説明

排水の活性汚泥処理方法

【課題】廃プラスチック、シュレッダーダスト等の可燃性廃棄物の熱分解に伴い発生するガスの洗浄排水を、活性汚泥を使用して処理する技術を提供する。
【解決手段】可燃性廃棄物の熱分解により発生する熱分解ガスを水で洗浄し、得られる洗浄後の排水を、水相とタール及び油分の相とに比重分離し、前記水相を比重分離水として回収し、当該比重分離水のpHを8以上12以下に調整して比重分離水に含まれる重金属を沈澱分離して除去し、得られる沈殿分離後の水を活性汚泥処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可燃性廃棄物を熱分解してガス化した後の処理方法に関し、特に、熱分解ガスの洗浄等で発生する排水の活性汚泥処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチック、シュレッダーダスト、都市ゴミ、廃建材、廃木材、刈草、食品廃棄物、含油スラッジ、タールなどの可燃性廃棄物を熱分解してガス化する処理では、ガス精製のために、ガスを水で洗浄する湿式洗浄が有効である。水で洗浄することにより、ガス温度は冷却され、高温でガス化していた成分のうち一部の物質は凝縮して液化あるいは固化して洗浄水の排水中に取り込まれることになる。また、シュレッダーダストなどの可燃性廃棄物には塩化ビニルなどが含まれる場合があり、この場合は、熱分解で発生するガスには多量の塩素が主にHClの形で含まれることになる。塩素はダイオキシンやPCBなどの有害な有機塩素化物を形成させる恐れがある元素であるため、熱分解ガスに含まれる塩素を安全に無害化して除去することが望まれる。
【0003】
また、自動車シュレッダーダストのように可燃性廃棄物に金属が混入してしまっている場合には、金属を含む粉じんなども洗浄水の排水中に取り込まれることになる。このような熱分解ガスから洗浄排水へ移行する物質のうち、一部は環境負荷性あるいは生物毒性を持つ可能性があることが懸念される。
【0004】
活性汚泥による排水処理は、常温常圧で微生物の作用によりCOD原因物質の分解など、水質浄化作用があり、安全、低コスト、且つ環境負荷を低減可能な有用な技術である。しかし、熱分解ガスから持ち込まれる有害物質が、活性汚泥微生物に悪影響を及ぼして活性汚泥による処理を困難にする課題があり、廃プラスチックやシュレッダーダストの熱分解ガスの洗浄排水等の処理には、活性汚泥を活用する技術が殆ど確立されていないのが現状である。現在、廃プラスチック、シュレッダーダスト等の可燃性廃棄物の熱分解に伴い発生する排水の処理方法には確立されたものがほとんどない状況である。
【0005】
例えば、特許文献1には、廃プラスチックを熱分解する際、発生する排ガスの洗浄排水について、その中に含まれるCOD成分、ノルマルヘキサン抽出成分、疎水性混濁成分の除去方法について開示されている。本文献によると、ブロワから空気を供給する曝気によりCOD成分を酸化すると共に、ノルマルヘキサン抽出成分や疎水性混濁成分は、曝気により微細気泡表面に付着浮上させた後、硫酸を加えて弱酸性にpH調整後、硫酸第一鉄を加えて、残存する疎水性混濁成分をミクロフロック化した後、アルカリを加えてpH調整し、高分子凝集助剤を加えて、ミクロフロック化した疎水性混濁成分を凝集沈澱により分離し、残存するノルマルヘキサン抽出成分、COD成分は、活性炭に吸着させるという内容であり、活性汚泥は用いられていない。
【0006】
また、特許文献2には、廃プラスチック等の廃棄物の熱分解により発生する油分を含む熱分解ガスの精製法が開示されている。本文献には熱分解ガスの洗浄液として水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることにより、熱分解ガス中に含まれる塩化水素を中和して除去できることが開示されている。さらに、油水分離槽で低沸点の油と水を分離することにより、低沸点の油は回収油として再利用でき、水は排水処理設備へ送って処理することが開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、塩素含有廃プラスチックをコークス炉で石炭と共に乾留する際に発生する熱分解ガスに含まれる塩素を、同じくコークス炉で発生する安水と接触させることで、塩素を塩化アンモニウムとして安水中に取り込む方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2000−70995号公報
【特許文献2】特開平9−279171号公報
【特許文献3】特開2001−123180号公報
【特許文献4】特開2000−328071号公報
【特許文献5】特開2005−114197号公報
【非特許文献1】用水廃水便覧(用水廃水便覧編集委員会編) (1973)(丸善)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、廃プラスチック等の可燃性廃棄物を熱分解する際に発生するガスの洗浄等に起因する排水の処理については、さまざまな技術があるものの、以下の課題が存在する。
【0010】
例えば、特許文献1では、ノルマルヘキサン抽出成分、COD成分を活性炭に吸着させると、これらが吸着した活性炭の廃棄、あるいは再生に新たな処理が必要となる。ノルマルヘキサン抽出成分、COD成分は分解除去されることが望ましい。
【0011】
また、特許文献2では、熱分解ガスの精製後の排水は排水処理設備へ送って処理すると記載されているものの、具体的な排水処理方法が全く示されておらず不明である。活性汚泥処理する等の記載すらない。
【0012】
特許文献3は、熱分解ガスに含まれる塩素を安水と接触させて、塩素を塩化アンモニウムとして安水中に取り込むことは記載されているものの、その後の処理として活性汚泥を利用する記載は全く無い。
【0013】
ここで、活性汚泥による排水処理は、常温常圧で微生物の作用によりノルマルヘキサン抽出成分、COD成分の分解など、水質浄化作用があり、有用な技術であることは広く知られているところである。
【0014】
しかし、廃プラスチックやシュレッダーダストなど可燃性廃棄物の熱分解で発生するガスの、ガス精製に用いられる、洗浄排水の処理に関しては、活性汚泥による処理はほとんど活用されていない。この理由として、可燃性廃棄物の熱分解ガスには活性汚泥の微生物に有害な影響を及ぼす物質が多種類含まれており、活性汚泥による処理が困難であることが挙げられる。プラスチック、シュレッダーダスト等の可燃性廃棄物の熱分解に伴い発生する排水の処理方法には確立されたものがないといえる。
【0015】
そこで本発明が解決しようとする課題は、今まで困難であった、廃プラスチック、シュレッダーダスト等の可燃性廃棄物の熱分解に伴い発生する排水の活性汚泥処理を可能とする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、廃プラスチック、シュレッダーダストなどの可燃性廃棄物の熱分解により発生するガスの洗浄排水に対して、活性汚泥による処理を安定に実施するための方法について鋭意検討した。
【0017】
まず、熱分解ガスの洗浄排水に含まれる有害物質やCOD原因物質に対して、耐性があり、かつ、分解能力がある活性汚泥を検討した。その結果、製鉄所等のコークス炉から発生する安水の主にフェノール類などのCOD原因物質の分解処理に用いられる活性汚泥が、本発明の目的に適当であることを見いだした。また、熱分解ガスには塩素が主にHClとして多量に含まれるが、高濃度のアンモニアを含む安水で熱分解ガスを洗浄することにより、塩素を無害な塩化アンモニウムとして除去、固定化できる。さらに、塩素の除去により、ダイオキシンやPCBなど有害な有機塩素化物の生成を抑制できる。また、ガス化溶融炉などで廃棄物を加熱して、ガスを回収して精製する際、HClが含まれると、装置や配管を腐食させる原因となる。この点において、HClを除去できることで、腐食抑制にも効果があることを見いだした。
【0018】
そこで、活性汚泥に製鉄所のコークス炉から発生する安水を処理する活性汚泥を使用して処理することにより、廃プラスチック、シュレッダーダスト等の可燃性廃棄物の熱分解に伴い発生するガスの洗浄排水を処理する技術を以下のように確立することに成功した。
【0019】
また、廃プラスチック、シュレッダーダスト等の可燃性廃棄物の熱分解に伴い発生する排水中に含有される成分を実際に分析することで精査した。検出された成分の中から活性汚泥処理に悪影響を及ぼす可能性がある各成分ごとに、その活性汚泥微生物への毒性を定量的に評価した。このようにすることで、プラスチック、シュレッダーダスト等の可燃性廃棄物の熱分解に伴い発生する排水中に含有される成分のうち、活性汚泥に悪影響を及ぼす成分を明確化することに成功した。 そこで以下に記すように、これら活性汚泥に悪影響を及ぼす成分に対して、これらの物質の物理化学的な性質を利用して、活性汚泥処理の前に事前にこれら活性汚泥処理に悪影響を及ぼす物質を除去、あるいはこれらの排水中の濃度を低減することにより、活性汚泥で処理することを可能にすることに成功したのである。
(1)可燃性廃棄物の熱分解により発生する熱分解ガスを水で洗浄し、得られる洗浄後の排水を、水相とタール及び油分の相とに比重分離し、前記水相を比重分離水として回収し、当該比重分離水のpHを8以上12以下に調整して比重分離水に含まれる重金属を沈澱分離して除去し、得られる沈殿分離後の水を活性汚泥処理することを特徴とする排水の活性汚泥処理方法。
(2)前記活性汚泥処理が、前記沈殿分離後の水と活性汚泥との混合水に空気を曝気する、標準活性汚泥法であることを特徴とする(1)の排水の活性汚泥処理方法。
(3)前記活性汚泥が、鉄鋼製造工程におけるコークス炉から発生する安水を処理する活性汚泥であることを特徴とする(1)又は(2)の排水の活性汚泥処理方法。
(4)前記熱分解ガスの洗浄に用いる水が、鉄鋼製造工程におけるコークス炉から発生する安水であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかの排水の活性汚泥処理方法。
(5)前記沈澱分離後の水を、更に蒸留又は減圧して蒸散する成分を除去した後、蒸散成分除去後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの排水の活性汚泥処理方法。
(6)前記比重分離水を鉄鋼製造工程におけるコークス炉から発生する安水に混合し、pHを9.5以上12以下に調整して、安水中のアンモニア除去方法であるアンモニアストリッピングを行い、pH調整後の水に含まれる、重金属を沈澱分離して除去すると共に蒸散する成分を除去し、得られる蒸散成分除去後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの排水の活性汚泥処理方法。
(7)前記沈澱分離後の水、又は前記蒸散成分除去後の水を、安水、安水のアンモニアストリッピング処理後の脱安水、海水の少なくともいずれかで希釈し、当該希釈後の水を活性汚泥処理することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかの排水の活性汚泥処理方法。
(8)前記希釈が、2倍希釈以上10000倍希釈以下であることを特徴とする(7)の排水の活性汚泥処理方法。
(9)前記希釈に用いる安水及び脱安水の合計量と海水との比率が、1:1〜1:10であることを特徴とする(7)又は(8)の排水の活性汚泥処理方法。
(10)前記希釈後の水のpHを、6以上9.5以下に調整した後、当該pH調整後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする(7)〜(9)のいずれかの排水の活性汚泥処理方法。
(11)前記熱分解ガスの洗浄後の排水が、シアン、アニリン、ベンゾニトリル、安息香酸、カプトラクタム、フェノール、クロロフェノール、ベンゼン、メチルシクロペンタン、2−メチルフェノール、3−メチルフェノール、4−メチルフェノール、1,2−ベンゼンジオール、5−アミノインドール、2−エテニルベンゾフラン、鉛、亜鉛のうちの1種類又は2種類以上を含む排水であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかの排水の活性汚泥処理方法。
(12)前記活性汚泥処理直前における、前記沈殿処理後の水、前記蒸散成分除去後の水、又は前記希釈後の水の鉛濃度が、1mg/L未満となるように、前記重金属の沈殿分離におけるpH調整、前記希釈における希釈倍率調整の少なくともいずれかの手段にて調整した後、当該調整後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする(1)〜(11)のいずれかの排水の活性汚泥処理方法。
(13)前記活性汚泥処理直前における、前記沈殿処理後の水、前記蒸散成分除去後の水、又は前記希釈後の水の亜鉛濃度が、10mg/L未満となるように、前記重金属の沈殿分離におけるpH調整、前記希釈における希釈倍率調整の少なくともいずれかの手段にて調整した後、当該調整後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする(1)〜(12)のいずれかの排水の活性汚泥処理方法。
(14)前記活性汚泥処理直前における、前記沈殿処理後の水、前記蒸散成分除去後の水、又は前記希釈後の水のシアン濃度が、5mg/L未満となるように、前記蒸留又は減圧における蒸散、前記希釈における希釈倍率調整の少なくともいずれかの手段にて調整した後、当該調整後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする(1)〜(13)のいずれかの排水の活性汚泥処理方法。
(15)前記活性汚泥処理直前における、前記沈殿処理後の水、前記蒸散成分除去後の水、又は前記希釈後の水のベンゾニトリル濃度が、5mg/L未満となるように、前記蒸留又は減圧における蒸散、前記希釈における希釈倍率調整の少なくともいずれかの手段にて調整した後、当該調整後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする(1)〜(14)のいずれかの排水の活性汚泥処理方法。
(16)前記活性汚泥処理直前における、前記沈殿処理後の水、前記蒸散成分除去後の水、又は前記希釈後の水のノルマルヘキサン抽出物質の濃度が、20mg/L未満となるように、前記比重分離におけるタール及び油分の分離、前記蒸留又は減圧における蒸散、前記希釈における希釈倍率調整の少なくともいずれかの手段にて調整した後、当該調整後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする(1)〜(15)のいずれかの排水の活性汚泥処理方法。
(17)前記可燃性廃棄物が、廃プラスチック、シュレッダーダスト、都市ゴミ、廃建材、廃木材、刈草、食品廃棄物、含油スラッジ、タールのうちの1種又は2種以上であることを特徴とする(1)〜(16)のいずれかの排水の活性汚泥処理方法。
【0020】
なお、本発明における「脱安水」とは、鉄鋼製造工程におけるコークス炉から発生する安水のアンモニアストリッピング処理により、アンモニア濃度を減少させた安水のことをいう。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、廃プラスチック、シュレッダーダスト等の可燃性廃棄物の熱分解によるガス化に伴い発生する排水を、活性汚泥処理することが可能となり、また、製鐵所既存の安水処理活性汚泥設備を用いて容易に処理することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施するための形態について、以下詳細に説明する。
【0023】
廃プラスチック、シュレッダーダスト等の可燃性廃棄物を熱分解してガスを発生させることができる。可燃性廃棄物を熱分解してガス化する方法としては、例えば、特許文献4に記述されるように、可燃性の廃棄物を流動層低温ガス化炉と高温ガス化炉を連続して用いてガス化する方法がある。また、特許文献5に記述されるように、可燃性の廃棄物をシャフト炉式ガス化炉で、可燃性の廃棄物の保有する熱量を利用して、廃棄物のガス化と溶融を行うことができる。この場合、1600℃〜2200℃程度の高温で可燃性の廃棄物を熱分解して得られる熱分解ガスに含まれる成分としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、窒素、塩化水素などがある。この他に油分や粉じん、の他、シュッレッダーダストや都市ゴミなどでは鉛、亜鉛、銅などの重金属成分なども含まれる可能性がある。発生したガスに水を接触させることにより、ガスを除塵し、洗浄する。例えば、熱分解ガスをシャワー状の水カーテンの中を通過させる、あるいは熱分解ガスに水をかけてフラッシングする、あるいは熱分解ガスをカラム内の水中をとおすなどの、ガス洗浄方法がある。このように水を用いたガス洗浄を本発明では、湿式洗浄と記述する。このように湿式洗浄により発生する排水にはガスの冷却により発生する凝縮水も含まれる。
【0024】
この排水にはタールや油分が含まれる。タールや油分には脂溶性のダイオキシン類など有害な有機塩素化物などが含まれることが懸念される。そこで、上記排水を、比重分離により水相と、ダイオキシン類などを含む可能性があるタール及び油分の相とに相分離し、水相を比重分離水として回収する。
【0025】
タール及び油分と水相を比重分離する方法としては、例えば上記排水を30分間以上静置することで、容易に水相を、ダイオキシン類などを含む可能性があるタール及び油分の相から分離し、上澄みを比重分離水として回収することができる。また、静置の他にも、遠心分離、デカンタ使用、加圧浮上などによっても、タール及び油分と水相を分離し、比重分離水を回収することができる。
【0026】
上記排水にはタール、油分や脂溶性の有機塩素化物など毒性物質の他、特に自動車のシュレッダーダストなどの可燃性廃棄物では混入した金属も溶解している場合が多い。例えば鉛、亜鉛などの金属が上記排水に含まれる場合、これらは活性汚泥に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0027】
そこで、上記のように比重の差によりダイオキシン類などを含む可能性があるタール及び油分から分離した比重分離水にアルカリ剤を加え、比重分離水をアルカリ性にする。好ましくは、そのpHを8以上pH12以下に調整する。こうすることで、排水に含まれる重金属を沈澱させて分離除去する。例えば、亜鉛は水酸化亜鉛、鉛は酸化鉛として沈澱し、分離除去可能となる。pH8未満では重金属の沈澱が起こりにくく、また、pH12を超えると亜鉛や鉛などの重金属は錯イオンとなって沈澱せず、再溶解してしまう。このため、pH8以上pH12以下に調整することが望ましい。ただし、pH調整のために使用する水酸化ナトリウムなどアルカリ剤のコストがかかり不利になることから、pH8以上pH11以下に調整して実施することがより望ましい。
【0028】
発生する重金属の沈澱と、タール及び油分の混在はそれぞれの再利用に支障となるため、可能であればタール及び油分と分離して回収した比重分離水に対して、上記アルカリ剤の添加によるpH調整をおこなう。そして発生した重金属の沈澱からも水相を分離して回収する。このようにして重金属の沈澱から分離して回収した沈澱後の水は活性汚泥の微生物に悪影響を及ぼす鉛、亜鉛などの重金属の濃度が低減化されるので、他に活性汚泥に悪影響を及ぼす物質を含まない場合には、活性汚泥で処理することが可能となる。
【0029】
ここで用いる活性汚泥としては、コークス炉から発生する安水を処理する活性汚泥を用いることが望ましい。何故ならば、安水処理活性汚泥は通常フェノール類などの芳香族やクレゾールなどの有機塩素化物やシアン化合物を分解処理する機能を有することから、都市下水処理などに用いられる活性汚泥と比較して、これらの活性汚泥に悪影響をおよぼす可能性がある物資に対する耐性とこれらを分解する処理能力が高いからである。
【0030】
尚、この可燃性廃棄物の熱分解により発生するガスの湿式洗浄に用いる水としては、工業用水、水道水、地下水、河川水などの淡水を利用することもできるが、廃プラスチックやシュレッダーダストなどの可燃性廃棄物を熱分解する際、混入している塩化ビニルなどに起因する塩素が、主にHClとして熱分解ガスに含まれることが知られている。塩素は塩素化により容易にダイオキシン類やPCBなどの有機塩素化物を形成し得る元素であることから、前記湿式洗浄において熱分解ガスから塩素を除去できる洗浄水を用いることが望ましい。コークス炉から発生する安水は高濃度のアンモニア態窒素を含む。そこで、湿式洗浄に用いる水として安水を用いれば、熱分解ガスと安水を前記のような方法で接触させることにより、熱分解ガスに含まれる塩素を、式(1)に示すように、無害な塩化アンモニウムとして固定化して除去することが可能となる。
【0031】
HCl + NH4OH → NH4Cl + H2O 式(1)
また、腐食性のHClを除去できることにより、ガス精製装置の腐食を抑制する効果も期待できるのである。
【0032】
尚、安水以外の前記水を、前記熱分解ガスの洗浄に用いる場合は、同様に熱分解ガスに含まれる塩素を除去する目的で、アンモニアを100mg/L以上5000mg/L以下含むように調製した水を用いることがより望ましい。しかし、この場合、アンモニア添加にコストがかかるため、安水を洗浄水に利用することが、コスト的にも有利である。
【0033】
上記のように可燃性廃棄物の中でも主にシュレッダーダストから由来する鉛や亜鉛などの重金属を金属水酸化物沈澱として分離して、回収した沈澱分離後の水は、他に活性汚泥に悪影響を及ぼす物質が含まれない場合には、そのまま活性汚泥処理に供することも可能であるが、前記熱分解ガスの洗浄排水の中には重金属成分以外にも活性汚泥に悪影響を及ぼす主として有機物が含まれていることが多い。
【0034】
上記熱分解ガスの洗浄排水等に含まれる、重金属以外の活性汚泥に悪影響を及ぼす可能性がある成分としては、シアン、アニリン、ベンゾニトリル、安息香酸、カプトラクタム、フェノール、クロロフェノール、ベンゼン、メチルシクロペンタン、2−メチルフェノール、3−メチルフェノール、4−メチルフェノール、1,2−ベンゼンジオール、5−アミノインドール、2−エテニルベンゾフラン、などがある。これらの成分の多くは蒸留又は減圧蒸散により、沈殿分離後の水から取り除くことが可能である。例えば蒸留の場合は、水を10分間以上沸騰させることで、沈殿分離後の水から有害成分を除去可能である。
【0035】
製鉄所などコークス炉から発生する安水を処理する施設では、減圧あるいは蒸留により安水中のアンモニアを蒸散させて取り除く為のアンモニアストリッピング装置がされており、これを本発明において利用可能である。アンモニアストリッピングは、事前に安水に含まれるNH4+として存在するアンモニウム塩を、pH9.5以上のアルカリ性にすることで蒸散しやすいアンモニア分子(NH3)にすることで、アンモニアの気化を促進する工程である。
【0036】
通常、製鉄所のアンモニアストリッピング装置は、安水からのアンモニア除去のため、連続運転されている。したがって、沈澱分離後の水は、この安水と混合して、アンモニアストリッピング処理することが望ましい。
【0037】
そこで本発明では、前述の可燃性廃棄物の熱分解ガスの洗浄等により発生する排水又は当該排水を安水と混合した水に含まれる重金属をアルカリ性にして、重金属を沈澱分離する工程において、上記アンモニアストリッピング装置を利用し、pH調整を9.5以上12以下にして実施することで、重金属を沈殿分離し、アンモニアストリッピングによりアンモニアと排水中に含まれる有害成分の気化による除去と重金属の沈殿分離を、既設設備を用いて低コストで達成することが可能である。ただし、pH調整のために使用する水酸化ナトリウムなどアルカリ剤のコストがかかり不利になることから、より好ましくはpH9.5以上pH11以下に調整して実施することが望ましい。このようにして、安水からのアンモニア除去と可燃性廃棄物の熱分解等に由来する排水からの有害物質除去を両立して効率的に実施することが可能となる。
【0038】
以上のようにして、活性汚泥処理に供する水が得られるが、製鉄所等でコークス炉から発生する安水を処理する目的で用いられる活性汚泥は、海水希釈した安水又は海水希釈した脱安水に馴化しているため、安水に含まれるフェノール類などの、一般的な都市下水処理の活性汚泥では生分解が難しいとされる、芳香環を有する有機化合物の分解に優れており、熱分解ガスの洗浄排水中に含まれる成分の分解にも優れていることが考えられる。
【0039】
また、安水処理活性汚泥は、安水又は脱安水を海水との体積比あるいは流量比で1:1〜1:10の比率で希釈して馴養されている。したがって、本発明においても活性汚泥で処理しようとする水を事前に安水又は脱安水又は海水の少なくともいずれかで希釈することが望ましい。活性汚泥で処理しようとする水を、安水又は脱安水で希釈する場合には、(活性汚泥で処理しようとする水+安水)/活性汚泥で処理しようとする水又は(活性汚泥で処理しようとする水+脱安水)/活性汚泥で処理しようとする水であらわす希釈倍率を2倍以上10000倍以下に希釈することが望ましい。また、活性汚泥で処理しようとする水を、海水で希釈する場合にも、(活性汚泥で処理しようとする水+海水)/活性汚泥で処理しようとする水であらわす希釈倍率を2倍以上10000倍以下に希釈することが望ましい。より好ましくは100倍以下である。
【0040】
安水処理活性汚泥は、通常、海水希釈した安水又は海水希釈した脱安水に馴化しているため、沈殿分離後の水は、安水又は脱安水又は海水で希釈せず、沈澱分離後の水、又は蒸散成分除去後の水を安水活性汚泥で直接処理すると、活性汚泥の微生物に悪影響を与えて、活性汚泥処理が不調になる可能性がある。
【0041】
したがって、安水、脱安水、海水の少なくともいずれかで、少なくとも2倍以上に希釈してから、活性汚泥処理することが望ましい。安水活性汚泥への影響を低減できる観点からは、この希釈倍率は高いほどよいが、あまり希釈倍率が高いと、沈澱後の水又は蒸散成分除去後の水の処理が量的に進みにくくなる。そこで希釈倍率は10000倍以下であることが望ましい。なお、安水又は脱安水と海水を共に用いて希釈することも可能であり、この場合は上記馴養条件の理由から、希釈に用いる安水と脱安水の合計と海水の体積あるいは流量の比率を1:1〜1:10の範囲で用いることが望ましい。尚、希釈には窒素濃度を低減させる目的から、安水よりは脱安水を用いることがより望ましい。
【0042】
尚、活性汚泥で処理するため流入する水、すなわち、前記活性汚泥処理直前における、前記沈殿処理後の水、前記蒸散成分除去後の水、又は前記希釈後の水のpHは、活性汚泥微生物への悪影響を防ぐために、事前にpH6以上pH9.5以下に硫酸、塩酸、あるいは利用できるものがあれば、酸性の廃液を用いて調整することが望ましい。
【0043】
上述のように、廃プラスチック、シュレッダーダストなど可燃性廃棄物の熱分解ガスを湿式洗浄して発生する排水及び熱分解ガスを冷却する事により発生する凝縮水に含まれる活性汚泥に悪影響をおよぼす可能性のある物質として、シアン、アニリン、ベンゾニトリル、安息香酸、カプトラクタム、フェノール、クロロフェノール、ベンゼン、メチルシクロペンタン、2−メチルフェノール、3−メチルフェノール、4−メチルフェノール、1,2−ベンゼンジオール、5−アミノインドール、2−エテニルベンゾフラン、鉛、亜鉛などがある。安水処理活性汚泥は通常フェノール類などの芳香族やクレゾールなどの有機塩素化物やシアン化合物を分解処理する機能を有することから、都市下水処理などに用いられる活性汚泥と比較して、これらの活性汚泥に悪影響をおよぼす可能性がある物資に対する耐性とこれらを分解する処理能力が高いのである。
【0044】
上記物質の中で活性汚泥に悪影響をおよぼす可能性がある鉛については、活性汚泥に流入させる水の鉛濃度が1mg/L未満となるように、前記のpH調整による鉛の沈澱分離による除去、及び、安水又は脱安水や海水を用いた希釈により濃度管理することが望ましい。例えば、活性汚泥処理しようとする水に含有される鉛濃度を監視して、濃度が1mg/L以上となる、あるいはその恐れがある場合は、前記重金属の沈澱分離で、より鉛の沈澱が促進されるようにpH調整して、沈澱後の水の鉛の濃度を低減できる。あるいは、活性汚泥処理する前に行われる、安水又は脱安水又は海水による希釈の希釈倍率を高めることによって、鉛濃度を1mg/L未満にすることが可能である。
【0045】
上記物質の中で活性汚泥に悪影響をおよぼす可能性がある亜鉛については、活性汚泥に流入させる水の亜鉛濃度が10mg/L未満となるように、前記の鉛の場合と同様に、pH調整による亜鉛の沈澱分離による除去、及び、安水又は脱安水や海水を用いた希釈により濃度管理することが可能である。
【0046】
上記物質の中で活性汚泥に悪影響をおよぼす可能性があるシアンについては、活性汚泥処理しようとする水のシアン濃度が5mg/L未満となるように、前記、蒸留又は減圧蒸散によるシアンの除去、及び、前記、安水又は脱安水や海水を用いた希釈により濃度管理することが可能である。
【0047】
なお、安水又は脱安水には、高濃度のチオ硫酸が含まれている。チオ硫酸はシアンと反応して、チオシアンに変換させる作用がある。チオシアンはJIS K102に記載されている全シアンの測定では検出されない物質であり、シアンではない。チオシアンも、安水や脱安水に高濃度に含まれているが、シアンと比較すると毒性ははるかに低く、安水処理活性汚泥により容易に分解される。活性汚泥に流入させる水のチオシアン濃度が600mg/L以下では、安水処理活性汚泥に対して、悪影響はなく、良好に分解することができる。
【0048】
上記物質の中で活性汚泥に悪影響をおよぼす可能性があるベンゾニトリルについては、活性汚泥処理に流入させる水のベンゾニトリル濃度が5mg/L未満となるように、蒸留又は減圧蒸散によるベンゾニトリルの除去、及び、安水又は脱安水や海水を用いた希釈により濃度管理することが可能である。
【0049】
また、活性汚泥に悪影響を及ぼす可能性がある油分については、油分の指標となるノルマルヘキサン抽出物質の濃度を用いて、活性汚泥処理しようとする水のノルマルヘキサン抽出物質濃度が20mg/L未満となるように、前記のタール及び油分からの水の分離、蒸留又は減圧蒸散による油分の除去、及び、安水又は脱安水や海水を用いた希釈により濃度管理することが可能である。
【0050】
尚、安水処理活性汚泥はクレゾールなど有機塩素化物を分解する活性を有するため、プラスチック、シュレッダーダストなどの可燃性廃棄物の熱分解ガスを湿式洗浄して発生する排水及び熱分解ガスを冷却する事により発生する凝縮水に含まれる有機塩素化物を分解することが可能である。
【0051】
本発明が対象とする可燃性廃棄物は廃プラスチック、シュレッダーダスト、都市ゴミ、廃建材、廃木材、刈草、食品廃棄物、含油スラッジ、タールである。これら廃棄物のうち、廃プラスチック及びシュレッダーダストについては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビフェニルのいずれかを組成として含むものである。
【0052】
これらの熱分解ガスの洗浄水に含まれる、活性汚泥に悪影響を及ぼす可能性のある主要な成分は、前述の、シアン、アニリン、ベンゾニトリル、安息香酸、カプトラクタム、フェノール、クロロフェノール、ベンゼン、メチルシクロペンタン、2−メチルフェノール、3−メチルフェノール、4−メチルフェノール、1,2−ベンゼンジオール、5−アミノインドール、2−エテニルベンゾフラン、鉛、亜鉛の中からいくつかを主要成分として含むものであり、本発明の方法により低減処理できる。
【0053】
尚、本発明で用いる活性汚泥は、COD除去や上記有害成分の分解のために、アンモニア酸化細菌、サイトファガ、バクテロイデス、アルテロモナス、コマモナス、エクトチオロドスピラ、カウロバクター、デイノコッカス、テルムス、スフィンゴモナス、バークホルデリア、アルカリゲネス、ロドシクラス、アクチノバクテリア、バシラス、デスルフロモナス、ロドバクター、クロマチウム、チオスリックス 、プランクトマイセス、硫黄酸化細菌、ニトロソモナス の少なくとも一つに属する微生物を含む活性汚泥であることが望ましい。これらの微生物は安水処理活性汚泥に存在しており、安水や熱分解ガス洗浄排水に含まれるCOD成分や有害物質の分解作用があるからである。
【0054】
本活性汚泥を用いることで、空気を曝気する標準活性汚泥法等により、本発明の活性汚泥に流入させる水に含まれる、COD原因物質およびノルマルヘキサン抽出物質を分解、処理することが可能である。標準活性汚泥法とは、曝気槽内に浮遊している好気性微生物(活性汚泥)を利用し、曝気により酸素を供給するとともに槽内を混合攪拌して、汚水と微生物とを十分接触させて浄化するというもので、基本的な活性汚泥処理法である。(例えば、非特許文献1等、参照)
【実施例】
【0055】
(実施例1)
以下、図1に示す処理フローに基づき本発明の実施例を説明する。
【0056】
シュレッダーダストを2000℃で熱分解するシャフト炉式ガス化炉1から発生したガスに対して、コークス炉18から発生した安水3をガス洗浄装置2において、ガスに安水を接触させて洗浄することにより発生するガス洗浄排水5の性状を調べたところ、表1に記したような成分を含有していた。ガス洗浄後の排水の発生量は100m3/日であった。
【0057】
【表1】

【0058】
この洗浄後の排水を図1に記した処理フローに基づいて処理した。まず、上記ガス洗浄排水を、比重分離槽6で30分間静置することで比重分離を行い、水相をダイオキシン類などを含む可能性があるタール及び油分の相と分離した。分離した水相を重金属を沈澱分離する槽7へ流入させて移した。アルカリ剤8である水酸化ナトリウム溶液を加えて、重金属沈澱分離槽7でpHをpH8.5に調整した。このpH調査により、鉛や亜鉛など排水に含まれる重金属を沈澱分離した。このようにして重金属の沈澱から分離して回収した沈澱分離後の水は活性汚泥の微生物に悪影響を及ぼす鉛、亜鉛などの重金属の濃度が低減化されるが、重金属成分以外にも活性汚泥に悪影響を及ぼす、シアン、ベンゾニトリルが本排水には含まれていた。そこで重金属を分離した水を、蒸留装置9を用いて100℃で30分間蒸留した。この蒸留処理で得られる蒸散成分除去後の水10を、希釈及びpH調整槽12で、脱安水13で4倍に希釈した後、この水をさらに海水14で2.5倍希釈し、さらにpHを8.5に上記アルカリ剤8で調整した。希釈に用いた脱安水と海水の比率は1:2であった。
【0059】
このようにして得られた活性汚泥処理に供する前の、希釈後の水の性状を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
ここでチオシアンやチオ硫酸の濃度が表1のガス洗浄排水よりも高くなっているのは、希釈に用いた脱安水からの持ち込みによるものである。
【0062】
活性汚泥処理に供する希釈後の水の鉛濃度は0.1mg/L、亜鉛濃度は1mg/L、シアン濃度は3mg/L、ベンゾニトリル濃度は1mg/L、ノルマルヘキサン抽出物質濃度は5mg/Lであり、前工程での処理により、活性汚泥処理に適した水質になったことが確認できた。
【0063】
このようにして得られた水を製鉄所で安水に含有されるフェノール類、チオシアン、イオウ化合物の分解処理に用いられているや安水処理活性汚泥槽15へ入れて処理した。本活性汚泥は安水処理に馴化した活性汚泥に含まれる、コマモナス、アルカリゲネス、デイノコッカス、硫黄酸化細菌、ニトロソモナスなどの微生物を含んでいた。活性汚泥処理は空気を曝気する標準活性汚泥法で、水温30℃、HRT36時間で運転した。
【0064】
活性汚泥処理した後にえられた処理水16の性状を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
活性汚泥に流入した水のCODが1200mg/Lであったのに対して、処理水ではCODが50mg/Lまで減少した。また、シアンやベンゾニトリルなど、ガス洗浄排水に起因する有害成分も検出されなかった。本処理水は水質汚濁防止法に定められた排水基準を満たすものであった。
【0067】
尚、比較のため、重金属沈澱分離槽7でpHを8未満、あるいは12より高くした場合についても別途検討をおこなったが、亜鉛、鉛などの重金属が沈殿せず、水相に高濃度に残存してしまい、後段の活性汚泥に悪影響を及ぼした。
(実施例2)
以下、図2に示す処理フローに基づき本発明の実施例を説明する。
【0068】
廃プラスチック、シュレッダーダストなども含む都市ゴミを1800℃で熱分解するガス化炉1から発生したガスに対して、コークス炉18から発生した安水3をガス洗浄装置2において、ガスに安水を接触させて洗浄することにより発生するガス洗浄排水5の性状を調べたところ、表4に記したような成分を含有していた。ガス洗浄排水の発生量は150m3/日であった。
【0069】
【表4】

【0070】
このガス洗浄排水を図2に記した処理フローに基づいて処理した。
【0071】
まず、上記排水を、タール、油水の比重分離槽6としてデカンタを用いて比重分離を行い、水相をダイオキシン類などを含む可能性があるタール及び油分の相から分離して回収した。分離した比重分離水を、重金属を沈澱分離する槽7へ流入させて移した。アルカリ剤8である水酸化ナトリウム溶液を加えて、pHをpH10に調整した。このpH調査により、鉛や亜鉛など排水に含まれる重金属を沈澱して分離除去した。このようにして重金属の沈澱から分離して回収した水は活性汚泥の微生物に悪影響を及ぼす鉛、亜鉛などの重金属の濃度が低減化されるが、重金属成分以外にも活性汚泥に悪影響を及ぼす、シアン、ベンゾニトリルが本排水には含まれていた。
【0072】
そこで上記のように排水から重金属を沈澱分離して得られる水を製鉄所の安水3で10倍希釈した後、アンモニアストリッピング装置19で処理し、減圧蒸散により、シアン、ベンゾニトリルなど揮発性の有機物や、アンモニアを除いた。アンモニアストリッピングの処理水(脱安水)20を希釈及びpH調整槽12において、海水で2.5倍希釈し、さらにpHをpH9に調整した。
【0073】
このようにして得られた希釈後の水を活性汚泥処理に供した。この活性汚泥処理に供した希釈後の水の性状を表5に示す。
【0074】
【表5】

【0075】
ここでチオシアンやチオ硫酸の濃度が表1のガス洗浄排水よりも高くなっているのは、希釈に用いた脱安水からの持ち込みによるものである。
【0076】
活性汚泥処理に供する希釈後の水の鉛濃度は0.1mg/L、亜鉛濃度は0.2mg/L、シアン濃度は2mg/L、ベンゾニトリル濃度は0.5mg/L、ノルマルヘキサン抽出物質濃度が1mg/Lであり、前工程の処理により、活性汚泥処理に適した水質になったことが確認できた。
【0077】
このようにして得られた水を製鉄所で安水に含有されるフェノール類、チオシアン、イオウ化合物の分解処理に用いられているや安水処理活性汚泥槽15へ流入させた。本活性汚泥は安水処理に馴化した活性汚泥に含まれるアンモニア酸化細菌、サイトファガ、バクテロイデス、アルテロモナスなどの微生物を含んでいた。活性汚泥処理は空気を曝気する標準活性汚泥法で、水温30℃、HRT36時間で運転した。活性汚泥処理した処理水16の性状を表6に示す。
【0078】
【表6】

【0079】
活性汚泥に流入した水のCODが1100mg/Lであったのに対して、処理水ではCODが40mg/Lまで減少した。
【0080】
また、シアンやベンゾニトリルなど、ガス洗浄排水に起因する有害成分も検出されなかった。本処理水は水質汚濁防止法に定められた排水基準を満たすものであった。
(実施例3)
以下、図3に示す処理フローに基づき本発明の実施例を説明する。
【0081】
自動車から発生するシュレッダーダストを2000℃で熱分解するガス化炉1から発生したガスに対して、コークス炉18から発生した安水3をガス洗浄装置2において、ガスに安水を接触させて洗浄した。この洗浄排水5をタール、油水の比重分離槽6で水をタール、油分から分離して回収した後、回収した比重分離水を重金属沈澱槽7でpHをアルカリ剤8として水酸化ナトリウムを添加することでpH10.4にpH調製して、重金属を沈澱分離した。重金属を沈澱分離した沈澱後の水を回収した。この水に含まれる有機物をGC−MS(ガスクロマトグラム質量分析)により分析した(図4参照)。
【0082】
また、この重金属を沈澱分離して回収された水を、蒸留装置9で更に100℃で30分間蒸留した。さらに、この蒸留により残留して得られる蒸散成分除去後の水10を回収して、この蒸散成分除去後の水に含まれる有機物もGC−MSにより分析した(図5参照)。併せて蒸留前後のこれらの水のCODとTOCも測定した。CODとTOCの分析結果を表7に示す。蒸留によりCODとTOC共に減少したことが判明した。
【0083】
【表7】

【0084】
蒸留前の水をGC-MSで解析した結果を図4、表8に示す。
【0085】
【表8】

【0086】
なお、図4中のデータを下記に示す。
【0087】
【表9】

【0088】
次に蒸留後の水をGC-MSで解析した結果を図5に示す。
【0089】
明確なピークが確認できたのは<1>ベンゼンのみである。
【0090】
図4と図5から蒸留によって、各種有機物質が除去されたことを確認できた。
【0091】
以上、シュレッダーダストの熱分解ガスの安水を用いた洗浄により発生する排水に含まれるアニリン、ベンゾニトリル、安息香酸、カプトラクタム、フェノール、クロロフェノール、ベンゼン、メチルシクロペンタン、2−メチルフェノール、3−メチルフェノール、4−メチルフェノール、1,2−ベンゼンジオール、5−アミノインドール、2−エテニルベンゾフランは蒸留により低減化可能であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施例1の処理フローを示す図である。
【図2】本発明の実施例2の処理フローを示す図である。
【図3】本発明の実施例3の処理フローを示す図である。
【図4】蒸留前の水のGC−MSの結果を表す図である。
【図5】蒸留後の水のGC−MSの結果を表す図である。
【符号の説明】
【0093】
1 シュレッダーダスト熱分解ガス化炉
2 ガス洗浄装置
3 安水
4 洗浄後ガス
5 ガス洗浄排水及び/又は凝縮水
6 タール、油水分離槽
7 重金属沈殿分離槽
8 アルカリ剤添加
9 蒸留装置
10 蒸留処理水
11 蒸留ガストラップ装置
12 希釈及びpH調整槽
13 脱安水
14 海水
15 活性汚泥槽
16 処理水
17 放流
18 コークス炉
19 アンモニアストリッピング装置
20 アンモニアストリッピング処理水(脱安水)
21 蒸散ガストラップ装置、硫安製造設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性廃棄物の熱分解により発生する熱分解ガスを水で洗浄し、得られる洗浄後の排水を、水相とタール及び油分の相とに比重分離し、前記水相を比重分離水として回収し、当該比重分離水のpHを8以上12以下に調整して比重分離水に含まれる重金属を沈澱分離して除去し、得られる沈殿分離後の水を活性汚泥処理することを特徴とする排水の活性汚泥処理方法。
【請求項2】
前記活性汚泥処理が、前記沈殿分離後の水と活性汚泥との混合水に空気を曝気する、標準活性汚泥法であることを特徴とする請求項1記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項3】
前記活性汚泥が、鉄鋼製造工程におけるコークス炉から発生する安水を処理する活性汚泥であることを特徴とする請求項1又は2記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項4】
前記熱分解ガスの洗浄に用いる水が、鉄鋼製造工程におけるコークス炉から発生する安水であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項5】
前記沈澱分離後の水を、更に蒸留又は減圧して蒸散する成分を除去した後、蒸散成分除去後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項6】
前記比重分離水を鉄鋼製造工程におけるコークス炉から発生する安水に混合し、pHを9.5以上12以下に調整して、安水中のアンモニア除去方法であるアンモニアストリッピングを行い、pH調整後の水に含まれる、重金属を沈澱分離して除去すると共に蒸散する成分を除去し、得られる蒸散成分除去後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項7】
前記沈澱分離後の水、又は前記蒸散成分除去後の水を、安水、安水のアンモニアストリッピング処理後の脱安水、海水の少なくともいずれかで希釈し、当該希釈後の水を活性汚泥処理することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項8】
前記希釈が、2倍希釈以上10000倍希釈以下であることを特徴とする請求項7記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項9】
前記希釈に用いる安水及び脱安水の合計量と海水との比率が、1:1〜1:10であることを特徴とする請求項7又は8記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項10】
前記希釈後の水のpHを、6以上9.5以下に調整した後、当該pH調整後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項11】
前記熱分解ガスの洗浄後の排水が、シアン、アニリン、ベンゾニトリル、安息香酸、カプトラクタム、フェノール、クロロフェノール、ベンゼン、メチルシクロペンタン、2−メチルフェノール、3−メチルフェノール、4−メチルフェノール、1,2−ベンゼンジオール、5−アミノインドール、2−エテニルベンゾフラン、鉛、亜鉛のうちの1種類又は2種類以上を含む排水であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項12】
前記活性汚泥処理直前における、前記沈殿処理後の水、前記蒸散成分除去後の水、又は前記希釈後の水の鉛濃度が、1mg/L未満となるように、前記重金属の沈殿分離におけるpH調整、前記希釈における希釈倍率調整の少なくともいずれかの手段にて調整した後、当該調整後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項13】
前記活性汚泥処理直前における、前記沈殿処理後の水、前記蒸散成分除去後の水、又は前記希釈後の水の亜鉛濃度が、10mg/L未満となるように、前記重金属の沈殿分離におけるpH調整、前記希釈における希釈倍率調整の少なくともいずれかの手段にて調整した後、当該調整後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項14】
前記活性汚泥処理直前における、前記沈殿処理後の水、前記蒸散成分除去後の水、又は前記希釈後の水のシアン濃度が、5mg/L未満となるように、前記蒸留又は減圧における蒸散、前記希釈における希釈倍率調整の少なくともいずれかの手段にて調整した後、当該調整後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項15】
前記活性汚泥処理直前における、前記沈殿処理後の水、前記蒸散成分除去後の水、又は前記希釈後の水のベンゾニトリル濃度が、5mg/L未満となるように、前記蒸留又は減圧における蒸散、前記希釈における希釈倍率調整の少なくともいずれかの手段にて調整した後、当該調整後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項16】
前記活性汚泥処理直前における、前記沈殿処理後の水、前記蒸散成分除去後の水、又は前記希釈後の水のノルマルヘキサン抽出物質の濃度が、20mg/L未満となるように、前記比重分離におけるタール及び油分の分離、前記蒸留又は減圧における蒸散、前記希釈における希釈倍率調整の少なくともいずれかの手段にて調整した後、当該調整後の水を前記活性汚泥処理することを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の排水の活性汚泥処理方法。
【請求項17】
前記可燃性廃棄物が、廃プラスチック、シュレッダーダスト、都市ゴミ、廃建材、廃木材、刈草、食品廃棄物、含油スラッジ、タールのうちの1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の排水の活性汚泥処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−98353(P2007−98353A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295083(P2005−295083)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】