説明

排気ガス浄化用触媒

【課題】触媒のNOx浄化性能及び耐硫黄被毒性を改善する。
【解決手段】担体1上に、触媒金属とNOx吸着材と高比表面積耐熱性酸化物粒子とを含有する第一触媒層2と、NH吸着材を含有する第二触媒層3とが、第二触媒層3が第一触媒層2よりも上層となるように層状に形成されている排気ガス浄化用触媒において、上記第一触媒層2のNOx吸着材又は上記第二触媒層3のNH吸着材に接触する粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子が多数分散している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
軽油を主成分とする燃料を用いるディーゼルエンジンや、ガソリンを主成分とする燃料を用いて希薄燃焼させるリーンバーンガソリンエンジンのような希薄燃焼式エンジンでは、その排気ガス中にNOx(窒素酸化物)が多く含まれる。そこで、排気ガスの酸素濃度が高いときに排気ガス中のNOxを吸蔵し、その酸素濃度が低下したときに当該NOxを放出させて排気ガス中のHC(炭化水素)と反応させることにより還元するようにした、所謂NOx吸蔵還元型触媒が一般に知られている。
【0003】
また、NOxを浄化する選択還元型触媒(SCR)も一般に知られている。これは、アンモニア水や尿素水のような還元剤を貯蔵したタンクから、エンジン排気ガス通路のNOx浄化触媒の上流部に還元剤を供給して、排気ガス中のNOxを還元浄化するものである。
【0004】
また、特許文献1には、上記NOx吸蔵還元型触媒及びNOx選択還元型触媒とは異なるメカニズムでNOxを浄化する触媒が記載されている。それは、Fe及び/又はCeを含有するβゼオライトを含む第一触媒層(上層)と、貴金属と酸化セリウム系材料とを含む第二触媒層(下層)とを有するNOx浄化触媒である。これは、排気ガスの空燃比をリーンにして、排気ガス中のNOを第一触媒層の貴金属によりNOに酸化させて酸化セリウム系材料に吸着させ、次いで排気ガスの空燃比をリッチにすることにより、当該吸着NOをNHに還元させて第一触媒層のゼオライトに吸着させ、再び排気ガスの空燃比をリーンにすることにより、上記NHと排気ガス中のNOxとを反応させてNとHOとに転化するというものである。
【0005】
特許文献1に記載された触媒によれば、還元剤貯蔵タンクが不要であるだけでなく、ユーザーが還元剤を手配する負担もなくなる。また、従来のゼオライトを含有するリーンNOx浄化触媒においては、Ptがゼオライトに担持ないしはイオン交換されているケースが多いが、Ptの一部をFe又はCeで置き換えることができるならば、Ptの使用量を低減することができる。
【0006】
ところで、近年はPt、Rh等の希少金属の資源保護のため、触媒中へのこれら触媒金属の含有量を低減する研究が活発化している。
【0007】
例えば特許文献2には、触媒金属量を増大させることなく、酸素吸蔵材の酸素吸蔵放出能を向上させるようにした触媒の例が記載されている。それは、セリウム酸化物を含む担体と、この担体に担持された遷移金属及び貴金属からなる触媒金属とよりなり、セリウム原子及び貴金属各々に対する遷移金属の原子比を所定の範囲にするというものである。遷移金属としては、Co、Ni及びFeの少なくとも一種が好ましいとされている。但し、実施例として開示されているのはCo及びNiだけであり、Feについての実施例はない。
【0008】
また、特許文献2では、セリアジルコニア固溶体粉末に硝酸Ni(又は硝酸Co)を含浸させ、蒸発乾固、乾燥及び焼成を行ない、得られた粉末にPt溶液を含浸させ、蒸発乾固、乾燥及び焼成を行なうことにより触媒粉末を得るとされている。そして、この触媒粉末とRh/ZrO粉末とAl粉末とアルミナゾルとイオン交換水とを混合してスラリーを調製し、このスラリーをハニカム担体にウォッシュコートして触媒層を形成するとされている。
【0009】
特許文献3には、CeO−ZrO複合酸化物よりなる担体と、該担体に担持されたAl、Ni及びFeから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物粒子と、該担体に担持された貴金属とからなる排気ガス浄化用触媒が開示されている。担体上での貴金属の移動を金属酸化物粒子によって規制することにより、貴金属のシンタリングを抑制するというものである。但し、実施例として開示されている金属酸化物粒子はAlのみであり、CeO−ZrO複合酸化物と硝酸Al水溶液とを混合し、これにアンモニア水を滴下・中和して沈殿を析出させ、濾過・洗浄・乾燥・焼成を行ない、得られた粉末にPt溶液を含浸させ、蒸発乾固、乾燥及び焼成を行なうことにより触媒粉末を得るとされている。Ni及びFeについての実施例はない。
【特許文献1】特開2008−30003号公報
【特許文献2】特開2003−220336号公報
【特許文献3】特開2003−126694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1乃至3から明らかなように、排ガス浄化用触媒にFe成分を含ませることは知られているということができる。ところで、特許文献1に記載されたNOx浄化方式の場合、NOx吸着材とNH吸着材とが必要になるが、NH吸着材として利用可能なゼオライトは耐熱性や耐熱水性に課題があることが従来より知られている。その場合において、ゼオライトにFeがイオン交換担持されると、結晶構造の歪みが大きくなり、耐熱性の問題が大きくなるとともに、NH吸着材としての機能も低くなる懸念が出る。
【0011】
また、本願発明者は、酸素吸蔵放出能を有するCe含有酸化物がNOx吸着能を有することから、同じく酸素吸蔵放出能を有する酸化鉄がNOxの吸着に何らかの効果を発現するのではないかという点に着眼し、Ce含有酸化物に硝酸鉄を含浸させて、NOx吸着能を評価した。その結果、硝酸鉄を含浸担持させると、NOx吸着能が幾分向上するものの、大きな向上効果は望めなかった。また、上記硝酸鉄により得られる酸化鉄粒子はその粒径が500nm以上の大きな粒子であることがわかった。
【0012】
以上の説明から明らかなように、本発明の課題は、特許文献1に記載されているようなNOx浄化触媒において、触媒金属量を増やすことなく、酸化鉄を有効に利用してNOx浄化性能を高めることにある。
【0013】
また、従来より、NOx浄化触媒では、硫黄被毒による性能低下が問題になっている点に鑑み、本発明は、NOx浄化触媒の耐硫黄被毒性を改善することも課題とする。
【0014】
また、NOx浄化触媒では、排気ガスの空燃比がリーンからリッチ側へ変化してNOxが放出されたときに、該NOxがNHに還元されて排出されてしまう点に鑑み、本発明は、そのNHの排出を抑制することも課題とする。
【0015】
また、別の本発明の課題は、酸化鉄を、上記NOx浄化に利用するだけでなく、担体に触媒層を形成するためのバインダとしても利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、このような課題を解決するために、粒径の小さな微細酸化鉄粒子を触媒層に多数分散させるようにした。
【0017】
すなわち、本発明は、担体上に、触媒金属とNOx吸着材と高比表面積耐熱性酸化物粒子とを含有する第一触媒層と、NH吸着材を含有する第二触媒層とが、第二触媒層が第一触媒層よりも上層となるように層状に形成されている排気ガス浄化用触媒であって、
上記第一触媒層及び第二触媒層の少なくとも一方には、酸化鉄粒子が多数分散して含まれ、その少なくとも一部の酸化鉄粒子は粒径が300nm以下の微細酸化鉄粒子であって上記第一触媒層のNOx吸着材又は上記第二触媒層のNH吸着材に接触しており、電子顕微鏡観察において、当該微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であることを特徴とする。
【0018】
このような触媒であれば、排気ガスが酸素過剰状態にあるときに該排気ガス中のNOxを上記第一触媒層のNOx吸着材に吸着させ、上記排気ガスが酸素不足状態になったときに上記NOx吸着材に吸着されたNOxを排気ガス中の還元成分によりNHに変換させて上記第二触媒層のNH吸着材に吸着させ、該NHによりNOxを還元浄化するNOx浄化触媒として用いることができる。
【0019】
そうして、上記粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であるということは、この微細酸化鉄粒子が触媒層に多数分散して含まれていることを意味する。また、上記NOx吸着材やNH吸着材は二次粒子径が数μmの粒子であるのが通常であるから、少なくとも一部のNOx吸着材粒子又はNH吸着材粒子には、複数の微細酸化鉄粒子が分散して接触しており、且つ該NOx吸着材粒子又はNH吸着材粒子に対する微細酸化鉄粒子の付着量が比較的多いことを意味する。そうして、後述の実施例で明らかになるが、本発明によれば、触媒のNOx浄化性能が高くなるとともに、耐硫黄被毒性が高まり、さらに、NHの排出が抑制される。
【0020】
その理由は明確ではないが、上述の硝酸鉄から得られる酸化鉄粒子は、その粒径が500nm以上の大きな粒子であることから、NOx吸着材粒子又はNH吸着材粒子との相互作用を発現し難いと考えられる。また、NOx吸着材粒子又はNH吸着材粒子の表面ないし細孔に付着した硝酸鉄が、触媒焼成に伴って酸化鉄に変化し、凝集・粒成長することにより、さらにはその後の高温の排気ガスに晒されて凝集・粒成長することにより、NOx吸着材粒子又はNH吸着材粒子の表面積低下又は構造破壊を招くと推察される。
【0021】
これに対して、本発明の場合は、上述の如く粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子がNOx吸着材粒子又はNH吸着材粒子に分散して接触しているから、NOx吸着材粒子又はNH吸着材粒子と酸化鉄粒子との相互作用を発現し易くなっていると考えられる。そのため、触媒金属量が少ない場合でも、その微細酸化鉄粒子がNOx吸着材粒子又はNH吸着材粒子と相俟って触媒の性能向上に有効に働くと考えられる。
【0022】
また、後に実施例で説明するが、微細酸化鉄粒子は、硫黄成分の吸着及びNH吸着にも関与しており、そのため、触媒の硫黄被毒が抑制され、さらに、NHの排出が抑制される。従って、本発明に係る触媒はリーンNOx触媒として有用である。
【0023】
上記NOx吸着材は希土類金属系酸化物であり、上記NH吸着材はゼオライトであることが好ましい。すなわち、希土類金属系酸化物の場合、その塩基性が強いほどNOxの吸着に有利になるが、上記微細酸化鉄粒子は希土類金属系酸化物との接触により、該希土類金属系酸化物の塩基性を強めると考えられる。また、ゼオライトのNH吸着性には固体酸性の強さが関わるが、上記微細酸化鉄粒子はゼオライトとの接触により、その固定酸性を強めると考えられる。
【0024】
上記微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は40%以上であることが好ましい。粒径50nm以上300nm以下の酸化鉄粒子についてみれば、酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が40%以上95%以下程度であることが好ましい。
【0025】
上記微細酸化鉄粒子は、上記触媒層において上記NOx吸着材粒子、NH吸着材粒子等を上記担体に保持するバインダの少なくとも一部を構成するものとすることができる。すなわち、触媒一般におけるバインダについては次のように定義することができる。
A.バインダは、担体にウォッシュコートするスラリーに粘性を与えることにより、触媒金属を担持する酸素吸蔵材、その他の助触媒粒子をスラリー中に均一に分散させるとともに、乾燥・焼成前のウォッシュコート層を担体に安定した状態に保持する。
【0026】
そのため、粒径が1nm〜50nm程度のコロイド粒子(水酸化物、含水物、酸化物等)が分散したコロイド溶液(市販のアルミナゾルやコロイダルシリカではコロイド粒子の粒径は10nm〜30nm程度)がバインダとして一般に使用される。
B.バインダは、上記乾燥・焼成後は微粒子となって触媒層に略均一に分散し、上記助触媒粒子間に介在して該助触媒粒子同士を結合するとともに、担体表面の多数の微小凹部ないし細孔に入り、触媒層が担体から剥離しないようにする(アンカー効果)。
【0027】
そのため、乾燥・焼成後において、助触媒粒子よりも粒径が小さな酸化物粒子となって助触媒粒子や担体に固着するものがバインダとして一般に使用される。
C.触媒層に、触媒金属等が後から含浸担持されるケースでは、バインダはそれら触媒成分を担持するサポート材となる。
D.バインダ粒子間、バインダ粒子と助触媒粒子との間には排気ガスが通る微細孔が形成される。
E.触媒層におけるバインダ量は、一般には触媒層全体の5質量%〜20質量%とされる。
【0028】
本発明の場合、上記粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子は、上記NOx吸着材粒子、NH吸着材粒子等の助触媒粒子の平均粒径(数μm程度)よりも小さく、上記触媒層に略均一に分散し、上記助触媒粒子間に介在して該助触媒粒子同士を結合するとともに、担体表面の多数の微小凹部ないし細孔に入り、触媒層が担体から剥離しないようにする。このため、当該微細酸化鉄粒子は上記触媒層においてバインダとしての機能も発揮するものである。
【0029】
上記触媒層のバインダは、上記微細酸化鉄粒子のみで構成するようにしてよいが、安定な触媒層を得るために、この微細酸化鉄粒子の他に、遷移金属及び希土類金属から選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物粒子(例えば、アルミナ粒子、ZrO粒子、CeO粒子等)をバインダとして含ませるようにしてもよい。このようなバインダ粒子(上記微細酸化鉄粒子及び上記金属酸化物粒子)は、担体にウォッシュコートするスラリーに粘性を与えることにより、触媒成分をスラリー中に均一に分散させるとともに、乾燥・焼成前のウォッシュコート層を担体に安定した状態で保持することができるように、前駆体である金属化合物がそれぞれコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることが好ましい。
【0030】
上記微細酸化鉄粒子の少なくとも一部はヘマタイトであることが好ましく、また、上記酸化鉄粒子は、マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイトがコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
以上のように本発明によれば、担体上に、触媒金属とNOx吸着材と高比表面積耐熱性酸化物粒子とを含有する第一触媒層と、NH吸着材を含有する第二触媒層とが、第二触媒層が第一触媒層よりも上層となるように層状に形成されている排気ガス浄化用触媒において、上記第一触媒層のNOx吸着材又は上記第二触媒層のNH吸着材に接触する粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子が多数分散しているから、触媒のNOx浄化性能が高くなるとともに、耐硫黄被毒性が高まり、さらに、NHの排出が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0033】
図1に、本発明に係る排気ガス浄化用触媒の一例として、自動車の排気ガス中のNOxを浄化するリーンNOx触媒を模式的に示す。同図において、1は無機酸化物によるハニカム担体のセル壁、2はセル壁1に形成された第一触媒層、3は第一触媒層2の上に積層された第二触媒層である。
【0034】
第一触媒層2は、図2に模式的に示すように、NOx吸着材としてのCe含有酸化物粒子4と、高比表面積耐熱性酸化物粒子としてのアルミナ粒子5と、Ce含有酸化物粒子4及びアルミナ粒子5各々に担持されたFe以外の触媒金属6と、バインダ粒子7とを有する。なお、第一触媒層2には、Ce含有酸化物粒子4及びアルミナ粒子5以外に、他の助触媒粒子を含ませることができる。バインダ粒子7は、Ce含有酸化物粒子4及びアルミナ粒子5各々の平均粒径よりも小さな金属酸化物粒子よりなり、少なくとも一部のバインダ粒子7は粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子で構成されている。すなわち、当該微細酸化鉄粒子と他の金属酸化物粒子とを組み合わせてバインダとすることもできる。
【0035】
上記微細酸化鉄粒子を含むバインダ粒子7は、第一触媒層2の全体にわたって略均一に分散していて、助触媒粒子(Ce含有酸化物粒子4、アルミナ粒子5等)間に介在し該助触媒粒子同士を結合している。従って、少なくとも一部の微細酸化鉄粒子はCe含有酸化物粒子4に接触している。また、上記バインダ粒子7は、担体セル壁1の表面ポア(微小凹部ないし細孔)8に充填され、アンカー効果によって第一触媒層2をセル壁1に保持している。
【0036】
第二触媒層3は、模式的な図示は省略するが、NH吸着材としてのゼオライト粒子と、バインダ粒子とを含有する。少なくとも一部のバインダ粒子として、第一触媒層2と同じく、ゼオライト粒子の平均粒径よりも小さな、粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子を採用し、この微細酸化鉄粒子をゼオライト粒子に接触させるようにすることができる。
【0037】
なお、粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子は第一触媒層2及び第二触媒層3の少なくとも一方に配置すればよい。
【0038】
<触媒の調製>
エタノール100mL当たり硝酸第二鉄40.4gを溶かし、90℃から100℃の温度で2時間から3時間の還流を行なうことによって、スラリー状の液体、すなわち、酸化鉄ゾル(バインダ)を得る。
【0039】
Ce含有酸化物粉、アルミナ粉末及び触媒金属溶液を混合し、蒸発乾固後、乾燥及び焼成を行なうことにより、触媒粉末を得る。この触媒粉末にバインダ及びイオン交換水を適量混合してスラリーとする。このスラリーを担体にコーティングし、乾燥及び焼成を施す。これにより、担体上に第一触媒層が形成される。この第一触媒層の形成において、必要に応じて、バインダとして上記酸化鉄ゾルを採用し、この酸化鉄ゾルの焼成によって生ずる微細酸化鉄粒子を第一触媒層に分散させる。
【0040】
ゼオライト粉末にバインダ及びイオン交換水を適量混合してスラリーとする。このスラリーを上記担体の第一触媒層の上にコーティングし、乾燥及び焼成を施す。これにより、第一触媒層の上に第二触媒層が形成される。この第二触媒層の形成において、必要に応じて、バインダとして上記酸化鉄ゾルを採用し、この酸化鉄ゾルの焼成によって生ずる微細酸化鉄粒子を第二触媒層に分散させる。
【0041】
<酸化鉄粒子の粒径等>
上記酸化鉄ゾルとCe含有酸化物粉末としてのCeZrNd複合酸化物(CeO:ZrO:Nd=23:67:10(質量比))とイオン交換水とを混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを基材にコーティングし、乾燥(150℃)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なうことにより、触媒材を得た。酸化鉄ゾルとCeZrNd複合酸化物粉末とは、上記焼成後における質量比で、酸化鉄とCeZrNd複合酸化物とが2:8となるように混合した。
【0042】
図3は得られた触媒材の透過電子顕微鏡を用いたSTEM(走査透過)像、図4乃至図6はFe、Zr及びCe各原子の相対濃度分布をマッピングしたものである。図3乃至図6から、CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であること、酸化鉄粒子は粒径が300nm以下であり、50nm以上300nm以下の大きさの複数個の酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物粒子に接触(粒子上に分布)していることがわかる。この場合、当該顕微鏡観察において、粒径300nm以下の微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は100%である(つまり、全ての酸化鉄粒子が粒径300nm以下である)ということができる。
【0043】
図7乃至図10は上記触媒材のエージング(酸素を2%、水蒸気を10%含む窒素ガス中で900℃の温度に24時間保持)後でのSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であり、酸化鉄粒子の粒径は300nm以下であり、50nm以上300nm以下の大きさの酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物粒子に複数個接触(粒子上に分布)している。エージング後においても、当該電子顕微鏡観察によれば、全ての酸化鉄粒子の粒径が300nm以下になっている。
【0044】
図11は酸化鉄ゾルを150℃で乾燥したもの(乾燥品)、上記エージング前の触媒材(焼成品)、並びに上記エージング後の触媒材(焼成・エージング品)各々のX線回折チャートである。なお、同図の「OSC」は上記CeZrNd複合酸化物のことを意味する(この点は他の図面でも同様である。)。酸化鉄ゾルは、マグヘマイト(γ-Fe)、ゲータイト(Fe3+O(OH))及びウスタイト(FeO)がコロイド粒子として分散したものであることがわかる。そして、酸化鉄ゾルのコロイド粒子は焼成によってヘマタイト(α-Fe)になっている。
【0045】
上記エージング前の焼成品におけるヘマタイトの、結晶面(104)のピーク強度を100とする各結晶面の相対ピーク強度は表1に示す通りである。また、上記エージング後のヘマタイトの、結晶面(104)のピーク強度を100とする各結晶面の相対ピーク強度は表2に示す通りである。なお、表中「−」はピーク重複や、ピーク小のために、正確な数値が得られなかったものである。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
エージング後において、X線回折測定によって得られるヘマタイトの各結晶面のピーク強度は、結晶面(104)、結晶面(110)、結晶面(116)の順で小さくなっている。
【0049】
一方、比較のために、上記酸化鉄ゾルに代えて、硝酸第二鉄水溶液を上記CeZrNd複合酸化物粉末に含浸させ、同様の乾燥及び焼成を行なった。硝酸第二鉄とCeZrNd複合酸化物粉末とは、上記焼成後における質量比で、酸化鉄とCeZrNd複合酸化物とが2:8となるように混合した。
【0050】
図12乃至図15は得られた上記硝酸第二鉄による触媒材のSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1μm程度であるが、酸化鉄粒子の粒径は600〜700nm程度になっている。
【0051】
図16乃至図19は上記硝酸第二鉄による触媒材のエージング(酸化鉄ゾルの場合と同じ条件)後でのSTEM像及び各原子の相対濃度分布のマッピングである。CeZrNd複合酸化物粒子の粒径は1.5〜2μm程度であるが、酸化鉄粒子としては、粒径が600〜700nm程度の粒子が1個と、100nm程度の粒子が3個見られる。当該電子顕微鏡観察において、粒径300nm以下の酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率は10%未満である。
【0052】
上記酸化鉄ゾルの場合、焼成によって酸化鉄粒子となるコロイド粒子(マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイト)が比較的安定なFe化合物であり、そのために、酸化鉄粒子の粒成長を生じ難い。これに対して、上記硝酸第二鉄の場合は、反応性が高いFeイオンから酸化鉄粒子を生ずるから、粒成長し易い。このことが、上記酸化鉄ゾルから得られる酸化鉄粒子と上記硝酸第二鉄から得られる酸化鉄粒子の粒径の差違となっていると考えられる。
【0053】
<酸素吸蔵放出能>
上記酸化鉄ゾルを用いて調製した触媒サンプルAと、上記硝酸第二鉄を用いて調製した触媒サンプルBと、鉄成分を含まない触媒サンプルCとについて、各々の酸素吸蔵放出能を調べた。但し、いずれのサンプルも触媒金属量は零とした。
【0054】
−触媒サンプルAの調製−
上記CeZrNd複合酸化物と上記酸化鉄ゾルとZrOバインダとイオン交換水とを混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを担体にコーティングし、乾燥(150℃)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なった。上記スラリーは、上記CeZrNd複合酸化物の担持量が80g/L、上記酸化鉄ゾルによる酸化鉄の担持量が20g/L、上記ZrOバインダによるZrOの担持量が10g/Lとなるように調製した。なお、各担持量は上記焼成後における上記担体1L当たりの各成分の量である。担体としては、セル壁厚さ3.5mil(8.89×10−2mm)、1平方インチ(645.16mm)当たりのセル数600のコージェライト製ハニカム担体(容量25mL)を採用した。
【0055】
−触媒サンプルBの調製−
上記酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用し、他は触媒サンプルAと同じ条件で第2触媒サンプル2を調製した。硝酸第二鉄水溶液による酸化鉄担持量は触媒サンプルAの上記酸化鉄ゾルによる酸化鉄担持量と同じく、20g/Lである。
【0056】
−触媒サンプルCの調製−
上記酸化鉄ゾルを用いず(酸化鉄担持量=0g/L)、上記CeZrNd複合酸化物担持量が100g/L、上記ZrOバインダによるZrOの担持量が10g/Lとなるようにする他は、触媒サンプルAと同じ条件で触媒サンプルCを調製した。
【0057】
−酸素吸蔵放出能の評価−
図20は、酸素吸蔵放出量を測定するための試験装置の構成を示す。同図において、符号11は触媒サンプル12を保持するガラス管であり、触媒サンプル12はヒータ13によって所定温度に加熱保持される。ガラス管11の触媒サンプル12よりも上流側には、ベースガスNを供給しながらO及びCOの各ガスをパルス状に供給可能なパルスガス発生装置14が接続され、ガラス管11の触媒サンプル12よりも下流側には排気部18が設けられている。ガラス管11の触媒サンプル12よりも上流側及び下流側にはA/Fセンサ(酸素センサ)15,16が設けられている。ガラス管11のサンプル保持部には温度制御用の熱電対19が取付けられている。
【0058】
測定にあたっては、ガラス管11内の触媒サンプル温度を所定値に保ち、ベースガスNを供給して排気部18から排気しながら、図21に示すようにOパルス(20秒)とCOパルス(20秒)とを交互に且つ間隔(20秒)をおいて発生させることにより、リーン→ストイキ→リッチ→ストイキのサイクルを繰り返すようにした。ストイキからリッチに切り換えた直後から、図22に示すように、触媒サンプル前後のA/Fセンサ15,16によって得られるA/F値出力差(前側A/F値−後側A/F値)がなくなるまでの時間における、当該出力差をO量に換算し、これを触媒サンプルのO放出量(酸素吸蔵放出量)とした。このO放出量を200℃から600℃までの50℃刻みの各温度で測定した。
【0059】
結果を図23に示す。触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)及び触媒サンプルB(硝酸第二鉄+OSC)のいずれも、酸化鉄を含まない触媒サンプルC(OSCのみ)よりも酸素放出量が多くなっている。(酸化鉄ゾル+OSC)と(硝酸第二鉄+OSC)とを比較すると、250℃〜600℃において、酸化鉄ゾルの方が硝酸第二鉄よりも酸素放出量が多くなっている。
【0060】
図24は(酸化鉄ゾル+OSC)及び(硝酸第二鉄+OSC)の各触媒サンプルのエージング(酸素を2%、水蒸気を10%含む窒素ガス中で900℃の温度に24時間保持)後の酸素放出量を測定した結果を示す。いずれもエージング後は酸素放出量が少なくなっているが、それでも、酸化鉄ゾルの方が硝酸第二鉄よりも酸素放出量が多い。
【0061】
触媒サンプルAの場合は、酸化鉄ゾルによる複数の粒径300nm以下の酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物(OSC)粒子に分散して接触しており(図3乃至図6参照)、そのため、それら酸化鉄粒子がCeZrNd複合酸化物粒子と相俟って触媒の酸素吸蔵放出能の向上に有効に働いているものと認められる。これに対して、触媒サンプルBの場合は、硝酸第二鉄による酸化鉄粒子の粒径が大きく(図12乃至図15参照)、そのため、酸化鉄粒子による酸素吸蔵放出能の向上が酸化鉄ゾルによるものに比べて低いものと認められる。
【0062】
図25は上記エージング後の触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)及び触媒サンプルB(硝酸第二鉄+OSC)の酸素放出量(測定温度500℃)を、従来触媒及び実施例触媒各々の当該エージング後の酸素放出量(測定温度500℃)と共に示すグラフである。従来触媒は、上記触媒サンプルC(OSCのみ)においてそのCeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属としてPtを1g/L担持させたものである。実施例触媒は、上記触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)においてそのCeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属としてPtを1g/L担持させたものである。
【0063】
触媒サンプルA(酸化鉄ゾル+OSC)は、触媒金属PtをCeZrNd複合酸化物粒子に担持させていないにも拘わらず、CeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属Ptを担持させた従来触媒と同程度の酸素放出量になっている。また、触媒サンプルAにおいてCeZrNd複合酸化物粒子に触媒金属Ptを担持させた実施例触媒は、従来触媒に比べて酸素放出量が格段に多くなっている。これらから、酸化鉄ゾルによる粒径の小さな酸化鉄粒子が酸素吸蔵放出能の向上に大きな効果を示すことがわかる。
【0064】
<NO吸着能及びNH吸着能>
ゼオライト系触媒材料(実施例材料A、比較例材料A−1及び比較例材料A−2)及びCe含有酸化物系触媒材料(実施例材料B、比較例材料B−1及び比較例材料B−2)を調製し、各々のNOx吸着能及びNH吸着能を評価した。
【0065】
−実施例材料A−
ゼオライト(ゼオリスト・インターナショナル・クライテリオン&テクノロジーズ製,SiO/Al=40)40gに、上記酸化鉄ゾル及び水を混合し、150℃の温度に2時間保持する乾燥、並びに500℃の温度に2時間保持する焼成を行なうことにより、実施例材料Aを得た。酸化鉄ゾルの混合量は、焼成によって得られる酸化鉄量が10gとなるように調整した。
【0066】
−比較例材料A−1−
酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用する他は実施例材料Aと同じ条件で比較例材料A−1を得た。硝酸第二鉄による酸化鉄量は、実施例材料Aと同じく、10gとなるようにした。
【0067】
−比較例材料A−2−
酸化鉄ゾルに代えてアルミナゾルを採用する他は実施例材料Aと同じ条件で比較例材料A−2を得た。アルミナゾルによるアルミナ量は10gとなるようにした。
【0068】
−実施例材料B−
CeZr複合酸化物粉末(CeO:ZrO=90:10(質量比))40gに、上記酸化鉄ゾル及び水を混合し、150℃の温度に2時間保持する乾燥、並びに500℃の温度に2時間保持する焼成を行なうことにより、実施例材料Bを得た。酸化鉄ゾルの混合量は、焼成によって得られる酸化鉄量が8gとなるように調整した。
【0069】
−比較例材料B−1−
酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用する他は実施例材料Bと同じ条件で比較例材料B−1を得た。硝酸第二鉄による酸化鉄量は、実施例材料Bと同じく、8gとなるようにした。
【0070】
−比較例材料B−2−
酸化鉄ゾルに代えてアルミナゾルを採用する他は実施例材料Bと同じ条件で比較例材料B−2を得た。但し、CeZr複合酸化物粉末量は48gとし、アルミナゾルによるアルミナ量は9.6gとなるようにした。
【0071】
−NO吸着量の測定−
実施例材料A、比較例材料A−1及び比較例材料A−2、並びに実施例材料B、比較例材料B−1及び比較例材料B−2各々を0.05g秤量して、それぞれガス流通反応装置及びガス分析装置を用いて、プリコンディショニングを行なった後、NO吸着量を測定した。プリコンディショニングは、試料をHe気流中で600℃の温度に10分間保持するというものである。次いで、モデルガス(NO;5000ppm,O;5%,残He)を100mL/分の流量で流しながら、ガス温度を室温から600℃まで上昇させ、その間に吸着されたNO成分量を算出して、NO吸着量とした。
【0072】
−NH吸着量の測定−
実施例材料A、比較例材料A−1及び比較例材料A−2、並びに実施例材料B、比較例材料B−1及び比較例材料B−2各々を0.05g秤量して、それぞれガス流通反応装置及びガス分析装置を用いて、NO吸着量の測定の場合と同じプリコンディショニングを行なった後、NH吸着量を測定した。
【0073】
NH吸着量の測定にあたっては、モデルガス(NH;2%,残He)を温度100℃、100mL/分の流量で流してNHを試料に吸着させ、次いで、NH濃度0%のHeガスに切り換えて、100℃から600℃まで、10℃/分の速度で昇温し、このときに、試料を通過したガス中に含まれるNH量を算出してNH吸着量とした。
【0074】
−結果−
NO吸着量の測定結果を図26に、NH吸着量の測定結果を図27に示す。
【0075】
ゼオライト系触媒材をみると、NO吸着量は、酸化鉄ゾルを採用した実施例材料Aでは70×10−5mol/g以上あるのに対して、硝酸第二鉄を採用した比較例材料A−1及びアルミナゾルを採用した比較例材料A−2ではNOの吸着量が極めて少ない。また、NH吸着量に関しても、実施例材料Aが比較例材料A−1及び比較例材料A−2よりも格段に多い。実施例材料AではNH吸着量が極めて多いのが特徴的である。これは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子がゼオライトの固体酸性を強くしたためと考えられる。また、実施例材料AのNO吸着量が多いのは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子がNOの吸着に関与しているためと考えられる。
【0076】
Ce含有酸化物系触媒材をみると、酸化鉄ゾルを採用した実施例材料BではNO吸着量が110×10−5mol/g以上あるのに対して、比較例材料B−1及び比較例材料B−2ではNO吸着量が極めて少ない。NH吸着量は、実施例材料B、比較例材料B−1及び比較例材料B−2のいずれもゼオライト系触媒材に比べると少ないが、それでも実施例材料Bの方が比較例材料B−1及び比較例材料B−2よりも多い。実施例材料BのNO吸着量が顕著に多いのは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子がCe含有酸化物の塩基性を強くしたためと考えられる。また、実施例材料BのNH吸着量が多いは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子がNHの吸着に関与しているためと考えられる。
【0077】
<NOx浄化性能>
次の実施例1,2及び比較例1,2,3の各触媒を調製し、NOx選択還元性能を評価した。
【0078】
−実施例1−
CeZr複合酸化物粉末(CeO:ZrO=90:10(質量比))と、γ−アルミナ粉末とを混合し、これにジニトロジアンミン白金硝酸溶液及び硝酸ロジウム溶液を添加して混合し、蒸発乾固後、乾燥(150℃の温度に2時間保持)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持を行なうことにより、第一触媒層用の触媒粉末を得た。この触媒粉末にバインダとしてのアルミナゾル及びイオン交換水を混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを担体にコーティングし、乾燥(150℃の温度に2時間保持)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なった。以上により、担体上に第一触媒層を形成した。
【0079】
次にβゼオライト粉末にバインダとしての上記酸化鉄ゾル及びイオン交換水を混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを上記担体の第一触媒層の上にコーティングし、乾燥(150℃の温度に2時間保持)及び焼成(大気中において500℃の温度に2時間保持)を行なった。以上により、上記第一触媒層の上に第二触媒層を形成した。
【0080】
当該触媒は、第一触媒層のCeZr複合酸化物担持量が120g/L、γ−アルミナ担持量が120g/L、Pt担持量が2g/L、Rh担持量が0.3g/L、アルミナゾルによるアルミナ担持量が24g/Lである。また、第二触媒層のゼオライト担持量は40g/L、酸化鉄ゾルによる酸化鉄担持量は10g/Lである。なお、各担持量は上記焼成後における上記担体1L当たりの各成分の量である。また、担体としては、セル壁厚さ4mil(10.16×10−2mm)、1平方インチ(645.16mm)当たりのセル数400のコージェライト製ハニカム担体(容量55mL)を採用した。
【0081】
−比較例1−
第二触媒層の形成において、酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用する他は、実施例1と同じ条件で比較例1に係る触媒を調製した。硝酸第二鉄による酸化鉄担持量は10g/Lである。
【0082】
−比較例2−
第二触媒層の形成において、酸化鉄ゾルに代えてアルミナゾルを採用する他は、実施例と同じ条件で比較例2に係る触媒を調製した。アルミナゾルによるアルミナ担持量は10g/Lである。
【0083】
−実施例2−
第一触媒層の形成において、アルミナゾルに代えて酸化鉄ゾルを採用し、第二触媒層の形成において、酸化鉄ゾルに代えてアルミナゾルを採用する他は、実施例1と同じ条件で実施例2に係る触媒を調製した。第一触媒層の酸化鉄ゾルによる酸化鉄担持量は24g/L、第二触媒層のアルミナゾルによるアルミナ担持量は10g/Lである。
【0084】
−比較例3−
第一触媒層の形成において、酸化鉄ゾルに代えて硝酸第二鉄水溶液を採用する他は、実施例2と同じ条件で比較例3に係る触媒を調製した。硝酸第二鉄による酸化鉄担持量は24g/Lである。
【0085】
−リーンNOx浄化性能評価−
上記実施例1,2及び比較例1,2,3の各触媒について、750℃の大気雰囲気に20時間保持するエージングを行なった後、モデルガス流通反応装置及び排気ガス分析装置を用いてリーンNOx浄化性能を調べた。すなわち、リーン(A/F=22)のモデル排気ガスを60秒間流し、次にガス組成をリッチ(A/F=14.5)のモデル排気ガスに切り換えてこれを60秒間流す、というサイクルを数回繰り返した後、ガス組成をリッチからリーンに切り換えた時点から60秒間のNOx浄化率(リーンNOx浄化率)を測定した。リーンモデル排気ガス及びリッチのモデル排気ガスの組成は表3に示すとおりであり、空間速度は35000/hとした。
【0086】
【表3】

【0087】
触媒入口ガス温度170℃及び240℃でのリーンNOx浄化率を図28に示す。
【0088】
まず、第二触媒層のバインダ種を変えた実施例1及び比較例1,2について検討すると、バインダとして酸化鉄ゾルを採用した実施例1は、170℃及び240℃のいずれにおいても、比較例1,2よりもNOx浄化率が高い。これは、微細酸化鉄粒子とゼオライトとの接触によって第二触媒層のNH吸着能及びNO吸着能が高くなったためと認められる(図26,27参照)。
【0089】
すなわち、NOx浄化の基本パターンは、次のとおりである。
A.リーン時に排気ガス中のNOが第一触媒層のCeZr複合酸化物粒子に吸着される。
B.リッチになったときに、上記吸着NOが排気ガス中のHC及びCOによってNHに還元されて第二触媒層のゼオライト粒子に吸着される。
C.次にリーンになったときに、ゼオライト粒子に吸着されているNHによって排気ガス中のNOが還元浄化される。
【0090】
上記基本パターンにおいて、実施例1の場合は、第二触媒層のNH吸着能及びNO吸着能が高くなったことにより、上記Aにおいては第二触媒層にもNOが吸着され、未浄化のまま排出されるNOが少なくなった、上記BにおけるNHの吸着量が増え、上記CにおけるNHによるNOの還元浄化率が高まった、と考えられる。また、上記BにおけるNHの吸着量が増えたことにより、このNHが抜けてしまう(NOの還元に利用されずに排出されてしまう)量も少なくなる。
【0091】
比較例1は、実施例1と同じく、酸化鉄粒子が第二触媒層に分散しているものの、酸化鉄を含有しない比較例2よりも性能が悪くなっている。比較例1の場合、その酸化鉄粒子は硝酸第二鉄によるものであって、その粒径が大きいことから、ゼオライトのNH吸着能を高めるに至らず、かえって、酸化鉄粒子がゼオライトの構造破壊ないし比表面積低下を招き、性能が悪くなったものと考えられる。
【0092】
以上から、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子を第二触媒層に分散させると、NOx浄化に関する触媒の低温活性が高くなること、そして、NHの排出が抑制されることがわかる。
【0093】
次に、第一触媒層のバインダ種を変えた実施例2及び比較例3について検討すると、バインダとして酸化鉄ゾルを採用した実施例2は、170℃及び240℃のいずれにおいても、比較例3よりもNOx浄化率が高い。これは、微細酸化鉄粒子とCeZr複合酸化物粒子との接触によって第一触媒層のNO吸着能が高くなったためと認められる(図26参照)。
【0094】
すなわち、上記基本パターンのAにおいて、第一触媒層のCeZr複合酸化物粒子に吸着されるNO量が多くなり、未浄化のまま排出されるNOが少なくなったと考えられる。また、微細酸化鉄粒子とCeZr複合酸化物粒子との接触によって第一触媒層のNH吸着量も多くなるため(図27参照)、NHの抜け量も少なくなり、そのことも、実施例2のNOx浄化率に寄与していると考えられる。
【0095】
比較例3は、実施例2と同じく、酸化鉄粒子が第一触媒層に分散しているものの、その酸化鉄粒子は硝酸第二鉄によるものであって、その粒径が大きいことから、CeZr複合酸化物粒子のNO吸着能を高めるに至らず、かえって、酸化鉄粒子がCeZr複合酸化物粒子の比表面積低下を招いていると考えられる。
【0096】
以上から、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子を第一触媒層に分散させると、NOx浄化に関する触媒の低温活性が高くなること、そして、NHの排出が抑制されることがわかる。
【0097】
−耐硫黄被毒性、硫黄被毒からの回復性−
上記実施例1,2及び比較例1,2,3の各触媒について、上記エージング→硫黄被毒処理→還元処理(硫黄被毒からの回復処理)を順に行ない、該エージング後、硫黄被毒後及び還元処理後各々の触媒入口ガス温度350℃でのリーンNOx浄化率を測定した。
【0098】
硫黄被毒処理は、触媒にN100%ガスを流通させながら、300℃まで昇温して同温度に保持し、次いで同温度でSO=100ppm,O=10%,残Nの硫黄被毒用ガスに切り替えてこれを1時間流通させ(SV=35000/h)、その後N100%ガスに切り替えて室温まで温度を下げる、というものである。還元処理は、触媒にA/F=14相当のリッチモデル排気ガスを流通させながら(SV=80000/h)、30℃/分で600℃まで昇温させ、その温度に10分間保持した後、N100%ガスに切り替えて室温まで温度を下げるというものである。
【0099】
結果を図29に示す。硫黄被毒処理によるリーンNOx浄化率の低下度合いが、実施例1は比較例1,2に比べて小さく、実施例2は比較例3に比べて小さい。これは、酸化鉄ゾルによる微細酸化鉄粒子が硫黄成分SOを吸着し、ゼオライト粒子、CeZr複合酸化物粒子、或いは触媒金属の硫黄被毒を抑制したためと考えられる。そうして、実施例1,2では、還元処理により、リーンNOx浄化率が硫黄被毒前の値まで略完全に回復しており、還元処理を適宜行なうことにより、触媒を長期間にわたって使用することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明に係る排気ガス浄化用触媒を模式的に示す断面図である。
【図2】同触媒の第一触媒層を模式的に示す断面図である。
【図3】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のSTEM像図である。
【図4】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図5】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図6】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図7】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のSTEM像図である。
【図8】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図9】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図10】酸化鉄ゾルを用いた触媒材のエージング後のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図11】酸化鉄ゾル乾燥品、触媒材(焼成品)及び触媒材エージング品各々のX線回折チャート図である。
【図12】硝酸第二鉄を用いた触媒材のSTEM像図である。
【図13】硝酸第二鉄を用いた触媒材のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図14】硝酸第二鉄を用いた触媒材のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図15】硝酸第二鉄を用いた触媒材のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図16】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のSTEM像図である。
【図17】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のFe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図18】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のZr原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図19】硝酸第二鉄を用いた触媒材のエージング後のCe原子相対濃度分布のマッピング図である。
【図20】酸素吸蔵放出量測定装置の構成図である。
【図21】酸素吸蔵放出量の測定における触媒前後のA/F及び触媒前後のA/F差の経時変化を示すグラフ図である。
【図22】酸素吸蔵放出量の測定における触媒前後のA/F差の経時変化を示すグラフ図である。
【図23】各触媒サンプルのフレッシュ時における酸素放出量の温度による変化を示すグラフ図である。
【図24】各触媒サンプルのエージング後における酸素放出量の温度による変化を示すグラフ図である。
【図25】各触媒サンプルのエージング後の酸素放出量を示すグラフ図である。
【図26】実施例材料及び比較例材料のNOx吸着能を示すグラフ図である。
【図27】実施例材料及び比較例材料のNH吸着能を示すグラフ図である。
【図28】実施例及び比較例のリーンNOx浄化率を示すグラフ図である。
【図29】実施例及び比較例のエージング後、硫黄被毒後及び還元処理後のリーンNOx浄化率を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0101】
1 セル壁
2 第一触媒層
3 第二触媒層
4 Ce含有酸化物粒子
5 アルミナ粒子
6 触媒金属
7 バインダ粒子(微細酸化鉄粒子)
8 ポア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体上に、触媒金属とNOx吸着材と高比表面積耐熱性酸化物粒子とを含有する第一触媒層と、NH吸着材を含有する第二触媒層とが、第二触媒層が第一触媒層よりも上層となるように層状に形成されている排気ガス浄化用触媒であって、
上記第一触媒層及び第二触媒層の少なくとも一方には、酸化鉄粒子が多数分散して含まれ、その少なくとも一部の酸化鉄粒子は粒径が300nm以下の微細酸化鉄粒子であって上記第一触媒層のNOx吸着材又は上記第二触媒層のNH吸着材に接触しており、電子顕微鏡観察において、当該微細酸化鉄粒子の酸化鉄粒子総面積に占める面積比率が30%以上であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
請求項1において、
上記NOx吸着材は希土類金属系酸化物であり、上記NH吸着材はゼオライトであることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記微細酸化鉄粒子は、上記第一触媒層又は第二触媒層においてバインダの少なくとも一部を構成していることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記微細酸化鉄粒子の少なくとも一部はヘマタイトであることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記微細酸化鉄粒子は、マグヘマイト、ゲータイト及びウスタイトがコロイド粒子として分散したゾルを原料とすることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
排気ガスが酸素過剰状態にあるときに該排気ガス中のNOxを上記第一触媒層のNOx吸着材に吸着させ、上記排気ガスが酸素不足状態になったときに上記NOx吸着材に吸着されたNOxを排気ガス中の還元成分によりNHに変換させて上記第二触媒層のNH吸着材に吸着させ、該NHによりNOxを還元浄化するNOx浄化触媒として用いられることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図11】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−285621(P2009−285621A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143521(P2008−143521)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】