説明

抗I型アレルギー剤

【課題】アレルギーの中で特に発症頻度が高いI型アレルギー(例えば、気管支喘息、花粉症、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎)用剤、特にヒスタミンの遊離を抑制し、これを介してI型アレルギーを抑制することを可能とする化合物であり、飲食品の素材としても使用可能で、日常的に摂取することが可能な抗I型アレルギー剤を提供する。
【解決手段】ホップ苦味成分(例えば、一般式(1)の化合物。)を有効成分として含有する抗I型アレルギー剤。


[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗I型アレルギー剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトは、外来の異物(細菌、花粉、ダニ等)から生体を防御する免疫系を備えている。ところが、免疫系は、時に、特定の異物に対して過剰な生体防御反応を引き起こし、かえって生体に有害な作用を及ぼす。そのような反応はアレルギーと呼ばれる。
【0003】
アレルギーの中で特に発症頻度が高いのは、いわゆるI型アレルギーである。抗I型アレルギー剤は種々知られているが、I型アレルギーの高い発症頻度を考慮すると、抗I型アレルギー剤は、飲食品の素材としても使用可能で、日常的に摂取可能なものが望ましいといえる。
【0004】
そのような抗I型アレルギー剤としては、例えば、茶に含まれるカテキンを有効成分とするものが知られている(非特許文献1参照)。また、ホップ水抽出物に含まれるフラボノイド配糖体を有効成分とするものが知られている(特許文献1参照)。また、ホップ水抽出物に含まれるフロロアシルフェノン配糖体を有効成分とするものが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/093194号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2006/093202号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本補完代替医療学会誌 第3巻 第2号 2006年6月 53−60
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
飲食品の素材として使用可能な抗I型アレルギー剤に関しては、上述のような例が挙げられるものの、未だ、多様な需要を満たすのに十分な選択肢が存在するとはいえないのが実情である。そこで、本発明は、飲食品の素材としても使用可能な新規の抗I型アレルギー剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ホップ苦味成分を有効成分として含有する抗I型アレルギー剤を提供する。
【0009】
本発明において、「ホップ苦味成分」とは、ホップ又はその抽出物に含有される苦味物質をいう。必ずしも天然のホップに含有されるものでなくてもよく、例えば、加熱処理、酸化還元処理、酵素処理等が施されたホップ抽出物に含有されるものであってもよい。
【0010】
I型アレルギーでは、主としてIgE(免疫グロブリンE)抗体が抗原(アレルゲン)と共に肥満細胞や好塩基球に作用して、これらの細胞から種々のケミカルメディエーター(例えば、ヒスタミン、セロトニン)を遊離させる。本発明の抗I型アレルギー剤は、特にヒスタミンの遊離を抑制し、これを介して、I型アレルギーないしこれに伴う種々の症状・疾患(例えば、気管支喘息、花粉症、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎)を抑制(治療、緩和又は予防)することを可能とする。
【0011】
本発明の抗I型アレルギー剤において、ホップ苦味成分としては、例えば、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物、一般式(4)で表される化合物、一般式(5)で表される化合物、一般式(6)で表される化合物及び一般式(7)で表される化合物が挙げられる(一般式(1)〜(7)は下記の通り)。すなわち、本発明はまた、一般式(1)〜(7)で表される化合物の少なくとも1種を有効成分として含有する抗I型アレルギー剤を提供する。
【0012】
【化1】



[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]
【0013】
【化2】



[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]
【0014】
【化3】



[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]
【0015】
【化4】



[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]
【0016】
【化5】



[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]
【0017】
【化6】



[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]
【0018】
【化7】



[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]
【0019】
本発明の抗I型アレルギー剤は、より高い抗アレルギー効果が得られる点で、一般式(1)〜(4)の化合物の少なくとも1種を有効成分として含有するのが好ましく、一般式(1)及び(2)の化合物の少なくとも1種を有効成分として含有するのがより好ましく、一般式(1)の化合物の少なくとも1種を有効成分として含有するのが特に好ましい。
【0020】
一般式(1)〜(7)において、R〜Rで表されるC1−6アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、1−メチルエチル基(イソプロピル基)、1,1−ジメチルエチル基(tert−ブチル基)、プロピル基、1−メチルプロピル基(sec−ブチル基)、2−メチルプロピル基(イソブチル基)、2,2−ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、ブチル基、3−メチルブチル基、ペンチル基及びヘキシル基が挙げられる。
【0021】
〜Rは、好ましくはC2−5アルキル基であり、より好ましくはC3−4アルキル基である。C2−5アルキル基の例としては、2−メチルプロピル基、1−メチルプロピル基、1−メチルエチル基、エチル基及び3−メチルブチル基が挙げられ、C3−4アルキル基の例としては、2−メチルプロピル基、1−メチルプロピル基及び1−メチルエチル基が挙げられる。
【0022】
本発明の抗I型アレルギー剤は、ヒスタミンの遊離を抑制する作用を有することから、特にヒスタミン遊離抑制のために使用することもできる。また、種々のI型アレルギー性疾患(例えば、気管支喘息、花粉症、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎)の改善(治療、緩和)又は予防のために使用することもできる。
【0023】
ホップ苦味成分は、長年に渡ってビール系飲料で利用されてきたものであり、その安全性は確立されている。本発明の抗I型アレルギー剤は、生体に対する安全性が高く、日常的かつ継続的に摂取可能であり、それ故、医薬品成分としてのみならず、飲食品、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等の素材としても使用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、飲食品の素材としても使用可能な新規の抗I型アレルギー剤が提供される。また、そのような抗I型アレルギー剤を含有する医薬品、飲食品、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】イソアルファ酸のヒスタミン遊離抑制活性を示すグラフである。
【図2】テトラヒドロイソアルファ酸のヒスタミン遊離抑制活性を示すグラフである。
【図3】アルファ酸のヒスタミン遊離抑制活性を示すグラフである。
【図4】受動皮膚アナフィラキシー試験におけるイソアルファ酸投与マウスの漏出色素量を示すグラフである。
【図5】受動皮膚アナフィラキシー試験におけるイソアルファ酸投与、テトラヒドロイソアルファ酸投与及びβ酸投与マウスの漏出色素量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0027】
本発明の抗I型アレルギー剤は、ホップ苦味成分を有効成分として含有する。
【0028】
ホップ苦味成分としては、例えば、一般式(1)の化合物、一般式(2)の化合物、一般式(3)の化合物、一般式(4)の化合物、一般式(5)の化合物、一般式(6)の化合物及び一般式(7)の化合物が挙げられる。すなわち、本発明の抗I型アレルギー剤は、例えば、一般式(1)の化合物、一般式(2)の化合物、一般式(3)の化合物、一般式(4)の化合物、一般式(5)の化合物、一般式(6)の化合物又は一般式(7)の化合物を有効成分として含有する。
【0029】
一般式(1)〜(7)において、R〜Rで表されるC1−6アルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。C1−6アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、1−メチルエチル基(イソプロピル基)、1,1−ジメチルエチル基(tert−ブチル基)、プロピル基、1−メチルプロピル基(sec−ブチル基)、2−メチルプロピル基(イソブチル基)、2,2−ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、ブチル基、3−メチルブチル基、ペンチル基及びヘキシル基が挙げられる。
【0030】
一般式(1)の化合物(イソアルファ酸)の中では、RがC2−5アルキル基である化合物が好ましく、RがC3−4アルキル基である化合物がより好ましい。
がC2−5アルキル基である化合物の例としては、
イソフムロン(R=2−メチルプロピル基)、
イソアドフムロン(R=1−メチルプロピル基)、
イソコフムロン(R=1−メチルエチル基)、
イソポストフムロン(R=エチル基)、及び
イソプレフムロン(R=3−メチルブチル基)が挙げられる。
R1がC3−4アルキル基である化合物の例としては、
イソフムロン(R=2−メチルプロピル基)、
イソアドフムロン(R=1−メチルプロピル基)、及び
イソコフムロン(R=1−メチルエチル基)が挙げられる。
【0031】
一般式(2)の化合物(テトラヒドロイソアルファ酸)の中では、RがC2−5アルキル基である化合物が好ましく、R2がC3−4アルキル基である化合物がより好ましい。
がC2−5アルキル基である化合物の例としては、
テトラヒドロイソフムロン(R=2−メチルプロピル基)、
テトラヒドロイソアドフムロン(R=1−メチルプロピル基)、
テトラヒドロイソコフムロン(R=1−メチルエチル基)、
テトラヒドロイソポストフムロン(R=エチル基)、及び
テトラヒドロイソプレフムロン(R=3−メチルブチル基)が挙げられる。
R2がC3−4アルキル基である化合物の例としては、
テトラヒドロイソフムロン(R=2−メチルプロピル基)、
テトラヒドロイソアドフムロン(R=1−メチルプロピル基)、及び
テトラヒドロイソコフムロン(R=1−メチルエチル基)が挙げられる。
【0032】
一般式(3)の化合物(ローイソアルファ酸)の中では、RがC2−5アルキル基である化合物が好ましく、R3がC3−4アルキル基である化合物がより好ましい。
がC2−5アルキル基である化合物の例としては、
ローイソフムロン(R=2−メチルプロピル基)、
ローイソアドフムロン(R=1−メチルプロピル基)、
ローイソコフムロン(R=1−メチルエチル基)、
ローイソポストフムロン(R=エチル基)、及び
ローイソプレフムロン(R=3−メチルブチル基)が挙げられる。
がC3−4アルキル基である化合物の例としては、
ローイソフムロン(R=2−メチルプロピル基)、
ローイソアドフムロン(R=1−メチルプロピル基)、及び
ローイソコフムロン(R=1−メチルエチル基)が挙げられる。
【0033】
一般式(4)の化合物(ヘキサヒドロイソアルファ酸)の中では、RがC2−5アルキル基である化合物が好ましく、R4がC3−4アルキル基である化合物がより好ましい。
がC2−5アルキル基である化合物の例としては、
ヘキサヒドロイソフムロン(R=2−メチルプロピル基)、
ヘキサヒドロイソアドフムロン(R=1−メチルプロピル基)、
ヘキサヒドロイソコフムロン(R=1−メチルエチル基)、
ヘキサヒドロイソポストフムロン(R=エチル基)、及び
ヘキサヒドロイソプレフムロン(R=3−メチルブチル基)が挙げられる。
がC3−4アルキル基である化合物の例としては、
ヘキサヒドロイソフムロン(R=2−メチルプロピル基)、
ヘキサヒドロイソアドフムロン(R=1−メチルプロピル基)、及び
ヘキサヒドロイソコフムロン(R=1−メチルエチル基)が挙げられる。
【0034】
一般式(5)の化合物(アルファ酸)の中では、RがC2−5アルキル基である化合物が好ましく、RがC3−4アルキル基である化合物がより好ましい。
がC2−5アルキル基である化合物の例としては、
フムロン(R=2−メチルプロピル基)、
アドフムロン(R=1−メチルプロピル基)、
コフムロン(R=1−メチルエチル基)、
ポストフムロン(R=エチル基)、及び
プレフムロン(R=3−メチルブチル基)が挙げられる。
がC3−4アルキル基である化合物の例としては、
フムロン(R=2−メチルプロピル基)、
アドフムロン(R=1−メチルプロピル基)、及び
コフムロン(R=1−メチルエチル基)が挙げられる。
【0035】
一般式(6)の化合物(ベータ酸)の中では、RがC2−5アルキル基である化合物が好ましく、RがC3−4アルキル基である化合物がより好ましい。
がC2−5アルキル基である化合物の例としては、
ルプロン(R=2−メチルプロピル基)、
アドルプロン(R=1−メチルプロピル基)、
コルプロン(R=1−メチルエチル基)、
ポストルプロン(R=エチル基)、及び
プレルプロン(R=3−メチルブチル基)が挙げられる。
がC3−4アルキル基である化合物の例としては、
ルプロン(R=2−メチルプロピル基)、
アドルプロン(R=1−メチルプロピル基)、及び
コルプロン(R=1−メチルエチル基)が挙げられる。
【0036】
一般式(7)の化合物の中では、RがC2−5アルキル基である化合物が好ましく、RがC3−4アルキル基である化合物がより好ましい。
がC2−5アルキル基である化合物の例としては、
フルポン(R=2−メチルプロピル基)、
アドフルポン(R=1−メチルプロピル基)、
コフルポン(R=1−メチルエチル基)、
ポストフルポン(R=エチル基)、及び
プレフルポン(R=3−メチルブチル基)が挙げられる。
がC3−4アルキル基である化合物の例としては、
フルポン(R=2−メチルプロピル基)、
アドフルポン(R=1−メチルプロピル基)、及び
コフルポン(R=1−メチルエチル基)が挙げられる。
【0037】
本発明の抗I型アレルギー剤において、ホップ苦味成分は、天然物(植物、微生物等)に由来するものであっても、人為的に合成したものであってもよい。また、市販のものがあれば、それを使用してもよい。
【0038】
ホップ苦味成分は、例えば、ホップ抽出物を分画・精製することによって得ることができる。ホップ抽出物としては、例えば、市販のホップエキス又はイソ化ホップエキスを使用してもよい。
【0039】
ホップからの抽出を行う場合、抽出に供するホップ組織としては、毬花、茎又は葉が好ましい。ホップは、乾燥、凍結、加工、粉砕、選別等の処理が施されたものであってもよく、例えば、ホップペレットを使用してもよい。
【0040】
ホップの品種は特に制限されず、既存の品種(例えば、チェコ産ザーツ種、ドイツ産ハラタウ・マグナム種、ドイツ産ハラタウ・トラディション種、ドイツ産ペルレ種)のいずれであってもよい。1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
ホップからの抽出は、例えば、ホップを溶媒に浸漬し、これを濾過することによって行うことができる。溶媒としては、例えば、エタノール、メタノールが好適である。溶媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。浸漬の際には超音波処理を行ってもよい。抽出は、超臨界流体(例えば、二酸化炭素)を用いて行うこともできる。得られた抽出物に対しては、公知の方法(例えば、減圧濃縮、凍結乾燥)により濃縮又は乾燥を行ってもよく、更に粉砕等の処理を行ってもよい。
【0042】
ホップ抽出物からのホップ苦味成分の分画・精製は、公知の方法(例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、フラッシュクロマトグラフィー、HPLC、フィルター濾過、遠心分離)により行うことができる。
【0043】
得られた化合物が所望の化合物かどうかは、公知の方法(例えば、質量分析、元素分析、核磁気共鳴分光法、紫外分光法、赤外分光法)により確認することができる。
【0044】
また、一般式(1)〜(4)の化合物は、例えば、下記反応式に示される方法によって得ることができる。
【0045】
【化8】



[式中、R〜Rは各々、C1−6アルキル基を表す。]
【0046】
このように、一般式(1)の化合物は、一般式(5)の化合物をアルカリ条件下で加熱することによって得ることができる。また、一般式(2)の化合物は、一般式(1)の化合物をパラジウム付活性炭の存在下、水素ガスで接触還元することによって得ることができる。また、一般式(3)の化合物は、一般式(1)の化合物を水素化ホウ素ナトリウムと反応させることによって得ることができる。また、一般式(4)の化合物は、一般式(2)の化合物を水素化ホウ素ナトリウムと反応させることによって得ることができる。
【0047】
また、一般式(7)の化合物は、一般式(6)の化合物を酸化することによって得ることができる。例えば、フルポンは、次のようにして得ることができる。すなわち、まず、ルプロンをメタノール/水混合液に添加して、酸素存在下、十分に振とうする。次に、溶媒を除去し、残留物をヘキサンで抽出する。そして、抽出物をメタノールに懸濁し、これを2N塩酸で酸性にし、更に水で希釈する。最後に、これをヘキサンで抽出し、抽出物を留出すれば、フルポンが得られる。
【0048】
本発明の抗I型アレルギー剤は、1種のホップ苦味成分のみを含有しても、2種以上のホップ苦味成分を含有してもよい。また、抗I型アレルギー作用を有する他の物質を更に含有してもよい。
【0049】
本発明の抗I型アレルギー剤は、ホップ苦味成分からなるものであってもよい。また、本質的にホップ苦味成分からなるものであってもよい。
【0050】
本発明の抗I型アレルギー剤は、固体(例えば、凍結乾燥させて得られる粉末)、液体(水溶性又は脂溶性の溶液又は懸濁液)、ペースト等のいずれの形状でもよく、また、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、軟膏剤、硬膏剤等のいずれの剤形をとってもよい。
【0051】
上述の各種製剤は、ホップ苦味成分と、薬学的に許容される添加剤(賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等)と、を混和することによって調製することができる。
【0052】
例えば、賦形剤としては、ラクトース、スクロース、デンプン、デキストリン等が挙げられる。結合剤としては、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、Tween60、Tween80、Span80、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。基剤としては、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール、米糠油、魚油(DHA、EPA等)、オリーブ油等が挙げられる。溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、Tween80等が挙げられる。懸濁化剤としては、Tween60、Tween80、Span80、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0053】
本発明の抗I型アレルギー剤は、医薬品、飲食品(飲料、食品)、飲食品添加物、飼料、飼料添加物等の成分として使用することができる。例えば、飲料としては、水、清涼飲料水、果汁飲料、乳飲料、アルコール飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンク等が挙げられる。食品としては、パン類、麺類、米類、豆腐、乳製品、醤油、味噌、菓子類等が挙げられる。本発明の抗I型アレルギー剤はまた、特定保健用食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康食品、機能性食品、病者用食品等の成分として使用することもできる。
【0054】
飲料、食品、飼料等は、当該分野で通常使用される添加物を更に含有してもよい。そのような添加物としては、例えば、苦味料、香料、リンゴファイバー、大豆ファイバー、肉エキス、黒酢エキス、ゼラチン、コーンスターチ、蜂蜜、動植物油脂;グルテン等のタンパク質;大豆、エンドウ等の豆類;グルコース、フルクトース等の単糖類;スクロース等の二糖類;デキストロース、デンプン等の多糖類;エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール類;ビタミンC等のビタミン類;亜鉛、銅、マグネシウム等のミネラル類;CoQ10、α−リポ酸、カルニチン、カプサイシン等の機能性素材、が挙げられる。これらの添加物は、1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
本発明の抗I型アレルギー剤は、ヒトに摂取されても、非ヒト哺乳動物に摂取されてもよい。摂取量及び摂取方法は、個体の状態、年齢等に応じて適宜決定することができる。好適な摂取方法としては、例えば、経口摂取が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
(試験サンプルの調製)
イソアルファ酸(一般式(1)の化合物)[主として、イソフムロン(R=2−メチルプロピル基)、イソアドフムロン(R=1−メチルプロピル基)、イソコフムロン(R=1−メチルエチル基)]を含有するイソ化ホップエキス(ISOHOP,Barth)を20%DMSO溶液で段階希釈して、所定濃度の試験サンプルを得た。
【0058】
(in vitroアッセイ)
ヒト好塩基球細胞株KU812を、10%FBS(ウシ胎児血清)含有RPMI1640培地(GIBCO)[FBSは、56℃で30分間不活性化]を用いて、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。細胞をTyrode液で2回洗浄した後、2×106cells/mLとなるようにTyrode液に懸濁した。細胞懸濁液を1.5mL容チューブに500μLずつ分注し、これを用いて、表1に示す3種の溶液を調製した。A23187はCaイオノフォアである。
【0059】
【表1】



【0060】
各溶液を37℃で20分間インキュベートし、次いで氷中に5分間静置した。その後、4℃、3000rpmで5分間遠心分離し、上清を回収した。得られた上清をHPLCで分析して、各溶液の遊離ヒスタミンを定量した。HPLCは下記条件で行った。遊離ヒスタミン量は、測定された蛍光強度から検量線により求めた。
HPLC条件:
カラム:SunFire C18 Column,3.5μm,2.1×150mm(Waters)[プレカラムフィルター(Supelco)を使用]
カラムオーブン温度:40℃
溶出法:40mMリン酸緩衝液(A液)/90%CH3OH(B液)によるグラジエント溶出[0分:A液60%/B液40% → 20分:B液100% → 30分:B液100% → 35分:A液60%/B液40% → 43分:A液60%/B液40%]
検出器:蛍光検出器(Ex 340nm,Em 450nm)
サンプルクーラー温度:5℃
【0061】
イソアルファ酸のヒスタミン遊離抑制率(%)を下記式により算出した。
ヒスタミン遊離抑制率(%)=[1−{(X−XB)/(XA−XB)}]×100[式中、Xは試験溶液の遊離ヒスタミン量、XAはコントロール溶液Aの遊離ヒスタミン量、XBはコントロール溶液Bの遊離ヒスタミン量を表す。]
【0062】
(結果)
イソアルファ酸のヒスタミン遊離抑制率(%)は、表2及び図1に示す通りであった。表2及び図1において、イソアルファ酸濃度(μg/mL)は試験溶液中の濃度である。
【0063】
【表2】



【0064】
表2及び図1から明らかなように、イソアルファ酸はヒスタミンの遊離を顕著に抑制した。
【0065】
[実施例2]
(試験サンプルの調製)
テトラヒドロイソアルファ酸(一般式(2)の化合物)[主として、テトラヒドロイソフムロン(R=2−メチルプロピル基)、テトラヒドロイソアドフムロン(R=1−メチルプロピル基)、テトラヒドロイソコフムロン(R=1−メチルエチル基)]を含有する試薬(Tetra(ICS−T2),Labor Veritas,純度99.4%)を20%DMSO溶液で段階希釈して、所定濃度の試験サンプルを得た。
【0066】
(in vitroアッセイ)
得られた試験サンプルについて、実施例1と同様にしてin vitroアッセイを行った。
【0067】
(結果)
テトラヒドロイソアルファ酸のヒスタミン遊離抑制率(%)は、表3及び図2に示す通りであった。表3及び図2において、テトラヒドロイソアルファ酸濃度(μg/mL)は試験溶液中の濃度である。
【0068】
【表3】



【0069】
表3及び図2から明らかなように、テトラヒドロイソアルファ酸はヒスタミンの遊離を顕著に抑制した。
【0070】
[実施例3]
(試験サンプルの調製)
アルファ酸(一般式(5)の化合物)[主として、フムロン(R=2−メチルプロピル基)、アドフムロン(R=1−メチルプロピル基)、コフムロン(R=1−メチルエチル基)]及びベータ酸(一般式(6)の化合物)の混合物(HPLC用標準品,ICE−2,Labor Veritas)を85%CH3OH/4.5%CH3COOHで5mg/mLの濃度に調整し、この溶液を遠心分離及びフィルター濾過にかけた後、HPLCによりベータ酸を除去してアルファ酸画分を得た。そして、アルファ酸画分から、減圧濃縮及び凍結乾燥により水分を除去し、20%DMSO溶液で段階希釈して、所定濃度の試験サンプルを得た。HPLCは下記条件で行った。
HPLC条件:
カラム:CAPCELL PAK C18(φ1cm,10×250mm)(資生堂)
移動層:85%CH3OH/4.5%CH3COOH
流速:3mL/分
【0071】
(in vitroアッセイ)
得られた試験サンプルについて、実施例1と同様にしてin vitroアッセイを行った。
【0072】
(結果)
アルファ酸のヒスタミン遊離抑制率(%)は、表4及び図3に示す通りであった。表4及び図3において、アルファ酸濃度(μg/mL)は試験溶液中の濃度である。
【0073】
【表4】



【0074】
表4及び図3から明らかなように、アルファ酸はヒスタミンの遊離を顕著に抑制した。
【0075】
[実施例4]
(試験サンプルの調製)
ベータ酸(一般式(6)の化合物)[主として、ルプロン(R=2−メチルプロピル基)、アドルプロン(R=1−メチルプロピル基)、コルプロン(R=1−メチルエチル基)]及びアルファ酸(一般式(5)の化合物)の混合物(HPLC用標準品,ICE−2,Labor Veritas)を85%CH3OH/4.5%CH3COOHで5mg/mLの濃度に調整し、この溶液を遠心分離及びフィルター濾過にかけた後、HPLCによりアルファ酸を除去してベータ酸画分を得た。そして、ベータ酸画分から、減圧濃縮及び凍結乾燥により水分を除去し、20%DMSO溶液で段階希釈して、所定濃度の試験サンプルを得た。HPLCは下記条件で行った。
HPLC条件:
カラム:CAPCELL PAK C18(φ1cm,10×250mm)(資生堂)
移動層:85%CH3OH/4.5%CH3COOH
流速:3mL/分
【0076】
(in vitroアッセイ)
得られた試験サンプルについて、実施例1と同様にしてin vitroアッセイを行った。
【0077】
(結果)
ベータ酸のヒスタミン遊離抑制率(%)は、表5に示す通りであった。表5において、ベータ酸濃度(μg/mL)は試験溶液中の濃度である。
【0078】
【表5】



【0079】
表5から明らかなように、ベータ酸はヒスタミンの遊離を顕著に抑制した。
【0080】
[実施例5]
(試験サンプルの調製)
ベータ酸を50.3%含有するホップエキス(Zeus Beta Aroma Extract,Hopsteiner)を100%メタノールに溶解し、更に水を加えて60%メタノールの溶液とし、常温で4日間振とうした。次いで、この溶液をジクロロメタンで分配し、得られたジクロロメタン層に対して下記条件でHPLCを行って、フルポン溶出画分を分取した(溶出時間:12〜17分)。そして、YMC*Gel ODS−A(細孔径12nm,粒子径50μm)を充填したカートリッジを用いて脱塩を行った後、フルポン溶出画分から減圧濃縮及び凍結乾燥により溶媒を除去した。最後に、20%DMSO溶液で段階希釈して、所定濃度の試験サンプルを得た。
HPLC条件:
カラム:CAPCELL PAK C18(φ1cm,10×250mm)(資生堂)
カラムオーブン温度:50℃
移動層:77.5%CH3OH/1.4%リン酸/150mM 過塩素酸ナトリウム
流速:3mL/分
【0081】
(in vitroアッセイ)
得られた試験サンプルについて、実施例1と同様にしてin vitroアッセイを行った。
【0082】
(結果)
フルポンのヒスタミン遊離抑制率(%)は、表6に示す通りであった。表6において、フルポン濃度(μg/mL)は試験溶液中の濃度である。
【0083】
【表6】



【0084】
表6から明らかなように、フルポンはヒスタミンの遊離を顕著に抑制した。
【0085】
[実施例6]
(試験飼料の調製)
イソアルファ酸(一般式(1)の化合物)[主として、イソフムロン(R=2−メチルプロピル基)、イソアドフムロン(R=1−メチルプロピル基)、イソコフムロン(R=1−メチルエチル基)]を30%含有するイソ化ホップエキス(ISOHOP,Barth)を粉末飼料AIN93Gに混合して、イソアルファ酸を0.5重量%含有するイソアルファ酸含有飼料を調製した。AIN93G及びイソアルファ酸含有試料の組成は、表7(各成分量の単位はg/kg飼料)に示す通りである。
【0086】
【表7】



【0087】
(受動皮膚アナフィラキシー試験)
4週齢の雌性BALB/cマウスを用いて、以下のように受動皮膚アナフィラキシー(PCA)試験を行った。試験期間中、マウスは、SPF環境下、温度23±1℃、湿度60±5%の条件で集団飼育した(4〜5匹/ケージ)。
【0088】
マウスの感作:
マウスを1週間馴化飼育した後、卵白アルブミン(OVA)50μgをAl(OH)3
2mgと共に腹腔内投与し、更に2週間後、同様にしてOVAをAl(OH)3と共に投与した。2回目のOVA投与から1週間後、血中抗OVA IgE抗体濃度をELISA法により測定し、この値が群間でバラつかないように2群[コントロール群(8匹)、イソアルファ酸投与群(9匹)]に分けた。馴化飼育の開始からマウスの群分けまでの期間(4週間)は、すべてのマウスにAIN93G及び水道水を自由摂取させた。
【0089】
試験飼料の投与:
群分け後、イソアルファ酸投与群のマウスには、イソアルファ酸含有飼料及び水道水を1週間自由摂取させた。他方、コントロール群のマウスには、引き続きAIN93G及び水道水を1週間自由摂取させた。
【0090】
抗原チャレンジ:
群分けから1週間後、1%エバンスブルー溶液5mL/kg体重を尾静脈投与し、更に、OVA100μgを背部皮内に投与した。イソアルファ酸投与群のマウスには、OVA投与の1時間前にイソ化ホップエキス(ISOHOP,Barth)100mg/kg体重を胃ゾンデにより強制的に経口投与した。
【0091】
漏出色素量の測定:
OVA投与から30分後、各マウスをエーテル麻酔下、脱血屠殺し、色素漏出が観察された背部皮膚を鋏で切り出した。切り出した皮膚を9等分した後、6N水酸化カリウム水溶液1mLに浸漬し、45℃で6時間インキュベートした。そして、6N塩酸で中和し、アセトン2mLを加えた後、遠心分離、フィルター濾過を行い、得られた溶液の吸光度(595nm)を測定した。測定された吸光度は、検量線に基づいて溶液1mL当たりの漏出色素量(μg)に変換した。なお、漏出色素量は、PCA反応の過程で遊離したヒスタミン量に比例する。
【0092】
(結果)
各群のマウスの漏出色素量(平均±標準誤差)(μg/mL)は表8及び図4に示す通りであった。
【0093】
【表8】



【0094】
表8及び図4から明らかなように、イソアルファ酸投与群において、漏出色素量は顕著に少なく、ヒスタミンの遊離は顕著に抑制された。
【0095】
[実施例7]
(試験飼料の調製)
イソアルファ酸(IAA)を30%含有するイソ化ホップエキス(ISOHOP,Barth社)、テトラヒドロイソアルファ酸(THIAA)を9%含有するTetra hydroisohop(Barth社)、β酸を10%含有するBeta stab 10A(Barth社)、及び抗アレルギー剤のケトチフェン(Sigma社)を粉末飼料AIN93Gに混合して、0.5重量%のイソアルファ酸、0.5重量%のテトラヒドロイソアルファ酸、0.5重量%のβ酸、及び0.01重量%のケトチフェンをそれぞれ含有する飼料を調製した。
【0096】
(受動皮膚アナフィラキシー試験)
4週齢の雌性BALB/cマウスを用いて、実施例6と同様に血中抗OVA IgE抗体濃度が群間でバラつかないように5群(10匹/群):コントロール群(AIN93Gのみ)、イソアルファ酸(IAA)群、テトラヒドロイソアルファ酸(THIAA)群、β酸群及びケトチフェン群に分け、受動皮膚アナフィラキシー(PCA)試験を行った。
【0097】
(結果)
各群のマウスの漏出色素量(平均±標準誤差)(μg/mL)は表9及び図5に示す通りであった。
【0098】
【表9】



【0099】
表9及び図5から明らかなように、イソアルファ酸群、テトラヒドロイソアルファ酸群及びβ酸群において、漏出色素量は顕著に少なく、ヒスタミンの遊離は顕著に抑制された。
【0100】
以上の実施例により、本発明の抗I型アレルギー剤は、ヒスタミンの遊離を抑制し、これを介してI型アレルギーを抑制することが可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の抗I型アレルギー剤は、I型アレルギー性疾患(気管支喘息、花粉症等)の改善・予防に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホップ苦味成分を有効成分として含有する抗I型アレルギー剤。
【請求項2】
一般式(1)〜(7)で表される化合物の少なくとも1種を有効成分として含有する抗I型アレルギー剤。
【化1】



[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]
【化2】



[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]
【化3】



[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]
【化4】



[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]
【化5】



[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]
【化6】



[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]
【化7】



[式中、RはC1−6アルキル基を表す。]
【請求項3】
〜Rが各々、2−メチルプロピル基、1−メチルプロピル基、1−メチルエチル基、エチル基及び3−メチルブチル基から選ばれる、請求項2に記載の抗I型アレルギー剤。
【請求項4】
一般式(1)〜(4)の化合物の少なくとも1種を有効成分として含有する、請求項2に記載の抗I型アレルギー剤。
【請求項5】
〜Rが各々、2−メチルプロピル基、1−メチルプロピル基、1−メチルエチル基、エチル基及び3−メチルブチル基から選ばれる、請求項4に記載の抗I型アレルギー剤。
【請求項6】
ヒスタミン遊離抑制剤である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗I型アレルギー剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗I型アレルギー剤を含有する医薬品。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗I型アレルギー剤を含有する飲食品。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗I型アレルギー剤を含有する飲食品添加物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−74062(P2011−74062A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159740(P2010−159740)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】