説明

抗菌剤、それを含む樹脂組成物及び成形材料

【課題】 抗菌性能とともに、耐水性に優れた抗菌性能を有するリン酸塩系ガラスを含む抗菌剤、該抗菌剤を含む樹脂組成物、及び該樹脂組成物の成形材料を提供する。
【解決手段】 酸化物基準のモル%表示で、P:22〜27%、ZnO:10〜55%、SO:3〜18%、LiO+NaO+KO:5〜35%(但し、LiO:0〜15%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%)、Al:0〜5%、B:0〜15%、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、及びSnO:0〜15%を有するリン酸塩系ガラスを含む抗菌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸塩系ガラスを含む抗菌剤、該抗菌剤を含む樹脂組成物、及び該樹脂組成物から成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、長時間の高湿の条件下におかれる樹脂製品には、細菌や黴の増殖をおさえるために、樹脂に抗菌剤が添加、含有されている。これらに使用される無機系の抗菌剤としては、酸化銀を利用したものが多く用いられており、例えば、酸化銀を担持させたゼオライト粉末や、組成中に酸化銀を含む溶解性ガラス粉末等が知られている。しかし、酸化銀は価格が高いともに、AgO含有ガラス粉末は、長期間使用すると紫外線や熱等の作用で変色する傾向がある。この傾向は樹脂製品が白色や透明である場合には特に問題になりやすい。
【0003】
一方、ZnOも水に溶出すると抗菌作用を有することが知られており、ZnOを主成分とするガラスが抗菌剤が提案されている。この種のZnOを含むガラス抗菌剤として、例えば、特許文献1や特許文献2が知られている。
【0004】
特許文献1には、P:40〜55モル%、ZnO:35〜45モル%、Al:5〜15モル%、B:1〜10モル%のZnO−P25系のガラス抗菌剤が開示されている。また、特許文献2においても、ZnO 25〜70%、P25 5〜40%、B23 0〜35%、SiO2 0〜20%、MgO 0〜30%、CaO 0〜30%、SrO 0〜20%、BaO 0〜15%、Li2O 0〜25%、Na2O 0〜25%、K2O 0〜25%、TiO2 0〜20%、ZrO2 0〜10%、La23 0〜20%、Al23 0〜15%の組成を有するZnO−P25系ガラスからなる抗菌剤が開示されている。
これらのZnO−P25系のガラス抗菌剤は、ガラスの原料費が安価であり、また、樹脂製品に充填しても紫外線や熱等による変色を起こさないという特徴がある。
【0005】
しかしながら、これらの従来知られるZnO−P25系のガラス抗菌剤は、初期の抗菌性能はともかくとして、湿潤条件における耐水性や長期間における耐光性は必ずしも優れたものではなく、なお、改善の余地があった。
【特許文献1】特開平8−175843号公報
【特許文献2】特開平11−100228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗菌性能とともに、耐水性や耐光性に優れた抗菌性能を有するリン酸塩系の新規なガラス抗菌剤、該抗菌剤を含む樹脂組成物、及び該樹脂組成物からなる成形材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、ガラス組成として、ZnO、P25を特定割合で含み、加えて、SO及びアルカリ金属である、LiO、NaO、及びKOをそれぞれ特定割合で必須的に含有するリン酸塩系のガラスが、初期の抗菌性能とともに、耐水性や耐光性に優れた抗菌性能を有することを見出した。また、本発明者は、上記の必須成分に加えて、Al、B、MgO、CaO、BaO、及びSnOをさらに含有させることにより、その抗菌性能を改善できることも見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、かかる新規な知見に基づき本発明に到達したものであり、下記を特徴とする要旨を有する。
(1)酸化物基準のモル%表示で、P:22〜27%、ZnO:10〜55%、SO:3〜18%、LiO+NaO+KO:5〜35%(但し、LiO:0〜15%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%)、Al:0〜5%、B:0〜15%、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、及びSnO:0〜15%を有するリン酸塩系ガラスを含むことを特徴とする抗菌剤。
(2)リン酸塩系ガラスが、酸化物基準のモル%表示で、P:22〜27%、ZnO:25〜40%、SO:8〜18%、LiO+NaO+KO:25〜35%(ただし、LiO:0〜15%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%)、Al:0〜5%、B:0〜15%、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、及びSnO:0〜15%を有することを特徴とする上記(1)に記載の抗菌剤。
(3)リン酸塩系ガラスが平均粒径(D50)が0.5〜20μmの粉末である上記(1)又は(2)に記載の抗菌剤。
(4)樹脂100質量部に対して0.1〜20質量部添加されて使用されることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかにに記載の抗菌剤。
(5)抗菌剤を含む樹脂組成物であって、抗菌剤が酸化物基準のモル%表示で、P:22〜27%、ZnO:10〜55%、SO:3〜18%、LiO+NaO+KO:5〜35%(但し、LiO:0〜15%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%)、Al:0〜5%、B:0〜15%、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、及びSnO:0〜15%を有するリン酸塩系ガラスであることを特徴とする樹脂組成物。
(6)リン酸塩系ガラスが酸化物基準のモル%表示で、P:22〜27%、ZnO:25〜40%、SO:8〜18%、LiO+NaO+KO:25〜35%(ただし、LiO:0〜15%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%)、Al:0〜5%、B:0〜15%、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、及びSnO:0〜15%を有することを特徴とする上記(5)に記載の樹脂組成物。
(7)リン酸塩系ガラスが、0.5〜20μmの平均粒径(D50)を有する粉末である上記(5)又は(6)に記載の樹脂組成物。
(8)樹脂100質量部に対してリン酸塩系ガラス1〜20質量部を含有することを特徴とする上記(5)〜(7)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(9)樹脂が、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴム、又はエラストマーであることを特徴とする上記(5)〜(8)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(10)上記(5)〜(8)のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抗菌性能とともに、耐水性や耐光性に優れた抗菌性野を有するリン酸塩系の新規なガラス抗菌剤、該抗菌剤を含む樹脂組成物、及び該樹脂組成物から成形してなる成形品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明でおける抗菌剤を構成するリン酸塩系のガラスは、上記のように、酸化物基準のモル%表示(以下、特に断りのない限り、「%」はモル%である)で、P:22〜27%、ZnO:10〜55%、SO:3〜18%、LiO+NaO+KO:5〜35%(但し、LiO:0〜15%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%)、Al:0〜5%、B:0〜15%、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、及びSnO:0〜15%を有する。
【0011】
本発明のリン酸塩系のガラスにおける必須の成分は、P、ZnO、SO及びアルカリ金属成分である。このうち、P25は、ガラス形成に必須な成分であり、その含有量は22〜27%である。P25が22%よりも少なくなるとガラス化し難くなり、均質なガラスが得られなくなり、一方、27%より多いと、ガラスとしての耐水性が低下するため好ましくない。また、ZnOは、抗菌作用を示す成分であり、その含有量は10〜55%、好ましくは25〜40%である。ZnOが10%よりも少なくなると抗菌作用が弱くなり、55%を越えるとガラス化が困難になる。
【0012】
本発明のリン酸塩系ガラスにおいて、SOはガラスの溶解性に影響し抗菌性を左右する重要な成分である。その含有量は3〜18%、好ましくは8〜18%である。SOが3%よりも少なくなると得られるガラスの溶解性が小さくなり、抗菌作用が弱くなる。一方、含有量が18%を越えるとガラスとしての耐水性が著しく低下するため、ガラスの溶解性を制御することが困難となり不都合である。
【0013】
また、アルカリ金属であるLiO、NaO、及びKOは、ガラスの溶融を助ける成分である。その含有量は、LiO+NaO+KOの合計で、5〜35%好ましくは25〜35%である。該合計の含有量が5%より少ない場合には、ガラスの溶融が不十分となり、ガラス化し難くなり、一方、35%より多い場合には、ガラスとしての耐水性が著しく低下するため好ましくない。なお、アルカリ金属の個々の成分としては、LiOが0〜15%、NaOが3〜15%、及びKOは0〜10%である。
【0014】
本発明のリン酸塩系ガラスにおける任意の成分について説明すると、Alは、ガラスの化学耐久性を向上させるために添加する成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%である。Al23が5%を超えると、ガラスの溶融がより困難となり均質なガラスが得られないためである。Bは、ガラス形成成分であり、ガラス融解の補助の作用を有する。その含有量は、0〜15%、好ましくは0〜10%である。B23が15%を超えるとガラスの化学耐久性が悪くなる。
【0015】
また、CaO及びBaOは、いずれもガラスの溶融を助ける成分であり、その含有量は、CaOが0〜15%、及びBaOが0〜15%である。MgOは、ガラスの溶融を助ける成分であり、また耐水性を向上させる成分である。その含有量は、MgOが0〜15%である。SnOは、ガラスの耐久性を向上させる機能を有する成分であり、その含有量は0〜15%である。
【0016】
本発明のリン酸塩系ガラスとしては、なかでも、P:22〜27%、ZnO:25〜40%、SO:8〜18%、LiO+NaO+KO:25〜35%(ただし、LiO:0〜15%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%)、Al:0〜5%、B:0〜15%、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、及びSnO:0〜15%を有するものが好ましい。かかる組成のリン酸塩系ガラスは、特に、抗菌性が後記する実施例に見られるように顕著に優れている。
【0017】
本発明の抗菌剤に使用されるリン酸塩系ガラスは、上記以外にSr、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Moなどの金属酸化物をガラス組成の成分として含有してもよい。
【0018】
本発明のリン酸塩系ガラスの形態は、繊維、粉末、フレーク、バルーンなど適宜選ぶことができる。特に比表面積が大きくなり、高い抗菌効果が得られるので粉末で用いることが好ましい。粉末の場合、平均粒径(D50)が0.5〜20μm、好ましくは1〜10μmが好適である。平均粒径が0.5μmより小さいとガラス粉末が製造し難くなり、20μmより大きくなると粒子が大きいため、樹脂組成物の表面外観性が劣るため好ましくない。
【0019】
本発明の抗菌剤を構成するリン酸塩系ガラスの耐水性は、以下の方法により求める。ガラスカレット(約15mm角で厚さ約6mmの板状体)を試料として秤量し、90℃の熱湯浴に浸漬し、6時間後に浴から取出し、常温で乾燥後、浸漬後の試料を秤量し、質量損失を測定する。浸漬前の質量に対する質量損失の割合を百分率として、ガラスの耐水性を評価する。本発明の抗菌剤のリン酸塩系ガラスは、2価のZnイオンを溶出して抗菌性を発現することから、ガラスとしての耐水性と、抗菌性を発現するための溶出性とを両立する必要があり、耐水性は好ましくは0.02〜5.0質量%、特に好ましくは0.02〜2.0質量%が好適である。耐水性が0.02%よりも小さいと、2価のZnイオンの溶出量が少なく、抗菌性を十分に発揮することが困難となり、2.0%よりも大きいと、ガラスとしての耐水性が不十分となり、溶出しやすくなり、好ましくない。
【0020】
本発明の抗菌剤を構成するリン酸塩系ガラスは、既知の方法及び装置を用いて、所望とするガラス組成となるように、ガラス原料を混合し溶融させてから固化させてリン酸塩系ガラスのカレットを作製し、所定の平均粒径となるように粉砕することにより得ることができる。リン酸塩系ガラスのカレットを粉砕する方法として、媒体撹拌ミル、コロイドミル、湿式ボールミルなどの湿式粉砕、ジェットミル、乾式ボールミル、ロールクラッシャーなどの乾式粉砕などが挙げられ、複数の粉砕方法を組合せて用いてもよい。上記の粉砕方法を用いて、所定の平均粒径を有するガラス粉末を得ることができる。また、粉砕して得られるガラス粉末の平均粒径が上記の好ましい範囲になるように、分級処理を行ってもよい。分級処理としては特に限定されないが、風力式分級機や篩い分け装置等を用いるのが好ましい。
【0021】
本発明のリン酸塩系ガラスの抗菌剤は、熱硬化性樹脂、熱硬化性樹脂樹脂、ゴム、エラストマーなどに各種の材料に添加又は充填して使用できる。なかでも、樹脂に充填する場合には、優れた抗菌性を有する樹脂組成物を与える。好ましい樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン系樹脂;AS(アクリロニトリルースチレン共重合体)樹脂;ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂;ポリウレタン系、ポリエステル系などの熱可塑性エラストマー;PBT,PETなどの熱可塑性ポリエステル系樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;アクリル系樹脂;フェノール系樹脂;エポキシ系樹脂;メラミン樹脂;シリコーン系樹脂が挙げられる。これら樹脂のなかでも、特に衛生容器等に用いられるアクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ABS樹脂や、シーリング材等に使用されるシリコーン系樹脂が好ましい。
【0022】
本発明の抗菌剤は上記に限られるものではなく、例えば、ガラスやセラミックの抗菌性釉薬、金属の抗菌性塗料等、種々の抗菌用途に使用可能である。
【0023】
本発明の樹脂組成物における抗菌剤の含有量は、樹脂100質量部に対して好ましくは0.1〜20質量部であり、特に0.5〜10質量部であることが好ましい。含有量が、0.1質量部より少ないと樹脂に十分な抗菌性を付与し難くなる。また、含有量が20質量部を越えると抗菌力は殆ど変わらなくなり、経済的でないため好ましくない。
【0024】
更に、本発明で抗菌剤として使用されるリン酸塩系ガラスは、カップリング剤を含む処理剤で表面処理することが好ましい。この表面処理により、リン酸塩系ガラスと樹脂とから樹脂組成物を得る際や、この樹脂組成物を成形する際に、リン酸塩系ガラスと樹脂との接着性を向上させる。また、リン酸塩系ガラスを取り扱う上で、静電気の発生を抑えてハンドリング性を改善することもできる。また、樹脂とリン酸塩系ガラスとの接着性が向上することにより、樹脂組成物の機械的物性が改善できる。
【0025】
上記カップリング剤としては、シラン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤などを使用できる。特に、樹脂とガラス粉末との接着性が良好である点からシラン系カップリング剤を用いるのが好ましい。
【0026】
また、上記カップリング剤の成分のリン酸源ガラスへの付与量は、使用される樹脂やリン酸源ガラスなどの種類に応じて選択されるが、付与後のリン酸塩系ガラスの質量を基準にして固形分として、好ましくは0.2〜2.0質量%である。付与量が0.2質量%より少ないとガラスを取り扱う上でのハンドリング性及び樹脂との接着性を充分に改善することが難しくなるので好ましくない。また、付与量が2.0質量%より多いと前記樹脂へのリン酸塩系ガラスの分散を低下させることになり易いので好ましくない。
【0027】
本発明の抗菌剤を含む樹脂組成物は、樹脂、リン酸塩系ガラス、及び必要に応じて配合されるそれら以外の添加剤とを、混合することにより得られる。
【0028】
特に、樹脂が熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーである場合には、混合と同時の溶融(例えば溶融混練)又は混合後の溶融混練などの従来の樹脂組成物の製造方法と同様の方法により成形材料としての樹脂組成物を得ることができる。配合される樹脂の形態は、特に制限なく、ペレット状、粒状、粉末状、繊維状などの種々の形態を用いることができる。上記各成分を溶融混練した後、押出成形してペレット状又は粒状の成形材料とすることが好ましい。
【0029】
成形材料である本発明の樹脂組成物は、従来の樹脂組成物の同様に各種の方法によって成形して成形品とすることができる。その成形の方法としては、プレス成形、押出し成形、カレンダ成形、射出成形、引き抜き成形などがある。このような成形方法により、成形品である本発明の樹脂組成物が得られる。また、成形材料である本発明の樹脂組成物を経ることなく、樹脂、リン酸塩系ガラス、及び、さらに必要に応じてそれら以外の添加剤とを、射出成形機や押出し成形機などの成形機中で溶融混合するとともにその溶融混合物を成形して、本発明の成形品を得ることもできる。
【0030】
例えば、不飽和ポリエステル樹脂などの硬化性樹脂と、硬化剤、低収縮化剤、フィラー、添加剤および増粘剤とを混合したものをガラス繊維などの繊維状補強材に含浸あるいは混練させる方法は、既知の方法、すなわちシートモールディングコンパウンド(SMC)やバルクモールディングコンパウンド(BMC)の製造方法を使用することができる。前記製造方法により得られる硬化性樹脂組成物、SMC、BMCは、これを既知の方法で製品の形状に成形し、例えば120〜150℃に加熱し硬化させ、浴槽製品や水まわり製品等の成形品が製造される。
【0031】
成形品としては、例えば、便器、浴槽、洗面台などの衛生関連製品、台所製品、文具、玩具などが挙げられる。また、本発明の抗菌剤は、フィルム材、シート材、電化製品のハウジング材、紙製品、繊維製品、塗料などにも用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されないことはもちろんである。
【0033】
なお、以下における各種の特性値の測定はそれぞれ次のように行った。
(1)抗菌性試験:
JIS Z2801 5.2により、抗菌加工製品規格に従い、テスト細菌として黄色ぶどう球菌及び大腸菌を用いて抗菌性試験を実施した。抗菌性の評価は、該JIS規定に定義される抗菌活性値で判定し、抗菌効果を有する抗菌活性値2.0以上を○とし、抗菌活性値2.0未満を×として、ランク評価した。
(2)耐水性テスト後の抗菌性試験:
90±5℃で16時間の温水中に浸漬する条件で処理した試験片について、上記と同様の抗菌性試験を行った。
(3)ガラスの耐水性:
ガラスカレット(約15mm角で厚さ約6mmの板状体)を試料として秤量し、90℃の熱湯浴に浸漬し、6時間後に浴から取出し、常温で乾燥後、試料を秤量し、質量損失を測定した。浸漬前の質量に対する質量損失の割合を百分率とした。
(4)Izod衝撃試験:
ASTM−D256に従って、厚さ3mmのノッチ付き試験片について、Izod衝撃試験を行った。
【0034】
(リン酸塩ガラス粉末の調製)
:24.3%、ZnO:31.9%、SO:15.8%、LiO+NaO+KO:27.0%(但し、LiO:9.0%、NaO:10.5%、KO:7.5%)及びAl:1.0%のガラス組成となるように、ガラス原料を混合し溶融させてから固化させることにより、リン酸塩系ガラスAとなるカレットを作製した。ガラスの耐水性は、0.7%であった。前記カレットを粉砕し、平均粒径(D50)が2μmのガラス粉末を得た。
【0035】
また、P:24.9%、ZnO:40.5%、SO:9.3%、LiO+NaO+KO:14.2%(但し、LiO:4.1%、NaO:5.7%、KO:7.5%)、Al:1.5%及びB:9.6%のガラス組成となるように、ガラス原料を混合し溶融させてから固化させることにより、リン酸塩系ガラスBとなるカレットを作製した。ガラスの耐水性は、0.03%であった。前記カレットを粉砕し、平均粒径(D50)が2μmのガラス粉末をそれぞれ得た。
【0036】
比較例として、モル%表示で、P:27.0%、ZnO:26.0%、SO:20.0%、LiO+NaO+KO:27.0%(但し、LiO:9.0%、NaO:10.5%、KO:7.5%)のガラス組成となるように、ガラス原料を混合し溶融させてから固化させることにより、リン酸塩系ガラスCとなるカレットを作製した。ガラスの耐水性は、15%であった。前記カレットを粉砕し、平均粒径(D50)が2μmのガラス粉末を得た。
【0037】
また、P:45.0%、ZnO:45.0%及びLiO:10.0%のガラス組成となるように、ガラス原料を混合し溶融させてから固化させることにより、リン酸塩系ガラスDとなるカレットを作製した。ガラスの耐水性は、40%であった。前記カレットを粉砕し、平均粒径(D50)が2μmのガラス粉末を得た。
【0038】
(ポリプロピレン樹脂組成物)
実施例1
ポリプロピレン樹脂(PP:J−700GP、出光興産社製)99質量部とリン酸塩系ガラスAのガラス粉末(平均粒径2μm)1質量部とを混合した後、シリンダー設定温度200℃の2軸押出し機用いて溶融混練して実施例1となるペレット状の樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を80℃で5時間乾燥後、射出成形機を用い、シリンダー温度200℃、金型温度50℃にて成形し、ポリプロピレン樹脂組成物の厚さ3mmの平板成形品を得た。
【0039】
実施例2〜3、比較例1〜3
表1に記載の配合組成にて、実施例1と同様の方法によって、実施例2〜3及び比較例1〜3のとなるポリプロピレン樹脂組成物の成形品をそれぞれ得た。
【0040】
これらの成形品から試験片を得て、IZOD衝撃試験、初期の抗菌性試験及び耐水性テスト後の抗菌性試験を行った。また、成形品の変色を目視で判定し、それらの評価結果をあわせて表1に示す。なお、リン酸塩系ガラスを含まない比較例3は、抗菌性試験の対照サンプルとして用いた。
【0041】
【表1】

【0042】
本発明のリン酸塩系ガラスAを含む実施例1及び2は、初期及び耐水性テスト後の抗菌性試験で抗菌活性値がそれぞれ2.0以上を示した。リン酸塩系ガラスBを含む実施例3は、初期及び耐水性テスト後の抗菌性試験で抗菌活性値がそれぞれ2.0以上を示した。本発明の組成範囲外のリン酸塩系ガラスCを含む比較例1は、初期の抗菌性試験では抗菌活性値が2.0以上を示したものの、耐水性テスト後の大腸菌の抗菌性試験では、抗菌活性値が2.0未満であった。また、本発明の組成範囲外のリン酸塩系ガラスDを含む比較例2は、初期の抗菌性試験では抗菌活性値が2.0以上を示したものの、耐水性テスト後の抗菌性試験では、抗菌活性値が2.0未満であり、また、成形品に変色があった。
【0043】
(不飽和ポリエステル樹脂組成物)
実施例4〜5及び比較例4〜5
表2に記載の配合組成にて、各成分を混合し、ガラス繊維(繊維径15μm、長さ25mm)に含浸させて、シートモールディングコンパウンド(SMC)をそれぞれ得た。この時、得られるSMC中のガラス繊維の含有割合が25質量%であった。なお、表2における不飽和ポリエステル樹脂は、イソフタル酸とポリエチレングリコールとプロピレングリコールとを原料として製造されたものである。なお、表2中の「ポリスチレン溶液」は、スチレンモノマー69質量%含有溶液であり、「改質剤」はポリエチレンパウダーである。また、表2中の略号はそれぞれ以下を意味する。
TBIC:ターシャリブチルイソプロピルアルコール
phr:樹脂成分100質量部としたときの質量部
各SMCを成形温度140℃、加圧保持時間4分、チャージ面積50%で22cm角、厚み3mmの平板に成形して、実施例4〜5及び比較例4〜5となる不飽和ポリエステル樹脂組成物の成形品をそれぞれ得た。これらの成形品から試験片を得て、初期の抗菌性試験及び耐水性テスト後の抗菌性試験を行い、その評価結果を表3に示す。なお、リン酸塩系ガラスを含まない比較例5は、抗菌性試験の対照サンプルとして用いた。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
本発明のリン酸塩系ガラスA及びBを含む実施例4及び5は、初期及び耐水性テスト後の抗菌性試験で抗菌活性値がそれぞれ2.0以上を示した。本発明の組成範囲外のリン酸塩系ガラスCを含む比較例4は、初期の抗菌性試験では黄色ぶどう球菌の抗菌活性値が2.0以上を示したものの、初期の大腸菌の抗菌活性値が2.0未満であり、耐水性テスト後の抗菌性試験の抗菌活性値も2.0未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の抗菌剤は、抗菌性能とともに、耐水性に優れた、またコストも安いので各種の分野に好適に使用でき。それらの例としては、便器、浴槽、洗面台などの衛生関連製品、台所製品、文具、玩具、電化製品、紙製品、繊維製品などの分野が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル%表示で、P:22〜27%、ZnO:10〜55%、SO:3〜18%、LiO+NaO+KO:5〜35%(但し、LiO:0〜15%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%)、Al:0〜5%、B:0〜15%、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、及びSnO:0〜15%を有するリン酸塩系ガラスを含むことを特徴とする抗菌剤。
【請求項2】
リン酸塩系ガラスが、酸化物基準のモル%表示で、P:22〜27%、ZnO:25〜40%、SO:8〜18%、LiO+NaO+KO:25〜35%(ただし、LiO:0〜15%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%)、Al:0〜5%、B:0〜15%、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、及びSnO:0〜15%を有することを特徴とする請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
リン酸塩系ガラスが平均粒径(D50)が0.5〜20μmの粉末である請求項1又は2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
樹脂100質量部に対して0.1〜20質量部添加されて使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抗菌剤。
【請求項5】
抗菌剤を含む樹脂組成物であって、抗菌剤が酸化物基準のモル%表示で、P:22〜27%、ZnO:10〜55%、SO:3〜18%、LiO+NaO+KO:5〜35%(但し、LiO:0〜15%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%)、Al:0〜5%、B:0〜15%、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、及びSnO:0〜15%を有するリン酸塩系ガラスであることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項6】
リン酸塩系ガラスが酸化物基準のモル%表示で、P:22〜27%、ZnO:25〜40%、SO:8〜18%、LiO+NaO+KO:25〜35%(ただし、LiO:0〜15%、NaO:3〜15%、KO:0〜10%)、Al:0〜5%、B:0〜15%、MgO:0〜15%、CaO:0〜15%、BaO:0〜15%、及びSnO:0〜15%を有することを特徴とする請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
リン酸塩系ガラスが、0.5〜20μmの平均粒径(D50)を有する粉末である請求項5又は6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
樹脂100質量部に対してリン酸塩系ガラスが1〜20質量部を含有することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
樹脂が、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴム、又はエラストマーであることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。

【公開番号】特開2007−84450(P2007−84450A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−272110(P2005−272110)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(000116792)旭ファイバーグラス株式会社 (101)
【Fターム(参考)】