説明

掘削工具

【課題】透過性の高い地層を掘削する際に、圧縮空気を工具本体の先端側に排気することにより繰り粉を排出する場合でも、周囲の地層への空気の放散を抑制して、地層を緩めたり空隙を生じたりすることなく削孔を形成する。
【解決手段】軸線Oを中心とした外形円板状の工具本体1の先端部2の外周に円筒状のケーシング10が配設されるとともに、このケーシング10の先端部には、円筒状のリングビット12がケーシング10に対して軸線O回りに回転可能に取り付けられ、このリングビット12の先端は工具本体1の先端よりも突出させられるとともに、リングビット12の後端部の内周面は工具本体1の先端部2の外周面と間隔をあけて対向させられていて、このリングビット12の後端部の内周面と対向した工具本体1の先端部2の外周面には、工具本体1内に形成された圧縮空気の供給孔13Bが開口させられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアハンマを用いたDTH(ダウン・ザ・ホール)工法に用いられる二重管式の掘削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
掘削ロッドの先端に設けられた工具本体に打撃力や回転力、推力を与えて削孔を形成するとともに、この工具本体の外周には円筒状のケーシングを配置して削孔内に挿入するようにした二重管式の掘削工具においては、例えば特許文献1〜4に記載のように、ケーシングの先端部にリングビットを取り付けたものが知られている。このうち、特許文献1にはインナーロッド内の通水路を通して圧水を供給することが、特許文献2には薬液を注入することが、特許文献3にはフラッシング媒体を供給することが、さらに特許文献4には流体を供給して噴出し、削孔とケーシングとの間を通して地上に循環させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−270355号公報
【特許文献2】特開平9−32449号公報
【特許文献3】特表平10−510601号公報
【特許文献4】特開2000−352290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エアハンマを用いたいわゆるDTH工法においては、工具本体(インナービット)の先端から作動空気が排出されて削孔とケーシングの間、またはケーシング内の工具本体やハンマ、ロッドとの間を通して削孔外に排出され、これに伴われて、掘削によって生成した繰り粉(スライム、ズリ)も排出される。ここで、作動空気は通常圧縮された状態であって、工具本体の先端から排気される瞬間に圧力が開放され、体積膨張を起こす。
【0005】
しかしながら、この体積膨張した空気がすべて上記削孔とケーシングの間やケーシング内を通って削孔外に排出されるとは限らず、例えば砂層などの透過性の高い地層を掘削する場合には、工具本体先端に対向した孔底から周辺の地層に空気が放散して逃げてしまうことがある。そして、このように周辺地層に逃げた空気は、該地層を緩めたり、地層に空隙を生じたりする原因となる。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、たとえ透過性の高い地層を掘削する際に、圧縮空気を工具本体の先端側に排気することにより繰り粉を排出する場合でも、周囲の地層への空気の放散を抑制して、地層を緩めたり空隙を生じたりすることなく削孔を形成することが可能な掘削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線を中心とした外形円柱状または円板状をなす工具本体の先端部の外周に、上記軸線を中心とした円筒状のケーシングが配設されるとともに、このケーシングの先端部には、上記軸線を中心とした円筒状をなすリングビットが上記ケーシングに対して上記軸線回りに回転可能に取り付けられており、このリングビットの先端は上記工具本体の先端よりも突出させられるとともに、該リングビットの後端部の内周面は上記工具本体の先端部の外周面と間隔をあけて対向させられていて、このリングビットの後端部の内周面と対向した上記工具本体の先端部の外周面には、該工具本体内に形成された圧縮空気の供給孔が開口させられていることを特徴とする。
【0008】
このように構成された掘削工具では、工具本体内に形成された圧縮空気の供給孔が、リングビット後端部の内周面と間隔をあけて対向した工具本体先端部の外周面に開口させられているので、供給された圧縮空気はこのリングビット後端部の内周面に向けて噴出させられ、これら内外周面の間の間隙部分で膨張しつつ、リングビット後端部の内周面に案内されるようにして工具本体の先端側に排気される。
【0009】
ここで、このリングビットは、その先端が工具本体の先端よりも突出させられており、これによって工具本体の先端側には、円筒状のリングビット先端部によって囲繞された空間が形成される。このため、上記間隙部分からリングビット後端部の内周面に案内されて工具本体の先端側に排気された体積膨張した圧縮空気は、この空間内において、上記軸線に平行な方向か、該軸線に対する径方向の内側に向けて流れることになる。
【0010】
そこで、例えば上述のようにケーシング内を通して繰り粉を排出する排出路を設けることにより、こうして排気された空気に伴って繰り粉を排出することができるとともに、上記軸線に対する径方向の外側に圧縮空気が放散されてしまうのを抑えることができる。従って、これにより、削孔の周辺地層に空気が逃げて該周辺地層を緩めたり、空隙を生じたりするのを防ぐことができる。
【0011】
ここで、このような周辺地層への空気の放散をより確実に抑制するには、工具本体の先端側に形成される上記空間に排気される圧縮空気は、できるだけ体積膨張した状態とされるのが望ましい。そこで、上記圧縮空気の供給孔を、上記工具本体の先端部の外周面に開口するように形成された、該供給孔の断面積よりも上記外周面への開口面積が大きな減圧室を介して、上記工具本体の先端部の外周面に開口させることにより、この減圧室で圧縮空気をある程度減圧して膨張させた状態で上記空間に排気することができる。
【0012】
また、上述のようなケーシング内を通して繰り粉を排出する排出路として、上記工具本体の先端部の外周面には、上記リングビットの後端部の内周面との間に、上記工具本体の先端面に開口するとともに該工具本体の後端部の外周面と上記ケーシングの内周面との間に連通して掘削時に生成された繰り粉を排出する排出溝を形成した場合には、上記減圧室からこの排出溝に向けて上記圧縮空気の排気路を形成することにより、この減圧室から工具本体先端側に排気される圧縮空気量を調整することができて、周辺地層への拡散を一層確実に防止することができる。
【0013】
なお、この場合において、上記排気路を、上記減圧室から上記排出溝に向けて、上記軸線に直交する平面に沿った方向、または上記工具本体の後端側に向かう方向に延びるように形成すれば、排気路を介して排出された圧縮空気が工具本体の先端側に噴出してしまうのを防ぐとともに、排出溝に流れた繰り粉をこの圧縮空気によって後端側に押し出して効率的に排出することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、削孔の周辺の地層に圧縮空気が放散してしまうのを抑えて、この周辺地層が緩んだり空隙が形成されたりするの防ぐことができ、円滑な削孔の形成を図るとともに安定してケーシングを削孔に挿入して建て込むことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す側断面図である。
【図2】図1に示す実施形態の正面図である。
【図3】図1に示す実施形態の減圧室周辺を示す工具本体の側面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態を示す側断面図である。
【図5】図4に示す実施形態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1ないし図3に示す本発明の第1の実施形態において、工具本体1は、外形円板状の先端部(図1において左側部分)2が後端側(図1において右側)の円柱状のシャンク部3よりも一段大径とされた軸線Oを中心とする多段円柱状をなし、このシャンク部3に取り付けられる図示されないエアハンマにより軸線O方向先端側に向けて打撃力が与えられるとともに、さらにこのエアハンマの後端側に連結されて必要に応じて継ぎ足されるやはり図示されない掘削ロッドを介して軸線O回りに回転方向Tに向けての回転力と先端側への推力とが与えられる。
【0017】
この工具本体1の上記先端部2の外周面は、先端側に向けて順に縮径する3段の周面により構成されていて、これによりこの外周面には2つの円環状の段差部4A、4Bが先端側を向くように形成されることになる。さらに、この先端部2の外周面には、その先端面から後端面に亙って軸線Oに平行に延びる繰り粉の排出溝5が、周方向に等間隔に複数条(本実施形態では4条)形成されている。なお、上記3段の周面のうち最先端の周面には、上記排出溝5のそれぞれ上記回転方向T側に、2段目の周面と略等しい外径を有する突条部4Cが、軸線Oに平行に延び、かつ上記段差部4A、4Bのうち先端側の段差部4Aとの間に間隔をあけるように形成されている。
【0018】
また、先端部2の先端面における外周縁は、外周側に向かうに従い後端側に傾斜する多段の円錐面により形成されるとともに、これよりも内周側の先端面外周部は軸線Oに垂直とされて、この外周縁から外周部にかけては、上記排出溝5にそれぞれ連通する凹所7が形成されている。さらに、この先端面の中央部は外周部に対してすり鉢状に一段凹まされているとともに、その斜面には、周方向において上記凹所7の間に位置するようにして、放射状に延びる凹溝8が形成されており、これらすり鉢状の上記中央部や外周縁も含めて、工具本体1の当該先端面には、超硬合金等の硬質材料よりなる多数のチップ9が、上記凹所7や凹溝8を避けるようにして植設されている。
【0019】
一方、工具本体1の外周には、その先端部2の上記外周面のうち最後端の段の周面の外径すなわち後端側の段差部4Bの外径よりも僅かに大きな内径を有する軸線Oを中心とした円筒状のケーシング10が、この工具本体1の先端部2の後端側から上記シャンク部3およびエアハンマ、掘削ロッドを取り囲むようにして、掘削ロッドと同様に必要に応じて継ぎ足されて後端側に延びている。ここで、このケーシング10とエアハンマおよび掘削ロッドとの間には軸線Oに対する径方向に間隔があけられており、工具本体1の上記排出溝5に連通する繰り粉の排出路が形成されている。
【0020】
さらに、このように必要に応じて継ぎ足されるケーシング10のうち、工具本体1の先端部2の後端側に位置する最先端のケーシング10の先端には、先端側に向けて2段に拡径する軸線Oを中心とした多段円筒状のケーシングトップ11が取り付けられている。このケーシングトップ11は、その大径とされた先端部の外径がケーシング10の外径と等しくされるとともに、先端部の内径はケーシング10の内径よりも僅かに大きくされており、この先端部の内周の最先端部には雌ネジ部11Aが内周側に突出するようにして形成されている。
【0021】
また、このケーシングトップ11の小径とされた後端部は、その外径がケーシング10の内径に嵌合可能な大きさとされるとともに、この後端部の内径は後端側の上記段差部4Bの外径よりは小さく、かつ先端側の段差部4Aの外径すなわち先端部2の2段目の周面の外径よりは僅かに大きくされている。このようなケーシングトップ11は、この後端部を最先端のケーシング10内に先端から嵌挿した上で溶接等により固定され、従ってこの最先端のケーシング10の内周面の先端側には、ケーシングトップ11の後端面によって内周側に一段縮径する段差部11Bが形成される。
【0022】
さらに、このケーシングトップ11の先端部には、やはり軸線Oを中心とした円筒状のリングビット12が、該ケーシングトップ11に対して軸線O回りに回転可能に取り付けられる。このリングビット12は、その内径が、上記突条部4Cを除いた工具本体1の先端部2における最先端の段の周面の外径すなわち上記先端側の段差部4Aの内径よりも僅かに大きく、かつこの段差部4Aの外径よりは小さくされている。なお、このリングビット12の後端面の内周側には段差部12Aが形成されており、この段差部12Aを含めた段差部4A、4B、11Bには、軸線O方向後端側に向かうに従い外周側に向かうようにて互いに等しい傾斜角のテーパが与えられている。
【0023】
また、このリングビット12の内周面には、上記突条部4Cの外径よりも僅かに大きな内径となるように凹んだ浅溝12Bが、軸線Oに平行に、かつ周方向には突条部4Cよりも大きな幅で該突条部4Cと同数周方向に等間隔に形成されている。さらに、この浅溝12Bの上記回転方向T側には、浅溝12Bと等しい内径で連続するようにして、周方向の幅が突条部4Cと等しくされた係合凹部12Cが、該リングビット12後端の上記段差部12Aとの間に、突条部4Cと上記段差部4Aとの間隔よりも大きな間隔をあけるようにして形成されている。さらに、このリングビット12の先端面にも、超硬合金等の硬質材料よりなるチップ9が多数植設されている。
【0024】
一方、このリングビット12の外周面は、その先端における外径がケーシング10やケーシングトップ11の外径よりも大きくされていて、この先端から後端側に向けて漸次縮径した後に、軸線O方向中央部でケーシング10およびケーシングトップ11の外径と同形の一定の外径となり、さらに後端部で一段縮径させられてケーシングトップ11先端内周の上記雌ネジ部11Aよりも僅かに小さな外径とされるとともに、この後端部の外周の最後端部には該雌ネジ部11Aと螺合する雄ネジ部12Dが形成されている。なお、これら雌雄ネジ部11A、12Dの軸線O方向の幅は、該雌雄ネジ部11A、12Dを除いたケーシングトップ11の先端内周部およびリングビット12の後端外周部の軸線O方向の幅よりも十分小さくされている。
【0025】
このようなリングビット12は、上述のようにケーシング10の先端に取り付けられたケーシングトップ11のさらに先端側からその後端部外周の上記雄ネジ部12Dをケーシングトップ11の先端部内周の雌ネジ部11Aにねじ込んでゆき、この雄ネジ部12Dが雌ネジ部11Aを抜け出たところで、該雄ネジ部12Dがケーシングトップ11先端部内周の雌ネジ部11Aよりも後端側に、該雌ネジ部11Aはリングビット12の後端部外周の雄ネジ部12Dよりも先端側にそれぞれ収容されることにより、ケーシングトップ11に対して軸線O回りに回転自在、かつ軸線O方向には所定のストロークで進退可能とされて、先端側に抜け止めされた状態でケーシングトップ11の先端に取り付けられる。
【0026】
さらに、こうしてケーシングトップ11の先端にリングビット12が取り付けられたケーシング10の後端側から、上記突条部4Cの周方向の位置を浅溝12Bに合わせて工具本体1を挿入すると、ケーシングトップ11の後端面によりケーシング10の内周に突出した上記段差部11Bに工具本体1の先端部2外周における後端側の段差部4Bが当接するとともに、これよりも先端部2の先端側はケーシングトップ11内周を通り抜けてリングビット12内周に突出する。
【0027】
次いで、このリングビット12後端の段差部12Aを先端部2外周の先端側の段差部4Aを当接させた状態で、工具本体1をリングビット12に対して相対的に回転方向Tに回転させると、突条部4Cが浅溝12Bから係合凹部12Cに嵌り込んでこの係合凹部12Cの回転方向T後方側を向く壁面に当接することにより、リングビット12がこの回転方向Tに工具本体1と係合させられて、該回転方向Tに一体に回転可能とされる。
【0028】
従って、この工具本体1に上述のような打撃力と回転力および推力を与えると、ケーシングトップ11およびケーシング10には、段差部4B、11Bを介して軸線O方向先端側への打撃力と推力が伝えられて、ケーシング10は回転することなく前進させられる。これに対して、リングビット12には、段差部4A、12Aを介して同じく打撃力と推力が与えられるとともに、突条部4Cから係合凹部12Cを介して回転方向Tに向けての回転力が与えられ、その先端のチップ9と工具本体1の先端面のチップ9とにより削孔を形成してゆく。
【0029】
そして、こうして削孔を形成する際の段差部4A、12Aを当接させた状態で、リングビット12の先端は工具本体1の先端よりも突出させられていて、本実施形態では工具本体1の先端面に植設されたチップ9の突端よりもリングビット12のチップ9を除いた先端面が突出するようにされるとともに、工具本体1には上記エアハンマから供給される圧縮空気の供給孔13が形成されていて、この供給孔13は、リングビット12の後端部の内周面と僅かな間隔をあけて対向した工具本体1の先端部2の外周面に開口させられている。すなわち、この供給孔13は、本実施形態では先端部2の外周面のうち上記段差部4Aよりも先端側の最先端の段の周面に開口させられている。
【0030】
本実施形態では、この供給孔13は、工具本体1の上記シャンク部3後端から軸線Oに沿って先端側に延びる大径の第1供給孔13Aが先端部2内に達するように止まり孔状に形成され、この第1供給孔13Aの先端側から、該第1供給孔13Aよりは小径の第2供給孔13Bが外周側に延びて先端部2の上記外周面に開口させられるように形成されている。なお、この第1供給孔13Aの先端からは、それぞれ第2供給孔13Bよりもさらに小径で凹溝8と同数の第3供給孔13Cが先端側に向かうに従い外周側に延び、該凹溝8の底面に一段拡径して開口するように形成されている。
【0031】
ここで、本実施形態では、第1供給孔13Aから複数(本実施形態では4つ)の上記第2供給孔13Bが周方向に等間隔に、また軸線O方向には先端側に向かうに従い外周側に延びるように分岐していて、上記外周面において隣接する排出溝5同士の間の周方向の中央にそれぞれ開口させられている。従って、これらの第2供給孔13Bは上記第3供給孔13Cと、周方向には重なり合うようにして、軸線O方向には第3供給孔13Cが先端側に位置するように間隔をあけて形成されることになる。なお、先端側に向けて外周側に延びるこれら第2、第3供給孔13B、13Cの軸線Oに対してなす角度は、本実施形態では第2供給孔13Bの方が大きくされている。
【0032】
さらに、本実施形態では、この第2供給孔13Bが工具本体1の外周面に開口する部分に、該第2供給孔13Bの中心線に垂直な断面積より大きな開口面積で外周面に開口する減圧室14が形成されており、供給孔13(第2供給孔13B)はこの減圧室14を介して、リングビット12後端部内周に対向した工具本体1の先端部2の外周面に開口させられている。
【0033】
ここで、本実施形態におけるこの減圧室14は、工具本体1の先端部2における上記段差部4Aよりも先端側の外周面に、この段差部4Aや先端部2の先端面における外周縁、および周方向に隣接する凹溝7とに対して間隔をあけて、軸線Oに沿った断面においては図1に示すように「コ」字状をなし、また軸線Oに対する径方向外周側から見た側面視には図3に示すように周方向に延びる長方形状をなすように開口させられており、この長方形は例えばその短辺の長さが上記第2供給孔13Bの直径よりも僅かに大きくされている。ただし、これらの長方形や断面「コ」字形の各角隅部は滑らかな断面凹円弧状に丸められている。
【0034】
上記供給孔13(第2供給孔13B)は、このような減圧室14の外周側を向く底面と軸線O方向先端側を向く壁面とに跨るようにして、その上記中心線の延長線が、該減圧室14が工具本体1の外周面に開口してなす上記長方形のちょうど中心を通るように該減圧室14に開口させられている。なお、この第2供給孔13Bの減圧室14における開口部は、この減圧室14の上記先端側を向く壁面において工具本体1の外周面とは僅かに間隔をあけている。
【0035】
また、工具本体1の先端部2における外周面には、この減圧室14から工具本体1の先端面における上記外周縁にかけて、凹溝状の排気流路14Aが形成されている。この排気流路14Aは、例えば上記第2供給孔13Bの半径よりも小さな半径の断面略半円状をなし、減圧室14から軸線Oに平行に先端側に延びた後、内周側に向かうように曲折して上記外周縁に開口させられており、本実施形態では複数のこのような排気流路14Aが、上記側面視において減圧室14がなす長方形の長手方向中央部と両端部とから先端面に向けて延びるように3条形成されている。
【0036】
なお、本実施形態では、リングビット12の内周面にも、その係合凹部12Cに工具本体1の突条部4Cが係合した状態で上記減圧室14に連通する排気流路12Eが形成されている。このリングビット12側の排気流路12Eは、上記浅溝12Bと略同程度の深さの浅溝状とされ、周方向には隣接する上記浅溝12Bおよび係合凹部12Cと間隔をあけて、上述の係合状態において工具本体1側の上記3条の排気流路14Aのうち中央と回転方向T方向側との排気流路14Aの間に延びるように、また軸線O方向にはリングビット12の上記段差部12Aと間隔をあけて、上記係合状態における減圧室14の先端側を向く壁面よりも僅かに後端側の位置からリングビット12の先端に開口するように形成されている。
【0037】
さらに、上記減圧室14からは、工具本体1の先端部2の外周面において周方向に隣接する上記排出溝5に向けて排気路15が形成されている。この排気路15は、本実施形態では、各減圧室14からその回転方向T側に隣接する排出溝5に向けてそれぞれ延びていて、その断面が減圧室14の軸線Oに沿った断面と同様に角隅部が丸められた「コ」字状をなして工具本体1の先端部2における外周面に開口する凹溝状に形成されており、ただしこの外周面からの深さは減圧室14よりは僅かに浅くされている。
【0038】
また、この排気路15は、減圧室14から排出溝5に向けて、軸線Oに直交する平面に沿った方向、または工具本体1の後端側に向かう方向に延びていて、すなわち少なくとも先端側に向かう方向には延びておらず、本実施形態では図3に示すように減圧室14の先端側を向く壁面と回転方向T後方側を向く壁面とに跨って該減圧室14に開口して回転方向T側の排出溝5に向かうに従い工具本体1の後方側に向かうように延びている。なお、この排気路15がなす凹溝の幅は、減圧室14が上記側面視においてなす長方形の短辺よりも僅かに大きくされている。
【0039】
このように構成された掘削工具では、円筒状のリングビット12の先端が円板状の工具本体1の先端部2よりも突出しているため、この先端部2のチップ9が植設された先端面の前方(軸線O方向先端側)には、突出したリングビット12によって囲まれた円板状の空間が形成されることになる。そして、その一方で、エアハンマから供給される作動空気である圧縮空気は、供給孔13の第1供給孔13Aから第2供給孔13Bを介して、リングビット12の内周面に間隔をあけて対向した先端部2の外周面から噴出させられ、こうして噴出した圧縮空気は、このリングビット12内周面に案内されるようにして先端側の上記空間内に排気される。
【0040】
従って、こうしてこの空間内に排気されて体積が膨張した圧縮空気は、リングビット12の内周面に沿って軸線Oに平行な方向か、これよりも軸線Oに対する内周側に向けて流れることになり、この膨張した空気がリングビット12を越えてその外周側に噴出するのを抑えることができる。このため、上記構成の掘削工具によれば、こうして外周側に噴出して周辺の地層に放散した空気によってこの周辺地層が緩んだり空隙が生じたりするのを防ぐことができ、たとえこの地層が砂層のような透過性の高いものであっても、円滑に削孔を形成するとともにケーシング10を建て込んで確実に自立させ、安定した掘削作業を行うことが可能となる。
【0041】
特に、本実施形態では、工具本体1の先端部2外周に排出溝5が形成されるとともに、ケーシング10内には、エアハンマおよび掘削ロッドとの間に、この排出溝5に連通する排出路が形成されており、上記空間に排気された圧縮空気は、掘削により該空間に生成された繰り粉を伴って排出溝5を通り排出路を介して削孔内から排出される。このため、例えば上記特許文献4に記載の掘削工具のように流体を削孔とケーシングとの間を通して地上に循環させたりするのに対して、圧縮空気が周辺の地層に放散されてしまうのを一層確実に防止することができる。
【0042】
一方、本実施形態では、工具本体1に形成された圧縮空気の供給孔13のうち先端部2の外周面に延びる第2供給孔13Bが、この外周面への開口面積が第2供給孔13Bの断面積よりも大きくされた減圧室14を介して外周面に開口するようにされている。従って、リングビット12の内周面との間隙部分から上記空間に排気される圧縮空気は、この減圧室14において体積膨張してその圧力がある程度低減させられた上で排気されるので、この圧縮空気が高圧のまま上記空間に排気されて一気に体積膨張することにより周辺地層に放散されたりするのも防止することが可能となる。
【0043】
しかも、この減圧室14から工具本体1の先端面に向けての圧縮空気は、本実施形態では工具本体1に形成された第2供給孔13Bよりも断面積の小さな凹溝状の複数の排気流路14Aと、リングビット12の内周面に形成された浅溝状の排気流路12Eとを介して排気されるようになされており、上記空間に供給される空気を繰り粉の排出に必要な最小限の量に設定することができる。このため、減圧室14で体積膨張した圧縮空気が一気に上記空間に排気されることにより周辺の地層に放散されてしまうような事態も防ぐことができ、この周辺地層の緩みや空隙の発生をより確実に防止することが可能となる。
【0044】
なお、本実施形態では、工具本体1に形成された供給孔13のうち、第1供給孔13Aの先端から第3供給孔13Cが工具本体1の先端面に開口するように延びていて、掘削時にはこの第3供給孔13Cからも圧縮空気が上記空間に排気される。ただし、この第3供給孔13Cは、上記第2供給孔13Bよりも断面積が小さくて排気される圧縮空気も少量であり、しかも工具本体1の先端面には、その内径が一段拡径した後に、この断面積よりも先端面への開口面積が大きな凹溝8を介して開口させられていて、上記減圧室14と同様にある程度減圧した状態で排気されることになるので、この第3供給孔13Cから排気された圧縮空気によって周辺地層に緩みや空隙が生じることはない。
【0045】
また、本実施形態では、上記減圧室14から繰り粉の排出溝5に向けて排気路15が形成されており、減圧室14に供給されて体積膨張した圧縮空気のうち先端側の上記空間に排気された分を除いた残りは、この排気路15から排出溝5に排気されて上記排出流路を通して排出される。従って、この残りの圧縮空気が行き場をなくして排気流路14A、12Eから高圧で上記空間に噴出したりすることもなく、この空間に排気される圧縮空気の量や圧力を確実に調整することができる。
【0046】
しかも、この排気路15は、減圧室14から排出溝5に向けて、軸線Oに直交する平面に沿った方向、または工具本体1の後端側に向かう方向に延びるように形成されているため、排出溝5を通って上記排出流路へ流れ込む繰り粉および空気の流れを妨げることがない。特に、本実施形態では、この排気路15が排出溝5に向けて工具本体1の後端側に向かうように傾斜させられているので、該排気路15から排気される圧縮空気により排出溝5に流れた繰り粉を後端側に押し出すことができ、より効率的な繰り粉の排出を図ることができる。
【0047】
なお、この第1の実施形態ではこのように圧縮空気の供給孔13(第2供給孔13B)を、減圧室14を介して工具本体1の先端部2外周面に開口させるとともに、この減圧室14から工具本体1の先端面に向けては排気流路14Aを、また繰り粉の排出溝5に向けては排気路15を形成しているが、図4および図5に示す本発明の第2の実施形態のように、これら減圧室14や排気流路14A、排気路15を設けずに、リングビット12の内周面と間隔をあけた工具本体1の外周面にこの供給孔13を直接開口させるようにしてもよい。ここで、この第2の実施形態において第1の実施形態と共通する要素には同一の符号を配してある。
【0048】
この第2の実施形態では、工具本体1の先端部2は軸線Oを中心とした外形円柱状に形成されており、その外周面にはリングビット12の段差部12Aとケーシングトップ11の段差部11Bとに当接する段差部4A、4Bの他に、先端側にさらにもう一段の段差部4Dが形成されるように、突条部4Cの先端側において外周面がさらに一段縮径させられている。そして、供給孔13の第1供給孔13Aから工具本体1の先端部2外周面に延びる第2供給孔13Bは、この段差部11Dを跨いで最先端の段の周面から次の段の周面に減圧室を介さずに直接開口するように形成されている。
【0049】
なお、この第2の実施形態でも、こうして供給孔13が開口した工具本体1の先端部2外周面に間隔をあけて対向するリングビット12の内周面には、突条部4Cが係合凹部12Cに係合した状態で周方向に第2供給孔13Bの開口部に対応する位置に、浅溝状の排気流路12Eが形成されている。
【0050】
また、工具本体1の先端面側に開口する第3供給孔13Cは、本実施形態では、第2供給孔13Bよりも僅かに大径とされていて、排出溝5の先端に連通して工具本体1の先端面の中心付近にまで延びるように形成された凹所7の中心側に開口させられている。従って、この第2の実施形態では、第2、第3供給孔13B、13Cは周方向に重なり合うことなく交互に配設されることになり、また先端面の中央部はすり鉢状とされることなく軸線Oに垂直で、凹溝8も形成されてはいない。
【0051】
このように構成された第2の実施形態でも、リングビット12の先端は工具本体1の先端面よりも突出させられていて、その先端側にはリングビット12により囲繞された円板状の空間が形成され、この空間に、供給孔13(第2供給孔13B)から供給された圧縮空気が、工具本体1最先端の縮径した周面とこれに対向するリングビット12の内周面との間の間隙部分、および上記排気流路12Eに案内されるように、軸線O方向に平行または先端側に向かうに従い内周側に向かうように排気される。従って、この圧縮空気が周辺の地層に放散されることがなく、周辺地層に緩みや空隙が生じることもないので、安定的かつ円滑に削孔を形成してケーシング10を建て込むことが可能となる。
【0052】
また、工具本体1の最先端の周面とリングビット12の内周面との間に形成される上記間隙部分は、本実施形態では繰り粉の排出溝5に連通することになるので、この間隙部分を通して圧縮空気の一部を上記空間に排気することなく排出溝5を通して繰り粉の排出に利用することが可能である。さらに、第1の実施形態のような減圧室14や排気流路14A、排気路15が形成されていないので、工具本体1が切り欠かれる部分が少なく、高い剛性や強度を工具本体1に確保することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 工具本体
2 工具本体1の先端部
4A、4B、4D、11B、12A 段差部
4C 突条部
5 排出溝
9 チップ
10 ケーシング
11 ケーシングトップ
12 リングビット
12E 排気流路
12C 係合凹部
13(13A〜13C) 圧縮空気の供給孔
14 減圧室
14A 排気流路
15 排気路
O 工具本体1の軸線
T 掘削時の工具本体1の回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心とした外形円柱状または円板状をなす工具本体の先端部の外周に、上記軸線を中心とした円筒状のケーシングが配設されるとともに、このケーシングの先端部には、上記軸線を中心とした円筒状をなすリングビットが上記ケーシングに対して上記軸線回りに回転可能に取り付けられており、このリングビットの先端は上記工具本体の先端よりも突出させられるとともに、該リングビットの後端部の内周面は上記工具本体の先端部の外周面と間隔をあけて対向させられていて、このリングビットの後端部の内周面と対向した上記工具本体の先端部の外周面には、該工具本体内に形成された圧縮空気の供給孔が開口させられていることを特徴とする掘削工具。
【請求項2】
上記圧縮空気の供給孔は、上記工具本体の先端部の外周面に開口するように形成された、該供給孔の断面積よりも上記外周面への開口面積が大きな減圧室を介して、上記工具本体の先端部の外周面に開口させられていることを特徴とする請求項1に記載の掘削工具。
【請求項3】
上記工具本体の先端部の外周面には、上記リングビットの後端部の内周面との間に、上記工具本体の先端面に開口するとともに該工具本体の後端部の外周面と上記ケーシングの内周面との間に連通して掘削時に生成された繰り粉を排出する排出溝が形成されており、上記減圧室からはこの排出溝に向けて上記圧縮空気の排気路が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の掘削工具。
【請求項4】
上記排気路は、上記減圧室から上記排出溝に向けて、上記軸線に直交する平面に沿った方向、または上記工具本体の後端側に向かう方向に延びていることを特徴とする請求項3に記載の掘削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−216101(P2010−216101A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61503(P2009−61503)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】