説明

接合方法及びその装置

【課題】被接合物同士を拡散接合する際に該被接合物に酸化物膜及び窒化物膜が生成することを回避するとともに、接合部位の接合強度を確保し、さらに、コストを低廉化する。
【解決手段】拡散接合を行うための接合装置10を構成する接合容器12には、窒素ガスボンベ22、ロータリポンプ30及びメカニカルブースタポンプ31が接続されるとともに、圧力センサ32が設置される。この接合容器12内は窒素ガス雰囲気とされ、且つ制御回路38の制御作用下に、圧力が3〜105Paの間の所定圧力で略一定となるように窒素導入量が制御される。この状態で、油圧シリンダ44のロッド46の作用下に第2電極16が第1電極14に接近し、最終的に、第1電極14上の第1被接合物W1及び第2被接合物W2を押圧する。さらに、これら第1被接合物W1及び第2被接合物W2に対し、第1電極14及び第2電極16を介して通電がなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに接した複数個の被接合物に対して押圧及び加熱を行うことによって該被接合物同士を互いに接合する接合方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被接合物同士を接合する一手法として、拡散接合が知られている。すなわち、接した被接合物同士に圧力を付与しながら通電又は高周波加熱等を行うことで加熱して接触部位に存在する原子を拡散させ、これにより両被接合物を接合する方法である。通電を行う場合、被接合物(導電体)としては、鉄鋼材、ニッケル合金、銅合金をはじめとするあらゆる金属からなるものが選定される。
【0003】
上記したような金属製被接合物に対して拡散接合を行う場合、雰囲気に酸素が過度に含まれていると、通電に伴って温度が上昇した金属製被接合物の表面に酸化物膜が生成する。この酸化物膜により、原子が拡散することが阻害されてしまう。このため、接合部位の接合強度が確保できなくなる懸念がある。
【0004】
このような懸念を払拭するべく、金属製被接合物に対する通電及び加圧は、一般的に、高真空とした接合容器内、又は不活性ガス雰囲気とした接合容器内で行われる。接合容器内を高真空とする場合、ロータリポンプ及び拡散ポンプの双方を組み合わせて接合容器内の排気を行うことによって、該接合容器内の圧力を10-3Pa程度とすることが広汎に行われており、圧力を一層低減する必要がある場合には、前記2種のポンプの他、ターボ分子ポンプがさらに組み合わされることもある。
【0005】
また、接合容器内を不活性ガス雰囲気とする場合、不活性ガスとしては、アルゴンガス、ヘリウムガス等が主に採用されるが、場合によっては、窒素ガスが採用されることもある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2006−315040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
接合容器内を高真空とするべく拡散ポンプやターボ分子ポンプを付設した場合、これらのポンプが高価であるために設備投資が高騰してしまう。また、不活性ガス雰囲気とする場合、接合容器内に最初に収容されていた大気(酸素)を全て排気することは容易ではなく、このため、酸化物膜が生成することを回避することが容易ではないという不具合が顕在化している。しかも、アルゴンガスやヘリウムガス等は比較的高価であるため、拡散接合を行うための処理コストが高くなる。
【0008】
さらに、近年、耐食性を向上させるべく所定量の窒素を含有した窒素添加ステンレス鋼が着目されているが、この素材に対して溶融溶接を行った場合、接合部位の窒素含有量が低下することが報告されている。勿論、このことに起因して耐食性が低下する懸念がある。
【0009】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、被接合物に酸化物膜が生成することを回避することが容易であり、しかも、窒素添加ステンレス鋼同士を接合する場合であっても窒素含有量に変化がないことから接合強度を確保することが可能で、その上、低コストで実施可能な接合方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明は、互いに接した第1の被接合物と第2の被接合物に対して通電を行いながらこれら第1の被接合物及び第2の被接合物に圧力を付与して両被接合物を接合する接合方法であって、
前記第1の被接合物及び前記第2の被接合物を接合容器に収容し、前記接合容器に窒素ガスを導入するとともに、前記接合容器内の圧力を3〜105Paの間に制御する工程と、
前記第1の被接合物及び前記第2の被接合物に対して加圧を行いながら該第1の被接合物及び該第2の被接合物を加熱する工程と、
を有することを特徴とする。
【0011】
接合容器内を上記圧力範囲内である窒素ガス雰囲気とした場合、酸素分圧が著しく小さくなる。このため、被接合物の表面に酸化物膜が生成することを防止することが容易となり、結局、拡散接合を効率よく進行させることができるようになる。その結果、接合部位の接合強度が確保される。
【0012】
しかも、この場合、接合容器内を高真空にする必要がないので、高価な拡散ポンプやターボ分子ポンプ等、高真空が得られる排気機構を付設する必要は特にない。従って、設備投資が低廉化する。その上、安価な窒素ガスを用いるので、拡散接合に要するコストも低廉化する。
【0013】
なお、被接合物としては、加熱中に窒化物膜を形成せず、且つ窒素を固溶可能な材質からなるものであることが好ましい。この場合、第1の被接合物及び第2の被接合物とも窒化物膜を形成しないことから、接合部での拡散が妨げられることがない。また、第1の被接合物と第2の被接合物との間に空隙が存在し、該空隙に雰囲気ガスである窒素ガスが残留したとしても、窒素ガスが第1の被接合物又は第2の被接合物に固溶される。従って、空隙を消失させることが容易となり、接合部位の接合強度も向上する。
【0014】
この種の材質の好適な例としては、鉄鋼材が挙げられる。ここで、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼等の鉄鋼材は大気中で溶製されることから窒素を含有している。また、積極的に窒素が添加された窒素添加ステンレス鋼も窒素を含有しており、このため、加熱中に窒化物膜を形成せず、且つ窒素を固溶可能である。すなわち、これらの場合、被接合材が窒素を固溶することによって前記の空隙消失機能が営まれる。特に、窒素添加ステンレス鋼の場合、窒素が固溶することによって窒素含有量が低下することが回避され、このために耐食性が確保される。
【0015】
なお、加熱中に窒化物膜を形成せず、且つ窒素を固溶可能な他の金属の例としては、銅、ニッケル及びその合金が挙げられる。
【0016】
また、本発明は、互いに接した第1の被接合物と第2の被接合物に対して通電を行いながらこれら第1の被接合物及び第2の被接合物に圧力を付与して両被接合物を接合する接合装置であって、
前記第1の被接合物及び前記第2の被接合物を加熱するための加熱機構と、
前記第1の被接合物及び前記第2の被接合物を収容するための接合容器と、
前記接合容器に窒素ガスを供給するための窒素ガス供給源と、
前記接合容器から排気を行うための排気機構と、
前記窒素ガス供給源から供給されて前記接合容器に導入される窒素ガスの圧力を制御する圧力制御機構と、
を備え、
前記圧力制御機構は、窒素ガスの圧力を3〜105Paの間に制御することを特徴とする。
【0017】
このように構成することにより、低廉な設備投資で被接合物に酸化物膜及び窒化物膜が生成することを容易に回避できるようになる。結局、拡散接合を低コストで効率よく進行させることができるようになる。
【0018】
この構成における排気機構としては、上記したように、比較的安価なロータリポンプを採用することが好ましい。これにより、設備投資を低廉化することが容易となる。なお、ロータリポンプとメカニカルブースタポンプを併用することがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、所定の圧力範囲内の窒素ガス雰囲気下で拡散接合を行うようにしているので、被接合物の表面に酸化物膜及び窒化物膜が生成することが防止され、このために拡散接合を効率よく進行させることができるとともに、接合部位の接合強度を確保することができる。
【0020】
また、接合容器内を高真空にする必要がないので、高真空が得られる高価な排気機構を付設する必要は特にない。従って、設備投資が低廉化する。しかも、安価な窒素ガスを用いることによって、拡散接合に要するコストを低廉化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る接合方法につきそれを実施する装置との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態に係る接合装置10の構成を模式的に示した要部概略構成図である。この接合装置10は、図示しない開閉扉が設けられた接合容器12と、該接合容器12内に収容された第1電極14及び第2電極16とを有する。これら第1電極14及び第2電極16は、後述する電源18とともに加熱源を構成する。
【0023】
接合容器12には、送気ライン20を介して該接合容器12に窒素ガスを供給するための窒素ガスボンベ22(窒素ガス供給源)が接続されている。また、送気ライン20には、窒素ガスの流量を制御するマスフローコントローラ(以下、MFCともいう)24、及び圧力調整弁26が窒素ガスボンベ22側からこの順序で介装されている。
【0024】
また、接合容器12には、該接合容器12内の気体を排出するための第1排気ライン28、第2排気ライン29が接続されている。第1排気ライン28にはロータリポンプ30が介装される一方、第2排気ライン29にはメカニカルブースタポンプ31が介装されており、従って、接合容器12内の気体はこれらロータリポンプ30及びメカニカルブースタポンプ31によって除去される。
【0025】
周知のように、ロータリポンプ30はポンプ類の中では比較的安価である。その反面、ロータリポンプ30では圧力を低減することは容易ではなく、本実施の形態においては、圧力調整弁26を閉止して接合容器12内を排気した際の圧力は10-1Pa程度である。
【0026】
接合容器12には、さらに、該接合容器12内の圧力を測定する圧力センサ32が付設されている。この圧力センサ32と前記圧力調整弁26は、それぞれ、信号線34、36を介して制御回路38に電気的に接続されている。
【0027】
第1電極14は、接合容器12内において、図1における上方に向かうようにして台座40上に位置決め固定されている。この第1電極14は、リード線42を介して電源18の正極に電気的に接続されている。
【0028】
一方、第1電極14と略同一構成の第2電極16は、第1電極14に対向するように配置されている。また、第2電極16は、油圧シリンダ44のロッド46の先端に位置決め固定されている。すなわち、第2電極16は、ロッド46が前進・後退動作することに伴って第1電極14に対して接近・離間する。
【0029】
この第2電極16は、リード線48によって電源18の負極に電気的に接続されている。なお、図1においては、電気的に開回路が形成された状態を示している。
【0030】
本実施の形態に係る接合装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき、接合方法との関係で説明する。
【0031】
はじめに、接合容器12の開閉扉を開放し、この開放扉から第1被接合物W1及び第2被接合物W2を接合容器12内に挿入して第1電極14上に載置する。なお、この場合、第1被接合物W1及び第2被接合物W2はともに窒素添加ステンレス鋼からなり、互いの一端面同士が重なるように積層されている。
【0032】
次に、前記開閉扉を閉止して接合容器12を気密状態とした後、ロータリポンプ30及びメカニカルブースタポンプ31を付勢し、第1排気ライン28及び第2排気ライン29を介して接合容器12内を排気する。勿論、この際、圧力調整弁26は閉止されている。接合容器12内の圧力は、上記したように、最終的には10-1Pa程度となる。
【0033】
制御回路38には、圧力センサ32及び信号線34を介して接合容器12内の圧力に関する情報が伝達される。そして、制御回路38は、接合容器12内の圧力が略一定となったことを認識すると、信号線36を介しての指令信号によって圧力調整弁26を開放する。これにより、窒素ガスボンベ22から送気ライン20に窒素ガスが流通し始める。勿論、窒素ガスは、MFC24及び圧力調整弁26を経由して接合容器12内に導入される。
【0034】
ここで、制御回路38は、接合容器12内の圧力が3〜105Paの間の所定圧力で略一定となるように窒素導入量を制御する。すなわち、制御回路38は、圧力センサ32及び信号線34を介して得られた接合容器12内の圧力に関する情報に基づき、信号線36を介して圧力調整弁26の開度を制御する指令信号を発する。より具体的には、接合容器12内の圧力が所定の上限値を上回ったときには圧力調整弁26の開度を小さくすることで窒素ガスの導入量を増加させ、一方、所定の下限値を下回ったときには圧力調整弁26の開度を大きくして窒素ガスの導入量を減少させる。
【0035】
接合容器12内を、例えば、圧力を3Paとして窒素ガス雰囲気とした場合、同圧力で空気雰囲気又はアルゴンガス雰囲気とした場合に比して酸素分圧が著しく小さくなる。すなわち、この場合の酸素分圧は、大気を排気した際の圧力を3×10-3Paとした場合の酸素分圧に匹敵する。また、接合容器12内の圧力を105Paとして窒素ガス雰囲気とした場合も同様に、同圧力で空気雰囲気又はアルゴンガス雰囲気とした場合に比して酸素分圧が著しく小さい。
【0036】
このように、窒素ガスを雰囲気ガスとして用いることにより、接合雰囲気の圧力を比較的高くしても、接合容器12内の酸素分圧を、該接合容器12内を真空引きした場合の酸素分圧に匹敵する程度とすることができる。
【0037】
次に、油圧シリンダ44が付勢され、図2に示すように、そのロッド46が下方に向かって前進動作する。その結果、第2電極16が第2被接合物W2及び第1被接合物W1を押圧するようになるとともに、電気的に閉回路が形成される。
【0038】
この状態で、電源18から電流iが供給される。この電流iは、第1電極14、第1被接合物W1、第2被接合物W2及び第2電極16を経由して電源18に戻る。すなわち、第1被接合物W1及び第2被接合物W2の双方に対して通電がなされ、これに伴い第1被接合物W1及び第2被接合物W2の温度が上昇し、さらに、第1被接合物W1の原子が第2被接合物W2に拡散する一方、第2被接合物W2の原子が第1被接合物W1に拡散する。
【0039】
上記したように、本実施の形態においては、所定の圧力に制御された窒素ガス雰囲気下、換言すれば、酸素分圧が著しく小さい状況下で第1被接合物W1及び第2被接合物W2に対する通電がなされる。従って、第1被接合物W1及び第2被接合物W2の表面に酸化物膜が生成することを防止することができる。このため、原子の拡散が容易に進行し、結局、第1被接合物W1と第2被接合物W2の固相接合(拡散接合)を効率よく実施することができるようになる。従って、接合部位の接合強度が確保される。
【0040】
しかも、雰囲気に窒素ガスが存在するので、第1被接合物W1と第2被接合物W2(ともに窒素添加ステンレス鋼)における原子の拡散部位から窒素が脱離した場合であっても、該拡散部位に対して雰囲気から窒素が補充される。すなわち、窒素が拡散部位に固溶されるので、窒素含有量が低下することを回避することもできる。
【0041】
また、第1被接合物W1ないし第2被接合物W2に反り等が存在するために接した端面同士の間に空隙が存在する場合、アルゴンガス雰囲気やヘリウムガス雰囲気として拡散接合を行うと、前記空隙にアルゴンガスやヘリウムガスが捕集された状態で第1被接合物W1と第2被接合物W2が接合される。すなわち、第1被接合物W1と第2被接合物W2の間に空隙が残留し、このために接合強度が小さくなる懸念がある。
【0042】
これに対し、本実施の形態においては、窒素ガス雰囲気下で拡散接合を行うようにしている。上記したように、第1被接合物W1及び第2被接合物W2が窒素を固溶し得るものであるので、空隙内に残留した窒素ガスは、第1被接合物W1又は第2被接合物W2に固溶されることによって消費される。このため、第1被接合物W1と第2被接合物W2の間から空隙を消失させることが可能であり、従って、両被接合物W1、W2同士の接合強度が一層向上する。
【0043】
なお、ステンレス鋼が窒素とともに窒化物を生成する標準生成エネルギは、酸化物膜が生成する標準生成エネルギに比して高い。すなわち、雰囲気である窒素ガスが第1被接合物W1及び第2被接合物W2と反応することは困難であり、従って、窒素ガスは、第1被接合物W1及び第2被接合物W2に対して不活性である。すなわち、第1被接合物W1及び第2被接合物W2に窒化物膜が生成することも回避される。
【0044】
所定時間が経過した後、電源18からの電流iの供給が停止されるとともに油圧シリンダ44のロッド46が上方に向かって後退動作し、図1に示す状態に戻る。これにより第1被接合物W1及び第2被接合物W2に対する通電が停止され、原子の拡散が終了することに伴って、第1被接合物W1と第2被接合物W2との固相接合(拡散接合)が終了する。すなわち、第1被接合物W1と第2被接合物W2は、互いに全面にわたって接合される。
【0045】
上記したように、本実施の形態によれば、拡散部位(接合部位)における窒素含有量が低下することを回避することが可能であるとともに、原子の拡散が十分になされる。従って、接合部位における耐食性及び接合強度が確保される。
【0046】
また、上記から諒解されるように、本実施の形態によれば、アルゴンガスやヘリウムガス等の高価なガスを用いる必要がない。加えて、接合容器12内の圧力を小さくする必要がないため、ロータリポンプ30及びメカニカルブースタポンプ31を付設するのみでよい。換言すれば、高価な拡散ポンプやターボ分子ポンプ等を付設する必要は特にない。従って、接合装置10を構成するための設備投資を低廉化することができるとともに、拡散接合を低コストで実施することができる。
【0047】
なお、上記した実施の形態においては、第1被接合物W1及び第2被接合物W2として窒素添加ステンレス鋼からなるものを用いるようにしているが、ステンレス鋼をはじめとする各種鉄鋼材、窒素添加ステンレス鋼、ニッケル合金又は銅合金等、その他の金属からなるものであってもよい。この場合においても、酸化物膜及び窒化物膜が生成することが防止される。また、これらの材料は窒素を固溶し得るので、接合部位において空隙が残留することを回避することができる。すなわち、接合強度を容易に確保することができる。勿論、接合部の品質も優れたものとなる。さらに、第1被接合物W1と第2被接合物W2とが異なる金属種であってもよい。換言すれば、本発明は、異種金属同士を接合する場合にも適用可能である。
【0048】
また、この実施の形態では、接合容器12内の圧力を略一定に維持するような制御を行うようにしているが、下限を3Pa、上限を105Paに設定し、3〜105Paの間で変動を繰り返すような制御を行うようにしてもよい。
【0049】
さらに、この実施の形態では、第1被接合物W1及び第2被接合物W2に対して通電を行うことで両被接合物W1、W2を加熱するようにしているが、例えば、高周波誘導加熱等、その他の加熱手法を採用し得ることは勿論である。
【0050】
さらにまた、ロータリポンプ30に代替して拡散ポンプやターボ分子ポンプ等を付設するようにしてもよい。
【実施例1】
【0051】
図1及び図2に示される接合装置10にガス分析システムを付設した。すなわち、接合容器12に連通する取出管を設け、この取出管に対し、ガス分析器及び圧力測定器をコンピュータとともに接続した。
【0052】
この状態で、接合容器12内の雰囲気ガス及びその圧力を種々変更し、窒素ガス及び酸素ガスの分圧を求めた。結果を、図3にまとめて示す。この図3から、窒素ガス雰囲気で圧力を3Paとした場合の酸素分圧が、圧力を3×10-3Paとした場合の酸素分圧に匹敵することが明らかである。
【0053】
図3からは、窒素ガス雰囲気で圧力を105Paとした場合の酸素分圧が、同圧力のアルゴンガス雰囲気における酸素分圧に比して著しく小さいことも諒解される。このことから、アルゴンガスよりも窒素ガスの方が酸素分圧を小さくすることができ、被接合物の酸化を回避することが容易となることが分かる。
【実施例2】
【0054】
SUS304(ステンレス鋼)からなり、底面の直径が12mm、長さが30mmである円柱体形状被接合物の底面同士を接触させ、この状態で、接合装置10の第1電極14及び第2電極16によって5.2Mpaで押圧するとともに、接合界面近傍にスポット溶接で取り付けられたR型熱電対によって測定される接合温度を700℃、800℃、900℃、1000℃又は1100℃のいずれかとして通電を行い、両被接合物を接合した。なお、接合温度まで約100℃/分で昇温し、且つ接合温度を20分間保持した。また、接合容器12内は窒素ガス雰囲気とし、その圧力は、5Pa、102Pa、105Paのいずれかとした。
【0055】
比較のため、接合容器12内を大気とするとともに圧力を10-2Pa、5Pa、102Pa、105Pa、とした以外は上記に準拠して、前記被接合物同士の接合を行った。
【0056】
各被接合物の接合強度をSUS304の強度で除した継手効率を、接合温度との関係でグラフにして図4に示すとともに、1000℃において接合された被接合物同士の引っ張り強度を図5に示す。図4から、接合温度が上昇し、また、雰囲気ガスの圧力が低下することに伴って継手効率が向上し、1000、1100℃ではSUS304に匹敵する強度が得られることが明らかである。また、図5から諒解されるように、接合容器12内の圧力が同一であれば、雰囲気が窒素ガスである場合、大気に比して接合強度が大きくなった。
【0057】
また、接合後の被接合物の酸化状態を比較したところ、105Paの大気中での接合では厚い黒色の酸化皮膜が形成されていた。一方、102Paでは濃緑色の酸化皮膜が確認され、5Paでは酸化皮膜が存在せず金属光沢が認められた。
【0058】
これに対し、窒素ガスを雰囲気とした接合でも同様の傾向が確認されたが、同一の圧力では、大気中に比して酸化の度合は著しく少なかった。この理由は、窒素ガス雰囲気とすることで酸素分圧を抑制したためであると推察される。
【0059】
さらに、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、105Pa、10-2Paの大気、及び105Pa、5Paの窒素ガス雰囲気下で1000℃接合した各被接合物の引張破面観察を行った。その結果、大気中で接合された被接合物、窒素ガス雰囲気中で接合された被接合物のいずれも、雰囲気ガス圧力が低下することに伴ってディンプルが大きくなるとともに、各ディンプル内の介在物量が減少することが確認された。また、圧力が同一である場合、大気中で接合された被接合物に比して窒素ガス雰囲気中で接合された被接合物の方がディンプルが大きく、且つ介在物量が少なかった。このことから、雰囲気ガスの圧力が小さいほど良好な接合部が得られる一方、圧力が同一であれば大気よりも窒素ガスの方が良好な接合部が得られることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施の形態に係る接合装置の構成を模式的に示す要部概略構成図である。
【図2】図1の接合装置が被接合物を押圧しながら加熱している状態を模式的に示す要部概略構成図である。
【図3】接合容器内の雰囲気ガスの種類及びその圧力と、窒素ガス及び酸素ガスの分圧との関係を示す図表である。
【図4】接合された被接合物における継手効率と接合温度との関係を示すグラフである。
【図5】1000℃において接合された被接合物同士の引っ張り強度を雰囲気ガスとの関係で示す図表である。
【符号の説明】
【0061】
10…接合装置 12…接合容器
14、16…電極 18…電源
22…窒素ガスボンベ 26…圧力調整弁
30…ロータリポンプ 31…メカニカルブースタポンプ
32…圧力センサ 38…制御回路
44…油圧シリンダ 46…ロッド
i…電流 W1、W2…被接合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接した第1の被接合物と第2の被接合物に対して通電を行いながらこれら第1の被接合物及び第2の被接合物に圧力を付与して両被接合物を接合する接合方法であって、
前記第1の被接合物及び前記第2の被接合物を接合容器に収容し、前記接合容器に窒素ガスを導入するとともに、前記接合容器内の圧力を3〜105Paの間に制御する工程と、
前記第1の被接合物及び前記第2の被接合物に対して加圧を行いながら該第1の被接合物及び該第2の被接合物を加熱する工程と、
を有することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
請求項1記載の接合方法において、前記第1の被接合物又は前記第2の被接合物として、窒素を固溶可能なものを用いることを特徴とする接合方法。
【請求項3】
請求項2記載の接合方法において、前記第1の被接合物又は前記第2の被接合物として、鉄鋼材、窒素添加ステンレス鋼、ニッケル合金又は銅合金のいずれかを用いることを特徴とする接合方法。
【請求項4】
互いに接した第1の被接合物と第2の被接合物に対して通電を行いながらこれら第1の被接合物及び第2の被接合物に圧力を付与して両被接合物を接合する接合装置であって、
前記第1の被接合物及び前記第2の被接合物を加熱するための加熱機構と、
前記第1の被接合物及び前記第2の被接合物を収容するための接合容器と、
前記接合容器に窒素ガスを供給するための窒素ガス供給源と、
前記接合容器から排気を行うための排気機構と、
前記窒素ガス供給源から供給されて前記接合容器に導入される窒素ガスの圧力を制御する圧力制御機構と、
を備え、
前記圧力制御機構は、窒素ガスの圧力を3〜105Paの間に制御することを特徴とする接合装置。
【請求項5】
請求項4記載の接合装置において、前記排気機構が少なくともロータリポンプを含むことを特徴とする接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−131861(P2009−131861A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308147(P2007−308147)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(000102511)SMC株式会社 (344)
【Fターム(参考)】