説明

排水処理装置

【課題】被処理水である排水と汚泥との混合水中の有機物を微生物により酸化分解する生物処理槽を有する排水処理装置であって、生物処理槽の処理状況を正確に判断し、排水処理水施設を良好に制御することができる排水処理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】複数箇所の汚泥と排水の混合液の酸素消費速度の分布から生物処理槽の処理状況を判断する処理状況判断装置25を有し、処理状況判断装置25の判断結果を基にして生物処理槽4の微生物の活性度および数量、生物処理槽4に流入する排水の負荷量を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場や他の施設などから排出される被処理水である排水と汚泥との混合水を微生物により酸化分解する排水処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理場や事業所等の排水処理施設での有機性排水処理は、活性汚泥法による微生物の酸化分解処理によりなされている。
【0003】
この工程において、活性汚泥中の微生物(細菌、原生動物など)は排水中の有機物を生物活動に必要なエネルギー源として体内に取り込んで浄化し、取り込まれた有機物は酸素を消費しながら主に二酸化炭素と水に分解される。
【0004】
微生物は様々な要因により有機物の分解特性が変化するため、連続かつ安定に処理を行うには適正な運転管理を行う必要がある。
【0005】
排水処理施設における制御としては、生物処理槽の微生物の活性を生物処理槽に供給する空気の量(以下曝気風量)を調整して行うのが一般的である。
【0006】
最も基本的な曝気風量の制御方法は、溶存酸素濃度が一定に保持するように曝気風量を制御する方法である。
【0007】
生物処理槽内の溶存酸素濃度は、生物処理槽への酸素供給量と生物処理槽内の微生物の酸素消費速度から求められ、酸素供給量が一定であれば、酸素消費速度により増減する。
【0008】
すなわち、最も基本的な曝気風量の制御方法は、この溶存酸素濃度を常に一定量になるように(通常1〜2mg/Lに)制御するもので、例えば流入負荷が低く溶存酸素濃度が高いときは曝気風量を絞り、逆に流入負荷が増大し、溶存酸素濃度が低いときは曝気風量を増やして、常に必要最低限の曝気風量となるように制御する方法である。
【0009】
しかし、このような最も基本的な溶存酸素濃度による生物処理槽槽の制御は、生物処理槽への酸素供給量が常に一定であるという仮定に基づいており、この仮定が成り立たないと正しく生物処理槽の状態を制御できなくなる。
【0010】
生物処理槽の酸素供給能力は総括酸素移動容量係数(KLa)で表されるが、この値は汚泥の性状や散気管の目詰まり等の影響により変化するうえ、測定自体もかなりの手間と労力を要するため、生物処理槽が稼動中に総括酸素移動容量係数を正確に測定することは困難である。
【0011】
このような理由により、生物処理槽の溶存酸素濃度の値で曝気風量の制御を行うことは信頼性が低いとみなされ、生物処理槽の運転状況を表す目安として使用されるにとどまり、結局は管理者が溶存酸素濃度その他の計測項目を頼りに経験と勘で運転しているケースが多いのが実情である。
【0012】
このような、生物処理槽の溶存酸素濃度を用いた制御に対し、生物処理槽に流入する負荷を測定し、負荷の大小に応じて制御を行う方法が提案されている。
【0013】
生物処理槽に流入する負荷の大小を測定する方法としては、BOD計測器やCOD計測器を用いて流入原水の負荷を直接測定する方法も存在するが、BOD計測器やCOD計測器は高価かつ複雑で、現場設置で使用するには耐久性が低いうえ、負荷とBOD、CODの相関が必ずしも一致しないなどの問題もあって現在のところ実用化は困難な状況である。
【0014】
また別の制御方法として、生物処理槽の状態を直接測定し、最適な状態に制御する考え方がある。
【0015】
負荷が連続的に流入、流出する押し出し流れ型の活性汚泥法の場合、生物処理槽へ流入した負荷により、最上流部では高い酸素消費速度が測定されるが、その値は流れ方向に対して急激に減少した後、徐々に減少し最終的には負荷の消費を伴わない内生呼吸の酸素消費速度となって安定する。
【0016】
理想的には、負荷の吸収、消費に伴う呼吸が内生呼吸になる位置(内生呼吸遷移点)が生物処理槽の最下流部となるようにするのがよく、この位置より手前に内生呼吸遷移点がある場合は処理が過剰と判断でき、逆に内生呼吸遷移点が生物処理槽内部に無い場合は処理が不足していると判断できる。
【0017】
この考え方を採用し、生物処理槽内の内生呼吸遷移点を、常に適正な位置になるよう制御する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0018】
この方法は、生物処理槽内の流れ方向に対し複数の酸素消費速度を測定し、その傾きが変化する変曲点を特定して、この点を内生呼吸遷移点と判断し、この内生呼吸遷移点が適正な位置にくるように曝気風量を調整し生物処理槽を制御する方法である。
【0019】
この方法によれば、負荷の大小、負荷の種類や汚泥の活性度によらず、また負荷の変動に対しても応答の遅れを生じさせること無く、適切な生物処理槽の制御方法が得られる。
【特許文献1】特開昭56−130296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、上記従来の特許文献1に記載のものは、内生呼吸遷移点を特定するのに、生物処理槽内の流れ方向に対する酸素消費速度の分布の傾きから判断する方法であり、適正な状態の酸素消費速度の分布を事前の調査測定により決定して測定値と比較するが、実際には汚泥の活性度等の変化により適正な酸素消費速度の分布が変化するため、この方法では内生呼吸遷移点が適正な位置かどうかの判断を誤るために、その判断に基づいて曝気風量を調整しても排水処理施設の制御を適切に行えないという課題があった。
そこで本発明は、
1.内生呼吸酸素消費速度は、生物処理槽内において流れ方向に沿って複数箇所で測定した酸素消費速がほぼ同一値ならその値を内生呼吸酸素消費速度とすることで正確に特定できる。
2.内生呼吸酸素消費速度を正確に特定することができれば生物処理槽内において流れ方向に沿って複数箇所で測定した酸素消費速度との偏差から生物処理槽の処理状況を正確に判断できる。
3.生物処理槽の処理状況を正確に把握できれば排水処理施設における制御対象を適切に制御できる。
4.排水処理施設における制御対象としては、生物処理槽内の微生物の活性度、生物処理槽内の微生物の数量、生物処理槽に流入させる負荷量がある。
5.生物処理槽は負荷が連続的に流入、流出する押し出し流れ型の場合、生物処理槽内の微生物の活性度は均一でないので微生物の活性度はきめ細かく制御した方がより最適に排水処理施設を制御できる。
という考えを基にして排水処理施設を最適に制御できる排水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記目的を達成するために、被処理水である排水と汚泥との混合水中の有機物を微生物により酸化分解する生物処理槽内において流れ方向に沿って複数箇所の酸素消費速度を測定し、前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差があらかじめ設定した値以下の場合はその値を微生物の内生呼吸酸素消費速度と定義し、定義した内生呼吸酸素消費速度と前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差から前記生物処理槽の処理状況を判断する処理状況判断装置を有する排水処理装置であって、前記処理状況判断装置で判断した前記生物処理槽の処理状況に応じて前記生物処理槽の微生物の活性度を調整する活性度調整手段を有することを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0022】
また、被処理水である排水と汚泥との混合水中の有機物を微生物により酸化分解する生物処理槽内において流れ方向に沿って複数箇所の酸素消費速度を測定し、前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差があらかじめ設定した値以下の場合はその値を微生物の内生呼吸酸素消費速度と定義し、定義した内生呼吸酸素消費速度と前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差から前記生物処理槽の処理状況を判断する処理状況判断装置と、前記生物処理槽で処理された混合液を重力によって汚泥と処理水に分離する沈殿槽を有する排水処理装置であって、前記処理状況判断装置で判断した前記生物処理槽の処理状況に応じて前記沈殿槽から前記生物処理槽に返送する汚泥量を調整する返送汚泥量調整手段を有することを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0023】
また、被処理水である排水と汚泥との混合水中の有機物を微生物により酸化分解する生物処理槽内において流れ方向に沿って複数箇所の酸素消費速度を測定し、前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差があらかじめ設定した値以下の場合はその値を微生物の内生呼吸酸素消費速度と定義し、定義した内生呼吸酸素消費速度と前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差から前記生物処理槽の処理状況を判断する処理状況判断装置を有する排水処理装置であって、前記処理状況判断装置で判断した前記生物処理槽の処理状況に応じて前記生物処理槽に流入させる排水の負荷量を調整する流入負荷量調整手段を有することを特徴とする排水処理装置としたものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、生物処理槽の処理状況を正確に把握し、最適な排水処理が行える排水処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の第1の実施の形態による排水処理装置は被処理水である排水と汚泥との混合水中の有機物を微生物により酸化分解する生物処理槽内において流れ方向に沿って複数箇所の酸素消費速度を測定し、前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差があらかじめ設定した値以下の場合はその値を微生物の内生呼吸酸素消費速度と定義し、定義した内生呼吸酸素消費速度と前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差から前記生物処理槽の処理状況を判断する処理状況判断装置を有する排水処理装置であって、前記処理状況判断装置で判断した前記生物処理槽の処理状況に応じて前記生物処理槽の微生物の活性度を調整する活性度調整手段を有することを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0026】
本実施の形態によれば、生物処理槽の処理状況を正確に把握し、処理状況に応じて生物処理槽の微生物の活性状態を調整し、有機物の分解量を調整することができる。
【0027】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による排水処理装置において、活性度調整手段は、多数の噴出項を有した散気管と前記散気管に空気を供給するブロアで構成されたことを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0028】
本実施の形態によれば、生物処理槽への曝気風量を調整することで微生物の活性度を調整することができる。
【0029】
本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態による排水処理装置において、散気管は生物処理槽内における流れ方向に沿って複数箇所設置され、前記複数の散気管の風量はそれぞれ個別に調整することを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0030】
本実施の形態によれば、生物処理槽への曝気風量を流れ方向に沿ってきめ細かく調整することができる。
【0031】
本発明の第4の実施の形態は、第1の実施の形態による排水処理装置において、活性度調整手段は、微生物の活性度を促進させる活性剤を生物処理槽に流入させる活性剤流入手段であることを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0032】
本実施の形態によれば、生物処理槽に投入する活性剤の量を調整することで微生物の活性度を調整することができる。
【0033】
本発明の第5の実施の形態は、第1の実施の形態による排水処理装置において、活性剤流入手段の活性剤流入口は生物処理槽内における流れ方向に沿って複数箇所設置され、前記活性剤流入口から流入させる活性剤の量はそれぞれ個別に調整することを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0034】
本実施の形態によれば、生物処理槽内の微生物の活性度を流れ方向に沿ってきめ細かく調整することができる。
【0035】
本発明の第6の実施の形態は被処理水である排水と汚泥との混合水中の有機物を微生物により酸化分解する生物処理槽内において流れ方向に沿って複数箇所の酸素消費速度を測定し、前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差があらかじめ設定した値以下の場合はその値を微生物の内生呼吸酸素消費速度と定義し、定義した内生呼吸酸素消費速度と前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差から前記生物処理槽の処理状況を判断する処理状況判断装置と、前記生物処理槽で処理された混合液を重力によって汚泥と処理水に分離する沈殿槽を有する排水処理装置であって、前記処理状況判断装置で判断した前記生物処理槽の処理状況に応じて前記沈殿槽から前記生物処理槽に返送する汚泥量を調整する返送汚泥量調整手段を有することを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0036】
本実施の形態によれば、生物処理槽の処理状況を正確に把握し、処理状況に応じて微生物の数量を調整することで有機物の分解量を調整することができる。
【0037】
本発明の第7の実施の形態は、第6の実施の形態による排水処理装置において、返送汚泥量調整手段は生物処理槽と沈殿槽を接続したと配管と、配管に取り付けられた弁で構成され、前記弁の開度を調整することを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0038】
本実施の形態によれば、沈殿槽に存在する微生物を生物処理槽に戻すことで生物処理槽内の微生物の数量を調整することができる。
【0039】
本発明の第8の実施の形態は、第6の実施の形態による排水処理装置において、返送汚泥量調整手段は生物処理槽と沈殿槽を接続したと配管と、配管に取り付けられたポンプで構成され、ポンプの運転を調整することを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0040】
本実施の形態によれば、本実施の形態によれば、沈殿槽に存在する微生物を生物処理槽に戻すことで生物処理槽内の微生物の数量を調整することができる。
【0041】
本発明の第9の実施の形態は、被処理水である排水と汚泥との混合水中の有機物を微生物により酸化分解する生物処理槽内において流れ方向に沿って複数箇所の酸素消費速度を測定し、前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差があらかじめ設定した値以下の場合はその値を微生物の内生呼吸酸素消費速度と定義し、定義した内生呼吸酸素消費速度と前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差から前記生物処理槽内の処理状況を判断する処理状況判断装置を有する排水処理装置であって、前記生物処理槽に流入させる排水の負荷量を調整する流入負荷量調整手段と、前記処理状況判断装置で判断した前記生物処理槽の処理状況が所望の値にあるように前記流入負荷量調整手段を制御する制御装置を有することを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0042】
本実施の形態によれば、生物処理槽に流入する排水の負荷量を調整することができる。
【0043】
本発明の第10の実施の形態は、第9の実施の形態による排水処理装置において、流入負荷量調整手段は、排水の流入口に設置された弁であり、前記弁の開度を調整することを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0044】
本実施の形態によれば、生物処理槽に流入する排水の流量を調整することで生物処理槽に流入する排水の負荷量を調整することができる。
【0045】
本発明の第11の実施の形態は、第9の実施の形態による排水処理装置において、流入負荷量調整手段は、排水の流入口に設置されたポンプであり、前記ポンプの運転を調整することを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0046】
本実施の形態によれば、生物処理槽に流入する排水の流量を調整することで生物処理槽に流入する排水の負荷量を調整することができる。
【0047】
本発明の第12の実施の形態は、第9の実施の形態による排水処理装置において、流入負荷量調整手段は、排水の油分を除去する加圧浮上装置であり、前記加圧浮上装置の運転を調整することを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0048】
本実施の形態によれば、排水の油分の除去量を調整することで生物処理槽に流入する排水の負荷量を調整することができる。
【0049】
本発明の第13の実施の形態は、第9の実施の形態による排水処理装置において、排水を一時的に溜めておく調整槽を有し、流入負荷量調整手段は、前記調整槽に溜められた排水の負荷を低減させる薬剤を前記調整槽に流入させる薬剤流入手段であり、前記調整槽への薬剤の流入量を調整することを特徴とする排水処理装置としたものである。
【0050】
本実施の形態によれば、調整槽で排水の負荷量を調整することで生物処理槽に流入する排水の負荷量を調整することができる。
【0051】
以下、本発明による実施例の排水処理装置について、図面を参照して説明する。
【0052】
(実施の形態1)
図1は本実施の形態における排水処理装置の1例を示すシステム図で、制御対象を含んだ排水処理部1と計測制御部2を示している。
【0053】
排水処理部1は排水を貯留する調整槽3と、排水と汚泥との混合液を曝気することにより有機物を微生物によって酸化・分解する生物処理槽4と、生物処理槽4で処理された混合液を重力によって汚泥と処理水とに分離する沈殿槽5で構成されている。
【0054】
ここで、矢印の方向は排水の流れを表している。
【0055】
また、処理対象の排水が流入する調整槽3は排水内の油分を気泡により浮上させて除去する加圧浮上装置6および流量調整弁7を介して生物処理槽4に接続されている。
【0056】
さらに、調整槽3には調整槽3に溜められた排水の負荷を低減させる薬剤を調整槽3に流入させる薬剤注入装置8が接続されている。ここで薬剤とは例えば凝集剤・pH調整剤・栄養剤である。
【0057】
生物処理槽4の底部には有酸素気泡が発生する散気管9が流れ方向に沿って複数配置されており、各散気管9はそれぞれ散気管制御弁10を介して生物処理槽4の外部に接続された曝気ブロア11と空気配管によって接続されている。
【0058】
また、生物処理槽4の最下流部は沈殿槽5と接続されている。
【0059】
尚、沈殿槽5で沈降した汚泥は排出管12、返送弁13を介して排出し、活性汚泥として生物処理槽4の流入口へ戻され再利用される(図示なし)。
【0060】
次に計測制御部2について説明する。
【0061】
計測槽14内には溶存酸素濃度計15が配置されており、計測槽14の底部には計測槽散気管16が配置されており、計測槽散気管16は計測槽14の外部に設置された計測槽曝気ブロア17と空気配管によって接続されている。
【0062】
また、計測槽14の底部には混合液を攪拌する攪拌機18が配置されている。
【0063】
また、生物処理槽4には混合液採取ポンプ19が流れ方向に沿って最上流部と最下流部を含む複数箇所に配置されおり、各混合液採取ポンプ19は混合液採取弁20および液体配管21を介して計測槽14の流入口22と接続されている。
【0064】
また、計測槽14の底部には流出口23があり、流出口23は液体配管24によって生物処理槽4の最上流部近傍と接続されている。
【0065】
また、特に図示していないが流出口23の下方には排出用弁があり制御装置から開閉できるようになっている。
【0066】
図2は処理状況判断装置25と制御装置26の構成を示すブロック図である。処理状況判断装置25は溶存酸素濃度計15の計測値を入力とし、計測槽曝気ブロア17への運転/停止指令、攪拌機18への運転/停止指令、混合液採取ポンプ19への運転/停止指令、混合液採取弁20の開/閉指令を随時出力して酸素消費速度を演算し、その演算結果から生物処理槽4の処理状況を判断し、判断結果を制御装置26に出力している。
【0067】
制御装置26は処理状況判断装置25にて判断された生物処理槽4の処理状況を入力とし、加圧浮上装置6への運転/停止指令、流量調整弁7への開度指令、薬剤注入装置8への運転/停止指令、散気管制御弁10への開度指令、曝気ブロア11への風量指令、返送弁13への開度指令を出力制御している。
【0068】
次に、生物処理槽4の内部での処理状況について図3を用いて説明する。
【0069】
生物処理槽4内部に流入した有機物は生物処理槽4の最上流部で汚泥と混合されるが、ここで、汚泥の中の微生物は、まず負荷である有機物を急速に体内に取り込む。
【0070】
この時、微生物は多量に酸素を消費するため酸素消費速度は最上流部で最も高い値を示したあと急激に低下する(図3中のA部)。
【0071】
混合液は生物処理槽4を下流に向かって進みつつ微生物は体内に取り込んだ有機物を少しずつ酸素を消費しながら酸化分解していき、酸素消費速度は下流に行くに従い徐々に低下していく。
【0072】
微生物が体内に取り込んだ有機物が全て消費されたとき、微生物は有機物の消費を伴わない呼吸、いわゆる内生呼吸状態となり、内生呼吸の酸素消費速度となって安定する。
【0073】
ここで、図3のaにあるように有機物を分解する呼吸が内生呼吸に遷移する位置(内生呼吸遷移点)が生物処理槽4の最下流部と一致する場合が最も効率が良い処理といえる。
【0074】
もし、図3のbのように内生呼吸遷移点が生物処理槽4の最下流部より前にあった場合は、内生呼吸遷移点より後ろの位置の汚泥は酸化分解の処理をしていないことになり、この部分の処理は無駄となり、これは負荷に対して処理が過剰であることを意味している。
【0075】
一方、図3のcのように内生呼吸遷移点が生物処理槽4の最下流部より後ろ、すなわち生物処理槽4内で内生呼吸遷移点に到達しない場合、最下流部でも微生物の体内に有機物が残留している事になり、処理が不足していることを示している。
【0076】
処理過剰が進行すると菌体外物質の生産不足による汚泥の沈降性の悪化などが生じる恐れがあり、逆に処理不足が進行しても、菌体内に有機物が残存して蓄積し、微生物の有機物の吸収能力が低下し、いずれにせよ処理水の性状が悪化する。
【0077】
つまり、排水処理施設を良好な状態に保つためには生物処理槽4内の微生物の内生呼吸遷移点が生物処理槽4の最下流部に常に位置するように制御することが最善である。
【0078】
次に図3に示す酸素消費速度分布を得る手順について説明する。本実施の形態の排水処理装置では、処理状況判断装置25が生物処理槽4に対し流れ方向に複数箇所混合液採取ポンプ19を配置し、各位置の酸素消費速度を計測槽14で測定し、生物処理槽4の処理状況を判断するようになっている。
【0079】
まず、混合液採取ポンプ19を動作させ、そのポンプに対応した混合液採取弁20を開いて、その近傍だけの混合液を流入口22から計測槽14へ流入させる。
【0080】
混合液は計測槽14に一定量貯留され、次いで計測槽曝気ブロア17を作動させ計測槽散気管16より有酸素気泡が計測槽14内に送り込まれると同時に攪拌機18を作動させ、計測槽14内の混合液を攪拌させ、溶存酸素濃度計15による測定も開始する。
【0081】
この時、処理状況判断装置25では溶存酸素濃度計15の測定値が一定時間ごとに逐次記録され、計測槽14内の混合液の溶存酸素濃度が曝気により上昇し、安定したところで攪拌を続けたまま計測槽曝気ブロア17の運転を停止することにより、計測槽14内の混合液の酸素消費速度を溶存酸素濃度の減少曲線から算出する。
【0082】
溶存酸素濃度がほぼ0になったら酸素消費速度の計測を停止し、計測槽14内部の混合液を流出口23より生物処理槽4に返送する。
【0083】
ここで、生物処理槽4に返送する位置は処理水への影響を考慮し生物処理槽4の最上流部であることが望ましい。
【0084】
上記のようにして酸素消費速度を測定するが、この測定を生物処理槽4の最上流部から最下流部まで順次に測定していくことにより、生物処理槽4内の酸素利用速度の分布が得られる。
【0085】
次に本実施の形態における生物処理槽4の処理状況判断方法および内生呼吸遷移点の特定方法について図4を用いて説明する。
【0086】
図4においてR1からR4は計測槽14で測定された生物処理槽4における流れ方向の酸素消費速度を表し、R1が最上流部を、R4が最下流部を表す。Nは現在の内生呼吸の酸素消費速度を表す。
【0087】
まず、生物処理槽4の上流部のR1とR2の値を比較し、R1>R2であれば、生物処理槽4に流入する負荷があると判断する。
【0088】
1=R2すなわち分布の傾きが水平であれば流入する負荷が無い状態と判断する。
【0089】
また、通常R1=R2のときはR1=R2=R3=R4となり全体の分布の傾きが0となり生物処理槽4全体が「無負荷状態」と判断でき、この時のR4の酸素消費速度を内生呼吸の値としてNに代入するが、処理条件としてR1=R2=R3=R4とすれば、より確実に無負荷状態の判断ができる。
【0090】
次に負荷があると判断された場合は、現在の内生呼吸の酸素消費速度NとR4を比較して、R4>Nの場合は最下流部の酸素消費速度が内生呼吸の酸素消費速度より大きいことになり、「処理が不足」と判断する。
【0091】
4=Nの場合は、さらにその一つ上流のR3の値とNを比較し、R3=Nの場合は内生呼吸遷移点がR3の位置より前にあることを意味し、「処理が過剰」と判断する。
【0092】
3>Nの場合は、内生呼吸遷移点がR4の位置であると判断でき、「処理が適正」と判断する。
【0093】
ここでR4<Nより小さいというケースも考えられる。
【0094】
これは汚泥の活性度が低下したことによる影響と判断でき、R4の値を強制的に内生呼吸の酸素消費速度としてNを更新し、更新したNとR4、R3と比較して内生呼吸遷移点の位置を特定する。
【0095】
本実施の形態では内生呼吸遷移点が適正な位置にあるかどうかの判断を内生呼吸の酸素消費速度の値と比較しており、内生呼吸の酸素消費速度を常に生物処理槽4の混合液を用いて更新することができるため、活性度が変化した場合でも内生呼吸遷移点が適正な位置にあるかどうかの判断を正しく行うことができる。
【0096】
次に制御装置26の動作について説明する。制御装置26は処理状況判断装置25にて判断された生物処理槽4の処理状況判断結果が「処理が適正」となるように、加圧浮上装置6への運転/停止指令、流量調整弁7への開度指令、薬剤注入装置8への運転/停止指令、散気管制御弁10への開度指令、曝気ブロア11への風量指令、返送弁13への開度指令を出力制御しているが、各機器は以下の判断に基づいて運転制御されている。
1.加圧浮上装置を運転すると、排水の油分が取り除かれ排水の負荷が減少する。
2.流量調整弁を閉じることで排水の生物処理槽への流入を遮断できる。
3.薬剤注入装置を運転すると排水の有機物が沈降し、排水の負荷が減少する。
4.散気管制御弁、曝気ブロアで生物処理槽への曝気風量を増やすと微生物の活性が増加する。
5.生物処理槽への曝気風量は計測位置R1からR4に対応する散気管制御弁を個別に制御することで生物処理槽内の各位置での微生物の活性度を別個に制御できる。
6.返送弁を開いて汚泥を返送すると生物処理槽の微生物量が増加し、生物処理槽の処理能力が増加する。
【0097】
実際の機器の運転制御は図5に示すように1から11の運転モード(運転モードが増えるほど排水の負荷が増加した時の運転方法になっている)に対する各機器の運転方法を定義し、処理状況判断装置25で生物処理槽4の処理状況判断が行なわれる毎に、以下の判断に基づいて運転モードの変更が行なわれている。
1.判断結果が「無負荷状態」の時:運転モードを1にする。
2.判断結果が「処理が過剰」の時:運転モードを1減ずる。
3.判断結果が「処理が適正」の時:運転モードは変更しない。
4.判断結果が「処理が不足」の時:運転モードを1増やす。
【0098】
尚、曝気ブロア11はインバータを使用して散気管制御弁10の開閉状態に応じて常に適切な風量を供給するように制御されている。
【0099】
尚、図5では、機器は運転/停止の2状態、弁は全開/半開/全閉の3状態で制御しているが、機器を連続運転/50%間欠運転/停止の3状態、弁は全開/75%開/50%開/25%開/全閉の5状態とすれば運転モードをさらに増やして、きめ細かく制御できる。
【0100】
尚、本実施例では、「返送弁」「散気管制御弁と曝気ブロア」「加圧浮上装置」「薬剤注入装置」「流量調整弁」の順番で運転制御をしているが運転制御の順番は変更してもよい。
【0101】
また、本実施例では複数の散気管9と散気管制御弁10に対して、1台の曝気ブロア11の曝気風量の調整をすることで生物処理槽4内の微生物の活性を調整しているが、一つの散気管9、散気管制御弁10に対してそれぞれ別個の曝気ブロア11を設置して曝気風量の調整を行なっても同様の効果が得られる。
【0102】
また、本実施例では散気管制御弁10、曝気ブロア11で生物処理槽4内の微生物の活性を調整しているが、図6に示すように散気管制御弁10を取り除き生物処理槽4への曝気風量はどの位置でも同じにしておき、微生物の活性度を促進させる活性剤を貯蔵タンク27に蓄えておき、活性剤流入管28を生物処理槽4内における流れ方向に沿って複数箇所設置し、複数の活性剤流入管28から生物処理槽4内に流入させる活性剤の量を活性剤流入弁29にてそれぞれ個別に調整することでも同様の効果が得られる。ここで活性剤とは例えばサポニンである。
【0103】
また、沈殿槽5から生物処理槽4への汚泥の返送は返送弁13の開度調整をすることで行なったが、返送ポンプを用いて行なってもよい。特に生物処理槽4に設けられた汚泥返送口が沈殿槽5の汚泥返送口より上方にある場合は返送ポンプを用いる必要がある。
【0104】
また、排水の生物処理槽4への流入には流量調整弁7の開度調整をすることで行なったが、流入ポンプを用いて行なってもよい。特に生物処理槽4に設けられた排水流入口が加圧浮上装置6の排水流出口より上方にある場合は流入ポンプを用いる必要がある。
【0105】
尚、本実施の形態では酸素消費速度の分布で内生呼吸遷移点を特定する方法で説明したが、通常、曝気槽は汚泥濃度を一定に保つように運転されているのでこの方法で問題は無い。
【0106】
しかし、より正確な検知を行うには計測槽に汚泥濃度計を設置し、酸素消費速度を汚泥濃度で除した単位汚泥重量あたりの酸素消費速度いわゆる酸素利用速度係数(Kr)を用いる方がより正確に内生呼吸遷移点を特定できる。
【0107】
尚、本実施の形態では「返送弁」「散気管制御弁と曝気ブロア」「加圧浮上装置」「薬剤注入装置」「流量調整弁」の各機器の制御を制御装置26にて自動制御したが、処理状況判断装置25の判断結果から図5に示す運転方法に従って管理者が手動で各機器の操作を行なってもいい。
【0108】
以上のように、本実施の形態によれば、生物処理槽の処理状況を正確に把握し、最適な排水処理が行える排水処理装置が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明による排水処理装置は、下水処理場、事業所等における有機性排水の処理施設に対して適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の実施の形態1の排水の処理施設と排水処理装置を示すブロック図
【図2】本発明の実施の形態1の排水処理装置の入出力を示すブロック図
【図3】本発明の実施の形態1の曝気槽内における酸素消費速度の分布を示すグラフ
【図4】本発明の実施の形態1の処理状況判断装置の動作を示すフローチャート
【図5】本発明の実施の形態1の制御装置の各運転モードに対する各装置の運転方法を示す図
【図6】本発明の実施の形態1の排水の処理施設と排水処理装置を示すブロック図
【符号の説明】
【0111】
1 排水処理部
2 計測制御部
3 調整槽
4 生物処理槽
5 沈殿槽
6 加圧浮上装置
7 流量調整弁
8 薬剤注入装置
9 散気管
10 散気管制御弁
11 曝気ブロア
13 返送弁
25 処理状況判断装置
26 制御装置
27 貯蔵タンク
28 活性剤流入管
29 活性剤流入弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水である排水と汚泥との混合水中の有機物を微生物により酸化分解する生物処理槽内において流れ方向に沿って複数箇所の酸素消費速度を測定し、前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差があらかじめ設定した値以下の場合はその値を微生物の内生呼吸酸素消費速度と定義し、定義した内生呼吸酸素消費速度と前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差から前記生物処理槽の処理状況を判断する処理状況判断装置を有する排水処理装置であって、前記処理状況判断装置で判断した前記生物処理槽の処理状況に応じて前記生物処理槽の微生物の活性度を調整する活性度調整手段を有することを特徴とする排水処理装置。
【請求項2】
活性度調整手段は、多数の噴出項を有した散気管と前記散気管に空気を供給するブロアで構成されたことを特徴とする請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項3】
散気管は生物処理槽内における流れ方向に沿って複数箇所設置され、前記複数の散気管の風量はそれぞれ個別に調整することを特徴とする請求項2に記載の排水処理装置。
【請求項4】
活性度調整手段は、微生物の活性度を促進させる活性剤を生物処理槽に流入させる活性剤流入手段であることを特徴とする請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項5】
活性剤流入手段の活性剤流入口は生物処理槽内における流れ方向に沿って複数箇所設置され、前記活性剤流入口から流入させる活性剤の量はそれぞれ個別に調整することを特徴とする請求項4に記載の排水処理装置。
【請求項6】
被処理水である排水と汚泥との混合水中の有機物を微生物により酸化分解する生物処理槽内において流れ方向に沿って複数箇所の酸素消費速度を測定し、前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差があらかじめ設定した値以下の場合はその値を微生物の内生呼吸酸素消費速度と定義し、定義した内生呼吸酸素消費速度と前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差から前記生物処理槽の処理状況を判断する処理状況判断装置と、前記生物処理槽で処理された混合液を重力によって汚泥と処理水に分離する沈殿槽を有する排水処理装置であって、前記処理状況判断装置で判断した前記生物処理槽の処理状況に応じて前記沈殿槽から前記生物処理槽に返送する汚泥量を調整する返送汚泥量調整手段を有することを特徴とする排水処理装置。
【請求項7】
返送汚泥量調整手段は生物処理槽と沈殿槽を接続したと配管と、配管に取り付けられた弁で構成され、前記弁の開度を調整することを特徴とする請求項6に記載の排水処理装置。
【請求項8】
返送汚泥量調整手段は生物処理槽と沈殿槽を接続したと配管と、配管に取り付けられたポンプで構成され、ポンプの運転を調整することを特徴とする請求項6に記載の排水処理装置。
【請求項9】
被処理水である排水と汚泥との混合水中の有機物を微生物により酸化分解する生物処理槽内において流れ方向に沿って複数箇所の酸素消費速度を測定し、前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差があらかじめ設定した値以下の場合はその値を微生物の内生呼吸酸素消費速度と定義し、定義した内生呼吸酸素消費速度と前記複数箇所で測定した酸素消費速度の値の差から前記生物処理槽の処理状況を判断する処理状況判断装置を有する排水処理装置であって、前記処理状況判断装置で判断した前記生物処理槽の処理状況に応じて前記生物処理槽に流入させる排水の負荷量を調整する流入負荷量調整手段を有することを特徴とする排水処理装置。
【請求項10】
流入負荷量調整手段は、排水の流入口に設置された弁であり、前記弁の開度を調整することを特徴とする請求項9に記載の排水処理装置。
【請求項11】
流入負荷量調整手段は、排水の流入口に設置されたポンプであり、前記ポンプの運転を調整することを特徴とする請求項9に記載の排水処理装置。
【請求項12】
流入負荷量調整手段は、排水の油分を除去する加圧浮上装置であり、前記加圧浮上装置の運転を調整することを特徴とする請求項9に記載の排水処理装置。
【請求項13】
排水を一時的に溜めておく調整槽を有し、流入負荷量調整手段は、前記調整槽に溜められた排水の負荷を低減させる薬剤を前記調整槽に流入させる薬剤流入手段であり、前記調整槽への薬剤の流入量を調整することを特徴とする請求項9に記載の排水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−125638(P2009−125638A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301515(P2007−301515)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】