説明

抗菌コーティングを有する医用デバイス

本発明は、コア材料と、医用デバイスに共有結合しておらず、且つ医用デバイスに増大した親水性を付与できる抗菌金属含有LbLコーティングを含む、医用デバイス、好ましくはコンタクトレンズを提供する。本発明のコンタクトレンズ上の抗菌金属含有コーティングは、レンズ材料の酸素透過性やイオン透過性等の所望のバルク特性を維持しつつ、グラム陽性およびグラム陰性細菌を含む微生物に対して高い抗菌能と低い毒性を有する。そのようなレンズは、連続装用コンタクトレンズとして有用である。さらに、本発明は、上面に抗菌金属含有LbLコーティングを有する医用デバイス、好ましくはコンタクトレンズの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、抗菌金属を含有する1層ずつのコーティング(layer-by-layer coating)を有する医用デバイスおよび本発明の医用デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズはしばしば装着、保存および取り扱い中に1種以上の微生物に曝される。コンタクトレンズは、微生物が付着し、その後増殖してコロニーを形成することができる面を提供することができる。コンタクトレンズへの微生物付着およびコロニー化は、微生物が増殖し、眼の表面に長期間保持されることを可能とし、それにより、そのレンズが使用される眼の健康に対して感染または他の有害な作用を及ぼすおそれがある。したがって、コンタクトレンズへの微生物付着およびコロニー化の危険性を最小限にし、かつ/またはなくすための多様な努力を払うことが望ましい。
【0003】
抗菌医用デバイスを開発するために多くの試みがなされてきた。二つの手法が提案されている。一つの手法は、コンタクトレンズを成形するためのポリマー組成物に抗菌化合物を配合することである。例えば、Chalkleyらは、Am. J. Ophthalmology 1966, 61: 866-869において、殺菌剤をコンタクトレンズに配合することを開示している。米国特許第4,472,327号は、重合の前に抗菌剤をモノマーに加え、レンズのポリマー構造中に固定することができることを開示している。米国特許第5,358,688号および第5,536,861号は、四級アンモニウム基含有オルガノシリコーンポリマーから抗菌特性を有するコンタクトレンズを製造することができることを開示している。欧州特許出願EP0604369は、2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび四級アンモニウム基含有コモノマーに基づく親水性コポリマーから抗付着性コンタクトレンズを調製することができることを開示している。もう一つの例は、欧州特許出願EP0947856A2に開示されている、四級ホスホニウム基含有ポリマーを含む眼用レンズ材料である。さらなる例は、ポリマー材料および有効な抗菌成分を含む材料から製造されるコンタクトレンズおよびコンタクトレンズケースを開示する米国特許第5,515,117号である。またさらなる例は、ヒドロゲルとAg、CuおよびZnより選択される少なくとも一つの金属を含む抗菌セラミックを含む材料で作成されるコンタクトレンズを開示する米国特許第5,213,801号である。抗菌コンタクトレンズを製造するこの手法にはいくつかの欠点が伴う。抗菌特性を有するポリマー組成物は、コンタクトレンズ、特に連続装用コンタクトレンズに望まれるすべての特性を有するわけではなく、それがその実用を妨げている。
【0004】
抗菌医用デバイスを製造する他の手法は、滲出性のまたは共有結合した抗菌剤を含有する抗菌コーティングを医用デバイス上に形成することである。滲出性の抗菌剤を含有する抗菌コーティングは、人体の領域で使用される場合、その期間にわたって抗菌活性を提供することができない可能性がある。対照的に、共有結合した抗菌剤を含有する抗菌コーティングは、比較的長い期間にわたって抗菌活性を提供することができる。しかしながら、このようなコーティング中の抗菌化合物は、結合した抗菌化合物またはコーティングそれ自体のいずれかの加水分解の助けがない限り、溶液中で非結合状態の対応する抗菌化合物の活性と比べた場合、減少した活性しか示さないであろう。上記の方法のように、抗菌コーティングは、親水性および/または潤滑性のような所望の表面特性を提供することができず、また、医用デバイスの所望のバルク特性(例えば、コンタクトレンズの酸素透過性)に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
現在、広く多様な抗菌剤がコンタクトレンズのコーティングとしての使用に提案されている(例えば米国特許第5,328,954号を参照)。従来から公知の抗菌コーティングは、抗生物質、ラクトフェリン、金属キレート化剤、置換および非置換の多価フェノール、アミノフェノール、アルコール、酸およびアミン誘導体ならびに四級アンモニウム基含有化合物を含む。しかしながら、このような抗菌コーティングには欠点があり、満足なものとはいえない。抗生物質の過剰使用は抗生物質耐性菌の増殖を招きかねない。他のコーティングは、広いスペクトルの抗菌活性を有しないか、眼の毒性またはアレルギー反応を生じさせたり、角膜の健康を保証し、患者に良好な視力および快適さを提供するために必要なレンズ特性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
したがって、高い殺菌効力および広いスペクトルの抗菌活性を低い細胞毒性と合わせて提供することができる抗菌コーティングが要望されている。また、高い殺菌効力、広い抗菌活性スペクトルを有し、装用者の眼の健康および快適さに対して最小限の悪影響しか及ぼさない抗菌コーティングを有する新しいコンタクトレンズが要望されている。このようなコンタクトレンズは、快適さ、簡便さおよび安全性を提供することができる連続装用コンタクトレンズとして増大した安全性を有することができる。
【0007】
さらに、手術および装置に関連する感染は、一般に、医用デバイスの分野およびヘルスケア産業の分野において、主たる臨床的および経済的課題の一つとして残されている。毎年、米国において、二百万人もの病院患者が院内感染にかかっており、院内感染による年間80,000人の死者のうちの約80%は、デバイス関連のものである。医用デバイスの強力で費用効果が高い抗菌コーティングは、感染関連の臨床的課題およびヘルスケアの経済的負担を軽減するための鍵である。
【0008】
本発明の一つの目的は、高い抗菌効力を低い細胞毒性と合わせて有する抗菌コーティングを提供することである。
【0009】
本発明のもう一つの目的は、高い抗菌効力を低い細胞毒性と合わせて有する抗菌コーティングを有する医用デバイスを提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、医用デバイス上に抗菌コーティングを形成するための費用効果的で効率的な方法を提供することである。
【0011】
発明の概要
本発明のこれらおよび他の目的は、本明細書で記載する本発明の種々の態様によって達成される。
【0012】
本発明は、一つの態様において、コア材料と、医用デバイスに共有結合しておらず、且つ医用デバイスに増大した親水性を付与できる抗菌金属を含有する一層ずつの(LbL)コーティングを有する医用デバイスを提供する。好ましい実施態様において、抗菌金属含有LbLコーティングは、(a)荷電した抗菌金属ナノ粒子の1層;(b)荷電した抗菌金属含有ナノ粒子の1層;(c)銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体;(d)銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体;(e)銀ナノ粒子;および(f)それらの組み合わせよりなる群から選択されるものを含む。
【0013】
本発明は、他の態様において、抗菌金属含有LbLコーティングを上面に有する医用デバイスの製造方法であって、
(a)その医用デバイスを、第一の荷電した材料の溶液に接触させて、医用デバイス上に第一の荷電した材料の層を形成する工程;
(b)場合により、その医用デバイスを第一のすすぎ溶液と接触させることによって、その医用デバイスをすすぐ工程;
(c)その医用デバイスを、第二の荷電した材料の溶液と接触させることによって、第一の荷電した材料の層の最上部に第二の荷電した材料の層を形成する工程(ここで、第二の荷電した材料は、第一の荷電した材料の電荷と反対の電荷を有する);および
(d)場合により、その医用デバイスを第二のすすぎ溶液と接触させることによって、その医用デバイスをすすぐ工程を含み、
ここで、第一および第二の荷電した材料の少なくとも一つは、荷電した抗菌金属ナノ粒子;荷電した抗菌金属含有ナノ粒子、銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される、方法を提供する。
【0014】
本発明は、さらなる態様において、抗菌金属含有LbLコーティングを上面に有する医用デバイスの製造方法であって、その医用デバイスを第一の荷電した材料と第二の荷電した材料を含有する溶液中に、約80°以下の平均接触角を有することにより特徴付けられる抗菌LbLコーティングを得るように所望の時間浸漬する工程を含み、ここで、第二の荷電した材料が、第一の荷電した材料の電荷と反対の電荷を有し、第一の荷電した材料と第二の荷電した材料が、第一の荷電した材料と第二の荷電した材料との電荷の比が約3:1〜約100:1であるような量で存在し、第一および第二の荷電した材料の少なくとも1つが、荷電した抗菌金属ナノ粒子、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子、銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される、方法を提供する。
【0015】
さらに他の態様において、本発明は、抗菌金属含有LbLコーティングを上面に有するコンタクトレンズの製造方法であって、
(a)型が第一の光学表面を規定する第一の型部分および第二の光学表面を規定する第二の型部分を備え、その第一の型部分とその第二の型部分は、コンタクトレンズを形成する穴がその第一の光学表面とその第二の光学表面との間に形成されるように、互いに支えあうように構成されている、コンタクトレンズを製造するための型を形成する工程、
(b)1層づつ高分子電解質を堆積させる手法を用いて、転写可能な抗菌LbLコーティングをその光学表面の少なくとも一つに適用する工程(ここで、転写可能な抗菌LbLコーティングが、第一の荷電した材料の少なくとも1層および第一の荷電した材料の電荷と反対の電荷を有する第二の荷電した材料の少なくとも1層を含み、第一および第二の荷電した材料の少なくとも1つが、荷電した抗菌金属ナノ粒子、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子、銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される)、
(c)その型部分が互いに支えあうように、且つ、その光学表面がそのコンタクトレンズを形成する穴を規定するように、その第一の型部分とその第二の型部分とを位置決めする工程、
(d)重合性組成物をそのコンタクトレンズを形成する穴に分配する工程、および
(e)コンタクトレンズが形成されるように、そのコンタクトレンズを形成する穴の中でその重合性組成物を硬化し、それにより、その転写可能な抗菌LbLコーティングがその型部分の少なくとも一つの光学表面から脱着して、そのコンタクトレンズが抗菌金属含有LbLコーティングでコーティングされるように、その形成されたコンタクトレンズに再付着する工程を含む、方法を提供する。
【0016】
本発明のこれらの態様および他の態様は、好ましい本実施態様についての以下の説明から明らかとなろう。詳細な説明は、本発明を単に例示するものであって、添付の特許請求の範囲およびその等価物により規定される、本発明の範囲を限定するものではない。当業者に明白であるように、開示の新規な概念の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の多くの変形および改変をなしうるであろう。
【0017】
好ましい実施態様の詳細な説明
特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。一般に、本明細書で使用される命名および実験手法は当該技術で周知であり、一般に使用されている。これらの手法、例えば当該技術および種々の一般的参考文献で提供されている手法には従来の方法が使用される。ある用語が単数形で記載されている場合でも、本発明者らは、その用語の複数形をも考慮している。本明細書で使用される命名および実験手法は、当該技術で周知であり、一般に使用されているものである。本開示を通じて使用される以下の用語は、特に断りのない限り、以下の意味を有するものと理解される。
【0018】
「物品」とは、眼用レンズ、眼用レンズを製造するための型、または眼用レンズ以外の医用デバイスをいう。
【0019】
本明細書で使用する「医用デバイス」とは、それらの操作または利用の過程で患者の組織、血液または他の体液に接触する1つ以上の表面を有するデバイスをいう。医用デバイスの例は、(1)手術で使用するための体外デバイス、例えば、後で患者に戻される血液と接触する血液への酸素供給器、血液ポンプ、血液センサ、血液を運ぶために使用される管など、(2)人または動物の体内に埋め込まれる人工器官、例えば血管または心臓に埋め込まれる血管移植片、ステント、ペースメーカリード線、心臓弁など、(3)一時的に血管内で使用するためのデバイス、例えば、モニタリングまたは修復のために血管または心臓の中に配置されるカテーテル、ガイド線など、(4)やけどの患者用の人工皮膚等の人工組織、(5)歯磨剤、歯科用成型品、(6)眼用デバイス、および(7)眼用デバイスまたは眼用溶液を保存するケースまたは容器を含む。
【0020】
本明細書で使用する「眼用デバイス」とは、コンタクトレンズ(ハードまたはソフト)、眼内レンズ、角膜アンレー、眼の上もしくは周囲または眼の付近で使用される他の眼用デバイス(例えばステント、緑内障シャントなど)をいう。
【0021】
本明細書で使用する「生体適合性」とは、眼の環境を有意に損傷することなく、且つ使用者に有意に不快感を与えることなく、長期間患者の組織、血液、または他の体液と密に接触することのできる、材料または材料の表面をいう。
【0022】
本発明で使用する「眼に適合性がある」とは、眼の環境を有意に損傷することなく、且つ使用者に有意に不快感を与えることなく、長期間、眼の環境と密に接触することのできる材料または材料の表面をいう。したがって、眼に適合性があるコンタクトレンズは、有意な角膜腫脹を生じさせず、瞬きによって眼の上で十分に動いて十分な涙液交換を促進し、実質的な量のタンパク質または脂質を吸着せず、所定の装用期間中、装用者に実質的な不快感を生じさせない。
【0023】
本明細書で使用する「眼の環境」とは、視力矯正、薬物送達、外傷治癒、眼の色の変化または他の眼科用途に使用されるコンタクトレンズと密に接触することがある眼性流体(例えば涙液)および眼組織(例えば角膜)をいう。
【0024】
「モノマー」とは、重合させることができる低分子量化合物を意味する。低分子量とは通常、700ダルトン未満の平均分子量を意味する。
【0025】
「マクロマー」とは、さらなる重合が可能である官能基を含有する中程度の分子量および高分子量の化合物またはポリマーをいう。中程度の分子量および高分子量とは通常、700ダルトンを超える平均分子量をいう。
【0026】
「ポリマー」とは、1種以上のモノマーを重合させることによって形成される物質をいう。
【0027】
本明細書で使用する「表面改質」とは、物品が表面処理プロセス(または表面改質プロセス)において処理されていることを意味し、ここで、気体または液体と接触させることにより、および/またはエネルギー源を適用させることにより、(1)コーティングを物品の表面に適用する、(2)化学種を物品の表面に吸着させる、(3)物品の表面上の化学基の化学的性質(例えば、静電電荷)を変化させる、または(4)物品の表面特性を別の形に改質させる。
【0028】
本明細書で使用する「LbLコーティング」とは、物品、好ましくは医用デバイスに共有結合しておらず、且つ、物品上にポリイオン材料または荷電した材料の1層ずつの(「LbL」)堆積により得られるコーティングをいう。
【0029】
用語「二重層」とは、本明細書では広い意味で使用され、第一のポリイオン材料(または荷電した材料)の一層および引き続いて、第一のポリイオン材料(または荷電した材料)の電荷と反対の電荷を有する第二のポリイオン材料(または荷電した材料)の一層を、特定の順序ではなく、交互に適用することにより医用デバイス上に形成されるコーティング構造;あるいは第一の荷電したポリマー材料の一層および電荷を有しないポリマー材料または第二の荷電したポリマー材料の一層を、特定の順序ではなく、交互に適用することにより医用デバイス上に形成されるコーティング構造を包含することを意図している。第一と第二のコーティング材料(上記のもの)の層は、二重層中で互いに絡み合っていてもよいと理解されたい。
【0030】
コア材料とLbLコーティングを有する医用デバイスであって、荷電したポリマー材料の少なくとも一層および荷電したポリマー材料に非共有結合的に結合できる電荷を有しないポリマー材料の一層を含む医用デバイスは、
(a)その医用デバイスを、荷電したポリマー材料の溶液と接触させて、荷電したポリマー材料の層を形成する工程;
(b)場合により、その医用デバイスをすすぎ溶液と接触させることによって、その医用デバイスをすすぐ工程;
(c)その医用デバイスを、電荷を有しないポリマー材料の溶液と接触させることによって、荷電したポリマー材料の層の最上部に電荷を有しないポリマー材料の層を形成する工程(ここで、電荷を有しないポリマー材料は、荷電したポリマー材料に非共有結合的に結合できる);および
(d)場合により、その医用デバイスをすすぎ溶液と接触させることによって、その医用デバイスをすすぐ工程、を含む開示された方法に従って、製造することができる。
【0031】
本明細書で使用する、眼用レンズに対する「非対称コーティング」とは、眼用レンズの第一の表面と反対側の第二の表面とで異なるコーティングをいう。本明細書で使用する「異なるコーティング」とは、異なる表面特性または官能性を有する2種のコーティングをいう。
【0032】
本明細書で使用する「キャッピング層」とは、医用デバイスの表面に適用されるコーティング材料の最後の層をいう。
【0033】
本明細書で使用する「キャッピング二重層」とは、医用デバイスの表面に適用される第一のコーティング材料と第二のコーティング材料との最後の二重層をいう。
【0034】
本明細書で使用する「ポリクォート(polyquat)」とは、ポリマー四級アンモニウム基を含有する化合物をいう。
【0035】
本明細書で使用する「ポリイオン材料」とは、複数の荷電基を有するポリマー材料、例えば、高分子電解質、pおよびn形のドープされた導電性ポリマーをいう。ポリイオン材料は、ポリカチオン材料(正電荷を有する)およびポリアニオン材料(負電荷を有する)の両方を含む。
【0036】
本明細書で使用する「抗菌LbLコーティング」とは、医用デバイスの表面上または医用デバイスから伸展する隣接領域での微生物の増殖を減少させる、失わせる、または阻害する能力を医用デバイスに付与するLbLコーティングをいう。本発明の医用デバイス上の抗菌LbLコーティングは、好ましくは、生きている微生物の、少なくとも1−logの減少(≧90%阻害)、より好ましくは少なくとも2−logの減少(≧99%阻害)を示す。
【0037】
本明細書で使用する「抗菌剤」とは、当該技術で知られているように、微生物の増殖を減らす、失わせる、または阻害することができる薬剤をいう。
【0038】
「抗菌金属」は、そのイオンが抗菌効果を有し、生体適合性である、金属である。好ましい抗菌金属として、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Sn、Cu、Sb、BiおよびZnが挙げられ、Agが最も好ましい。
【0039】
「抗菌金属含有ナノ粒子」とは、1ミクロン未満のサイズを有し、その1以上の酸化状態で存在する少なくとも1種の抗菌金属を含有する粒子をいう。例えば、銀含有ナノ粒子は、その1以上の酸化状態での銀、例えば、Ag0、Ag1+、およびAg2+を含むことができる。
【0040】
「抗菌金属ナノ粒子」とは、1以上の抗菌金属からなり、1ミクロン未満のサイズを有する粒子をいう。抗菌金属ナノ粒子中の抗菌金属は、その1以上の酸化状態で存在することができる。
【0041】
「平均接触角」とは、少なくとも3個の個々の医用デバイスの計測値を平均化することによって得られる接触角(液滴法(Sessile Drop))をいう。
【0042】
本明細書で使用する、コーティングされた医用デバイスに関連しての「増大した表面親水性」または「増大した親水性」とは、コーティングされた医用デバイスが、コーティングされていない医用デバイスに比べて、減少した平均接触角を有することを意味する。
【0043】
本発明は、上面に形成された、コア材料と抗菌金属含有LbL表面コーティング(以下、LbLコーティング)を有する医用デバイスおよびその製造方法に関する。抗菌金属含有LbLコーティングは、医用デバイスに増大した表面親水性(以下、親水性)を付与し、生きた微生物の少なくとも50%の阻害を示す。好ましくは、増大した親水性は、約80°以下の平均接触角を有することにより特徴付けられる。
【0044】
ここに、抗菌金属、銀、特に、銀ナノ粒子及び銀高分子電解質複合体が、本発明の方法の1つに従って、費用効果的に、LbLコーティング中に組み入れることができることが見出された。本発明の銀含有LbLコーティングは、以下のように、いくつかの利点を有している。それは、医用デバイスに、抗菌活性のみならず、増大した表面親水性を付与できる。それは、例えば、コンタクトレンズの所望のバルク特性、例えば、酸素透過性、イオン透過性、および光学特性に最小の悪影響しかを及ぼさない。医用デバイス上に形成された本発明の銀含有LbLコーティングは、良好に医用デバイスに接着し、且つ、数サイクルのオートクレーブ処理の後でさえ、安定である。本発明の銀含有LbLコーティングの形成方法は、自動化に好適であり、任意の幾何学形状の広範囲の基材(ポリマー、ガラス、石英、セラミック、金属)のコーティングに使用することができる。銀含有コーティングからの銀の外部拡散はコントロール可能である。また、本発明の抗菌LbLコーティングを上面に有する医用デバイスは、さらに、プラズマ処理等の表面改質に付されて、プラズマコーティングと本発明の抗菌コーティングの双方の利点を有するコーティングを得ることができる。
【0045】
本発明によると、医用デバイスのコア材料(基材)は、広く多様なポリマー材料のいずれであってもよい。コア材料の例は、ヒドロゲル、シリコーン含有ヒドロゲル、ならびに、スチレン、置換スチレン、エチレン、プロピレン、アクリレート、メタクリレート、N−ビニルラクタム、アクリルアミドおよびメタクリルアミド、アクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらの組み合わせのポリマーおよびコポリマーを含むが、それらに限定されない。
【0046】
コーティングされるコア材料の好ましいグループは、生体医療用デバイス、例えばコンタクトレンズ、特に長時間装用のコンタクトレンズの製造に従来から使用されているものであり、それ自体親水性ではない。このような材料は当業者には公知であり、例えば、ポリシロキサン、ぺルフルオロアルキルポリエーテル、フッ素化ポリ(メタ)アクリレートもしくは例えば他の重合可能なカルボン酸から誘導される同等のフッ素化ポリマー、ポリアルキル(メタ)アクリレートもしくは他の重合可能なカルボン酸から誘導される同等のアルキルエステルポリマー等、またはフッ素化ポリオレフィン、例えば、フッ素化エチレンもしくはプロピレン、例えばテトラフルオロエチレン、好ましくは特定のジオキソール(例えば、ペルフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)との組み合わせを含んでいてもよい。好適なバルク材料の例は、例えばロトラフィルコンA(Lotrafilcon A)、ネオホコン(Neofocon)、パシホコン(Pasifocon)、テレホコン(Telefocon)、シラホコン(Silafocon)、フルオロシルホコン(Fluorsilfocon)、パフルホコン(Paflufocon)、シラホコン(Silafocon)、エラストフィルコン(Elastofilcon)、バリフィルコンA(Balifilcon A)、フルオロホコン(Fluorofocon)またはテフロンAF(Teflon AF)材料であり、例えば、約63〜73モル%のペルフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソールと約37〜27モル%のテトラフルオロエチレンとのコポリマーまたは約80〜90モル%のペルフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソールと約20〜10モル%のテトラフルオロエチレンとのコポリマーであるテフロンAF1600またはテフロンAF2400である。
【0047】
本発明の複合材料の基礎をなすコア材料は、好ましくは、カチオン基またはアニオン基等のイオン基を有しない材料である。したがって、好ましいコア材料の表面は、カルボキシ、スルホ、アミノ等のようなイオン基をも有さず、したがって、実質的にイオン電荷を有しない。
【0048】
好ましいコーティングされるコア材料のもう一つのグループは、結合または架橋員を介して結合される少なくとも一つの疎水性セグメントと少なくとも一つの親水性セグメントとを含む両親媒性セグメント化コポリマーである。例は、シリコーンヒドロゲル、例えば、PCT出願WO96/31792(Nicolsonら)およびWO97/49740(Hirtら)に開示されているものである。
【0049】
コーティングされるコア材料の特に好ましいグループは、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリメタクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリシロキサン、ペルフルオロアルキルポリエーテル、フッ素化ポリアクリレートもしくはメタクリレート、および少なくとも一つの疎水性セグメント(例えば、ポリシロキサンセグメントもしくはペルフルオロアルキルポリエーテルセグメントまたは混合ポリシロキサン/ペルフルオロアルキルポリエーテルセグメント)と、少なくとも一つの親水性セグメント(例えば、ポリオキサゾリン、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリビニルピロリドンポリアクリル酸もしくはポリメタクリル酸セグメント)とを含む両親媒性セグメント化コポリマーまたは二つ以上の基礎をなす前記モノマーのコポリマー混合物から選択される有機ポリマーを含む。
【0050】
コーティングされるコア材料は、腎臓透析膜、血液保存バック、ペースメーカーリード線または血管移植片の製造に従来から用いられる任意の血液接触材料であってもよい。例えば、その表面を改質することができる材料は、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、Dacron(商標)もしくはSilastic(商標)タイプのポリマー、またはそれらから製造される複合材であってもよい。
【0051】
さらに、コーティングされるコア材料は、また、適切な反応性基をもたない無機または金属ベースの材料、例えばセラミック、石英、または金属、例えばケイ素もしくは金、あるいは他のポリマーまたは非ポリマー基材であってもよい。例えば、埋め込み可能な生体医療用途では、セラミックが非常に有用である。さらに、例えば、バイオセンサー用途では、親水性にコーティングされたベース材料は、コーティングの構造がうまく制御されている場合には、非特異的な結合の影響を弱めるものと期待される。バイオセンサーは、金、石英、または他の非ポリマー基材上に、特定の炭水化物コーティングを必要とする場合もある。
【0052】
コーティングされるコア材料は、抗菌コーティングを適用する前に、表面改質に付すことができる。表面処理プロセスの例として、エネルギー(例えば、プラズマ、静電電荷、照射、または他のエネルギー源)による表面処理、化学的処理、物品の表面への親水性モノマーまたはマクロマーのグラフト、および高分子電解質の1層ずつの堆積が挙げられるが、それらに限定されない。表面処理プロセスの好ましいものは、プラズマ処理であり、そこでは、イオン化ガスが物品の表面に適用される。プラズマガスおよび処理条件は、米国特許第4,312,575号および第4,632,844号明細書に、より十分に記載されている。プラズマガスは、好ましくは、低級アルカン類と窒素、酸素、または不活性ガスとの混合物である。
【0053】
コーティングされるコア材料の形状は、広い範囲内で変化することができる。例は、粒子、顆粒、カプセル、繊維、チューブ、フィルムまたは膜、好ましくは眼用成型品のようなすべての成型品、例えば眼内レンズ、人工角膜、または特にコンタクトレンズである。
【0054】
抗菌金属含有LbLコーティングを形成するためのコーティング材料として、ポリイオン材料、電荷を有しないポリマー材料、表面電荷を有するしたポリマー化ビヒクル(リポソームおよびミセル)、荷電した抗菌金属ナノ粒子(好ましくは、荷電した銀含有ナノ粒子)、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子(好ましくは、荷電した銀含有ナノ粒子)、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、−COOAg基を有する負に荷電したポリイオン材料、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
本発明で使用しうるポリイオン材料として、ポリアニオン性ポリマーおよびポリカチオン性ポリマーが挙げられる。好適なポリアニオン性ポリマーの例は、例えば、カルボキシ、スルホ、スルファト、ホスホノもしくはホスファト基またはこれらの混合物を含む合成ポリマー、バイオポリマーまたは改質バイオポリマー、あるいはこれらの塩、例えば、これらの生体医学的に許容しうる塩および、コーティングされる物品が眼用デバイスである場合には、特に、眼科的に許容しうる塩が挙げられる。
【0056】
合成ポリアニオン性ポリマーの例は、直鎖ポリアクリル酸(PAA)、分枝鎖ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリアクリル酸もしくはポリメタクリル酸コポリマー、マレイン酸もしくはフマル酸コポリマー、ポリ(スチレンスルホン酸)(PSS)、ポリアミド酸、ジアミンおよびジ−もしくはポリカルボン酸のカルボキシ末端ポリマー(例えば、Aldrich社のカルボキシを末端に有するStarburst(商標)PAMAMデンドリマー)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)(ポリ−(AMPS))、アルキレンポリホスフェート、アルキレンポリホスホネート、炭水化物ポリホスフェートもしくは炭水化物ポリホスホネート(例えば、テイコ酸)である。分枝鎖ポリアクリル酸の例として、Goodrich 社からのCarbophil(登録商標)またはCarbopol(登録商標)タイプが挙げられる。アクリル酸またはメタクリル酸のコポリマーの例として、アクリル酸もしくはメタクリル酸と、ビニルモノマー、例えば、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドもしくはN−ビニルピロリドンとの共重合生成物が挙げられる。
【0057】
ポリアニオン性バイオポリマーまたは改質バイオポリマーの例は、ヒアルロン酸、ヘパリンもしくはコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカン、フコイダン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、アルギネート、ペクチン、ゲラン、カルボキシアルキルキチン、カルボキシメチルキトサン、硫酸化多糖である。
【0058】
好ましいポリアニオン性ポリマーは、直鎖もしくは分枝鎖ポリアクリル酸またはアクリル酸コポリマーである。より好ましいアニオン性ポリマーは、直鎖もしくは分枝鎖ポリアクリル酸である。ここで、分枝鎖ポリアクリル酸は、適量(少量)のジ−またはポリビニル化合物の存在下に、アクリル酸を重合させることによって得ることができるポリアクリル酸を意味するものと理解されたい。
【0059】
二重層の一部として適切なポリカチオン性ポリマーは、例えば、一級、二級もしくは三級アミノ基またはそれらの適切な塩、好ましくはそれらの眼科的に許容される塩、例えば、それらの塩酸塩などのハロゲン化水素塩を主鎖にまたは置換基として含む、合成ポリマー、バイオポリマー、または改質バイオポリマーである。一級もしくは二級アミノ基またはそれらの塩を含むポリカチオン性ポリマーが好ましい。
【0060】
合成ポリカチオン性ポリマーの例は、
(i)場合により改質剤単位を含む、ポリアリルアミン(PAH)ホモ−またはコポリマー;
(ii)ポリエチレンイミン(PEI);
(iii)場合により改質剤単位を含む、ポリビニルアミンホモ−またはコポリマー;
(iv)ポリ(ビニルベンジル−トリ−C1〜C4−アルキルアンモニウム塩)、例えば、ポリ(ビニルベンジル−トリ−メチルアンモニウムクロリド);
(v)脂肪族もしくは芳香脂肪族二ハロゲン化物および脂肪族N,N,N′,N′−テトラ−C1〜C4−アルキル−アルキレンジアミンのポリマー、例えば、(a)1,3−二塩化−もしくは1,3−二臭化プロピレンまたは二塩化もしくは二臭化p−キシリレンと(b)N,N,N′,N′−テトラメチル−1,4−テトラメチレンジアミンのポリマー;
(vi)ポリ(ビニルピリジン)またはポリ(ビニルピリジニウム塩)のホモ−またはコポリマー;
(vii)ポリ(ハロゲン化N,N−ジアリル−N,N−ジ−C1〜C4−アルキル−アンモニウム);
(viii)四級化アクリル酸またはメタクリル酸ジ−C1〜C4−アルキル−アミノエチルのホモ−またはコポリマー、例えば、ポリ(塩化2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルプロピルトリメチルアンモニウム)などのポリ(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルプロピルトリ−C1〜C2−アルキルアンモニウム塩)ホモポリマー、または四級化ポリ(メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル)もしくは四級化ポリ(ビニルピロリドン−co−メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル);
(ix)ポリクォート;または
(x)ポリアミノアミド(PAMAM)、例えば、直鎖PAMAM、またはアミノを末端に有するStarbust(商標)PAMAMデンドリマー(Aldrich)などのPAMAMデンドリマーである。
【0061】
上述のポリマーは、他に明確に記されていない場合、各々の場合において、遊離アミン、その適切な塩、例えば、生体医学的に許容される塩または特に眼科的に許容されるその塩、およびあらゆる四級化形態を含む。
【0062】
上記(i)、(iii)、(vi)または(viii)のポリマーに、場合により組み入れられる適切なコモノマーは、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−ビニルピロリドンなどの親水性モノマーである。
【0063】
本発明の二重層に用いられるポリカチオン性バイオポリマーまたは改質バイオポリマーの例は、塩基性ペプチド、タンパク質または糖タンパク、例えば、ポリ−ε−リジン、アルブミンまたはコラーゲン、アミノアルキル化多糖、例えば、キトサンまたはアミノデキストランである。
【0064】
本発明の二重層を形成する特定のポリカチオン性ポリマーは、ポリアリルアミンホモポリマー;上記の式(II)の改質剤単位を含むポリアリルアミン;ポリビニルアミンホモ−もしくはコポリマーまたはポリエチレンイミンホモポリマー、特に、ポリアリルアミンもしくはポリエチレンイミンホモポリマー、またはポリ(ビニルアミン−co−アクリルアミド)コポリマーである。
【0065】
前記リストは例示的であることを意図するが、網羅的でないことは明白である。当業者は、本明細書の開示および教示が与えられると、他の有用な多数のポリイオン材料を選択することができるであろう。
【0066】
荷電したポリマー材料の一層および荷電したポリマー材料に非共有結合的に結合しうる電荷を有しないポリマー材料の一層を、交互に基材上に堆積して、生体適合性LbLコーティングを形成することができることが、以前に見出されている。本発明に係る電荷を有しないポリマー材料は、ビニルラクタムのホモポリマー;1種以上の親水性ビニルコモノマーの存在下もしくは非存在下での、少なくとも1種のビニルラクタムのコポリマー;またはそれらの混合物であることができる。
【0067】
ビニルラクタムは、式(I)の構造を有する。
【0068】
【化1】

【0069】
式中、Rは、2〜8個の炭素原子を有するアルキレン二価基であり;R1は、水素、アルキル、アリール、アラルキルまたはアルカリール、好ましくは水素または7個までの、より好ましくは4個までの炭素原子の低級アルキル、例えば、メチル、エチルもしくはプロピルであり;アリールは10個までの炭素原子を有し、且つまた、アラルキルまたはアルカリールは14個までの炭素原子を有し;R2は、水素または7個までの、より好ましくは4個までの炭素原子の低級アルキル、例えば、メチル、エチルもしくはプロピルである。
【0070】
本発明は、一つの態様において、医用デバイスに共有結合していない抗菌金属含有抗菌LbLコーティングを有し、且つ増大した親水性、好ましくは、80°以下の平均接触角を有することにより特徴付けられる親水性を有する医用デバイスを提供する。
【0071】
好ましい実施態様において、抗菌LbLコーティングは、(a)荷電した抗菌金属ナノ粒子の1層;(b)荷電した抗菌金属含有ナノ粒子の1層;(c)銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体;(d)銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体;(e)銀ナノ粒子;および(f)それらの組み合わせよりなる群から選択される少なくとも1つのものを含む。
【0072】
より好ましい実施態様に従えば、荷電した抗菌金属ナノ粒子は、銀ナノ粒子である。
【0073】
抗菌金属ナノ粒子は、ナノ粒子を調製するための溶液中に存在し、得られるナノ粒子を安定化することができる材料(または、いわゆる安定剤)に大きく依存して、正に荷電しているかまたは負に荷電しているかのいずれかである。安定剤は、任意の公知の好適な材料であることができる。安定剤の例として、正に荷電した高分子電解質、負に荷電した高分子電解質、界面活性剤、サリチル酸、アルコール等が挙げられるが、これらに限定されない。荷電した抗菌金属ナノ粒子が銀ナノ粒子である場合、安定剤は好ましくは、少なくとも一つのイオウ含有基を持つ化学品である。イオウが強固に銀と結合することは公知である。
【0074】
イオウ含有基の例として、チオール、スルホニル、スルホン酸、アルキルスルフィド、アルキルジスルフィド、置換または非置換フェニルジスルフィド、チオフェニル、チオ尿素、チオエーテル、チアゾリル、チアゾリニル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
任意の公知の好適な方法が、銀および他の抗菌金属ナノ粒子の調製において使用される。例えば、銀イオンまたは銀塩は、安定剤の存在下に溶液中で、還元剤(例えば、NaBH4またはアスコルビン酸あるいはそれらの塩)あるいは加熱またはUV照射により還元され、銀ナノ粒子を形成することができる。当業者は、銀ナノ粒子を調製するための好適な公知の方法をどのように選択するかを知っている。銀塩の例として、硝酸銀、酢酸銀、クエン酸銀、硫酸銀、乳酸銀、およびハロゲン化銀が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
本発明によれば、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子は、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Sn、Cu、Sb、BiおよびZnよりなる群から選択される少なくとも一つの抗菌金属を含むことができる。好ましくは、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子は、銀含有ナノ粒子である。
【0077】
任意の公知の好適な方法を、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子を調製するために使用することができる。例えば、TiO2ナノ粒子を、AgNO3溶液と混合して、混合物を形成し、次いで、UV照射に暴露して、TiO2ナノ粒子を銀で完全にまたは部分的にコーティングする。上面に銀コーティングを有するTiO2ナノ粒子は、さらに、1層ずつの堆積技術により、1以上のポリイオン材料でコーティングされ、荷電した銀含有ナノ粒子を形成することができる。
【0078】
あるいは、1種以上の抗菌金属を、蒸着法を用いることにより、任意の生体適合性材料製のナノ粒子上にコーティングすることができる。この技術分野において周知の物理的蒸着法は、全て、基材表面上に、一般的には1原子ずつ、蒸気から金属を堆積する。その方法としては、真空またはアークエバポレーション、スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、およびイオンメッキが挙げられる。上面に抗菌金属コーティングを有するナノ粒子は、1層ずつ堆積法により、1以上のポリイオン材料でさらにコーティングされ、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子を形成することができる。
【0079】
他の好ましい実施態様において、医用デバイス上に形成された本発明の抗菌LbLコーティングは、荷電した抗菌金属ナノ粒子または荷電した抗菌金属含有ナノ粒子の少なくとも1層;および荷電した抗菌金属ナノ粒子または荷電した抗菌金属含有ナノ粒子の電荷と反対の電荷を有するポリイオン材料の少なくとも1層を含む。
【0080】
他の好ましい実施態様において、医用デバイス上に形成された本発明の抗菌コーティングは、負に荷電したポリイオン材料の少なくとも1層および銀カチオンと正に荷電したアミノ基を有するポリイオン材料との間で形成された銀−高分子電解質複合体の少なくとも1層を含む。複合体の例として、銀イオンとポリエチレンイミン(PEI)との間で形成された複合体、銀イオンとポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーとの間で形成された複合体、銀イオンとポリクォートとの間で形成された複合体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
他の好ましい実施態様において、医用デバイス上に形成された本発明の抗菌LbLコーティングは、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体の少なくとも1層およびイオウ含有基を有するポリイオン材料の電荷と反対の電荷を有するポリイオン材料の少なくとも1層を含む。
【0082】
他の好ましい実施態様において、医用デバイス上に形成された本発明の抗菌金属含有LbLコーティングは、まず、第一のポリイオン材料の少なくとも1層および第一のポリイオン材料の電荷と反対の電荷を有する第二のポリイオン材料の少なくとも1層からなる過渡的なLbLコーティングを形成すること(ここで、第一と第二のポリイオン材料の少なくとも1つが、銀カチオンと正に荷電したアミノ基を有するポリイオン材料との間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀カチオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される);次いで、過渡的なLbLコーティング中の銀イオンを、還元剤、UV照射または加熱により還元すること、により得られる銀ナノ粒子を含む。
【0083】
より好ましい実施態様において、医用デバイス上に形成された本発明の抗菌LbLコーティングは、荷電した抗菌金属ナノ粒子の1層、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子の1層、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体の1層、および銀カチオンと正に荷電したアミノ基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体の1層よりなる群から選択される少なくとも二つのものを含む。さらにより好ましくは、抗菌金属含有LbLコーティングは、抗菌活性を示すポリクォートの少なくとも1層をさらに含む。本発明のそのような抗菌LbLコーティングは、抗菌金属とポリクォートの抗菌共力作用を示し、そのため、より高い抗菌能およびより広い抗菌活性スペクトルを有する。
【0084】
任意の抗菌活性を示すポリクォートを本発明において使用することができる。好ましいポリクォートの例は、式(II)または(III):
【0085】
【化2】

【0086】
(式中、R3、R4、R5およびR6は、互いに独立に、C1〜C10炭化水素基、好ましくはC1〜C6アルキル基または1つ以上のヒドロキシル基を有するC1〜C6アルキル基であり;AおよびBは、互いに独立に、3〜15個の炭素原子を有するn−アルキレン基または3〜15個の炭素原子および1つ以上のヒドロキシル基を有するn−アルキレン基であり;Yは、約10〜500の数であり;nは、約100〜5000の数であり;Xは、塩素、臭素、またはヨウ素であり;R7およびR8は、互いに独立に、1〜10個の炭素原子を有するn−アルキル基または1〜10個の炭素原子および1つ以上のヒドロキシル基を有するn−アルキル基である)
のポリクォート、ポリマー状四級アンモニウム塩化合物(ポリクォート)である。
【0087】
本発明のより好ましい実施態様に従えば、医用デバイスの表面は、まず、抗菌活性を示すポリクォート、フラノン、抗菌ペプチド、イソオキサゾリノン、および有機セレン化合物よりなる群から選択される少なくとも1つの抗菌剤で(完全にまたは部分的に)コーティングされ、次いで、少なくとも1つの抗菌剤のコーティングの最上面に、本発明の抗菌金属含有LbLコーティングでコーティングされる。抗菌剤は、医用デバイスの表面に共有結合している。
【0088】
本発明の他のより好ましい実施態様に従えば、医用デバイスは、医用デバイスに共有結合していない抗菌金属含有LbLコーティング;およびLbLコーティングの反応性部位を介して、LbLコーティングに共有結合している少なくとも1つの抗菌剤を含み、ここで、その少なくとも1つの抗菌剤が、抗菌活性を示すポリクォート、フラノン、抗菌ペプチド、イソオキサゾリノン、および有機セレン化合物よりなる群から選択される。
【0089】
そのような医用デバイスは、抗菌金属と1つ以上の抗菌剤の抗菌共力作用を示し、そのため、より高い抗菌能およびより広い抗菌活性スペクトルを有する。
【0090】
任意の抗菌ペプチドが、本発明で使用できる。抗菌ペプチドの例として、セクロピンAメリチンハイブリッド(Cecropin A melittin hybrid)、インドリシジン、ラクトフェリシン、デフェンシン1(Defensin 1)、バクテネシン(Bactenecin)(ウシ)、マゲイニン2(Magainin 2)、それらの機能的に等価なまたは優れた類縁体、ムタシン1140、およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
セクロピンAメリチンハイブリッドは、Lys−Trp−Lys−Leu−Phe−Lys−Lys−Ile−Gly−Ala−Val−Leu−Lys−Val−Leu−COOH(または−NH2)のアミノ酸配列を有する。
【0092】
セクロピンAは、37残基のペプチドであり、Lys−Trp−Lys−Leu−Phe−Lys−Lys−Ile−Glu−Lys−Val−Gly−Gln−Asn−Ile−Arg−Asp−Gly−Ile−Ile−Lys−Ala−Gly−Pro−Ala−Val−Ala−Val−Val−Gly−Gln−Ala−Thr−Gln−Ile−Ala−Lys−NH(または−COOH)のアミノ酸配列を有する。
【0093】
セクロピンP1は、Ser−Trp−Leu−Ser−Lys−Thr−Ala−Lys−Lys−Leu−Glu−Asn−Ser−Ala−Lys−Lys−Arg−Ile−Ser−Glu−Gly−Ile−Ala−Ile−Ala−Ile−Gln−Gly−Gly−Pro−Argのアミノ酸配列を有する。
【0094】
ラクトフェリシン(ウシ)は、Arg−Arg−Trp−Gln−Trp−Arg−Met−Lys−Lys−Leu−Glyのアミノ酸配列を有する。
【0095】
バクテネシン(ウシ)は、ウシ中性親和性顆粒から単離された環状カチオン性ドデカペプチドである。それは、Arg−Leu−Cys−Arg−Ile−Val−Val−Ile−Arg−Val−Cys−Argのアミノ酸配列を有する。
【0096】
デフェンシン1は、内因性の抗生ペプチド(T. Ganzら、J. Clin. Invest., 76, 1427 (1985), M.E. Selstedら、J. Clin. Invest., 76, 1436 (1985), T. Ganz, M.E. Selsted,およびR.I. Lehrer, Eur. J. Haematol, 44, 1 (1990))であり、Ala−Cys−Tyr−Cys−Arg−Ile−Pro−Ala−Cys−Ile−Ala−Gly−Glu−Arg−Arg−Tyr−Gly−Thr−Cys−Ile−Tyr−Gln−Gly−Arg−Leu−Trp−Ala−Phe−Cys−Cysのアミノ酸配列を有する。
【0097】
インドリシジンは、13残基のペプチドアミドであり、Ile−leu−Pro−Trp−Lys−Trp−Pro−Trp−Trp−Pro−Trp−Arg−Arg−NH(または−COOH)のアミノ酸配列を有する。
【0098】
マゲイニン2は溶血性の抗菌ペプチド(A. Morら、Biochemistry, 30, 8824 (1991))であり、Gly−Ile−Gly−Lys−Phe−Leu−His−Ser−Ala−Lys−Lys−Phe−Gly−Lys−Ala−Phe−Val−Gly−Glu−Ile−Met−Asn−Serのアミノ酸配列を有する。
【0099】
抗菌ペプチドの「機能的に等価なまたは優れた類縁体」とは、1つ以上のアミノ酸残基が異なるアミノ酸(同類アミノ酸置換または他のもの)で置き換えられているか、または欠失され、もしくは挿入されて、同等のまたはより良好な生物活性(例えば、抗菌活性)をもたらした、天然の抗菌ペプチドの誘導体をいう。機能的に等価なまたは優れた類縁体は、置換類縁体、欠失類縁体、または付加類縁体であることができる。
【0100】
置換類縁体は、1つ以上のアミノ酸残基が異なるアミノ酸(同類アミノ酸置換または他のもの)で置き換えられて、同等のまたはより良好な生物活性(すなわち、抗菌活性)をもたらした、ペプチドである。欠失類縁体は、1つ以上のアミノ酸残基が欠失されて、同等のまたはより良好な抗菌活性をもたらした、ペプチドである。付加類縁体は、1つ以上のアミノ酸残基が挿入されて、同等のまたはより良好な生物活性(すなわち、抗菌活性)をもたらした、ペプチドである。当業者は、置換類縁体を設計し調製する方法を知っているであろう。例えば、米国特許第5,792,831号および第5,912,231号は、マゲイニン2の置換類縁体および欠失類縁体を記載している。
【0101】
抗菌ペプチドは、市販品の供給者から得ることができるか、あるいは任意の公知の好適な方法に従って、例えば、Applied Biosystems Model430Aペプチド合成機を用いて、合成することができる。他の好適なペプチド合成装置があること、または本発明のペプチドを製造するために、人手によるペプチド合成を行うことができることは、この技術分野で知られている。自動化された固相ペプチド合成が、例えば、Stewartら、(1984) Solid Phase Peptide Synthesis, Pierce Chemical Company, Rockford, Illinoisに記載されている。
【0102】
抗菌ペプチドを、好適なバクテリア宿主または真核生物宿主中で発現することにより製造することができることが、当業者に公知である。発現に好適な方法は、Sambrookら(Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 第2版、Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (1989))によりまたは同様なテキストに記載されている。
【0103】
抗菌活性を示す任意のフラノンを,本発明において使用することができる。好ましいフラノンの例は、PCT公開特許出願WO01/68090A1およびWO01/68091A1に開示されたものである。それらのフラノンは、一般に、式(IV):
【0104】
【化3】

【0105】
(式中、R11およびR12は、独立に、H、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、オキソアルキル、アルケニル、アリールまたはアリールアルキルであって、非置換であるかまたは置換され、場合により1つ以上のへテロ原子(すなわち、O、N、またはS)で中断され、直鎖であるかまたは分枝鎖であり、親水性または親フッ素性(fluorophilic)であり;R9およびR10は、独立に、H、ハロゲン、アルキル、アリールまたはアリールアルキル、アルコキシであり;R9またはR10+R12は、飽和または不飽和シクロアルカンであってもよく;そして
【0106】
【化4】

【0107】
は、単結合または二重結合を表すが、但し、R11、R12、R9およびR10の少なくとも一つは、ハロゲンである)の構造を有する。単独であるいは複合語中で用いられる用語「アルキル」は、好ましくは、1個以上の炭素原子の低級アルキルを意味する。
【0108】
抗菌活性を示す任意の有機セレン化合物を、本発明において使用することができる。抗菌有機セレン化合物の例として、米国特許第5,783,454号、第5,994,151号、第6,033,917号、第6,040,197号、第6,043,098号、第6,043,099号、第6,077,714号に開示されたものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
抗菌活性を示す任意のイソオキサゾリノンを、本発明において使用することができる。イソオキサゾリノンの例として、米国特許第6,465,456号および第6,420,349号ならびに米国特許出願公開番号2002/0094984に開示されたものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
抗菌剤は、予め作製された医用デバイスの表面をまず官能基化して官能基を得、次いで抗菌剤を共有結合させることにより、医用デバイスに共有結合させることができる。医用デバイスの表面改質(または官能基化)は、当業者に周知である。任意の公知の好適な方法が使用できる。
【0111】
例えば、コンタクトレンズの表面改質は、非限定的に、モノマーまたはマクロマーをポリマーにグラフト化してレンズを生体適合性にすることを含み、ここで、モノマーまたはマクロマーは、官能基、例えばヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、スルフヒドリル基、−COOR(RおよびR′は水素またはC1〜C8のアルキル基である)、ハライド(クロリド、ブロミド、ヨージド)、塩化アシル、イソチオシアネート、イソシアネート、モノクロロトリアジン、ジクロロトリアジン、モノ−またはジ−ハロゲン置換ピリジン、モノ−またはジ−ハロゲン置換ジアジン、ホスホルアミダイト、マレイミド、アジリジン、ハロゲン化スルホニル、ヒドロキシコハク酸イミドエステル、ヒドロキシスルホコハク酸イミドエステル、イミドエステル、ヒドラジン、アキシドニトロフェニル基、アジド、3−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド、グリオキサール、アルデヒド、エポキシ等を含む。
【0112】
適合する一対の官能基は、公知の反応条件下で、例えば、酸化−還元条件、脱水縮合条件、付加条件、置換(または置き換え)条件、2+2シクロ付加条件、ディールスアルダー反応条件、ROMP(開環メタセシス重合)条件、加硫条件、カチオン架橋条件、及びエポキシ硬化条件下で、共有結合または結合を形成することができることは、この技術分野で周知である。例えば、アミノ基は、アルデヒドと共有結合可能であり(アルデヒド基とアミノ基から形成されるシッフ塩基はさらに還元できる);ヒドロキシル基とアミノ基は、カルボキシル基と共有結合可能であり;カルボキシル基とスルホ基は、ヒドロキシル基と共有結合可能であり;メルカプト基は、アミノ基と共有結合可能であり;または炭素−炭素二重結合は他の炭素−炭素二重結合と共有結合可能である。
【0113】
架橋性基の対の間で形成される共有結合または結合の例として、非限定的に、エステル、エーテル、アセタール、ケタール、ビニルエーテル、カーバメート、尿素、アミン、アミド、エナミン、イミン、オキシム、アミジン、イミノエステル、カーボネート、オルソエステル、ホスホネート、ホスフィネート、スルホネート、スルフィネート、スルフィド、スルフェート、ジスルフィド、スルフィンアミド、スルホンアミド、チオエステル、アリール、シラン、シロキサン、ヘテロ環、チオカーボネート、チオカーバメート、およびホスホンアミドが挙げられる。
【0114】
他の例は、医用デバイスの表面のアミノ化である。コア材料の表面がヒドロキシル基を有する場合、医用デバイスは、不活性溶媒、例えばテトラヒドロフラン、およびトレシルクロリドの浴中に置いてもよい。表面上のヒドロキシル基は、次いで、トレシル化される。トレシル化されると、表面はエチレンジアミンの水溶液中でアミノ化され、その上の炭素原子に−NH−CH2−CH2−NH2基の結合をもたらす。あるいは、例えば、ヒドロゲルから作製されたコンタクトレンズは、ジアジリジン化合物を含む溶液中に浸漬され、あるいはそれを含む溶液で吹き付けされ、次いで、コンタクトレンズの表面に、加熱処理を経て、共有結合され、コンタクトレンズが官能基化される。そのような官能基化されたレンズは、抗菌剤の層の共有結合に使用することができる。
【0115】
医用デバイスに共有結合していない抗菌金属含有LbLコーティングおよびLbLコーティングの反応性部位を介してLbLコーティングに共有結合している少なくとも1つの抗菌剤の層を含む医用デバイスは、下記のコーティング方法の一つに従って予め作製された医用デバイスに抗菌金属含有LbLコーティングをまず適用し、次いで、少なくとも一つの抗菌剤の層を、それらの反応性部位のいくつかに共有結合させることにより、製造することができる。
【0116】
抗菌剤は、LbLコーティングに共有結合することができる。これは、直接反応または、好ましくは、結合剤が使用される反応のいずれかであってよい。例えば、直接反応は、結合剤を加えずに、LbLコーティングまたは抗菌剤中の基を活性化して、それを抗菌剤またはLbLコーティング上の官能基と反応性にする、反応剤の使用により達成することができる。例えば、LbLコーティング上の1以上のアミン基は、抗菌剤中のイソチオシアネート、アシルアジド、N−ヒドロキシコハク酸イミドエステル、塩化スルホニル、アルデヒド、グリオキサールエポキシド、25カーボネート、ハロゲン化アリール、イミドエステル、または無水物基と直接反応しうる。
【0117】
別法として、結合剤を使用してもよい。医用デバイスのLbLコーティングに抗菌剤を結合するのに有用な結合剤としては、N,N′−カルボニルジイミダゾール、カルボジイミド、例えば1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、またはそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。カルボジイミドはまた、N−ヒドロキシコハク酸イミドまたはN−ヒドロキシスルホコハク酸イミドと共に用いて、アミンと反応してアミドを形成できるエステルを形成することも可能である。
【0118】
アミノ基はまた、水素化シアノホウ素ナトリウム等の反応剤で還元して加水分解的に安定なアミン結合を形成することができるシッフ塩基の形成により、LbLコーティングと結合しうる。この目的に有用な結合剤としては、非限定的に、N−ヒドロキシコハク酸イミドエステル、例えばジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)、3,3′−ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)、スベリン酸ジスクシンイミジル、スベリン酸ビス(スルホスクシンイミジル)、酒石酸ジスクシンイミジル等、非限定的にジメチルアジピメートを含むイミドエステル、非限定的に1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼンを含むジフルオロベンゼン誘導体、非限定的にグルタルアルデヒドを含むブロモ官能性アルデヒド、および非限定的に1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルを含むそのエポキシドが挙げられる。当業者は、いくつもの他の結合剤が、LbLコーティングに存在する官能基に応じて使用しうることを認識するであろう。
【0119】
本発明に従えば、上記の本発明の抗菌LbLコーティングは、好ましくは、ポリイオン材料の少なくとも1つのキャッピング層、より好ましくは、2つの反対に荷電したポリイオン材料の少なくとも1つのキャッピング二重層または荷電したポリマー材料と荷電したポリマー材料に非共有結合的に結合できる電荷を有しないポリマー材料の少なくとも1つのキャッピング層を、最も外側の抗菌金属含有層の最上部にさらに含む。1以上のキャッピング層または二重層は、銀または他の抗菌金属イオンの抗菌LbLコーティング外への拡散をコントロールする拡散バリヤーとして働くことができる。
【0120】
本発明に従えば、上記の本発明の抗菌LbLコーティングは、好ましくは、プラズマコーティングでさらにキャッピングされており、すなわち、上面に抗菌金属含有LbLコーティングを有する医用デバイスは、プラズマ処理に付されて、抗菌金属含有LbLコーティングの最上面にプラズマコーティングが形成される。
【0121】
上面に抗菌金属含有LbLコーティングを有する医用デバイスは、任意の公知の好適な高分子電解質堆積技術に従って、予め作製された医用デバイス上に抗菌金属含有LbLコーティングを適用することにより製造することができる。
【0122】
LbLコーティングの適用は、WO99/35520ならびに米国特許出願公開番号2001−0045676号および公開番号2001−0048975号に記載されているような、いくつかの方法で達成することができる。ポリイオン材料をコア材料に結合させる前に、複雑で時間を要するコア材料(医用デバイス)の前処理は要らないということがWO99/35520に見出され、開示されている。医用デバイス、例えばコンタクトレンズのコア材料を、1種以上のポリイオン材料をそれぞれが含有する1以上の溶液と接触させるだけで、医用デバイス上にLbLコーティングを形成することができる。
【0123】
予め作製された医用デバイスとコーティング溶液との接触は、それをコーティング溶液中に浸漬することにより、あるいはそれにコーティング溶液を吹き付けることにより行うことができる。一つのコーティング法の実施態様は、浸漬コーティング工程および場合による浸漬すすぎ工程だけを含む。もう一つのコーティング法の実施態様は、吹き付けコーティング工程および吹き付けすすぎ工程だけを含む。しかしながら、吹き付けおよび浸漬コーティング工程ならびにすすぎ工程の種々の組み合わせを含む多数の代替方法が当業者によって設計されることができる。
【0124】
例えば、浸漬コーティングのみの方法は、(a)医用デバイスを第一のポリイオン材料の第一のコーティング溶液に浸漬する工程;(b)場合により、医用デバイスを第一のすすぎ溶液に浸漬することによって医用デバイスをすすぐ工程;(c)その医用デバイスを第二のポリイオン材料の第二のコーティング溶液に浸漬して、第一と第二のポリイオン材料の第一の高分子電解質二重層を形成する工程(ここで、第二のポリイオン材料は、第一のポリイオン材料の電荷と反対の電荷を有する);(d)場合により、医用デバイスをすすぎ溶液に浸漬することによってその医用デバイスをすすぐ工程;および(e)場合により、工程(a)〜(d)を何回か繰り返してさらに高分子電解質の二重層を形成する工程、を含む。より厚いLbLコーティングは、工程(a)〜(d)を好ましくは2〜40回繰り返すことにより製造することができる。好ましい二重層の数は、約5〜約20の二重層である。20を超える二重層は可能であるが、過度の数の二重層を有する一部のLbLコーティングでは層間剥離が起こりやすいということがわかった。
【0125】
コーティング工程およびすすぎ工程それぞれの浸漬時間は、多数のファクターに依存して変わりうる。好ましくは、ポリイオン性溶液へのコア材料の浸漬は、約1〜30分、より好ましくは約2〜20分、最も好ましくは約1〜5分の時間にわたって起こる。すすぎは、一工程で達成することもできるが、複数のすすぎ工程が非常に効率的である。
【0126】
コーティング法のもう一つの実施態様は、米国特許公開番号2001−0048975号に記載されている単回浸漬コーティング法である。このような単回浸漬コーティング法は、負に荷電したポリイオン材料および正に荷電したポリイオン材料をモル電荷比が約3:1〜約100:1になるような量で含有する溶液に、医用デバイスのコア材料を浸漬することを含む。この単回浸漬コーティング法を使用することにより、医用デバイス上に多数の二重層を形成することができる。
【0127】
コーティング法のもう一つの実施態様は、一連の吹き付けコーティング技術を含む。例えば、吹き付けコーティングのみの方法は一般に、(a)医用デバイスに第一のポリイオン材料の第一のコーティング溶液を吹き付ける工程;(b)場合により、医用デバイスにすすぎ溶液を吹き付けることによって医用デバイスをすすぐ工程;(c)その医用デバイスに第二のポリイオン材料の第二のコーティング溶液を吹き付けて、第一と第二のポリイオン材料の第一の高分子電解質二重層を形成する工程(ここで、第二のポリイオン材料は、第一のポリイオン材料の電荷と反対の電荷を有する);(d)場合により、その医用デバイスにすすぎ溶液を吹き付けることによって医用デバイスをすすぐ工程;(e)場合により、工程(a)〜(d)を何回か繰り返す工程、を含む。より厚いLbLコーティングは、工程(a)〜(d)を好ましくは2〜40回繰り返すことにより製造することができる。
【0128】
吹き付けコーティングの適用は、空気援用噴霧化分配法、超音波援用噴霧化分配法、圧電援用噴霧化分配法、電気機械的ジェット印刷法、圧電ジェット印刷法、圧電静水圧ジェット印刷法および熱ジェット印刷法ならびに眼用レンズに対する吹き付け装置の分配ヘッドの位置決めを制御し、コーティング液を分配することができるコンピューターシステムからなる群より選択される方法により達成されうる。そのような吹き付けコーティング法は、米国特許公開番号2002−0182316号に記載されている。そのような吹き付けコーティング法を使用することにより、非対称コーティングを医用デバイスに適用することができる。例えば、コンタクトレンズの背面を親水性および/または滑沢なコーティング材料でコーティングし、コンタクトレンズの前面を抗菌金属含有LbLコーティングでコーティングすることができる。また、装用者に多数の利点を同時に提供するように、機能的なパターンを有するコーティングをコンタクトレンズ上に製造することが可能である。
【0129】
上記の方法において、第一および第二の荷電した材料の少なくとも1つは、荷電した抗菌金属ナノ粒子、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子、銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される。
【0130】
本発明に従って、ポリイオン材料溶液は、多様な方法で調製することができる。特に、本発明のポリイオン性溶液は、ポリイオン材料を水またはこの材料を溶解させることができる任意の他の溶媒に溶解させることによって形成することができる。溶媒を使用する場合、溶液中の成分を水中で安定にとどまらせることができる任意の溶媒が適している。例えば、アルコールベースの溶媒を使用することができる。適当なアルコールとしては、イソプロピルアルコール、ヘキサノール、エタノールなどを挙げることができるが、これらに限定されない。当該技術で一般に使用される他の溶媒を本発明で好適に使用することができることが理解されよう。
【0131】
水に溶解されるのか溶媒に溶解されるのかにかかわらず、本発明のポリイオン材料の溶液中の濃度は一般に、使用される具体的な材料、所望のコーティング厚さおよび多数の他の要因に依存して異なることができる。しかしながら、ポリイオン材料の比較的希薄な水溶液を調合することが一般的である可能性がある。例えば、ポリイオン材料濃度は、約0.001重量%〜約0.25重量%、約0.005重量%〜約0.10重量%または約0.01重量%〜約0.05重量%であることができる。
【0132】
一般に、上述したポリイオン性溶液は、溶液を調製するための当該技術で周知の方法によって調製することができる。例えば、一つの実施態様では、ポリアニオン性溶液は、一定濃度を有する溶液が形成されるように、適量のポリアニオン材料、例えば約90,000の分子量を有するポリアクリル酸を水に溶解することによって調製することができる。一つの実施態様では、得られる溶液は0.001M PAA溶液である。ひとたび溶解すると、塩基性または酸性の物質を加えることによってポリアニオン性溶液のpHを調節することもできる。上記実施態様では、例えば、適量の1N塩酸(HCl)を加えてpHを2.5に調節することができる。
【0133】
しかしながら、第一のポリイオン材料を含むコーティング溶液が医用デバイスの表面上に本発明の生体適合性LbLコーティングの最内層を形成するために用いられる場合、溶液中の第一の荷電したポリマー材料の濃度は、LbLコーティングの親水性を増大するために十分に高いことが望ましい。好ましくは、LbLコーティングの最内層を形成するための溶液中の荷電したポリマー材料の濃度は、LbLコーティングの引き続く層を形成するためのコーティング溶液中のコーティング材料の濃度よりも少なくとも3倍高い。より好ましくは、LbLコーティングの最内層を形成するための溶液中の荷電したポリマー材料の濃度は、LbLコーティングの引き続く層を形成するためのコーティング溶液中のコーティング材料の濃度よりも少なくとも10倍高い。
【0134】
ポリカチオン性溶液もまた、上記のような方法で形成することができる。例えば、一つの実施態様では、約50,000〜約65,000の分子量を有するポリ(塩酸アリルアミン)を水に溶解して0.001M PAH溶液を形成することができる。その後、適量の塩酸を加えることにより、pHを2.5に調節することができる。
【0135】
本発明のいくつかの実施態様では、ポリアニオン材料およびポリカチオン材料の双方を一つの溶液中に含有する溶液を適用することが望ましいかもしれない。例えば、ポリアニオン性溶液を上記のように形成したのち、同じく上記のように形成されるポリカチオン性溶液と混合することができる。一つの実施態様では、その後、溶液をゆっくりと混合してコーティング溶液を形成することができる。混合物に加えられる各溶液の量は、所望のモル電荷比に依存する。例えば、10:1(ポリアニオン:ポリカチオン)溶液が望まれる場合は、PAH溶液1部(容量部)をPAA溶液10部に混合することができる。混合ののち、所望ならば溶液をろ過することもできる。
【0136】
コーティングの種々の特性、例えば厚さを変えるために、ポリクォートを含むポリイオン材料の分子量を変えることができる。特に、分子量が増えると、一般にコーティングの厚さは増大する。しかしながら、分子量の増加が大きすぎると、取り扱い難さも増す可能性がある。そのため、本発明の方法で使用されるポリイオン材料は通常、約2,000〜約150,000の分子量Mnを有する。いくつかの実施態様では、分子量は約5,000〜約100,000であり、他の実施態様では、約75,000〜約100,000である。
【0137】
ポリイオン性のおよび電荷を有していないポリマー材料に加えて、二重層またはその一部を形成するコーティング溶液はまた、添加剤を含むことができる。本明細書で使用されるように、添加剤としては、一般に、任意の化学品または材料を挙げることができる。例えば、活性剤、例えば抗菌剤および/または殺菌剤を、特に生体医療用途に使用する場合、二重層を形成する溶液に添加することができる。いくつかの抗菌ポリイオン材料として、ポリ四級アンモニウム化合物、例えば米国特許第3,931,319号(Greenら)に記載のもの(例えば、POLYQUAD(登録商標))が挙げられる。
【0138】
また、コーティング溶液に添加できる材料の他の例は、眼用レンズに有用なポリイオン材料、例えば放射線吸収特性を有する材料である。そのような材料として、例えば、可視着色剤、虹彩色修飾染料、および紫外(UV)光着色染料を挙げることができる。
【0139】
コーティング溶液に添加できる材料のさらに他の例は、細胞増殖を阻害または誘起する材料である。細胞増殖成長阻害剤は、究極的には取り除くことが意図されている長期間ヒトの組織に曝されるデバイス(例えば、細胞の過剰増殖成長が望ましくない、カテーテルまたは眼内レンズ(IOL))に有用であることができ、一方、細胞増殖誘起性のポリイオン材料は、永久的な埋め込みデバイス(例えば、人工角膜)に有用であることができる。
【0140】
添加剤がコーティング溶液に加えられる場合、そのような添加剤は、電荷を有することが好ましい。正電荷または負電荷を持つことにより、添加剤は、同じモル比で溶液中のポリイオン材料と置き換わることができる。例えば、ポリ四級アンモニウム化合物は、一般に正電荷を有する。それで、これらの化合物は、ポリカチオンが適用されると同様の方法で、添加剤が物品のコア材料に適用されるように、本発明の溶液中でポリカチオン性成分と置き換わることができる。
【0141】
本発明の抗菌LbLコーティングにおける好ましい二重層の数は、約5〜約20の二重層である。20を超える二重層は可能であるが、過度の数の二重層を有する一部のLbLコーティングでは層間剥離が起こりやすいということがわかった。
【0142】
本発明の抗菌LbLコーティングは、少なくとも一つのポリイオン材料、好ましくは、互いに反対の電荷を有する二つのポリイオン材料から形成することができる。
【0143】
本発明の抗菌LbLコーティングは、好ましくは、PAMAMデンドリマー、PAAm−co−PAA、PVP−co−PAA、グリコサミノグリカン類、フコイダン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、アルギネート、ペクチン、ゲラン、カルボキシアルキルキチン、カルボキシメチルキトサン、硫酸化多糖、糖タンパク質、およびアミノアルキル化多糖からなる群より選択される、滑沢なコーティング材料の少なくとも一層を含む。
【0144】
銀イオンを、還元剤によるか、加熱(例えば、オートクレーブ)によるか、またはUV照射によるかのいずれかで、銀または銀ナノ粒子に還元することができる。医用デバイス、例えば、コンタクトレンズの製造中に、銀イオンを銀ナノ粒子に還元しながら医用デバイスを殺菌するためにオートクレーブを使用することができる。
【0145】
本発明の医用デバイスはまた、実質的に米国特許出願公開番号2001−0045676号の教示に従って、抗菌金属含有LbLコーティング(上記のもの)を医用デバイス製造用の型にまず適用し、次いで抗菌金属含有LbLコーティングを、その型から製造される医用デバイスに転写グラフトすることにより製造することができる。
【0146】
コンタクトレンズをキャスト成型するための型セクションの形成方法は、一般に、当業者に周知である。本発明の方法は、型を形成するいずれか特定の方法に限定されない。事実、本発明においては、型を形成する任意の方法を使用することができる。しかしながら、例証する目的で、本発明に従って抗菌金属含有LbLコーティングを形成できる、コンタクトレンズ型を形成する一つの実施態様として以下の議論が提供される。
【0147】
一般に、型は、少なくとも二つの型セクション(または部分)または型半、すなわち、第一および第二の型半を含む。第一の型半は第一の光学表面を規定し、第二の型半は第二の光学表面を規定する。第一および第二の型半は、コンタクトレンズを形成する穴が第一の光学表面と第二の光学表面との間に形成されるように、互いを支持するように構成される。第一および第二の型半は、種々の手法、例えば射出成形で形成することができる。これらの半セクションは、コンタクトレンズを形成する穴をその間に形成するように、のちに一緒に合体させることができる。その後、コンタクトレンズは、種々の加工法、例えば紫外硬化を用いて、コンタクトレンズを形成する穴の中で形成することができる。
【0148】
型半を形成する好適な方法の例は、米国特許第4,444,711号(Schad);第4,460,534号(Boehmら);第5,843,346号(Morrill);および第5,894,002号(Bonebergerら)に記載されている。
【0149】
型を製造するための、当該技術で公知の実質的にすべての材料は、コンタクトレンズを製造するための型を製造するために使用することができる。例えば、ポリマー材料、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、およびPMMAが使用できる。UV光が透過する他の材料、例えば石英ガラスが使用できる。
【0150】
型が形成されると、本発明の転写可能な抗菌金属含有LbLコーティング(上記のもの)を、上記のLbL堆積法を用いることにより、一つまたは両方の型部分の光学表面(内部表面)上に適用できる。型部分の内部表面は、型の穴形成表面であり、レンズ形成材料と直接接触する。転写可能な抗菌金属含有LbLコーティングは、コンタクトレンズの後面(凹面)を規定する型部分上にあるいはコンタクトレンズの前面を規定する型部分上にまたは両方の型部分上に適用することができる。
【0151】
転写可能な抗菌金属含有LbLコーティングが、一つまたは両方の型部分の光学表面上に適用されると、レンズ材料を、次いで、組み合わされた型半により規定されるコンタクトレンズを形成する穴に分配することができる。一般に、レンズ材料は、任意の重合性組成物から製造することができる。特に、コンタクトレンズを形成する際、レンズ材料は、酸素透過性材料、例えばフッ素またはシロキサン含有ポリマーでありうる。例えば、好適な基材材料のいくつかの例として、米国特許第5,760,100号(Nicolsonら)に開示されたポリマー材料が挙げられるが、これらに限定されない。レンズ材料は、次いで、コンタクトレンズを形成する穴の中で硬化、すなわち重合されて、コンタクトレンズが形成され、これにより、転写可能なコーティングの少なくとも一部が光学表面から脱着され、形成されたコンタクトレンズに再付着される。
【0152】
熱硬化または光硬化法は、眼用レンズを形成する型中で重合性組成物を硬化するために使用することができる。そのような硬化法は当業者に周知である。
【0153】
本発明の抗菌金属含有LbLコーティングは、連続装用のコンタクトレンズにおいて特別な用途が見出される。本発明のLbLコーティングは、レンズの所望のバルク特性、例えば酸素透過性、イオン透過性および光学特性に最小の悪影響しかもたらさないであろう。また、本発明の抗菌金属含有LbLコーティングからの銀または他の抗菌金属の外への拡散は、最小になると考えられる。本発明の抗菌LbLコーティングは銀イオンの代わりに銀ナノ粒子を含んでいるが、それは依然として医用デバイスに所望のレベルの抗菌活性を付与することが見出されたことは、驚くべきことである。
【0154】
本発明は、他の態様において、医用デバイス上の抗菌金属含有LbLコーティングの形成方法を提供する。その方法は、医用デバイス上に、第一の荷電した材料の1層と、第一の荷電した材料の電荷と反対の電荷を有する第二の荷電した材料の1層を特定されない順序で、交互に適用して、抗菌LbLコーティングを形成することを含み、ここで、第一および第二の荷電した材料の少なくとも一つは、荷電した抗菌金属ナノ粒子、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子、銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される。
【0155】
前記開示は、当業者が本発明を実施することを可能にするであろう。具体的な実施態様およびその利点を読者がよりよく理解することができるように、以下の実施例を参照されたい。
【0156】
実施例1
接触角
接触角は、医用デバイス、例えばコンタクトレンズの表面親水性の一般的な尺度である。特に、低い接触角は、より親水性の表面に対応する。コンタクトレンズの平均接触角(液滴法)は、マサチューセッツ州、ボストンにあるAST, Inc.からのVCA2500XE接触角測定装置を用いて測定した。
【0157】
抗菌活性アッセイ
本発明の銀含有抗菌LbLコーティングを有するまたは有しないコンタクトレンズの抗菌活性を、角膜潰瘍から単離した、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomnas aeruginosa)GSU#3に対してアッセイした。シュードモナス・アエルギノーザGSU#3の細菌細胞は、凍結乾燥状態で保存した。細菌は、トリプシンの大豆寒天スラント上、37℃で18時間増殖させた。細胞を、遠心分離により収集し、滅菌したダルベッコリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄した。細菌細胞は、PBS中で懸濁し、光学濃度を108cfuに調整した。細胞懸濁液を、連続的に、103cfu/mlまで希釈した。
【0158】
銀含有抗菌LbLコーティングを有するレンズを、対照レンズ(すなわち、本発明の銀含有抗菌LbLコーティングなしのもの)に対して試験した。200μlの約5x103〜1x104cfu/mlのP.アエルギノーザGSU#3を各レンズの表面に置き、25℃で24時間インキュベートした。レンズから50μlを吸出し、連続的に希釈し、寒天プレート上にプレートアウトして、各レンズの微生物負荷量を測定した。24時間で、コロニーをカウントした。
【0159】
本発明のレンズ中に銀ナノ粒子および/またはポリクォートを有するまたは有しないいくつかのコンタクトレンズの抗菌活性を、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)ATCC#6538に対してもアッセイした。S・アウレウス#6538の細菌細胞は、凍結乾燥状態で保存した。細菌は、トリプシンの大豆寒天スラント上、37℃で18時間増殖させた。細胞を、遠心分離により収集し、滅菌したダルベッコリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄した。細菌細胞は、1/10強度のTSB中で懸濁し、光学濃度を108cfuに調整した。細胞懸濁液を、連続的に、1/10強度のTSB中で、103cfu/mlまで希釈した。
【0160】
銀および/またはポリクォートを有するレンズを、対照レンズ(すなわち、銀なしのもの)に対して試験した。200μlの約5x103〜1x104cfu/mlのS.アウレウス#6538を各レンズの表面に置き、25℃で24時間インキュベートした。レンズから50μlを吸い出し、連続的に希釈し、寒天プレート上にプレートアウトして、各レンズの微生物負荷量を測定した。24時間で、コロニーをカウントした。
【0161】
Agナノ粒子の調製
特記しない限り、Agナノ粒子は、NaBH4またはアスコルビン酸もしくはその塩を還元剤としておよびPAAを安定化剤として用いて、AgNO3を還元することにより調製した。Ag還元反応は、種々の温度、例えば、0℃〜高温、好ましくは0℃〜室温の間の任意の温度で、数分〜24時間以上の時間にわたって行うことができることを理解されたい。異なる分子量のPAAを用いることができる。UV照射、加熱、または水素も、Ag+を還元して、Agナノ粒子を形成させることができることをも理解されたい。
【0162】
1mLの0.01M AgNO3を、0.5mLの4%(重量)PAA溶液と混合した。次いで、混合物を、氷水混合物を用いて、0℃に保った。氷冷水を用いて98.5mLの1mM NaBH4溶液を調製し、同じく、氷水混合物を用いて、0℃に保った。AgNO3とPAAの混合物を、次いで、激しく攪拌しながら、98.5mLの1mM NaBH4溶液に迅速に加えた。ビーカーを氷で囲んで、約0℃に保った。
【0163】
上記の調製手順を、表1に示した種々の条件下で銀ナノ粒子のいくつかのバッチを調製するために使用した。調製したAgナノ粒子溶液は、製造条件によるが、一般に、黄色がかった金色を示し、410nm付近にUVピークを示した。
【0164】
【表1】

【0165】
実施例2
ポリアクリル酸(PAA)溶液
PolyScienceからの分子量約2,000のポリアクリル酸の溶液を、適量の材料を水に溶解して4%PAA溶液にすることによって調製した。
【0166】
ポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)(PDDA)溶液
Aldrichからの分子量約400,000〜500,00のPDDAの溶液を、適量の材料を水に溶解して0.5%PDDA溶液にすることによって調製した。pHを、0.1M NaOH溶液を加えることにより、pHが約8.0となるまで調整した。
【0167】
PDDA/Ag−NPの多重二重層を有するコーティングを、ガラススライド上に形成した。ガラススライドをPDDA溶液中に10分間浸漬した。PDDAの第一の層を有するガラススライドを、次いで、PAA溶液中に10分間浸漬した。その後、ガラススライドを、再度PDDA溶液中に10分間浸漬し、次いで、Ag−NP溶液中に10分間浸漬した。最後に、PDDA溶液中での10分間の浸漬とそれに続くAg−NP溶液中での10分間の浸漬の工程を所望の回数繰り返して、レンズ(またはシリコンウエハー)上に、所望の数のPDDA/Ag−NPの二重層を構築した。上記のコーティングプロセス中には、すすぎ工程が含まれる。
【0168】
PDDA/Ag−NPの多重二重層の構築は、UV/可視吸収スペクトル法によりモニターすることができる。試料Fからの銀ナノ粒子を用いて、増加した数のPDDA/Ag−NPの二重層を有するコーティン(1〜10の二重層)を、基材上に成功裡に構築された。コーティングの411nm(吸収ピーク付近)での吸収は、PDDA/Ag−NPの二重層の数が増加するにつれて、直線的に増大した。コーティング中でのAg−NPの存在は、また、AFMを用いることにより確認された。
【0169】
実施例3
ポリアクリル酸(PAA)溶液
PolyScienceからの分子量約90,000のポリアクリル酸の溶液を、適量の材料を水に溶解して、0.001M PAA溶液にすることによって調製した。PAA濃度は、PAA中の繰り返し単位に基づいて計算した。ひとたび溶解して、ポリアニオン性PAA溶液のpHを、1N塩酸を加えることにより、pHが約2.5となるまで調整した。
【0170】
ポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)(PDDA)溶液
PDDAはポリクォートである。Aldrichからの分子量約400,000〜500,00のPDDAの溶液を、適量の材料を水に溶解して0.5%PDDA溶液にすることによって調製した。pHを、0.1M NaOH溶液を加えることにより、pHが約8.0となるまで調整した。
【0171】
PDDA/Ag−NPの多重二重層を有するコーティングを、フルオロシロキサンヒドロゲル材料製のソフトコンタクトレンズ、ロトラフィルコンA(CIBAビジョン)上に形成した。コンタクトレンズをPAA溶液(0.001M、pH2.5)中に30分間浸漬して、レンズ上に第一の層を形成した。PAAの第一の層を有するレンズを、次いで、PDDA溶液(0.5%、pH8.0)中に5分間浸漬し、その後、Ag−NP溶液中に5分間浸漬した。最後に、PDDA溶液中での5分間の浸漬とそれに続くAg−NP溶液中での5分間の浸漬の工程を所望の回数繰り返して、レンズ(またはシリコンウエハー)上に、所望の数のPDDA/Ag−NPの二重層を構築した。上記のコーティングプロセス中には、すすぎ工程が含まれる。
【0172】
試料AからのAg−NPを用いて、PDDA/Ag−NPの10の二重層を持つコーティングを作製した。コーティングされたレンズは、水またはPBS中でオートクレーブ処理した。Ag NPに特徴的な、約410nmでのUVピークが、水またはPBS中でオートクレーブ処理したレンズの双方で観察された。約410nmでのUVピークは、これらのレンズの包装/保存溶液(水またはPBS)からは観察されず、包装/保存溶液(水またはPBS)中には検知可能な量のAg−NPがないことを示している。あるいは、言い換えると、UV法により、検知可能な量のAg−NPがレンズから包装/保存溶液(水またはPBS)に染み出さない。表2に示すように、コーティングされたレンズは、約110°の接触角を持つコーティングされていないレンズに比べて、約50〜60°の接触角で親水性であった。
【0173】
【表2】

【0174】
本発明の銀含有抗菌LbLコーティングを有するコンタクトレンズの抗菌活性を、実施例1に記載の方法に従って、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomnas aeruginosa)GSU#3に対してアッセイした。対照レンズは、銀含有抗菌LbLコーティングを有しないロトラフィルコンAコンタクトレンズであった。水またはPBSのいずれか中でオートクレーブ処理した、本発明の抗菌LbLコーティングを有する全てのレンズは、対照レンズと比較して、生細胞の少なくとも3−log減少(99.9%阻害)で特徴付けられる、抗菌活性を示した(表2)。
【0175】
実施例4
実施例3と同じPAAおよびPDDA溶液とコーティング方法を用いて、且つ、試料BからのAg−NPを用いて、PDDA/Ag−NPの10の二重層を持つコーティングを作製した。コーティングされたレンズは、水またはPBS中でオートクレーブ処理した。Ag NPに特徴的な、約410nmでのUVピークが、水またはPBS中でオートクレーブ処理したレンズの双方で観察された。約410nmでのUVピークは、これらのレンズの包装/保存溶液(水またはPBS)からは観察されず、包装/保存溶液(水またはPBS)中には検知可能な量のAg−NPがないことを示している。あるいは、言い換えると、UV法により、検知可能な量のAg−NPがレンズから包装/保存溶液(水またはPBS)に染み出さない。表3に示すように、コーティングされたレンズは、約110°の接触角を持つコーティングされていないレンズに比べて、約60°の接触角で親水性であった。
【0176】
【表3】

【0177】
本発明の銀含有抗菌LbLコーティングを有するコンタクトレンズの抗菌活性を、実施例1に記載の方法に従って、シュードモナス・アエルギノーザGSU#3に対してアッセイした。対照レンズは、銀含有抗菌LbLコーティングを有しないロトラフィルコンAコンタクトレンズであった。水またはPBSのいずれか中でオートクレーブ処理した、本発明の抗菌LbLコーティングを有する全てのレンズは、対照レンズと比較して、生細胞の少なくとも3−log減少(99.9%阻害)で特徴付けられる、抗菌活性を示した(表3)。
【0178】
実施例5
実施例3と同じPAAおよびPDDA溶液とコーティング方法を用いて、且つ、試料CからのAg−NPを用いて、PDDA/Ag−NPの10の二重層を持つコーティングを作製した。コーティングされたレンズは、水またはPBS中でオートクレーブ処理した。Ag NPに特徴的な、約410nmでのUVピークが、水またはPBS中でオートクレーブ処理したレンズの双方で観察された。約410nmでのUVピークは、これらのレンズの包装/保存溶液(水またはPBS)からは観察されず、包装/保存溶液(水またはPBS)中には検知可能な量のAg−NPがないことを示している。あるいは、言い換えると、UV法により、検知可能な量のAg−NPがレンズから包装/保存溶液(水またはPBS)に染み出さない。表4に示すように、コーティングされたレンズは、約110°の接触角を持つコーティングされていないレンズに比べて、約50°の接触角で親水性であった。全てのレンズは、スーダンブラック染色試験をパスした。
【0179】
【表4】

【0180】
本発明の銀含有抗菌LbLコーティングを有するコンタクトレンズの抗菌活性を、実施例1に記載の方法に従って、シュードモナス・アエルギノーザGSU#3に対してアッセイした。対照レンズは、銀含有抗菌LbLコーティングを有しないロトラフィルコンAコンタクトレンズであった。水またはPBSのいずれか中でオートクレーブ処理した、本発明の抗菌LbLコーティングを有する全てのレンズは、対照レンズと比較して、生細胞の少なくとも3−log減少(99.9%阻害)で特徴付けられる、抗菌活性を示した(表4)。
【0181】
実施例6
実施例3と同じPAAおよびPDDA溶液とコーティング方法を用いて、且つ、試料EからのAg−NPを用いて、PDDA/Ag−NPの10の二重層を持つコーティングを作製した。コーティングされたレンズは、水またはPBS中でオートクレーブ処理した。Ag NPに特徴的な、約410nmでのUVピークが、水またはPBS中でオートクレーブ処理したレンズの双方で観察された。約410nmでのUVピークは、これらのレンズの包装/保存溶液(水またはPBS)からは観察されず、包装/保存溶液(水またはPBS)中には検知可能な量のAg−NPがないことを示している。あるいは、言い換えると、UV法により、検知可能な量のAg−NPがレンズから包装/保存溶液(水またはPBS)に染み出さない。表5に示すように、コーティングされたレンズは、約110°の接触角を持つコーティングされていないレンズに比べて、約50°の接触角で親水性であった。全てのレンズは、スーダンブラック染色試験をパスした。
【0182】
【表5】

【0183】
本発明の銀含有抗菌LbLコーティングを有するコンタクトレンズの抗菌活性を、実施例1に記載の方法に従って、シュードモナス・アエルギノーザGSU#3に対してアッセイした。対照レンズは、銀含有抗菌LbLコーティングを有しないロトラフィルコンAコンタクトレンズであった。水またはPBSのいずれか中でオートクレーブ処理した、本発明の抗菌LbLコーティングを有する全てのレンズは、対照レンズと比較して、生細胞の少なくとも3−log減少(99.9%阻害)で特徴付けられる、抗菌活性を示した(表5)。
【0184】
実施例7
ポリ(エチレンイミン)(PEI)溶液
Polyscienceからの分子量約70,000のPEIの溶液を、適量の材料を水に溶解して、0.001M PEI溶液にすることによって調製した。PEI濃度は、PEI中の繰り返し単位に基づいて計算した。PEI溶液のpHを、0.1M硝酸を加えることにより、pHが約8.0となるまで調整した。
【0185】
ポリアクリル酸−銀(PAA−Ag)溶液
PAA−Ag溶液を、適量のPAA(分子量90,000、PolyScienceから)と硝酸銀(AgNO3)を水に溶解して、0.01MのPAAと0.01MのAgNO3にすることによって調製した。PAA濃度は、PAA中の繰り返し単位に基づいて計算した。ひとたび溶解して、PAA−Ag溶液のpHを、1N硝酸を加えることにより、pHが約2.5となるまで調整した。
【0186】
水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)溶液
NaBH4溶液を、適量の水素化ホウ素ナトリウム固体(Aldrichより)を水に溶解して、0.001M NaBH4溶液にすることによって調製した。
【0187】
PAA−Ag/PEIの多重二重層を有するコーティングを、シリコンウエハーおよびフルオロシロキサンヒドロゲル材料製のソフトコンタクトレンズ、ロトラフィルコンA(CIBAビジョン)上に形成した。コンタクトレンズ(および、シリコンウエハー)を4つのPAA溶液(0.001M、pH2.5)中に5分間ずつ合計20分間浸漬し、レンズ上に第一の層を形成した。PAAの第一の層を有するレンズを、次いで、PAA−Ag溶液中に5分間浸漬し、その後、PEI溶液中に5分間浸漬した。次いで、PAA−Ag溶液中での5分間の浸漬とそれに続くPEI溶液中での5分間の浸漬の工程を所望の回数繰り返して、レンズ(またはシリコンウエハー)上に、所望の数のPAA−Ag/PEIの二重層を構築した。最後に、レンズをNaBH4溶液中に5分間浸漬した。上記のコーティングプロセス中には、すすぎ工程が含まれた。次いで、全てのレンズを取り出し、水中またはPBS中で、オートクレーブ処理をした。
【0188】
シリコンウエハー上のコーティング厚さは、偏光解析法で測定して、約21nmであった。表6に示したように、コーティングされたレンズは、約110°の接触角を持つコーティングされていないレンズに比べて、約30〜65°の接触角で親水性であった。全てのレンズは、スーダンブラック染色試験をパスした。
【0189】
【表6】

【0190】
本発明の銀含有抗菌LbLコーティングを有するコンタクトレンズの抗菌活性を、実施例1に記載の方法に従って、シュードモナス・アエルギノーザGSU#3に対してアッセイした。対照レンズは、銀含有抗菌LbLコーティングを有しないロトラフィルコンAコンタクトレンズであった。水またはPBSのいずれか中でオートクレーブ処理した、本発明の抗菌LbLコーティングを有する全てのレンズは、対照レンズと比較して、生細胞の97.5%〜99.9%阻害で特徴付けられる、抗菌活性を示した(表6)。
【0191】
実施例8
ポリアクリル酸(PAA)溶液
PolyScienceからの分子量約90,000のポリアクリル酸の溶液を、適量の材料を水に溶解して、0.001M PAA溶液にすることによって調製した。PAA濃度は、PAA中の繰り返し単位に基づいて計算した。ひとたび溶解して、ポリアニオン性PAA溶液のpHを、1N硝酸を加えることにより、pHが約2.5となるまで調整した。
【0192】
ポリ(エチレンイミン)−Ag+(PEI−Ag+)溶液
PEI−Ag+溶液を、適量のPEI(分子量70,000、PolyScienceから)と硝酸銀(AgNO3)を水に溶解して、0.01MのPEIと0.001MのAgNO3にすることによって調製した。PEI濃度は、PEI中の繰り返し単位に基づいて計算した。ひとたび溶解して、PEI−Ag+溶液のpHを、1N硝酸を加えることにより、pHが約6.0となるまで調整した。
【0193】
ポリアクリル酸−銀(PAA−Ag)溶液
実施例7と同じ。
【0194】
水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)溶液
実施例7と同じ。
【0195】
PAA−Ag/PEI−Ag+の多重二重層を有するコーティングを、シリコンウエハーおよびフルオロシロキサンヒドロゲル材料製のソフトコンタクトレンズ、ロトラフィルコンA(CIBAビジョン)上に形成した。コンタクトレンズ(および、シリコンウエハー)を4つのPAA溶液(0.001M、pH2.5)中に5分間ずつ合計20分間浸漬し、レンズ上に第一の層を形成した。PAAの第一の層を有するレンズを、次いで、PAA−Ag溶液中に5分間浸漬し、その後、PEI−Ag+溶液中に5分間浸漬した。次いで、PAA−Ag溶液中での5分間の浸漬とそれに続くPEI−Ag+溶液中での5分間の浸漬の工程を所望の回数繰り返して、レンズ(またはシリコンウエハー)上に、所望の数のPAA−Ag/PEI−Ag+の二重層を構築した。最後に、レンズをNaBH4溶液中に5分間浸漬した。上記のコーティングプロセス中には、すすぎ工程が含まれる。次いで、全てのレンズを取り出し、水中またはPBS中で、オートクレーブ処理をした。
【0196】
シリコンウエハー上のコーティング厚さは、偏光解析法で測定して、約24nmであった。表7に示したように、コーティングされたレンズは、約110°の接触角を持つコーティングされていないレンズに比べて、約20°の接触角で親水性であった。全てのレンズは、スーダンブラック染色試験をパスした。
【0197】
【表7】

【0198】
本発明の銀含有抗菌LbLコーティングを有するコンタクトレンズの抗菌活性を、実施例1に記載の方法に従って、シュードモナス・アエルギノーザGSU#3に対してアッセイした。対照レンズは、銀含有抗菌LbLコーティングを有しないロトラフィルコンAコンタクトレンズであった。水またはPBSのいずれか中でオートクレーブ処理した、本発明の抗菌LbLコーティングを有する全てのレンズは、対照レンズと比較して、生細胞の少なくとも3−log減少(99.9%阻害)で特徴付けられる、抗菌活性を示した(表7)。
【0199】
実施例9
ポリアクリル酸(PAA)溶液
実施例7と同じ。
【0200】
ポリ(エチレンイミン)−Ag+(PEI−Ag+)溶液
PEI−Ag+溶液を、適量のPEI(分子量70,000、PolyScienceから)と硝酸銀(AgNO3)を水に溶解して、約7mMのPEI濃度と約3mMのAgNO3濃度とするか(溶液A)または約1mMのPEI濃度と約1mMのAgNO3濃度とする(溶液B)ことによって調製した。PEI濃度は、PEI中の繰り返し単位に基づいて計算した。ひとたび溶解して、PEI−Ag+溶液のpHを、1N硝酸を加えることにより、pHが約6.0となるまで調整した。
【0201】
水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)溶液
実施例7と同じ。
【0202】
PAA/PEI−Ag+の多重二重層を有するコーティングを、シリコンウエハーおよびフルオロシロキサンヒドロゲル材料製のソフトコンタクトレンズ、ロトラフィルコンA(CIBAビジョン)上に形成した。コンタクトレンズ(および、シリコンウエハー)を4つのPAA溶液(0.001M、pH2.5)中に5分間ずつ合計20分間浸漬し、レンズ上に第一の層を形成した。PAAの第一の層を有するレンズを、次いで、PAA溶液中に5分間浸漬し、その後、PEI−Ag+溶液中に5分間浸漬した。次いで、PAA溶液中での5分間の浸漬とそれに続くPEI−Ag+溶液中での5分間の浸漬の工程を所望の回数繰り返して、レンズ(またはシリコンウエハー)上に、所望の数のPAA/PEI−Ag+の二重層を構築した。レンズの半分を取り出し、水中またはPBS中で、オートクレーブ処理をした。最後に、レンズの残りの半分をNaBH4溶液中に5分間浸漬し、次いで、レンズを取り出し、水中またはPBS中で、オートクレーブ処理をした。上記のコーティングプロセス中には、すすぎ工程が含まれる。表8および表9に示したように、コーティングされたレンズは、約110°の接触角を持つコーティングされていないレンズに比べて、約20〜65°の接触角で親水性であった。全てのレンズは、スーダンブラック染色試験をパスした。
【0203】
【表8】

【0204】
【表9】

【0205】
本発明の銀含有抗菌LbLコーティングを有するコンタクトレンズの抗菌活性を、実施例1に記載の方法に従って、シュードモナス・アエルギノーザGSU#3に対してアッセイした。対照レンズは、銀含有抗菌LbLコーティングを有しないロトラフィルコンAコンタクトレンズであった。銀濃度および/またはPEI/Ag+濃度比に依存して、この実施例におけるレンズは、生体外試験に基づく抗菌活性を示したり示さなかったりした。いくつかのレンズが抗菌活性を示さないことは、コーティング中の低いAg+濃度によるものと思われる。
【0206】
実施例10
ポリクォートと銀ナノ粒子の共力作用を持つ抗菌コーティング
2種のコーティングを、ロトラフィルコンAシリコンヒドロゲルコンタクトレンズ上に適用した:
(1)ポリクォート(PDDA)とPAA−安定化銀ナノ粒子(PAA−AgNP)の双方でのコーティング。PDDAの濃度は、0.1mM〜100mM、好ましくは1mM〜30mMの範囲であることができる。PAA−AgNPの濃度は、0.01mM〜10mM、好ましくは0.1mM〜5mMの範囲であることができる。一例として、PDDA/PAA−AgNPの10の二重層を持つコーティングを作製し、PBS中でオートクレーブ処理をした。0.1mMのPAA−AgNP溶液を、実施例1記載の方法に従って調製し、1mMのPAA溶液および0.5%PDDA溶液を、実施例3記載の方法に従って調製した。他の濃度のPAA−AgNPおよびPDDA溶液も使用することができる。
(2)ポリクォート(PDDAおよびPAAから調製)のみで、銀ナノ粒子を有しないコーティング。一例として、PDDA/PAAの10の二重層を持つコーティングを作製し、PBS中でオートクレーブ処理をした。0.1mMのPAA溶液および0.5%PDDA溶液を、実施例3記載の方法に従って調製した。他の濃度のPAA−AgNPおよびPDDA溶液も使用することができる。
【0207】
コーティング(1)および(2)の双方を有するコンタクトレンズの抗菌活性を、実施例1に記載の方法に従って、シュードモナス・アエルギノーザGSU#3およびスタフィロコッカス・アウレウスATCC#6538に対してアッセイした。双方のコーティングを有するレンズは、生細胞の100%阻害で特徴付けられる、スタフィロコッカス・アウレウスに対する高い抗菌活性を示した。しかしながら、コーティング(2)(PDAAを有するが、銀を有しない)を有するレンズは、コーティング(1)(PDAAおよび銀を有する)を有するレンズに比べて、シュードモナス・アエルギノーザに対して非常に低い阻害を示した。このデータは、コーティング中にPDDAおよび銀の双方を有することの潜在的な利点を示している。
【0208】
実施例11
PDDA/PAA−AgNPの最上面にプラズマコーティングを有するまたは有しないコーティング
PDDA/PAA−AgNPの5の二重層の最上面にプラズマコーティングを有するまたは有しない、ロトラフィルコンAコンタクトレンズ上のPDDA/PAA−AgNPの5の二重層を有するコーティングを調製した。コーティング法は、PAA溶液中でのプライマー浸漬コーティング工程をも含む。コーティングの後、いくつかのレンズをPBS中に入れ、次いで、PBS中でオートクレーブ処理をした。いくつかのレンズを水中に入れ、次いで、乾燥し、プラズマコーティングした。この実施例において、使用したPDDAの濃度は0.1重量%であり、PAA−AgNPの濃度は0.1mMであった。
【0209】
コーティングされたレンズ中の平均銀濃度は、機器中性子放射化分析(INAA)により測定して、約52ppmであった。PDDA/PAA−AgNPの5の二重層の最上面にプラズマコーティングを有するまたは有しない双方のレンズの抗菌活性は、実施例1に記載の方法に従って、スタフィロコッカス・アウレウスATCC#6538に対してアッセイした。双方のレンズは、生細胞の100%阻害を示した。
【0210】
PDDA/PAA−AgNPの最上面にプラズマコーティングを有するレンズを、一晩試験様式において、眼上で試験した。レンズを装用した後、装用されたレンズの活性を、スタフィロコッカス・アウレウス(Saur31)またはシュードモナス・アエルギノーザ(Paer6294)で装用されたレンズを処理することによりアッセイした。装用されたレンズは、シュードモナスおよびスタフィロコッカスの双方に対して効能を維持しており、シュードモナスおよびスタフィロコッカスに対して、それぞれ生菌付着の66%および57%減少を与えた。
【0211】
実施例12
プラズマコーティングの最上面にPDDA/PAA−AgNPを有するコーティング
PDDA/PAA−AgNPの5の二重層を有するコーティングを、プラズマコーティングしたロトラフィルコンAコンタクトレンズの最上面に調製した。コーティングの後、レンズをPBS中に入れ、次いで、PBS中でオートクレーブ処理をした。実施例Bと同じく、使用したPDDAの濃度は0.1重量%であり、PAA−AgNPの濃度は0.1mMであった。
【0212】
コーティングされたレンズ中の平均銀濃度は、機器中性子放射化分析(INAA)により測定して、約7ppmであった。(プラズマコーティングの最上面にPDDA/PAA−AgNPの5の二重層で)コーティングしたレンズの抗菌活性は、実施例1に記載の方法に従って、スタフィロコッカス・アウレウスATCC#6538に対してアッセイし、生細胞の100%阻害を示した。
【0213】
実施例13
水すすぎをしない浸漬コーティング法
ロトラフィルコンAコンタクトレンズ上のポリクォートと銀ナノ粒子を有するコーティングは、PDDA含有溶液中とPAA−AgNP含有溶液中での浸漬の間に水すすぎ工程なしで、レンズをPDDA含有溶液中とPAA−AgNP含有溶液中に交互に浸漬することにより調製した。
【0214】
LbL浸漬コーティングでの通常の実施は、ポリカチオン溶液中とポリアニオン溶液中での浸漬の間に、水すすぎ工程を含んでいる。より効率的なコーティング法のために、水すすぎ工程の数を減らすかあるいはなくすることが望ましい。改善されたコーティング方法は、(PDDA溶液の代わりに)PDDAが優位な溶液を使用することにより見出された。
【0215】
PDDAが優位な溶液(PDDAdと称する)は、適当な容量のPAA−AgNP溶液をPDDA溶液に混合することにより調製された。PDDAのPAA−AgNPに対する比は、1/1〜1/0.001、好ましくは1/0.1〜1/0.01にコントロールできる。混合の順序が重要であることも見出された。PAA−AgNP溶液をPDDA溶液に混合することが好ましい。一例として、PDDAd溶液は、等量の0.2mMのPAA−AgNP溶液を、2mMのPDDA溶液に混合することにより作製された。0.2mMのPAA−AgNP溶液は、実施例1に記載の方法に従って調製された。2mMのPDDA溶液は、実施例3に記載の方法に従って調製された。
【0216】
様々な数のPDDA/PAA−AgNPの二重層を有する4種のコーティングを、ロトラフィルコンAコンタクトレンズ上に適用した。二重層の数は、それぞれ、2、3、4、および5であった。レンズはPBS中でオートクレーブ処理した。
【0217】
様々な数の二重層を有するコンタクトレンズの抗菌活性は、実施例1に記載の方法に従って、スタフィロコッカス・アウレウスATCC#6538に対してアッセイした。全てのレンズが、スタフィロコッカス・アウレウスに対して抗菌活性を示した(表10に示されるように)。
【0218】
【表10】

【0219】
実施例14
PDDA/PAA−AgNPコーティングを有する可視着色(visitinted)レンズ
コーティング条件に依存して、PDDA/PAA−AgNPコーティングを有するレンズは、透明であるか、あるいは黄色がかった色を有していた。可視着色レンズを調製するために、コーティングされていない緑色可視着色または青色可視着色レンズを、実施例13に記載のそれと同様のコーティング条件下でのコーティングにおいて使用した。緑色可視着色または青色可視着色レンズは、このようにして達成された。
【0220】
コーティングされていない緑色可視着色または青色可視着色ロトラフィルコンAレンズは、緑色(銅フタロシアニングリーン)または青色(銅フタロシアニンブルー)顔料を含有するロトラフィルコンA調合物から製造された。
【0221】
実施例15
PEI−AgNPよりなり、アスコルビン酸を還元剤として銀ナノ粒子(AgNP)を形成するコーティング
【0222】
ロトラフィルコンAコンタクトレンズ上のPEI−AgNP/PAA−AgNPの2の二重層を有するコーティングを、PEI−AgNP/PAA−AgNPの5の二重層の最上面にプラズマコーティングありでまたはなしで、調製した。
【0223】
(水素化ホウ素ナトリウム、NaBH4以外の)他の還元剤の探索において、アスコルビン酸(すなわちビタミンC)が銀イオンを銀粒子に還元できることが見出された。硝酸銀をポリ(エチレンイミン)(PEI)溶液に混合したときに銀粒子が生成できることも見出された。しかしながら、PEI−AgNP溶液の色は時間と共に濃くなり、400nm付近の銀ナノ粒子ピークのUV吸収強度も時間と共に増大した。その後、アスコルビン酸(すなわちビタミンC、VC)は、PEI−AgNO3系において、銀ナノ粒子の生成過程を加速および/または安定化できることが、さらに見出された。PEI−AgNP−VCの溶液は、少なくとも2日以上にわたって安定であり、UV吸収強度は、少なくとも2日にわたって、ほとんど不変であった。
【0224】
この例において、レンズを、最初にPAA−Ag溶液に浸漬し、続いてPEI−AgNP−VC溶液中に浸漬し、次いでPAA−Ag溶液に再度浸漬した。PEI−AgNP−VC/PAA−Agの二重層の一定の数(例えば、一例では2の二重層)ののち、レンズをVC溶液に1回浸漬した。水すすぎ工程を、浸漬の間に使用した。コーティングの後、レンズを水中に入れ、次いで、乾燥し、プラズマコーティングした。
【0225】
PEI−AgNP−VCの銀濃度は、0.01mM〜10mM、好ましくは0.1mM〜2mMの範囲であることができる。PAA−Agの濃度は、0.01mM〜100mM、好ましくは0.1mM〜10mMの範囲であることができる。この例では、PEI−AgNP−Vcの銀濃度は、0.2mMであり、PAA−Agの濃度は1mMであった。
【0226】
コーティングされたレンズ中の平均銀濃度は、原子吸光(AA)により測定して、約57ppmであった。抗菌活性は、実施例1に記載の方法に従って、スタフィロコッカス・アウレウスATCC#6538に対してアッセイした。レンズは、生細胞の93〜95%阻害を示した。
【0227】
レンズはまた、30PBSすすぎサイクル(PBS中、一日1回のすすぎ)に付し、次いで、再度、スタフィロコッカス・アウレウスATCC#6538に対してアッセイした。30サイクルの後、レンズは、生細胞の〜95%阻害で、その活性を維持していた。
【0228】
実施例16
銀ナノ粒子溶液の色のコントロール
通常、黄色が、還元剤(例えば、NaBH4)を用いて水溶液中で生成した銀ナノ粒子溶液の色である。黄色以外の色を、PAA−AgNO3混合溶液をある種のUV処理に暴露したときに発生させることができることが、予期せぬことに見出された。
1.アクアブルー銀ナノ粒子溶液
−COOHおよびAgNO3が1:1のモル比であるPAA−AgNO3混合物の溶液を、計算量のPAAおよびAgNO3を適量の水に溶解することにより調製した。溶液のpHは、10mM溶液について、約3.3〜3.4であった。溶液は透明で、無色であった。次いで、溶液を、UVスペクトルが250nm〜660nmをカバーするLQ−400グローベル(Grobel)ランプに暴露した。暴露時間は、10〜180秒の間で変えた。35秒間の暴露では、溶液は透明なままであり;50秒間の暴露で、溶液はアクアブルーに変化し;180秒の暴露では、溶液はアクアブルーのままであることがわかった。
PAA−AgNO3混合溶液をUVスペクトルが350〜440nmの蛍光管に暴露した場合には、青色は生成することができなかった。
溶液のpHを硝酸を用いて2.5に調整した場合には、青色は消失することも見出された。
【0229】
2.ピンク銀ナノ粒子溶液
他の予期しない興味深い発見は、溶液のpHを最初に5.0に調整した場合、LQ−400グローベル(Grobel)ランプに30秒以上暴露すると、溶液は透明からピンクに変化した。さらに、その色は、淡ピンクから中濃ピンクになり、その後、暴露時間が30秒から、65秒、次いで120秒へと増加すると、濃いピンクとなった。
【0230】
3.グリーン銀ナノ粒子溶液
1mM NaBH4溶液1滴を10mMのPAA−AgNO3(1:1)混合物溶液に加えると、溶液は、透明から淡黄色に変わった。興味深いことに、溶液は、次いで、LQ−400グローベルランプに65秒間暴露した後に、緑色に変化した。
【0231】
具体的な用語、装置および方法を使用して本発明の種々の実施態様を記載したが、このような記載は例を示すためにすぎない。使用した語は説明のための語であり、限定のための語ではない。添付の請求の範囲に記載する本発明の精神または範囲を逸脱することなく、当業者によって変形および改変が加えられうるということが理解されよう。さらに、種々の実施態様は、全体的または部分的に相互に交換可能であるということが理解されるべきである。したがって、添付の請求の範囲の精神および範囲は、本明細書に含まれる好ましい態様の記載に限定されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア材料と抗菌金属含有LbLコーティングを有する医用デバイスであって、抗菌金属含有LbLコーティングは、コア材料に共有結合しておらず、且つ医用デバイスに、80°未満の平均接触角を有することにより特徴付けられる親水性を付与する医用デバイス。
【請求項2】
抗菌金属含有LbLコーティングが、(a)荷電した抗菌金属ナノ粒子の1層;(b)荷電した抗菌金属含有ナノ粒子の1層;(c)銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体;(d)銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体;(e)銀ナノ粒子;および(f)それらの組み合わせよりなる群から選択されるものを含む、請求項1記載の医用デバイス。
【請求項3】
医用デバイスが、抗菌活性を示すポリクォート、フラノン、抗菌ペプチド、イソオキサゾリノン、および有機セレン化合物よりなる群から選択される1つ以上の抗菌剤をさらに含む、請求項2記載の医用デバイス。
【請求項4】
その1つ以上の抗菌剤が、コア材料の表面に共有結合している、請求項3記載の医用デバイス。
【請求項5】
その1つ以上の抗菌剤が、抗菌金属含有LbLコーティングの反応性部位を介して抗菌金属含有LbLコーティングに共有結合している、請求項3記載の医用デバイス。
【請求項6】
抗菌金属含有LbLコーティングが、ポリイオン材料の1つのキャッピング層を含む、請求項2記載の医用デバイス。
【請求項7】
抗菌金属含有LbLコーティングが、正に荷電したポリイオン材料と負に荷電したポリイオン材料の1つのキャッピング電解質二重層または荷電したポリマー材料と荷電したポリマー材料に非共有結合的に結合できる電荷を有しないポリマー材料の1つのキャッピング層を含む、請求項2記載の医用デバイス。
【請求項8】
抗菌LbLコーティングが、抗菌ポリクォートの少なくとも1つの層を含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の医用デバイス。
【請求項9】
医用デバイスが、ハードまたはソフトコンタクトレンズである、請求項1〜8のいずれか1項記載の医用デバイス。
【請求項10】
抗菌金属含有LbLコーティングが、荷電した抗菌金属ナノ粒子および/または荷電した抗菌金属含有ナノ粒子の少なくとも1層;および荷電した抗菌金属ナノ粒子および/または荷電した抗菌金属含有ナノ粒子の電荷と反対の電荷を有するポリイオン材料の少なくとも1層を含む、請求項9記載のコンタクトレンズ。
【請求項11】
その荷電した抗菌金属ナノ粒子が、荷電した銀ナノ粒子であり、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子が、荷電した銀含有ナノ粒子である、請求項10記載のコンタクトレンズ。
【請求項12】
抗菌金属含有LbLコーティングが、負に荷電したポリイオン材料の少なくとも1層および銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料との間で形成された銀−高分子電解質複合体の少なくとも1層を含む、請求項9記載のコンタクトレンズ。
【請求項13】
抗菌金属含有LbLコーティングが、負に荷電したポリイオン材料の少なくとも1層および銀カチオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料との間で形成される銀−高分子電解質複合体の少なくとも1層を含む、請求項9記載のコンタクトレンズ。
【請求項14】
抗菌金属含有LbLコーティングが、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料との間で形成される銀−高分子電解質複合体の少なくとも1層を含む、請求項9記載のコンタクトレンズ。
【請求項15】
抗菌金属含有LbLコーティングが、銀ナノ粒子を含む、請求項9記載のコンタクトレンズ。
【請求項16】
銀ナノ粒子が、まず、第一のポリイオン材料の少なくとも1層および第一のポリイオン材料の電荷と反対の電荷を有する第二のポリイオン材料の少なくとも1層からなる過渡的なLbLコーティングを形成すること、ここで、第一と第二のポリイオン材料の少なくとも1つが、銀カチオンと正に荷電したアミノ基を含むポリイオン材料との間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀カチオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体であり;次いで、過渡的なLbLコーティング中の銀イオンを、還元剤、UV照射または加熱により還元することにより得られる、請求項15記載のコンタクトレンズ。
【請求項17】
コンタクトレンズが、抗菌金属含有LbLコーティングの最上面にプラズマコーティングをさらに含む、請求項9記載のコンタクトレンズ。
【請求項18】
医用デバイスが、眼用デバイスまたは眼用溶液を保存するためのケースまたは容器である、請求項1〜7のいずれか1項記載の医用デバイス。
【請求項19】
抗菌金属含有LbLコーティングを上面に有する医用デバイスの製造方法であって、その医用デバイスを第一の荷電した材料と第二の荷電した材料を含有する溶液中に、約80°以下の平均接触角を有することにより特徴付けられる抗菌LbLコーティングを得るように所望の時間浸漬する工程を含み、ここで、第二の荷電した材料が第一の荷電した材料の電荷と反対の電荷を有し、第一の荷電した材料と第二の荷電した材料が、第一の荷電した材料と第二の荷電した材料との電荷の比が約3:1〜約100:1であるような量で存在し、第一および第二の荷電した材料の少なくとも1つが、荷電した抗菌金属ナノ粒子、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子、銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される、方法。
【請求項20】
第一および第二の荷電した材料の少なくとも1つが、銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択されるものであり、且つ、その方法が、抗菌LbLコーティング中の銀イオンを還元して銀ナノ粒子を形成する工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
その還元が、還元剤、UV照射、または加熱により生じる、請求項37記載の方法。
【請求項22】
浸漬工程の前に、医用デバイスの表面を完全にまたは部分的に、抗菌活性を示すポリクォート、フラノン、抗菌ペプチド、イソオキサゾリノン、および有機セレン化合物よりなる群から選択される少なくとも1つの抗菌剤でコーティングする工程を含み、ここで、その少なくとも1つの抗菌剤が医用デバイスの表面に共有結合している、請求項20記載の方法。
【請求項23】
少なくとも1つの抗菌剤を、抗菌金属含有LbLコーティングの反応性部位を介して抗菌金属含有LbLコーティングに共有結合させる工程をさらに含み、ここで、その少なくとも1つの抗菌剤が、抗菌活性を示すポリクォート、フラノン、抗菌ペプチド、イソオキサゾリノン、および有機セレン化合物よりなる群から選択される、請求項19記載の方法。
【請求項24】
抗菌金属含有LbLコーティングを有する医用デバイスをプラズマ処理して、抗菌金属含有LbLコーティングの最上面にプラズマコーティングを形成する工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項25】
抗菌金属含有LbLコーティングを上面に有するコンタクトレンズの製造方法であって、
(a)型が第一の光学表面を規定する第一の型部分および第二の光学表面を規定する第二の型部分を備え、その第一の型部分とその第二の型部分は、コンタクトレンズを形成する穴がその第一の光学表面とその第二の光学表面との間に形成されるように、互いに支えあうように構成されている、コンタクトレンズを製造するための型を形成する工程、
(b)1層づつ高分子電解質を堆積させる手法を用いて、転写可能な抗菌LbLコーティングをその光学表面の少なくとも一つに適用する工程(ここで、転写可能な抗菌LbLコーティングが、第一の荷電した材料の少なくとも1層および第一の荷電した材料の電荷と反対の電荷を有する第二の荷電した材料の少なくとも1層を含み、第一および第二の荷電した材料の少なくとも1つが、荷電した抗菌金属ナノ粒子、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子、銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される)、
(c)その型部分が互いに支えあうように、且つ、その光学表面がそのコンタクトレンズを形成する穴を規定するように、その第一の型部分とその第二の型部分とを位置決めする工程、
(d)重合性組成物を、そのコンタクトレンズを形成する穴に分配する工程、および
(e)コンタクトレンズが形成されるように、そのコンタクトレンズを形成する穴の中でその重合性組成物を硬化し、それにより、その転写可能な抗菌LbLコーティングがその型部分の少なくとも一つの光学表面から脱着して、そのコンタクトレンズが抗菌金属含有LbLコーティングでコーティングされるように、その形成されたコンタクトレンズに再付着する工程を含む、方法。
【請求項26】
その方法が、転写可能な抗菌LbLコーティングまたは銀含有抗菌LbLコーティング中の銀イオンを還元して銀ナノ粒子を形成する工程をさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
その還元が、還元剤、UV照射、または加熱により生じる、請求項26記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1つの抗菌剤を、コンタクトレンズ上の抗菌LbLコーティングの反応性部位を介して抗菌LbLコーティングに共有結合させる工程をさらに含み、ここで、その少なくとも1つの抗菌剤が、抗菌活性を示すポリクォート、フラノン、抗菌ペプチド、イソオキサゾリノン、および有機セレン化合物よりなる群から選択される、請求項25記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア材料と抗菌金属含有LbLコーティングを有する医用デバイスであって、抗菌金属含有LbLコーティングは、(a)荷電した抗菌金属ナノ粒子の1層;(b)荷電した抗菌金属含有ナノ粒子の1層;(c)銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体;(d)銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体;(e)銀ナノ粒子;および(f)それらの組み合わせよりなる群から選択されるものを含み、ここで、抗菌金属含有LbLコーティングは、コア材料に共有結合しておらず、且つ医用デバイスに、80°未満の平均接触角を有することにより特徴付けられる親水性を付与する、医用デバイス。
【請求項2】
医用デバイスが、抗菌活性を示すポリクォート、フラノン、抗菌ペプチド、イソオキサゾリノン、および有機セレン化合物よりなる群から選択される1つ以上の抗菌剤をさらに含む、請求項1記載の医用デバイス。
【請求項3】
その1つ以上の抗菌剤が、コア材料の表面に共有結合している、請求項2記載の医用デバイス。
【請求項4】
その1つ以上の抗菌剤が、抗菌金属含有LbLコーティングの反応性部位を介して抗菌金属含有LbLコーティングに共有結合している、請求項2記載の医用デバイス。
【請求項5】
抗菌金属含有LbLコーティングが、ポリイオン材料の1つのキャッピング層を含む、請求項1記載の医用デバイス。
【請求項6】
抗菌金属含有LbLコーティングが、正に荷電したポリイオン材料と負に荷電したポリイオン材料の1つのキャッピング電解質二重層または荷電したポリマー材料と荷電したポリマー材料に非共有結合的に結合できる電荷を有しないポリマー材料の1つのキャッピング層を含む、請求項1記載の医用デバイス。
【請求項7】
抗菌LbLコーティングが、抗菌ポリクォートの少なくとも1つの層を含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の医用デバイス。
【請求項8】
医用デバイスが、ハードまたはソフトコンタクトレンズである、請求項1〜7のいずれか1項記載の医用デバイス。
【請求項9】
抗菌金属含有LbLコーティングが、荷電した抗菌金属ナノ粒子および/または荷電した抗菌金属含有ナノ粒子の少なくとも1層;および荷電した抗菌金属ナノ粒子および/または荷電した抗菌金属含有ナノ粒子の電荷と反対の電荷を有するポリイオン材料の少なくとも1層を含む、請求項8記載のコンタクトレンズ。
【請求項10】
その荷電した抗菌金属ナノ粒子が、荷電した銀ナノ粒子であり、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子が、荷電した銀含有ナノ粒子である、請求項9記載のコンタクトレンズ。
【請求項11】
抗菌金属含有LbLコーティングが、負に荷電したポリイオン材料の少なくとも1層および銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料との間で形成された銀−高分子電解質複合体の少なくとも1層を含む、請求項8記載のコンタクトレンズ。
【請求項12】
抗菌金属含有LbLコーティングが、負に荷電したポリイオン材料の少なくとも1層および銀カチオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料との間で形成される銀−高分子電解質複合体の少なくとも1層を含む、請求項8記載のコンタクトレンズ。
【請求項13】
抗菌金属含有LbLコーティングが、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料との間で形成される銀−高分子電解質複合体の少なくとも1層を含む、請求項8記載のコンタクトレンズ。
【請求項14】
抗菌金属含有LbLコーティングが、銀ナノ粒子を含む、請求項8記載のコンタクトレンズ。
【請求項15】
銀ナノ粒子が、まず、第一のポリイオン材料の少なくとも1層および第一のポリイオン材料の電荷と反対の電荷を有する第二のポリイオン材料の少なくとも1層からなる過渡的なLbLコーティングを形成すること、ここで、第一と第二のポリイオン材料の少なくとも1つが、銀カチオンと正に荷電したアミノ基を含むポリイオン材料との間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀カチオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体であり;次いで、過渡的なLbLコーティング中の銀イオンを、還元剤、UV照射または加熱により還元することにより得られる、請求項14記載のコンタクトレンズ。
【請求項16】
コンタクトレンズが、抗菌金属含有LbLコーティングの最上面にプラズマコーティングをさらに含む、請求項8記載のコンタクトレンズ。
【請求項17】
医用デバイスが、眼用デバイスまたは眼用溶液を保存するためのケースまたは容器である、請求項1〜6のいずれか1項記載の医用デバイス。
【請求項18】
抗菌金属含有LbLコーティングを上面に有する医用デバイスの製造方法であって、その医用デバイスを第一の荷電した材料と第二の荷電した材料を含有する溶液中に、約80°以下の平均接触角を有することにより特徴付けられる抗菌LbLコーティングを得るように所望の時間浸漬する工程を含み、ここで、第二の荷電した材料が第一の荷電した材料の電荷と反対の電荷を有し、第一の荷電した材料と第二の荷電した材料が、第一の荷電した材料と第二の荷電した材料との電荷の比が約3:1〜約100:1であるような量で存在し、第一および第二の荷電した材料の少なくとも1つが、荷電した抗菌金属ナノ粒子、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子、銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される、方法。
【請求項19】
第一および第二の荷電した材料の少なくとも1つが、銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択されるものであり、且つ、その方法が、抗菌LbLコーティング中の銀イオンを還元して銀ナノ粒子を形成する工程をさらに含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
その還元が、還元剤、UV照射、または加熱により生じる、請求項19記載の方法。
【請求項21】
浸漬工程の前に、医用デバイスの表面を完全にまたは部分的に、抗菌活性を示すポリクォート、フラノン、抗菌ペプチド、イソオキサゾリノン、および有機セレン化合物よりなる群から選択される少なくとも1つの抗菌剤でコーティングする工程を含み、ここで、その少なくとも1つの抗菌剤が医用デバイスの表面に共有結合している、請求項19記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1つの抗菌剤を、抗菌金属含有LbLコーティングの反応性部位を介して抗菌金属含有LbLコーティングに共有結合させる工程をさらに含み、ここで、その少なくとも1つの抗菌剤が、抗菌活性を示すポリクォート、フラノン、抗菌ペプチド、イソオキサゾリノン、および有機セレン化合物よりなる群から選択される、請求項18記載の方法。
【請求項23】
抗菌金属含有LbLコーティングを有する医用デバイスをプラズマ処理して、抗菌金属含有LbLコーティングの最上面にプラズマコーティングを形成する工程をさらに含む、請求項18記載の方法。
【請求項24】
抗菌金属含有LbLコーティングを上面に有するコンタクトレンズの製造方法であって、
(a)型が第一の光学表面を規定する第一の型部分および第二の光学表面を規定する第二の型部分を備え、その第一の型部分とその第二の型部分は、コンタクトレンズを形成する穴がその第一の光学表面とその第二の光学表面との間に形成されるように、互いに支えあうように構成されている、コンタクトレンズを製造するための型を形成する工程、
(b)1層づつ高分子電解質を堆積させる手法を用いて、転写可能な抗菌LbLコーティングをその光学表面の少なくとも一つに適用する工程(ここで、転写可能な抗菌LbLコーティングが、第一の荷電した材料の少なくとも1層および第一の荷電した材料の電荷と反対の電荷を有する第二の荷電した材料の少なくとも1層を含み、第一および第二の荷電した材料の少なくとも1つが、荷電した抗菌金属ナノ粒子、荷電した抗菌金属含有ナノ粒子、銀イオンとアミノ基を有するポリカチオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、銀イオンとイオウ含有基を有するポリイオン材料の間で形成される銀−高分子電解質複合体、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される)、
(c)その型部分が互いに支えあうように、且つ、その光学表面がそのコンタクトレンズを形成する穴を規定するように、その第一の型部分とその第二の型部分とを位置決めする工程、
(d)重合性組成物を、そのコンタクトレンズを形成する穴に分配する工程、および
(e)コンタクトレンズが形成されるように、そのコンタクトレンズを形成する穴の中でその重合性組成物を硬化し、それにより、その転写可能な抗菌LbLコーティングがその型部分の少なくとも一つの光学表面から脱着して、そのコンタクトレンズが抗菌金属含有LbLコーティングでコーティングされるように、その形成されたコンタクトレンズに再付着する工程を含む、方法。
【請求項25】
その方法が、転写可能な抗菌LbLコーティングまたは銀含有抗菌LbLコーティング中の銀イオンを還元して銀ナノ粒子を形成する工程をさらに含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
その還元が、還元剤、UV照射、または加熱により生じる、請求項25記載の方法。
【請求項27】
少なくとも1つの抗菌剤を、コンタクトレンズ上の抗菌LbLコーティングの反応性部位を介して抗菌LbLコーティングに共有結合させる工程をさらに含み、ここで、その少なくとも1つの抗菌剤が、抗菌活性を示すポリクォート、フラノン、抗菌ペプチド、イソオキサゾリノン、および有機セレン化合物よりなる群から選択される、請求項24記載の方法。

【公表番号】特表2006−510422(P2006−510422A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−561356(P2004−561356)
【出願日】平成15年12月18日(2003.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2003/014533
【国際公開番号】WO2004/056404
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
TEFLON
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】