説明

抗腫瘍剤

【課題】 がん細胞を選択的に攻撃する新規化合物及びその製造方法、並びに該化合物を有効成分として含有する抗腫瘍剤を提供する。
【解決手段】
下記式:
【化1】


で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する抗腫瘍剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物及び該化合物を有効成分とする抗腫瘍剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の抗腫瘍剤(抗癌剤)の多くは、DNAに直接作用するか、分裂時に作用する化合物が多く、生体の中でも骨髄細胞や毛根細胞など、増殖の盛んな正常細胞に対する副作用が問題であった。しかしながら最近では、細胞増殖のメカニズムが分子レベルで解明されてきたので、癌遺伝子の発現や癌遺伝子産物の機能を阻害する選択的な抗腫瘍剤の開発が可能になりつつある。従って、抗腫瘍剤の分野では、新しい作用機序を有し、特異性及び有効性に優れた抗腫瘍剤の開発が望まれている。
【0003】
このような状況の中、本発明者らは、新規な作用メカニズムによりがん細胞を選択的に攻撃する化合物をスクリーニングする方法を開発している(特開2002−065298号公報)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−065298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、がん細胞を選択的に攻撃する新規化合物及びその製造方法、並びに該化合物を有効成分として含有する抗腫瘍剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、シシウドから採取される新規な化合物が優れた抗癌作用を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)下記式:
【化1】

で表される化合物又はその薬学的に許容される塩。
【0008】
(2)前記(1)記載の化合物を有効成分として含有する医薬。
(3)前記(1)記載の化合物を有効成分として含有する抗腫瘍剤。
(4)シシウド(Angelica pubescens)から抽出することを特徴とする、下記式:
【0009】
【化2】

の化合物又はその薬学的に許容される塩の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の化合物はがん細胞に対して選択的に細胞毒性を示す。また、本発明の化合物は、シシウドから抽出することにより容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の化合物(以下、「A2M7」とも言う)は以下の構造を有する:
【化3】

【0012】
本発明の化合物としては、上記化合物のみならず、その薬学的に許容される塩も包含される。
【0013】
薬学的に許容される塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等の無機酸等との塩が挙げられる。
【0014】
本発明の化合物を医薬として用いる場合、予防又は治療目的に応じて各種の投与形態を採用することができ、該形態としては、例えば、経口剤、注射剤、坐剤、軟膏剤、貼付剤等のいずれでも良く、これらの投与形態は、各々当業者に公知慣用の製剤方法により製造できる。
【0015】
経口用固形製剤を調製する場合は、本発明化合物に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されるものでよく、例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等を、結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等を、崩壊剤としては乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等を、滑沢剤としては精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等を、着色剤としては、酸化チタン、酸化鉄等を、矯味・矯臭剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等を例示できる。
【0016】
経口用液体製剤を調製する場合は、本発明化合物に矯味剤、緩衡剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合矯味・矯臭剤としては上記に挙げられたもので良く、緩衡剤としてはクエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0017】
注射剤を調製する場合は、本発明化合物にpH調節剤、緩衡剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下、筋肉内及び静脈内用注射剤を製造することができる。この場合のpH調節剤及び緩衡剤としてはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。安定化剤としてはピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。局所麻酔剤としては塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が例示できる。
【0018】
坐剤を調製する場合は、本発明化合物に当業界において公知の製剤用担体、例えば、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセライド等を、さらに必要に応じてツイーン(登録商標)のような界面活性剤等を加えた後、常法により製造することができる。
【0019】
軟膏剤を調製する場合は、本発明化合物に通常使用される基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤等が必要に応じて配合され、常法により混合、製剤化される。基剤としては、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィン等が挙げられる。保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0020】
貼付剤を製造する場合は、通常の支持体に前記軟膏、クリーム、ゲル、ペースト等を常法により塗布すれば良い。支持体としては、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布や軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン等のフィルムあるいは発泡体シートが適当である。
【0021】
上記の各投与単位形態中に配合されるべき本発明化合物の量は、これを適用すべき患者の症状によりあるいはその剤型等により一定ではないが、一般に投与単位形態あたり経口剤では約0.01〜1000mg、注射剤では約0.01〜500mg、坐剤では約0.01〜1000mgとするのが望ましい。また、上記投与形態を有する薬剤の1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり一概には決定できないが、通常成人1日あたり約0.01〜5000mg、好ましくは約0.01〜1000mgとすれば良く、これを1日1回又は2〜4回程度に分けて投与するのが好ましい。
【0022】
本発明の化合物は、がん細胞が栄養状態や、酸素の供給状態が悪い条件下で生き延びるという性質を利用して、特開2002−065298号公報に記載のスクリーニング方法により見出されたものである。本発明の化合物は、従来の抗腫瘍剤とは異なる新規な作用メカニズムによりがん細胞を選択的に攻撃する。
【0023】
本発明の化合物を含有する抗腫瘍剤を投与することにより治療できる癌・悪性腫瘍としては、特に制限はなく、例えば頭頸部癌、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆のう・胆管癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、睾丸腫瘍、骨・軟部肉腫、悪性リンパ腫、白血病、子宮頸癌、皮膚癌、脳腫瘍等が挙げられる。
【0024】
次に本発明の化合物の製造方法について説明する。
本発明の化合物は化学合成により製造することもできるが、例えば、以下のようにしてシシウド(Angelica pubescens)(生薬名、唐独活)から抽出することにより得ることもできる。
【0025】
シシウド(Angelica pubescens)の根をアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール又はそれらと水との混合物)に浸し、これを超音波処理した後、1時間〜数日間放置する。次いで、抽出液に塩化メチレンを加えて超音波処理する。塩化メチレンに不溶性の物質を除去し、塩化メチレン溶液を濃縮して、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィにかける。溶離液としては、例えば、クロロホルム-メタノール、ヘキサン−酢酸エチル、酢酸エチル-ベンゼン等の系が挙げられる。本発明の化合物を含む画分を集め、溶媒を留去して本発明の化合物を得る。各成分の分離が不十分な場合は、異なる溶離液を組み合わせてクロマトグラフィを複数回行ってもよいし、或いは、他の分離精製手段、例えば濃縮、溶媒抽出、濾過、再結晶、各種クロマトグラフィ等を用いることにより精製するとよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
本実施例で使用した主な装置、分析機器等は以下のとおりである。
旋光度:
日本分光DIP-140デジタル旋光計
赤外吸収スペクトル:
島津IR-408赤外分光光度計(CHCl3溶液中)
核磁気共鳴(NMR)スペクトル:
日本電子JNM-LA400分光計(内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を使用し、化学シフトをδ値として表示)
円二色性(CD)スペクトル:
日本分光J-805分光旋光計
高分解能高速原子衝突質量スペクトル(HR−FAB−MS):
日本電子JMS-700T分析計(グリセロールをマトリックスとして使用)
カラムクロマトグラフィ:
BW-820MHシリカゲル(富士シリシア化学,春日井)
分取および分析薄層クロマトグラフィ(TLC):
シリカゲル60F254(厚さ0.25 mm若しくは0.5 mm,ドイツ・メルク)、又はRP-18F254S(厚さ0.25 mm,メルク)のプレコートプレート
【0028】
実施例1:シシウドからのA2M7の抽出
図1に示す工程に従って、シシウドの根から本発明の化合物「A2M7」を抽出した。
シシウド(Angelica pubescens)の根(生薬名、唐独活;乾燥重量900 g)を70%エタノール-水(3L)で2時間2回超音波処理し、さらに22時間放置して抽出し、70%エタノール-水エキス(142 g)を得た。このエキス(69 g)を塩化メチレン(700 mL)で1時間超音波処理(2回)して塩化メチレン可溶部(9.1 g)を得た。塩化メチレン可溶部(6.0 g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(内径3.5 cm×53 cm)に付し、クロロホルム(以下、CHCl3)-メタノール(以下、MeOH)系で溶出して以下の画分(fr.1〜10)を得た。
fr. 1:CHCl3-MeOH(99:1) 溶出部,1.3 g
fr. 2:CHCl3-MeOH(98:2) 溶出部,1.74 mg
fr. 3:CHCl3-MeOH(97:3) 溶出部,1.7 g
fr. 4:CHCl3-MeOH(96:4) 溶出部,1.3 g
fr. 5:CHCl3-MeOH(95:5) 溶出部,247 mg
fr. 6:CHCl3-MeOH(92:8) 溶出部,83 mg
fr. 7:CHCl3-MeOH(90:10)溶出部,91 mg
fr. 8:CHCl3-MeOH(85:15)溶出部,290 mg
fr. 9:CHCl3-MeOH(80:20)溶出部,159 mg
fr.10:CHCl3-MeOH(70:30)溶出部,42 mg
【0029】
Fr. 3(1.0 g)を再度シリカゲルカラムクロマトグラフィ(内径3.5 cm×25 cm)に付し、ヘキサン-酢酸エチル(0-100%)系で溶出して以下の画分(fr.3-1〜3-5)を得た。
fr. 3-1,266 mg
fr. 3-2, 36 mg
fr. 3-3, 42 mg
fr. 3-4, 11 mg
fr. 3-5,250 mg
【0030】
次いで、Fr. 3-5をさらに順相分取TLC(酢酸エチル/ベンゼン=25/75)により分離して本発明の化合物A2M7(25 mg)を無色アモルファス固体として得た。
【0031】
実施例2:A2M7の同定
実施例1で得られた化合物について解析を行った。
1H NMR(400 MHz, CDCl3):δ 1.61 (3H, s, H-13), 1.65 (3H, s, H-12), 3.38 (2H, ddd, J = 16.3, 9.5, 8.0 Hz, H-9), 5.21 (1H, dd, J = 9.5, 8.0 Hz, H-10), 6.14 (1H, d, J = 15.9, H-8'), 6.24 (1H, d, J = 9.5 Hz, H-2), 6.79 (1H, d, J = 8.3 Hz, H-6), 6.83 (2H, d, J = 8.5 Hz, H-3', 5'), 7.28 (2H, d, J = 8.5 Hz, H-2', 6'), 7.31 (1H, d, J = 8.3 Hz, H-5), 7.35 (1H, d, J = 15.9, H-7'), 7.68 (1H, d, J = 9.5 Hz, H-3).
13C NMR(100 MHz, CDCl3):δ 21.1 (C-13), 22.1 (C-12), 27.5 (C-9), 82.2 (C-11), 89.1 (C-10), 106.9 (C-6), 111.98 (C-3), 113.0 (C-4a), 113.6 (C-8), 114.5 (C-7'), 115.9 (C-3',5'), 116.1 (C-8'), 126.6 (C-1'), 128.9 (C-5), 129.8 (C-2',6'), 144.3 (C-4), 151.1 (C-8a), 158.3 (C-4'), 161.5, (C-2), 164.1 (C-7), 166.5 (C-9').
IR (CHCl3) cm-1: 3280, 1910, 1705, 1610, 1585, 1506, 1490, 1460, 1405, 1388, 1370, 1325, 1260, 1168, 1140, 1065, 980, 835.
CD λmax (EtOH, 0.255 mM) nm: 338 ([θ] +34314), 298 ([θ] -16932).
HR-FAB-MS: 393.1295 [Calcd for C23H21O6 (M+H)+ 393.1338].
[α]D25: + 218.7 (c = 0.025, CHCl3)。
【0032】
上記の分析結果より、本発明の化合物は以下の化学構造を有する8,9-ジヒドロ-8(S)-[1-[[3-(4-ヒドロキシフェニル)-1-オキソ-2(E)-プロペニル]オキシ]-1-メチルエチル]-2H-フロ[2,3-h]-1-ベンゾピラン-2-オンであることが示された。
【0033】
【化4】

上記化合物は過去に報告例がなく、新規化合物である。
【0034】
実施例3:A2M7の抗腫瘍活性に対する栄養因子の影響
本発明の化合物A2M7のヒト膵臓がん細胞PANC-1に対する細胞毒性を、以下に示す栄養成分が異なる培地a)〜e)を使用して調べた。
a)NDM :栄養欠乏培地。DMEMの電解質だけを含んでいる培地
b)NDM+Se :10%ウシ胎児血清を含むNDM培地
c)NDM+Se+AA:10%ウシ胎児血清及びアミノ酸混合物(DMEMに含まれるアミノ酸を同濃度で添加)を含むNDM培地
d)NDM+Glc :グルコースを1mg/mlの濃度で含むNDM培地
e)DMEM :DMEM培地
【0035】
上記各培地に細胞を播種し、これにA2M7を所定の濃度で添加し、24時間培養した。培養終了後、WST−8法で生細胞数を測定した。その結果を図2に示す。図中、縦軸の「OD」は生細胞数の測定のために添加された発色試薬の吸光度であり、吸光度が高いほど生細胞数が多いことを示す。
【0036】
この実験結果から、アミノ酸が欠乏している場合に、A2M7はがん細胞に対して強い毒性を示すことが分かった。
【0037】
実施例4:栄養欠乏培地におけるA2M7の抗腫瘍活性
栄養欠乏培(NDM)におけるA2M7のヒト膵臓がん細胞PANC-1に対する細胞毒性を、種々の濃度で通常培地(DMEM)と比較した。
【0038】
それぞれの培地を用いて実施例3と同様の方法により細胞を培養し、増殖阻害活性について試験した。その結果を図3に示す。
【0039】
本実験の結果によれば、炭素源や窒素源のない栄養欠乏培(NDM)ではA2M7濃度が10ng/mlを超えるとがん細胞に対して強い細胞毒性を示し、それ以上の濃度ではがん細胞はすべて死滅した。しかし、通常の培地であるDMEMではA2M7濃度10μg/mlまでほとんど毒性を示さなかった。この結果から、A2M7のがん細胞に対する細胞毒性について栄養飢餓選択性が証明された。
【0040】
実施例5:A2M7の細胞毒性発現のメカニズム
本発明の化合物のがん細胞に対する毒性発現のメカニズムを解析するため、ヒト膵臓がん細胞PANC-1細胞の栄養欠乏培地中での生存にとって必須であるPI3キナーゼ及びAKTに対する影響を調べた。
【0041】
実験は、セリンスレオニンキナーゼAKTのリン酸化をリン酸化AKT特異的抗体を用いてウエスタンブロット法で検出することにより行った。具体的な実験手順は以下のとおりである。
【0042】
ヒト膵がん細胞PANC-1及び本発明の化合物(A2M7) 10 μg/mlをDMEM培地に加えた。所定の時間経過後に細胞をはがし、10%SDSを含むサンプルバッファーで抽出してウエスタンブロット法でリン酸化AKT検出した。その結果を図4に示す。この結果から、本発明の化合物によりAKTのリン酸化が増強されることが示された。
【0043】
また、ヒト膵がん細胞PANC-1細胞を、本発明の化合物の存在下(10 μg/ml)又は非存在下で各種の培地(DMEM、NDM+Se+AA、NDM+Se+Glc、NDM+Se+AA+Glc、NDM)において2.5時間培養し、培養終了後に細胞をはがし、10%SDSを含むサンプルバッファーで抽出してウエスタンブロット法でリン酸化AKT検出した。その結果を図5に示す。この結果から、本発明の化合物により、グルコース又はアミノ酸の欠乏によるAKTのリン酸化、血清による定常状態のAKTのリン酸化のいずれも増強されることが示された。
なお、AKTの総量(tAKT)は、リン酸化に関係なくAKTに反応する抗体で検出した。
【0044】
これまで本発明者らが見出した抗腫瘍活性を有する化合物の多くはPI3キナーゼを阻害するものであったが、本発明の化合物によりAKTのリン酸化が増強されるという事実を考慮すると、本発明の化合物はこれまでの化合物とは異なった作用機序により抗腫瘍活性を示すものと考えられる。即ち、栄養状態が悪い場合、細胞は生存を維持するためにその適応反応としてAKTが活性化するが、本発明の化合物はAKTの活性化を阻害するのではなく、逆にAKTの活性化を促進しつつがん細胞を細胞死にいたらしめるという、従来の知見とは異なる機構で抗腫瘍活性が発現されることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の化合物はがん細胞に対して選択的に細胞毒性を示すとともに、従来の抗腫瘍剤とは異なる新規な抗癌活性メカニズムを有しており、副作用の少ない抗腫瘍剤として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】シシウドから本発明の化合物を抽出する工程を示す図である。
【図2】実施例3の結果を示す図である。
【図3】実施例4の結果を示す図である。
【図4】実施例5の結果を示す図である。
【図5】実施例5の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式:
【化1】

で表される化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
請求項1記載の化合物を有効成分として含有する医薬。
【請求項3】
請求項1記載の化合物を有効成分として含有する抗腫瘍剤。
【請求項4】
シシウド(Angelica pubescens)から抽出することを特徴とする、下記式:
【化2】

の化合物又はその薬学的に許容される塩の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−31412(P2007−31412A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−221360(P2005−221360)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(590001452)国立がんセンター総長 (80)
【出願人】(595104507)
【Fターム(参考)】