説明

排気ガスセンサの異常診断装置

【課題】この発明は、排気ガスセンサの異常診断装置に関し、排気ガスセンサの素子割れによる異常を精度よく診断することのできる排気ガスセンサの異常診断装置を提供することを目的とする。
【解決手段】排気ガスセンサの異常診断装置に関し、センサの出力信号に基づいて、センサの素子割れの異常診断を行う異常診断手段と、前記異常診断の診断条件が成立した場合に、前記異常診断の実行を許可する許可手段と、を備える。異常診断手段は、前記許可手段による許可の後にのみ異常診断を実行可能であり、前記排気ガスがリーンである期間中は、前記許可手段による許可が禁止される。また、前記吸入空気量の積算値が所定値以上である場合には、前記異常診断の実行が許可される。また、前記許可手段による許可の後に、吸入空気量が所定値以下となる状態が所定時間継続した場合には、前記許可手段による許可が取り消される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、排気ガスセンサの異常診断装置に関し、特に、排気ガスセンサのセンサ素子割れを検出する装置として好適な排気ガスセンサの異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特開2003−14683号公報に開示されるように、内燃機関の排気通路に配置された酸素センサ(以下、単に「センサ」とも称す)の素子割れによる異常を検出するための装置が知られている。この装置によれば、酸素センサは、大気と排気ガスとの間に介設されるセンサ素子を備え、大気層中の空気と排気ガスとの酸素分圧の差に応じた電圧が出力される。そして、かかる電圧値が、酸素分圧の差が小さい、或いは逆転していることを示す出力パターンである場合に、センサ素子に欠損が生じていると判定して、異常診断を行うこととしている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−14683号公報
【特許文献2】特開2004−353494号公報
【特許文献3】特許第3562030号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、酸素センサのセンサ素子に欠損が生じた場合であっても、内燃機関の運転状態によっては、当該異常センサの出力が正常時と同様の出力パターンを示したり、或いは、正常な酸素センサの出力が素子割れ異常の発生時に類似した出力パターンを示したりすることもある。より具体的には、例えば、排気ガスがリーンである状況においては、センサ素子に割れが生じていて、排気ガスが欠損部から大気層に侵入したとしても、酸素分圧は低下せず、正常センサ類似の出力パターンとなり得る。また、内燃機関の吸入空気量の多少によっては、センサ素子に割れが生じていても排気ガスが欠損部から大気層に侵入せず、酸素分圧が低下しない場合も想定される。このため、素子割れが生じた酸素センサを誤って正常と判定するおそれがあり、センサの異常診断装置としては不十分なものであった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、排気ガスセンサの素子割れによる異常を精度よく診断することのできる排気ガスセンサの異常診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、排気ガスセンサの異常診断装置であって、
内燃機関の排気通路に配置され、外部空気と排気ガスとの間に介設されるセンサ素子を備え、前記外部空気と前記排気ガスとの酸素分圧の差と相関を有する出力信号を発する排気ガスセンサと、
前記排気ガスセンサの出力信号に基づいて、前記排気ガスセンサの素子割れの異常診断を行う異常診断手段と、
前記異常診断の診断条件が成立した場合に、前記異常診断手段による異常診断の実行を許可する許可手段と、を備え、
前記異常診断手段は、前記許可手段による許可の後にのみ前記異常診断を実行可能であり、
前記排気ガスがリーンであるリーン期間中は、前記許可手段による許可を禁止する禁止手段を更に備えることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記リーン期間には、前記内燃機関の燃料カットが実行されている期間が含まれることを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、排気ガスセンサの異常診断装置であって、
内燃機関の排気通路に配置され、外部空気と排気ガスとの間に介設されるセンサ素子を備え、前記外部空気と前記排気ガスとの酸素分圧の差と相関を有する出力信号を発する排気ガスセンサと、
前記排気ガスセンサの出力信号に基づいて、前記排気ガスセンサの素子割れの異常診断を行う異常診断手段と、
前記異常診断の診断条件が成立した場合に、前記異常診断手段による異常診断の実行を許可する許可手段と、
前記内燃機関の吸入空気量の積算値を取得する吸入空気量積算値取得手段と、を備え、
前記異常診断手段は、前記許可手段による許可の後にのみ前記異常診断を実行可能であり、
前記許可手段は、
前記吸入空気量の積算値が所定値以上である場合に、前記異常診断手段による異常診断の実行を許可することを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、排気ガスセンサの異常診断装置であって、
内燃機関の排気通路に配置され、外部空気と排気ガスとの間に介設されるセンサ素子を備え、前記外部空気と前記排気ガスとの酸素分圧の差と相関を有する出力信号を発する排気ガスセンサと、
前記排気ガスセンサの出力信号に基づいて、前記排気ガスセンサの素子割れの異常診断を行う異常診断手段と、
前記異常診断の診断条件が成立した場合に、前記異常診断手段による異常診断の実行を許可する許可手段と、
前記内燃機関の吸入空気量を取得する吸入空気量検出取得手段と、を備え、
前記異常診断手段は、前記許可手段による許可の後にのみ前記異常診断を実行可能であり、
前記許可手段による許可の後に、前記吸入空気量が所定値以下となる状態が所定時間継続した場合に、前記許可手段による許可を取り消す取り消し手段を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、排気ガスの空燃比がリーンであるリーン期間中は、排気ガスセンサの異常診断の許可が禁止される。燃料リーンな排気ガスは酸素分圧が高い。このため、かかる排気ガスがセンサ素子の素子割れ部から外部空気側へ流入したとしても、素子割れ異常を検出するセンサ出力信号を検知することができない。このため、本発明によれば、かかる期間の異常診断の許可を禁止することで、素子割れ異常が発生しているセンサを誤って正常と判断してしまうことを防止し、素子割れ異常の検出精度を高めることができる。
【0011】
第2の発明によれば、内燃機関の燃料カットが実行されている期間中の排気ガスセンサの異常診断を禁止することができる。燃料カットの実行中は、排気通路内に大気が流通する。このため、本発明によれば、かかる期間の異常診断の許可を禁止することで、素子割れ異常が発生しているセンサを誤って正常と判断してしまうことを防止し、素子割れ異常の検出精度を高めることができる。
【0012】
第3の発明によれば、吸入空気量Gaの積算値が所定値以上の場合に、排気ガスセンサの異常診断が許可される。吸入空気量Gaの積算量が多量であるほど、排気通路を流通する排気ガス量が多量となるため、素子割れ部分の排気通路側から外部空気側へ当該排気ガスが多量に流入し得る状態となる。このため、本発明によれば、かかる状態の場合に排気ガスセンサの異常診断を許可することで、素子割れ異常が発生しているセンサを誤って正常と判断してしまうことを防止し、素子割れ異常の検出精度を高めることができる。
【0013】
第4の発明によれば、吸入空気量Gaが極少量の状態が所定時間継続した場合に、排気ガスセンサの異常診断の許可が取り消される。吸入空気量Gaが少量となると、素子割れ部分の排気通路側から外部空気側へ流入した排気ガスが再度排気通路側へ流出するおそれがある。かかる状態が継続されると、最終的にはセンサの異常有無に応じたセンサ出力信号を検知することができないこととなる。このため、本発明によれば、低Ga状態が所定時間継続した場合に異常診断の実行許可を取り消し、再度診断条件を判断することで素子割れ異常が発生しているセンサを誤って正常と判断してしまうことを防止し、素子割れ異常の検出精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。なお、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1のハードウェア構成を説明するための図である。図1に示すとおり、本実施形態のシステムは内燃機関10を備えている。内燃機関10には、吸気通路12および排気通路14が連通している。吸気通路12には、吸入空気量を検出するエアフロメータ16が配置されている。エアフロメータ16の下流には、スロットルバルブ18が配置されている。スロットルバルブ18の近傍には、スロットル開度を検出するスロットルセンサ20が配置されている。
【0016】
内燃機関10の各気筒には、吸気ポート内に燃料を噴射するためのインジェクタ22が配置されている。また、内燃機関のクランク軸24の近傍には、クランク軸24の回転角を検出するためのクランク角センサ26が取り付けられている。クランク角センサの出力によれば、クランク軸24の回転位置や、機関回転数NEなどを検知することができる。
【0017】
内燃機関10の排気通路14には、排気浄化触媒(以下、単に「触媒」とも称す)28が配置されている。触媒28は三元触媒であって、排気ガス中の有害成分であるCO、HC(炭化水素)、およびNOを、理論空燃比近傍で同時に除去するものである。
【0018】
排気通路14には、触媒28の上流に、空燃比センサ(A/Fセンサ)30が配置されている。空燃比センサ30は、排気ガス中の酸素濃度をリニアに検出するセンサであって、触媒28に流入する排気ガス中の酸素濃度に基づいて内燃機関10で燃焼に付された混合気の空燃比を検出するものである。
【0019】
また、排気通路14には、触媒28の下流に酸素センサ40が配置されている。酸素センサ40は、排気ガス中の酸素濃度が所定値より大きいか小さいかを検出するためのセンサであって、センサ位置の排気空燃比がストイキよりも燃料リッチになると所定電圧(例えば0.45V)以上の出力を発生し、排気空燃比がストイキよりもリーンになると所定電圧以下の出力を発生する。このため、酸素センサ40によれば、触媒28の下流に、燃料リッチな排気ガス(HC、COを含む排気ガス)、あるいは燃料リーンな排気ガス(NOを含む排気ガス)が流出してきたかを判断することができる。
【0020】
本実施の形態の装置は、ECU(Electronic Control Unit)70を備えている。ECU70には、上述した各種センサ、およびインジェクタ22などが接続されている。ECU70は、それらのセンサ出力に基づいて、内燃機関10の運転状態を制御することができる。
【0021】
[酸素センサの構成]
図2は、本発明の実施の形態1において用いられる酸素センサ40の構成を説明するための図である。図2に示す酸素センサ40は、上述したとおり、内燃機関10の排気通路14に配置され、触媒28下流の排気ガスの空燃比を検出するために用いられるセンサである。酸素センサ40は、カバー42を備えており、このカバー42が排気ガスに晒されるように排気通路14に組み付けられる。
【0022】
カバー42には、その内部に排気ガスを導くための孔(図示せず)が設けられている。カバー42の内部には、センサ素子44が配置されている。センサ素子44は、一端(図2における下端)が閉じられた管状の構造を有している。管状構造の外側表面は、拡散抵抗層46で覆われている。拡散抵抗層46は、アルミナ等の耐熱性の多孔質物質であり、センサ素子44の表面付近における排気ガスの拡散速度を律する働きを有している。
【0023】
拡散抵抗層46の内側には排気側電極48、固体電解質層50および大気側電極52が設けられている。排気側電極48および大気側電極52は、Ptのように触媒作用の高い貴金属で構成された電極であり、それぞれ後述する制御回路と電気的に接続されている。固体電解質層50は、ZrOなどを含む焼結体であり、酸素イオンを伝導させる特性を有している。
【0024】
センサ素子44の内側には、大気に開放された大気室54が形成されている。大気室54には、センサ素子44を加熱するためのヒータ56が配置されている。センサ素子44は、400℃程度の活性温度において安定した出力特性を示す。ヒータ56は、制御回路と電気的に接続されており、センサ素子44を適当な温度に加熱維持することができる。
【0025】
[酸素センサの異常検出原理]
次に、図3を参照して、酸素センサ40の異常検出原理について説明する。図3(A)は、内燃機関10の排気通路14に配置されている酸素センサ40の周囲環境の状態を説明するための図である。上述したとおり、酸素センサ40には、センサ素子44の大気層54側と排気通路14側の酸素濃度差に応じたセンサ出力が発生する。ここで、図3(A)に示すとおり、酸素センサ40が正常な状態、すなわちセンサ素子44に欠損が発生していない状態においては、排気通路14内を流通する排気ガスが大気層54に混入することはない。このため、酸素濃度は常に排気通路14側が大気層54側より低い状態となり、正常な酸素センサ40の出力は常に正の電圧値が発生することとなる。
【0026】
しかしながら、酸素センサ40に素子割れなどの欠損が発生した場合、排気通路14内の排気ガスが大気層54の内部へ流入することがある。図3(B)は、センサ素子44に素子割れが発生した状態を示している。この図に示すとおり、センサ素子44に素子割れが発生すると、排気通路14内の排気ガスは排気圧力に押され、素子割れ部60から大気層54の内部へ侵入することがある。かかる場合、センサ素子44の大気層54側と排気通路14側の酸素濃度差が無くなって、センサ出力が発生しない状態となる。
【0027】
図3(C)は、図3(B)の状態の後に、内燃機関10において燃料カットが実行されたときの酸素センサ40の周囲環境の状態を示す図である。内燃機関10においては、運転状態などに応じて、燃料噴射を一時的に停止する燃料カットが頻繁に行われる。燃料カットが実行されると排気通路14内に大気が流通する。このため、図3(C)に示すとおり、酸素センサ40の素子割れ部60から大気層54の内部に排気ガスが侵入した後に燃料カットが行われると、センサ素子44の大気層54側と排気通路14側の酸素濃度差が逆転しセンサに負電圧が発生する。したがって、センサ出力から当該負電圧を検出することにより、精度良くセンサ素子割れを検知することが可能となる。
【0028】
[本実施の形態の特徴的動作]
次に、図4または5を参照して、本実施の形態の特徴的動作について説明する。上述したとおり、酸素センサ40の出力が負の値となれば、確実に酸素センサ40の素子割れ異常が発生していると判断することができる。しかしながら、素子割れ異常が発生した場合であっても、内燃機関の運転状態によっては、センサ出力が負の値とならず、正常時と同様の出力パターンを示すことがある。そこで、本実施の形態においては、酸素センサ40の素子割れ異常の検出精度を高めるために、以下に示す条件を更に考慮した酸素センサの異常診断を行うこととする。
【0029】
(i):センサ素子の欠損部から排気ガスが大気層に確実に流入するための条件
図4は、センサに素子割れが発生した後に、ある吸入空気量Gaでの定常運転を実行した場合の、センサ出力低下に要する時間との関係を示している。ここで「センサ出力低下」とは、センサ出力値が、その後の燃料カットの実行により負電圧が検出される程度まで低下したことを意味する。この図に示すとおり、吸入空気量Gaが大きいほど、短時間でセンサ出力が低下していることが分かる。吸入空気量Gaが多いほど、多量の排気ガスが排気通路14を流通するため排気圧力が上昇する。このため、吸入空気量Gaが大きいほど、センサの素子割れ部分から排気ガスが大気層54に多量に流入することとなる。
【0030】
したがって、本実施の形態においては、吸入空気量Gaの時間積算値SUM_Gaが、排気ガスが大気層54の内部に流入しうる空気量以上となる場合に、上述した酸素センサの異常診断を行うこととする。これにより、素子割れ異常が発生しているセンサを誤って正常と判断してしまうことを防止し、素子割れ異常の検出精度を高めることが可能となる。
【0031】
(ii):センサ素子の欠損部から大気層に流入した排気ガスが抜けないための条件
上述したとおり、吸入空気量Gaの積算値SUM_Gaが所定値以上である場合には、大気層54に確実に排気ガスが侵入している判断することができる。しかしながら、その後に吸入空気量Gaが低い低Ga状態が長時間継続されると、再び排気ガスが欠損部から排気通路14側に抜けてしまう可能性がある。
【0032】
図5は、吸入空気量Gaの積算値SUM_Gaが所定値以上となった後に、所定の低Ga値が継続された場合の継続時間と発生する負電圧値との関係を示している。この図に示すとおり、低Ga値の継続時間が長いほど、負電圧値の絶対値が小さくなる傾向となる。また、低Ga値が小さいほど、負電圧値の絶対値が小さくなる傾向となる。
【0033】
したがって、本実施の形態においては、センサの大気層54内部に流入した排気ガスが、再び流出してしまう低Ga状態が一定時間継続した場合に、上述した酸素センサの異常診断の実行を禁止することとする。これにより、素子割れ異常が発生しているセンサを誤って正常と判断してしまうことを防止し、素子割れ異常の検出精度を高めることが可能となる。
【0034】
(iii):排気ガスのガス状態により負のセンサ出力値が発生するための条件
上述したとおり、センサ素子44の欠損部から排気ガスが大気層54内部に流入した後に燃料カットが実行されると、センサ素子44の大気層54側と排気通路14側の酸素濃度差が逆転し負電圧が発生する。このため、かかる負のセンサ出力値が検出された場合に素子割れが発生していると診断することができる。
【0035】
ところで、排気通路14を流通する排気ガスは、内燃機関の運転状態などの影響により、燃料リーンとなる場合がある。より具体的には、強制的なリーン制御や燃料カットなどが行われている期間は、燃料リーンな排気ガスが排気通路14を流通する。ここで、リーンガスは酸素濃度が高い。このため、素子割れ部からかかるリーンガスが流入し、その後に燃料カットが実行されたとしても、センサ素子44に酸素分圧差が生じ難いため、センサの素子割れ異常を精度よく発見することが困難となる。
【0036】
したがって、本実施の形態においては、排気ガスが燃料リーンである場合の酸素センサの異常診断を禁止する。これにより、素子割れ異常が発生しているセンサを誤って正常と判断してしまうことを防止し、素子割れ異常の検出精度を高めることが可能となる。
【0037】
[実施の形態における具体的処理]
次に、図6を参照して、本実施の形態の装置が、酸素センサ40の素子割れ異常を診断する処理の具体的内容について説明する。図6はECU70が、酸素センサ40の素子割れ異常を診断するルーチンのフローチャートである。図6に示すルーチンでは、先ず、前提条件が成立しているか否かが判断される(ステップ100)。ここでは、具体的には、内燃機関10の暖機状態、車速、機関回転数NE、酸素センサ40の活性状態などが当該異常診断を実行するための前提条件を充足しているか否かが判断される。その結果、前提条件の成立が認められない場合には、後述するステップ108で算出された積算Gaがゼロにリセットされ(ステップ102)、再度本ルーチンが初めから実行される。
【0038】
上記ステップ100において、前提条件の成立が認められた場合には、次に、排気ガスの状態がリーンであるか否かが判断される(ステップ104)。上述したとおり、排気ガスの状態がリーンであると、当該リーンガスがセンサの素子割れ部から侵入しても、その後に負電圧が発生しない可能性がある。このため、本ステップでは、具体的には、内燃機関10の運転状態が燃料カット中であるか否か、或いは強制的なリーン制御中であるか否かなどに基づいて、排気ガスの状態がリーンであるか否かが判断される。その結果、排気ガスの状態がリーンであると判断された場合には、ステップ102に移行し、積算Gaがリセットされた後に再度本ルーチンが初めから実行される。
【0039】
上記ステップ104において、排気ガスの状態がリーンでないと判断された場合には、次に、吸入空気量Gaが所定値より大きいか否かが判断される(ステップ106)。吸入空気量Gaが極少量である場合には、センサに素子割れが発生したとしても割れ部分から排気ガスが侵入しない可能性がある。このため、ここでは、具体的には、エアフロメータ16により検出された吸入空気量Gaが、排気ガスが素子割れ部から侵入するための下限値(例えば、Ga=30g/s)に達しているか否かが判断される。その結果、吸入空気量Gaの下限値に達していないと判断された場合には、ステップ102に移行し、積算Gaがリセットされた後に再度本ルーチンが初めから実行される。
【0040】
上記ステップ106において、吸入空気量Gaが下限値に達していると判断された場合には、次に、吸入空気量Gaの時間積算値である積算Ga(SUM_Ga)が算出される(ステップ108)。ここでは、具体的には、ステップ102にてゼロにリセットされた後の吸入空気量Gaの時間積算値が算出される。
【0041】
次に、積算Ga(SUM_Ga)が、所定量以上か否かが判断される(ステップ110)。上述したとおり、吸入空気量Gaが大きいほど、センサの素子割れ部分から排気ガスが大気層54に多量に流入することとなる。このため、ここでは、具体的には、上記ステップ106にて算出された積算Ga(SUM_Ga)が、大気層54内部に排気ガスが確実に流入しうる空気量(例えば、SUM_Ga=1500(g))に達しているか否かが判断される。その結果、SUM_Ga≧1500の成立が認められない場合にはステップ100〜108の処理が繰り返し実行され、吸入空気量Gaが所定値に達するまで積算される。
【0042】
上記ステップ110において成立が認められた場合には、負電圧判定条件がセットされる(ステップ112)。これにより、ステップ104における排気ガスがリーンでない条件、およびステップ110におけるSUM_Gaが所定量以上である条件が整ったと判断され、後述するセンサ出力を検出する処理に移行する。
【0043】
図6に示すルーチンにおいては、次に、排気ガスの状態がリーンであるか否かが判断される(ステップ120)。上述したとおり、ステップ112において負電圧判定条件がセットされた後に、センサ素子44の排気ガス側にリーンガスが流通すると、酸素センサ40の素子割れによる異常、或いは正常を診断することができる。ここでは、具体的には、内燃機関10の運転状態が燃料カット中であるか否か、或いは強制的なリーン制御中であるか否かなどに基づいて、排気ガスの状態がリーンであるか否かが判断される。
【0044】
上記ステップ120において排気ガス状態がリーンであると判断された場合には、次に、酸素センサ40の出力電圧に負電圧が発生するか否かが判断される(ステップ122)。上述したとおり、負電圧判定条件がセットされている状態において、排気ガスの状態がリーンとなると、素子割れが発生しているセンサがある場合においては、センサ素子44の大気層側と排気ガス側との酸素分圧が逆転する。このため、センサ出力が負電圧となるか否かを判断することにより、センサの異常有無を精度よく判定することが可能となる。その結果、酸素センサ40の出力電圧に負電圧が発生しない場合には、正常判定が行われ(ステップ124)、当該出力電圧に負電圧が発生した場合には、異常判定が行われる(ステップ126)。
【0045】
また、ステップ120において排気ガスの状態がリーンであると認められない場合には、次に、吸入空気量Gaが所定量よりも小さいか否かが判断される(ステップ130)。上述したとおり、吸入空気量Gaが極少量である状態が長時間継続されると、大気層54内部に侵入した排気ガスが素子割れ部から再び流出してしまうおそれがある。このため、ここでは、具体的には、先ず、エアフロメータ16により吸入空気量Gaが検出される。そして、当該吸入空気量Gaが、大気層54内に侵入した排気ガスが割れ部から逆流し始める下限値(例えば、Ga=10g/s)より少量か否かが判断される。その結果、吸入空気量Gaが下限値以上である場合は、上述した排気ガスの流出現象が起こらないと判断され、再度ステップ120に戻り排気ガスの空燃比状態が判断される。
【0046】
一方、上記ステップ130において吸入空気量Gaが下限値より小さいと認められる場合は次のステップに移行し、低Ga継続カウンタ(Ga_CNT)がカウントされる(ステップ132)。上述したとおり、吸入空気量Gaが低Gaの下限値を下回ると、徐々に大気層54内部の排気ガスが素子割れ部から流出しうる。このため、ここでは、排気ガスの流出が起こりうる状態の継続時間がカウントされる。
【0047】
次に、上記ステップ132にてカウントされたGa_CNTが所定時間以上であるか否かが判断される(ステップ134)。所定時間は、大気層54内部に侵入した排気ガスが、その後に故障診断を行うことができない程度まで流出する時間(例えば、10(s))として特定される。その結果、Ga_CNT≧10(s)の成立が認められない場合には、酸素センサ40の故障診断が可能であると判断され、再度ステップ120に戻り排気ガスの空燃比状態が判断される。一方、Ga_CNT≧10(s)の成立が認められた場合には、酸素センサ40の故障診断を行いうる状態に無いと判断され、負電圧判定条件がクリアされる(ステップ136)。そして、ステップ102においてSUM_Gaがゼロにリセットされ、再度本ルーチンが最初から実行される。
【0048】
以上説明したとおり、本実施の形態の装置によれば、吸入空気量Gaの積算値SUM_Gaが所定値以上の場合に、酸素センサ40の異常診断が実行される。これにより、排気ガスが素子割れ部から確実に大気層へ侵入し得る場合に限り異常診断が実行される。このため、素子割れ異常が発生しているセンサを誤って正常と判断してしまうことを防止し、素子割れ異常の検出精度を高めることが可能となる。
【0049】
また、本実施の形態の装置によれば、吸入空気量Gaが所定の低Ga値以下の状態が所定時間継続した場合に、上述した酸素センサの異常診断の実行が禁止される。これにより、素子割れが発生していても、大気層へ侵入した排気ガスが流出してしまう場合の異常診断が禁止される。このため、素子割れ異常が発生しているセンサを誤って正常と判断してしまうことを防止し、素子割れ異常の検出精度を高めることが可能となる。
【0050】
また、本実施の形態の装置によれば、排気ガスが燃料リーンである場合の酸素センサの異常診断が禁止される。これにより、排気ガスが素子割れ部から確実に大気層へ侵入したとしても、排気ガス側と大気層側との酸素分圧差が生じない場合の異常診断が禁止される。このため、素子割れ異常が発生しているセンサを誤って正常と判断してしまうことを防止し、素子割れ異常の検出精度を高めることが可能となる。
【0051】
ところで、上述した実施の形態においては、触媒28の下流に配置された酸素センサ40について素子割れ異常診断を実行することとしているが、異常診断の対象となるセンサは当該センサに限られない。すなわち、触媒上流に配置された空燃比センサにおいて、当該異常診断を実行することとしてもよい。
【0052】
また、上述した実施の形態においては、酸素センサの出力に負電圧が検知された場合に当該センサに素子割れによる異常が発生していると判断することとしているが、異常判断の方法はこれに限られない。すなわち、センサ出力の変化に基づいて異常発生有無を診断するのであれば、他の出力パターンにより異常判断を行うこととしてもよい。
【0053】
尚、上述した実施の形態においては、酸素センサ40が前記第1の発明における「排気ガスセンサ」に相当していると共に、ECU70が、上記ステップ104の処理を実行することにより、前記第1の発明における「禁止手段」が、上記ステップ112の処理を実行することにより、前記第1の発明における「許可手段」が、上記ステップ124または126の処理を実行することにより、前記第1の発明における「異常診断手段」がそれぞれ実現されている。
【0054】
尚、上述した実施の形態においては、酸素センサ40が前記第3の発明における「排気ガスセンサ」に相当していると共に、ECU70が、上記ステップ108の処理を実行することにより、前記第3の発明における「吸入空気量積算値取得手段」が、上記ステップ112の処理を実行することにより、前記第3の発明における「許可手段」が、上記ステップ124または126の処理を実行することにより、前記第3の発明における「異常診断手段」がそれぞれ実現されている。
【0055】
尚、上述した実施の形態においては、酸素センサ40が前記第4の発明における「排気ガスセンサ」に相当していると共に、ECU70が、上記ステップ136の処理を実行することにより、前記第4の発明における「取り消し手段」が、上記ステップ112の処理を実行することにより、前記第4の発明における「許可手段」が、上記ステップ130の処理を実行することにより、前記第4の発明における「吸入空気量取得手段」が、上記ステップ124または126の処理を実行することにより、前記第4の発明における「異常診断手段」がそれぞれ実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1において用いられる酸素センサの構成を説明するための図である。
【図3】酸素センサの異常診断の原理を説明するための図である。
【図4】センサに素子割れが発生した後に、ある吸入空気量Gaでの定常運転を実行した場合の、センサ出力低下に要する時間との関係を示す図である。
【図5】SUM_Gaが所定値以上となった後に、所定の低Ga値を継続した場合の継続時間と負電圧値との関係を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
10 内燃機関
12 吸気通路
14 排気通路
16 エアフロメータ
18 スロットルバルブ
20 スロットルセンサ
22 インジェクタ
24 クランク軸
26 クランク角センサ
28 触媒
30 空燃比センサ
40 酸素センサ
42 カバー
44 センサ素子
46 拡散抵抗層
48 排気側電極
50 固体電解質層
52 大気側電極
54 大気層
56 ヒータ
60 素子割れ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置され、外部空気と排気ガスとの間に介設されるセンサ素子を備え、前記外部空気と前記排気ガスとの酸素分圧の差と相関を有する出力信号を発する排気ガスセンサと、
前記排気ガスセンサの出力信号に基づいて、前記排気ガスセンサの素子割れの異常診断を行う異常診断手段と、
前記異常診断の診断条件が成立した場合に、前記異常診断手段による異常診断の実行を許可する許可手段と、を備え、
前記異常診断手段は、前記許可手段による許可の後にのみ前記異常診断を実行可能であり、
前記排気ガスがリーンであるリーン期間中は、前記許可手段による許可を禁止する禁止手段を更に備えることを特徴とする排気ガスセンサの異常診断装置。
【請求項2】
前記リーン期間には、前記内燃機関の燃料カットが実行されている期間が含まれることを特徴とする請求項1に記載の排気ガスセンサの異常診断装置。
【請求項3】
内燃機関の排気通路に配置され、外部空気と排気ガスとの間に介設されるセンサ素子を備え、前記外部空気と前記排気ガスとの酸素分圧の差と相関を有する出力信号を発する排気ガスセンサと、
前記排気ガスセンサの出力信号に基づいて、前記排気ガスセンサの素子割れの異常診断を行う異常診断手段と、
前記異常診断の診断条件が成立した場合に、前記異常診断手段による異常診断の実行を許可する許可手段と、
前記内燃機関の吸入空気量の積算値を取得する吸入空気量積算値取得手段と、を備え、
前記異常診断手段は、前記許可手段による許可の後にのみ前記異常診断を実行可能であり、
前記許可手段は、
前記吸入空気量の積算値が所定値以上である場合に、前記異常診断手段による異常診断の実行を許可することを特徴とする排気ガスセンサの異常診断装置。
【請求項4】
内燃機関の排気通路に配置され、外部空気と排気ガスとの間に介設されるセンサ素子を備え、前記外部空気と前記排気ガスとの酸素分圧の差と相関を有する出力信号を発する排気ガスセンサと、
前記排気ガスセンサの出力信号に基づいて、前記排気ガスセンサの素子割れの異常診断を行う異常診断手段と、
前記異常診断の診断条件が成立した場合に、前記異常診断手段による異常診断の実行を許可する許可手段と、
前記内燃機関の吸入空気量を取得する吸入空気量検出取得手段と、を備え、
前記異常診断手段は、前記許可手段による許可の後にのみ前記異常診断を実行可能であり、
前記許可手段による許可の後に、前記吸入空気量が所定値以下となる状態が所定時間継続した場合に、前記許可手段による許可を取り消す取り消し手段を更に備えることを特徴とする排気ガスセンサの異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−14670(P2008−14670A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183597(P2006−183597)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】