説明

捲縮短繊維及びそれを含む湿式摩擦材

【課題】湿式摩擦材の機械的強度向上及び気孔率向上に適する捲縮短繊維及びそれからなる摩擦材を提供する。
【解決手段】下記要件を満足する有機高分子重合体からなる捲縮短繊維を特定量含む摩擦材とする。
a)長さ加重平均繊維長が0.5〜6mmであること。
b)長さ方向に直交する断面における繊維径Dが13μm以上であること。
c)平均カール度Cが20%以上であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能紙等の用途で使用される有機高分子重合体からなる捲縮短繊維及びそれを含む湿式摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリアミド繊維は高強度、高耐熱性を有するため、ブレーキパッド、ブレーキライニングなどの乾式摩擦材、オートマチックトランスミッションのクラッチフェーシングなどの湿式摩擦材、ガスケットなどシール材の補強用繊維といったアスベスト代替素材として広く用いられている。特に湿式摩擦材用途では、例えば特公昭58−47345号公報(特許文献1)や特開平11−201206号公報(特許文献2)などに開示されているように、繊維状材料と摩擦調整剤や固体潤滑剤等の各種無機フィラーを抄造して紙状の基材を得、これにフェノール樹脂等のバインダー樹脂を含浸して加熱硬化して製造される。
【0003】
一方、近年の自動車エンジンの出力増大や変速機の小型化による機械的強度の向上と、省エネの観点からエンジン出力を効率的に伝達するために摩擦係数の向上が主な要求項目となってきている。湿式摩擦材は油中に浸した状態で高圧をかけることによって高い摩擦係数を得ようとするものである。摩擦係数を向上するためには、1)オイル排出性を良好にし、2)圧縮弾性率を下げて相手材との接触面積を増加させる、つまりその気孔率を高めることが重要となる。しかし、気孔率を大きくすると機械的強度が低下してしまいジレンマとなっていた。
【0004】
湿式摩擦材はセルロースパルプや全芳香族ポリアミド繊維等の基材繊維と摩擦調整剤や体質充填材等の充填材とを抄造して得た抄紙体に、熱硬化性樹脂からなる樹脂結合剤を含浸し、加熱硬化して形成したものであり、軽量で安価であるだけでなく、材質が多孔質で比較的弾性にも富むため油吸収性が高く、しかも、耐熱性、耐摩耗性等にも比較的優れている等の特長を有しているため、このペーパー摩擦材が広く使用されている。全芳香族ポリアミド繊維そのものは引っ張り強度など機械的強度が優れる繊維素材ではあるが、湿式摩擦材等に一般に用いられている高度にフィブリル化した全芳香族ポリアミド繊維(全芳香族ポリアミドパルプ)からなる紙状物は、化学的な結合は持たず、微細なフィブリルの絡み合いによって繊維ネットワークを形成しているため、紙状物の機械的強度は絡み合いの強度に大きく依存する。したがって、抄造法のように繊維を2次元平面状に堆積させてシート化するため、面方向のネットワークは強固であるものの、紙厚方向は比較的弱く、大きなせん断力が加わると繊維間で剥離が生じ、その機械的強度は十分ではなかった。
【0005】
湿式摩擦材の機械的強度と気孔率の両立させる試みに関して、特開2003−147335(特許文献3)ではカールを有するアクリルチョップファイバーを添加して気孔率の確保を達成しているが、アクリル繊維同士の絡まりが少なく厚さ方向のせん断応力に対して十分でなく、又アクリル繊維では摩擦熱により軟化・溶融し、形態を維持できないという問題があった
【0006】
【特許文献1】特公昭58−47345号公報
【特許文献2】特開平11−201206号公報
【特許文献3】特開2003−147335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
湿式摩擦材の機械的強度及び気孔率向上に適する捲縮短繊維及びそれを含む湿式摩擦材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討の結果、主幹繊維にカールもしくは屈曲を有する、有機高分子重合体からなる捲縮短繊維を湿式摩擦材の原料繊維としたところ、機械的強度が高く、オイル透液性も良好な湿式摩擦材が得られることを見出した。
【0009】
即ち本発明によれば、
下記要件を満足する有機高分子重合体からなる捲縮短繊維。
a)長さ加重平均繊維長が0.5〜6mmであること。
b)長さ方向に直交する断面における繊維径Dが13μm以上であること。
c)次の式で表される平均カール度Cが20%以上であること。
平均カール度C=C0.5/N0.5
0.5;0.5mm以上の繊維の下記Cの総和
0.5;0.5mm以上の全繊維本数
C=(l−d)/l×100
l;繊維の総繊維長(カールの無い状態の長さ)(mm)
d;繊維の両端の距離(mm)
C;繊維のカール度
及びそれを湿式摩擦材全体重量に対して1〜50重量%含む湿式摩擦材が提供される。
【発明の効果】
【0010】
耐熱性が高い有機高分子からなる比較的繊維径の大きい短繊維の主幹繊維に捲縮を与えるたものを湿式摩擦材の原料として用いることで、主幹繊維の繊維間絡合の増加及び、単繊維の絶対強力の向上により摩擦材の機械的強度が向上する。さらに繊維の嵩高性が向上し、摩擦材中での繊維の充填率が低下するため、摩擦材の気孔率が向上する。したがって、本発明の繊維径の太く、主幹繊維に倦縮を有する繊維を含むことによって、機械的強度と気孔率の両方を兼ね備えた湿式摩擦材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における溶融温度が300℃以上である有機高分子重合体としては、分子配向度の高い液晶性高分子が好ましく、特に全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリベンザゾールが好ましく使用できる。これら液晶性高分子は、機械的強度、耐熱性、フィブリル化の容易さといった面から適している。その中で全芳香族ポリアミドが好ましく用いられる。
【0012】
全芳香族ポリアミドとしては、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド、ポリ−p−ベンズアミド、ポリ−p−アミドヒドラジド、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド−3,4−ジフェニルエーテルテレフタルアミドなど、また、芳香族ポリエステルとしては、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸などのモノマーを組み合わせた例えばp−ヒドロキシ安息香酸と2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸との共重合体が挙げられ、更に、ポリベンザゾール繊維はポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)ホモポリマーおよび実質的に85%以上のPBO成分を含みポリベンザゾール類とのランダム、シーケンシャルあるいはブロック共重合ポリマーなどが挙げられ、これら高分子重合体を公知の方法により紡糸延伸して繊維化して捲縮短繊維とする。
【0013】
ここで本発明の捲縮短繊維とは繊維の平均カール度C(上記捲縮短繊維の平均カール度Cと同様の式で算出される)の値が20%以上有する短繊維を指し、25%以上であることがより好ましい。平均カールが20%より小さい場合は、湿式摩擦材の原料としたときに主幹繊維の繊維間絡合への寄与が小さく、十分な機械的強度が得られないだけでなく、気孔率も不十分となる。捲縮形態は図1のような直線的な屈曲、図2のように変曲点を有する曲線的な屈曲、図3のような3次元的な屈曲のいずれの形態でも構わない。
【0014】
又本発明の捲縮短繊維の長さ加重平均繊維長は0.5〜6mmが好ましく、0.8〜3mmがより好ましい。繊維長が0.5mmより小さい場合は繊維の補強効果が低く、6mmを超える場合は抄造工程での繊維分散が悪化するため好ましくない。
【0015】
上記のような捲縮短繊維を得る方法としては、長繊維に仮撚り倦縮、押し込み倦縮、ニット・デニットなどの公知の倦縮加工を施した後、ロータリーカッター、ギロチンカッターなど公知のカッティング装置を用いて作成できるが、所望の捲縮短繊維が得られればその製造法は問わない。
【0016】
また、本発明の捲縮短繊維は主幹繊維に微細なフィブリルを有するフィブリル化繊維であってもよく、フィブリル化度合いを示す指標の一つである比表面積(窒素ガスの吸着によるBET法など公知の比表面積測定装置で測定できる)としては、12m/g以下が好ましく、7m/g以下がより好ましく、5m/g以下がさらに好ましい。比表面積が12m/gを超える短繊維は微細なフィブリルを過度に有しており、微細なフィブリルが多すぎると気孔率の低下を招き好ましくない。
【0017】
フィブリル化繊維を得る方法としては一般的には短繊維を水に分散させて公知のリファイナーやビーター、ミル、高圧ホモジナイザー、摩砕装置等の処理により主幹繊維表面に微細な毛羽を多数有する繊維をさすが、繊維表面に毛羽が形成されれば上記手法に限らない。
【0018】
本発明でいう捲縮短繊維の繊維径Dとは主幹繊維の繊維径を指し、13μm以上が好ましい。13μm未満の場合、湿式摩擦材の原料として用いた場合、繊維が過度に充填され、湿式摩擦材としての十分な気孔率が確保できない。好ましくは13〜50μmである。
【0019】
本発明では湿式摩擦材の作成において上記捲縮短繊維に他のパルプ成分を配合して使用することも可能である。リンターパルプや木材パルプ等のセルロース繊維、パラ型アラミドパルプ、パラ型アラミドフィブリッド、メタ型アラミド繊維、メタ型アラミドフィブリッド、アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維や、ガラス繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、金属繊維などの無機繊維を繊維状材料として併用することができる。紙状物基材として機械的強度や耐熱性が損なわれない適量の範囲で併用される。
【0020】
本発明における無機フィラーは、摩擦調整や固体潤滑等を目的に添加され、例えば硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭化ケイ素、炭化チタン、アルミナ、シリカ、カシューダスト、珪藻土、グラファイト、タルク、カオリン、酸化マグネシウムなどを1種類または複数種を同時に適量用いることができる。
次に本発明の製造方法の一例を示すが、これに限定するものではない。
【実施例】
【0021】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
<捲縮短繊維の物性評価>
(捲縮短繊維の繊維径D)
電子顕微鏡(日本電子製、JSM6330F)を使用して主幹繊維の直径を計測した。サンプルの調整は繊維をエタノール中に分散させたものを試料台に滴下して乾燥させたものを用いた。試料台に乗っている繊維から、ランダムに10本を選び計測対象とした。
【0023】
(捲縮短繊維の平均カール度、加重平均繊維長、本数の測定)
測定は市販のパルプ繊維長測定装置(メッツォオートメーション製、Pulp Expert Fiber Analyzer)を用いて次の手順に従って行った。
1)繊維を絶乾重量で1.5g秤量し、水1.5Lとともに公知の離解機を用いて離解する。
2)Pulp Expert Fiber Analyzerの4本のサンプルチューブに離解スラリーを50ccづつに投入し、測定を開始。
【0024】
尚、Pulp Expert Fiber Analyzerには顕微鏡とCCDカメラが併設されており、繊維スラリーを攪拌しながら繊維画像を撮影し、1水準につき約400枚の画像を元に画像解析により平均カール度、長さ加重平均繊維長などを算出する。
0.5mm以上の全繊維本数N0.5のカウントは、Pulp Expert Fiber Analyzerで撮影した400枚のうちのランダムに4枚の画像を選び出し、繊維長で0.5mm以上の繊維を対象に行った。画像の一例を図4に示す。
【0025】
(捲縮短繊維の比表面積測定)
市販の比表面積測定装置(島津製作所製、フローソーブIII 2310)を用いた。
【0026】
[実施例1]
パラ型アラミドフィラメント(帝人アラミド製、トワロン1008 単糸直径=15μm)を用いて編み密度25本/inchの天竺編の編み物とした後、300℃×10分間の熱セットを行い、編地を解編してパラ型アラミド長繊維フィラメントに捲縮を付与した。その後、この長繊維フィラメントをギロチンカッターを用いてカット長=約3.5mmでカットして本発明の捲縮短繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0027】
[実施例2]
パラ型アラミドステープル(帝人アラミド製、トワロンD3078 単糸直径=15μm)を用いて、綿番手20番手の紡績糸を作成した。その後、この紡績糸を用いて編み密度25本/inchの天竺編のニットとした後、300℃×10分間の熱セットを行い、編地を解編してパラ型アラミド紡績糸に捲縮を付与した。その後、この紡績糸をギロチンカッターを用いてカット長=約3.5mmでカットして本発明の捲縮短繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0028】
[実施例3]
パラ型アラミドフィラメント(帝人アラミド製、トワロン1008)をリング式撚糸装置を用いて撚り回数=400回/mで撚糸加工を行い金属製のボビンに巻きとった後、300℃×10分間の熱セットを行った。得られた撚り糸をギロチンカッターを用いてカット長=約3.5mmでカットして本発明の捲縮短繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0029】
[実施例4]
実施例2において作成した本発明の捲縮短繊維を用いて固形分濃度0.2wt%の水分散体を調整後、既存のディスクリファイナー(熊谷理機製;KRK高濃度ディスクリファイナー)を用いてクリアランス=0.02mm、パス回数=3の処理条件で処理しフィブリル化した捲縮短繊維を得た。
【0030】
[実施例5]
実施例4においてディスクリファイナーのパス回数=7としたこと以外は、同様の方法で捲縮短繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0031】
[比較例1]
実施例2においてパラ型アラミドステープル(帝人アラミド製、トワロン1072 単糸直径=12μm)を用いたこと以外は、同様の方法で捲縮短繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0032】
[比較例2]
実施例2において、熱セット温度を100℃×10分間としたこと以外は、同様の方法で捲縮短繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0033】
[比較例3]
実施例4においてディスクリファイナーのパス回数=15としたこと以外は、同様の方法でフィブリル化捲縮短繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0034】
実施例1〜5は比較例1、3と比べて、原料として用いた原糸の繊維径が大きいため得られた捲縮短繊維及びフィブリル化捲縮短繊維の繊維径Dも大きくなっている。また、実施例2は比較例2と原糸の繊維径が同等であるが熱セット温度が高いため、捲縮形状の保持性に優れ、平均カール度が大きいものであった。
一方、実施例4,5は比較例3と比べて、ディスクリファイナーのパス回数が少ないため、過度のフィブリル発生が抑えられ比表面積が小さいものであった。
【0035】
<摩擦材の作成>
[実施例6]
2Lの水に、実施例1の本発明の捲縮短繊維を5重量部、アラミドパルプ(帝人アラミド製、トワロン1099、繊維径D=12.7μm、長さ加重平均繊維長=1.00mm、比表面積=9.9m/g、平均カール度=18.2%)を45重量部に珪藻土(商品名「ラヂオライト#200」、昭和化学工業株式会社製)を50重量部添加し、これをJIS標準離解機にて3000rpmで3分間離解して、スラリーを得た。更にこのスラリーを、TAPPI式角型抄紙機で抄造し、プレス脱水した後、120℃の乾燥機で2時間乾燥させることで、目付けが250g/mの紙状物を得た。
【0036】
次に、得られた紙状物を、液状フェノール樹脂(品番PR−53123、住友ベークライト(株)製)をメタノールにて希釈した、濃度が16重量%のフェノール樹脂メタノール溶液に浸漬してフェノール樹脂を含浸し、その後室温で24時間乾燥してプリプレグを得た。さらにこのプリプレグを、プレス機によって60kg/cmの面圧により180℃で5分間プレスを行ない、さらに180℃のオーブン中で2時間硬化させることにより、捲縮短繊維/アラミドパルプ/無機フィラー/バインダー樹脂=3.8/34.6/38.5/23.1(重量比)の組成を持つ摩擦材試料を得た。
【0037】
[実施例7]
実施例6において実施例1の捲縮短繊維の代わりに実施例2の捲縮短繊維を用い、離解機の条件を強くして理解させたこと以外は同様の方法で摩擦材試料を得た。
【0038】
[実施例8]
実施例7において実施例2の捲縮短繊維の配合量を10重量部とし、アラミドパルプの配合量を40重量部としたこと以外は同様の方法で捲縮短繊維/アラミドパルプ/無機フィラー/バインダー樹脂=7.7/30.7/38.5/23.1(重量比)の組成を持つ摩擦材試料を得た。
【0039】
[実施例9]
実施例6において実施例1の捲縮短繊維の代わりに、実施例3の捲縮短繊維を用いたこと以外は同様の方法で摩擦材試料を作成した。
【0040】
[実施例10]
実施例6において実施例1の捲縮短繊維の代わりに、実施例4のフィブリル化捲縮短繊維を用いたこと以外は同様の方法で摩擦材試料を作成した。
【0041】
[実施例11]
実施例6において実施例1の捲縮短繊維の代わりに、実施例5のフィブリル化捲縮短繊維を用いたこと以外は同様の方法で摩擦材試料を作成した。
【0042】
[比較例4]
実施例6において実施例1の捲縮短繊維の代わりに、比較例1の捲縮短繊維を用いたこと以外は同様の方法で摩擦材試料を作成した。
【0043】
[比較例5]
実施例6において実施例1の捲縮短繊維の代わりに、比較例2の捲縮短繊維を用いたこと以外は同様の方法で摩擦材試料を作成した。
【0044】
[比較例6]
実施例6において実施例1の捲縮短繊維の代わりに、比較例3のフィブリル化捲縮短繊維を用いたこと以外は同様の方法で摩擦材試料を作成した。
【0045】
[比較例7]
実施例6において捲縮短繊維を配合せず、アラミドパルプを50重量部としたこと以外は同様の方法で摩擦材試料を作成した。
【0046】
得られた摩擦材試料の物性評価を以下の方法で実施した。
<摩擦材の気孔率測定>
JIS R1655に準じ、市販の気孔率測定装置(島津製作所製、オートポアIV 9520)を用いて水銀圧入法により測定した。60vol%以上を合格とした。
【0047】
<摩擦材の物性評価>
摩擦材耐剥離性評価は、市販の摩擦磨耗試験機(株オリエンテック製、EFM−III−EN/F)に3脚リング状圧子(硬質クロムメッキベアリング鋼、外径25.4mm、内径20mm)を取り付け、脚部を摩擦材試料に押し付けながら回転させ、摩擦材試料表面が剥離するまでの回転数をカウントした。このときの試験条件は負荷荷重59N、常温油中、100rpmで行った。図5に試験法の様子を示す。
【0048】
<オイル透液性>
オイル透液性の評価は、Automatic Transmission Fluid(ATF)をスポイドで摩擦材試料表面に約0.1cc滴下し、滴下面の裏面にATFが浸透するまでの秒数を測定した。
表2に摩擦材試料の気孔率、耐剥離性及びオイル浸透性評価結果を示す。尚、数値はN数=5で評価を実施したものの平均値である。
【0049】
実施例6〜9は比較例4と比べて繊維径Dが大きい捲縮短繊維が配合されているため、気孔率が大きくオイル透液性に優れ、さらに繊維一本の絶対強力が大きいこと、又比較例5と比べて平均カール度の大きい捲縮短繊維が配合されているため摩擦材試料中での繊維間の絡まり点が増加することにより、優れた耐剥離性を示した。
【0050】
一方、実施例10、11は比較例6に比べると比表面積が小さく微細なフィブリルが少ないフィブリル化捲縮短繊維が配合されており、また、比較例7と比べると繊維径D及び微細なフィブリルが少ないフィブリル化捲縮短繊維が配合されているため、高い気孔率と優れた耐剥離性を示した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の捲縮短繊維により低密度でも繊維間の絡まり強度が高い湿式摩擦材が得られ、大きなせん断力が加わり且つ密度を低く抑えることが要求される自動車等のオートマチックトランスミッション用摩擦材、ロックアップクラッチ用摩擦材、マニュアルトランスミッション用のシンクロナイザーリング用摩擦材などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】山谷の捲縮を有する捲縮短繊維の模式図(山谷がシャープなもの)
【図2】山谷の捲縮を有する捲縮短繊維の模式図(山谷がなだらかなもの)
【図3】山谷の捲縮を有する捲縮短繊維の模式図(3次元屈曲を有するもの)
【図4】Pulp Expert Fiber Analyzer撮影画像の一例(本発明の捲縮短繊維例)
【図5】耐剥離試験法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の要件を満足ことを特徴とする有機高分子重合体からなる捲縮短繊維。
a)長さ加重平均繊維長が0.5〜6mmであること。
b)長さ方向に直交する断面における繊維径Dが13μm以上であること。
c)次の式で表される平均カール度Cが20%以上であること。
平均カール度C=C0.5/N0.5
0.5;0.5mm以上の繊維の下記Cの総和
0.5;0.5mm以上の全繊維本数
C=(l−d)/l×100
l;繊維の総繊維長(カールの無い状態の長さ)(mm)
d;繊維の両端の距離(mm)
C;繊維のカール度
【請求項2】
有機高分子重合体が炭化又は溶融温度が300℃以上である有機高分子重合体である請求項1記載の捲縮短繊維。
【請求項3】
有機高分子重合体が全芳香族ポリアミドである請求項1〜2いずれかに記載の捲縮短繊維。
【請求項4】
請求項1〜3の捲縮短繊維を摩擦材全重量に対して1〜50重量%含むことを特徴とする湿式摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−228183(P2009−228183A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77899(P2008−77899)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】