排気ガス浄化用触媒
【課題】触媒のNOx浄化性能及び耐硫黄被毒性を改善する。
【解決手段】担体1に、酸素吸蔵放出能をもつCe含有酸化物粒子3と、NOxトラップ材8と、触媒金属5とを有する触媒層2が形成されている排気ガス浄化用触媒において、触媒層2には、Ce含有酸化物粒子3及びNOxトラップ材8に接触する粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子4が多数分散して含まれている。
【解決手段】担体1に、酸素吸蔵放出能をもつCe含有酸化物粒子3と、NOxトラップ材8と、触媒金属5とを有する触媒層2が形成されている排気ガス浄化用触媒において、触媒層2には、Ce含有酸化物粒子3及びNOxトラップ材8に接触する粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子4が多数分散して含まれている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
軽油を主成分とする燃料を用いるディーゼルエンジンや、ガソリンを主成分とする燃料を用いて希薄燃焼させるリーンバーンガソリンエンジンのような希薄燃焼式エンジンでは、その排気ガス中にNOx(窒素酸化物)が多く含まれる。そこで、排気ガスの酸素濃度が高いときに排気ガス中のNOxを吸蔵し、その酸素濃度が低下したときに当該NOxを放出するNOxトラップ材を設け、放出するNOxを排気ガス中のHC(炭化水素)と反応させることにより還元するようにした、所謂NOx吸蔵還元型触媒が一般に知られている。
【0003】
このNOx吸蔵還元型触媒は、一般には、アルミナ、酸素吸蔵放出能をもつCe含有酸化物、触媒金属としてのPtやRh、並びにNOxトラップ材としてのアルカリ金属やアルカリ土類金属を含有する。そのPtを担持したアルミナは、排気ガス中のNOをNO2に酸化することでNOxトラップ材に吸蔵され易くする。例えば、NOxトラップ材としてBaを採用した場合、Ba(NO3)2となってNOxが吸蔵される。Ce含有酸化物は、PtやRhの酸化還元状態をコントロールしてNOx浄化を促進するとともに、NOxを捕捉する働きも有する。しかし、このCe含有酸化物によるNOxの捕捉は、Ba等のNOxトラップ材とは違って、NOxの表面吸着を主体にしていると考えられ、Ce含有酸化物の比表面積はそれほど大きくないことから、NOxを多量に吸着することはできないと考えられている。
【0004】
ところで、近年はPt、Rh等の希少金属の資源保護のため、触媒中へのこれら触媒金属の含有量を低減する研究が活発化している。
【0005】
例えば特許文献1には、触媒金属量を増大させることなく、酸素吸蔵材の酸素吸蔵放出能を向上させるようにした触媒の例が記載されている。それは、セリウム酸化物を含む担体と、この担体に担持された遷移金属及び貴金属からなる触媒金属とよりなり、セリウム原子及び貴金属各々に対する遷移金属の原子比を所定の範囲にするというものである。遷移金属としては、Co、Ni及びFeの少なくとも一種が好ましいとされている。但し、実施例として開示されているのはCo及びNiだけであり、Feについての実施例はない。
【0006】
また、特許文献1では、セリアジルコニア固溶体粉末に硝酸Ni(又は硝酸Co)を含浸させ、蒸発乾固、乾燥及び焼成を行ない、得られた粉末にPt溶液を含浸させ、蒸発乾固、乾燥及び焼成を行なうことにより触媒粉末を得るとされている。そして、この触媒粉末とRh/ZrO2粉末とAl2O3粉末とアルミナゾルとイオン交換水とを混合してスラリーを調製し、このスラリーをハニカム担体にウォッシュコートして触媒層を形成するとされている。
【0007】
特許文献2には、CeO2−ZrO2複合酸化物よりなる担体と、該担体に担持されたAl、Ni及びFeから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物粒子と、該担体に担持された貴金属とからなる排気ガス浄化用触媒が開示されている。担体上での貴金属の移動を金属酸化物粒子によって規制することにより、貴金属のシンタリングを抑制するというものである。但し、実施例として開示されている金属酸化物粒子はAl2O3のみであり、CeO2−ZrO2複合酸化物と硝酸Al水溶液とを混合し、これにアンモニア水を滴下・中和して沈殿を析出させ、濾過・洗浄・乾燥・焼成を行ない、得られた粉末にPt溶液を含浸させ、蒸発乾固、乾燥及び焼成を行なうことにより触媒粉末を得るとされている。Ni及びFeについての実施例はない。
【0008】
また、特許文献3には、Fe及び/又はCeを含有するβゼオライトを含む第一触媒層(上層)と、貴金属と酸化セリウム系材料とを含む第二触媒層(下層)とを有するNOx浄化触媒が記載されている。これは、上述のNOx吸蔵還元型触媒とは異なり、排気ガスの空燃比をリーンにして、排気ガス中のNOを第一触媒層の貴金属によりNO2に酸化させて酸化セリウム系材料に吸着させ、次いで排気ガスの空燃比をリッチにすることにより、当該吸着NO2をNH3に還元させて第一触媒層のゼオライトに吸着させ、再び排気ガスの空燃比をリーンにすることにより、上記NH3と排気ガス中のNOxとを反応させてN2とH2Oとに転化するというものである。従来のゼオライトを含有するリーンNOx浄化触媒においては、Ptがゼオライトに担持ないしはイオン交換されているケースが多いが、Ptの一部をFe又はCeで置き換えることができるならば、Ptの使用量を低減することができる。
【特許文献1】特開2003−220336号公報
【特許文献2】特開2003−126694号公報
【特許文献3】特開2008−30003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、酸化鉄は、CeO2と同じく、酸素吸蔵放出能を有することが知られている。従って、特許文献1,2に記載されているCeO2−ZrO2複合酸化物のようなCe含有酸化物粒子に酸化鉄を担持させることが考えられる。そこで、本願発明者は、Ce含有酸化物粉末に硝酸鉄を含浸させて蒸発乾固、乾燥及び焼成を行ない、得られた粉末の酸素吸蔵放出能を調べた。その結果、酸素吸蔵放出能の向上が認められたものの、その向上はそれほど大きなものではなく、また、長期の使用を想定した所定の熱エージングを行なったところ、酸素吸蔵放出能がかなり低いレベルまで低下することがわかった。また、上記硝酸鉄により得られる酸化鉄粒子はその粒径が500nm以上の大きな粒子であることがわかった。
【0010】
また、本願発明者は、酸素吸蔵放出能を有するCe含有酸化物がNOx吸着能を有することから、同じく酸素吸蔵放出能を有する酸化鉄がNOxの吸着に何らかの効果を発現するのではないかという点に着眼し、Ce含有酸化物に硝酸鉄を含浸させて、NOx吸着能を評価した。その結果、硝酸鉄を含浸担持させると、NOx吸着能が幾分向上するものの、大きな向上効果は望めなかった。
【0011】
以上の説明から明らかなように、本発明の課題は、酸化鉄を有効に利用して触媒のNOx浄化性能を高める、特に排気ガス温度が低い低温時から高温時まで広い温度範囲にわたってNOxを効率良く浄化できるようにすることにある。
【0012】
また、従来より、NOx浄化触媒では、NOxトラップ材の硫黄被毒による性能低下が問題になっている点に鑑み、本発明は、NOx浄化触媒の耐硫黄被毒性を改善することを課題とする。
【0013】
また、NOx浄化触媒では、排気ガスの空燃比がリーンからリッチ側へ変化しNOxトラップ材からNOxが放出されたときに、該NOxがNH3に還元されて排出されてしまう点に鑑み、本発明は、そのNH3の排出を抑制することも課題とする。
【0014】
また、別の本発明の課題は、酸化鉄を、上記NOx浄化に利用するだけでなく、担体に触媒層を形成するためのバインダとしても利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、このような課題を解決するために、粒径の小さな微細酸化鉄粒子を触媒層に多数分散させるようにした。
【0016】
すなわち、本発明は、担体上に、酸素吸蔵放出能をもつCe含有酸化物粒子と、該Ce含有酸化物粒子以外のNOxトラップ材と、触媒金属とを有する触媒層が形成されている排気ガス浄化用触媒であって、
上記触媒層には、酸化鉄粒子が多数分散して含まれ、少なくとも一部の酸化鉄粒子は粒径が300nm以下の微細酸化鉄粒子であり、上記Ce含有酸化物粒子及びNOxトラップ材に当該微細酸化鉄粒子が接触しており、電子顕微鏡観察において、上記微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であることを特徴とする。
【0017】
上記粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であるということは、この微細酸化鉄粒子が触媒層に多数分散して含まれていることを意味する。また、上記Ce含有酸化物粒子はその二次粒子径が数μmであることが通常であるから、少なくとも一部のCe含有酸化物粒子には、複数の微細酸化鉄粒子が分散して接触しており、且つ該Ce含有酸化物粒子に対する微細酸化鉄粒子の付着量が比較的多いことを意味する。そうして、後述の実施例で明らかになるが、本発明によれば、触媒のNOx浄化性能が高くなるとともに、耐硫黄被毒性が高まり、さらに、NH3の排出が抑制される。
【0018】
その理由は明確ではないが、上述の硝酸鉄から得られる酸化鉄粒子は、その粒径が500nm以上の大きな粒子であることから、Ce含有酸化物粒子との相互作用を発現し難いと考えられる。また、Ce含有酸化物粒子の表面ないし細孔に付着した硝酸鉄が、触媒焼成に伴って酸化鉄に変化し、凝集・粒成長することにより、さらにはその後の高温の排気ガスに晒されて凝集・粒成長することにより、Ce含有酸化物粒子の表面積の低下を招く、と推察される。
【0019】
これに対して、本発明の場合は、上述の如く粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子がCe含有酸化物粒子及びNOxトラップ材各々に分散して接触しているから、Ce含有酸化物粒子やNOxトラップ材と酸化鉄粒子との相互作用を発現し易くなっていると考えられる。そのため、触媒金属量が少ない場合でも、その微細酸化鉄粒子がCe含有酸化物粒子と相俟って触媒層の酸素吸蔵放出能の向上に有効に働くと考えられる。また、Ce含有酸化物粒子に接触している微細酸化鉄粒子が該Ce含有酸化物粒子の塩基性を強くして、そのNOx吸着能を高め、NOxの還元浄化に有利になっていると考えられる。また、後にデータで説明するが、微細酸化鉄粒子は、硫黄成分の吸着及びNH3吸着にも寄与しており、そのため、NOxトラップ材の硫黄被毒が抑制され、さらに、NH3の排出が抑制される。従って、本発明に係る触媒はリーンNOx触媒として有用である。
【0020】
上記微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は40%以上であることが好ましい。粒径50nm以上300nm以下の酸化鉄粒子についてみれば、酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が40%以上95%以下程度であることが好ましい。
【0021】
上記微細酸化鉄粒子は、上記触媒層において上記Ce含有酸化物粒子等を上記担体に保持するバインダの少なくとも一部を構成するものとすることができる。すなわち、触媒一般におけるバインダについては次のように定義することができる。
A.バインダは、担体にウォッシュコートするスラリーに粘性を与えることにより、触媒金属を担持する酸素吸蔵材、その他の助触媒粒子をスラリー中に均一に分散させるとともに、乾燥・焼成前のウォッシュコート層を担体に安定した状態に保持する。
【0022】
そのため、粒径が1nm〜50nm程度のコロイド粒子(水酸化物、含水物、酸化物等)が分散したコロイド溶液(市販のアルミナゾルやコロイダルシリカではコロイド粒子の粒径は10nm〜30nm程度)がバインダとして一般に使用される。
B.バインダは、上記乾燥・焼成後は微粒子となって触媒層に略均一に分散し、上記助触媒粒子間に介在して該助触媒粒子同士を結合するとともに、担体表面の多数の微小凹部ないし細孔に入り、触媒層が担体から剥離しないようにする(アンカー効果)。
【0023】
そのため、乾燥・焼成後において、助触媒粒子よりも粒径が小さな酸化物粒子となって助触媒粒子や担体に固着するものがバインダとして一般に使用される。
C.触媒層に、触媒金属やNOx吸蔵材、HC吸着材等が後から含浸担持されるケースでは、バインダはそれら触媒成分を担持するサポート材となる。
D.バインダ粒子間、バインダ粒子と助触媒粒子との間には排気ガスが通る微細孔が形成される。
E.触媒層におけるバインダ量は、一般には触媒層全体の5質量%〜20質量%とされる。
【0024】
本発明の場合、上記粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子は、上記Ce含有酸化物粒子等の助触媒粒子の平均粒径(数μm程度)よりも小さく、上記触媒層に略均一に分散し、上記助触媒粒子間に介在して該助触媒粒子同士を結合するとともに、担体表面の多数の微小凹部ないし細孔に入り、触媒層が担体から剥離しないようにする。このため、当該微細酸化鉄粒子は上記触媒層においてバインダとしての機能も発揮するものである。
【0025】
上記触媒層のバインダは、上記微細酸化鉄粒子のみで構成するようにしてよいが、安定な触媒層を得るために、この微細酸化鉄粒子の他に、遷移金属及び希土類金属から選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物粒子(例えば、アルミナ粒子、ZrO2粒子、CeO2粒子等)をバインダとして含ませるようにしてもよい。このようなバインダ粒子(上記微細酸化鉄粒子及び上記金属酸化物粒子)は、担体にウォッシュコートするスラリーに粘性を与えることにより、触媒成分をスラリー中に均一に分散させるとともに、乾燥・焼成前のウォッシュコート層を担体に安定した状態で保持することができるように、前駆体である金属化合物がそれぞれコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることが好ましい。
【0026】
上記微細酸化鉄粒子の少なくとも一部はヘマタイトであることが好ましく、また、上記酸化鉄粒子は、マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイトがコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることが好ましい。
【0027】
また、上記NOxトラップ材としては、Baに代表されるアルカリ土類金属やアルカリ金属を採用することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように本発明によれば、担体上に、酸素吸蔵放出能をもつCe含有酸化物粒子と、該Ce含有酸化物粒子以外のNOxトラップ材と、触媒金属とを有する触媒層が形成されている排気ガス浄化用触媒において、上記触媒層には、上記Ce含有酸化物粒子及びNOxトラップ材に接触する粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子が多数分散して含まれているから、触媒のNOx浄化性能が高くなるとともに、耐硫黄被毒性が高まり、さらに、NH3の排出が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0030】
図1に、本発明に係る排気ガス浄化用触媒の一例として、自動車の排気ガス中のNOxを浄化するリーンNOx触媒(NOx吸蔵還元型触媒)を模式的に示す。同図において、1は無機酸化物によるハニカム担体のセル壁、2はセル壁1に形成された触媒層である。触媒層2は、酸素吸蔵放出能を持つCe含有酸化物粒子3と、バインダ粒子4と、Fe以外の触媒金属5とを有し、図例では、Ce含有酸化物粒子3以外の助触媒粒子として、さらにアルミナ粒子6及びNOxトラップ材8を有する。なお、触媒層2には、Ce含有酸化物粒子3及びアルミナ粒子6以外に、NOx吸蔵材など他の助触媒粒子を含ませることができる。バインダ粒子4は、Ce含有酸化物粒子3及びアルミナ粒子6各々の平均粒径よりも小さな金属酸化物粒子よりなり、少なくとも一部のバインダ粒子4は粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子で構成されている。すなわち、当該微細酸化鉄粒子と他の金属酸化物粒子とを組み合わせてバインダとすることもできる。
【0031】
上記微細酸化鉄粒子を含むバインダ粒子4は、触媒層2の全体にわたって略均一に分散していて、助触媒粒子(Ce含有酸化物粒子3、アルミナ粒子6等)間に介在し該助触媒粒子同士を結合している。従って、少なくとも一部の微細酸化鉄粒子はCe含有酸化物粒子3に接触している。また、上記バインダ粒子4は、担体セル壁1の表面ポア(微小凹部ないし細孔)7に充填され、アンカー効果によって触媒層2をセル壁1に保持している。触媒金属5は助触媒粒子(Ce含有酸化物粒子3、アルミナ粒子6等)に担持されている。
【0032】
<触媒の調製>
エタノール100mL当たり硝酸第二鉄40.4gを溶かし、90℃から100℃の温度で2時間から3時間の還流を行なうことによって、スラリー状の液体、すなわち、酸化鉄ゾル(バインダ)を得る。Ce含有酸化物粉末及び他の助触媒材料を混合し、これに酸化鉄ゾル及びイオン交換水を適量混合してスラリーとする。必要に応じて、他のバインダを添加する。上記スラリーを担体にコーティングし、乾燥及び焼成を施す。担体上にコーティング層に、触媒金属溶液、並びにNOxトラップ材となるアルカリ土類金属等の溶液を含浸させ、乾燥及び焼成を行なう。以上により排気ガス浄化用触媒(リーンNOx触媒)が得られる。
【0033】
<酸化鉄粒子の粒径等>
上記酸化鉄ゾルとCe含有酸化物粉末としてのCeZrNd複合酸化物(CeO2:ZrO2:Nd2O3=23:67:10(質量比))とイオン交換水とを混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを基材にコーティングし、乾燥(150℃)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なうことにより、触媒材を得た。酸化鉄ゾルとCeZrNd複合酸化物粉末とは、上記焼成後における質量比で、酸化鉄とCeZrNd複合酸化物とが2:8となるように混合した。
【0034】
図2は得られた触媒材の透過電子顕微鏡を用いたSTEM(走査透過)像、図3乃至図5はFe、Zr及びCe各原子の相対濃度分布をマッピングしたものである。図2乃至図5から、CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であること、酸化鉄粒子は粒径が300nm以下であり、50nm以上300nm以下の大きさの複数個の酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物粒子に接触(粒子上に分布)していることがわかる。この場合、当該顕微鏡観察において、粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は100%である(つまり、全ての酸化鉄粒子が粒径300nm以下である)ということができる。
【0035】
図6乃至図9は上記触媒材のエージング(酸素を2%、水蒸気を10%含む窒素ガス中で900℃の温度に24時間保持)後でのSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であり、酸化鉄粒子の粒径は300nm以下であり、50nm以上300nm以下の大きさの酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物粒子に複数個接触(粒子上に分布)している。エージング後においても、当該電子顕微鏡観察によれば、全ての酸化鉄粒子の粒径が300nm以下になっている。
【0036】
図10は酸化鉄ゾルを150℃で乾燥したもの(乾燥品)、上記エージング前の触媒材(焼成品)、並びに上記エージング後の触媒材(焼成・エージング品)各々のX線回折チャートである。なお、同図の「OSC」は上記CeZrNd複合酸化物のことを意味する(この点は他の図面でも同様である。)。酸化鉄ゾルは、マグヘマイト(γ-Fe2O3)、ゲータイト(Fe3+O(OH))及びウスタイト(FeO)がコロイド粒子として分散したものであることがわかる。そして、酸化鉄ゾルのコロイド粒子は焼成によってヘマタイト(α-Fe2O3)になっている。
【0037】
上記エージング前の焼成品におけるヘマタイトの、結晶面(104)のピーク強度を100とする各結晶面の相対ピーク強度は表1に示す通りである。また、上記エージング後のヘマタイトの、結晶面(104)のピーク強度を100とする各結晶面の相対ピーク強度は表2に示す通りである。なお、表中「−」はピーク重複や、ピーク小のために、正確な数値が得られなかったものである。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
エージング後において、X線回折測定によって得られるヘマタイトの各結晶面のピーク強度は、結晶面(104)、結晶面(110)、結晶面(116)の順で小さくなっている。
【0041】
一方、比較のために、上記酸化鉄ゾルに代えて、硝酸第二鉄水溶液を上記CeZrNd複合酸化物粉末に含浸させ、同様の乾燥及び焼成を行なった。硝酸第二鉄とCeZrNd複合酸化物粉末とは、上記焼成後における質量比で、酸化鉄とCeZrNd複合酸化物とが2:8となるように混合した。
【0042】
図11乃至図14は得られた上記硝酸第二鉄による触媒材のSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であるが、酸化鉄粒子の粒径は600〜700nm程度になっている。
【0043】
図15乃至図18は上記硝酸第二鉄による触媒材のエージング(酸化鉄ゾルの場合と同じ条件)後でのSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1.5〜2μm程度であるが、酸化鉄粒子としては、粒径が600〜700nm程度の粒子が1個と、100nm程度の粒子が3個見られる。当該電子顕微鏡観察において、粒径300nm以下の酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は10%未満である。
【0044】
上記酸化鉄ゾルの場合、焼成によって酸化鉄粒子となるコロイド粒子(マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイト)が比較的安定なFe化合物であり、そのために、酸化鉄粒子の粒成長を生じ難い。これに対して、上記硝酸第二鉄の場合は、反応性が高いFeイオンから酸化鉄粒子を生ずるから、粒成長し易い。このことが、上記酸化鉄ゾルから得られる酸化鉄粒子と上記硝酸第二鉄から得られる酸化鉄粒子の粒径の差違となっていると考えられる。
【0045】
<酸素吸蔵放出能>
上記酸化鉄ゾルを用いて調製した触媒サンプルAと、上記硝酸第二鉄を用いて調製した触媒サンプルBと、鉄成分を含まない触媒サンプルCとについて、各々の酸素吸蔵放出能を調べた。但し、いずれのサンプルも触媒金属量は零とした。
【0046】
−触媒サンプルAの調製−
上記CeZrNd複合酸化物と上記酸化鉄ゾルとZrO2バインダとイオン交換水とを混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを担体にコーティングし、乾燥(150℃)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なった。上記スラリーは、上記CeZrNd複合酸化物の担持量が80g/L、上記酸化鉄ゾルによる酸化鉄の担持量が20g/L、上記ZrO2バインダによるZrO2の担持量が10g/Lとなるように調製した。なお、各担持量は上記焼成後における上記担体1L当たりの各成分の量である。担体としては、セル壁厚さ3.5mil(8.89×10−2mm)、1平方インチ(645.16mm2)当たりのセル数600のコージェライト製ハニカム担体(容量25mL)を採用した。
【0047】
−触媒サンプルBの調製−
上記酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用し、他は触媒サンプルAと同じ条件で第2触媒サンプル2を調製した。硝酸第二鉄水溶液による酸化鉄担持量は触媒サンプルAの上記酸化鉄ゾルによる酸化鉄担持量と同じく、20g/Lである。
【0048】
−触媒サンプルCの調製−
上記酸化鉄ゾルを用いず(酸化鉄担持量=0g/L)、上記CeZrNd複合酸化物担持量が100g/L、上記ZrO2バインダによるZrO2の担持量が10g/Lとなるようにする他は、触媒サンプルAと同じ条件で触媒サンプルCを調製した。
【0049】
−酸素吸蔵放出能の評価−
図19は、酸素吸蔵放出量を測定するための試験装置の構成を示す。同図において、符号11は触媒サンプル12を保持するガラス管であり、触媒サンプル12はヒータ13によって所定温度に加熱保持される。ガラス管11の触媒サンプル12よりも上流側には、ベースガスN2を供給しながらO2及びCOの各ガスをパルス状に供給可能なパルスガス発生装置14が接続され、ガラス管11の触媒サンプル12よりも下流側には排気部18が設けられている。ガラス管11の触媒サンプル12よりも上流側及び下流側にはA/Fセンサ(酸素センサ)15,16が設けられている。ガラス管11のサンプル保持部には温度制御用の熱電対19が取付けられている。
【0050】
測定にあたっては、ガラス管11内の触媒サンプル温度を所定値に保ち、ベースガスN2を供給して排気部18から排気しながら、図20に示すようにO2パルス(20秒)とCOパルス(20秒)とを交互に且つ間隔(20秒)をおいて発生させることにより、リーン→ストイキ→リッチ→ストイキのサイクルを繰り返すようにした。ストイキからリッチに切り換えた直後から、図21に示すように、触媒サンプル前後のA/Fセンサ15,16によって得られるA/F値出力差(前側A/F値−後側A/F値)がなくなるまでの時間における、当該出力差をO2量に換算し、これを触媒サンプルのO2放出量(酸素吸蔵放出量)とした。このO2放出量を200℃から600℃までの50℃刻みの各温度で測定した。
【0051】
結果を図22に示す。触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)及び触媒サンプルB(硝酸第二鉄+OSC)のいずれも、酸化鉄を含まない触媒サンプルC(OSCのみ)よりも酸素放出量が多くなっている。(酸化鉄ゾル+OSC)と(硝酸第二鉄+OSC)とを比較すると、250℃〜600℃において、酸化鉄ゾルの方が硝酸第二鉄よりも酸素放出量が多くなっている。
【0052】
図23は(酸化鉄ゾル+OSC)及び(硝酸第二鉄+OSC)の各触媒サンプルのエージング(酸素を2%、水蒸気を10%含む窒素ガス中で900℃の温度に24時間保持)後の酸素放出量を測定した結果を示す。いずれもエージング後は酸素放出量が少なくなっているが、それでも、酸化鉄ゾルの方が硝酸第二鉄よりも酸素放出量が多い。
【0053】
触媒サンプルAの場合は、酸化鉄ゾルによる複数の粒径300nm以下の酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物(OSC)粒子に分散して接触しており(図2乃至図5参照)、そのため、それら酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物粒子と相俟って触媒の酸素吸蔵放出能の向上に有効に働いているものと認められる。これに対して、触媒サンプルBの場合は、硝酸第二鉄による酸化鉄粒子の粒径が大きく(図11乃至図14参照)、そのため、酸化鉄粒子による酸素吸蔵放出能の向上が酸化鉄ゾルによるものに比べて低いものと認められる。
【0054】
図24は上記エージング後の触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)及び触媒サンプルB(硝酸第二鉄+OSC)の酸素放出量(測定温度500℃)を、従来触媒及び実施例触媒各々の当該エージング後の酸素放出量(測定温度500℃)と共に示すグラフである。従来触媒は、上記触媒サンプルC(OSCのみ)においてそのCeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属としてPtを1g/L担持させたものである。実施例触媒は、上記触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)においてそのCeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属としてPtを1g/L担持させたものである。
【0055】
触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)は、触媒金属PtをCeZrNd複合酸化物粒子に担持させていないにも拘わらず、CeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属Ptを担持させた従来触媒と同程度の酸素放出量になっている。また、触媒サンプルAにおいてCeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属Ptを担持させた実施例触媒は、従来触媒に比べて酸素放出量が格段に多くなっている。これらから、酸化鉄ゾルによる粒径の小さな酸化鉄粒子が酸素吸蔵放出能の向上に大きな効果を示すことがわかる。
【0056】
<NO吸着能及びNH3吸着能>
Ce含有酸化物系触媒材料(実施例材料A,比較例材料B,比較例材料C)を調製し、各々のNOx吸着能及びNH3吸着能を評価した。
【0057】
−実施例材料A−
CeZr複合酸化物粉末(CeO2:ZrO2=90:10(質量比))40gに、上記酸化鉄ゾル及び水を混合し、150℃の温度に2時間保持する乾燥、並びに500℃の温度に2時間保持する焼成を行なうことにより、実施例材料Aを得た。酸化鉄ゾルの混合量は、焼成によって得られる酸化鉄量が8gとなるように調整した。
【0058】
−比較例材料B−
酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用する他は実施例材料Aと同じ条件で比較例材料Bを得た。硝酸第二鉄による酸化鉄量は、実施例材料Aと同じく、8gとなるようにした。
【0059】
−比較例材料C−
酸化鉄ゾルに代えてアルミナゾルを採用する他は実施例材料Aと同じ条件で比較例材料Cを得た。但し、CeZr複合酸化物粉末量は48gとし、アルミナゾルによるアルミナ量は9.6gとなるようにした。
【0060】
−NO吸着量の測定−
上記実施例及び比較例の各触媒材料A,B,C各々0.05gを準備し、ガス流通反応装置及びガス分析装置を用いて、プリコンディショニングを行なった後、NO吸着量を測定した。プリコンディショニングは、試料をHe気流中で600℃の温度に10分間保持するというものである。次いで、モデルガス(NO;5000ppm,O2;5%,残He)を100mL/分の流量で流しながら、ガス温度を室温から600℃まで上昇させ、その間に吸着されたNO成分量を算出して、NO吸着量とした。
【0061】
−NH3吸着量の測定−
上記実施例及び比較例の各触媒材料A,B,C各々0.05gを準備し、それぞれガス流通反応装置及びガス分析装置を用いて、NO吸着量の測定の場合と同じプリコンディショニングを行なった後、NH3吸着量を測定した。
【0062】
NH3吸着量の測定にあたっては、モデルガス(NH3;2%,残He)を温度100℃、100mL/分の流量で流してNH3を試料に吸着させ、次いで、NH3濃度0%のHeガスに切り換えて、100℃から600℃まで、10℃/分の速度で昇温し、このときに、試料を通過したガス中に含まれるNH3量を算出してNH3吸着量とした。
【0063】
−結果−
結果を図25に示す。酸化鉄ゾルを採用した実施例材料AではNO吸着量が110×10−5mol/g以上あるのに対して、比較例材料B,CではNO吸着量が極めて少ない。NH3吸着量に関しても、実施例材料Aは比較例材料B,Cよりも多くなっている。実施例材料AのNO吸着量が顕著に多いのは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子がCe含有酸化物の塩基性を強くしたためと考えられる。実施例材料AのNH3吸着量が多いのは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子がNH3の吸着に関与しているためである。
【0064】
以上の結果から、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子を触媒層に分散させると、触媒のNOx浄化性能が高まること、並びに吸蔵したNOxを脱離させて還元したときに、NH3が多く発生しても、該NH3の排出が少なくなることがわかる。
【0065】
<リーンNOx浄化性能>
次の実施例及び比較例1,2のリーンNOx触媒を調製し、エージング後のリーンNOx浄化率、耐硫黄被毒性、硫黄被毒からの回復性を評価した。
【0066】
−実施例−
γ−アルミナ粉末とCeZr複合酸化物粉末(CeO2:ZrO2=75:25(質量比))とを混合し、これにバインダとしての上記酸化鉄ゾル及びイオン交換水を混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを担体にコーティングし、乾燥(150℃の温度に2時間保持)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なった。次いで、酢酸バリウム及び酢酸ストロンチウムをイオン交換水に溶かし、その溶液とジニトロジアンミン白金硝酸溶液と硝酸ロジウム溶液とを混合した。この混合溶液を上記担体のコーティング層に含浸させ、乾燥(150℃の温度に2時間保持)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持を行なうことにより、実施例に係る触媒を得た。
【0067】
当該触媒は、γ−アルミナ担持量が120g/L、CeZr複合酸化物担持量が120g/L、Ba担持量が30g/L、Sr担持量が3g/L、Pt担持量が2g/L、Rh担持量が0.3g/L、酸化鉄ゾルによる酸化鉄担持量が24g/Lである。なお、各担持量は上記焼成後における上記担体1L当たりの各成分の量である。また、担体としては、セル壁厚さ4mil(10.16×10−2mm)、1平方インチ(645.16mm2)当たりのセル数400のコージェライト製ハニカム担体(容量55mL)を採用した。
【0068】
−比較例1−
酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用する他は実施例と同じ条件で比較例1に係る触媒を調製した。硝酸第二鉄による酸化鉄担持量は24g/Lである。
【0069】
−比較例2−
酸化鉄ゾルに代えてアルミナゾルを採用する他は実施例と同じ条件で比較例2に係る触媒を調製した。アルミナゾルによるアルミナ担持量は24g/Lである。
【0070】
−リーンNOx浄化性能評価−
上記実施例及び比較例1,2の各触媒について、800℃の大気雰囲気に20時間保持するエージングを行なった後、モデルガス流通反応装置及び排気ガス分析装置を用いてリーンNOx浄化性能を調べた。すなわち、リーン(A/F=22)のモデル排気ガスを60秒間流し、次にガス組成をリッチ(A/F=14.5)のモデル排気ガスに切り換えてこれを60秒間流す、というサイクルを数回繰り返した後、ガス組成をリッチからリーンに切り換えた時点から60秒間のNOx浄化率(リーンNOx浄化率)を測定した。リーンモデル排気ガス及びリッチのモデル排気ガスの組成は表3に示すとおりであり、空間速度は35000/hとした。
【0071】
【表3】
【0072】
触媒入口ガス温度180℃、300℃及び450℃でのリーンNOx浄化率を図26に示す。バインダとして酸化鉄ゾルを採用した実施例は、180℃、300℃及び450℃のいずれにおいても、比較例1,2よりもNOx浄化率が高い。酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子を触媒層に分散させると、低温から高温にわたる広い温度範囲でNOx浄化能が高まることがわかる。比較例1は、実施例と同じく、酸化鉄粒子が触媒層に分散しているものの、酸化鉄を含有しない比較例2よりも性能が悪くなっている。比較例1の場合、その酸化鉄粒子は硝酸第二鉄によるものであって、その粒径が大きいことから、CeZr複合酸化物の酸素吸蔵放出能及びNOx吸着能を高めるに至らず、かえって、酸化鉄粒子がCeZr複合酸化物粒子の比表面積を低下させて性能が悪くなったものと考えられる。
【0073】
−耐硫黄被毒性、硫黄被毒からの回復性−
上記実施例及び比較例1,2の各触媒について、上記エージング→硫黄被毒処理→還元処理(硫黄被毒からの回復処理)を順に行ない、該エージング後、硫黄被毒後及び還元処理後各々の触媒入口ガス温度350℃でのリーンNOx浄化率を測定した。
【0074】
硫黄被毒処理は、触媒にN2100%ガスを流通させながら、350℃まで昇温して同温度に保持し、次いで同温度でSO2=100ppm,O2=10%,残N2の硫黄被毒用ガスに切り替えてこれを1時間流通させ(SV=35000/h)、その後N2100%ガスに切り替えて室温まで温度を下げる、というものである。還元処理は、触媒にA/F=14相当のリッチモデル排気ガスを流通させながら(SV=80000/h)、30℃/分で600℃まで昇温させ、その温度に10分間保持した後、N2100%ガスに切り替えて室温まで温度を下げるというものである。
【0075】
結果を図27に示す。実施例は、硫黄被毒処理によるリーンNOx浄化率の低下度合いが比較例1,2に比べて小さい。これは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子が硫黄成分SO2を吸着し、NOxトラップ材の被毒を抑制したためと考えられる。そうして、実施例では、還元処理により、リーンNOx浄化率が硫黄被毒前の値まで略完全に回復しており、還元処理を適宜行なうことにより、触媒を長期間にわたって使用することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係る排気ガス浄化用触媒を模式的に示す断面図である。
【図2】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のSTEM像図である。
【図3】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図4】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図5】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図6】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のSTEM像図である。
【図7】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図8】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図9】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図10】酸化鉄ゾル乾燥品、触媒材(焼成品)及び触媒材エージング品各々のX線回折チャート図である。
【図11】硝酸第二鉄を用いた触媒材のSTEM像図である。
【図12】硝酸第二鉄を用いた触媒材のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図13】硝酸第二鉄を用いた触媒材のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図14】硝酸第二鉄を用いた触媒材のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図15】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のSTEM像図である。
【図16】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図17】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図18】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図19】酸素吸蔵放出量測定装置の構成図である。
【図20】酸素吸蔵放出量の測定における触媒前後のA/F及び触媒前後のA/F差の経時変化を示すグラフ図である。
【図21】酸素吸蔵放出量の測定における触媒前後のA/F差の経時変化を示すグラフ図である。
【図22】各触媒サンプルのフレッシュ時における酸素放出量の温度による変化を示すグラフ図である。
【図23】各触媒サンプルのエージング後における酸素放出量の温度による変化を示すグラフ図である。
【図24】各触媒サンプルのエージング後の酸素放出量を示すグラフ図である。
【図25】実施例材料及び比較例材料のNOx吸着能及びNH3吸着能を示すグラフ図である。
【図26】実施例及び比較例のリーンNOx浄化率を示すグラフ図である。
【図27】実施例及び比較例のエージング後、硫黄被毒後及び還元処理後のリーンNOx浄化率を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0077】
1 ハニカム担体のセル壁
2 触媒層
3 Ce含有酸化物粒子
4 バインダ粒子(酸化鉄粒子)
5 触媒金属
6 アルミナ粒子
7 ポア
8 NOxトラップ材
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
軽油を主成分とする燃料を用いるディーゼルエンジンや、ガソリンを主成分とする燃料を用いて希薄燃焼させるリーンバーンガソリンエンジンのような希薄燃焼式エンジンでは、その排気ガス中にNOx(窒素酸化物)が多く含まれる。そこで、排気ガスの酸素濃度が高いときに排気ガス中のNOxを吸蔵し、その酸素濃度が低下したときに当該NOxを放出するNOxトラップ材を設け、放出するNOxを排気ガス中のHC(炭化水素)と反応させることにより還元するようにした、所謂NOx吸蔵還元型触媒が一般に知られている。
【0003】
このNOx吸蔵還元型触媒は、一般には、アルミナ、酸素吸蔵放出能をもつCe含有酸化物、触媒金属としてのPtやRh、並びにNOxトラップ材としてのアルカリ金属やアルカリ土類金属を含有する。そのPtを担持したアルミナは、排気ガス中のNOをNO2に酸化することでNOxトラップ材に吸蔵され易くする。例えば、NOxトラップ材としてBaを採用した場合、Ba(NO3)2となってNOxが吸蔵される。Ce含有酸化物は、PtやRhの酸化還元状態をコントロールしてNOx浄化を促進するとともに、NOxを捕捉する働きも有する。しかし、このCe含有酸化物によるNOxの捕捉は、Ba等のNOxトラップ材とは違って、NOxの表面吸着を主体にしていると考えられ、Ce含有酸化物の比表面積はそれほど大きくないことから、NOxを多量に吸着することはできないと考えられている。
【0004】
ところで、近年はPt、Rh等の希少金属の資源保護のため、触媒中へのこれら触媒金属の含有量を低減する研究が活発化している。
【0005】
例えば特許文献1には、触媒金属量を増大させることなく、酸素吸蔵材の酸素吸蔵放出能を向上させるようにした触媒の例が記載されている。それは、セリウム酸化物を含む担体と、この担体に担持された遷移金属及び貴金属からなる触媒金属とよりなり、セリウム原子及び貴金属各々に対する遷移金属の原子比を所定の範囲にするというものである。遷移金属としては、Co、Ni及びFeの少なくとも一種が好ましいとされている。但し、実施例として開示されているのはCo及びNiだけであり、Feについての実施例はない。
【0006】
また、特許文献1では、セリアジルコニア固溶体粉末に硝酸Ni(又は硝酸Co)を含浸させ、蒸発乾固、乾燥及び焼成を行ない、得られた粉末にPt溶液を含浸させ、蒸発乾固、乾燥及び焼成を行なうことにより触媒粉末を得るとされている。そして、この触媒粉末とRh/ZrO2粉末とAl2O3粉末とアルミナゾルとイオン交換水とを混合してスラリーを調製し、このスラリーをハニカム担体にウォッシュコートして触媒層を形成するとされている。
【0007】
特許文献2には、CeO2−ZrO2複合酸化物よりなる担体と、該担体に担持されたAl、Ni及びFeから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物粒子と、該担体に担持された貴金属とからなる排気ガス浄化用触媒が開示されている。担体上での貴金属の移動を金属酸化物粒子によって規制することにより、貴金属のシンタリングを抑制するというものである。但し、実施例として開示されている金属酸化物粒子はAl2O3のみであり、CeO2−ZrO2複合酸化物と硝酸Al水溶液とを混合し、これにアンモニア水を滴下・中和して沈殿を析出させ、濾過・洗浄・乾燥・焼成を行ない、得られた粉末にPt溶液を含浸させ、蒸発乾固、乾燥及び焼成を行なうことにより触媒粉末を得るとされている。Ni及びFeについての実施例はない。
【0008】
また、特許文献3には、Fe及び/又はCeを含有するβゼオライトを含む第一触媒層(上層)と、貴金属と酸化セリウム系材料とを含む第二触媒層(下層)とを有するNOx浄化触媒が記載されている。これは、上述のNOx吸蔵還元型触媒とは異なり、排気ガスの空燃比をリーンにして、排気ガス中のNOを第一触媒層の貴金属によりNO2に酸化させて酸化セリウム系材料に吸着させ、次いで排気ガスの空燃比をリッチにすることにより、当該吸着NO2をNH3に還元させて第一触媒層のゼオライトに吸着させ、再び排気ガスの空燃比をリーンにすることにより、上記NH3と排気ガス中のNOxとを反応させてN2とH2Oとに転化するというものである。従来のゼオライトを含有するリーンNOx浄化触媒においては、Ptがゼオライトに担持ないしはイオン交換されているケースが多いが、Ptの一部をFe又はCeで置き換えることができるならば、Ptの使用量を低減することができる。
【特許文献1】特開2003−220336号公報
【特許文献2】特開2003−126694号公報
【特許文献3】特開2008−30003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、酸化鉄は、CeO2と同じく、酸素吸蔵放出能を有することが知られている。従って、特許文献1,2に記載されているCeO2−ZrO2複合酸化物のようなCe含有酸化物粒子に酸化鉄を担持させることが考えられる。そこで、本願発明者は、Ce含有酸化物粉末に硝酸鉄を含浸させて蒸発乾固、乾燥及び焼成を行ない、得られた粉末の酸素吸蔵放出能を調べた。その結果、酸素吸蔵放出能の向上が認められたものの、その向上はそれほど大きなものではなく、また、長期の使用を想定した所定の熱エージングを行なったところ、酸素吸蔵放出能がかなり低いレベルまで低下することがわかった。また、上記硝酸鉄により得られる酸化鉄粒子はその粒径が500nm以上の大きな粒子であることがわかった。
【0010】
また、本願発明者は、酸素吸蔵放出能を有するCe含有酸化物がNOx吸着能を有することから、同じく酸素吸蔵放出能を有する酸化鉄がNOxの吸着に何らかの効果を発現するのではないかという点に着眼し、Ce含有酸化物に硝酸鉄を含浸させて、NOx吸着能を評価した。その結果、硝酸鉄を含浸担持させると、NOx吸着能が幾分向上するものの、大きな向上効果は望めなかった。
【0011】
以上の説明から明らかなように、本発明の課題は、酸化鉄を有効に利用して触媒のNOx浄化性能を高める、特に排気ガス温度が低い低温時から高温時まで広い温度範囲にわたってNOxを効率良く浄化できるようにすることにある。
【0012】
また、従来より、NOx浄化触媒では、NOxトラップ材の硫黄被毒による性能低下が問題になっている点に鑑み、本発明は、NOx浄化触媒の耐硫黄被毒性を改善することを課題とする。
【0013】
また、NOx浄化触媒では、排気ガスの空燃比がリーンからリッチ側へ変化しNOxトラップ材からNOxが放出されたときに、該NOxがNH3に還元されて排出されてしまう点に鑑み、本発明は、そのNH3の排出を抑制することも課題とする。
【0014】
また、別の本発明の課題は、酸化鉄を、上記NOx浄化に利用するだけでなく、担体に触媒層を形成するためのバインダとしても利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、このような課題を解決するために、粒径の小さな微細酸化鉄粒子を触媒層に多数分散させるようにした。
【0016】
すなわち、本発明は、担体上に、酸素吸蔵放出能をもつCe含有酸化物粒子と、該Ce含有酸化物粒子以外のNOxトラップ材と、触媒金属とを有する触媒層が形成されている排気ガス浄化用触媒であって、
上記触媒層には、酸化鉄粒子が多数分散して含まれ、少なくとも一部の酸化鉄粒子は粒径が300nm以下の微細酸化鉄粒子であり、上記Ce含有酸化物粒子及びNOxトラップ材に当該微細酸化鉄粒子が接触しており、電子顕微鏡観察において、上記微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であることを特徴とする。
【0017】
上記粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であるということは、この微細酸化鉄粒子が触媒層に多数分散して含まれていることを意味する。また、上記Ce含有酸化物粒子はその二次粒子径が数μmであることが通常であるから、少なくとも一部のCe含有酸化物粒子には、複数の微細酸化鉄粒子が分散して接触しており、且つ該Ce含有酸化物粒子に対する微細酸化鉄粒子の付着量が比較的多いことを意味する。そうして、後述の実施例で明らかになるが、本発明によれば、触媒のNOx浄化性能が高くなるとともに、耐硫黄被毒性が高まり、さらに、NH3の排出が抑制される。
【0018】
その理由は明確ではないが、上述の硝酸鉄から得られる酸化鉄粒子は、その粒径が500nm以上の大きな粒子であることから、Ce含有酸化物粒子との相互作用を発現し難いと考えられる。また、Ce含有酸化物粒子の表面ないし細孔に付着した硝酸鉄が、触媒焼成に伴って酸化鉄に変化し、凝集・粒成長することにより、さらにはその後の高温の排気ガスに晒されて凝集・粒成長することにより、Ce含有酸化物粒子の表面積の低下を招く、と推察される。
【0019】
これに対して、本発明の場合は、上述の如く粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子がCe含有酸化物粒子及びNOxトラップ材各々に分散して接触しているから、Ce含有酸化物粒子やNOxトラップ材と酸化鉄粒子との相互作用を発現し易くなっていると考えられる。そのため、触媒金属量が少ない場合でも、その微細酸化鉄粒子がCe含有酸化物粒子と相俟って触媒層の酸素吸蔵放出能の向上に有効に働くと考えられる。また、Ce含有酸化物粒子に接触している微細酸化鉄粒子が該Ce含有酸化物粒子の塩基性を強くして、そのNOx吸着能を高め、NOxの還元浄化に有利になっていると考えられる。また、後にデータで説明するが、微細酸化鉄粒子は、硫黄成分の吸着及びNH3吸着にも寄与しており、そのため、NOxトラップ材の硫黄被毒が抑制され、さらに、NH3の排出が抑制される。従って、本発明に係る触媒はリーンNOx触媒として有用である。
【0020】
上記微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は40%以上であることが好ましい。粒径50nm以上300nm以下の酸化鉄粒子についてみれば、酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が40%以上95%以下程度であることが好ましい。
【0021】
上記微細酸化鉄粒子は、上記触媒層において上記Ce含有酸化物粒子等を上記担体に保持するバインダの少なくとも一部を構成するものとすることができる。すなわち、触媒一般におけるバインダについては次のように定義することができる。
A.バインダは、担体にウォッシュコートするスラリーに粘性を与えることにより、触媒金属を担持する酸素吸蔵材、その他の助触媒粒子をスラリー中に均一に分散させるとともに、乾燥・焼成前のウォッシュコート層を担体に安定した状態に保持する。
【0022】
そのため、粒径が1nm〜50nm程度のコロイド粒子(水酸化物、含水物、酸化物等)が分散したコロイド溶液(市販のアルミナゾルやコロイダルシリカではコロイド粒子の粒径は10nm〜30nm程度)がバインダとして一般に使用される。
B.バインダは、上記乾燥・焼成後は微粒子となって触媒層に略均一に分散し、上記助触媒粒子間に介在して該助触媒粒子同士を結合するとともに、担体表面の多数の微小凹部ないし細孔に入り、触媒層が担体から剥離しないようにする(アンカー効果)。
【0023】
そのため、乾燥・焼成後において、助触媒粒子よりも粒径が小さな酸化物粒子となって助触媒粒子や担体に固着するものがバインダとして一般に使用される。
C.触媒層に、触媒金属やNOx吸蔵材、HC吸着材等が後から含浸担持されるケースでは、バインダはそれら触媒成分を担持するサポート材となる。
D.バインダ粒子間、バインダ粒子と助触媒粒子との間には排気ガスが通る微細孔が形成される。
E.触媒層におけるバインダ量は、一般には触媒層全体の5質量%〜20質量%とされる。
【0024】
本発明の場合、上記粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子は、上記Ce含有酸化物粒子等の助触媒粒子の平均粒径(数μm程度)よりも小さく、上記触媒層に略均一に分散し、上記助触媒粒子間に介在して該助触媒粒子同士を結合するとともに、担体表面の多数の微小凹部ないし細孔に入り、触媒層が担体から剥離しないようにする。このため、当該微細酸化鉄粒子は上記触媒層においてバインダとしての機能も発揮するものである。
【0025】
上記触媒層のバインダは、上記微細酸化鉄粒子のみで構成するようにしてよいが、安定な触媒層を得るために、この微細酸化鉄粒子の他に、遷移金属及び希土類金属から選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物粒子(例えば、アルミナ粒子、ZrO2粒子、CeO2粒子等)をバインダとして含ませるようにしてもよい。このようなバインダ粒子(上記微細酸化鉄粒子及び上記金属酸化物粒子)は、担体にウォッシュコートするスラリーに粘性を与えることにより、触媒成分をスラリー中に均一に分散させるとともに、乾燥・焼成前のウォッシュコート層を担体に安定した状態で保持することができるように、前駆体である金属化合物がそれぞれコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることが好ましい。
【0026】
上記微細酸化鉄粒子の少なくとも一部はヘマタイトであることが好ましく、また、上記酸化鉄粒子は、マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイトがコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることが好ましい。
【0027】
また、上記NOxトラップ材としては、Baに代表されるアルカリ土類金属やアルカリ金属を採用することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように本発明によれば、担体上に、酸素吸蔵放出能をもつCe含有酸化物粒子と、該Ce含有酸化物粒子以外のNOxトラップ材と、触媒金属とを有する触媒層が形成されている排気ガス浄化用触媒において、上記触媒層には、上記Ce含有酸化物粒子及びNOxトラップ材に接触する粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子が多数分散して含まれているから、触媒のNOx浄化性能が高くなるとともに、耐硫黄被毒性が高まり、さらに、NH3の排出が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0030】
図1に、本発明に係る排気ガス浄化用触媒の一例として、自動車の排気ガス中のNOxを浄化するリーンNOx触媒(NOx吸蔵還元型触媒)を模式的に示す。同図において、1は無機酸化物によるハニカム担体のセル壁、2はセル壁1に形成された触媒層である。触媒層2は、酸素吸蔵放出能を持つCe含有酸化物粒子3と、バインダ粒子4と、Fe以外の触媒金属5とを有し、図例では、Ce含有酸化物粒子3以外の助触媒粒子として、さらにアルミナ粒子6及びNOxトラップ材8を有する。なお、触媒層2には、Ce含有酸化物粒子3及びアルミナ粒子6以外に、NOx吸蔵材など他の助触媒粒子を含ませることができる。バインダ粒子4は、Ce含有酸化物粒子3及びアルミナ粒子6各々の平均粒径よりも小さな金属酸化物粒子よりなり、少なくとも一部のバインダ粒子4は粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子で構成されている。すなわち、当該微細酸化鉄粒子と他の金属酸化物粒子とを組み合わせてバインダとすることもできる。
【0031】
上記微細酸化鉄粒子を含むバインダ粒子4は、触媒層2の全体にわたって略均一に分散していて、助触媒粒子(Ce含有酸化物粒子3、アルミナ粒子6等)間に介在し該助触媒粒子同士を結合している。従って、少なくとも一部の微細酸化鉄粒子はCe含有酸化物粒子3に接触している。また、上記バインダ粒子4は、担体セル壁1の表面ポア(微小凹部ないし細孔)7に充填され、アンカー効果によって触媒層2をセル壁1に保持している。触媒金属5は助触媒粒子(Ce含有酸化物粒子3、アルミナ粒子6等)に担持されている。
【0032】
<触媒の調製>
エタノール100mL当たり硝酸第二鉄40.4gを溶かし、90℃から100℃の温度で2時間から3時間の還流を行なうことによって、スラリー状の液体、すなわち、酸化鉄ゾル(バインダ)を得る。Ce含有酸化物粉末及び他の助触媒材料を混合し、これに酸化鉄ゾル及びイオン交換水を適量混合してスラリーとする。必要に応じて、他のバインダを添加する。上記スラリーを担体にコーティングし、乾燥及び焼成を施す。担体上にコーティング層に、触媒金属溶液、並びにNOxトラップ材となるアルカリ土類金属等の溶液を含浸させ、乾燥及び焼成を行なう。以上により排気ガス浄化用触媒(リーンNOx触媒)が得られる。
【0033】
<酸化鉄粒子の粒径等>
上記酸化鉄ゾルとCe含有酸化物粉末としてのCeZrNd複合酸化物(CeO2:ZrO2:Nd2O3=23:67:10(質量比))とイオン交換水とを混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを基材にコーティングし、乾燥(150℃)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なうことにより、触媒材を得た。酸化鉄ゾルとCeZrNd複合酸化物粉末とは、上記焼成後における質量比で、酸化鉄とCeZrNd複合酸化物とが2:8となるように混合した。
【0034】
図2は得られた触媒材の透過電子顕微鏡を用いたSTEM(走査透過)像、図3乃至図5はFe、Zr及びCe各原子の相対濃度分布をマッピングしたものである。図2乃至図5から、CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であること、酸化鉄粒子は粒径が300nm以下であり、50nm以上300nm以下の大きさの複数個の酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物粒子に接触(粒子上に分布)していることがわかる。この場合、当該顕微鏡観察において、粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は100%である(つまり、全ての酸化鉄粒子が粒径300nm以下である)ということができる。
【0035】
図6乃至図9は上記触媒材のエージング(酸素を2%、水蒸気を10%含む窒素ガス中で900℃の温度に24時間保持)後でのSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であり、酸化鉄粒子の粒径は300nm以下であり、50nm以上300nm以下の大きさの酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物粒子に複数個接触(粒子上に分布)している。エージング後においても、当該電子顕微鏡観察によれば、全ての酸化鉄粒子の粒径が300nm以下になっている。
【0036】
図10は酸化鉄ゾルを150℃で乾燥したもの(乾燥品)、上記エージング前の触媒材(焼成品)、並びに上記エージング後の触媒材(焼成・エージング品)各々のX線回折チャートである。なお、同図の「OSC」は上記CeZrNd複合酸化物のことを意味する(この点は他の図面でも同様である。)。酸化鉄ゾルは、マグヘマイト(γ-Fe2O3)、ゲータイト(Fe3+O(OH))及びウスタイト(FeO)がコロイド粒子として分散したものであることがわかる。そして、酸化鉄ゾルのコロイド粒子は焼成によってヘマタイト(α-Fe2O3)になっている。
【0037】
上記エージング前の焼成品におけるヘマタイトの、結晶面(104)のピーク強度を100とする各結晶面の相対ピーク強度は表1に示す通りである。また、上記エージング後のヘマタイトの、結晶面(104)のピーク強度を100とする各結晶面の相対ピーク強度は表2に示す通りである。なお、表中「−」はピーク重複や、ピーク小のために、正確な数値が得られなかったものである。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
エージング後において、X線回折測定によって得られるヘマタイトの各結晶面のピーク強度は、結晶面(104)、結晶面(110)、結晶面(116)の順で小さくなっている。
【0041】
一方、比較のために、上記酸化鉄ゾルに代えて、硝酸第二鉄水溶液を上記CeZrNd複合酸化物粉末に含浸させ、同様の乾燥及び焼成を行なった。硝酸第二鉄とCeZrNd複合酸化物粉末とは、上記焼成後における質量比で、酸化鉄とCeZrNd複合酸化物とが2:8となるように混合した。
【0042】
図11乃至図14は得られた上記硝酸第二鉄による触媒材のSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であるが、酸化鉄粒子の粒径は600〜700nm程度になっている。
【0043】
図15乃至図18は上記硝酸第二鉄による触媒材のエージング(酸化鉄ゾルの場合と同じ条件)後でのSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1.5〜2μm程度であるが、酸化鉄粒子としては、粒径が600〜700nm程度の粒子が1個と、100nm程度の粒子が3個見られる。当該電子顕微鏡観察において、粒径300nm以下の酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は10%未満である。
【0044】
上記酸化鉄ゾルの場合、焼成によって酸化鉄粒子となるコロイド粒子(マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイト)が比較的安定なFe化合物であり、そのために、酸化鉄粒子の粒成長を生じ難い。これに対して、上記硝酸第二鉄の場合は、反応性が高いFeイオンから酸化鉄粒子を生ずるから、粒成長し易い。このことが、上記酸化鉄ゾルから得られる酸化鉄粒子と上記硝酸第二鉄から得られる酸化鉄粒子の粒径の差違となっていると考えられる。
【0045】
<酸素吸蔵放出能>
上記酸化鉄ゾルを用いて調製した触媒サンプルAと、上記硝酸第二鉄を用いて調製した触媒サンプルBと、鉄成分を含まない触媒サンプルCとについて、各々の酸素吸蔵放出能を調べた。但し、いずれのサンプルも触媒金属量は零とした。
【0046】
−触媒サンプルAの調製−
上記CeZrNd複合酸化物と上記酸化鉄ゾルとZrO2バインダとイオン交換水とを混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを担体にコーティングし、乾燥(150℃)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なった。上記スラリーは、上記CeZrNd複合酸化物の担持量が80g/L、上記酸化鉄ゾルによる酸化鉄の担持量が20g/L、上記ZrO2バインダによるZrO2の担持量が10g/Lとなるように調製した。なお、各担持量は上記焼成後における上記担体1L当たりの各成分の量である。担体としては、セル壁厚さ3.5mil(8.89×10−2mm)、1平方インチ(645.16mm2)当たりのセル数600のコージェライト製ハニカム担体(容量25mL)を採用した。
【0047】
−触媒サンプルBの調製−
上記酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用し、他は触媒サンプルAと同じ条件で第2触媒サンプル2を調製した。硝酸第二鉄水溶液による酸化鉄担持量は触媒サンプルAの上記酸化鉄ゾルによる酸化鉄担持量と同じく、20g/Lである。
【0048】
−触媒サンプルCの調製−
上記酸化鉄ゾルを用いず(酸化鉄担持量=0g/L)、上記CeZrNd複合酸化物担持量が100g/L、上記ZrO2バインダによるZrO2の担持量が10g/Lとなるようにする他は、触媒サンプルAと同じ条件で触媒サンプルCを調製した。
【0049】
−酸素吸蔵放出能の評価−
図19は、酸素吸蔵放出量を測定するための試験装置の構成を示す。同図において、符号11は触媒サンプル12を保持するガラス管であり、触媒サンプル12はヒータ13によって所定温度に加熱保持される。ガラス管11の触媒サンプル12よりも上流側には、ベースガスN2を供給しながらO2及びCOの各ガスをパルス状に供給可能なパルスガス発生装置14が接続され、ガラス管11の触媒サンプル12よりも下流側には排気部18が設けられている。ガラス管11の触媒サンプル12よりも上流側及び下流側にはA/Fセンサ(酸素センサ)15,16が設けられている。ガラス管11のサンプル保持部には温度制御用の熱電対19が取付けられている。
【0050】
測定にあたっては、ガラス管11内の触媒サンプル温度を所定値に保ち、ベースガスN2を供給して排気部18から排気しながら、図20に示すようにO2パルス(20秒)とCOパルス(20秒)とを交互に且つ間隔(20秒)をおいて発生させることにより、リーン→ストイキ→リッチ→ストイキのサイクルを繰り返すようにした。ストイキからリッチに切り換えた直後から、図21に示すように、触媒サンプル前後のA/Fセンサ15,16によって得られるA/F値出力差(前側A/F値−後側A/F値)がなくなるまでの時間における、当該出力差をO2量に換算し、これを触媒サンプルのO2放出量(酸素吸蔵放出量)とした。このO2放出量を200℃から600℃までの50℃刻みの各温度で測定した。
【0051】
結果を図22に示す。触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)及び触媒サンプルB(硝酸第二鉄+OSC)のいずれも、酸化鉄を含まない触媒サンプルC(OSCのみ)よりも酸素放出量が多くなっている。(酸化鉄ゾル+OSC)と(硝酸第二鉄+OSC)とを比較すると、250℃〜600℃において、酸化鉄ゾルの方が硝酸第二鉄よりも酸素放出量が多くなっている。
【0052】
図23は(酸化鉄ゾル+OSC)及び(硝酸第二鉄+OSC)の各触媒サンプルのエージング(酸素を2%、水蒸気を10%含む窒素ガス中で900℃の温度に24時間保持)後の酸素放出量を測定した結果を示す。いずれもエージング後は酸素放出量が少なくなっているが、それでも、酸化鉄ゾルの方が硝酸第二鉄よりも酸素放出量が多い。
【0053】
触媒サンプルAの場合は、酸化鉄ゾルによる複数の粒径300nm以下の酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物(OSC)粒子に分散して接触しており(図2乃至図5参照)、そのため、それら酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物粒子と相俟って触媒の酸素吸蔵放出能の向上に有効に働いているものと認められる。これに対して、触媒サンプルBの場合は、硝酸第二鉄による酸化鉄粒子の粒径が大きく(図11乃至図14参照)、そのため、酸化鉄粒子による酸素吸蔵放出能の向上が酸化鉄ゾルによるものに比べて低いものと認められる。
【0054】
図24は上記エージング後の触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)及び触媒サンプルB(硝酸第二鉄+OSC)の酸素放出量(測定温度500℃)を、従来触媒及び実施例触媒各々の当該エージング後の酸素放出量(測定温度500℃)と共に示すグラフである。従来触媒は、上記触媒サンプルC(OSCのみ)においてそのCeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属としてPtを1g/L担持させたものである。実施例触媒は、上記触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)においてそのCeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属としてPtを1g/L担持させたものである。
【0055】
触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)は、触媒金属PtをCeZrNd複合酸化物粒子に担持させていないにも拘わらず、CeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属Ptを担持させた従来触媒と同程度の酸素放出量になっている。また、触媒サンプルAにおいてCeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属Ptを担持させた実施例触媒は、従来触媒に比べて酸素放出量が格段に多くなっている。これらから、酸化鉄ゾルによる粒径の小さな酸化鉄粒子が酸素吸蔵放出能の向上に大きな効果を示すことがわかる。
【0056】
<NO吸着能及びNH3吸着能>
Ce含有酸化物系触媒材料(実施例材料A,比較例材料B,比較例材料C)を調製し、各々のNOx吸着能及びNH3吸着能を評価した。
【0057】
−実施例材料A−
CeZr複合酸化物粉末(CeO2:ZrO2=90:10(質量比))40gに、上記酸化鉄ゾル及び水を混合し、150℃の温度に2時間保持する乾燥、並びに500℃の温度に2時間保持する焼成を行なうことにより、実施例材料Aを得た。酸化鉄ゾルの混合量は、焼成によって得られる酸化鉄量が8gとなるように調整した。
【0058】
−比較例材料B−
酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用する他は実施例材料Aと同じ条件で比較例材料Bを得た。硝酸第二鉄による酸化鉄量は、実施例材料Aと同じく、8gとなるようにした。
【0059】
−比較例材料C−
酸化鉄ゾルに代えてアルミナゾルを採用する他は実施例材料Aと同じ条件で比較例材料Cを得た。但し、CeZr複合酸化物粉末量は48gとし、アルミナゾルによるアルミナ量は9.6gとなるようにした。
【0060】
−NO吸着量の測定−
上記実施例及び比較例の各触媒材料A,B,C各々0.05gを準備し、ガス流通反応装置及びガス分析装置を用いて、プリコンディショニングを行なった後、NO吸着量を測定した。プリコンディショニングは、試料をHe気流中で600℃の温度に10分間保持するというものである。次いで、モデルガス(NO;5000ppm,O2;5%,残He)を100mL/分の流量で流しながら、ガス温度を室温から600℃まで上昇させ、その間に吸着されたNO成分量を算出して、NO吸着量とした。
【0061】
−NH3吸着量の測定−
上記実施例及び比較例の各触媒材料A,B,C各々0.05gを準備し、それぞれガス流通反応装置及びガス分析装置を用いて、NO吸着量の測定の場合と同じプリコンディショニングを行なった後、NH3吸着量を測定した。
【0062】
NH3吸着量の測定にあたっては、モデルガス(NH3;2%,残He)を温度100℃、100mL/分の流量で流してNH3を試料に吸着させ、次いで、NH3濃度0%のHeガスに切り換えて、100℃から600℃まで、10℃/分の速度で昇温し、このときに、試料を通過したガス中に含まれるNH3量を算出してNH3吸着量とした。
【0063】
−結果−
結果を図25に示す。酸化鉄ゾルを採用した実施例材料AではNO吸着量が110×10−5mol/g以上あるのに対して、比較例材料B,CではNO吸着量が極めて少ない。NH3吸着量に関しても、実施例材料Aは比較例材料B,Cよりも多くなっている。実施例材料AのNO吸着量が顕著に多いのは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子がCe含有酸化物の塩基性を強くしたためと考えられる。実施例材料AのNH3吸着量が多いのは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子がNH3の吸着に関与しているためである。
【0064】
以上の結果から、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子を触媒層に分散させると、触媒のNOx浄化性能が高まること、並びに吸蔵したNOxを脱離させて還元したときに、NH3が多く発生しても、該NH3の排出が少なくなることがわかる。
【0065】
<リーンNOx浄化性能>
次の実施例及び比較例1,2のリーンNOx触媒を調製し、エージング後のリーンNOx浄化率、耐硫黄被毒性、硫黄被毒からの回復性を評価した。
【0066】
−実施例−
γ−アルミナ粉末とCeZr複合酸化物粉末(CeO2:ZrO2=75:25(質量比))とを混合し、これにバインダとしての上記酸化鉄ゾル及びイオン交換水を混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを担体にコーティングし、乾燥(150℃の温度に2時間保持)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なった。次いで、酢酸バリウム及び酢酸ストロンチウムをイオン交換水に溶かし、その溶液とジニトロジアンミン白金硝酸溶液と硝酸ロジウム溶液とを混合した。この混合溶液を上記担体のコーティング層に含浸させ、乾燥(150℃の温度に2時間保持)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持を行なうことにより、実施例に係る触媒を得た。
【0067】
当該触媒は、γ−アルミナ担持量が120g/L、CeZr複合酸化物担持量が120g/L、Ba担持量が30g/L、Sr担持量が3g/L、Pt担持量が2g/L、Rh担持量が0.3g/L、酸化鉄ゾルによる酸化鉄担持量が24g/Lである。なお、各担持量は上記焼成後における上記担体1L当たりの各成分の量である。また、担体としては、セル壁厚さ4mil(10.16×10−2mm)、1平方インチ(645.16mm2)当たりのセル数400のコージェライト製ハニカム担体(容量55mL)を採用した。
【0068】
−比較例1−
酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用する他は実施例と同じ条件で比較例1に係る触媒を調製した。硝酸第二鉄による酸化鉄担持量は24g/Lである。
【0069】
−比較例2−
酸化鉄ゾルに代えてアルミナゾルを採用する他は実施例と同じ条件で比較例2に係る触媒を調製した。アルミナゾルによるアルミナ担持量は24g/Lである。
【0070】
−リーンNOx浄化性能評価−
上記実施例及び比較例1,2の各触媒について、800℃の大気雰囲気に20時間保持するエージングを行なった後、モデルガス流通反応装置及び排気ガス分析装置を用いてリーンNOx浄化性能を調べた。すなわち、リーン(A/F=22)のモデル排気ガスを60秒間流し、次にガス組成をリッチ(A/F=14.5)のモデル排気ガスに切り換えてこれを60秒間流す、というサイクルを数回繰り返した後、ガス組成をリッチからリーンに切り換えた時点から60秒間のNOx浄化率(リーンNOx浄化率)を測定した。リーンモデル排気ガス及びリッチのモデル排気ガスの組成は表3に示すとおりであり、空間速度は35000/hとした。
【0071】
【表3】
【0072】
触媒入口ガス温度180℃、300℃及び450℃でのリーンNOx浄化率を図26に示す。バインダとして酸化鉄ゾルを採用した実施例は、180℃、300℃及び450℃のいずれにおいても、比較例1,2よりもNOx浄化率が高い。酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子を触媒層に分散させると、低温から高温にわたる広い温度範囲でNOx浄化能が高まることがわかる。比較例1は、実施例と同じく、酸化鉄粒子が触媒層に分散しているものの、酸化鉄を含有しない比較例2よりも性能が悪くなっている。比較例1の場合、その酸化鉄粒子は硝酸第二鉄によるものであって、その粒径が大きいことから、CeZr複合酸化物の酸素吸蔵放出能及びNOx吸着能を高めるに至らず、かえって、酸化鉄粒子がCeZr複合酸化物粒子の比表面積を低下させて性能が悪くなったものと考えられる。
【0073】
−耐硫黄被毒性、硫黄被毒からの回復性−
上記実施例及び比較例1,2の各触媒について、上記エージング→硫黄被毒処理→還元処理(硫黄被毒からの回復処理)を順に行ない、該エージング後、硫黄被毒後及び還元処理後各々の触媒入口ガス温度350℃でのリーンNOx浄化率を測定した。
【0074】
硫黄被毒処理は、触媒にN2100%ガスを流通させながら、350℃まで昇温して同温度に保持し、次いで同温度でSO2=100ppm,O2=10%,残N2の硫黄被毒用ガスに切り替えてこれを1時間流通させ(SV=35000/h)、その後N2100%ガスに切り替えて室温まで温度を下げる、というものである。還元処理は、触媒にA/F=14相当のリッチモデル排気ガスを流通させながら(SV=80000/h)、30℃/分で600℃まで昇温させ、その温度に10分間保持した後、N2100%ガスに切り替えて室温まで温度を下げるというものである。
【0075】
結果を図27に示す。実施例は、硫黄被毒処理によるリーンNOx浄化率の低下度合いが比較例1,2に比べて小さい。これは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子が硫黄成分SO2を吸着し、NOxトラップ材の被毒を抑制したためと考えられる。そうして、実施例では、還元処理により、リーンNOx浄化率が硫黄被毒前の値まで略完全に回復しており、還元処理を適宜行なうことにより、触媒を長期間にわたって使用することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係る排気ガス浄化用触媒を模式的に示す断面図である。
【図2】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のSTEM像図である。
【図3】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図4】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図5】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図6】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のSTEM像図である。
【図7】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図8】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図9】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図10】酸化鉄ゾル乾燥品、触媒材(焼成品)及び触媒材エージング品各々のX線回折チャート図である。
【図11】硝酸第二鉄を用いた触媒材のSTEM像図である。
【図12】硝酸第二鉄を用いた触媒材のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図13】硝酸第二鉄を用いた触媒材のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図14】硝酸第二鉄を用いた触媒材のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図15】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のSTEM像図である。
【図16】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図17】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図18】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図19】酸素吸蔵放出量測定装置の構成図である。
【図20】酸素吸蔵放出量の測定における触媒前後のA/F及び触媒前後のA/F差の経時変化を示すグラフ図である。
【図21】酸素吸蔵放出量の測定における触媒前後のA/F差の経時変化を示すグラフ図である。
【図22】各触媒サンプルのフレッシュ時における酸素放出量の温度による変化を示すグラフ図である。
【図23】各触媒サンプルのエージング後における酸素放出量の温度による変化を示すグラフ図である。
【図24】各触媒サンプルのエージング後の酸素放出量を示すグラフ図である。
【図25】実施例材料及び比較例材料のNOx吸着能及びNH3吸着能を示すグラフ図である。
【図26】実施例及び比較例のリーンNOx浄化率を示すグラフ図である。
【図27】実施例及び比較例のエージング後、硫黄被毒後及び還元処理後のリーンNOx浄化率を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0077】
1 ハニカム担体のセル壁
2 触媒層
3 Ce含有酸化物粒子
4 バインダ粒子(酸化鉄粒子)
5 触媒金属
6 アルミナ粒子
7 ポア
8 NOxトラップ材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体上に、酸素吸蔵放出能をもつCe含有酸化物粒子と、該Ce含有酸化物粒子以外のNOxトラップ材と、触媒金属とを有する触媒層が形成されている排気ガス浄化用触媒であって、
上記触媒層には、酸化鉄粒子が多数分散して含まれ、少なくとも一部の酸化鉄粒子は粒径が300nm以下の微細酸化鉄粒子であり、上記Ce含有酸化物粒子及びNOxトラップ材に当該微細酸化鉄粒子が接触しており、電子顕微鏡観察において、上記微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
請求項1において、
上記微細酸化鉄粒子は、上記触媒層においてバインダの少なくとも一部を構成していることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記微細酸化鉄粒子の少なくとも一部はヘマタイトであることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記微細酸化鉄粒子は、マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイトがコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
自動車の排気ガスのNOxを浄化するリーンNOx触媒として用いられることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項1】
担体上に、酸素吸蔵放出能をもつCe含有酸化物粒子と、該Ce含有酸化物粒子以外のNOxトラップ材と、触媒金属とを有する触媒層が形成されている排気ガス浄化用触媒であって、
上記触媒層には、酸化鉄粒子が多数分散して含まれ、少なくとも一部の酸化鉄粒子は粒径が300nm以下の微細酸化鉄粒子であり、上記Ce含有酸化物粒子及びNOxトラップ材に当該微細酸化鉄粒子が接触しており、電子顕微鏡観察において、上記微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
請求項1において、
上記微細酸化鉄粒子は、上記触媒層においてバインダの少なくとも一部を構成していることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記微細酸化鉄粒子の少なくとも一部はヘマタイトであることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記微細酸化鉄粒子は、マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイトがコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
自動車の排気ガスのNOxを浄化するリーンNOx触媒として用いられることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【図1】
【図10】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図10】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−285620(P2009−285620A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143511(P2008−143511)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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