す。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明にかかるSMA−AHPPの合成スキームを示す。
【図2】SMAとSMA−AHPPのFT−IRスペクトラムを示す。
【図3】XO酵素の活性に対するAHPPとSMA−AHPPの阻害活性を示す。
【図4】AHPPとSMA−AHPPのXOによるO2−生成の阻害活性を示す。
【図5】ラット肝臓中のLDH変化を示すグラフである。
【図6】ラット肝臓中のALT及びASTの変化を示す。
【図7】ラット肝臓中の過酸化物量の変化を示す。
【図8】DSS飲水投与によるマウスの体重、肝臓重量及び大腸の長さの変化を示す。
【図9】マウス血清中のIL−12の変化を示す。
【図10】マウス血清中のTNF−αの変化を示す。
【図11】本発明にかかるPEG−AHPPの合成スキームを示す。
【図12】AHPPの吸収スペクトラムを示す。
【図13】(A)はPEG(2000)−AHPP、(B)はPEG(300)―AHPPの吸収スペクトラムを示す。
【図14】AHPPのFT−IRスペクトラムを示す。
【図15】PEG−AHPPのFT−IRスペクトラムを示す。
【図16】(A)はPEG(2000)−AHPP、(B)はPEG(300)−AHPPの光動的散乱による溶液中の粒子分布を示す。
【図17】PEGとPEG−AHPPのXOによるO2−生成の阻害活性を示す。
【図18】AHPP−アクリレートモノマー結合化合物の合成スキームを示す。
【図19】AHPP−アクリレートモノマーの吸収スペクトラムを示す。
【図20】AHPP−オリゴエチレングリコール(OEG)メタアクリレートコポリマーの合成スキームを示す。
【図21】AHPP−OEGメタアクリレートポリマーの吸収スペクトルを示す。
【図22】AHPP−OEGメタアクリレートコポリマーのFT−IRスペクトラムを示す。
【図23】AHPP−OEGメタアクリレートポリマーの分子量を示す。
【図24】AHPP−OEGメタアクリレートポリマーのXOによるO2−生成の阻害活性を示す。
【図25】AHPPのSMAミセル化物の会合体/包摂物の構造概念図である。
【図26】AHPPのSMA−AHPPの注射投与による降血圧作用を示す。
【図27】AHPPのSMA−AHPPの経口投与による降血圧作用を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンの水可溶性医薬製剤に係り、詳しくは、抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
組織が損傷を受けると、損傷箇所の血管内皮細胞でプロスタグランジンや炎症性サイトカインが産生される。プロスタグランジンや炎症性サイトカインは、発熱、血管拡張、血管透過性の亢進、白血球の走化性亢進、白血球や血管内皮細胞の活性化、活性化白血球の血管内皮細胞への粘着や浸潤など、様々な生理作用を示す。そしてさらに、活性化した白血球からもプロスタグランジンやロイコトリエンなどが産生され、炎症反応は加速される。走化性の亢進した白血球は、血管内皮細胞の結合部から血管外の炎症部位へ浸潤し、そこで感染防御のために微生物、病原体や不要物質の貪食を行う。その結果、病原体や抗原など有害な不要物質が減少して組織細胞が増殖することで治癒に至る。しかし、白血球の浸潤が持続すると、逆に更なる組織損傷が起きてしまい、炎症が慢性化してしまう。
このような、炎症反応を抑える抗炎症剤としては、従来からステロイド系抗炎症剤や非ステロイド系抗炎症剤、例えばシクロオキシゲナーゼ(以下、COXと記載することもある)阻害剤などが使用されている。非ステロイド系抗炎症剤としては、アスピリン、サリチル酸やインドメタシン等が挙げられる。これらの抗炎症剤は、プロスタグランジンの生合成につながるアラキドン酸カスケードでのCOXとアラキドン酸との結合を阻害することにより、抗炎症活性を示す。このように、ステロイド系抗炎症剤や非ステロイド系抗炎症剤は、シクロオキシゲナーゼ活性を阻害することにより、患部での炎症や痛みは抑えることができる。しかし、反面、COX活性が阻害されることにより、胃や肝臓では血流が減少してしまい、胃潰瘍や腎機能に悪い影響を及ぼすことが指摘されている。
【0003】
また、4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジン(以下、AHPPと記載することもある)の活性に関しては、血圧降下作用を有することが当発明者らの特許文献1に開示されている。しかし、AHPPは、水不溶性であるため、水可溶性とする必要があり、これまで、AHPPを水可溶性にした血圧降下製剤は得られていない。
【特許文献1】特開平9−118622号公報
【非特許文献1】T. Oda et al, Science, 244, 974−976(1989)
【非特許文献2】T. Akaike et al, J. Clin. Invest., 85,739−745 (1990)
【非特許文献3】T. Akaike et al, PNAS., 93, 2448−2453(1996)
【非特許文献4】Y.Matsumura, and H.Maeda, Cancer Res., 46, 6387−6392, (1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、炎症を効率的に抑制でき、且つ副作用を示さず、安全性の高い抗炎症剤を提供することを目的とする。
さらに、また本発明は、水可溶性のキサンチンオキシダーゼ(以下、XOと記載することもある)の阻害能を有するAHPP製剤を提供することを目的とする。水可溶性のAHPP製剤は、活性酸素であるスーパーオキサイド(以下、O2-と記載することもある)の生成を抑え、従ってそのO2-による一酸化窒素(以下、NOと記載することもある)の消費を抑え、逆に消費されないNOによりその濃度が上昇することにより血圧降下製剤や、さらにまたO2-とNOより生じる起炎症性のパーオキシナイトライト(ONOO-)を抑え、従って抗炎症剤として使用することができる。
【0005】
本発明者らは、これまでにインフルエンザの増悪化のメカニズムにO2-やNOが深く関与することを解明した(非特許文献1〜3)。
さらに、O2-がXOにより生成されていることも明らかにしている。O2-は、NO、即ち血管内皮由来弛緩因子(endothelial−derived relaxing factor;降圧物質EDRF)と反応しONOO-となり、NOを消費することから、血圧降下作用を有するNOの欠乏により正常な血圧が困難となり、高血圧症を招来すると考えられる。本発明者らはそこで、AHPPによりO2-を抑えることによりラットの血圧上昇抑制効果を有することを発見し、特許出願を行っている(特許文献1)。
【0006】
また、本発明者らはO2-やONOO-となどの活性酸素分子種は、ウィルス感染や薬物、その他による炎症の原因に深く関わっていることを明らかにしている。そこで、O2-の生成を触媒する主要な酵素の一つであるXOに対する阻害剤を投与することにより、XOより生成する活性酸素分子種が関わる炎症を抑制することができると考え、鋭意研究を進め、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジン、その薬学的に許容される塩、その誘導体、または4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンを含有するミセル体を活性本体とする抗炎症剤である。
本発明はまた、4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンの誘導体、または4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンを含有するミセル体を含有する医薬製剤である。本発明の医薬製剤は、抗炎症剤や血圧降下剤としXOの酵素活性を抑えることによって得られる薬効をめざして使用することができる。
4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンは、式1で表わされる化合物である。そして、その誘導体は、式2で表される化合物である。式2中、Xは、式3〜式6で表わされる何れか1つの置換基である。
【0008】
【化1】
【0009】
【化2】
【0010】
【化3】
なお、ここで、kは3〜200の自然数を表わす。重合度の上限を200としたのは、ミセルの形成がSMAの3本鎖により成っていると考えると、1個の薬剤活性部位(AHPP)に対し、SMAは3倍となり、相対的にAHPPの濃度(含量)が希釈される。従って、高い比活性を維持するためにはSMAの量を相対的に低く抑えた。
【0011】
【化4】
なお、ここで、式中のl(エル)は1〜1000の自然数を表わす。1000以上の場合は、水系での溶解度が低下するため実用性に欠ける。
【0012】
【化5】
【0013】
【化6】
なお、ここで、m、nは夫々1〜1000の自然数を表わす。なお、m>nが好ましい。1000以上の場合は、水系での溶解度が低下するため実用性に欠ける。
【0014】
また、4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンを含有するミセル体は、4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンの、スチレンマレイン酸コポリマー(以下、SMAと記載することもある)を用いて非共有結合により形成されるミセル化した製剤である。具体的には、式7で表わされる。これはAHPPとSMAは、非共有結合物(複合体)であることが特徴といえる。
【0015】
【化7】
なお、ここで、pは3〜200の自然数を表わす。その重合度の範囲が限られているのは、上記kと同じ理由である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、炎症を効率的に抑制でき、且つ副作用の少ない安全性の高い抗炎症剤を提供することが可能となる。本発明の抗炎症剤は、AHPPの水可溶性の誘導体ある。これらの誘導体(剤形)は、溶液中、血中、体内では高分子として挙動しているため、血中投与時の血中滞留性の向上と病巣、即ち、炎症部への指向性が一段と強くなっている。これは、その性状の特性である腫瘍部や炎症部におけるEnhanced Permeability and Retention effect (EPR)効果(非特許文献4)による集積性の向上といえる。即ち、これらの手法により一段と優れた医薬品にすることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
AHPPは、公知の化合物であり、3−アミノ−4−シアノピラゾールと尿素との反応により合成することができる。またAHPPの薬学的に許容される誘導体としては、特に、ここに例示するものだけに制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸、コハク酸等)、クエン酸塩、グルコン酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸誘導体、グルコース、マルトース、フルクトース、ソルビトール、キシロース、マンノース等、ε‐カプロラクタム等が挙げられる。
また、AHPP誘導体は、AHPPをSMA、ポリエチレングリコール(以下、PEGと記載することもある)、アクリル酸又はポリビニル酢酸(以下、PVと記載することもある)等の水溶性の低〜高分子残基とアミド結合した化合物である。また、AHPPをSMA、PEG、アクリル酸又はPV、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシプロピルメタアクリレート(HPMA)コポリマー、ジビニルマレイン酸(無水)コポリマー(ピランコポリマー)等を用い、非共有結合により形成されるミセル化した製剤である。
AHPPは水不溶性物質であるが、水溶性高分子あるいは重合度の低いPEGなどと結合あるいはミセル化することにより、水可溶性となるばかりでなく高分子化によって一段と優れた医薬品となる。
【0018】
本発明の抗炎症剤の投与形態は、経口投与剤又は注射剤あるいは座薬のいずれでもよい。経口での投与量は患者の年齢、体重、疾患の程度に応じて調節すればよく、例えば、成人一人当たり100〜9000mgを1日1回ないし数回に分けて投与するのが好ましい。注射剤は、静脈内投与とするのが好ましく、点滴等により静脈内へ投与してもよい。注射の場合、AHPP含有量は3〜500mg/kgの範囲が好ましい。
以下に実施例に基づき本発明を説明する。
【実施例1】
【0019】
SMA−AHPPを図1に示すスキームで合成した。
36.3mgのAHPP(分子量151.1、微粉末状、和光純薬、大阪)に5.0mlの0.1M NaOHまたは0.1M KOHを加えて溶解させ、7.3mg/ml(48mM)のアルカリ溶液を調製した。得られたAHPP溶液に、撹拌下で約2倍のモル量(分子量を1200と仮定)の576mg(96mM)のSMA無水物(微粉末状)を約50mgずつ数時間にわたりゆっくり加え、反応させた。SMA無水物を完全に加えた後、撹拌させながらさらに6時間反応させた。反応液を、0.1M HClによりpH9.0に調整し、さらに暗所で24時間反応させた。24時間後、0.1M HClを添加し、pH6.0以下で沈澱させ分別取得した。ついで、冷却した0.01M HClと0.1M酢酸の弱酸性水溶液を加え懸濁液となし、遠心沈澱により洗浄した。次いで、得られた沈澱物を5mlの0.1M Na2CO3で再溶解させ、100mlに希釈しpH9.5付近の溶液となし、分子量3000の分子ふるい膜を用い、Laboscale TFF system(Millipore, Billerica, MA)により加圧下で、低分子を除きつつ濃縮・洗浄した。さらに、濃縮した溶液に0.01M Na2CO3/NaHCO3(pH 9.0)を加え、希釈し、上記システムを用いて、濃縮・洗浄を再度繰り返した。濃縮した高分子分画の溶液を凍結乾燥した。凍結乾燥物を0.1M Na2CO3に溶かし、Sephadex G−100ゲル(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)カラムクロマトグラフィー[size: 35cm(h)×2.5cm(d)]により精製した。また、AHPPは260nmの吸収で検出した。
【0020】
牛乳由来のXOによるO2−の生成に対するSMA−AHPPの阻害活性は、10μMのルシゲニン、10μMのキサンチン、10、100μMのAHPPまたは10〜5000μMのSMA−AHPPを含む10mMのリン酸緩衝液(pH7.4)に20mU/mlになるようにXOを添加し、化学発光を測定した(マルチプレートリーダーMTP−700CL,CoronaCo.Ltd.,Ibaraki,Japan)。また、XOの酵素活性に対するSMA−AHPPの阻害活性は、基質のキサンチンを2、5、10、20μMの濃度に対し、SMA−AHPPを22、44及び132μMの含む10mMのリン酸緩衝液(pH7.4)中で反応させた。酵素のXOは、3.33mU/mlになるように添加して撹拌し、生成する尿酸は290nmの吸収で測定(可視紫外分光光度計modelUV/Vis−550,JASCOCorp,Japan)して阻害活性定数(Ki)を求めた。
【0021】
SMA−AHPP結合物のFT−IRスペクトラムは図2に示すとおり、1375及び1397cm−1(カルボン酸のC−O−Hに由来)、1477及び1570cm−1(N−H)、1638cm−1(C=O伸縮)、3350−3500cm−1付近(O−H伸縮)の吸収ピークが観察された。
また、元素分析の結果から、SMA−AHPPには、SMAにはないN(AHPP由来)が2.86%含まれていた。このことから、AHPPは、SMA鎖(重合度6)1本に対し、1個結合していると考えられた。
また、図3にAHPPとSMA−AHPPのXO酵素活性の阻害活性を示した。SMA−AHPPのKiは0.25μMであり、AHPPは0.17μMとほぼ同様の強い阻害活性を示した。また、図4にAHPPとSMA−AHPPのXOによるO2−の生成阻害活性を示した。図4に示すとおり、XOによるO2−の生成の阻害も濃度依存的に抑制した。なお、測定は前述した方法に準じて行った。
【実施例2】
【0022】
SMA−AHPPの虚血再灌流による肝障害に対する防御作用を調べた。
6週令の雄性Wisterラット(平均体重約250gで1群約5匹、九動、熊本)を1週間予備飼育後に実験に供した。ラットは試験を行う9時間前に絶食させた後、SMA−AHPPを各ラット当たり0.5ml中に6、10及び20mg/kgになるように生理食塩水に溶かし尾静脈より投与した。2時間後、ラットを麻酔下で開腹し、門脈をクリップで30分間結紮し阻血した後、クリップを門脈よりはずし、再灌流(Ischemia reperfusion, I/R)させ開腹部を糸で縫合した。3時間後ラットをエーテル麻酔下に屠殺し、血液を採取し、肝障害の指標として血漿中の乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase, LDH)、アラニンアミノ基転移酵素(alanine aminotransferase, AST)及びアスパラギン酸基転移酵(aspartate aminotransferase, ALT)を測定した(N.Ikebe et al,J.Pharm.Exp.Ther.,295 904−911(2000))。また、肝臓は、病理組織学的観察を行うために、組織の一部を10%ホルマリンで固定し、さらにそのパラフィンブロックを作りその5〜10μm切片をヘマトキシリンエオシンで染色後、顕微鏡観察により肝臓傷害を観察した。さらに、肝臓の過酸化度は、肝ホモジネートを作成し、チオバルビツール(TBA)法(J.Fung et al,Cancer Res.,62 3138−3143(2002))により肝臓中の過酸化物の生成も測定した。
【0023】
図5に示すように、I/R処置ラットにおける血中の肝障害の指標となる酵素LDHはSMA−AHPPの投与により、コントロール(SMA−AHPP投与なし)と比較して濃度依存的に有意に血清中のLDHの増加を抑制した。
図6は、SMA−AHPPによるALT及びASTの変化を示すグラフである。LDHと同様に、SMA−AHPPはALT及びASTの増加を濃度依存的に有意に抑制した。また、図7にI/R処置ラット肝臓中の過酸化物の生成量を示す。I/R処置ラット肝臓中の過酸化物の生成もSMA−AHPPの投与により有意に抑制されている。以上のように、SMA−AHPPはI/Rに起因するXOの活性化によるO2-の生成を抑え、肝障害を抑えることが明らかである。
【実施例3】
【0024】
SMA−AHPPのデキストラン硫酸ナトリウム塩(DSS、MP Biomedicals,LLC、CA、USA)により惹起した大腸炎に対する治療効果を調査した。DSSは蒸留水に2%溶かして、一週間連日飲用水として与えた。
5週令の雄性ICR(平均体重約25g)マウスを1週間予備飼育し、体重を測定し、
(a)正常群(DSS投与なし)、
(b)コントロール大腸炎群(DSS投与し1日後からのSMA−AHPP投与なし)、
(c)治療群(DSS投与し1日後より、100mg/kg SMA−AHPPの経口投与群)、及び
(d)治療群(DSS投与し1日後より、30mg/kg SMA−AHPPの静脈投与群3日間連日)の4群を設けた。
正常群以外の(b)、(c)、(d)の3群に、7日間の2%DSSの飲水投与を開始した。DSSの投与開始から1日後に(c)に100mg/kgでSMA−AHPPをゾンデにより経口投与した。また、(d)に30mg/kgでSMA−AHPPを尾静脈より3日間連日で投与した。
7日後、すべてのマウスの体重を測定した後、エーテル麻酔により屠殺し、血液、肝臓及び大腸を摘出した。肝臓は重量を、大腸は長さを測定した。また、血清中の炎症性サイトカインであるインターロイキン−12(IL−12)及び腫瘍壊死因子(TNF−α)をMouseTNF−αELISA kit、Total IL−12 Mouse ELISA kit(Pierce Biotechnology, Rockford, IL)を用いてELISA法により測定した。
【0025】
図8に、2%DSS飲水投与の7日目における各群の体重、肝臓重量及び大腸の長さを示した。データは平均±SD(n=5)で表した。なお、ここで印*:P<0.05、**:P<0.01は、正常群あるいはSMA−AHPPの投与群vs.コントロール大腸炎群を示す。
図8に示すように、(b)コントロール大腸炎群(無治療)は(a)正常群(DSS無処理)と比較して、さらに体重の減少を示した。一方、SMA−AHP投与の治療群の(c)群及び(d)群は(a)と同様に体重の減少は見られなかった。また、肝臓の重量も(c)及び(d)は、(a)と比較して同様に変化はなく、副作用はみとめられなかった。
また、(b)コントロール大腸炎群(無治療)は、(a)正常群(DSS無処理)と比較して有意に大腸の長さの減少を示し、萎縮していた。その際に、(b)コントロール大腸炎群(無治療)は、下痢の発生が顕著に増加していた。一方で、SMA−AHPPの投与による治療群の(c)及び(d)は、(b)と比較して有意な大腸の長さの減少を抑制していた。(c)及び(d)は(a)と比較しても有意な差はなく、大腸の長さの萎縮はなかった。
さらに、SMA−AHPP投与の(c)及び(d)は、下痢の発生を抑制した。
炎症性サイトカインの抑制に関しては図9及び図10に示すように、SMA−AHPP投与群の(c)及び(d)においては、無治療群の(b)と比較して血清中のIL−12及びTNF−αの産生を有意に抑制した。
【実施例4】
【0026】
PEG(2000)−AHPPを図11に示すスキームにより合成した。
AHPPの微粉末100mg(0.7mmol)を0.1M NaOHの15ml中に溶かしたものと1.3gの活性化PEG(分子量2000、NOF製サンブライトMEC−20AS)を20mlのクロロホルムに溶かした溶液を氷上で撹拌下に滴下しながら40分間懸濁状態で加え反応させた。PEGを完全に加えた後もさらに室温下で2時間反応した。二成分よりなる反応溶液に0.1M HClを加えpH1.0に調整した。反応溶液のクロロホルム相を分液ロートにより分取し、無水硫酸ナトリウムを加え乾燥した。その溶液をろ紙によりろ過し、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下にクロロホルムを除去し乾燥標品を得た。ついで、この標品を5〜8mlの蒸留水に溶かし上記Sephadex G−100にてゲルクロマトグラフィーを行った。その溶出画分を260nmの吸収により検出し、そのピークを分取し凍結乾燥して純化物を得た。その標品について動的光散乱解析を行った。また、乾燥標品を元素分析、FT−IR、UV吸収スペクトル、動的散乱による粒子サイズの分布の測定及びXOによるO2-の産生に対する阻害効果を実施例1と同様に測定した。
【0027】
次に、PEG(300)とAHPPとの合成を行った。例を示す。
縮合反応のための活性化エステルの合成は、まず、5.0gのPEG(分子量300、和光純薬、164−09055、Lot No.WKG6642、大阪)と、0.6gのp−ニトロフェニールクロロフーメイトを、50mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶かし、さらに、トリエチルアミンを0.29g添加し、24−30時間室温で撹拌下に反応させた。次第にトリエチルアミン塩酸塩が析出し、これをろ過して除いた。この溶液に対し、300mlのエチルエーテルを加え、沈澱を生じさせて沈澱物を得た。このものをさらに冷エチルエーテルにより洗浄した。この沈澱物を再び約50mlのTHFを加え、溶解させ、このTHF溶液にエチルエーテルを加え、両溶媒の混液より、活性化PEG(p−ニトロフェニールクロロフーメイト)の結晶化物を得た。収量はPEGに対し〜80w/w%)であった。この活性化PEGを1.0gとり、20mlのTHFに溶かし、これに0.1M NaOHにより溶かしたAHPP溶液(0.5g/25mlのNaOH)を撹拌下で滴下しながら加え30〜40時間室温で反応させた。このときすべて可溶化している状態である。この反応溶液をロータリーエバポレーターにより濃縮乾固させ、乾燥物を得た。このものをTHFでさらに溶かし、エチルエーテルで沈澱させ、WhatmanのNo.1フィルターでろ過し、沈澱物を分別した。この沈澱物に10mlの蒸留水を加え、溶解し、凍結乾燥により、PEG(300)−AHPPの標品を得た。このもののUV吸収スペクトル及び光動的散乱法により粒子サイズの分布を測定した。
【0028】
AHPPの吸収スペクトラムを図12に、PEG(2000)−AHPP、PEG(300)−AHPPの吸収スペクトラムをそれぞれ図13(A)、(B)に示す。図12に示すとおり、AHPPは、222及び270nmで最大吸収を示した。また、図13(A)に示すとおりPEG(2000)−AHPPは230及びAHPPの特徴的な270nmに最大吸収を示した。図13(B)に示すとおりPEG(300)−AHPPは222及びAHPPの特徴的な270nmに最大吸収を示した。
【0029】
AHPPのFT−IRスペクトラムを図14に、PEG(2000)−AHPPのFT−IRスペクトラムを図15に示す。図14に示すとおり、PEG(2000)−AHPPは、特徴的な1638cm−1(C=O伸縮)、2850cm−1付近(−OCH3)の吸収ピークが観察された。
図16(A)、(B)は、PEG(2000)−AHPPおよびPEG(300)−AHPPの溶液中での動的散乱による粒子サイズの分布の測定の結果を示した。その結果、PEG(2000)−AHPPおよびPEG(300)−AHPPの粒子サイズは、それぞれ平均約287nm、235.5nmであった。このデータは、PEG−AHPP分子が溶液中で会合体を形成していることを証明している。
また、図17に、AHPPとPEG(2000)−AHPPのXOの酵素活性に対する阻害活性を示した。図17に示すとおり、XOの酵素活性に対するPEG(2000)−AHPPの阻害もAHPPとほぼ同程度に抑制した。
【実施例5】
【0030】
AHPP−アクリレートモノマー結合化合物を図18に示すスキームで合成した。
AHPPの微粉末500mg(3.3mmol)を15mlの0.075M NaOHに溶かしたものと、塩化アクリロイル(アクロイルクロリド)を299mg(3.3mmol)を10mlのクロロホルムに溶かした溶液を、氷上で撹拌下に滴下しながら30分間で加え反応させた。塩化アクリロイルを完全に加えた後もさらに撹拌しながら室温下で30分間反応した。水相反応溶液のクロロホルム相を分液ロートにより除去し、この水溶液を0.1M HClを用いて約pH3.0に調整することで沈澱物が生成する。その沈澱物をろ過により分取し、50mlの0.1M HClで2回洗浄し、50mlのアセトンで2回洗浄し、乾燥した。AHPP−アクリレートモノマーの収量は0.6g(98%)であった。
【0031】
AHPP−アクリレートモノマーの吸収スペクトラムを図19に示した。サンプル溶液は1.5mg/mlの0.1M NaOH溶液として測定した。図19に示すとおり、AHPP−アクリレートモノマーは224及び270nmで最大吸収を示した。
【実施例6】
【0032】
AHPP−オリゴエチレングリコール(OEG)メタアクリレートコポリマーの合成は図20のスキームのように反応させた。
1.0g 4.0mmol)のオリゴエチレングリコールエチルエステルメタアクリレート(3〜4のエチレングリコールが結合した状態なので、ポリではなくオリゴエチレングリコールとした。平均分子量246, OEG−MA, CatNo.409545、Batch No−02824AH、Aldrich)を20mlのジメチルスルホキシド(以下、DMSOと記載することもある)に溶かした溶液と、0.2gのAHPP−アクリルレートモノマー結合化合物を15mlのDMSOに溶かした溶液を、重合開始剤である2,2’−azobis[2−methylpropanenitrile]を2.0mg加え65℃で24時間反応させた。その反応溶液をロータリーエバポレーターにより濃縮乾固し、乾燥物をジエチルエーテルで3回洗浄し精製した。この標品を上記と同様に蒸留水にとかしSephadex G−100にてゲルクロマトグラフィーを行った。その溶出画分は260nmの吸収により検出し、そのピークを分取して凍結乾燥し純化物を得た。AHPP−OEGメタアクリレートコポリマーの収量は0.95g(79%)であった。
【0033】
図21にAHPP−OEGメタアクリレートポリマーの吸収スペクトルを示す。
図21に示すとおり、AHPP−OEGメタアクリレートポリマーは230及び270nmの最大吸収を示した。また、AHPP−OEGメタアクリレートコポリマーのFT−IRスペクトラムを図22に示した。図22に示すとおり、AHPP−OEGメタアクリレートポリマーは1650cm−1付近にピーク(アミドのC=O伸縮)が観察された。
【0034】
AHPP−OEGメタアクリレートポリマーの分子量をSephadex G−100ゲル(GE Healthcare)クロマトグラフィー[size:35cm(h) × 2.5cm (d)]により、human immunoglobulin IgG(155kDa)、bovine serum albumin(67kDa)、ovalbumin(43kDa)、lysozyme(14kDa)、phenolred(0.3kDa)を分子量マーカーとして用いて、見かけ上の溶液状態での分子量を推定した。結果を図23に示した。AHPP−OEGメタアクリレートポリマーは見かけ上99kDaの分子量を示した。
得られたAHPP−OEGメタアクリレートコポリマーはXOの酵素活性の阻害を実施例1と同様に測定したところ、AHPPとほぼ同程度にXOの酵素活性を阻害した。結果を図24に示す。
【実施例7】
【0035】
AHPPのSMAによるミセル化物(SMA−AHPPミセル化包摂物ともいう)を調製した。
SMA無水物(200mg)を0.1M NaOHまたは0.1M KOHを加え、50〜60℃の保温下にスターラーにより撹拌させ、SMA無水物の加水分解反応を約12時間かけて進行させ、ついで、このSMA加水分解を行った。反応溶液に、撹拌下に0.1M HClを滴下し、SMA加水分解物を沈澱させた。得られた沈殿物をガラスろ過フィルター(2〜4μm)を通して分取し、さらに冷0.001MHClで洗浄後凍結乾燥し、SMA加水分解物を調製した。
SMAとは別に、AHPP(微粉末状)378mgを50mlの0.1M NaOHに加え、37〜40℃撹拌下に一夜放置し、AHPPの飽和溶液を調製した。このAHPPの飽和溶液をPTFEフィルター(0.45μm、Toyo Roshi Kaisha, Ltd, Tokyo, Japan)でろ過し、SMA加水分解物576mgを10mlの0.01M Na2CO3/NaHCO3(pH9.0)で溶解したものを、ゆっくりと室温下にスターラーで撹拌しながら滴下した。SMA加水分解溶液を完全に加えた後、さらに撹拌させながら、5時間反応させた。撹拌下、生成した水可溶性のミセルに0.01M HClを加えpHを4.0とし、生じた沈澱物を遠心分離し、もう一度、冷0.001M HClで洗浄した。次に0.1M NaHCO3を加え再溶解させた後、分子量1000〜10000の分子ふるい膜を用いて実施例1に準じて濃縮し、凍結乾燥物を得た。この凍結乾燥物を0.1M Na2CO3に溶かしSephadex G−100ゲル(GE Healthcare)クロマトグラフィー[size:35cm(h) × 2.5cm (d)]により単一ピークとして精製した。また、AHPPは260nmの吸収で検出した。推定されるミセル化会合/包摂物を図25に示す。
【0036】
SMA−AHPPを各ラット当たり0.5ml中に15及び30mg/kg(AHPP換算)になるように生理食塩水に溶解し、自然高血圧ラット(spontaneoushypertensive rat, SHR、平均体重約300g、1群3−4匹)に尾静脈より投与した。また、もう1群には100mg/kgラット(AHPP換算)のSMA−AHPPをSHRにゾンデにより経口投与した。投与してから3時間後に無加温型非観血式血圧計(ModelMK−2000MT、室町機器)を用いて血圧の変動を測定した。
【0037】
図26にSMA−AHPPの尾静脈投与の結果を示す。SMA−AHPPの15及び30mg/kgを1回尾静脈投与後、24時間にわたり観察したところ、SMA−AHPP投与群はコントロール群と比較して血圧降下作用(抗高血圧作用)を示した。30mg/kgのSMA−AHPPの静脈投与ではSHR高血圧ラットの無治療コントロール群の血圧の約75%(−25%低下)にまで有意に抑制した。この作用は、1回の投与により、24時間以上にわたり降圧作用を持続した。図中◆プロットは、コントロール、■プロットは30mg/kg、▲プロットは30mg/kgの投与量を示す。
さらに重要なことに、図27に示すように、100mg/kgのSMA−AHPPの経口投与では、投与24時間後に血圧のもとの値より20mmHg低値と有意に血圧を減少させ、さらに48時間後まで有意に低い血圧を維持した。しかし、その後は緩やかな上昇を示しつつも、72時間後に二回目の治療をした結果、216時間後までコントロール群と比較して、有意に降圧作用を示した(P<0.01)。図中▲プロットはコントロール、●プロットは100mg/kgのSMA−AHPP投与量を示す。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明にかかるSMA−AHPPの合成スキームを示す。
【図2】SMAとSMA−AHPPのFT−IRスペクトラムを示す。
【図3】XO酵素の活性に対するAHPPとSMA−AHPPの阻害活性を示す。
【図4】AHPPとSMA−AHPPのXOによるO2−生成の阻害活性を示す。
【図5】ラット肝臓中のLDH変化を示すグラフである。
【図6】ラット肝臓中のALT及びASTの変化を示す。
【図7】ラット肝臓中の過酸化物量の変化を示す。
【図8】DSS飲水投与によるマウスの体重、肝臓重量及び大腸の長さの変化を示す。
【図9】マウス血清中のIL−12の変化を示す。
【図10】マウス血清中のTNF−αの変化を示す。
【図11】本発明にかかるPEG−AHPPの合成スキームを示す。
【図12】AHPPの吸収スペクトラムを示す。
【図13】(A)はPEG(2000)−AHPP、(B)はPEG(300)―AHPPの吸収スペクトラムを示す。
【図14】AHPPのFT−IRスペクトラムを示す。
【図15】PEG−AHPPのFT−IRスペクトラムを示す。
【図16】(A)はPEG(2000)−AHPP、(B)はPEG(300)−AHPPの光動的散乱による溶液中の粒子分布を示す。
【図17】PEGとPEG−AHPPのXOによるO2−生成の阻害活性を示す。
【図18】AHPP−アクリレートモノマー結合化合物の合成スキームを示す。
【図19】AHPP−アクリレートモノマーの吸収スペクトラムを示す。
【図20】AHPP−オリゴエチレングリコール(OEG)メタアクリレートコポリマーの合成スキームを示す。
【図21】AHPP−OEGメタアクリレートポリマーの吸収スペクトルを示す。
【図22】AHPP−OEGメタアクリレートコポリマーのFT−IRスペクトラムを示す。
【図23】AHPP−OEGメタアクリレートポリマーの分子量を示す。
【図24】AHPP−OEGメタアクリレートポリマーのXOによるO2−生成の阻害活性を示す。
【図25】AHPPのSMAミセル化物の会合体/包摂物の構造概念図である。
【図26】AHPPのSMA−AHPPの注射投与による降血圧作用を示す。
【図27】AHPPのSMA−AHPPの経口投与による降血圧作用を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジン、その薬学的に許容される塩、その誘導体、または4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンを含有するミセル体を有効成分として含有する、抗炎症剤。
【請求項2】
前記4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンは、式1で表わされる化合物であり、その誘導体は式2で表わされる化合物である、請求項1記載の抗炎症剤。〔なお、式2中、Xは、式3〜式6で表わされる1つの置換基である。〕
【化1】
【化2】
【化3】
なお、式中のkは2〜300の自然数を表わす。
【化4】
なお、式中のlは1〜1000の自然数を表わす。
【化5】
【化6】
なお、式中、m、nは1〜1000の自然数を表わす。
【請求項3】
前記4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジン誘導体が、4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンとスチレンマレイン酸コポリマーとのミセル化物(式7)である、請求項1記載の抗炎症剤。なお、
【化7】
なお、ここで、pは3〜200の自然数を表わす。
【請求項4】
炎症反応が活性酸素により起因する炎症である、請求項1〜3の何れかに記載の抗炎症剤。
【請求項5】
前記炎症が虚血再還流由来の炎症である、請求項1〜3の何れかに記載の抗炎症剤。
【請求項6】
前記炎症が、肺炎、肝炎、胃炎、大腸炎、皮膚炎、口内炎、咽頭炎、気管支炎、膵炎等の各種炎症性疾患のいずれかである、請求項1〜3の何れかに記載の抗炎症剤。
【請求項1】
4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジン、その薬学的に許容される塩、その誘導体、または4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンを含有するミセル体を有効成分として含有する、抗炎症剤。
【請求項2】
前記4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンは、式1で表わされる化合物であり、その誘導体は式2で表わされる化合物である、請求項1記載の抗炎症剤。〔なお、式2中、Xは、式3〜式6で表わされる1つの置換基である。〕
【化1】
【化2】
【化3】
なお、式中のkは2〜300の自然数を表わす。
【化4】
なお、式中のlは1〜1000の自然数を表わす。
【化5】
【化6】
なお、式中、m、nは1〜1000の自然数を表わす。
【請求項3】
前記4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジン誘導体が、4−アミノ−6−ハイドロキシピラゾロ(3,4−d)ピリミジンとスチレンマレイン酸コポリマーとのミセル化物(式7)である、請求項1記載の抗炎症剤。なお、
【化7】
なお、ここで、pは3〜200の自然数を表わす。
【請求項4】
炎症反応が活性酸素により起因する炎症である、請求項1〜3の何れかに記載の抗炎症剤。
【請求項5】
前記炎症が虚血再還流由来の炎症である、請求項1〜3の何れかに記載の抗炎症剤。
【請求項6】
前記炎症が、肺炎、肝炎、胃炎、大腸炎、皮膚炎、口内炎、咽頭炎、気管支炎、膵炎等の各種炎症性疾患のいずれかである、請求項1〜3の何れかに記載の抗炎症剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図17】
【図18】
【図20】
【図23】
【図25】
【図26】
【図27】
【図6】
【図7】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図19】
【図21】
【図22】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図17】
【図18】
【図20】
【図23】
【図25】
【図26】
【図27】
【図6】
【図7】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図19】
【図21】
【図22】
【図24】
【公開番号】特開2010−13411(P2010−13411A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176397(P2008−176397)
【出願日】平成20年7月5日(2008.7.5)
【出願人】(000201320)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月5日(2008.7.5)
【出願人】(000201320)
【Fターム(参考)】
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