説明

振幅制限増幅回路

【課題】差動出力信号間のオフセット電圧を充分に抑圧し、出力信号のデューティ比の悪化を防ぐこと。
【解決手段】差動振幅制限増幅器30と、該差動振幅制限増幅器の出力差動信号をオフセット電圧抑制のために前記差動振幅制限幅器の入力側にフィードバックする差動アクティブ・ローパスフィルタ回路40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システムの受信器等に使用される振幅制限増幅回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に差動の振幅制限増幅回路では、前段回路との接続が容量結合の場合、その正相入力信号VIN+の平均電圧(中心電圧、直流レベルとも呼ばれる。)と逆相入力信号VIN−の平均電圧が一致せず、例えば図7に示すように、正相信号の平均電圧と逆相信号の平均電圧のズレであるオフセット電圧が発生することがある。そして、このようにオフセット電圧を有する差動信号を振幅制限増幅回路に入力すると、その出力電圧のデューティ比が劣化してしまう。バーストデータを受信して一定の振幅まで増幅する振幅制限増幅回路においても、受信信号の振幅がバースト毎に異なる場合、振幅に合わせて正相信号の平均電圧と逆相信号の平均電圧を自動的に一致させる機構が必要になる。このとき、2つの入力信号VIN+,VIN−の平均電圧の一致度が悪く、オフセット電圧が発生していると、図8に示すように、出力信号VOUT+,VOUT−のデューティ比が悪くなる。
【0003】
そこで、従来では、図9に示すような振幅制限増幅回路が使用されている(非特許文献1)。ここでは、容量と抵抗を用いたCR型パッシブ・ローパスフィルタ回路60,70で2つの出力信号VOUT+,VOUT−の各々の平均電圧を検出し、それを前段の差動振幅制限増幅器30にフィードバックすることで、オフセット電圧をキャンセルする回路構成がとられる。
【0004】
図9の振幅制限増幅回路は、プリアンプなどの前段回路から出力された差動信号VIN+,VIN−が入力端子11,12から入力されるオフセット制御機能付き差動振幅制限増幅器30と、その差動振幅制限増幅器30の出力を所定の振幅に増幅するための差動増幅器50を縦続接続し、差動増幅器50の出力端子21,22に現れる出力電圧VOUT+,VOUT−を、容量と抵抗を用いた平均電圧検出用のパッシブ・ローパスフィルタ回路60,70を介して差動振幅制限増幅器30にフィードバックする構成となっている。なお、差動増幅器50は、増幅帯域を広くする必要があることから、1段当たりの利得が小さな差動増幅器を複数縦続接続した構成とすることもある。
【0005】
初段の差動振幅制限増幅器30は、差動信号の入力端子として正相入力端子IN1+と逆相入力端子IN1−を備え、かつ、正相側のパッシブ・ローパスフィルタ回路60から出力される平均電圧が入力される正相平均電圧入力端子IN2+と、逆相側のパッシブ・ローパスフィルタ回路70から出力される平均電圧が入力される逆相平均電圧入力端子IN2−とを備える。この差動振幅制限増幅器30は、正相平均電圧入力端子IN2+から入力される正相平均電圧と、逆相平均電圧入力端子IN2−から入力される逆相平均電圧に基づき、差動出力信号のオフセット電圧が零に近づくように制御される。
【非特許文献1】J.Savoj, B.Razavi "High-Speed CMOS Circuits for Optical Receivers", KLUWER ACADEMIC PUBLISHERS, p.16
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10はパッシブ・ローパスフィルタ回路60,70を用いた図9で説明した振幅制限増幅回路を一般化した回路図である。81は増幅器、83は加算器、84はフィードバック回路を構成するパッシブ・ローパスフィルタ回路である。この回路におけるステップ入力に対する過渡応答は、式(1)で表される。

ここで、C,Rは各々ローパスフィルタ回路84の容量値と抵抗値、Aは増幅器81の利得である。
【0007】
従って、残留オフセット電圧(図7のオフセット電圧相当)Voffは式(2)で表される。

ここで、利得Aは、入出力振幅から必要とされる値で決まるものであり、安定動作の観点からも必要以上に大きな値にすることはできない。このため、従来の回路では残留オフセット電圧Voffの最小値に限界があった。
【0008】
本発明の目的は、差動出力信号間のオフセット電圧を充分に抑圧でき、出力信号のデューティ比の悪化を防いだ振幅制限増幅回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1にかかる発明の振幅制限増幅回路は、差動振幅制限増幅器と、該差動振幅制限増幅器の出力差動信号を入力し前記差動振幅制限増幅回路の入力側にフィードバックしてオフセット電圧を抑制するフィードバック回路とを備えた振幅制限増幅回路において、前記フィードバック回路に、差動アクティブ・ローパスフィルタ回路を用いたことを特徴とする。
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の振幅制限回路において、前記差動振幅制限増幅器の後段に、1段又は2段以上の差動増幅器からなる増幅部を縦続接続し、前記差動アクティブ・ローパスフィルタ回路への入力を、前記差動振幅制限増幅器の出力差動信号から前記増幅部の出力差動信号に置換したことを特徴とする。
請求項3にかかる発明は、請求項1に記載の振幅制限増幅回路において、前記差動振幅制限増幅器の後段に、1段又は2段以上の差動増幅器が縦続接続された増幅部が接続されていることを特徴とする。
請求項4にかかる発明の振幅制限増幅回路は、請求項1に記載の振幅制限増幅回路を2段以上に亘って縦続接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の振幅制限増幅回路によれば、差動入力信号の平均電圧の間にオフセット電圧があっても、差動出力信号の平均電圧の間のオフセット電圧を充分に抑圧することができ、出力信号のデューティの悪化を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の振幅制限増幅回路は、容量と抵抗のみで構成されている従来のパッシブ・ローパスフィルタ回路の代わりに、増幅器を使用した差動アクティブ・ローパスフィルタ回路をフィードバック回路として用いる。その差動アクティブ・ローパスフィルタ回路を構成する増幅器の利得を充分にとることにより、ループ利得を大きくすることができ、残留オフセット電圧を抑圧することが可能となる。
【0012】
図1に一般化した、アクティブ・ローパスフィルタ回路82を用いたフィードバック回路を備える増幅回路の構成を示す。図10と異なるところは、フィードバック回路を構成するローパスフィルタ回路82を、増幅器821と容量Cと抵抗Rで構成した点である。この図1に示す増幅回路におけるステップ入力に対する過渡応答は、式(3)で表される。

Gは増幅器821の利得である。
【0013】
従って、残留オフセット電圧Voffは、

となり、増幅器821の利得Gを大きくとることにより、充分に抑圧することが可能となる。このとき、増幅器81の利得Aには影響を与えないので、利得Aの大きさは任意に設定することができる。この結果、CDR(Clock Data Recovery)回路など、後続の回路のタイミングマージンを拡大することができる。
【0014】
<第1の実施例>
図2は本発明の第1の実施例の振幅制限増幅回路の構成を示す図である。差動振幅制限増幅器30の出力は差動アクティブ・ローパスフィルタ回路40に入力される。差動振幅制限増幅器30は、入力信号が所定レベル以上の場合に、内部回路を飽和動作させて、出力信号を所定レベルに制限して出力する。ローパスフィルタ回路40は、差動増幅器41と容量C1,C2と抵抗R1,R2から構成される。このフィルタ回路40により、正相、逆相の出力電圧VOUT+,VOUT−の平均電圧が検出され、差動振幅制限増幅器30の入力側にフィードバックされる。差動振幅制限増幅器30の内部では、フィードバックされた平均電圧を用いて、正相、逆相の入力電圧VIN+,VIN−の平均電圧の差であるオフセット電圧をなくす方向に補正が行われる。差動アクティブ・ローパスフィルタ回路40内の差動増幅器41の利得を十分に大きくしておくことにより、オフセット電圧を小さくすることができる。
【0015】
差動振幅制限増幅器30の内部回路を図3に示す。この差動振幅制限増幅器30は、差動対トランジスタQ1,Q2、差動対トランジスタQ3,Q4、負荷抵抗RL1,RL2、及び電流源Ia,Ibから構成される。いま、正相入力端子IN1+と逆相入力端子IN1−に前段からの高速信号が入力し、オフセット正相入力端子IN2+とオフセット逆相入力端子IN2−にローパスフィルタ回路40の出力信号が入力するとする。
【0016】
このとき、正相入力端子IN1+と逆相入力端子IN1−に入力する電圧の平均値に差(オフセット電圧)があり、正相入力端子IN1+の平均電圧が逆相入力端子IN1−の平均電圧よりも大きくなったとすると、トランジスタQ1の平均電流がトランジスタQ2の平均電流よりも多くなるので、逆相出力端子OUT−の平均電圧が正相出力端子OUT+の平均電圧よりも、低くなる。
【0017】
そこで、正相出力端子OUT+の平均電圧をオフセット逆相入力端子IN2−に戻し、出力端子OUT−の電圧をオフセット入力端子IN2−に戻すと、トランジスタQ3の電流がトランジスタQ4の電流より少なくなる。
【0018】
この結果、負荷抵抗RL1に流れる電流I1と負荷抵抗RL2に流れる電流がほぼ同じになり、正相出力端子OUT+と逆相出力端子OUT−の平均電圧がほぼ一致し、オフセット電圧が無くなる。
【0019】
<第2の実施例>
図4は本発明の第2の実施例の振幅制限増幅回路の構成を示す図である。図2で示した第1の実施例では、1段の差動振幅制限増幅器30を使用したが、ここでは、その差動振幅制限増幅器30の後段に、1段あたりの利得が小さな複数の差動増幅器を縦続接続して構成した差動増幅器(増幅部)50を接続した。広帯域増幅器では1段あたりの利得を抑えて帯域を伸ばす必要があり、所定の利得を得るために複数段構成としなければならない場合が多いので、差動増幅器50を採用している。ここでは、差動増幅器50の出力を、差動アクティブ・ローパスフィルタ回路40に入力し、正相、逆相各々の平均値を検出して初段の差動振幅制限増幅器30にフィードバックさせる。差動アクティブ・ローパスフィルタ回路40に用いる差動増幅器41の利得を十分に大きくしておくことにより、オフセット電圧を小さくすることができる。
【0020】
<第3の実施例>
図5は本発明の第3の実施例の振幅制限増幅回路の構成を示す図であり、図2の第1の実施例と同様に初段の差動振幅制限増幅器30の出力を差動アクティブ・ローパスフィルタ回路40の入力とし、初段の差動振幅制限増幅器30の後段には図4の第2の実施例と同様の差動増幅器50を接続した。ここでも、差動アクティブ・ローパスフィルタ回路40に用いる差動増幅器41の利得を十分に大きくしておくことにより、オフセット電圧を小さくすることができる。
【0021】
<第4の実施例>
図6は本発明の第4の実施例の振幅制限増幅回路の構成を示す図であり、図2の第2の実施例における差動振幅制限増幅器30と差動アクティブ・ローパスフィルタ回路40からなる回路を複数段(図6では2段)縦続接続して、最終段に差動増幅器50を接続したものである。本実施例によれば、オフセット電圧キャンセル動作が複数段に亘って実施され、オフセット電圧の抑圧効果がより高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の原理説明用の増幅回路の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施例の振幅制限増幅回路の構成を示すブロック図である。
【図3】図2の差動振幅制限増幅器30の内部構成を示す回路図である。
【図4】本発明の第2の実施例の振幅制限増幅回路の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第3の実施例の振幅制限増幅回路の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第4の実施例の振幅制限増幅回路の構成を示すブロック図である。
【図7】差動入力電圧に現れるオフセット電圧の説明図である。
【図8】差動入力電圧のオフセット電圧による差動出力電圧のデューティへの影響の説明図である。
【図9】従来の振幅制限増幅回路の構成を示すブロック図である。
【図10】従来の増幅回路の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0023】
11:正相入力端子、12:逆相入力端子
21:正相出力端子、22:逆相出力端子
30:オフセット制御機能付き差動振幅制限増幅器
40:差動アクティブ・ローパスフィルタ回路、41:差動増幅器
50:差動増幅器
60,70:パッシブ・ローパスフィルタ回路
81:増幅器、82:アクティブ・ローパスフィルタ回路、83:加算器、84:パッシブ・ローパスフィルタ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動振幅制限増幅器と、該差動振幅制限増幅器の出力差動信号を入力し前記差動振幅制限増幅回路の入力側にフィードバックしてオフセット電圧を抑制するフィードバック回路とを備えた振幅制限増幅回路において、
前記フィードバック回路に、差動アクティブ・ローパスフィルタ回路を用いたことを特徴とする振幅制限増幅回路。
【請求項2】
請求項1に記載の振幅制限回路において、
前記差動振幅制限増幅器の後段に、1段又は2段以上の差動増幅器からなる増幅部を縦続接続し、前記差動アクティブ・ローパスフィルタ回路への入力を、前記差動振幅制限増幅器の出力差動信号から前記増幅部の出力差動信号に置換したことを特徴とする振幅制限増幅回路。
【請求項3】
請求項1に記載の振幅制限増幅回路において、
前記差動振幅制限増幅器の後段に、1段又は2段以上の差動増幅器が縦続接続された増幅部が接続されていることを特徴とする振幅制限増幅回路。
【請求項4】
請求項1に記載の振幅制限増幅回路を2段以上に亘って縦続接続したことを特徴とする振幅制限増幅回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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