説明

抗真菌剤

【課題】安全性や選択性に優れ、副作用のない抗真菌剤であって、耐性菌の出現が起きにくい抗真菌剤の提供。
【解決手段】N末端領域にGly-X-(Tyr/Trp)-Gly-X-X-Gly-Glyモチーフを有し、C末端領域に(Leu/Ile/Val)-Asp-(Ser/Ala)-Ile-(Gly/Ser)モチーフを有するマンノース結合特異性を有するレクチンであって、抗真菌活性を有するレクチンを有効成分として含有することを特徴とする抗真菌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗真菌活性を有するマンノース特異的レクチンを有効成分として含有する抗真菌剤に関するものであり、ヒト及び動物の真菌感染症の予防や治療用の医薬品の他、食品又は化粧品などの防カビ剤や農園芸用の抗真菌剤、防カビ剤等に広く利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
真菌は広く自然界に分布しており、その種類も数万種あることが知られている。真菌による感染症は体のどの部分が犯されるかによって患部が皮膚真皮に及ばない表在性真菌症と、患部が真皮以降の皮下組織や脳・肺・心臓などの臓器まで及ぶ深在性真菌症とに分類される。また、深在性真菌症は皮下組織感染型と全身感染型とに分けられ、さらに全身感染型は原発感染と日和見感染に大別されている。浅在性皮膚真菌症は、真菌の感染が角質・表皮といった皮膚の表層に留まっているものであり、水虫・タムシ・インキンなどの白癬、皮膚カンジダ症、癜風、マラセチア毛包炎、慢性粘膜皮膚カンジダ症、口腔カンジダ症、外陰カンジダ症等が大部分で皮膚真菌症の90%を占める。一方、深在性皮膚真菌症は、肺アスペルギルス症、スポロトリコーシス、クロモミコーシス、皮膚クリプトコッカス症、深在性白癬などがある。特に近年、抗癌剤や免疫抑制剤、ステロイド剤等の多用やエイズ感染等による生体防御能の低下からカンジダ症、アスペルギルス症、クリプトコッカス症等の真菌感染による日和見感染症が一つの医療問題になっている。
【0003】
これらの真菌感染症の治療薬としては、現在のところ、細胞膜エロゴステロールの合成阻害するトリアゾール系、イミダゾール系、ベンジルアミン系、真菌細胞内のスクアレンエポキシダーゼを阻害してスクアレン蓄積とエロゴステロール合成を阻害するアリルアミン系やチオカルバメート系、細胞膜エロゴステロールの合成阻害を2経路で阻害し、細胞膜の構造と機能を傷害するモルホリン系、皮膚、毛髪、爪のケラチン生成細胞内に移行し、糸状菌の深部への進入を防止する抗真菌抗生物質、真菌膜の透過性を変化させ真菌細胞内のイオンなどをリークするポリエンマクロライド系、真菌DNAと蛋白合成を阻害するピリミジン誘導体等に分類されているが、真菌は人体と同じ真核生物であるため、菌類の細胞だけに損傷を与えて人体組織に害の少ない薬物は極めて限られたものになる。アゾール系の薬品であるイトリゾールカプセルは内服液であり、アスペルギルス症、白癬、カンジダ症、癬風、マラセチア毛包炎などの表在性及び深在性の皮膚真菌症に効果のある治療薬であるが、肝障害、黄疸、急性心不全などの重大な副作用が報告されている。またアリルアミン系のラミシール錠はクリーム剤型の薬品であり、白癬、カンジダ症、癬風に効果が期待できるが、無顆粒球症、血小板減少症、汎血球減少症、皮膚粘膜眼症候群などの重大な副作用が起こりうる。更に、抗生物質のグリセオフルビン製剤(グリソビンFP等)は内服液として使用して白癬の治療薬として効果があるが、皮膚粘膜眼症候群、SLE様症状、末梢神経炎などの副作用が起こりうることが報告されている。そのため、原核生物である細菌に対する感染症の場合が、細菌のみに大きな損傷を与えられる抗生物質が多いことと比較して、真菌に対する副作用の低い薬物が少ないのが現状である。(非特許文献1)。また、これら抗真菌剤に対する耐性菌の出現が大きな問題となっている。
この問題を解決するために、安全性や選択性に優れ、副作用が少なく、且つ全く新しい機序に基づく新規な抗真菌剤が強く望まれていた。
【0004】
また、真菌のうち様々な植物に寄生するものも知られており、例えば、Taphrina deformans(桜のてんぐ巣病など)、Synchytrium endobioticum(ジャガイモがんしゅ病)、Choanephora cucurbitarum(こうがい毛かび病)、Erysiphe graminis DC. f. sp. Hordei(うどんこ病)、Botrytis cinerea(灰色かび病)、Puccinia coronate(さび病)、Ustilago nuda(裸黒穂病)、Tilletia controversa(なまぐさ病)などがある。したがって、植物病防御の面でも効果的な抗真菌剤の開発が待たれており、特に食用となる農作物や観賞用植物のためには、人体に影響の少ない抗真菌剤、防カビ剤の開発が待たれている。
【非特許文献1】荒田 次郎 西岡 清 滝川 雅浩著「標準皮膚科学」
【非特許文献2】Kawasaki T. Structure and biology of mannan-binding protein, MBP, an important component of innate immunity. (1999) Biochim Biophys Acta. 1473, 186-95.
【非特許文献3】Cash HL, Whitham CV, Behrendt CL, Hooper LV. Symbiotic bacteria direct expression of an intestinal bactericidallectin. (2006) Science 313, 1126-30.
【非特許文献4】Zhou YB, Cao JB, Yang HM, Zhu H, Xu ZG, Wang KS, Zhang X, Wang ZQ, Han ZG. (2007) Biochem Biophys Res Commun 355, 679-686
【非特許文献5】Bourne Y, Zamboni V, Barre A, Peumans WJ, Van Damme EJ, Rouge P. (1999)Helianthus tuberosus lectin reveals a widespread scaffold for mannose-binding lectins. Structure. 7, 1473-82.
【非特許文献6】Meagher JL, Winter HC, Ezell P, Goldstein IJ, Stuckey JA. (2005)Crystal structure of banana lectin reveals a novel second sugar binding site. Glycobiology. 15, 1033-42.
【非特許文献7】Bourne Y, Roig-Zamboni V, Barre A, Peumans WJ, Astoul CH, Van Damme EJ, Rouge P. (2004) The crystal structure of the Calystegia sepium agglutinin reveals a novel quaternary arrangement of lectin subunits with a beta-prism fold. J Biol Chem. 279, 527-33.
【非特許文献8】Peumans WJ, Barre A, Hao Q, Rouge P, Van DammeEJM.(2000)Higher Plants Developed Structurally Different Motifs to Recognize Foreign Glycans. Trends in Glycoscience and Glycotechnology Vol.12,No.64 (2000) 83-101
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、安全性や選択性に優れ、副作用のない抗真菌剤であって、耐性菌の出現ができるだけ起きない、全く新しい機序に基づく新規な抗真菌剤を提供することにある。特に、抗癌剤や免疫抑制剤、ステロイドホルモン等の汎用やエイズ感染等による生体防御能の低下から起こる日和見感染症用の効果的な治療薬を提供することを目的とする。また、観葉植物などにも適用できる安全な農園芸用抗真菌剤、防カビ剤の提供も本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
レクチンは糖に結合するタンパク質の総称であり、ヒトからウイルスまで全ての生物に広く存在している。ヒトではこれまでに約100種類のレクチンが同定され、Cタイプ、シグレック、ガレクチン、Pタイプ、Rタイプ、Mタイプ、Lタイプ、カルネキシン、フィコリン、キチナーゼ様、Fボックス、インテレクチンなど約10種類のファミリーに分類されているが、何れも糖に結合することにより様々な機能を媒介し、発生、老化、感染、炎症、生体防御、癌化、細胞死など、様々な生命現象に深く関係している。レクチンの代表的な機能の一つとして自然免疫への関与が挙げられ、バクテリア、真菌、ウイルスなどの病原菌特有の表層糖鎖構造を非自己として認識することにより、免疫応答を誘導する。例えばCタイプレクチンファミリーに属するマンナン結合タンパク質は病原体表層に発現する外敵シグナルであるマンノースポリマーに結合することにより、レクチン経路と呼ばれる補体経路を活性化し、病原体を破壊する機能を有している(非特許文献1)。また、同じCタイプレクチンファミリーに属するHIP/PAPと呼ばれるレクチンは、小腸のパネート細胞で発現し、ペプチドグリカンに特異的に結合することによりグラム陽性菌を殺菌して、腸内フローラのバランスを制御している(非特許文献2)。このように、ヒトレクチンについてはその免疫物質としての機能が注目されてきていた。
発明者らは、これらヒト由来レクチンのうち、真菌表層に発現する糖鎖構造であるマンノースを特異的に認識するレクチンが存在していることから、これらレクチンのうちで、抗真菌活性を有するものがある可能性があると着想した。
【0007】
そこで、本発明者らは、バイオインフォマティクスを利用して、ヒトのゲノム配列を対象としたデータマイニングを実行したところ、現在知られているヒト内在性レクチンをはるかに上回る数のレクチン候補遺伝子を見出し、これらのうちにヒトでは従来レクチンとして認識されていなかった新規ファミリーが多数存在することを見出した。
本発明者らは、これらのレクチン候補遺伝子を網羅的にリコンビナント体として発現し、糖鎖アレイを用いたスクリーニング系でマンノースポリマーに結合するタンパク質を探索したところ、ヒトZymogen granule protein 16(ZG16)と呼ばれる分子がマンノース糖鎖に特異的な結合活性を有することを見出した。ZG16は従来、硫酸化グリコサミノグリカンに結合することによりチモーゲン顆粒の形成や糖タンパク質の輸送に関係していると考えられてきた分子である。
【0008】
本発明者らは、ヒトZG16についての詳細な実験により、マンノースポリマー(マンナン)で覆われている真菌類に特異的に結合することと共に、真菌類に対して細胞死を誘導することを見出した。この抗真菌活性はヒトの体温である37度を至適とし、真菌の至適pHである弱酸性付近(pH4〜5)で最も強い活性を有することが確認された。その一方で、ヒト赤血球に対しては凝集、溶血活性を示さず、ヒト細胞に対しては無害であることも確認された。これらのことは、ZG16が真菌に対して特異的に作用する優れた抗真菌剤であることを示している。
ZG16は、ヒトも含め哺乳類一般のみならず、魚類なども含め広く存在しているタンパク質であり、いずれもN末端側とC末端側の2箇所にはマンノースへの結合に関与する保存モチーフが存在する。本発明者らは、これらの保存モチーフが植物において多数同定されているマンノース特異性ジャッカリン関連レクチン(mJRLs)(非特許文献5)に特有の保存モチーフと共通していることに着目し、mJRLsの抗真菌活性を調べたところ、ZG16と同様に抗真菌活性を有することを確認した。これらの知見を得たことで、マンノース特異性レクチンを用いた抗真菌剤に係る本発明を完成させた。
本発明は人を含めた生物がもともと有する生体防御因子を抗真菌剤として利用するものであるために、真菌に対して選択的であり、糖鎖認識機能という従来とは全く異なる機序に基づく新規な抗真菌剤を提供するものである。
【0009】
すなわち本発明は以下のとおりである。
〔1〕 N末端領域にGly-X-(Tyr/Trp)-Gly-X-X-Gly-Glyモチーフを有し、C末端領域に(Leu/Ile/Val)-Asp-(Ser/Ala)-Ile-(Gly/Ser)モチーフを有するマンノース特異的レクチンであって、かつ抗真菌活性を有するレクチンを有効成分として含有することを特徴とする抗真菌剤。
〔2〕 前記レクチンが100〜200アミノ酸残基から構成されることを特徴とする、前記〔1〕に記載の抗真菌剤。
〔3〕 前記レクチンがβプリズム1構造を有していることを特徴とする、前記〔1〕又は〔2〕に記載の抗真菌剤。
〔4〕 前記レクチンがZG16(Zymogen granule protein 16)又はその部分ペプチドであることを特徴とする、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の抗真菌剤。
〔5〕 前記レクチンが、植物由来のmJRLs(マンノース特異性を有するジャッカリン関連レクチン)又はその部分ペプチドであることを特徴とする、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の抗真菌剤。
〔6〕 ヒトを含む動物の真菌類による感染症の予防又は治療に用いる、前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の抗真菌剤。
〔7〕 農園芸用抗カビ剤又は抗真菌剤として使用する前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の抗真菌剤。
〔8〕 食品、医薬品又は化粧品用の防カビ剤として使用する前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の抗真菌剤。
【発明の効果】
【0010】
ヒトや植物など多くの生物がもともと有する生体防御分子を抗真菌剤として利用することにより、副作用が少なく、無毒であり、耐性菌の出現の心配もない、安全性の高い優れた抗真菌剤を提供するものである。
特に、ヒト由来のZG16の抗真菌活性はpH依存的であり、膣などの特に真菌が繁殖し易い弱酸性の生体内環境下において高い効果を発揮し、且つ人体組織には作用しないため、とりわけ深在性真菌症の治療における効果が期待できる。また、本タンパク質分子を家畜用の抗真菌剤として使用することで、人体に無害な安全性の高い食品を提供することができる。また、農作物や観賞用植物のための抗真菌剤、防カビ剤としても安全かつ効果的に用いることができる。
レクチンは全ての生物で発現するタンパク質であり、多くの植物においても多量に含有されるタンパク質であるにもかかわらず、従来は生化学実験の試薬としてのみ使用されることがほとんどで、医療や産業への有効利用が遅れていたが、本発明により治療薬として、また食品用や農園芸用の防カビ剤などとして幅広く利用可能となったことから、産業応用が一気に加速する効果が期待できる。また植物には多量のレクチンが含有されているため、資源の有効利用にも貢献するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は抗真菌活性を有するマンノース結合特異性レクチンを有効成分として含有する新規の抗真菌剤を提供するものであり、マンノースを細胞表層に発現する酵母やカビなど様々な真菌に対して特異的に結合して、直接細胞死を誘導するものである。
【0012】
1.抗真菌活性を有するマンノース特異的レクチン
本発明における「抗真菌活性を有するマンノース特異的レクチン」とは、100〜200アミノ酸残基で構成されたマンノースに対して結合特異性を有するレクチンであり、いずれもN末端側には「Gly-X-(Tyr/Trp)-Gly-X-X-Gly-Gly」モチーフ、C末端側には「(Leu/Ile/Val)-Asp-(Ser/Ala)-Ile-(Gly/Ser)」モチーフと呼ばれるアミノ酸配列が高度に保存されている領域を有している。そして、これらの保存モチーフは、植物において多数同定されている「ジャッカリン関連レクチン(JRLs)」の2つのサブグループのうち、マンノースに結合特異性を示す「mJRLs」も有している。「ジャッカリン関連レクチン(JRLs)」とは、ジャカリン(jack fruitの種子由来ガラクトース特異的レクチン)と構造的、進化的に近縁の全てのレクチンからなるファミリーであり、ガラクトースに特異性を示す「gJRLs」とマンノースに結合特異性を示す「mJRLs」の2つのサブグループに分類される(非特許文献5、6、7)が、本発明の抗真菌剤には、真菌表層を高濃度に覆うマンノースに対して結合性を示す「mJRLs」が有効成分として利用される。「ジャッカリン関連レクチン(JRLs)」は、X線解析によれば、3つの4本鎖のβシートからなる3回軸対称の「βプリズム1構造」という特有の3次元立体構造を有している。mJRLsの一種であるHeltuba、Calsepa、BanLecにおいても、上記「βプリズム1構造」が確認されており、マンノース結合部位はβプリズム構造の先端に位置する3つの露出したループ領域にある。Heltuba結晶ではβ11−β12ループのGly-Asp-Val(135-137)及びAsp(139)と、β1−β2ループに位置するGly(18)がマンノースに結合することが確認された(非特許文献5)。本発明のN末側のモチーフは、このマンノース結合部位であるβ1−β2ループに対応している(非特許文献8)。
【0013】
上記のN末側及びC末側保存モチーフを有し、マンノースを特異的に認識する抗真菌活性レクチンであれば、どのような生物由来のレクチンであっても本発明のレクチンに包含されるが、アミノ酸数が100〜200程度である場合が好ましく、βプリズム1構造の1部又は全部を保持しているレクチンが特に好ましい。その典型的なものとして、広く哺乳動物に発現するzymogen granule 16 (ZG16)を挙げることができる。ZG16としては、ヒト(Homo sapiens)以外に、チンパンジー(Pan troglodytes)、アカゲザル(Macaca mulatta)、ハツカネズミ(Mus musculus)、ラット(Rattus norvegicus)、ウシ(Bos Taurus)、イヌ(Canis familiaris)、オオカンガルー(Monodelphis domestica)で発現しており、魚類であるミドリフグ(Tetraodon nigroviridis)、タキフグ(Tekifugu rubripes)などでも発現が確認されている(非特許文献4)。これらのアミノ酸配列及び塩基配列は、公共データベースであるGenBankとENSEMBLから入手できる。例えば、ヒトZG16(NP_689551、配列番号1)、ラットZG16(NP_599236)、マウスZG16(Q8K0C5)である。
【0014】
植物におけるジャッカリン関連レクチン(「mJRLs」)に属するマンノースに特異的に結合するジャッカリン関連タンパク質ファミリーに分類される典型的なレクチンとしては、キクイモ(Heltuba; Helianthus tuberosus)、イネ(Orysata; Oryza sativa,)、ブラックマルベリー(Morniga M; Morus nigra)、ジャックフルーツ(Artocarpin; Artocarpas integliforia)、クリ(CCA-N, CCA-C; Castanea crenata)、ヒロハヒルガオ(Calsepa; Calystegia sepium)、バナナ(BanLec; Musa acuminata)、ソテツ(CRLL-N, CRLL-C; Cycas revoluta)、セイヨウヒルガオ(Conarva; Convolvulus arvensis)、ダイオウウラボシ(PALa, PALb; Phlebodium aureum)等の植物に含まれるレクチンが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、上記条件に当てはまるマンノースに特異的に結合性を示すジャッカリン関連レクチンを使用することが可能である。これらのアミノ酸配列及び塩基配列も、公共データベースであるGenBankやPfamから入手できる。例えば、以下の通りである。Heltuba(BAB18761, AAZ30387, AAD11575, AAD11578, AAD11576)、Orysata(DQ122757)、Morniga M(AAL10685)、Artocarpin (AAY35063, AAY35064)、CCA-C(AAG40322)、CCA-N(AAG40322)、Calsepa(AAC49564)、BanLec(AAM48480)、Conarva(AAG10403)、CRLL-N(BAE95375)、CRLL-C(BAE95375)、PALa(AB099933)、PALb(AB099932)。
【0015】
また、上記レクチンは、いずれも全長である必要はなく、部分ペプチドであってもよいが、その場合に、N末側及びC末側保存モチーフは、「マンノース結合領域」を構成しているので両モチーフを保持していることは必須であり、アミノ酸残基数も100以上であることが好ましく、βプリズム1構造の少なくとも1部を保持していることがさらに好ましい。
すなわち、上記各データベースに示されるアミノ酸配列(例えば、配列番号1など)において、当該アミノ酸配列中のN末端側及びC末端側のそれぞれの保存モチーフを有していれば、その部分ペプチドであってもよく、又は当該アミノ酸配列と60%、好ましくは70%、より好ましくは80%、さらに好ましくは90%、特に好ましくは95%の相同性(同一性)を保持していれば、複数のアミノ酸を欠失、置換、付加したアミノ酸配列であってもよい。
したがって、本発明において「抗真菌活性を有するマンノース特異的レクチン」というとき、ZG16、mJRLsなどのN末側及びC末側保存モチーフを保持するレクチン自体のみならず、その部分ペプチド又は改変体も含める。
【0016】
2.抗真菌活性を有するマンノース特異的レクチンの調製
本発明の抗真菌活性を有するマンノース結合特異性レクチンは、天然から抽出して得てもよいが、各種形質転換宿主を用いて発現させ、又はさらに分泌させたリコンビナントの形で取得できるが、いずれのタンパク質、ペプチドの場合でも、アフィニテリィークロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー法などの通常のタンパク質精製法を適用し精製物として得ることが好ましい。そして、均一性や容易に大量調整し得るという観点からはリコンビナントが好ましく、その際の宿主として大腸菌を例示できるが、これに限定されず、動物細胞、昆虫細胞、酵母、カイコなどを宿主細胞として生産する方法も用いることができる。また、無細胞翻訳系でタンパク質調整することも可能である。
また、上記レクチンの部分ペプチドの場合は、全長のタンパク質を得た後に断片化して得てもよいが、アミノ酸配列に基づき化学合成することもできる。
上記レクチンについての改変体は、公知データベースの塩基配列情報が利用できるので、周知の部位突然変異法などを適用して適宜作製することができる。また、各種生物由来のcDNAライブラリーやゲノムライブラリーに対して、通常のハイブリダイゼーション手法やPCR法などを適用することで相同性(同一性)の高い未知のレクチン類を取得することができる。
【0017】
本発明で有効成分として用いるレクチン又はその部分ペプチドは、無毒性のタンパク質、ポリマーなどの担体に固定化してもよく、また、抗真菌活性、殺菌活性を有する他のタンパク質、ペプチド、低分子化合物などと結合した融合タンパク質として使用することも可能である。
【0018】
3.医療用抗真菌剤について
本発明でいう抗真菌剤とは、真菌類に対して殺菌作用または増殖阻害作用を有する薬剤を広く意味する。本発明の抗真菌剤は、上記レクチンを有効成分とし、真菌類に対して殺菌作用または増殖阻害作用を有する。真菌類としては、酵母、キノコの他、いわゆる糸状菌(カビ)が挙げられ、医療用抗真菌剤としては、特に皮膚カンジダ症、慢性粘膜皮膚カンジダ症、口腔カンジダ症、外陰カンジダ症など主な原因菌であるカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)やカンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)などの真菌に対して抗真菌スペクトルを有する。また本発明の抗真菌剤は、例えば、体部白癬(たむし)・股部白癬(いんきん)・足白癬(水虫)・爪白癬(爪水虫)(Trichophyton ruburum,Trichophyton mentagrophytes)、頭部白癬(しらくも)・ケルズス禿瘡(Microsporum canis、Trichophyton verrucosum)、癜風(Malassezia furfur)、マラセチア毛包炎(Malassezia furfur)、スポロトリコーシス(Sporothrix schenckii)、黒色真菌症 (Fonsecaea pedrosoi、Exophiala jeanselmei、Exophiala dermatitidis、Phialophora verrucoza、Cladosporium trichoides)、皮膚クリプトコッカス症(Criptococcus neoformans)、肺真菌症である肺アスペルギルス症(Aspergillus fumigates)やクリプトコッカス症(Criptococcus neoformans)の治療に用いることができる。
【0019】
本発明の抗真菌剤を医薬品用組成物の有効成分として投与する際には、そのままで又は医薬製造分野で通常使用される各種の固体担体、液体担体、乳化分散剤等に含有させた形で抗真菌剤として使用することができる。また、必要に応じて他の薬剤を調合させてもよい。
外用剤として投与するばあい、クリーム剤、液剤、軟膏剤、眼軟膏剤、座剤、膣剤、パウダー、乳剤などの剤形が調製可能である。調製するにあたっては、油性基剤または乳剤性基剤などを用いて調製することができ、有効成分の好ましい含量は0.1〜10重量%である。投与量は患部の広さおよび症状によって適宜調節すればよい。
経口投与のばあい、粉末、錠剤、顆粒剤、カプセル剤またはシロップとして使用され、さらには皮下、筋肉内または静脈内注射剤などの注射剤としても使用される。
特に、本発明のZ16は、生体内の深部体温の37℃でかつ弱酸性の条件で最も抗真菌活性が高いことから、深在性真菌症用の内服液として使用することが有効である。
投与量は患者の年齢、体重および個々の条件により異なるが、一般的には、有効成分量として成人一日あたり1μg/kgから1000mg/kg程度の範囲である。上記投与量は一日一回投与しても一日に数回に分けて投与してもよい。また投与期間及び投与間隔も特に限定されず、毎日投与してもよいしあるいは数日間隔で投与してもよい。
【0020】
4.農園芸用の抗真菌剤、防カビ剤
また、農作物や観賞用植物に害を及ぼすジャガイモがんしゅ病、こうがい毛かび病、てんぐ巣病、うどんこ病、灰色かび病、さび病、裸黒穂病、なまぐさ黒穂病などに対して、抗真菌剤、防カビ剤として用いることができ、食品や医薬品、化粧品、家屋などに見られる主なカビ類である、坦子菌門に対しても有効であるので、広く一般的な防カビ剤として使用可能である。
農園芸用の抗真菌剤、防カビ剤で有効成分として用いる場合には、その使用目的に応じて単体でも施用できるが、生物効果を助長または安定化するために、農薬に常用される適当な担体および補助剤例えば界面活性剤などを配合して製剤化し、これを直接に植物の茎葉または種子に対して施用するか、あるいは必要に応じて水、アルコールなどで希釈した液を施用する。
【0021】
5.その他の抗真菌剤、防カビ剤
さらに、本発明の抗真菌剤は、食品、飼料、化粧品等のように人又は動物の体内に摂取され、または体表面に適用される製品、その他一般に真菌の増殖を防止又は抑制することが望まれるあらゆる製品に配合して使用することができる。また、本発明の抗真菌剤を製品又は原料素材の表面処理に用いることもできる。具体的には、食品(例えばチュウインガム、生菓子等)、医薬品(例えば、目薬、乳房炎治療薬、水虫薬等)、医薬部外品(例えば口中洗浄剤、制汗剤、養毛剤等)、各種化粧品(例えば整髪料、ハンドクリーム、乳液等)、各種歯磨用品(例えば、歯ブラシ等)、各種生理用品(例えばナプキン、タンポン等)、各種ベビー用品(例えば紙オムツ等)、各種高齢者用品(例えば入れ歯固定剤、成人用紙オムツ等)、各種洗剤(例えば石鹸、シャンプー、リンス、洗濯用洗剤等)、各種除菌用品(キッチン又はトイレ用除菌クリーナー等)、ペット飼料(例えば、ドッグフード、キャットフード等)、各種家畜試料、各種養魚飼料、各種建築材料、各種塗料、各種農園芸用品、並びにそれらの原料となる素材、その他一般に真菌等の微生物の増殖の防止、抑制が望まれるあらゆる物品に添加、配合、噴霧、付着、被覆、含浸等を行ってもよく、またその他一般に真菌類の増殖防止、抑制が望まれるあらゆる物品の処理に用いることもできる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0023】
[実施例1] 哺乳動物由来ZG16と植物由来マンノース特異的ジャッカリン関連レクチンファミリー(mJRLs)のマルチプルアライメント(図1)
植物由来mJRLsであるHeltuba、Orysata、Morniga M、Artocarpin、CCA-C、CCA-N、Calsepa、Conarva、CRLL-N、CRLL-C、BanLec、及びヒト(ZG16_Human)、ラット(ZG16_Rat)、マウス(ZG16_Mouse)由来Zymogen granule 16 (ZG16)をClustal Wを用いてマルチプルアライメントを実行した。なお、これらアミノ酸配列は、公共データベースであるGenBankにより、それぞれアセッション番号Heltuba(BAB18761, AAZ30387, AAD11575, AAD11578, AAD11576)、Orysata(DQ122757)、Morniga M(AAL10685)、Artocarpin (AAY35063, AAY35064)、CCA-C(AAG40322)、CCA-N(AAG40322)、Calsepa(AAC49564)、Conarva(AAG10403)、CRLL-N(BAE95375)、CRLL-C(BAE95375)、BanLec(AAM48480)、及びヒトZG16(NP_689551)、ラットZG16(NP_599236)、マウスZG16(Q8K0C5)として取得できる。
ZG16どうしの相同性(同一性)は、80%程度あるが、mJRLsどうしの相同性(同一性)には20-85%程度のばらつきがあり、ZG16とmJRLs間での相同性も、15〜20%程度であって必ずしも高くはない。しかし、図1からみて、いずれも100〜200アミノ酸残基からなるレクチンであり、ほぼ対応する位置にN末端側のGly-X-(Tyr/Trp)-Gly-X-X-Gly-Glyモチーフ、及びC末端側の(Leu/Ile/Val)-Asp-(Ser/Ala)-Ile-(Gly/Ser)モチーフを有していること、及びmJRLsと同様にZG16でも「βプリズム1構造」をとると考えられる「βシート」にほぼ対応する繰り返し配列が観察されることも、大きな類似点である。
【0024】
[実施例2] 大腸菌で調整したリコンビナントZG16の電気泳動(図2)
プライマー1(CATATGAATGCCATTCAGGCCAGGTCTTCCTCCTAT)(配列番号2)とプライマー2(CTCGAGGCATCTGCTGCAGCTAGTGGGGTAAACATC)(配列番号3)を用いて増幅したヒトZG16遺伝子(以下、単にZG16遺伝子という、)を、pGEM-T easyベクターにサブクローニングした。得られたベクターからZG16遺伝子を制限酵素で切り出し、pET27b(+)発現ベクター(Novagen社)にクローニングした(ZG16-pET27b)。ZG16-pET27bを大腸菌BL21(DE3)codon+(Novagen社)に形質転換し、IPTG(Fermentus社)で3時間誘導後、大腸菌を回収した。大腸菌を超音波で破砕して、得られた上清からリコンビナントZG16をニッケルアガロースカラム(Qiagen)で精製し、電気泳動に供した。20kDa付近に単一なバンドを示し、ZG16のサブユニットが20kDaの単量体で構成されていることが確認された。
【0025】
[実施例3] リコンビナントZG16及び151番目のアスパラギン酸をアスパラギンに変えた変異体(D151N)の糖鎖アレイ解析(図3)
リコンビナントZG16及び151番目のアスパラギン酸をアスパラギンに変えた変異体(D151N)をプロービングバッファー(1% Triton-X 100と500 mMグリシンを含有するトリス緩衝生理食塩水溶液(TBS))を用いて10μg/ml(100 μL)になるように調整し、100 μg/mLの抗HSV抗体(一次抗体)を0.5 μL, 二次抗体として140 μg/mLのCy3ラベル化抗マウスIgG抗体を0.5 μL加え、30分間プレインキュベートした。これを糖鎖アレイ基板の反応槽内に100 μL供して、3時間インキュベート後にエバネッセント波励起蛍光観察を行った(Tateno, H.ら (2008) Glycobiology 18, 789-798の方法による。)。その結果、リコンビナントZG16はalpha-マンノース及びbeta-マンノースに特異的に結合することが分かった。ZG16の糖への結合に関与すると予想される151番目のアスパラギン酸をアスパラギンに変えた変異体(D151N)ではalpha-マンノース(及びbeta-マンノースへの結合は大きく減少したことから、151番目のアスパラギン酸が糖への結合に重要であることが確認された。
【0026】
[実施例4] リコンビナントZG16の各種真菌への結合(図4)
次に、スポッティングバッファー(松浪硝子工業社)で500-2 μg/mlになるように希釈したリコンビナントZG16及びその糖鎖結合欠損変異体(D151N)をスライドグラス基板上に固定化したアレイを作製した。Saccharomyces cerevisiae、Candida albicans、Candida glabrata、Candida kefyr、Candida kruseiを細胞内変換型色素であるCell Tracker Orange CMRA (Invtrogen社)で蛍光標識した後、1%BSAを含むリン酸緩衝生理食塩水溶(pH7.0)に懸濁し、反応層あたり1x106個を供して4度で1時間反応後、非結合細胞を洗浄し、結合細胞をエバネッセント波励起蛍光スキャナーで検出した。その結果、リコンビナントZG16はこれら真菌に対して結合活性を有することが確認された。一方で、真菌への結合は糖鎖結合部位である151番目のアスパラギン酸をアスパラギンに変異することで劇的に減少したことから、真菌への結合はZG16の糖鎖結合部位が関与していることが確認された。
【0027】
[実施例5] リコンビナントZG16のSaccharomyces cerevisiaeに対する抗真菌活性(図5)
1×105のSaccharomyces cerevisiaeを0.1Mクエン酸バッファー/0.15M NaCl pH5.0に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、37度で2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)と5 μLの1 mg/mlのPropidium iodideを加え、4度で1時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで解析した。ZG16を作用させたSaccharomyces cerevisiaeの一部に形態変化が確認された(図4、上中央パネル、実線囲)。さらにこの画分の酵母細胞はZG16が結合し、死細胞の核を染色するPropidium iodide(PI、Sigma-Aldrich)で染色された(図4、下パネル)。一方で、糖鎖結合活性欠損変異体(D151N)及び緩衝役のみの場合には酵母細胞の形態変化は確認されなかった(図4、上右端パネル)。以上の結果から、ZG16は酵母細胞表層糖鎖に結合して、酵母細胞死を誘導することが確認された。
【0028】
[実施例6] リコンビナントZG16のCandidaに対する抗真菌活性(図6)
実施例4と同様の試験をカンジダ症の原因菌であるCandida albicansとCandida glabrataに対して行った。即ち、1x105のCandida albicans及びCandida glabrataを0.1Mクエン酸バッファー/0.15M NaCl pH5.0に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、37度で2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)と5 μLの1 mg/mlのPropidium iodideを加え、4度で1時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで解析した。その結果、Saccharomyces cerevisiaeと同様に、ZG16を作用させたCandida albicans及びCandida glabrataの一部に形態変化が確認された(図5、中央パネル、実線囲)。さらにこの実線で示した画分の酵母細胞はPropidium iodide(PI、Sigma-Aldrich)で染色された。一方で、糖鎖結合活性欠損変異体(D151N)及び緩衝液のみの場合には細胞の形態変化は確認されなかった。以上の結果から、ZG16はSaccharomyces cerevisiaeだけでなく、カンジダ症の原因菌であるCandida albicans及びCandida glabrataに対しても細胞死を誘導する活性を有することが確認された。
【0029】
[実施例7] ZG16を介した抗真菌活性の至適濃度の検討(図7)
異なる濃度のZG16(0-100 μg/ml)を用いて、実施例4と同様の試験を行った。即ち、1x105のSaccharomyces cerevisiae 、Candida albicans及びCandida glabrataを0.1Mクエン酸バッファー/0.15M NaCl pH5.0に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0-0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、37度で2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)と5 μLの1 mg/mlのPropidium iodideを加え、4度で1時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで解析した。その結果、濃度依存的な酵母細胞死が確認された。ZG16の濃度が100 μg/mlの場合、約60%(Candida glabrata)、40%(Candida albicans)、30%(Saccharomyces cerevisiae)の細胞死が確認された。
【0030】
[実施例8] リコンビナントZG16のCandida albicansに対する抗真菌活性(図8)
ZG16の抗真菌活性をコロニー形成単位(CFU)で評価した。1×104のCandida albicansを0.1Mクエン酸バッファー/0.15M NaCl pH5.0に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、37度で2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)を加え、4度で1時間インキュベートした後、5 μLを培養プレートにスポットして、室温で一晩培養後、形成されたコロニーの数を測定した。その結果、緩衝液のみの場合と比較して、ZG16を加えた場合には75%の細胞死が確認され、抗真菌活性を有することを確認した。一方で糖鎖結合活性欠損変異体(D151N)の場合には、緩衝液のみとほぼ同じ程度のコロニー数が測定され、ZG16の抗真菌活性はZG16の糖鎖結合活性依存的であることを確認した。
【0031】
[実施例9] リコンビナントZG16のCandida albicansに対する抗真菌活性(図9)
1×104のCandida albicansを0.1Mクエン酸バッファー/0.15M NaCl pH5.0に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、37度で2時間インキュベートした後、96穴平底マイクロプレートのウエルに各100 μL加えた。次に、YPD培地を100μL加えて室温で培養して、酵母の発育を濁度(A650)で測定した。その結果、20時間後に緩衝液のみ及び糖鎖結合活性欠損変異体(D151N)を加えた場合には、A650がそれぞれ0.8と0.5の濁度が測定されたが、ZG16を加えた場合には0.1と測定され、Candida albicansの増殖を抑制する活性を有することを確認した。
【0032】
[実施例10] ZG16を介した抗真菌活性の至適pHの検討(図10)
ZG16が抗真菌活性を示す至適pHを検討した。抗真菌活性試験は実施例4と同様の方法で行った。即ち、異なるpHの緩衝液(pH3-7)に懸濁した1x105のCandida albicansを含む溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、37度で2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)と5 μLの1 mg/mlのPropidium iodideを加え、4度で1時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで解析した。結果、弱酸性付近(pH 4-5)で最も強い抗真菌活性を示し、pH4では75%の酵母細胞の細胞死が確認された。緩衝液のみ、及び糖鎖結合活性欠損変異体(D151N)では酵母細胞死は確認されなかった。真菌の至適pHは弱酸性付近のpH4-5であることから、真菌が特に増殖し易い環境下において、ZG16は最も効果的に抗真菌活性を示すことが確認された。
【0033】
[実施例11] ZG16を介した抗真菌活性の至適時間の検討(図11)
ZG16が抗真菌活性を示す至適時間を検討した。抗真菌活性試験は実施例4と同様の方法で行った。即ち、1×105のCandida albicansを0.1Mクエン酸緩衝生理水溶液(pH5.0)に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、37度で0-2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)と5 μLの1 mg/mlのPropidium iodideを加え、4度で1時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで解析した。結果、37度、0分でも20%の細胞死が確認されたが、経時的に死細胞数の増加が確認され、1時間でほぼ最大の活性(約40%の細胞死)が確認された。
【0034】
[実施例12] ZG16を介した抗真菌活性の至適温度の検討(図12)
次にZG16が抗真菌活性を示す至適温度を検討した。抗真菌活性試験は実施例4と同様の方法で行った。即ち、1×105のCandida albicansを0.1Mクエン酸緩衝生理水溶液(pH5.0)に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるようにZG16もしくはD151Nを加え、4−37度で2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)と5 μLの1 mg/mlのPropidium iodideを加え、4度で1時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで解析した。その結果、4−20度で反応させた場合にも抗真菌活性は確認されたものの(約20%)、37度で最大(約40%)の抗真菌活性が確認された。
【0035】
[実施例13] ZG16のヒト赤血球凝集及び溶血活性試験
ウサギ、ヒトA、B、O型赤血球に対するZG16の凝集活性及び溶血活性を測定した。ZG16(0.1 mg/ml、20 μL)を25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)を用いて2倍希釈系列をつくり、そこに4%赤血球を25 μL加えて、室温で30分インキュベート後、視覚的に凝集及び溶血活性を確認した。その結果、ZG16は赤血球に対して凝集及び溶血活性を有しないことが確認された。
【0036】
[実施例14] mJRLs(植物由来マンノース特異的ジャッカリン関連レクチン)の抗真菌活性(図13)
植物由来のジャッカリン関連レクチンファミリーに分類されるmJRLsが、全体の配列の相同性は低いもののN末側及びC末側のモチーフ及び他の構造的な特徴もよく保存されている(実施例1)ことから、ZG16と同様の抗真菌活性を有することが期待された。そこで、mJRLsに分類されるマンノース特異的レクチンが共通して抗真菌活性を示すかどうかについて検討した。
ジャッカリン関連レクチンファミリーに分類されるHeltuba(キクイモ、Helianthus tuberosus)、Calsepa(ヒロハヒルガオ、Calystegia sepium)、Morniga M(ブラックマルベリー、Morus nigra)、Conarva(セイヨウヒルガオ、Convolvulus arvensis)、及び、このファミリーに分類されない他のマンノース特異的レクチンであるConA(NPA、GNA、HHLをコントロールとして抗真菌活性試験を行った。1×105のCandida albicansを0.1Mリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)に懸濁した溶液100 μLに対して、最終濃度0.1 mg/mlになるように各種レクチンを加え、4〜37℃で2時間インキュベートした。400 μLの25 mMリン酸緩衝生理食塩水溶液(pH 7.0)と5 μLの1 mg/mlのPropidium iodideを加え、4度で1時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで解析した。その結果、ジャッカリン関連レクチンファミリーに分類されるレクチンは全て抗真菌活性(10〜55%)を示した。一方で、他のファミリーに分類されるレクチンでは顕著な抗真菌活性は確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のZymogen granule 16(ZG16)と植物由来マンノース特異的ジャッカリン関連レクチン(mJRLs)の保存配列を示す図である。図中、N末側及びC末側のモチーフを□で囲み、Heltubaの構造における繰り返しβシートの位置をβ1、β2などとして示した。
【図2】本発明のZymogen granule 16(ZG16)のSDS−PAGEの結果(図面代用写真)である。図中、Heatは95度5分間での熱処理を示し、2−MEは2−メルカプトエタノール処理を示す。
【図3】本発明のZymogen granule 16(ZG16)及び改変体(D151N)の糖鎖アレイ解析の結果である。
【図4】本発明のZymogen granule 16(ZG16)の各種真菌への結合試験の結果である。
【図5】本発明のZymogen granule 16(ZG16)のSaccharomycescerevisiaeへの抗真菌活性試験の結果である。
【図6】本発明のZymogen granule 16(ZG16)のCandidaalbicansとCandida glabrataへの抗真菌活性試験の結果である。
【図7】本発明のZymogen granule 16(ZG16)を介した抗真菌活性の濃度依存試験の結果である。
【図8】本発明のZymogen granule 16(ZG16)のCandidaalbicansへの抗真菌活性試験の結果である。
【図9】本発明のZymogen granule 16(ZG16)のCandidaalbicansへの抗真菌活性試験の結果である。
【図10】本発明のZymogen granule 16(ZG16)を介した抗真菌活性の至適pH検討試験の結果である。
【図11】本発明のZymogen granule 16(ZG16)を介した抗真菌活性の至適温度検討試験の結果である。
【図12】本発明のZymogen granule 16(ZG16)を介した抗真菌活性の至適時間検討試験の結果である。
【図13】本発明の植物由来ジャッカリン関連レクチン(mJRLs)の抗真菌活性試験の結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N末端領域にGly-X-(Tyr/Trp)-Gly-X-X-Gly-Glyモチーフを有し、C末端領域に(Leu/Ile/Val)-Asp-(Ser/Ala)-Ile-(Gly/Ser)モチーフを有するマンノース特異的レクチンであって、かつ抗真菌活性を有するレクチンを有効成分として含有することを特徴とする抗真菌剤。
【請求項2】
前記レクチンが100〜200アミノ酸残基から構成されることを特徴とする、請求項1に記載の抗真菌剤。
【請求項3】
前記レクチンがβプリズム1構造を有していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の抗真菌剤。
【請求項4】
前記レクチンがZG16(Zymogen granule protein 16)又はその部分ペプチドであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の抗真菌剤。
【請求項5】
前記レクチンが、植物由来のmJRLs(マンノース特異性を有するジャッカリン関連レクチン)又はその部分ペプチドであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の抗真菌剤。
【請求項6】
ヒトを含む動物の真菌類による感染症の予防又は治療に用いる、請求項1〜5のいずれかに記載の抗真菌剤。
【請求項7】
農園芸用又は抗真菌剤として使用する請求項1〜5のいずれかに記載の抗真菌剤。
【請求項8】
食品、医薬品又は化粧品用の防カビ剤として使用する請求項1〜5のいずれかに記載の抗真菌剤。

【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−150187(P2010−150187A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330418(P2008−330418)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】