説明

振動検出装置及びそれを有する光学機器

【課題】 真の角変位量とは無関係のドリフト成分を低減し、検出精度を高めた振動検出装置を提供すること。
【解決手段】 振動検出手段の出力と、振動検出手段の電源に比例した電圧を別々にAD変換し、それぞれのAD変換結果の差分を真のブレ信号とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撮影機材等の振動を検出する振動検出装置及びそれを有する光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラや交換レンズ等の光学機器には、良好な撮影画像を得るために手ブレ等による像ブレを制御する防振システムが搭載されている。
【0003】
手ブレは、通常1Hzから10Hz程度の周波数を有する振動であり、防振システムはこのようなブレに対して像ブレの無い写真を撮影するため以下のような補正を行っている。まず、光学機器の振動を検出し、検出結果を像ブレを補正するための信号に変換するための演算を行う。その演算結果に応じて補正レンズを光軸直交面内で駆動させたり(光学防振)、撮影映像のうち切り取る領域をシフトさせたりして(電子防振)、像ブレによる光軸変化を制御している。
【0004】
図8は上述したような防振システムにおける各周波数に対する像ブレ補正効果を示した図である。横軸は周波数、縦軸は像ブレ補正のない時を100%とした時、像ブレ補正を行うことによって撮像面の像ブレ残り量がどれだけになるかを示している。通常、ある周波数(例えば5Hz)付近にピークを持ち、それより低周波、高周波になるほど防振効果が落ちるような特性になっている。この特性は主に振動を検出するセンサからの出力を、像ブレを補正するための信号に変換するために用いるフィルタ(例えば積分フィルタ)の特性と、実際にブレを補正する補正系の特性により決まる。より防振効果を高めるには、フィルタ特性を改善する等して低周波、高周波特性を改善する必要がある。特に、人の体のブレなど、「手」に発生させられるブレよりも振幅の大きなブレは、低周波成分の割合が高く、低周波特性の改善は防振効果を高めるために有効である。
【0005】
振動を検出するため、具体的には加速度センサや角速度センサ等を用いて振動を検出し、この検出結果に基づく演算処理により光学機器のブレ情報、すなわち角変位量を求める。
【0006】
ある装置にかかる振動を検出する振動検出手段には、加速度センサや角速度センサなどが用いられる。従来、加速度センサや角速度センサおいては、温度、湿度、電源電圧の変動、電源投入時の初期変動などの各種要因によってセンサ出力がドリフトしてしまうと言う課題があった。これを解決するため、例えば特許文献1においてはセンサ内にドリフト検出部を設け、振動検出部との差分をとることでドリフト成分を除去する方法が開示されている。更に、上述の種々の変動要因を抑えるため、安定性の高い水晶発振子をセンサに用いる等してセンサ自体のドリフトを抑える工夫がなされている。
【特許文献1】特開平4−269622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、センサ自体の工夫だけでは完全に除去することのできないドリフト成分が残存する。更に、上述の加速度センサや角速度センサを使用する場合、角変位量を演算するには必ず積分処理を行わなければならず、上述のように、より検出精度を高めるために積分フィルタの低周波特性を改善すると、ドリフト成分が更に増幅されてしまう。例えば、電源電圧の変動によりμVオーダーのセンサ出力変動が生じても、大きな角変位量として現れてしまう。また、センサ出力をAD変換するためのAD変換器の基準電圧がμVオーダーで変動している場合も、センサ出力をAD変換した結果が変動する要因になり得る。これらを解決するために、電源に高性能なレギュレータを配し、さらに実装上の配線の引き回しを厳重にするなどして対策をすることも可能ではあるが、消費電力の増加やコストアップを伴う。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、光学機器の振動を検出する振動検出手段の出力から、光学機器の真の角変位量とは無関係のドリフト成分を低減し、検出精度を高めた振動検出装置及びそれを有する光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、請求項1に記載のとおり、振動を検出する振動検出手段と、前記振動検出手段に電源を供給する電源供給手段と、前記振動検出手段の出力をアナログで信号処理する信号処理手段と、入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換して出力するAD変換手段と、前記信号処理手段の出力を前記AD変換手段でAD変換した第1の変換信号と、前記電源供給手段から前記振動検出手段に供給される電圧に比例した電圧を前記AD変換手段でAD変換した第2の変換信号との差分を演算する差分演算手段と、を備える振動検出装置である。
【0010】
また、請求項2に記載のとおり、振動を検出する振動検出手段と、前記振動検出手段に電源を供給する電源供給手段と、前記振動検出手段の出力をアナログ的に信号処理する信号処理手段と、入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換して出力するAD変換手段と、前記AD変換手段の出力を積分処理する積分手段と、前記信号処理手段の出力を前記AD変換手段でAD変換した第1の変換信号を、さらに前記積分手段で積分した第1の積分信号と、前記電源供給手段から前記振動検出手段に供給される電圧に比例した電圧を前記AD変換手段でAD変換した第2の変換信号を、さらに前記積分手段で積分した第2の積分信号との差分を演算する差分演算手段と、を備える振動検出装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光学機器の像ブレ補正装置において、振動を検出する振動検出手段の出力から光学機器の真の角変位量とは無関係のドリフト成分を低減し、検出精度を高めた振動検出装置及びそれを有する光学機器を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施例を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は実施例1の振動検出装置を利用した像ブレ補正装置のブロック図である。1は信号系の電源であり、CPU2、レギュレータ3、レギュレータ5に電源を供給している。2は像ブレ補正のための演算を行うCPUである。3は信号系の電源1の電圧を降圧し、ジャイロ4に電源を供給する電源供給手段であるレギュレータ、5はCPU2内のAD変換器のリファレンス電圧を供給するレギュレータである。6はレギュレータ3に供給する電圧をスイッチングするためのスイッチ、7はスイッチ6を制御するためにCPU2内に設けられた電源制御手段である。電源制御手段7は手ブレ補正を行わない時にはスイッチ6をオフとし、余計な電力を消費しないようにしている。8はジャイロ4の出力信号にローパスフィルタと所定のゲインを掛ける信号処理手段である。10はレギュレータ3の出力を分圧するための分圧手段である。9はCPU2内に設けられたAD変換器であり、信号処理手段8の出力をチャンネル1で、分圧手段10により分圧された、ジャイロ4にかかる電圧と比例したレギュレータ3の出力をチャンネル2でAD変換している。11はチャンネル2でAD変換されたレギュレータ3の分圧信号(第2の変換信号)に所定のゲインを掛けるためのゲイン演算手段である。12はAD変換後のチャンネル1の信号(第1の変換信号)と、ゲイン演算手段11の出力の差分を演算するための差分演算手段である。13は差分演算手段12の出力の低周波成分をカットするためのハイパスフィルタ、14はハイパスフィルタの出力を積分するための積分器、15は積分出力を目標位置に変換するための目標位置算出手段である。16は像ブレを補正するためのブレ補正レンズ、17はブレ補正レンズ16の位置を検出するための位置検出手段である。位置検出手段17の出力はAD変換器9でAD変換され、差分演算手段18で目標位置との差分がとられゲイン演算手段19で所定のゲインを乗算され補正レンズ駆動手段20に補正レンズ駆動信号として入力される。尚、ここでは片方の回転軸方向検出軸の信号処理の様子しか図示していないが、もう片方も同様である。また、AD変換器のチャンネルは3チャンネル分しか表示していないが、少なくとももう片方の検出軸をカバーできる分のチャンネルを備えている。
【0014】
図2はジャイロ信号と各レギュレータの影響の関係を角速度領域で表示した図である。(a)は角速度を表しており、ここでは説明のため周波数5Hz、振幅±3deg/sec程度の手ブレ信号を想定している。(b)は図1におけるレギュレータ3の出力電圧の変動がジャイロ信号のAD変換結果に及ぼす影響を表している。同様に(c)はレギュレータ5の出力電圧の変動がジャイロ信号のAD変換結果に及ぼす影響を表している。ジャイロ信号をAD変換すると、純粋な手ブレによる角速度(a)の他に、(b)、(c)の影響を含んだ(d)に表される変換結果となる。尚、ここで全ての波形をサイン波で表示しているのは説明の便宜上であり、実際の波形はその限りではない。
【0015】
図3は図2のそれぞれの信号を積分処理した結果を示している。(a)の積分結果が(a´)、(b)の積分結果が(b´)、(c)の積分結果が(c´)、(d)の積分結果が(d´)、というふうに対応している。低周波で振幅の小さな(b)、(c)が積分されると、その影響がより顕著に現れる様子がわかる。
【0016】
図1の構成において、信号処理手段8の出力をAD変換したチャンネル1の変換結果は、図2で言うところの(d)の信号に相当し、それはすなわち(a)+(b)+(c)である。
【0017】
また、分圧手段10の出力をAD変換したチャンネル2の変換結果に所定のゲインを掛けた、ゲイン演算手段11の出力は、図2で言うところの(b)+(c)に相当する。よって差分演算手段12の出力は(d)−(b)−(c)=(a)となり、各レギュレータの電圧変動を除去した角速度成分となる。
【0018】
以上のように、本実施例では、光学機器の像ブレ補正装置において、振動を検出する振動検出手段の出力から、光学機器の真の角変位量とは無関係のドリフト成分を低減し、検出制度を高めた振動検出装置を提供することが可能である。
【実施例2】
【0019】
実施例2について説明する。図4は実施例2の振動検出装置を利用した像ブレ補正装置のブロック図である。実施例1と同じ役割を担うものには同じ番号がつけてあり、それらについての説明は割愛する。21はAD変換後のチャンネル1の信号の低周波成分をカットするためのハイパスフィルタ、22はハイパスフィルタ21の出力を積分するための積分器である。23はゲイン演算手段11の出力の低周波成分をカットするためのハイパスフィルタ、24はハイパスフィルタ23の出力を積分するための積分器である。25は積分器22の出力(第1の積分信号)と積分器24の出力(第2の積分信号)の差分を演算するための差分演算手段である。
【0020】
図4の構成において、積分手段22の出力は、図4で言うところの(d´)の信号に相当し、それはすなわち(a´)+(b´)+(c´)である。また、積分手段24の出力は、図3で言うところの(b´)+(c´)に相当する。よって差分演算手段25の出力は(d´)−(b´)−(c´)=(a´)となり、各レギュレータの電圧変動を除去した角変位成分となる。
【0021】
以上のように、本実施例では、光学機器の像ブレ補正装置において、振動を検出する振動検出手段の出力から、光学機器の真の角変位量とは無関係のドリフト成分を低減し、検出制度を高めた振動検出装置を提供することが可能である。
【実施例3】
【0022】
実施例3について説明する。図5は実施例3の振動検出装置を利用した像ブレ補正装置のブロック図である。実施例1との違いはジャイロ電源に用いるレギュレータとAD変換器のリファレンス電圧に用いるレギュレータを共通にしたところである。この場合、(利点は?)
本実施例では、信号処理手段8の出力をAD変換したチャンネル1の変換結果は、図2で言うところの(a)+(b)の信号に相当する。また、分圧手段10の出力をAD変換したチャンネル2の変換結果に所定のゲインを掛けた、ゲイン演算手段11の出力は、図2で言うところの(b)に相当する。よって差分演算手段12の出力は(a)+(b)−(b)=(a)となり、レギュレータ26の電圧変動を除去した角速度成分となる。
【0023】
以上のように、本実施例では、光学機器の像ブレ補正装置において、振動を検出する振動検出手段の出力から、光学機器の真の角変位量とは無関係のドリフト成分を低減し、検出制度を高めた振動検出装置を提供することが可能である。また、本実施例の構成では、レギュレータの数が少なくてすむため、他の実施例に比べて低コストである。
【0024】
以上、各実施例について説明したが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではない。例えば、信号処理手段8にハイパスフィルタの機能も持たせ、AD変換前にオフセットを取り除いても良い。
【0025】
また、信号処理手段8はAD変換器の前段のアナログ回路としてCPU内に設けられていても良い。
【0026】
また、AD変換器の検出範囲が十分広ければ分圧手段10を用いずにジャイロ電源電圧を直接AD変換しても良い。
【0027】
また、ジャイロ用の電源にレギュレータを用いず、CPUと同電源を直接ジャイロの電源としても良い。
【0028】
また、ジャイロの代わりに加速度センサを用いても良い。その際加速度を位置信号に変換するためには二階積分を行う必要がある。
【0029】
また、ブレ補正手段は補正レンズを駆動するタイプであっても良いし、撮像素子を駆動するタイプでも良いし、撮影映像のうち切り取る領域をシフトさせる電子防振タイプでも良い。
【0030】
また、ブレ補正手段の制御方法はフィードバック制御であっても良いしオープン制御であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1の像ブレ補正装置のブロック図
【図2】ジャイロ信号と各レギュレータの影響の関係を角速度領域で表示した図
【図3】ジャイロ信号と各レギュレータの影響の関係を角変位領域で表示した図
【図4】実施例2の像ブレ補正装置のブロック図
【図5】実施例3の像ブレ補正装置のブロック図
【図6】各周波数に対する像ブレ補正効果を示した図
【符号の説明】
【0032】
1 信号系の電源
2 像ブレ補正のための演算を行うCPU
3 レギュレータ
4 ジャイロ
5 レギュレータ
6 スイッチ
7 電源制御手段
8 信号処理手段
9 AD変換器
10 分圧手段
11 ゲイン演算手段
12 差分演算手段
13 ハイパスフィルタ
14 積分器
15 目標位置算出手段
16 ブレ補正レンズ
17 位置検出手段
18 差分演算手段
19 ゲイン演算手段
20 補正レンズ駆動手段
21 ハイパスフィルタ
22 積分器
23 ハイパスフィルタ
24 積分器
25 差分演算手段
26 レギュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学機器に加わる振動によって生じる像ブレを補正する像ブレ補正装置に用いる振動検出装置であって、
前記振動を検出する振動検出手段と、
前記振動検出手段に電源を供給する電源供給手段と、
前記振動検出手段の出力をアナログで信号処理する信号処理手段と、
AD変換手段と、
前記信号処理手段の出力を前記AD変換手段でAD変換した第1の変換信号と、前記電源供給手段から前記振動検出手段に供給される電圧に比例した電圧を前記AD変換手段でAD変換した第2の変換信号との差分を演算する差分演算手段と、を備えることを特徴とする振動検出装置。
【請求項2】
光学機器に加わる振動によって生じる像ブレを補正する像ブレ補正装置に用いる振動検出装置であって、
前記振動を検出する振動検出手段と、
前記振動検出手段に電源を供給する電源供給手段と、
前記振動検出手段の出力をアナログで信号処理する信号処理手段と、
AD変換手段と、
前記AD変換手段の出力を積分処理する積分手段と、
前記信号処理手段の出力を前記AD変換手段でAD変換した第1の変換信号を、さらに前記積分手段で積分した第1の積分信号と、前記電源供給手段から前記振動検出手段に供給される電圧に比例した電圧を前記AD変換手段でAD変換した第2の変換信号を、さらに前記積分手段で積分した第2の積分信号との差分を演算する差分演算手段と、
を備えることを特徴とする振動検出装置。
【請求項3】
前記電源供給手段は、前記AD変換手段にリファレンス電圧を供給することを特徴とする請求項1または2に記載の振動検出装置。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の振動検出装置を有する光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−145833(P2010−145833A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324171(P2008−324171)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】