説明

排ガス再循環型ガスタービン設備

本発明は、水素濃度の高い燃料ガスを用いて、低いNOx排出量で確実にガスタービン設備を運転するための方法と、圧縮機入口への再ガス再循環し、燃料ガスを希釈するための装置を具備するガスタービン設備とに関する。
この目的のために、冷却された排ガス(24)を再循環することによって燃焼用空気中の酸素濃度が低減され、燃料ガス(5および10)が、圧縮された排ガス(28および29)で希釈される。燃焼用空気中の酸素の減少によって、排ガス(13)中の残留酸素が最少となり、従って、この排ガスを燃料ガスの希釈のために用いることができる。さらに、排ガスの再循環によって、燃焼生成物として発生した水が帰還することで、燃焼用空気の水分含量が上昇する。燃料ガス中の酸素の減少、燃料ガス中の高い水分含量および燃料ガスの希釈によって、水素濃度の高い燃料ガスの火炎伝播速度が低減され、従って、逆火に対してロバスト性を有する、低排出で確実な燃焼が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素濃度の高い燃料ガスを用いてガスタービン設備を運転するための方法であって、排ガス再循環によって燃焼用空気の酸素濃度を低下させることによって、逆火に対してロバスト性を有する方法に関し、さらに、この方法を実施するための装置を備えているガスタービン設備に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンにおける水素の燃焼または水素濃度の高い燃料の燃焼に関する研究および開発は、実質上、2つの要因によって促進される。
【0003】
1つは、温室効果ガス、特にCOの排出量を削減することに全世界的な関心があることである。この削減に対する1つの可能な方策は、従来の化石燃料を水素ベースのエネルギー供給に転換することである。この方策は、まず、当面のところ、水素の合成とCOの固定とを利用しながら、従来の化石原料を基にして実施することができる。
【0004】
もう1つは、天然ガス埋蔵量に限りがあるので、従来の種類の燃料を燃焼する代わりに、あるいはその燃焼と組み合わせて、合成処理されたガス状の燃料を用いることが考えられているという点である。このような合成処理されたガス状の燃料は、例えばIGCC(Integrated Gasification Combined Cycle:ガス化複合発電)に見られるが、これらの燃料は、水素濃度が高い場合が多い。
【0005】
ガスタービンの従来の燃焼システムにおける水素の燃焼は、水素の火炎伝播速度が大きく、着火遅れ時間が短いので、周知のように、技術上の諸問題、例えば逆火や大きなNOx排出量という問題を生じる。
【0006】
対策としては、単純に運転レベルを下げること以外に、Nまたは他の不活性ガスを含む水素濃度の高い燃料を希釈するという方法が可能であり、特に、燃焼用空気または燃料ガスを蒸気で希釈するための様々な考え方が公知である。この場合、蒸気が注入されるか、あるいは、空気通路または燃料システムの中で気化させるための水が注入される。
【0007】
NOx排出量を削減するために、文献にはさらに「マイルド燃焼(Mild Combustion)」や「無炎燃焼(Flameless Combustion)」など様々な方策が紹介されている。これらの場合、排ガスの一部を再循環することによって、燃焼用空気の酸素濃度が低減される。これに関連して、特許文献1では、タービン内での膨張前に、燃焼用空気の一部分を燃焼室の周囲に再循環させ、圧縮機出口空気と混合させることが提案される。
【0008】
特許文献2では、例えばアンモニア含有燃料ガスの燃焼の際に生じるような、窒素含有燃料燃焼時におけるNOx排出量の増大の問題が扱われている。そこでは、このいわゆる「燃料NOx」を低減するために、タービンから排出された後、排ガスをさらに冷却して、圧縮機の入口で混合するか、あるいは、別個の排ガス圧縮機で圧縮して、燃焼室の入口で混合することにより、酸素濃度が好ましくは14%から16%の場合にNOx排出量を最小にすることが提案される。
【0009】
さらに、排ガス再循環は、排ガス中のCO濃度を上昇させるために、同時にまた、排出される排ガス量を削減するために、従ってまた、排ガスからCOを取り出す際のコストを低減するために用いられることが公知である(非特許文献1)。
【0010】
排ガス再循環の1つの特殊な形態は、排ガスの一部を燃料ガス内に再循環し、燃焼ガスと混合することである。燃料ガスへの排ガス再循環というこの形態は、特許文献3によって公知である。そこでは、排ガスは、ガスタービン設備の下流側に接続された、排熱を利用するための装置から排出された後、排ガス圧縮機によって圧縮される。圧縮された排ガスは、燃料ガスと混合されて改質装置に供給され、その後、改質されたガスは燃焼室の中へ運ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】独国特許第10297365号明細書
【特許文献2】独国特許第19810820号明細書
【特許文献3】米国特許第5595059号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】P. Chiesa, S. Consonni: Natural Gas Fired Combined Cycles with Low CO2 Emissions, Journal of Engineering for Gas Turbines and Power, Vol. 122, ASME, July 2000, p.429−436
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、タービンにおいて水素濃度の高い燃料ガスを燃焼する際に、特に逆火に対してロバスト性を有し、CO排出量およびNOx排出量が低い確実な燃焼を実現することである。これは、特に、水素濃度の高い燃料ガスの着火遅れ時間が短く、火炎伝播速度が大きい場合に困難であり、このような燃料ガスの場合、排出量を削減するために不可欠な、空気と燃料ガスとの良好な予混合が難しくなる。この課題で言う水素濃度の高い燃料ガスとは、水素成分が約30%から100%である燃料ガスを意味するものとする。これは、例えば合成ガスであっても、純水素であってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題を解決するために、本発明では、ガスタービン設備の燃焼用空気中の酸素濃度を、排ガスの再循環によって低減するための方法が提案される。
【発明の効果】
【0015】
水素燃焼の基本的な問題については、図1を参照しながら説明することができる。この図には、理論空燃比Φに対する、雰囲気条件下における空気中の水素(A)の火炎伝播速度と空気中のメタン(B)の火炎伝播速度とが示されている。天然ガス(通例90%以上のメタン成分を含む燃料)は、ほぼ化学量論的燃焼(Φ=1、燃料ガスとの反応時に空気中の酸素全てが消費される)である場合に最大の火炎伝播速度に達し、濃混合気の場合には直ぐに火炎伝播速度の明白な低下を示すが、このような天然ガスの場合とは異なり、水素火炎は、Φが2弱の濃混合気の場合に最大火炎伝播速度に達する。燃焼可能な範囲と大きな火炎伝播速度とは、非常に濃厚な混合気の場合にまで広がる。タービンに適切な対策が講じられていない場合、濃混合気におけるこの大きな火炎伝播速度によって、水素濃度の高い燃料が噴射された直後に発火が生じ、空気−燃料混合気の逆火が発生する。従って、圧縮機出口空気との混合によって燃料濃度が十分に低下する前に、着火が行われてしまう。この場合、火炎は、制御不能に燃焼器の中へ逆行し、燃料濃度が局所的に高くなることによって、非常に高い温度ピークが生じ、それに応じてNOx排出量が増大する。さらに、この逆火の結果、燃焼装置が、短時間のうちに損傷する恐れがある。
【0016】
酸素濃度を低下させるために、排ガスの一部を圧縮機吸気流の中へ再循環させることが提案される。圧縮機内への入口温度を排ガス再循環によって余りに上昇させ過すぎることがないように、再循環される排ガスは混合前に冷却される。例えば、ガスタービン設備は、排熱を利用するためのボイラに連結されている。排ガスは、ボイラから出た後かつ吸入空気への再循環の前に、冷却器でさらに冷却される。
【0017】
上記提案に係る酸素濃度の低下によって、火炎伝播速度が低減され、また着火遅れ時間が長くなり、これにより、逆火に対する安全性が増大する。さらに、この酸素濃度の低下によって、燃料ガスと燃焼用空気とをより良好に混合することが可能となる。このことは、火炎のピーク温度の低下につながり、従ってまた、NOxの削減につながる。燃焼用空気の酸素濃度が低ければ低いほど、この効果は大きくなる。従って、再循環される排ガスの割合は、可能な限り大きくなるように選定すべきである。しかし、この再循環率には上限がある。なぜなら、圧縮機入口手前での新鮮空気質量流への混合後、酸素濃度は十分な高さでなければならず、これにより、ガスタービン設備の単数または複数の燃焼室での完全な燃焼を実現することができるからである。
【0018】
水素濃度の高い燃料ガスを用いて運転されるガスタービン設備における排ガス再循環のまた別の利点は、水素の燃焼時に生じる水分を、燃焼用空気の希釈のために利用することである。従って、発生した、排ガスに含まれる水蒸気の大部分は、再び燃焼ガスに供給されて、そこで希釈の働きを担い、同時にまた、反応速度を抑制する働きを担う。
【0019】
1つの実施態様では、燃料ガスを希釈するために排ガスを用いることが提案される。これは、上述の排ガス再循環を利用することによってのみ可能である。なぜなら、この再循環によって、燃料ガス−排ガス混合気の逆火が防止される程度にまで、排ガスの残留酸素濃度を低下させることができるからである。また、燃料ガスを希釈することで、火炎伝播速度が低下し、従ってまた、逆火に対する安全性が向上する。さらに、この希釈によって、燃料ガスと燃焼用空気とをより良好に混合することが可能となる。これにより、火炎のピーク温度が低下し、従ってまた、NOx排出量がさらに削減される。再循環される排ガスは、燃料ガスに混入できるように圧縮されねばならない。圧縮作業を軽減するために、圧縮前に排ガスを冷却することができる。
【0020】
さらに、圧縮中に中間冷却することによって、圧縮作業を最小限にすることが可能である。また、圧力比が大きい場合、燃料ガスの希釈の際に残留酸素が燃料ガスと化学反応することを防止するために、圧縮される排ガスを中間冷却または冷却することが必要となる場合がある。中間冷却は、例えば水を注入することで実施することができる。このことはまた、燃料ガスに、反応速度を抑制する働きをする水が直接混合されるという利点を伴う。
【0021】
中間冷却のために水を注入する場合、および、圧縮機の前または中および燃料ガスの中に水を注入する他の全ての実施態様の場合、水滴を迅速に気化することを保証するために、および、液滴エロージョンまたは液滴の溜まりを防止するために、水を確実に十分に細かく霧化する必要がある。
【0022】
周囲条件、ガスタービン設備の運転条件、冷却温度、および再循環される質量流量の割合によっては、冷却の際に、再循環される排ガスに含まれる水蒸気の凝縮が生じる可能性がある。凝縮水は、圧縮機のエロージョン損傷を避けるために、適当な方法によって取り除く必要がある。凝縮水は、処理後、冷却および/または中間冷却のために、圧縮機の前および/または圧縮機の中において、吸入空気に対して、および/または燃料希釈用に備えられた再循環される排ガスに対して霧状に注入することができる。必要とされる、凝縮水の処理は、凝縮水の純度に依存する。これはまた、用いられる燃料ガス、入口空気のフィルタリングおよび周囲条件にも依存する。圧縮機吸入空気がきれいで、燃料ガスが汚れていない理想的な場合には、この準備は、保安フィルタに対して行うだけでよい。
【0023】
この再循環法は、排ガス中に残留する酸素濃度が最小限になるように実施する必要がある。しかし、圧縮機入口手前での新鮮空気質量流への混合後にも、酸素濃度が、ガスタービン設備の単数または複数の燃焼室での完全な燃焼のために必要な高さに維持されているように、再循環される排ガスの割合が選定されねばならない。
【0024】
例えば、排ガス中の残留酸素は、約3%にまで低減することができる。この残留酸素は、運転パラメータならびにガスタービンの構造様式および大きさに依存する。重要な運転パラメータは、例えば圧縮機入口温度、高温ガス温度および圧縮機案内羽根の配置である。用いられる冷却技術と、それに関連する、空気全体に対する燃焼室近傍を通過する冷却空気の割合とが、残留酸素に決定的な作用を及ぼすパラメータである。
【0025】
連続燃焼型のガスタービン設備における1つの実施態様では、再循環される質量流量の割合は、例えば吸気質量流量の約55%である。この値は、全負荷運転時の典型的な値である。運転パラメータおよびガスタービンの設計に応じて、この値と明らかに異なる場合がある。再循環される質量流量の割合は、排ガス中の残留酸素を最小限にする要件から算定される。
【0026】
1つの実施態様では、排ガス質量流量のうちのほぼ一定の割合が、無制御で分岐され、再循環される。再循環される排ガス質量流量のこの割合は、全負荷に合わせて、または逆火との関連性が最も大きな運転条件に合わせて、または他の運転パラメータに合わせて設定することができる。これが可能であるのは、特に、水素の割合が50%を明白には超えていない合成ガスの場合であり、かつ、酸素濃度が最適に低減されていないときにも逆火の発生までまだ十分に余裕がある合成ガスの場合である。また、この種の単純な排ガス分割は、逆火を防止するための制御式の他の対策と組み合わせて再循環を実施する場合にも可能である。例えば、タービン設備が設計点とは異なる条件下で運転される場合には、また別の対策と組み合わせる必要があるかもしれない。例えば、排ガス分割および再循環が固定的である場合、燃料ガスの希釈を、窒素または蒸気を外部から供給することによって行うことも考えられる。この場合、再循環される排ガスの供給後に圧縮機入口空気に存在している残留酸素濃度に応じて、燃料ガスの希釈が制御される。ガスタービン設備の部分負荷が小さく、酸素のわずかな一部分しか燃焼に消費されないことで、残留酸素濃度が上昇するような場合には、外部から供給される窒素また蒸気を用いて燃料ガスの希釈を強力に行う必要がある。残留酸素が減少するにつれて、希釈は軽減することができる。この実施態様の場合、燃料ガスの組成、タービン設備の運転パラメータ、燃焼器の設計および排ガス中の残留酸素によっては、燃焼器およびFDS(Fuel Distribution System:燃料分配システム)への逆火が発生する危険性があるので、再循環される排ガスを用いた燃料ガスの希釈を所定の運転条件の場合に限定する必要があるか、あるいは、この希釈をそもそも実施できないこともある。
【0027】
また別の実施態様の場合、再循環される排ガス質量流量の割合は、少なくとも1つの適当な調整機構によって制御される。制御の基準値は、第1の下位実施態様では、排ガスの残留酸素濃度である。この場合、再循環される排ガスを用いて燃料ガスを希釈することに重きがある。第2の下位実施態様では、燃焼用空気の酸素濃度が制御の基準値である。この場合に重きが置かれているのは、再循環によって、逆火に対してロバスト性を有する燃焼を実施することである。これらの実施態様は、単独でも組み合わせても実現することが可能である。この両変数の制御を組み合わせることによって、高い冗長性が得られ、従ってまた、安全性が向上する。さらに、この組み合わせによって、設計標準とは異なる運転条件の場合に両パラメータを許容限界内に維持することが保証される。
【0028】
残留酸素濃度の基準値の制御では、残留酸素濃度の「実値」と基準値との比較が行われる。実値が基準値よりも大きい場合、再循環率は増大される。実値が基準値よりも小さい場合は、再循環率は低減される。
【0029】
1つの実施態様では、排ガス中あるいは燃焼用空気中の残留酸素濃度の基準値が、一定値に選定される。残留酸素濃度の基準値は、全負荷運転用に設定するか、または、逆火との関連性が最も大きな運転条件のために、あるいは他の運転パラメータのために設定することができる。
【0030】
また別の実施態様では、酸素濃度の基準値は、燃料ガスの組成、タービン設備の運転パラメータ、燃焼器の設計に応じて制御される。例えば、部分負荷の場合に、圧縮機出口温度および高温ガス温度が低減されており、従ってまた、逆火発生の危険性が全負荷の場合よりも低いとき、酸素濃度は全負荷値よりも高くすることができる。これにより、完全燃焼が容易となり、また、部分負荷の場合に運転パラメータおよび燃料ガスの組成によっては問題となる恐れがあるCO排出量が削減される。
【0031】
また別の実施態様では、酸素濃度の基準値は、燃料ガスの組成に従って制御される。酸素濃度は、水素濃度に反比例して低減される。純水素の場合、逆火発生の危険性が最大であるが、CO排出が発生することはなく、従って、酸素濃度を最小限にすることができる。燃料ガス中の炭化水素の割合が増大するにつれて、一般的に逆火は減少するので、これにより、酸素濃度を上昇させることができ、従って、COおよびUHC(未燃炭化水素)を含まない、可能な限りの完全な燃焼を保証することができる。UHCを含まない燃焼として知られている燃焼とは、燃焼されていない炭化水素が含まれていない燃焼のことである。
【0032】
1つの実施態様では、燃料ガスとして純水素を使用する方法が用いられる。この実施態様では、COの排出を伴うことなく、COおよびUHCを含まない燃焼が実現される。
【0033】
圧縮機出口温度、高温ガス温度、燃料ガスの組成などの重大な運転パラメータに対する必要な酸素濃度の依存度は、定式によって近似的に求めることができるか、あるいは、表形式で制御部に保存して、補間することができる。
【0034】
水素濃度の高い燃料ガスを燃焼させるための公知の方法、例えば、外部から供給される窒素または蒸気を用いた燃料ガスの希釈と、上述の諸効果とを組み合わせることが可能である。組み合わせは、特にガスタービン設備の始動のために必要とされることがあり、また、ガスタービン設備の過渡的または非定常的な運転の際に有利となることがある。
【0035】
ガスタービン設備の始動時、タービン設備、排ガス通路、再循環ラインおよび通常具備される排熱ボイラには、まず、雰囲気酸素濃度が存在するであろう。排ガス中の酸素濃度が燃焼および再循環によって低下する前に、この再循環によって、燃焼用空気中の酸素濃度が、必要な分低減されることはない。また、排ガスは、燃料ガスの希釈のためにはまだ適切ではない。排ガス酸素濃度が低下してしまうまで、他の手段を用いることで、逆火のない、ロバスト性を有する燃焼が保証されねばならない。この手段としては、とりわけ、窒素または蒸気による燃料ガスの希釈、圧縮機または燃焼器への水の注入、始動用の拡散火炎の利用、または始動用燃料の利用などが考えられる。
【0036】
過渡的な運転の際、燃焼による酸素消費量、または燃焼室近傍を通過する空気の割合は、素早く変化する可能性がある。例えば、全負荷から負荷遮断が生じた場合、酸素の消費量は、短時間(わずか数秒)のうちに半分ないし3分の1にまで減少する。これに応じて、排ガス中の残留酸素濃度は上昇する。この上昇は、それに対応して迅速に再循環率を適合させることで回避することができる。その際、再循環率を予制御することによって、酸素濃度の制御を有効に補完することができる。この予制御によって、過渡的事象および運転パラメータに応じて、当該の過渡的事象の前に再循環率が適合され、その後、制御部が再び働きを引き継ぐ。現実的には、ロバスト性を有する燃焼という意味では、排ガス再循環を他の手段と組み合わせる方が簡便なことがある。この手段としては、とりわけ、窒素または蒸気による燃料ガスの希釈、あるいは、圧縮機または燃焼器への水の注入が考えられる。
【0037】
通常の負荷運転の場合、他の公知の手段と組み合わせることによって、燃焼のロバスト性をさらに向上させることができる。この手段としては、とりわけ、窒素または蒸気による燃料ガスの希釈、あるいは、圧縮機または燃焼器への水の注入が考えられる。
【0038】
組み合わせが用いられるのは、例えば、蒸気および/または窒素が、水素濃度の高い燃料ガスを希釈するために利用できるが、ただし、信頼性のある運転を保証するには十分ではない場合である。このような場合、本提案に係る方法に従って酸素濃度を低減することによって、水素濃度の高い燃料ガスを確実に燃焼させるための従来の手段の使用を軽減することができる。
【0039】
本発明は、上記方法に関する以外に、また、排ガスを圧縮機入口空気へ再循環するための少なくとも1つの装置を備えていることを特徴とする、水素濃度の高い燃料ガスのためのガスタービン設備を対象としている。
【0040】
1つの実施態様は、排ガス通路における流れ分岐部、流れ分岐部から煙道に至る排ガスライン、および、流れ分岐部から圧縮機入口に至る第2の排ガスラインを備えているガスタービン設備である。この実施態様は、他のあらゆる実施多様と同様に、再循環される排ガス流を冷却するための装置を備える。
【0041】
また別の実施態様では、流れ分岐部が、可変的に流れの分割を行うための調整可能なフラップである。
【0042】
さらに別の実施態様では、流れ分岐部が、機械的に固定した分割部であり、その後に続いて、調整可能なフラップまたはバルブが、煙道に至る送給ラインおよび/または再循環ラインの中に配置されている。この実施態様の場合、部分質量流量のみが、フラップまたはバルブによって制御されるので、それに応じて小さなサイズの調整機構を選定することができる。さらに、再循環ラインに調整機構を有する実施態様の場合、フラップまたはバルブを冷却器の下流側に設けることができ、これにより、熱負荷がさらに低く維持される。
【0043】
1つの実施態様では、ガスタービン設備が、さらに、再循環される排ガスの一部を、燃料ガスに導き入れるのに十分な高さの圧力になるまで圧縮するための少なくとも1つの排ガス圧縮機、少なくとも1つの燃料ガスシステムに至る排ガスライン、燃料ガスの希釈のために排ガスを燃料ガスの中に導き入れるための少なくとも1つの装置、および、希釈用質量流量を制御するための少なくとも1つの制御弁、ならびに、希釈された燃料ガスを少なくとも1つの燃焼器に導くための燃料ガス分配システムを備えている。
【0044】
1つの実施態様では、ガスタービン設備が、冷却器内または冷却器の下流側に凝縮水分離機を備えている。
【0045】
また別の実施態様は、凝縮水処理設備、凝縮機からこの処理設備に至るライン、さらに圧縮機入口に至るライン、および、吸気質量流の中へ水を注入するためのポンプを備えている。
【0046】
さらに別の実施多様は、凝縮水処理設備、凝縮機からこの処理設備に至るライン、さらに排ガス圧縮機に至るライン、および、中間冷却のために排ガス圧縮機内へ水を注入するためのポンプを備えている。
【0047】
方法説明部分で述べた制御方法のうち、選択した制御方法によっては、実施態様において、排ガス中、圧縮機入口空気中の残留酸素または燃焼室入口における残留酸素を判定するための少なくとも1つの手段が具備される。この手段は、酸素を直接測定するための計測器であっても、オンラインガス分析であっても、間接的に判定を行うための装置であってもよい。間接的に判定を行うための手段は、例えば、圧縮機吸気質量流量、排ガス再循環率、燃料ガスの組成および燃料量測定を基に残留酸素を算定するプロセッサまたは制御部である。その際、吸気質量流量は、圧縮機特性および周囲条件(吸気温度、圧力および湿度)を用いて、または間接測定によって求めることができる。吸気質量流量の間接測定を行うために、固有の圧力損失および環境条件を決定しておく必要がある。再循環率は、例えば、当該の調整可能なフラップまたは調整機構の状態および特性から得られる。
【0048】
別の実施態様では、ガスタービン設備が、本発明に係る方法のうち選択した方法に応じて、燃料ガスをオンライン分析するための機器を備えている。
【0049】
本発明のその他の利点および構成については、従属請求項に記載されており、明細書および添付の図面から明らかにする。説明される全ての利点は、本発明の範囲を逸脱することなく、それぞれ示された組み合わせだけでなく、他の組み合わせにおいても、あるいは単独においても利用可能である。
【0050】
本発明について、実施例が図2および図3に模式的に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】理論空燃比Φに対する、雰囲気条件下における空気中の水素火炎(A)の火炎伝播速度およびメタン火炎(B)の火炎伝播速度の関係を示す。
【図2】連続燃焼型のガスタービン設備を例として、排ガス再循環の本方法を実施するための装置を示す。
【図3】燃料ガスの希釈を伴う連続燃焼型のガスタービン設備を例として、排ガス再循環の本方法を実施するための装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明に係る方法を実施するための装置を備えているガスタービン設備は、基本的に、少なくとも1つの圧縮機、少なくとも1つの燃焼室および少なくとも1つのタービンを有し、タービンが、少なくとも1つのシャフトを介して圧縮機と発電機とを駆動する。
【実施例1】
【0053】
図2は、連続燃焼型のガスタービン設備を示し、この設備も、それ自体公知の様式で、圧縮機1、第1の燃焼室4、第1のタービン7、第2の燃焼室9、第2のタービン2および発電機19を有する。タービン7および12は、シャフト18を介して圧縮機1と発電機19とを駆動する。
【0054】
本発明において、排ガス13が、ガスタービン設備の下流側に接続された排熱ボイラ14から出た後、冷却器17を介して吸入空気2へ導き戻されて、これにより、燃焼用空気中の酸素濃度が低減され、従ってまた、逆火を伴わない、ロバスト性を有する燃焼が実現できる。
【0055】
冷却温度は、利用される冷媒と周囲条件とに依存する。十分な量の冷却水が利用できる場合、冷却には冷却水を用いることが有利である。別の実施形態では、外気を用いた空気−空気冷却による冷却が行われる。この場合、再循環される温度は、例えば、外界温度よりも約10K高い温度にまで冷却される。冷却水を、例えば河川などから利用できる場合、再循環される空気をさらに冷却することが可能である。冷却は、運転条件に応じて、例えば水を注入することによって行うことも、あるいは、熱交換器と水の注入とを組み合わせることによって実現することもできる。さらに、これは、反応速度を抑制する働きをする水が、燃焼用空気に混合されるという効果も有する。
【0056】
この場合、環境条件、ガスタービン設備の運転条件、冷却温度および再循環される質量流量の割合に応じて、再循環される排ガスに含まれる水蒸気の一部が凝縮される。凝縮水41は、圧縮機1、26および27での液滴エロージョンを防止するために、液滴分離器または凝縮水分離器20で、再循環される排ガスから除去される。凝縮水は、中間冷却に、および圧縮作業の軽減に利用するために、吸入空気36に再び注入することができる。この注入を行うために、凝縮水に対してポンプ21によって圧力が加えられる。
【0057】
例えば、排ガス中または燃焼用空気中の酸素濃度を制御するために再循環率が制御される実施形態の場合、排ガスを分割するための調整可能な装置40を設ける必要がある。この装置としては、例えば、調整可能なフラップが考えられる。再循環率を調整するための別の可能な方法は、機械的に固定した流れ分割部を、下流側に接続された調整機構と組み合わせることであり、この調整機構は、例えば再循環ラインおよび/または排ガスライン内に配置されたフラップまたはバルブである。
【実施例2】
【0058】
図3は、図2に関連して説明した排ガス再循環が実施される、連続燃焼型のガスタービン設備を示す。この実施形態の場合、さらに、排ガスの一部が、燃料ガスの希釈のために利用される。
【0059】
燃料ガスの希釈用に準備された排ガス25は、まず、排ガス圧縮機26で圧縮されねばならない。第1の燃焼室4における燃料ガスの希釈のために準備された排ガス28は、さらに、高圧圧縮機27を介して圧縮されねばならない。圧縮機26および27は、少なくとも1つのモータ37によって駆動される。高圧圧縮機27の前に、圧縮作業を軽減するための中間冷却器30を設けておくことができる。さらに、燃料ガスの希釈の際に排ガス温度を低下させるために、この圧縮の後に冷却器を設けておくことが可能である(この図には示されていない)。希釈率を制御するために、燃料ガスへの混入用に制御弁38および39が設けられている。これらの制御弁を用いて、第1および第2の燃焼室4および9に対する燃料ガス量5および10と、必要とされる希釈率とに応じて、希釈用質量流量28および29が調整される。
【0060】
この実施態様の場合、凝縮水を、中間冷却に、および圧縮作業の軽減に利用するために、注入装置36を介して吸入空気2中に再び注入すること、および/または、燃料ガスの希釈用に準備された、再循環される空気28、29中に注入装置34、35で再び注入することができる。この注入を行うために、凝縮水に対してポンプ21によって圧力が加えられる。注入を行うための凝縮水質量流量の制御は、凝縮水制御弁31、32および33によって行われる。
【0061】
簡単な実施態様の場合、流れ分割部によって無制御に排ガス質量流量の一部が分岐されて再循環され16、残りの排ガス流15は煙道に送給される。
【符号の説明】
【0062】
1 圧縮機
2 吸入空気
3 圧縮された空気
4 第1の燃焼室
5 燃料ガスの供給
6 高温ガス
7 第1のタービン
8 部分減圧された高温ガス
9 第2の燃焼室
10 燃料ガスの供給
11 高温ガス
12 第2のタービン
13 (排熱ボイラへ至る)排ガス
14 排熱ボイラ
15 煙道へ至る排ガス/排ガスライン
16 再循環される排ガス
17 冷却器
18 シャフト
19 発電機
20 凝縮水分離器
21 高圧ポンプ
22 冷気
23 冷気
24 吸入空気への排ガス再循環
25 排ガスで燃料ガスを希釈するための排ガス再循環
26 排ガス圧縮機
27 高圧排ガス圧縮機
28 燃料ガスの希釈用の高圧排ガス/排ガスライン
29 燃料ガスの希釈用の低圧排ガス/排ガスライン
30 中間冷却器
31 (低圧排ガスへの注入用の)凝縮水制御弁
32 (高圧排ガスへの注入用の)凝縮水制御弁
33 (吸入空気への注入用の)凝縮水制御弁
34 低圧排ガスへの凝縮水注入
35 高圧排ガスへの凝縮水注入
36 吸気質量流への凝縮水注入
37 排ガス圧縮機の駆動モータ
38 燃料ガスの希釈用の制御弁
39 燃料ガスの希釈用の制御弁
40 流れ分割部、排気フラップを備えている分岐部
41 凝縮水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素濃度の高い燃料ガスを用いてガスタービン設備を運転するための方法において、
排ガス(16)の一部が、冷却器(17)で冷却されて、圧縮機(1)の吸入空気(2)の中へ再循環され、その際、再循環される排ガス質量流量が少なくとも1つの適当な調整機構(40)によって制御されること、そして、
−この制御の基準値として、排ガスの残留酸素濃度が用いられること、および/または、
−この制御の基準値として、燃焼用空気の酸素濃度が用いられることを特徴とする方法。
【請求項2】
排ガスの排熱を利用するために、排ガスが、ボイラ(14)の中を通され、そして、ボイラ(14)から出た後に2つの分流に分割されて、一方の分流が冷却器(17)でさらに冷却され、前記圧縮機(1)の吸入空気(2)の中へ再循環されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
冷却された排ガスが、燃料ガスを希釈するために、
−圧縮されて、燃料ガスと混合されること、または、
−中間冷却によって圧縮されて、燃料ガスと混合されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記再循環される排ガス(16)の冷却時に生じる凝縮水(41)が、凝縮水分離器(20)で分離されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記分離された凝縮水(41)が処理されて、冷却および/または中間冷却のために吸入空気(2)の中へ、および/または燃料ガスの希釈用に準備された排ガス(28、29)の中へ、霧状に注入されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
−排ガス中あるいは燃焼用空気中の残留酸素濃度の制御の基準値が、一定値に選定されること、または、
−前記酸素濃度の基準値が燃料ガスの組成に依存しており、前記残留酸素濃度の基準値が燃料ガス中の水素濃度に反比例していること、および/または、
−前記酸素濃度の基準値が、ガスタービン設備の運転パラメータに依存していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
燃料ガスとして純水素が用いられ、従って、COの排出を伴わず、COおよびUHC(未燃炭化水素)を含まない燃焼が実現されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
−本方法が、ガスタービン設備を始動するために、および/またはガスタービン設備の過渡的な運転の際に、水素濃度の高い燃料ガスを燃焼するための別の公知の方法と組み合わされること、および/または、
−前記酸素濃度の制御が、過渡的な運転のために、再循環率の予制御によって補完されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法を実施するためのガスタービン設備において、
排ガス通路における少なくとも1つの流れ分岐部(40)、この流れ分岐部(40)から煙道に至る排ガスライン(15)、および、この流れ分岐部(40)から圧縮機入口(24)に至る第2の排ガスライン、ならびに、再循環される排ガス流(16)を冷却するための少なくとも1つの装置(17)を備えていることを特徴とするガスタービン設備。
【請求項10】
−前記流れ分岐部(40)が、可変的に流れの分割を行うための調整可能なフラップであること、または、
−前記流れ分岐部(40)が、機械的に固定した分割部であり、その後に続いて、調整可能なフラップまたはバルブが、煙道に至る前記送給ライン(15)および/または前記再循環ライン(16、24)の中に配置されていることを特徴とする請求項9に記載のガスタービン設備。
【請求項11】
−凝縮水分離器(20)を備えていること、および/または、
−凝縮水処理設備、前記圧縮機入口に至るライン、および、吸気質量流(2)の中へ水を注入するためのポンプ(21)を備えていることを特徴とする請求項9または10に記載のガスタービン設備。
【請求項12】
−再循環される排ガスの一部を、燃料ガスに導き入れるのに十分な高さの圧力になるまで圧縮するための少なくとも1つの排ガス圧縮機(26、27)、少なくとも1つの燃料ガスシステムに至る排ガスライン(28、29)、燃料ガスの希釈のために排ガスを燃料ガスの中に導き入れるための少なくとも1つの装置、および、希釈用質量流量を制御するための少なくとも1つの制御弁(38、39)、ならびに、希釈された燃料ガスを少なくとも1つの燃焼器に導くための燃料ガス分配システムを備えていること、および/または、
−凝縮水処理部、前記排ガス圧縮機に至るライン、および、中間冷却のために前記排ガス圧縮機(26、27)へ水を注入するためのポンプ(21)を備えていることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
−酸素濃度を直接測定するための計測器を備えていること、および/または、
−オンラインガス分析を利用できること、および/または、
−酸素濃度を間接的に決定するための装置、例えば、圧縮機吸気質量流量、排ガス再循環率、燃料ガスの組成および燃料量測定を基にして残留酸素を算定するプロセッサまたは制御部を備えていること、および/または、
−燃料ガスをオンライン分析するための機器を備えていることを特徴とする請求項9〜12のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−530490(P2010−530490A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512632(P2010−512632)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057062
【国際公開番号】WO2008/155242
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5401 Baden, Switzerland
【Fターム(参考)】