説明

押出成形時のメヤニ発生を抑制するポリマー微粒子、これを用いたアンチブロッキング剤マスターバッチ並びにそれを用いて成形した樹脂フィルム

【課題】ポリオレフィン系樹脂にポリマー微粒子をアンチブロッキング剤として配合して
ポリオレフィン系樹脂フィルム用のマスターバッチを製造する際にメヤニの発生を防止す
ること。
【解決手段】有機系のポリマー微粒子で、ポリマーを構成するモノマー単位中に少なくとも1種類の2官能性以上の多官能性モノマー(架橋剤)を含み、押出機を用いてポリオレフィン系樹脂中に練りこむ際に押出機出口においてメヤニの発生を防止するポリマー微粒子をポリオレフィン系樹脂に配合して得るアンチブロッキング剤マスターバッチによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチブロッキング剤用ポリマー微粒子、およびこれを用いたマスターバッチおよびそれを用いて成形して得られるポリオレフィン系樹脂フィルムに関するものである。さらに詳しくは、ポリマー微粒子をアンチブロッキング剤として用いてマスターバッチを製造する際の押出機出口でのメヤニの発生を防止することができるポリマー微粒子、ポリオレフィン系樹脂フィルム用に適したアンチブロッキング剤マスターバッチおよびそれを用いたポリオレフィン系樹脂フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂フィルムは透明性、機械的特性に優れるので、各種包装材料として広く用いられている。しかし、ポリオレフィン系樹脂フィルムを重ねると相互に密着するいわゆるブロッキング現象を生じる。そこで、従来から、ポリエチレン系樹脂フィルムの滑り性、耐ブロッキング性を向上させるために、アンチブロッキング剤(以下「AB剤」という場合がある。)を配合して、耐ブロッキング性を向上することが行われている。AB剤としては、微粉状の無機物質をポリオレフィン系樹脂フィルムに配合することが行われていた。また、AB剤として微粉状の高分子物質(ポリマー微粒子)を配合する方法も提案されている。
【0003】
AB剤をポリオレフィン系樹脂に配合してポリオレフィン系樹脂フィルムを製造する工業的製造方法においては、ポリオレフィン系樹脂の種類、フィルムの厚み、フィルムの用途、成形法の違いに応じて、AB剤の配合量を変えることが行われている。AB剤の配合量の変更に効率的に対応するために、予めAB剤をポリオレフィン系樹脂に高濃度に配合したマスターバッチペレットを用意しておいて、これをポリオレフィン系樹脂ペレットと配合することによって、AB剤の配合量をきめ細かく調節することが行われている(例えば、特許文献1、2等)。
【0004】
マスターバッチを製造するには、AB剤とポリオレフィン系樹脂を混合し、その混合物を押出機で溶融混練し、押出機のダイスからストランド状に押出し、カットしてペレットにする。AB剤マスターバッチを製造する際に、必要に応じて酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤等の他の添加剤を適宜配合することも行われる。その際、押出機のダイス出口に樹脂劣化物等の塊が成長することがある。この塊をメヤニと称する。メヤニの発生は、ある大きさに達するとストランド切れが発生したり、メヤニがストランドとともに運ばれて製品ペレット中に混入したりするなど問題となる。メヤニが混入したマスターバッチをポリオレフィン系樹脂に配合してフィルムを製造するとフィッシュアイ等のフィルム欠陥が生じる。そこで、メヤニが発生する場合は、マスターバッチ製造時に一定時間ごとに押出機出口の清掃が必要となる。清掃にはストランドの切断が必要であり、これにより生産性が著しく低下するとともに、再始動時に樹脂の端切りが発生し、非経済的である。メヤニの発生を抑制したり、AB剤の分散性等を改良するためにスリップ剤など他の化合物を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献3、4、5、6、7等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−225655号公報
【特許文献2】特開平11−106520号公報
【特許文献3】特開平11−12403号公報
【特許文献4】特開2001−114953号公報
【特許文献5】特開2002−161175号公報
【特許文献6】特開2006−117816号公報
【特許文献7】特開2007−91831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の特許文献に記載されている方法ではメヤニの発生を十分に抑えることができず、また新たな添加剤を加えることは、後のフィルムの必要物性にも少なからぬ影響を与えかねない。本発明の目的は、ポリオレフィン系樹脂にポリマー微粒子をアンチブロッキング剤として配合してマスターバッチを製造する際にメヤニの発生を防止するアンチブロッキング剤およびアンチブロッキング剤マスターバッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる実状に鑑み押出成形時のメヤニ発生の抑制を目的に鋭意検討した結果、特定のポリマー微粒子をアンチブロッキング剤として用いることによりメヤニを抑えることができることを見出し本発明に至った。
すなわち本発明の第一は、有機系のポリマー微粒子であって、ポリマーを構成するモノマー単位中に少なくとも1種類の2官能性以上の多官能性モノマー(架橋剤)を含み、押出機を用いてポリオレフィン系樹脂中に練りこみマスターバッチを製造する際に押出機出口においてメヤニの発生が抑制されたポリマー微粒子に関するものである。
本発明の第二は、前記ポリマー微粒子が、アクリル系モノマーまたはスチレン系モノマー、または酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリルのモノマーの何れか、或いは前記モノマーと他のモノマーとを重合して調製されるものであることを特徴とするものである。
本発明の第三は、前記ポリマー微粒子が、示差走査熱量測定(DSC)でガラス転移温度(Tg)が観測されないことを特徴とするものである。
本発明の第四は、本発明の第一から第三のいずれかに記載のポリマー微粒子の配合量が、1〜50質量%のポリオレフィン系樹脂用アンチブロッキング剤マスターバッチに関するものである。
本発明の第五は、本発明の第四に記載のアンチブロッキング剤マスターバッチをポリオレフィン系樹脂と配合し成形して得られるポリオレフィン系樹脂フィルムに関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アンチブロッキング剤マスターバッチの製造において、メヤニの発生抑止効果が優れている。さらに、マスターバッチ中のボイドの発生も抑制されている。また、本発明のアンチブロッキング剤マスターバッチは色相に優れている。ポリオレフィン系樹脂にこのアンチブロッキング剤マスターバッチを配合し、成膜してポリオレフィン系樹脂フィルムを得るときは、成膜時の成型加工性に優れており、得られたフィルムの透明性、表面平滑性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の微粒子(実施例1)のDSCカーブの例
【図2】従来の微粒子(比較例1)のDSCカーブの例
【発明を実施するための形態】
【0010】
(ポリマー微粒子)
本発明のポリマー微粒子は有機系のポリマー微粒子であって、例えば、一般的な乳化重合法、分散重合法、懸濁重合法、シード重合法等を用いて得ることができる。
そのようなポリマー微粒子の重合に使用できるモノマーとしては、例えば、アクリル系モノマー、スチレン系モノマー等を挙げることができる。アクリル系モノマーとしては、アクリル酸およびアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル誘導体を;メタクリル酸およびメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル誘導体を;スチレン系モノマーとしては、スチレンおよびメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン等のスチレン誘導体を、それぞれ挙げることができる。また、その他のモノマーとして酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の重合性ビニルモノマーを挙げることができる。
また、本発明のポリマー微粒子は、マスターバッチ製造時、フィルム製造時における加熱、混練、成形、延伸等の各工程において形状を保持し、かつ押出機を用いてポリオレフィン系樹脂中に練りこむ際に所定時間以上、押出機出口においてメヤニの発生がないよう十分な程度の架橋がなされる。架橋剤は2官能性以上の多官能性モノマーで、ビニル基を2つ以上有するラジカル重合可能なモノマーが好ましい。例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等が挙げられる。そしてこれらの架橋剤は、1種であっても2種以上を併用してもかまわない。
【0011】
架橋剤は、全モノマーを基準として15質量%を超える割合、好ましくは20〜50質量%の割合で重合する。架橋剤が15質量%以下では押出機出口でのメヤニ発生防止効果が不充分となる。
本発明のポリマー微粒子は、示差走査熱量測定(DSC)において明確なガラス転移温度(以下「Tg」という場合がある)が観測されない。従来のポリマー微粒子(架橋剤濃度の低い粒子も含む)はDSC測定によってTgが観測され、マスターバッチやフィルムの製造時は押出機内でTg以上に加熱し、混練される。従来のポリマー微粒子をアンチブロッキング剤として用いたマスターバッチ製造で押出機出口に発生したメヤニを本発明者らが調査・分析した結果、当該メヤニはポリマー微粒子であることがわかった。このことから、従来のポリマー微粒子はTg以上の温度で押出機内で混練・押出されるので、ポリマー微粒子表面の粘性が高くなり押出機出口のダイスリップに粘着してメヤニとなると推測される。一方、本発明のポリマー微粒子は明確なTgが観測されず、マスターバッチ製造時の温度でも表面の粘性が従来のものほど高くならないので、押出機出口のダイスリップへの粘着が抑えられメヤニ発生が抑制できるものと考えられる。
図1においては、120℃近辺に変曲点は見られず、Tgが観測されなかったが、図2においては、126.9℃に変曲点であるTgが観察された。
【0012】
本発明のポリマー微粒子をアンチブロッキング剤としてポリオレフィン系樹脂に練りこみポリオレフィン系樹脂用アンチブロッキング剤マスターバッチを製造できる。
(ポリオレフィン系樹脂)
本発明で使用するポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン系単量体の単独重合体または共重合体もしくはこれらの混合物である。オレフィン系単量体とは、エチレンおよびα−オレフィンを意味し、α−オレフィンの例としてプロピレン、ブテンー1、ヘキセンー1、4−メチルペンテンー1、オクテンー1等がある。オレフィンとビニルエステル、α,β−不飽和カルボン酸またはそれらの誘導体との共重合体も含む。
ポリオレフィン系樹脂としては、フィルム製造に適したものが特に好ましく、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等の公知のものが使用できる。ポリエチレン系樹脂は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン等のエチレン単独またはエチレンと他のα−オレフィンとの共重合体およびエチレンとビニルエステル、α,β−不飽和カルボン酸またはそれらの誘導体との共重合体、およびエチレンとα−オレフィンとの共重合体である直鎖状ポリエチレン樹脂(LLDPE)を含む。ポリプロピレン系樹脂は、結晶性プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレンまたは他のα−オレフィンとの共重合体である。
【0013】
(ポリマー微粒子の配合量)
本発明のアンチブロッキング剤マスターバッチにおけるポリマー微粒子の配合量は、ポリオレフィン系樹脂とポリマー微粒子の合計(100質量%)に対して、1〜50質量%、好ましくは10〜40質量%である。この範囲の下限未満であると製品フィルムを製造する際、マスターバッチの添加量が多くなり、フィルムベース樹脂とマスターバッチベース樹脂が異なる場合などは、少なからずフィルム性状に影響を与えることとなる。また、生産性の面からも非効率的となる。上限を超えるとポリマー微粒子の分散が困難になり、フィルムの物理的性状に影響を与える可能性がある。
【0014】
(マスターバッチの製法)
本発明のアンチブロック剤マスターバッチの製造法は、ポリオレフィン系樹脂とポリマー微粒子が均一に分散する方法であれば、公知の方法を使用できるが、好ましい方法として、例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等を用いて混合し、その混合物を押出機で溶融混練し、押出機ダイスからストランド状に押出して、適当な長さにカットしてペレットとして得る方法が挙げられる。その際、必要に応じて、公知の酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0015】
(ポリオレフィン系樹脂フィルム)
本発明のポリオレフィン系樹脂フィルムにおいて、上記定義のポリオレフィン系樹脂に上記アンチブロッキング剤マスターバッチを、フィルム中のポリマー微粒子の含量が、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.01〜2.0質量部、好ましくは0.05〜1.0質量部となるように配合する。二層以上の多層フィルムのシーラント層に上記アンチブロッキング剤マスターバッチを用いる場合には、フィルムシーラント層中のポリマー微粒子の含量がシーラント層ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.01〜2.0質量部、好ましくは0.05〜1.0質量部となるよう配合する。この範囲の下限未満であると製品フィルムに耐ブロッキング性を付与できず、上限を超えるとフィルムの物理的性状に影響を与える可能性がある。
【0016】
本発明のアンチブロッキング剤マスターバッチをポリオレフィン系樹脂で希釈して、製品フィルム内のアンチブロッキング剤濃度を所望の濃度になるようにする。ポリオレフィン系樹脂にアンチブロッキング剤マスターバッチを配合する方法としては、均一に混合できる方法、装置であれば特に制限はないが、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等で混合し、得られた混合物を押出機で溶融混練し、公知の成膜方法によりフィルム化する方法を挙げることができる。その際、必要に応じて、公知の酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例および比較例によりさらに本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって特に限定を受けるものではない。
(ポリマー微粒子の製造例1)
以下のポリマー微粒子の製造には、内径15mmの円筒型ケーシング内に324/2400メッシュの主金網からなる金網と長さ10mm、内径10mmのスペーサーから成るユニットを30組挿入した乳化装置(国際公開公報WO 2007/117041、実施例および図1〜4参照)を使用した。
反応原料は、1質量%のベンゾイルパーオキサイド(開始剤)と20質量%のエチレングリコールジメタクリレート(架橋剤)を溶解させたメチルメタクリレート(MMA)と分散剤水溶液(1質量% PVA 217、クラレ製)を用い、それぞれ個別のプランジャーポンプにより17ml/分、33ml/分の流量にて乳化装置へ導入することにより乳化し、乳化液を得た。これを、窒素雰囲気下にて90℃、3時間加熱攪拌することにより固形のMMAポリマー微粒子を得た。このポリマー微粒子を水中に分散させて、以下の方法にて測定したMMAポリマー粒子の体積平均粒径は10.1μm、CV値は17.7%であった。またガラス転移温度(Tg)は観測されなかった。
(1)体積平均粒径:コールターカウンター(ベックマンコールター社製、マルチサイザーII)にて測定した。なお測定粒子数は10万個である。
(2)CV値:以下の式(1)にて算出した。
CV値=粒径分布の標準偏差/体積平均粒径×100---式(1)
(3)ガラス転移温度(Tg):示差走査熱量測定(DSC)装置(セイコー電子工業(株)製、SSC5200)により以下の条件で測定した。
温度範囲:40〜200℃、 昇温速度:10℃/min
以下の実施例、比較例においても同様の方法にて体積平均粒径およびCV値、Tgを測定した。
【0018】
(ポリマー微粒子の製造例2)
架橋剤濃度を30質量%とした以外は製造例1と同様の操作によりポリマー微粒子を作製した。ポリマー微粒子の体積平均粒径は10.1μm、CV値は18.5%であった。Tgは観測されなかった。
【0019】
(ポリマー微粒子の製造例3)
乳化装置としてTKホモミキサー(特殊機化工業製)を用い、製造例1と同様の組成の反応原料で分散相の平均体積粒径が約10μmとなるまで乳化分散を実施した。これを製造例1と同様の操作によってポリマー微粒子を作製した。ポリマー微粒子の体積平均粒径は11.2μm、CV値は36.9%であった。Tgは観測されなかった。
【0020】
(ポリマー微粒子の製造例4)
165/1400メッシュの主金網を使用した以外は製造例1と同様の方法によりポリマー微粒子を作製した。ポリマー微粒子の体積平均粒径は20.6μm、CV値は21.9%であった。Tgは観測されなかった。
【0021】
(ポリマー微粒子の製造例5)
架橋剤濃度を5質量%とした以外は製造例1と同様の操作によりポリマー微粒子を作製した。ポリマー微粒子の体積平均粒径は9.8μm、CV値は18.9%であった。
Tgは127℃だった。
【0022】
(ポリマー微粒子の製造例6)
架橋剤濃度を10質量%とした以外は製造例1と同様の操作によりポリマー微粒子を作製した。ポリマー微粒子の体積平均粒径は9.8μm、CV値は18.7%であった。
Tgは139℃だった。
【0023】
(マスターバッチの製造)
AB剤として次のポリマー微粒子を使用した。
実施例1:製造例1で得られた微粒子
実施例2:製造例2で得られた微粒子
実施例3:製造例3で得られた微粒子
実施例4:製造例4で得られた微粒子
比較例1:製造例5で得られた微粒子
比較例2:製造例6で得られた微粒子
ポリオレフィン系樹脂として、日本ポリエチレン(株)製のLLDPE(UF641)を使用した。
ポリオレフィン系樹脂ペレット90質量%と、上記のAB剤10質量%をドライブレンドし、小型二軸押出機(パーカーコーポレーション製HK25Dの試験機)にて入口61℃、スクリュー部200℃、メッシュ部190℃、ダイス出口180℃、ストランドφ5mmの条件で、マスターバッチペレットを製造した。
ダイス出口部を観察し、ストランドが出始めてからのメヤニ発生開始時間(分)を測定した。実施例1〜4では20分経過してもメヤニの発生は認められなかった。一方、比較例1、2ではストランドが出始めるとすぐにダイス出口部に白粉様のメヤニの発生が認められ、時間経過と共に量が増加し3分経過した時点ではそのメヤニが成長しかなり大きくなった。
結果を表1にまとめて示す。
【0024】
(実施例5)
AB剤として製造例1で得られた微粒子を用い、ポリオレフィン系樹脂ペレットを70質量%、AB剤を30質量%とした以外は実施例1と同様にしてマスターバッチペレットを製造した。ダイス出口部を観察し、ストランドが出始めてからのメヤニ発生開始時間(分)を測定したところ、20分経過してもメヤニの発生は認められなかった。結果を表1に示す。
【0025】
(実施例6)
AB剤として製造例1で得られた微粒子を用い、ポリオレフィン系樹脂ペレットを60質量%、AB剤を40質量%とした以外は実施例1と同様にしてマスターバッチペレットを製造した。ダイス出口部を観察し、ストランドが出始めてからのメヤニ発生開始時間(分)を測定したところ、20分経過してもメヤニの発生は認められなかった。結果を表1に示す。
【0026】
(実施例7)
AB剤として製造例1で得られた微粒子を、ポリオレフィン系樹脂として、日本ポリエチレン(株)製のLLDPE(UF641)を使用した。ポリオレフィン系樹脂ペレット400kg(80質量%)と、AB剤100kg(20質量%)をヘンシェルミキサーにてドライブレンドし、二軸押出機(実機相当、ダイス径5mm、穴数13)にて、入口180℃、スクリュー部200℃、メッシュ部190℃、ダイス出口180℃の条件で、マスターバッチペレットを製造した。
ダイス出口部を観察し、ストランドが出始めてからのメヤニ発生開始時間(分)を測定した。50分経過してもメヤニの発生は認められなかった。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1より、実施例1〜7のポリマー微粒子(AB剤)においては、何れもTgが観察されず、架橋剤の効果が発揮されていることが分かった。また、AB剤のマスターバッチの製造において実施例1〜7では、何れも20分以上メヤニの発生がみられず、メヤニ発生防止効果が確認された。それに対して、架橋剤濃度が低い比較例1および2においては、Tgが観察され、また、AB剤のマスターバッチ製造時に押出し成型のストランドが出始めるとすぐにダイス出口部に白粉様のメヤニの発生が認められ、メヤニ発生防止効果は確認されなかった。
【0029】
(二層フィルムの製造)
ポリオレフィン系樹脂として、日本ポリエチレン(株)製のLLDPE(NC564A)を使用した。ベース層に上記LLDPE、シーラント層として実施例1のアンチブロッキング剤マスターバッチをベース樹脂の上記LLDPEと表2に示す割合で混合し二層フィルム押出機で溶融押出し、二層フィルムを作製した。フィルム厚さは50μm、ベース層/シーラント層の厚さの比は4/1とした。
【0030】
【表2】

【0031】
二層フィルム押出機は、Tダイ押出成形機(創研製)、ダイス幅250mm、リップ幅0.1mmを使用、210℃で押出し、フィルム引取り速度を3.5m/分とし、65℃の冷却ロールで引取った。作製したフィルムについて以下の物性を測定した。
(1)ヘイズ:東洋精機製作所製ヘーズメーターを使用し、5つのデータの平均を算出した。
(2)グロス:日本電色工業製光沢度測定装置を使用、入射角20°で測定し、5つのデータの平均を算出した。
(3)静摩擦係数:上記で作製した二層フィルムのシーラント層同士を接触させ、スリップテスターを使用し、移動速度150mm/分、負荷200gで測定し、3つのデータの平均を算出した。
(4)ブロッキング性:上記で作製した二層フィルムから長さ150mm、幅20mmの試験片を切り出し、長手方向に50mm重なるようにシーラント層同士を合わせた試験用サンプルを用いて下記条件で剥離試験を行った。8つのデータの平均値を算出し、試料の剥離に対する強度とした。
状態調節:荷重5kg、60℃×5時間
剥離試験速度:500mm/分
結果を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
表3より、実施例10、9、8とAB剤の配合量が増加するにつれて、二層フィルムのヘイズはやや増加するものの、静摩擦係数が小さくなり、耐ブロッキング性が向上して、AB剤のブロッキング防止効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のポリマー微粒子はマスターバッチ製造時に押出機出口でのメヤニの発生がないので、これをポリオレフィン系樹脂で希釈して、適切なAB剤含有量に調節し、フィルムを製造するときに添加すれば、耐ブロッキング性に優れたフィルムが得られる。それによって各種包装材料、工業材料として高品質の製品の製造に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機系のポリマー微粒子であって、ポリマーを構成するモノマー単位中に少なくとも1種類の2官能性以上の多官能性モノマー(架橋剤)を含み、押出機を用いてポリオレフィン系樹脂中に練りこみマスターバッチを製造する際に押出機出口においてメヤニ発生防止作用を有するポリマー微粒子。
【請求項2】
前記ポリマー微粒子が、アクリル系モノマー、スチレン系モノマー、または酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリルのモノマーの何れか、或いは前記モノマーと他のモノマーとを重合して調製されるものであることを特徴とする請求項1に記載のポリマー微粒子。
【請求項3】
前記ポリマー微粒子が、示差走査熱量測定(DSC)でガラス転移温度(Tg)が観測されないことを特徴とする請求項1または2に記載のポリマー微粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリマー微粒子の配合量が、1〜50質量%のポリオレフィン系樹脂用アンチブロッキング剤マスターバッチ。
【請求項5】
請求項4に記載のアンチブロッキング剤マスターバッチをポリオレフィン系樹脂と配合し成形して得られるポリオレフィン系樹脂フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−275356(P2010−275356A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126532(P2009−126532)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】