説明

拡散剤組成物、不純物拡散層の形成方法、および太陽電池

【課題】優れた塗膜形成性や拡散性を有するとともに、スクリーン印刷法やロールコート印刷法に好適に採用可能な拡散剤組成物、当該拡散剤組成物を用いた不純物拡散層の形成方法、および太陽電池を提供する。
【解決手段】拡散剤組成物は、不純物拡散成分(A)と、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)と、SiO微粒子(C)と、沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と、を含有する。また、不純物拡散層の形成方法は、半導体基板に、上述の拡散剤組成物を印刷してパターンを形成するパターン形成工程と、拡散剤組成物の不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる拡散工程と、を含む。また、太陽電池は、上述の不純物拡散層の形成方法により不純物拡散層が形成された半導体基板を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散剤組成物、不純物拡散層の形成方法、および太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池の製造において、半導体基板中にP型やN型の不純物拡散層を形成する場合には、不純物拡散成分を含む拡散剤を用いて半導体基板表面に塗膜形成し、この拡散剤の塗膜から不純物拡散成分を半導体基板中に拡散させて、不純物拡散層を形成していた。
【0003】
太陽電池の製造において、拡散剤を半導体基板表面に塗布する方法としては、スピンコート法が多く用いられているが、スクリーン印刷法やロールコート印刷法などを採用する試みもなされている。スクリーン印刷法では、まずメッシュ状の絹、合成樹脂、ステンレスなどのスクリーン(印刷版)を枠に張り、スクリーンに拡散剤が通過する部分と、通過しない部分とを形成する。次いでスクリーンに拡散剤を塗布して、塗布された拡散剤をスキージで半導体基板表面に押し出す。すると、拡散剤が半導体基板表面に転写されて、これにより半導体基板表面に所定のパターンやラインを含む、拡散剤の塗膜が形成される。
【0004】
また、ロールコート印刷法では、まず円周に沿って溝が形成された印刷ローラ(印刷版)と、印刷ローラに半導体基板を押し付けるための押圧ローラとを、わずかな距離を隔てて対向配置する。続いて、溝に拡散剤を補給しながら印刷ローラと押圧ローラとを互いに反対方向へと回転させ、それらの間に半導体基板を通過させる。すると、印刷ローラと半導体基板とが互いに圧力をもって接触し、印刷ローラの溝に充填されていた拡散剤が半導体基板表面に転写されて、これにより半導体基板表面に所定のパターンやラインを含む、拡散剤の塗膜が形成される。
【0005】
また、例えば特許文献1には、これらの印刷法に使用することを目的としたドーパントペースト(拡散剤組成物)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−539615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、現在、太陽電池の製造においてスクリーン印刷法やロールコート印刷法を採用しようとする試みはなされているが、これらの方法では実用に耐えるレベルの塗膜形成が困難であった。その原因の一つとして、これらの方法に好適に採用可能な拡散剤が知られていなかったことが挙げられる。すなわち、上述したスクリーン印刷法やロールコート印刷法ではメッシュ状やロール状の印刷版に拡散剤を塗布するため、拡散剤は所定の粘性を有している必要があった。拡散剤に粘性を付与するために、従来の拡散剤はその固形分濃度がある程度高く設定されていたが、これにより拡散剤は乾燥しやすかった。印刷版に塗布された拡散剤が乾燥すると、半導体基板に印刷カスレが生じ、良好な塗膜を形成することができない。
【0008】
そのため、スクリーン印刷法やロールコート印刷法に用いられる拡散剤には、所定の粘性を有しつつも乾燥しにくいことが求められていた。また一方で、拡散剤には、半導体基板表面に塗布された際に正確な塗膜形状(パターン)を形成できること、すなわち塗膜形成性や、半導体基板の所定の領域に均一に拡散して拡散領域の抵抗値を所望の値まで低減できること、すなわち拡散性を向上させたいという要求は常に存在している。
【0009】
本発明は、発明者によるこうした認識に基づいてなされたものであり、その目的は、優れた塗膜形成性や拡散性を有するとともに、スクリーン印刷法やロールコート印刷法に好適に採用可能な拡散剤組成物、当該拡散剤組成物を用いた不純物拡散層の形成方法、および太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は拡散剤組成物であり、この拡散剤組成物は、半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって、不純物拡散成分(A)と、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)と、SiO微粒子(C)と、沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と、を含有することを特徴とする。
【0011】
この態様によれば、優れた塗膜形成性や拡散性を有するとともに、スクリーン印刷法やロールコート印刷法に好適に採用可能な拡散剤組成物を得ることができる。
【0012】
本発明の他の態様は不純物拡散層の形成方法であり、この不純物拡散層の形成方法は、上記態様の拡散剤組成物を印刷して塗膜を形成する塗膜形成工程と、拡散剤組成物の不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる拡散工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
この態様によれば、より高精度に不純物拡散層を形成することができる。
【0014】
本発明のさらに他の態様は太陽電池であり、この太陽電池は、上記態様の不純物拡散層の形成方法により不純物拡散層が形成された半導体基板を備えたことを特徴とする。
【0015】
この態様によれば、より信頼性の高い太陽電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた塗膜形成性や拡散性を有するとともに、スクリーン印刷法やロールコート印刷法に好適に採用可能な拡散剤組成物、当該拡散剤組成物を用いた不純物拡散層の形成方法、および太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1(A)〜図1(D)は、実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。
【図2】図2(A)〜図2(D)は、実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0019】
本実施の形態に係る拡散剤組成物は、半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であり、不純物拡散成分(A)と、バインダー樹脂(B)と、SiO微粒子(C)と、有機溶剤(D)と、を含有する。以下、本実施の形態に係る拡散剤組成物の各成分について詳細に説明する。
【0020】
《不純物拡散成分(A)》
不純物拡散成分(A)は、一般にドーパントとして太陽電池の製造に用いられる化合物である。不純物拡散成分(A)は、V族(15族)元素の化合物を含むN型の不純物拡散成分、またはIII族(13族)元素の化合物を含むP型の不純物拡散成分であり、太陽電池における電極を形成する工程において、半導体基板内にN型またはP型の不純物拡散層(不純物拡散領域)を形成することができる。V族元素の化合物を含むN型の不純物拡散成分は、太陽電池における電極を形成する工程において、P型の半導体基板内にN型の不純物拡散層を形成することができ、N型の半導体基板内にN型(高濃度N型)の不純物拡散層を形成することができる。不純物拡散成分(A)に含まれるV族元素の化合物としては、例えば、P、Bi、Sb(OCHCH、SbCl、As(OCなどが挙げられ、不純物拡散成分(A)にはこれらの化合物が1種類以上含まれる。また、III族元素の化合物を含むP型の不純物拡散成分は、太陽電池における電極を形成する工程において、N型の半導体基板内にP型の不純物拡散層を形成することができ、P型の半導体基板内にP型(高濃度P型)の不純物拡散層を形成することができる。不純物拡散成分(A)に含まれるIII族元素の化合物としては、例えば、B、Alなどが挙げられ、不純物拡散成分(A)にはこれらの化合物が1種類以上含まれる。
【0021】
不純物拡散成分(A)の添加量は、半導体基板に形成される不純物拡散層の層厚などに応じて適宜調整される。また、不純物拡散成分(A)の添加量は、不純物拡散成分(A)、バインダー樹脂(B)、およびSiO微粒子(C)の固形成分の全質量に対して(固形成分を100とした場合に)、好ましくは5〜60質量%であり、より好ましくは15〜50質量%である。不純物拡散成分(A)の添加量が5質量%以上であると、より良好な拡散性が得られ、不純物拡散成分(A)の添加量が60質量%以下であると、より安定な溶液と良好な塗膜形成性が得られる。
【0022】
《バインダー樹脂(B)》
バインダー樹脂(B)は、不純物拡散成分(A)が良好に分散する特性を有する。そのため、バインダー樹脂(B)は、不純物拡散成分(A)を拡散剤組成物中に均一に分散させ、これにより不純物拡散成分(A)を半導体基板表面に均一に分散させる役割を果たす。バインダー樹脂(B)は、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失する樹脂である。そのため、不純物拡散成分(A)の熱拡散時に、半導体基板表面にカーボンが残らず、これにより不純物拡散成分(A)の熱拡散とともにカーボンが半導体基板内に拡散して所望の抵抗値が得られなくなったり、抵抗値のばらつきが生じるといった事態を回避することができる。
【0023】
すなわち、このようなバインダー樹脂(B)によれば、拡散剤組成物の拡散性を向上させることができ、半導体基板の拡散剤組成物が拡散した領域における抵抗値を所望の値に精度よく調整することができる。ここで、前記「熱拡散を開始する温度」とは、半導体基板表面から半導体基板内への不純物拡散成分の進入が始まったときの温度であり、例えば、不純物拡散成分が半導体基板と拡散剤組成物との界面から約10nm、好ましくは約1nm進入したときの温度である。また、前記「熱分解して消失する」とは、例えば、バインダー樹脂がバインダー樹脂全質量の約95%、好ましくは約99%、さらに好ましくは100%消失することをいう。
【0024】
バインダー樹脂(B)としては、その熱分解温度が、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度よりも200℃低い温度未満である樹脂、あるいは、熱分解温度が400℃未満である樹脂が好ましい。また、バインダー樹脂(B)としては、加熱温度500℃で80質量%以上が熱分解する樹脂が好ましい。これらによれば、不純物拡散成分(A)の熱拡散時にカーボン残渣がある状態をより確実に回避することができる。ここで、前記「熱分解温度」は、バインダー樹脂の質量減少が始まったときの温度であり、例えば、バインダー樹脂の質量がバインダー樹脂全質量の約5%、好ましくは約1%減少したときの温度である。
【0025】
また、バインダー樹脂(B)は、非シリコン系樹脂であることが好ましい。バインダー樹脂(B)がシリコン系樹脂であった場合には、スクリーン印刷機やロールコーターの印刷版に付着した拡散剤組成物が乾燥した際に、拡散剤組成物が印刷版に固着してしまう場合がある。印刷版に固着した拡散剤組成物を取り除くためには、印刷版をフッ酸(HF)を用いて洗浄する必要があり、この場合、印刷版に付着したフッ酸が印刷機の金属部品などに付着してこれらの金属部品を腐食してしまうおそれがある。また、フッ酸は劇物であるため、拡散剤組成物の除去作業にともなう危険性が増大してしまう。これに対し、バインダー樹脂(B)を非シリコン系樹脂で構成することで、印刷版上で乾燥した拡散剤組成物を、アセトン、イソブタノールなどの有機溶剤で洗浄することができる。したがって、本実施の形態に係る拡散剤組成物は、取り扱いが容易である。
【0026】
好ましくは、バインダー樹脂(B)はアクリル系樹脂を含む。また、バインダー樹脂(B)に含まれるアクリル系樹脂は、ブチラール基を有するものであることが好ましい。バインダー樹脂(B)の具体例としては、メチルメタクリレート(MMA)、メタクリル酸(MAA)、イソブチルメタクリレート(i−BMA)、ターシャリーブチルメタクリレート(t−BMA)、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートなどの重合性モノマーで構成されるアクリル樹脂などが挙げられる。
【0027】
バインダー樹脂(B)の添加量は、不純物拡散成分(A)、バインダー樹脂(B)、およびSiO微粒子(C)の固形成分の全質量に対して、好ましくは5〜60質量%であり、より好ましくは15〜50質量%である。バインダー樹脂(B)の添加量が5質量%以上であると、塗膜形成性がより良好となって均一な塗膜(印刷膜)を形成でき、これにより良好な拡散性が得られる。バインダー樹脂(B)の添加量が60質量%以下であると、より安定な溶液と良好な拡散性が得られる。
【0028】
《SiO微粒子(C)》
SiO微粒子(C)はフィラーとして添加され、SiO微粒子(C)の添加によって不純物拡散成分(A)とバインダー樹脂(B)との相溶性を向上させることができる。不純物拡散成分(A)とバインダー樹脂(B)との相溶性が向上すると、不純物拡散成分(A)を半導体基板表面により均一に塗布でき、その結果、不純物拡散成分(A)を半導体基板により均一に拡散させることができる。そのため、SiO微粒子(C)によって、拡散剤組成物の拡散性を向上させることができる。SiO微粒子(C)の大きさは、平均粒径が約1μm以下であることが好ましい。
【0029】
SiO微粒子(C)の具体例としては、ヒュームドシリカなどが挙げられる。SiO微粒子(C)の添加量は、不純物拡散成分(A)、バインダー樹脂(B)、およびSiO微粒子(C)の固形成分の全質量に対して、好ましくは5〜60質量%であり、より好ましくは15〜50質量%である。SiO微粒子(C)の添加量が5質量%以上であると、より安定な溶液が得られ、より良好な拡散性が得られる。SiO微粒子(C)の添加量が60質量%以下であると、より良好な塗膜形成性が得られ、より良好な拡散性が得られる。なお、SiO微粒子(C)が添加されない場合は、溶液が安定しにくく、また塗膜が斑模様になって良好な拡散性が得られにくい。
【0030】
《有機溶剤(D)》
有機溶剤(D)は、沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含有する。有機溶剤(D1)の沸点が100℃以上であるため、拡散剤組成物の乾燥を抑制することができる。そのため、ロールコート印刷法やスクリーン印刷法で用いられる印刷版に拡散剤組成物を塗布した際に、拡散剤組成物が印刷版上で乾燥して固着してしまうのを回避することができる。したがって、有機溶剤(D)を含有することで、半導体基板に印刷された塗膜に印刷カスレが生じるのを防ぐことができる。すなわち、有機溶剤(D)によって拡散剤組成物の塗膜形成性が向上する。有機溶剤(D)は、有機溶剤(D1)を、有機溶剤(D)の全質量に対して10質量%以上となるように含むことが好ましい。有機溶剤(D)に対する有機溶剤(D1)の含有量が10質量%未満の場合には、得られる乾燥抑制効果が小さく、半導体基板表面に形成した塗膜に印刷カスレが生じる可能性がある。
【0031】
有機溶剤(D1)としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、2−メトキシブチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、4−メトキシブチルアセテート、2−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−エチル−3−メトキシブチルアセテート、2−エトキシブチルアセテート、4−エトキシブチルアセテート、4−プロポキシブチルアセテート、2−メトキシペンチルアセテート、3−メトキシペンチルアセテート、4−メトキシペンチルアセテート、2−メチル−3−メトキシペンチルアセテート、3−メチル−3−メトキシペンチルアセテート、3−メチル−4−メトキシペンチルアセテート、4−メチル−4−メトキシペンチルアセテート、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、メチル−3−メトキシプロピオネート、エチル−3−メトキシプロピオネート、エチル−3−エトキシプロピオネート、エチル−3−プロポキシプロピオネート、プロピル−3−メトキシプロピオネート、イソプロピル−3−メトキシプロピオネート、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸エチルヘキシル、ベンジルメチルエーテル、ベンジルエチルエーテル、ジヘキシルエーテル、酢酸ベンジル、安息香酸エチル、シュウ酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、γ − ブチロラクトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、ブタノール、イソブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、テルピネオール、ターピネオール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。また、有機溶剤(D)としては、上述の有機溶剤(D1)と、エタノール、イソプロパノール、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、メタノール、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどとの混合物が挙げられる。
【0032】
拡散剤組成物中に含まれる金属不純物の濃度は、500ppm以下であることが好ましい。これにより、金属不純物の含有によって生じる光起電力効果の効率の低下を抑えることができる。また、本実施形態の拡散剤組成物は、その他の添加剤として一般的な界面活性剤や消泡剤などを含有してもよい。なお、拡散剤組成物の全質量に対する固形成分の割合(固形分濃度)は、印刷方法により適宜変更することができるが、好ましくは5〜90質量%である。
【0033】
《不純物拡散層の形成方法、および太陽電池の製造方法》
図1および図2を参照して、半導体基板にロールコート印刷法またはスクリーン印刷法を用いて不純物拡散層を形成する方法と、これにより不純物拡散層が形成された半導体基板を備えた太陽電池の製造方法について説明する。図1(A)〜図1(D)、および図2(A)〜図2(D)は、実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。なお、ここではP型の半導体基板にN型の不純物拡散層を形成する方法を例として説明するが、特にこれに限定されず、例えばN型の半導体基板にP型の不純物拡散層を形成することもできる。
【0034】
本実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法は、半導体基板に不純物拡散成分(A)を含有する上述の拡散剤組成物を印刷して塗膜を形成する工程と、拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる工程と、を含む。
【0035】
まず、図1(A)に示すように、シリコン基板などのP型の半導体基板1を用意する。そして、図1(B)に示すように、周知のウェットエッチング法を用いて、半導体基板1の一方の主表面に、微細な凹凸構造を有するテクスチャ部1aを形成する。このテクスチャ部1aによって、半導体基板1表面の光の反射が防止される。続いて、図1(C)に示すように、半導体基板1のテクスチャ部1a側の主表面に、N型の不純物拡散成分(A)を含有する上述の拡散剤組成物2を塗布する。
【0036】
拡散剤組成物2は、ロールコート印刷法またはスクリーン印刷法により半導体基板1の表面に塗布される。すなわち、ロールコート印刷法の場合には、周知のロールコーターに設けられた印刷ローラに拡散剤組成物2を充填し、印刷ローラと、印刷ローラに対向配置されたローラとの間に半導体基板1を通過させることで、半導体基板1上に拡散剤組成物2を印刷する。また、スクリーン印刷法の場合には、周知のスクリーン印刷機に設けられたスクリーンに拡散剤組成物2を塗布し、拡散剤組成物2をスキージで半導体基板1の表面に押し出すことで、半導体基板1上に拡散剤組成物2を印刷する。このようにして塗膜を形成した後は、塗布した拡散剤組成物2をオーブンなどの周知の手段を用いて乾燥させる。
【0037】
次に、図1(D)に示すように、拡散剤組成物2が塗布された半導体基板1を電気炉内に載置して焼成する。焼成の後、電気炉内で拡散剤組成物2中のN型の不純物拡散成分(A)を半導体基板1の表面から半導体基板1内に拡散させる。なお、電気炉に代えて、慣用のレーザーの照射により半導体基板1を加熱してもよい。このようにして、N型の不純物拡散成分(A)が半導体基板1内に拡散してN型不純物拡散層3が形成される。
【0038】
次に、図2(A)に示すように、周知のエッチング法により、拡散剤組成物2を除去する。そして、図2(B)に示すように、周知の化学気相成長法(CVD法)、例えばプラズマCVD法を用いて、半導体基板1のテクスチャ部1a側の主表面に、シリコン窒化膜(SiN膜)からなるパッシベーション膜4を形成する。このパッシベーション膜4は、反射防止膜としても機能する。
【0039】
次に、図2(C)に示すように、銀(Ag)ペーストをスクリーン印刷することにより、半導体基板1のパッシベーション膜4側の主表面に表面電極5をパターニングする。表面電極5は、太陽電池の効率を高めるために、例えばくし形パターン等に形成される。また、アルミニウム(Al)ペーストをスクリーン印刷することにより、半導体基板1の他方の主表面に裏面電極6を形成する。
【0040】
次に、図2(D)に示すように、裏面電極6が形成された半導体基板1を電気炉内に載置して焼成した後、裏面電極6を形成しているアルミニウムを半導体基板1内に拡散させる。これにより、裏面電極6側の電気抵抗を低減することができる。以上の工程により、本実施形態に係る太陽電池10を製造することができる。
【0041】
以上説明したように、本実施の形態に係る拡散剤組成物は、不純物拡散成分(A)と、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)と、SiO微粒子(C)と、沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と、を含有する。そのため、本実施の形態に係る拡散剤組成物は、不純物拡散成分(A)の熱拡散時にカーボン残渣がほとんどなく、高い拡散性を有するとともに、乾燥しにくいため印刷カスレも少なく高い塗膜形成性を有する。また、本実施の形態に係る拡散剤組成物は、乾燥しても洗浄用の有機溶剤で簡単に除去することができるため、スクリーン印刷法やロールコート印刷法に好適に採用することができる。また、この拡散剤組成物を用いて不純物拡散層を形成した場合には、より高精度に不純物拡散層を形成することができる。さらに、この拡散剤組成物を用いることでより精度の高い塗膜形成が可能となるため、太陽電池の信頼性を向上させることができる。
【0042】
また、バインダー樹脂(B)として、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度よりも200℃低い温度未満の熱分解温度を有する樹脂を用いるか、あるいは、400℃未満の熱分解温度を有する樹脂を用いた場合には、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する際にカーボン残渣が存在する可能性をより低減することができ、拡散剤組成物の拡散性をより向上させることができる。また、バインダー樹脂(B)が非シリコン系樹脂であった場合には、毒性の低い有機溶剤で容易に洗浄除去できること、すなわち装置洗浄性を向上させることができる。
【0043】
さらに、有機溶剤(D)が有機溶剤(D1)を有機溶剤(D)の全質量に対して10質量%以上となるように含む場合には、印刷カスレが生じる可能性をより低減することができ、したがって拡散剤組成物の塗膜形成性をより向上させることができる。
【0044】
また、不純物拡散層の形成方法、および太陽電池の製造方法において、ロールコート印刷法またはスクリーン印刷法を使用した場合には、不純物の拡散領域を所望の場所に選択的に設けることができる。そのため、従来の方法と比較して、複雑な工程を必要とすることなく、また、拡散剤組成物の消費を抑えることができる。これにより、太陽電池の製造コストを抑えることができる。
【0045】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれるものである。上述の実施の形態と以下の変形例との組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【0046】
上述の実施の形態では、ロールコート印刷法またはスクリーン印刷法により半導体基板に拡散剤組成物を印刷したが、スピンオン法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法などの他の印刷法を採用してもよい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0048】
(拡散剤組成物の作成)
下記表1〜4に記載の成分および含有比に従って、不純物拡散成分(A)、バインダー樹脂(B)、SiO微粒子(C)、および有機溶剤(D)を混合して各成分を均一に分散させて、実施例1〜17、および比較例1〜5に係る拡散剤組成物を得た。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
注):
MMA:メチルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
i−BMA:イソブチルメタクリレート
ACA 200M:アクリル樹脂(ダイセルサイテック社製)
マクロメルトOM652:ポリアミド樹脂(ヘンケル社製)
マクロメルト6900:ポリアミド樹脂(ヘンケル社製)
AEROSIL200:ヒュームドシリカ(日本アエロジル株式会社製)
各構成成分の割合(質量%)は、拡散剤組成物の全質量に対する割合である。
【0054】
(不純物拡散層の形成)
実施例1〜3、7、8、12〜17、比較例3〜5の拡散剤組成物は、スクリーン印刷機(MT2030型(ムラカミテクノ株式会社製))を用いてP型半導体基板にスクリーン印刷した。また、実施例9〜11の拡散剤組成物は、同じスクリーン印刷機を用いてN型半導体基板にスクリーン印刷した。印刷条件は、印圧を4.2kgf/cm、スキージ速度を3.52cm/sec、スキージ硬度を70°とした。また、実施例1〜7、比較例1、2、4の拡散剤組成物は、ロールコーター(RC−353−P(大日本スクリーン製造社製))を用いてP型半導体基板にロールコート印刷した。各拡散剤組成物の印刷後、半導体基板をホットプレート上に載置して、150℃で3分間乾燥させた。続いて、半導体基板を電気炉内に載置し、O雰囲気下、600℃で30分間加熱して半導体基板を焼成した。その後、この半導体基板を、実施例1〜8、12〜17、比較例1〜5についてはN雰囲気下、900℃で30分間加熱し、実施例9〜11についてはN雰囲気下、950℃で30分間加熱して、不純物拡散成分(A)を熱拡散させた。そして、熱拡散によって半導体基板表面に形成されたリンシリケートガラス膜(PSG膜)をフッ酸(フッ化水素)で剥離した。なお、ここでは、熱分解温度が400℃未満のバインダー樹脂(B)が、不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂に相当し、また、熱分解温度が不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度よりも200℃低い温度未満であるバインダー樹脂に相当する。
【0055】
(装置洗浄性の評価)
スクリーン印刷に使用されたスクリーン、あるいはロールコート印刷に使用された印刷ロールに付着した拡散剤組成物を、印刷機の金属部品を腐食させない有機溶剤を用いて洗浄し、付着した拡散剤組成物が除去されたか否かを目視で評価した(○:除去された、×:除去されずに残渣が残った)。使用した有機溶剤は、表1〜4の通りである。実施例1〜7の結果を表1に、実施例8〜14の結果を表2に、実施例15〜17の結果を表3に、比較例1〜5の結果を表4に示す。
【0056】
(乾燥性の評価)
拡散剤組成物が印刷機上で乾燥した場合には、印刷した塗膜に印刷カスレが生じる。そこで、半導体基板に形成された塗膜に印刷カスレが見られるか否かを目視で確認して、拡散剤組成物の印刷機上での乾燥性を評価した(◎:印刷カスレがない、○:わずかに印刷カスレが見られるが太陽電池の製造において許容できる程度である、×:許容できない程度の印刷カスレがある)。実施例1〜7、比較例1、2、4は、ロールコーター上での乾燥性を、実施例8〜17、比較例3、5は、スクリーン印刷機上での乾燥性を評価した。実施例1〜7の結果を表1に、実施例8〜14の結果を表2に、実施例15〜17の結果を表3に、比較例1〜5の結果を表4に示す。なお、前記「太陽電池の製造において許容できる程度」、および「許容できない程度」は、当業者が実験等によって適宜設定することができる。
【0057】
(カーボン残渣の評価)
不純物拡散成分(A)を熱拡散させた後、半導体基板表面にカーボン残渣が見られるか、目視で評価した。評価は、カーボン残渣が見られた場合を「有り」、カーボン残渣が見られなかった場合を「無し」とした。実施例1〜7の結果を表1に、実施例8〜14の結果を表2に、実施例15〜17の結果を表3に、比較例1〜5の結果を表4に示す。
【0058】
(拡散性の評価)
半導体基板に形成された不純物拡散層のシート抵抗値を、シート抵抗測定器(VR−70(国際電気株式会社製))を用いて四探針法により測定した。実施例1〜7の結果を表1に、実施例8〜14の結果を表2に、実施例15〜17の結果を表3に、比較例1〜5の結果を表4に示す。
【0059】
表1〜3に示すように、全実施例のいずれもが、カーボン残渣がなく、低いシート抵抗値を示し、乾燥性、装置洗浄性がともに良好であった。また、表4に示すように、バインダー樹脂(B)として熱分解温度が400℃の樹脂を含有する比較例1、2では、カーボン残渣が見られ、シート抵抗値が各実施例と比較して著しく高かった。また、SiO微粒子(C)を含まない比較例3、5では、各実施例と比べてシート抵抗値が高かった。また、有機溶剤(D1)を含まない比較例3、4では、印刷カスレが見られた。さらに、バインダー樹脂(B)がシラン系樹脂からなる比較例3では、装置洗浄性が不良であった。
【0060】
有機溶剤(D1)を有機溶剤(D)の全質量に対して10質量%以上含有する実施例1〜6、8〜17の拡散剤組成物では、有機溶剤(D1)の含有量が10質量%未満(8%)である実施例7の拡散剤組成物に比べて、乾燥性についてより良好な結果が得られた。なお、比較例3のバインダー樹脂(B)は、シラン化合物であるためにカーボン残渣が見られなかった。
【符号の説明】
【0061】
1 半導体基板、 1a テクスチャ部、 2 拡散剤組成物、 3 N型不純物拡散層、 4 パッシベーション膜、 5 表面電極、 6 裏面電極、 10 太陽電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板への不純物拡散成分の印刷に用いられる拡散剤組成物であって、
不純物拡散成分(A)と、
前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度未満の温度で熱分解して消失するバインダー樹脂(B)と、
SiO微粒子(C)と、
沸点が100℃以上の有機溶剤(D1)を含む有機溶剤(D)と、
を含有することを特徴とする拡散剤組成物。
【請求項2】
前記バインダー樹脂(B)は、その熱分解温度が、前記不純物拡散成分(A)が熱拡散を開始する温度よりも200℃低い温度未満であることを特徴とする請求項1に記載の拡散剤組成物。
【請求項3】
前記バインダー樹脂(B)は、その熱分解温度が400℃未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の拡散剤組成物。
【請求項4】
前記バインダー樹脂(B)は、非シリコン系樹脂であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の拡散剤組成物。
【請求項5】
前記バインダー樹脂(B)は、アクリル系樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の拡散剤組成物。
【請求項6】
前記アクリル系樹脂は、ブチラール基を有することを特徴とする請求項5に記載の拡散剤組成物。
【請求項7】
前記有機溶剤(D)は、前記有機溶剤(D1)を、有機溶剤(D)の全質量に対して10質量%以上となるように含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の拡散剤組成物。
【請求項8】
半導体基板に、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の拡散剤組成物を印刷して塗膜を形成する塗膜形成工程と、
前記拡散剤組成物の不純物拡散成分(A)を前記半導体基板に拡散させる拡散工程と、
を含むことを特徴とする不純物拡散層の形成方法。
【請求項9】
前記塗膜形成工程において、ロールコート印刷法またはスクリーン印刷法により、半導体基板に拡散剤組成物を印刷することを特徴とする請求項8に記載の不純物拡散層の形成方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の不純物拡散層の形成方法により不純物拡散層が形成された半導体基板を備えたことを特徴とする太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−71489(P2011−71489A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175565(P2010−175565)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】