説明

排気ガス浄化用触媒

【課題】中空状酸化物を含む三元触媒の低温活性(ライトオフ性能)の向上を図る。
【解決手段】ハニカム状担体のセル壁に少なくとも2つの触媒層を形成し、上層には触媒金属を担持した中実状の酸化物粉末を配置し、下層には触媒金属を担持した中空状のセリア系又はアルミナ系の酸化物粉末を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排気ガス浄化用触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気ガスを浄化するための触媒としては、アルミナ等の酸化物粉末(サポート材)にPt、Pd、Rh等の貴金属を担持したものが一般に採用され、さらに酸素吸蔵能を有するセリアも貴金属のサポート材として採用されている。かかる排気ガス浄化用触媒に関し、中空状酸化物粉末と中実状酸化物粉末とをサポート材として用いることが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
すなわち、それは、上記中空状酸化物粉末をサポート材として触媒層を形成することにより、該触媒層の細孔容積を大きくし、それによってガス拡散性を高めて当該触媒の高温浄化性能を高めるというものである。従って、触媒層を複数の層の積層構造とする場合は、上記ガス拡散性をより高く発現させるために、上記中空状酸化物粉末はその複数層のうちの、最下層を除く層に存在することが望ましく、特に最上層に存在することが望ましいとされている。
【特許文献1】特開2002−1120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の如き中空状酸化物粉末では、その殻壁を排気ガスが出入りすることになるものの、当該殻壁は数nmから数十nmサイズの極微小な結晶子が凝集してなるものであるから、排気ガスの出入りにはある程度の抵抗がある。従って、排気ガス圧力が低いとき、例えばエンジンの始動直後のアイドルアップ時には、上記ガス拡散による浄化性能の向上はあまり期待できない。
【0005】
特に、エンジン冷間始動時においては、触媒の上層に含まれている中空状酸化物粉末が断熱材として働いて、排気ガスから下層への熱伝達が悪くなり、また、下層からさらにハニカム状担体に熱が奪われることもあって、下層の温度上昇が遅れ、冷間始動時における触媒の早期活性化に不利になる。
【0006】
そこで、本発明は、中空状酸化物粉末を含む触媒において、その低温活性(ライトオフ性能)の向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような課題に対して、中空状酸化物粉末を触媒層の上層ではなく下層側に含ませて上層の早期昇温を図るようにした。
【0008】
すなわち、請求項1に係る発明は、ハニカム状担体の排気ガス通路壁の表面に、中空状酸化物粉末と、該酸化物粉末に担持された触媒金属とを含有する触媒層が形成されている排気ガス浄化用触媒において、
上記触媒層は、少なくとも2つの層が積層されたものであり、
上記中空状酸化物粉末は、セリア系酸化物又はアルミナ系酸化物の粉末であり、上記触媒層のうち上記排気ガス通路を流れる排気ガスに直接晒される上層よりも上記ハニカム状担体側に存する下層に含まれていることを特徴とする。
【0009】
従って、上記触媒層の上層は、排気ガスの熱を直接受けることができ、しかも、下層の中空状酸化物粉末の断熱効果によって上層からハニカム状担体への熱の逃げが抑制されるから、当該上層の早期昇温が図れ、低温活性の向上に有利になる。
【0010】
触媒層を3層以上の積層構造とする場合、上記中空状酸化物粉末は、最上層以外であれば、ハニカム状担体側に配置された複数の下層のうちのいずれの層に設けてもよい。
【0011】
また、セリア系酸化物とは、セリアの他、例えばCe−Zr複酸化物のようなCeを含有する複酸化物を含む意味である。同様にアルミナ系酸化物とは、アルミナの他、例えばLa含有アルミナのようなAlを含有する複酸化物を含む意味である。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1において、
上記中空状酸化物粉末は、上記ハニカム状担体における排気ガス流れ方向の上流端より下流端へ向かう所定範囲にのみ設けられていることを特徴とする。
【0013】
すなわち、ハニカム状担体を通過する排気ガスから最初に熱を受けるのは該担体の上流端の部位である。そうして、この部位で排気ガスの浄化が一旦始まると、その触媒反応熱によって当該部位の活性が維持されるとともに、その触媒反応熱の影響によって活性を呈する部分が下流側へ広がっていく。
【0014】
そこで、本発明では、ハニカム状担体の上流端から所定範囲のみに中空状酸化物粉末を設けて、上流端に位置する触媒の早期活性を図るとともに、中空状酸化物粉末の使用量を少なくしてコスト低減を図るようにしたものである。
【0015】
上記下層の中空状酸化物粉末を設ける範囲は、ハニカム状担体の上流端寄りのみとしても、上流端よりハニカム状担体の排気ガス流れ方向の中央位置までとしても、或いは上流端より上記中央位置を越えて下流側に入った位置までとしてもよい。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2において、
上記上層には、触媒金属としてのRhを担持したセリア系の中実状酸化物粉末が含まれ、
上記下層の上記中空状酸化物粉末には、Pt及びPdのうちの少なくとも一方が上記触媒金属として担持されていることを特徴とする。
【0017】
この発明では、上層のRhを担持したセリア系複酸化物がHC(炭化水素)のスチームリフォーミング反応又は部分酸化反応を促進することにより、排気ガス中のHCがH2や部分酸化HCなどの活性の高い分解生成物となって下層に供給される。このため、下層のPt又はPdを担持した中空状複酸化物での触媒反応性が高くなる。また、この分解生成物は排気ガス中のHCに比べてサイズが小さいから、中空状酸化物粉末の殻壁を通過し易くなるとともに、下層の大きな細孔容積を活かしたガス拡散に有利になり、従って、浄化性能の向上に有利になる。また、下層の触媒金属としてPdを採用した場合でも、該Pdの被毒の原因となるHCが上述の如く上層で浄化され若しくは反応性の高い部分酸化HCに変わるから、当該下層の触媒の劣化が抑制される。
【0018】
請求項4に係る発明は、請求項3において、
上記上層には、触媒金属としてさらにPtが含まれていることを特徴とする。
【0019】
従って、上層においてPtにより高分子HC等の酸化反応が促進されるので、排気ガス浄化性能が高くなる。また、上層のPtによって、部分酸化HCの生成量が多くなるので、下層での排気ガス浄化の反応性が高くなるとともに、下層の触媒金属としてPdを採用した場合の該PdのHC被毒が抑制される。また、上層のRhは酸化されるとその触媒性能が低下するが、酸化雰囲気下においても、上層のPtによってHC等の酸化反応が促進され、その結果、局所的に還元雰囲気ができるため、Rhの酸化が抑制され、その活性の維持に有利になる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、セリア系又はアルミナ系の中空状酸化物粉末を下層側に配置したから、この下層側中空状酸化物粉末の断熱効果を利用して、上層側触媒の温度を排気ガスの熱によって速やかに上昇させることができ、低温活性の向上に有利になる。
【0021】
また、上記中空状酸化物粉末をハニカム状担体における排気ガス流れ方向の上流端より下流端へ向かう所定範囲にのみ設けた場合には、触媒の低温活性の向上を図りつつコストを下げることができる。
【0022】
また、Rhを担持したセリア系中実状酸化物粉末を上層に配置し、Pt及びPdのうちの少なくとも一方を担持した上記中空状酸化物粉末を下層に配置した場合には、下層の触媒反応性が高まるため排気ガス浄化性能の向上に有利になるとともに、下層の触媒金属としてPdを採用した場合でも、該PdのHC被毒が抑制され、触媒の耐久性向上に有利になる。
【0023】
また、上層には、触媒金属として上記Rhの他にさらにPtを含ませた場合には、上層でのHC浄化性が向上するとともに、下層での触媒反応性が高まって排気ガスの浄化に有利になり、しかも、上層のRhの酸化抑制、並びに下層にPdを配置した場合の該PdのHC被毒の抑制が図れ、触媒の耐久性向上に有利になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1は自動車のエンジンの排気通路に配設される排気ガス浄化用触媒(三元触媒)1が示されている。この触媒1は、排気ガス通路を構成する多数のセル3を有する多孔質のモノリス担体(ハニカム状担体)2を有し、図2に示すように、各セル壁5の表面に、排気ガス浄化用の触媒層が形成されている。この触媒層は、セル壁5側の下層6に、セル(排気ガス通路)3を流れる排気ガスに直接晒される上層7が積層された二層構造になっている。
【0026】
下層6は、触媒金属を担持したセリア系又はアルミナ系の中空状酸化物粉末を含有し、上層7は、触媒金属を担持した中実状の酸化物粉末を含有する。下層6には、上記中空状酸化物粉末の他に、中実状酸化物粉末或いは触媒金属を担持した中実状酸化物粉末を含ませることができる。
【0027】
図3は、ハニカム状担体2の排気ガス流れ方向上流側の下層6aに上記触媒金属を担持したセリア系又はアルミナ系の中空状酸化物粉末を配置し、下流側の下層6bには触媒金属を担持した中実状酸化物粉末を配置した例である。
【0028】
以下、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0029】
−実施例1−1−
(触媒の構成)
本例は、上層7にはハニカム状担体の全長にわたって中実状のRh担持Zr−Ce複酸化物粉末を配置し、下層6にはハニカム状担体の全長にわたって中空状のPt担持La含有アルミナ粉末を配置したものである。
【0030】
上層の中実状Rh担持Zr−Ce複酸化物粉末は、ZrO2/CeO2の質量比が75/25の中実状Zr−Ce複酸化物粉末にRhを担持したものである。このZr−Ce複酸化物の担持量(担体1L当たりの担持量のこと。以下、同じ。)は50g/L、Rh担持量は0.15g/Lである。
【0031】
下層の中空状Pt担持La含有アルミナ粉末は、Laを含有するアルミナにPtを担持させてなる粉末(中実)を用いて図4に示す中空殻8の形状に成形したものである。La含有アルミナのLa/Alモル比は5/100であり、La含有アルミナ担持量は50g/L、Pt担持量は0.45g/Lである。
【0032】
(中空状酸化物粉末の調製)
上記中空状Pt担持La含有アルミナ粉末は以下の方法によって調製した。
【0033】
直径0.05〜1.3μm程度のポリビニルブチラール(PVB)の粉末を5%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液に入れて攪拌することにより、PVB溶液を作る。このPVB溶液に上述の中実状Pt担持La含有アルミナ粉末を添加して混合スラリーを調製する。PVB溶液とPt担持La含有アルミナ粉末との比率は例えばPVB溶液を60質量%、当該粉末を40質量%とする。
【0034】
上記混合スラリーを、ロート状滴下器具を用いて、KCl溶液を入れた容器内に滴下していくことにより、PVB粒子表面にPt担持La含有アルミナ粉末がコーティングされた球状粒子を生成する。
【0035】
容器の底に堆積した球状粒子を取り出し、大気雰囲気において150℃の温度に2時間程度保持する乾燥処理、並びに大気雰囲気において500℃の温度に2時間程度保持する焼成処理を施す。この焼成により、PVBは熱分解して焼失し、上記Pt担持アルミナの球状中空殻が得られる。その直径は0.05〜1.3μm程度となる。
【0036】
(触媒の調製(ハニカム状担体への触媒材料の担持))
そうして、上記中空状Pt担持La含有アルミナ粉末をバインダ及び水と混合してスラリーを調製し、このスラリーにハニカム状担体を浸漬して引き上げ、エアブローによって余分なスラリーを吹き飛ばした。しかる後、大気雰囲気において150℃で2時間の乾燥及び500℃で2時間の焼成を行なうことにより、下層を形成した。
【0037】
次いで上記中実状Rh担持Zr−Ce複酸化物粉末をバインダ及び水と混合してスラリーを調製し、このスラリーに上記下層を形成したハニカム状担体を浸漬して引き上げ、エアブローによって余分なスラリーを吹き飛ばした。しかる後、大気雰囲気において150℃で2時間の乾燥及び500℃で2時間の焼成を行なうことにより、上層を形成した。
【0038】
−実施例1−2−
上層7は実施例1−1と同じ構成(全長にわたって中実状Rh担持Zr−Ce複酸化物粉末を配置,Zr−Ce複酸化物担持量50g/L,Rh担持量0.15g/L)とした。
【0039】
下層は図3に示すように上流側下層6aと下流側下層6bとにハニカム状担体の排気ガス流れ方向の中央で二分し、上流側下層6aには実施例1−1の下層と同じ中空状Pt担持La含有アルミナ粉末を配置し、下流側下層6bには実施例1−1において中空状Pt担持La含有アルミナの原料として用いたLaを含有するアルミナにPtを担持してなる中実の粉末(以下、中実状Pt担持La含有アルミナ粉末という。)を配置した。下層側の担持量は、実施例1−1と同じく、La含有アルミナが50g/L、Ptが0.45g/Lであり、La含有アルミナ及びPt各々の半分量を上流側下層6aに担持し、残り半分量を下流側下層6bに担持した。
【0040】
−比較例1−
上層7は実施例1−1と同じ構成(全長にわたって中実状Rh担持Zr−Ce複酸化物粉末を配置,Zr−Ce複酸化物担持量50g/L,Rh担持量0.15g/L)とした。
【0041】
下層6にはハニカム状担体2の全長にわたって、実施例1−2の下流側下層6bと同じ中実状Pt担持La含有アルミナ粉末をLa含有アルミナが50g/L、Ptが0.45g/Lとなるように担持した。
【0042】
−実施例2−1−
上層7には、実施例1−1と同じくハニカム状担体2の全長にわたって中実状Rh担持Zr−Ce複酸化物粉末を配置した。但し、Zr−Ce複酸化物担持量は50g/Lとなるようにしたが、Rh担持量は実施例1−1とは違って0.1g/Lとなるようにした。Zr−Ce複酸化物のZrO2/CeO2の質量比は75/25である。
【0043】
下層6に関しては、実施例1−1では触媒金属としてPtを採用したが、本例では、これに代えてPdを採用した。すなわち、ハニカム状担体2の全長にわたって下層6には、中空状Pd担持La含有アルミナ粉末を配置した。この中空状Pd担持La含有アルミナ粉末は、実施例1−1の中空状Pt担持La含有アルミナ粉末と同じく、中実状のPd担持La含有アルミナ粉末を用いて同じ製法で調製したものである。担持量は、La含有アルミナが50g/L、Pdが0.9g/Lである。また、La含有アルミナのLa/Alモル比は5/100である。
【0044】
−実施2−2−
上層7は実施例2−1と同じ構成(全長にわたって中実状Rh担持Zr−Ce複酸化物粉末を配置,Zr−Ce複酸化物担持量50g/L,Rh担持量0.1g/L)とした。
【0045】
下層に関しては、実施例1−2と同様に二分し、その上流側下層6aには実施例2−1の下層と同じ中空状Pd担持La含有アルミナ粉末を配置し、下流側下層6bには上述の中実状Pd担持La含有アルミナ粉末を配置した。下層側の担持量は、実施例2−1と同じく、La含有アルミナが50g/L、Pdが0.9g/Lであり、La含有アルミナ及びPd各々の半分量を上流側下層6aに担持し、残り半分量を下流側下層6bに担持した。
【0046】
−比較例2−
上層7は実施例2−1と同じ構成(全長にわたって中実状Rh担持Zr−Ce複酸化物粉末を配置,Zr−Ce複酸化物担持量50g/L,Rh担持量0.1g/L)とした。
【0047】
下層6に関しては、ハニカム状担体2の全長にわたって、実施例2−2の下流側下層6bと同じ中実状Pd担持アルミナ粉末をLa含有アルミナが50g/L、Pdが0.9g/Lとなるように担持した。
【0048】
−実施例3−1−
上層7にはハニカム状担体の全長にわたって中実状Rh担持Zr−Ce複酸化物粉末と中実状Pt担持La含有アルミナ粉末との混合物を配置した。中実状Rh担持Zr−Ce複酸化物粉末は実施例2−1の上層のそれと同じくZrO2/CeO2質量比が75/25の中実状Zr−Ce複酸化物にRhを担持したものであって、担持量はZr−Ce複酸化物が50g/L、Rhが0.1g/Lとなるようにした。一方、上層7の中実状Pt担持La含有アルミナ粉末は、La/Alモル比が5/100の中実状La含有アルミナにPtを担持したものであって、La含有アルミナ担持量は50g/L、Pt担持量は0.1g/Lである。
【0049】
下層6は実施例2−1と同じ構成(全長にわたって中空状Pd担持La含有アルミナ粉末を配置,La含有アルミナ担持量50g/L,Pd担持量0.9g/L)とした。
【0050】
−実施例3−2−
上層7は実施例3−1と同じ構成(全長にわたって中実状Rh担持Zr−Ce複酸化物粉末と中実状Pt担持La含有アルミナ粉末との混合物を配置,Zr−Ce複酸化物担持量50g/L,Rh担持量0.1g/L,La含有アルミナ担持量50g/L,Pt担持量0.1g/L)とした。
【0051】
下層は、実施例1−2と同様に二分し、その上流側下層6aには実施例3−1の下層と同じ中空状Pd担持La含有アルミナ粉末を配置し、下流側下層6bには上述の中実状Pd担持La含有アルミナ粉末を配置した。下層側の担持量は、実施例3−1と同じく、La含有アルミナが50g/L、Pdが0.9g/Lであり、La含有アルミナ及びPd各々の半分量を上流側下層6aに担持し、残り半分量を下流側下層6bに担持した。
【0052】
−比較例3−
上層7は実施例3−1と同じ構成(全長にわたって中実状Rh担持Zr−Ce複酸化物粉末と中実状Pt担持La含有アルミナ粉末との混合物を配置,Zr−Ce複酸化物担持量50g/L,Rh担持量0.1g/L,La含有アルミナ担持量50g/L,Pt担持量0.1g/L)とした。
【0053】
下層6にはハニカム状担体2の全長にわたって、実施例3−2の下流側下層6bと同じ中実状Pd担持アルミナ粉末をLa含有アルミナが50g/L、Pdが0.9g/Lとなるように配置した。
【0054】
<触媒の評価>
上記実施例及び比較例の各触媒について、大気雰囲気において1000℃の温度に24時間保持するエージングを行なった後、モデルガス流通反応装置に取り付け、空燃比リッチのモデルガス(温度600℃)を20分間流した後、下記のモデルガスにより、HC、CO及びNOx(窒素酸化物)の浄化に関するライトオフ温度T50を測定した。T50は、触媒に流入するモデルガス温度を常温から500℃まで漸次上昇させていき、浄化率が50%に達したときの触媒入口のガス温度である。モデルガスは、A/F=14.7±0.9とした。すなわち、A/F=14.7のメインストリームガスを定常的に流しつつ、所定量の変動用ガスを1Hzでパルス状に添加することにより、A/Fを±0.9の振幅で強制的に振動させた。空間速度SVは60000h-1、昇温速度は30℃/分である。
【0055】
結果を表1に示す。同表において、中実Rh/Zr−Ce−Oは中実状Rh担持Zr−Ce複酸化物粉末を、中空Pt/La−Al23は中空状Pt担持La含有アルミナ粉末を、中実Pt/La−Al23は中実状Pt担持La含有アルミナ粉末を、中空Pd/La−Al23は中空状Pd担持La含有アルミナ粉末を、中実Pd/La−Al23は中実状Pd担持La含有アルミナ粉末を、それぞれ意味する。
【0056】
【表1】

【0057】
まず、実施例1−1、実施例1−2及び比較例1をみると、HC、CO及びNOxのいずれのT50に関しても、実施例1−1,1−2の方が比較例1よりも低くなっている。従って、上層7に中実状の触媒金属担持酸化物粉末を配置し、下層6に中空状の触媒金属担持酸化物粉末を配置すると、触媒のライトオフ性能の向上が図れることがわかる。
【0058】
このように実施例のライトオフ性能が向上した理由の一つは、上層7は排気ガスの熱を直接受けて温度が上昇し易く、しかも、下層6の中空状酸化物粉末の断熱効果によって上層7からハニカム状担体2への熱の逃げが抑制されるから、当該上層の早期昇温が図れたことにあると考えられる。
【0059】
また、上層7のRh担持Zr−Ce複酸化物はHCのスチームリフォーミング反応又は部分酸化反応を促進するから、それによって生じたH2や部分酸化HCなどの活性の高い分解生成物が下層6に供給される。従って、下層6のPt担持La含有アルミナでの触媒反応性が高くなる。
【0060】
そうして、実施例のライトオフ性能が向上した他の理由は上記分解生成物が下層6において効率良く拡散することにあると考えられる。すなわち、この分解生成物は排気ガス中のHCに比べてサイズが小さいから、中空状酸化物粉末の殻壁を通過し易くなる。また、下層6は中空状の酸化物粉末によってその細孔容積が大きくなっており、上記分解生成物が拡散し易くなっている。このため、実施例では下層6の触媒金属が排気ガスの浄化に有効に利用され、ライトオフ性能が高くなったと考えられる。
【0061】
実施例1−2は、上流側下層6aに中空状酸化物粉末を配置し、下流側下層6bには中実状酸化物粉末を配置したものであるが、このケースでは、下層全体に中空状酸化物粉末を配置した実施例1−1よりも結果が少し悪くなっているが、それでも比較例1よりも良い結果を示していることから、中空状酸化物粉末は上流側下層6aに配置するだけでも上記効果があることがわかる。
【0062】
以上のことは、実施例2−1、実施例2−2及び比較例2三者の比較、並びに実施例3−1、実施例3−2及び比較例3三者の比較からも裏付けられる。
【0063】
実施例2−1、実施例2−2及び比較例2は、下層の触媒金属としてPdを採用したケースであるが、対応する実施例1−1、実施例1−2及び比較例1よりも結果が良くなっている。従って、上記中空状酸化物粉末の効果は、触媒金属の種類を問わずに発現すること、そうして、PtよりもPdの方がライトオフ性能の向上には有利であることがわかる。また、Pdの被毒の原因となるHCが上述の如く上層7で浄化され若しくは反応性の高い部分酸化HCに変わるから、当該Pdの被毒も防止される。
【0064】
実施例3−1、実施例3−2及び比較例3は、さらに上層7に中実状Pt担持La含有アルミナ粉末を含ませたケースであるが、対応する実施例2−1、実施例2−2及び比較例2より結果が良くなっている。これは、上層7においてPtによりHC、COの酸化反応が促進され、その結果、同時にNOxの還元が効率良く進んだこと、並びに、上層7において高分子HCなどより生成する部分酸化HC量が多くなるので、下層6での排気ガスの浄化反応性が高くなったことによると考えられる。また、上層7のRhは酸化されるとその触媒性能が低下するが、酸化雰囲気下においても、上層7のPtによってHC等の酸化反応が促進され、その結果、局所的に還元雰囲気ができるため、Rhの酸化が抑制され、その活性の維持に有利になる。
【0065】
なお、上記実施形態では下層にアルミナ系の中空状酸化物粉末を配置したが、セリア系の中空状酸化物粉末を配置してもよく、さらにはこのアルミナ系及びセリア系の両中空状酸化物粉末を層状に又は混合して下層側に配置してもよい。セリア系の中空状酸化物粉末を採用したときは、その酸素吸蔵能により、触媒の活性の向上が図れ、或いは三元触媒のウィンドウ(三元触媒が有効に働く空燃比幅)の拡大が図れる。
【0066】
また、下層にはPdを担持したアルミナ系又はセリア系の中空状酸化物粉末と、Ptを担持したアルミナ系又はセリア系の中空状酸化物粉末とを混合して配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る排気ガス浄化用触媒の斜視図である。
【図2】同触媒の一部を示す横断面図である。
【図3】同触媒の他の例の一部を示す縦断面図である。
【図4】同触媒の中空状酸化物粉末を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 触媒
2 ハニカム状担体
3 セル(排気ガス通路)
5 セル壁
6 下層
6a 上流側下層
6b 下流側下層
7 上層
8 中空殻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム状担体の排気ガス通路壁の表面に、中空状酸化物粉末と、該酸化物粉末に担持された触媒金属とを含有する触媒層が形成されている排気ガス浄化用触媒において、
上記触媒層は、少なくとも2つの層が積層されたものであり、
上記中空状酸化物粉末は、セリア系酸化物又はアルミナ系酸化物の粉末であり、上記触媒層のうち上記排気ガス通路を流れる排気ガスに直接晒される上層よりも上記ハニカム状担体側に存する下層に含まれていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
請求項1において、
上記中空状酸化物粉末は、上記ハニカム状担体における排気ガス流れ方向の上流端より下流端へ向かう所定範囲にのみ設けられていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記上層には、触媒金属としてのRhを担持したセリア系の中実状酸化物粉末が含まれ、
上記下層の上記中空状酸化物粉末には、Pt及びPdのうちの少なくとも一方が触媒金属として担持されていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
請求項3において、
上記上層には、触媒金属としてさらにPtが含まれていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−159159(P2006−159159A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358534(P2004−358534)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】