排水処理方法
【課題】機能加工剤のように難分解性の物質であっても分解除去が可能な、排水の処理方法を提供する。
【解決手段】次の(i)及び(ii)の工程を含む。(i)排水に対して10kGy以上200kGy以下の線量で放射線を照射する工程、(ii)排水に微生物を混合して、微生物により排水中の有機物を分解させる工程。
【解決手段】次の(i)及び(ii)の工程を含む。(i)排水に対して10kGy以上200kGy以下の線量で放射線を照射する工程、(ii)排水に微生物を混合して、微生物により排水中の有機物を分解させる工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理方法に関するものである。さらに詳しくは、高線量の放射線の照射及び生物処理による排水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維の機能加工剤を含む排水による環境汚染が懸念されている。機能加工剤として用いられる化合物は難分解性のものが多く、中には生体に対する毒性が懸念されている物質も存在するためである。
【0003】
機能加工剤としては、繊維に難燃性を付加するための難燃剤や、繊維の紫外線吸収効率を向上させる紫外線吸収剤等が広く使用されている。難燃剤としては、1,2,5,6,9,10−ヘキサブロモシクロドデカン(以下、「HBCD」と表記する)やデカブロモジフェニルエーテル等の臭素系難燃剤が広く使用されている(例えば非特許文献1を参照)。紫外線吸収剤としては、2−(2H−1,2,3−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロ−2H−1,2,3−ベンゾトリアゾール−2−イル−)フェノール等が用いられている。しかし、ここに例示した物質は、難分解性や生体に対する毒性の懸念のため「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」によって制限されているなど、機能加工剤の多くは、使用制限や環境中への排出の制限が課せられている。
【0004】
このような背景から、繊維工場等から排出される機能加工剤を含有する排水の処理方法が求められている。
【0005】
一方、従来から、排水の処理には、活性汚泥法等に代表される生物処理法や、化学触媒を用いて特定の処理対象物質を分解させたり、凝固剤を用いて処理対象物質を沈殿させて回収させたりする物理化学的処理法等が用いられている。
【0006】
また、排水を放射線で処理する方法も提案されている。非特許文献2及び3では、電子ビームを排水に照射することで、当該処理対象物質の分解をする方法が提案されている。また、非特許文献2では、染料排水に1kGy程度の低線量の電子ビームを照射した後、生物処理を行なう方法も提案されている。
【非特許文献1】「臭素系難燃剤の現在」,臭素科学・環境フォーラム,2006
【非特許文献2】小嶋拓治,「電子ビームを用いた排煙排水処理技術とその実例」,応用物理,2003年,第72巻,第4号,p.405−414
【非特許文献3】呉行正,「環境負荷化合物の分解・除去における放射線の利用」,RADIOSOTOPES,2006年,55,p.163−174
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、機能加工剤を含む排水を処理することが可能な技術は未だ報告が無い。例えば、上記非特許文献2及び3に開示の処理方法は、いずれも分解の容易な物質を処理対象としたものである。つまり、非特許文献2では染料排水が処理対象であるが、染料は易分解性の物質であり、機能加工剤に比べて処理が容易である。また、非特許文献3に開示の処理方法は、生活排水を処理対象としている。生活排水には、機能加工剤ほどの難分解性物質が含有することはない。
【0008】
従って、非特許文献2及び3に開示の処理方法を用いても、難分解性の機能加工剤を処理することは困難である。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、機能加工剤のように難分解性の物質であっても分解除去が可能な、排水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る排水処理方法は、上記課題を解決するために、下記の(i)及び(ii)の工程を含むことを特徴としている:
(i)排水に対して10kGy以上200kGy以下の線量で放射線を照射する工程;
(ii)排水を微生物に分解させる工程。
【0011】
本発明に係る排水処理方法では、上記(i)の工程の後に上記(ii)の工程を行なうことがより好ましい。
【0012】
本発明に係る排水処理方法では、上記放射線としてガンマ線及び電子線のうち少なくとも一方を用いることがより好ましい。
【0013】
本発明に係る排水処理方法では、上記(ii)の工程は、活性汚泥法により行なうことがより好ましい。
【0014】
本発明に係る排水処理方法では、上記(i)の工程では、上記排水に過酸化化合物を添加することがより好ましい。
【0015】
本発明に係る排水処理方法では、上記過酸化化合物は、過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化水素からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物であることがより好ましい。
【0016】
本発明に係る排水処理方法では、上記排水として、難燃剤、紫外線吸収剤及びトリハロメタンからなる群から選ばれる少なくとも一つの物質が含まれる排水を用いることがより好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る排水処理方法は、以上のように、(i)排水に対して10kGy以上200kGy以下の線量で放射線を照射する工程及び(ii)排水を微生物に分解させる工程を含んでいるので、機能加工剤のように難分解性の物質であっても分解除去が可能な、排水処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
<本発明に係る排水処理方法>
本発明に係る排水処理方法は、下記の(i)及び(ii)の工程を含めばよい。
(i)排水に対して10kGy以上200kGy以下の線量で放射線を照射する工程。
(ii)排水を微生物に分解させる工程。
【0019】
本発明に係る排水処理方法は、家庭排水、工場排水等の様々な排水を処理することができる。特に機能加工剤のように難分解性の物質が含まれる排水であっても、当該機能加工剤を分解することで、当該排水を処理することができる。
【0020】
ここで、本明細書において「機能加工剤」とは、繊維に機能を付加するための加工剤を意図する。機能加工剤としては、例えば、上述した難燃剤、紫外線吸収剤の他にも、発汗に対する吸湿性を向上させるための吸湿剤、体の熱を外に逃さないための断熱剤等が挙げられる。なお、染料は、繊維を着色するためのものであり、繊維に新たな機能を付与するものではないので、本明細書における「機能加工剤」の意図するものではないが、本発明に係る排水処理方法を用いても良好に分解することができる。
【0021】
上述の機能加工剤の中でも、難燃剤や紫外線吸収剤等は難分解性である。難燃剤としては、例えば、HBCD、デカブロモジフェニルエーテル、デカブロモ・ジフェニールオキサイド、テトラブロモシクロオクタン等の臭素系難燃剤が挙げられる。また、紫外線吸収剤としては、2−(2H−1,2,3−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロ−2H−1,2,3−ベンゾトリアゾール−2−イル−)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニール)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラハイドロフタルイミド−メチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2−(3−ターシャリーブチル−2−ヒドロキシ−5)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−ターシャリーオクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ・ターシャリーペンチルフェニール)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4−ジ・ターシャリーブチルフェニール3,5−ジ・ターシャリー4−ヒドロキシベンゾエート、4・ターシャリーブチルフェニルサリシレート、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等が挙げられる。しかし、本発明に係る排水処理方法を用いれば、このような難分解性の物質も分解することができる。
【0022】
このように、本発明に係る排水処理方法は、機能加工剤を含む排水処理を目的として好適に用いることができ、さらに難燃剤及び紫外線吸収剤のうち少なくとも一方の機能加工剤を含む排水の処理を目的として好適に用いることができ、中でも臭素系難燃剤を含む排水の処理を目的として好適に用いることができ、特にHBCDを含む排水の処理を目的として好適に用いることができる。
【0023】
また、機能加工剤として用いられる抗菌防カビ剤は、生物処理装置中の微生物を殺したり、活力を低下させたりするため、従来、抗菌防カビ剤を含む排水の有効な処理方法が存在しなかった。しかし、本発明に係る排水処理方法によれば、上記(i)の工程で、抗菌防カビ剤が分解されて、微生物に対する害を少なくなるため、好適に処理することができる。なお、このような抗菌防カビ剤としては、N−ポリオキシエチレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウム塩、ジメチル・フェニル・スルミド、ベンズイミダゾール化合物、チアゾリルスルファミド化合物等が挙げられる。
【0024】
また、本発明では、クロロホルム、ブロモジクロロメタン、クロロジフルオロメタン、ジブロモクロロメタン、ブロモホルム等のトリハロメタンのような難分解性物質も分解することができる。つまり、本発明に係る排水処理方法は、トリハロメタンを含む排水の処理にも好適に用いることができる。
【0025】
〔1.放射線処理工程(上記(i)の工程)〕
上記(i)の工程では、排水に対して10kGy以上200kGy以下の線量で放射線を照射すればよい。以下、(i)の工程を「放射線処理工程」と表記する。
【0026】
放射線処理工程で用いる放射線の種類としては特に限定されるものではなく、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、電子線等、従来公知の放射線を用いればよい。これらは単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0027】
放射線の中でもガンマ線は、簡易に高出力のものを得ることができるため好ましい。ガンマ線を照射するために用いる放射線源は、特に限定されるものではなく、従来公知の放射線源を用いればよい。例えば、60Co、137Cs、192Ir等が挙げられる。中でも60Coは、簡易に高出力のガンマ線を放出することができ、他の放射線源に比べて比較的扱いが簡易であるため好ましい。また、放射線として電子線を用いることも好ましい。ガンマ線と同様に簡易に高出力のものを得ることができるからである。また、電子線は放射性物質を用いずに発生させることができるため、安全性の観点からも好ましい。このように、上記(i)の工程では、放射線としてガンマ線及び電子線のうち少なくとも一方を用いることが特に好ましい。
【0028】
放射線処理工程で照射する放射線の線量は、10kGy以上200kGy以下であれば限定されるものではないが、好ましくは20kGy以上100kGy以下であり、さらに好ましくは30kGy以上100kGy以下である。10kGy以上の高線量の放射線を用いることで、難分解性の物質であっても良好に分解される。200kGy以下とすることで、設備の構造を簡易にすることができる。特にHBCDを良好に分解することができる。
【0029】
従来、難燃剤、紫外線吸収剤、トリハロメタン等の難分解性物質の有効な処理方法は存在しなかった。特にHBCDの有効な処理方法は繊維業界において強く要求されていたにもかかわらず見出されていなかった。しかし、本発明者らは照射する放射線の線量を10kGy以上とすることで、HBCD等の難分解性物質は良好に分解され、さらに後述する(ii)の工程で、当該難分解性物質の分解により生じた生成物を微生物によって分解したり、余剰の当該難分解性物質を微生物に吸着させたりすることで、極めて効率良く難燃剤、紫外線吸収剤、トリハロメタン等の難分解性物質を含む排水を処理できることを見出した。本発明は、このような全く新たな知見に基づく、当業者といえども容易に想到し得ない発明である。
【0030】
放射線処理工程では、排水に、過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化水素等の過酸化化合物や、酸化銅、酸化鉄等の金属の酸化物等を添加してもよい。中でも、過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化水素からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物を添加することが好ましい。過酸化化合物や金属の酸化物を添加することで、さらに難分解性物質の分解効率が向上する。中でも過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化水素は、その強い酸化力や、放射線の照射によって放出されるラジカル等によって、極めて効率的に排水中の物質を分解することができる。これらの化合物の添加量は、排水中の難分解性物質の濃度や、目的とする処理効率に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
放射線処理工程で、放射線を照射するための方法や装置は、排水に放射線を照射可能である限り、特に限定されるものではない。本発明者らは、財団法人日本アイソトープ協会甲賀研究所に設置の放射線装置を用いて放射線を照射した。
【0032】
〔2.生物処理工程(上記(ii)の工程)〕
上記(ii)の工程では、排水に微生物を混合して、微生物により排水中の有機物を分解させればよい。以下、(ii)の工程を「生物処理工程」と表記する。微生物に分解可能な有機物が排水中から除去されることにより、排水の水質を向上させることができる。
【0033】
生物処理工程は放射線処理工程の前後のいずれに行なってもよい。
【0034】
例えば生物処理工程を先に行なえば、生物処理で用いた微生物が放射線処理工程で殺菌されるため、排水処理後の汚泥を、動物試料、肥料、土壌改質剤等として有効利用することができる。
【0035】
また、放射線処理工程を先に行なった後に生物処理工程を行なえば、放射線処理工程で難分解性物質が分解されて、微生物に分解されやすい物質に変化したものについては、これを生物処理工程で分解することができる。これにより、当該難分解性の物質が炭酸ガスやメタンガスにまで完全に分解される効率が向上する。また、放射線処理工程で有害性物質をある程度分解しておけば、当該有害性物質の量が減ることで微生物に対する影響も少なくなる。そのため、生物処理工程で、残存する有害性物質を汚泥や生物膜に物理的に吸着させて除去することも可能となる。そのため、排水の効率的な処理という観点では、放射線処理工程の後に生物処理工程を行なうことが好ましい。
【0036】
生物処理工程は、従来公知の排水の生物処理方法を用いればよい。生物処理方法としては、例えば、標準活性汚泥法、標準曝気法、長時間曝気法、オキシデーションディッチ法、回分法、膜分離活性汚泥法などの活性汚泥法、接触酸化法、散水ろ床法、浸漬ろ床法、回転円板法、流動床法、生物ろ過法などの生物膜法、及び高速酸化池法、通性酸化池法等の安定化池法等の好気的処理が挙げられる。また、嫌気性硝化法、ラグーン法、腐敗槽法、嫌気性ろ床法、嫌気性分解法等の嫌気的処理等が例示できる。これらは、単独で行なってもよく、二種以上の方法を併用してもよい。
【0037】
生物処理工程で用いる微生物としては、特に限定されるものではなく、上述の好気的処理や嫌気的処理で用いる汚泥や生物膜等に含まれる微生物を用いることができる。また、処理対象の排水で馴化した微生物を用いてもよい。当該排水の処理効果をさらに高めることができる。
【0038】
また、生物処理工程に用いた微生物を循環使用することで、当該微生物はさらに処理対象の排水に馴化されるので、さらに処理効果を高めることができる。
【0039】
生物処理工程を行なう温度は、微生物の分解活性が最も高くなるように適宜設定すればよいが、特に15〜35℃が好適である。
【0040】
生物処理工程で活性汚泥法を採用する場合等では、一部の汚泥は再度生物処理工程で用いればよいが、通常、余剰汚泥が発生する。発生した余剰汚泥の処理は特に限定されるものではないが、燃焼により処理することが好ましい。活性汚泥を燃焼することで、分解せずに残存して活性汚泥に吸着した難分解性物質を燃焼によって完全に除去することができる。これにより、排水中に含まれる難分解性物質の除去効果をさらに向上させることができる。
【0041】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0042】
また、本明細書中に記載された学術文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0043】
(HBCD廃液の調整)
本実施例では、HBCDを含有する廃液を処理対象として用いた。当該廃液は以下のようにして調整した。
【0044】
ポリエステル繊維100%織物に対して、難燃剤(HBCD30重量%の水分散液)を水に入れて、130℃で60分間加熱した。この後、残液を採取して分析用HBCD廃液とした。難燃剤は、1.5、8又は15%owfとなるように水に入れた。これにより、HBCD含有量の異なる3種類の分析用HBCD廃液を調整した。得られた3種類の分析用HBCD廃液におけるHBCDの濃度は、45mg/l、240mg/l、450mg/lであった。
【0045】
また、ポリエステル繊維100%織物に対して、難燃剤を用いて難燃加工を行ない、その残液を高濃度HBCD廃液とした。
【0046】
難燃加工は、次のようにして行なった。ポリエステル繊維100%織物に対して、難燃剤(HBCD30重量%の水分散液)15%owf、染色助剤0.6g/l、pH調整剤として酢酸ソーダ1.0g/l、酢酸0.2g/lを混合して、浴比1:50の漕に60分間、130℃で静置した。
【0047】
また、上記高濃度HBCD廃液を水で1/40希釈したものを、低濃度HBCD廃液とした。
【0048】
(放射線処理)
本実施例では、財団法人日本アイソトープ協会甲賀研究所に設置の放射線装置を用いて各HBCD廃液に放射線処理を施した。当該放射線装置の概略構成を図1に示す。図1は本実施例に用いた放射線装置の概略構成を示す図である。
【0049】
図1に示すように放射線装置1は、放射線源保管位置2及びベルトコンベヤー3を備えている。
【0050】
放射線源保管位置2は放射線源を保管する部屋である。ここに放射線源を設置することで、放射線照射領域5で、試料収納箱4に対して放射線が照射される。
【0051】
ベルトコンベヤー3は、放射線を照射する試料を格納した試料収納箱4を運搬するものである。試料収納箱4は図1に示す矢印に従って運搬されて、ベルトコンベヤー3の途中で、放射線照射領域5を通過する間に、放射線が照射される。そして、作業者による回収可能な位置まで試料収納箱4は運搬される。
【0052】
本実施例では、放射線源として60Coを用いた。照射したガンマ線量は30kGy又は100kGyとした。
【0053】
(生物処理)
本実施例では、生物処理を、図2に示す生物処理装置を用いて行なった。図2は本実施例に用いた生物処理装置の概略構成を示す図である。
【0054】
図2に示すように生物処理装置10は、処理漕11、温度調節器12及びエアポンプ13を備えている。
【0055】
処理漕11はヒーター14、温度計15を備えている。処理漕11内には、予め微生物含有スラッジが仕込まれており、排水がこれに混合される。
【0056】
ヒーター14は、温度調節器12に接続されており、温度調節器12によって所定の温度に調節される。そして、ヒーター14によって、処理漕11内の排水は、所定の温度に調整される。排水の温度は温度計15によって測定されて、測定結果に応じて温度調節器12によってヒーター14の温度を調節する。
【0057】
エアポンプ13は処理漕11内の排水を曝気するものである。
【0058】
本実施例では、微生物含有スラッジの固形分の濃度が5000ppmとなるように、排水及び微生物含有スラッジを混合した。処理温度は25〜28℃とした。処理時間は24時間とした。
【0059】
(HBCDの分析)
各HBCD廃液中に含まれるHBCDの含有量は、次のようにして測定した。
【0060】
まず、各HBCD廃液からHBCDを、ジクロロメタンを用いて抽出した。次に、ヘキサン及び濃硫酸によって精製して、ロータリーエバポレーターによって濃縮した。次に、液体クロマトグラフ質量分析(以下、「LC/MS」と表記する)に供した。なお、液体クロマトグラフ質量分析は、液体クロマトグラフ(Hewlett Packard社製、品番HP−1100)及び質量分析計(Thermoelectron社製、TSQ Quantum Discovery)
HBCDには、α−HBCD、β−HBCD、γ−HBCDの3種類の異性体が存在しており、難燃剤として用いるHBCDは当該3種類の異性体の混合物である。よって、LC/MSでは、各異性体の量を、α−HBCD、β−HBCD、γ−HBCD及びγ−HBCD(13C)の標準試薬を用いて測定した。当該標準試薬はいずれも関東化学株式会社より得た。
【0061】
(TOCの測定)
各HBCD廃液中の全有機物炭素量(Total Organic Carbon、「TOC」と表記する)の測定は、JIS K0102法により測定した。
【0062】
具体的には、各HBCD廃液を燃焼させて、燃焼により生じたガス中の炭酸ガスの濃度を、赤外線式ガス分析計(島津製作所社製、品番TOC−5000A)を用いて測定した。
【0063】
(CODの測定)
各HBCD廃液の化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand、「COD」と表記する)の測定は、JIS K0102法により測定した。
【0064】
具体的には、次のようにして行なった。まず、各HBCD廃液に2クロム酸カリウム及び硫酸を加えて、還流冷却器を用いて2時間煮沸した。次に、消費された2クロム酸カリウムの量を滴定により測定して、当該2クロム酸カリウムの消費量に相当する酸素の量でCODを示した。
【0065】
一般には、2クロム酸カリウムの代わりに二酸化マンガンを用いることが多いが、二酸化マンガンではHBCDを完全に酸化することはできない。そのため、本実施例では2クロム酸カリウムを用いた。
【0066】
(BODの測定)
各HBCD廃液の生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand、「BOD」と表記する)の測定は、JIS K0102法により測定した。以下の実施例では、好気性微生物が20℃、5日間に消費する溶存酸素量を、測定結果として示した。
【0067】
(Brイオン濃度の測定)
各HBCD廃液中のBrイオン濃度の測定は、次のようにして行なった。まず、各HBCD廃液を濾過した後、液体クロマトグラフィー(東ソー株式会社製、品番IC−8020)を用いて分離した。次に、予め作成したBrイオン濃度とピークとの関係を示す検量線を用いて、検出されたBrイオンのピークからBrイオン濃度を算出した。
【0068】
〔実施例1:低濃度HBCD廃液に対する放射線照射〕
低濃度HBCD廃液に対して100kGyの放射線で放射線処理した後の廃液中のHBCDの分解挙動、及び放射線処理後に生物処理を行なった廃液中のHBCDの分解挙動を確認した。結果を表1、図3及び4に示す。表1には、比較のため放射線処理を行なう前の低濃度HBCD廃液中の、HBCDの各異性体の濃度も示す。なお、表1の「減少率」とは、放射線処理、又は放射線処理及び生物処理によって、減少したHBCDの濃度を、未処理の廃液中のHBCD濃度で割り100を乗じた値である。
【0069】
【表1】
【0070】
また、図3は、低濃度HBCD廃液に対して100kGyの放射線で放射線処理した結果を示す図であり、表1に示す各異性体の濃度の数値に対応している。図4は、低濃度HBCD廃液に対して100kGyの放射線で放射線処理して、α−HBCD及びβ−HBCDの分解挙動を確認した結果を示す図であり、表1に示すα−HBCD及びβ−HBCDの濃度の数値に対応している。図3及び4共に、縦軸はHBCDの濃度(mg/l)を示し、横軸は処理内容を示し、黒三角はα−HBCD、白四角はβ−HBCDの結果を示す。さらに図3では黒四角はγ−HBCDの結果を示し、黒丸は全異性体の合計の値を示す。つまり、100gKyで放射線を照射した放射線処理のみを施した廃液を「100」と示し、さらに生物処理を施した廃液を「100B」と示す。なお、図3及び4では、100と100Bとが同じ横軸上に記載されているが、100Bが100より大きい数値であることを示しているのではない。図3及び4のように並べて記載した方が見やすいので、横軸上に並べて記載している。そして、破断記号によって、100と100Bとは、数値としての大小を意図しないことを示している。
【0071】
HBCDは上述のように3種類の異性体の混合物である。本実施例に用いたHBCDでは、表1に示すように、γ体が約87%、α体が約10%、β体が約3%の構成であることが確認できた。
【0072】
また、表1、図3及び図4に示すように、100kGyの線量で放射線を照射することで、全HBCDの72.5%が分解できたことが確認できた。また、3種類の異性体の割合は、γ体が98.8%に増加、α体が1.7%に大きく減少、β体が1.5%に減少したことが確認できた。この結果から、放射線処理では、α体が最も分解されやすく、次いで、β体、γ体の順に分解されやすいことが確認できた。これは、表1に示すように、α体、β体、γ体のそれぞれの減少率が、順に、95.4%、85.5%、71.4%であることからも確認できる。
【0073】
100kGyの放射線による放射線処理後に生物処理を行なうと、α体はさらに3.4%減少して、減少率は98.8%になった。β体は12.5%減少して、減少率は98.0%になった。γ体は26.5%減少して、減少率は97.9%になった。これは、γ体は水に対する溶解度が大きいため、生物処理による効果が大きく、α体は水に対する溶解度が小さいため、γ体に比べて生物処理による効果は小さくなったためと考えられる。
【0074】
さらに、表1に示すように、生物処理によってHBCDの25.5%が除去された。この生物処理によるHBCDの減少の効果は、次の理由により得られたと考えられる。つまり、生物処理により、難燃剤に含まれていたHBCDの分散剤等の界面活性剤が消化されて、HBCDが分散できなくなって沈降したり、HBCDがスラッジに吸着されてスラッジと共に濾過されたりしたものと考えられる。なお、このスラッジは焼却処理されるため、環境中に曝露されることがない。
【0075】
以上の結果から、100kGyの放射線による放射線処理と生物処理とを併用することで98%のHBCDが除去されるという極めて良好な結果を得ることができた。
【0076】
〔実施例2:HBCDの濃度とTOCとの関係〕
HBCDの濃度の測定は、非常に作業が煩雑であり、時間及びコストもかかる。そこで、廃液中のHBCDの濃度を示す指標としてTOCを用いることができないか検討した。
【0077】
3種類の濃度の分析用HBCD廃液に対して、TOCを測定した結果を図5に示す。図5は分析用HBCD廃液のTOCを測定した結果を示す図であり、縦軸はTOC(mg/l)を示し、横軸はHBCD濃度(mg/l)を示す。
【0078】
図5に示すように、HBCDの濃度とTOCとの関係は直線関係にあることが確認できた。これにより、TOCは、HBCDの濃度を示す指標の一つとして有用であることが確認できた。
【0079】
次に、高濃度HBCD廃液及び低濃度HBCD廃液に、放射線処理、又は放射線処理後さらに生物処理を施した後のTOCを測定した。この結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
また、表2に示す数値のうち、高濃度HBCD廃液のTOC値を図6に示す。図6は高濃度HBCD廃液のTOCを測定した結果を示す図であり、縦軸はTOC(mg/l)を示し、横軸は放射線照射量(kGy)を示し、黒丸は放射線処理のみを行なった結果を示し、黒四角は放射線処理後に生物処理を行なった結果を示す。
【0082】
表2及び図6に示すように、高濃度HBCD廃液に対して、放射線処理後さらに生物処理を施した場合、放射線処理のみを施した場合に比べて、TOCの減少が平均して230mg/l程度である。一方、低濃度HBCD廃液を用いた場合、TOCは良好に減少した。これは、放射線によってHBCDの多くはメタンや炭酸ガスにまで良好に分解されたことを示している。表2に示すように100kGyで放射線を照射した場合、TOCは検出限界まで減少した。なお、低濃度HBCD廃液を放射線処理及び生物処理した後のTOCは、検出限界以下となり、測定が困難であったため表に示していない。つまり、低濃度HBCD廃液に放射線処理及び生物処理を行なうことでTOCは極めて小さい値となり、HBCDはほぼ完全に分解除去されたことが本実施例からも示された。
【0083】
以上の結果から、低濃度HBCD廃液と高濃度HBCD廃液とでは、分解挙動が異なっていることが推定される。
【0084】
〔実施例3:HBCDの濃度とCODとの関係〕
実施例2にも記載のように、HBCDの濃度の測定は、非常に作業が煩雑であり、時間及びコストもかかる。そこで、廃液中のHBCDの濃度を示す指標としてCODを用いることができないか検討した。
【0085】
3種類の濃度の分析用HBCD廃液におけるCODを測定した結果を図7に示す。図7は分析用HBCD廃液のCODを測定した結果を示す図であり、縦軸はCOD(mg/l)を示し、横軸はHBCD濃度(mg/l)を示す。
【0086】
図7に示すように、HBCDの濃度とCODとの関係は直線関係にあることが確認できた。これにより、CODは、HBCDの濃度を示す指標の一つとして有用であることが確認できた。
【0087】
次に、高濃度HBCD廃液及び低濃度HBCD廃液に、放射線処理、又は放射線処理後さらに生物処理を施した後のCODを測定した。この結果を表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
また、表3に示す数値のうち、高濃度HBCD廃液のCOD値を図8に示す。図8は高濃度HBCD廃液のCODを測定した結果を示す図であり、縦軸はCOD(mg/l)を示し、横軸は放射線照射量(kGy)を示し、黒丸は放射線処理のみを行なった結果を示し、黒四角は放射線処理後に生物処理を行なった結果を示す。
【0090】
また、表3に示す数値のうち、低濃度HBCD廃液のCOD値を図9に示す。図9は低濃度HBCD廃液CODを測定した結果示す図であり、縦軸はCOD(mg/l)を示し、横軸は放射線照射量(kGy)を示す。
【0091】
表3及び図8に示すように、高濃度HBCD廃液に対して、放射線処理を施すことでCODは減少し、100kGyで放射線を照射した場合、放射線処理前に比べて20%減少して1800mg/lとなった。さらに生物処理することで、放射線処理前に比べて50%減少して、1150mg/lとなった。実際に排水処理施設から放出するときは、さらに1/40希釈する場合が多いことを勘案すると、CODは29mg/lとなるため、良好な結果であるといえる。
【0092】
表3及び図9に示すように、低濃度HBCD廃液に対して、100kGyの線量で放射線処理を施すと、CODがゼロに近くなった。低濃度HBCD廃液は、実際のHBCD廃液の濃度に近い廃液である。この低濃度HBCD廃液に対して、CODをゼロ近くまで減少させたことは、当該放射線処理が、HBCDの分解処理に極めて有効であること示している。上述の表1でも示したとおり、低濃度HBCD廃液に100kGyで放射線処理を施した場合、残留するHBCDは1.1mg/lであった。これはCODが検出限界以下であったことと相関している。なお、低濃度HBCD廃液を放射線処理及び生物処理した後のCODは、検出限界以下となり、測定が困難であったため表に示していない。つまり、低濃度HBCD廃液に放射線処理及び生物処理を行なうことでCODは極めて小さい値となり、HBCDはほぼ完全に分解除去されたことが本実施例からも示された。
【0093】
以上のことから、HBCDを含む排水を放射線処理する場合は、低濃度の排水を用いることが、高濃度の排水を用いるより効率的な処理が可能であることが示された。
【0094】
〔実施例4:HBCDの濃度とBODとの関係〕
BODは、水質を示す指標の一つとして広く使用されているものであり、微生物が消化できる有機物を評価する指標である。つまり、BODでは、微生物が消化できない有機物を評価できない。
【0095】
本実施例では、HBCD廃液のBODが放射線処理によってどのように変化するか調査した。具体的には、高濃度HBCD廃液及び低濃度HBCD廃液に、放射線処理、又は放射線処理後さらに生物処理を施した後のBODを測定した。この結果を表4に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
また、表4に示す数値のうち、高濃度HBCD廃液のBOD値を図10に示す。図10は高濃度HBCD廃液のBODを測定した結果を示す図であり、縦軸はBOD(mg/l)を示し、横軸は放射線照射量(kGy)を示し、黒丸は放射線処理のみを行なった結果を示し、黒四角は放射線処理後に生物処理を行なった結果を示す。
【0098】
表4及び図10に示すように、高濃度HBCD廃液に対して放射線処理を施すと、30kGyで放射線処理した場合、BODは470mg/lまで大きく減少する。100kGyで放射線処理した場合、BODは440mg/lであり、30kGyの場合から若干減少した程度である。しかし、さらに生物処理を施すことで、BODは大きく減少して68mg/lとなった。微生物により消化できる有機物の処理では、放射線処理より生物処理の方が、優れた効果を得ることができることが示された。
【0099】
また、高濃度HBCD廃液に対して、放射線を照射せずに生物処理を施した場合、BODは68mg/lであったが、30kGyで放射線を照射した後に生物処理を施した場合、BODは14mg/lと低い値となった。このことから、放射線の照射によって、微生物による処理の効率を向上させることができることが示された。
【0100】
なお、低濃度HBCD廃液に含まれるHBCDやその他の有機物の量は少ないため、低濃度HBCD廃液のBODの誤差は大きくなるが、参考のため表4に、低濃度HBCD廃液を放射線処理した結果を示した。低濃度HBCD廃液に対して放射線処理を施した場合、放射線の線量が増加するに伴いBODは減少して、100gKyでは検出限界以下となった。なお、低濃度HBCD廃液を放射線処理及び生物処理した後のBODは、検出限界以下となり、測定が困難であったため表に示していない。つまり、低濃度HBCD廃液に放射線処理及び生物処理を行なうことでBODは極めて小さい値となり、HBCDはほぼ完全に分解除去されたことが本実施例からも示された。
【0101】
〔実施例5:HBCD廃液の処理によるBrイオンの挙動〕
HBCDに放射線を照射して分解するとBrイオンが発生するものと考えられる。そこで、HBCD廃液の処理に伴うBrイオンの挙動を確認した。具体的には、高濃度HBCD廃液及び低濃度HBCD廃液に、放射線処理、又は放射線処理後さらに生物処理を施した後のBrイオン濃度を測定した。この結果を表5に示す。
【0102】
【表5】
【0103】
また、表5に示す数値のうち、高濃度HBCD廃液のBrイオン濃度を図11に示す。図11は高濃度HBCD廃液のBrイオン濃度を測定した結果を示す図であり、縦軸はBrイオン濃度(mg/l)を示し、横軸は放射線照射量(kGy)を示し、黒丸は放射線処理のみを行なった結果を示し、黒四角は放射線処理後に生物処理を行なった結果を示す。
【0104】
また、表5に示す数値のうち、低濃度HBCD廃液のBrイオン濃度を図12に示す。図12は低濃度HBCD廃液のBrイオン濃度を測定した結果を示す図であり、縦軸はBrイオン濃度(mg/l)を示し、横軸は放射線照射量(kGy)を示し、黒丸は放射線処理のみを行なった結果を示し、黒四角は放射線処理後に生物処理を行なった結果を示す。
【0105】
表5及び図11に示すように、高濃度HBCD廃液に対して、照射する放射線の線量が大きくなるに伴い、Brイオン濃度は大きくなる。さらに、図11に示すように、100kGyの線量で放射線処理をした場合のBrイオン濃度の値は平衡値であるといえる。
【0106】
また、表5及び図12に示すように、低濃度HBCD廃液に対して、照射する放射線の線量が大きくなるに伴い、Brイオン濃度は大きくなる。そして高濃度HBCD廃液の場合と同様に、100kGyの線量で放射線処理をした場合のBrイオン濃度の値は平衡値であるといえる。表1にも示したように、低濃度HBCD廃液を、100kGyの線量で放射線処理するとHBCDの濃度は大きく減少する。このことからも、図12における100kGyでのBrイオン濃度の値は平衡値に近いものであるといえる。
【0107】
つまり、表5、図11及び12から、Brイオンの発生状況を確認することでHBCDの分解状況を予想することができるといえる。ただし、廃液中のBrイオン濃度を測定しても、当該廃液中には部分分解したHBCDも含まれているので、残存するHBCDの量を測定したことにはならない。
【0108】
表5、図11及び12に示すように、生物処理の前後ではBrイオン濃度の値はほとんど変化がない。これは、放射線処理によって部分的に分解されたHBCDから、生物処理によってBrイオンが発生することはないことが理由として考えられる。なお、放射線を照射していないHBCD廃液では、生物処理によってもBrイオン濃度は増加しない。これは、生物処理ではHBCDの分解は困難であることを示している。
【0109】
〔参考例1:高濃度HBCD廃液の処理〕
実施例1で示したように、低濃度HBCD廃液の処理では、良好にHBCDが分解された。一方、実際にHBCDが含有される排水を処理する場合、大量の排水を処理する必要がある。そして、HBCDの濃度が高い排水を処理することが可能であれば、処理対象の水量を少なくすることができる。処理対象の水量を少なくすることができれば、設備を小規模にすることができる。
【0110】
そこで、本実施例では、放射線処理を施した後の高濃度HBCD廃液に残留するHBCDの濃度を測定した。その結果を表6に示す。
【0111】
【表6】
【0112】
なお、表6において「予測値」とは、低濃度HBCD廃液に放射線処理のみを施した場合における、残留HBCD濃度に40を乗じた値である。当該残留HBCD濃度は表1にしめした値である。低濃度HBCD廃液は、高濃度HBCD廃液を1/40に希釈したものであるため、低濃度HBCD廃液における放射線処理後のHBCD濃度の40倍を予測値としたものである。
【0113】
表6に示すように、高濃度HBCD廃液に放射線処理を施した場合、実測値は予測値よりも小さい値であった。このことは高濃度HBCD廃液に放射線処理を施しても、HBCDの分解が進んだことを示している。
【0114】
この結果は、高濃度HBCD廃液に放射線処理を施した後に、さらに生物処理を施せば、低濃度HBCD廃液のときと同様に、極めて効率よくHBCDを分解除去することが可能であることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、以上のように排水中の難分解性物質、特にHBCD等の機能加工剤を効率的に分解して除去することができるため、繊維産業における排水処理に特に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の実施例に用いた放射線装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例に用いた生物処理装置の概略構成を示す図である。
【図3】低濃度HBCD廃液に対して100kGyの放射線で放射線処理した結果を示す図である。
【図4】低濃度HBCD廃液に対して100kGyの放射線で放射線処理して、α−HBCD及びβ−HBCDの分解挙動を確認した結果を示す図である。
【図5】分析用HBCD廃液のTOCを測定した結果を示す図である。
【図6】高濃度HBCD廃液のTOCを測定した結果を示す図である。
【図7】分析用HBCD廃液のCODを測定した結果を示す図である。
【図8】高濃度HBCD廃液のCODを測定した結果を示す図である。
【図9】低濃度HBCD廃液のCODを測定した結果を示す図である。
【図10】高濃度HBCD廃液のBODを測定した結果を示す図である。
【図11】高濃度HBCD廃液のBrイオン濃度を測定した結果を示す図である。
【図12】低濃度HBCD廃液のBrイオン濃度を測定した結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理方法に関するものである。さらに詳しくは、高線量の放射線の照射及び生物処理による排水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維の機能加工剤を含む排水による環境汚染が懸念されている。機能加工剤として用いられる化合物は難分解性のものが多く、中には生体に対する毒性が懸念されている物質も存在するためである。
【0003】
機能加工剤としては、繊維に難燃性を付加するための難燃剤や、繊維の紫外線吸収効率を向上させる紫外線吸収剤等が広く使用されている。難燃剤としては、1,2,5,6,9,10−ヘキサブロモシクロドデカン(以下、「HBCD」と表記する)やデカブロモジフェニルエーテル等の臭素系難燃剤が広く使用されている(例えば非特許文献1を参照)。紫外線吸収剤としては、2−(2H−1,2,3−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロ−2H−1,2,3−ベンゾトリアゾール−2−イル−)フェノール等が用いられている。しかし、ここに例示した物質は、難分解性や生体に対する毒性の懸念のため「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」によって制限されているなど、機能加工剤の多くは、使用制限や環境中への排出の制限が課せられている。
【0004】
このような背景から、繊維工場等から排出される機能加工剤を含有する排水の処理方法が求められている。
【0005】
一方、従来から、排水の処理には、活性汚泥法等に代表される生物処理法や、化学触媒を用いて特定の処理対象物質を分解させたり、凝固剤を用いて処理対象物質を沈殿させて回収させたりする物理化学的処理法等が用いられている。
【0006】
また、排水を放射線で処理する方法も提案されている。非特許文献2及び3では、電子ビームを排水に照射することで、当該処理対象物質の分解をする方法が提案されている。また、非特許文献2では、染料排水に1kGy程度の低線量の電子ビームを照射した後、生物処理を行なう方法も提案されている。
【非特許文献1】「臭素系難燃剤の現在」,臭素科学・環境フォーラム,2006
【非特許文献2】小嶋拓治,「電子ビームを用いた排煙排水処理技術とその実例」,応用物理,2003年,第72巻,第4号,p.405−414
【非特許文献3】呉行正,「環境負荷化合物の分解・除去における放射線の利用」,RADIOSOTOPES,2006年,55,p.163−174
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、機能加工剤を含む排水を処理することが可能な技術は未だ報告が無い。例えば、上記非特許文献2及び3に開示の処理方法は、いずれも分解の容易な物質を処理対象としたものである。つまり、非特許文献2では染料排水が処理対象であるが、染料は易分解性の物質であり、機能加工剤に比べて処理が容易である。また、非特許文献3に開示の処理方法は、生活排水を処理対象としている。生活排水には、機能加工剤ほどの難分解性物質が含有することはない。
【0008】
従って、非特許文献2及び3に開示の処理方法を用いても、難分解性の機能加工剤を処理することは困難である。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、機能加工剤のように難分解性の物質であっても分解除去が可能な、排水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る排水処理方法は、上記課題を解決するために、下記の(i)及び(ii)の工程を含むことを特徴としている:
(i)排水に対して10kGy以上200kGy以下の線量で放射線を照射する工程;
(ii)排水を微生物に分解させる工程。
【0011】
本発明に係る排水処理方法では、上記(i)の工程の後に上記(ii)の工程を行なうことがより好ましい。
【0012】
本発明に係る排水処理方法では、上記放射線としてガンマ線及び電子線のうち少なくとも一方を用いることがより好ましい。
【0013】
本発明に係る排水処理方法では、上記(ii)の工程は、活性汚泥法により行なうことがより好ましい。
【0014】
本発明に係る排水処理方法では、上記(i)の工程では、上記排水に過酸化化合物を添加することがより好ましい。
【0015】
本発明に係る排水処理方法では、上記過酸化化合物は、過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化水素からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物であることがより好ましい。
【0016】
本発明に係る排水処理方法では、上記排水として、難燃剤、紫外線吸収剤及びトリハロメタンからなる群から選ばれる少なくとも一つの物質が含まれる排水を用いることがより好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る排水処理方法は、以上のように、(i)排水に対して10kGy以上200kGy以下の線量で放射線を照射する工程及び(ii)排水を微生物に分解させる工程を含んでいるので、機能加工剤のように難分解性の物質であっても分解除去が可能な、排水処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
<本発明に係る排水処理方法>
本発明に係る排水処理方法は、下記の(i)及び(ii)の工程を含めばよい。
(i)排水に対して10kGy以上200kGy以下の線量で放射線を照射する工程。
(ii)排水を微生物に分解させる工程。
【0019】
本発明に係る排水処理方法は、家庭排水、工場排水等の様々な排水を処理することができる。特に機能加工剤のように難分解性の物質が含まれる排水であっても、当該機能加工剤を分解することで、当該排水を処理することができる。
【0020】
ここで、本明細書において「機能加工剤」とは、繊維に機能を付加するための加工剤を意図する。機能加工剤としては、例えば、上述した難燃剤、紫外線吸収剤の他にも、発汗に対する吸湿性を向上させるための吸湿剤、体の熱を外に逃さないための断熱剤等が挙げられる。なお、染料は、繊維を着色するためのものであり、繊維に新たな機能を付与するものではないので、本明細書における「機能加工剤」の意図するものではないが、本発明に係る排水処理方法を用いても良好に分解することができる。
【0021】
上述の機能加工剤の中でも、難燃剤や紫外線吸収剤等は難分解性である。難燃剤としては、例えば、HBCD、デカブロモジフェニルエーテル、デカブロモ・ジフェニールオキサイド、テトラブロモシクロオクタン等の臭素系難燃剤が挙げられる。また、紫外線吸収剤としては、2−(2H−1,2,3−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロ−2H−1,2,3−ベンゾトリアゾール−2−イル−)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニール)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラハイドロフタルイミド−メチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2−(3−ターシャリーブチル−2−ヒドロキシ−5)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−ターシャリーオクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ・ターシャリーペンチルフェニール)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4−ジ・ターシャリーブチルフェニール3,5−ジ・ターシャリー4−ヒドロキシベンゾエート、4・ターシャリーブチルフェニルサリシレート、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等が挙げられる。しかし、本発明に係る排水処理方法を用いれば、このような難分解性の物質も分解することができる。
【0022】
このように、本発明に係る排水処理方法は、機能加工剤を含む排水処理を目的として好適に用いることができ、さらに難燃剤及び紫外線吸収剤のうち少なくとも一方の機能加工剤を含む排水の処理を目的として好適に用いることができ、中でも臭素系難燃剤を含む排水の処理を目的として好適に用いることができ、特にHBCDを含む排水の処理を目的として好適に用いることができる。
【0023】
また、機能加工剤として用いられる抗菌防カビ剤は、生物処理装置中の微生物を殺したり、活力を低下させたりするため、従来、抗菌防カビ剤を含む排水の有効な処理方法が存在しなかった。しかし、本発明に係る排水処理方法によれば、上記(i)の工程で、抗菌防カビ剤が分解されて、微生物に対する害を少なくなるため、好適に処理することができる。なお、このような抗菌防カビ剤としては、N−ポリオキシエチレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウム塩、ジメチル・フェニル・スルミド、ベンズイミダゾール化合物、チアゾリルスルファミド化合物等が挙げられる。
【0024】
また、本発明では、クロロホルム、ブロモジクロロメタン、クロロジフルオロメタン、ジブロモクロロメタン、ブロモホルム等のトリハロメタンのような難分解性物質も分解することができる。つまり、本発明に係る排水処理方法は、トリハロメタンを含む排水の処理にも好適に用いることができる。
【0025】
〔1.放射線処理工程(上記(i)の工程)〕
上記(i)の工程では、排水に対して10kGy以上200kGy以下の線量で放射線を照射すればよい。以下、(i)の工程を「放射線処理工程」と表記する。
【0026】
放射線処理工程で用いる放射線の種類としては特に限定されるものではなく、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、電子線等、従来公知の放射線を用いればよい。これらは単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0027】
放射線の中でもガンマ線は、簡易に高出力のものを得ることができるため好ましい。ガンマ線を照射するために用いる放射線源は、特に限定されるものではなく、従来公知の放射線源を用いればよい。例えば、60Co、137Cs、192Ir等が挙げられる。中でも60Coは、簡易に高出力のガンマ線を放出することができ、他の放射線源に比べて比較的扱いが簡易であるため好ましい。また、放射線として電子線を用いることも好ましい。ガンマ線と同様に簡易に高出力のものを得ることができるからである。また、電子線は放射性物質を用いずに発生させることができるため、安全性の観点からも好ましい。このように、上記(i)の工程では、放射線としてガンマ線及び電子線のうち少なくとも一方を用いることが特に好ましい。
【0028】
放射線処理工程で照射する放射線の線量は、10kGy以上200kGy以下であれば限定されるものではないが、好ましくは20kGy以上100kGy以下であり、さらに好ましくは30kGy以上100kGy以下である。10kGy以上の高線量の放射線を用いることで、難分解性の物質であっても良好に分解される。200kGy以下とすることで、設備の構造を簡易にすることができる。特にHBCDを良好に分解することができる。
【0029】
従来、難燃剤、紫外線吸収剤、トリハロメタン等の難分解性物質の有効な処理方法は存在しなかった。特にHBCDの有効な処理方法は繊維業界において強く要求されていたにもかかわらず見出されていなかった。しかし、本発明者らは照射する放射線の線量を10kGy以上とすることで、HBCD等の難分解性物質は良好に分解され、さらに後述する(ii)の工程で、当該難分解性物質の分解により生じた生成物を微生物によって分解したり、余剰の当該難分解性物質を微生物に吸着させたりすることで、極めて効率良く難燃剤、紫外線吸収剤、トリハロメタン等の難分解性物質を含む排水を処理できることを見出した。本発明は、このような全く新たな知見に基づく、当業者といえども容易に想到し得ない発明である。
【0030】
放射線処理工程では、排水に、過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化水素等の過酸化化合物や、酸化銅、酸化鉄等の金属の酸化物等を添加してもよい。中でも、過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化水素からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物を添加することが好ましい。過酸化化合物や金属の酸化物を添加することで、さらに難分解性物質の分解効率が向上する。中でも過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化水素は、その強い酸化力や、放射線の照射によって放出されるラジカル等によって、極めて効率的に排水中の物質を分解することができる。これらの化合物の添加量は、排水中の難分解性物質の濃度や、目的とする処理効率に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
放射線処理工程で、放射線を照射するための方法や装置は、排水に放射線を照射可能である限り、特に限定されるものではない。本発明者らは、財団法人日本アイソトープ協会甲賀研究所に設置の放射線装置を用いて放射線を照射した。
【0032】
〔2.生物処理工程(上記(ii)の工程)〕
上記(ii)の工程では、排水に微生物を混合して、微生物により排水中の有機物を分解させればよい。以下、(ii)の工程を「生物処理工程」と表記する。微生物に分解可能な有機物が排水中から除去されることにより、排水の水質を向上させることができる。
【0033】
生物処理工程は放射線処理工程の前後のいずれに行なってもよい。
【0034】
例えば生物処理工程を先に行なえば、生物処理で用いた微生物が放射線処理工程で殺菌されるため、排水処理後の汚泥を、動物試料、肥料、土壌改質剤等として有効利用することができる。
【0035】
また、放射線処理工程を先に行なった後に生物処理工程を行なえば、放射線処理工程で難分解性物質が分解されて、微生物に分解されやすい物質に変化したものについては、これを生物処理工程で分解することができる。これにより、当該難分解性の物質が炭酸ガスやメタンガスにまで完全に分解される効率が向上する。また、放射線処理工程で有害性物質をある程度分解しておけば、当該有害性物質の量が減ることで微生物に対する影響も少なくなる。そのため、生物処理工程で、残存する有害性物質を汚泥や生物膜に物理的に吸着させて除去することも可能となる。そのため、排水の効率的な処理という観点では、放射線処理工程の後に生物処理工程を行なうことが好ましい。
【0036】
生物処理工程は、従来公知の排水の生物処理方法を用いればよい。生物処理方法としては、例えば、標準活性汚泥法、標準曝気法、長時間曝気法、オキシデーションディッチ法、回分法、膜分離活性汚泥法などの活性汚泥法、接触酸化法、散水ろ床法、浸漬ろ床法、回転円板法、流動床法、生物ろ過法などの生物膜法、及び高速酸化池法、通性酸化池法等の安定化池法等の好気的処理が挙げられる。また、嫌気性硝化法、ラグーン法、腐敗槽法、嫌気性ろ床法、嫌気性分解法等の嫌気的処理等が例示できる。これらは、単独で行なってもよく、二種以上の方法を併用してもよい。
【0037】
生物処理工程で用いる微生物としては、特に限定されるものではなく、上述の好気的処理や嫌気的処理で用いる汚泥や生物膜等に含まれる微生物を用いることができる。また、処理対象の排水で馴化した微生物を用いてもよい。当該排水の処理効果をさらに高めることができる。
【0038】
また、生物処理工程に用いた微生物を循環使用することで、当該微生物はさらに処理対象の排水に馴化されるので、さらに処理効果を高めることができる。
【0039】
生物処理工程を行なう温度は、微生物の分解活性が最も高くなるように適宜設定すればよいが、特に15〜35℃が好適である。
【0040】
生物処理工程で活性汚泥法を採用する場合等では、一部の汚泥は再度生物処理工程で用いればよいが、通常、余剰汚泥が発生する。発生した余剰汚泥の処理は特に限定されるものではないが、燃焼により処理することが好ましい。活性汚泥を燃焼することで、分解せずに残存して活性汚泥に吸着した難分解性物質を燃焼によって完全に除去することができる。これにより、排水中に含まれる難分解性物質の除去効果をさらに向上させることができる。
【0041】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0042】
また、本明細書中に記載された学術文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0043】
(HBCD廃液の調整)
本実施例では、HBCDを含有する廃液を処理対象として用いた。当該廃液は以下のようにして調整した。
【0044】
ポリエステル繊維100%織物に対して、難燃剤(HBCD30重量%の水分散液)を水に入れて、130℃で60分間加熱した。この後、残液を採取して分析用HBCD廃液とした。難燃剤は、1.5、8又は15%owfとなるように水に入れた。これにより、HBCD含有量の異なる3種類の分析用HBCD廃液を調整した。得られた3種類の分析用HBCD廃液におけるHBCDの濃度は、45mg/l、240mg/l、450mg/lであった。
【0045】
また、ポリエステル繊維100%織物に対して、難燃剤を用いて難燃加工を行ない、その残液を高濃度HBCD廃液とした。
【0046】
難燃加工は、次のようにして行なった。ポリエステル繊維100%織物に対して、難燃剤(HBCD30重量%の水分散液)15%owf、染色助剤0.6g/l、pH調整剤として酢酸ソーダ1.0g/l、酢酸0.2g/lを混合して、浴比1:50の漕に60分間、130℃で静置した。
【0047】
また、上記高濃度HBCD廃液を水で1/40希釈したものを、低濃度HBCD廃液とした。
【0048】
(放射線処理)
本実施例では、財団法人日本アイソトープ協会甲賀研究所に設置の放射線装置を用いて各HBCD廃液に放射線処理を施した。当該放射線装置の概略構成を図1に示す。図1は本実施例に用いた放射線装置の概略構成を示す図である。
【0049】
図1に示すように放射線装置1は、放射線源保管位置2及びベルトコンベヤー3を備えている。
【0050】
放射線源保管位置2は放射線源を保管する部屋である。ここに放射線源を設置することで、放射線照射領域5で、試料収納箱4に対して放射線が照射される。
【0051】
ベルトコンベヤー3は、放射線を照射する試料を格納した試料収納箱4を運搬するものである。試料収納箱4は図1に示す矢印に従って運搬されて、ベルトコンベヤー3の途中で、放射線照射領域5を通過する間に、放射線が照射される。そして、作業者による回収可能な位置まで試料収納箱4は運搬される。
【0052】
本実施例では、放射線源として60Coを用いた。照射したガンマ線量は30kGy又は100kGyとした。
【0053】
(生物処理)
本実施例では、生物処理を、図2に示す生物処理装置を用いて行なった。図2は本実施例に用いた生物処理装置の概略構成を示す図である。
【0054】
図2に示すように生物処理装置10は、処理漕11、温度調節器12及びエアポンプ13を備えている。
【0055】
処理漕11はヒーター14、温度計15を備えている。処理漕11内には、予め微生物含有スラッジが仕込まれており、排水がこれに混合される。
【0056】
ヒーター14は、温度調節器12に接続されており、温度調節器12によって所定の温度に調節される。そして、ヒーター14によって、処理漕11内の排水は、所定の温度に調整される。排水の温度は温度計15によって測定されて、測定結果に応じて温度調節器12によってヒーター14の温度を調節する。
【0057】
エアポンプ13は処理漕11内の排水を曝気するものである。
【0058】
本実施例では、微生物含有スラッジの固形分の濃度が5000ppmとなるように、排水及び微生物含有スラッジを混合した。処理温度は25〜28℃とした。処理時間は24時間とした。
【0059】
(HBCDの分析)
各HBCD廃液中に含まれるHBCDの含有量は、次のようにして測定した。
【0060】
まず、各HBCD廃液からHBCDを、ジクロロメタンを用いて抽出した。次に、ヘキサン及び濃硫酸によって精製して、ロータリーエバポレーターによって濃縮した。次に、液体クロマトグラフ質量分析(以下、「LC/MS」と表記する)に供した。なお、液体クロマトグラフ質量分析は、液体クロマトグラフ(Hewlett Packard社製、品番HP−1100)及び質量分析計(Thermoelectron社製、TSQ Quantum Discovery)
HBCDには、α−HBCD、β−HBCD、γ−HBCDの3種類の異性体が存在しており、難燃剤として用いるHBCDは当該3種類の異性体の混合物である。よって、LC/MSでは、各異性体の量を、α−HBCD、β−HBCD、γ−HBCD及びγ−HBCD(13C)の標準試薬を用いて測定した。当該標準試薬はいずれも関東化学株式会社より得た。
【0061】
(TOCの測定)
各HBCD廃液中の全有機物炭素量(Total Organic Carbon、「TOC」と表記する)の測定は、JIS K0102法により測定した。
【0062】
具体的には、各HBCD廃液を燃焼させて、燃焼により生じたガス中の炭酸ガスの濃度を、赤外線式ガス分析計(島津製作所社製、品番TOC−5000A)を用いて測定した。
【0063】
(CODの測定)
各HBCD廃液の化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand、「COD」と表記する)の測定は、JIS K0102法により測定した。
【0064】
具体的には、次のようにして行なった。まず、各HBCD廃液に2クロム酸カリウム及び硫酸を加えて、還流冷却器を用いて2時間煮沸した。次に、消費された2クロム酸カリウムの量を滴定により測定して、当該2クロム酸カリウムの消費量に相当する酸素の量でCODを示した。
【0065】
一般には、2クロム酸カリウムの代わりに二酸化マンガンを用いることが多いが、二酸化マンガンではHBCDを完全に酸化することはできない。そのため、本実施例では2クロム酸カリウムを用いた。
【0066】
(BODの測定)
各HBCD廃液の生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand、「BOD」と表記する)の測定は、JIS K0102法により測定した。以下の実施例では、好気性微生物が20℃、5日間に消費する溶存酸素量を、測定結果として示した。
【0067】
(Brイオン濃度の測定)
各HBCD廃液中のBrイオン濃度の測定は、次のようにして行なった。まず、各HBCD廃液を濾過した後、液体クロマトグラフィー(東ソー株式会社製、品番IC−8020)を用いて分離した。次に、予め作成したBrイオン濃度とピークとの関係を示す検量線を用いて、検出されたBrイオンのピークからBrイオン濃度を算出した。
【0068】
〔実施例1:低濃度HBCD廃液に対する放射線照射〕
低濃度HBCD廃液に対して100kGyの放射線で放射線処理した後の廃液中のHBCDの分解挙動、及び放射線処理後に生物処理を行なった廃液中のHBCDの分解挙動を確認した。結果を表1、図3及び4に示す。表1には、比較のため放射線処理を行なう前の低濃度HBCD廃液中の、HBCDの各異性体の濃度も示す。なお、表1の「減少率」とは、放射線処理、又は放射線処理及び生物処理によって、減少したHBCDの濃度を、未処理の廃液中のHBCD濃度で割り100を乗じた値である。
【0069】
【表1】
【0070】
また、図3は、低濃度HBCD廃液に対して100kGyの放射線で放射線処理した結果を示す図であり、表1に示す各異性体の濃度の数値に対応している。図4は、低濃度HBCD廃液に対して100kGyの放射線で放射線処理して、α−HBCD及びβ−HBCDの分解挙動を確認した結果を示す図であり、表1に示すα−HBCD及びβ−HBCDの濃度の数値に対応している。図3及び4共に、縦軸はHBCDの濃度(mg/l)を示し、横軸は処理内容を示し、黒三角はα−HBCD、白四角はβ−HBCDの結果を示す。さらに図3では黒四角はγ−HBCDの結果を示し、黒丸は全異性体の合計の値を示す。つまり、100gKyで放射線を照射した放射線処理のみを施した廃液を「100」と示し、さらに生物処理を施した廃液を「100B」と示す。なお、図3及び4では、100と100Bとが同じ横軸上に記載されているが、100Bが100より大きい数値であることを示しているのではない。図3及び4のように並べて記載した方が見やすいので、横軸上に並べて記載している。そして、破断記号によって、100と100Bとは、数値としての大小を意図しないことを示している。
【0071】
HBCDは上述のように3種類の異性体の混合物である。本実施例に用いたHBCDでは、表1に示すように、γ体が約87%、α体が約10%、β体が約3%の構成であることが確認できた。
【0072】
また、表1、図3及び図4に示すように、100kGyの線量で放射線を照射することで、全HBCDの72.5%が分解できたことが確認できた。また、3種類の異性体の割合は、γ体が98.8%に増加、α体が1.7%に大きく減少、β体が1.5%に減少したことが確認できた。この結果から、放射線処理では、α体が最も分解されやすく、次いで、β体、γ体の順に分解されやすいことが確認できた。これは、表1に示すように、α体、β体、γ体のそれぞれの減少率が、順に、95.4%、85.5%、71.4%であることからも確認できる。
【0073】
100kGyの放射線による放射線処理後に生物処理を行なうと、α体はさらに3.4%減少して、減少率は98.8%になった。β体は12.5%減少して、減少率は98.0%になった。γ体は26.5%減少して、減少率は97.9%になった。これは、γ体は水に対する溶解度が大きいため、生物処理による効果が大きく、α体は水に対する溶解度が小さいため、γ体に比べて生物処理による効果は小さくなったためと考えられる。
【0074】
さらに、表1に示すように、生物処理によってHBCDの25.5%が除去された。この生物処理によるHBCDの減少の効果は、次の理由により得られたと考えられる。つまり、生物処理により、難燃剤に含まれていたHBCDの分散剤等の界面活性剤が消化されて、HBCDが分散できなくなって沈降したり、HBCDがスラッジに吸着されてスラッジと共に濾過されたりしたものと考えられる。なお、このスラッジは焼却処理されるため、環境中に曝露されることがない。
【0075】
以上の結果から、100kGyの放射線による放射線処理と生物処理とを併用することで98%のHBCDが除去されるという極めて良好な結果を得ることができた。
【0076】
〔実施例2:HBCDの濃度とTOCとの関係〕
HBCDの濃度の測定は、非常に作業が煩雑であり、時間及びコストもかかる。そこで、廃液中のHBCDの濃度を示す指標としてTOCを用いることができないか検討した。
【0077】
3種類の濃度の分析用HBCD廃液に対して、TOCを測定した結果を図5に示す。図5は分析用HBCD廃液のTOCを測定した結果を示す図であり、縦軸はTOC(mg/l)を示し、横軸はHBCD濃度(mg/l)を示す。
【0078】
図5に示すように、HBCDの濃度とTOCとの関係は直線関係にあることが確認できた。これにより、TOCは、HBCDの濃度を示す指標の一つとして有用であることが確認できた。
【0079】
次に、高濃度HBCD廃液及び低濃度HBCD廃液に、放射線処理、又は放射線処理後さらに生物処理を施した後のTOCを測定した。この結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
また、表2に示す数値のうち、高濃度HBCD廃液のTOC値を図6に示す。図6は高濃度HBCD廃液のTOCを測定した結果を示す図であり、縦軸はTOC(mg/l)を示し、横軸は放射線照射量(kGy)を示し、黒丸は放射線処理のみを行なった結果を示し、黒四角は放射線処理後に生物処理を行なった結果を示す。
【0082】
表2及び図6に示すように、高濃度HBCD廃液に対して、放射線処理後さらに生物処理を施した場合、放射線処理のみを施した場合に比べて、TOCの減少が平均して230mg/l程度である。一方、低濃度HBCD廃液を用いた場合、TOCは良好に減少した。これは、放射線によってHBCDの多くはメタンや炭酸ガスにまで良好に分解されたことを示している。表2に示すように100kGyで放射線を照射した場合、TOCは検出限界まで減少した。なお、低濃度HBCD廃液を放射線処理及び生物処理した後のTOCは、検出限界以下となり、測定が困難であったため表に示していない。つまり、低濃度HBCD廃液に放射線処理及び生物処理を行なうことでTOCは極めて小さい値となり、HBCDはほぼ完全に分解除去されたことが本実施例からも示された。
【0083】
以上の結果から、低濃度HBCD廃液と高濃度HBCD廃液とでは、分解挙動が異なっていることが推定される。
【0084】
〔実施例3:HBCDの濃度とCODとの関係〕
実施例2にも記載のように、HBCDの濃度の測定は、非常に作業が煩雑であり、時間及びコストもかかる。そこで、廃液中のHBCDの濃度を示す指標としてCODを用いることができないか検討した。
【0085】
3種類の濃度の分析用HBCD廃液におけるCODを測定した結果を図7に示す。図7は分析用HBCD廃液のCODを測定した結果を示す図であり、縦軸はCOD(mg/l)を示し、横軸はHBCD濃度(mg/l)を示す。
【0086】
図7に示すように、HBCDの濃度とCODとの関係は直線関係にあることが確認できた。これにより、CODは、HBCDの濃度を示す指標の一つとして有用であることが確認できた。
【0087】
次に、高濃度HBCD廃液及び低濃度HBCD廃液に、放射線処理、又は放射線処理後さらに生物処理を施した後のCODを測定した。この結果を表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
また、表3に示す数値のうち、高濃度HBCD廃液のCOD値を図8に示す。図8は高濃度HBCD廃液のCODを測定した結果を示す図であり、縦軸はCOD(mg/l)を示し、横軸は放射線照射量(kGy)を示し、黒丸は放射線処理のみを行なった結果を示し、黒四角は放射線処理後に生物処理を行なった結果を示す。
【0090】
また、表3に示す数値のうち、低濃度HBCD廃液のCOD値を図9に示す。図9は低濃度HBCD廃液CODを測定した結果示す図であり、縦軸はCOD(mg/l)を示し、横軸は放射線照射量(kGy)を示す。
【0091】
表3及び図8に示すように、高濃度HBCD廃液に対して、放射線処理を施すことでCODは減少し、100kGyで放射線を照射した場合、放射線処理前に比べて20%減少して1800mg/lとなった。さらに生物処理することで、放射線処理前に比べて50%減少して、1150mg/lとなった。実際に排水処理施設から放出するときは、さらに1/40希釈する場合が多いことを勘案すると、CODは29mg/lとなるため、良好な結果であるといえる。
【0092】
表3及び図9に示すように、低濃度HBCD廃液に対して、100kGyの線量で放射線処理を施すと、CODがゼロに近くなった。低濃度HBCD廃液は、実際のHBCD廃液の濃度に近い廃液である。この低濃度HBCD廃液に対して、CODをゼロ近くまで減少させたことは、当該放射線処理が、HBCDの分解処理に極めて有効であること示している。上述の表1でも示したとおり、低濃度HBCD廃液に100kGyで放射線処理を施した場合、残留するHBCDは1.1mg/lであった。これはCODが検出限界以下であったことと相関している。なお、低濃度HBCD廃液を放射線処理及び生物処理した後のCODは、検出限界以下となり、測定が困難であったため表に示していない。つまり、低濃度HBCD廃液に放射線処理及び生物処理を行なうことでCODは極めて小さい値となり、HBCDはほぼ完全に分解除去されたことが本実施例からも示された。
【0093】
以上のことから、HBCDを含む排水を放射線処理する場合は、低濃度の排水を用いることが、高濃度の排水を用いるより効率的な処理が可能であることが示された。
【0094】
〔実施例4:HBCDの濃度とBODとの関係〕
BODは、水質を示す指標の一つとして広く使用されているものであり、微生物が消化できる有機物を評価する指標である。つまり、BODでは、微生物が消化できない有機物を評価できない。
【0095】
本実施例では、HBCD廃液のBODが放射線処理によってどのように変化するか調査した。具体的には、高濃度HBCD廃液及び低濃度HBCD廃液に、放射線処理、又は放射線処理後さらに生物処理を施した後のBODを測定した。この結果を表4に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
また、表4に示す数値のうち、高濃度HBCD廃液のBOD値を図10に示す。図10は高濃度HBCD廃液のBODを測定した結果を示す図であり、縦軸はBOD(mg/l)を示し、横軸は放射線照射量(kGy)を示し、黒丸は放射線処理のみを行なった結果を示し、黒四角は放射線処理後に生物処理を行なった結果を示す。
【0098】
表4及び図10に示すように、高濃度HBCD廃液に対して放射線処理を施すと、30kGyで放射線処理した場合、BODは470mg/lまで大きく減少する。100kGyで放射線処理した場合、BODは440mg/lであり、30kGyの場合から若干減少した程度である。しかし、さらに生物処理を施すことで、BODは大きく減少して68mg/lとなった。微生物により消化できる有機物の処理では、放射線処理より生物処理の方が、優れた効果を得ることができることが示された。
【0099】
また、高濃度HBCD廃液に対して、放射線を照射せずに生物処理を施した場合、BODは68mg/lであったが、30kGyで放射線を照射した後に生物処理を施した場合、BODは14mg/lと低い値となった。このことから、放射線の照射によって、微生物による処理の効率を向上させることができることが示された。
【0100】
なお、低濃度HBCD廃液に含まれるHBCDやその他の有機物の量は少ないため、低濃度HBCD廃液のBODの誤差は大きくなるが、参考のため表4に、低濃度HBCD廃液を放射線処理した結果を示した。低濃度HBCD廃液に対して放射線処理を施した場合、放射線の線量が増加するに伴いBODは減少して、100gKyでは検出限界以下となった。なお、低濃度HBCD廃液を放射線処理及び生物処理した後のBODは、検出限界以下となり、測定が困難であったため表に示していない。つまり、低濃度HBCD廃液に放射線処理及び生物処理を行なうことでBODは極めて小さい値となり、HBCDはほぼ完全に分解除去されたことが本実施例からも示された。
【0101】
〔実施例5:HBCD廃液の処理によるBrイオンの挙動〕
HBCDに放射線を照射して分解するとBrイオンが発生するものと考えられる。そこで、HBCD廃液の処理に伴うBrイオンの挙動を確認した。具体的には、高濃度HBCD廃液及び低濃度HBCD廃液に、放射線処理、又は放射線処理後さらに生物処理を施した後のBrイオン濃度を測定した。この結果を表5に示す。
【0102】
【表5】
【0103】
また、表5に示す数値のうち、高濃度HBCD廃液のBrイオン濃度を図11に示す。図11は高濃度HBCD廃液のBrイオン濃度を測定した結果を示す図であり、縦軸はBrイオン濃度(mg/l)を示し、横軸は放射線照射量(kGy)を示し、黒丸は放射線処理のみを行なった結果を示し、黒四角は放射線処理後に生物処理を行なった結果を示す。
【0104】
また、表5に示す数値のうち、低濃度HBCD廃液のBrイオン濃度を図12に示す。図12は低濃度HBCD廃液のBrイオン濃度を測定した結果を示す図であり、縦軸はBrイオン濃度(mg/l)を示し、横軸は放射線照射量(kGy)を示し、黒丸は放射線処理のみを行なった結果を示し、黒四角は放射線処理後に生物処理を行なった結果を示す。
【0105】
表5及び図11に示すように、高濃度HBCD廃液に対して、照射する放射線の線量が大きくなるに伴い、Brイオン濃度は大きくなる。さらに、図11に示すように、100kGyの線量で放射線処理をした場合のBrイオン濃度の値は平衡値であるといえる。
【0106】
また、表5及び図12に示すように、低濃度HBCD廃液に対して、照射する放射線の線量が大きくなるに伴い、Brイオン濃度は大きくなる。そして高濃度HBCD廃液の場合と同様に、100kGyの線量で放射線処理をした場合のBrイオン濃度の値は平衡値であるといえる。表1にも示したように、低濃度HBCD廃液を、100kGyの線量で放射線処理するとHBCDの濃度は大きく減少する。このことからも、図12における100kGyでのBrイオン濃度の値は平衡値に近いものであるといえる。
【0107】
つまり、表5、図11及び12から、Brイオンの発生状況を確認することでHBCDの分解状況を予想することができるといえる。ただし、廃液中のBrイオン濃度を測定しても、当該廃液中には部分分解したHBCDも含まれているので、残存するHBCDの量を測定したことにはならない。
【0108】
表5、図11及び12に示すように、生物処理の前後ではBrイオン濃度の値はほとんど変化がない。これは、放射線処理によって部分的に分解されたHBCDから、生物処理によってBrイオンが発生することはないことが理由として考えられる。なお、放射線を照射していないHBCD廃液では、生物処理によってもBrイオン濃度は増加しない。これは、生物処理ではHBCDの分解は困難であることを示している。
【0109】
〔参考例1:高濃度HBCD廃液の処理〕
実施例1で示したように、低濃度HBCD廃液の処理では、良好にHBCDが分解された。一方、実際にHBCDが含有される排水を処理する場合、大量の排水を処理する必要がある。そして、HBCDの濃度が高い排水を処理することが可能であれば、処理対象の水量を少なくすることができる。処理対象の水量を少なくすることができれば、設備を小規模にすることができる。
【0110】
そこで、本実施例では、放射線処理を施した後の高濃度HBCD廃液に残留するHBCDの濃度を測定した。その結果を表6に示す。
【0111】
【表6】
【0112】
なお、表6において「予測値」とは、低濃度HBCD廃液に放射線処理のみを施した場合における、残留HBCD濃度に40を乗じた値である。当該残留HBCD濃度は表1にしめした値である。低濃度HBCD廃液は、高濃度HBCD廃液を1/40に希釈したものであるため、低濃度HBCD廃液における放射線処理後のHBCD濃度の40倍を予測値としたものである。
【0113】
表6に示すように、高濃度HBCD廃液に放射線処理を施した場合、実測値は予測値よりも小さい値であった。このことは高濃度HBCD廃液に放射線処理を施しても、HBCDの分解が進んだことを示している。
【0114】
この結果は、高濃度HBCD廃液に放射線処理を施した後に、さらに生物処理を施せば、低濃度HBCD廃液のときと同様に、極めて効率よくHBCDを分解除去することが可能であることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、以上のように排水中の難分解性物質、特にHBCD等の機能加工剤を効率的に分解して除去することができるため、繊維産業における排水処理に特に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の実施例に用いた放射線装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例に用いた生物処理装置の概略構成を示す図である。
【図3】低濃度HBCD廃液に対して100kGyの放射線で放射線処理した結果を示す図である。
【図4】低濃度HBCD廃液に対して100kGyの放射線で放射線処理して、α−HBCD及びβ−HBCDの分解挙動を確認した結果を示す図である。
【図5】分析用HBCD廃液のTOCを測定した結果を示す図である。
【図6】高濃度HBCD廃液のTOCを測定した結果を示す図である。
【図7】分析用HBCD廃液のCODを測定した結果を示す図である。
【図8】高濃度HBCD廃液のCODを測定した結果を示す図である。
【図9】低濃度HBCD廃液のCODを測定した結果を示す図である。
【図10】高濃度HBCD廃液のBODを測定した結果を示す図である。
【図11】高濃度HBCD廃液のBrイオン濃度を測定した結果を示す図である。
【図12】低濃度HBCD廃液のBrイオン濃度を測定した結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(i)及び(ii)の工程を含むことを特徴とする排水処理方法:
(i)排水に対して10kGy以上200kGy以下の線量で放射線を照射する工程;
(ii)排水に微生物を混合して、微生物により排水中の有機物を分解させる工程。
【請求項2】
上記(i)の工程の後に上記(ii)の工程を行なうことを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
上記放射線としてガンマ線及び電子線のうち少なくとも一方を用いることを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項4】
上記(ii)の工程は、活性汚泥法により行なうことを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項5】
上記(i)の工程では、上記排水に過酸化化合物を添加することを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項6】
上記過酸化化合物は、過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化水素からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物であることを特徴とする請求項5に記載の排水処理方法。
【請求項7】
上記排水として、難燃剤、紫外線吸収剤及びトリハロメタンからなる群から選ばれる少なくとも一つの物質が含まれる排水を用いることを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項1】
下記の(i)及び(ii)の工程を含むことを特徴とする排水処理方法:
(i)排水に対して10kGy以上200kGy以下の線量で放射線を照射する工程;
(ii)排水に微生物を混合して、微生物により排水中の有機物を分解させる工程。
【請求項2】
上記(i)の工程の後に上記(ii)の工程を行なうことを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
上記放射線としてガンマ線及び電子線のうち少なくとも一方を用いることを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項4】
上記(ii)の工程は、活性汚泥法により行なうことを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項5】
上記(i)の工程では、上記排水に過酸化化合物を添加することを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項6】
上記過酸化化合物は、過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化水素からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物であることを特徴とする請求項5に記載の排水処理方法。
【請求項7】
上記排水として、難燃剤、紫外線吸収剤及びトリハロメタンからなる群から選ばれる少なくとも一つの物質が含まれる排水を用いることを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−212893(P2008−212893A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57063(P2007−57063)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(591243055)ウラセ株式会社 (6)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(591243055)ウラセ株式会社 (6)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]