説明

排気ガス浄化装置

【課題】NOx浄化率が向上するとともに、炭化水素の多孔体坦体への付着による触媒の被覆が低減され、触媒活性の長寿命化を図ることができる。
【解決手段】この発明に係る排気ガス浄化装置は、内燃機関1の排気管8に設けられ、排気ガス中に高電圧を印加することでプラズマを生成して排気ガス中の有害成分及び有害成分との反応成分をそれぞれ活性化するプラズマ処理装置21と、このプラズマ処理装置21の下流の排気管8に充填され、活性化された有害成分と反応成分とを反応させて排気ガスを浄化する浄化処理体28とを備えた排気ガス処理装置において、浄化処理体28は、多孔体担体に銀(Ag)触媒及び五酸化バナジウム触媒が担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関から排気される排気ガス中の有害成分を清浄化する排気ガス浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンエンジン自動車のリーンバーン運転時において、酸素過剰雰囲気下の排気ガスの窒素酸化物(NOx)を浄化する排気ガス処理装置として、排気通路内にプラズマ処理装置を挿入し、このプラズマ処理装置の下流側の排気通路内に、多孔体担体に銀(Ag)を担持した浄化処理体を充填したものが知られている。(例えば特許文献1)。
【0003】
この排気ガス処理装置におけるプラズマ処理装置は、一対の放電電極を備えており、この放電電極の間を排気ガスが通過する構造となっており、この排気ガスを放電プラズマ処理することで、排気ガスは次のような放電化学反応の作用を受ける。
先ず、排気ガス中の酸素分子や水分子が放電されると次のような解離が生じる。
→2O
O→H+OH
このOとOHは有害ガスである炭化水素(HC)や一酸化窒素(NO)と反応して、次式に示すように、最終的にホルムアルデヒドやアセトアルデヒド、二酸化窒素(NO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、水(HO)が生じる。
HC+O(またはOH)→ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、CO、CO、H
NO+O→NO
【0004】
この放電化学反応で発生したアルデヒド類やCOは還元性ガスであり、NOは酸化性ガスである。この反応性の高い、還元性ガス及び酸化性ガスを次段の浄化処理体に通すと、触媒表面で還元性ガスと酸化性ガスとが次式に示すように反応して、窒素(N)、二酸化炭素(CO)及び水(HO)が生成される。
アルデヒド類(またはCO)+NO→N、CO、HO(触媒表面)
このように、酸素が含まれる排気ガスを放電プラズマ処理して、排気ガス中の有害ガスを、反応性の高い、還元性ガス及び酸化性ガスに転化し、さらに触媒を用いることで排気ガスは清浄化される。
【0005】
しかしながら、NOx還元剤であるアルデヒド類の元の炭化水素HCは多孔体坦体の表面や細孔中に析出(コーキング)し、活性点を被覆することにより触媒性能が低下するという問題点があった。
これに対しては、特許文献2に示すように、NOx選択還元触媒層に銀よりも酸化能の高いニッケルを適量担持し、それによって炭化水素を酸化させて炭化水素量を適量に低減させることによって、炭化水素のコーキングを防止し、NOx浄化率の低下を防ぐ排気ガス処理装置が提案されている。
【0006】
また、特許文献3に示すように、多孔体坦体であるγ−アルミナ上に設けられたNOx選択還元層触媒層にマグネシウムを添加することによって、γ−アルミナの酸点量を低減させることによって炭化水素のコーキングを防止し、NOx浄化率低下を防ぐ排気ガス処理装置も提案されている。
即ち、酸点は陽電荷が局在し電子対を引き寄せることができるγ−アルミナの部位であり、マグネシウムの添加によりγ−アルミナの酸点量が低減するので、炭化水素がγ−アルミナに引き寄せられて付着する量が低減され、γ−アルミナの表面や細孔中にコーキングする量は低減される。
【0007】
【特許文献1】特開2002−210366号公報(第2頁第2行〜第3行、図1)
【特許文献2】特開2004−283823号公報(第2頁第3行〜第8行、図3)
【特許文献3】特開2004−306019号公報(第2頁第3行〜第8行、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2では、ニッケルを適量添加して炭化水素種を酸化(燃焼)させることによって多孔体坦体の表面や細孔中に付着する炭化水素種の量を低減させ、炭化水素のコーキングを防止し、NOx浄化率の低下を防いでいる。
しかしながら、浄化処理体に到達する排気ガス中に含まれる炭化水素は反応性において多様な成分が混合しており、また上流のプラズマ処理装置において生成されたNOx浄化反応のために有効なアルデヒド類のような含酸素化合物を含んでいる。
従って、ニッケルを添加した酸化触媒によってこれらアルデヒド類や反応性の高い低級炭化水素種を優先的に酸化(燃焼)してしまい、残された炭化水素種は、より反応性の低い芳香族炭化水素や高級炭化水素となり、NOx浄化反応のための有効な還元剤ではなく、リーンバーン運転時の酸素過剰下でのNOx浄化率の低下を防ぐにとどまっていた。
【0009】
また、上記特許文献3では、マグネシウムを添加して多孔体坦体の酸点度を低減させることで、還元種の吸着力を低下させ多孔体担体への炭化水素の付着量を防ぎ、炭化水素のコーキング量を低減することができるものの、触媒表面上でのNOx浄化反応は、触媒表面に吸着した還元剤とNOxとの反応であるため、還元剤を吸着させる酸点の量の低減は、反応に供する還元剤量を低減させることになり、特許文献2のものと同様に、NOx浄化率の低下を防ぐにとどまっていた。
【0010】
この発明は、上記のような問題点を解決することを課題とするものであって、NOxとの反応率を向上させることができるとともに、触媒活性の長寿命化を図ることができる排気ガス浄化装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る排気ガス浄化装置は、内燃機関の排気ガス流路に設けられ、排気ガス中に高電圧を印加することでプラズマを生成して前記排気ガス中の有害成分及び有害成分との反応成分をそれぞれ活性化するプラズマ処理装置と、このプラズマ処理装置またはこの下流の前記排気ガス流路に設けられ、活性化された前記有害成分と前記反応成分とを反応させて排気ガスを浄化する浄化処理体とを備えた排気ガス処理装置において、前記浄化処理体は、多孔体担体に銀(Ag)触媒及び酸素付加能を有する酸化物触媒が担持されている。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る排気ガス浄化装置によれば、NOxとの反応率が向上するとともに、触媒活性の長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態の排気ガス浄化装置について図に基づいて説明するが、各図において同一、または相当部材、部位については、同一符号を付して説明する。
【0014】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係わる排気ガス処理装置が組み込まれた多気筒内燃機関1を示す断面図である。なお、図1では多気筒内燃機関1の一気筒分だけを示している。
この発明に係わる自動車用の内燃機関1では、シリンダ2内を往復動作するとともにシリンダ2内で燃焼室4を形成するピストン3が設けられている。このピストン3には、コネクティングロッド5を介してクランクシャフト6が連結されており、このクランクシャフト6の回転駆動により、ピストン3は往復運動する。燃焼室4には、吸気管7と排気管8とが通じており、吸気管7の内部には、燃焼室4内に吸入される空気量を回転して制御するスロットルバルブ9が設けられている。
また、シリンダ2の頭部には、先端部が燃焼室4内に指向し燃料を燃焼室4内に供給する燃料噴射インジェクタ10が設けられ、また燃焼室4内の混合気に点火する点火プラグ11が設けられている。燃料噴射インジェクタ10及び点火プラグ11は、エンジン制御コントローラ12と接続されており、このエンジン制御コントローラ12からの信号により、燃料噴射インジェクタ10及び点火プラグ11の作動は制御される。
【0015】
上記構成の内燃機関1では、リーンバーン運転により、吸気管7を通じて吸入される吸入空気は、燃焼室4に過多に導入され、燃料噴射インジェクタ10から供給された燃料と混合され、燃焼室4では混合気を形成する。この混合気は、点火プラグ11によって点火され、燃焼する。この燃焼した混合気は、排気ガスとして排気管8を通じて外に排気される。
【0016】
この発明の実施の形態1に係わる排気ガス処理装置20は、排気管8の上流に設けられ内燃機関1から送られてくる排気ガス中に高電圧を印加するプラズマ処理装置21と、このプラズマ処理装置21で活性化された、排気ガス中の有害成分及び有害成分と反応する反応成分を反応させて排気ガスを浄化する浄化処理体28とを備えている。
【0017】
プラズマ処理装置21には、プラズマ処理装置21に高電圧を供給する高電圧電源22が接続されている。吸気管7内には、吸入される吸入空気量を計測する吸入空気量センサ23が設けられている。排気管8内のプラズマ処理装置21の上流には、排気ガス中の空気と燃料との質量比で表わされる空燃比を検出する空燃比センサ24が設けられている。排気管8内のプラズマ処理装置21の下流には、排気ガスの排気ガス温度を計測する排気ガス温度センサ25が設けられている。クランクシャフト6の近傍には、クランクシャフト6の回転速度を検出するクランク角センサ26が設けられている。
このクランク角センサ26、吸入空気量センサ23、排気ガス温度センサ25及び空燃比センサ24は、プラズマ生成制御装置27に接続されている。このプラズマ生成制御装置27は、CPU、ROM、RAM、インタフェース回路を有するコンピュータで構成されており、クランクシャフト6の回転速度、吸気管7内に吸入される吸入空気量、排気ガスの排気ガス温度、排気ガス中の空気と燃料との質量比に基づいて、高電圧電源22を制御してプラズマ処理装置21のプラズマ処理条件を調整している。
【0018】
上記浄化処理体28は、例えばハニカムセラミック基材上に、多孔体担体であるγ−アルミナが設けられ、この粒状のγ−アルミナに銀(Ag)触媒と酸素付加能を有する酸化物触媒である五酸化バナジウム(V)とが担持されている。
有害物質としては、例えば、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)などであり、プラズマ中の窒素酸化物は窒素ガスと酸素ガスに分離されて浄化され、プラズマ中の一酸化炭素や炭化水素は酸素と反応して二酸化炭素ガスや水となって浄化される。
【0019】
上記構成の浄化処理体28によれば、内燃機関1から排出された排気ガス中のNO、一部の炭化水素種は、プラズマ処理装置21ではNOへの酸化反応、アルデヒド類への酸化反応が生じる。
その後、浄化処理体28のγ−アルミナの酸点上に吸着した炭化水素種は、その近傍に配置された酸素付加能を有する五酸化バナジウムによって酸素付加反応を生じ、アルデヒド類や有機酸類やアルコール類などの含酸素化合物が生成される。
これらの含酸素化合物は、上流のプラズマ処理装置21で生成されたアルデヒド類とともにNOx浄化反応のための有効な還元剤として働き、高いNOx浄化率が得られると共に、炭化水素のコーキングによる触媒劣化を防止し長寿命化を図ることができる。
【0020】
この実施の形態では、酸化物触媒として五酸化バナジウムを用いたが、勿論このものに限定されるものではなく、金属酸化物の格子酸素の電気陰性度が下記の範囲の値のものを用いればよい。
即ち、金属酸化物の格子酸素の電気陰性度は、元素の中で最も電気陰性度の高いフッ素(F)の電気陰性度を4.0として相対値で表したポーリングの尺度で示した場合、値が高いものが有機物への酸素付加反応が優先して起こり、低いものほど脱水素反応が優勢となる。金属酸化物の格子酸素の電気陰性度χがχ>2.5の場合は有機物への酸化付加反応が優勢となることから、コーキングの原因となり易い脱水素化された有機成分をより生成しにくくなるために適している。
また、χ<3.5の場合に、固体酸化物がより安定に存在することができるために、触媒材料として適していることから、2.5<χ<3.5であることが望ましい。
特に、五酸化バナジウムは、炭化水素類の中でも反応性が低くプラズマ処理装置21によって含酸素化合物への変換が困難である芳香族を酸化することができるため、酸素付加能を有する酸化物触媒として適している。
【0021】
図2はリーンバーンエンジンの定常運転によって排出されたNOxの浄化率の経時変化を、多孔体坦体であるγ−アルミナに銀触媒を担持した、Ag/γ−アルミナ触媒と用いた場合と、γ−アルミナに銀触媒及び五酸化バナジウムを担持した、(V+Ag)/γ−アルミナ触媒を用いた場合とを比較した図である。
本願発明者が実験により求めた図2から、(V+Ag)/γ−アルミナ触媒の方が、五酸化バナジウムの効果によって、NOx浄化率が高く、また時間の経過に伴うNOx浄化率の低下も低いことが分かった。
【0022】
なお、上記実施の形態では、浄化処理体28は、図3(a)に示すように、ハニカムセラミック基材に、多孔体担体である粒状のγ−アルミナが設けられており、この上に銀触媒及び五酸化バナジウム触媒が担持されているが、図3(b)に示すように、浄化処理体28は、基材上のγ−アルミナに五酸化バナジウム触媒を担持した第1の浄化処理部28aと、この下流に設けられ基材上のγ−アルミナに銀触媒を担持した第2の浄化処理部28bとから構成するようにしてもよい。
このものの場合、NOx浄化反応に先だって、第1の浄化処理部28aで含酸素化合物への変換が起こり、この含酸素化合物は、第2の浄化処理部28bに供給されるので、第2の浄化処理部28bでは、十分な還元性ガスが供給され、高い浄化率でNOxは浄化される。
また、図3(c)に示すように、浄化処理体28は、基材上に五酸化バナジウム触媒を担持した第1の浄化処理部28aと、この下流に別個に設けられ基材上のγ−アルミナに銀触媒を担持した第2の浄化処理部28bとから構成するようにしてもよい。
このものの場合、第1の浄化処理部28aと第2の浄化処理部28bとを別々に製造することができるので、浄化処理体28の製造工程は簡単化される。
【0023】
また、図4に示すように、プラズマ処理装置21内に、複数の粒状の集合体である浄化処理体28を充填してよい。
このものの場合、プラズマ処理装置21の円筒形状の外管に面接触した接地電極と、外管と同軸上に設けられた高電圧電極との間に、交流高電圧またはパルス状高電圧を印加することで、高電圧電極と外管との間の空間にプラズマが発生するが、排気ガスは、この雰囲気内で浄化処理体28と接触することで、排気ガスは短時間で清浄化処理される。
【0024】
また、この実施の形態の排気ガス浄化装置は、ガソリンエンジン自動車に組み込まれ、リーンバーン運転時の酸素量過多の混合気の燃焼により排気される排気ガスの有害成分を清浄化する場合について説明したが、このものに限定されるものではなく、ディーゼルエンジン自動車にも適用できる。
また、自動車用以外にも、例えば船舶エンジンから排気される排気ガスの有害成分を清浄化するものにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施の形態1に係わる排気ガス処理装置が組み込まれた内燃機関を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1による排気ガス浄化装置を用いたい場合のNOx浄化率の経時変化を示す図である。
【図3】(a)はこの発明の実施の形態1の浄化処理体の模式図、(b)、(c)は浄化処理体の変形例を示す模式図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係わる排気ガス処理装置の変形例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0026】
1 内燃機関、 2 シリンダ、 3 ピストン、 4 燃焼室、5 コネクティングロッド、6 クランクシャフト、7 吸気管、8 排気管、9 スロットルバルブ、10 燃料噴射インジェクタ、11 点火プラグ、12 エンジン制御コントローラ、 20 排気ガス処理装置、21 プラズマ処理装置、22 高電圧電源、23 吸入空気量センサ、24 空燃比センサ、25 温度センサ、26 クランク角センサ、27 プラズマ生成制御装置、28 浄化処理体、28a 第1の浄化処理部、28b 第2の浄化処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気ガス流路に設けられ、排気ガス中に高電圧を印加することでプラズマを生成して前記排気ガス中の有害成分及び有害成分との反応成分をそれぞれ活性化するプラズマ処理装置と、
このプラズマ処理装置またはこの下流の前記排気ガス流路に設けられ、活性化された前記有害成分と前記反応成分とを反応させて排気ガスを浄化する浄化処理体とを備えた排気ガス処理装置において、
前記浄化処理体は、多孔体担体に銀(Ag)触媒及び酸素付加能を有する酸化物触媒が担持されていることを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項2】
前記酸化物触媒は、金属酸化物の格子酸素の電気陰性度が2.5<χ<3.5であることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス浄化装置。
【請求項3】
前記浄化処理体は、前記酸化物触媒と、この下流に設けられた前記銀触媒とを備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の排気ガス浄化装置。
【請求項4】
前記浄化処理体は、前記酸化物触媒を有する第1の浄化処理部と、この第1の浄化処理部の下流に個別に設けられた前記銀触媒を有する第2の浄化処理部とから構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の排気ガス浄化装置。
【請求項5】
前記酸化物触媒は、五酸化バナジウム(V)であることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の排気ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−223671(P2008−223671A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65095(P2007−65095)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】