説明

指令補間方法

【課題】従来の指令補間方法は、制御実施期間が指令更新周期と等しく設定されているので、指令値の入力に遅れが生じた場合に制御停止期間が生じる。
【解決手段】本発明による指令補間方法は、制御周期121に補間値算出数を乗算した制御実施期間120が指令更新周期110よりも長く設定されており、第2指令値102が入力されたときから前記指令更新周期110が経過した際にも、第2指令値102と該第2指令値102の前に入力された第1指令値101とに基づく制御が行われる構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば通信型位置制御ドライバ及び工作機械等の適用される指令補間方法に関し、特に、制御周期に補間値算出数を乗算した制御実施期間が指令更新周期よりも長く設定されており、1つの指令値が入力されたときから前記指令更新周期が経過したときに、該指令値と該指令値の前に入力された指令値とに基づく制御が行われるように構成することで、指令値の入力に遅れが生じた場合でも制御停止期間の発生を防止でき、連続的な制御を実施できるようにするための新規な改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
社内技術で特に特許出願を行っていないため文献名は挙げていないが、従来用いられていたこの種の指令補間方法は、図4及び図5に示すように構成されている。
図4は、従来の指令補間方法を示す説明図である。図において、指令値100は所定の指令更新周期110毎に上位指令器から制御手段に入力される指令信号である。ここで、前記上位指令器からの入力順に、前記指令値100を、第1指令値101、第2指令値102、第3指令値103と呼ぶ。
【0003】
ここで、指令更新周期110が1msであり制御手段の制御周期121が200μsである場合、制御手段は、前記第2指令値102が入力された際に、前記第1指令値101と前記第2指令値102との差分105を5等分にして補間値106を求める。制御手段は、制御周期121毎に前記補間値106を満たすように制御を行う。前記第1指令値101と前記第2指令値102とに基づく制御は、前記制御周期121に前記補間値算出数を乗算した制御実施期間120だけ行われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の指令補間方法では、前記制御実施期間120が前記指令更新周期110と等しく設定されているので、図5に示すような問題が生じる。
すなわち、前記上位指令器と前記制御手段との間に制御時間ずれが生じる等して、第3指令値103の入力に遅れ116が生じた場合には、制御対象が第2指令値102を満たした後に制御が停止されて、制御停止期間150が生じる。
特に、制御対象が工作機械のバイトの位置である場合には、前記制御停止期間150が生じることで、加工ムラが発生してしまう。また、制御対象が車輌ステアリング機構の車輪の操舵角である場合には、制御停止期間150が生じることで、車輌操舵にぎこちなさが生じてしまう。
このような問題は、制御対象がバイト位置及び車輪操舵角に限らず、位置制御、速度制御、及び角度制御が行われる制御対象全般に発生し得る。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、指令値の入力に遅れが生じた場合でも制御停止期間の発生を防止でき、連続的な制御を実施できる指令補間方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る指令補間方法は、所定の指令更新周期毎に上位指令器から制御手段に指令値が入力され、1つの前記指令値が入力された場合に、前記制御手段が、該指令値と該指令値の前に入力された指令値との差分を算出するとともに、該差分を所定の補間値算出数で等分して補間値を求め、制御値が前記補間値を満たすように所定の制御周期毎に制御を行う指令補間方法であって、前記制御周期に前記補間値算出数を乗算した制御実施期間が前記指令更新周期よりも長く設定されており、1つの前記指令値が入力されたときから前記指令更新周期が経過したときに、該指令値と該指令値の前に入力された指令値とに基づく前記制御が行われている。
また、前記上位指令器が出力する前記指令値は、工作機械に設けられたバイトの前記指令更新周期毎の目標位置を示しており、前記制御手段は、前記指令値に基づいて前記バイトの位置制御を行う。
また、前記上位指令器が出力する前記指令値は、車輌ステアリング機構に設けられた車輪の前記指令更新周期毎の目標操舵角を示しており、前記制御手段は、前記指令値に基づいて前記車輪の操舵角制御を行う。
【発明の効果】
【0007】
本発明の指令補間方法によれば、前記制御実施期間が前記指令更新周期よりも長く設定されており、1つの前記指令値が入力されたときから前記指令更新周期が経過したときに、該指令値と該指令値の前に入力された指令値とに基づく前記制御が行われるので、指令値の入力に遅れが生じた場合でも制御停止期間の発生を防止でき、連続的な制御を実施できる。
また、前記上位指令器が出力する前記指令値は、工作機械に設けられたバイトの前記指令更新周期毎の目標位置を示しており、前記制御手段は、前記指令値に基づいて前記バイトの位置制御を行うので、バイトの位置制御が停止されることを防止でき、位置制御が停止されることでの加工ムラの発生を防止できる。
また、前記上位指令器が出力する前記指令値は、車輌ステアリング機構に設けられた車輪の前記指令更新周期毎の目標操舵角を示しており、前記制御手段は、前記指令値に基づいて前記車輪の操舵角制御を行うので、車輪の操舵角制御が停止されることを防止でき、車輌操舵をよりスムーズにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による工作機械1を示す構成図である。なお、従来構成と同一又は同等部分については同一の符号を用いて説明する。図において、工作機械1には、回転機10、バイト11、アクチュエータ12、制御手段13、及び上位指令器14が設けられている。前記回転機10の回転軸10aには加工対象15が取り付けられており、この加工対象15は前記回転機10の駆動力により回転されている。前記加工対象15の外周には前記バイト11が当接されており、このバイト11によって前記加工対象15の外周が削り取られる。前記バイト11は、前記アクチュエータ12の送り軸12aに取り付けられており、前記バイト11が削り取る前記外周の位置が前記送り軸12aの位置によって変位される。前記アクチュエータ12には前記制御手段13が接続されており、この制御手段13には上位指令器14が接続されている。
【0009】
前記上位指令器14は、例えば利用者によって操作されるコンピュータ等であり、後述する指令更新周期110毎の前記バイト11の目標位置11aを示す指令値100を前記制御手段13に入力する。前記制御手段13は、通信型位置制御ドライバであり、前記アクチュエータ12を介して、前記指令値100に基づいて前記バイト11の位置制御を行う。
【0010】
次に、図2は、図1の制御手段13によって行われる指令補間方法を示す説明図である。図において、前記指令値100は、前記上位指令器14から前記制御手段13に所定の指令更新周期110毎に入力されている。ここで、前記上位指令器14からの入力順に、前記指令値100を、第1指令値101、第2指令値102、及び第3指令値103と呼ぶ。
【0011】
前記制御手段13は、前記第2指令値102が入力された際に、前記第1指令値101と前記第2指令値102との差分105を算出するとともに、該差分105を所定の補間値算出数で等分して補間値106を求める。なお、この実施の形態では、補間値算出数は5とされており、前記補間値106は前記差分105が5等分された値である。
【0012】
また、前記制御手段13は、所定の制御周期121毎に制御値(前記バイト11の位置)が前記補間値106を満たすように制御を行う。つまり、制御周期121毎の制御が補間値算出数回行われると、制御値が前記第2指令値102を満たす。換言すると、前記第1指令値101と前記第2指令値102とから求められた補間値106による制御は、前記制御周期121に前記補間値算出数を乗算した制御実施期間120だけ行われる。
【0013】
通常であれば、前記第3指令値103は、前記第2指令値102が入力されたときから前記指令更新周期110が経過した予定時刻115に前記制御手段13に入力される。しかしながら、例えば前記上位指令器14と前記制御手段13との間に制御時間ずれが生じた場合、及び伝送遅延が発生した場合等に遅れ116が生じることがある。
【0014】
この実施の形態では、前記制御実施期間120が前記指令更新周期110よりも長く設定されており、予定時刻115においても、前記第1指令値101と前記第2指令値102とに基づく制御が行われている。従って、多少の遅れ116が生じた場合でも、前記制御実施期間120の満了前に前記第3指令値103が入力されれば、前記制御の終了前に新たな補間値106が求められ、引き続き制御が実施される。なお、前記制御周期121が固定の場合には、前記補間値算出数が大きく設定されることで前記制御実施期間120が前記指令更新周期110よりも長く設定される。一方、前記制御周期121が可変の場合には、前記制御周期121が大きく設定されることでも、前記制御実施期間120が前記指令更新周期110よりも長く設定され得る。
【0015】
このような指令補間方法では、制御実施期間120が指令更新周期110よりも長く設定されており、1つの指令値102が入力されたときから前記指令更新周期110が経過した際にも、該指令値102と該指令値102の前に入力された指令値101とに基づく制御が行われているので、指令値103の入力に遅れ116が生じた場合でも制御停止期間150(図5参照)の発生を防止でき、連続的な制御を実施できる。
【0016】
また、前記上位指令器14が出力する前記指令値101〜103が工作機械1のバイト11の目標位置11aを示しており、前記制御手段13は前記指令値101〜103に基づいて前記バイト11の位置制御を行うので、バイト11の位置制御が停止されることを防止でき、位置制御が停止されることでの加工ムラの発生を防止できる。すなわち、本発明の指令補間方法は、工作機械1のバイト11の位置制御に特に有効である。
【0017】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2による車輌ステアリング機構2を示す構成図である。
実施の形態1では、本発明の指令補間方法が工作機械1に適用された例を示したが、実施の形態2では、指令補間方法が車輌ステアリング機構2に適用された例を示す。なお、実施の形態1の構成と同一又は同等部分については同一の符号を用いて説明する。
図において、車輌ステアリング機構2には、自動車の車輪20、ステアリング軸21、アクチュエータ12、制御手段13、及び上位指令器14が設けられている。前記ステアリング軸21は、周知のように、該ステアリング軸21が駆動されることで前記車輪20の操舵角20aが変更されるように前記車輪20に接続されている。前記ステアリング軸21にはアクチュエータ12が接続されており、該アクチュエータ12の駆動力によって前記ステアリング軸21が駆動される。前記アクチュエータ12には前記制御手段13が接続されており、この制御手段13には上位指令器14が接続されている。
【0018】
前記上位指令器14は、例えばステアリングホイールに設けられた角度センサに接続されたコンピュータ等であり、利用者によるステアリングホイールの操作に応じて、前記車輪20の指令更新周期110毎の目標操舵角20aを示す指令値100を前記制御手段13に入力する。前記制御手段13は、前記アクチュエータ12及び前記ステアリング軸21を介して、前記指令値100に基づいて前記車輪20の操舵角制御を行う。前記制御手段13が行う指令補間方法については、実施の形態1と同様である(図2参照)。
【0019】
このような指令補間方法では、前記上位指令器14が出力する前記指令値100は車輌ステアリング機構2に設けられた車輪20の指令更新周期110毎の操舵角20aを示しており、前記制御手段13は前記指令値100に基づいて前記車輪20の操舵角制御を行うので、車輪20の操舵角制御が停止されることを防止でき、車輌操舵をよりスムーズにすることができる。すなわち、本発明の指令補間方法は、車輌ステアリング機構2の車輪20の操舵角制御に特に有効である。
【0020】
なお、実施の形態1,2では、本発明が、工作機械1のバイト11の位置制御及び車輌ステアリング機構2の車輪20の角度制御に特に有効であることを述べたが、本発明の指令補間方法は、これらに限定されず、位置制御、速度制御、及び角度制御が行われる制御対象全般に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1による工作機械を示す構成図である。
【図2】図1の制御手段によって行われる指令補間方法を示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態2による車輌ステアリング機構を示す構成図である。
【図4】従来の指令補間方法を示す説明図である。
【図5】図4の指令補間方法において制御停止期間が生じた場合を示す説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 工作機械
2 車輌ステアリング機構
11 バイト
11a 目標位置
13 制御手段
14 上位指令器
20 車輪
20a 目標操舵角
101〜103 指令値
105 差分
106 補間値
110 指令更新周期
120 制御実施期間
121 制御周期

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の指令更新周期(110)毎に上位指令器(14)から制御手段(13)に指令値(101〜103)が入力され、
1つの前記指令値(102)が入力された場合に、前記制御手段(13)が、該指令値(102)と該指令値(102)の前に入力された指令値(101)との差分(105)を算出するとともに、該差分(105)を所定の補間値算出数で等分して補間値(106)を求め、制御値が前記補間値(106)を満たすように所定の制御周期(121)毎に制御を行う指令補間方法であって、
前記制御周期(121)に前記補間値算出数を乗算した制御実施期間(120)が前記指令更新周期(110)よりも長く設定されており、1つの前記指令値(102)が入力されたときから前記指令更新周期(110)が経過したときに、該指令値(102)と該指令値(102)の前に入力された指令値(101)とに基づく前記制御が行われていることを特徴とする指令補間方法。
【請求項2】
前記上位指令器(14)が出力する前記指令値(101〜103)は、工作機械(1)に設けられたバイト(11)の前記指令更新周期(110)毎の目標位置を示しており、
前記制御手段(13)は、前記指令値(101〜103)に基づいて前記バイト(11)の位置制御を行うことを特徴とする請求項1記載の指令補間方法。
【請求項3】
前記上位指令器(14)が出力する前記指令値(101〜103)は、車輌ステアリング機構(2)に設けられた車輪(20)の前記指令更新周期(110)毎の目標操舵角を示しており、
前記制御手段は、前記指令値(101〜103)に基づいて前記車輪(20)の操舵角制御を行うことを特徴とする請求項1記載の指令補間方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−39827(P2010−39827A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203003(P2008−203003)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000203634)多摩川精機株式会社 (669)
【Fターム(参考)】