振動騒音吸収構造を有するタイヤおよびその製造方法
【課題】路面走行中のタイヤが受ける変形により、タイヤに発生する振動や音は、乗り心地性能を損なう問題である。しかし従来のタイヤにおいて、タイヤトレッド部を振動しにくくするため、マスダンパーとなる構造や装置を配置し、その制振効果を高くすると、その分タイヤの運動性能の悪化が現れるという問題がある。また、タイヤ内の吸音部材においては高速走行時などに効果をあらわすことが難しかった。以上より安全かつ効果的にタイヤのロードノイズを低減し、自動車の乗り心地性能を向上させることを課題とする。
【解決手段】 上記課題を解決するために、本発明はダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層からなる薄層構造部を有するタイヤを提案する。
【解決手段】 上記課題を解決するために、本発明はダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層からなる薄層構造部を有するタイヤを提案する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の騒音を低減し、乗り心地性能を高めるための振動騒音吸収構造を有するタイヤおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のタイヤは地面に接触するときに大きな音を発生する。一部の自動車において、時速40km/hを超えると、タイヤ騒音は自動車の他のすべての騒音源の音よりも大きくなる可能性がある。このような騒音は自動車の乗り心地を大きく損なうため、自動車およびタイヤの製造者はタイヤ騒音を低減するための研究開発に取り組んでいる。
【0003】
タイヤ騒音は様々な原因から生じる。従来のタイヤの断面概念図である図1を利用しながら説明する。例えば、(1)タイヤと地面の接触によって、タイヤの変形による振動がタイヤから車体までの構造体を加振する際に発生する低周波音や、(2)タイヤと地面の接触によって、タイヤの変形による振動が「空気室」11(タイヤおよびタイヤが取り付けられている「ホイール」12によって形成される部分)を加振する際に発生する低周波音や、(3)「トレッド」13(タイヤが地面と接触する部分)の溝と地面との間で一時的に圧縮したり膨張したりする空気によって発生する帯域幅の広い音や、(4)タイヤと地面の接触がすべることによって発生する高周波音などである。
【0004】
(1)および(2)による騒音は総じてロードノイズと呼ばれる。(1)はドローンノイズとも呼ばれ、タイヤの素材そのものが加振され、それがホイール12、シャフト、サスペンションを通じて車室に伝わって生じる騒音で、一般的に高速走行時や、粗い路面走行時に生じる「ゴー」という60Hzから200Hz近辺のピークをもつことを特徴とする。(2)の騒音は空気室内において共鳴を起こして空洞共鳴音と呼ばれる200Hzから250Hzのピークを持つことを特徴とする、高速道路等で継ぎ目を通過した際に、「パカン」となる残響感のある音のことである。空洞共鳴音は、タイヤの円周長によってピークの周波数が異なるため、空気室の湾曲導波管構造に起因するものとも考えられる。これはタイヤの幅が変わってもその周波数が変わらないことからも推測され、タイヤの平均円周長を1波長とする周波数の騒音が空洞共鳴音のピークとなっていると考えられている。タイヤと地面の接触によるタイヤの変形は、まずトレッド13の接触面からはじまり、「サイドウォール」14(タイヤの側面部分)を変形し、振動させ、その後ホイール12や、タイヤ内部の空気室11に伝達される。
【0005】
(3)による騒音はパターンノイズと呼ばれる。当該騒音は、トレッド13の溝に起因するものであるが、トレッド13の溝はタイヤと地面の間の排水を担っているため、構造上避けることができないものである。なお、当該騒音を緩和するために、溝の間隔をずらしながら配置することが行われている。
【0006】
(4)による騒音はスキールノイズと呼ばれる。当該騒音は、急発進や急ブレーキ、急旋回などの運転方法によって生じるものである。
【0007】
ロードノイズであるタイヤの加振に起因するタイヤ自体の振動音とタイヤ内部の空気室11の空洞共鳴音は、タイヤ騒音の全体量の相当部分にあたる。また、ロードノイズのピークの倍音成分は高周波に至るまで存在するので、これらの高周波の騒音によっても乗り心地が損なわれることが分かっている。したがって、ロードノイズを抑えることで、高周波の騒音も抑えることが可能である。つまりタイヤのロードノイズの抑制が、自動車による騒音全般の発生を低減し乗り心地を向上させる。
【0008】
ロードノイズ低減のための技術として、特開昭62−50203号公報においては、空気室内に共鳴阻止剤を封入して空気振動の伝播を抑え、空気室内における共鳴を抑制することが開示されている。しかしながら、タイヤ内部に配置される共鳴阻止剤や吸音スポンジ等は、高速で回転する際には遠心力でつぶれてしまってその効果が薄れる。また、このような共鳴阻止のための部材をタイヤ自体の振動に対してマスダンパーとして有効な制振効果をもたせるためには、その重量をある程度大きくする必要があるが、この方法ではタイヤの変形に悪影響があり、運動性能を損ねてしまうことが多いので、やむなく重量を小さくせざるをえない。したがって、高速走行時や粗い路面走行時には、その効果は非常に小さなものとなる。
【0009】
また、タイヤ自体の振動の抑制のためには、トレッド13を構造上硬くし変形を抑えることが有効である。例えば、カーカス15(タイヤの骨格となる部分)の周りを取り囲んで締め付けるラジアルベルト16の負担張力を増強することが試みられた。しかし、ロードノイズのピーク以外では若干の騒音の減少が見られるものの、250Hz前後におけるピークにおいては逆に騒音が顕著に生じる傾向にあり、また、特に高速走行時や粗い路面走行時にタイヤの運動性能に悪影響が見られることが多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62−50203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のような理由から、従来の方法では、高速走行時や粗い路面走行時においてもタイヤの運動性能を悪化させることなく、安全かつ効果的にタイヤのロードノイズを低減し、自動車の乗り心地性能を向上させることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明はダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層からなる薄層構造部を有するタイヤを提案する。なお、前記ダイラタント層を他の部材と接合し、前記ダイラタント層を保護するための層である弾性を有するバインダー層を、ダイラタント層自身の上層又は/及び下層にさらに含む構成にするのが好ましい。なお、好ましい態様としては、前記薄層構造部をタイヤ内部表面に配置する。また、他の好ましい態様として、前記薄層構造部を、複数のダイラタント層からなるよう構成する。ここで、前記薄層構造部を構成する複数のバインダー層のうちタイヤ回転中心からより外側に配置されるバインダー層は、急激な変形に対し、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層が、より内側のダイラタント層に対してダイラタンシーを示す反応がより遅くなるようにその構成が調整されていることが好ましい。また、前記複数のダイラタント層のうち、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層は、急激な変形に対しダイラタンシーを示す反応がより内側のダイラタント層に対して遅くなるように粒子とその結合材の構成が調整されていることが好ましい。
【0013】
ここで、「ダイラタンシー」とは、小さいせん断応力には液体のように振る舞い、大きいせん断応力には固体のように振る舞う性質のことをいう。当該特定の性質を示す混合物のことをダイラタントまたはダイラタント流体といい、非ニュートン流体の一種に分類される。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、高速走行時や粗い路面走行時においても安全かつ効果的にタイヤのロードノイズを低減し、自動車の乗り心地性能を向上させるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一般的なタイヤの断面を示す概念図である。
【図2】実施形態1のタイヤの断面を示す概念図である。
【図3】実施形態1の薄層構造部の構成の最も単純な一例を示す概念図である。
【図4】実施形態1の製造方法のフローチャートである。
【図5】実施形態2の薄層構造部の構成の一例を示す概念図である。
【図6】実施形態2の製造方法のフローチャートである。
【図7】実施形態3のタイヤの断面を示す概念図である。
【図8】実施形態3の製造方法のフローチャートである。
【図9】実施形態4の薄層構造部の構成の一例を示す概念図である。
【図10】実施形態5の薄層構造部の構成の一例を示す概念図である。
【図11】実施形態6の薄層構造部の構成の一例を示す概念図である。
【図12】実施例の薄層構造部の構成を示す概念図である。
【図13】粗い路面における実施例の効果を示すグラフである。
【図14】滑らかな路面における実施例の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。実施形態と請求項の相互の関係は以下の通りである。実施形態1は主に請求項1、7などに関し、実施形態2は主に請求項2、8などに関し、実施形態3は主に請求項3、9、10などに関し、実施形態4は主に請求項4などに関し、実施形態5は主に請求項5などに関し、実施形態6は主に請求項6などに関する。なお、本発明はこれら実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、様々な態様で実施しうる。
<<実施形態1>>
<発明の概要>
【0017】
本実施形態のタイヤは、ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層であるダイラタント層を含む薄層構造部を有することを特徴とする。当該構成を有することにより、タイヤと地面の接触による変形からの振動を効率的に吸収し、ロードノイズを低減することが可能になる。また、本実施形態のタイヤは従来の発明と比較して、より軽量かつ安価な材料を用いた部材を簡易な方法でタイヤに設置するだけで製造することが可能である。
<発明の構成>
【0018】
図1は、一般的なタイヤの断面を示し、図2は、実施形態1における薄層構造部の配置例を示す。両図の違いは薄層構造部の有無のみである。実施形態1では薄層構造部0200はタイヤトレッド壁内部に配置されている。また、図3は、薄層構造部の構成の最も単純な一例を示す。実施形態1では薄層構造部0200は一つのダイラタント層から構成されている。以下、ダイラタント層における粒子とその結合材の構成と、粒子とその結合材の材料例について説明する。
【0019】
「ダイラタント層」(0310)とは、ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層である。また、ダイラタントとしてふるまうとは、小さいせん断応力には液体のように振る舞い、大きいせん断応力には固体のように振る舞うことをいう。ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材を配置する態様としては、例えば、ゴムを結合材として用い、粒径45μm〜53μmのアルミナ粒子を粒子として用いた場合は、層中において、結合材の重量を1として粒子の重量が5.0〜18.0となるように、粒子を結合材中に均一に分散させることが挙げられる。なお、層の強度を保ちながらダイラタンシーを効率的に発揮させるためには、結合材の重量を1として粒子の重量が8.0〜15.0となるようにすることが好ましい。
【0020】
ただし、ダイラタンシーを発揮する度合いは使用する粒子の種類、質量、粒径、形状、密度などによって変わりうるものであり、また使用する結合材の弾性、密度などによっても変わりうるものである。また粒子の結合材の弾性、密度などによっても変わりうるものである。また以下の構成で述べるように、上記ダイラタント層はタイヤ内においてタイヤの回転による遠心力の負荷を受けるため、タイヤが回転しているときは回転していないときに比べて層の厚みが圧縮される。これによっても粒子とその結合材の相対的な配置が変化することになり、ダイラタンシーを発揮する度合いは変わりうる。したがって、本発明は、ダイラタント層の中での粒子とその結合材の重量比が上記の範囲に限定されるものではない。
【0021】
ダイラタント層を構成する粒子の材料としては、アルミナ粒子やシリカ粒子等の無機酸化物粒子を用いることが可能である。アルミナ粒子を例にとると、粒径の範囲が1μmから1000μmに及ぶものが市販されている。結合材に分散させる粒子の粒径としては、上記の範囲から選ぶことが可能であり、1μmから500μmとすることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0022】
また、粒子の形状や構造も特に限定されるものではない。例えば粒子が中空構造を有し、その中空構造の内部に高分子化合物や極性溶媒または非ニュートン流体を含んでいてもよい。これらの内容物は応力を受けた際に運動エネルギーを吸収することでさらに騒音低減効果を高めることができる。さらに粒子は丸型もしくは切子面を持つ球形など、より大きな充填密度を持つような幾何学的形状とすることができ、特定の形状や構造を有する粒子を選択することによってダイラタンシーを調整することも可能である。
【0023】
ダイラタント層を構成する結合材は粒子を保持する性質を有すると同時に、タイヤ回転時の変形を受けても薄層構造部が不可逆的に変形し破損することのないように弾性を有することが必要である。これらの性質を有する結合材の例としては、ゴムなどの高分子化合物や、粘着剤、接着剤などが挙げられる。これら結合材に求められる性質として粒子の間に十分入り込む程度の表面張力の小ささが必要である。また粒子の間に入り込むだけ十分な小ささの分子サイズでなければならない。これらは粒子の大きさおよびそれぞれの粒子同士の隙間の大きさとの関係で定められる。ただし、上記の性質を有するものであれば、この例に限定されるものではない。
【0024】
上記のように、「薄層構造部」は、ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層であるダイラタント層からなるが、薄層構造部はダイラタント層のみで構成される必要はなく、他の層がダイラタント層の上部や下部、またはダイラタント層の間に配置されていてもよい。
【0025】
前記薄層構造部は、前記ダイラタント層を他の部材(他のダイラタント層を含む。)と接合し、前記ダイラタント層を保護するための層である弾性を有するバインダー層を、ダイラタント層自身の上層又は/及び下層にさらに含むこともできる(詳しくは実施形態2で説明する)。ダイラタント層とバインダー層との接着、およびタイヤ内部と薄層構造部との接着は結合材およびバインダー層の素材を接着剤そのものとしたり、接着力のある塗料や弾性素材としたり、加硫による熱反応によって接着するような素材を選定することで行うことができるが、これに限定されるものではない。層形成に使用されるバインダー層の一つはパンク時に空気漏れを防ぐ素材を含むこともできる。
【0026】
前記薄層構造部は、タイヤ外部表面(トレッドパターンによって作られる溝の底面部分又は/及び側面部分)やタイヤ内部、タイヤ内部表面(タイヤ内部のトレッド表面であって、空気室と接する面)のいずれに設けることも可能である。しかしながら、タイヤ内部表面に設けた場合には、より振動を吸収しやすくなる(詳しくは実施形態3で説明する)。
【0027】
前記薄層構造部は、複数のダイラタント層からなる複合層とすることもできる(詳しくは実施形態4で説明する)。
【0028】
前記薄層構造部を構成する複数のバインダー層のうちタイヤ回転中心からより外側に配置されるバインダー層は、急激な変形に対し、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層が、より内側のダイラタント層に対してダイラタンシーを示す反応がより遅くなるようにその構成が調整することで、タイヤの運動性能を悪化させることなく、マスダンパー的な性能をさらに高めることが可能となる(詳しくは実施形態5で説明する)。
【0029】
前記複数のダイラタント層のうち、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層は、急激な変形に対しダイラタンシーを示す反応がより内側のダイラタント層に対して遅くなるように粒子とその結合材の構成を調整することで、タイヤの運動性能を悪化させることなく、マスダンパーとしての性能をさらに高めることが可能となる(詳しくは実施形態6で説明する)。
【0030】
上記薄層構造部は、以下に示すように、タイヤと地面との接触または分離による急激な変形に対しては振動減衰部材として働き、タイヤ内部の空気室での空洞共鳴音に対しては吸音部材としても働く。上記の薄層構造部は、振動低減及び吸音の効果を発揮し、かつ、軽量化を実現する観点において、0.050mm(ダイラタント層1層の場合)から20mm(ダイラタント層1層又はダイラタント層を積層した場合)の厚さとすることが好ましい。これらは、いろいろな条件、例えば、タイヤのサイズ(普通自動車用のサイズから大型トラック、鉱山用大型トラック、ジャンボジェット機のタイヤなど)、回転速度(普通自動車程度か、F1マシーンのタイヤか、モノレールのタイヤかなど)、タイヤの受ける衝撃(普通自動車用か、オフロードカー用か、航空機のタイヤか)などにも応じて適宜選択される。
<ダイラタント層の作用の説明>
【0031】
以下路面走行中のダイラタント層の作用を示す。タイヤが地面との接触または分離による変形を受けない部分でのダイラタント層は、タイヤの回転による遠心力を受けて粒子が最密充填された状態となる。また、タイヤの変形の後でタイヤ全体に伝わる振動と、空気室の空気の共振による振動から、小さな剪断応力を受ける。このようなとき、ダイラタント層は液体のように振る舞って変形をおこし、ダイラタント層内の粒子同士が互いに擦れあって(直接的に接触する場合のほか、間に挟む結合材を介して間接的に押し合いへし合いするような場合も含む)粒子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換する。したがって、タイヤ全体を伝わる振動と空気室の共振が減衰され、騒音が低減される。すなわち、タイヤが地面との接触または分離による変形を受けない部分において、薄層構造部は振動騒音吸収体として機能し、ロードノイズを低減することが可能である。
【0032】
タイヤと地面との接触によって、加圧による変形の開始をする部分では、トレッドは急激な変形を起こし、それまでに受けていた遠心力と逆向きの力を薄層構造部に及ぼす。遠心力の負荷から解放されたダイラタント層は、大きな剪断応力に対して固体のように振る舞い、変形および振動を妨げる。
【0033】
これにより、薄層構造部は変形の衝撃で生じるタイヤの加振を局地的かつ重点的に抑制する作用をもつ。当該作用を有することにより、薄層構造部は形状安定のための局所的なマスダンパーと同じ効果をもつ。ここで、マスダンパーとは、一般的にタイヤの振動を抑制するためにタイヤに備えつけられる重量部材のことをいう。すなわち、上記薄層構造部は、運動性能を悪化させずにタイヤの振動を抑制し、騒音を低減することが可能である。
【0034】
タイヤの地面への接地による加圧による変形の終了後、タイヤが地面から分離するまでの間、薄層構造部はすぐにまた定常的な遠心力のみを受けることになるので、固体の性状からすぐに元の最密充填の状態に戻る。ここから地面からの分離による減圧による復元の開始前まで、タイヤは接地面で安定した形状を保っているため、薄層構造部はタイヤからの振動と空気室からの音波による振動を受けて液体のように振る舞い、それらの振動を吸収し騒音を低減する。
【0035】
タイヤと地面との分離によって、減圧による復元の開始をする部分では、トレッドは変形から急激に回復し、その際に遠心力と逆向きの力が薄層構造部に及ぼされる。薄層構造部は先に地面との接触によって、加圧による変形の開始をしたときと同様の振る舞いをする。すなわち、薄層構造部は、運動性能を悪化させずにタイヤの振動を抑制し、騒音を低減する。
【0036】
また、上述のようなタイヤ壁の変形に伴って、薄層構造部内の粒子同士は縦横方向に互いに押し付け合ったり離れたりするため、この力によって粒子の隙間にある結合材は圧縮と復元を繰り返す。この圧縮と復元の際に生じるヒステリシス・ロスによって、結合材は運動エネルギーを熱エネルギーに変換するため、振動を減衰する。
【0037】
以上のように、路面走行中のタイヤが地面との接触、分離を繰り返し行うなかで、薄層構造部がロードノイズの低減に効果をあらわす。また、上記薄層構造部自体は軽量かつ安価な材料で製造することができるため、それを加えることによるタイヤ全体の総重量や製造コストの増加を抑えることが可能である。
<製造方法>
【0038】
図4は、本実施形態のタイヤの製造方法の一例を示すフローチャートである。まず、ステップS0410において、ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層であるダイラタント層を含む薄層構造部を生成する(薄層構造部生成ステップ)。次に、ステップS0420において、薄層構造部を加熱処理と加圧処理によってタイヤ内部またはタイヤ内部表面付近に配置する(薄層構造部加圧処理ステップ)。
【0039】
上記ステップS0410の薄層構造部を生成するステップは、結合材にゴムを用いる場合は、シート状の生ゴム(10μm〜100μm)の上に接着剤などを塗布して、又は接着剤などを利用しないで生ゴムの表面の粘着性を上げて、そのままそこに粒子を配置させ、その後再び同様のシート状のゴムをかぶせることで、薄層構造部を生ゴム中に粒子が配置されたシートとする。
【0040】
そして、このシート状の薄層構造部を、タイヤの製造工程において加硫前のタイヤ素材と合わせてタイヤ内部に配置することができる。また、このシートはタイヤの構成要素の一つであるインナーライナー17の構造の一部分とすることも可能である。上記ステップS0420の薄層構造部加圧処理ステップにおいて、前記薄層構造部生成ステップで生成した薄層構造部をタイヤ中間構造体の内部に配置して薄層構造部を含むグリーンタイヤを形成する。このグリーンタイヤを金型に入れ、加硫工程を実施する。この加硫工程において加熱加圧処理を行い、加硫され、薄層構造部がタイヤ内部に配置(固定)されたタイヤが出来上がる。この時、薄層構造部は、粒子がゴム中に分散された状態となる。これによって、振動騒音吸収構造を有するタイヤを製造することが可能である。
<効果>
【0041】
本実施形態のタイヤは、タイヤと地面の接触による変形からの振動を効率的に吸収し、かつ空洞共鳴音を吸収することが可能になる。また、本実施形態のタイヤは従来の発明と比較して、より軽量かつ安価な材料を用いた部材を簡易な方法で設置するだけで製造することが可能である。
<<実施形態2>>
<概要>
【0042】
本実施形態のタイヤは、基本的に実施形態1と同様であるが、前記ダイラタント層を他の部材と接合し、前記ダイラタント層を保護するための層である弾性を有するバインダー層を、ダイラタント層自身の上層又は/及び下層にさらに含むことを特徴とする。当該構成を有することにより、ダイラタント層の構造をより保護することが可能となる。また、振動騒音吸収効果をさらに高めることが可能となる。
<構成>
【0043】
図5は、本実施形態における薄層構造部の構成例を概念的に示す。本実施形態では薄層構造部は一のダイラタント層(0510)と二つのバインダー層(0520)から構成されている。ダイラタント層については、実施形態1と同様である。以下、バインダー層について説明する。
【0044】
「バインダー層」(0520)とは、前記薄層構造部において、前記ダイラタント層(0510)をその上部又は/及び下部にある他の部材と接合させるための層である。ここで、他の部材とは、他のダイラタント層を含むことも可能である。これによって、バインダー層がない場合と比べて、ダイラタント層はより保護されることが可能となるため、タイヤの変形を受けた時に構造を保ち、破損するようなことが少なくなる効果がある。
【0045】
バインダー層の材料としては、ダイラタント層を構成する結合材と同様に弾性を有するものを使用することが可能である。また、ダイラタント層を保持するために、粘着性や接着性などが必要となるため、ゴム、粘着剤、接着剤、テープ(ベース材料と接着剤あるいは粘着剤との複合材料)などを使用することが可能である。結合材と同じ材料を用いることも可能であるが、これに限定されるものではない。
【0046】
また、結合材と異なる材料からなるバインダー層を配置する場合には、変形や振動を受ける際に異なる材料からなる隣接した層の間で摩擦が生じ、結果として振動騒音吸収効果を高めることが可能である。また、結合材とバインダー層の材料とが同じである場合でも、例えば結合材を用いてダイラタント層を形成後、バインダー層形成前に、ダイラタント層の結合材の表面が空気中にさらされたことで起こる空気分子との作用による結合材表面の性質の変化などにより、その後に形成されるバインダー層との間に実質的に境界が生じていると見ることができる場合もある。この場合には、結合材とバインダー層の材料とが同じ材料であっても、異なる材料である場合と同様の効果を得られる。さらに、材料の異同は問わず、ダイラタント層とバインダー層との間に何らかの境界(その他の例としては平均密度の違いや、変形のしやすさの違いなどによって)が生じるようであればこの効果を得られる。ここで、仮にバインダー層を明確に配置しないようなダイラタント層単層のみの場合でも、上記のようなダイラタント層の結合材の表面が空気中にさらされたことで起こる空気分子との作用による結合材表面の性質の変化などにより、薄層構造部が粒子とその結合材の構成のみであっても、実質的にバインダー層を含む複層構造であると判断することもできる。
【0047】
実施形態1と同様に、路面走行中、タイヤが地面との接触または分離による変形を受けない部分でのダイラタント層は、タイヤの回転による遠心力を受けて粒子が最密充填された状態となる。また、タイヤの変形の後でタイヤ全体に伝わる振動と、空気室の空気の共振による振動から、小さな剪断応力を受ける。このようなとき、ダイラタント層は液体のように振る舞って変形をおこし、ダイラタント層内の粒子同士が互いに擦れあって粒子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換する。ここで、さらにバインダー層が配置されることによって、ダイラタント層とバインダー層が互いに擦れあって熱エネルギーへの変換が生じる。したがって、タイヤ全体を伝わる振動と空気室の共振が減衰され、さらに騒音が低減される。すなわち、バインダー層を配置することによって、タイヤが地面との接触または分離による変形を受けない部分において、薄層構造部は振動騒音吸収体として機能し、ロードノイズをさらに低減することが可能である。
<製造方法>
【0048】
本実施形態のタイヤの製造方法は基本的に実施形態1と同様であり、相違点はバインダー層の形成の有無である。図6は、本実施形態のタイヤの製造方法の一例を示すフローチャートである。まず、ステップS0610において、ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層であるダイラタント層を含む薄層構造部を生成する(薄層構造部生成ステップ)。次に、ステップS0620において、薄層構造部を加熱処理と加圧処理によってタイヤ内部またはタイヤ内部表面付近に配置する(薄層構造部加圧処理ステップ)。
【0049】
まず、最初のステップである薄層構造部を生成するステップは、実施形態1と同様のダイラタント層の形成ステップ(S0611)にさらにバインダー層を重ねて形成するステップ(S0612)を追加したものである。ただし、ダイラタント層の結合材とバインダー層の材料とを同じ材料としてバインダー層を追加で形成することも可能であるし、バインダー層を追加的に形成しないで、ダイラタント層の最表面を改質する(積極的に分子の結合状態を変化させる、例えば何かの材料の吹きつけによる変化、光、例えば紫外線を照射することによる変化など)ことでバインダー層を形成することも可能である。
【0050】
なお、本実施形態の場合には、バインダー層によってダイラタント層が保護され、また、被覆される構成となるので、ダイラタント層を完成する中間工程においてはダイラタント層の粒子と結合材との一体性、あるいはダイラタント層の粒子同士の一体性はぜい弱なものであってもよい。例えば、熱と圧力に反応して初めて結合材となるような高分子化合物で被覆された粒子を用いることもできる。このような被覆を持つ粒子はタイヤの製造工程においてバインダー層となる薄いシート状の生ゴムによって挟まれ、加硫工程後にタイヤ内でダイラタント材料としての機能を満たすダイラタント層を形成することができる。
【0051】
薄層構造部はタイヤの構成要素の一つであるインナーライナー17の構造の一部分とすることも可能である。
【0052】
次に、前のステップにて形成された薄層構造部をタイヤと一体化するステップとなる。このステップは、基本的に実施形態1の薄層構造部加圧処理ステップと同様である。ただし、本実施形態においてはバインダー層が新たに加えられたので、その部分に関して以下に説明する。前述のとおり、前記薄層構造部生成ステップで生成した薄層構造部をタイヤ中間構造体の内部に配置して薄層構造部を含むグリーンタイヤを形成する。このグリーンタイヤを金型に入れ、加硫工程を実施する。この加硫工程において加熱加圧処理を行い、加硫され、薄層構造部がタイヤ内部に配置(固定)されたタイヤが出来上がる。この時、薄層構造部は、ダイラタント層内にて粒子が結合材中に分散された状態となるとともに、ダイラタント層およびバインダー層は熱と圧力に反応して上述の条件を満たす層を形成するような構造となる。
<効果>
【0053】
本実施形態のタイヤは、前記ダイラタント層を他の部材と接合したり、あるいは前記ダイラタント層を保護したりするための層である弾性を有するバインダー層を、ダイラタント層自身の上層又は/及び下層にさらに含むことで、ダイラタント層をより保護することが可能となる。また、振動騒音吸収効果も高めることが可能となる。
<<実施形態3>>
<概要>
【0054】
本実施形態のタイヤは、基本的に実施形態1、2と同様であるが、薄層構造部がタイヤ内部表面に配置されていることを特徴とする。
<構成>
【0055】
図7は、実施形態3における薄層構造部0700の配置を示すタイヤの断面図である。「タイヤ内部表面」(18)とは、タイヤを構成するゴムの部分のうち、タイヤ内部の空気が入っている部分と接触している部分であって、特にタイヤの接地面であるトレッド13の裏側の部分のことをいう。また、薄層構造部をタイヤ内部表面18に配置するとは、タイヤ内部表面18全てに薄層構造部を配置することの他に、タイヤ内部表面18の一部に薄層構造部を配置する構成も含まれるものである。また、タイヤ内部表面18に薄層構造部を配置した後に、さらに塗料などによって上塗りすることも可能である。
<製造方法>
【0056】
図8は本実施形態のタイヤの製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態の製造方法では薄層構造部をベースとなるタイヤの製造後に配置する点に特徴がある。
【0057】
この製造プロセスはさらに2種類に分類できる。一番目は、ベースとなるタイヤと別体として薄層構造部を製造し(薄層構造部形成ステップS0811)、後にベースとなるタイヤと、薄層構造部とを一体化するプロセス(内部表面接着ステップS0812)をもつ種類のものである(図8(a))。
【0058】
二番目は、ベースとなるタイヤを準備して、そのベースとなるタイヤの内部表面にダイラタント層又は/及びバインダー層を順次形成することで薄層構造部を製造し、同時に一体化するというプロセスをもつ種類のものである(図8(b))。
【0059】
ベースとなるタイヤの製造プロセスは一般的なタイヤの製造プロセスとほぼ同様であるのでここでの説明は省略する。ここでは、まず、一番目の種類の製造方法についてその一例を説明する(図8(a))。
【0060】
まず、薄層構造部形成ステップS0811で、シート状の薄層構造部を形成するための土台となるベースを準備する。このベースから最終的に薄層構造部は離脱させる必要があるので、ベースとダイラタント層との離脱性が必要である。またダイラタント層の下にバインダー層を付加する場合には、このバインダー層とベースとの離脱性が必要となる。このようなベースを準備し、ベース上にバインダー層とダイラタント層や、ダイラタント層をバインダー層でサンドイッチしたものを形成し、又は直接的にダイラタント層を形成することで薄層構造部を形成する。
【0061】
その後、内部表面接着ステップS0812で、ベースから形成された薄層構造部を離脱し、すでに完成しているベースとなるタイヤの内部表面に接着する。この接着は強固になされる必要がある。例えば、タイヤ内部表面を下地処理し、接着剤を薄く塗布し、薄層構造部を貼り付ける。または、薄層構造部のタイヤ内部表面対向面が接着性を有するものである場合には、その接着力を利用してタイヤ内部表面に薄層構造部を接着する。この接着性は結合材やバインダー層のもつ性質を利用してもよいし、これらとは別に前記対向面に接着剤を薄く塗布して得てもよい。
【0062】
また、シート状の生ゴムを準備して、この生ゴムの間に粒子を分散させ、加硫することでシート状の薄層構造部を得ることもできる。
【0063】
さらにまた、テープの間に粒子を挟み込むことでシート状の薄層構造部を製造することも可能である。このテープは、粒子を挟み込む側に結合材となる接着材を有し、テープで粒子を挟んだ状態で加圧などすることで、結合材中に分散した粒子を有する薄層構造部を製造することができる。その後、このようにして製造された薄層構造部をベースとなるタイヤの内部表面に接着する。
【0064】
次に二番目の製造方法について説明する(図8(b))。二番目は、ベースとなるタイヤを準備して、そのベースとなるタイヤ内部表面18にダイラタント層又は/及びバインダー層を順次形成することで薄層構造部を製造し、同時にタイヤと一体化するというプロセスをもつ種類のものである。
【0065】
まず、ベースとなるタイヤを準備し、このタイヤ内部表面18の下地処理を行う。これは、薄層構造部とタイヤ内部表面18との接着性を高めるための処理である。次に、タイヤ内部表面18にバインダー層とダイラタント層(バインダー層接着ステップS0821とダイラタント層接着ステップS0822)、バインダー層でサンドイッチされたダイラタント層(バインダー層接着ステップS0821とダイラタント層接着ステップS0822とバインダー層接着ステップS0823)又は直接的にダイラタント層(ダイラタント層接着ステップS0822のみ)を形成する。ここで薄層構造部接着ステップのうち、薄層構造部の構成によって、バインダー層接着ステップS0821又は/及びバインダー層接着ステップS0823は省略できる。これが薄層構造部となる。特に最初にベースとなるタイヤ内部表面18に形成される層は、ベースとなるタイヤ内部表面との接着性が高くなる材料を用いて形成する。薄層構造部の形成はベースとなるタイヤ内部表面18から順次積層することで行われる。
【0066】
例えば、結合材およびバインダー層に液状ゴムを用いる場合、加熱・加圧処理されたタイヤ内部表面18において液状ゴムを塗り、その上から粒子粉末をかけて、その上にさらに液状ゴムを塗り、ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層からなる薄層構造部をタイヤ内部表面18に形成することができる。
<効果>
【0067】
本実施形態のタイヤは、薄層構造部がタイヤ内部表面に配設されているためタイヤ内部に配設されていることに比べて、空気室の空洞共鳴音に対する効果を高くすることができる。
<<実施形態4>>
<概要>
【0068】
本実施形態のタイヤは、基本的に実施形態1から3と同様であるが、薄層構造部がダイラタント層を複数積層してなることを特徴とする。
<構成>
【0069】
上記のように、本実施形態のタイヤが有する「薄層構造部」はダイラタント層が複数積層されてなる。図9は、本実施形態における薄層構造部の構成の一例である。本実施形態では薄層構造部は二つのダイラタント層(0910)と三つのバインダー層(0920)から構成されている。ここで、複数のダイラタント層としては、異なる物性のダイラタント層を用いてもよいし、同じ物性のダイラタント層を用いていてもよい。
【0070】
ダイラタント層が複数積層されることによって、タイヤと地面との接触によって加圧による変形の開始をする部分、およびタイヤと地面との分離によって減圧による復元の開始をする部分においては、薄層構造部全体が同時に固くなるのではなく、タイヤの回転中心に一番近く、遠心力の負荷が小さい内側の層からその外側の層へと順に遠心力の負荷から解放され、漸次的に大きな剪断応力を受け、その大きな剪断応力の入力に対して層ごとに若干の時間差をもって粘性の増大が起こる。すなわち、ダイラタンシーの発揮のタイミングが漸次的になる。
【0071】
これにより、薄層構造部はタイヤのトレッドが接地した瞬間には粘性の増大が抑制され、接地面を形作るために必要な変形に極力抵抗とならないようにし、その後のタイヤのトレッドが地面を離脱するまでの変形が少ない時間帯にタイヤのトレッドの接地の瞬間に生じた衝撃の伝播で生じるタイヤの加振を重点的に抑制する作用をもつ。当該作用を有することにより、薄層構造部は振動抑制のためのマスダンパー的な機能を有する。すなわち、上記薄層構造部は、運動性能を悪化させずにタイヤに生じる振動の伝播を抑制し、騒音を低減することが可能である。
<効果>
【0072】
本実施形態のタイヤは、薄層構造部が複数積層されるため、タイヤの運動性能を悪化させることなく、マスダンパー的な効果をさらに高めることが可能となる。
<<実施形態5>>
<概要>
【0073】
前記薄層構造部を構成する複数のバインダー層のうちタイヤ回転中心からより外側に配置されるバインダー層は、急激な変形に対し、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層が、より内側のダイラタント層に対してダイラタンシーを示す反応がより遅くなるようにその構成が調整されている。
【0074】
この実施形態は、ダイラタント層が複数積層されている場合に、急激な変形に対し、タイヤ回転中心から見てより内側のダイラタント層がより早くダイラタンシーを発揮することができ、順次タイヤ中心から見て外側にあるダイラタント層がより遅くダイラタンシーを発揮するように構成するためのものである。
<構成>
【0075】
図10は、本実施形態における薄層構造部の構成の一例を示す概念的な図である。本実施形態では薄層構造部は複数のダイラタント層(1010)と複数のバインダー層(1021、1022、1023)を含む構成であり、かつ、このような漸次的な反応を示すことができるようにタイヤ中心から見てより内側のバインダー層の密度や厚みを大きくし、タイヤ中心から見てより内側のダイラタント層の変形がより外側のダイラタント層の変形よりも時間的に前に生じることができるような質量系を形作る。つまり薄層構造部を一つの質量系として見た場合に、タイヤ中心から見てより内側に配置されるバインダー層の質量がより大きくなる構成とする。
<効果>
【0076】
本実施形態のタイヤは、前記複数のダイラタント層のうち、タイヤ回転中心からより外側に配置されるものにおいて、急激な変形に対しダイラタンシーを示す反応がより内側の層に対して遅くなるようバインダー層の構成が調整されているため、タイヤの運動性能を悪化させることなく、マスダンパー的な性能をさらに高めることが可能になる。
<<実施形態6>>
<概要>
【0077】
本実施形態のタイヤは、基本的に実施形態1から5に記載のタイヤと同様であるが、前記複数のダイラタント層のうち、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層において、急激な変形に対しダイラタンシーを示す反応がより内側の層に対して遅くなるよう粒子とその結合材の構成が調整されている。
<構成>
【0078】
図11は、複数のダイラタント層からなる薄層構造部の一例を示す概念的な図である。この図の例では、一のダイラタント層(1111)と、他のダイラタント層(1112)、バインダー層(1120)が配置されている。このように、複数のダイラタント層を用いることによって、タイヤの運動性能を損ねることなく効果的なマスダンパーとして効果をもつことが可能となる。
【0079】
この場合、タイヤの回転中心からの距離と内側の層の荷重によってより大きな遠心力の負荷を受けることになる、より外側の層と、その内側の層とが変形時の力に対して同じ量のひずみを起こし、漸次的にダイラタンシーがあらわれるように粒子の大きさを調整することが好ましい。より好ましくは、より外側の層の粒子の大きさがより大きく、より大きな負荷を受ける状況下でも内側の層と同じ量のひずみを起こすようにすることが好ましい。
【0080】
また、薄層構造部は、厚み、密度、弾性の異なる複数のダイラタント層と、隣り合うダイラタント層の間、およびタイヤ壁、タイヤ内部空気室との間に設置されるバインダー層から構成することができる。
【0081】
この場合、ダイラタント層の厚み、結合材の密度、弾性は、急激な変形時に薄層構造部で効率よく漸次的にダイラタンシーがあらわれるように調整することが好ましい。より好ましくは、より外側のダイラタント層がより厚く、結合材の弾性が高いものとし、変形時の負荷からの解放に対しての反応がその内側の層に対して遅くなるように調整することが好ましい。
<効果>
【0082】
本実施形態のタイヤは、前記複数のダイラタント層のうち、タイヤ回転中心からより外側に配置されるものにおいて、急激な変形に対しダイラタンシーを示す反応がより内側の層に対して遅くなるよう粒子と結合材の構成が調整されているため、タイヤの運動性能を悪化させることなく、マスダンパーとしての性能をさらに高めることが可能になる。
【実施例1】
【0083】
前記ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置されたダイラタント層を構成するために使用した粒子は、粒径は45〜53μmのアルミナ粒子である。また結合材およびバインダー層を構成するのに使用したのは「液状ゴムスプレー」である。本実施例では、ダイラタント層を12層積層した。およその見積もりでは、粒子は隣接粒子との平均距離が50〜150μmで結合材中に分散されており、ダイラタント層とバインダー層を繰り返し積層して全体の厚は300〜500μm程度となる。このとき各層はでこぼこに形成されるので必ずしも層の数分の倍数の厚みにはならない(図12)。
【0084】
製造手順としては、まず、タイヤの内部表面に結合材を溶媒に溶かしてスプレイをする。スプレイ後ただちに粒子をその上に撒く。撒いた後しばらく待つ。その後再度結合材を溶媒にとかしたものをスプレイ(複数回に分けてスプレイしてもよい)して、次の粒子をその上に撒く。撒いたのちしばらく待つ。この粒子を撒くことと、スプレイとを必要な分、繰り返す。繰り返し回数は、一般に5回から20回程度である。この時には、結合材とバインダー層とは同じ材料、すなわち結合材の材料を利用していることとなる。この場合でもバインダー層をもうけることの機能の一つであるエネルギー消費作用が生じるのは、各層形成の際にスプレイされた液状ゴムが空気に接する時間(液状ゴムの溶けている溶媒が乾燥する時間)を適切に設定することによって最表面が所定の変質を起こし、実質的に境界が形成されるからである。または、バインダー層がない構造であるともいえる。いずれにしても、このような積層手順を用いることで、薄層構造部の厚み方向への粒子の分散性が高められ、適切にダイラタンシーが発現する積層構造部をつくることができる。
【0085】
使用したタイヤのサイズは195/65 R15であり、騒音測定は助手席のヘッドレスト部において測定した。測定条件は、気温摂氏24度、空気圧前2.2/後2.4kPa、走行速度60km/hであり、2名乗車のもとテストが行われた。
【0086】
図13は実施例での測定を粗い路面で行ったときの結果であり、150Hz近辺のピークで7dBの減少、120Hz近辺のピークで4dBの減少する効果があらわれた。図14は実施例でのテストを滑らかな路面で行ったときの結果であり、150Hz近辺のピークで4dBの減少、空洞共鳴音も若干減少する効果があらわれた。
【符号の説明】
【0087】
空気室 11
ホイール 12
トレッド 13
サイドウォール 14
カーカス 15
ラジアルベルト 16
インナーライナー 17
タイヤ内部表面 18
粒子 19
結合材 20
薄層構造部 0200、0700
ダイラタント層 0310、0510、0910、1010、1111、1112、1210
バインダー層 0520、0920、1021、1022,1023、1120、1220
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の騒音を低減し、乗り心地性能を高めるための振動騒音吸収構造を有するタイヤおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のタイヤは地面に接触するときに大きな音を発生する。一部の自動車において、時速40km/hを超えると、タイヤ騒音は自動車の他のすべての騒音源の音よりも大きくなる可能性がある。このような騒音は自動車の乗り心地を大きく損なうため、自動車およびタイヤの製造者はタイヤ騒音を低減するための研究開発に取り組んでいる。
【0003】
タイヤ騒音は様々な原因から生じる。従来のタイヤの断面概念図である図1を利用しながら説明する。例えば、(1)タイヤと地面の接触によって、タイヤの変形による振動がタイヤから車体までの構造体を加振する際に発生する低周波音や、(2)タイヤと地面の接触によって、タイヤの変形による振動が「空気室」11(タイヤおよびタイヤが取り付けられている「ホイール」12によって形成される部分)を加振する際に発生する低周波音や、(3)「トレッド」13(タイヤが地面と接触する部分)の溝と地面との間で一時的に圧縮したり膨張したりする空気によって発生する帯域幅の広い音や、(4)タイヤと地面の接触がすべることによって発生する高周波音などである。
【0004】
(1)および(2)による騒音は総じてロードノイズと呼ばれる。(1)はドローンノイズとも呼ばれ、タイヤの素材そのものが加振され、それがホイール12、シャフト、サスペンションを通じて車室に伝わって生じる騒音で、一般的に高速走行時や、粗い路面走行時に生じる「ゴー」という60Hzから200Hz近辺のピークをもつことを特徴とする。(2)の騒音は空気室内において共鳴を起こして空洞共鳴音と呼ばれる200Hzから250Hzのピークを持つことを特徴とする、高速道路等で継ぎ目を通過した際に、「パカン」となる残響感のある音のことである。空洞共鳴音は、タイヤの円周長によってピークの周波数が異なるため、空気室の湾曲導波管構造に起因するものとも考えられる。これはタイヤの幅が変わってもその周波数が変わらないことからも推測され、タイヤの平均円周長を1波長とする周波数の騒音が空洞共鳴音のピークとなっていると考えられている。タイヤと地面の接触によるタイヤの変形は、まずトレッド13の接触面からはじまり、「サイドウォール」14(タイヤの側面部分)を変形し、振動させ、その後ホイール12や、タイヤ内部の空気室11に伝達される。
【0005】
(3)による騒音はパターンノイズと呼ばれる。当該騒音は、トレッド13の溝に起因するものであるが、トレッド13の溝はタイヤと地面の間の排水を担っているため、構造上避けることができないものである。なお、当該騒音を緩和するために、溝の間隔をずらしながら配置することが行われている。
【0006】
(4)による騒音はスキールノイズと呼ばれる。当該騒音は、急発進や急ブレーキ、急旋回などの運転方法によって生じるものである。
【0007】
ロードノイズであるタイヤの加振に起因するタイヤ自体の振動音とタイヤ内部の空気室11の空洞共鳴音は、タイヤ騒音の全体量の相当部分にあたる。また、ロードノイズのピークの倍音成分は高周波に至るまで存在するので、これらの高周波の騒音によっても乗り心地が損なわれることが分かっている。したがって、ロードノイズを抑えることで、高周波の騒音も抑えることが可能である。つまりタイヤのロードノイズの抑制が、自動車による騒音全般の発生を低減し乗り心地を向上させる。
【0008】
ロードノイズ低減のための技術として、特開昭62−50203号公報においては、空気室内に共鳴阻止剤を封入して空気振動の伝播を抑え、空気室内における共鳴を抑制することが開示されている。しかしながら、タイヤ内部に配置される共鳴阻止剤や吸音スポンジ等は、高速で回転する際には遠心力でつぶれてしまってその効果が薄れる。また、このような共鳴阻止のための部材をタイヤ自体の振動に対してマスダンパーとして有効な制振効果をもたせるためには、その重量をある程度大きくする必要があるが、この方法ではタイヤの変形に悪影響があり、運動性能を損ねてしまうことが多いので、やむなく重量を小さくせざるをえない。したがって、高速走行時や粗い路面走行時には、その効果は非常に小さなものとなる。
【0009】
また、タイヤ自体の振動の抑制のためには、トレッド13を構造上硬くし変形を抑えることが有効である。例えば、カーカス15(タイヤの骨格となる部分)の周りを取り囲んで締め付けるラジアルベルト16の負担張力を増強することが試みられた。しかし、ロードノイズのピーク以外では若干の騒音の減少が見られるものの、250Hz前後におけるピークにおいては逆に騒音が顕著に生じる傾向にあり、また、特に高速走行時や粗い路面走行時にタイヤの運動性能に悪影響が見られることが多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62−50203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のような理由から、従来の方法では、高速走行時や粗い路面走行時においてもタイヤの運動性能を悪化させることなく、安全かつ効果的にタイヤのロードノイズを低減し、自動車の乗り心地性能を向上させることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明はダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層からなる薄層構造部を有するタイヤを提案する。なお、前記ダイラタント層を他の部材と接合し、前記ダイラタント層を保護するための層である弾性を有するバインダー層を、ダイラタント層自身の上層又は/及び下層にさらに含む構成にするのが好ましい。なお、好ましい態様としては、前記薄層構造部をタイヤ内部表面に配置する。また、他の好ましい態様として、前記薄層構造部を、複数のダイラタント層からなるよう構成する。ここで、前記薄層構造部を構成する複数のバインダー層のうちタイヤ回転中心からより外側に配置されるバインダー層は、急激な変形に対し、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層が、より内側のダイラタント層に対してダイラタンシーを示す反応がより遅くなるようにその構成が調整されていることが好ましい。また、前記複数のダイラタント層のうち、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層は、急激な変形に対しダイラタンシーを示す反応がより内側のダイラタント層に対して遅くなるように粒子とその結合材の構成が調整されていることが好ましい。
【0013】
ここで、「ダイラタンシー」とは、小さいせん断応力には液体のように振る舞い、大きいせん断応力には固体のように振る舞う性質のことをいう。当該特定の性質を示す混合物のことをダイラタントまたはダイラタント流体といい、非ニュートン流体の一種に分類される。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、高速走行時や粗い路面走行時においても安全かつ効果的にタイヤのロードノイズを低減し、自動車の乗り心地性能を向上させるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一般的なタイヤの断面を示す概念図である。
【図2】実施形態1のタイヤの断面を示す概念図である。
【図3】実施形態1の薄層構造部の構成の最も単純な一例を示す概念図である。
【図4】実施形態1の製造方法のフローチャートである。
【図5】実施形態2の薄層構造部の構成の一例を示す概念図である。
【図6】実施形態2の製造方法のフローチャートである。
【図7】実施形態3のタイヤの断面を示す概念図である。
【図8】実施形態3の製造方法のフローチャートである。
【図9】実施形態4の薄層構造部の構成の一例を示す概念図である。
【図10】実施形態5の薄層構造部の構成の一例を示す概念図である。
【図11】実施形態6の薄層構造部の構成の一例を示す概念図である。
【図12】実施例の薄層構造部の構成を示す概念図である。
【図13】粗い路面における実施例の効果を示すグラフである。
【図14】滑らかな路面における実施例の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。実施形態と請求項の相互の関係は以下の通りである。実施形態1は主に請求項1、7などに関し、実施形態2は主に請求項2、8などに関し、実施形態3は主に請求項3、9、10などに関し、実施形態4は主に請求項4などに関し、実施形態5は主に請求項5などに関し、実施形態6は主に請求項6などに関する。なお、本発明はこれら実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、様々な態様で実施しうる。
<<実施形態1>>
<発明の概要>
【0017】
本実施形態のタイヤは、ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層であるダイラタント層を含む薄層構造部を有することを特徴とする。当該構成を有することにより、タイヤと地面の接触による変形からの振動を効率的に吸収し、ロードノイズを低減することが可能になる。また、本実施形態のタイヤは従来の発明と比較して、より軽量かつ安価な材料を用いた部材を簡易な方法でタイヤに設置するだけで製造することが可能である。
<発明の構成>
【0018】
図1は、一般的なタイヤの断面を示し、図2は、実施形態1における薄層構造部の配置例を示す。両図の違いは薄層構造部の有無のみである。実施形態1では薄層構造部0200はタイヤトレッド壁内部に配置されている。また、図3は、薄層構造部の構成の最も単純な一例を示す。実施形態1では薄層構造部0200は一つのダイラタント層から構成されている。以下、ダイラタント層における粒子とその結合材の構成と、粒子とその結合材の材料例について説明する。
【0019】
「ダイラタント層」(0310)とは、ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層である。また、ダイラタントとしてふるまうとは、小さいせん断応力には液体のように振る舞い、大きいせん断応力には固体のように振る舞うことをいう。ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材を配置する態様としては、例えば、ゴムを結合材として用い、粒径45μm〜53μmのアルミナ粒子を粒子として用いた場合は、層中において、結合材の重量を1として粒子の重量が5.0〜18.0となるように、粒子を結合材中に均一に分散させることが挙げられる。なお、層の強度を保ちながらダイラタンシーを効率的に発揮させるためには、結合材の重量を1として粒子の重量が8.0〜15.0となるようにすることが好ましい。
【0020】
ただし、ダイラタンシーを発揮する度合いは使用する粒子の種類、質量、粒径、形状、密度などによって変わりうるものであり、また使用する結合材の弾性、密度などによっても変わりうるものである。また粒子の結合材の弾性、密度などによっても変わりうるものである。また以下の構成で述べるように、上記ダイラタント層はタイヤ内においてタイヤの回転による遠心力の負荷を受けるため、タイヤが回転しているときは回転していないときに比べて層の厚みが圧縮される。これによっても粒子とその結合材の相対的な配置が変化することになり、ダイラタンシーを発揮する度合いは変わりうる。したがって、本発明は、ダイラタント層の中での粒子とその結合材の重量比が上記の範囲に限定されるものではない。
【0021】
ダイラタント層を構成する粒子の材料としては、アルミナ粒子やシリカ粒子等の無機酸化物粒子を用いることが可能である。アルミナ粒子を例にとると、粒径の範囲が1μmから1000μmに及ぶものが市販されている。結合材に分散させる粒子の粒径としては、上記の範囲から選ぶことが可能であり、1μmから500μmとすることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0022】
また、粒子の形状や構造も特に限定されるものではない。例えば粒子が中空構造を有し、その中空構造の内部に高分子化合物や極性溶媒または非ニュートン流体を含んでいてもよい。これらの内容物は応力を受けた際に運動エネルギーを吸収することでさらに騒音低減効果を高めることができる。さらに粒子は丸型もしくは切子面を持つ球形など、より大きな充填密度を持つような幾何学的形状とすることができ、特定の形状や構造を有する粒子を選択することによってダイラタンシーを調整することも可能である。
【0023】
ダイラタント層を構成する結合材は粒子を保持する性質を有すると同時に、タイヤ回転時の変形を受けても薄層構造部が不可逆的に変形し破損することのないように弾性を有することが必要である。これらの性質を有する結合材の例としては、ゴムなどの高分子化合物や、粘着剤、接着剤などが挙げられる。これら結合材に求められる性質として粒子の間に十分入り込む程度の表面張力の小ささが必要である。また粒子の間に入り込むだけ十分な小ささの分子サイズでなければならない。これらは粒子の大きさおよびそれぞれの粒子同士の隙間の大きさとの関係で定められる。ただし、上記の性質を有するものであれば、この例に限定されるものではない。
【0024】
上記のように、「薄層構造部」は、ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層であるダイラタント層からなるが、薄層構造部はダイラタント層のみで構成される必要はなく、他の層がダイラタント層の上部や下部、またはダイラタント層の間に配置されていてもよい。
【0025】
前記薄層構造部は、前記ダイラタント層を他の部材(他のダイラタント層を含む。)と接合し、前記ダイラタント層を保護するための層である弾性を有するバインダー層を、ダイラタント層自身の上層又は/及び下層にさらに含むこともできる(詳しくは実施形態2で説明する)。ダイラタント層とバインダー層との接着、およびタイヤ内部と薄層構造部との接着は結合材およびバインダー層の素材を接着剤そのものとしたり、接着力のある塗料や弾性素材としたり、加硫による熱反応によって接着するような素材を選定することで行うことができるが、これに限定されるものではない。層形成に使用されるバインダー層の一つはパンク時に空気漏れを防ぐ素材を含むこともできる。
【0026】
前記薄層構造部は、タイヤ外部表面(トレッドパターンによって作られる溝の底面部分又は/及び側面部分)やタイヤ内部、タイヤ内部表面(タイヤ内部のトレッド表面であって、空気室と接する面)のいずれに設けることも可能である。しかしながら、タイヤ内部表面に設けた場合には、より振動を吸収しやすくなる(詳しくは実施形態3で説明する)。
【0027】
前記薄層構造部は、複数のダイラタント層からなる複合層とすることもできる(詳しくは実施形態4で説明する)。
【0028】
前記薄層構造部を構成する複数のバインダー層のうちタイヤ回転中心からより外側に配置されるバインダー層は、急激な変形に対し、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層が、より内側のダイラタント層に対してダイラタンシーを示す反応がより遅くなるようにその構成が調整することで、タイヤの運動性能を悪化させることなく、マスダンパー的な性能をさらに高めることが可能となる(詳しくは実施形態5で説明する)。
【0029】
前記複数のダイラタント層のうち、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層は、急激な変形に対しダイラタンシーを示す反応がより内側のダイラタント層に対して遅くなるように粒子とその結合材の構成を調整することで、タイヤの運動性能を悪化させることなく、マスダンパーとしての性能をさらに高めることが可能となる(詳しくは実施形態6で説明する)。
【0030】
上記薄層構造部は、以下に示すように、タイヤと地面との接触または分離による急激な変形に対しては振動減衰部材として働き、タイヤ内部の空気室での空洞共鳴音に対しては吸音部材としても働く。上記の薄層構造部は、振動低減及び吸音の効果を発揮し、かつ、軽量化を実現する観点において、0.050mm(ダイラタント層1層の場合)から20mm(ダイラタント層1層又はダイラタント層を積層した場合)の厚さとすることが好ましい。これらは、いろいろな条件、例えば、タイヤのサイズ(普通自動車用のサイズから大型トラック、鉱山用大型トラック、ジャンボジェット機のタイヤなど)、回転速度(普通自動車程度か、F1マシーンのタイヤか、モノレールのタイヤかなど)、タイヤの受ける衝撃(普通自動車用か、オフロードカー用か、航空機のタイヤか)などにも応じて適宜選択される。
<ダイラタント層の作用の説明>
【0031】
以下路面走行中のダイラタント層の作用を示す。タイヤが地面との接触または分離による変形を受けない部分でのダイラタント層は、タイヤの回転による遠心力を受けて粒子が最密充填された状態となる。また、タイヤの変形の後でタイヤ全体に伝わる振動と、空気室の空気の共振による振動から、小さな剪断応力を受ける。このようなとき、ダイラタント層は液体のように振る舞って変形をおこし、ダイラタント層内の粒子同士が互いに擦れあって(直接的に接触する場合のほか、間に挟む結合材を介して間接的に押し合いへし合いするような場合も含む)粒子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換する。したがって、タイヤ全体を伝わる振動と空気室の共振が減衰され、騒音が低減される。すなわち、タイヤが地面との接触または分離による変形を受けない部分において、薄層構造部は振動騒音吸収体として機能し、ロードノイズを低減することが可能である。
【0032】
タイヤと地面との接触によって、加圧による変形の開始をする部分では、トレッドは急激な変形を起こし、それまでに受けていた遠心力と逆向きの力を薄層構造部に及ぼす。遠心力の負荷から解放されたダイラタント層は、大きな剪断応力に対して固体のように振る舞い、変形および振動を妨げる。
【0033】
これにより、薄層構造部は変形の衝撃で生じるタイヤの加振を局地的かつ重点的に抑制する作用をもつ。当該作用を有することにより、薄層構造部は形状安定のための局所的なマスダンパーと同じ効果をもつ。ここで、マスダンパーとは、一般的にタイヤの振動を抑制するためにタイヤに備えつけられる重量部材のことをいう。すなわち、上記薄層構造部は、運動性能を悪化させずにタイヤの振動を抑制し、騒音を低減することが可能である。
【0034】
タイヤの地面への接地による加圧による変形の終了後、タイヤが地面から分離するまでの間、薄層構造部はすぐにまた定常的な遠心力のみを受けることになるので、固体の性状からすぐに元の最密充填の状態に戻る。ここから地面からの分離による減圧による復元の開始前まで、タイヤは接地面で安定した形状を保っているため、薄層構造部はタイヤからの振動と空気室からの音波による振動を受けて液体のように振る舞い、それらの振動を吸収し騒音を低減する。
【0035】
タイヤと地面との分離によって、減圧による復元の開始をする部分では、トレッドは変形から急激に回復し、その際に遠心力と逆向きの力が薄層構造部に及ぼされる。薄層構造部は先に地面との接触によって、加圧による変形の開始をしたときと同様の振る舞いをする。すなわち、薄層構造部は、運動性能を悪化させずにタイヤの振動を抑制し、騒音を低減する。
【0036】
また、上述のようなタイヤ壁の変形に伴って、薄層構造部内の粒子同士は縦横方向に互いに押し付け合ったり離れたりするため、この力によって粒子の隙間にある結合材は圧縮と復元を繰り返す。この圧縮と復元の際に生じるヒステリシス・ロスによって、結合材は運動エネルギーを熱エネルギーに変換するため、振動を減衰する。
【0037】
以上のように、路面走行中のタイヤが地面との接触、分離を繰り返し行うなかで、薄層構造部がロードノイズの低減に効果をあらわす。また、上記薄層構造部自体は軽量かつ安価な材料で製造することができるため、それを加えることによるタイヤ全体の総重量や製造コストの増加を抑えることが可能である。
<製造方法>
【0038】
図4は、本実施形態のタイヤの製造方法の一例を示すフローチャートである。まず、ステップS0410において、ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層であるダイラタント層を含む薄層構造部を生成する(薄層構造部生成ステップ)。次に、ステップS0420において、薄層構造部を加熱処理と加圧処理によってタイヤ内部またはタイヤ内部表面付近に配置する(薄層構造部加圧処理ステップ)。
【0039】
上記ステップS0410の薄層構造部を生成するステップは、結合材にゴムを用いる場合は、シート状の生ゴム(10μm〜100μm)の上に接着剤などを塗布して、又は接着剤などを利用しないで生ゴムの表面の粘着性を上げて、そのままそこに粒子を配置させ、その後再び同様のシート状のゴムをかぶせることで、薄層構造部を生ゴム中に粒子が配置されたシートとする。
【0040】
そして、このシート状の薄層構造部を、タイヤの製造工程において加硫前のタイヤ素材と合わせてタイヤ内部に配置することができる。また、このシートはタイヤの構成要素の一つであるインナーライナー17の構造の一部分とすることも可能である。上記ステップS0420の薄層構造部加圧処理ステップにおいて、前記薄層構造部生成ステップで生成した薄層構造部をタイヤ中間構造体の内部に配置して薄層構造部を含むグリーンタイヤを形成する。このグリーンタイヤを金型に入れ、加硫工程を実施する。この加硫工程において加熱加圧処理を行い、加硫され、薄層構造部がタイヤ内部に配置(固定)されたタイヤが出来上がる。この時、薄層構造部は、粒子がゴム中に分散された状態となる。これによって、振動騒音吸収構造を有するタイヤを製造することが可能である。
<効果>
【0041】
本実施形態のタイヤは、タイヤと地面の接触による変形からの振動を効率的に吸収し、かつ空洞共鳴音を吸収することが可能になる。また、本実施形態のタイヤは従来の発明と比較して、より軽量かつ安価な材料を用いた部材を簡易な方法で設置するだけで製造することが可能である。
<<実施形態2>>
<概要>
【0042】
本実施形態のタイヤは、基本的に実施形態1と同様であるが、前記ダイラタント層を他の部材と接合し、前記ダイラタント層を保護するための層である弾性を有するバインダー層を、ダイラタント層自身の上層又は/及び下層にさらに含むことを特徴とする。当該構成を有することにより、ダイラタント層の構造をより保護することが可能となる。また、振動騒音吸収効果をさらに高めることが可能となる。
<構成>
【0043】
図5は、本実施形態における薄層構造部の構成例を概念的に示す。本実施形態では薄層構造部は一のダイラタント層(0510)と二つのバインダー層(0520)から構成されている。ダイラタント層については、実施形態1と同様である。以下、バインダー層について説明する。
【0044】
「バインダー層」(0520)とは、前記薄層構造部において、前記ダイラタント層(0510)をその上部又は/及び下部にある他の部材と接合させるための層である。ここで、他の部材とは、他のダイラタント層を含むことも可能である。これによって、バインダー層がない場合と比べて、ダイラタント層はより保護されることが可能となるため、タイヤの変形を受けた時に構造を保ち、破損するようなことが少なくなる効果がある。
【0045】
バインダー層の材料としては、ダイラタント層を構成する結合材と同様に弾性を有するものを使用することが可能である。また、ダイラタント層を保持するために、粘着性や接着性などが必要となるため、ゴム、粘着剤、接着剤、テープ(ベース材料と接着剤あるいは粘着剤との複合材料)などを使用することが可能である。結合材と同じ材料を用いることも可能であるが、これに限定されるものではない。
【0046】
また、結合材と異なる材料からなるバインダー層を配置する場合には、変形や振動を受ける際に異なる材料からなる隣接した層の間で摩擦が生じ、結果として振動騒音吸収効果を高めることが可能である。また、結合材とバインダー層の材料とが同じである場合でも、例えば結合材を用いてダイラタント層を形成後、バインダー層形成前に、ダイラタント層の結合材の表面が空気中にさらされたことで起こる空気分子との作用による結合材表面の性質の変化などにより、その後に形成されるバインダー層との間に実質的に境界が生じていると見ることができる場合もある。この場合には、結合材とバインダー層の材料とが同じ材料であっても、異なる材料である場合と同様の効果を得られる。さらに、材料の異同は問わず、ダイラタント層とバインダー層との間に何らかの境界(その他の例としては平均密度の違いや、変形のしやすさの違いなどによって)が生じるようであればこの効果を得られる。ここで、仮にバインダー層を明確に配置しないようなダイラタント層単層のみの場合でも、上記のようなダイラタント層の結合材の表面が空気中にさらされたことで起こる空気分子との作用による結合材表面の性質の変化などにより、薄層構造部が粒子とその結合材の構成のみであっても、実質的にバインダー層を含む複層構造であると判断することもできる。
【0047】
実施形態1と同様に、路面走行中、タイヤが地面との接触または分離による変形を受けない部分でのダイラタント層は、タイヤの回転による遠心力を受けて粒子が最密充填された状態となる。また、タイヤの変形の後でタイヤ全体に伝わる振動と、空気室の空気の共振による振動から、小さな剪断応力を受ける。このようなとき、ダイラタント層は液体のように振る舞って変形をおこし、ダイラタント層内の粒子同士が互いに擦れあって粒子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換する。ここで、さらにバインダー層が配置されることによって、ダイラタント層とバインダー層が互いに擦れあって熱エネルギーへの変換が生じる。したがって、タイヤ全体を伝わる振動と空気室の共振が減衰され、さらに騒音が低減される。すなわち、バインダー層を配置することによって、タイヤが地面との接触または分離による変形を受けない部分において、薄層構造部は振動騒音吸収体として機能し、ロードノイズをさらに低減することが可能である。
<製造方法>
【0048】
本実施形態のタイヤの製造方法は基本的に実施形態1と同様であり、相違点はバインダー層の形成の有無である。図6は、本実施形態のタイヤの製造方法の一例を示すフローチャートである。まず、ステップS0610において、ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層であるダイラタント層を含む薄層構造部を生成する(薄層構造部生成ステップ)。次に、ステップS0620において、薄層構造部を加熱処理と加圧処理によってタイヤ内部またはタイヤ内部表面付近に配置する(薄層構造部加圧処理ステップ)。
【0049】
まず、最初のステップである薄層構造部を生成するステップは、実施形態1と同様のダイラタント層の形成ステップ(S0611)にさらにバインダー層を重ねて形成するステップ(S0612)を追加したものである。ただし、ダイラタント層の結合材とバインダー層の材料とを同じ材料としてバインダー層を追加で形成することも可能であるし、バインダー層を追加的に形成しないで、ダイラタント層の最表面を改質する(積極的に分子の結合状態を変化させる、例えば何かの材料の吹きつけによる変化、光、例えば紫外線を照射することによる変化など)ことでバインダー層を形成することも可能である。
【0050】
なお、本実施形態の場合には、バインダー層によってダイラタント層が保護され、また、被覆される構成となるので、ダイラタント層を完成する中間工程においてはダイラタント層の粒子と結合材との一体性、あるいはダイラタント層の粒子同士の一体性はぜい弱なものであってもよい。例えば、熱と圧力に反応して初めて結合材となるような高分子化合物で被覆された粒子を用いることもできる。このような被覆を持つ粒子はタイヤの製造工程においてバインダー層となる薄いシート状の生ゴムによって挟まれ、加硫工程後にタイヤ内でダイラタント材料としての機能を満たすダイラタント層を形成することができる。
【0051】
薄層構造部はタイヤの構成要素の一つであるインナーライナー17の構造の一部分とすることも可能である。
【0052】
次に、前のステップにて形成された薄層構造部をタイヤと一体化するステップとなる。このステップは、基本的に実施形態1の薄層構造部加圧処理ステップと同様である。ただし、本実施形態においてはバインダー層が新たに加えられたので、その部分に関して以下に説明する。前述のとおり、前記薄層構造部生成ステップで生成した薄層構造部をタイヤ中間構造体の内部に配置して薄層構造部を含むグリーンタイヤを形成する。このグリーンタイヤを金型に入れ、加硫工程を実施する。この加硫工程において加熱加圧処理を行い、加硫され、薄層構造部がタイヤ内部に配置(固定)されたタイヤが出来上がる。この時、薄層構造部は、ダイラタント層内にて粒子が結合材中に分散された状態となるとともに、ダイラタント層およびバインダー層は熱と圧力に反応して上述の条件を満たす層を形成するような構造となる。
<効果>
【0053】
本実施形態のタイヤは、前記ダイラタント層を他の部材と接合したり、あるいは前記ダイラタント層を保護したりするための層である弾性を有するバインダー層を、ダイラタント層自身の上層又は/及び下層にさらに含むことで、ダイラタント層をより保護することが可能となる。また、振動騒音吸収効果も高めることが可能となる。
<<実施形態3>>
<概要>
【0054】
本実施形態のタイヤは、基本的に実施形態1、2と同様であるが、薄層構造部がタイヤ内部表面に配置されていることを特徴とする。
<構成>
【0055】
図7は、実施形態3における薄層構造部0700の配置を示すタイヤの断面図である。「タイヤ内部表面」(18)とは、タイヤを構成するゴムの部分のうち、タイヤ内部の空気が入っている部分と接触している部分であって、特にタイヤの接地面であるトレッド13の裏側の部分のことをいう。また、薄層構造部をタイヤ内部表面18に配置するとは、タイヤ内部表面18全てに薄層構造部を配置することの他に、タイヤ内部表面18の一部に薄層構造部を配置する構成も含まれるものである。また、タイヤ内部表面18に薄層構造部を配置した後に、さらに塗料などによって上塗りすることも可能である。
<製造方法>
【0056】
図8は本実施形態のタイヤの製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態の製造方法では薄層構造部をベースとなるタイヤの製造後に配置する点に特徴がある。
【0057】
この製造プロセスはさらに2種類に分類できる。一番目は、ベースとなるタイヤと別体として薄層構造部を製造し(薄層構造部形成ステップS0811)、後にベースとなるタイヤと、薄層構造部とを一体化するプロセス(内部表面接着ステップS0812)をもつ種類のものである(図8(a))。
【0058】
二番目は、ベースとなるタイヤを準備して、そのベースとなるタイヤの内部表面にダイラタント層又は/及びバインダー層を順次形成することで薄層構造部を製造し、同時に一体化するというプロセスをもつ種類のものである(図8(b))。
【0059】
ベースとなるタイヤの製造プロセスは一般的なタイヤの製造プロセスとほぼ同様であるのでここでの説明は省略する。ここでは、まず、一番目の種類の製造方法についてその一例を説明する(図8(a))。
【0060】
まず、薄層構造部形成ステップS0811で、シート状の薄層構造部を形成するための土台となるベースを準備する。このベースから最終的に薄層構造部は離脱させる必要があるので、ベースとダイラタント層との離脱性が必要である。またダイラタント層の下にバインダー層を付加する場合には、このバインダー層とベースとの離脱性が必要となる。このようなベースを準備し、ベース上にバインダー層とダイラタント層や、ダイラタント層をバインダー層でサンドイッチしたものを形成し、又は直接的にダイラタント層を形成することで薄層構造部を形成する。
【0061】
その後、内部表面接着ステップS0812で、ベースから形成された薄層構造部を離脱し、すでに完成しているベースとなるタイヤの内部表面に接着する。この接着は強固になされる必要がある。例えば、タイヤ内部表面を下地処理し、接着剤を薄く塗布し、薄層構造部を貼り付ける。または、薄層構造部のタイヤ内部表面対向面が接着性を有するものである場合には、その接着力を利用してタイヤ内部表面に薄層構造部を接着する。この接着性は結合材やバインダー層のもつ性質を利用してもよいし、これらとは別に前記対向面に接着剤を薄く塗布して得てもよい。
【0062】
また、シート状の生ゴムを準備して、この生ゴムの間に粒子を分散させ、加硫することでシート状の薄層構造部を得ることもできる。
【0063】
さらにまた、テープの間に粒子を挟み込むことでシート状の薄層構造部を製造することも可能である。このテープは、粒子を挟み込む側に結合材となる接着材を有し、テープで粒子を挟んだ状態で加圧などすることで、結合材中に分散した粒子を有する薄層構造部を製造することができる。その後、このようにして製造された薄層構造部をベースとなるタイヤの内部表面に接着する。
【0064】
次に二番目の製造方法について説明する(図8(b))。二番目は、ベースとなるタイヤを準備して、そのベースとなるタイヤ内部表面18にダイラタント層又は/及びバインダー層を順次形成することで薄層構造部を製造し、同時にタイヤと一体化するというプロセスをもつ種類のものである。
【0065】
まず、ベースとなるタイヤを準備し、このタイヤ内部表面18の下地処理を行う。これは、薄層構造部とタイヤ内部表面18との接着性を高めるための処理である。次に、タイヤ内部表面18にバインダー層とダイラタント層(バインダー層接着ステップS0821とダイラタント層接着ステップS0822)、バインダー層でサンドイッチされたダイラタント層(バインダー層接着ステップS0821とダイラタント層接着ステップS0822とバインダー層接着ステップS0823)又は直接的にダイラタント層(ダイラタント層接着ステップS0822のみ)を形成する。ここで薄層構造部接着ステップのうち、薄層構造部の構成によって、バインダー層接着ステップS0821又は/及びバインダー層接着ステップS0823は省略できる。これが薄層構造部となる。特に最初にベースとなるタイヤ内部表面18に形成される層は、ベースとなるタイヤ内部表面との接着性が高くなる材料を用いて形成する。薄層構造部の形成はベースとなるタイヤ内部表面18から順次積層することで行われる。
【0066】
例えば、結合材およびバインダー層に液状ゴムを用いる場合、加熱・加圧処理されたタイヤ内部表面18において液状ゴムを塗り、その上から粒子粉末をかけて、その上にさらに液状ゴムを塗り、ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層からなる薄層構造部をタイヤ内部表面18に形成することができる。
<効果>
【0067】
本実施形態のタイヤは、薄層構造部がタイヤ内部表面に配設されているためタイヤ内部に配設されていることに比べて、空気室の空洞共鳴音に対する効果を高くすることができる。
<<実施形態4>>
<概要>
【0068】
本実施形態のタイヤは、基本的に実施形態1から3と同様であるが、薄層構造部がダイラタント層を複数積層してなることを特徴とする。
<構成>
【0069】
上記のように、本実施形態のタイヤが有する「薄層構造部」はダイラタント層が複数積層されてなる。図9は、本実施形態における薄層構造部の構成の一例である。本実施形態では薄層構造部は二つのダイラタント層(0910)と三つのバインダー層(0920)から構成されている。ここで、複数のダイラタント層としては、異なる物性のダイラタント層を用いてもよいし、同じ物性のダイラタント層を用いていてもよい。
【0070】
ダイラタント層が複数積層されることによって、タイヤと地面との接触によって加圧による変形の開始をする部分、およびタイヤと地面との分離によって減圧による復元の開始をする部分においては、薄層構造部全体が同時に固くなるのではなく、タイヤの回転中心に一番近く、遠心力の負荷が小さい内側の層からその外側の層へと順に遠心力の負荷から解放され、漸次的に大きな剪断応力を受け、その大きな剪断応力の入力に対して層ごとに若干の時間差をもって粘性の増大が起こる。すなわち、ダイラタンシーの発揮のタイミングが漸次的になる。
【0071】
これにより、薄層構造部はタイヤのトレッドが接地した瞬間には粘性の増大が抑制され、接地面を形作るために必要な変形に極力抵抗とならないようにし、その後のタイヤのトレッドが地面を離脱するまでの変形が少ない時間帯にタイヤのトレッドの接地の瞬間に生じた衝撃の伝播で生じるタイヤの加振を重点的に抑制する作用をもつ。当該作用を有することにより、薄層構造部は振動抑制のためのマスダンパー的な機能を有する。すなわち、上記薄層構造部は、運動性能を悪化させずにタイヤに生じる振動の伝播を抑制し、騒音を低減することが可能である。
<効果>
【0072】
本実施形態のタイヤは、薄層構造部が複数積層されるため、タイヤの運動性能を悪化させることなく、マスダンパー的な効果をさらに高めることが可能となる。
<<実施形態5>>
<概要>
【0073】
前記薄層構造部を構成する複数のバインダー層のうちタイヤ回転中心からより外側に配置されるバインダー層は、急激な変形に対し、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層が、より内側のダイラタント層に対してダイラタンシーを示す反応がより遅くなるようにその構成が調整されている。
【0074】
この実施形態は、ダイラタント層が複数積層されている場合に、急激な変形に対し、タイヤ回転中心から見てより内側のダイラタント層がより早くダイラタンシーを発揮することができ、順次タイヤ中心から見て外側にあるダイラタント層がより遅くダイラタンシーを発揮するように構成するためのものである。
<構成>
【0075】
図10は、本実施形態における薄層構造部の構成の一例を示す概念的な図である。本実施形態では薄層構造部は複数のダイラタント層(1010)と複数のバインダー層(1021、1022、1023)を含む構成であり、かつ、このような漸次的な反応を示すことができるようにタイヤ中心から見てより内側のバインダー層の密度や厚みを大きくし、タイヤ中心から見てより内側のダイラタント層の変形がより外側のダイラタント層の変形よりも時間的に前に生じることができるような質量系を形作る。つまり薄層構造部を一つの質量系として見た場合に、タイヤ中心から見てより内側に配置されるバインダー層の質量がより大きくなる構成とする。
<効果>
【0076】
本実施形態のタイヤは、前記複数のダイラタント層のうち、タイヤ回転中心からより外側に配置されるものにおいて、急激な変形に対しダイラタンシーを示す反応がより内側の層に対して遅くなるようバインダー層の構成が調整されているため、タイヤの運動性能を悪化させることなく、マスダンパー的な性能をさらに高めることが可能になる。
<<実施形態6>>
<概要>
【0077】
本実施形態のタイヤは、基本的に実施形態1から5に記載のタイヤと同様であるが、前記複数のダイラタント層のうち、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層において、急激な変形に対しダイラタンシーを示す反応がより内側の層に対して遅くなるよう粒子とその結合材の構成が調整されている。
<構成>
【0078】
図11は、複数のダイラタント層からなる薄層構造部の一例を示す概念的な図である。この図の例では、一のダイラタント層(1111)と、他のダイラタント層(1112)、バインダー層(1120)が配置されている。このように、複数のダイラタント層を用いることによって、タイヤの運動性能を損ねることなく効果的なマスダンパーとして効果をもつことが可能となる。
【0079】
この場合、タイヤの回転中心からの距離と内側の層の荷重によってより大きな遠心力の負荷を受けることになる、より外側の層と、その内側の層とが変形時の力に対して同じ量のひずみを起こし、漸次的にダイラタンシーがあらわれるように粒子の大きさを調整することが好ましい。より好ましくは、より外側の層の粒子の大きさがより大きく、より大きな負荷を受ける状況下でも内側の層と同じ量のひずみを起こすようにすることが好ましい。
【0080】
また、薄層構造部は、厚み、密度、弾性の異なる複数のダイラタント層と、隣り合うダイラタント層の間、およびタイヤ壁、タイヤ内部空気室との間に設置されるバインダー層から構成することができる。
【0081】
この場合、ダイラタント層の厚み、結合材の密度、弾性は、急激な変形時に薄層構造部で効率よく漸次的にダイラタンシーがあらわれるように調整することが好ましい。より好ましくは、より外側のダイラタント層がより厚く、結合材の弾性が高いものとし、変形時の負荷からの解放に対しての反応がその内側の層に対して遅くなるように調整することが好ましい。
<効果>
【0082】
本実施形態のタイヤは、前記複数のダイラタント層のうち、タイヤ回転中心からより外側に配置されるものにおいて、急激な変形に対しダイラタンシーを示す反応がより内側の層に対して遅くなるよう粒子と結合材の構成が調整されているため、タイヤの運動性能を悪化させることなく、マスダンパーとしての性能をさらに高めることが可能になる。
【実施例1】
【0083】
前記ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置されたダイラタント層を構成するために使用した粒子は、粒径は45〜53μmのアルミナ粒子である。また結合材およびバインダー層を構成するのに使用したのは「液状ゴムスプレー」である。本実施例では、ダイラタント層を12層積層した。およその見積もりでは、粒子は隣接粒子との平均距離が50〜150μmで結合材中に分散されており、ダイラタント層とバインダー層を繰り返し積層して全体の厚は300〜500μm程度となる。このとき各層はでこぼこに形成されるので必ずしも層の数分の倍数の厚みにはならない(図12)。
【0084】
製造手順としては、まず、タイヤの内部表面に結合材を溶媒に溶かしてスプレイをする。スプレイ後ただちに粒子をその上に撒く。撒いた後しばらく待つ。その後再度結合材を溶媒にとかしたものをスプレイ(複数回に分けてスプレイしてもよい)して、次の粒子をその上に撒く。撒いたのちしばらく待つ。この粒子を撒くことと、スプレイとを必要な分、繰り返す。繰り返し回数は、一般に5回から20回程度である。この時には、結合材とバインダー層とは同じ材料、すなわち結合材の材料を利用していることとなる。この場合でもバインダー層をもうけることの機能の一つであるエネルギー消費作用が生じるのは、各層形成の際にスプレイされた液状ゴムが空気に接する時間(液状ゴムの溶けている溶媒が乾燥する時間)を適切に設定することによって最表面が所定の変質を起こし、実質的に境界が形成されるからである。または、バインダー層がない構造であるともいえる。いずれにしても、このような積層手順を用いることで、薄層構造部の厚み方向への粒子の分散性が高められ、適切にダイラタンシーが発現する積層構造部をつくることができる。
【0085】
使用したタイヤのサイズは195/65 R15であり、騒音測定は助手席のヘッドレスト部において測定した。測定条件は、気温摂氏24度、空気圧前2.2/後2.4kPa、走行速度60km/hであり、2名乗車のもとテストが行われた。
【0086】
図13は実施例での測定を粗い路面で行ったときの結果であり、150Hz近辺のピークで7dBの減少、120Hz近辺のピークで4dBの減少する効果があらわれた。図14は実施例でのテストを滑らかな路面で行ったときの結果であり、150Hz近辺のピークで4dBの減少、空洞共鳴音も若干減少する効果があらわれた。
【符号の説明】
【0087】
空気室 11
ホイール 12
トレッド 13
サイドウォール 14
カーカス 15
ラジアルベルト 16
インナーライナー 17
タイヤ内部表面 18
粒子 19
結合材 20
薄層構造部 0200、0700
ダイラタント層 0310、0510、0910、1010、1111、1112、1210
バインダー層 0520、0920、1021、1022,1023、1120、1220
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層であるダイラタント層を含む薄層構造部を有するタイヤ。
【請求項2】
前記薄層構造部は、
前記ダイラタント層を他の部材と接合し、前記ダイラタント層を保護するための層である弾性を有するバインダー層を、ダイラタント層自身の上層又は/及び下層にさらに含む請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記薄層構造部は、タイヤ内部表面に配置されている請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記薄層構造部は、複数のダイラタント層からなる請求項1から3のいずれか一に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記薄層構造部を構成する複数のバインダー層のうちタイヤ回転中心からより外側に配置されるバインダー層は、急激な変形に対し、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層が、より内側のダイラタント層に対してダイラタンシーを示す反応がより遅くなるようにその構成が調整されている請求項4に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記複数のダイラタント層のうち、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層は、急激な変形に対しダイラタンシーを示す反応がより内側のダイラタント層に対して遅くなるように粒子とその結合材の構成が調整されている請求項4又は5に記載のタイヤ。
【請求項7】
ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層であるダイラタント層を含む薄層構造部を生成する薄層構造部生成ステップと、
前記薄層構造部生成ステップにて生成した薄層構造部をタイヤの製造工程における加熱処理と加圧処理によって、タイヤ内部またはタイヤ内部表面付近に配置する薄層構造部加圧処理ステップを有するタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記薄層構造部は、
前記ダイラタント層を他の部材と接合し、前記ダイラタント層を保護するための層である弾性を有するバインダー層を、ダイラタント層自身の上層又は/及び下層にさらに含む請求項7に記載のタイヤの製造方法。
【請求項9】
ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層であるダイラタント層を含む薄層構造部を、加熱・加圧処理済みのタイヤ表面に備えつける薄層構造部接着ステップを有するタイヤの製造方法。
【請求項10】
前記薄層構造部は、
前記ダイラタント層を他の部材と接合し、前記ダイラタント層を保護するための層である弾性を有するバインダー層を、ダイラタント層自身の上層又は/及び下層にさらに含む請求項9に記載のタイヤの製造方法。
【請求項1】
ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層であるダイラタント層を含む薄層構造部を有するタイヤ。
【請求項2】
前記薄層構造部は、
前記ダイラタント層を他の部材と接合し、前記ダイラタント層を保護するための層である弾性を有するバインダー層を、ダイラタント層自身の上層又は/及び下層にさらに含む請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記薄層構造部は、タイヤ内部表面に配置されている請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記薄層構造部は、複数のダイラタント層からなる請求項1から3のいずれか一に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記薄層構造部を構成する複数のバインダー層のうちタイヤ回転中心からより外側に配置されるバインダー層は、急激な変形に対し、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層が、より内側のダイラタント層に対してダイラタンシーを示す反応がより遅くなるようにその構成が調整されている請求項4に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記複数のダイラタント層のうち、タイヤ回転中心からより外側に配置されるダイラタント層は、急激な変形に対しダイラタンシーを示す反応がより内側のダイラタント層に対して遅くなるように粒子とその結合材の構成が調整されている請求項4又は5に記載のタイヤ。
【請求項7】
ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層であるダイラタント層を含む薄層構造部を生成する薄層構造部生成ステップと、
前記薄層構造部生成ステップにて生成した薄層構造部をタイヤの製造工程における加熱処理と加圧処理によって、タイヤ内部またはタイヤ内部表面付近に配置する薄層構造部加圧処理ステップを有するタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記薄層構造部は、
前記ダイラタント層を他の部材と接合し、前記ダイラタント層を保護するための層である弾性を有するバインダー層を、ダイラタント層自身の上層又は/及び下層にさらに含む請求項7に記載のタイヤの製造方法。
【請求項9】
ダイラタントとして振る舞うように粒子とその結合材が配置された層であるダイラタント層を含む薄層構造部を、加熱・加圧処理済みのタイヤ表面に備えつける薄層構造部接着ステップを有するタイヤの製造方法。
【請求項10】
前記薄層構造部は、
前記ダイラタント層を他の部材と接合し、前記ダイラタント層を保護するための層である弾性を有するバインダー層を、ダイラタント層自身の上層又は/及び下層にさらに含む請求項9に記載のタイヤの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−52858(P2013−52858A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−279557(P2011−279557)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【出願人】(510005948)株式会社 アコースティックイノベーションズ (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【出願人】(510005948)株式会社 アコースティックイノベーションズ (2)
【Fターム(参考)】
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