説明

抗痙攣医薬組成物

有効成分としてビガバトリンと少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質との組合せを含む医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一種のグルタメート(glutamate)受容体活性化物質と組み合わせた抗痙攣剤のビガバトリン(vigabatrin)を含む、望ましくない副作用が減少した、抗痙攣 (anticonvulsive) 医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
てんかんとは反復的発作によって特徴付けられる中枢神経疾患群を説明する一般用語で、大脳皮質および脳の他の領域の神経の過度および/または過剰な同調性異常電気的活性が外部に現れる症状である。この異常電気的活性は運動症状、痙攣症状、感覚症状、自律症状または精神症状として現れる。
【0003】
てんかんは一般的に見られる神経疾患の一つで、世界中で何百万人の患者、アメリカ合衆国では250万人以上の患者がいる疾患である。
てんかんの特徴的発作は脳ニューロンの不規則な同期的かつ律動的な発作によって引き起されると考えられる。ニューロンは最大で通常の4倍の発作をすることもある。その結果、てんかん発作は脳機能を制御する通常の神経突起の過剰刺激である。
現存の抗てんかん薬は新たに診断された患者の80%の発作をなくすことができるが、社会経済的意味で重大な障害となる慢性難治性てんかんの患者も多い。
【0004】
てんかん治療では抗てんかん薬を利用できるが、これらの薬剤にはいくつかの欠点がある。例えば、これらの薬剤は液体および体液に難溶性であることが多いか、極めて吸湿性である。さらに重要なことに、時間とともに薬剤が患者に効かなくなることが多い。さらに、多くの抗てんかん薬は望ましくない副作用、神経毒性および薬物相互作用を引き起こす。臨床で現在使用されている抗てんかん薬または抗てんかん薬の組合せで治療しても、てんかん患者の30%は依然として発作を起こす。多くの抗てんかん薬が開発され、各患者毎に効果的な治療計画を建てる際の臨床医の医薬的選択肢が広がっている。
【0005】
ビガバトリン (vigabatrin) はγ−アミノ酪酸トランスアミナーゼ阻害剤として開発されたもので、新規抗痙攣剤の最も有望な有効成分の一つであった。しかし、ビガバトリンは極めて激しい望ましくない副作用、例えば非可逆的視野狭窄を誘発する。ビガバトリンによって誘発される視野狭窄が鼻部分に限定され、より中心の領域に広がるまでは、無症候性である。さらに、ビガバトリンによって誘発される視覚障害には視野狭窄だけでなく、視力低下、色の識別力および対比感度の低下を伴う中心視不全もある。ビガバトリンを用いた治療を停止することで視力障害を安定させることができるが、回復することはほとんどない。
【0006】
しかし、てんかん発作は常に極めて重い障害であり、致死の危険性もあるため、ビガバトリンは依然として処方されている。
【0007】
従って、当業界では、望ましくない作用が少ないか、全くないビガバトリンを含む改良された抗痙攣医薬組成物、例えば抗てんかん医薬組成物が要望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、当業者に公知のビガバトリンをベースにした医薬組成物と比較して望ましくない作用が少ないビガバトリンを含む新規な抗痙攣医薬組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の対象は、有効成分としてビガバトリンと少なくとも一種の網膜 (retina)組織中のグルタメート受容体の活性化を誘発する物質との組合せを含む医薬組成物にある。
本発明の別の対象は、ビガバトリンと少なくとも一種の網膜組織中のグルタメート受容体の活性化を誘発する物質との組合せを治療を必要とする患者に投与する段階を含む、てんかんを含む痙攣性疾患の治療方法にある。
本発明の網膜組織中のグルタメート受容体の活性化を誘発する物質はグルタメート、グルタメート誘導体、グルタメート代謝産物およびグルタメート類似体、グルタメート再取り組み阻害剤、グルタメート受容体のアゴニストおよびググルタメートの放出を増加させる物質である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
驚くべきことに、本発明者は、ビガバトリンで治療した患者の視力の進行性低下および非可逆的低下が網膜組織中のグルタメート濃度の局所的な減少に関連し、このグルタメート濃度の減少が異所性(ectopic)シナプスの形成を伴う網膜可塑(retainal plasticity)を誘発し、光受容体の異形成(dysplasia)を誘発するということを見出した。
【0011】
特に、全てのON双極細胞(光のオンセットで脱分極する双極細胞)および水平細胞がビガバトリンによる治療に従って桿光受容体と錐光受容体の両方の末端で可塑するということを見出した。さらに、桿体光受容体はその細胞本体へ向かってその末端が後退するということも見出した。光受容体の後退とポストシナプスニューロンの樹状突起の成長は光受容体とポストシナプスニューロンとの間のシナプス伝達ロスに関連する。ビガバトリン治療中の光受容体からポストシナプスニューロンへのシナプス伝達欠陥は本発明が示した光受容体シナプスでの網膜ニューロンの可塑で証明された。光受容体はグルタミン酸作動性ニューロンであるので、本発明者によって得られた結果はビガバトリンによって引き起こされるグルタメートおよびグルタミン濃度の低下と完全に一致している。このグルタメート濃度の低下は異所性シナプスの形成に大きく関与している可能性があり、追加の機構も光受容体異形成に関与している可能性がある。これらの結果は、ビガバトリン誘発性の網膜可塑はビガバトリン投与患者を暗所に入れる、すなわち(正常な状態よりかなり低いが)十分なグルタメート放出率が維持される状態に置くことによって予防されるという、本発明者のさらなる発見によって完全に実証された。事実、グルタメート放出は暗順応状態で最大であり、光強度の一次関数で減少する。
【0012】
ビガバトリンは網膜組織中の局所的グルタメート放出の局所的減少(この減少はこの抗痙攣剤物質の有害な副作用の原因の少なくとも一部である)を誘発するという本発明者の発見から、本発明者は当業者に周知のビガバトリンを含む組成物および方法に比較して副作用が少ない改良されたビガバトリンベースの抗痙攣組成物および方法を考えることができる。本発明の組成物および方法ではビガバトリンは少なくとも一種の網膜組織中のグルタメート受容体の活性化を誘発する物質と組み合わされる。本明細書ではこの物質を「グルタメート受容体活性化物質」とよぶ。
【0013】
ビガバトリンは4−アミノ−5−ヘキセン酸(hexenoic acid)の国際慣用名で、4−アミノヘキセ−5−エン酸(IUPAC命名法)ともよばれ、化学式はC611NO2であり、CASの登録アクセス番号は60643−86−9である。
【0014】
本発明の対象は、有効成分として(i)4−アミノ−5−ヘキセン酸と(ii)少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質との組合せを含む抗痙攣医薬組成物にある。
「少なくとも一種の物質」とは本明細書では「一種以上の物質」を意味する。
抗痙攣医薬組成物は痙攣性疾患の予防および治療に有効な医薬組成物から成る。痙攣性疾患はてんかん、結節硬化症(tuberous sclerosis)およびヘロインまたはコカインの薬物嗜癖症等の薬物嗜癖患者に発症する痙攣疾患を含む。
【0015】
グルタメート受容体活性化物質には局所投与または全体投与によってグルタメート受容体の活性化を引き起こす全ての物質が含まれ、例えば(i)網膜組織中のグルタメート濃度を増加させる物質、(ii)シナプス放出グルタメートの再取組みを阻害する、または、グルタメートのトランスポータ(輸送体)を介在したグルタメートの放出を容易にする物質、(iii)グルタメート受容体を直接活性化する物質、例えばグルタメート受容体のアゴニスト、(iv)シナプス小胞へのグルタメートの取込みを増大させる、または、グルタメートのシナプス小胞の放出を容易にしてグルタメートの放出を増大させる物質がある。
【0016】
グルタメート濃度の増加を誘発する物質には、網膜組織中に含まれる局所シナプス間局所領域、特に光受容体細胞とポストシナプスニューロンとの間の網膜組織の局所領域に通常存在するグルタメートの量を増加させる物質が含まれる。
【0017】
従って、グルタメート受容体活性化物質には下記(i)〜(iv)が含まれる:(i)グルタメート、化学反応または酵素反応によってグルタメートにトランスフォームされた物質、グルタメートを含む物質、グルタメートを生成する物質または化学反応または酵素反応後にグルタメートを含有する化合物、(ii)グルタメートの再取り組みを阻害する、または、グルタメート放出細胞によるグルタメートの輸送体を介在した放出を助ける物質、(iii)グルタメート活性を模倣または強めてグルタメート受容体を活性化する物質、(iv)グルタメート小胞の放出を容易にする物質。本発明の抗痙攣医薬組成物ではビガバトリンを任意のグルタメート受容体活性化物質と組み合わせる。特に、本発明の抗痙攣医薬組成物ではビガバトリンをグルタメート受容体活性化能を発揮することが公知の物質の任意のものと組み合わせる。
【0018】
本発明の抗痙攣医薬組成物の一つの実施例では、グルタメート受容体活性化物質は(i)グルタメート、化学反応または酵素反応によってグルタメートにトランスフォームされた物質、グルタメートを含む物質およびグルタメートを生成する物質または化学反応または酵素反応後にグルタメートを含有する化合物、(ii)光受容体グルタメート輸送体を阻害するか、輸送体を介したグルタメートの放出を刺激してグルタメートの放出細胞によるグルタメートの再取組みを阻害する物質、(iii)グルタメート活性を模倣または増大させてグルタメート受容体を活性化する物質、(iv)グルタメート小胞の放出を増大させる物質から成る群の中から選択される。
【0019】
本発明の抗痙攣医薬組成物は、ビガバトリンが網膜組織に与える有害な作用をさらに減らすために、一種以上のグルタメート受容体活性化物質を含むことができる。すなわち、抗痙攣医薬組成物の一つの実施例では、本発明の組成物はビガバトリンに加えて、2、3、4、5、6、7、8、9または10つの異なるグルタメート受容体活性化物質、特に上記リストに示した種々のクラスに属するグルタメート受容体活性化物質の複数を含むことができる。
【0020】
本発明の抗痙攣医薬組成物中に含まれる一種以上のグルタメート受容体活性化物質の各々はグルタメート受容体活性化物質の特定クラスに属する。このクラスはそれと組み合わされる少なくとも一種の他のグルタメート受容体活性化物質が属するクラスとは異なっていてもよい。
本発明の抗痙攣医薬組成物の大部分の実施例では1、2または3の異なるグルタメート受容体活性化物質をビガバトリンと組み合わせて含む。各グルタメート受容体活性化物質は上記リスト中の特定クラスのグルタメート受容体活性化物質に属し、このクラスはそれと組み合わされる他のグルタメート受容体活性化物質が属するクラスとは異なっていてもよい。
【0021】
既に述べたように、本発明の抗痙攣医薬組成物の一つの実施例では、グルタメート受容体活性化物質としてグルタメート、化学反応または酵素反応によってグルタメートにトランスフォームされた物質、グルタメートを含む物質およびグルタメートを生成する物質または化学反応または酵素反応後にグルタメートを含有する化合物から成る第1クラスの物質を含む。このグルタメート受容体活性化物質にはグルタメート自体と、グルタメート誘導体、グルタメート代謝産物、グルタメート生成物質およびグルタメート類似体およびこれらの混合物が含まれる。
【0022】
この第1クラスのグルタメート受容体活性化物質にはグルタメートおよびグルタミン、これらの塩およびこれらの混合物が含まれる。
【0023】
この第1クラスの物質にはさらに、α−ケトグルタル酸(AKG)およびAKG含有物質、例えばオルニチン−AKG、アルギニン−AKG、グルタミン−AKG、グルタメート−AKGおよびロイシン−AKGとAKGの塩、例えばAKGとアミノ酸との塩が含まれる。この第1クラスの物質にはさらに、AKGの一金属塩、AKGの二金属塩、グルタメートの一金属塩およびグルタメートの二金属塩から成る群の中から選択されるα−ケトグルタル酸(AKG)の塩が含まれる。これらの例としてはAKGのカルシウムまたはナトリウム塩およびグルタメートのカルシウムまたはナトリウム塩が挙げられる。
【0024】
この第1クラスの物質にはさらに、グルタメート含有ジペプチドおよびグルタメート含有オリゴペプチド、例えばL−アラニル−L−グルタメートおよびL−グリシル−L−グルタメートが含まれる。この第1クラスの物質には、グルタメートポリマーも含まれる。
【0025】
第2クラスのグルタメート受容体活性化物質にはグルタメート再取組みの阻害剤またはグルタメートの輸送体を介在した放出の刺激剤が含まれる。このグルタメート再取込みの阻害剤には当業者に公知の阻害剤の任意のものが含まれ、その例としてはグルタメート輸送体の阻害剤、例えばトレオ−3ヒドロキシ−DL−アスパラギン酸(THA)、(2S)−トランス−ピロリジン−2,4−ジカルボン酸(PDC)、アミノカプロン酸および(2S,3S)−3−{3−[4−(トリフルオロメチル)ベンゾイルアミノ]ベンジルオキシ}アスパルテートまたはシスチン−グルタメート抗輸送体(アンチポルター)の阻害剤、例えば(S)−4−カルボキシフェニルグリシンがある。
【0026】
第3クラスのグルタメート受容体活性化物質にはグルタメート受容体アゴニストすなわち網膜組織中でグルタメート受容体活性を増加させる物質が含まれる。グルタメート受容体アゴニストは間接型(アロステリック)グルタメート受容体アゴニスト、直接型グルタメート受容体アゴニストおよび場合によって部分グルタメート受容体アゴニストから成る群の中から選択することができる。
【0027】
本明細書で「グルタメート受容体」とはイオンチャンネル型受容体(iGluR)と代謝型受容体(mGluR)の両方を含む各種のグルタメート受容体を意味する。イオンチャンネル型受容体にはN−メチル−D−アスパルギン酸(NMDA)型、カイニン酸(KA)型およびα−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)型が含まれる。最後の2つの型の受容体は現在では非NMDA型グルタメート受容体ともよばれている。
【0028】
グルタメート受容体アゴニストから成る第3クラスのグルタメート受容体活性化物質には下記のものが含まれる:LY354740(mGluR2/3アゴニストから成るグルタメートの配座的に制限された類似体)、LY544344(LY354740のプロドラッグ)、L−HCSA、L−ホモシステインスルフィン酸、L−HCA、L−ホモシステイン酸、L−CSA、L−システインスルフィン酸、L−CA、L−システイン酸(全てmGluR受容体の全群でのアゴニスト)、I mGluR受容体アゴニスト群である(S)−3,5−ジヒドロキシフェニルグリシン(DHPG)、2R、II mGluRアゴニストである4R−APDC、ACPT−1および2−アミノ−4−(3−ヒドロキシ−5−メチルイソキサゾール−4−イル)酪酸(2つの群III mGluRアゴニスト)、(S)−2−(4−フルオロ−フェニル)−1−(トルエン−4−スルホニル)−ピロリジン(Ro67−7476)、ジフェニルアセチル−カルバミン酸エチルエステル(Ro01−6128)および(9H−キサンテン−9−カルボニル)−カルバミン酸ブチルエステル(Ro67−4853)(3つのmGluR1陽性アロステリック調節因子)、3,3V−ジフルオロベンズアルダジン(DFB)およびN−{4−クロロ−2−[(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロ−2Hイソインドール−2−イル)メチル]フェニル}−2−ヒドロキシベンズアミド(2つのmGluR−5陽性アロステリック調節因子)、N−(4−(2−メトキシフェノキシ)フェニル)−N−(2,2,2−トリフルオロエチルスルホニル)プリド−3−イルメチルアミン(LY487379)(mGluR2陽性アロステリック調節因子)、(_)−N−フェニル−7−(ヒドロキシイミノ)シクロプロパ[b]クロメン−1a−カルボキサミド((_)−PHCCC)(mGluR4の陽性アロステリック調節因子)、(1S、3R、4S)−1−アミノシクロペンタン−1,2,4−トリカルボン酸および2−アミノ−4−(3−ヒドロキシ−5−メチルイソキサゾール−4−イル)酪酸(mGluR4のアゴニスト)、L−(+)−2−アミノ−4−ホスホノ酪酸および2−アミノ−4−(3−ヒドロキシ−5−メチルイソキサゾール−4−イル)酪酸(2つのmGluR6アゴニスト)、(R,S)−3,4−DCPG(mGluR8受容体アゴニスト)、N−メチル−D−アスパルギン酸(NMDA受容体アゴニスト)、d−シクロセリン(NMDA受容体アゴニスト)、グリシン(NMDA受容体アゴニスト)、スペルミジン(NMDA受容体アゴニスト)、ミラセミド(NMDA受容体アゴニスト)、cis−ACPD(NMDA受容体アゴニスト)、ホモキノリン酸(NMDA受容体アゴニスト)、キスカル酸(mGluRアゴニスト)、(S)−3,5−ジヒドロキシフェニルグリシン[(S)−DHPG(mGluRアゴニスト)、(_)−2−オキサ−4−アミノビシクロ[3.1.0.]ヘキサン−4,6−ジカルボキシレート(LY379268)(mGluRアゴニスト)、(2S,1’S,2’S)−2−(カルボキシシクロプロピル)グリシン(L−CCG−I)(代謝型グルタメート受容体のアゴニスト)、α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)、ポリアミン(AMPA受容体アゴニスト)、S−(−)−5−フルオロウィラージン(AMPA受容体アゴニスト)、(RS)−ウィラージン(AMPA受容体アゴニスト)、アンパカイン(AMPA受容体アゴニスト)、カイニン酸(KA)、ドミック酸(KA受容体アゴニスト)およびSYM 2081(KA受容体アゴニスト)。
【0029】
別の非NMDA型グルタメート受容体アゴニストダイシハーバインを、第3クラスのグルタメート受容体活性化物質として用いることもでき、この物質は下記文献に開示されている。
【特許文献1】米国特許第6,147,230号明細書
【0030】
第3クラスのグルタメート受容体活性化物質として下記のその他のNMDA受容体アゴニストを用いることもできる:例えば(2S,1’R,2’R,3’R)−2−(2,3−ジカルボキシシクロプロピル)−グリシン(DCG−I)および(2S,1’S,2’S,3’S)−2−(2,3−ジカルボキシシクロプロピル)グリシン(DCG−II)(これらの物質は下記文献2に開示されている)および特許文献3に開示の(2S,3R,4S)−カルボキシシクロプロピルグリシン。
【特許文献2】米国特許第5,334,757号明細書
【特許文献3】米国特許第4,959,493号明細書
【0031】
第4クラスのグルタメート受容体活性化物質にはシナプス放出の刺激剤、すなわち、光受容体でグルタメート放出を増加させる物質が含まれる。グルタメート放出の刺激剤には当業者に公知の刺激剤の任意のものが含まれる。グルタメート放出刺激剤は(a)カルシウムチャネルを調節するシナプス前受容体のアゴニストまたはアンタゴニスト、(b)グルタメートの小胞放出誘発化合物および(c)光受容体の脱分極を誘発する分子(すなわち、光受容体脱分極化合物)の中から選択できる。
【0032】
第4クラスのグルタメート受容体活性化物質にはグルタメート放出刺激剤が含まれ、その例としては(R,S)−α−メチルセリン−O−ホスフェート(MSOP)、III mGluR受容体群のアンタゴニスト、テオフィリン(アミノフィリン)(アデノシン受容体アンタゴニスト)、(S)PHPNECA、LUF5835およびLUF5845(アデノシン受容体A2アンタゴニスト)、Rp−cAMPS(プロテインキナーゼA(PKA)の阻害剤)、シルデナフィルおよびバルデナフィル(ホジエステラーゼ6(PDE6)の2つの阻害剤)がある。
【0033】
本発明の抗痙攣医薬組成物の一つの実施例は抗虚血効果を有する少なくとも一種の物質をさらに含み、この物質には虚血、特に網膜虚血に対して効果を発揮することが知られる物質の任意のものが含まれる。
【0034】
「網膜虚血」とは一般に網膜組織の低酸素状態に起因する任意の疾患、特に血液、酸素、その他の栄養素の網膜組織への到達率を下げ、結果として網膜組織の組織崩壊および網膜細胞死に至る危険性のある任意の疾患を意味する。網膜虚血には網膜組織の低酸素状態、特に網膜または網膜内への動脈血流または静脈血流の減少によって引き起こされるものと、グルコースおよび酸素を光受容体に輸送する際の網膜色素上皮の機能障害によって生じるものが含まれる。
【0035】
本発明の抗痙攣医薬組成物でのこれらの実施例での抗虚血効果を有する物質は抗酸化物質、遊離基捕捉物質、スタチン、ACE阻害剤、AT−1アンタゴニスト、カルシウムチャネル阻害剤、ナトリウムチャネルブロッカー剤、カリウムチャネル活性化剤、β−アドレナリン遮断作用、麻酔物質、抗痙攣剤、ホルモン、血管拡張剤、α受容体アンタゴニスト、キサンチンオキシダーゼ阻害剤、シクロオキシゲナーゼ阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、免疫抑制剤およびミトコンドリアATP感受性カリウム開口固定剤から成る群の中から選択するのが好ましい。
【0036】
従って、本発明の抗痙攣医薬組成物の実施例では、ビガバトリンおよび一種以上のグルタメート受容体活性化物質に加えて、少なくとも一種の抗虚血物質、例えば2、3、4、5、6、7、8、9または10つの異なる抗虚血物質、特に上記リストの各種抗虚血物質のクラスに属するものをさらに含む。
【0037】
本発明のこれらの実施例の抗痙攣医薬組成物中に含まれる一種以上の抗虚血物質はそれぞれ抗虚血物質の特定のクラスに属する。このクラスはそれと組み合わされる少なくとも一種の他の抗虚血物質が属するクラスとは異なっていてもよい。
【0038】
本発明の抗痙攣医薬組成物の大部分の実施例の組成物は、ビガバトリンおよび少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質と組み合わせて、1、2または3つの異なる抗虚血物質を含み、各抗虚血物質は上記リストの中の特定クラスの抗虚血物質に属し、このクラスはそれと組み合わされる他の抗虚血物質が属するクラスとは異なっていてもよい。
【0039】
本発明の実施例では、上記抗虚血物質は抗酸化物質、例えばグルタチオン、N−アセチルシステイン、α−リポ酸、レスベラトロール(CAS登録番号501−36−0)、ラメルテオン((S)−N−[2−(1,6,7,8−テトラヒドロ−2H−インデノ−[5,4−b]フラン−8−イル)エチル]プロピオンアミド、CAS登録番号196597−26−9)、レチノイド化合物、抗酸化ビタミン、コエンザイムQ−10、βカロテン、尿酸、L−2−オキソチアゾリジン−4−カルボン酸およびメラトニンから成る群の中から選択される抗酸化物質にすることができる。
【0040】
抗酸化ビタミンはα−トコフェノール、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKおよびこれらの塩から成る群の中から選択できる。他の抗酸化物質はフラボノイド、ポリフェノール、フィトエストロゲンまたはイチョウからの抽出物から成る群の中から選択される抗酸化化合物にすることができる。さらに別の抗酸化物質はSOD類似物質およびカタラーゼ類似物質から成る群の中から選択される抗酸化化合物にすることができる。さらに別の抗酸化物質はチリラザド、エブセレン、ガデラボン(ederavone)およびメラトニンから成る群の中から選択される遊離基捕捉物質で構成することができる。
【0041】
医薬組成物とその製造方法
本発明の医薬組成物は一般にビガバトリンおよび少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質の組合せと、さらに一種以上の生理学的に許容可能な賦形剤とを含む。
本発明医薬組成物の実施例では、本発明組成物は既に述べた一種以上の抗虚血物質をさらに含む。
【0042】
抗痙攣医薬組成物中に含まれる「治療上有効量」はビガバトリンと、少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質と、必要に応じて用いられる少なくとも一種の抗虚血物質である。治療上有効量とは所望の抗痙攣効果を発揮すると同時に、有害な副作用を全く誘発しないか、グルタメート受容体活性化物質も抗虚血物質も全く含まないビガバトリンを含む医薬組成物によって誘発される有害な副作用に比較して、少ない副作用を誘発するのに十分な有効成分の組合せ量である。
【0043】
一般的には、「治療上有効量」または「有効量」または「治療上有効」とは所定の条件および投与計画で治療効果が得られる量を意味する。これは必要な添加剤および希釈剤すなわちキャリアまたは投与媒体と組み合わせて所望の治療効果が得られるように計算された有効物質の所定量である。さらに、ホストの活性、機能および応答の臨床的に重要な欠陥を減らし、好ましくは予防するのに十分な量を意味する。あるいは、治療上有効量はホスト中で臨床的に有意な条件の改善をもたらすのに十分な量である。化合物の量はその比活性に応じて変えられることは当業者には理解できよう。適切な投与量は必要な希釈剤すなわちキャリアまたは添加剤と組み合わせて所望の治療効果をもたらすように計算された所定量の活性組成物を含むことができる。
【0044】
本発明の別の対象は、(i)ビガバトリンと少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質との組合せまたは(ii)上記定義の医薬組成物を、治療を必要とする患者に投与する段階を含む痙攣性疾患の予防または治療方法にある。
この治療を必要とする患者には痙攣性疾患、特にてんかんに罹った成人または小児の患者が含まれる。
【0045】
本発明の別の対象は、(i)4−アミノ−5−ヘキセン酸と(ii)少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質との組合せを治療を必要とする患者に投与する段階を含む痙攣性疾患の予防または治療方法にある。
本発明の実施例の上記方法は、(i)4−アミノ−5−ヘキセン酸と、(ii)少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質と、(iii)少なくとも一種の抗虚血物質との組合せを治療を必要とする患者に投与する段階を含む。
【0046】
本発明の一つの実施例の方法は、上記医薬組成物を治療を必要とする患者に投与する段階を含む。
「生理学的に許容可能な賦形剤またはキャリア」とは、全身または局所投与で安全に用いることができる固体または液体の充填剤、希釈剤または物質を意味する。医薬上許容可能なキャリアは、投与経路に応じて、固体または液体の充填剤、希釈剤、ヒドロトロープ、界面活性剤および封入物質として当業者に周知である。
【0047】
本発明の組成物に含むことができる全身投与用の医薬上許容可能なキャリアには糖、デンプン、セルロース、植物油、緩衝液、ポリオールおよびアルギン酸が含まれる。特定の医薬上許容可能なキャリアは下記文献に記載されており、これらの文献は全て本明細書の一部を成す。
【特許文献4】米国特許第4,401,663号(Buckwalter、1983年8月30日公開)
【特許文献5】欧州特許出願第089710号(LaHann、1983年9月28日公開)
【特許文献6】欧州特許出願第0068592号(Buckwalter、1983年1月5日公開)
【0048】
非経口投与に好ましいキャリアにはプロピレングリコール、ピロリドン、オレイン酸エチル、水性エタノールおよびこれらの組合せが含まれる。
代表的なキャリアには、アカシア、寒天、アルギン酸塩、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラゲニン、粉末セルロース、グアーガム、コレステロール、ゼラチン、ゴム寒天、アラビアゴム、カラヤゴム、ガティゴム、ローカストビーンガム、オクトキシノール9、オレイルアルコール、ペクチン、ポリ(アクリル酸)およびその同族体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリ(酸化エチレン)、ポリビニルピロリドン、グリコールモノステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、キサンタンゴム、トラガカント、ソルビタンエステル、ステアリルアルコール、デンプンおよび化工デンプンが含まれる。適切な添加範囲は約0.5〜約1%である。
【0049】
本発明の医薬組成物を配合するには、当業者は欧州薬局方または米国薬局方の最終版を参照するのが有利である。また、当業者は欧州薬局方の第5版「2005年」または米国薬局方のUSP28−NF23版を参照するのが好ましい。
本発明の医薬組成物の各用量に含まれる有効成分の組合せの重量は、医療上有効な化合物の分子量および痙攣性疾患を阻害または遮断するのに有効な重量に依存する。痙攣性疾患の予防または治療に必要なビガバトリンの有効量は当業者に周知である。
【0050】
本発明の医薬組成物の投与量における、ビガバトリンと組み合わされるグルタメート受容体活性化物質の適量を決定するために、当業者はその中に含まれる抗虚血物質に関する技術分野で周知または決定された有効量を参考にするのが有利である。
本発明の実施例では、本発明の医薬組成物の投与量における、ビガバトリンおよびグルタメート受容体活性化物質と組み合わされる抗虚血物質の適量に関して、当業者はその中に含まれる抗虚血物質に関する技術分野で周知または決定された有効量を参考とするのが有利である。
以下、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0051】
A.実施例の材料および方法
A.1.動物の治療
BALB/cマウス(16匹は治療用マウス、10匹は対照用マウス)をJanvier(フランス国、Le Genest-St-Isle)から生後6週で購入した。VGBを0.9%NaClに100mg/mlで溶かしたものをてんかんの動物治療に記載の通り、250mg/kgの最終濃度で、30日間毎日腹腔内注射した(非特許文献1)。この投与量は成人患者に処方される量(1〜6mg/kg)、小児(100mg/kg)または乳児(250mg/kg)よりもわずかに高い(非特許文献2)。
【非特許文献1】Andre V, Ferrandon A, Marescaux C, Nehlig A.ビガバトリンは海馬損傷を予防するが、側頭葉てんかんのリチウムピロカルピンモデル中では抗てんかん発作性ではない。てんかんRes.2001;47:99-117
【非特許文献2】Bialer M,Johannessen SI,Kupferberg HJ達、新規な抗てんかん薬に関する経過報告書、第5回エイラト会議の概要(EILAT V)てんかんRes.2001;43:11-58
【0052】
A.2.組織学
リン酸緩衝食塩水(PBS)(0.01M、pH7.4)中で調製した4%(wt/vol)パラホルムアルデヒド中にアイカップを4℃で一晩固定した。4℃で10%、20%および30%のショ糖を順次含むPBS中で凍結保護した後、組織をOCT中に包埋した(Labonord,Vielleneuve d'Ascq,France)。垂直切片(8〜10μm厚さ)を0.1%トリトンX−100(Sigma,St.Louis,MO)を含むPBS中で5分間透析処理し、洗浄し、1%ウシ血清アルブミン(Eurobio, Les-Ulis, France)、0.1%Tween20(Sigma)および0.1%アジ化ナトリウム(Merck,Fontenay-Sous-Bois,France)を含むPBS中で室温で2時間インキュベートした。この溶液に添加された一次抗体を室温で2時間インキュベートした。ポリクローナル抗体はプロテインキナーゼCα(PKCa)(1:2000、シグマ)、VGluT1(1:2000、Chemicon)、Goa(K−20;1:100、サンタ・クルス)、カルビンジンD−28K(1:500、Chemicon)、マウス錐体アレスチン/Luminaire junior(LUMIj)(1:20,000,27)に対する抗体にした。モノクローナル抗体はGoa(1:2000、Chemicon)、バスーン(1:100、StressGen)およびカルビンジンD−28K(1:500、Sigma)に対する抗体にした。洗浄後、切片をAlexa TM594またはAlexa TM488(1:500、分子プローブ、Eugene、OR)にコンジュゲートされた二次抗体、ヤギ抗ウサギlgGまたはウサギ抗マウスlgGで2時間インキュベートした。最後のインキュベート溶液に色素、ジアミドジフェニル−インドール(DAPI)を添加した。切片を洗浄し、スルオルサブ(Fluorsave)試薬(Calbiochem,San Diege,CA)を付け、ロッパー(Ropper)科学カメラ(Photometrics cool SNAP TM FX)を備えたライカ顕微鏡(LEICA DM 5000B)で観察した。
【0053】
B.実施例の結果
実施例1
ビガバトリン投与マウスの網膜変化
ラットの主要な網膜変化は、網膜構築組織の崩壊、メジャーなグリア反応、錐体損傷および光受容体アポトーシスであった。先ず最初に、VGB投与マウスで以前に認められたこれらの網膜変化を調べた。VGB投与アルビノマウスではかなり組織崩壊した外核層(ONL)を有する領域も認められたが、全てのマウスで認められたわけではない(投与マウス16匹中5匹)。この結果から、VGB投与マウスおよびVGB投与ラットにおいて光受容体層は組織崩壊する可能性があることがわかる。
【0054】
錐体光受容体を調べるために、これらの細胞を特異的マウス錐体アレスチン抗体を用いて免疫標識した(非特許文献3)。この結果から、錐体外節およびその末端が錐体アレスチン抗体で強度に標識化することがわかる。VGB投与マウスで錐体外節は消失したが、その末端は強く染色されたままであり、いくつかの細胞体はポジティブになった。これらの観察から、投与ラットと同様に、VGB投与マウスにおいて錐体損傷が存在することがわかった。
【非特許文献3】Zhu X,Li A, Brown B達、マウス錐体アレスチン発現パターン:錐体光受容体における光誘発トランスロケーション、Mol Vis.2002;8:462-471
【0055】
対照アルビノマウスの網膜切片をGFAPに対して免疫標識化すると、グリアMuller細胞は強く染色し、このGFAP染色はVGB投与によって増大しなかった。これらの観察から、網膜損傷はVGB投与ラットにおける網膜損傷と類似性はあるが、網膜グリオーシスの低下とは類似性がないことがわかった。
【0056】
内網膜の反応を調べるために、ON双極細胞をプロテインGoaに対する抗体で染色した。対照動物ではON双極細胞は外網状層(OPL)に伸びる極めて短い樹状突起を有する細胞体を示した。逆に、VGB投与動物ではON双極細胞はその樹状突起をONL深くまで伸ばした。
【0057】
桿体と錐体の両方のON双極細胞がONL内に樹状突起を伸ばすかどうかを調べるために、網膜切片を、ON桿体双極細胞を選択的に同定するプロテインキナーゼCa(PKCa)に対する抗体で二重免疫標識化した。この結果から、桿体ON双極細胞がONLまで伸びる樹状突起を示したことがわかる。PKCaおよびGoa二重免疫標識化網膜切片を慎重に調べると、外核層に伸びたいくつかのGoa陽性樹状突起はPKCa陰性であることがわかった。これによって錐体ON双極細胞もその樹状突起をONLまで伸ばすことがわかった。これらの観察から、桿体と錐体の両方のON双極細胞がVGB投与後に可塑したことが証明された。
【0058】
水平細胞が同じ可塑化パターンをたどるかどうかを調査するために、水平細胞をカルビンジンに対する抗体で染色した。対照網膜では標識化によって水平細胞はその樹状突起をOPLおよびいくつかのアマクリン細胞体中に分岐することがわかった。VGB投与動物では水平細胞はその樹状突起をON双極細胞のようにONL深くに伸ばした。DAPI染色光受容体核で得られた結果から、このニューロン可塑化はONLの組織崩壊がない領域で観察されることがわかった。事実、ポストシナプスニューロンの樹状突起の成長は完全網膜切片に沿って存在した。これは、これらの可塑化の特徴がONL組織崩壊前のポストシナプスニューロン中で生じたことを示唆している。
【0059】
双極細胞および水平細胞は通常、その樹状突起先端部をシナプスに陥入する光受容体で結合させるので、樹状突起の出芽中も樹状突起先端部が結合を維持するかどうかを二重標識化によって調べた。Goa陽性双極細胞樹状突起はカルビンジン陽性水平細胞樹状突起と結合することが多いが、少数のGoa陽性樹状突起がカルビンジン陽性プロセスから単離しているように見えた。これらの観察から、水平細胞およびON双極細胞中での樹状突起の成長はVGB投与動物において独立的に起こり得ることがわかった。
【0060】
ポストシナプスニューロンの出芽が光受容体シナプス末端の変化に関係するかどうかを決定するために、バスーンに対する抗体(光受容体シナプスリボンのプロテイン)とVGLUT1に対する抗体(光受容体シナプス小胞のプロテイン)とを用いた。対照動物の網膜切片上では、バスーン免疫標識化によってOPLに限定された断続分布が見られた。
【0061】
逆に、VGB投与動物では、ONL深くに浸透した断続標識化が観察された。同様に、VGLUT1免疫標識化は対照動物ではOPLに限定されたが、VGB投与動物ではONL深くまで観察された。これらの結果から、光受容体末端は光受容体核の近くのONL内に後退することがわかった。逆に、錐体光受容体末端はかなり組織崩壊した領域においても、OPL中に残るように見えた。
【0062】
ポストシナプスニューロンの樹状突起成長を有する領域において、錐体光受容体末端の後退が存在しないことを確認するために、網膜切片を錐体アレスチン抗体で免疫標識化し、ON双極細胞をGoa抗体で同定した。VGB投与マウスのOPL構造は対照動物のような直線状ではなく、錐体末端はOPL中に残るが、ON双極細胞のGoa陽性樹状突起は既にONLの非常に深い所まで検出された。これらの観察から、錐体だけでなく、桿体の光受容体末端もその細胞体へ向かって後退することが示唆された。
【0063】
桿体光受容体末端の後退によって、ポストシナプスニューロンとの接触が維持されるかどうかを調べるために、光受容体シナプス末端をVGLUT1抗体で免疫標識化し、ON双極細胞をGoa抗体で同定した。この二重免疫標識化によって、桿体光受容体末端は出芽する双極細胞樹状突起と直面することが多いが、少数のVGLUT1陽性光受容体末端は成長する双極細胞樹状突起に結合しないことがわかった。さらに桿体光受容体シナプスリボンが後退してそのポストシナプスニューロンから離れたかどうかを調べるために、光受容体シナプスリボンをバスーン抗体で免疫標識化し、一方で、桿体ON双極細胞をPKCa抗体で染色した。この場合も先と同様に、大部分のバスーン陽性シナプスリボンは出芽する桿体ON双極細胞樹状突起と直面することが多いが、少数のシナプスリボンは桿体双極細胞樹状突起に接触しないことがわかった。これらの観察から、光受容体の後退およびポストシナプスニューロンの樹状突起成長は光受容体とそのポストシナプスニューロンとの間のシナプス伝達の損失と関連することがわかった。
【0064】
実施例2
ビガバトリンで誘発される網膜毒性の光依存性
アルビノラットのみがVGB誘発網膜毒性に敏感である(非特許文献4)。従って、アルビノ動物(非特許文献5)の網膜は有色動物の網膜より1対数単位以上高い輝度を受けるので、VGB網膜損傷が光に起因するかどうかを調べる試験をした。VBG投与動物を治療中に暗室に置くと、対照動物と同様に、双極細胞がONL中で樹状突起を成長させないことがわかった。さらに、光受容体はその末端をONL中に後退させなかった。暗所に置かれたこれらのVGB投与動物では、他の網膜損傷、例えばONL組織崩壊も認められなかった。一方、12時間の明/暗サイクル下の動物では、双極細胞樹状突起の成長および光受容体末端の後退が見られた。これらの結果から、VGB治療中に暗所に動物を置くことによって網膜毒性を予防できることがわかった。
【非特許文献4】Butler WH,Ford GP,Newberne JW.ビガバトリンがSD系およびLister-Hoodedラットの中枢神経系および網膜に与える影響の研究、毒物病理学、1987年15:143-148
【非特許文献5】Lyubarsky Al,Daniel LL,Pugh EN,Jr.インサイツのロドプシン漂白によるマウスの眼のカンデラから光異化性まで、および、マウスERGの主成分の明所依存性、Vision Res.2004;44:3235-3251
【0065】
上記実施例の結果を要約すると、ポストシナプスニューロンのビガバトリン誘発可塑化は光受容体シナプス伝達中のビガバトリン誘発欠損と一致することがわかった。従って、VGB投与動物での光受容体に対するポストシナプスニューロン中での可塑化は光受容体シナプス伝達が治療によって損なわれたことを示唆する。このVGB誘発光受容体機能障害は網膜剥離およびバスーンノックアウトマウスの両方で観察される桿体末端の後退によってさらに示される。これらのマウスではONL中で異所性シナプスも形成される。光受容体機能障害はその末端は後退しているようには見えなかったが、錐体を考慮すると、その外節の損失によって裏付けられる。従って、光受容体シナプスでの網膜ニューロンの可塑化は、光受容体からのシナプス伝達における欠損を証明している。光受容体はグルタミン酸作動性ニューロンから成る。特に、光受容体はグルタミン酸作動性ニューロンであり、暗所でグルタメートを連続放出する。この放出は光刺激によって変調し、シナプス間隙中のグルタメート濃度は光強度の一次関数である。本発明の実施例で示された結果は、光受容体シナプス伝達に見られる欠損がビガバトリン投与動物における網膜のグルタメートおよびグルタミン濃度の低下に関係することを強く示唆している。ビガバトリン投与動物におけるこのグルタメート減少はONL中の異所性シナプスの形成を説明するのに役立つ。従って、このグルタメート濃度の減少は、異所性シナプスの形成に大きく関与する可能性があるが、さらなる機構が光受容体異形成に関与する可能性もある。動物を暗所に置いてこの網膜可塑を予防することはグルタメートを減らすこの重要性と一致する。グルタメート放出率は正常な状態では暗所で最大である。従って、網膜可塑が光受容体末端での不十分なグルタメート放出によって生じる場合には、VGB治療中に動物を暗所に置くことによって正常な状態よりはるかに低いが十分なグルタメートの放出率を維持できる。これらの観察から、網膜中のグルタメート濃度を局所的に上げることによってVGB網膜毒性は抑えることができるということが導かれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として(i)4−アミノ−5−ヘキセン酸と(ii)少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質との組合せを含む抗痙攣医薬組成物。
【請求項2】
少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質がグルタメート、グルタメート誘導体、グルタメート代謝産物およびグルタメート類似体から成る群の中から選択される請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質がα−ケトグルタル酸(AKG)、オルニチン−AKG、アルギニン−AKG、グルタミン−AKG、グルタメート−AKG、ロイシン−AKGおよびAKGとアミノ酸との塩から成る群の中から選択される請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質がAKGの一金属塩、AKGの二金属塩、グルタメートの一金属塩およびグルタメートの二金属塩から成る群の中から選択されるα−ケトグルタル酸(AKG)の塩から成る請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質がグルタメートジペプチドおよびグルタメートオリゴペプチドから成る群の中から選択される請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質がグルタメート再取組み阻害剤すなわちグルタメートのトランスポータを介在したグルタメートの放出を容易にする阻害剤から成る請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質がグルタメート受容体アゴニストから成る請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質がグルタメートのシナプス小胞の放出を増大させる物質から成る請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
抗虚血効果を有する少なくとも一種の物質をさらに含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
(i)4−アミノ−5−ヘキセン酸と(ii)少なくとも一種のグルタメート受容体活性化物質との組合せを含む組成物を治療を必要とする患者に投与する段階を含む患者の痙攣性疾患の予防または治療方法。
【請求項11】
請求項2〜9のいずれか一項に記載の医薬組成物を治療を必要とする患者に投与する段階を含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記痙攣性疾患がてんかんである請求項10に記載の方法。

【公表番号】特表2010−510292(P2010−510292A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537640(P2009−537640)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際出願番号】PCT/EP2007/062694
【国際公開番号】WO2008/062040
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(599176506)アンセルム(アンスチチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル) (23)
【Fターム(参考)】