説明

指紋が視認しにくい非粘着クリア塗装ステンレス鋼板

【課題】 付着した指紋が視認しにくいクリア塗装ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】 シリコーン化合物、ポリフルオロカーボン鎖含有化合物から選ばれた1種または2種以上を含有し、かつ、中心線平均表面粗さが0.2μm以上であることを特徴とするクリア塗装ステンレス鋼板とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付着する指紋が視認しにくい非粘着クリア塗装ステンレス鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板は、清潔感、高級感を有することから家電機器、器物の筐体や内装材等に使用されている。ステンレス鋼板無垢では、付着した指紋を拭き取り難く、ステンレス鋼板の素材を活かしたクリア塗装ステンレス鋼板が多用されてきている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
クリア塗装ステンレス鋼板は、意匠性に優れることからキッチン家電機器、AV・IT機器などの多くの部材に使用されており、指紋が付着しても容易に拭き取れ、初期の意匠を長期間保持することができる。また、キッチン家電機器、キッチンパネルなどのキッチン部材では、油が容易に除去できる非粘着クリア塗装ステンレス鋼板が多用され、このため、キッチン周辺の油汚れは清浄しやすくなっている。しかし、油をはじき易い非粘着クリア塗膜は、付着した指紋が目立ち易いという欠点もある。一方、指紋除去性に優れたクリア塗装ステンレス鋼板として、複数のクリア塗膜における最上層の直下層にエンボス外観を呈するクリア塗膜を設けたものが提案されている(特許文献1)。しかし、エンボス外観を呈するクリア塗膜を形成させるには、スプレー塗装またはフレキソ印刷が必要である。
【特許文献1】特開2004−160758号公報
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、このような問題を解決すべく案出されたものであり、付着した指紋が視認しにくい非粘着クリア塗装ステンレス鋼板を提供することを目的とする。その目的を達成するため、クリア塗膜がシリコーン化合物、ポリフルオロカーボン鎖含有化合物から選ばれた1種または2種以上を含有し、かつ、中心線平均表面粗さが0.2μm以上であることを特徴とする指紋が視認しにくい非粘着クリア塗装ステンレス鋼板とした。
【発明の効果】
【0005】
クリア塗膜表面への指紋付着は指紋成分の物理的な付着であり、クリア塗膜の樹脂種に依存せず、いずれも指紋が付着する。ただし、指紋の目立ち易さはクリア塗膜表面に依存し、具体的には指紋成分の大部分を為す水分との馴染み易さが影響する。すなわち、水に馴染み易い所謂対水接触角が大きいクリア塗膜では指紋が目立ち易くなる。 一方、油などの調味料、食品の付着物が取れ易い非粘着表面は表面エネルギーが小さいことに基づき、言い換えると、表面張力が小さい所謂対水接触角の大きな表面であり、前述した指紋が目立ち易い表面であるといえる。この指紋の目立ち易さはクリア塗膜表面と指紋成分との液滴端が高コントラストな連続線となり、指紋という像を形成する。この連続線を断続させることで、像である指紋を目立ちにくくすることができる。クリア塗膜表面に凹凸を設けることにより、凸部に指紋成分が付着し、凹部に指紋成分が付着せず、クリア塗膜表面と指紋成分との液滴端は断続線となり、指紋は目立ち難くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の指紋が視認しにくいクリア塗装ステンレス鋼板は、クリア塗膜がシリコーン化合物、ポリフルオロカーボン鎖含有化合物から選ばれた1種または2種以上を含有するクリア塗膜であり、かつ、中心線平均表面粗さが0.2μm以上とした。
【0007】
本発明で使用されるベース樹脂は、とくに限定されるものではないが、ポリエステル樹脂、線状高分子ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂/アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリルシリコーン樹脂、4フッ化樹脂などの一般的なプレコート鋼板用に使用されるものが好ましい。なお、クリア塗膜の透明性を損なわない範囲で塗料中に着色顔料、メタリック顔料、パール顔料や種々の添加剤を配合してもよい。また、必要に応じてクリアプライマー塗膜を設けることができる。クリアプライマー塗膜のベース樹脂も前述のとおりとくに限定されず、顔料や添加剤の配合可否についても前記の条件と同様である。
【0008】
クリア塗膜がアクリルシリコーン樹脂や4フッ化樹脂などをベース樹脂とする場合以外は、ベース樹脂からなる塗料にシリコーン化合物、ポリフルオロカーボン鎖含有化合物から選ばれた1種または2種以上を配合する。配合量はとくに限定されるものではないが、非粘着性を発現するためにはベース樹脂100重量部に対して0.5重量部以上含有することが好ましい。ただし、10重量部を越えて配合しても非粘着性の向上は認められず、コストメリットがない。
【0009】
本発明でクリア塗膜に含有するシリコーン化合物としては、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロポリシロキサン、シリコーンオイルまたはシリコーンワニスを溶剤に溶解したものなどが挙げられる。ポリフルオロカーボン鎖含有化合物は、重合体または共重合体のいずれでもよく、フッ素樹脂系界面活性剤、フッ素系オイル、パーフルオロアルキル基をもつ重合体、フルオロシリコーンオイルなどが使用される。
【0010】
ポリフルオロカーボン鎖含有化合物は、ユニダインDS−101、DS−202、DS−301、DS−406、デムナムS−20、ダイフル#20、テックスガードTG−652、TG−664(ダイキン工業社製)、FS−1265(東レ・ダウコーニング社製)、X−22−819、FL−100(信越化学工業社製)等として市販されている。
【0011】
本発明において、クリア塗膜の中心線平均粗さが0.2μm以上にする方法は、とくに限定されるものではなく、シリカなどの無色顔料をクリア塗膜に配合する方法などが挙げられる。例えば、無色顔料の平均粒径、塗膜厚さなどにもよるが、樹脂100重量部に対して平均粒径が5μmのシリカを2〜20重量部配合することによって、中心線平均表面粗さを0.2μm以上に制御することができる。
【0012】
本発明で用いるステンレス鋼板の鋼種は、とくに限定されず常法にしたがって適宜、研磨、脱脂、酸洗等を経てリン酸塩処理、クロメート処理、クロムフリー処理等の塗装前処理が施されたものを適用する。塗料の塗布もプレコート鋼板の製造で一般に採用されている塗装方法でよい。たとえば、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、ダイコート等がある。
【0013】
塗装焼付けは、ベース樹脂やステンレス鋼板の板厚、ラインスピード等を考慮し、150〜400℃の雰囲気温度のオーブン等で20〜120秒間の範囲で加熱乾燥する。クリア塗膜形成用塗料は、乾燥膜厚が2〜20μmになるようにステンレス鋼板表面に塗布する。乾燥膜厚が2μm未満では、クリア塗膜に0.2μm以上の中心線平均粗さを付与することが難しく、クリア塗膜表面と指紋成分との液滴端は高コントラストな連続線となり、指紋像は目立ち易くなる。乾燥膜厚が20μmを越えても指紋の目立ち難いことに変わりはないものの過剰品質になりコストメリットがなくなる。予めクリアプライマー塗膜を形成する場合も同様の方法や条件で処理できる。
【実施例】
【0014】
実施例1;
厚さ0.5mmのSUS430HL仕上げステンレス鋼板に脱脂処理を施し、ベース樹脂100重量部に対して、ダイキン工業社製のユニダインDS−101を2重量部、平均粒径3μmのシリカを10重量部配合した線状高分子ポリエステル樹脂系クリア塗料を乾燥膜厚で10μmになるように塗布し、オーブンにて230℃×60秒間の加熱条件で焼付け乾燥し、直ちに水冷した。当該クリア塗装ステンレス鋼板の中心線平均表面粗さは0.6μmであった。
【0015】
実施例2;
ダイキン工業社製ユニダインDS−101の代りにシリコーンオイルを配合する以外は実施例1と同様の条件で作製した。当該クリア塗装ステンレス鋼板の中心線平均表面粗さは0.5μmであった。
【0016】
実施例3;
厚さ0.4mmのSUS430No.4仕上げステンレス鋼板に脱脂処理を施し、平均粒径5μmのシリカを5重量部配合したアクリルシリコーン樹脂系クリア塗料を乾燥膜厚で8μmになるように塗布し、オーブンで230℃×60秒間の加熱条件で焼付け乾燥し、直ちに水冷した。当該クリア塗装ステンレス鋼板の中心線平均表面粗さは0.9μmであった。
【0017】
比較例1;
シリカを配合しない以外は実施例1と同様の条件で作製した。当該クリア塗装ステンレス鋼板の中心線平均表面粗さは0.05μmであった。
比較例2;
シリカを配合しない以外は実施例3と同様の条件で作製した。当該クリア塗装ステンレス鋼板の中心線平均表面粗さは0.09μmであった。
【0018】
得られたクリア塗装ステンレス鋼板は、いずれも優れた非粘着性を示し、塗膜表面に塗布した赤色油性マーカーがはじいて線が描けず、布で簡単にマーカーが乾拭きできた。また、実施例によるものは指紋を付着しても視認しにくいが、比較例によるものは指紋が明確に確認できた。なお、比較例も布で乾拭きすることにより容易に指紋を除去することができた。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によるクリア塗装ステンレス鋼板は、付着した指紋が目立ちにくく、メンテナンスフリーで恒久的に基材のもつ意匠性を保持できるので、人が日常的に手を触れる部材、たとえばキッチン家電機器やAV・IT機器などに最適である。








【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリア塗膜がシリコーン化合物、ポリフルオロカーボン鎖含有化合物から選ばれた1種または2種以上を含有し、かつ、中心線平均表面粗さが0.2μm以上であることを特徴とする指紋が視認しにくい非粘着クリア塗装ステンレス鋼板。
































【公開番号】特開2007−69535(P2007−69535A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261058(P2005−261058)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】