接合光学素子、接合光学素子の製造方法、映像表示装置およびヘッドマウントディスプレイ
【課題】本発明は、部品点数が少なく、工程数を短縮化することができ、さらにホログラムの劣化を防止することができる接合光学素子と、その接合光学素子を備えた映像表示装置と、その映像表示装置を備えたヘッドマウントディスプレイを提供することである。
【解決手段】本発明は、接合光学素子の接眼プリズム21と、偏向プリズム22とを接合する接着剤層23b中に、ベースポリマー、重合開始剤、重合性モノマー、増感色素を含むことで、ホログラム24を記録することができる接着剤層23bを構成する。そして、接着剤層23b中にホログラム24を記録することで、接合光学素子の部品点数を減少させるとともに、製造工程を減少させて、接着剤層の浸透や、接着剤層の硬化に伴う収縮によるホログラム24の特性の劣化を防ぐ。
【解決手段】本発明は、接合光学素子の接眼プリズム21と、偏向プリズム22とを接合する接着剤層23b中に、ベースポリマー、重合開始剤、重合性モノマー、増感色素を含むことで、ホログラム24を記録することができる接着剤層23bを構成する。そして、接着剤層23b中にホログラム24を記録することで、接合光学素子の部品点数を減少させるとともに、製造工程を減少させて、接着剤層の浸透や、接着剤層の硬化に伴う収縮によるホログラム24の特性の劣化を防ぐ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣り合う2つの透明光学部材を接着剤層で接合した接合光学素子と、その接合光学素子の製造方法と、その接合光学素子を備えた映像表示装置と、その映像表示装置を備えたヘッドマウントディスプレイとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホログラムを透明基板内に埋め込んで使用する接合光学素子は、透明基板内にホログラムを埋め込むことで湿度・酸素等の外部環境に影響を受けない光学素子として、ヘッドアップディスプレイやヘッドマウントディスプレイに非常に有用である。このような接合光学素子は、例えば、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平7−234627号公報
【0003】
そこで、特許文献1に開示されているような従来の接合光学素子について、図11を用いながら説明する。
【0004】
図11(a)に示すように、透明基板101が透明基板104(図11(d)参照)と接合される接合面101aに、ホログラム記録材料102を配置する。この際、ホログラム記録材料102には、例えば、シート状のフォトポリマー等が用いられる。そして、図11(b)に示すように、ホログラム記録材料102に対して両側から可干渉性の2光束のレーザ光を照射することで、干渉縞によりホログラムを記録したホログラム層103を作製する。作製したホログラム層103に、図11(c)で示すように紫外線を照射することにより、ホログラム層103を定着させる。その後、図11(d)で示すように、透明基板101のホログラム層103を含む接合面101aに、接着材料105を塗布して透明基板101と透明基板104とを接着させる。最後に、図11(e)で示すように、紫外線を照射することで、接着材料105を重合反応により硬化させて接合光学素子100が製造される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の接合光学素子100は、ホログラムを記録するためのホログラム記録材料102と透明基板同士を接合する接着材料105との2つの材料が必要であり、部品点数が多く、また、部品点数が増加するために、工程数が多くなるという問題が生じている。そして、ホログラム層103上に接着材料105を配置するために、接着材料105がホログラム層103に浸透したり、接着材料105が硬化する際に収縮したりすることで、ホログラム層103の特性が劣化してしまうという問題が生じている。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、部品点数が少なく、工程数を短縮化することができ、さらにホログラムの特性の劣化を防止することができる接合光学素子と、その接合光学素子の製造方法と、その接合光学素子を備えた映像表示装置と、その映像表示装置を備えたヘッドマウントディスプレイとを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、複数の透明光学部材と、隣り合う2つの前記透明光学部材を接合する接着剤層とを備え、前記接着剤層中に、ホログラムが記録されていることを特徴としている。
【0008】
上記構成によると、本発明の接合光学素子は、接着剤層中にホログラムが記録されている。従来では、ホログラムが記録されたホログラム層と、2つの透明光学部材を接合する接着剤層との2層により、接合光学素子を構成していた。しかし、本発明においては、接着剤層の層内にホログラムが記録されていることで、接着剤層の1層でホログラムの特性を備えた接合光学素子を構成することができる。そのため、接合光学素子の部品点数を減少させることができる。そして、部品点数を減少させることができるので、接合光学素子の製造工程を短縮することができる。また、従来では、ホログラム層と接着剤層とを別々の層に構成していたため、接着剤層のホログラム層への浸透や、接着剤層を硬化する際の収縮等によってホログラムの特性が劣化していた。しかし、本発明では、ホログラムと接着剤層は同一の層であるため、接着剤層の浸透や収縮によるホログラムの特性の劣化が生じることはない。
【0009】
また、本発明は上記構成の接合光学素子において、前記接着剤層は、重合開始剤と、重合性モノマーと、ベースポリマーと、増感色素とを含んで構成されていることが好ましい。
【0010】
上記構成によると、本発明の接着剤層は、高分子化合物であるベースポリマー(マトリックスポリマー)に、重合開始剤と、重合性モノマーと、増感色素とを含有することで構成される。以下に本発明における接着剤層がホログラムを記録する原理について示す。ホログラムは、2光束を干渉させることによって生じる干渉縞の明部と暗部との屈折率差により、記録されるものである。そのため、本発明の接着剤層に可干渉性の2光束を照射すると、干渉縞の明部に位置する増感色素が光束のエネルギを吸収して重合開始剤にエネルギを与えることで重合反応が開始する。重合反応が開始されると、重合性モノマーが干渉縞の暗部から干渉縞の明部へと拡散して連続的に重合が行われる。そして、最終的には、重合性モノマーとベースポリマーとで構成される干渉縞の明部と、ベースポリマーで構成される干渉縞の暗部とが形成される。ここで、干渉縞の明部と干渉縞の暗部とでは、その屈折率差が大きくなるため、ホログラムを記録することができる。
【0011】
また、本発明は上記構成の接合光学素子において、前記重合性モノマーは、N−ビニルカルバゾールを含むことが好ましい。
【0012】
上記構成によると、高い回折効率を備えるホログラムを作製するためには、明部と暗部との屈折率差を大きくする必要がある。そこで、本発明の接合光学素子において、重合性モノマーが、高い屈折率を有する材料であるN−ビニルカルバゾールを含むことにより、干渉縞の明部と干渉縞の暗部との屈折率差をさらに広げることができ、高い回折効率を備えるホログラムを作製することができる。
【0013】
また、本発明は上記構成の接合光学素子において、前記増感色素は、1種類以上の色素から構成されて、赤、緑、青の波長域の光を吸収することが好ましい。
【0014】
上記構成によると、増感色素を、赤(R)、緑(G)、青(B)の波長域の光を吸収する色素で構成することによって、カラーで再生することのできるホログラムを作製することができる。この際、増感色素は、RGBの波長域の光をそれぞれ吸収する3種類の色素で構成されてもよいし、例えば、RGの波長域の光を吸収する色素とBの波長域の光を吸収する2種類の色素で構成されてもよい。または、RGBの波長域の光を吸収する1種類の色素を用いてもよい。
【0015】
また、本発明は上記構成の接合光学素子において、隣り合う2つの前記透明光学部材と、前記透明光学部材を接合する前記接着剤層とは、アクリル系あるいはシクロオレフィン系からなる材料を用いて構成されていることが好ましい。
【0016】
上記構成によると、透明光学部材と接着剤層とが、アクリル系材料もしくはシクロオレフィン系材料という同系列の材料を用いて構成されていれば、互いの密着性が高まり、高い接合力を得ることができる。なお、これらの効果は、透明光学部材と接着剤層との主成分(例えば70重量%以上の成分)がアクリル系材料あるいはシクロオレフィン系材料であれば、確実に得ることができる。
【0017】
また、本発明は上記構成の接合光学素子において、前記ホログラムの、干渉縞の明部の屈折率をn1とし、干渉縞の暗部の屈折率をn2とすると、
0.01≦|n1−n2|≦0.05…(1)
を満たすことが好ましい。
【0018】
上記構成によると、条件式(1)を満たすことにより、ホログラムとして使用可能な高い回折効率と半値幅とを得ることができる。
【0019】
また、本発明は上記構成の接合光学素子において、前記接着剤層は、層厚をtμmとすると、
10≦t≦300…(2)
を満たすことが好ましい。
【0020】
上記構成によると、条件式(2)を満たことにより、ホログラムとして使用可能な高い回折効率と半値幅とを得ることができる。
【0021】
また、上記目的を達成するために本発明は、2つの透明光学部材の間に未硬化の接着剤層を配置する第1の工程と、前記接着剤層に可干渉性の2光束のレーザ光を照射して、前記接着剤層の一部の領域に干渉縞をホログラムとして記録すると同時に、ホログラムの記録時の重合反応による前記接着剤層の硬化により、2つの前記透明光学部材を接合する第2の工程とを含むことを特徴とする。
【0022】
上記構成によると、接着剤層に可干渉性の2光束のレーザ光を照射することにより、ホログラムの記録と同時に、ホログラムを記録する際の接着剤層の重合反応による硬化によって、2つの透明光学部材の接合を行う。そのため、従来の製造方法において別工程として行われていたホログラムを記録する工程と、2つの透明光学部材を接合する工程とを、本発明の製造方法では1工程の中で行うことができる。これにより、製造工程の短縮化を図ることができる。また、接着剤層にホログラムを記録するので、別途ホログラム材料が不要となり、少ない部品点数で製造することができる。そして、接合工程とホログラム記録工程を同時に行うために、ホログラムの特性の劣化が生じることを抑えることができる。
【0023】
また、本発明は上記構成の接合光学素子の製造方法において、前記第2の工程の後に、前記接着剤層の全面に紫外線を照射することにより、前記接着剤層に含まれる増感色素を分解すると同時に、ホログラム未記録領域のモノマーを重合硬化させて、2つの前記透明光学部材を接合する第3の工程を含むことが好ましい。
【0024】
上記構成によると、接着剤層にホログラムを記録すると同時に、接着剤層によって2つの透明光学部材を接合させる第2の工程においては、重合反応により硬化しているホログラム記録領域と、未重合のまま硬化していないホログラム未記録領域とが、接着剤層に混在している。また、ホログラムを記録するために接着剤層に含有される増感色素は、ホログラムを記録後も光束を吸収してしまい、さらに重合反応を起こして接着剤層を収縮させてしまう等の不都合を起こす。そこで、第2の工程の後、紫外線を接着剤層の全面に照射し、増感色素を分解することにより、接着剤層を定着させて安定した構成を有するとともに、増感色素の吸収のない透明性の高い接合光学素子を製造することができる。また、増感色素の分解と同時に、ホログラム未記録領域のモノマーを重合硬化させることにより、ホログラム未記録領域を光照射によって硬化させる工程を別工程として設ける必要がなく、簡便に接合光学素子を製造することができる。
【0025】
また、本発明は上記構成の接合光学素子の製造方法において、前記接着剤層のホログラム未記録領域には、1光束のレーザ光、あるいは、2光束のインコヒーレントなレーザ光を照射して、重合反応により2つの前記透明光学部材を接合することが好ましい。
【0026】
上記構成によると、接着剤層のホログラム未記録領域に、例えば、所定の位置に遮光板を配置することで2光束のうちの一方のレーザ光を遮って他方のレーザ光を照射するか、あるいは、例えば、所定の位置に波長板を配置して一方のレーザ光の偏光方向を他方に対し直交方向になるように変えることにより、2光束のインコヒーレントなレーザ光を照射することで、干渉縞を生成せずに、重合反応による硬化を行い、2つの透明光学部材の接合を行う。これにより、ホログラム未記録領域には、干渉縞が生成されないために、ホログラムの記録が行われない。そのため、ホログラム記録領域以外の領域に不要な干渉縞が生成されることによるゴーストの発生を抑えることができる。また、ホログラム未記録領域には、干渉縞が生成されないことで、接着剤層の微小領域において大きな屈折率差が生じないので、接着剤層を均一に硬化することができる。
【0027】
また、本発明は上記構成の接合光学素子の製造方法において、前記接着剤層のホログラム未記録領域へのレーザの照射は、レーザ照射によるホログラムの記録と同時に行うことが好ましい。
【0028】
上記構成によると、レーザ照射によってホログラム未記録領域を硬化させる工程を、ホログラムの記録と時間的にずらして行う場合に比べて(別工程で設ける場合に比べて)簡便に接合光学素子を製造することができる。
【0029】
また、本発明は上記構成の接合光学素子の製造方法において、レーザ照射によって前記接着剤層の一部の領域にホログラムを記録する前に、前記接着剤層のホログラムを記録する以外の領域に対して、重合反応により2つの前記透明光学部材を接合するための重合開始光を照射することが好ましい。
【0030】
上記構成によると、ホログラム記録前に、予め2つの透明光学部材を接合し、一体化するのでズレ等の発生を防ぐことができ、作業性が容易になる。なお、重合開始光は、ホログラムを記録する際に用いるレーザ光、紫外線、または可視光等を用いることができる。
【0031】
また、本発明の接合光学素子は、上述した本発明の製造方法によって製造されてもよい。
【0032】
また、本発明は上記構成の接合光学素子において、前記ホログラムは、体積位相型の反射型のホログラムであることが好ましい。
【0033】
上記構成によると、反射型の体積位相型のホログラムは、波長選択性が高く、回折効率のピークの半値波長全幅が狭い。そのため、例えば、映像光と外界光とを同時に観察者の眼に導くコンバイナとして使用することが可能となる。また、そのようなコンバイナとしてホログラムを使用した場合、外界光の透過率が高くなり、外界像を明瞭に観察することが可能となる。
【0034】
また、上記目的を達成するために本発明は、照明光源と、前記光源からの光を変調して映像を表示する映像表示素子と、上記の接合光学素子とを備え、前記映像表示素子からの映像光を、前記接合光学素子の入射面より入射させ、内部で複数回全反射して前記接合光学素子のホログラムへ導き、前記ホログラムにて映像光を拡大反射して前記接合光学素子の射出面より外部に射出して観察者の眼に虚像として導くと同時に、前記ホログラムを透過した外界像の光を観察者の眼に導くことを特徴とする。
【0035】
上記構成によると、光源から出射される光は、映像表示装置によって変調され、映像光として出射される。この映像光は、透明光学部材の入射面から入射し、内部で複数回全反射した後、ホログラムにて反射されて射出面から射出される。これにより、観察者は、映像を拡大虚像として観察することができる。また、ホログラムを透過した外界像の光は観察者の眼に導かれるので、観察者は虚像と外界像とを同時に観察することが可能となる。このように本発明の接合光学素子を用いて装置を構成することにより、ホログラムが接眼光学系を兼ねるので、装置を小型軽量にできる。また、光源の発光波長とホログラムの回折波長とを合わせれば、明るい映像を観察者に提供できる。さらに、透明光学部材内での全反射を用いた構成なので、透明光学部材を小型軽量にできるとともに、外界像の光の透過率が高くなり、外界像を良好に観察することができる。また、隣り合う透明光学部材を接合することで、外界光が一方の透明光学部材で屈折することを防ぎ、外界像を良好に観察できる。そして、映像表示素子を視野の周辺に配置することが可能となり、広い外界視野角を確保することができる。
【0036】
また、本発明は上記構成の映像表示装置において、前記ホログラムは、前記映像表示素子にて表示された映像を拡大する正の非軸対称な光学パワーを有しており、前記表示映像を観察者の眼に虚像として導く接眼光学系の少なくとも一部を構成しているが好ましい。
【0037】
この場合、接眼光学系を小型にできるとともに、良好に収差補正された映像を観察させることができる。
【0038】
また、上記目的を達成するために本発明は、請求項15または請求項16に記載の映像表示装置と、前記映像表示装置を観察者の眼前で支持する支持部材とを備えていることを特徴としている。
【0039】
上記構成によると、映像表示装置が支持手段によって観察者の眼前で指示されるので、観察者は、ハンズフリーとなり、外界像および映像表示素子での表示映像を虚像として観察しながら、空いた手で所望の作業を行うことができる。また、観察者の観察方向が一方向に定まるので、観察者は暗環境でも表示映像を探しやすいという利点もある。
【発明の効果】
【0040】
本発明によると、隣り合う2つの透明光学部材を接合する接着剤層中にホログラムが記録されていることにより、別途ホログラムを記録する材料を設ける必要がなく、接合光学素子の部品点数を減少させることができる。また、部品点数の減少に伴い、接合光学素子の製造工程を短縮化することができる。そして、接着剤層中にホログラムが記録されるため、接着剤層の浸透や、接着剤層の硬化に伴う収縮等によるホログラム層の特性の劣化を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下に本発明の実施形態について、図面を用いながら説明する。
【0042】
(第1実施形態)
(ヘッドマウントディスプレイについて)
図2(a)は、本実施形態におけるヘッドマウントディスプレイの概略の構成を示す平面図であり、図2(b)は、ヘッドマウントディスプレイの側面図であり、図2(c)は、ヘッドマウントディスプレイの正面図である。ヘッドマウントディスプレイ1は、映像表示装置2と、それを支持する支持手段3とを有しており、全体として、一般の眼鏡から一方のレンズ(例えば左目用)のレンズを取り除いたような外観となっている。
【0043】
映像表示装置2は、観察者に外界像をシースルーで観察させるとともに、映像を表示して観察者にそれを虚像として提供するものである。図2(c)で示す映像表示装置2において、眼鏡の右目用レンズに相当する部分は、後述する接眼プリズム21および偏向プリズム22(図3参照)の張り合わせによって構成されている。なお、映像表示装置2の詳細な構成については後述する。
【0044】
支持手段3は、映像表示装置2を観察者の眼前(例えば右目の前)で支持するものであり、ブリッジ4と、フレーム5と、テンプル6と、鼻当て7と、ケーブル8とを有している。なお、フレーム5、テンプル6および鼻当て7は、左右一体に設けられているが、これらを左右で区別する場合は、右フレーム5R、左フレーム5L、右テンプル6R、左テンプル6L、右鼻当て7R、左鼻当て7Lのように表現するものとする。
【0045】
映像表示装置2の一端は、ブリッジ4に支持されている。このブリッジ4は、映像表示装置2のほかにも左フレーム5Lおよび鼻当て7を支持している。左フレーム5Lは、左テンプル6Lを回動可能に支持している。一方、映像表示装置2の他端は、右フレーム5Rに支持されている。右フレーム5Rにおいて、映像表示装置2の支持側と反対に位置する側端部は、右テンプル6Rを回動可能に支持している。ケーブル8は、外部信号(例えば映像信号、制御信号)や電力を映像表示装置2に供給するための配線であり、右フレーム5Rおよび右テンプル6Rに沿って設けられている。
【0046】
観察者がヘッドマウントディスプレイ1を使用するときは、右テンプル6Rおよび左テンプル6Lを観察者の右側頭部および左側頭部に接触させるとともに、鼻当て7を観察者の鼻に当て、一般の眼鏡をかけるようにヘッドマウントディスプレイ1を観察者の頭部に装着する。この状態で、映像表示装置2にて映像を表示すると、観察者は、映像表示装置2の映像を虚像として観察することができるとともに、この映像表示装置2を介して外界像をシースルーで観察することができる。
【0047】
上記構成のヘッドマウントディスプレイ1においては、映像表示装置2が支持手段3によって観察者の眼前で指示されるので、観察者は、ハンズフリーとなり、外界像および映像表示素子での表示映像を虚像として観察しながら、空いた手で所望の作業を行うことができる。また、観察者の観察方向が一方向に定まるので、観察者は暗環境でも表示映像を探しやすいという利点もある。
【0048】
なお、図2(a)(b)(c)で示したヘッドマウントディスプレイ1は、映像表示装置2を1個だけ備えた構成であるが、左右の両眼に対応して映像表示装置2を2個備えた構成であっても勿論かまわない。
(映像表示装置について)
次に、上述した映像表示装置の詳細について説明する。
【0049】
図3は、映像表示装置の概略の構成を示す断面図である。映像表示装置2aは、光源(照明光源)11と、映像表示素子12と、接合光学素子(接眼光学系)20とで構成されている。映像表示素子12は、一方向拡散板13と、集光レンズ14と、LCD15とを有している。
【0050】
光源11は、中心波長が例えば465nm、520nm、635nmとなる3つの波長帯域の光を発するRGB一体型のLEDで構成されている。一方向拡散板13は、光源11からの照明光を拡散させるものであるが、その拡散度は方向によって異なっている。より詳細には、一方向拡散板13は、ヘッドマウントディスプレイを観察者が装着したときの左右方向に対応する方向(図3の紙面に垂直な方向)には、入射光を約40°拡散させ、ヘッドマウントディスプレイを観察者が装着したときの上下方向(図3の紙面に平行な方向)には、入射光を約0.2°拡散させる。集光レンズ14は、一方向拡散板13にて拡散された光を集光するものである。集光レンズ14は、上記拡散光が効率よく光学瞳Eを形成するように配置されている。
【0051】
LCD15は、映像信号に基づいて光源11からの光を変調することにより、映像を表示する光変調素子である。なお、本実施形態では、LCD15は、透過型であるが、反射型で構成されていてもよい。この場合、光源11などのほかの光学素子の配置位置を工夫する必要がある。また、LCD15以外の光変調素子(例えば、DMD(Digital Micromirror Device;米国テキサスインスツルメント社製))を用いてもよい。
【0052】
一方、接合光学素子20は、接眼プリズム21と、偏向プリズム22と、接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合する接着剤層23とから構成されている。また接眼プリズム21と偏向プリズム22とは、その接合部で連続した面形状が形成されるように接合されている。
【0053】
接眼プリズム21および偏向プリズム22は、例えば、アクリル系樹脂(後述する)で構成されている。接眼プリズム21は、平行平板の下端部を楔状にし、その上端部を厚くした形状で構成されており、面21a、21b、21cを有している。面21aは、映像表示素子12からの映像光が入射する入射面であり、面21b、21cは互いに対向する面である。このうち、面21bは、全反射面兼射出面となっている。
【0054】
偏向プリズム22は、平行平板の上端部を接眼プリズム21の下端部に沿った形状とすることによって、接眼プリズム21と一体となって略平行平板となるように構成されている。接眼プリズム21に偏向プリズム22を接合させない場合、外界像の光が接眼プリズム21の楔状の下端部を透過するときに屈折するので、接眼プリズム21を介して観察される外界像に歪みが生じる。しかし、接眼プリズム21に偏向プリズム22を接合させて一体的な略平行平板を形成することで、外界像の光が接眼プリズム21の楔状の下端部を透過するときの屈折を偏向プリズム22でキャンセルすることができる。その結果、シースルーで観察される外界像に歪みが生じるのを防止することができる。
【0055】
接着剤層23は、接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合するとともに、特定の入射角で入射する例えば、465nm±10nm、520nm±10nm、635nm±10nmの3つの波長帯域の光を回折させる体積位相型のホログラム24(図1(b)参照)を記録している。なお、この構成については後述する。
【0056】
このような映像表示装置2aの構成により光源11から出射された光は、一方向拡散板13にて拡散され、集光レンズ14にて集光されてLCD15へ入射する。LCD15に入射した光は、映像信号に基づいて変調され、映像光として出射される。このとき、LCD15には、その映像自体が表示される。
【0057】
LCD15からの映像光は、接合光学素子20の接眼プリズム21の上端部(面21a)から接眼プリズム21の内部に入射し、対向する2つの面21b、21cで複数回全反射されて、接着剤層23に入射する。接着剤層23に入射した光は、そこで反射されて面21bを介して射出され、光学瞳Eに達する。光学瞳Eの位置では、観察者は、LCD15に表示された映像の拡大虚像を観察することができる。光学瞳Eから虚像までの距離は数m程度であり、また、虚像の大きさはLCD15に表示された映像の10倍以上である。
【0058】
一方、接眼プリズム21、偏向プリズム22および接着剤層23は、外界からの光をほとんど全て透過させるので、観察者は外界像を観察することができる。したがって、LCD15に表示された映像の虚像は、外界像の一部に重なって観察されることになる。
【0059】
以上のように、映像表示装置2aでは、LCD15から出射される映像光を接眼プリズム21内での全反射によって光学瞳Eに導く構成としたので、通常の眼鏡レンズと同様に接眼プリズム21および偏向プリズム22の厚さを3mm程度にすることができ、接合光学素子20ひいては映像表示装置2aを小型化、軽量化することができる。また、外界像の光の透過率が高くなり、外界像を良好に観察することができる。さらに映像表示素子12を観察者の眼の直前から大きく離れた位置に配置することができ、観察者の外界に対する視野を広く確保することができる。また、接着剤層23中にホログラム24を記録しているので、光源11の回折波長とホログラム24の回折波長とを合わせれば、明るい映像を観察者に提供することができる。
【0060】
また、接着剤層23中に記録されたホログラム24は、上述したように特定入射角の特定波長の光のみを回折させる体積位相型の反射型のホログラムで構成されているので、LCD15からの映像光が接眼プリズム21、偏向プリズム22および接着剤層23を透過する外界像の光に影響を与えることがない。つまり、体積位相型の反射型のホログラムは、波長選択性・角度選択性がともに高いことから、ある限られた波長域の光に対してのみ回折反射作用を及ぼすので、特定波長域の反射光とそれ以外の波長の透過光とを合成するコンバイナとして機能させることができる。それゆえ、観察者は、ホログラム24を介してLCD15の表示映像の虚像を観察しながら、接眼プリズム21、偏向プリズム22および接着剤層23を介して外界像を通常通り、かつ明瞭に観察することができる。
【0061】
また、接着剤層23に記録されるホログラム24は、LCD15にて表示された映像を拡大する正の非軸対称な光学パワーを有しており、上記表示映像を観察者の眼に虚像として導く接合光学素子20の少なくとも一部を構成しているので、接合光学素子20を小型にできるとともに、良好に収差補正された映像を観察者に提供することができる。
【0062】
なお、ホログラム24が接眼プリズム21と偏向プリズム22との接合部における接着剤層23中に記録されていることで、ホログラム24が外部環境に影響を受けることを防ぐことができ、安定した性能を保つことができる。
【0063】
(接合光学素子について)
次に、上述した接合光学素子の詳細について説明する。
【0064】
接合光学素子20は、複数の透明光学部材としての接眼プリズム21および偏向プリズム22と、接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合するとともに、ホログラム24を記録する接着剤層23とから構成されている。図4(a)に接眼プリズムの平面図を示し、図4(b)に接眼プリズムの側面図を示す。また、図5(a)に偏向プリズムの平面図を示し、図5(b)に偏向プリズムの側面図を示す。図6は、本発明の接合光学素子の平面図である。
【0065】
接眼プリズム21は、全体として略4角錐台の形状をしており、その上面および下面は、4つの側面で連結されている。この4つの側面は、図4(a)において、上面を中心として反時計回りに配置される面21d、21e、21f、21gで構成されている。これらの面21d、21e、21f、21gはそれぞれ法線方向が異なっている。また、面21dには、上記上面よりも上方に突出する突出部が形成されている。
【0066】
偏向プリズム22は、図5(a)に示すように、接眼プリズム21が接合することで平行平板が形成されるような形状となっている。つまり、偏向プリズム22は、平行平板から接眼プリズム21の形状をくりぬいた形状を有している。ここで、偏向プリズム22において、接眼プリズム21と接合したときに、接眼プリズム21の面21e、21f、21gと対向する面をそれぞれ面22a、22b、22cとする。これらの面22a、22b、22cの法線方向も互いに異なっている。
【0067】
接着剤層23は、接眼プリズム21の面21e、21f、21gと偏向プリズム22の面22a、22b、22cとの間に配置して接眼プリズム21と偏向プリズム22とを上記3面で接合する。接着剤層23は、図6に示すように、接眼プリズム21の面21e、21f、21gと、偏向プリズム22の面22a、22b、22cとを接合する接着剤層23a、23b、23cを有している。そして、図4(b)または図5(b)に示す、接眼プリズム21の面21fと、偏向プリズム22の面22bとを接合する接着剤層23bにおいては、面同士を接合すると同時にホログラム24(図6参照)を記録する。そこで、接着剤層による接合の原理とホログラムを記録する原理とについて以下に示す。
【0068】
接着剤層23は、高分子化合物で構成されて低分子を維持する働きを有するベースポリマー(マトリックスポリマー)の中に、重合開始剤、重合性モノマー、および増感色素を含んで構成されている。そのため、光を照射することによって重合開始剤に光のエネルギが吸収されることにより、重合反応が開始されて、重合性モノマーよって連続的に重合反応が行われる。そして、接着剤層23は、重合反応に伴う硬化によって接着剤として機能することができる。
【0069】
一方、ホログラム24は、2光束を干渉させることによって生じる干渉縞の明部と暗部との屈折率差により、記録されるものである。そのため、接着剤層23bの一部の領域に、可干渉性の2光束を照射すると、干渉縞の明部に位置する増感色素が光束のエネルギを吸収して重合開始剤にエネルギを与えることで重合反応が開始する。重合反応が開始されると、重合性モノマーが干渉縞の暗部から干渉縞の明部へと拡散して連続的に重合が行われる。そして、最終的には、主に重合性モノマーとベースポリマーとで構成される干渉縞の明部と、主にベースポリマーで構成される干渉縞の暗部とが形成される。ここで、ホログラム24記録時に照射するレーザ光を吸収する波長特性を有する増感色素を加えることで、干渉縞の濃淡に対応して重合性モノマーを硬化することができる。そして、干渉縞の明部と干渉縞の暗部とでは、その屈折率差が大きくなるため、ホログラム24を記録することができる。なお、さらに可塑剤を添加すると、重合性モノマーの拡散がより容易になり、大きな屈折率差を持たせることが容易になる。
【0070】
このように、ホログラム24を記録する際の重合反応に伴う硬化によって接眼プリズム21の面21fと、偏向プリズム22の面22bとを接合することができるため、接着剤層23bでは、ホログラム24の記録と、接眼プリズム21と偏向プリズム22との接合とを同時に行うことができる。
【0071】
また、高い回折効率を有するホログラム24を記録するために、重合性モノマーとしては、重合性・屈折率・硬化特性等を考慮して、複数種類を同時に用いるとよい。その中で、重合性モノマーの1つとしてN−ビニルカルバゾールを用いるのが非常によい。N−ビニルカルバゾールは、代表的な高屈折の重合性モノマーであり、明部と暗部の屈折率差を大きくするのに有効に働く。
【0072】
また、増感色素は、1種類以上の色素から構成され、赤(R)、緑(G)、青(B)の波長域の光を吸収する。レーザ光を吸収する増感色素として、RGB3色の波長域の光を吸収する色素を含むことで、RGB3波長のレーザ光を用いて、カラーで再生できるホログラム24を記録することが可能となる。増感色素は、RGBの波長域の光を吸収する1種類の色素を用いてもよいし、例えば、Rの波長域の光を吸収する色素と、GおよびBの波長域の光を吸収する色素との2種類の色素を用いてもよい。また、あるいはRGBのそれぞれの波長域の光を吸収する3種類の色素を用いてもよい。
【0073】
なお、後述するが、増感色素はホログラム記録後において、さらに不要な干渉縞が記録されないように、ホログラム定着工程により分解されることが望ましく、光あるいは熱により分解される性質を有することが望ましい。このような色素の一例として、Rの波長域の光を吸収する色素としては、シアニン系色素やスクワリリウム色素が挙げられ、Gの波長域の光やBの波長域の光を吸収する色素としては、クマリン系色素が挙げられる。
【0074】
上述した構成により記録されたホログラム24は、干渉縞の明部をn1、干渉縞の暗部をn2とすると、
0.01≦|n1−n2|≦0.05…(1)
の条件式を満たす。
また、記録されたホログラム24を有する接着剤層23の厚さをt(μm)とすると、接着剤層23の厚さは、
10≦t≦300…(2)
の条件式を満たす。
【0075】
ホログラム24の特性は、屈折率差や膜厚のパラメータに依存する。ホログラムは、屈折率差が大きいほど、回折効率が上がる。また、膜厚が厚いほど、回折効率が上がる。しかしながら、必要以上に膜厚が厚くなると、回折効率の半値波長全幅が狭くなってしまうので、光学瞳に入射する光量が減少して輝度が暗くなってしまう。一方、輝度を明るくするために半値波長全幅を広くすると、多くの波長域の光を回折してしまうために、ホログラム24の波長選択性が悪くなり、ホログラムを24透過して観察される外界光が暗くなってしまう。そこで、上述した条件式(1)、(2)を満たすようにホログラム24を構成することで、接着剤層23中に記録したホログラム24が、ホログラム24として使用可能な回折効率の半値波長全幅や回折効率を有することができる。なお、特にホログラム24の屈折率差は0.02≦|n1−n2|≦0.05程度、接着剤層23の厚さtは、20μm≦t≦100μmが好ましい。
【0076】
透明光学部材である接眼プリズム21と偏向プリズム22とは、例えば、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、MMA(メタクリル酸メチル)等のアクリル系樹脂、もしくは、ZEONEX(登録商標)、アペル(登録商標)等のシクロオレフィン系樹脂を用いて構成されている。これらの有機材料は、透明性が高く、低複屈折率であるので、透明光学部材を構成した際に、良好な光学特性(例えば透過特性)を得ることができる。また、接着剤層23は、アクリル系樹脂、もしくは、シクロオレフィン系樹脂を用いて構成されており、例えば、接着剤層23を構成するアクリル系重合性モノマーとしては、アクリレート誘導体(2−フェノキシエチルアクリレート、酢酸ビニル等)があり、マトリックスポリマーとしては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびその共重合体、ポリビニルアセテート等がある。このように、接眼プリズム21と偏向プリズム22と接着剤層23とを同じアクリル系材料、もしくは、シクロオレフィン系材料という同系列の有機材料で構成することにより、密着性が高まり、高い接合力を得ることができる。なお、これらの効果は、接眼プリズム21と、偏向プリズム22と、接着剤層23とにおいて主成分(例えば70重量%以上の成分)がアクリル系材料もしくはシクロオレフィン系材料であれば、確実に得ることができる。
【0077】
なお、シクロオレフィン系材料は、アクリル系材料の耐熱性を向上した材料であり、その性質が非常に似ているため、例えば、透明光学部材にシクロオレフィン系材料を用いて、接着剤層23にアクリル系材料を用いた場合であっても、上述したような効果を得ることができる。
【0078】
上記した構成によって、接着剤層23は、接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合すると同時に、接着剤層23の一部にホログラム24を記録することができる。そのため、従来のように、ホログラム記録材料と接着材料との2種類の材料を用いずに接合光学素子20を構成することができるので、接合光学素子20の部品点数を減少させることができる。そして、部品点数を減少させることができるので、接合光学素子20の製造工程を短縮することができる。また、ホログラム24と接着剤層23は同一材料で構成しているため、接着剤層23の浸透や収縮によるホログラム24の劣化を防ぐことができる。
【0079】
(接合光学素子の製造方法について)
次に、上述した接合光学素子の製造方法の詳細について説明する。図1(a)〜(c)は、本発明の接合光学素子の製造方法を示す断面図である。なお、説明のため、以下に示す製造方法の断面図は、ホログラムを記録すると同時に接合を行う接着剤層23bの断面図を示すものとする。図1(a)で示される第1の製造工程において、接眼プリズム21と偏向プリズム22とが接着剤層23bを介して配置されている。
【0080】
次に、図1(b)で示すように、第1の製造工程の後、接着剤層23bの一部の領域に可干渉性の2光束のレーザ光を照射する第2の製造工程を行う。本実施形態においては、接着剤層23bに、体積位相型の反射型のホログラムを記録するために、2光束のレーザ光を、接眼プリズム21側と偏向プリズム22側とから照射する。この際、偏向プリズム22側から照射される光は、マッチングオイルで偏向プリズム22に密着される光導入プリズム25を用いることで、偏向プリズム22で全反射されることなく、接着剤層23bに照射される。このような2光束の照射により、接着剤層23bの一部の領域において干渉縞を作製して、上述したホログラム記録の原理に従ってホログラム24を記録すると同時に重合反応による硬化によって、接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合する。この接着剤層23bのホログラム24が記録される領域をホログラム記録領域28とする。
【0081】
このとき、RGBの波長帯域の光を照射するレーザ光源を用いて接着剤層23bを露光することで、RGBの3色に対応して機能するホログラム24とすることができる。すなわち、RGBの光を回折反射するホログラム24を記録することができる。そして、第2の製造工程の後、図1(c)で示すように、ホログラム記録領域28を含む接着剤層23に紫外線を照射する第3の製造工程を行う。
【0082】
以上のように、本発明の接合光学素子の製造方法においては、接着剤層23に可干渉性の2光束のレーザ光を照射することにより、ホログラム24の記録と同時に、ホログラム24を記録する際の接着剤層23の重合反応による硬化によって、接眼プリズム21と偏向プリズム22との接合を行う。そのため、従来の製造方法において別工程として行われていたホログラムを記録する工程と、2つの透明光学部材を接合する工程とを、本発明の製造方法では1工程の中で行うことができる。これにより、製造工程の短縮化を図ることができる。また、接着剤層23にホログラム24を記録するので、別途ホログラム材料が不要となり、少ない部品点数で製造することができる。そして、接合工程とホログラム記録工程を同時に行うために、ホログラム24の劣化が生じることを抑えることができる。
【0083】
また、第2の製造工程の後、接着剤層23には、ホログラム記録のためのレーザ光の照射によって重合反応が起こり、接眼プリズム21と偏向プリズム22との接合が行われているホログラム記録領域28と、未重合のまま、接眼プリズム21と偏向プリズム22との接合が行われていないホログラム未記録領域29とが混在している。なお、ホログラム未記録領域29は、接着剤層23a、23cにおけるホログラム未記録領域29も含む。また、接着剤層23中に含まれる増感色素は、ホログラム24を記録後も光束を吸収してしまい、さらに重合反応を起こして接着剤層23を収縮させてしまう等の不都合を起こす。そこで、第3の工程において、紫外線を接着剤層23の全面に照射し、増感色素を分解することにより、接着剤層23を定着させて安定した構成を有するとともに、増感色素の吸収のない透明性の高い接合光学素子20を製造することができる。また、増感色素の分解と同時に、ホログラム未記録領域29のモノマーを重合硬化させることにより、ホログラム未記録領域29を光照射によって硬化させる工程を別工程として設ける必要がなく、簡便に接合光学素子20を製造することができる。
【0084】
また、本発明の接合光学素子20の製造方法では、上述した接合光学素子20の製造方法に加えて、ホログラム未記録領域29に1光束の光、あるいは、2光束のインコヒーレントな光を照射することで接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合することもできる。これにより、ホログラム未記録領域29には干渉縞が生成されないために、ホログラム24の記録が行われない。そのため、ホログラム記録領域28以外の領域に不要な干渉縞が生成されることによるゴーストの発生を抑えることができる。また、ホログラム未記録領域29には、干渉縞が生成されないことで、接着剤層23の微小領域において大きな屈折率差が生じないので接着剤層23を均一に硬化することができる。
【0085】
この際、本発明の接合光学素子の製造方法に加えて、以下の2パターンの工程のいずれかを付加することにより、上述したホログラム未記録領域29への露光を実現できる。
【0086】
(付加工程1)
接合光学素子20を製造する第2の工程の前に、上述したホログラム未記録領域29への光の照射を行うことを付加工程1とする。図7(a)は、本発明における接合光学素子の付加工程1を示す断面図である。図7(b)は、本発明における接合光学素子の付加工程1の別工程を示す断面図である。なお、以下に示す製造方法の断面図は、ホログラムを記録すると同時に接合を行う接着剤層23bの断面図を示すものとし、上述した接合光学素子の製造方法と同一の部分については説明を省略する。
【0087】
図7(a)で示すように、重合反応により接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合するための重合開始光の光源を、接着剤層23を挟むように2つ配置する。そして、ホログラム記録領域28に重合開始光が照射されないように遮光板26a、26bを配置する。この状態で重合開始光を照射すると、2つの光源から照射される重合開始光によって、ホログラム未記録領域29に重合反応による硬化が起こる。ここで、重合開始光がレーザ光のようなコヒーレントな光の場合、さらに波長板27aを追加配置することにより、互いの偏光方向が直交するようにしてホログラム未記録領域29へ照射される。2つの光源から出射される重合開始光は、ホログラム未記録領域29へ照射されても干渉縞を生成しないで接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合することができる。
【0088】
あるいは、図7(b)で示すように、一方の光源を配置して、重合開始光を照射することでホログラム未記録領域29に干渉をおこさせずに、重合反応による硬化により、接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合することができる。この場合も、ホログラム記録領域28に重合開始光が照射されないように、遮光板26bを配置する。
【0089】
なお、重合開始光は重合を開始させる光であればよく、例えば、ホログラム24を記録する際に用いるレーザ光、紫外線、または可視光等を用いることができる。また、波長板27も重合開始光の偏光方向を互いに直交する方向にかえるものであればよく、1/2波長板や1/4波長板を用いることができる。
【0090】
付加工程1においては、ホログラム24を記録する前にホログラム未記録領域29を重合硬化させて接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合して一体化することで、接着剤層23のズレの発生を防ぐことができる。そのため、ホログラム24を記録する際の作業性を容易にすることができる。
【0091】
(付加工程2)
接合光学素子20を製造する第2の工程と同時に、上述したホログラム未記録領域29への光の照射を行うことを付加工程2とする。図8(a)は、本発明における接合光学素子の付加工程2を示す断面図である。図8(b)は、本発明における接合光学素子の付加工程2の別工程を示す断面図である。
【0092】
図8(a)に示すように、一方の光源から出射される可干渉性のレーザ光が照射されるホログラム未記録領域29に対応して波長板27b、27cを配置する。そして、第2の工程と同様に、ホログラム記録領域28に可干渉性の2光束のレーザ光を照射する。すると、ホログラム未記録領域29においては、波長板27b、27cが配置されているのでレーザ光の偏光方向が他方に対して直交する方向に変えられた光が照射されるので、干渉縞を生成せずに重合反応による硬化により接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合することができる。
【0093】
あるいは、図8(b)に示すように、ホログラム記録領域28に照射する可干渉性の2光束のレーザ光を照射する際に、一方の光源から出射されるレーザ光が照射されるホログラム未記録領域29に対応して遮光板26c、26dを配置する。これにより、ホログラム未記録領域29には、1光束のレーザ光しか照射されないので干渉縞が作製されずに重合硬化により、接眼プリズム21と偏向プリズム22とが接合することができる。
【0094】
このように、ホログラム未記録領域29にレーザ光を照射する別工程を設ける場合に比べて簡便に接合光学素子20を製造することができる。
【0095】
(第2実施形態)
図9は、映像表示装置の他の構成例を示した断面図である。この映像表示装置2bは、接合光学素子30の構成以外は、図3に示す映像表示装置2aと同様の構成を有する。
【0096】
本実施形態の映像表示装置2bは、光変調素子からなるLCD34と接合光学素子30とを有している。LCD34は、第1実施形態の映像表示装置2aにおけるLCD15と同様の構成を有する。接合光学素子30は、接眼プリズム31および偏向プリズム32を構成する面が、非球面や自由曲面等の曲面形状を有している。そして、接眼プリズム31と偏向プリズム32とを接合する接着剤層33は、上述したホログラム24を記録する接着剤層23により構成されている。
【0097】
これにより、接眼プリズム31と偏向プリズム32の面を曲面形状で構成することによって、接合光学素子30に任意の光学的パワーをもたせることができる。したがって、このような構成によってもLCD34の表示映像を良好に収差補正された虚像として観察者に拡大観察させることができるとともに、接眼プリズム31、偏向プリズム32および接着剤層23を介して外界像を良好に観察することが可能である。また、接合光学素子30に矯正眼鏡レンズとしての機能を持たせることも可能となる。
【0098】
(第3実施形態)
図10は、映像表示装置のさらに他の構成例を示した断面図である。この映像表示装置2cは、図示しない光源および導光板と、LCD40と、接眼レンズ41と、接合光学素子42とで構成されている。接眼レンズ41は、LCD40から出射される映像光を平行光にして接合光学素子42に導く光学系を構成している。
【0099】
接合光学素子42は、複数の透明光学部材であるプリズム43〜47が反射ミラー48および接着剤層54〜56を介してそれぞれ接合されたものであり、板状の平行平板を構成している。反射ミラー48は、接眼レンズ41から入射してくる入射光を全反射させるミラーである。プリズム44とプリズム45との間、プリズム45とプリズム46との間、プリズム46とプリズム47との間には、透過光量と反射光量とが所定の比率となるように入射光を分離するホログラム51〜53がそれぞれ接着剤層54〜56に記録されている。
【0100】
上述したプリズム43〜47、接着剤層54〜56は、前述した接眼プリズム21や偏向プリズム22、接着剤層23と同じ材料で構成されている。
【0101】
図10の映像表示装置の構成2cでは、光源からの光が導光板に入射し、面光源としてLCD40を照明する。LCD40からの映像光は、接眼レンズ41にて平行光となり、接合光学素子42に入射する。接合光学素子42に入射した光は、反射ミラー48にて反射され、プリズム44内を導光されてホログラム51が記録されている接着剤層54に入射する。接着剤層54に入射した光は、一部はそこを透過し、残りは反射されて外部(第1の光学瞳E1)に導かれる。接着剤層54を透過した光は、プリズム45内を導光されてホログラム52が記録された接着剤層55に入射し、一部はそこを透過し、残りは反射されて外部(第2の光学瞳E2)に導かれる。接着剤層55を透過した光は、プリズム46内を導光されてホログラム53が記録された接着剤層56へ入射し、そこで一部または全部が反射されて外部(第3の光学瞳E3)に導かれる。これにより、観察者は、各ホログラム51〜53を記録する接着剤層54〜56に対応する光学瞳E1〜E3のいずれの位置でも、映像を観察することが可能となる。
【0102】
そして、本発明の映像表示装置2cは、接着剤層54〜56にホログラム51〜53を記録することにより、接合光学素子42の部品点数を減少することができ、ひいては映像表示装置2cを製造する際の工程を短縮することができる。
【0103】
なお、各プリズム43〜47内で導光される光は、上述のように各プリズム43〜47の対向する2面で全反射されずに導光されてもよいし、図3のように対向する2面で全反射されて導光されてもよい。また、映像表示装置2cは、上述した構成に限られず、さらに複数のプリズムや複数のホログラムを記録する接着剤層で構成されてもかまわない。
【0104】
また、ホログラムを記録する接着剤層の数が複数ある場合、LCD40に光学的に近い側にある接着剤層(図10においては接着剤層54)に記録されるホログラム(図10においてはホログラム51)ほど反射率(回折効率)が低くなるように設定すれば、それぞれのホログラムで反射される映像光の明るさを互いに近づけて、輝度ムラの少ない良好な映像を観察者に観察させることが可能となる。また、複数のホログラムで映像光を反射する構成とすることにより、接合光学素子42を薄型化することに加えて、光学瞳の形成範囲を全体として広げることも可能となる。これにより、観察者の瞳の位置がずれた場合でも、対応する光学瞳の位置にて良好な映像を観察者に観察させることが可能となる。
【0105】
なお、上述した各構成や手法を適宜組み合わせて接合光学素子や映像表示装置ひいてはヘッドマウントディスプレイを構成することも勿論可能である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の接合光学素子は、例えばヘッドマウントディスプレイを構成する映像表示装置の接眼光学系に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の接合光学素子の製造方法の製造工程を示す断面図である。
【図2】(a)は、本発明のヘッドマウントディスプレイを示す平面図である。(b)は、本発明のヘッドマウントディスプレイを示す側面図である。(c)は、本発明のヘッドマウントディスプレイを示す正面図である。
【図3】本発明の映像表示装置を示す断面図である。
【図4】(a)は、本発明の接合光学素子の接眼プリズムを示す平面図である。(b)は、本発明の接合光学素子の接眼プリズムを示す側面図である。
【図5】(a)は、本発明の接合光学素子の偏向プリズムを示す平面図である。(b)は、本発明の接合光学素子の偏向プリズムを示す側面図である。
【図6】本発明の接合光学素子を示す平面図である。
【図7】(a)は、本発明の接合光学素子の付加工程1を示す断面図である。(b)は、本発明の接合光学素子の付加工程1の別工程を示す断面図である。
【図8】(a)は、本発明の接合光学素子の付加工程2を示す断面図である。(b)は、本発明の接合光学素子の付加工程2の別工程を示す断面図である。
【図9】本発明の映像表示装置の他の構成例を表した断面図である。
【図10】本発明の映像表示装置のさらに他の構成例を表した断面図である。
【図11】(a)〜(e)は、従来の接合光学素子の製造方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0108】
1 ヘッドマウントディスプレイ
2 映像表示装置
3 支持部材
11 光源(照明光源)
12 映像表示素子
15、34、40 LCD
20、30、42 接合光学素子(接眼光学系)
21、31 接眼プリズム(透明光学部材)
22、32 偏向プリズム(透明光学部材)
23、33、54〜56 接着剤層
24、51〜53 ホログラム
28 ホログラム記録領域
29 ホログラム未記録領域
43〜47 プリズム(透明光学部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣り合う2つの透明光学部材を接着剤層で接合した接合光学素子と、その接合光学素子の製造方法と、その接合光学素子を備えた映像表示装置と、その映像表示装置を備えたヘッドマウントディスプレイとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホログラムを透明基板内に埋め込んで使用する接合光学素子は、透明基板内にホログラムを埋め込むことで湿度・酸素等の外部環境に影響を受けない光学素子として、ヘッドアップディスプレイやヘッドマウントディスプレイに非常に有用である。このような接合光学素子は、例えば、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平7−234627号公報
【0003】
そこで、特許文献1に開示されているような従来の接合光学素子について、図11を用いながら説明する。
【0004】
図11(a)に示すように、透明基板101が透明基板104(図11(d)参照)と接合される接合面101aに、ホログラム記録材料102を配置する。この際、ホログラム記録材料102には、例えば、シート状のフォトポリマー等が用いられる。そして、図11(b)に示すように、ホログラム記録材料102に対して両側から可干渉性の2光束のレーザ光を照射することで、干渉縞によりホログラムを記録したホログラム層103を作製する。作製したホログラム層103に、図11(c)で示すように紫外線を照射することにより、ホログラム層103を定着させる。その後、図11(d)で示すように、透明基板101のホログラム層103を含む接合面101aに、接着材料105を塗布して透明基板101と透明基板104とを接着させる。最後に、図11(e)で示すように、紫外線を照射することで、接着材料105を重合反応により硬化させて接合光学素子100が製造される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の接合光学素子100は、ホログラムを記録するためのホログラム記録材料102と透明基板同士を接合する接着材料105との2つの材料が必要であり、部品点数が多く、また、部品点数が増加するために、工程数が多くなるという問題が生じている。そして、ホログラム層103上に接着材料105を配置するために、接着材料105がホログラム層103に浸透したり、接着材料105が硬化する際に収縮したりすることで、ホログラム層103の特性が劣化してしまうという問題が生じている。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、部品点数が少なく、工程数を短縮化することができ、さらにホログラムの特性の劣化を防止することができる接合光学素子と、その接合光学素子の製造方法と、その接合光学素子を備えた映像表示装置と、その映像表示装置を備えたヘッドマウントディスプレイとを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、複数の透明光学部材と、隣り合う2つの前記透明光学部材を接合する接着剤層とを備え、前記接着剤層中に、ホログラムが記録されていることを特徴としている。
【0008】
上記構成によると、本発明の接合光学素子は、接着剤層中にホログラムが記録されている。従来では、ホログラムが記録されたホログラム層と、2つの透明光学部材を接合する接着剤層との2層により、接合光学素子を構成していた。しかし、本発明においては、接着剤層の層内にホログラムが記録されていることで、接着剤層の1層でホログラムの特性を備えた接合光学素子を構成することができる。そのため、接合光学素子の部品点数を減少させることができる。そして、部品点数を減少させることができるので、接合光学素子の製造工程を短縮することができる。また、従来では、ホログラム層と接着剤層とを別々の層に構成していたため、接着剤層のホログラム層への浸透や、接着剤層を硬化する際の収縮等によってホログラムの特性が劣化していた。しかし、本発明では、ホログラムと接着剤層は同一の層であるため、接着剤層の浸透や収縮によるホログラムの特性の劣化が生じることはない。
【0009】
また、本発明は上記構成の接合光学素子において、前記接着剤層は、重合開始剤と、重合性モノマーと、ベースポリマーと、増感色素とを含んで構成されていることが好ましい。
【0010】
上記構成によると、本発明の接着剤層は、高分子化合物であるベースポリマー(マトリックスポリマー)に、重合開始剤と、重合性モノマーと、増感色素とを含有することで構成される。以下に本発明における接着剤層がホログラムを記録する原理について示す。ホログラムは、2光束を干渉させることによって生じる干渉縞の明部と暗部との屈折率差により、記録されるものである。そのため、本発明の接着剤層に可干渉性の2光束を照射すると、干渉縞の明部に位置する増感色素が光束のエネルギを吸収して重合開始剤にエネルギを与えることで重合反応が開始する。重合反応が開始されると、重合性モノマーが干渉縞の暗部から干渉縞の明部へと拡散して連続的に重合が行われる。そして、最終的には、重合性モノマーとベースポリマーとで構成される干渉縞の明部と、ベースポリマーで構成される干渉縞の暗部とが形成される。ここで、干渉縞の明部と干渉縞の暗部とでは、その屈折率差が大きくなるため、ホログラムを記録することができる。
【0011】
また、本発明は上記構成の接合光学素子において、前記重合性モノマーは、N−ビニルカルバゾールを含むことが好ましい。
【0012】
上記構成によると、高い回折効率を備えるホログラムを作製するためには、明部と暗部との屈折率差を大きくする必要がある。そこで、本発明の接合光学素子において、重合性モノマーが、高い屈折率を有する材料であるN−ビニルカルバゾールを含むことにより、干渉縞の明部と干渉縞の暗部との屈折率差をさらに広げることができ、高い回折効率を備えるホログラムを作製することができる。
【0013】
また、本発明は上記構成の接合光学素子において、前記増感色素は、1種類以上の色素から構成されて、赤、緑、青の波長域の光を吸収することが好ましい。
【0014】
上記構成によると、増感色素を、赤(R)、緑(G)、青(B)の波長域の光を吸収する色素で構成することによって、カラーで再生することのできるホログラムを作製することができる。この際、増感色素は、RGBの波長域の光をそれぞれ吸収する3種類の色素で構成されてもよいし、例えば、RGの波長域の光を吸収する色素とBの波長域の光を吸収する2種類の色素で構成されてもよい。または、RGBの波長域の光を吸収する1種類の色素を用いてもよい。
【0015】
また、本発明は上記構成の接合光学素子において、隣り合う2つの前記透明光学部材と、前記透明光学部材を接合する前記接着剤層とは、アクリル系あるいはシクロオレフィン系からなる材料を用いて構成されていることが好ましい。
【0016】
上記構成によると、透明光学部材と接着剤層とが、アクリル系材料もしくはシクロオレフィン系材料という同系列の材料を用いて構成されていれば、互いの密着性が高まり、高い接合力を得ることができる。なお、これらの効果は、透明光学部材と接着剤層との主成分(例えば70重量%以上の成分)がアクリル系材料あるいはシクロオレフィン系材料であれば、確実に得ることができる。
【0017】
また、本発明は上記構成の接合光学素子において、前記ホログラムの、干渉縞の明部の屈折率をn1とし、干渉縞の暗部の屈折率をn2とすると、
0.01≦|n1−n2|≦0.05…(1)
を満たすことが好ましい。
【0018】
上記構成によると、条件式(1)を満たすことにより、ホログラムとして使用可能な高い回折効率と半値幅とを得ることができる。
【0019】
また、本発明は上記構成の接合光学素子において、前記接着剤層は、層厚をtμmとすると、
10≦t≦300…(2)
を満たすことが好ましい。
【0020】
上記構成によると、条件式(2)を満たことにより、ホログラムとして使用可能な高い回折効率と半値幅とを得ることができる。
【0021】
また、上記目的を達成するために本発明は、2つの透明光学部材の間に未硬化の接着剤層を配置する第1の工程と、前記接着剤層に可干渉性の2光束のレーザ光を照射して、前記接着剤層の一部の領域に干渉縞をホログラムとして記録すると同時に、ホログラムの記録時の重合反応による前記接着剤層の硬化により、2つの前記透明光学部材を接合する第2の工程とを含むことを特徴とする。
【0022】
上記構成によると、接着剤層に可干渉性の2光束のレーザ光を照射することにより、ホログラムの記録と同時に、ホログラムを記録する際の接着剤層の重合反応による硬化によって、2つの透明光学部材の接合を行う。そのため、従来の製造方法において別工程として行われていたホログラムを記録する工程と、2つの透明光学部材を接合する工程とを、本発明の製造方法では1工程の中で行うことができる。これにより、製造工程の短縮化を図ることができる。また、接着剤層にホログラムを記録するので、別途ホログラム材料が不要となり、少ない部品点数で製造することができる。そして、接合工程とホログラム記録工程を同時に行うために、ホログラムの特性の劣化が生じることを抑えることができる。
【0023】
また、本発明は上記構成の接合光学素子の製造方法において、前記第2の工程の後に、前記接着剤層の全面に紫外線を照射することにより、前記接着剤層に含まれる増感色素を分解すると同時に、ホログラム未記録領域のモノマーを重合硬化させて、2つの前記透明光学部材を接合する第3の工程を含むことが好ましい。
【0024】
上記構成によると、接着剤層にホログラムを記録すると同時に、接着剤層によって2つの透明光学部材を接合させる第2の工程においては、重合反応により硬化しているホログラム記録領域と、未重合のまま硬化していないホログラム未記録領域とが、接着剤層に混在している。また、ホログラムを記録するために接着剤層に含有される増感色素は、ホログラムを記録後も光束を吸収してしまい、さらに重合反応を起こして接着剤層を収縮させてしまう等の不都合を起こす。そこで、第2の工程の後、紫外線を接着剤層の全面に照射し、増感色素を分解することにより、接着剤層を定着させて安定した構成を有するとともに、増感色素の吸収のない透明性の高い接合光学素子を製造することができる。また、増感色素の分解と同時に、ホログラム未記録領域のモノマーを重合硬化させることにより、ホログラム未記録領域を光照射によって硬化させる工程を別工程として設ける必要がなく、簡便に接合光学素子を製造することができる。
【0025】
また、本発明は上記構成の接合光学素子の製造方法において、前記接着剤層のホログラム未記録領域には、1光束のレーザ光、あるいは、2光束のインコヒーレントなレーザ光を照射して、重合反応により2つの前記透明光学部材を接合することが好ましい。
【0026】
上記構成によると、接着剤層のホログラム未記録領域に、例えば、所定の位置に遮光板を配置することで2光束のうちの一方のレーザ光を遮って他方のレーザ光を照射するか、あるいは、例えば、所定の位置に波長板を配置して一方のレーザ光の偏光方向を他方に対し直交方向になるように変えることにより、2光束のインコヒーレントなレーザ光を照射することで、干渉縞を生成せずに、重合反応による硬化を行い、2つの透明光学部材の接合を行う。これにより、ホログラム未記録領域には、干渉縞が生成されないために、ホログラムの記録が行われない。そのため、ホログラム記録領域以外の領域に不要な干渉縞が生成されることによるゴーストの発生を抑えることができる。また、ホログラム未記録領域には、干渉縞が生成されないことで、接着剤層の微小領域において大きな屈折率差が生じないので、接着剤層を均一に硬化することができる。
【0027】
また、本発明は上記構成の接合光学素子の製造方法において、前記接着剤層のホログラム未記録領域へのレーザの照射は、レーザ照射によるホログラムの記録と同時に行うことが好ましい。
【0028】
上記構成によると、レーザ照射によってホログラム未記録領域を硬化させる工程を、ホログラムの記録と時間的にずらして行う場合に比べて(別工程で設ける場合に比べて)簡便に接合光学素子を製造することができる。
【0029】
また、本発明は上記構成の接合光学素子の製造方法において、レーザ照射によって前記接着剤層の一部の領域にホログラムを記録する前に、前記接着剤層のホログラムを記録する以外の領域に対して、重合反応により2つの前記透明光学部材を接合するための重合開始光を照射することが好ましい。
【0030】
上記構成によると、ホログラム記録前に、予め2つの透明光学部材を接合し、一体化するのでズレ等の発生を防ぐことができ、作業性が容易になる。なお、重合開始光は、ホログラムを記録する際に用いるレーザ光、紫外線、または可視光等を用いることができる。
【0031】
また、本発明の接合光学素子は、上述した本発明の製造方法によって製造されてもよい。
【0032】
また、本発明は上記構成の接合光学素子において、前記ホログラムは、体積位相型の反射型のホログラムであることが好ましい。
【0033】
上記構成によると、反射型の体積位相型のホログラムは、波長選択性が高く、回折効率のピークの半値波長全幅が狭い。そのため、例えば、映像光と外界光とを同時に観察者の眼に導くコンバイナとして使用することが可能となる。また、そのようなコンバイナとしてホログラムを使用した場合、外界光の透過率が高くなり、外界像を明瞭に観察することが可能となる。
【0034】
また、上記目的を達成するために本発明は、照明光源と、前記光源からの光を変調して映像を表示する映像表示素子と、上記の接合光学素子とを備え、前記映像表示素子からの映像光を、前記接合光学素子の入射面より入射させ、内部で複数回全反射して前記接合光学素子のホログラムへ導き、前記ホログラムにて映像光を拡大反射して前記接合光学素子の射出面より外部に射出して観察者の眼に虚像として導くと同時に、前記ホログラムを透過した外界像の光を観察者の眼に導くことを特徴とする。
【0035】
上記構成によると、光源から出射される光は、映像表示装置によって変調され、映像光として出射される。この映像光は、透明光学部材の入射面から入射し、内部で複数回全反射した後、ホログラムにて反射されて射出面から射出される。これにより、観察者は、映像を拡大虚像として観察することができる。また、ホログラムを透過した外界像の光は観察者の眼に導かれるので、観察者は虚像と外界像とを同時に観察することが可能となる。このように本発明の接合光学素子を用いて装置を構成することにより、ホログラムが接眼光学系を兼ねるので、装置を小型軽量にできる。また、光源の発光波長とホログラムの回折波長とを合わせれば、明るい映像を観察者に提供できる。さらに、透明光学部材内での全反射を用いた構成なので、透明光学部材を小型軽量にできるとともに、外界像の光の透過率が高くなり、外界像を良好に観察することができる。また、隣り合う透明光学部材を接合することで、外界光が一方の透明光学部材で屈折することを防ぎ、外界像を良好に観察できる。そして、映像表示素子を視野の周辺に配置することが可能となり、広い外界視野角を確保することができる。
【0036】
また、本発明は上記構成の映像表示装置において、前記ホログラムは、前記映像表示素子にて表示された映像を拡大する正の非軸対称な光学パワーを有しており、前記表示映像を観察者の眼に虚像として導く接眼光学系の少なくとも一部を構成しているが好ましい。
【0037】
この場合、接眼光学系を小型にできるとともに、良好に収差補正された映像を観察させることができる。
【0038】
また、上記目的を達成するために本発明は、請求項15または請求項16に記載の映像表示装置と、前記映像表示装置を観察者の眼前で支持する支持部材とを備えていることを特徴としている。
【0039】
上記構成によると、映像表示装置が支持手段によって観察者の眼前で指示されるので、観察者は、ハンズフリーとなり、外界像および映像表示素子での表示映像を虚像として観察しながら、空いた手で所望の作業を行うことができる。また、観察者の観察方向が一方向に定まるので、観察者は暗環境でも表示映像を探しやすいという利点もある。
【発明の効果】
【0040】
本発明によると、隣り合う2つの透明光学部材を接合する接着剤層中にホログラムが記録されていることにより、別途ホログラムを記録する材料を設ける必要がなく、接合光学素子の部品点数を減少させることができる。また、部品点数の減少に伴い、接合光学素子の製造工程を短縮化することができる。そして、接着剤層中にホログラムが記録されるため、接着剤層の浸透や、接着剤層の硬化に伴う収縮等によるホログラム層の特性の劣化を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下に本発明の実施形態について、図面を用いながら説明する。
【0042】
(第1実施形態)
(ヘッドマウントディスプレイについて)
図2(a)は、本実施形態におけるヘッドマウントディスプレイの概略の構成を示す平面図であり、図2(b)は、ヘッドマウントディスプレイの側面図であり、図2(c)は、ヘッドマウントディスプレイの正面図である。ヘッドマウントディスプレイ1は、映像表示装置2と、それを支持する支持手段3とを有しており、全体として、一般の眼鏡から一方のレンズ(例えば左目用)のレンズを取り除いたような外観となっている。
【0043】
映像表示装置2は、観察者に外界像をシースルーで観察させるとともに、映像を表示して観察者にそれを虚像として提供するものである。図2(c)で示す映像表示装置2において、眼鏡の右目用レンズに相当する部分は、後述する接眼プリズム21および偏向プリズム22(図3参照)の張り合わせによって構成されている。なお、映像表示装置2の詳細な構成については後述する。
【0044】
支持手段3は、映像表示装置2を観察者の眼前(例えば右目の前)で支持するものであり、ブリッジ4と、フレーム5と、テンプル6と、鼻当て7と、ケーブル8とを有している。なお、フレーム5、テンプル6および鼻当て7は、左右一体に設けられているが、これらを左右で区別する場合は、右フレーム5R、左フレーム5L、右テンプル6R、左テンプル6L、右鼻当て7R、左鼻当て7Lのように表現するものとする。
【0045】
映像表示装置2の一端は、ブリッジ4に支持されている。このブリッジ4は、映像表示装置2のほかにも左フレーム5Lおよび鼻当て7を支持している。左フレーム5Lは、左テンプル6Lを回動可能に支持している。一方、映像表示装置2の他端は、右フレーム5Rに支持されている。右フレーム5Rにおいて、映像表示装置2の支持側と反対に位置する側端部は、右テンプル6Rを回動可能に支持している。ケーブル8は、外部信号(例えば映像信号、制御信号)や電力を映像表示装置2に供給するための配線であり、右フレーム5Rおよび右テンプル6Rに沿って設けられている。
【0046】
観察者がヘッドマウントディスプレイ1を使用するときは、右テンプル6Rおよび左テンプル6Lを観察者の右側頭部および左側頭部に接触させるとともに、鼻当て7を観察者の鼻に当て、一般の眼鏡をかけるようにヘッドマウントディスプレイ1を観察者の頭部に装着する。この状態で、映像表示装置2にて映像を表示すると、観察者は、映像表示装置2の映像を虚像として観察することができるとともに、この映像表示装置2を介して外界像をシースルーで観察することができる。
【0047】
上記構成のヘッドマウントディスプレイ1においては、映像表示装置2が支持手段3によって観察者の眼前で指示されるので、観察者は、ハンズフリーとなり、外界像および映像表示素子での表示映像を虚像として観察しながら、空いた手で所望の作業を行うことができる。また、観察者の観察方向が一方向に定まるので、観察者は暗環境でも表示映像を探しやすいという利点もある。
【0048】
なお、図2(a)(b)(c)で示したヘッドマウントディスプレイ1は、映像表示装置2を1個だけ備えた構成であるが、左右の両眼に対応して映像表示装置2を2個備えた構成であっても勿論かまわない。
(映像表示装置について)
次に、上述した映像表示装置の詳細について説明する。
【0049】
図3は、映像表示装置の概略の構成を示す断面図である。映像表示装置2aは、光源(照明光源)11と、映像表示素子12と、接合光学素子(接眼光学系)20とで構成されている。映像表示素子12は、一方向拡散板13と、集光レンズ14と、LCD15とを有している。
【0050】
光源11は、中心波長が例えば465nm、520nm、635nmとなる3つの波長帯域の光を発するRGB一体型のLEDで構成されている。一方向拡散板13は、光源11からの照明光を拡散させるものであるが、その拡散度は方向によって異なっている。より詳細には、一方向拡散板13は、ヘッドマウントディスプレイを観察者が装着したときの左右方向に対応する方向(図3の紙面に垂直な方向)には、入射光を約40°拡散させ、ヘッドマウントディスプレイを観察者が装着したときの上下方向(図3の紙面に平行な方向)には、入射光を約0.2°拡散させる。集光レンズ14は、一方向拡散板13にて拡散された光を集光するものである。集光レンズ14は、上記拡散光が効率よく光学瞳Eを形成するように配置されている。
【0051】
LCD15は、映像信号に基づいて光源11からの光を変調することにより、映像を表示する光変調素子である。なお、本実施形態では、LCD15は、透過型であるが、反射型で構成されていてもよい。この場合、光源11などのほかの光学素子の配置位置を工夫する必要がある。また、LCD15以外の光変調素子(例えば、DMD(Digital Micromirror Device;米国テキサスインスツルメント社製))を用いてもよい。
【0052】
一方、接合光学素子20は、接眼プリズム21と、偏向プリズム22と、接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合する接着剤層23とから構成されている。また接眼プリズム21と偏向プリズム22とは、その接合部で連続した面形状が形成されるように接合されている。
【0053】
接眼プリズム21および偏向プリズム22は、例えば、アクリル系樹脂(後述する)で構成されている。接眼プリズム21は、平行平板の下端部を楔状にし、その上端部を厚くした形状で構成されており、面21a、21b、21cを有している。面21aは、映像表示素子12からの映像光が入射する入射面であり、面21b、21cは互いに対向する面である。このうち、面21bは、全反射面兼射出面となっている。
【0054】
偏向プリズム22は、平行平板の上端部を接眼プリズム21の下端部に沿った形状とすることによって、接眼プリズム21と一体となって略平行平板となるように構成されている。接眼プリズム21に偏向プリズム22を接合させない場合、外界像の光が接眼プリズム21の楔状の下端部を透過するときに屈折するので、接眼プリズム21を介して観察される外界像に歪みが生じる。しかし、接眼プリズム21に偏向プリズム22を接合させて一体的な略平行平板を形成することで、外界像の光が接眼プリズム21の楔状の下端部を透過するときの屈折を偏向プリズム22でキャンセルすることができる。その結果、シースルーで観察される外界像に歪みが生じるのを防止することができる。
【0055】
接着剤層23は、接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合するとともに、特定の入射角で入射する例えば、465nm±10nm、520nm±10nm、635nm±10nmの3つの波長帯域の光を回折させる体積位相型のホログラム24(図1(b)参照)を記録している。なお、この構成については後述する。
【0056】
このような映像表示装置2aの構成により光源11から出射された光は、一方向拡散板13にて拡散され、集光レンズ14にて集光されてLCD15へ入射する。LCD15に入射した光は、映像信号に基づいて変調され、映像光として出射される。このとき、LCD15には、その映像自体が表示される。
【0057】
LCD15からの映像光は、接合光学素子20の接眼プリズム21の上端部(面21a)から接眼プリズム21の内部に入射し、対向する2つの面21b、21cで複数回全反射されて、接着剤層23に入射する。接着剤層23に入射した光は、そこで反射されて面21bを介して射出され、光学瞳Eに達する。光学瞳Eの位置では、観察者は、LCD15に表示された映像の拡大虚像を観察することができる。光学瞳Eから虚像までの距離は数m程度であり、また、虚像の大きさはLCD15に表示された映像の10倍以上である。
【0058】
一方、接眼プリズム21、偏向プリズム22および接着剤層23は、外界からの光をほとんど全て透過させるので、観察者は外界像を観察することができる。したがって、LCD15に表示された映像の虚像は、外界像の一部に重なって観察されることになる。
【0059】
以上のように、映像表示装置2aでは、LCD15から出射される映像光を接眼プリズム21内での全反射によって光学瞳Eに導く構成としたので、通常の眼鏡レンズと同様に接眼プリズム21および偏向プリズム22の厚さを3mm程度にすることができ、接合光学素子20ひいては映像表示装置2aを小型化、軽量化することができる。また、外界像の光の透過率が高くなり、外界像を良好に観察することができる。さらに映像表示素子12を観察者の眼の直前から大きく離れた位置に配置することができ、観察者の外界に対する視野を広く確保することができる。また、接着剤層23中にホログラム24を記録しているので、光源11の回折波長とホログラム24の回折波長とを合わせれば、明るい映像を観察者に提供することができる。
【0060】
また、接着剤層23中に記録されたホログラム24は、上述したように特定入射角の特定波長の光のみを回折させる体積位相型の反射型のホログラムで構成されているので、LCD15からの映像光が接眼プリズム21、偏向プリズム22および接着剤層23を透過する外界像の光に影響を与えることがない。つまり、体積位相型の反射型のホログラムは、波長選択性・角度選択性がともに高いことから、ある限られた波長域の光に対してのみ回折反射作用を及ぼすので、特定波長域の反射光とそれ以外の波長の透過光とを合成するコンバイナとして機能させることができる。それゆえ、観察者は、ホログラム24を介してLCD15の表示映像の虚像を観察しながら、接眼プリズム21、偏向プリズム22および接着剤層23を介して外界像を通常通り、かつ明瞭に観察することができる。
【0061】
また、接着剤層23に記録されるホログラム24は、LCD15にて表示された映像を拡大する正の非軸対称な光学パワーを有しており、上記表示映像を観察者の眼に虚像として導く接合光学素子20の少なくとも一部を構成しているので、接合光学素子20を小型にできるとともに、良好に収差補正された映像を観察者に提供することができる。
【0062】
なお、ホログラム24が接眼プリズム21と偏向プリズム22との接合部における接着剤層23中に記録されていることで、ホログラム24が外部環境に影響を受けることを防ぐことができ、安定した性能を保つことができる。
【0063】
(接合光学素子について)
次に、上述した接合光学素子の詳細について説明する。
【0064】
接合光学素子20は、複数の透明光学部材としての接眼プリズム21および偏向プリズム22と、接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合するとともに、ホログラム24を記録する接着剤層23とから構成されている。図4(a)に接眼プリズムの平面図を示し、図4(b)に接眼プリズムの側面図を示す。また、図5(a)に偏向プリズムの平面図を示し、図5(b)に偏向プリズムの側面図を示す。図6は、本発明の接合光学素子の平面図である。
【0065】
接眼プリズム21は、全体として略4角錐台の形状をしており、その上面および下面は、4つの側面で連結されている。この4つの側面は、図4(a)において、上面を中心として反時計回りに配置される面21d、21e、21f、21gで構成されている。これらの面21d、21e、21f、21gはそれぞれ法線方向が異なっている。また、面21dには、上記上面よりも上方に突出する突出部が形成されている。
【0066】
偏向プリズム22は、図5(a)に示すように、接眼プリズム21が接合することで平行平板が形成されるような形状となっている。つまり、偏向プリズム22は、平行平板から接眼プリズム21の形状をくりぬいた形状を有している。ここで、偏向プリズム22において、接眼プリズム21と接合したときに、接眼プリズム21の面21e、21f、21gと対向する面をそれぞれ面22a、22b、22cとする。これらの面22a、22b、22cの法線方向も互いに異なっている。
【0067】
接着剤層23は、接眼プリズム21の面21e、21f、21gと偏向プリズム22の面22a、22b、22cとの間に配置して接眼プリズム21と偏向プリズム22とを上記3面で接合する。接着剤層23は、図6に示すように、接眼プリズム21の面21e、21f、21gと、偏向プリズム22の面22a、22b、22cとを接合する接着剤層23a、23b、23cを有している。そして、図4(b)または図5(b)に示す、接眼プリズム21の面21fと、偏向プリズム22の面22bとを接合する接着剤層23bにおいては、面同士を接合すると同時にホログラム24(図6参照)を記録する。そこで、接着剤層による接合の原理とホログラムを記録する原理とについて以下に示す。
【0068】
接着剤層23は、高分子化合物で構成されて低分子を維持する働きを有するベースポリマー(マトリックスポリマー)の中に、重合開始剤、重合性モノマー、および増感色素を含んで構成されている。そのため、光を照射することによって重合開始剤に光のエネルギが吸収されることにより、重合反応が開始されて、重合性モノマーよって連続的に重合反応が行われる。そして、接着剤層23は、重合反応に伴う硬化によって接着剤として機能することができる。
【0069】
一方、ホログラム24は、2光束を干渉させることによって生じる干渉縞の明部と暗部との屈折率差により、記録されるものである。そのため、接着剤層23bの一部の領域に、可干渉性の2光束を照射すると、干渉縞の明部に位置する増感色素が光束のエネルギを吸収して重合開始剤にエネルギを与えることで重合反応が開始する。重合反応が開始されると、重合性モノマーが干渉縞の暗部から干渉縞の明部へと拡散して連続的に重合が行われる。そして、最終的には、主に重合性モノマーとベースポリマーとで構成される干渉縞の明部と、主にベースポリマーで構成される干渉縞の暗部とが形成される。ここで、ホログラム24記録時に照射するレーザ光を吸収する波長特性を有する増感色素を加えることで、干渉縞の濃淡に対応して重合性モノマーを硬化することができる。そして、干渉縞の明部と干渉縞の暗部とでは、その屈折率差が大きくなるため、ホログラム24を記録することができる。なお、さらに可塑剤を添加すると、重合性モノマーの拡散がより容易になり、大きな屈折率差を持たせることが容易になる。
【0070】
このように、ホログラム24を記録する際の重合反応に伴う硬化によって接眼プリズム21の面21fと、偏向プリズム22の面22bとを接合することができるため、接着剤層23bでは、ホログラム24の記録と、接眼プリズム21と偏向プリズム22との接合とを同時に行うことができる。
【0071】
また、高い回折効率を有するホログラム24を記録するために、重合性モノマーとしては、重合性・屈折率・硬化特性等を考慮して、複数種類を同時に用いるとよい。その中で、重合性モノマーの1つとしてN−ビニルカルバゾールを用いるのが非常によい。N−ビニルカルバゾールは、代表的な高屈折の重合性モノマーであり、明部と暗部の屈折率差を大きくするのに有効に働く。
【0072】
また、増感色素は、1種類以上の色素から構成され、赤(R)、緑(G)、青(B)の波長域の光を吸収する。レーザ光を吸収する増感色素として、RGB3色の波長域の光を吸収する色素を含むことで、RGB3波長のレーザ光を用いて、カラーで再生できるホログラム24を記録することが可能となる。増感色素は、RGBの波長域の光を吸収する1種類の色素を用いてもよいし、例えば、Rの波長域の光を吸収する色素と、GおよびBの波長域の光を吸収する色素との2種類の色素を用いてもよい。また、あるいはRGBのそれぞれの波長域の光を吸収する3種類の色素を用いてもよい。
【0073】
なお、後述するが、増感色素はホログラム記録後において、さらに不要な干渉縞が記録されないように、ホログラム定着工程により分解されることが望ましく、光あるいは熱により分解される性質を有することが望ましい。このような色素の一例として、Rの波長域の光を吸収する色素としては、シアニン系色素やスクワリリウム色素が挙げられ、Gの波長域の光やBの波長域の光を吸収する色素としては、クマリン系色素が挙げられる。
【0074】
上述した構成により記録されたホログラム24は、干渉縞の明部をn1、干渉縞の暗部をn2とすると、
0.01≦|n1−n2|≦0.05…(1)
の条件式を満たす。
また、記録されたホログラム24を有する接着剤層23の厚さをt(μm)とすると、接着剤層23の厚さは、
10≦t≦300…(2)
の条件式を満たす。
【0075】
ホログラム24の特性は、屈折率差や膜厚のパラメータに依存する。ホログラムは、屈折率差が大きいほど、回折効率が上がる。また、膜厚が厚いほど、回折効率が上がる。しかしながら、必要以上に膜厚が厚くなると、回折効率の半値波長全幅が狭くなってしまうので、光学瞳に入射する光量が減少して輝度が暗くなってしまう。一方、輝度を明るくするために半値波長全幅を広くすると、多くの波長域の光を回折してしまうために、ホログラム24の波長選択性が悪くなり、ホログラムを24透過して観察される外界光が暗くなってしまう。そこで、上述した条件式(1)、(2)を満たすようにホログラム24を構成することで、接着剤層23中に記録したホログラム24が、ホログラム24として使用可能な回折効率の半値波長全幅や回折効率を有することができる。なお、特にホログラム24の屈折率差は0.02≦|n1−n2|≦0.05程度、接着剤層23の厚さtは、20μm≦t≦100μmが好ましい。
【0076】
透明光学部材である接眼プリズム21と偏向プリズム22とは、例えば、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、MMA(メタクリル酸メチル)等のアクリル系樹脂、もしくは、ZEONEX(登録商標)、アペル(登録商標)等のシクロオレフィン系樹脂を用いて構成されている。これらの有機材料は、透明性が高く、低複屈折率であるので、透明光学部材を構成した際に、良好な光学特性(例えば透過特性)を得ることができる。また、接着剤層23は、アクリル系樹脂、もしくは、シクロオレフィン系樹脂を用いて構成されており、例えば、接着剤層23を構成するアクリル系重合性モノマーとしては、アクリレート誘導体(2−フェノキシエチルアクリレート、酢酸ビニル等)があり、マトリックスポリマーとしては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびその共重合体、ポリビニルアセテート等がある。このように、接眼プリズム21と偏向プリズム22と接着剤層23とを同じアクリル系材料、もしくは、シクロオレフィン系材料という同系列の有機材料で構成することにより、密着性が高まり、高い接合力を得ることができる。なお、これらの効果は、接眼プリズム21と、偏向プリズム22と、接着剤層23とにおいて主成分(例えば70重量%以上の成分)がアクリル系材料もしくはシクロオレフィン系材料であれば、確実に得ることができる。
【0077】
なお、シクロオレフィン系材料は、アクリル系材料の耐熱性を向上した材料であり、その性質が非常に似ているため、例えば、透明光学部材にシクロオレフィン系材料を用いて、接着剤層23にアクリル系材料を用いた場合であっても、上述したような効果を得ることができる。
【0078】
上記した構成によって、接着剤層23は、接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合すると同時に、接着剤層23の一部にホログラム24を記録することができる。そのため、従来のように、ホログラム記録材料と接着材料との2種類の材料を用いずに接合光学素子20を構成することができるので、接合光学素子20の部品点数を減少させることができる。そして、部品点数を減少させることができるので、接合光学素子20の製造工程を短縮することができる。また、ホログラム24と接着剤層23は同一材料で構成しているため、接着剤層23の浸透や収縮によるホログラム24の劣化を防ぐことができる。
【0079】
(接合光学素子の製造方法について)
次に、上述した接合光学素子の製造方法の詳細について説明する。図1(a)〜(c)は、本発明の接合光学素子の製造方法を示す断面図である。なお、説明のため、以下に示す製造方法の断面図は、ホログラムを記録すると同時に接合を行う接着剤層23bの断面図を示すものとする。図1(a)で示される第1の製造工程において、接眼プリズム21と偏向プリズム22とが接着剤層23bを介して配置されている。
【0080】
次に、図1(b)で示すように、第1の製造工程の後、接着剤層23bの一部の領域に可干渉性の2光束のレーザ光を照射する第2の製造工程を行う。本実施形態においては、接着剤層23bに、体積位相型の反射型のホログラムを記録するために、2光束のレーザ光を、接眼プリズム21側と偏向プリズム22側とから照射する。この際、偏向プリズム22側から照射される光は、マッチングオイルで偏向プリズム22に密着される光導入プリズム25を用いることで、偏向プリズム22で全反射されることなく、接着剤層23bに照射される。このような2光束の照射により、接着剤層23bの一部の領域において干渉縞を作製して、上述したホログラム記録の原理に従ってホログラム24を記録すると同時に重合反応による硬化によって、接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合する。この接着剤層23bのホログラム24が記録される領域をホログラム記録領域28とする。
【0081】
このとき、RGBの波長帯域の光を照射するレーザ光源を用いて接着剤層23bを露光することで、RGBの3色に対応して機能するホログラム24とすることができる。すなわち、RGBの光を回折反射するホログラム24を記録することができる。そして、第2の製造工程の後、図1(c)で示すように、ホログラム記録領域28を含む接着剤層23に紫外線を照射する第3の製造工程を行う。
【0082】
以上のように、本発明の接合光学素子の製造方法においては、接着剤層23に可干渉性の2光束のレーザ光を照射することにより、ホログラム24の記録と同時に、ホログラム24を記録する際の接着剤層23の重合反応による硬化によって、接眼プリズム21と偏向プリズム22との接合を行う。そのため、従来の製造方法において別工程として行われていたホログラムを記録する工程と、2つの透明光学部材を接合する工程とを、本発明の製造方法では1工程の中で行うことができる。これにより、製造工程の短縮化を図ることができる。また、接着剤層23にホログラム24を記録するので、別途ホログラム材料が不要となり、少ない部品点数で製造することができる。そして、接合工程とホログラム記録工程を同時に行うために、ホログラム24の劣化が生じることを抑えることができる。
【0083】
また、第2の製造工程の後、接着剤層23には、ホログラム記録のためのレーザ光の照射によって重合反応が起こり、接眼プリズム21と偏向プリズム22との接合が行われているホログラム記録領域28と、未重合のまま、接眼プリズム21と偏向プリズム22との接合が行われていないホログラム未記録領域29とが混在している。なお、ホログラム未記録領域29は、接着剤層23a、23cにおけるホログラム未記録領域29も含む。また、接着剤層23中に含まれる増感色素は、ホログラム24を記録後も光束を吸収してしまい、さらに重合反応を起こして接着剤層23を収縮させてしまう等の不都合を起こす。そこで、第3の工程において、紫外線を接着剤層23の全面に照射し、増感色素を分解することにより、接着剤層23を定着させて安定した構成を有するとともに、増感色素の吸収のない透明性の高い接合光学素子20を製造することができる。また、増感色素の分解と同時に、ホログラム未記録領域29のモノマーを重合硬化させることにより、ホログラム未記録領域29を光照射によって硬化させる工程を別工程として設ける必要がなく、簡便に接合光学素子20を製造することができる。
【0084】
また、本発明の接合光学素子20の製造方法では、上述した接合光学素子20の製造方法に加えて、ホログラム未記録領域29に1光束の光、あるいは、2光束のインコヒーレントな光を照射することで接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合することもできる。これにより、ホログラム未記録領域29には干渉縞が生成されないために、ホログラム24の記録が行われない。そのため、ホログラム記録領域28以外の領域に不要な干渉縞が生成されることによるゴーストの発生を抑えることができる。また、ホログラム未記録領域29には、干渉縞が生成されないことで、接着剤層23の微小領域において大きな屈折率差が生じないので接着剤層23を均一に硬化することができる。
【0085】
この際、本発明の接合光学素子の製造方法に加えて、以下の2パターンの工程のいずれかを付加することにより、上述したホログラム未記録領域29への露光を実現できる。
【0086】
(付加工程1)
接合光学素子20を製造する第2の工程の前に、上述したホログラム未記録領域29への光の照射を行うことを付加工程1とする。図7(a)は、本発明における接合光学素子の付加工程1を示す断面図である。図7(b)は、本発明における接合光学素子の付加工程1の別工程を示す断面図である。なお、以下に示す製造方法の断面図は、ホログラムを記録すると同時に接合を行う接着剤層23bの断面図を示すものとし、上述した接合光学素子の製造方法と同一の部分については説明を省略する。
【0087】
図7(a)で示すように、重合反応により接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合するための重合開始光の光源を、接着剤層23を挟むように2つ配置する。そして、ホログラム記録領域28に重合開始光が照射されないように遮光板26a、26bを配置する。この状態で重合開始光を照射すると、2つの光源から照射される重合開始光によって、ホログラム未記録領域29に重合反応による硬化が起こる。ここで、重合開始光がレーザ光のようなコヒーレントな光の場合、さらに波長板27aを追加配置することにより、互いの偏光方向が直交するようにしてホログラム未記録領域29へ照射される。2つの光源から出射される重合開始光は、ホログラム未記録領域29へ照射されても干渉縞を生成しないで接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合することができる。
【0088】
あるいは、図7(b)で示すように、一方の光源を配置して、重合開始光を照射することでホログラム未記録領域29に干渉をおこさせずに、重合反応による硬化により、接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合することができる。この場合も、ホログラム記録領域28に重合開始光が照射されないように、遮光板26bを配置する。
【0089】
なお、重合開始光は重合を開始させる光であればよく、例えば、ホログラム24を記録する際に用いるレーザ光、紫外線、または可視光等を用いることができる。また、波長板27も重合開始光の偏光方向を互いに直交する方向にかえるものであればよく、1/2波長板や1/4波長板を用いることができる。
【0090】
付加工程1においては、ホログラム24を記録する前にホログラム未記録領域29を重合硬化させて接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合して一体化することで、接着剤層23のズレの発生を防ぐことができる。そのため、ホログラム24を記録する際の作業性を容易にすることができる。
【0091】
(付加工程2)
接合光学素子20を製造する第2の工程と同時に、上述したホログラム未記録領域29への光の照射を行うことを付加工程2とする。図8(a)は、本発明における接合光学素子の付加工程2を示す断面図である。図8(b)は、本発明における接合光学素子の付加工程2の別工程を示す断面図である。
【0092】
図8(a)に示すように、一方の光源から出射される可干渉性のレーザ光が照射されるホログラム未記録領域29に対応して波長板27b、27cを配置する。そして、第2の工程と同様に、ホログラム記録領域28に可干渉性の2光束のレーザ光を照射する。すると、ホログラム未記録領域29においては、波長板27b、27cが配置されているのでレーザ光の偏光方向が他方に対して直交する方向に変えられた光が照射されるので、干渉縞を生成せずに重合反応による硬化により接眼プリズム21と偏向プリズム22とを接合することができる。
【0093】
あるいは、図8(b)に示すように、ホログラム記録領域28に照射する可干渉性の2光束のレーザ光を照射する際に、一方の光源から出射されるレーザ光が照射されるホログラム未記録領域29に対応して遮光板26c、26dを配置する。これにより、ホログラム未記録領域29には、1光束のレーザ光しか照射されないので干渉縞が作製されずに重合硬化により、接眼プリズム21と偏向プリズム22とが接合することができる。
【0094】
このように、ホログラム未記録領域29にレーザ光を照射する別工程を設ける場合に比べて簡便に接合光学素子20を製造することができる。
【0095】
(第2実施形態)
図9は、映像表示装置の他の構成例を示した断面図である。この映像表示装置2bは、接合光学素子30の構成以外は、図3に示す映像表示装置2aと同様の構成を有する。
【0096】
本実施形態の映像表示装置2bは、光変調素子からなるLCD34と接合光学素子30とを有している。LCD34は、第1実施形態の映像表示装置2aにおけるLCD15と同様の構成を有する。接合光学素子30は、接眼プリズム31および偏向プリズム32を構成する面が、非球面や自由曲面等の曲面形状を有している。そして、接眼プリズム31と偏向プリズム32とを接合する接着剤層33は、上述したホログラム24を記録する接着剤層23により構成されている。
【0097】
これにより、接眼プリズム31と偏向プリズム32の面を曲面形状で構成することによって、接合光学素子30に任意の光学的パワーをもたせることができる。したがって、このような構成によってもLCD34の表示映像を良好に収差補正された虚像として観察者に拡大観察させることができるとともに、接眼プリズム31、偏向プリズム32および接着剤層23を介して外界像を良好に観察することが可能である。また、接合光学素子30に矯正眼鏡レンズとしての機能を持たせることも可能となる。
【0098】
(第3実施形態)
図10は、映像表示装置のさらに他の構成例を示した断面図である。この映像表示装置2cは、図示しない光源および導光板と、LCD40と、接眼レンズ41と、接合光学素子42とで構成されている。接眼レンズ41は、LCD40から出射される映像光を平行光にして接合光学素子42に導く光学系を構成している。
【0099】
接合光学素子42は、複数の透明光学部材であるプリズム43〜47が反射ミラー48および接着剤層54〜56を介してそれぞれ接合されたものであり、板状の平行平板を構成している。反射ミラー48は、接眼レンズ41から入射してくる入射光を全反射させるミラーである。プリズム44とプリズム45との間、プリズム45とプリズム46との間、プリズム46とプリズム47との間には、透過光量と反射光量とが所定の比率となるように入射光を分離するホログラム51〜53がそれぞれ接着剤層54〜56に記録されている。
【0100】
上述したプリズム43〜47、接着剤層54〜56は、前述した接眼プリズム21や偏向プリズム22、接着剤層23と同じ材料で構成されている。
【0101】
図10の映像表示装置の構成2cでは、光源からの光が導光板に入射し、面光源としてLCD40を照明する。LCD40からの映像光は、接眼レンズ41にて平行光となり、接合光学素子42に入射する。接合光学素子42に入射した光は、反射ミラー48にて反射され、プリズム44内を導光されてホログラム51が記録されている接着剤層54に入射する。接着剤層54に入射した光は、一部はそこを透過し、残りは反射されて外部(第1の光学瞳E1)に導かれる。接着剤層54を透過した光は、プリズム45内を導光されてホログラム52が記録された接着剤層55に入射し、一部はそこを透過し、残りは反射されて外部(第2の光学瞳E2)に導かれる。接着剤層55を透過した光は、プリズム46内を導光されてホログラム53が記録された接着剤層56へ入射し、そこで一部または全部が反射されて外部(第3の光学瞳E3)に導かれる。これにより、観察者は、各ホログラム51〜53を記録する接着剤層54〜56に対応する光学瞳E1〜E3のいずれの位置でも、映像を観察することが可能となる。
【0102】
そして、本発明の映像表示装置2cは、接着剤層54〜56にホログラム51〜53を記録することにより、接合光学素子42の部品点数を減少することができ、ひいては映像表示装置2cを製造する際の工程を短縮することができる。
【0103】
なお、各プリズム43〜47内で導光される光は、上述のように各プリズム43〜47の対向する2面で全反射されずに導光されてもよいし、図3のように対向する2面で全反射されて導光されてもよい。また、映像表示装置2cは、上述した構成に限られず、さらに複数のプリズムや複数のホログラムを記録する接着剤層で構成されてもかまわない。
【0104】
また、ホログラムを記録する接着剤層の数が複数ある場合、LCD40に光学的に近い側にある接着剤層(図10においては接着剤層54)に記録されるホログラム(図10においてはホログラム51)ほど反射率(回折効率)が低くなるように設定すれば、それぞれのホログラムで反射される映像光の明るさを互いに近づけて、輝度ムラの少ない良好な映像を観察者に観察させることが可能となる。また、複数のホログラムで映像光を反射する構成とすることにより、接合光学素子42を薄型化することに加えて、光学瞳の形成範囲を全体として広げることも可能となる。これにより、観察者の瞳の位置がずれた場合でも、対応する光学瞳の位置にて良好な映像を観察者に観察させることが可能となる。
【0105】
なお、上述した各構成や手法を適宜組み合わせて接合光学素子や映像表示装置ひいてはヘッドマウントディスプレイを構成することも勿論可能である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の接合光学素子は、例えばヘッドマウントディスプレイを構成する映像表示装置の接眼光学系に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の接合光学素子の製造方法の製造工程を示す断面図である。
【図2】(a)は、本発明のヘッドマウントディスプレイを示す平面図である。(b)は、本発明のヘッドマウントディスプレイを示す側面図である。(c)は、本発明のヘッドマウントディスプレイを示す正面図である。
【図3】本発明の映像表示装置を示す断面図である。
【図4】(a)は、本発明の接合光学素子の接眼プリズムを示す平面図である。(b)は、本発明の接合光学素子の接眼プリズムを示す側面図である。
【図5】(a)は、本発明の接合光学素子の偏向プリズムを示す平面図である。(b)は、本発明の接合光学素子の偏向プリズムを示す側面図である。
【図6】本発明の接合光学素子を示す平面図である。
【図7】(a)は、本発明の接合光学素子の付加工程1を示す断面図である。(b)は、本発明の接合光学素子の付加工程1の別工程を示す断面図である。
【図8】(a)は、本発明の接合光学素子の付加工程2を示す断面図である。(b)は、本発明の接合光学素子の付加工程2の別工程を示す断面図である。
【図9】本発明の映像表示装置の他の構成例を表した断面図である。
【図10】本発明の映像表示装置のさらに他の構成例を表した断面図である。
【図11】(a)〜(e)は、従来の接合光学素子の製造方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0108】
1 ヘッドマウントディスプレイ
2 映像表示装置
3 支持部材
11 光源(照明光源)
12 映像表示素子
15、34、40 LCD
20、30、42 接合光学素子(接眼光学系)
21、31 接眼プリズム(透明光学部材)
22、32 偏向プリズム(透明光学部材)
23、33、54〜56 接着剤層
24、51〜53 ホログラム
28 ホログラム記録領域
29 ホログラム未記録領域
43〜47 プリズム(透明光学部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の透明光学部材と、
隣り合う2つの前記透明光学部材を接合する接着剤層とを備え、
前記接着剤層中に、ホログラムが記録されていることを特徴とする接合光学素子。
【請求項2】
前記接着剤層は、重合開始剤と、重合性モノマーと、ベースポリマーと、増感色素とを含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の接合光学素子。
【請求項3】
前記重合性モノマーは、N−ビニルカルバゾールを含むことを特徴とする請求項2に記載の接合光学素子。
【請求項4】
前記増感色素は、1種類以上の色素から構成されて、赤、緑、青の波長域の光を吸収することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の接合光学素子。
【請求項5】
隣り合う2つの前記透明光学部材と、前記透明光学部材を接合する前記接着剤層とは、アクリル系あるいはシクロオレフィン系からなる材料を用いて構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の接合光学素子。
【請求項6】
前記ホログラムの、
干渉縞の明部の屈折率をn1とし、干渉縞の暗部の屈折率をn2とすると、
0.01≦|n1−n2|≦0.05…(1)
を満たすことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の接合光学素子。
【請求項7】
前記接着剤層は、層厚をtμmとすると、
10≦t≦300…(2)
を満たすことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の接合光学素子。
【請求項8】
2つの透明光学部材の間に未硬化の接着剤層を配置する第1の工程と、
前記接着剤層に可干渉性の2光束のレーザ光を照射して、前記接着剤層の一部の領域に干渉縞をホログラムとして記録すると同時に、ホログラムの記録時の重合反応による前記接着剤層の硬化により、2つの前記透明光学部材を接合する第2の工程とを含むことを特徴とする接合光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2の工程の後に、
前記接着剤層の全面に紫外線を照射することにより、前記接着剤層に含まれる増感色素を分解すると同時に、ホログラム未記録領域のモノマーを重合硬化させて、2つの前記透明光学部材を接合する第3の工程を含むことを特徴とする請求項8に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記接着剤層のホログラム未記録領域には、1光束のレーザ光、あるいは、2光束のインコヒーレントなレーザ光を照射して、重合反応により2つの前記透明光学部材を接合することを特徴とする請求項8に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項11】
前記接着剤層のホログラム未記録領域へのレーザの照射は、レーザ照射によるホログラムの記録と同時に行うことを特徴とする請求項10に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項12】
レーザ照射によって前記接着剤層の一部の領域にホログラムを記録する前に、
前記接着剤層のホログラムを記録する領域以外の領域に対して、重合反応により2つの前記透明光学部材を接合するための重合開始光を照射することを特徴とする請求項8に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項13】
請求項8〜請求項12のいずれかに記載の製造方法によって製造されることを特徴とする接合光学素子。
【請求項14】
前記ホログラムは、体積位相型の反射型のホログラムであることを特徴とする請求項1〜請求項7、請求項13のいずれかに記載の接合光学素子。
【請求項15】
照明光源と、
前記光源からの光を変調して映像を表示する映像表示素子と、
請求項14に記載の接合光学素子とを備え、
前記映像表示素子からの映像光を、前記接合光学素子の入射面より入射させ、内部で複数回全反射して前記接合光学素子のホログラムへ導き、前記ホログラムにて映像光を拡大反射して前記接合光学素子の射出面より外部に射出して観察者の眼に虚像として導くと同時に、前記ホログラムを透過した外界像の光を観察者の眼に導くことを特徴とする映像表示装置。
【請求項16】
前記ホログラムは、前記映像表示素子にて表示された映像を拡大する正の非軸対称な光学パワーを有しており、前記表示映像を観察者の眼に虚像として導く接眼光学系の少なくとも一部を構成していることを特徴とする請求項15に記載の映像表示装置。
【請求項17】
請求項15または請求項16に記載の映像表示装置と、
前記映像表示装置を観察者の眼前で支持する支持部材とを備えていることを特徴とするヘッドマウントディスプレイ。
【請求項1】
複数の透明光学部材と、
隣り合う2つの前記透明光学部材を接合する接着剤層とを備え、
前記接着剤層中に、ホログラムが記録されていることを特徴とする接合光学素子。
【請求項2】
前記接着剤層は、重合開始剤と、重合性モノマーと、ベースポリマーと、増感色素とを含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の接合光学素子。
【請求項3】
前記重合性モノマーは、N−ビニルカルバゾールを含むことを特徴とする請求項2に記載の接合光学素子。
【請求項4】
前記増感色素は、1種類以上の色素から構成されて、赤、緑、青の波長域の光を吸収することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の接合光学素子。
【請求項5】
隣り合う2つの前記透明光学部材と、前記透明光学部材を接合する前記接着剤層とは、アクリル系あるいはシクロオレフィン系からなる材料を用いて構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の接合光学素子。
【請求項6】
前記ホログラムの、
干渉縞の明部の屈折率をn1とし、干渉縞の暗部の屈折率をn2とすると、
0.01≦|n1−n2|≦0.05…(1)
を満たすことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の接合光学素子。
【請求項7】
前記接着剤層は、層厚をtμmとすると、
10≦t≦300…(2)
を満たすことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の接合光学素子。
【請求項8】
2つの透明光学部材の間に未硬化の接着剤層を配置する第1の工程と、
前記接着剤層に可干渉性の2光束のレーザ光を照射して、前記接着剤層の一部の領域に干渉縞をホログラムとして記録すると同時に、ホログラムの記録時の重合反応による前記接着剤層の硬化により、2つの前記透明光学部材を接合する第2の工程とを含むことを特徴とする接合光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2の工程の後に、
前記接着剤層の全面に紫外線を照射することにより、前記接着剤層に含まれる増感色素を分解すると同時に、ホログラム未記録領域のモノマーを重合硬化させて、2つの前記透明光学部材を接合する第3の工程を含むことを特徴とする請求項8に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記接着剤層のホログラム未記録領域には、1光束のレーザ光、あるいは、2光束のインコヒーレントなレーザ光を照射して、重合反応により2つの前記透明光学部材を接合することを特徴とする請求項8に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項11】
前記接着剤層のホログラム未記録領域へのレーザの照射は、レーザ照射によるホログラムの記録と同時に行うことを特徴とする請求項10に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項12】
レーザ照射によって前記接着剤層の一部の領域にホログラムを記録する前に、
前記接着剤層のホログラムを記録する領域以外の領域に対して、重合反応により2つの前記透明光学部材を接合するための重合開始光を照射することを特徴とする請求項8に記載の接合光学素子の製造方法。
【請求項13】
請求項8〜請求項12のいずれかに記載の製造方法によって製造されることを特徴とする接合光学素子。
【請求項14】
前記ホログラムは、体積位相型の反射型のホログラムであることを特徴とする請求項1〜請求項7、請求項13のいずれかに記載の接合光学素子。
【請求項15】
照明光源と、
前記光源からの光を変調して映像を表示する映像表示素子と、
請求項14に記載の接合光学素子とを備え、
前記映像表示素子からの映像光を、前記接合光学素子の入射面より入射させ、内部で複数回全反射して前記接合光学素子のホログラムへ導き、前記ホログラムにて映像光を拡大反射して前記接合光学素子の射出面より外部に射出して観察者の眼に虚像として導くと同時に、前記ホログラムを透過した外界像の光を観察者の眼に導くことを特徴とする映像表示装置。
【請求項16】
前記ホログラムは、前記映像表示素子にて表示された映像を拡大する正の非軸対称な光学パワーを有しており、前記表示映像を観察者の眼に虚像として導く接眼光学系の少なくとも一部を構成していることを特徴とする請求項15に記載の映像表示装置。
【請求項17】
請求項15または請求項16に記載の映像表示装置と、
前記映像表示装置を観察者の眼前で支持する支持部材とを備えていることを特徴とするヘッドマウントディスプレイ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−145620(P2009−145620A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322727(P2007−322727)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]