説明

振動アクチュエータを有する光学機器

【課題】作動音や噛合音による不具合の発生を抑えることのできる振動アクチュエータを有する光学機器を提供する。
【解決手段】カメラ1を構成するレンズ鏡筒20は、それぞれ合焦レンズを移動駆動する第1出力軸52と第2出力軸53とを備えている。第1出力軸52と第2出力軸53とは、超音波モータ40によって減速機構50を介して互いに逆方向に回転駆動される。第1出力軸52には第1クラッチ52Cが回転力の伝達を断続可能に設けられ、第2出力軸53には第2クラッチ53Cが回転力の伝達を断続可能に設けられている。これにより、第1クラッチ52Cと第2クラッチ53Cの操作によって、超音波モータ40の一方方向の回転で、合焦レンズの移動方向を切替え可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動アクチュエータを有する光学機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カメラやカメラレンズ等の光学機器において、合焦レンズ等の移動部材を移動駆動する駆動源として、振動アクチュエータが知られている。振動アクチュエータは、電気機械変換素子を用いて振動子を振動させ、その振動によって移動子を移動(回転等)させる(たとえば、特許文献1参照)。
ところで、光電変換素子によって画像を電気信号に変換して撮像するデジタルカメラでは、動画撮影の際、合焦レンズを合焦位置から前後に微少量移動させ、撮像画像のコントラストの変化から合焦状態の変化を検出して、被写体への合焦を維持するいわゆるウォブリング動作を行うものがある。ウォブリング動作は、合焦レンズを間欠的に移動させて行うため、合焦レンズを移動駆動する駆動源は駆動/停止を繰り返す(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−153286号公報
【特許文献2】特開2003−279846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、振動アクチュエータは、圧電素子に駆動電源を入力した瞬間に作動音が発生する。また、振動アクチュエータから合焦レンズを移動操作する部材にギア組を介して駆動力を伝達する構成では、合焦レンズを合焦位置から前後に移動させるために回転方向が反転する都度、ギアのバックラッシによる噛合音を生ずる。このため、合焦レンズを移動駆動する駆動源として振動アクチュエータを用いた場合、ウォブリング動作の際に連続して発生する作動音や噛合音がマイクに伝達して記録(録音)されてしまうおそれがある。このような作動音や噛合音は、再生時に不自然で耳障りなものとなる。
【0005】
本発明の課題は、作動音や噛合音による不具合の発生を抑えることのできる振動アクチュエータを有する光学機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
【0007】
請求項1に記載の発明は、回転力を出力する振動アクチュエータ(40)と、移動可能に設けられた光学素子(23)と、回転して前記光学素子(23)を移動駆動する少なくとも二つの駆動軸(52,53)と、前記振動アクチュエータ(40)と前記各駆動軸(52,53)とを前記振動アクチュエータ(40)の回転によって前記各駆動軸(52,53)がそれぞれ異なる方向に回転するように連繋する駆動力伝達機構(51,81,82)と、前記振動アクチュエータ(40)から前記各駆動軸(52,53)への駆動力の伝達をそれぞれ断続可能として前記駆動力伝達機構(51,81,82)に設けられた断続手段(52C,53C,81Bc,82Bc)と、を備え、前記振動アクチュエータ(40)の回転出力は一方方向のままで前記断続手段(52C,53C,81Bc,82Bc)の操作によって前記光学素子(23)の移動方向を切替え可能に構成されていること、を特徴とする振動アクチュエータを有する光学機器(1,20)である。
請求項2は、請求項1に記載の振動アクチュエータを有する光学機器であって、前記光学素子を通った被写体像光を撮像する撮像素子(16)と、前記撮像素子(16)によって撮像された被写体像から焦点状態を検出する検出部(32)と、を備え、前記検出部によって検出された焦点状態の検出結果により、前記断続手段を制御すること、を特徴とする振動アクチュエータを有する光学機器(1,20)である。
請求項3は、請求項1または2に記載の振動アクチュエータを有する光学機器であって、前記断続手段は、前記駆動力伝達機構(51,81,82)または前記各駆動軸(52,53)にそれぞれ駆動力の伝達を断続可能に介設されたクラッチ機構(52C,53C,81Bc,82Bc)であること、を特徴とする振動アクチュエータを有する光学機器である。
請求項4は、請求項1または2に記載の振動アクチュエータを有する光学機器であって、前記駆動力伝達機構(90)は、前記振動アクチュエータによって回転駆動される駆動側ギア(91)と、前記各駆動軸とそれぞれ連繋する各出力側ギア(92)と、を備え、前記断続手段は、前記駆動側ギア(91)と前記各出力側ギア(92)とに駆動力を伝達可能に噛合する作用位置と、噛合しない退避位置との間で移動可能に設けられた遊星ギア(93)を備えること、を特徴とする振動アクチュエータを有する光学機器(1,20)である。
【0008】
なお、符号を付して説明した構成は、適宜改良してもよく、また、少なくとも一部を他の構成物に代替してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作動音や噛合音による不具合の発生を抑えることのできる振動アクチュエータを有する光学機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る一実施形態であるカメラを概念的に示す図である。
【図2】減速機構を概念的に示す説明図である。
【図3】超音波モータと出力軸の関係を示す斜視図である。
【図4】レンズ鏡筒の合焦制御に係るブロック構成図である。
【図5】ウォブリング動作時におけるクラッチ操作の一例のタイミングチャートである。
【図6】駆動力伝達機構の第2実施形態である減速機構を概念的に示す説明図である。
【図7】第2実施形態における超音波モータと出力軸の関係を示す斜視図である。
【図8】駆動力伝達機構の第3実施形態である減速機構を概念的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、図面等を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る一実施形態であるカメラ1を概念的に示す図である。図2は、減速機構50を概念的に示す説明図である。図3は、超音波モータ40と第1出力軸52および第2出力軸53の関係を示す斜視図である。図4は、レンズ鏡筒20の合焦制御に係るブロック構成図である。図5は、ウォブリング動作時におけるクラッチ操作の一例のタイミングチャートである。
【0012】
なお、図1には、説明と理解を容易にするためにXYZ直交座標系を設けた。この座標系では、撮影者が光軸OAを水平として横長の画像を撮影する場合のカメラの位置(以下、正位置という)において撮影者から見て左側に向かう方向をXプラス方向とし、正位置において上側に向かう方向をYプラス方向とする。また、正位置において被写体に向かう方向をZプラス方向とする。このZプラス方向を前面側、Zマイナス方向を背面側とも呼称する。さらに、光軸OA(すなわちZ軸)と平行な方向の移動を「直進」、光軸OAを中心とする回動を「回転」と呼称する。
【0013】
カメラ1は、カメラ本体10と、レンズ鏡筒20と、によって構成されている。
カメラ本体10は、クイックリターンミラー11と、ファインダスクリーン12と、ペンタプリズム13と、接眼光学系14と、シャッター15と、撮像素子16と、表示装置17と、制御装置30と、位相差AF装置31と、コントラストAF装置32等を備えた、いわゆるデジタル一眼レフカメラである。
【0014】
クイックリターンミラー11は、レンズ鏡筒20によって集光された被写体像の光路を、ファインダスクリーン12に向けて屈曲させるためにカメラ本体10内に揺動可能に設けられたミラーである。クイックリターンミラー11は、レリーズ操作に応じて、被写体光の撮像素子16への入射を妨げない退避位置(図1中に二点鎖線で示す)に移動する。
【0015】
また、クイックリターンミラー11は、一部がハーフミラーとなっており、そのハーフミラー部位と対応する裏面部位に、サブミラー11Aが配設されている。サブミラー11Aは、クイックリターンミラー11におけるハーフミラー部位を透過した被写体像光を位相差AF装置31に導く。サブミラー11Aは、クイックリターンミラー11の退避位置への移動に伴って、クイックリターンミラー11の裏面に沿うように移動する。
【0016】
ファインダスクリーン12は、クイックリターンミラー11により反射された被写体像を結像させるスクリーンであり、クイックリターンミラー11とペンタプリズム13との間に配置されている。
ペンタプリズム13は、断面形状が五角形のプリズムであって、カメラ本体10を横位置に構えた状態の上部に配設されている。ペンタプリズム13は、ファインダスクリーン12に結像した像を正立像として接眼光学系14へと導く。
【0017】
接眼光学系14は、ペンタプリズム13により正立像となった被写体像を、拡大観察するための光学系であり、ペンタプリズム13の背面側(撮影者側)に配置されている。
シャッター15は、レリーズ操作に応じて開閉し、撮像素子16に結像する被写体像光の露光時間を制御する。
【0018】
撮像素子16は、レンズ鏡筒20によって結像された被写体像を電気信号に変換する、たとえば、CCD等の光電変換素子である。
表示装置17は、カメラ本体10の外側の背面側(撮影者側)に設けられた液晶等の表示パネルを備えている。表示装置17は、表示パネルに撮影画像や、露光時間等の撮影に関する情報等を表示する。
【0019】
制御装置30は、CPU等を備えて構成され、前述した当該カメラ本体10の各構成要素およびカメラ本体10に装着されたレンズ鏡筒20を統括的に制御する。
位相差AF装置31は、撮影光学系102の射出瞳の異なる一対の領域を通る一対の光束を受光して得られる受光信号に基づいて、設定されたAFエリアに対するデフォーカス量を算出する。そして、位相差AF装置31は、算出されたデフォーカス量に基づいて、後述するレンズ鏡筒20における合焦レンズであるレンズ群23の駆動量を決定し、これをAF制御情報としてレンズ鏡筒20における後述するレンズマイコン60に出力する。この位相差AF装置31によるAF制御情報は、側距時においてクイックリターンミラー11がミラーダウン状態にある静止画撮影時に適用される。
【0020】
コントラストAF装置32は、撮像素子16から出力される画像データに基づいてコントラストに関する焦点評価値を合焦レンズ(レンズ群23)の位置に対応付けて算出する。そして、コントラストAF装置32は、焦点評価値が最大となる合焦レンズの位置を演算してそこまでの合焦レンズの駆動量を決定し、これをAF制御情報としてレンズ鏡筒20における後述するレンズマイコン60に出力する。このコントラストAF装置32によるAF制御情報は、クイックリターンミラー11がミラーアップ状態にあって位相差AF装置31からAF制御情報が得られない動画撮影時に適用される。
【0021】
そして、カメラ本体10は、撮影時において下記のように作用する。
カメラ本体10が備える図示しないシャッターボタンが押圧操作(レリーズ操作)されると、クイックリターンミラー11が退避位置に移動する。シャッター15は、レリーズ操作に応じて開閉し、撮像素子16に被写体像光を所定時間露光させる。撮像素子16は、被写体像光を電気信号に変換して撮像する。撮像素子16によって撮像された撮像データは、図示しない記録部に記録される。これによって、撮影が行われる。
【0022】
カメラ本体10は、前述したようにレンズ鏡筒20が一体に結合されてカメラ1を構成する。カメラ本体10にレンズ鏡筒20が結合した状態では、カメラ本体10の制御装置30および図示しない電源がレンズ鏡筒20と接続される。これにより、カメラ本体10の制御装置30から制御情報がレンズ鏡筒20における後述するレンズマイコン60に伝達され、レンズ鏡筒20を制御する。すなわち、オートフォーカス作動時には、制御装置30は、カメラ本体10が備える位相差AF装置31またはコントラストAF装置32からの合焦制御情報に基づいて後述する超音波モータ40を制御駆動して合焦レンズであるレンズ群23を移動操作する。
【0023】
つぎに、レンズ鏡筒20について説明する。
レンズ鏡筒20は、外筒21の内部に、結像レンズを構成する複数のレンズ群22,23,24と、カム筒25と、超音波モータ40と、減速機構50と、レンズマイコン60等を備えている。
レンズ群23は、光軸OAと平行に前後に移動して結像位置を調整する合焦レンズであって、カム筒25内に、光軸OA方向に移動可能として保持されている。
【0024】
ここで、合焦レンズであるレンズ群23の駆動機構について説明する。
カム筒25は、図示しないが螺旋状のカム溝を備えており、外筒21内に回転可能に設けられている。そして、カム筒25は、回転することでレンズ群23を光軸OA方向に移動するようになっている。
【0025】
超音波モータ40は、合焦レンズであるレンズ群23を駆動する駆動源であって、カム筒25と外筒21の間の円環状の隙間に配置されている。
超音波モータ40は、振動子41と、振動子41に圧接配置された回転体42と、回転体42に結合された出力ギア43と、を備えている。
【0026】
振動子41は、弾性体41Aと、弾性体41Aに接合された圧電体41Bと、により構成されている。振動子41は、図示しないフレキシブルプリント基板を介して後述するレンズマイコン60から駆動信号が供給され、これによって圧電体41Bが伸縮して弾性体41Aの駆動面に進行波を生ずる。
そして、超音波モータ40は、振動子41の進行波によって回転体42が回転駆動され、これによって出力ギア43が回転力を出力する。出力ギア43は、後述する減速機構50の入力ギアである第1ギア51Aに噛合している。
【0027】
これにより、超音波モータ40は、出力ギア43の回転によって、減速機構50を介してカム筒25を回転操作するようになっている。カム筒25が回転操作されると、前述したようにレンズ群23が光軸OA方向に移動する。すなわち、超音波モータ40の回転駆動によってカム筒25が回転操作され、レンズ群23が光軸OA方向に移動し、これによって焦点位置の調整(合焦調整)が行われるようになっている。
【0028】
減速機構50は、図2に概念的に示すように、それぞれ大小のギアが一体に構成された三組の減速ギア(第1ギア51A,第2ギア51B,第3ギア51C)を備えて構成された減速ギア部51と、二つの出力軸(第1出力軸52,第2出力軸53)とを備えている。
減速ギア部51の第1ギア51Aは、前述したように超音波モータ40の出力ギア43と噛合している。これにより、超音波モータ40の回転力が、減速ギア部51に入力されるようになっている。
【0029】
第1出力軸52は、一方端に、第1被駆動ギア52Aが、第1クラッチ52Cを介して設けられている。第1被駆動ギア52Aは、減速ギア部51の第3ギア51Cと噛合している。
第2出力軸53は、一方端に、第2被駆動ギア53Aが、第2クラッチ53Cを介して設けられている。第2被駆動ギア53Aは、第1出力軸52の第1被駆動ギア52Aに噛合している。
これにより、第1被駆動ギア52Aと第2被駆動ギア53Aとは、減速ギア部51の第3ギア51Cの回転によって、互いに逆方向に回転駆動されるようになっている。
【0030】
第1クラッチ52Cおよび第2クラッチ53Cは、電磁クラッチであって、それぞれ、第1被駆動ギア52Aおよび第2被駆動ギア53Bと、第1出力軸52および第2出力軸53とを、回転力を伝達可能に接続、または回転力を伝達不能に切断する。すなわち、第1出力軸52は、第1クラッチ52Cが接続状態では、第1被駆動ギア52Aが相対回転不能となり、第1クラッチ52Cが切断状態では第1被駆動ギア52Aが相対回転可能となる。同様に、第2出力軸53は、第2クラッチ53Cが接続状態では、第2被駆動ギア53Aが相対回転不能となり、第2クラッチ53Cが切断状態では第2被駆動ギア53Aが相対回転可能となる。両出力軸(第1出力軸52,第2出力軸53)における第1クラッチ52Cと第2クラッチ53Cとは、選択的に作動されて何れか一方のみが接続状態となるか、または、第1クラッチ52Cと第2クラッチ53Cとが同時に切断状態となるように制御されるようになっている。
【0031】
また、第1出力軸52の他端には第1駆動ギア52Dが固定され、第2出力軸53の他端には第2駆動ギア53Dが固定されている。これら第1駆動ギア52Dおよび第2駆動ギア53Dは、それぞれ駆動アイドルギア54に噛合している。
駆動アイドルギア54は、図3に示すように、外筒21の内周側に配設されたリングギア55に噛合している。リングギア55は、外筒21の内周側に配設され、カム筒25と同期回転可能に連繋している。
【0032】
上記構成の減速機構50では、超音波モータ40の回転力は、減速ギア部51を介して所定の減速比で第1被駆動ギア52Aおよび第2被駆動ギア53Aに伝達され、第1被駆動ギア52Aと第2被駆動ギア53Aは互いに逆方向に回転する。そして、第1出力軸52における第1クラッチ52Cまたは第2出力軸53における第2クラッチ53Cを選択的に作動させることで、第1出力軸52または第2出力軸53の何れかを回転駆動することができる。これにより、第1出力軸52の第1駆動ギア52Dまたは第2出力軸53の第2駆動ギア53Dの回転力が、噛合する駆動アイドルギア54を介してリングギア55を回転駆動する。
【0033】
従って、第1クラッチ52Cおよび第2クラッチ53Cの切替操作によってカム筒25を任意の方向に回転操作して、合焦レンズであるレンズ群23を光軸OA方向における任意の方向に移動操作することができる。また、第1クラッチ52Cと第2クラッチ53Cとの双方を不作動(切断状態)とすることで、超音波モータ40の回転力のリングギア55への伝達を遮断して、超音波モータ40の回転を継続したままでリングギア55の回転駆動を停止させることができる。
【0034】
つぎに、図4を参照して、上記のように構成された超音波モータ40および減速機構50を備えるレンズ鏡筒20の合焦制御に係る制御構成について説明する。
レンズ鏡筒20は、合焦制御に係る制御系の機能部として、当該レンズ鏡筒20を統括制御するレンズマイコン60と、超音波モータ40の駆動信号を形成する昇圧回路71および駆動回路72と、減速機構50における第1クラッチ52Cおよび第2クラッチ53Cを制御する制御信号を形成する制御回路73と、を備えている。また、超音波モータ40の回転量を検出する回転量検出器74と、レンズ群23の光軸方向における位置を検出する位置検出器75と、を備えている。
【0035】
レンズマイコン60には、カメラ本体10における位相差AF装置31およびコントラストAF装置32から焦点情報が入力される(位相差AF装置31は図4に示していない。図1参照)。そして、レンズマイコン60は、その入力される焦点情報に基づいて、昇圧回路71および駆動回路72を制御して、超音波モータ40を駆動制御する。その際、回転量検出器74と位置検出器75とから入力される検出信号によってフィードバック制御を行う。
【0036】
ここで、前述したように、カメラ1は、動画撮影時には、コントラストAF装置32による焦点情報を用いて、被写体への合焦を維持するようにウォブリング動作を行う。
つぎに、レンズマイコン60によるこのウォブリング動作時における超音波モータ40の駆動制御を説明する。
図5は、ウォブリング動作時におけるクラッチ操作の一例のタイミングチャートである。
【0037】
ウォブリング動作時には、合焦レンズであるレンズ群23を合焦位置から前後に微少量移動させる。レンズマイコン60は、ウォブリング動作を要求される動画撮影時には、超音波モータ40の一方方向の回転を常に継続させ、レンズ群23を移動させない状況では第1クラッチ52Cと第2クラッチ53Cの双方を切断状態とする。そして、レンズ群23を前進移動駆動する際には、減速機構50における一方の第1クラッチ52Cを継続状態とすると共に他方のクラッチ53Cを切断状態とする。これとは逆に、レンズ群23を後進移動駆動する際には、減速機構50の第2クラッチ53Cを継続状態とすると共に第1クラッチ52Cを切断状態とする。つまり、動画撮影時には、超音波モータ40を一定方向に回転させたままで、第1クラッチ52Cおよび第2クラッチ53Cの断続制御を行うことで、レンズ群23の停止と移動の方向を切り替えることができる。
【0038】
以上、本第1実施形態によると、以下の効果を有する。
本第1実施形態に係るカメラ1では、ウォブリング動作時において、レンズ群23の移動を開始する度に超音波モータ40の駆動を開始させる必要がなく、ウォブリング動作中に超音波モータ40の始動の作動音は生じない。また、レンズ群23の移動方向を切り替える際に超音波モータ40を停止・逆回転させる必要がなく、超音波モータ40が反転する際における減速機構50のギアのバックラッシによる噛合音も生じない。従って、再生時において不自然で耳障りとなるこれらの作動音や噛合音が動画記録時に記録(録音)されることはない。
【0039】
なお、上記実施形態では、第1クラッチ52Cは第1出力軸52と第1被駆動ギア52Aとの間に、第2クラッチ53Cは第2出力軸53と第2被駆動ギア53Aとの間に、それぞれ介設されている。しかし、第1出力軸52および第2出力軸53からの回転出力を断続する断続手段(クラッチ)の配設位置は、これに限る者ではなく、たとえば、第1出力軸52と第1駆動ギア52Dまたは第2出力軸53と第2駆動ギア53Dとの間に介設する等、適宜変更可能である。
【0040】
(第2実施形態)
つぎに、図6および図7を参照して、超音波モータ40の回転駆動力を、レンズ群23を駆動するカム筒25に伝達する駆動力伝達機構の第2実施形態を説明する。
図6は、駆動力伝達機構の第2実施形態である減速機構80を概念的に示す説明図である。図7は、第2実施形態における超音波モータ40と第1出力軸52および第2出力軸53の関係を示す斜視図である。なお、図中、前述した第1実施形態と同機能の構成要素については、同符号を付して説明は省略する。
【0041】
図示減速機構80は、超音波モータ40を挟んで、二組の減速ギア列(第1減速ギア列81,第2減速ギア列82)を備えている。
一方の第1減速ギア列81は、大小のギアが一体に構成された三組の減速ギア(第1ギア81A,第2ギア81B,第3ギア81C)を備えて構成されている。
【0042】
第1ギア81Aは、超音波モータ40の出力ギア43Aと噛合しており、超音波モータ40の回転力が減速ギア列81に入力されるようになっている。
第2ギア81Bには、大径ギア81Baと小径ギア81Bbとの間に第1クラッチ81Bcが介設されており、その切替操作によって大径ギア81Baから小径ギア81Bbへの回転力の伝達が断続されるようになっている。
第3ギア81Cは、第1出力軸52の第1被駆動ギア52Aと噛合している。
【0043】
他方の第2減速ギア列82は、大小のギアが一体に構成された三組の減速ギア(第1ギア82A,第2ギア82B,第3ギア82C)と、アイドルギア82Aと、を備えて構成されている。
第1ギア82Aは、超音波モータ40の出力ギア43Bと噛合しており、超音波モータ40の回転力が減速ギア列82に入力されるようになっている。
【0044】
第2ギア82Bには、大径ギア82Baと小径ギア82Bbとの間に第2クラッチ82Bcが介設されており、その切替操作によって大径ギア82Baから小径ギア82Bbへの回転力の伝達が断続されるようになっている。
第3ギア51Cにはアイドルギア82Dが噛合しており、このアイドルギア82Dは第2出力軸83の被駆動ギア83Aと噛合している。
【0045】
上記のように構成された減速機構80では、超音波モータ40の回転力を第1減速ギア列81が所定の減速比で減速して第1出力軸52を回転駆動する。その回転駆動は、第1クラッチ81Bcの操作によって断続される。
また、超音波モータ40の回転力を第2減速ギア列82が所定の減速比で減速して第2出力軸53を回転駆動する。第2減速ギア列82は、アイドルギア82Dを備えるため、第2出力軸53の回転方向は、第1出力軸52とは逆となる。その回転駆動は、第2クラッチ82Bcの操作によって断続される。
【0046】
第1出力軸52に固定された第1駆動ギア52Dと、第2出力軸53に固定された第2駆動ギア53Dとは、図7に示すように、それぞれリングギア55に噛合している。リングギア55は、前述したように、外筒21の内周側に配設され、カム筒25と同期回転可能に連繋している。
【0047】
そして、減速機構80は、第1減速ギア列81における第1クラッチ81Bcまたは第2減速ギア列82における第2クラッチ82Bcを選択的に作動させることで、第1出力軸52または第2出力軸53の何れかを回転駆動することができる。これにより、第1出力軸52の第1駆動ギア52Dまたは第2出力軸53の第2駆動ギア53Dが、リングギア55を回転駆動する。
【0048】
従って、第1クラッチ81Bcまたは第2クラッチ82Bcの切替操作によってカム筒25を任意の方向に回転操作して、合焦レンズであるレンズ群23を光軸OA方向における任意の方向に移動操作することができる。また、第1クラッチ81Bcと第2クラッチ82Bcとの双方を不作動(切断状態)とすることで、超音波モータ40の回転力のリングギア55への伝達を遮断して、超音波モータ40の回転を継続したままでリングギア55の回転駆動を停止させることができる。
【0049】
以上、本第2実施形態によると、以下の効果を有する。
本実施形態における減速機構80によれば、超音波モータ40を一定方向に回転させたままで、第1減速ギア列81における第1クラッチ81Bcおよび第2減速ギア列82における第2クラッチ82Bcの断続制御を行うことで、レンズ群23の停止と移動方向とを切り替えることができる。これにより、ウォブリング動作中に超音波モータ40の始動の作動音や、ギアのバックラッシによる噛合音は生じない。従って、再生時において不自然で耳障りとなるこれらの作動音や噛合音が動画記録時に記録(録音)されることはない。
【0050】
なお、上記実施形態では、第1減速ギア列81における第1クラッチ81Bcは第2ギア81Bに、第2減速ギア列82における第2クラッチ82Bcは第2ギア82Bに、それぞれ駆動力の伝達を断続可能に介設されている。しかし、駆動力の伝達を断続するクラッチ機構の介設位置は、第2ギア81B,82Bに限らず、他のギアに介設してもよい。
【0051】
(第3実施形態)
つぎに、図8を参照して、超音波モータ40の回転駆動力を、レンズ群23を駆動するカム筒25に伝達する駆動力伝達機構における回転方向切替機構の実施形態を説明する。
図8は、駆動力伝達機構の第3実施形態である減速機構90の説明図であって、(a)は減速機構90を概念的に示す斜視図、(b)は操作機構100の斜視図である。なお、図中、前述した第1実施形態と同機能の構成要素については、同符号を付して説明は省略する。
【0052】
減速機構90は、図示しない超音波モータによって回転駆動される一対の駆動側ギア91(第1駆動側ギア91A,第2駆動側ギア91B)と、これら駆動側ギア91からそれぞれ所定間隔を有して配設された出力側ギア92(第1出力側ギア92A,第2出力側ギア92B)と、を備えている。
第1駆動側ギア91Aと第2駆動側ギア91Bとは噛合しており、互いに逆方向に回転するようになっている。
【0053】
駆動側ギア91と出力側ギア92との間には、それぞれ遊星ギア93(第1遊星ギア93A,第2遊星ギア93B)が配設されている。
遊星ギア93は、大径ギア93aと小径ギア93bとが同軸に形成された二段ギアであって、連結板94(第1連結板94A,第2連結板94B)の一端に回転自在に支持されている。
【0054】
第1遊星ギア93Aを支持する第1連結板94Aの他端は、第1駆動側ギア91Aの回転軸に揺動可能に支持されている。そして、第1遊星ギア93Aは、第1駆動側ギア91Aの回転軸を中心とする第1連結板94Aの揺動によって、その第1大径ギア93aが第1駆動側ギア91Aと噛合すると共に第1小径ギア93bが第1出力側ギア92Aと噛合する作用位置と、それぞれの噛合が解除される退避位置との間を移動可能となっている。
【0055】
第2遊星ギア93Bを支持する第2連結板94Bの他端は、第2駆動側ギア91Aの回転軸に揺動可能に支持されている。そして、第2遊星ギア93Bは、第2駆動側ギア92Aの回転軸を中心とする第2連結板94Bの揺動によって、その第2大径ギア93aが第2駆動側ギア92Aと噛合すると共に第2小径ギア93bが第2出力側ギア92Bと噛合する作用位置と、それぞれの噛合が解除される退避位置との間を移動可能となっている。
【0056】
また、第1遊星ギア93Aと第2遊星ギア93Bとの間に、当該第1遊星ギア93Aと第2遊星ギア93Bとを移動操作する操作機構100が設けられている。
操作機構100は、操作板110と、押圧スプリング120(第1スプリング120A,第2スプリング120B)と、操作部材130等によって構成されている。
【0057】
操作板110は、図8(b)に示すように駆動側ギア91に近い側の端縁部で、揺動支持軸111によって連結板94の揺動面と平行な面内において揺動可能に支持されている。操作板110の他端には、カムフォロア112が装着されており、このカムフォロア112は図示しないアクチュエータ(たとえばアイリスモータ等)によって操作される操作部材130に形成されたカム溝131に嵌合している。そして、操作板110は、操作部材96の移動によるカム溝131の変位に従って、第1遊星ギア93Aまたは第2遊星ギア93Bに対して離接するように揺動操作されるようになっている。
【0058】
操作板110と、第1連結板94Aおよび第2連結板94Bとは、それぞれ押圧スプリング120(第1スプリング120A,第2スプリング120B)によって連結されている。
これらコイルスプリング120(第1スプリング120A,第2スプリング120B)は、操作板110が第1駆動側ギア91Aと第2駆動側ギア91Bの中間(第1駆動側ギア91Aと第2駆動側ギア91Bの中心を結ぶ線分の中央と直交する線上)に位置した中立状態では、第1遊星ギア93Aと第2遊星ギア93Bのどちらも第1駆動側ギア91A,第2駆動側ギア91Bおよび第1出力側ギア92A,第2出力側ギア92Bと噛合せず、操作板110が何れかの側に揺動操作されると、第1遊星ギア93Aまたは第2遊星ギア93Bを作用位置に押圧付勢するように設定されている。
図8(a)は、第1遊星ギア93Aが作用位置にあって、その大径ギア93aが第1駆動側ギア91Aと噛合すると共に小径ギア93bが第1出力側ギア92Aと噛合している状態(第1状態)を示している。他方の第2遊星ギア93Bは退避位置にある。
【0059】
上記構成の操作機構100は、操作板110の揺動操作によって、第1駆動側ギア91Aと第1出力側ギア92Aとが第1遊星ギア93Aによって連繋された第1状態と、第2駆動側ギア91Bと第2出力側ギア92Bとが第2遊星ギア93Bによって連繋された第2状態と、第1駆動側ギア91Aおよび第2駆動側ギア91Bと第1出力側ギア92Aおよび第2出力側ギア92Bの双方が連繋されていない中立の第3状態と、の三種類の態様を採ることができる。
【0060】
第1状態では、第1駆動側ギア91Aの回転力が第1遊星ギア93Aを介して伝達されて第1出力側ギア92Aが回転する。第2状態では、第2駆動側ギア91Bの回転力が第2遊星ギア93Bを介して伝達されて第2出力側ギア92Bが回転する。
前述したように、第1駆動側ギア91Aと第2駆動側ギア91Bとは互いに逆向きに回転し、従って、第1状態における第1出力側ギア92Aの回転方向と、第2状態における第2出力側ギア92Bの回転方向とは逆向きとなる。
【0061】
第3状態では、第1駆動側ギア91Aおよび第2駆動側ギア91Bの回転力は、第1出力側ギア92Aおよび第2出力側ギア92Bのどちらにも伝達されない。
上記のような操作機構100は、前述した第1実施形態における減速機構50の第1クラッチ52Cおよび第2クラッチ53Cに換えて、また、第2実施形態における減速機構80の第1クラッチ81Bcおよび第2クラッチ82Bcに換えて適用することができる。
【0062】
以上、本第3実施形態によると、以下の効果を有する。
本第3実施形態における減速機構90における操作機構100では、一つの操作板110の揺動操作によって、第1出力側ギア92Aの回転と、第2出力側ギア92Bの回転と、双方が回転しない中立状態と、を切り替えることができ、切替制御を簡略化できる。
【0063】
(変形形態)
以上、説明した実施形態に限定されることなく、以下に示すような種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の範囲内である。
(1)上記実施形態は、本発明をカメラ本体10とレンズ鏡筒20と、によって構成されたいわゆるデジタル一眼レフカメラに適用したものである。しかし、本発明はこれに限らず、レンズ一体型のカメラに適用しても良く、適宜変更可能なものである。
【0064】
(2)上記実施形態では、振動アクチュエータとして超音波モータ40を例に挙げて説明したが、これに限らず、たとえば、超音波領域以外の振動を利用する振動アクチュエータとしてもよい。
【0065】
(3)上記実施形態においては、超音波モータ40が、カメラ1の焦点調節の駆動源として用いられる例を示したが、これに限らず、たとえば、カメラのズーム動作の駆動源や、カメラの撮像系の一部を駆動して手振れを補正する手振れ補正機構の駆動源等に適用することができる。
なお、実施形態及び変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。また、本発明は以上説明した実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0066】
1:カメラ、20:レンズ鏡筒、23:レンズ群、25:カム筒、30:制御装置、40:超音波モータ、50:減速機構、51:減速ギア部、52:第1出力軸、52C:第1クラッチ、53:第2出力軸、53C:第2クラッチ、55:リングギア、60:レンズマイコン、80:減速機構、81:第1減速ギア列、81Bc:クラッチ、82:第2減速ギア列、82Bc:クラッチ、90:減速機構、91:駆動側ギア、91A:第1駆動側ギア、91B:第2駆動側ギア、92:出力側ギア、92A:第1出力側ギア、92B:第2出力側ギア、93:遊星ギア、93A:第1遊星ギア、93B:第2遊星ギア、100:操作機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転力を出力する振動アクチュエータと、
移動可能に設けられた光学素子と、
回転して前記光学素子を移動駆動する少なくとも二つの駆動軸と、
前記振動アクチュエータと前記各駆動軸とを前記振動アクチュエータの回転によって前記各駆動軸がそれぞれ異なる方向に回転するように連繋する駆動力伝達機構と、
前記振動アクチュエータから前記各駆動軸への駆動力の伝達をそれぞれ断続可能として前記駆動力伝達機構に設けられた断続手段と、を備え、
前記振動アクチュエータの回転出力は一方方向のままで前記断続手段の操作によって前記光学素子の移動方向を切替え可能に構成されていること、を特徴とする振動アクチュエータを有する光学機器。
【請求項2】
請求項1に記載の振動アクチュエータを有する光学機器であって、
前記光学素子を通った被写体像光を撮像する撮像素子と、
前記撮像素子により撮像された被写体像から焦点状態を検出する検出部と、を備え、
前記検出部によって検出された焦点状態の検出結果により、前記断続手段を制御すること、を特徴とする振動アクチュエータを有する光学機器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の振動アクチュエータを有する光学機器であって、
前記断続手段は、前記駆動力伝達機構または前記各駆動軸にそれぞれ駆動力の伝達を断続可能に介設されたクラッチ機構であること、を特徴とする振動アクチュエータを有する光学機器。
【請求項4】
請求項1または2に記載の振動アクチュエータを有する光学機器であって、
前記駆動力伝達機構は、
前記振動アクチュエータによって回転駆動される駆動側ギアと、
前記各駆動軸とそれぞれ連繋する各出力側ギアと、を備え、
前記断続手段は、前記駆動側ギアと前記各出力側ギアとに駆動力を伝達可能に噛合する作用位置と、噛合しない退避位置との間で移動可能に設けられた遊星ギアを備えること、を特徴とする振動アクチュエータを有する光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−3337(P2013−3337A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134103(P2011−134103)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】