説明

接合体

【課題】接合膜を介して互いに接合された2つの部材同士を容易な方法で、かつ効率よく剥離し得る接合体を提供すること。
【解決手段】本発明の接合体は、第1の基材21の接合面と第2の基材22の接合面とを接合する接合膜3とを有し、接合膜3は、シリコーン材料と、所定温度以上に加熱されることにより変色する熱変色性材料とを含有しており、接合膜3に剥離用エネルギーとして所定温度以上の熱エネルギーを付与することにより、シリコーン材料を構成する分子結合の一部を切断して、接合膜3内にへき開を生じさせ、接合膜3の少なくとも一部に層内剥離を生じ得るとともに、熱変色性材料に変色を生じさせることにより当該層内剥離の箇所を視認し得るように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの部材同士を接合して接合体を得る際には、従来、これらの部材同士の間に、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤等の接着剤で構成される接合層を介在させることにより2つの部材同士を接合させる方法が多用されている。
このような接着剤を用いた接合層を介した部材同士の接合では、寸法精度が低かったり、硬化時間に長時間を要する等の問題がある。
一方、このような問題を生じない方法として、接着剤を用いず、2つの部材同士を直接接合する固体接合法も知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで、近年、環境問題の観点から、使用後の接合体をリサイクルに供することが求められている。
接合体のリサイクル率を向上させるためには、部材毎に分割してリサイクルに供する必要が有るが、前述したような接合方法を用いて接合された接合体では、各部材同士を効率よく剥離する方法がなく、その結果、接合体のリサイクル率が向上しないという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開平5−82404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、接合膜を介して互いに接合された2つの部材同士を容易な方法で、かつ効率よく剥離し得る接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の接合体は、第1の基材と、
第2の基材と、
前記第1の基材の接合面と前記第2の基材の接合面とを接合する接合膜とを有する接合体であって、
前記接合膜は、シリコーン材料と、所定温度以上に加熱されることにより変色する熱変色性材料とを含有しており、
前記接合膜に剥離用エネルギーとして前記所定温度以上の熱エネルギーを付与することにより、前記シリコーン材料を構成する分子結合の一部を切断して、前記接合膜内にへき開を生じさせ、前記接合膜の少なくとも一部に層内剥離を生じ得るとともに、前記熱変色性材料に変色を生じさせることにより当該層内剥離の箇所を視認し得るように構成されていることを特徴とする。
これにより、前記接合体において、第1の基材から第2の基材を容易に、かつ効率よく剥離することができる。特に、層内剥離の箇所を視認することができるので、層内剥離の箇所を視認しながら、接合膜に剥離用エネルギーを効率よく付与することができる。その結果、第1の基材から第2の基材を効率よくかつ確実に剥離することができる。
【0007】
本発明の接合体では、前記熱変色性材料は、温度に応じて可逆的に変色するように構成されていることが好ましい。
これにより、層内剥離の箇所を視認しながら、接合膜に剥離用エネルギーを効率よく付与することができる。
本発明の接合体では、前記熱変色性材料は、前記変色後に前記所定温度よりも低い温度下でも前記変色状態を維持するように構成されていることが好ましい。
これにより、層内剥離の箇所を視認しながら、接合膜に剥離用エネルギーを効率よく付与することができる。また、剥離用エネルギーの付与を終えた後であっても、層内剥離の箇所を視認することができる。そのため、剥離不良を防止することができる。
【0008】
本発明の接合体では、前記熱変色性材料は、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と極性有機化合物とを含んで構成されていることが好ましい。
これにより、比較的簡単かつ確実に、層内剥離を視認し得るように接合膜を構成することができる。また、熱変色性材料の変色温度の調整が用意であるため、層内剥離(へき開)の生じる温度と、熱変色性材料の変色温度とを簡単に一致または近づけて、層内剥離の箇所を確実に視認することができる。
【0009】
本発明の接合体では、前記第1の基材および前記第2の基材のうちの少なくとも一方の基材は、透明性を有することが好ましい。
これにより、第1の基材または第2の基材を介して接合膜の層内剥離を視認することができる。
本発明の接合体では、前記熱エネルギーによる前記接合膜の加熱温度は、100〜400℃であることが好ましい。
これにより、第1の基材および第2の基材に変質・劣化が生じるのを防止しつつ、接合膜にへき開を確実に生じさせることができる。
【0010】
本発明の接合体では、前記シリコーン材料は、その主骨格がポリジメチルシロキサンで構成されることが好ましい。
かかる化合物は、比較的入手が容易で、かつ安価であるとともに、かかる化合物を含有する接合膜にエネルギーを付与することにより、化合物を構成するメチル基が容易に切断されて、その結果として、接合膜に確実に接着性を発現させることができるため、シリコーン材料として好適に用いられる。
【0011】
本発明の接合体では、前記シリコーン材料は、シラノール基を有することが好ましい。
これにより、液状被膜を乾燥させて接合膜を得る際に、隣接するシリコーン材料が有する水酸基同士が結合することとなり、得られる接合膜の膜強度が優れたものとなる。
本発明の接合体では、前記接合膜の平均厚さは、10〜10000nmであることが好ましい。
かかる範囲内とすれば、接合膜内にへき開を確実に生じさせて、第1の基材から第2の基材を剥離することができる。
【0012】
本発明の接合体は、第1の基材と、
第2の基材と、
第3の基材と、
前記第1の基材の接合面と前記第2の基材の接合面とを接合する第1の接合膜と、
前記第1の基材の接合面と前記第3の基材の接合面とを接合する第2の接合膜とを有する接合体であって、
前記第1の接合膜は、第1のシリコーン材料と、所定の第1の温度以上に加熱されることにより変色する第1の熱変色性材料とを含有しており、前記第1の接合膜に第1の剥離用エネルギーとして前記所定の第1の温度以上の熱エネルギーを付与して、前記第1のシリコーン材料を構成する分子結合の一部を切断することにより、前記第1の接合膜内に第1のへき開を生じさせて、前記第1の接合膜の少なくとも一部に層内剥離を生じ得るとともに、前記第1の熱変色性材料に変色を生じさせることにより当該層内剥離の箇所を視認し得るように構成され、
前記第2の接合膜は、第2のシリコーン材料と、前記所定の第1の温度よりも高い所定の第2の温度以上に加熱されることにより変色する第2の熱変色性材料とを含有しており、前記第2の接合膜に第2の剥離用エネルギーとして前記所定の第2の温度以上の熱エネルギーを付与して、前記第2のシリコーン材料を構成する分子結合の一部を切断することにより、前記第2の接合膜内に第1のへき開を生じさせて、前記第2の接合膜の少なくとも一部に層内剥離を生じ得るとともに、前記第2の熱変色性材料に変色を生じさせることにより当該層内剥離の箇所を視認し得るように構成されることを特徴とする。
これにより、第1の基材と第3の基材との剥離を防止しつつ、第1の接合膜への第1の剥離用エネルギーの付与によって容易にかつ効率よく第1の基材と第2の基材とを剥離することができる。そして、第1の基材と第2の基材とを剥離した後に、第2の接合膜への第2の剥離用エネルギーの付与によって容易にかつ効率よく第1の基材と第3の基材とを剥離することができる。その結果、第1の基材と第2の基材と第3の基材とを各部材毎に容易にかつ効率よく分割・回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の接合体を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
まず、本発明の第1施形態を説明する。
<接合体>
図1は、本発明の接合体の第1実施形態を示す縦断面図である。
図1に示す接合体1は、第1の基材21と、第2の基材22と、これら基材21、22同士の間に介在する接合膜3とを備えている。
第1の基材21および第2の基材22は、接合膜3を介して互いに接合されるものである。
【0014】
このような第1の基材21および第2の基材22の各構成材料は、それぞれ特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、ポリブテン−1、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アラミド系樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の樹脂系材料、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、V、Mo、Nb、Zr、Pr、Nd、Smのような金属、またはこれらの金属を含む合金、炭素鋼、ステンレス鋼、インジウム錫酸化物(ITO)、ガリウムヒ素のような金属系材料、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコンのようなシリコン系材料、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラスのようなガラス系材料、アルミナ、ジルコニア、MgAl、フェライト、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのようなセラミックス系材料、グラファイトのような炭素系材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
【0015】
また、第1の基材21および第2の基材22のうちの少なくとも一方の基材は、基材の形状や接合膜の形成領域にもよるが、後述するように接合膜3の層内剥離を視認し得るように透明材料で構成されているのが好ましい。これにより、後述するような変色により基材を介して接合膜3の層内剥離(剥離温度に達しているか否か)を視認することができる。
また、第1の基材21および第2の基材22の構成材料は、互いに、同一であっても異なっていてもよい。なお、これら基材21、22が互いに異なる際に、後述する接合体の剥離方法を適用することにより、各基材21、22のリサイクル率を確実に向上させることができる。
【0016】
接合膜3は、第1の基材21と第2の基材22とを、これらの間に介在して、互いに接合するものである。
この接合膜3は、シリコーン材料と、所定温度以上に加熱されることにより変色する熱変色性材料とを含有している。
そして、接合膜3は、剥離用エネルギーとして前記所定温度以上の熱エネルギーが付与されることにより、前記シリコーン材料を構成する分子結合の一部が切断されて、接合膜3内にへき開を生じさせ、接合膜3の少なくとも一部に層内剥離を生じ得るものである。これにより、接合体1において、第1の基材21から第2の基材22を容易に、かつ効率よく剥離することができる。
【0017】
特に、接合膜3は、前述したような剥離用エネルギーの付与により、前記熱変色性材料に変色を生じさせることにより当該層内剥離の箇所を視認し得るように構成されている。これにより、接合膜3の層内剥離の箇所を視認することができるので、層内剥離の箇所を視認しながら、接合膜3に剥離用エネルギーを効率よく付与することができる。その結果、第1の基材21から第2の基材22を効率よくかつ確実に剥離することができる。
なお、接合膜3の詳細な構成については、以下の接合体1の形成方法において説明する。
【0018】
<接合体の形成方法>
上述した構成の接合体1の形成方法では、第1の基材21と第2の基材22とを用意し、第1の基材21および第2の基材22の少なくとも一方に、シリコーン材料および熱変色性材料を含有する液状材料を供給することにより液状被膜30を形成する工程と、液状被膜30を乾燥して、接合膜3を得る工程と、接合膜3に接合用エネルギーを付与することにより、接合膜3の表面付近に接着性を発現させ、この接合膜3を介して第1の基材21と第2の基材22とを接合する工程とを経ることにより接合体1が形成される。
以下では、接合体1の形成方法として第1の例および第2の例をそれぞれ工程ごとに詳述する。
【0019】
<<第1の例>>
図2および図3は、図1に示す接合体の形成方法の第1の例を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図2および図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
接合体の形成方法の第1の例では、接合膜3を、液状材料を用いて、第2の基材22上に形成せずに、第1の基材21上に選択的に形成し、接合膜3を介して第1の基材21と第2の基材22とを接合することにより、接合体1を得る。
【0020】
[1A]まず、前述したような第1の基材21と第2の基材22とを用意する。なお、図2(a)では、第2の基材22を省略している。
これら第1の基材21および第2の基材22は、それぞれ、その表面に、Niめっきのようなめっき処理、クロメート処理のような不働態化処理、または窒化処理等を施したものであってもよい。
【0021】
また、第1の基材21の構成材料と第2の基材22の構成材料とは、それぞれ同じでも、異なっていてもよいが、第1の基材21の熱膨張率と第2の基材22の熱膨張率は、ほぼ等しいのが好ましい。これらの熱膨張率がほぼ等しければ、第1の基材21と第2の基材22とを接合した際に、その接合界面に熱膨張に伴う応力が発生し難くなる。その結果、最終的に得られる接合体1において、剥離を確実に防止することができる。
【0022】
なお、後に詳述するが、第1の基材21の熱膨張率と第2の基材22の熱膨張率が互いに異なる場合でも、後述する工程において、第1の基材21と第2の基材22とを接合する際の条件を最適化することにより、これらを高い寸法精度で強固に接合することができる。
また、2つの基材21、22は、互いに剛性が異なるのが好ましい。これにより、2つの基材21、22をより強固に接合することができる。
【0023】
また、2つの基材21、22のうち、少なくとも一方の基材の構成材料は、樹脂材料であるのが好ましい。樹脂材料は、その柔軟性により、2つの基材21、22を接合した際に、その接合界面に発生する応力(例えば、熱膨張に伴う応力等)を緩和することができる。このため、接合界面が破壊し難くなり、結果的に、接合強度の高い接合体1を得ることができる。
【0024】
なお、上記のような観点から、2つの基材21、22のうちの少なくとも一方は、可撓性を有しているのが好ましい。これにより、接合体1の接合強度のさらなる向上を図ることができる。さらに、2つの基材21、22の双方が可撓性を有している場合には、全体として可撓性を有し、機能性の高い接合体1が得られる。
また、各基材21、22の形状は、それぞれ、接合膜3を支持する面を有するような形状であればよく、例えば、板状(層状)、塊状(ブロック状)、棒状等とされる。
【0025】
なお、本実施形態では、図2、3に示すように、各基材21、22がそれぞれ板状をなしている。これにより、各基材21、22は撓み易くなり、2つの基材21、22を重ね合わせたときに、互いの形状に沿って十分に変形し得るものとなる。このため、2つの基材21、22を重ね合わせたときの密着性が高くなり、最終的に得られる接合体1における接合強度が高くなる。
また、各基材21、22が撓むことによって、接合界面に生じる応力を、ある程度緩和する作用が期待できる。
この場合、各基材21、22の平均厚さは、特に限定されないが、0.01〜10mm程度であるのが好ましく、0.1〜3mm程度であるのがより好ましい。
【0026】
[1A−1]次いで、必要に応じて、用意した第1の基材21の接合面23に、形成される接合膜3との密着性を高める表面処理を施す。これにより、接合面23を清浄化および活性化され、接合面23に対して接合膜3が化学的に作用し易くなる。その結果、後述する工程において、接合面23上に接合膜3を形成したとき、接合面23と接合膜3との接合強度を高めることができる。
【0027】
この表面処理としては、特に限定されないが、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。
なお、表面処理を施す第1の基材21が、樹脂材料(高分子材料)で構成されている場合には、特に、コロナ放電処理、窒素プラズマ処理等が好適に用いられる。
【0028】
また、表面処理として、特にプラズマ処理または紫外線照射処理を行うことにより、接合面23を、より清浄化および活性化することができる。その結果、接合面23と接合膜3との接合強度を特に高めることができる。
また、第1の基材21の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜3との接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる第1の基材21の構成材料としては、例えば、前述したような各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を主材料とするものが挙げられる。
【0029】
このような材料で構成された第1の基材21は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、水酸基が結合している。したがって、このような酸化膜で覆われた第1の基材21を用いることにより、上記のような表面処理を施さなくても、第1の基材21の接合面23と接合膜3との接合強度を高めることができる。
一方、第1の基材21と同様、第2の基材22の接合面24(後述する工程において、接合膜3と密着する面)にも、必要に応じて、あらかじめ接合膜3との密着性を高める表面処理を施してもよい。これにより、接合面24を清浄化および活性化する。その結果、後述する工程において、接合面24と接合膜3とを密着させ、これらを接合したとき、接合面24と接合膜3との接合強度を高めることができる。
【0030】
この表面処理としては、特に限定されないが、前述の第1の基材21の接合面23に対する表面処理と同様の処理を用いることができる。
また、第1の基材21の場合と同様に、第2の基材22の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜3との密着性が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる第2の基材22の構成材料としては、例えば、前述したような各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を主材料とするものが挙げられる。
【0031】
すなわち、このような材料で構成された第2の基材22は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、水酸基が結合(露出)している。したがって、このような酸化膜で覆われた第2の基材22を用いることにより、上記のような表面処理を施さなくても、第2の基材22の接合面24と接合膜3との接合強度を高めることができる。
なお、この場合、第2の基材22の全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも接合膜3と接合する領域において、接合面24付近が上記のような材料で構成されていればよい。
【0032】
また、第2の基材22の接合面24に、以下の基や物質を有する場合には、上記のような表面処理を施さなくても、第2の基材22の接合面24と接合膜3との接合強度を十分に高くすることができる。
このような基や物質としては、例えば、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、イミダゾール基のような各種官能基、各種ラジカル、開環分子または、2重結合、3重結合のような不飽和結合を有する脱離性中間体分子、F、Cl、Br、Iのようなハロゲン、過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの基や物質、または、これらの基が脱離してなる終端化されていない結合手(未結合手、ダングリングボンド)が挙げられる。
【0033】
このうち、脱離性中間体分子は、開環分子または不飽和結合を有する炭化水素分子であるのが好ましい。このような炭化水素分子は、開環分子および不飽和結合の顕著な反応性に基づき、接合膜3に対して強固に作用する。したがって、このような炭化水素分子を有する接合面24は、接合膜3に対して特に強固に接合可能なものとなる。
また、接合面24が有する官能基は、特に水酸基が好ましい。これにより、接合面24は、接合膜3に対して特に容易かつ強固に接合可能なものとなる。特に接合膜3の表面に水酸基が露出している場合には、水酸基同士間に生じる水素結合に基づいて、接合面24と接合膜3との間を短時間で強固に接合することができる。
【0034】
また、このような基や物質を有するように、接合面24に対して上述したような各種表面処理を適宜選択して行うことにより、接合膜3に対して強固に接合可能な第2の基材22が得られる。
このうち、第2の基材22の接合面24には、水酸基が存在しているのが好ましい。このような接合面24には、水酸基が露出した接合膜3との間に、水素結合に基づく大きな引力が生じる。これにより、最終的に、第1の基材21と第2の基材22とを特に強固に接合することができる。
【0035】
[1A−2]また、表面処理を施すのに代えて、第1の基材21の接合面23に、あらかじめ、中間層を形成するようにしてもよい。
この中間層は、いかなる機能を有するものであってもよく、例えば、接合膜3との密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能等を有するものが好ましい。このような中間層上に接合膜3を成膜することにより、最終的に、信頼性の高い接合体1を形成することができる。
【0036】
かかる中間層の構成材料としては、例えば、アルミニウム、チタンのような金属系材料、金属酸化物、シリコン酸化物のような酸化物系材料、金属窒化物、シリコン窒化物のような窒化物系材料、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボンのような炭素系材料、シランカップリング剤、チオール系化合物、金属アルコキシド、金属−ハロゲン化合物のような自己組織化膜材料、樹脂系接着剤、樹脂フィルム、樹脂コーティング材、各種ゴム材料、各種エラストマーのような樹脂系材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
また、これらの各材料で構成された中間層の中でも、酸化物系材料で構成された中間層によれば、第1の基材21と接合膜3との間の接合強度を特に高めることができる。
また、第1の基材21と同様、表面処理に代えて、第2の基材22の接合面24に、あらかじめ、中間層を形成しておいてもよい。
この中間層は、いかなる機能を有するものであってもよく、例えば、前記第1の基材21の場合と同様に、接合膜3との密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能等を有するものが好ましい。このような中間層を介して、第2の基材22と接合膜3とを接合することにより、最終的に、信頼性の高い接合体1を得ることができる。
かかる中間層の構成材料には、例えば、前記第1の基材21の接合面23に形成する中間層の構成材料と同様の材料を用いることができる。
なお、上記のような表面処理および中間層の形成は、必要に応じて行えばよく、特に高い接合強度を必要としない場合には、省略することができる。
【0038】
[2A]次に、シリコーン材料および熱変色性材料を含有する液状材料を塗布法を用いて接合面23上に供給する。これにより、第1の基材21の接合面23上に、液状被膜30が形成される(図2(b)参照)。
塗布法としては、特に限定されないが、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法および液滴吐出法や等が挙げられるが、特に、液滴吐出法を用いるのが好ましい。液滴吐出法によれば、図2(b)に示すように、液状材料を液滴31として接合面23に供給することができるため、たとえ液状被膜30を接合面23の一部の領域に選択的にパターニングして形成する場合であったとしても、液状材料をこの領域の形状に対応して(選択的に)供給することができる。
【0039】
液滴吐出法としては、特に限定されないが、圧電素子による振動を利用して液状材料を吐出する構成のインクジェット法が好適に用いられる。インクジェット法によれば、目的とする領域(位置)に、液状材料を液滴31として、優れた位置精度で供給することができる。また、圧電素子の振動数および液状材料の粘度等を適宜設定することにより、液滴31のサイズ(大きさ)を、比較的容易に調整できることから、液滴31のサイズを小さくすれば、たとえ膜を形成する領域の形状が微細なものであったとしても、この領域の形状に対応した液状被膜30を確実に形成することができる。
【0040】
液状材料の粘度(25℃)は、通常、0.5〜200mPa・s程度であるのが好ましく、3〜20mPa・s程度であるのがより好ましい。液状材料の粘度をかかる範囲とすることにより、液滴の吐出をより安定的に行うことができるとともに、微細な形状の膜を形成する領域に対応した形状を描画し得る大きさの液滴31を吐出することができる。さらに、この液状材料で構成される液状被膜30を次工程[3A]で乾燥させた際に、接合膜3を形成するのに十分な量のシリコーン材料を液状材料中に含有したものとすることができる。
【0041】
また、液状材料の粘度をかかる範囲内とすれば、具体的には、液滴31の量(液状材料の1滴の量)を、平均で、0.1〜40pL程度に、より現実的には1〜30pL程度に設定し得る。これにより、接合面23に供給された際の液滴31の着弾径が小さなものとなることから、微細な形状の接合膜3をも確実に形成することができる。
さらに、接合面23に供給する液滴31の供給量を適宜設定することにより、形成される接合膜3の厚さの制御を比較的容易に行うことができる。
【0042】
また、液状材料は、前述のようにシリコーン材料および熱変色性材料を含有するものであるが、シリコーン材料および熱変色性材料のみで液状をなし目的とする粘度範囲である場合、シリコーン材料および熱変色性材料を混合したものをそのまま液状材料として用いることができる。また、シリコーン材料および熱変色性材料のみで固形状または高粘度の液状をなす場合には、液状材料として、シリコーン材料および熱変色性材料の溶液または分散液を用いることができる。
【0043】
シリコーン材料および熱変色性材料を溶解または分散するための溶媒または分散媒としては、例えば、アンモニア、水、過酸化水素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等を用いることができる。
【0044】
シリコーン材料は、液状材料中に含まれ、次工程[3A]において、この液状材料を乾燥させることにより形成される接合膜3の主材料として構成するものである。
ここで、「シリコーン材料」とは、ポリオルガノシロキサン骨格を有する化合物であり、通常、主骨格(主鎖)部分が主としてオルガノシロキサン単位の繰り返しからなる化合物のことを言い、主鎖の一部から突出する分枝状の構造を有するものであってもよく、主鎖が環状をなす環状体であってもよく、主鎖の末端同士が連結しない直鎖状のものであってもよい。
例えば、ポリオルガノシロキサン骨格を有する化合物において、オルガノシロキサン単位は、その末端部では下記一般式(1)で表わされる構造単位を有し、連結部では下記一般式(2)で表わされる構造単位を有し、また、分枝部では下記一般式(3)で表わされる構造単位を有している。
【0045】
【化1】

[式中、各Rは、それぞれ独立して、置換または無置換の炭化水素基を表し、各Zは、それぞれ独立して、水酸基または加水分解基を表し、Xはシロキサン残基を表し、aは0または1〜3の整数を表し、bは0または1〜2の整数を表し、cは0または1を表す。]
【0046】
なお、シロキサン残基とは、酸素原子を介して隣接する構造単位が有するケイ素原子に結合しており、シロキサン結合を形成している置換基のことを表す。具体的には、−O−(Si)構造(Siは隣接する構造単位が有するケイ素原子)となっている。
このようなシリコーン材料において、ポリオルガノシロキサン骨格は、直鎖状をなすもの、すなわち上記一般式(1)の構造単位および上記一般式(2)の構造単位で構成されるであるのが好ましい。これにより、次工程[3A]において、液状材料中に含まれるシリコーン材料同士が絡まり合うようにして接合膜3が形成されることから、得られる接合膜3は膜強度に優れたものとなる。
具体的には、かかる構成のポリオルガノシロキサン骨格を有する化合物としては、例えば、下記一般式(4)で表わされるものが挙げられる。
【0047】
【化2】

[式中、各Rは、それぞれ独立して、置換または無置換の炭化水素基を表し、各Zは、それぞれ独立して、水酸基または加水分解基を表し、aは0または1〜3の整数を表し、mは0または1以上の整数を表し、nは0または1以上の整数を表す。]
【0048】
上記一般式(1)〜上記一般式(4)中、基R(置換または無置換の炭化水素基)としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基等が挙げられる。さらに、これらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部または全部が、I)フッ素原子、塩素原子、臭素原子のようなハロゲン原子、II)グリシドキシ基のようなエポキシ基、III)メタクリル基のような(メタ)アクリロイル基、IV)カルボキシル基、スルフォニル基のようなアニオン性基等で置換された基等が挙げられる。
【0049】
また、加水分解基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基等のケトオキシム基、アセトキシ基等のアシルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、イソブテニルオキシ基等のアルケニルオキシ基等が挙げられる。
また、上記一般式(4)中、mおよびnは、ポリオルガノシロキサンの重合度を表すものであるが、mおよびnの合計(m+n)が、5〜10000程度の整数であるのが好ましく、50〜1000程度の整数であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することにより、液状材料の粘度を上述したような範囲内に比較的容易に設定することができる。
【0050】
このようなシリコーン材料の中でも、特に、その主骨格がポリジメチルシロキサンで構成されているのが好ましい。すなわち、上記一般式(4)において、各基Rはメチル基であるのが好ましい。かかる化合物は、比較的入手が容易で、かつ安価であるとともに、後工程[4A]において、接合膜3に接合用エネルギーを付与することにより、メチル基が容易に切断されて、その結果として、接合膜3に確実に接着性を発現させることができるため、シリコーン材料として好適に用いられる。
【0051】
さらに、シリコーン材料は、シラノール基を有するものであるのが好ましい。すなわち、上記一般式(4)において、各基Zは水酸基であるのが好ましい。これにより、次工程[3A]において、液状被膜30を乾燥させて接合膜3を得る際に、隣接するシリコーン材料が有する水酸基同士が結合することとなり、得られる接合膜3の膜強度が優れたものとなる。さらに、第1の基材21として、前述したように、その接合面(表面)23から水酸基が露出しているものを用いた場合には、シリコーン材料が備える水酸基と、第1の基材21が備える水酸基とが結合することから、シリコーン材料を物理的な結合ばかりでなく、化学的な結合によっても第1の基材21に結合させることができる。その結果、接合膜3は、第1の基材21の接合面23に対して、強固に結合したものとなる。
【0052】
また、シリコーン材料は、比較的柔軟性に富む材料である。そのため、後工程[5A]において、接合膜3を介して第1の基材21に第2の基材22を接合して接合体1を得る際に、例えば、第1の基材21と第2の基材22との各構成材料が互いに異なるものを用いる場合であったとしても、各基材21、22間に生じる熱膨張に伴う応力を確実に緩和することができる。これにより、最終的に得られる接合体1において、剥離が生じるのを確実に防止することができる。
【0053】
さらに、シリコーン材料は、耐薬品性に優れているため、薬品類等に長期にわたって曝されるような部材の接合に際して効果的に用いることができる。具体的には、例えば、樹脂材料を浸食し易い有機系インクが用いられる工業用インクジェットプリンタの液滴吐出ヘッドを製造する際に、前述したような接合膜3を適用すれば、その耐久性を確実に向上させることができる。また、シリコーン材料は、耐熱性にも優れていることから、高温下に曝されるような部材の接合に際しても効果的に用いることができる。
【0054】
一方、液状材料に含有される熱変色性材料は、所定温度(変色点)以上に加熱されることにより変色するものである。
このような熱変色性材料としては、温度変化によってその色彩が変化する材料(示温材料)であれば、特に限定されず、例えば、テトラハロゲノ錯体、エチレンジアミン錯体誘導体、含窒素配位子錯体、縮合芳香環置換エチレン誘導体、コレステリック液晶等を用いることもできるが、特に、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と極性有機化合物とを含んで構成されたものを用いるのが好ましい。
【0055】
熱変色性材料が電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と極性有機化合物とを含んで構成されていると、比較的簡単かつ確実に、層内剥離を視認し得るように接合膜3を構成することができる。また、熱変色性材料の変色温度の調整が容易であるため、層内剥離(へき開)の生じる温度と、熱変色性材料の変色温度とを簡単に一致または近づけて、層内剥離の箇所を確実に視認することができる。
【0056】
より具体的に説明すると、電子供与性呈色性有機化合物は、熱変色性材料の色を決定する役割を有している。このような電子供与性呈色性有機化合物としては、例えば、ジアリールフタリド類、ポリアリールカルビノール類、ロイコオーラミン類、アシルオーラミン類、アリールオーラミン類、ローダミンBラクタム類、インドリン類、スピロピラン類、フルオラン類等が挙げられる。
【0057】
より具体的には、電子供与性呈色性有機化合物として、例えば、クリスタルバイオレットラクトン、マラカイトグリーンラクトン、ミヒラーヒドロール、クリスタルバイオレットカーピノール、マラカイトグリーンカーピノール、N−(2・3−ジクロロフェニル)ロイコオーラミン、ド−ベンゾイルオーラミン、N−アセチルオーラミン、N−フェニルオーラミン、ローダミンBラクタム、2−(フェニルイミノエタンジリデン)3・3−ジメチルインドリン、N・3・3−トリメチルインドリノベンブスピロピラン、8´−メトキシ−N・3・3−トリメチルインドリノベンブスピロピラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−メトキシフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−ベンジルオキシフルオラン、1・2−ベンツ−6−ジエチルアミノフルオラン等が挙げられ、これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
また、電子受容性化合物は、熱変色性材料の色の濃度を決定する役割を有している。このような電子受容性化合物としては、例えば、フェノール性水酸基を有する化合物等が挙げられる。
より具体的には、フェノール性水酸基を有する化合物として、モノフェノール類からポリフェノール類までを用いることができ、その置換基として、アルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン等が挙げられる。
【0059】
さらに具体的には、フェノール性水酸基を有する化合物として、例えば、フェノール、O−クレゾール、P−クレゾール、P−エチルフェノール、ターシャリーブチルフェノール、2・6−ジターシャリーフチル−4−フェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノール、スチレネーティッドフェノール、2・2´−メチレンビス(4−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)、α−ナフトール、β−ナフトール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、グアヤコール、オイゲノール、P−クロルフェノール、P−ブロモフェノール、O−ブロモフェノール、O−クロロフェノール、2・4・6−トリクロルフェノール、O−フェニルフェノール、P−フェニルフェノール、P−(P−クロロフェニル)フェノール、0−(O−クロロフェニル)フェノール、サリチル酸、P−オキシ安息香酸メチル、P−オキシ安息香酸エチル、P−オキシ安息香酸プロピル、P−オキシ安息香酸ブチル、P−オキシ安息香酸オクチル、P−オキシ安息香酸ドデシル、カテコール、ハイドロキノン、レゾルシン、3−メチルカテコール、3−イソプロピルカテコール、P−ターシャリーブチルカテコール、2・5−ジターシャリーブチルヒドロキノン、4・4´−メチレンジフェノール、ビスフェノールA、1・2−-ジオキシナフタレン、2・3−ジオキシナフタレン、クロルカテコール、プロモカテコール、2・4−ジヒドロキシベンゾフェノン、フェノールフタレイン、O−クレゾールフタレイン、プロトカテキュー酸メチル、プロトカテキュー酸エチル、プロトカテキュー酸プロピル、プロトカテキュー酸オクチル、プロトカテキュー酸ドデシル、ピロガロール、オキシヒドロキノン、フロログルシン、2・4・6−トリオキシメチルベンゼン、2・3・4−トリオキシエチルベンゼン、没食子酸、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸ブチル、没食子酸ヘキシル、没食子酸オクチル、没食子酸ドデシル、没食子酸セチル、没食子酸ステアリル、没食子酸プロピルエステル、2・3・5−トリオキシナフタレン、タンニン酸、フェノール樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、極性有機化合物は、熱変色性材料の変色温度を決定する役割を有している。このような極性有機化合物としては、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール性水酸基を有する化合物等の化合物が挙げられる。
【0060】
より具体的には、エステル類として、例えば、酢酸アミル、酢酸オクチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸オクチル、プロピオン酸フェニル、カプロン酸エチル、カプロン酸アミル、カプチル、カプリン酸アミル、カプリン酸オクチル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸ブチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸ブチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、安息香酸アミル、安息香酸フェニル、アセト酢酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸ブチル、アクリル酸ブチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジブチル、酒石酸ジブチル、セバチン酸ジメチル、セバチン酸ジブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フマール酸ジブチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、クエン酸トリエチル等が挙げられ、これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
ケトン類としては、例えば、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、メチルへキシルケトン、メシチルオキシド、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、2・4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられ、これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
エーテル類としては、例えば、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル、ジイソプロピルベンジルエーテル、ジフェニルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジフェニルエーテル等が挙げられ、これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
アルコール性水酸基を有する化合物としては、1価〜多価のアルコールおよびその誘導体を用いることができ、特に、炭素数1〜20のアルコールが好適であり、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ヘルシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アイコシルアルコール、ドコシルアルコール、メリシルアルコール等の脂肪族飽和アルコール、また、アリルアルコール、オレイルアルコール等の脂肪族不飽和アルコール、さらに、シクロヘキサール、シクロペンタノール等の脂環式アルコール、また、ベンジルアルコール、シンナミルアルコール等の芳香族アルコール、さらに、フルフリルアルコール等の複素環式アルコール、また、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、シクロヘキサン1・4−ジオール、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、グリセリルモノアセテート、トリメチロールプロパン、1・2・6−ヘキサントリオール、ベンタエリスリット、アラビット、ソルビット、マンニット等が挙げられ、これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
以上のような電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物および極性有機化合物は、変色温度や色を考慮して、最適な材料が選択される。
前述したような電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と極性有機化合物とを含んで構成された熱変色性材料は、温度変化に対し可逆的に変色することができる。熱変色性材料が温度に応じて可逆的に変色するように構成されていると、接合膜3の層内剥離の箇所を視認しながら、接合膜3に剥離用エネルギーを効率よく付与することができる。
【0065】
また、熱変色性材料を前述したような電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と極性有機化合物とを含んで構成した場合、変色後(変色点を超えた後)に電子受容性化合物または極性有機化合物が変色反応の系外へもたらされるように構成することで、温度変化に対し不可逆的に変色、すなわち、変色後に変色点(所定温度)よりも低い温度下でもその変色状態を維持することができる。熱変色性材料が変色後に変色点よりも低い温度下でも変色状態を維持するように構成されていると、接合膜3の層内剥離の箇所を視認しながら、接合膜3に剥離用エネルギーをより効率よく付与することができる。また、剥離用エネルギーの付与を終えた後であっても、接合膜3の層内剥離の箇所を視認することができる。そのため、剥離不良を防止することができる。
【0066】
なお、熱変色性材料の色彩が変化する点(温度)を変色点(変色温度)とも言う。例えば、熱変色性材料の色彩が2段階に変化する場合、変色点は1つである。また、熱変色性材料の色彩が3段階に変化する場合、変色点は2つである。
また、熱変色性材料(示温材料)は、その色彩が2段階に変化(2色に変化)するものでもよいし、3段階以上に変化してもよい。
【0067】
また、熱変色性材料の変色点(変色温度)は、後述する剥離用エネルギーの付与によって接合膜3に層内剥離(へき開)が生じる温度(以下、「へき開温度」とも言う)以上、かつ、剥離用エネルギーの付与による接合膜3の加熱温度以下に設定されていればよいが、へき開温度付近に設定されているのが好ましく、より具体的には、へき開温度との温度差が0〜30℃程度であるのが好ましく、3〜20℃であるのがより好ましい。
【0068】
これにより、接合膜3の層内剥離を確実に視認することができる。これに対し、かかる温度差が前記下限値未満であると、剥離用エネルギーの付与方法や接合膜3の構成などによっては、層内剥離が生じていないにもかかわらず熱変色性材料が変色してしまう場合がある。一方、かかる温度差が前記上限値を超えると、剥離用エネルギーによる接合膜3の加熱温度が比較的低い場合等の場合、層内剥離が生じているにもかかわらず熱変色性材料が変色しないおそれがある。
【0069】
また、熱変色性材料の変色点は、用いる接合膜3の構成材料や剥離時における接合膜3の加熱温度等によっても異なるが、80〜380℃程度であるのが好ましく、120〜300℃程度であるのが好ましい。
例えば、電子供与性呈色性有機化合物としてクリスタルバイオレットラクトン(1質量部)、電子受容性化合物としてP−オキシ安息香酸メチルエステル(10質量部)、極性有機化合物としてn−ラウリルアルコール(20質量部)を用いた場合、熱変色点130℃を有し、この熱変色点未満で青色、熱変色点以上で無色となるように可逆的に熱変色する熱変色性材料を得ることができる。
【0070】
また、電子供与性呈色性有機化合物としてクリスタルバイオレットラクトン(1質量部)、電子受容性化合物としてP−オキシ安息香酸メチルエステル(10質量部)、極性有機化合物としてn−ミリスチルアルコール(20質量部)を用いた場合、熱変色点125℃を有し、この熱変色点未満で青色、熱変色点以上で無色となるように可逆的に熱変色する熱変色性材料を得ることができる。
【0071】
また、電子供与性呈色性有機化合物としてクリスタルバイオレットラクトン(1質量部)、電子受容性化合物としてP−オキシ安息香酸メチルエステル(10質量部)、極性有機化合物としてn−セチルアルコール(20質量部)を用いた場合、熱変色点126℃を有し、この熱変色点未満で青色、熱変色点以上で無色となるように可逆的に熱変色する熱変色性材料を得ることができる。
【0072】
また、電子供与性呈色性有機化合物としてクリスタルバイオレットラクトン(1質量部)、電子受容性化合物としてP−オキシ安息香酸メチルエステル(10質量部)、極性有機化合物としてn−ステアリルアルコール(20質量部)を用いた場合、熱変色点124℃を有し、この熱変色点未満で青色、熱変色点以上で無色となるように可逆的に熱変色する熱変色性材料を得ることができる。
【0073】
また、電子供与性呈色性有機化合物としてクリスタルバイオレットラクトン(1質量部)、電子受容性化合物としてP−オキシ安息香酸エチルエステル(10質量部)、極性有機化合物としてn−ミリスチルアルコール(20質量部)を用いた場合、熱変色点127℃を有し、この熱変色点未満で青色、熱変色点以上で無色となるように可逆的に熱変色する熱変色性材料を得ることができる。
【0074】
また、液状材料中における熱変色性材料の含有量とシリコーン材料の含有量との比(熱変色性材料の含有量)/(シリコーン材料の含有量)は、特に限定されないが、1/100〜1/10であるのが好ましく、1/100〜1/50であるのがより好ましい。これにより、接合膜3の膜強度および接合強度を優れたものとしつつ、接合膜3の層内剥離を確実に視認することができる。
【0075】
[3A]次に、第1の基材21上に設けられた液状被膜30を乾燥することにより、接合膜3を形成する。
液状被膜30を乾燥させる際の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25〜100℃程度であるのがより好ましい。
また、乾燥させる時間は、0.5〜48時間程度であるのが好ましく、15〜30時間程度であるのがより好ましい。
【0076】
かかる条件で液状被膜30を乾燥させることにより、次工程[4A]において、接合用エネルギーを付与することにより接着性が好適に発現する接合膜3を確実に形成することができる。また、シリコーン材料として前記工程[2A]で説明したようなシラノール基を有するものを用いた場合には、シリコーン材料が有するシラノール基同士を、さらには、シリコーン材料が有するシラノール基と第1の基材21が有する水酸基とを、確実に結合させることができるため、形成される接合膜3を膜強度に優れ、かつ第1の基材21に対して強固に結合したものとすることができる。
【0077】
さらに、乾燥させる際の雰囲気の圧力は、大気圧下であってもよいが、減圧下であるのが好ましい。具体的には、減圧の程度は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。これにより、接合膜3の膜密度が緻密化して、接合膜3をより優れた膜強度を有するものとすることができる。
以上のように、接合膜3を形成する際の条件を適宜設定することにより、形成される接合膜3の膜強度等を所望のものとすることができる。
【0078】
接合膜3の平均厚さは、10〜10000nm程度であるのが好ましく、50〜5000nm程度であるのがより好ましい。供給する液状材料の量を適宜設定して、形成される接合膜3の平均厚さを前記範囲内とすることにより、第1の基材21と第2の基材22とを接合した接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、より強固に接合することができる。
【0079】
すなわち、接合膜3の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜3の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、接合体の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
また、接合膜3の平均厚さが前記範囲内であれば、後述する接合体の剥離方法において、接合膜3内にへき開を確実に生じさせて、第1の基材21から第2の基材22を剥離することができる。
【0080】
さらに、接合膜3の平均厚さをかかる範囲とすることにより、接合膜3がある程度弾性に富むものとなることから、後工程[5A]において、第1の基材21と第2の基材22とを接合する際に、接合膜3と接触させる第2の基材22の接合面24にパーティクル等が付着していても、このパーティクルを接合膜3で取り囲むようにして接合膜3と接合面24とが接合することとなる。そのため、このパーティクルが存在することによって、接合膜3と接合面24との界面における接合強度が低下したり、この界面において剥離が生じたりするのを的確に抑制または防止することができる。
また、本実施形態では、液状材料を供給して接合膜3を形成する構成となっていることから、たとえ第1の基材21の接合面23に凹凸が存在している場合であっても、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するようにして接合膜3を形成ことができる。その結果、接合膜3が凹凸を吸収して、その表面がほぼ平坦面で構成されることとなる。
【0081】
[4A]次に、接合面23に形成された接合膜3の表面32に対して接合用エネルギーを付与する。
接合膜3に接合用エネルギーを付与すると、この接合膜3では、表面32付近の分子結合(例えば、シリコーン材料の主骨格がポリジメチルシロキサンで構成されている場合、Si−CH結合)の一部が切断し、表面32が活性化されることに起因して、表面32付近に第2の基材22に対する接着性が発現する。
【0082】
このような状態の第1の基材21は、第2の基材22と、化学的結合に基づいて強固に接合可能なものとなる。
ここで、本明細書中において、表面32が「活性化された」状態とは、上述のように接合膜3の表面32の分子結合の一部、具体的には、例えば、ポリジメチルシロキサン骨格が備えるメチル基が切断されて、接合膜3中に終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態の他、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、さらに、これらの状態が混在した状態を含めて、接合膜3が「活性化された」状態と言うこととする。
【0083】
接合膜3に付与する接合用エネルギーは、いかなる方法を用いて付与するものであってもよいが、例えば、接合膜3にエネルギー線を照射する方法、接合膜3を加熱する方法、接合膜3に圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法、接合膜3をプラズマに曝す(プラズマエネルギーを付与する)方法、接合膜3をオゾンガスに曝す(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられる。中でも、本実施形態では、接合膜3に接合用エネルギーを付与する方法として、特に、接合膜3にエネルギー線を照射する方法を用いるのが好ましい。かかる方法は、接合膜3に対して比較的簡単に効率よく接合用エネルギーを付与することができるので、接合用エネルギーを付与する方法として好適に用いられ、接合膜の表面を効率よく活性化させることができる。また、接合膜3中の分子構造を必要以上に切断しないので、後述する接合体の剥離方法において剥離用エネルギーを付与した際に、接合膜3内で確実にへき開を生じさせることができる。
【0084】
このうち、エネルギー線としては、例えば、紫外線、レーザ光のような光、X線、γ線のような電磁波、電子線、イオンビームのような粒子線等や、またはこれらのエネルギー線を2種以上組み合わせたものが挙げられる。
これらのエネルギー線の中でも、特に、波長126〜300nm程度の紫外線を用いるのが好ましい(図2(d)参照)。かかる範囲内の紫外線によれば、付与されるエネルギー量が最適化されるので、接合膜3中の骨格をなす分子結合が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、接合膜3から表面32付近の分子結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜3の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、接合膜3に接着性を確実に発現させることができる。
【0085】
また、紫外線によれば、広い範囲をムラなく短時間に処理することができるので、分子結合の切断を効率よく行うことができる。さらに、紫外線には、例えば、UVランプ等の簡単な設備で発生させることができるという利点もある。
なお、紫外線の波長は、より好ましくは、126〜200nm程度とされる。
また、UVランプを用いる場合、その出力は、接合膜3の面積に応じて異なるが、1mW/cm〜1W/cm程度であるのが好ましく、5mW/cm〜50mW/cm程度であるのがより好ましい。なお、この場合、UVランプと接合膜3との離間距離は、3〜3000mm程度とするのが好ましく、10〜1000mm程度とするのがより好ましい。
【0086】
また、紫外線を照射する時間は、接合膜3の表面32付近の分子結合を切断し得る程度の時間、すなわち、接合膜3の表面付近に存在する分子結合を選択的に切断し得る程度の時間とするのが好ましい。具体的には、紫外線の光量、接合膜3の構成材料等に応じて若干異なるものの、1秒〜30分程度であるのが好ましく、1秒〜10分程度であるのがより好ましい。
また、紫外線は、時間的に連続して照射されてもよいが、間欠的(パルス状)に照射されてもよい。
【0087】
また、接合膜3に対するエネルギー線の照射は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよく、具体的には、大気、酸素のような酸化性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧(真空)雰囲気等が挙げられるが、中でも、大気雰囲気(特に、露点が低い雰囲気下)中で行うのが好ましい。これにより、表面32付近にオゾンガスが生じて、表面32の活性化がより円滑に行われることとなる。さらに、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、エネルギー線の照射をより簡単に行うことができる。
【0088】
このように、エネルギー線を照射する方法によれば、接合膜3に対して選択的にエネルギーを付与することが容易に行えるため、例えば、接合用エネルギーの付与による第1の基材21の変質・劣化を防止することができる。
また、エネルギー線を照射する方法によれば、付与する接合用エネルギーの大きさを、精度よく簡単に調整することができる。このため、接合膜3で切断される分子結合の量を調整することが可能となる。このように切断される分子結合の量を調整することにより、第1の基材21と第2の基材22との間の接合強度を容易に制御することができる。
【0089】
すなわち、表面32付近で切断される分子結合の量を多くすることにより、接合膜3の表面32付近に、より多くの活性手が生じるため、接合膜3に発現する接着性をより高めることができる。一方、表面32付近で切断される分子結合の量を少なくすることにより、接合膜3の表面32付近に生じる活性手を少なくし、接合膜3に発現する接着性を抑えることができる。
なお、付与する接合用エネルギーの大きさを調整するためには、例えば、エネルギー線の種類、エネルギー線の出力、エネルギー線の照射時間等の条件を調整すればよい。
さらに、エネルギー線を照射する方法によれば、短時間で大きな接合用エネルギーを付与することができるので、接合用エネルギーの付与をより効率よく行うことができる。
【0090】
[5A]次に、接合膜3と第2の基材22とが密着するように、第1の基材21と第2の基材22とを貼り合わせる(図3(e)参照)。これにより、前記工程[4A]において、接合膜3の表面32に第2の基材22に対する接着性が発現していることから、接合膜3と第2の基材22の接合面24とが化学的に結合する。その結果、第1の基材21と第2の基材22とが、接合膜3により接合され、図3(f)に示すような接合体1が得られる。
【0091】
このようにして得られた接合体1では、従来の接合方法で用いられていた接着剤のように、主にアンカー効果のような物理的結合に基づく接着ではなく、共有結合のような短時間で生じる強固な化学的結合に基づいて、2つの基材21、22が接合されている。このため、接合体1は短時間で形成することができ、かつ、極めて剥離し難く、接合ムラ等も生じ難いものとなる。
【0092】
また、このような接合方法によれば、高温(例えば、700℃以上)での熱処理を必要としないことから、耐熱性の低い材料で構成された第1の基材21および第2の基材22をも、接合に供することができる。
また、接合膜3を介して第1の基材21と第2の基材22とを接合しているため、各基材21、22の構成材料に制約がないという利点もある。
以上のことから、第1の基材21および第2の基材22の各構成材料の選択の幅をそれぞれ広げることができる。
【0093】
また、第1の基材21の熱膨張率と第2の基材22の熱膨張率が互いに異なっている場合には、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
具体的には、第1の基材21と第2の基材22との熱膨張率の差にもよるが、第1の基材21および第2の基材22の温度が25〜50℃程度である状態下で、第1の基材21と第2の基材22とを貼り合わせるのが好ましく、25〜40℃程度である状態下で貼り合わせるのがより好ましい。このような温度範囲であれば、第1の基材21と第2の基材22との熱膨張率の差がある程度大きくても、接合界面に発生する熱応力を十分に低減することができる。その結果、接合体1における反りや剥離等の発生を確実に抑制または防止することができる。
【0094】
また、この場合、具体的な第1の基材21と第2の基材22との間の熱膨張係数の差が、5×10−5/K以上あるような場合には、上記のようにして、できるだけ低温下で接合を行うことが特に推奨される。
また、第1の基材21と第2の基材22とが接合する接合膜3の面積や形状を適宜設定することにより、接合膜3に生じる応力の局所集中を緩和することができる。これにより、例えば、第1の基材21と第2の基材22との間で熱膨張率差が大きい場合でも、各基材21、22を確実に接合することができる。
【0095】
なお、本実施形態では、前記工程[4A]および本工程[5A]で示したように、接合膜3に接合用エネルギーを付与して、接合膜3の接合面(表面)23付近に接着性を発現させた後、接合膜3を介して第1の基材21と第2の基材22とを接触させることにより接合体1を得るようにしたが、これに限らず、接合膜3を介して第1の基材21と第2の基材22とを接触させた後、接合膜3に接合用エネルギーを付与することにより接合体1を得るようにしてもよい。すなわち、前記工程[4A]と本工程[5A]との順序を逆にして接合体1を得るようにしてもよい。このような順序で各工程を施して接合体1を得る場合においても前述したのと同様の効果が得られる。
【0096】
ここで、本工程において、第1の基材21と第2の基材22とを接合するメカニズムについて説明する。
例えば、第2の基材22の接合面24に水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、第1の基材21に形成された接合膜3と、第2の基材22の接合面24とが接触するように、これらを貼り合わせたとき、接合膜3の表面32に存在する水酸基と、第2の基材22の接合面24に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、第1の基材21と第2の基材22とが接合されると推察される。
【0097】
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合を伴って表面から切断される。その結果、第1の基材21と第2の基材22との接触界面では、水酸基が結合していた結合手同士が結合する。これにより、第1の基材21と第2の基材22とがより強固に接合されると推察される。
また、第1の基材21の接合膜3の表面や内部、および、第2の基材22の接合面24や内部に、それぞれ終端化されていない結合手すなわち未結合手(ダングリングボンド)が存在している場合、第1の基材21と第2の基材22とを貼り合わせた時、これらの未結合手同士が再結合する。この再結合は、互いに重なり合う(絡み合う)ように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成されることとなる。これにより、接合膜3と第2の基材22とが特に強固に接合される。
【0098】
なお、前記工程[4A]で活性化された接合膜3の表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[4A]の終了後、できるだけ早く本工程[5A]を行うようにするのが好ましい。具体的には、前記工程[4A]の終了後、60分以内に本工程[5A]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、接合膜3の表面が十分な活性状態を維持しているので、第1の基材21と第2の基材22とを貼り合わせたとき、これらの間に十分な接合強度を得ることができる。
【0099】
換言すれば、活性化させる前の接合膜3は、シリコーン材料を乾燥させて得られた接合膜であるため、化学的に比較的安定であり、耐候性に優れている。このため、活性化させる前の接合膜3は、長期にわたる保存に適したものとなる。したがって、そのような接合膜3を備えた第1の基材21を多量に製造または購入して保存しておき、本工程の貼り合わせを行う直前に、必要な個数のみに前記工程[4A]に記載した接合用エネルギーの付与を行うようにすれば、接合体1の製造効率の観点から有効である。
以上のようにして、図3(f)に示す接合体(本発明の接合体)1を得ることができる。
【0100】
このようにして得られた接合体1は、第1の基材21と第2の基材22との間の接合強度が5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度を有する接合体1は、その剥離を十分に防止し得るものとなる。また、かかる構成の接合方法によれば、第1の基材21と第2の基材22とが上記のような大きな接合強度で接合された接合体1を効率よく作製することができる。
なお、接合体1を得る際、または、接合体1を得た後に、この接合体1に対して、必要に応じ、以下の3つの工程([6a]、[6b]および[6c])のうちの少なくとも1つの工程(接合体1の接合強度を高める工程)を行うようにしてもよい。これにより、接合体1の接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
【0101】
[6a] 図3(g)に示すように、得られた接合体1を、第1の基材21と第2の基材22とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、第1の基材21の表面および第2の基材22の表面に、それぞれ接合膜3の表面がより近接し、接合体1における接合強度をより高めることができる。
また、接合体1を加圧することにより、接合体1中の接合界面に残存していた隙間を押し潰して、接合面積をさらに広げることができる。これにより、接合体1における接合強度をさらに高めることができる。
【0102】
なお、この圧力は、第1の基材21および第2の基材22の各構成材料や各厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、第1の基材21および第2の基材22の各構成材料や各厚さ等に応じて若干異なるものの、0.2〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPa程度であるのがより好ましい。これにより、接合体1の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、第1の基材21および第2の基材22の各構成材料によっては、各基材21、22に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、接合体1を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、接合強度の向上を図ることができる。
【0103】
[6b] 図3(g)に示すように、得られた接合体1を加熱する。
これにより、接合体1における接合強度をより高めることができる。
このとき、接合体1を加熱する際の温度は、室温より高く、接合体1の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25〜100℃程度とされ、より好ましくは50〜100℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、接合体1が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
【0104】
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
また、前記工程[6a]、[6b]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、図3(g)に示すように、接合体1を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、接合体1の接合強度を特に高めることができる。
【0105】
[6c] 得られた接合体1に紫外線を照射する。
これにより、接合膜3と第2の基材22との間に形成される化学結合を増加させ、接合体1の接合強度を特に高めることができる。
このとき照射される紫外線の条件は、前記工程[4A]に示した紫外線の条件と同等にすればよい。
【0106】
また、本工程[6c]を行う場合、第1の基材21および第2の基材22のうち、いずれか一方が透光性を有していることが必要である。そして、透光性を有する基材側から、紫外線を照射することにより、接合膜3に対して確実に紫外線を照射することができる。
以上のような工程を行うことにより、接合体1における接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
なお、本構成の接合方法では、液滴吐出法としてインクジェット法を用いる場合について説明したが、これに限定されず、電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用してインクを吐出するバブルジェット法(「バブルジェット」は登録商標)を液滴吐出法として用いるようにしてもよい。バブルジェット法によっても前述したのと同様の効果が得られる。
【0107】
<<第2の例>>
次に、接合体の形成方法の第2の例について説明する。
図4は、接合体の形成方法の第2の例を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図4中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、接合体の形成方法の第2の例について説明するが、前記第1の例に記載の接合体の形成方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0108】
接合体の形成方法の第2の例では、接合面(表面)23上に、液状材料を用いて接合膜3が形成されている他に、さらに第2の基材22の接合面(表面)24上にも液状材料を用いて接合膜3が形成されている。そして、それぞれの基材21、22が備える接合膜3の表面32付近に接着性を発現させ、これら接合膜3同士を接触させることにより、第1の基材21と第2の基材22とを接合させて接合体1を得る以外は前記第1の例と同様である。
すなわち、本構成の接合体の形成方法は、液状材料を用いて、第1の基材21上および第2の基材22上の双方に接合膜3を形成して、これら接合膜3同士を一体化させることにより、第1の基材21と第2の基材22とを接合する接合体の形成方法である。
【0109】
[1B]まず、前記工程[1A]と同様の第1の基材21と第2の基材22とを用意する。
[2B]次に、前記工程[2A]および前記工程[3A]で説明したのと同様にして、第1の基材21の接合面23に接合膜3を形成するとともに、第2の基材22の接合面24にも接合膜3を形成する。
[3B]次に、前記工程[4A]で説明したのと同様にして、第1の基材21に形成された接合膜3と、第2の基材22に形成された接合膜3との双方に対して接合用エネルギーを付与することにより、各接合膜3の表面32付近に接着性を発現させる。
【0110】
[4B]次に、図4(a)に示すように、各基材21、22が備える接着性が発現した接合膜3同士を、それぞれが密着するように、各基材21、22同士を貼り合わせる。これにより、双方の基材21、22に形成された接合膜3により、基材21、22同士が接合され、図4(b)に示すような接合体1が得られる。
なお、各基材21、22同士を貼り合わせる際の条件は、前記工程[5A]で説明したのと同様の条件に設定される。
以上のようにして接合体1を得ることができる。
なお、接合体1を得た後、この接合体1に対して、必要に応じ、前記第1の例の工程[6a]、[6b]および[6c]のうちの少なくとも1つの工程を行うようにしてもよい。
例えば、接合体1を加圧しつつ、加熱することにより、接合体1の各基材21、22同士がより近接する。これにより、各接合膜3の界面における水酸基の脱水縮合や未結合手同士の再結合が促進される。その結果、接合膜3の一体化がより進行し、最終的には、ほぼ完全に一体化される。
【0111】
<接合体の剥離方法>
次に、本実施形態の接合体を剥離する方法について説明する。
図5は、図1に示す接合体を剥離する過程を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
[1]まず、接合体の剥離方法に供される接合体として、前述したような、第1の基材21と第2の基材22とが、シリコーン材料を含有する接合膜3を介して接合された接合体1を用意する(図5(a)参照。)。
【0112】
[2]次に、この接合体1の接合膜3に、剥離用エネルギーを付与する(図5(b)参照。)。これにより、前記シリコーン材料を構成する分子結合の一部が切断されることとなり、その結果として、接合膜3内にへき開が生じて、第1の基材21から第2の基材22を剥離することができる。
ここで、剥離用エネルギーを付与することにより、接合膜3にへき開が生じるメカニズムとしては、次のようなことが考えられる。例えば、接合膜3に含まれるシリコーン材料の主骨格がポリジメチルシロキサンで構成されている場合、接合膜3に剥離用エネルギーを付与すると、Si−CH結合が切断され、雰囲気中の水分子等と反応することにより、例えば、メタンが発生する。このメタンは、気体(メタンガス)として存在し、大きな体積を占有することから、気体が発生した部分で、接合膜3が押し上げられる。その結果、Si−O結合も切断され、最終的に接合膜3内にへき開が生じるものと推察される。
【0113】
剥離用エネルギーを付与する際の雰囲気は、雰囲気中に水分子が含まれていればよく、特に限定されないが、大気雰囲気であるのが好ましい。大気雰囲気であれば、特に装置を必要とせず、雰囲気中に十分な量の水分子が含まれていることから、接合膜3内にへき開を確実に生じさせることができる。
このように接合膜3にへき開を生じさせるためには、接合膜3がSiOで構成されることなく、膜中に有機物が結合した状態、すなわちシリコーン材料を含有した状態で接合膜3が形成されている必要があるが、接合膜3における、シリコン原子と炭素原子の存在比は、2:8〜8:2程度であるのが好ましく、3:7〜7:3程度であるのがより好ましい。
【0114】
シリコン原子と炭素原子の存在比が前記範囲内となっていることにより、接合膜3として優れた機能を発揮させることができるとともに、剥離用エネルギーの付与によりへき開が確実に生じる膜となる。
また、剥離用エネルギーの大きさは、接合用エネルギーの大きさよりも大きくなっているのが好ましい。これにより、接合用エネルギーを付与した際には、接合膜3の表面付近に存在するSi−CH結合を選択的に切断することができるとともに、剥離用エネルギーを付与した際には、接合膜3内部に残存するSi−CH結合を切断することができる。その結果、接合用エネルギーを付与した際には、接合膜3の表面付近に接着性が発現し、剥離用エネルギーを付与した際には、接合膜3にへき開が生じることとなる。
【0115】
また、接合膜3に付与する剥離用エネルギーは、接合膜3に熱エネルギーを付与するものであれば特に限定されず、例えば、接合膜3にエネルギー線(特に赤外線)を照射する方法、接合膜3を加熱する方法等が挙げられ、より具体的には、例えば、エネルギー線として赤外線を接合膜3に照射する方法、オーブン等で接合膜3(接合体1)を加熱する方法などが挙げられる。
【0116】
また、接合体1を加熱する際の温度は、好ましくは100〜400℃程度とされ、より好ましくは150〜300℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、第1の基材および第2の基材が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合膜3にへき開を確実に生じさせることができる。
また、加熱時間は、接合膜3内にへき開が生じる程度の時間に設定される。具体的には、加熱する温度、接合膜3の構成材料等に応じて若干異なるものの、10〜180分程度であるのが好ましく、30〜60分程度であるのがより好ましい。
【0117】
なお、接合用エネルギーを付与する方法と、剥離用エネルギーを付与する方法とは、同一であっても、異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。これらを同一の方法とすれば、剥離用エネルギーの大きさと接合用エネルギーの大きさとを比較的容易に設定できることから、前述したように剥離用エネルギーの大きさを接合用エネルギーの大きさよりも容易に大きくすることができる。また、これらのエネルギーを付与するために用いる装置を同一のものとし得ること、すなわち、同一の装置で接合体1の形成から剥離まで行え得ることから、コストの削減を図ることができる。
【0118】
以上のように、接合膜3に剥離用エネルギーを付与するという容易な方法で、第1の基材21から第2の基材22を効率よく剥離することができる。そのため、基材21、22同士が異なる材料で構成される場合であったとしても、基材21、22毎に分別して再利用に供することができるため、接合体1のリサイクル率を確実に向上させることができる。
また、接合膜3には熱変色性材料が含まれているため、接合膜3への剥離用エネルギー付与の際に、接合膜3の層内剥離の箇所を視認することができる。そのため、第1の基材21から第2の基材22を極めて効率よく剥離することができる。
【0119】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
図6は、本発明の接合体の第2実施形態を示す縦断面図である。
以下、第2実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。また、図6において、前述した第1実施形態の接合体1と同様の構成については同一符号を付している。
本実施形態にかかる接合体は、第1の基材21の第2の基材22とは反対側の面に第3の基材25が接合膜4を介して接合されている以外は、前述した第1実施形態の接合体と同様である。
【0120】
図1に示す接合体1は、第1の基材21と、第2の基材22と、第3の基材25と、基材21、22同士の間に介在する接合膜(第1の接合膜)3と、基材21、25同士の間に介在する接合膜(第2の接合膜)4とを備えている。
そして、第1の基材21および第2の基材22は、接合膜3を介して互いに接合され、また、第1の基材21および第3の基材25は、接合膜4を介して互いに接合されている。
ここで、第3の基材25としては、前述した第1実施形態の第1の基材21や第2の基材22と同様のものを用いることができる。
また、接合膜4は、前述した第1実施形態の接合膜3と同様のものを用いることができるが、次のように構成されている。
【0121】
この接合膜3および接合膜4は、それぞれ、シリコーン材料を含有して構成されているが、互いに異なるシリコーン材料を含んで構成されている。言い換えると、接合膜3は、第1のシリコーン材料を含有し、接合膜4は、第1のシリコーン材料とは異なる第2のシリコーン材料を含有している。
このような接合膜3は、接合膜3に後述するように第1の剥離用エネルギーを付与して、第1のシリコーン材料を構成する分子結合の一部を切断することにより、接合膜3内に第1のへき開を生じさせて、第1の基材21から第2の基材22を剥離し得るように構成されている。
【0122】
一方、接合膜4は、接合膜4に第1の剥離用エネルギーとは異なる第2の剥離用エネルギーを付与して、第2のシリコーン材料を構成する分子結合の一部を切断することにより、接合膜4内に第2のへき開を生じさせて、第1の基材21から第3の基材25を剥離し得るように構成されている。
このような互いに異なるシリコーン材料で構成された接合膜3および接合膜4を用いた接合体1は、第1の基材21と第3の基材25との剥離を防止しつつ、接合膜3への第1の剥離用エネルギーの付与によって容易にかつ効率よく第1の基材21と第2の基材22とを剥離することができる。そして、第1の基材21と第2の基材22とを剥離した後に、接合膜4への第2の剥離用エネルギーの付与によって容易にかつ効率よく第1の基材21と第3の基材25とを剥離することができる。その結果、第1の基材21と第2の基材22と第3の基材25とを各部材毎に容易にかつ効率よく分割・回収することができる。
【0123】
このように、接合膜4は、前述した接合膜3と同様に形成することができるが、前述した接合膜3とは異なる材料で構成されている。すなわち、接合膜3は、前述した工程<i>の説明で挙げたシリコーン材料を第1のシリコーン材料として含有するが、接合膜4は、前述した工程<i>の説明で挙げたシリコーン材料のうち第1のシリコーン材料とは異なるシリコーン材料を第2のシリコーン材料として含有する。
【0124】
このように互いに異なるシリコーン材料を用いて形成された接合膜3および接合膜4は、エネルギー付与によって生じるへき開の条件(特に温度)が異なる。
ここで、第2のシリコーン材料は、第1のシリコーン材料と異なり、接合膜3と接合膜4とでへき開が生じる条件が異なれば、前述した接合膜3のシリコーン材料(すなわち第1のシリコーン材料)を用いることができ、例えば、重合度の異なるもの、置換基の組み合わせの異なるもの、主鎖の形状の異なるもの等が挙げられる。
【0125】
中でも、第2のシリコーン材料は、ポリオルガノシロキサンの重合度が第1のシリコーン材料とは異なるように構成されているのが好ましい。より具体的には、第2のシリコーン材料としては、例えば、前述した上記一般式(4)で表わされるが、この一般式(4)中におけるmおよびnの合計(m+n)が第1のシリコーン材料とは異なるものであるのが好ましい。このように第1のシリコーン材料および第2のシリコーン材料が互いに異なるポリオルガノシロキサンの重合度を有するもので構成されていると、接合膜3と接合膜4とでへき開を生じる条件を異ならせることができる。また、このような第1のシリコーン材料および第2のシリコーン材料は容易に入手できる。
【0126】
また、第1のシリコーン材料および第2のシリコーン材料は、互いに異なる組み合わせの置換基を有するのが好ましい。これによっても、接合膜3と接合膜4とでへき開を生じる条件を異ならせることができる。また、このような第1のシリコーン材料および第2のシリコーン材料は容易に入手できる。
また、第1のシリコン材料が第1の剥離用エネルギーにより接合膜3に第1のへき開を生じさせるが、第2のシリコーン材料は、第1の剥離用エネルギーの大きさと異なる大きさの第2の剥離用エネルギーの付与により接合膜4に第2のへき開を生じさせるように構成されているのが好ましい。このように第1の剥離用エネルギーの大きさと前記第2の剥離用エネルギーの大きさとが異なると、第1の剥離用エネルギーと第2の剥離用エネルギーとで同種のエネルギーを用いることができる。そのため、剥離時に用いる装置の構成を簡単なものとすることができる。ここで、エネルギーの大きさとは、例えば加熱の温度、圧縮力の圧力、エネルギー線の波長等の大きさを言う。
【0127】
また、第2のシリコーン材料は、第1の剥離用エネルギーの種類と異なる種類の第2の剥離用エネルギーの付与により接合膜4に第2のへき開を生じさせるように構成されているのが好ましい。このように第1の剥離用エネルギーの種類と第2の剥離用エネルギーの種類とが異なると、第1の剥離用エネルギーの付与により接合膜3に第1のへき開を生じさせる際に、意図しないにもかかわらず第2の接合膜5に第2のへき開が生じるのを防止することができる。ここで、エネルギーの種類とは、例えば熱、圧力等を言う。
また、接合膜3および接合膜4は、それぞれ、熱変色性材料を含有して構成されているが、互いに異なる熱変色性材料を含んで構成されている。言い換えると、接合膜3は、第1の熱変色性材料を含有し、接合膜4は、第1の熱変色性材料とは異なる第2の熱変色性材料を含有している。
【0128】
このような第1の熱変色性材料としては、前述したように接合膜3のへき開温度等に応じた変色点を有するものが選定され、第2の熱変色性材料としては、接合膜4のへき開温度等に応じた変色点を有するものが選定される。第1のへき開による層内剥離と第2のへき開による層内剥離との区別ができ、リサイクル作業の作業性を向上させることができる。
また、第1の熱変色性材料および第2の熱変色性材料としては、互いに色の同じものであっても異なるものであってもよいが、互いに色の異なるものを用いるのが好ましい。これにより、接合膜3での層内剥離と接合膜4での層内剥離とを区別して視認することができ、リサイクル率をより向上させることができる。
【0129】
<接合体の剥離方法>
次に、本実施形態の接合体を剥離する方法について説明する。
図7および図8は、それぞれ、図6に示す接合体を剥離する過程を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図7および図8中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0130】
接合体1の剥離方法は、[1]前述した接合体1を用意する工程と、[2]接合膜3に第1の剥離用エネルギーを付与して第1のへき開を生じさせる工程と、[3]接合膜4に第2の剥離用エネルギーを付与して第2のへき開を生じさせる工程とを有する。
これにより、第1の基材21と第2の基材22と第3の基材25とを各部材毎(各基材毎)に容易にかつ効率よく分割・回収することができる。
【0131】
[1]まず、接合体の剥離方法に供される接合体として、前述したような接合体1を用意する(図7(a)参照。)。
[2]次に、この接合体1の接合膜3に、第1の剥離用エネルギーを付与する(図7(b)参照。)。これにより、第1のシリコーン材料を構成する分子結合の一部が切断されることとなり、その結果として、接合膜3内にへき開が生じて、第1の基材21から第2の基材22を剥離することができる。その結果、図7(c)に示すように、第1の基材21と第3の基材25とが接合膜4を介して接合されてなる接合体12が得られる。
【0132】
本工程[2]は、前述した第1実施形態における剥離方法の工程[2]と同様の方法を用いることができる。
なお、本工程[2]では、接合膜4にも第1の剥離用エネルギーが付与されるが、前述したように、第1のシリコーン材料と第2のシリコーン材料を異ならせることにより、接合膜4にはへき開が生じないようになっている。例えば、接合膜4は、第1の剥離用エネルギーよりも大きな剥離用エネルギーを与えないとへき開を生じないように構成されている。または、接合膜4は、第1の剥離用エネルギーとは異なる種類の剥離用エネルギーを与えないとへき開を生じないように構成されている。
【0133】
[3]次に、前述した工程[2]で得られた接合体12の接合膜4に、第2の剥離用エネルギーを付与する(図8(d)参照。)。これにより、第2のシリコーン材料を構成する分子結合の一部が切断されることとなり、その結果として、図8(e)に示すように、接合膜4内にへき開が生じて、第1の基材21から第3の基材25を剥離することができる。
本工程[3]は、前述した第1実施形態における剥離方法の工程[2]と同様の方法を用いることができる。
【0134】
ここで、第2の剥離用エネルギーの付与は、前述した第1の剥離用エネルギーの付与と同様のものを用いるが、第1の剥離用エネルギーの大きさ(具体的には温度)とはことなる大きさのエネルギーを付与することにより行われる。
例えば、接合膜4は、第1の剥離用エネルギーの加熱温度よりも高い所定の加熱温度以上でなければ第2のへき開を生じないようになっている。この場合、本工程[3]では、第2の剥離用エネルギーの付与が、前記所定の加熱温度以上の加熱温度で加熱する方法を用いて行われる。
【0135】
以上説明したように、接合体1によれば、第1の基材21と第3の基材25との剥離を防止しつつ、接合膜3への第1の剥離用エネルギーの付与によって容易にかつ効率よく第1の基材21と第2の基材22とを剥離することができる。そして、第1の基材21と第2の基材22とを剥離した後に、接合膜4への第2の剥離用エネルギーの付与によって容易にかつ効率よく第1の基材21と第3の基材25とを剥離することができる。その結果、第1の基材21と第2の基材22と第3の基材25とを各部材毎に容易にかつ効率よく分割・回収することができる。
これにより、基材21、22、25同士が異なる材料で構成される場合であったとしても、基材21、22、25毎に分別して再利用に供することができるため、接合体1のリサイクル率を確実に向上させることができる。
【0136】
<液滴吐出ヘッド>
次に、上述した接合体をインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の実施形態について説明する。
図9は、インクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図、図10は、図9に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図、図11は、図9に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。なお、図9は、通常使用される状態とは、上下逆に示されている。
【0137】
図9に示すインクジェット式記録ヘッド10は、図11に示すようなインクジェットプリンタ9に搭載されている。
図11に示すインクジェットプリンタ9は、装置本体92を備えており、上部後方に記録用紙Pを設置するトレイ921と、下部前方に記録用紙Pを排出する排紙口922と、上部面に操作パネル97とが設けられている。
【0138】
操作パネル97は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等で構成され、エラーメッセージ等を表示する表示部(図示せず)と、各種スイッチ等で構成される操作部(図示せず)とを備えている。
また、装置本体92の内部には、主に、往復動するヘッドユニット93を備える印刷装置(印刷手段)94と、記録用紙Pを1枚ずつ印刷装置94に送り込む給紙装置(給紙手段)95と、印刷装置94および給紙装置95を制御する制御部(制御手段)96とを有している。
【0139】
制御部96の制御により、給紙装置95は、記録用紙Pを一枚ずつ間欠送りする。この記録用紙Pは、ヘッドユニット93の下部近傍を通過する。このとき、ヘッドユニット93が記録用紙Pの送り方向とほぼ直交する方向に往復移動して、記録用紙Pへの印刷が行なわれる。すなわち、ヘッドユニット93の往復動と記録用紙Pの間欠送りとが、印刷における主走査および副走査となって、インクジェット方式の印刷が行なわれる。
印刷装置94は、ヘッドユニット93と、ヘッドユニット93の駆動源となるキャリッジモータ941と、キャリッジモータ941の回転を受けて、ヘッドユニット93を往復動させる往復動機構942とを備えている。
【0140】
ヘッドユニット93は、その下部に、多数のノズル孔111を備えるインクジェット式記録ヘッド10(以下、単に「ヘッド10」と言う。)と、ヘッド10にインクを供給するインクカートリッジ931と、ヘッド10およびインクカートリッジ931を搭載したキャリッジ932とを有している。
なお、インクカートリッジ931として、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック(黒)の4色のインクを充填したものを用いることにより、フルカラー印刷が可能となる。
【0141】
往復動機構942は、その両端をフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸943と、キャリッジガイド軸943と平行に延在するタイミングベルト944とを有している。
キャリッジ932は、キャリッジガイド軸943に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト944の一部に固定されている。
キャリッジモータ941の作動により、プーリを介してタイミングベルト944を正逆走行させると、キャリッジガイド軸943に案内されて、ヘッドユニット93が往復動する。そして、この往復動の際に、ヘッド10から適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0142】
給紙装置95は、その駆動源となる給紙モータ951と、給紙モータ951の作動により回転する給紙ローラ952とを有している。
給紙ローラ952は、記録用紙Pの送り経路(記録用紙P)を挟んで上下に対向する従動ローラ952aと駆動ローラ952bとで構成され、駆動ローラ952bは給紙モータ951に連結されている。これにより、給紙ローラ952は、トレイ921に設置した多数枚の記録用紙Pを、印刷装置94に向かって1枚ずつ送り込めるようになっている。なお、トレイ921に代えて、記録用紙Pを収容する給紙カセットを着脱自在に装着し得るような構成であってもよい。
【0143】
制御部96は、例えばパーソナルコンピュータやディジタルカメラ等のホストコンピュータから入力された印刷データに基づいて、印刷装置94や給紙装置95等を制御することにより印刷を行うものである。
制御部96は、いずれも図示しないが、主に、各部を制御する制御プログラム等を記憶するメモリ、圧電素子(振動源)14を駆動して、インクの吐出タイミングを制御する圧電素子駆動回路、印刷装置94(キャリッジモータ941)を駆動する駆動回路、給紙装置95(給紙モータ951)を駆動する駆動回路、および、ホストコンピュータからの印刷データを入手する通信回路と、これらに電気的に接続され、各部での各種制御を行うCPUとを備えている。
【0144】
また、CPUには、例えば、インクカートリッジ931のインク残量、ヘッドユニット93の位置等を検出可能な各種センサ等が、それぞれ電気的に接続されている。
制御部96は、通信回路を介して、印刷データを入手してメモリに格納する。CPUは、この印刷データを処理して、この処理データおよび各種センサからの入力データに基づいて、各駆動回路に駆動信号を出力する。この駆動信号により圧電素子14、印刷装置94および給紙装置95は、それぞれ作動する。これにより、記録用紙Pに印刷が行われる。
以下、ヘッド10について、図9および図10を参照しつつ詳述する。
【0145】
ヘッド10は、ノズル板11と、インク室基板12と、振動板13と、振動板13に接合された圧電素子(振動源)14とを備えるヘッド本体17と、このヘッド本体17を収納する基体16とを有している。なお、このヘッド10は、オンデマンド形のピエゾジェット式ヘッドを構成する。
ノズル板11は、例えば、SiO、SiN、石英ガラスのようなシリコン系材料、Al、Fe、Ni、Cuまたはこれらを含む合金のような金属系材料、アルミナ、酸化鉄のような酸化物系材料、カーボンブラック、グラファイトのような炭素系材料等で構成されている。
【0146】
このノズル板11には、インク滴を吐出するための多数のノズル孔111が形成されている。これらのノズル孔111間のピッチは、印刷精度に応じて適宜設定される。
ノズル板11には、インク室基板12が固着(固定)されている。
このインク室基板12は、ノズル板11、側壁(隔壁)122および後述する振動板13により、複数のインク室(キャビティ、圧力室)121と、インクカートリッジ931から供給されるインクを貯留するリザーバ室123と、リザーバ室123から各インク室121に、それぞれインクを供給する供給口124とが区画形成されている。
【0147】
各インク室121は、それぞれ短冊状(直方体状)に形成され、各ノズル孔111に対応して配設されている。各インク室121は、後述する振動板13の振動により容積可変であり、この容積変化により、インクを吐出するよう構成されている。
インク室基板12を得るための母材としては、例えば、シリコン単結晶基板、各種ガラス基板、各種樹脂基板等を用いることができる。これらの基板は、いずれも汎用的な基板であるので、これらの基板を用いることにより、ヘッド10の製造コストを低減することができる。
【0148】
一方、インク室基板12のノズル板11と反対側には、振動板13が接合され、さらに振動板13のインク室基板12と反対側には、複数の圧電素子14が設けられている。
また、振動板13の所定位置には、振動板13の厚さ方向に貫通して連通孔131が形成されている。この連通孔131を介して、前述したインクカートリッジ931からリザーバ室123に、インクが供給可能となっている。
【0149】
各圧電素子14は、それぞれ、下部電極142と上部電極141との間に圧電体層143を介挿してなり、各インク室121のほぼ中央部に対応して配設されている。各圧電素子14は、圧電素子駆動回路に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)するよう構成されている。
各圧電素子14は、それぞれ、振動源として機能し、振動板13は、圧電素子14の振動により振動し、インク室121の内部圧力を瞬間的に高めるよう機能する。
【0150】
基体16は、例えば各種樹脂材料、各種金属材料等で構成されており、この基体16にノズル板11が固定、支持されている。すなわち、基体16が備える凹部161に、ヘッド本体17を収納した状態で、凹部161の外周部に形成された段差162によりノズル板11の縁部を支持する。
以上のような、ノズル板11とインク室基板12との接合、インク室基板12と振動板13との接合、およびノズル板11と基体16との接合のうち、少なくとも1箇所を接合する際に前述した接合の形成方法が用いられる。
換言すれば、ノズル板11とインク室基板12との接合体、インク室基板12と振動板13との接合体、およびノズル板11と基体16との接合体のうち、少なくとも1つに上述した接合体が適用されている。
【0151】
このようなヘッド10は、上記の接合界面に前述したような接合膜3が介挿されて接合されている。このため、接合界面の接合強度および耐薬品性が高くなっており、これにより、各インク室121に貯留されたインクに対する耐久性および液密性が高くなっている。その結果、ヘッド10は、信頼性の高いものとなる。
また、非常に低温で信頼性の高い接合ができるため、線膨張係数の異なる材料でも大面積のヘッドができる点でも有利である。
また、ヘッド10の一部に上述した接合体が適用されていると、寸法精度の高いヘッド10を構築することができる。このため、ヘッド10から吐出されたインク滴の吐出方向や、ヘッド10と記録用紙Pとの離間距離を高度に制御することができ、インクジェットプリンタ9による印字結果の品位を高めることができる。
【0152】
このようなヘッド10をリサイクル(分解)に供する際に、本発明の接合体の剥離方法を適用することにより、上述した接合体が適用されているノズル板11とインク室基板12との接合体、インク室基板12と振動板13との接合体、およびノズル板11と基体16との接合体のうちの少なくとも1つを確実に剥離することができる。その結果、これらの接合体を、それぞれ、ノズル板11とインク室基板12との分解体、インク室基板12と振動板13との分解体、およびノズル板11と基体16との分解体の少なくとも1つに分解でき、これらを部材毎に再利用することができるため、リサイクル率の向上を確実に図ることができる。
【0153】
このようなヘッド10は、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力されていない状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に電圧が印加されていない状態では、圧電体層143に変形が生じない。このため、振動板13にも変形が生じず、インク室121には容積変化が生じない。したがって、ノズル孔111からインク滴は吐出されない。
【0154】
一方、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力された状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に一定電圧が印加された状態では、圧電体層143に変形が生じる。これにより、振動板13が大きくたわみ、インク室121の容積変化が生じる。このとき、インク室121内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル孔111からインク滴が吐出される。
【0155】
1回のインクの吐出が終了すると、圧電素子駆動回路は、下部電極142と上部電極141との間への電圧の印加を停止する。これにより、圧電素子14は、ほぼ元の形状に戻り、インク室121の容積が増大する。なお、このとき、インクには、インクカートリッジ931からノズル孔111へ向かう圧力(正方向への圧力)が作用している。このため、空気がノズル孔111からインク室121へ入り込むことが防止され、インクの吐出量に見合った量のインクがインクカートリッジ931(リザーバ室123)からインク室121へ供給される。
【0156】
このようにして、ヘッド10において、印刷させたい位置の圧電素子14に、圧電素子駆動回路を介して吐出信号を順次入力することにより、任意の(所望の)文字や図形等を印刷することができる。
また、ヘッド10は、圧電素子14の代わりに電気熱変換素子を有していてもよい。つまり、ヘッド10は、電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用してインクを吐出するバブルジェット方式(「バブルジェット」は登録商標))のものであってもよい。
【0157】
なお、かかる構成のヘッド10において、ノズル板11には、撥液性を付与することを目的に形成された被膜114が設けられている。これにより、ノズル孔111からインク滴が吐出される際に、このノズル孔111の周辺にインク滴が残存するのを確実に防止することができる。その結果、ノズル孔111から吐出されたインク滴を目的とする領域に確実に着弾させることができる。
【0158】
また、前述した接合体は、本実施形態で説明したような液滴吐出ヘッド以外のものに適用可能であることは言うまでもない。具体的には、接合体は、例えば、半導体装置、MEMS、マイクロリアクタ等に適用することができる。
以上、本発明の接合体の剥離方法を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の接合体の剥離方法では、必要に応じて、1以上の任意の目的の工程を追加してもよい。
【実施例】
【0159】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
(実施例1)
まず、第1の基材として、縦20mm×横20mm×平均厚さ1mmの単結晶シリコン基板を用意し、第2の基材として、縦20mm×横20mm×平均厚さ1mmの石英ガラス基板を用意し、シリコン基板と石英ガラス基板との双方を、酸素プラズマによる下地処理を行った。
【0160】
次に、シリコーン材料としてポリジメチルシロキサン骨格を有するものを含有し、溶媒としてトルエンおよびイソブタノールを含有する溶液(信越化学工業社製、「KR−251」:粘度(25℃)18.0mPa・s)を用意した。
一方、電子供与性呈色性有機化合物としてクリスタルバイオレットラクトン(1質量部)、電子受容性化合物としてP−オキシ安息香酸メチルエステル(10質量部)、極性有機化合物としてn−ラウリルアルコール(20質量部)を混合して熱変色性材料を得た。この熱変色性材料の熱変色点は、130℃であり、この熱変色点未満で青色、熱変色点以上で無色となるように可逆的に熱変色するものであった。
【0161】
そして、上記の溶液100gと、熱変色性材料1gとを混合し、液状材料を得た。
この液状材料をインクジェット法により5pLの液滴としてシリコン基板上に供給して、液状被膜を形成した。
次に、この液状被膜を、常温(25℃)で、24時間乾燥させることにより、シリコン基板上に、接合膜(平均厚さ:約100nm)を形成した。
次に、シリコン基板上に形成された接合膜に、以下に示す条件で紫外線を照射した。
【0162】
<紫外線照射条件>
・雰囲気ガスの組成 :大気(空気)
・雰囲気ガスの温度 :20℃
・雰囲気ガスの圧力 :大気圧(100kPa)
・紫外線の波長 :172nm
・紫外線の照射時間 :5分
次に、接合膜の紫外線を照射した面と、石英ガラス基板の表面とが接触するように、シリコン基板と石英ガラス基板とを重ね合わせた。
【0163】
そして、シリコン基板と石英ガラス基板とを3MPaで加圧しつつ、80℃で加熱し、15分間維持した。これにより、シリコン基板と石英ガラス基板とが接合膜を介して接合された積層体(接合体)を得た。
なお、この積層体のシリコン基板と石英ガラス基板との間の接合強度を、QUAD GROUP社製「ロミュラス」)を用いて測定したところ、10MPa以上であった。
【0164】
次に、得られた積層体が備える接合膜を、以下に示す条件で、接合膜の色を観察しながら、接合膜全体が青色から無色に変色するまで熱エネルギーを付与(加熱)したところ、シリコン基板から石英ガラス基板を剥離することができた。このように、加熱中に、接合膜全体が剥離温度に達している(すなわち接合膜全体に層内剥離を生じている)ことが視認できた。
<加熱条件>
・加熱温度 :150℃
・雰囲気ガスの組成 :Nガス
・雰囲気ガスの圧力 :大気圧(100kPa)
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明の接合体の第1実施形態の構成を説明するための図(縦断面図)である。
【図2】図1に示す接合体の形成方法の第1の例を説明するための図(縦断面図)である。
【図3】図1に示す接合体の形成方法の第1の例を説明するための図(縦断面図)である。
【図4】図1に示す接合体の形成方法の第2の例を説明するための図(縦断面図)である。
【図5】図1に示す接合体を剥離する過程を説明するための図(縦断面図)である。
【図6】本発明の接合体の第2実施形態の構成を説明するための図(縦断面図)である。
【図7】図6に示す接合体を剥離する過程を説明するための図(縦断面図)である。
【図8】図6に示す接合体を剥離する過程を説明するための図(縦断面図)である。
【図9】接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図である。
【図10】図9に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図である。
【図11】図9に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0166】
1、1A……接合体 21……第1の基材 22……第2の基材 23、24……接合面 25……第3の基材 3……接合膜 30……液状被膜 31……液滴 32……表面 4……接合膜 10……インクジェット式記録ヘッド 11……ノズル板 111……ノズル孔 114……被膜 12……インク室基板 121……インク室 122……側壁 123……リザーバ室 124……供給口 13……振動板 131……連通孔 14……圧電素子 141……上部電極 142……下部電極 143……圧電体層 16……基体 161……凹部 162……段差 17……ヘッド本体 9……インクジェットプリンタ 92……装置本体 921……トレイ 922……排紙口 93……ヘッドユニット 931……インクカートリッジ 932……キャリッジ 94……印刷装置 941……キャリッジモータ 942……往復動機構 943……キャリッジガイド軸 944……タイミングベルト 95……給紙装置 951……給紙モータ 952……給紙ローラ 952a……従動ローラ 952b……駆動ローラ 96……制御部 97……操作パネル P……記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基材と、
第2の基材と、
前記第1の基材の接合面と前記第2の基材の接合面とを接合する接合膜とを有する接合体であって、
前記接合膜は、シリコーン材料と、所定温度以上に加熱されることにより変色する熱変色性材料とを含有しており、
前記接合膜に剥離用エネルギーとして前記所定温度以上の熱エネルギーを付与することにより、前記シリコーン材料を構成する分子結合の一部を切断して、前記接合膜内にへき開を生じさせ、前記接合膜の少なくとも一部に層内剥離を生じ得るとともに、前記熱変色性材料に変色を生じさせることにより当該層内剥離の箇所を視認し得るように構成されていることを特徴とする接合体。
【請求項2】
前記熱変色性材料は、温度に応じて可逆的に変色するように構成されている請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記熱変色性材料は、前記変色後に前記所定温度よりも低い温度下でも前記変色状態を維持するように構成されている請求項1に記載の接合体。
【請求項4】
前記熱変色性材料は、電子供与性呈色性有機化合物と電子受容性化合物と極性有機化合物とを含んで構成されている請求項1ないし3のいずれかに記載の接合体。
【請求項5】
前記第1の基材および前記第2の基材のうちの少なくとも一方の基材は、透明性を有する請求項1ないし4のいずれかに記載の接合体。
【請求項6】
前記熱エネルギーによる前記接合膜の加熱温度は、100〜400℃である請求項1ないし5のいずれかに記載の接合体。
【請求項7】
前記シリコーン材料は、その主骨格がポリジメチルシロキサンで構成される請求項1ないし6のいずれかに記載の接合体。
【請求項8】
前記シリコーン材料は、シラノール基を有する請求項1ないし7のいずれかに記載の接合体。
【請求項9】
前記接合膜の平均厚さは、10〜10000nmである請求項1ないし8のいずれかに記載の接合体。
【請求項10】
第1の基材と、
第2の基材と、
第3の基材と、
前記第1の基材の接合面と前記第2の基材の接合面とを接合する第1の接合膜と、
前記第1の基材の接合面と前記第3の基材の接合面とを接合する第2の接合膜とを有する接合体であって、
前記第1の接合膜は、第1のシリコーン材料と、所定の第1の温度以上に加熱されることにより変色する第1の熱変色性材料とを含有しており、前記第1の接合膜に第1の剥離用エネルギーとして前記所定の第1の温度以上の熱エネルギーを付与して、前記第1のシリコーン材料を構成する分子結合の一部を切断することにより、前記第1の接合膜内に第1のへき開を生じさせて、前記第1の接合膜の少なくとも一部に層内剥離を生じ得るとともに、前記第1の熱変色性材料に変色を生じさせることにより当該層内剥離の箇所を視認し得るように構成され、
前記第2の接合膜は、第2のシリコーン材料と、前記所定の第1の温度よりも高い所定の第2の温度以上に加熱されることにより変色する第2の熱変色性材料とを含有しており、前記第2の接合膜に第2の剥離用エネルギーとして前記所定の第2の温度以上の熱エネルギーを付与して、前記第2のシリコーン材料を構成する分子結合の一部を切断することにより、前記第2の接合膜内に第1のへき開を生じさせて、前記第2の接合膜の少なくとも一部に層内剥離を生じ得るとともに、前記第2の熱変色性材料に変色を生じさせることにより当該層内剥離の箇所を視認し得るように構成されることを特徴とする接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−248546(P2009−248546A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103052(P2008−103052)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】