説明

指の屈伸運動時の静脈パターンを利用した個人認証方法及び個人認証システム

【課題】本発明は、静脈パターンを利用した新規な個人認証方法及び個人認証システムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の個人認証システムは、指の屈伸運動時の静脈パターンを認証情報とする。人間の指の関節は、1自由度の蝶番関節であることに加え、第1関節と第2関節の間に腱が存在しており、両者の動きが連動していることから、指の屈伸運動の再現性は極めて高い。そこで、本システムにおいては、指の屈伸運動に伴う静脈パターンの時系列的な変化を動的な特徴量として定義して認証情報を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオメトリック認証技術に関し、より詳細には、なりすまし耐性を有する指静脈認証技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、指の静脈パターンを認証情報として利用する指静脈認証が銀行のATMなどで実用化されはじめているが、最近、この指静脈認証について、その脆弱性を指摘する研究報告がなされている。例えば、非特許文献1は、本人の静脈の二次元画像を転写したOHPシートと人工雪剤を用いて作製した人工指を使用して既存のシステムに対し認証を試みたところ、当該人工指が他人の指と比べて本人により近いと判定された結果について報告する。この事実は、本人の静脈画像が何らかの不正な手段により奪取された場合に、人工指の作製によって本人になりすまされる可能性があることを示唆している。
【0003】
一方、特開2007−287080号公報(特許文献1)は、認証しようとする指を回転させて撮像し、同一の指について角度毎の指静脈情報を登録する指静脈認証システムを開示する。特許文献1の方法は、一つの指について複数の異なる静脈パターンを認証情報とするため、一方向から撮像された静脈パターンのみが転写された人工指(非特許文献1)によるなりすましに対しては、一定の耐性を有するものと推認される。しかしながら、仮に、指について全ての角度毎の静脈パターン画像が奪取された場合には、これら複数の画像から本人の静脈パターンの三次元構造を解析し、その結果に基づき三次元プリンターなどを使用して人工指の内部に静脈の三次元パターンを再現することは不可能でなく、そのような人工指を特許文献1のシステムの撮像部に挿入し、回転させることによって、本人になりすますことができる可能性がある。
【0004】
指静脈認証システムは、必然的に、テンプレート画像を保持せざるを得ないのであり、常に、テンプレート画像の流出リスクはつきまとう。この点につき、従来の指静脈認証システムは、十分ななりすまし耐性を有するものとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−287080号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】松本勉,バイオメトリクスにおける生体検知と登録失敗, 電子情報通信学会技術研究報告, Vol.104, No.734, pp81〜82, (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、なりすまし耐性を有する、静脈パターンを利用した個人認証方法及び個人認証システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、なりすまし耐性を有する、静脈パターンを利用した個人認証方法につき鋭意検討した結果、指の屈伸運動の再現性が極めて高いことに着目し、指の屈伸運動時の静脈パターンの時系列的な変化を認証情報とする構成に想到して、本発明に至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明によれば、指の屈伸運動を利用した個人認証方法であって、屈伸運動を行なう被認証者の指の側面を透過する光を撮像して、該指の側面について複数の連続したデジタル画像を取得するステップと、各前記デジタル画像について、静脈パターンを抽出するステップと、前記静脈パターンを前記指の曲げ角度と対応づけて記憶するステップとを含み、被認証者の前記静脈パターンを所定の指の曲げ角度ごとにパターンマッチングすることによって認証を行なうことを特徴とする、個人認証方法が提供される。本発明においては、前記指の曲げ角度を前記指の輪郭線の曲率の極値に対応する位置情報に基づいて求めることができる。
【0010】
また、本発明によれば、指の屈伸運動を利用した個人認証システムであって、屈伸運動を行なう被認証者の指の側面を透過する光を撮像して、該指の側面について複数の連続したデジタル画像を取得する指撮像部と、前記指撮像部が取得したデジタル画像の情報が入力される個人認証部とを含み、前記個人認証部は、静脈パターン抽出部と、指の曲げ角度算出部と、認証データ生成部と、テンプレート記憶部と、パターンマッチング部とを含んで構成され、前記静脈パターン抽出部は、前記指の側面の複数のデジタル画像ごとに前記静脈パターンを抽出し、前記認証データ生成部は、前記静脈パターンを前記指の曲げ角度と対応づけて認証データを生成し、ユーザ登録時には、前記認証データをテンプレート情報としてテンプレート記憶部に記憶し、認証時には、前記認証データを前記パターンマッチング部に出力し、前記パターンマッチング部は、前記認証データと前記テンプレート情報とをパターンマッチングすることによって認証を行なう個人認証システムが提供される。本発明においては、前記指撮像部を、前記指の側面に近赤外光を照射するための発光手段と、前記指の側面を透過する光を撮像するための撮像手段とを含み、偏光方向を直交させた二つの偏光フィルタの間に前記指の撮像空間を形成するように構成することができ、さらに、指の出し入れを感知するセンサを備え、指が撮像空間に挿入されたことを契機に自動的に撮像を開始し、指が撮像空間から抜かれたことを契機に自動的に撮像を終了するように構成することができる。また、本発明においては、前記指の曲げ角度算出部が、前記指の輪郭線の曲率の極値に対応する位置情報に基づいて前記指の曲げ角度を算出するように構成することができる。
【発明の効果】
【0011】
上述したように、本発明によれば、静脈パターンを利用した新規な個人認証方法及び個人認証システムが提供される。本発明の個人認証システムは、万が一、システムからテンプレート画像が流出した場合であっても、なりすまし耐性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の個人認証システムを示す図。
【図2】本実施形態における指撮像部の構造を示す概略図。
【図3】指の透過光以外の光を遮断する機構を説明するための概念図。
【図4】屈伸運動をする指の連続画像を示す図。
【図5】指のデジタル画像について実行される画像処理を時系列的に示す図。
【図6】本実施形態の個人認証システムの機能ブロック図。
【図7】指の曲げ角度θを算出する方法を説明するための概念図。
【図8】認証実験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜、その説明を省略するものとする。
【0014】
図1は、本発明の実施形態である個人認証システム10を示す。本実施形態の個人認証システム10は、指撮像部12と個人認証部14を含んで構成されている。個人認証システム10においては、認証に際し、被認証者であるユーザ16に対して、自身の指18(好ましくは、人差し指)を指撮像部12に挿入して屈伸運動をすることを求める。指撮像部12は、屈伸運動をする指18の側面を連続したデジタル画像として取得し、個人認証部14にその画像データを転送する。
【0015】
個人認証部14は、指撮像部12から転送された画像データに基づいて、ユーザ16が正規の登録ユーザであるか否かについて判断する。本実施形態における個人認証部14は、システム・コントローラとして機能するCPU、アプリケーション・ソフトウェアの実行空間を与えるためのRAM、プログラムなどを格納したROM、および、ハードディスクなどの記憶デバイスを備えるサーバ装置として構成することができ、MacOS(商標)、Windows(登録商標)、UNIX(登録商標)、LINUX(登録商標)またはそれ以外の適切なオペレーション・システムを使用し、C、C++、Visual C++、VisualBasic、Java(登録商標)などにより記述されたアプリケーション・プログラムを実行することによって、個人認証を行なうための機能手段を提供する。また、本実施形態においては、個人認証部14が導出した認証結果を表示するための認証結果表示部20を設けることもできる。なお、本実施形態においては、個人認証部14が導出した認証結果を所定の制御手段に出力するように構成することができる。例えば、認証結果をドア・ロックの解錠制御手段に直接出力して、認証結果とドア・ロックの解錠を連動させるように構成することもできる。
【0016】
図2は、本実施形態における指撮像部12の構造を示す概略図であり、図2(a)は、指撮像部12を上から見た透視図を示す。図2(a)に示すように、指撮像部12は、撮像空間を内部に有する筐体30として構成されており、筐体30には、指18を挿入するための開口部32が形成されている。認証を受ける際、ユーザ16は、指18の腹を下に向けた状態で、指18を開口部32から筐体30内に挿入する。筐体30の内部は、少なくとも第2関節(近位指節間関節)まで指18を挿入することができ、指18の第1および第2関節を曲げて屈伸運動をすることが可能な充分な空間を有している。
【0017】
さらに、指撮像部12は、指18の側面に近赤外光を照射するための発光手段34と、指18の側面を透過する近赤外光を撮像して、指18の側面について複数の連続したデジタル画像を取得するための撮像手段36を含んで構成されている。撮像手段36は、指18の側面を撮像可能に位置決めされており、指18の側面を時系列的に撮像することによって、連続的なデジタル画像を取得する。本実施形態においては、撮像手段36をCCDビデオカメラによって構成することができる。なお、本実施形態においては、指撮像部12に指の出し入れを感知するセンサを設け、指が撮像空間に挿入されたことを契機に自動的に撮像を開始し、指が撮像空間から抜かれたことを契機に自動的に撮像を終了するように構成することが好ましい。また、撮像時間に所定の制限時間を設け、タイムアウトした場合にはエラー出力するように構成することもできる。
【0018】
本実施形態における指撮像部12は、従来の静脈認証技術と同様に、血液中のヘモグロビンが近赤外光を吸光することによって静脈部分が暗く写る現象を利用して静脈パターン画像を取得する。なお、指撮像部12においては、近赤外領域以外の波長の光を遮断するために、撮像手段36側にバンドフィルタ37を設けることが好ましい。ここで、従来の指静脈認証装置においては、近赤外光の通り道を指で完全に塞いだ上で、当該指を透過する光のみを撮像するように構成されていた。一方、本実施形態においては、図2(b)に示すように、指18が屈伸運動をする様子を連続的に撮像する必要があるため、破線で囲んで示す指18の運動範囲に対して常に近赤外光を照射する必要があるが、そのままでは指18を透過しない直接光が撮像手段36に入射して白飛びを起こしてしまい、鮮明な画像を撮像することが出来ない。この点につき、本実施形態における指撮像部12は、偏光方向を直交させた二つの偏光フィルタの間に指18の撮像空間を形成することによって、この問題を解決する。
【0019】
図3は、指撮像部12において指18の透過光以外の光を遮断する機構を説明するための概念図である。なお、図3においては、説明の便宜のため、バンドフィルタ37を省略して示している。指撮像部12においては、図示しない発光手段34側に偏光フィルタ38が設けられており、発光手段34から出射する近赤外光Aのうち偏光Bのみが撮像空間に入射する。一方、撮像手段36側に、偏光フィルタ38の偏光方向に直交する偏光方向を有する偏光フィルタ39が設けられているため、指18を透過しない偏光B1は偏光フィルタ39によって遮断される。一方、指18に入射した偏光B2は、指18内で散乱し散乱光Cとなって指18から出射する。その結果、散乱光Cに含まれる所定の偏光成分(偏光D)が偏光フィルタ39を通過し、これが撮像手段36に入射して結像する。上述した機構を採用することにより、指18の屈伸運動に合わせて、指18の透過光以外の光を遮断すること可能になり、指18の屈伸運動に伴う静脈パターンの変化を鮮明な画像として取得することができる。
【0020】
本発明の個人認証方法は、上述した指撮像部によって取得される、指の屈伸運動に伴って変化する静脈パターンを認証情報として使用する。人間の指の関節が1自由度の蝶番関節であることに加え、第1関節と第2関節の動きが連動していることから、指の屈伸運動の再現性は極めて高いことが知られている。本発明者は、この点に着目し、指の屈伸運動に伴って変化する静脈パターンを動的な特徴量として捉え、これを認証情報として採用することに想到したのである。
【0021】
次に、本実施形態における個人認証部14が実行する処理について、順を追って説明する。まず、上述した指撮像部12によって取得された、被認証者の指18の屈伸運動の様子を収めた複数のデジタル画像データが個人認証部14に転送される。図4は、指撮像部12から転送された指18の連続画像を例示する。なお、図4においては、説明に便宜のため、6コマの連続画像を示したが、実際には数十コマ以上の画像を取得することが好ましい。個人認証部14においては、まず、指撮像部12から取得した各デジタル画像について、指18の静脈パターンを抽出するための画像処理が施される。この点について、以下、図5を参照して説明する。
【0022】
図5は、指撮像部12から取得した指18のデジタル画像について実行される画像処理を時系列的に示す。図5(a)は、画像処理前の原画像を示す。原画像には、着目すべき指18以外の背景が写り込んでいるため、最初に原画像から指18の像のエリアだけを抽出する処理を以下の手順で実行する。まず、指の輝度に着目した二値化処理を施す。図5(a)に示されるように、指18の部分の明るさは所定の範囲内に収まっているため、輝度値について指18の部分の明るさに対応する適切な閾値(上限値および下限値)を設定し、当該閾値内の輝度値を持つ画素を白(輝度値255)に、それ以外の範囲の輝度値を持つ画素を黒(輝度値0)に変換することによって、図5(b)に示される、指18の部分が白抜きになった画像を生成する。次に、図5(b)に示した画像に対してノイズ除去を行ない、ノイズ除去後の画像と図5(a)に示した原画像のアンド処理を実行することによって、図5(c)に示されるような、黒の背景の上に指18の部分だけがトリミングされた画像を生成する。
【0023】
次に、静脈パターンを抽出するために図5(c)に示す画像に二値化処理を施す。すなわち、図5(c)に示す画像において、画素の輝度に着目して、静脈に相当する部分を黒画素とし、その他の部分を白画素として保存する。その結果、図5(d)に示される画像が生成される。最後に、図5(d)に示す画像に対してノイズ除去を行ない、図5(e)に示される静脈パターン画像を取得する。以上、本実施形態における静脈パターン抽出の手順について説明してきたが、続いて、本実施形態の個人認証システム10における個人認証のアルゴリズムについて、図6を参照しながら以下説明する。
【0024】
図6は、本実施形態の個人認証システム10の機能ブロック図を示す。個人認証部14は、静脈パターン抽出部40と、指の曲げ角度算出部42と、認証データ生成部44と、テンプレート記憶部46と、パターンマッチング部48とを含んで構成されている。ユーザは、本システムの使用に際し、ユーザ登録を行なうために指撮像部12において指の屈伸運動を撮像する。指の屈伸運動に伴う一連のデジタル画像が個人認証部14に転送されると、静脈パターン抽出部40が各画像から指の静脈パターン画像を生成するとともに、指の曲げ角度算出部42が各画像について「指の曲げ角度θ」を算出する。なお、「指の曲げ角度θ」の求め方については、後述する。
【0025】
認証データ生成部44は、各画像について、抽出された静脈パターン画像とその時の「指の曲げ角度θ」を対応づけて認証データを生成し、これをテンプレート情報としてユーザの登録情報(氏名・ユーザID等)に関連づけて、ハードディスクなどの記憶デバイスによって構成されるテンプレート記憶部46に記憶する。以上の手順によりユーザ登録が完了する。
【0026】
次に、本実施形態の個人認証システム10が実行する個人認証の手順について、同じく図6を参照して説明する。認証に際し、被認証者が指撮像部12に指を挿入して屈伸運動を行なうと、先述したユーザ登録時と同様に、静脈パターン抽出部40および指の曲げ角度算出部42からの出力を元に認証データ生成部44が認証データを生成し、これをパターンマッチング部48に出力する。
【0027】
パターンマッチング部48は、任意の指の曲げ角度θを選択し、認証データ生成部44から入力された認証データから当該角度θに対応する静脈パターン画像のみを取り出す。ここでは、説明の便宜のため、指の曲げ角度θ=15°、20°、25°、30°、35°、40°、45°という7つの角度に対応する静脈パターン画像を取りだした場合を例にとって説明する。
【0028】
次に、パターンマッチング部48は、テンプレート記憶部46に記憶されたテンプレート情報を登録ユーザごとに読み出し、そのテンプレート情報の中から、先に選択した角度と同じ指の曲げ角度θ=15°、20°、25°、30°、35°、40°、45°に対応づけて格納された7つの静脈パターン画像を取り出す。
【0029】
続いて、パターンマッチング部48は、テンプレート情報から取り出した静脈パターン画像をテンプレートとして、認証データから取り出した静脈パターン画像についてパターンマッチングを実施する。このパターンマッチングを指の曲げ角度θ=15°、20°、25°、30°、35°、40°、45°ごとに全て実施し、各角度についてのマッチング結果(類似度)について、これらの平均値を求める。
【0030】
パターンマッチング部48は、上述した手順で求めたマッチング結果(類似度)の平均値が所定の閾値以上であるか否かを判定し、いずれかのテンプレート情報について、閾値以上の平均値を導出した場合に、当該テンプレート情報に対応する登録ユーザを特定し、被認証者が当該登録ユーザである旨を判定する。一方、いずれかのテンプレート情報についても、そのマッチング結果(類似度)の平均値が所定の閾値を超えない場合には、パターンマッチング部48は、被認証者の認証が失敗した旨を判定する。上述した判定結果は、図6に示されるように、パターンマッチング部48から認証結果表示部20に出力することができる。なお、上述した閾値ついては、要求される認証の精度等に鑑みて、適宜決定することができる。
【0031】
ここで、指の曲げ角度算出部42が各画像について「指の曲げ角度θ」を算出する方法について説明する。本実施形態における「指の曲げ角度θ」を算出については、本出願人が先に出願した特願2008−91920号(特開2009−245231号公報)に開示した方法と同様の手順に従って行なうことができる。以下、その手順について、図7を参照して概説する。指撮像部12から転送されたデジタル画像について、背景画素を黒(輝度値0)、指部分を白(輝度値255)に二値化する二値化処理を施した後、ラプラシアンフィルタ等を適宜用いて指の輪郭となるエッジ画素を抽出する。その結果、指の側面の輪郭線が図7(a)に示すような1画素幅の細線Eとして取得される。なお、図7においては、説明の便宜のため、黒と白を反転して示している。
【0032】
次に、図7(a)に示す輪郭線Eについて、図中に示す「START」という地点から始め、図中に示す「END」という地点に至るまで、輪郭線Eを構成する画素を走査して順次曲率を算出していく。ここで、曲率とは、曲線の曲がりの程度を表す量をいい、二次元の場合、曲線上の任意の3点で作られる三角形の外接円半径Rの逆数(1/R)で与えられる値であり、曲がりの程度が大きい程大きくなる。
【0033】
上述した手順で算出した曲率は、図7(b)に示す、指の第2関節に関連した符号1および符号6の部分、指の第1関節に関連した符号2および符号5の部分、爪の付け根に対応する符号3の部分、ならびに、指の先端部に対応する符号4の部分で、常に極値(極大値/極小値)を示す。ここで、指の先端部に対応する符号4の部分において曲率は常に最小値となることから、算出した曲率が最小値を示す位置を指の先端部として特定し、指の先端部の位置から符号1〜符号6の位置を演繹的に特定する。
【0034】
上述した手順で特定した符号1〜符号6が示す画素の座標から本実施形態における「指の曲げ角度」を求める。すなわち、指の第2関節に関連する符号1の位置にある画素Oと符号6の位置にある画素Pを結んだ線分の中点Mを通る垂直二等分線L1を基準線とし、中点Mと、指の先端部に対応する符号4の位置にある画素Qとを結んだ線分L2とL1とが為す角度θを本実施形態における「指の曲げ角度」として定義する。
【0035】
最後に、本発明の個人認証方法および個人認証システムの優位性について、なりすまし耐性の観点から、以下説明する。ここで、仮に、本発明の個人認証システムから連続するテンプレート画像(指の屈伸運動に伴って変化する静脈パターンの連続画像)が流出した場合を考える。これらのテンプレート画像を取得した第三者は、当該テンプレート画像を転写した人工指を作製することは可能である。しかしながら、本発明の個人認証システムになりすましをかけるには、異なる曲げ角度の指の静脈パターンを、システムに対して時系列的に連続して提示する必要がある。
【0036】
ここで、仮に、取得した連続するテンプレート画像のすべてについて、対応する人工指を複数作製することができたとしても、それらを短時間で順番に本システムに提示することは、物理的に不可能である。また、それが可能であったと仮定しても、そのようななりすましは、指が撮像空間に挿入された時点から次に抜かれる時点までを撮像期間と定めることによって、容易に排除することができる。つまり、本システムになりすましをかけるには、本人の指と同じ静脈パターンと骨格を備え、本人の指と同じように屈伸運動することができる立体的な可動式の人工指を作製する必要があるが、テンプレート画像から本人の指の骨格に関する情報までは取得できないため、そのような人工指を作製することは、現実的に不可能である。したがって、本発明の個人認証システムは、万が一、システムからテンプレート画像(認証情報)が流出したとしても、なりすましに対して高い耐性を有する。
【0037】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば、指撮像部における上述した偏光フィルタの代替手段として、黒い溶液(光吸収性の液体)を指の側面が軽く浸かる程度に貯留した透明容器を採用することができる。透明容器の底面から近赤外光を照射し、指の側面を透明容器の底面に当接した状態で屈伸運動するようにすれば、指の動きに応じて指の透過光以外の光を自動的に遮断することができる。その他、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0038】
以下、本発明について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0039】
図1について上述した個人認証システム10を構築し、4名の被験者(A,B,C,D)の協力を得て、本システムの評価実験を行なった。最初に、4名の被験者(A,B,C,D)のそれぞれについて、人差し指の屈伸運動をその側面から撮像した連続画像を取得した。取得した各連続画像の中から、「指の曲げ角度θ」を算出し、角度θが15°,20°,25°,30°,35°,40°,45°のときの各画像について、静脈パターン画像(登録画像)を生成し、それぞれを角度θに対応付けて各人のテンプレート情報とした。
【0040】
なお、図5(d)について上述した、静脈パターンを抽出するための二値化処理を以下の手順で行なった。すなわち、注目画素Xを中心とした13×13画素の領域を定義し、当該領域の最外周を構成する画素を周辺画素Yとして定義した。なお、上記領域は、周辺画素Yが注目画素Xに対して、画像上、静脈の太さの半分程度に相当する距離だけ離れるように定義したものである(したがって、注目画素Xが静脈部にかかっている場合、注目画素Xの輝度値は、周辺画素Yの輝度値の平均値に比べて小さくなるはずである)。そこで、「注目画素の輝度値 < 周辺画素の輝度値の平均」となる場合に、この注目画素Xを静脈部と判断して黒画素として保存し、それ以外の場合には注目画素Xを静脈部でないと判断し白画素として保存した。
【0041】
さらに、図5について上述したノイズ処理を以下の手順で行なった。すなわち、注目画素を中心とした9×9画素の領域を定義して、当該領域内の黒画素と白画素の数をカウントし、黒画素の数が7割より小さい場合に、注目画素を白画素として保存する処理を画像内の全画素について繰り返した。
【0042】
次に、上述したのと同じ手順で、4名の被験者(A,B,C,D)のそれぞれについて、屈伸運動する人差し指の連続画像を再度取得し、取得した各連続画像の中から、「指の曲げ角度θ」が15°,20°,25°,30°,35°,40°,45°のときの各画像について、静脈パターン画像(入力画像)を生成し、それぞれを角度θに対応付けて各人の入力情報とした。
【0043】
その上で、各人のテンプレート情報を使用して、本人ならびに本人以外の各人(3名)の入力情報との間でパターンマッチングを行ない、それぞれの組み合わせについて類似度を算出した。なお、パターンマッチングは、各組み合わせにつき、2回ずつ行なった。また、本実施例においては、類似度を下記式1を用いて算出した。
【0044】
【数1】

【0045】
図8に実験結果を示す。表(a)は、被験者A〜Dの入力情報と本人のテンプレート情報との間でパターンマッチングを行なった結果を示す。また、表(b)は、被験者Aの入力情報と被験者B,C,D(3名)のテンプレート情報との間でパターンマッチングを行なった結果を示し、表(c)は、被験者Bの入力情報と被験者A,C,D(3名)のテンプレート情報との間でパターンマッチングを行なった結果を示し、表(d)は、被験者Cの入力情報と被験者A,B,D(3名)のテンプレート情報との間でパターンマッチングを行なった結果を示し、表(e)は、被験者Dの入力情報と被験者A,B,C(3名)のテンプレート情報との間でパターンマッチングを行なった結果を示す。なお、表(a)〜(e)においては、各組み合わせについて算出された類似度を「指の曲げ角度θ」(15°〜 45°)ごとに示し、最下段にその平均値を示した。
【0046】
上記表(a)に示されるように、本人の入力情報と本人のテンプレート情報との間でパターンマッチングを行なった場合は、いずれの組み合わせについても、0.50を超える類似度を示したのに対し、表(b)〜(e)に示されるように、本人の入力情報と他人のテンプレート情報との間でパターンマッチングを行なった場合には、いずれの組み合わせについても、0.50を下回る類似度を示し、両者の間に有意な差が見られた。上記結果により、本発明の個人認証システムの実用性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上、説明したように、本発明によれば、静脈パターンを利用した新規な個人認証方法及び個人認証システムが提供される。本発明は、指静脈認証技術において、なりすまし耐性の向上に寄与することが期待される。
【符号の説明】
【0048】
10…個人認証システム、12…指撮像部、14…個人認証部、16…ユーザ、18…指、20…認証結果表示部、30…筐体、32…開口部、34…発光手段、36…撮像手段、37…バンドフィルタ、38…偏光フィルタ、39…偏光フィルタ、40…静脈パターン抽出部、42…指の曲げ角度算出部、44…認証データ生成部、46…テンプレート記憶部、48…パターンマッチング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指の屈伸運動を利用した個人認証方法であって、
屈伸運動を行なう被認証者の指の側面を透過する光を撮像して、該指の側面について複数の連続したデジタル画像を取得するステップと、
各前記デジタル画像について、静脈パターンを抽出するステップと、
前記静脈パターンを前記指の曲げ角度と対応づけて記憶するステップと
を含み、
被認証者の前記静脈パターンを所定の指の曲げ角度ごとにパターンマッチングすることによって認証を行なうことを特徴とする、個人認証方法。
【請求項2】
前記指の曲げ角度は、前記指の輪郭線の曲率の極値に対応する位置情報に基づいて求められる、請求項1に記載の個人認証方法。
【請求項3】
指の屈伸運動を利用した個人認証システムであって、
屈伸運動を行なう被認証者の指の側面を透過する光を撮像して、該指の側面について複数の連続したデジタル画像を取得する指撮像部と、
前記指撮像部が取得したデジタル画像の情報が入力される個人認証部とを含み、
前記個人認証部は、
静脈パターン抽出部と、指の曲げ角度算出部と、認証データ生成部と、テンプレート記憶部と、パターンマッチング部とを含んで構成され、
前記静脈パターン抽出部は、前記指の側面の複数のデジタル画像ごとに前記静脈パターンを抽出し、
前記認証データ生成部は、前記静脈パターンを前記指の曲げ角度と対応づけて認証データを生成し、ユーザ登録時には、前記認証データをテンプレート情報としてテンプレート記憶部に記憶し、認証時には、前記認証データを前記パターンマッチング部に出力し、
前記パターンマッチング部は、前記認証データに含まれる静脈パターンと前記テンプレート情報に含まれる静脈パターンとを所定の指の曲げ角度ごとにパターンマッチングすることによって認証を行なう、
個人認証システム。
【請求項4】
前記指撮像部は、前記指の側面に近赤外光を照射するための発光手段と、前記指の側面を透過する光を撮像するための撮像手段とを含み、偏光方向を直交させた二つの偏光フィルタの間に前記指の撮像空間が形成される、請求項3に記載の個人認証システム。
【請求項5】
前記指の曲げ角度算出部は、前記指の輪郭線の曲率の極値に対応する位置情報に基づいて前記指の曲げ角度を算出する、請求項3または4に記載の個人認証システム。
【請求項6】
前記指撮像部は、指の出し入れを感知するセンサを備え、指が撮像空間に挿入されたことを契機に自動的に撮像を開始し、指が撮像空間から抜かれたことを契機に自動的に撮像を終了する、請求項3〜5のいずれか1項に記載の個人認証システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−100317(P2011−100317A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254776(P2009−254776)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】