説明

排水処理システム

【課題】、水溶液系では電析困難な金属イオンを金属単体として回収し、リサイクル性を高めた排水処理システムを提供する。
【解決手段】 電解質としてイオン液体17を貯留し、金属イオンの除去をする金属イオン除去槽11と、イオン液体17中に浸漬されるカソード電極16と、カソード電極16と導通したアノード電極13a,13bと、を備え、排水中に含まれる金属イオンをイオン液体17中に移動させて、カソード電極16での還元反応により金属イオンを還元して金属を回収することを要旨とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業等から排出される排水に含まれる金属イオンと有機物を除去する排水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、科学技術の発展に伴い、多種多様な化学物質が製造、使用されているが、化学物質の中には、人の健康あるいは生態系に有害な影響を及ぼす物質も多く存在する。環境庁が発表している「人の生活の保護に関する環境基準」の中には、カドミウム、鉛、六価クロムなどの金属類、あるいはトリクロロエチレンベンゼンなどの有機物、フッ素、ホウ素等の各基準濃度を規定しており、公共用水域をこれらの基準濃度以下とすることが定められている。日本では、平成5年3月の水質環境基準の改正に伴い、要監視項目が付け加えられ、重金属類として、モリブデン、アンチモン、及びニッケルが指定された。これらの重金属類は、環境中での検出状況又は複合影響等の観点から考慮しても、将来的に環境基準に設定され、排水の規制が行われると予測される。
【0003】
工場廃水(排水)に含まれる重金属、有機物などの有害物質を規定濃度以下にまで低減する方法は各種提案されているが、一般的に、金属イオンについては中和沈殿法、有機物については生物学的酸化法を用いている。
【0004】
中和沈殿法は、工場廃水などの排水をアルカリ性にして金属水酸化物を形成させる方法である(例えば、特許文献1,2参照)。例えば、工場廃水に含まれる金属イオンなどを、Zn(OH)2又はNi(OH)2として沈殿させて処理している。
【0005】
生物学的酸化法は、微生物の存在下において排水の空気曝気を行う方法であり、例えば、活性汚泥法がある。
【特許文献1】特開平5−57292号公報
【特許文献2】特開2005−13937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した中和沈殿法では、工場廃液には無機系のCOD 物質又は金属有機錯体が多量に含まれているため、金属水酸化物の生成が妨げられて凝集沈殿処理を充分に行うことができず、BOD及びCODを充分に処理することができなかった。また、沈殿した水酸化物は、各種金属酸化物の混合物であるため、金属イオンを金属単体として回収することが難しく、リサイクルする上で金属単体として回収することが望まれていた。
【0007】
また、生物学的酸化法では、有機系物質を容易に処理することができるが、無機系のCOD 又は重金属を処理することは難しかった。さらに、微生物を利用しているため、微生物の活性を保つための温度管理などのメンテナンスが必要となるだけではなく、長時間の処理時間が必要となるなどの問題を有していた。
【0008】
そこで、溶液中に溶解している金属イオンを金属として回収する手段として、電気化学的な手法により析出させる方法も存在するが、水溶液系では、水素発生反応(0 V)と、酸素発生反応(1.23 V)の電位窓内の酸化還元反応としか利用することができない。このため、例えば、下式1から式6までの重金属イオン反応の還元反応は、水素発生反応より卑な電位にあるため、これらの元素を金属として還元することは、水素発生を伴い電流効率が大きく低下してしまうか、あるいは水溶液中では不可能であった。なお、ここでの電位は全てSHE基準とした。
【0009】
Cd2+ + 2e-→ Cd -0.4025 V …(式1)
Cr2+ + 2e-→ Cr -0.90 V …(式2)
Pb2+ + 2e- → Pb -0.1263 V …(式3)
Zn2+ + 2e- → Zn -0.7626 V …(式4)
Mg2+ + 2e- → Mg -2.356 V …(式5)
Ni2+ + 2e- → Ni -0.257 V …(式6)
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、すなわち、本発明の排水処理システムは、電解質としてイオン液体を貯留し、金属イオンの除去をする金属イオン除去槽と、イオン液体中に浸漬されるカソード電極と、カソード電極と導通したアノード電極と、を備え、排水中に含まれる金属イオンをイオン液体中に移動させて、カソード電極での還元反応により金属イオンを還元して金属を回収することを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の排水処理システムによれば、水溶液系では電析困難な金属イオンを金属単体で回収することができ、この結果、リサイクル性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照し、本発明の実施の形態に係る排水処理システムを説明する。
【0013】
[第1実施形態(図1〜図6)]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る排水処理システムの構成図である。排水処理システム1は、排水に含まれる有機物を処理する排水処理系2と、排水処理系2の後流側に設けられたイオン液体に含まれる金属イオンの処理をするイオン液体処理系3と、から構成される。
【0014】
排水とは、金属イオンと有機物を含む工場廃水などを意味する。なお、ここでは、排水としてNi2+とZn2+を含むめっき液を使用した。イオン液体とは、一般に電気化学窓が3〜5 Vと広く、排水に含まれる金属イオンの還元反応を起こすことが可能な液体を意味する。イオン液体として、TMHA-Tf2N
(trimetyl-n-hexylammonium bis((trifluoromethyl(sulfonyl)amide)を用いた。TMHA-Tf2Nは疎水性であり、後述するように、水溶液中から溶媒を抽出することも可能である。なお、TMHA-Tf2Nを用いて、Zn、Ni、Mg等の金属を電析することに成功した例は、既に報告されている(K. Murase and Y. Awakura、Transaction of the Materials Research Society of Japan 29 [1] 55-58 (2004))。
【0015】
排水処理系2は、排水配管4の上流側から下流側に向かって、有機物処理部としての第1の有機物処理槽5及び第2の有機物処理槽6と、過剰有機物処理部としての過剰有機物処理槽7と、を設置している。
【0016】
イオン液体処理系3は、溶媒抽出部としての溶媒抽出槽8に連結されたイオン液体配管9の上流側から下流側に向かって、金属イオン除去部としての第1の金属イオン除去槽10と第2の金属イオン除去槽11を順次設置し、さらに第2の金属イオン除去槽11の下流側に、イオン液体再生部としてのイオン液体再生槽12を設置している。
【0017】
有機物処理部としての第1の有機物処理槽5及び第2の有機物処理槽6は、排水配管4から供給される排水に含まれる有機物を電気化学的に処理して除去し、過剰有機物処理部としての過剰有機物処理槽7では、有機物処理部の電気化学反応によって処理し切れなかった有機物を光触媒反応によって処理して除去をする。溶媒抽出部としての溶媒抽出槽8では、有機物除去後の排水から、イオン液体と水の溶質に対する溶解度の違いを利用して、イオン液体に水溶液中の金属イオンを移動させて、溶質の交換をする。このように溶媒抽出槽8において溶質の交換をすることで、排水中に含まれる金属イオンと有機物を連続的に処理することが可能となる。また、イオン液体と水に対する溶解度の違いを利用したため、溶質の交換を簡便にすることが可能となる。
【0018】
金属イオン除去部としての第1の金属イオン除去槽10と第2の金属イオン除去槽11では、溶媒抽出部において金属イオンを添加したイオン液体を電解質として、イオン液体に含まれる金属イオンを還元して純金属とし、イオン液体中から特定の金属イオンを除去する。
【0019】
また、金属イオン除去槽10、11に配置されたそれぞれのカソード電極に印加する電位は、各電解槽で析出させる金属に応じて設定すると良く、これにより簡単な制御によって特定の金属を回収することができる。
【0020】
さらに、第1の金属イオン除去槽10と第2の金属イオン除去槽11とは、互いに連通し、それぞれの金属イオン除去槽10、11にイオン液体を連続的に流通させる構造を有しており、上流側の第1の金属イオン除去槽10のカソード電極から下流側の第2の金属イオン除去槽11のカソード電極までに順に設定する電位を卑な方向とすることが好ましい。これにより、複数の金属イオンを除去することができるだけではなく、回収した金属の純度が高まり、リサイクル性を高めることができる。
【0021】
さらに、イオン液体再生部としてのイオン液体再生槽12では、金属イオン除去部から排出された処理済イオン液体と水とを混合し、イオン液体中に残存する水溶液不純物を除去する。
【0022】
図1に示す第1の有機物処理槽5と第2の金属イオン除去槽11とを一体とした処理槽の断面図を図2に示す。
【0023】
第1の有機物処理槽5では、その内部に2本の酸化チタン(TiO2)の光触媒電極13a,13bを配置し、槽5内に貯留された有機物と金属イオンを含む排水14に光触媒電極13a,13bを浸漬している。2つの光触媒電極13a,13bの間には高圧水銀ランプ光源15が設置され、高圧水銀ランプ光源15から両側の光触媒電極13a,13bに光を照射することで、酸化チタンの光触媒反応が開始される。ここで、光触媒電極13a,13bは、金属多孔体上にTiO2を形成して構成されるが、これに限定されるものではなく、金属平板上にTiO2を形成した電極、又は透明導電板の裏側にTiO2微粒子を担持した電極としても良く、光触媒であるTiO2に紫外光が照射されて、TiO2で発生した電子が導線に効率良く供給できる構造であれば良い。
【0024】
一方の第2の金属イオン除去槽11には、その内部にカソード電極である金属電極16を配置し、槽11内に貯留されたイオン液体17に金属電極16を浸漬することで、金属電極16が金属イオンを還元する反応場となる。なお、第2の金属イオン除去槽11には、図示しない参照電極がイオン液体に浸漬して配置され、金属電極16の電位をコントロールする基準としている。
【0025】
第1の有機物処理槽5と第2の金属イオン除去槽11との間には、排水14とイオン液体17の混合を防止するイオン交換手段である塩橋18が接続されて、排水14とイオン液体17との間で電気的な導通を保っている。この塩橋18中には、Na2SO4電解液が寒天などの固定化手段を用いて担持されている。
【0026】
光触媒電極13a,13bと金属電極16は、導線19により導通され、導線19中に設置されたポテンションスタット20によって金属電極16の電位を参照電極に対して任意に設定している。
【0027】
さらに、第1の有機物処理槽5と第2の金属イオン除去槽11には、それぞれ側面にレベルセンサ21,22を取り付けて、各槽5,11内の水位を監視し、第1の有機物処理槽5には、接続された排気管23にCO2濃度センサ24を設置している。
【0028】
図1に示した過剰有機物処理槽7の断面図を図3に示す。過剰有機物処理槽7は、基本的に、図2に示した第1の有機物処理槽5の構成と同じであり、過剰有機物処理槽7の内部に2本の酸化チタン(TiO2)の光触媒電極25a,25bを配置し、槽7内に貯留された有機物と金属イオンを含む排水26に光触媒電極25a,25bを浸漬し、2本の光触媒電極25a,25b間に高圧水ランプ光源27を設置する。過剰有機物処理槽7の側面にはレベルセンサ28を取り付けて、槽7内の水位を監視する。
【0029】
次に、上記排水処理システム1の動作を説明する。ここでは、ニッケル、亜鉛のめっき液として代表的なシアン化ニッケル(Ni(CN)2)、シアン化亜鉛(Zn(CN)2)などの成分を含むめっき液を排水とした例を挙げて説明をする。なお、最初に、第1の有機物処理槽5と第2の金属イオン除去槽11での個々の動作を説明した上で、排水処理システム1全体の動作を説明する。
【0030】
第1の有機物処理槽5では、酸化チタン(TiO2)の光触媒電極13a,13bに高圧水銀ランプ27から紫外域を含む光が照射されると、TiO2の価電子帯にホールが生じる。このホールは非常に強い酸化力を持ち、120kcal/mol相当以上のエネルギを有する。有機物を構成する分子中の炭素−炭素結合、炭素−水素結合、炭素−窒素結合、炭素−酸素結合、酸素−水素結合、窒素−水素結合などの結合エネルギは、100kcal/mol前後であるのに対し、ホールのエネルギは120kcal/mol相当以上とはるかに大きいことから、有機物を構成する分子中の結合を簡単に切断して、有機物を水又は炭酸ガス等の無害な物質に分解することができる。この作用により、水に溶け込んだ種々の有害な化学物質又は悪臭物質などの空気中の化学物質を簡単に分解、無害化することができる。なお、本実施形態においては、排液に含まれる猛毒のシアンを分解すると、二酸化炭素と窒素になることが確認されている。
【0031】
第1の有機物処理槽5に連結された塩橋18では、電気的なバランスを保つために、アノードで生じたプロトンなどのカチオンは塩橋に移動し、塩橋から水溶液にアニオンが移動するが、この時のカチオンとアニオンの移動の割合は、輸率によって決定される。
【0032】
そして、有機物の酸化によってTiO2の伝導帯に生じた電子は、光触媒電極13a,13bに連通された導線19を通じて、カソード電極16側に移動する。
【0033】
第2の金属イオン除去槽11では、Ni2+とZn2+を溶解したイオン液体17を貯留している。このNi2+ とZn2+は、もともと排水14に含まれた成分であり、後述する溶媒の抽出によって水溶液からイオン液体17に移動した成分である。ここでは、イオン液体17としてTMHA-Tf2Nを用いた。
【0034】
まず、上流側の第1の金属イオン除去槽10では、Zn2+を還元してZn金属を回収する。第1の金属イオン除去槽10内の電極としてはZn電極を用いて、析出する金属との密着性を高める。また、第1の金属イオン除去槽10において、Zn金属のみを析出させて、Ni金属をイオン状態のまま下流側の第2の金属イオン除去槽11に供給するためには、カソード電極に印加する電圧は、Znの酸化還元電位よりも低い電位、かつNiの酸化還元電位よりも高い電位とする必要があり、参照電極を基準にして電位を設定する。なお、参照電極としては、I2と(n-C3H7)4NiをTMHA-TF2Nに溶解した電解液をガラス管に封入したものを用い、ガラス管底部をフリットガラスとして、金属イオン除去槽10,11中のイオン液体17と導通をとったものとする。参考文献1によれば、0.5 M-Zn2+のZn析出電位は-0.9 V(vs. I-/I3-)、0.5 M-Ni2+のNi析出電位は-1.0 V(vs. I-/I3-)であるため、ここでは、-0.9 V(vs. I-/I3-)以下、かつ-1.0 V(vs. I-/I3-)以上の電位に設定することが好ましい。もちろん、析出電位は溶解している金属イオン濃度によって多少のずれが生じるため、排液の金属イオン濃度に応じた最適値に設定する必要がある。
【0035】
第1の金属イオン除去槽10のイオン液体17中のZn金属が除去されたか否かについては、電流の経時変化から判断する。反応するZn2+の濃度が低下すると反応物が無くなり、電流値が低下して最終的には0に漸近する。ある電流の閾値を設定しておき、その電流値に達した時点で、イオン液体17を第1の金属イオン除去槽10から第2の金属イオン除去槽11に供給する。
【0036】
第2の金属イオン除去槽11でのNi除去操作も、第1の金属イオン除去槽10での操作と同様である。具体的には、カソード電極として、密着性、回収後のリサイクル性を考慮してNi金属を用い、カソード電極の電位をNi2+の析出電位よりも卑な電位に設定してNi金属を回収する。
【0037】
次に、 図4及び図5に示すフローチャートを用いて、排水処理システム1での排水14とイオン液体17の流れを説明する。
【0038】
図4に示すように、まず、第1の有機物処理槽5に排水14を導入すると(St1)、排水14に含まれる有機物が酸化される(St2)。例えば、Cを含む有機物が酸化されるとCOにまで分解されて、CO2は、システムの外に排気される。
【0039】
第2の金属イオン処理槽11での金属イオンの処理が終了したか否かを判定し(St3)、排気管23内に設置したCO2濃度センサ24により、CO2の濃度が規定値以下であるか否かを判定し(St4)、金属イオンの処理が終了し、CO2の濃度が規定値以下となった時点で、有機物の分解が終了したものと判定し、第1の有機物処理槽5から第2の有機物処理槽6へと排水14を導入する(St5)。
【0040】
第2の有機物処理槽6においても、第1の有機物処理槽5と同様の処理を行い、系外に排気されるCO2ガスの濃度を計測して、有機物の分解が終了しているか否かを判定する。仮に、排水に含まれる有機物が全て分解されると、水が酸化されてO2が発生するようになり、これを利用して排水に含まれる有機物の有無を確認できるようになる。
【0041】
O2の発生処理が進行し(St6)、第1の金属イオン除去槽10での金属イオンの処理が終了したか否かを判定し(St7)、金属イオンの処理が終了すると、金属イオン処理のサブルーチンに移行する(St8)。
【0042】
一方、第2の金属イオン処理槽11において金属イオンの処理が終了したか否かを判定し(St3)、排気管内に設置されたCO2濃度センサにより、CO2の濃度が規定値以下であるか否かを判定し(St4)、金属イオンの処理は終了したが、CO2の濃度が規定値以下となっていない場合には、第2の有機物処理槽6に排水14を導入して(St9)、有機物を酸化処理する(St10)。その後、第1の金属イオン除去槽10での金属イオンの処理が終了したか否かを判定し(St11)、終了していない場合には、有機物の酸化処理を継続する(St11)。金属イオンの処理が終了し、排気23管内のCO2の濃度が規定値以下であるか否かを判定し(St12)、CO2の濃度が規定値以下である場合には、金属イオン処理のサブルーチンに移行する(St8)。逆に、排気管23内のCO2の濃度が規定値以下ではなく、排水に有機物が残存していると判定された場合には、余剰有機物処理槽7に排水14を導入し(St13)、光触媒を用いて有機物を酸化して分解する(St14)。ここでは、第1及び第2の有機物処理槽5,6のように、還元反応と酸化反応を別の槽で行うのではなく、光触媒を用いた有機物分解を同一場で行う。余剰有機物処理槽7では、還元反応と酸化反応とを行い、どのような反応となるかは諸説あるが、一般的には、水溶液中の溶存酸素が還元されると、スーパーオキサイドラジカル、ヒドロペルオキシルラジカル、過酸化水素等が発生し、これらが有機物を酸化すると考えられている。
【0043】
そして、排気管23内のCO2の濃度が規定値以下であるか否かを判定し(St15)、CO2の濃度が規定値以下となった時点で、金属イオン処理のサブルーチンに移行する(St8)。
【0044】
図5に示すように、金属イオン処理サブルーチンにおいては、まず水溶液中の金属イオンとその対イオンを、イオン液体中に移動させる溶媒抽出を行う(St20)。溶媒抽出は、溶質の溶解度差を利用して、一方に溶解している溶質を他方の液相に移動させる手段である。
【0045】
TMHA-Tf2Nは、疎水性のイオン液体であるため、水溶液中から溶媒を容易に抽出することができる。この操作は水とTMHA-Tf2Nに対する金属塩の溶解度の比によっては、図6に示すように、第1抽出槽29から第4抽出槽32を配置して多段操作とする。溶媒の抽出を多段操作とする場合には、水溶液中の金属イオンが基準値以下となるように予め段数を決定しておくと良い。
【0046】
金属イオンを溶解したイオン液体は、金属イオン処理槽に供給されて(St21)、第1の金属イオン除去槽10で、より貴な電位で析出可能なZn2+イオンを析出させて金属イオンを除去し(St22)、カソード電流値が予め規定した規定値以下であるか否かを判定し(St23)、カソード電流値が規定値以下となった時点で金属イオンの処理を停止し、第2の金属イオン除去槽11にイオン液体17を供給する(St24)。
【0047】
第2の金属イオン除去槽11では、第1の金属イオン除去槽10と同様の処理によって、Ni2+イオンを回収して金属イオンを除去する(St25)。
【0048】
その後、カソード電流値が予め規定した規定値以下であるか否かを判定し(St26)、規定値以下となった時点で金属イオンの処理を停止する。
【0049】
最終的に、イオン液体中には金属イオンの対イオンとして存在していたアニオン(SO4-など)と、金属イオンの析出とに伴い、電荷のバランスを保つためにイオン液体17中に移動してきたH+、Naなどのカチオンが残留している。このため、残留物を再度水によって溶媒抽出を行う(St27)。
【0050】
この一連の操作によって、イオン液体17は再生されて、再度利用可能になる。残留物を含む水溶液は、Na2SO4、又はH2SO4などの無害な水溶液となり、pH調整後に系外に排出されるようになる。
【0051】
本実施形態によれば、水溶液系では電析困難なNi2+とZn2+の金属イオンを金属単体として回収することができ、リサイクル性が向上する。
【0052】
また、本実施形態によれば、排水処理系2の後流側にイオン液体処理系3を配置したため、溶質交換時に揮発性有機化合物(VOC)の発生を防止することができる。
【0053】
さらに、本実施形態によれば、有機物の分解に微生物を利用していないため、短時間で有機物を処理することが可能になる。
【0054】
[第2実施形態(図7、図8)]
第2実施形態では、イオン液体と排水との溶質を交換する図1に示した溶媒抽出部8を改良した排水処理システムを説明する。なお、図1に示す排水処理システムと重複する箇所は、同一符号を用いて、その説明を省略する。
【0055】
図7に示すように、本実施の形態に係る排水処理システム33は、図1に示した溶媒抽出部8を溶質交換部34として、イオン液体と水の沸点の違いを利用して、溶質を水溶液中からイオン液体に移動させている。これにより、確実に溶質の交換を行うことが可能となる。
【0056】
図8に示すように、溶質交換部34は、過剰有機物処理槽7の後流側に、順次、水溶液-イオン液体混合槽35と、水蒸発槽36と、気液分離器37とを設置し、気液分離器37の後流側に熱交換器である熱交換槽38を設置している。熱交換槽38と水溶液-イオン液体混合槽35とは、イオン液体配管9を介して接続される。また、水蒸発槽36には、図示しないヒータを連結して水蒸発槽36に熱を供給している。
【0057】
次に、溶質交換部34の動作を説明する。
【0058】
まず、水溶液-イオン液体混合槽35では、供給される有機物を除去した水溶液と、熱交換槽38から供給されるイオン液体と、を混合する。生成した水溶液とイオン液体を含む混合液は、水蒸発槽36に供給されて、図示しないヒータと後述する熱媒であるイオン液体から供給される熱によって、混合液から水のみを蒸散する。ここで、水蒸発槽36での温度は、水が蒸発し、イオン液体が分解しない温度域に設定すれば良い。例えば、イオン液体をTMHA-Tf2Nとした場合には、120℃真空中で乾燥しても、蒸発、分解しないことが知られているため、120℃に設定することが適当である。
【0059】
その後、水蒸発槽36で発生した水蒸気とイオン液体とは、気液分離器37によって分離され、水蒸気は熱交換槽38に供給され、一方のイオン液体は金属イオン除去槽に供給される。このように水の蒸発と除去を行うことで、水溶液に存在する金属イオンの全てが、イオン液体に移動する。さらに、気液分離器37によって分離された水蒸気は、熱交換槽38に供給される。
【0060】
熱交換槽38では、水蒸発槽36で得られた水蒸気とイオン液体との間で熱交換を行う。この時、水蒸気を液相に戻す際に得られる顕熱と潜熱とをイオン液体に移動して、水蒸気を凝縮して、再び水とし、系外に水を放出する。熱交換により温度が上昇したイオン液体は、水溶液-イオン液体混合槽35に供給される。
【0061】
本実施形態によれば、蒸発潜熱と顕熱を回収することが可能になるため、外部から供給する水の蒸発に必要とされる熱量を最小限にすることができる。
【0062】
[第3実施形態(図9)]
第3実施形態では、有機物の処理方法を改良し、図2に示した有機物処理槽と金属イオン除去槽とを一体とした処理槽を改良した。なお、図1と同一箇所については、その説明を省略した。
【0063】
図9に、本実施の形態に係る処理システムにおける第1の有機物処理槽39と金属イオン除去槽11とを一体とした処理槽の断面図を示す。図9に示すように、第1の有機物処理槽39の内部には金電極40を配置し、槽39内に貯留された排水14に金電極40を浸漬している。一方の金属イオン除去槽11内には、金属電極41を配置し、槽11内に貯留されたイオン液体17に金属電極41を浸漬している。第1の有機物処理槽39と金属イオン除去槽11との間には陽イオン交換膜42を配置して、排水14とイオン液体17との間で電気的な導通をとっている。これ以外は、図2に示した処理槽と同じ構成とした。
【0064】
第1実施形態では、光触媒に光を照射して、その際に生じるホールの酸化力によって有機物を分解したが、本実施形態では、金電極40を用いてアノード分極することで酸化作用を得た。ただし、金の酸化還元電位は+1.5 V(vs. SHE)であることから、分極はSHE基準で1.5 Vを上限とする。この電位を超えた場合には金の溶解が生じる。
【0065】
このように金電極40を用いることで、多大なエネルギを必要とするUV光の照射をすることなく、有機物を分解することができ、図1に示した排水処理システム1に比べて、使用エネルギ量を大幅に軽減することが可能となる。ただし、光触媒反応によって生じるホールの電位は、TiO2の場合3.2 V(vs. SHE)であり、非常に酸化力が強い。これに対し、本方法によって下げられる金属イオンのフェルミレベルは最大で1.5 V(vs. SHE)であり、酸化力が比較的弱い。このため、処理する有機物の種類に応じて2つの方法を使い分けることが好ましい。
【0066】
また、本実施の形態によれば、塩橋により回路を形成する方法に替えて、陽イオン交換膜42をカチオン交換膜として用いることで、溶液抵抗を低くすることが可能となり、イオン液体と水溶液との混合を防止しながら、電解反応を行うことが可能になる。
【0067】
さらに、本実施形態によれば、析出電位がNi又はZnよりも卑であるNa+を膜中の陽イオンとして用いたため、金属イオン除去槽11において、陽イオン交換膜中の陽イオンの析出を防止することができる。
【0068】
以上、前述した第1実施形態から第3実施形態までに、本発明の実施の形態に係る排水処理システムを述べてきたが、本発明の主旨に沿うものであれば、本発明の思想に含まれることは言うまでもない。
【0069】
また、第1実施形態では、光触媒としてTiO2を例に挙げたが、同様の働きをするものであれば、他の種類のものを用いることも可能であり、例えば、WO3、SrTiO3、NドープTiO2、SドープTiO2、Nb2O5、Fe2O3、ZnO2、SnO2、ZrO2、KTaO3、ZnS、CdS、MoS2などを用いることができる。
【0070】
さらに、第1実施形態では、イオン液体としてTMHA-Tf2Nを用いたが、このイオン液体と同様に、析出させたい金属の酸化還元電位を電気化学窓に含むものであれば種々のイオン液体を用いることができる。イオン液体の種類はアニオンとカチオンの組み合わせによって多数存在するが、代表的なものとして、1-Etyl-3-methylimidazolium bromide(EMIBr) (親水性) 1-Etyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate (EMIPF6) (親水性)、 1-Butyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate (BMIPF6) (疎水性)、 1-Ethylpyridinium bromide(親水性)などが挙げられる。しかし、イオン液体の組み合わせはほぼ無限に存在するため、これらに限定されるものではない。なお、親水性の場合には、第1実施形態の溶媒抽出法を用いることはできず、第2実施形態の水の蒸発による溶質交換に限られる。また、第3実施形態では、有機物を酸化する電極として金を挙げたが、含まれる有機物の酸化に対して溶解しない電極であれば代用することが可能であり、Pt、Ni、Agなどの貴金属の電極を用いることができる。
【0071】
また、第2実施形態では、水蒸気の持つ熱量を回収するための熱媒としてイオン液体自身を用いたが、エチレングリコールなどイオン液体以外の熱媒を用いて、水蒸気、イオン液体と直接接触しないように熱のみ交換する機構としても良い。
【0072】
さらに、各実施形態では、NiとZnを含むめっき液の排水処理を説明したが、本発明は金属イオン(例えば、Cd2+、Cr2+、Pb2+、Zn2+ Mg2+、Ni2+など)と有機物を含む排液であれば処理することが可能であり、金属イオン及び有機物は、例示した物質に限定されない。さらに、本実施の形態で挙げたように、アノード側の電解液を水溶液とするとイオン液体の分解を防ぐことが可能となり、新たなイオン液体を補充する必要がない。しかし、イオン液体をアノード側の電解液として用いて、イオン液体が分解した場合に新たに補充しても良い。この場合、塩橋を除去することが可能であり、かつ溶質交換の必要がなくなるため、簡便な装置構成とすることができる。また、第1実施形態では、光触媒と塩橋、第3実施形態では、Au電極と陽イオン交換膜の組み合わせを示したが、これらの装置構成はこの組み合わせに限定されるものではなく、適宜組み合わせて多様な形態としての使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る排水処理システムを説明する構成図である。
【図2】図1に示す有機物処理槽と金属イオン除去槽とを一体にした処理槽の構成を示す断面図である。
【図3】図1に示す過剰有機物処理槽の構成を示す断面図である。
【図4】排水処理システムでの排液とイオン液体の流れを説明するフローチャートである。
【図5】図4に示す金属イオン処理のサブルーチンの処理を説明するフローチャートである。
【図6】多段操作とした溶媒抽出の装置を示す構成図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る排水処理システムを示す構成図である。
【図8】図7に示す溶質交換部を示す構成図である。
【図9】第3の実施の形態に係る排水処理システムにおける有機物処理槽と金属イオン除去槽とを一体とした処理槽の断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1…排水処理システム
2…排水処理系
3…イオン液体処理系
4…排水配管
5…第1の有機物処理槽
6…第2の有機物処理槽
7…過剰有機物処理槽
8…溶媒抽出槽
9…イオン液体配管
10…第1の金属イオン除去槽
11…第2の金属イオン除去槽
12…イオン液体再生槽


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質としてイオン液体を貯留し、金属イオンの除去をする金属イオン除去槽と、前記イオン液体中に浸漬されるカソード電極と、前記カソード電極と導通したアノード電極と、を備え、
排水中に含まれる金属イオンを前記イオン液体中に移動させて、前記カソード電極での還元反応により前記金属イオンを還元して金属を回収することを特徴とする排水処理システム。
【請求項2】
さらに、電解質である水溶液を貯留し、前記アノード電極を内部に配置した有機物処理槽を備えることを特徴とする請求項1記載の排水処理システム。
【請求項3】
前記金属イオン除去槽と、前記有機物処理槽との間に配置され、前記排水と前記イオン液体との混合を防止するイオン交換手段を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の排水処理システム。
【請求項4】
さらに、前記イオン液体と前記排水との間で溶質を交換する溶質交換手段を備えることを特徴とする請求項3記載の排水処理システム。
【請求項5】
前記溶質交換手段は、前記イオン液体と水に対する溶質の溶解度の違いを利用して溶質の交換をする溶質交換槽であることを特徴とする請求項4記載の排水処理システム。
【請求項6】
前記溶質交換手段は、水を蒸発させて溶質の交換をする溶媒抽出部であることを特徴とする請求項4記載の排水処理システム。
【請求項7】
前記金属イオン除去槽は、前記有機物処理槽の後流側に設置され、排水中の有機物を除去した後に金属イオンを除去することを特徴とする請求項6記載の排水処理システム。
【請求項8】
前記溶質交換手段は、蒸発させた水から熱エネルギを回収し、その熱エネルギを再び水を蒸発させるエネルギとして利用する熱交換槽を有することを特徴とする請求項6記載の排水処理システム。
【請求項9】
前記水から熱エネルギを回収する熱媒として、金属イオンを電析する際のイオン液体を用いることを特徴とする請求項7記載の排水処理システム。
【請求項10】
前記水から熱エネルギを回収する際に、金属イオン電析の電解質であるイオン液体とも排水とも直接接触させずに、熱のみを伝導する熱媒を用いることを特徴とする請求項7記載の排水処理システム。
【請求項11】
前記アノード電極は光触媒電極であり、電解反応中に前記アノード電極に光を照射することを特徴とする請求項2乃至7のいずれか1項に記載の排水処理システム。
【請求項12】
前記アノード電極は導電性電極であることを特徴とする請求項2乃至7のいずれか1項に記載の排水処理システム。
【請求項13】
前記アノード電極を浸漬する電解液が、イオン液体であることを特徴とする請求項1記載の排水処理システム。
【請求項14】
前記金属イオン除去槽は、複数の電解槽から構成され、各電解槽において、異種金属を析出させることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の排水処理システム。
【請求項15】
前記金属イオン除去槽に配置された各カソード電極に印加する電位を、各電解槽で析出させる金属に応じて設定することを特徴とする請求項11記載の排水処理システム。
【請求項16】
前記複数の電解槽は、互いに連通し、各電解槽にイオン液体を連続的に流通させる構造としたことを特徴とする請求項11記載の排水処理システム。
【請求項17】
前記複数の電解槽は、互いに連通し、各電解槽にイオン液体を連続的に流通させる構造であり、上流のカソード電極から下流のカソード電極までに順に設定する電位を卑な方向とすることを特徴とする請求項12又は13記載の排水処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−245047(P2007−245047A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74027(P2006−74027)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】