説明

排尿情報測定便器

【課題】 水位変化をセンシングすることで排尿情報を測定する排尿情報測定便器において、便器が接続される下水配管に起因する便器内溜水の変動、および、排尿に起因する便器内溜水の変動をキャンセルすることで、高精度の排尿情報測定を実現する。
【解決手段】 本発明では、下水排管内で発生した圧力変動によって発生したトラップ部とボール部の水位差に基づいて、水位測定手段によって測定される前記ボール部水位測定値を予め設定された補正関係式により補正し、かつ、測定系に設けられた溜水水位の制圧手段と組み合わせることにより、溜水に水位のシフト変化や波立ちが発生しても高精度の溜水量変化挙動をモニターできるようになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
便器が汚物排出のために接続される下水配管内では、各種器具設備の排水が原因となって下水排管内空気の圧力変動が発生する。便器ボール内の溜水水位変化から排尿情報を測定する排尿情報測定便器に、前記下水配管内で発生した圧力変動が伝達された場合、溜水水位測定値が変化するため、得られる排尿情報に測定誤差が発生する。本発明は、下水配管内で発生する圧力変動に起因する溜水水位変化や溜水の波立ちによる振動の影響を除去することに係り、特に尿量又は尿流率をはじめとする排尿情報を高精度測定することに好適な排尿情報測定便器に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
医療機関において、被験者の代謝状態を確認するための尿量などの測定機能を有する排尿情報測定便器がある。この便器では、ボール内の溜水を別置きのタンクに吸引したり、下水配管に直接排出したりすることで、排尿によって溜水がトラップ部から溢流しないように尿量測定開始水位となるまで水位を下げた後、別置きのタンクと溜水とを連動させた状態で被験者に対して排尿を促し、排尿前後の別置きのタンクの水位を測定して排尿量に換算しようとするものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、別の排尿情報測定便器の例として下水配管に連通するトラップ部を有した便器のボール面で排尿を受けて、トラップ部に連通したボール部溜水の水位変化を、ボール部溜水に導圧管を介して取り付けた圧力センサーで圧力変化として検出し、予め記憶された溜水水位と溜水量の検量曲線を利用してボール部溜水の水量変化に換算して尿量値を測定する排尿情報測定便器がある(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
この例では、溜水水位を計測しているが、ボール部の水平方向の断面積に対して測定対象の尿の総量が多くないため、前記文献1の場合と比較してより微小な水位変化を測定することとなる。
【0005】
以上述べたどちらの例も受尿器となるボール部は便器トラップを介して下水配管に接続され、排尿量の測定は便器溜水の変化量として計測する原理となっている。すなわち、両者とも下水配管内の圧力に変動があれば溜水水位もその影響を受けて変化するため、測定される排尿量にも誤差が生じる構成となっている。
【0006】
したがって、下水配管に通水が無かったり、通水に伴う内部空気の置換を通気設備が十分に果たしている場合、便器に圧力変動が伝達されることは無く、正確な排尿量測定が可能である。しかしながら、下水配管に通水があって、通水に伴う内部空気の置換を下水配管の通気設備が十分に果たしきれていない場合、下水配管内部では圧力変動が発生し便器に伝達されることになる。
【0007】
下水配管内の圧力変動の一般的な原因は、下水配管に排出される水の流れに起因するものである。空気を引き込みながら流れると配管内は負圧が発生するし、排出できる流量より排出された流量が多いと管路が流れに対して詰り気味となり、配管内の空気は戻されて正圧が発生することになる。下水配管内は水と空気が混合して流れるため変動圧力値は一定となることは無い。
【0008】
空気調和・衛生工学会規格の給排水衛生設備規準HASS206−2000では、建物の衛生設備配管に対して、下水配管内で発生する圧力変動範囲を大気圧±40mm水柱以内とすることを求めている。一般的な便器形状において、尿量100mLに対する溜水水位変化量は2〜4mm程度であり、水位が40mm変化すると溜水量は1L以上変化することから、下水配管内の圧力変動伝達によって測定不能となることが容易に想像できる。
【0009】
この下水配管内の圧力変動の影響を防止するために、特許文献2の例では下水排管内の圧力変動によって生じる溜水水位の変化分を下水排管内の圧力を測定して補正しようとしている。しかしながら、その補正方法は便器溜水のトラップ側の受圧面積と便器ボール側の受圧面積との比で測定水位を補正するものであり、これらの受圧面積を求めるの特別の配慮が必要であり、簡便な構成では実施困難である。
【0010】
また実際の測定においては、排尿時の尿の溜水への着水衝撃によるボール部溜水の波立ちも、測定のノイズ成分として発生する。また、下水配管内の圧力変動も前述した比較的長周期の成分以外にも、短周期の微小な脈動を発生する成分があることが判っている。
【特許文献1】特許3520685号公報
【特許文献2】WO2004−113630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、便器ボール部溜水の水位変化をセンシングすることで尿量をはじめとする排尿情報を測定する排尿情報測定便器において、トラップ部溜水が受ける下水配管の圧力変動によるボール部溜水の水位変化、および、排尿時の尿の着水衝撃によるボール部を発生起因とする溜水の波立ちという、二つの測定影響因子に起因する便器内溜水の変動をキャンセルすることで、高精度の排尿情報測定を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、
被験者の尿を受けるボールと、このボールとボール内の溜水を排出する下水管とを連通させ、この下水配管を水封する溜水を形成するためのトラップ部と、前記溜水のボール側の溜水水位であるボール部溜水の水位を測定するボール部水位測定手段と、前記トラップ内の圧力変動がボール内の水位に与える影響を計測する下水圧変動量計測手段と、被験者が前記ボールに排尿した時に前記水位測定手段によって測定される前記ボール部水位の測定値に基づいて尿量又は尿流率を測定する排尿情報測定手段と、を有する排尿情報測定便器において、
前記下水圧変動量計測手段の測定値に基づいて、前記ボール部水位測定手段によって測定される前記ボール部水位測定値を、予め設定された補正関係式により補正する測定値補正手段を有することにより、
下水配管内で発生した圧力変動が伝達されても、測定される溜水水位を圧力変動が無い状態におけるの溜水量に換算することが可能である。排尿前後、および、排尿中の溜水量を常に同一の下水配管内圧力値(圧力変動が無い状態)における溜水量変化として取り扱うことができ、下水配管内で圧力変動に起因するボール部とトラップ部の水位差が発生しても、高精度の溜水量変化挙動をモニターできるようになった。
【0013】
また請求項2記載の発明によれば、
前記ボール部水位測定手段は、前記溜水に接続された導圧管路に設けられた圧力センサーであるため、
水位変動を直接圧力値変動として測定できることから、簡単な構成で高精度の水位変動測定値を得ることができる。
【0014】
また請求項3記載の発明によれば、
前記下水圧変動量計測手段は、前記トラップ部を介して下水管内圧力を測定する下水圧力測定手段であるため、
ボール部とトラップ部の水位差測定のために、下水排管内に対して連通した管路に下水圧力測定手段を設けるだけで便器に加工を施す必要が無く、簡便に下水排管内を発生起因とする圧力変動が前記ボール内の水位に与える影響を測定することができる。
【0015】
また、請求項4記載の発明のよれば、
前記補正関係式は、前記下水圧変動量計測手段によって測定される下水配管内の圧力変動に対する、
前記水位測定手段によって測定される複数の前記ボール部水位における水位変化の関係を求めたものであることにより、
簡単な処理により下水配管内の圧力変動の影響による測定水位の変動量の補正ができる。
【0016】
また、請求項5記載の発明のよれば、
前記補正関係式は、前記下水圧変動量計測手段によって測定される下水配管内の圧力変動に対する、尿量測定開始水位の水位変化の関係を求めたものであることにより、
測定精度を大きく落とすことなく、測定値補正手段の制御装置に要求される記憶容量や演算速度に関するスペックを低いレベルに抑えられることから、排尿情報を演算する時間の短縮や、制御装置の製造コスト低減を実現することを可能とした。
【0017】
また、請求項6記載の発明のよれば、
前記ボール部水位測定手段は前記溜水の波立ちノイズ除去手段を有し、前記波立ちノイズ除去手段は、前記圧力センサーによって測定するボール部水位測定手段出力のノイズ成分を制御的に除去するものであることにより、
ソフト的なデータ処理だけで特別な構造を必要としないため装置の構成が簡単になる。
【0018】
また、請求項7記載の発明のよれば、
前記ボール部水位測定手段は前記溜水の波立ちノイズ除去手段を有し、前記波立ちノイズ除去手段は、前記導圧管路に一端が接続され、他端が大気へ開放された水柱管であることにより、
除去のための制御ソフトを必要とせず簡単な構成で除去(除振)することを可能とした。
【0019】
また、請求項8記載の発明のよれば、
前記他端が大気へ開放された水柱管の満水時の水位による圧力を、前記圧力センサーによって測定するボール部水位測定手段の出力校正に使用することにより、
溜水で発生した波立ち(水位脈動)の影響を除去するだけでなく、溜水水位測定用圧力センサーの測定値を絶対校正にも使用するため、装置の構成が簡単となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溜水に発生するトラップ部溜水が受ける下水配管の圧力変動によるボール部溜水の水位変化(水位シフト)、および、排尿時の尿の着水衝撃によるボール部を発生起因とする溜水の波立ち(水位脈動)の影響をキャンセルすることができ、高精度の排尿情報測定を実現できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明を実施した第一の実施形態における排尿情報測定便器全体を示す斜視図である。図1を使用して、被験者の使い方について述べる。
【0022】
本実施形態による排尿情報測定便器101は、洋風大便器102と、排尿情報測定便器101を作動きせる種々の機能部と制御部120を収納したキャビネット104と、を有する。本形態はさらに尿中の特定成分濃度等を測定する尿成分測定装置と便器に組み込まれた衛生洗浄装置とを併せ持っているが、いずれも尿量測定に対しては必需のものではない。
洋風大便器102は、陶器製であり、その上部には、樹脂製の便座110及び便ふた112が回動自在に取り付けられている。
【0023】
壁には、排尿情報測定便器を操作するための操作・表示部122が設置されている。衛生洗浄装置を動作させるための衛生洗浄装置リモコン132が設置されているが、排尿情報測定便器に対しては必需のものではない。排尿情報測定部リモコン134は被験者がトレイに入室し、排尿情報を測定する時に操作するもので、測定意思を示す準備操作スイッチと、排尿が終了したことを示す排尿終了スイッチが設置される。この排尿情報測定部リモコン134には、被験者の経時的なデータを取得するために、個人認証スイッチやIDカード等の読み込み手段が設けられても良い。また、測定結果は排尿情報測定部リモコン134の表示部で被験者に開示してもよいし、プリンター136を使用して被験者に開示されても良い。さらにまた、本排尿情報測定便器を医療機関に設置したことを想定すると、複数の被験者データを所定の時刻に回収すべく、看護師が排尿情報測定部リモコン134を操作して、プリンター136からデータを取り出すことも考えられる。
【0024】
前述した尿成分測定装置は採尿装置114で排尿の一部量を採取し尿成分測定部114dに送り特定成分の濃度をはじめとする各種分析を行なうものである。この採尿装置114は被験者の尿を採取する採尿器114a、ボール106内部を回動させる採尿アーム114b、および、駆動動作を行う採尿ユニット114cで構成されている。前述したように尿成分測定装置は尿量測定には必需のものではないが、排泄される尿の量を測定できる本発明の排尿情報測定便器と組み合わせることによって、例えば、尿によって排泄される特定成分の量を求めることもできる。
【0025】
図2は本実施形態の全体構成を示すブロック図である。
便器1は排水ソケット10を介して下水配管9に接続されている。下水配管9に対して、トラップ部5によって溜水4が形成されており、下水配管内で発生した臭気や衛生害虫がトイレ内に侵入しないよう衛生面が配慮されている。便器1の内側には被験者が排泄を行うボール2が形成されており、ボール2は水位設定手段6からのリム吐水ノズル7への給水によって周面が洗浄されるようになっており、またゼット吐水ノズル8への給水によってサイホン現象を発生させ、排泄物を下水配管に送出するようになっている。
【0026】
水位設定手段6は便器1のリム吐水ノズル7とゼット吐水ノズル8へそれぞれ水を供給するリム吐水手段71とゼット吐水手段81とを備えている。ゼット吐水手段81からゼット吐水ノズル8への供給流路は分岐部82を持ち、溜水水位測定手段14への導圧水路83が分岐接続されている。導圧水路83は、溜水水位を測定するために、溜水水位測定手段14に溜水4の水位ヘッドを伝達するためのものである。
【0027】
下水配管との接続部分となる排水ソケット10には、下水圧変動量計測手段16が接続されている。水位設定手段6、溜水水位測定手段14、操作・表示部22、および下水圧変動量計測手段16は共通の制御部15に接続されており、それぞれ給水動作の制御、排尿情報の測定、被験者の操作受付処理や測定結果の出力等の各種の制御が行われる。
【0028】
制御部15は、測定値補正手段17と排尿情報算出手段18を有している。測定値補正手段17は溜水水位測定手段14の測定値を、下水圧変動量測定手段16の測定値によって、下水圧変動のない状態に補正する。補正された溜水水位に関する情報は、排尿情報算出手段18によって演算される。排尿情報算出手段18が算出した種々の測定結果や、個人認証結果・測定時刻などの測定環境情報を、被験者だけでなく、測定データを利用する医師・看護師などの医療関係者や、排尿情報測定便器の動作を管理する設備管理者との間で伝達する外部出力手段(図示せず)を備えている。
【0029】
なお、本実施例では溜水水位測定手段14の水位検出手段として水位変化に比例する出力がとれる圧力センサーを使用しており、この場合、水位変動を直接測定できることから装置の構成が簡単になる。水位検出手段のその他の事例としては、非接触の超音波変位センサーなどを便器1に設けるようなものがあり、汚水と接しないことから高信頼性の動作を期待できることになる。
【0030】
溜水水位測定手段14には、溜水の波立ちなどの微小振動の水位測定への影響を取り除く除振手段14aや、水位測定値の校正動作を実施する校正手段14bも合わせて内蔵されている。
【0031】
下水圧変動量計測手段16は、下水排管内の圧力変動が溜水水位に及ぼす影響量を測定するものであり、本実施例では圧力センサーを採用して下水排管内の圧力変動を直接計測しているが、その他の例として水位センサーを用いて下水排管内の圧力変動によって引き起こされる溜水水位の変化量を計測する構成としても良い。
【0032】
図3は本実施例の形態において、下水圧変動が溜水水位の測定に与える影響を説明する模式図であり、実際に計測した下水圧変動測定値(a)とその時の溜水水位測定値(b)とを同じ時間軸上に対応付けて表したものである。さらに、本実施例でこれらの下水圧変動の影響を取り除く原理を説明するために、前記溜水水位測定値をその挙動の違いにより、後述する水位シフト成分と水位脈動成分の2つの構成要素に分けたもの(c)も併せて表している。
【0033】
ここで、下水圧変動によって生じる溜水水位測定値変動の前記した各変動成分について図3を用いて以下説明する。
溜水水位は、排尿による水位変化がなくとも、下水圧変動により実際の溜水水位は変化(水位シフト)することがある。すなわち、下水配管内で負圧が発生するとボール面内の水位は下降し、反対に下水配管内で正圧が発生するとボール面内の水位は上昇する。下水圧変動の影響によって生じるこのような変化は溜水水位の測定値をシフトするように働くため、以下では説明の便宜上、下水圧変動における溜水水位の測定値の「シフト成分」と呼ぶ。
また、下水圧変動の影響はこのほかにも溜水水位の測定値をこのシフト成分よりも短周期で微小に変化させる成分があり、同様に以下の記述では下水圧変動における溜水水位の測定値の「脈動成分」と呼ぶ。
【0034】
そして溜水水位の変動はこれらの成分によって模式的に表すと図3の(c)のような関係となる。なお、建物内部に使用される配管径が一般的なφ75mmまたはφ100mmであれば、下水圧力変動の周期は1〜3Hzであることが一般的に知られている。
【0035】
さらに、実際に溜水水位を測定系で測定すると、図3に表したように、下水配管内での圧力変動からわずかな時間だけ遅れて溜水水位も同期して変化する。すなわち、測定される溜水水位測定波形としては下水圧測定波形に対して位相ずれの形で表れる。この遅れは、本実施例の測定系は導圧管を介して圧力センサーの出力を観測しているためと考えられる。
【0036】
本実施例では、溜水水位測定値に発生する変動は、図3で模式的に示すように水位シフト成分と、水位の脈動成分に分けて取り扱うことで下水圧変動による影響量の補正を行なっている。
【0037】
本発明が対象とする排尿情報測定便器によって行なわれる排泄された尿量測定は、便器のボール部の溜水の水位変化を計測するものであるが、前述したようにボール部の溜水はトラップ部を介して下水管に接続されているため、溜水の水位は下水管内の圧力変動の影響を受ける。
図4は本実施例における下水配管内の圧力変動による溜水の挙動を示した模式図であり、ボール2の溜水の底部に連通された溜水水位測定手段14で水位が測定されるようになっている。
【0038】
図4(a)は、下水管内の圧力が大気圧と等しい場合のボール2内及びトラップ部5内の水位を示す図であり、(b)は下水管内の圧力が負圧の場合、(c)は正圧の場合の水位を示す図である。図3(a)に示すように、下水管内の圧力が大気圧と等しい場合には、ボール2内の水位とトラップ部5内の水位は等しい。
【0039】
これに対して、図4(b)のように、下水管内の圧力が負圧になると、トラップ部5内の溜水が下水管の方に吸引されるので、トラップ部5内の水位は上昇し、ボール2内の水位は下降する。逆に、図4(c)のように、下水管内の圧力が正圧になると、トラップ部5内の溜水が押され、トラップ部5内の水位が下降し、ボール2内の水位が上昇する。これら、図4(b)又は(c)の場合には、溜水水位測定手段14の測定値からそのまま水位を求め、溜水量を計算すると、溜水量の計算値に誤差を生じる。
【0040】
このような下水配管内圧力変動によるボール部溜水の水位変化(水位シフト)に対する補正は、下水配管内の圧力変動に対応するトラップ部5内の圧力変動を下水圧変動量計測手段16によって計測してそれがボール2の水位に与える影響量を求めることによって行なわれる。
【0041】
本実施例では、下水圧変動量計測手段16は下水配管に接続された下水圧測定手段であり、具体的には後述する大気圧基準で下水配管内の圧力を測定する圧力センサー121を採用している。この圧力センサー121によって測定された下水管内の圧力値に基づいて、測定値補正手段17が溜水水位の測定値を下水圧変動の無い状態の値に補正し、その補正された溜水水位測定値を前述の溜水水位と溜水量の検量曲線を利用して溜水量に換算する。
【0042】
以下、図4を参照しながら、下水配管内圧力変動の影響による溜水の水位変化が水位測定値に及ぼす影響量(水位シフト成分)を、下水管内の圧力測定結果によって測定値補正手段17が行なう補正の原理を説明する。
【0043】
トラップ部5に作用する下水排管内圧力P1、ボール2に作用する圧力、即ち、大気圧をP2とする。溜水水位を測定する溜水水位測定手段14に設けられる圧力センサ118の設けられた高さからトラップ部5の水面の高さまでの距離をH1、ボール2の水面の高さまでの距離をH2とすると、
【0044】
【数1】

の関係が成り立つ。ただし、ρは水の密度、gは重力加速度である。
【0045】
数式1において、圧力P1とP2が等しいとすれば、H1=H2の関係が成り立つ。ここで圧力P1が上昇して、トラップ部5の水位がΔh1低下してH1’となり、ボール2の水位がΔh2上昇してH2’となったとすると、圧力P1とP2の差は水頭圧の差と等しくなるので、
【0046】
【数2】

の関係が成り立つ。ここで、ボール2及びトラップ部5は連通しているので、トラップ部5の水位変化Δh1とボール2の水位変化Δh2の間には、トラップ部5の水面の面積をS1 、ボール5の水面の面積をS2とすると、微小な水位変化Δh2に対して、
【0047】
【数3】

の関係が成り立つ。さらに、数式3の関係を数式2に代入してΔh1を消去すると、
【0048】
【数4】

の関係が成り立つ。一方、溜水水位を測定する圧力センサ118によって測定される圧力PSは、水面に作用する圧力と、水頭圧との和であるから、
【0049】
【数5】

となる。次に、数式4の関係を、数式5に代入して、Δh2を消去すると、
【0050】
【数6】

となる。ここで、ボール2は大気に開放されているため、ボール2の水面に作用する圧力P2は常に大気圧であり、圧力をゲージ圧とするとP2=0 となる。従って、数式6は、
【0051】
【数7】

となる。数式7をボール2の水面の高さH2について解くと、
【0052】
【数8】

となる。圧力センサ118によって測定される圧力PSは、圧力変動発生時のボール水位H2’を測定しているのだから、数式8は数式9のように解釈することができる。
【0053】
【数9】

つまり圧力変動が無い場合のボール水位H2は、ボールとトラップ部の面積比を傾きとし、トラップ部5に作用する圧力P1に比例する補正を行うことで得られることがわかる。
【0054】
従って、溜水水位を測定する溜水水位測定手段14に設けられた圧力センサ118による測定圧力PSと、下水圧変動量計測手段16に設けられた下水管圧力センサ121による測定圧力P1を数式9に代入することにより、下水管内の圧力が変化してボール2内の水位が上昇し、水位がH2’になっている場合においても、下水管内が大気圧であった場合のボール2内の水位H2を計算することができる。また、下水管内の圧力が変化してボール2内の水位が下降している場合においても、同様にして下水管内が大気圧であった場合のボール2内の水位H2を計算することができる。
【0055】
この数式9の補正項はボールとトラップ部の断面積比を含むものとなっているが、各水位断面における面積比の測定は難しい。そこで本実施例では、下水配管側から所定の変動圧力を印加し、その水位変化傾向が封水深毎にどのような変動傾向を示すかを実測して数式9にあたる関係を実測し、その回帰式から補正項を求め、それを利用して溜水水位測定値を補正する方法採用している。溜水水位が補正されるということは、前述の溜水水位と溜水量の検量関係を利用して溜水量が補正できることになる。
【0056】
次に図5と図6を使用して、圧力変動の水位シフト成分に対する補正方法の具体的手順について以下に説明する。
図5は、下水圧が変動した場合の下水圧変動と溜水水位測定値の関係を示す模式図である。図6は、溜水水位測定値に対して下水圧変動を補正した状態を示す模式図である。
【0057】
圧力変動時のボール水位H2’はトラップ部5に作用する圧力P1に比例し、かつ、溜水水位が高くなるとボールとトラップ部の面積比が大きくなることから傾きaが小さくなる傾向をもっていることを示している。圧力変動時のボール水位H2’は、圧力変動が無い場合のボール水位H2とトラップ部の圧力P1、および、トラップ部の圧力P1に対する圧力変動時のボール水位H2’の傾きaによって、
【0058】
【数10】

で表される。従って、事前にトラップ部の圧力P1に対する圧力変動時のボール水位H2’を求め、傾きaを測定しておけば、
【0059】
【数11】

の関係で、圧力変動が無い場合のボール水位H2を得ることができることになる。
【0060】
前記傾きaは溜水水位毎に異なる値である。従って、制御的な記憶容量が十分にあり、かつ、高精度の測定を欲する時には各溜水水位と圧力変動の測定値毎に傾きaを設定し、測定テーブルとして使用すればよい。また、制御的な記憶容量に制限があり、測定精度の要求が低い場合は、例えば測定開始水位における傾きaを代表値として使用しても良い。
【0061】
なおボール2の水位変動に対して、溜水水位を測定する測定系は一般に応答遅れが存在する。つまり実際の溜水水位は排尿または下水圧変動によってシフトしても、溜水水位を測定する測定系は同じタイミングでは応答遅れによって追従できないことを意味する。従って、排尿を開始してから終了するまでの下水圧変動と溜水水位変動を共に測定し終えた後、応答遅れを勘案しながら、溜水水位を圧力変動が無い状態に一括シフトする方法が推奨される。溜水水位の水位脈動成分に対しては、後述の除振手段を利用する。
【0062】
次に実測データを使用して、以上で述べた補正方法の実施手順を説明する。
図7は下水圧が変動した場合の溜水水位測定値の実測値を示すグラフである。
各ラインは測定開始水位に対して、200mL、400mL、600mL、800mL、1000mLを給水し、各水位毎に空気調和・衛生工学会の規格である−40mmAqaから+40mmAqaの範囲で圧力変動を印加した状態を示す。
【0063】
このグラフより圧力変動と水位変化は正の比例相関があることが分かる。なお、溜水量が多い、つまり封水深が大きくなるほど圧力変動に対する溜水水位変化の傾きは小さくなっているが、これは便器の封水深が高くなるほど便器のボール面の水平方向の断面積が徐々に大きくなるため溜水量変化に対する溜水水位の変化量が小さくなる関係を示すものである。
【0064】
すなわち、本実施例のように便器ボールを水位測定容器として使用すると便器溜水が形成する封水深の違いによって、溜水水位が下水配管の圧力変動から受ける影響量(水位変化量)も異なることがわかる。
【0065】
以下に本実施例で採用可能な補正方法について説明する。
第一案は、予め、複数の封水深における圧力変動と水位変化との関係を測定してその変化率(前述の数式11で示した回帰式の傾きaに相当する)を各々求めておいて、それらを実際の測定で得られる溜水水位の測定値補正のための代表値として使用する方法ある。
図8はこの第一案の方法を適用して各封水深における溜水水位実測値を補正したグラフである。
【0066】
本グラフはトラップ部の圧力P1に対するボール水位測定値H2’を求め、傾きaを各水位ごとに設定し、水位毎に違う断面積比で補正すると、数式11が示すとおり、水位は常に圧力変動の無い0mmAqaの状態に換算可能であることを示している。
【0067】
すなわち、下水排管内で圧力変動が発生して、実際に測定するボール水位が変化したとしても、水位変化をもたらした下水排管内の圧力を測定しておくことで、常に圧力変動がないときの水位として取り扱うことができることが分かる。その結果、排尿前と排尿後の下水排管内圧力や、排尿測定中の下水排管内圧力に差が生じても、常に下水排管内に圧力変動がない状態の水位が得られる事となる。
回帰式の傾きaとして複数の封水深での実測値を用いる本補正方法を採用する場合は、ボール面全体の形状情報を加味した補正となるため、この補正された水位測定値から予め設定される水位と溜水量の検量関係を利用して、より正確に尿量・尿流率などの排尿情報が測定することができる。
【0068】
次に、各封水深における下水排管内圧力変動に対する溜水水位変化に関する代表値として、単一の封水深における回帰式の傾きaだけを使用して補正を実施したものを本実施例の補正処理の第二案として以下に説明する。
図9はこの第2案の方法で溜水水位実測値を補正したグラフである。
【0069】
図8はの第一案を適用して複数の回帰式で溜水水位を補正したものであるが、図9は回帰式の代表値として測定開始水位の封水深の回帰式のみで各封水深での溜水水位の補正を実施したものである。つまり、溜水水位がどの高さであっても、常に測定開始水位にあると仮定した回帰式を利用して、水位の補正を実施したことになる。なお、本図の例で代表とする封水深を測定開始水位のものとしたのは、本装置が測定開始水位を自動で設定する機能を有しているため、回帰式を求める作業が簡素化するためであり、本案は他の封水深での回帰式を用いることも可能である。
【0070】
その結果、測定を行う水位である封水深が高くなり測定開始水位から離れるほど補正量がずれくくる。しかしながら、ボール面全体に渡る回帰関係を設定する必要が無いことから、補正のための換算テーブルをたくさん持つ必要が無いため、要求される測定精度によっては翻案の方法を採用すれば、制御部の簡便化やコストダウンも可能となる。
【0071】
次に、前述した溜水水位の測定値補正における水位脈動成分の除去方法について以下に詳説する。
【0072】
図10は下水配管内の圧力変動が無い状態の本実施例の構成における溜水の)模式図である。
向かって右から、ボール106、トラップ部108、および測定管119fをモデル化している。溜水水位を測定する圧力センサー118は、測定管119fの直下に設けられているが、圧力変動が無い状態のため3者の水位は同水位であるためこの同一な水位を測定していることになっている
【0073】
ここで、トラップ部108の圧力をP1、断面積をS1とする。またボール106の圧力をP2、断面積をS2とする。測定管119fはボール108と同じく大気に開放されているのだから、圧力はP2である。また溜水4の容積をVとする。ボール106とトラップ部108間の往復振動について考える。測定管119fの水容積は、ボール106とトラップ部108の水容積に比べて十分小さいと考えられるため無視する。さてボール106とトラップ部108間の溜水は、トラップ部108の圧力変動によって平衡状態が崩れると平衡状態に戻ろうとして両者の間を往復振動をするが、その固有振動数は、
【0074】
【数12】

となることが知られている。本実施例に使用した便器の特性値 S1=6.03×10−3(m)、S2=3.11×10−2(m)、V=2.2×10−3(m)と、g=9.8(m/秒)を代入すると、便器の溜水が持つ固有振動数が約2Hzということが分かる。
【0075】
一方、下水圧配管内の圧力変動は、前述の通り1〜3Hzであり、この便器の溜水が持つ固有振動数2Hzはその範囲内のため、便器の溜水は下水圧配管内部で発生した圧力変動によって共振する可能性があることが分かる。なお、この便器の溜水が持つ固有振動数は特性値S1,S2,Vを実質的に実用可能な数値範囲で変更したのでは、下水圧配管内の圧力変動範囲を外すことはできない。
【0076】
図11は本発明の測定管の管内径サイズの違いによる除振効果を比較した模式グラフである。
図11(a)に示すように、下水配管内圧力変動が1〜3Hz程度の振動を起こすと、便器の溜水も共振して同様な振動(脈動)を起こす。しかしながらこの時、測定管119fの一端が大気に開放されているため、測定管119fの中の溜水は導圧管118aの内部で振動が継続するような挙動はせず、下水排管内圧力変動が停止したら、図11(b)、(c)に示すように導圧管118aの内部の溜水の振動はすぐに減衰する。
【0077】
またこの時、ボール106の水位変化で測定管119fの水位も変動することになるが、図11(b)、(c)に示すように、この水位の変動は管径が細いと振幅が大きい反面、応答遅れ(位相のずれ)が小さくなり、反対に管径が大きいと振幅が小さい反面、応答遅れが大きくなる。
【0078】
なお、測定管サイズは溜水水位測定系の応答速さによって選定されればよい。実施例で使用した測定系において、管径が細い場合(φ4mm)で応答遅れ0.2秒、管径が太い場合(φ12mm)で応答遅れ1秒であった。溜水の固有振動数とシステムとしての応答遅れは測定上の誤差を生じさせないため同等とすべきであるから、測定管の管径はφ4mmから12mm程度に選定することが妥当であることが分かる。
【0079】
図12は本発明の排尿情報測定便器の実施例の測定系の詳細構成と溜水の水位挙動における各水位を示した図である。
洋風大便器102は、被験者の尿、便等を受けるボール106と、このボール106のリム部分から洗浄水を吐水させるリム吐水ノズル107と、ボール106の底部と連通し、ボール106を水封するトラップ部108と、を有する。また、洋風大便器102は、ボール106の底部に配置され、トラップ部108に向けて洗浄水を噴出するゼット吐水ノズル109と、ボール106の上部に配置された便座110と、便ふた112と、ボール106のリム部分に設けられた採尿装置114を有する。また、ボール106の上方には、便座110と当接するリム面106aが形成されている。
【0080】
待機時においては、排尿情報測定便器101のボール106内の溜水水位は、Yで示す測定開始水位になっている。測定開始水位Yは下水配管内の圧力変動による破封防止を配慮した水位であり、破封水位X2に対して封水深50mm以上の位置である。頂部108aの位置である溢流水位Hと、測定開始水位Yの溜水量差が尿量測定範囲ということになる。
【0081】
なお測定開始水位を本実施例では封水深50mmの位置としたが、限定されるものではない。前述した下水配管内圧力変動の上限値である大気圧±40mm水柱に安全率を加えて±50mm水柱を下水圧変動の圧力限界と考え、測定時だけなら圧力変動によって溜水がボール側またはトラップ部側に片寄せされることは可と考え、測定の都度、溢流水位Hにある溜水量を、測定開始水位Yを、圧力変動が前記圧力限界値の時でも溜水がトラップ部側に片寄せされて溢流亡失しない水位の封水深25mmにセットする考え方であっても良い。
【0082】
本実施例のボール部水位測定手段は、溜水水位を圧力導管118aを介して圧力水頭圧として圧力センサーで測定する構成としている。そして、圧力センサーとして半導体圧力センサー採用しているが、組み込まれた半導体ダイアフラムは通電や環境温度によって歪状態が変化するため、センサー出力が変化するドリフト現象を発生することがある。このドリフト現象は常に発生する可能性があるため、本実施例では測定の都度、測定開始直前の準備動作として校正を行ってその影響を防止している。
【0083】
またこの校正用の給水は、前述したように測定管119fに直接給水する形態をとっているが、測定管119fとゼット吐水ノズル107への便器洗浄水供給管路に接続されている圧力導管118aを開放状態にして、便器洗浄時の前記便器洗浄水供給管路からの背圧による給水によって測定管119fが溢れた状態を校正値として利用してもよい。
【0084】
ここで、溜水4と測定管119f内部の水とは圧力導管118aを介して繋がっているため、溜水4の水位変化に合わせて測定管119f内部の水位は上下することになるが、圧力導管118a・測定管119fの管径が小さいと溜水水位変化に対して測定管119f内部の水位変化が鋭敏になり圧力センサー118の出力が脈動しやすい。対して、圧力導管118a・測定管119fの管径が大きいと溜水水位変化に対する測定管119f内部の水位変化が鈍感になり、圧力センサー118の出力が脈動しにくくなる。すなわち、圧力導管118aに対する測定管119fの管径の組み合わせで、圧力変動(脈動)に対する測定系の感度が変化することがわかった。
【0085】
そして、本実施例では排尿量だけでなく、排尿能力を判断するための指標であり溜水4の水位の時間的変化率として求められる尿流率も併せて測定しているため、この圧力変動(脈動)の影響は大きい。従って、求められる測定精度によって、導圧管路や測定管の管径を最適なものに調整してこの圧力変動(脈動)を最小限にしている。
【0086】
本出願人の確認では、排尿に伴う尿流率の最大値50mL/秒を仕様とし、溜水量3.5Lの便器を選定した結果として、圧力導管118a φ7mm、測定管119f φ4mm、および圧力導管118aの途中に設ける絞りオリフィス φ2mmが良好な特性であることを確認した。なお、この組み合わせに限定されるものではない。目標とする敏感性、また便器の溜水量などで、適宜組み合わせは変更すればよい。
【0087】
また圧力導管118aの途中に管路径を絞る絞りオリフィスを加える構成としても、溜水水位変化に対する圧力センサー118の検知挙動に遅れは増大するものの、溜水水位変化に伴う脈動が圧力センサー118に伝わり難くなり、圧力変動(脈動)の影響が小さくなることも判明した。
【0088】
また圧力センサー118によって計測される圧力変動(脈動)の影響成分は制御的なフィルターで取り除き、溜水水位を圧力変動が無かった場合の値に補正することも可能である。
制御的なフィルターとしては、制御プログラムを利用したフィルターだけでなく、コンデンサーなどの電子素子を利用したフィルターであっても良い。
【0089】
排尿前後の溜水量差が尿量であり、制御手段15に内蔵された排尿情報算出手段18で演算された尿量・尿流率などの排尿情報は、操作・表示部122 に表示される。出力形態としては、プリンター136から紙面でプリントアウトされたり、電子記憶媒体や施設内LANなどに電子情報として出力されるものであってもよい。なお病院で本技術の排尿情報測定便器101を使用する場合、医療行為として測定される尿量測定値が被験者としての患者に対して精神的な圧迫を与えて患者の病状に悪影響が出ると判断される時には、測定結果の表示機能を省略することも考えられる。出力形態については、被験者としての患者ではなく、そのデータを活用する医療関係者のニーズを十分配慮した上で、適宜、出力仕様を見直すべきである。
【0090】
測定されるボール部水位からその時の溜水量を求めるためには、任意のボール部水位における溜水量の関係である検量線を予め求めておく必要があるが、洋風大便器102は陶器製であり形状面で個体差が大きいため、本実施例では検量線を求める機能を持たせて、便器ボール部の個体間差をなくすことによって、より高精度な測定が行なえるようにしている。
【0091】
すなわち、ボール106内の溜水を所定毎、圧力導管118aと開閉弁119d経由でポンプ119hが吸引、トラップ119iを介して排水導管118b経由で下水配管9に排出しながら、そのときの水位を測定することとよって検量線は設定される。
【0092】
なお、前記の検量線設定動作に先立って、溜水中の異物を排出するための洗浄動作を実施することで前記の溜水中の異物の吸引を防止している。また、検量線設定動作は排尿情報測定便器101を使用する可能性が小さな夜中や、所定期間毎に実施される定期点検の折などに実施される。このような構成とすることで、検量線設定のための手間が無く、施工作業者や性能・機能の維持管理者の手間を煩わすことがない。検量線の設定方法としては、ボール106の溜水4を排水する方式だけでなく、手動又は自動で、複数回に分けて所定量の水をボール106に投入しながら、水位と溜水量の検量関係を求めるようにしてもよい。
【0093】
なお、下水配管内の圧力変動状態は、下水圧変動量計測手段として排水導管118bに設けられた圧力センサー121で測定される。圧力センサー121は溜水4のボール部とトラップ部の水位差を把握するのが目的であるから、大気圧に対する圧力差を測定するタイプが選定されることになる。
【0094】
下水圧変動量計測手段として本実施例では、下水配管内の圧力変動を直接計測する圧力センサーを用いた構成としているが、下水圧変動が便器溜水の水位変化に与える影響量を把握するのが目的であるため、下水圧変動の影響を受けた結果であるボール106とトラップ部108の溜水水位差を測定する構成も採用可能である。その場合溜水水位の計測を非接触方式の超音波センサーを用いたものや、水位検知電極を配置した構成を選定しても良い。
【0095】
図13は本実施例の動作を示すフローチャートである。図14は本実施例の各要素の関連を示すタイミングチャートである。図13及び図14を使用して、本実施例における排尿情報測定便器の動作を説明する。
【0096】
被験者が排尿情報測定便器近傍に近づいた時、操作・表示部は待機中を表示している。
S101で被験者が測定開始操作をすることによって、本装置の表示は「待機中」から「測定準備中」に切り替わるとともに、本装置は測定モードとなり測定準備動作をスタートする。
【0097】
測定開始操作は本実施例のように操作・表示部のスイッチ操作だけでなく、IDカードの器具挿入によるものや、IDタグをかざすことによるものなど、通常用いられる起動信号を発生させる構成手段であれば適用可能である。本装置は医療機関において使用されることも多いため、個人情報と時刻情報が同時に取得できる方法が望ましい。
【0098】
S102は測定準備動作の一つとして、溜水水位を測定する圧力センサー118と下水圧変動を測定する圧力センサー121を校正するステップである。溜水水位を測定する圧力センサー118は、測定管119fで水位に対する出力値が認識される。すなわち、補助タンク119kに溜められた水は、ポンプ119lと開閉弁119mと開閉弁119nを経て、測定管119fに導かれる。導かれた水は一端が大気に開放されている測定管119fの分岐部119qまで上昇した後、トラップ119i、排水導管118bを経て、排水ソケット10に排出される。
【0099】
この動作によって測定管119fの内部には分岐部119qの高さまで水が充填されることになる。したがって、分岐部119qの高さは常に一定で既知であるため、測定管119fの一端に接続された溜水水位を測定する圧力センサー118は、このときの測定管119f内部の水位を測定して原点校正を実施する。このように、測定管119fの水位という常に一定圧力のものと比較して校正を行うことで、圧力センサー118 は水位を絶対位置として測定できるようになる。
また、下水圧変動を測定する圧力センサーも大気圧を基準として、この時出力校正される。
【0100】
次に、溜水水位を測定する準備として制御部120は測定管119fに通水を行った開閉弁119mと開閉弁119nを閉止し、開閉弁119bを開放する。以上、ここまで述べてきた準備動作が終了すると操作・表示部122 の表示は「測定可」になる。
【0101】
表示が「測定可」に変化した後、ステップS103で被験者は測定開始操作を行ない、排尿動作を開始する。この時表示は「測定中」となる。排尿開始前の水位は、トラップ部が溢流するまで尿量を測定することが可能な測定開始水位Yである。ステップS104において、圧力センサー118は排尿に伴い上昇する溜水水位を測定を、また排尿中の下水圧変動は圧力センサー121で、各々測定開始から継続して測定される。
被験者がボール106に排尿すると、図14に示すように、ボール106内の水位は上昇し、水位Zとなる。
【0102】
排尿が終わった後、被験者が、ステップS105で操作・表示部122 の排尿終了スイッチ(図示せず)を操作すると、制御部120はステップS106で測定結果を記憶部に記憶するとともに操作・表示部122のモード表示を「測定中」から「測定準備中」に変更して溜水水位測定を終了する。
【0103】
なお、排尿終了は、被験者のスイッチ操作だけでなく、所定時間水位変化が無いことを検出して判断しても良い。また、操作・表示部122のモード表示はこの時、「測定中」から「便器洗浄」として測定後の被験者の便器洗浄操作を促す表示としてもよい。特に本実施例のように、測定終了後に次回の測定のための準備動作として測定開始水位セットを行なう構成とした時は、次回測定時の測定開始時のトラブル防止に有効である。さらには被験者の終了操作スイッチとして、便器洗浄スイッチを設け、次の動作ステップである便器洗浄ステップの開始操作とする構成でも良い。
【0104】
以上の測定モードが終了すると便器洗浄他の一連の便器動作と、計測された溜水水位変動データから下水配管内圧力変動の影響量を除去して真の溜水水位変動データとする測定データ処理動作が平行して行なわれるが、まず測定データ処理動作について以下に説明する。
【0105】
ステップS107以下では、計測された溜水水位変動データから下水圧変動による2種類の影響(水位シフト成分と水位脈動成分)を除去して、真の溜水水位変動データとする処理を行なうステップである。
【0106】
なお、計測された溜水水位変動データは採用した溜水水位測定系の持つ応答性によって、前述したように実際に起こった下水圧変動に対して一定の遅れ時間(位相ずれ)を持っている。したがって以下の処理は、例えば下水配管内圧力変動に対して、測定系が0.2秒遅れる(位相がずれる)のであれば、0.2秒前の時刻の下水配管内圧力変動値を利用して溜水水位変動データを補正処理する。
【0107】
まずステップS107で測定されて記憶されている溜水水位変動の経時変動データと、それに対応する下水圧変動の経時変動データとを呼び出す。
次にステップS108で測定された溜水水位変動の経時変動データから、水位脈動成分を取り除く。ここでは溜水水位変動に含まれる1〜3Hzの脈動成分を取り除き、下水圧変動の定常成分を含んだ状態の下水圧変動補正前データを取り出す。
【0108】
S109は下水圧変動に含まれる水位シフト成分を勘案して、溜水水位変動データを圧力変動無しの状態に換算していくステップである。以上の処理によって真の溜水水位変動データが得られる。
【0109】
なお、溜水水位の測定系が非定常成分を含む下水配管内圧力変動に対して追従するような構成を採用すれば、以上のステップ(S107〜S109)は削除して、各時刻毎に計測された溜水水位はリアルタイムに圧力変動無し状態に補正処理して記録することも可能である。しかしながら、本システムの測定系は応答遅れを有しているため、溜水水位の経時データと、とを測定し終わった後、溜水水位の経時データを下水圧変動の経時データを利用して、一括して圧力変動無しの状態に補正する本フローとしている。
【0110】
S110は尿量・尿流率などの排尿情報を演算するステップである。S109で得られた各時刻毎の水位情報は、予め得られた溜水水位と溜水量の関係を示す検量線によって溜水量に換算され、排尿前後の溜水量の差が尿量になる。また溜水水位の時刻変動データを時間微分すると、尿流率変動が得られることになる。具体的には1秒間毎の溜水量差が尿流率である。
【0111】
S111は測定結果を出力するステップである。測定結果として各種排尿情報が排尿情報部リモコン134に表示されることになる。測定結果の表示は、紙への印刷、電子媒体への記憶、および、通信回線への情報伝送なども考えられる。
【0112】
以上で測定結果のデータ処理動作は終了する。
次に便器洗浄等の便器系の動作を説明する。
【0113】
S105で被験者の測定終了操作によって便器洗浄を開始する。なお、測定終了操作とは別に便器洗浄操作ステップを設けて便器洗浄を開始するようにしても良い。また、測定終了操作後そのまま離座した場合は、一定時間経過後自動的に便器洗浄を実施するものであっても良い。
【0114】
測定終了操作が実施されると、ステップS201でゼット吐水によるサイホン現象によって、溜水と排泄物が下水配管に送出される。先ず流路切替手段からの給水はリム側に給水して、ボールの水位をトラップ部108の満水水位W近傍にまで上昇させる。次いで、ゼット吐水によってサイホン現象を発生させ、排泄物と溜水を下水配管に排出する。
【0115】
なお、本実施例では測定開始直前のステップS102で溜水水位測定用の圧力センサー118の出力構成動作を行なわせているが、このステップで圧力導管118aを開放してゼット吐水実施中の背圧で測定管119fを溢流させ、排水導管118bに排出させて校正用水位を作って、圧力センサー118の絶対値を校正してもよい。また、測定管119fをこの時点で溢流させ、次回測定時は測定管119fが満水であると想定し、準備動作時の測定管119fへ水を満たす動作を省略することもできる。使用間隔が短く、圧力センサーのドリフト量や、測定管119fの蒸発量が無視できる場合は、このような方法を採用することもできる。
【0116】
S202は測定開始水位を作るステップであり、排泄物を下水配管に送出した後、再びリム給水を実施しボールの水位を測定開始水位に復帰させる。この時、通常の便器に用いられるリム給水系は給水量のバラツキが本装置の目指す精度には不足するため、目標とする測定開始水位の手前の水位までで給水を一旦停止し、その時の溜水水位を確認して不足している溜水量を、開閉弁119mとポンプ119lを起動して、補水タンクからボールに向けて供給する。これによって正確な測定開始水位の再現が実現されるため、下水圧変動に対する破封防止と、測定開始水位変化による測定範囲の変化防止の両立が計られるようになっている。測定開始水位に復帰して、再び次の被験者の測定準備が整うと、表示は「測定待機中」に切り替わる。
【0117】
測定開始水位のセッティングで一連の動作シーケンスは終了し、次回の被験者を待ち待機状態となる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明を実施した第一の実施形態における排尿情報測定便器全体を示す斜視図である。
【図2】本実施形態の全体構成を示すブロック図である。
【図3】本実施形態において、下水圧変動が溜水水位の測定に与える影響を説明する模式図である。
【図4】本実施例における下水配管内の圧力変動による溜水の挙動を示した模式図である。
【図5】下水圧が変動した場合の下水圧変動と溜水水位測定値の関係を示す模式図である。
【図6】溜水水位測定値に対して下水圧変動を補正した状態を示す模式図である。
【図7】下水圧が変動した場合の溜水水位測定値の実測値を示すグラフである。
【図8】第一案を適用して複数の回帰式で溜水水位を補正したグラフである。
【図9】第二案を適用して一つの回帰式で溜水水位測定値を補正したグラフである。
【図10】下水配管内の圧力変動が無い状態の本実施例の構成における溜水の模式図である。
【図11】本発明の測定管の管内径サイズの違いによる除振効果の模式グラフである。
【図12】本発明の排尿情報測定便器の実施例の詳細構成と溜水の水位挙動における各水位を示した図である。
【図13】本実施例の動作を示すフローチャートである。
【図14】本実施例の各要素の関連を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0119】
1・・・・便器
2・・・・ボール
3・・・・リム
4・・・・・溜水
5・・・・・トラップ部
6・・・・・水位設定手段
7・・・・・リム吐水ノズル
71・・・・リム吐水手段
8・・・・・ゼット吐水ノズル
81・・・・ゼット吐水手段
82・・・・分岐部
83・・・・導圧水路
9・・・・・下水配管
91・・・・補水手段
10・・・・排水ソケット
14・・・・溜水水位測定手段
14a・・・除振手段
14b・・・校正手段
15・・・・制御部
16・・・・下水圧変動量計測手段
17・・・・測定値補正手段
18・・・・排尿情報演算手段
22・・・・操作・表示部
101・・・排尿情報測定便器
102・・・洋風大便器
104・・・キャビネット
106・・・ボール
106a・・リム面
107・・・リム吐水ノズル
108・・・トラップ部
108a・・頂部
109・・・ゼット吐水ノズル
110・・・便座
112・・・便ふた
114・・・採尿装置
114a・・採尿器
114b・・採尿アーム
114c・・採尿ユニット
114d・・尿成分測定部
116・・・水路切替手段
118・・・圧力センサー
118a・・圧力導管
118b・・トラップ管路
119b・・開閉弁
119d・・開閉弁
119f・・測定管
119h・・ポンプ
119i・・トラップ
119j・・異物除去手段
119k・・補助タンク
119l・・ポンプ
119m・・開閉弁
119n・・開閉弁
119o・・分岐金具
119p・・開閉弁
120・・・制御部
121・・・圧力センサー
122・・・操作・表示部
132・・・衛生洗浄装置リモコン
134・・・排尿情報測定部リモコン
136・・・プリンター
A・・・・・測定管断面積
H・・・・・溢流水位
g・・・・・重力加速度
H1・・・・トラップ水位
H1’・・・圧力変動時のトラップ水位
Δh1・・・圧力変動時のトラップ水位変化量
H2・・・・ボール水位
H2’・・・圧力変動時のボール水位
Δh2・・・圧力変動時のボール水位変化量
P1・・・・下水配管内圧力
P2・・・・大気圧
Q・・・・・溜水量
S1・・・・トラップ部断面積
S2・・・・ボール断面積
V・・・・・溜水容積
W・・・・・満水水位
X・・・・・空水位
X2・・・・封水水位
Y・・・・・測定開始水位
Z・・・・・排尿後水位
ρ・・・・・水の密度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の尿を受けるボールと、
このボールとボール内の溜水を排出する下水管とを連通させ、この下水配管を水封する溜水を形成するためのトラップ部と、
前記溜水のボール側の溜水水位であるボール部溜水の水位を測定するボール部水位測定手段と、
前記トラップ内の圧力変動が前記ボール内の水位に与える影響を計測する下水圧変動量計測手段と、
被験者が前記ボールに排尿した時に前記水位測定手段によって測定される前記ボール部水位の測定値に基づいて尿量又は尿流率を測定する排尿情報測定手段と、
を有する排尿情報測定便器において、
前記下水圧変動量計測手段の測定値に基づいて、
前記ボール部水位測定手段によって測定される前記ボール部水位測定値を、
予め設定された補正関係式により補正する測定値補正手段を有する
ことを特徴とする排尿情報測定便器。
【請求項2】
前記ボール部水位測定手段は、前記溜水に接続された導圧管路に設けられた圧力センサーであることを特徴とする請求項1に記載の排尿情報測定便器。
【請求項3】
前記下水圧変動量計測手段は、前記トラップ部を介して下水管内圧力を測定する下水圧測定手段であることを特徴とする請求項1に記載の排尿情報測定便器。
【請求項4】
前記補正関係式は、前記下水圧変動量計測手段によって測定される下水配管内の圧力変動に対する、
前記水位測定手段によって測定される複数の前記ボール部水位における水位変化の関係を求めたものである
ことを特徴とする請求項1に記載の排尿情報測定便器。
【請求項5】
前記補正関係式は、前記下水圧変動量計測手段によって測定される下水配管内の圧力変動に対する、尿量測定開始水位の水位変化の関係を求めたものである
ことを特徴とする請求項1に記載の排尿情報測定便器。
【請求項6】
前記ボール部水位測定手段は前記溜水の波立ちノイズ除去手段を有し、
前記波立ちノイズ除去手段は、
前記圧力センサーによって測定するボール部水位測定手段出力のノイズ成分を制御的に除去するものである
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいづれか一項に記載の排尿情報測定便器。
【請求項7】
前記ボール部水位測定手段は前記溜水の波立ちノイズ除去手段を有し、
前記波立ちノイズ除去手段は、
前記導圧管路に一端が接続され、他端が大気へ開放された水柱管である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいづれか一項に記載の排尿情報測定便器。
【請求項8】
前記水柱管の満水時の水位による圧力を、
前記ボール部水位測定手段の出力校正に使用する
ことを特徴とする請求項7に記載の排尿情報測定便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−77755(P2007−77755A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270134(P2005−270134)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】