説明

抗酸化性組成物

【課題】多様な活性酸素種に対して抗酸化能を発揮する抗酸化性組成物を提供する。
【解決手段】生体内で産生される活性酸素種に対して、亜塩素酸系活性酸素消去剤として、動物エキスから得られるヒスチジン含有ジペプチド混合体、硫黄含有アミノ酸類又はペプチド100mg当たり、過酸化亜硝酸系活性酸素消去剤として、ビタミンC(L−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩)を20mg以上、そして、水酸化ラジカル系活性酸素消去剤として、コエンザイムQ10などのユビキノン類を4mg以上の割合に配合したことを特徴とする、次亜塩素酸ラジカル、水酸化ラジカル及び過酸化亜硝酸ラジカルの3種を抑制する作用を有する抗酸化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物性天然エキス及び植物性天然エキスに由来する抗酸化能を有する特定の成分を組み合わせて成る組成物に関するものであり、更に詳しくは、多様な活性酸素種に対して有効に抗酸化能を発揮できる抗酸化性組成物に関するものである。本発明は、人体内で発生する活性酸素による酸化ストレスを解消して広義の生活習慣病の予防、好適には、例えば、体内活性酸素が顕著に高い糖尿病患者の糖尿病関連疾患の予防に供せる食品及び食品素材を創製し、提供するものである。
【背景技術】
【0002】
我国では、近年、高齢者人口の増加に伴う各種成人病の増加とその医療に関わる人的、経済的負担の増大が極めて深刻な問題として取り上げられている。生物の老化と病気の発生は言わば不可分の関係にあるので、高齢者が増加すれば病人の数も増えることは避けられないことである。そこで、人間の老化する速度を可能な限り遅くし、病気の発生を抑制することが重要になる。
【0003】
人間が老化する第一の原因は、体を構成する細胞が組織再生のために分裂増殖する回数に限りがあることであり、細胞が何らかの傷害を受けることによって分裂増殖の回数が限界に到達し、組織再生能力が低下することである。そして、細胞を傷害する要因、例えば、紫外線や放射線の照射、薬物などの傷害、或いは生体内で発生する活性酸素による作用によって老化は促進される。特に、活性酸素は、酸素を利用してエネルギー代謝を行う生物では必然的に発生するものであり、この意味から、我々の老化は必然的に起こるともいえる。そこで、老化を遅延させ、老化に伴う疾病の発生を抑制する主要な対策としては、生体内で発生する活性酸素の有害作用を抑制することが重要になる。
【0004】
これまで、各種の抗酸化剤が市場に供給されているが、これらのほとんどが単一成分、或いは単一原料により調製されたものであった。しかし、生体内で発生する活性酸素の種類は多様であり、具体的に例を挙げれば、体内に取り込まれた酸素ガスから発生するスーパーオキサイド(O)、Oがスーパーオキサイドディスミューテース(SOD)と呼ぶ酵素により過酸化水素(H)が生成され、更に、これが遷移金属の触媒作用によって水酸化ラジカル(OH・)を発生させる。また、生体内に侵入した細菌類を殺菌するために白血球が活性酸素を生産するが、この中にはH以外に次亜塩素酸ラジカルや窒素酸化物ラジカルなどがある。
【0005】
一方、これらの活性酸素を消去するために各種抗酸化剤が用いられているが、これらの抗酸化剤がこれらの活性酸素全てに効果的なのか、或いは作用する活性酸素種が限定されるのか、十分に検討が行われて来なかった。本発明者らは、各種活性酸素の蛋白質酸化分解作用に対する抗酸化剤の作用を検討し、抗酸化剤にはそれらが作用する活性酸素の種類があり、生体内で全ての活性酸素に有効な抗酸化剤は極めて少ないことを明らかにして来た。
【0006】
すなわち、各種動物生体内に存在するペプチドのアンセリン、カルノシン、還元型グルタチオン(GSH)、硫黄含有アミノ酸、或いはアミノ酸類縁体は、次亜塩素酸ラジカル(ClO・)に対して、ビタミンC(L−アスコルビン酸、V.C)は、過酸化亜硝酸ラジカル(ONOO・)に対して、そして、ビタミンE(α−トコフェロール、V.E)は、水酸化ラジカル(OH・)に対して、強い抗酸化作用を持つており、生体内で発生する活性酸素の傷害を完全に除去するためには、これらを単一で使用するのではなく、これらを併用した抗酸化剤の組み合わせや組成が有効であることを確認した(特許文献1)。
【0007】
更に、天然抗酸化性成分の抗酸化活性を詳しく調べると、アミノ酸、ペプチドからなる抗酸化成分は、アンセリンやカルノシンと同様に、ClO・に対して、また、V.Eと同様に主として植物に由来しフェノール基を有する疎水性のカロテノイド類、ポリフェノール類、カフェ酸類縁体などはOH・に対して、強い抗酸化活性を有することが判明した。
【0008】
これまで、抗酸化剤を各種疾病、特に生活習慣病を予防するために各種抗酸化剤が試験されてきた。たとえばV.C、V.E、β−カロチン、カテキンなどのポリフェノール類などである。しかし、これら抗酸化剤を単剤、或いは組み合わせ使用による疾病予防効果を調べた試験成績を見ると、たとえばガンなどの疾病予防について必ずしも有効であったという知見は多くない。逆に臨床的効果がないという知見も多くあり(非特許文献1)、期待されているほど抗酸化剤が疾病や老化の予防に効果を上げていなかったのである。
【0009】
この原因には、次の点が考えられる。まず生体内で発生する活性酸素は多種類のものがあり、単一の抗酸化剤でそれらの害作用を消去することが困難なこと、更に抗酸化剤の組み合わせにおいても、抗酸化活性が類似する成分同士の組み合わせ、たとえばV.Eとカロテノイド類やポリフェノール類の組み合わせなどであり、V.CとV.E、或いはV.Cとポリフェノール類の組み合わせでも性質の異なる3種の活性酸素を抑える配合ではなかったことなどである。
【0010】
更に植物由来の抗酸化剤、特にポリフェノール類の中には抗酸化作用だけでなく人間の遺伝子DNAを傷害する作用も知られており、時には発ガンや変異を促進する作用も報告されている(非特許文献2、3)。
【0011】
【特許文献1】特開2004−231902号公報
【非特許文献1】J.Kaikkonenら、Free Radicals Research、33巻、329−340、2000年
【非特許文献2】C.A.Austin,ら、Biochemistry Journal、282巻、883〜889頁、1992年
【非特許文献3】R.Sanyalら、Mutagenesis、12巻、297〜303頁、1997年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、多様な活性酸素種に対して有効に抗酸化能を発揮できる抗酸化性組成物を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、ジ亜塩素酸系活性酸素消去剤として、動物エキスから得られるヒスチジン含有ジペプチド混合体、硫黄含有アミノ酸類又はペプチド100m当たり、過酸化亜硝酸系活性酸素消去剤としてビタミンC(L−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩)を20mg以上、そして、水酸化ラジカル系活性酸素消去剤としてコエンザイムQ10などのユビキノン数を4mg以上の割合に配合した抗酸化性組成物を開発することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、多様な活性酸素種に対して有効に抗酸化能を発揮できる抗酸化組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)生体内で産生される活性酸素種に対して、ジ亜塩素酸系活性酸素消去剤として、動物エキスから得られるヒスチジン含有ジペプチド混合体、硫黄含有アミノ酸類又はペプチド100mg当たり、過酸化亜硝酸系活性酸素消去剤として、ビタミンC(L−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩)を20mg以上、そして、水酸化ラジカル系活性酸素消去剤として、コエンザイムQ10などのユビキノン類を4mg以上の割合に配合したことを特徴とする、次亜塩素酸ラジカル、水酸化ラジカル及び過酸化亜硝酸ラジカルの3種を抑制する作用を有する抗酸化性組成物。
(2)上記のジ亜塩素酸系活性酸素消去剤が、家禽、牛、豚、又は回遊性魚類の筋肉を熱水抽出して得られる動物エキス中に含まれるヒスチジン含有ジペプチドのアンセリンとカルノシンの混合体であり、硫黄含有アミノ酸類が、システイン、アセチルシステイン、又はメチオニンであり、そして、ペプチドが、還元型グルタチオンである前記(1)に記載の抗酸化性組成物。
(3)前記(1)又は(2)に記載の抗酸化性組成物を有効成分とすることを特徴とする食品素材又は食品。
【0015】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明では、上記3種の活性酸素を抑える配合とするために、広い範囲の活性酸素種に対応できる抗酸化剤の配合であることと、エネルギー代謝の過程で発生するOH・に十分に対応できるより安全性に優れた素材を選択することが重要である。上記のように、動物原料から得られる抗酸化性ペプチドのアンセリンとカルノシンや硫黄含有アミノ酸類はClO・に対して強い抗酸化作用を持ち、水溶性ビタミンであるV.CはONOO・に対して強い抗酸化作用を持つ。そして、本発明者らは、OH・に対して強い抗酸化作用を持つ成分として既に明らかにしたV.E、カロテノイド類、ポリフェノール類、カフェ酸類縁体以外に、生物の細胞に存在するユビキノン類があることを発見した。
【0016】
ユビキノンの代表的な成分であるコエンザイムQ10(以下CoQ10と略記)はエネルギー代謝を行うミトコンドリアに主として存在し、重要な電子伝達系成分であるが、これが強い抗酸化作用を持っていることが知られている。人間にとってCoQ10は植物に由来するものではなく、アンセリンやカルノシンと同様に人間の体内に存在する成分であり、植物由来の抗酸化剤のようなDNA傷害作用を持っていない。しかもミトコンドリアではエネルギー代謝の過程で夥しい活性酸素が生産されており、それらはOからHを経由してOH・を発生するが、ミトコンドリアに存在するCoQ10の抗酸化作用を調べると、これはV.Eより強く、カテキンやカフェ酸類縁体と同等の強いOH・抗酸化作用を持っていた。ただし、CoQ10も植物由来の抗酸化剤と同様に生理的に存在できる濃度ではClO・やONOO・に対する抗酸化作用は示さなかった。
【0017】
本発明者らは、安全性に優れたOH・消去能が強い抗酸化剤の素材について探索したところ、上記したように、ユビキノン類の一つであるCoQ10を見出し、そして、ClO・消去能の強いアンセリン−カルノシン混合体、硫黄含有アミノ酸又はペプチドとV.CとCoQ10を所定の配合割合で配合することにより、3種の活性酸素に相乗的な理想的な抗酸化活性を持つ抗酸化性組成物の調製が可能であることを見出した。
【0018】
本発明では、ジ亜塩素酸系活性酸素消去剤として、動物エキスから得られるヒスチジン含有ジペプチド混合体、硫黄含有アミノ酸類又はペプチド100mg当たり、過酸化亜硝酸系活性酸素消去剤としてビタミンC(L−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩)を20mg以上、そして、水酸化ラジカル系活性酸素消去剤として、コエンザイムQ10などのユビキノン類を4mg以上の割合に配合する。このように、本発明は、上記成分を所定の配合割合で配合することが重要である。これらの範囲以外では、本発明の3種の活性酸素に対する特異的な抗酸化性作用は得られない。
【0019】
この場合、上記のジ亜塩素酸系活性酸素消去剤としては、好適には、例えば、家禽、牛、豚、又は回遊性魚類の筋肉を熱水抽出して得られる動物エキス中に含まれるヒスチジン含有ジペプチドのアンセリンとカルノシンの混合体が、硫黄含有アミノ酸類としては、例えば、システイン、アセチルシステイン、又はメチオニンが、そして、ペプチドとしては、例えば、還元型グルタチオンが例示されるが、これらに制限されるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。
【0020】
これまで、2〜3成分の抗酸化性組成物で、3種の活性酸素に対して有効な組成物は、これまで報告された例はない。このことからも、本発明の抗酸化性組成物は、従来製品にない優れた著効を奏するものであることが明白である。
【0021】
これまで、単一の抗酸化剤を含有する食品が生活習慣病予防や老化予防の目的のために広く利用されてきたが、臨床試験では必ずしも十分な効果を上げて来なかった。この原因は、疾病や老化を促進する生体内の活性酸素は単一のものではなく、各種の活性酸素種が存在すること、一方、抗酸化剤は多種多様な活性酸素種を全て抑制するものは極めて稀であり、抗酸化作用を強く発揮できるものとできない活性酸素種があるためと考えられる。本発明者らは、既に生体内で発生する活性酸素種を塩素系、水酸化ラジカル系、窒素酸化物系に3大別して各種抗酸化剤の作用を試験すると、動物エキスに存在するヒスチジン含有ペプチドや硫黄含有アミノ酸又はペプチド類は塩素系活性酸素に対して、植物に由来し脂溶性を示すポリフェノール類、カロテノイド類、カフェ酸類縁体などは水酸化ラジカルに対して、更に窒素酸化物系に対してはビタミンCが強い抗酸化作用を示すことを明らかにして来た。
【0022】
そして、これらを適切に配合することによって理想的な抗酸化作用を持つ食品や組成物を調製することが可能となった。本発明は、水酸化ラジカルに対して強い抗酸化作用を持ち、しかし、ポリフェノール類のようにDNA傷害作用や変異原性を持たない抗酸化成分であるユビキノン類のCoQ10を水酸化ラジカル消去剤として他の成分と配合することにより、より安全性が高く、かつ完全な抗酸化作用を持つ抗酸化性食品、或いは組成物の調製が可能とするものである。本発明による食品、或いは組成物は、長期間摂取してもより安全性が高く、従って、生体内で発生する各種活性酸素による疾病の発生や老化を抑制する効果が期待できる食品、或いは抗酸化性組成物を容易に提供することを可能とするものである。
【0023】
次に、本発明を試験例に基づいて更に詳細に説明する。
(1)3種の活性酸素による卵白アルブミン(Ovalbumin、以下Ovaと略記)分解作用に対する各種抗酸化剤の阻止作用
生体内で産生される典型的活性酸素としてClO・、OH・及びONOO・の3種を調製した。ClO・はジ亜塩素酸ナトリウムをpH6.5の蒸留水に希釈する方法で、OH・はFenton法(B.Halliwellら、Analytical Biochemistry 165巻、215〜219頁、1987年)を一部改変して、また、ONOO・はquenching flow reactor法(R.Radiら、Journal of Biological Chemistry266巻、4244〜4250頁、1991年)を改変して調製した。
【0024】
次に、Ovaを2.5mg/mLになるように緩衝化生理食塩水、pH7.4に溶解し、蛋白質溶液に対して10:1の容量比で各濃度の抗酸化剤を添加して室温で30分間静置させ、次いで、同じく蛋白質溶液に対して10:1の容積比で各濃度の活性酸素を添加して、ClO・酸化は37℃、30分間、OH・酸化は37℃、60分間、ONOO・酸化は37℃、120分間反応させた。反応後、各試料溶液をドデシル硫酸ナトリウムーポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)で泳動した後、クマシーブリリアントブルーR250染色液で染色したゲルをデンシトメーターにかけてOvaの分解阻止率を計算した。また、正確な分解阻止率は反応試料液を直接TSKG−3,000SWカラムのGPC−HPLCにかけて、蛋白分解阻止活性を次の式で算出した。
【0025】
分解阻止率(%)=抗酸化剤添加時の活性酸素分解蛋白質のピーク面積/未分解対照蛋白質のピーク面積×100
【0026】
3種の活性酸素によるOva酸化分解に対する各種抗酸化剤及び3種配合剤のタンパク質分解阻止作用は図1に示す通りである。ClOラジカル(ClO・)に対しては、チキンエキス由来精製アンセリン−カルノシン混合体や硫黄含有アミノ酸又はペプチド類が最も強く、次いで、ビタミンC(V.C)であったが、CoQ10は、タンパク質分解阻止作用を全く示さなかった。OHラジカル(OH・)に対しては、50μM濃度のCoQ10が最も強いタンパク質分解阻止作用を示し、アンセリン−カルノシンとV.Cは、抗酸化作用をほとんど示さなかった。
【0027】
一方、ONOOラジカル(ONOO・)に対しては、V.Cがタンパク質分解作用を完全に阻止したが、チキンエキス由来のアンセリン−カルノシン、硫黄含有アミノ酸−ペプチド及びCoQ10のタンパク質分解阻止作用はいずれも弱いものであった。また、チキンエキス由来アンセリン−カルノシン混合体5mM、CoQ10を50μM、及びV.Cを5mM濃度に配合した3種配合抗酸化組成物の場合は、図1に示す通り、3種の活性酸素によるタンパク質分解作用をほぼ完全に阻止する結果であった。これらのタンパク質分解阻止活性を要約すると表1の「各種活性酸素のタンパク質分解に対する各抗酸化剤の阻止作用(%)」の通りである。
【0028】
【表1】

【0029】
(2)活性酸素によるヒト赤血球のマイクロチャンネル通過能障害と抗酸剤の防止効果
微細血管モデルであるマイクロチャンネル(MCと略記)は、血液レオロジー、すなわち血液の微細血管循環能を測定する装置である。血液レオロジーに及ぼす要因として、食事、酸化ストレスなどが挙げられている。本発明では、生体内で生成される3種の活性酸素の人赤血球のMC通過能に及ぼす影響を試験し、各種抗酸化剤と3種配合剤の活性酸素によるヒト赤血球流動性障害作用の防止効果について試験した。
【0030】
試験方法は、健康人志願者血液をFicoll−Paque遠心法(ファルマシァ社製)で赤血球画分を採取し、MCFAN KH−3A(チャンネル幅7μm、MC研究所)により各種活性酸素処理した場合の赤血球(最終ヘマトクリット濃度10%)のMC通過時間を測定した。その結果、ClO・、OH・及びONOO・の3種の活性酸素によりヒト赤血球はいずれも通過障害を起こしたが、ClO・ではチキンエキス由来アンセリン−カルノシン混合体が、OH・ではCoQ10が、そして、ONOO・ではV.Cが最もMC通過能の低下を防止する結果であった。抗酸化剤3種配合の場合は、いずれの場合も活性酸素によるMC通過能の低下は認められなかった(図2)。
【0031】
(3)健康人での血液レオロジー改善効果
健常人男子(58歳、35歳、29歳)を対象に、1瓶中にチキンエキス由来アンセリン−カルノシン混合体400mg、ビタミンC300mg及びCoQ10 20mgを含有する果汁飲料50mLを毎日1本、10日間飲用し、飲用前後の血液流動性改善効果について上記のMCFAN KH−3Aを用いてMC通過時間を測定することにより試験した。その結果、3種抗酸化剤配合飲料を飲用する前の平均MC通過時間は55.1秒であったが、飲用後の平均MC通過時間は46.6秒まで改善された(図3)。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、以下のような効果が奏される。
(1)本発明は、多様な活性酸素種に対して有効に抗酸化能を発揮できる抗酸化性組成物を提供することができる。
(2)生体内で産生される次亜塩素酸ラジカル、水酸化ラジカル及び過酸化亜硝酸ラジカルの3種の活性酸素種に対して相乗的な抗酸化作用を持つ特定の成分を組み合わせて成る抗酸化性組成物を提供することができる。
(3)本発明は、生活習慣病の予防や老化防止に有効な新規抗酸化性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
丸鶏400kgから熱水抽出して得られたチキンエキス1,200Lを濃縮して電気伝導度25mS/cmになるように塩濃度を調整し、これをあらかじめ0.05Mクエン酸緩衝液に平衡化したDowex50−X8陽イオン交換体を充填したカラムに通液してチキンエキス中のアンセリンとカルノシンを該イオン交換体に吸着せしめ、イオン交換体を同緩衝液で十分に洗浄した後、希アルカリ溶液でアンセリンとカルノシンを該イオン交換カラムより溶出させて回収した。陽イオン交換体より溶出したアンセリンとカルノシンの混合体を減圧下に濃縮した後、塩酸でpHを中性に調整し、活性炭を2%(W/W)添加して脱色し、ろ紙によるろ過で活性炭を除去した。ここに得られた精製アンセリン−カルノシンの純度は固形物当たり約78%であった。
【0035】
該チキンエキス由来アンセリン−カルノシン混合体をマンゴ果汁(60%)50mL中に400mg、そしてV.Cを300mg(和光純薬製)、CoQ10水溶性化エマルジョン(横浜油脂製)0.2g(CoQ10として20mg)を添加し、3種の抗酸化成分含有の果汁飲料を調製した。本飲料は試験例(3)で示したように健康人の血液流動性を改善する効果が観察された。
【実施例2】
【0036】
丸鶏を熱水抽出して得られたチキンエキスを濃縮した後、固形物当たりのアンセリン−カルノシン含量が10%になるように調整して噴霧乾燥し、チキンエキス粉末を調製した。該チキンエキス粉末2.0g当たりV.C(和光純薬)150mg、CoQ10粉末(日清ファルマ製)200mg(CoQ10として10mg)を添加し、更にコーン粉末8g、玉ねぎパウダー1g、調味料1gを加え、即席用コーンスープ粉末を調製した。該コーンスープ粉末12.6gを80℃の湯100mLに溶解することにより簡便に抗酸化性強化コーンポタージュスープとして食卓に供すことが可能であった。また、該コーンスープ液について上記の3種の活性酸素によるin vitroでのタンパク質分解作用に対する防止作用を試験したところ、いずれの活性酸素によるタンパク質分解作用も完全に抑制する結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上詳述した通り、本発明は、抗酸化性組成物に係るものであり、本発明により、広い範囲の活性酸素種に対して有効に作用する抗酸化組成物を提供することができる。これまで単一の抗酸化剤を含有する食品が生活習慣病予防や老化予防の目的のために広く利用されてきた。例えば、動脈硬化や高血圧、ガン、糖尿病や糖尿病に併発する各種疾患などである。しかしながら、これまで行われて来た抗酸化剤の生活習慣病や老化予防の臨床試験では、必ずしも十分な効果を上げてこなかった現実がある。この原因はいろいろ考えられるが、第一に、試験管内や動物に強制投与して得られる臨床的効果が、実際に人間に経口摂取される場合には、腸管吸収性の問題や生体内分布の問題があったことがあげられる。特に、植物由来のポリフェノール類が該当する。第二には、老化や生活習慣病の原因となる生体内の活性酸素は、単一のものではなく、人間の生活習慣や生理的条件によってさまざまな種類のものが発生していることである。従来、抗酸化剤の活性の強度は生体内で発生する活性酸素と関連性の乏しい活性酸素を対象に評価され、その基準で強さの順位が規定されてきた。しかし、本発明の試験で確認されたように、生理的に調節可能な濃度での各種抗酸化剤の作用にはそれぞれ活性酸素種に対する特異性が存在し、従来、抗酸化活性が弱いと評価されたものでも特定の活性酸素に対して強い抗酸化作用を発揮すること、逆に、強い抗酸化剤と評価されてきたものでも作用が弱い活性酸素が存在することが明らかとなった。これらのことから、単一の抗酸化剤を主成分とする食品では生体内で発生するさまざまな活性酸素によって発症する各種疾病を十分に防止できなかったと考えられる。
【0038】
本発明では、生体内で発生する活性酸素種を3大別し、酸素ガスから発生するOH・系、白血球が生成する塩素系と窒素酸化物系の活性酸素に対する抗酸化剤の特定を行った。その結果、ヒスチジン含有ジペプチド混合体、硫黄含アミノ酸類又はペプチドが塩素系活性酸素に対して、コエンザイムQ10などのユビキノン類はOH・系に対して、そして、ビタミンCなどが窒素酸化物系の活性酸素に対して強い抗酸化活性を示すことを明らかにした。これらの知見から、広い範囲の活性酸素種に対して有効に作用する抗酸化剤の配合が重要であり、実際に抗酸化剤を配合することによって酸化障害によって起こる生体内での最終糖化産物の生成が顕著に抑制する効果が認められ、このことから、老化や生活習慣病の発生抑制に従来より更に効果的な抗酸化性食品の提供が可能となった。また、これらの抗酸化成分を含有する天然素材を配合することによっても、より効果的な抗酸化性食品素材の製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】各種抗酸化剤の活性酸素による卵白アルブミン分解作用の阻止効果を示す。Aは10mMのClOラジカル、Bは10mMのOHラジカル、CはONOOラジカルの酸化分解である。各パネルのRは未処理卵白アルブミン、Cは酸化分解卵白アルブミン対照、1はチキンエキス由来精製アンセリン−カルノシン混合体5mM、2はビタミンC 5mM、3はコエンザイムQ10 50μM、4はこれら3種の抗酸化剤の配合物である。
【図2】各種活性酸素によるヒト赤血球のマイクロチャンネル(MC)通過能低下作用に対する各種抗酸化成分とその配合剤による防止効果を示す。パネルAは10mMのClOラジカル、パネルBは10mMのOHラジカル、パネルCは5mMのONOOラジカルによる酸化分解である。各パネルは、左から順に、抗酸化剤非添加対照、チキンエキス由来精製アンセリン−カルノシン混合体添加、ビタミンC添加、コエンザイムQ10添加、3種配合添加、である。
【図3】健常人の血液流動性改善作用を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内で産生される活性酸素種に対して、ジ亜塩素酸系活性酸素消去剤として、動物エキスから得られるヒスチジン含有ジペプチド混合体、硫黄含有アミノ酸類又はペプチド100mg当たり、過酸化亜硝酸系活性酸素消去剤として、ビタミンC(L−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩)を20mg以上、そして、水酸化ラジカル系活性酸素消去剤として、コエンザイムQ10などのユビキノン類を4mg以上の割合に配合したことを特徴とする、次亜塩素酸ラジカル、水酸化ラジカル及び過酸化亜硝酸ラジカルの3種を抑制する作用を有する抗酸化性組成物。
【請求項2】
上記のジ亜塩素酸系活性酸素消去剤が、家禽、牛、豚、又は回遊性魚類の筋肉を熱水抽出して得られる動物エキス中に含まれるヒスチジン含有ジペプチドのアンセリンとカルノシンの混合体であり、硫黄含有アミノ酸類が、システイン、アセチルシステイン、又はメチオニンであり、そして、ペプチドが、還元型グルタチオンである請求項1に記載の抗酸化性組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗酸化性組成物を有効成分とすることを特徴とする食品素材又は食品。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内で産生される活性酸素種に対して、亜塩素酸系活性酸素消去剤として、動物エキスから得られるヒスチジン含有ジペプチド混合体、硫黄含有アミノ酸類又はペプチド100mg当たり、過酸化亜硝酸系活性酸素消去剤として、ビタミンC(L−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩)を20mg以上、そして、水酸化ラジカル系活性酸素消去剤として、コエンザイムQ10などのユビキノン類を4mg以上の割合に配合したことを特徴とする、次亜塩素酸ラジカル、水酸化ラジカル及び過酸化亜硝酸ラジカルの3種を抑制する作用を有する抗酸化性組成物。
【請求項2】
上記の亜塩素酸系活性酸素消去剤が、家禽、牛、豚、又は回遊性魚類の筋肉を熱水抽出して得られる動物エキス中に含まれるヒスチジン含有ジペプチドのアンセリンとカルノシンの混合体であり、硫黄含有アミノ酸類が、システイン、アセチルシステイン、又はメチオニンであり、そして、ペプチドが、還元型グルタチオンである請求項1に記載の抗酸化性組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗酸化性組成物を有効成分とすることを特徴とする食品素材又は食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−265161(P2006−265161A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85028(P2005−85028)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(395008506)ニューフード・クリエーション技術研究組合 (5)
【Fターム(参考)】