説明

振動センサおよび振動検出方法

【課題】 被検出対象において生じる振動の周波数に合わせて振動センサを調整する必要がなく、広い周波数範囲での振動検出が可能である振動センサおよび振動検出方法を実現する。
【解決手段】 振動センサ1は、振動部20の厚さを各振動検出素子10毎に異ならせることにより共振周波数を異ならせた複数の振動検出素子10を備えているため、周波数が異なる複数の振動を検出することができる。これにより、広い周波数範囲の振動を検出することができるので、エンジン50の種類毎にノッキング振動の周波数に合わせて振動センサ1を調整する必要がない。また、ノッキング振動と異なる周波数の振動を検出することが可能である。また、各振動部20及び各伝達部11aは、1つの半導体基板15に形成されているため、振動センサ1を小型化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、振動を発生する物体に配置され、この物体において生じた振動を検出する振動センサおよび振動検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の振動センサとして、自動車(車両)に搭載されたもの、例えば、エンジンのシリンダブロックに装着され、ノッキングが生じたときに発生するノッキング振動を検出するためにノックセンサとして用いられる振動センサが知られている。
従来の振動センサとして、例えば、特許文献1には、台座に配設されるシリコン半導体基板と、シリコン半導体基板に一体的に形成されており、ノッキング振動に対応して変位する変位部と、変位部に設けられ、ノッキング振動により変位部が共振振動するよう調整されたおもり部を備えた振動センサが開示されている。
この振動センサは、エンジンに発生するノッキング振動により振動部が共振振動することによりノッキングの発生を検出する構成とされている。したがって、振動部の固有振動数がノッキング振動の周波数と対応するように、変位部及びおもり部の大きさが調整されている。
【特許文献1】特開平9−126876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、この従来の振動センサによれば、エンジンの種類毎にノッキング時の振動周波数に合わせておもり部の大きさを調整する必要があり、エンジンの種類に応じたおもり部が必要になるので、量産性及び汎用性が悪いという問題があった。
また、設定された周波数近傍の狭い範囲の振動しか検出できないため、ノッキング以外の事象に起因する振動の検出及びノイズとの分離が困難であるという問題があった。
【0004】
そこで、この発明は、被検出対象において生じる振動の周波数に合わせて振動センサを調整する必要がなく、広い周波数範囲での振動検出が可能である振動センサおよび振動検出方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、振動センサにおいて、振動を発生する物体と非接触に配置された膜状の振動部と、この振動部の両端と前記物体とを接続し、前記物体に発生した振動を前記振動部に伝達する伝達部と、前記振動部の振動面に配置され、前記振動部の振動を電気信号として出力する振動検出部と、を有する振動検出素子を複数備え、前記振動部の共振周波数を各振動検出素子毎に異ならせた、という技術的手段を用いる。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、本発明の振動センサは、振動部の共振周波数を異ならせた複数の振動検出素子を備えているため、周波数が異なる複数の振動を検出することができる。
これにより、広い周波数範囲での振動検出が可能であるので、被検出対象において生じる振動の周波数に合わせて振動センサを調整する必要がない。また、予め推定された事象以外の事象の振動も検出することができる。
また、振動を発生する物体と非接触に配置された膜状の振動部が共振することにより振動を検出するため、振動検出部により出力される電気信号の信号強度を強くすることができるので、振動の検出感度がよい振動センサを実現することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の振動センサにおいて、前記各振動検出素子に備えられた前記各振動部は、半導体基板に薄肉形成され、前記振動検出部は、圧電体薄膜と、この圧電体薄膜を挟んで形成された電極と、を備えた、という技術的手段を用いる。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、各振動部は、半導体基板に薄肉形成されているため、振動時の変位を大きくすることができるので、振動センサの感度を向上させることができる。また、振動検出部は、圧電体薄膜と、この圧電体薄膜を挟んで形成された電極と、を備えているため、共振周波数が先鋭であり、振動の検出感度が高いので、振動センサの感度を向上させることができる。更に、半導体基板を使用して、MEMS技術を利用して製造することができるので、振動センサを小型化することができ、また、安価に製造することができる。
【0009】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の振動センサにおいて、前記各振動検出素子に備えられた前記各振動部及び前記各伝達部は、1つの半導体基板に形成されている、という技術的手段を用いる。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、各振動部及び各伝達部は、1つの半導体基板に形成されているため、振動センサを小型化することができる。これにより、例えば、振動センサを車両のエンジンに取り付けてノックセンサとして用いる場合に、取付位置を自由に設定することができるため、ノッキング振動の検出に適した位置に振動センサを取り付けることが可能となるので、振動センサの感度を向上させることができる。
【0011】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の振動センサにおいて、前記振動部の厚さを各振動検出素子毎に異ならせることにより、前記振動部の共振周波数を各振動検出子毎に異ならせた、という技術的手段を用いる。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、振動部の厚さを各振動検出素子毎に異ならせるという簡単な構造により、共振周波数を変えることができるので、各振動検出素子毎に正確な共振周波数の設定が可能である。また、構造が簡単なのでコスト的にも有利である。
【0013】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の振動センサにおいて、前記物体は、車両に備えられた内燃機関である、という技術的手段を用いる。
【0014】
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載の振動センサにおいて、前記内燃機関においてノッキング現象が発生したときに生じるノッキング振動の周波数が、前記各振動検出素子が有する複数の共振周波数の1つと一致するように構成されている、という技術的手段を用いる。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、振動センサを用いて、車両に備えられた内燃機関に発生する振動を検出することができる。
特に、請求項6に記載の発明によれば、ノッキング振動の周波数が、各振動検出素子が有する複数の共振周波数の1つと一致するように構成されているため、ノッキング振動を検出することができるので、振動センサをノックセンサとして用いることができる。
【0016】
請求項7に記載の発明では、振動検出方法において、振動を発生する物体と非接触に配置され、共振周波数が可変である振動部と、この振動部の両端と前記物体とを接続し、前記物体に発生した振動を前記振動部に伝達する伝達部と、前記振動部に備えられ、前記振動部の振動を検出し、電気信号として出力する振動検出部と、を有する振動検出素子を備えた振動センサを用いて、前記振動部の共振周波数を所定の範囲内で周期的に変化させることにより、前記物体において生じる振動の周波数が、前記所定の範囲内で周期的に変化させた共振周波数と一致した場合に、前記振動部が共振する、という技術的手段を用いる。
【0017】
請求項7に記載の発明によれば、共振周波数が可変である振動部を有する振動検出素子を備えた振動センサを用いて、振動部の共振周波数を所定の範囲内で周期的に変化させることにより、物体において生じる振動の周波数が、所定の範囲内で周期的に変化させた共振周波数と一致した場合に、振動部が共振する。
これにより、1つの振動検出素子で広い周波数範囲での振動検出が可能であるので、被検出対象において生じる振動の周波数に合わせて振動センサを調整する必要がない。また、予め推定された事象以外の事象の振動も検出することができる。
更に、検出する共振周波数の数に応じて振動検出素子を用意する必要がないので、使用する振動センサを小型化することができる。
これにより、例えば、振動センサを車両のエンジンに取り付けてノックセンサとして用いる場合に、取付位置を自由に設定することができるため、ノッキング振動の検出に適した位置に振動センサを取り付けることが可能となるので、振動の検出感度を向上させることができる。
【0018】
請求項8に記載の発明では、請求項7に記載の振動検出方法において、前記振動部は、所定の間隔で対向配置された1組の電極を備え、前記振動部の振動を前記1組の電極間の静電容量の変化により検出する容量式振動検出部と、前記1組の電極の撓みを制御する撓み制御手段とを備えており、前記撓み制御手段により前記1組の電極のうち少なくとも一方の電極の撓みを変化させることにより、前記振動部の共振周波数を変化させる、という技術的手段を用いる。
【0019】
請求項8に記載の発明によれば、容量式振動検出部が備えた1組の電極の撓みを制御する撓み制御手段により少なくとも一方の電極の撓みを変化させることにより、振動部の共振周波数を変化させることができるので、電極の撓みに応じて、自由に共振周波数を変化させることができる。また、振動検出素子1つあたりの共振周波数の変化の自由度を増大させることができる。
【0020】
請求項9に記載の発明では、請求項7または請求項8に記載の振動検出方法において、複数の前記振動検出素子を備えた前記振動センサにおいて、少なくとも2以上の前記振動部の共振周波数が、常に異なるように制御する、という技術的手段を用いる。
【0021】
請求項9に記載の発明によれば、複数の振動検出素子を備えた振動センサにおいて、少なくとも2以上の振動部の共振周波数が、常に異なるように制御するため、常に異なる共振周波数を有する振動検出素子が存在し、振動を検出することになるので、広い周波数範囲で振動検出が可能であり、振動の検出感度を向上させることができる。
【0022】
請求項10に記載の発明では、請求項7ないし請求項9のいずれか1つに記載の振動検出方法において、前記物体は、車両に備えられた内燃機関である、という技術的手段を用いる。
【0023】
請求項11に記載の発明では、請求項10に記載の振動検出方法において、前記所定の範囲を、前記内燃機関においてノッキング現象が発生したときに生じるノッキング振動の周波数を含む範囲に設定する、という技術的手段を用いる。
【0024】
請求項10に記載の発明によれば、本振動検出方法を用いて、車両に備えられた内燃機関に発生する振動を検出することができる。
特に、請求項11に記載の発明によれば、振動部の共振周波数を周期的に変化させる所定の範囲を、内燃機関においてノッキング現象が発生したときに生じるノッキング振動の周波数を含む範囲に設定するため、ノッキング振動を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
〈第1実施形態〉
この発明に係る振動センサの第1実施形態について、図を参照して説明する。ここでは、振動センサを車両のエンジンボックスに装着し、ノッキング振動などを検出する振動センサとして使用する場合を例に説明する。
図1は、振動センサの振動検出素子の説明図である。図1(A)は、振動検出素子の平面説明図であり、図1(B)は、図1(A)のA−A矢視断面図である。図2は、車両のエンジンに装着された振動センサの断面説明図である。図3は、第1実施形態に係る振動センサの変更例を示す
なお、各図では、説明のために一部を拡大して示している。
【0026】
(振動検出素子の構造)
最初に、振動センサに備えられた振動検出素子の構造について説明する。
図1(A)及び(B)に示すように、振動検出素子10は、SOI(Silicon On Insulator)構造の四角形状の半導体基板15を用いて形成されている。半導体基板15は、シリコンからなる基材11の上面に、第1絶縁膜12、シリコン活性層13、第2絶縁膜14がこの順番で積層されて形成されている。
基材11の中央部の一部は、MEMS技術により、四角形状に除去されている。これにより、中央部が四角柱にくり抜かれた枠状の伝達部11aと薄膜状の梁部11bとが基材11に形成され、梁部11b、第1絶縁膜12、シリコン活性層13及び第2絶縁膜14が積層された部分のうち、伝達部11aに形成された枠状の開口部に対応した部分に振動部20が薄肉形成される。
ここで、伝達部11aは、後述するように、振動部20の両端と振動を発生する物体とを接続し、当該物体に発生した振動を振動部20に伝達する。
【0027】
第2絶縁膜14上には、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体薄膜16を下面電極17及び上面電極18で挟んで形成された圧電式の振動検出部19が設けられている。
ここで、圧電体薄膜16としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)以外にも、酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)、タンタル酸リチウム(LT)や有機膜のポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオドトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン共重合体などを用いることができる。
【0028】
振動部20は、所定の共振周波数を有しており、ノッキングなどの事象に起因してエンジンで生じる振動を受信し、共振する。この共振により生じる振動部20の変位を振動検出部19により電圧信号に変換して出力し、振動を検出する。
このように、MEMS技術を利用して作製された振動検出素子10は、薄肉形成された振動部20が、伝達部11aにより支持されているため、振動部20の変位を大きくすることができ、振動の検出感度を高めることができる。
【0029】
振動検出素子10の共振周波数は、振動部20の厚さを変えることにより変えることができる。基材11の厚さを一定にして、梁部11bの厚さを変えた場合、梁部11bの厚さが厚いほど、振動検出素子10の共振周波数は高くなる。つまり、振動検出素子10の共振周波数は、梁部11bの厚さにより制御可能であり、梁部11bの厚さを変えることにより、所定の共振周波数を有する振動検出素子10を作製することができる。
【0030】
(振動センサの構造)
図2に示すように、本実施形態の振動センサ1では、図中横方向に3個、図示しない奥行き方向に3個ずつ並べて配置されている計9個の振動検出素子10がアレイ状に一体的に形成され、1つの半導体基板15に形成されている。
振動検出素子10a〜10cは、中空状の収容部材80に収容され、伝達部11aにおいて内壁部50aに取り付けられている。つまり、振動部20が収容部材80に非接触になるように配置されている。収容部材80は、内壁部50aの裏面が接するようにエンジン50に装着されている。
振動検出素子10a〜10cは、この順に梁部11bが厚く形成されている。つまり、振動部20の厚さを異ならせることにより、振動部20の共振周波数を振動検出素子10a〜10c毎に異ならせており、この順に共振周波数が高くなるように構成されている。例えば、振動検出素子10bの振動部20の共振周波数が、ノッキング振動の周波数と一致するように構成されている。
ここで、振動検出素子10a〜10c及び図示しない振動検出素子の共振周波数は、ノッキング振動の周波数を含む数kHzから数MHzの広い周波数範囲に設定することが好ましい。これにより、広い周波数範囲において振動検出が可能であるので、エンジン50の種類毎にノッキング振動の周波数に合わせて振動センサ1を調整する必要がない。また、広い周波数範囲の振動を検出することができるので、ノッキング振動と異なる周波数の振動を検出することが可能である。
なお、振動検出素子10の数は例示であり、9個に限らない。配置についても、横方向と奥行き方向に3個ずつに限らない。
また、振動検出素子10は、個別に形成されたチップを貼り合わせてアレイ状に形成してもよい。
【0031】
各振動検出素子10は、同一基材11上に形成された回路素子21に電気的に接続されている。回路素子21は、振動検出部19(図2)から出力される電気信号が入力されて、入力された電圧信号に基づいて演算処理を行い、電気的に接続されているECUに対して振動信号として出力する。
なお、回路素子21は、各振動検出素子10と別個に設けてもよい。
【0032】
(振動の伝達)
エンジンにおいてノッキングによる振動が生じると、エンジン50から収容部材80に振動が伝達される。収容部材80に伝達された振動は、各伝達部11aを介して各振動検出素子10a〜10cに伝達され、当該振動の周波数で共振することができる振動部20のみが共振する。例えば、ノッキング振動では、振動検出素子10bの振動部20のみが共振し、他の振動検出素子10a、10cの振動部20は共振しない。これにより、伝達された振動の周波数を検出することができる。このとき、振動検出素子10a、10cからの出力をノイズ成分として、振動検出素子10bからの出力から除くことで、振動の検出精度を高めることができる。
【0033】
(変更例)
振動検出素子10は、上記の形状に限定されるものではなく、例えば、図3に示すように、振動検出素子10の基材11に伝達部11aが形成されておらず、梁部11bのみ形成されている構成を用いてもよい。この構成を用いる場合、収容部材80の振動部20に対応する位置にそれぞれ中空部80aを形成する。これにより、振動部20が両端部を保持された状態になるため、伝達部11aが形成されている振動検出素子10を用いた場合と同様の効果を奏することができる。
【0034】
振動検出素子10として、振動部20に圧電式の振動検出部19を備えた構成を示したが、振動部に、所定の間隔で対向配置された1組の電極を備え、振動部の振動を当該1組の電極間の静電容量の変化により検出する容量式振動検出部を備えた構成としてもよい。
【0035】
[第1実施形態の効果]
(1)本実施形態の振動センサ1は、振動部20の厚さを各振動検出素子10毎に異ならせることにより共振周波数を異ならせた複数の振動検出素子10を備えているため、周波数が異なる複数の振動を検出することができる。
これにより、広い周波数範囲の振動を検出することができるので、エンジン50の種類毎にノッキング振動の周波数に合わせて振動センサ1を調整する必要がない。また、ノッキング振動と異なる周波数の振動を検出することが可能である。
振動部20の厚さを変えるという簡単な構造により、共振周波数を変えることができるので、各振動検出素子10毎に正確な共振周波数の設定が可能である。また、構造が簡単なのでコスト的にも有利である。
【0036】
(2)各振動部20は、半導体基板15に薄肉形成されており、ノッキング振動などにより共振することにより振動を検出するため、振動検出部19により出力される電気信号の信号強度を強くすることができるので、振動センサ1の感度を向上させることができる。また、振動検出部19は、圧電体薄膜16と、この圧電体薄膜16を挟んで形成された下面電極17及び上面電極18と、を備えているため、共振周波数が先鋭であり、振動の検出感度が高いので、振動センサ1の感度を向上させることができる。
【0037】
(3)各振動部20及び各伝達部11aは、1つの半導体基板15に形成されているため、振動センサ1を小型化することができる。これにより、例えば、振動センサ1を車両のエンジン50に取り付けてノックセンサとして用いる場合に、取付位置を自由に設定することができるため、ノッキング振動の検出に適した位置に振動センサ1を取り付けることが可能となるので、振動センサ1の感度を向上させることができる。
【0038】
〈第2実施形態〉
この発明に係る振動検出方法の実施形態について、図を参照して説明する。図4は、第2実施形態に係る振動検出方法で用いる振動センサにおける振動検出素子の断面説明図である。図5は、第2実施形態に係る振動検出方法で用いる振動センサの断面説明図である。図5(A)は、振動センサの断面説明図であり、図5(B)は、共振周波数の制御パターンを示す説明図である。図6は、第2実施形態に係る振動検出方法で用いる振動センサの変更例の説明図である。図6(A)は、振動センサの断面説明図であり、図6(B)及び(C)は、共振周波数の制御パターンを示す説明図である。
なお、第1実施形態と同様の構成については、同じ符号を使用するとともに説明を省略する。
【0039】
(振動検出素子の構造)
第2実施形態の振動センサ2に備えられた振動検出素子30の構造について説明する。第1実施形態の振動センサ1に備えられた振動検出素子10が、圧電体薄膜16が形成された振動検出部19を用いて振動を検出する圧電式であるのに対し、振動検出素子30は、静電容量の変化として振動を検出する容量式である点で異なっている。
【0040】
図4に示すように、基材11の中央部は四角柱にくり抜かれており、枠状の伝達部11aが形成される。第1絶縁膜12は、伝達部11aの上面に形成されており、伝達部11aの上面の開口部には、第1絶縁膜12を介してPoly−Siなどの導電性材料により第1電極31が四角形の薄膜状に形成されている。この第1電極31に対向して、所定の間隔のギャップGを有するように、第2電極32が配置されている。第2電極32には、振動による空気のダンピングの影響を避けるため、孔部32aが貫通形成されている。この1組の電極(第1電極31及び第2電極32)は、後述する振動部40の振動を電極間の静電容量の変化により検出する容量式振動検出部として作用する。
【0041】
第1電極31と第2電極32との間には、第1電極31側から順に、第2絶縁膜14、第1ギャップ制御電極33、第3絶縁膜34、第2ギャップ制御電極35及び第4絶縁膜36がそれぞれ枠状に形成されて積層されており、第1電極31及び第2電極32とともに振動部40を形成している。
第1ギャップ制御電極33及び第2ギャップ制御電極35は、静電引力により第1電極31と第2電極32とのギャップGを変化させることにより、第1電極31及び第2電極32の撓みを制御するための電極である。
第1ギャップ制御電極33と第2ギャップ制御電極35との間に静電引力を発生させるため、第3絶縁膜34は、第1ギャップ制御電極33及び第2ギャップ制御電極35の全面を覆っておらず、第1ギャップ制御電極33及び第2ギャップ制御電極35の外周側に形成されており、第1ギャップ制御電極33と第2ギャップ制御電極35とが空間を介して対向するように配置されている。
【0042】
(共振周波数の制御)
第1電極31及び第2電極32の撓みを制御することにより、振動部40の共振周波数を制御することができる。
第1ギャップ制御電極33と第2ギャップ制御電極35との間に電圧を印加すると、第1ギャップ制御電極33と第2ギャップ制御電極35とが静電気力で引き合うことにより、第1電極31と第2電極32とが撓んでギャップGを狭くなる。これにより、第1電極31及び第2電極32に撓み応力が発生し、見かけ上の剛性が大きくなるために、共振周波数が上昇する。つまり、第1ギャップ制御電極33及び第2ギャップ制御電極35は、第1電極31及び第2電極32の撓みを制御する撓み制御手段として作用し、第1電極31及び第2電極32の撓みを変化させることにより、振動部40の共振周波数を変化させることができる。
なお、第1電極31、または、第2電極32のうち、少なくとも一方の撓みを変化させる構成を用いてもよい。
【0043】
(振動センサの構造)
図5(A)に示すように、本実施形態の振動センサ2では、振動検出素子30は、収容部材80に収容され、伝達部11aにおいて内壁部50aに取り付けられている。
振動検出素子30は、同一基材11上に形成された回路素子21に電気的に接続されている。回路素子21は、振動部40から出力される電圧信号が入力されて、入力された電圧信号に基づいて演算処理を行い、電気的に接続されているECUに対して振動信号として出力する。また、第1ギャップ制御電極33と第2ギャップ制御電極35との間に印加する電圧を変化させ、第1電極と第2電極とのギャップGを制御することにより、振動部40の共振周波数を所定の制御パターンに基づいて変化させる。
【0044】
(振動の検出)
エンジン50においてノッキング振動が生じると、第1実施形態の振動センサ1と同様の経路で、振動が振動検出素子30に伝達される。振動検出素子30に振動が伝達され、振動部40が振動すると、当該振動の周波数で第1電極31と第2電極32との間のギャップGが変化し、第1電極31と第2電極32とによって構成されるコンデンサの静電容量が変化することにより、振動を検出することができる。
【0045】
ここで、振動検出素子30の共振周波数を所定の変動範囲内で周期的に変化させると、ノッキング振動の周波数が、所定の変動範囲内で周期的に変化させた共振周波数と一致した場合に、振動部40が共振する。振動部40が共振すると、振幅が増大してギャップGの変化が大きくなり、静電容量の変化が増大するので、振動センサ2による振動の検出感度を向上させることができる。
例えば、図5(B)に示すように、所定の時間間隔でギャップGを階段状に変化させることにより、共振周波数を階段状に変化させることができる。周波数の変動範囲は、第1実施形態と同様に、ノッキング振動の周波数を含む数kHzから数MHzの広い周波数範囲に設定することが好ましい。これにより、広い周波数範囲において振動検出が可能であるので、エンジン50の種類毎にノッキング振動の周波数に合わせて振動センサ2を調整する必要がない。また、広い周波数範囲の振動を検出することができるので、ノッキング振動と異なる周波数の振動を検出することが可能である。
更に、検出する共振周波数の数に応じて振動検出素子30を用意する必要がないので、使用する振動センサ2を小型化することができる。
【0046】
(変更例)
振動センサ2では、複数個の振動検出素子30を用いてもよい。図6(A)に、3個の振動検出素子30を並べて配置した構成を示す。この構成を使用する場合、例えば、図6(B)に示すように、振動検出素子30aの共振周波数を制御パターンA1、振動検出素子30bの共振周波数を制御パターンB1、振動検出素子30cの共振周波数を制御パターンC1によりそれぞれ制御し、共振周波数の制御パターンを時間に対してずらすことにより、少なくとも2以上の振動部40の共振周波数が、常に異なるように制御することができる。これにより、常に異なる共振周波数を有する振動検出素子30が存在するので、広い周波数範囲で振動検出が可能であり、振動の検出感度を向上させることができる。
【0047】
また、図6(C)に示すように、共振周波数の制御パターンの各ステップにおける保持時間を変えてもよい。例えば、制御パターンA2、B2、C2の順に保持時間を長くすることにより、共振周波数の制御パターンの周期をずらすことができるので、少なくとも2以上の振動部40の共振周波数が、常に異なるように制御することができる。
【0048】
更に、各振動検出素子30でそれぞれ異なる変動範囲で周波数を変化させる構成を用いることもできる。
この構成を用いた場合も、少なくとも2以上の振動部40の共振周波数が、常に異なるように制御することができるとともに、共振周波数の変動範囲を広く設定することができる。この場合、各振動検出素子30は同じ構成の素子を用いる必要はなく、例えば、第1電極、第2電極の厚さを変えて、各振動検出素子30で変動させる周波数において共振しやすい形状に構成してもよい。
【0049】
[第2実施形態の効果]
(1)共振周波数が可変である振動部40を有する振動検出素子30を備えた振動センサ2を用いて、第1ギャップ制御電極33及び第2ギャップ制御電極35によって、第1電極31及び第2電極32の撓みを変化させることにより、振動部40の共振周波数を所定の範囲内で周期的に変化させることができる。物体において生じる振動の周波数、例えば、ノッキング振動の周波数が、所定の範囲内で周期的に変化させた共振周波数と一致した場合に、振動部40が共振する。
これにより、1つの振動検出素子30で広い周波数範囲での振動検出が可能であるので、エンジン50において生じるノッキング振動の周波数に合わせて振動センサ2を調整する必要がない。また、ノッキング振動以外の事象の振動も検出することができる。
更に、検出する共振周波数の数に応じて振動検出素子30を用意する必要がないので、使用する振動センサ2を小型化することができる。
【0050】
(2)複数の振動検出素子30を備えた振動センサを用いた場合、少なくとも2以上の振動部40の共振周波数が、常に異なるように制御することにより、常に異なる共振周波数を有する振動検出素子30が存在し、振動を検出することになるので、広い周波数範囲で振動検出が可能であり、振動の検出感度を向上させることができる。
【0051】
〈その他の実施形態〉
振動センサとして、車両のエンジン50に装着する振動センサ1,2を例示したが、これに限定されるものではなく、車両以外の機器、例えば、工作機械の可動部の振動検出などに用いることもできる。
【0052】
[各請求項と実施形態との対応関係]
エンジン50が請求項5に記載の内燃機関に、第1電極31及び第2電極32が請求項8に記載の容量式振動検出部に、第1ギャップ制御電極33及び第2ギャップ制御電極35が撓み制御手段にそれぞれ対応する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】振動センサの振動検出素子の説明図である。図1(A)は、振動検出素子の平面説明図であり、図1(B)は、図1(A)のA−A矢視断面図である。
【図2】車両のエンジンに装着された振動センサの断面説明図である
【図3】第1実施形態に係る振動センサの変更例の説明図である。
【図4】第2実施形態に係る振動検出方法で用いる振動センサにおける振動検出素子の断面説明図である。
【図5】第2実施形態に係る振動検出方法で用いる振動センサの断面説明図である。図5(A)は、振動センサの断面説明図であり、図5(B)は、共振周波数の制御パターンを示す説明図である。
【図6】第2実施形態に係る振動検出方法で用いる振動センサの変更例の説明図である。図6(A)は、振動センサの断面説明図であり、図6(B)及び(C)は、共振周波数の制御パターンを示す説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1,2 振動センサ
10,30 振動検出素子
11a 伝達部
15 半導体基板
16 圧電体薄膜
17 下面電極
18 上面電極
19 振動検出部
20,40 振動部
31 第1電極(容量式振動検出部)
32 第2電極(容量式振動検出部)
33 第1ギャップ制御電極(撓み制御手段)
35 第2ギャップ制御電極(撓み制御手段)
50 エンジン(内燃機関)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動を発生する物体と非接触に配置された膜状の振動部と、
この振動部の両端と前記物体とを接続し、前記物体に発生した振動を前記振動部に伝達する伝達部と、
前記振動部の振動面に配置され、前記振動部の振動を電気信号として出力する振動検出部と、を有する振動検出素子を複数備え、
前記振動部の共振周波数を各振動検出素子毎に異ならせたことを特徴とする振動センサ。
【請求項2】
前記各振動検出素子に備えられた前記各振動部は、半導体基板に薄肉形成され、前記振動検出部は、圧電体薄膜と、この圧電体薄膜を挟んで形成された電極と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の振動センサ。
【請求項3】
前記各振動検出素子に備えられた前記各振動部及び前記各伝達部は、1つの半導体基板に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の振動センサ。
【請求項4】
前記振動部の厚さを各振動検出素子毎に異ならせることにより、前記振動部の共振周波数を各振動検出子毎に異ならせたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の振動センサ。
【請求項5】
前記物体は、車両に備えられた内燃機関であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の振動センサ。
【請求項6】
前記内燃機関においてノッキング現象が発生したときに生じるノッキング振動の周波数が、前記各振動検出素子が有する複数の共振周波数の1つと一致するように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の振動センサ。
【請求項7】
振動を発生する物体と非接触に配置され、共振周波数が可変である振動部と、
この振動部の両端と前記物体とを接続し、前記物体に発生した振動を前記振動部に伝達する伝達部と、
前記振動部に備えられ、前記振動部の振動を検出し、電気信号として出力する振動検出部と、を有する振動検出素子を備えた振動センサを用いて、
前記振動部の共振周波数を所定の範囲内で周期的に変化させることにより、前記物体において生じる振動の周波数が、前記所定の範囲内で周期的に変化させた共振周波数と一致した場合に、前記振動部が共振することを特徴とする振動検出方法。
【請求項8】
前記振動部は、所定の間隔で対向配置された1組の電極を備え、前記振動部の振動を前記1組の電極間の静電容量の変化により検出する容量式振動検出部と、前記1組の電極の撓みを制御する撓み制御手段とを備えており、
前記撓み制御手段により前記1組の電極のうち少なくとも一方の電極の撓みを変化させることにより、前記振動部の共振周波数を変化させることを特徴とする請求項7に記載の振動検出方法。
【請求項9】
複数の前記振動検出素子を備えた前記振動センサにおいて、少なくとも2以上の前記振動部の共振周波数が、常に異なるように制御することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の振動検出方法。
【請求項10】
前記物体は、車両に備えられた内燃機関であることを特徴とする請求項7ないし請求項9のいずれか1つに記載の振動検出方法。
【請求項11】
前記所定の範囲を、前記内燃機関においてノッキング現象が発生したときに生じるノッキング振動の周波数を含む範囲に設定することを特徴とする請求項10に記載の振動検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−285960(P2007−285960A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−115459(P2006−115459)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】