接合部電流又は電圧検出及び調整機能を有する回路基板及びそれを実装した電子機器
【課題】
基板単体のEMI対策を完遂したとしても、基板を格納する筐体(フレームやシャーシ等)に実装した時点で、不要電磁放射のレベルが変化してしまい、新たなEMI対策を要してしまうという問題がある。
【解決手段】
筐体又は電子機器に実装するための貫通孔と、
前記貫通孔に垂直な面上でかつ前記貫通孔を中心とした円周に鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンとを有することを特徴とする回路基板を提案する。
基板単体のEMI対策を完遂したとしても、基板を格納する筐体(フレームやシャーシ等)に実装した時点で、不要電磁放射のレベルが変化してしまい、新たなEMI対策を要してしまうという問題がある。
【解決手段】
筐体又は電子機器に実装するための貫通孔と、
前記貫通孔に垂直な面上でかつ前記貫通孔を中心とした円周に鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンとを有することを特徴とする回路基板を提案する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,回路基板と電子機器や筐体の接合部に流れる電流の強度・位相を測定し、調整する機能を有する回路基板及びそれを実装した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等において、不要電磁輻射の発生原因となる電流の位置や、誤動作・性能劣化等の原因となる電子機器または電子回路間の電磁的な相互干渉経路を特定する為に、電子機器近傍の磁界分布測定技術は有効である。
一般に、回路基板単体が放射する不要電磁輻射の放射部位を特定する為には磁界プローブを用いて回路基板上近傍の磁界分布を測定する事で、放射原因となっている電流の位置を特定する事が出来る(例えば、特許文献1参照)。また、電子機器筐体が放射する不要電磁輻射の放射部位を特定する為には筐体の近傍磁界分布を測定する事で基板単体と同様の検討が可能となる。
また、筐体等からの不要電磁輻射の低減技術としては、回路基板と筐体等の間の接続部へフィルタを挿入し、筐体等へ流れ出る電流強度・位相・周波数を制御する手法が示されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−156430号公報
【特許文献2】特開平7−225634号公報
【特許文献3】特開平10−190166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、基板単体が放射する不要電磁波の励振源はLSIや水晶発振器等の素子であり、電磁エネルギーを空中へ放射するアンテナは信号やGND(グランド)のパターンの事が多く、不要電磁放射低減対策はPCBのレイアウト変更や回路変更等によって行われ、基板単体としてEMI(Electro-Magnetic Interference)対策が行われる。
しかし、このように基板単体のEMI対策を完遂したとしても、基板を格納する筐体(フレームやシャーシ等)に実装した時点で、不要電磁放射のレベルが変化してしまい、新たなEMI対策を要してしまうという問題がある。これは、基板全体が励振源として働き、筐体がアンテナとして機能してしまう為である。この問題に対して、基板上の近傍磁界測定結果は筐体実装時の遠方界と相関が得られない事が多く、回路基板における対策に時間がかかる場合が多い。また、筐体側でEMI対策を施そうとしても、一般的に筐体は3次元的に複雑な形状である事が多い為、電流分布測定が困難であり、結果的に時間とコストがかかってしまう。更に、回路基板と筐体の接合部にフィルタを挿入する場合でも、低減すべき対象である筐体放射原因電流の経路や電気特性が不明である為、効果的な特性を迅速に得る事は難しい。
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものである。即ち、本発明の目的は、EMI対策をより迅速に行う為、回路基板を電子機器又は筐体に実装した時に問題となる、回路基板から電子機器又は筐体に接合部品を通して流れ出る電流を回路基板上の接合部において実装状態のまま測定可能とし、更にこの電流の特性を調整する機能を有する回路基板並びにその回路基板を実装した電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
(1)筐体又は電子機器に実装するための貫通孔と、前記貫通孔に垂直な面上でかつ前記貫通孔を中心とした円周に鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンとを有することを特徴とする回路基板である。
(2)筐体又は電子機器に実装するための貫通孔と、前記貫通孔を囲むように回路基板内に形成された巻線状の導体パターンとを有し、前記導体パターンは、前記貫通孔に導体の接合部品が搭載され場合に、前記接合部品を流れる電流に生じる磁界の磁束と鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンであることを特徴とする回路基板である。
(3)筐体と、回路基板と、前記筐体と前記回路基板とを接合する接合部品と、を有し、前記回路基板は、前記接合部品に垂直な面上でかつ前記接合部品を中心とした円周に鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンを有することを特徴とする電子機器である。
(4)筐体と、回路基板と、前記筐体と前記回路基板とを接合する接合部品と、を有し、前記回路基板は、前記接合部品を流れる電流により生じる磁界の磁束と鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンを有することを特徴とする電子機器である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回路基板や電子機器等と筐体の接合部に流れる電流を、実装動作状態において測定可能とし、より簡易且つ効率的に接合部電流を調整・制御でき、不要電磁輻射の低減を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、回路基板から筐体、若しくは電子機器へ流れ出る電流を回路基板の接合部において測定し、調整可能とする回路基板である。
すなわち、本発明の回路基板は、筐体又は電子機器との接合部品用の貫通孔の周辺部に、接合部品を流れる電流が発生する電磁界を検出する為のセンサ、例えばコイル状の導体パターンを有することを特徴とするものである。回路基板内の接合部周辺にコイル状パターンが配置されることにより、回路基板を筐体等に実装した際に接合部に搭載された接合部品(ネジ等)を通して流れる接合部電流による電磁界を、実装状態で、かつ回路基板の実動作状態で検出することができる。更に、コイル状パターンと電気的に接続された引き出し部を有することで、得られた接合部電流信号を外部の測定器へ伝送することができる。これにより回路基板を筐体等の実際のシステムへ実装した状態で動作させた際の回路基板から流れ出るEMI原因電流が測定可能となる。
【0009】
更に回路基板上に、接合部電流を調整する為のフィルタ回路又はフィルタ回路実装部分を設け、接合部を流れるEMI原因電流を測定しつつ、フィルタを調整可能とすることで、不要電磁輻射の低減を図ることができる。
また、フィードバック機能部をさらに設け、検出した接合部電流をフィルタ回路へ電気的にフィードバックし、自動的に接合部へ設けたフィルタの電気特性を調整することで、外部へ漏れ出る電流の特性を最適化することもできる。
本発明は、これらにより、回路基板を筐体又は電子機器に実装した状態でシステム全体が発生するEMIを測定し、低減する為の対策を可能とする回路基板及びその回路基板を搭載した電子機器を提供するものである。
ここで、本願において単に「接合部」とあるものは、回路基板のうち、筐体又は電子機器等との接合のために設けられた貫通孔及びその周辺部分をいうが、ネジ等の導体の接合部品が貫通孔に搭載された場合には、当該接合部品を含めたものをいう。
【0010】
以下に本発明の具体的な実施の形態について図を用いて説明する。
図1に、回路基板と筐体又は電子機器等との接合部101を流れる電流の強度・位相を測定する為の接合部電流検出機能を有する回路基板102の構造の上面図とその断面図を示す。
回路基板102の接合部101は回路基板102のGND103と電気的に接続され、接合部品実装用の貫通孔の周囲にはループ又はコイル状の接合部電流検出用導体パターン104を有する。導体パターンの両端には引き出し部105を形成し、測定器へと接続する為のコネクタ106若しくはケーブルに接続される。
ここで、接合部電流検出用のコイル状の導体パターン104は、多層配線基板で形成された各層の配線と該層間を接続するビアとを利用して形成すればよい。また、図1は一の接合部のみ示したが、回路基板上には通常複数個あり、コイル状導体パターン104は、回路基板にある複数の接合部101ごとに設けても良いし、その中の一部の接合部101にのみ設けてもよい。さらに、コイル状導体パターンの代わりにホール素子等の磁界検出素子を用いてもよい。また、引き出し部と測定器の間、又は測定器においてダイオードや整流器素子などを用いて測定電圧または電流を整流・検波し、直流電圧として電流・電圧強度を測定しても良い。この時、ダイオードや整流器の形態に限定は無いが、回路基板上に実装する事が好ましい。これらは以下の実施形態でも同様である。
【0011】
図2には、回路基板102と筐体201の接合部を流れる電流を測定する為の測定装置構成例を示す。装置構成要素は、接合部電流検出機能を有する回路基板102と、筐体201と、検出した接合部電流信号を測定器へ伝える為のコネクタ又はケーブル202と、該回路基板からの接合部電流信号を測定する測定器203と、接合部電流信号を所望の大きさへ増幅又は周波数成分のみ抽出する為のアンプ又はフィルタ204と、電圧又は電力測定結果から、電流強度及び位相を計算する為のCPU及びメモリ及びこれらを計算するプログラム等を記憶した記憶装置等を備えるコンピュータ205と、測定結果を表示する為の表示装置206を有する。
ここで、回路基板102の接合部の導体は回路基板のGNDと電気的に接続されることが多く、ネジ等の接合部品を介して回路基板102を実装する筐体201や電子機器等のGNDとも電気的に接続されている。
また、測定対象近傍の空間的電磁界分布を擾乱させないために、接合部電流検出機能を有する回路基板102とフィルタ又はアンプ204を含む測定装置との間には電磁界的に近傍とならない距離をとる必要がある。電磁界的に近傍となる距離とは測定対象である回路基板102や筐体201からフィルタ又はアンプ204がr≦λ/(2π)を満たす距離rを指す。
また、外部から混入する電磁界の影響を抑制するために、好ましくは図15に示すようにコイル状の導体パターンを覆うような導体を設けておくとよい。このようにすることで、回路基板上の素子やパターンが発生する電磁界による雑音を抑制することができ、結果として高精度な接合部電流の検出が可能となる。
【0012】
次に、接合部電流検出機能を有する回路基板を用いた接合部電流測定手順及び原理について示す。
図2に示すように、回路基板102は筐体201等に実装し、測定器203と接続されている状態で回路基板102を動作させる。そして、接合部電流検出用の導体パターンに誘起する電圧を、ケーブル202を介し、フィルタ又はアンプ204を通して所望の周波数成分又は所望の信号強度へ増幅し、測定器203へ取り込む。フィルタはハイパスフィルタ・ローパスフィルタ等を組み合わせる事で測定周波数を任意に設定できる事が好ましい。またこれらフィルタ又はアンプ機能は後述するように回路基板上にその機能を組み込んでも良い。これらフィルタ機能はインダクタやコンデンサ等の受動素子のみでも実現可能であり、アンプ機能はトランジスタ等の能動素子を活用することで回路基板上に容易に実現可能である。このようにして得られた接合部電流測定結果は、コンピュータ205の記憶装置に随時記憶していく。
【0013】
図3には、接合部電流検出の原理を示す。
接合部電流検出用のコイル状の導体パターン104は、同図に示すように接合部電流301が流れる中心導体と電気的に絶縁されており、接合部電流によって発生する磁界302の磁束に垂直な面内で少なくとも1ターンのループを形成している必要がある。接合部電流は回路基板上のGND等の導体から筐体へネジ等の接合部品等を通して流れ、この接合部電流が発生する磁束が、導体パターンを鎖交することによって導体パターンの両端に電圧が発生する。この時に発生する電圧は磁束に対して垂直な面内での導体パターンのループ面積S、ループの数N、ループ内の透磁率μ、電流の周波数f及び電流強度によって決まる磁界強度Hを用いて数1で表すことが出来、これらの値を考慮することにより、測定した電圧から接合部電流を逆算することが出来る。
【0014】
【数1】
巻き数Nを大きくすると誘起電圧が大きくなる為、電流に対する感度が高くなるが、巻き線同士の容量結合やコイル状導体102自身のインダクタンスによって高周波における出力電圧の低下が生じる為、必要に応じて変更することが好ましい。
このようにして発生した電圧をコネクタ・ケーブル等を介して測定器で測定することにより、接合部電流の周波数や強度を知ることができる。この際、回路基板上のGND等のパターンと接合部であるネジ等の接合部品とは、貫通孔開口部周縁に設けられた導体を介する等して電気的に導通している必要があり、回路基板、接合部、筐体それぞれが導通することで接合部電流が流れうる。
なお、実装用接合部品について大きさや形状に制限は無く、一般的な接合部品であるネジに対しては円形とすることが好ましい。また、ケーブルは同軸ケーブルが好ましいが、これに限られない。さらに、引き出し部の長さは出来るだけ短くすることが好ましい。
また、実際に測定器にて得られる電圧Vmは接合部電流検出用導体パターンと引き出し部のインダクタンス値Lを用いて数2のように見積もる事が出来るが、
コイル状導体102と直列又は並列に抵抗素子又は容量素子を挿入する事で周波数特性を一定とする事も可能である。
【0015】
【数2】
次に、接合部電流検出結果を用いた不要電磁輻射低減の手順について説明する。
通常、製品の量産前に回路基板を試作し、筐体や電子機器等へ実装した状態で機能評価やEMC性能評価を行う。この時、不要電磁輻射が遵守しなければならない規制値を超えていた場合、本発明である接合部電流検出機能を有する回路基板を用いることにより、これを筐体等に実装し、動作させながら不要電磁輻射源となっている電流を筐体等へ流している電流経路を知ることが出来る。
一般に不要電磁輻射源は回路基板上のLSIや電源IC等であることが多く、一方、放射をするアンテナの機能は筐体等であることが多い。電子機器の筐体は通常GND電位であり、回路基板のGND電位と電気的に接続されていることが多い。ここで、回路基板上のGNDはLSIや電源IC等が動作する事によって電位的に不安定であることが多く、結果として筐体等のGNDと電位差が生じてしまい筐体へ電流を流してしまうことになり、それが不要電磁輻射原因電流となる。
【0016】
この、回路基板から筐体等へ電流が漏れ出るのを防ぐために、図4に示すように回路基板102のGND103と、筐体等のGNDと電気的に接続している接合部101の間に接合部フィルタ401を挿入する。挿入された接合部フィルタ401の電気的特性を調整することによって、筐体からの放射低減を図ることができる。ここで、フィルタ401は、回路基板に設けられた複数の接合部ごとに設けても良いし、一部にのみ設けてもよい。このフィルタの電気特性は、本発明である接合部電流検出機能を有する回路基板等によって得られた接合部電流の信号特性を考慮することによってより簡易に、より高精度に調整することが可能となる。
具体的には、接合部電流周波数スペクトラムが、回路基板を実装したシステムからの不要電磁輻射の周波数スペクトラムとより近い接合部の接合部電流測定により特定し、その接合部の接合部フィルタを強化又は調整することによってシステムからの不要電磁輻射を低減することが可能となる。
ここで、接合部の電流又は電圧を検出する方法として、本発明である接合部電流又は電圧検出機能を有する回路基板を用いることが時間短縮という観点から好ましいが、この検出方法に制限は無く、電流プローブや電圧プローブ等を用いて測定しても良い。
【0017】
次に、接合部電流の検出機能と接合部フィルタを電気的に組み合わせた応用例を回路図を用いて説明する。
これまで説明した、接合部を流れる電流と、ループ上の導体パターン検出回路を等価的に表した回路を図5に示す。また、図6には接合部へ搭載するフィルタの位置を回路的に示す。
検出した電流又は電圧の情報に基づき接合部フィルタを用いて接合部の電流又は電圧を制御することが可能であることについて記したが、図7に示すように、フィードバック機能部を設け、検出した接合部電流スペクトラムの周波数・強度・位相の情報を用いて、接合部のフィルタ601へ電気的にフィードバックすることにより、自動的に回路基板から筐体等へ漏れ出る電流を抑制することも可能である。
ここで、接合部フィルタ601はインダクタンス及びキャパシタンス成分によって実現できるため、図8に示すように可変インダクタンス801の値を電気的に調整するフィードバック回路や、図9に示すように可変キャパシタンス901の値を同様に調整する形式が考えられる。値が可変なインダクタンスはトランジスタ等の能動素子を組み合わせることによっても、また、MEMS技術等を活用することによっても実現可能であり、ICとして実装する等しても良い。また、値が可変なキャパシタンスについても同様である。
なお、フィードバック機能部の制御部802についてはマイコンやその他電気的素子及びソフト等を用いて回路的に構成することも可能であり、また自動的なフィードバックとせず、人の手によってフィルタを調整することも可能である。
このように、電気的に接合部電流信号を接合部フィルタへフィードバックする事によって、不要電磁輻射対策はより簡易に、また高精度に実現することが可能となる。
【0018】
また、筐体からの不要電磁輻射の原因である、回路基板から筐体等へ漏れ出る電流は、一箇所の接合部フィルタのみを調整するだけでは効果が出ないことも考えられる。これは、複数個所の接合部における回路基板のGND電位のバランスや、筐体のインピーダンスのバランスに依存しており、結果として複数個所の接合部フィルタのバランスを考慮する必要があるためである。よって、接合部電流信号301を接合部フィルタの調整へフィードバックする場合、複数個所の接合部電流の情報を一の制御部802に収集し、これら全ての情報に基づいていずれかの或いは複数個所の接合部フィルタの特性を同時に調整することが好ましい。この時、フィードバックのアルゴリズムはマイコンやメモリなどを用いて回路基板上で行ってもよく、この方法に制限はない。
【0019】
また、これまでは接続部を流れる電流を検出する事を想定していたが、図10に示すような電圧検出回路1001を用いて接合部における電位の変動を測定することによって接合部電流を推定する等しても良い。特に、初期設定として、図のように回路基板上の接合部が、筐体等と電気的に接続されていない絶縁1002の場合等は、これを電気的に接続すべきか否かを判断する為に、回路基板上の接合部の電位変動を測定し、筐体等のインピーダンスと併せて考慮する事で、導通させた場合の接合部電流を予測する事が可能となる。一般的に、回路基板上のGNDにおいて、電位変動の大きい場所は、筐体のGNDと接続することが好ましいが、筐体のGNDの安定性にも依存する為、これらは接合部電流若しくは電位の情報に基づいて適宜判断することが好ましい。
この際、図11に示すような、検出した電圧変動を抑える為のフィードバック回路を形成することによりを行えば、接合部における電圧変動を抑制することが出来、筐体の電位変動を抑制することが可能となる。電圧変動抑制回路は概念的に図11のような負帰還回路にて表されるが、実際にはトランジスタやオペアンプ等の組み合わせによって実現可能となり、この構成に制限は無い。
【0020】
また、接合部電流を制御する方法として、これまでLやC等を用いたフィルタにより電流を筐体等の外部へ流さない方法について示してきたが、図12に示すように、抵抗などの損失の高い素子を用いて接合部電流を熱等へ変換する方法も考えられる。この時、抵抗等の高損失素子の抵抗値によって検出側のQ値(Quality factor)は変化する。接合部電流の電流強度はこの抵抗値を調整する事によって制御可能となる。
更に、図13に示すように接合部電流検出用のLと直列にコンデンサを挿入し、直列共振を発生させることによって、接合部電流の直列共振周波数成分のみを抵抗成分によって損失させることが可能となる。実際の不要電磁輻射対策時には、低減したい不要電磁輻射の周波数になるようにコンデンサの値を調整し、低減したい強度を抵抗値によって調整することとなる。この時、損失させる為の素子は抵抗だけに限らず、図14のように発光ダイオード等の電流を光に変える発光素子を用いても良く、これに制限は無い。このようにすることで、接合部電流を視覚的に捉える事ができ、不要電磁輻射対策の高効率化が期待できる。
【0021】
次に、これまでに示した構造などについての応用例を示す。
接合部電流検出用のコイル状導体と直列に挿入する電気的容量の実現方法としてはチップコンデンサの組み込み等が考えられるが、基板間の導体パターンによる平行平板コンデンサの容量を利用しても良い。
また、接合部フィルタ回路に用いる形状に制限は無い。インダクタンスはメアンダラインやスパイラル状のパターンにより実現しても良く、キャパシタンスは多層基板を利用して並行平板パターンとして実現しても良い。
また、これまでの説明に用いた回路基板、コイル状の導体パターン、引き出し部等は全てPCBを想定してきたが、全て材料等に制限はなく、セラミック基板を用いることで高周波特性における損失低減が可能となる。
また、コイル状の導体パターンのループ内部の透磁率を上げる為に、高透磁率材料や高誘電率材料を基板若しくはコイル状パターンの内部に用いても良い。これにより、接合部電流による誘起電圧が大きくなり、より微小な接合部電流でも検出可能となる。
また、これまでは一つの測定器に対して一つの接合部電流検出用コネクタを接続する事を想定していたが、図16に示すように複数の接合部電流検出部に対し、セレクタ等を用いる事によって複数箇所の接合部電流を切り替えながら測定する等してもよい。
また、引き出し部、コネクタ、ケーブルの接続方法に制限は無く、半田による接続や小型コネクタを用いた脱着式接続構造としても良い。このようにすることにより測定がより簡易になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】回路基板の構造の上面図及び断面図である。
【図2】測定装置の構成図である。
【図3】接合部電流の検出原理を示す図である。
【図4】回路基板の接合部フィルタを含む上面図である。
【図5】接合部電流検出を表わす等価回路図である。
【図6】接合部フィルタを表わす回路図である。
【図7】接合部電流のフィードバック機能部を表わす回路図である。
【図8】可変接合部フィルタを表わす回路図である。
【図9】可変接合部フィルタを表わす第二の回路図である。
【図10】接合部電位変動の検出系を表わす回路図である。
【図11】接合部電位変動のフィードバック機能部を表わす回路図である。
【図12】接合部電流制御回路を表わす回路図である。
【図13】接合部電流制御回路を表わす第二の回路図である。
【図14】接合部電流制御回路を表わす第三の回路図である。
【図15】第二の回路基板の構造の断面図である。
【図16】第二の測定装置の構成である。
【符号の説明】
【0023】
101:接合部、102:回路基板、103:GND、104:接合部電流検出用導体パターン、105:引き出し部、106:コネクタ、201:筐体、202:ケーブル、203:測定器、204:フィルタ又はアンプ、205:コンピュータ、301:接合部電流、302:磁界、401:接合部フィルタ、501:回路基板GND、502:筐体GND、701:電圧検出回路、801:可変インダクタンス、802:制御部、901:可変キャパシタンス、1001:電圧検出回路、1002:絶縁、1101:接合部品、1201:損失性素子、1301:コンデンサ、1401:発光素子、1501:導体
【技術分野】
【0001】
本発明は,回路基板と電子機器や筐体の接合部に流れる電流の強度・位相を測定し、調整する機能を有する回路基板及びそれを実装した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等において、不要電磁輻射の発生原因となる電流の位置や、誤動作・性能劣化等の原因となる電子機器または電子回路間の電磁的な相互干渉経路を特定する為に、電子機器近傍の磁界分布測定技術は有効である。
一般に、回路基板単体が放射する不要電磁輻射の放射部位を特定する為には磁界プローブを用いて回路基板上近傍の磁界分布を測定する事で、放射原因となっている電流の位置を特定する事が出来る(例えば、特許文献1参照)。また、電子機器筐体が放射する不要電磁輻射の放射部位を特定する為には筐体の近傍磁界分布を測定する事で基板単体と同様の検討が可能となる。
また、筐体等からの不要電磁輻射の低減技術としては、回路基板と筐体等の間の接続部へフィルタを挿入し、筐体等へ流れ出る電流強度・位相・周波数を制御する手法が示されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−156430号公報
【特許文献2】特開平7−225634号公報
【特許文献3】特開平10−190166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、基板単体が放射する不要電磁波の励振源はLSIや水晶発振器等の素子であり、電磁エネルギーを空中へ放射するアンテナは信号やGND(グランド)のパターンの事が多く、不要電磁放射低減対策はPCBのレイアウト変更や回路変更等によって行われ、基板単体としてEMI(Electro-Magnetic Interference)対策が行われる。
しかし、このように基板単体のEMI対策を完遂したとしても、基板を格納する筐体(フレームやシャーシ等)に実装した時点で、不要電磁放射のレベルが変化してしまい、新たなEMI対策を要してしまうという問題がある。これは、基板全体が励振源として働き、筐体がアンテナとして機能してしまう為である。この問題に対して、基板上の近傍磁界測定結果は筐体実装時の遠方界と相関が得られない事が多く、回路基板における対策に時間がかかる場合が多い。また、筐体側でEMI対策を施そうとしても、一般的に筐体は3次元的に複雑な形状である事が多い為、電流分布測定が困難であり、結果的に時間とコストがかかってしまう。更に、回路基板と筐体の接合部にフィルタを挿入する場合でも、低減すべき対象である筐体放射原因電流の経路や電気特性が不明である為、効果的な特性を迅速に得る事は難しい。
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものである。即ち、本発明の目的は、EMI対策をより迅速に行う為、回路基板を電子機器又は筐体に実装した時に問題となる、回路基板から電子機器又は筐体に接合部品を通して流れ出る電流を回路基板上の接合部において実装状態のまま測定可能とし、更にこの電流の特性を調整する機能を有する回路基板並びにその回路基板を実装した電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
(1)筐体又は電子機器に実装するための貫通孔と、前記貫通孔に垂直な面上でかつ前記貫通孔を中心とした円周に鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンとを有することを特徴とする回路基板である。
(2)筐体又は電子機器に実装するための貫通孔と、前記貫通孔を囲むように回路基板内に形成された巻線状の導体パターンとを有し、前記導体パターンは、前記貫通孔に導体の接合部品が搭載され場合に、前記接合部品を流れる電流に生じる磁界の磁束と鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンであることを特徴とする回路基板である。
(3)筐体と、回路基板と、前記筐体と前記回路基板とを接合する接合部品と、を有し、前記回路基板は、前記接合部品に垂直な面上でかつ前記接合部品を中心とした円周に鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンを有することを特徴とする電子機器である。
(4)筐体と、回路基板と、前記筐体と前記回路基板とを接合する接合部品と、を有し、前記回路基板は、前記接合部品を流れる電流により生じる磁界の磁束と鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンを有することを特徴とする電子機器である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回路基板や電子機器等と筐体の接合部に流れる電流を、実装動作状態において測定可能とし、より簡易且つ効率的に接合部電流を調整・制御でき、不要電磁輻射の低減を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、回路基板から筐体、若しくは電子機器へ流れ出る電流を回路基板の接合部において測定し、調整可能とする回路基板である。
すなわち、本発明の回路基板は、筐体又は電子機器との接合部品用の貫通孔の周辺部に、接合部品を流れる電流が発生する電磁界を検出する為のセンサ、例えばコイル状の導体パターンを有することを特徴とするものである。回路基板内の接合部周辺にコイル状パターンが配置されることにより、回路基板を筐体等に実装した際に接合部に搭載された接合部品(ネジ等)を通して流れる接合部電流による電磁界を、実装状態で、かつ回路基板の実動作状態で検出することができる。更に、コイル状パターンと電気的に接続された引き出し部を有することで、得られた接合部電流信号を外部の測定器へ伝送することができる。これにより回路基板を筐体等の実際のシステムへ実装した状態で動作させた際の回路基板から流れ出るEMI原因電流が測定可能となる。
【0009】
更に回路基板上に、接合部電流を調整する為のフィルタ回路又はフィルタ回路実装部分を設け、接合部を流れるEMI原因電流を測定しつつ、フィルタを調整可能とすることで、不要電磁輻射の低減を図ることができる。
また、フィードバック機能部をさらに設け、検出した接合部電流をフィルタ回路へ電気的にフィードバックし、自動的に接合部へ設けたフィルタの電気特性を調整することで、外部へ漏れ出る電流の特性を最適化することもできる。
本発明は、これらにより、回路基板を筐体又は電子機器に実装した状態でシステム全体が発生するEMIを測定し、低減する為の対策を可能とする回路基板及びその回路基板を搭載した電子機器を提供するものである。
ここで、本願において単に「接合部」とあるものは、回路基板のうち、筐体又は電子機器等との接合のために設けられた貫通孔及びその周辺部分をいうが、ネジ等の導体の接合部品が貫通孔に搭載された場合には、当該接合部品を含めたものをいう。
【0010】
以下に本発明の具体的な実施の形態について図を用いて説明する。
図1に、回路基板と筐体又は電子機器等との接合部101を流れる電流の強度・位相を測定する為の接合部電流検出機能を有する回路基板102の構造の上面図とその断面図を示す。
回路基板102の接合部101は回路基板102のGND103と電気的に接続され、接合部品実装用の貫通孔の周囲にはループ又はコイル状の接合部電流検出用導体パターン104を有する。導体パターンの両端には引き出し部105を形成し、測定器へと接続する為のコネクタ106若しくはケーブルに接続される。
ここで、接合部電流検出用のコイル状の導体パターン104は、多層配線基板で形成された各層の配線と該層間を接続するビアとを利用して形成すればよい。また、図1は一の接合部のみ示したが、回路基板上には通常複数個あり、コイル状導体パターン104は、回路基板にある複数の接合部101ごとに設けても良いし、その中の一部の接合部101にのみ設けてもよい。さらに、コイル状導体パターンの代わりにホール素子等の磁界検出素子を用いてもよい。また、引き出し部と測定器の間、又は測定器においてダイオードや整流器素子などを用いて測定電圧または電流を整流・検波し、直流電圧として電流・電圧強度を測定しても良い。この時、ダイオードや整流器の形態に限定は無いが、回路基板上に実装する事が好ましい。これらは以下の実施形態でも同様である。
【0011】
図2には、回路基板102と筐体201の接合部を流れる電流を測定する為の測定装置構成例を示す。装置構成要素は、接合部電流検出機能を有する回路基板102と、筐体201と、検出した接合部電流信号を測定器へ伝える為のコネクタ又はケーブル202と、該回路基板からの接合部電流信号を測定する測定器203と、接合部電流信号を所望の大きさへ増幅又は周波数成分のみ抽出する為のアンプ又はフィルタ204と、電圧又は電力測定結果から、電流強度及び位相を計算する為のCPU及びメモリ及びこれらを計算するプログラム等を記憶した記憶装置等を備えるコンピュータ205と、測定結果を表示する為の表示装置206を有する。
ここで、回路基板102の接合部の導体は回路基板のGNDと電気的に接続されることが多く、ネジ等の接合部品を介して回路基板102を実装する筐体201や電子機器等のGNDとも電気的に接続されている。
また、測定対象近傍の空間的電磁界分布を擾乱させないために、接合部電流検出機能を有する回路基板102とフィルタ又はアンプ204を含む測定装置との間には電磁界的に近傍とならない距離をとる必要がある。電磁界的に近傍となる距離とは測定対象である回路基板102や筐体201からフィルタ又はアンプ204がr≦λ/(2π)を満たす距離rを指す。
また、外部から混入する電磁界の影響を抑制するために、好ましくは図15に示すようにコイル状の導体パターンを覆うような導体を設けておくとよい。このようにすることで、回路基板上の素子やパターンが発生する電磁界による雑音を抑制することができ、結果として高精度な接合部電流の検出が可能となる。
【0012】
次に、接合部電流検出機能を有する回路基板を用いた接合部電流測定手順及び原理について示す。
図2に示すように、回路基板102は筐体201等に実装し、測定器203と接続されている状態で回路基板102を動作させる。そして、接合部電流検出用の導体パターンに誘起する電圧を、ケーブル202を介し、フィルタ又はアンプ204を通して所望の周波数成分又は所望の信号強度へ増幅し、測定器203へ取り込む。フィルタはハイパスフィルタ・ローパスフィルタ等を組み合わせる事で測定周波数を任意に設定できる事が好ましい。またこれらフィルタ又はアンプ機能は後述するように回路基板上にその機能を組み込んでも良い。これらフィルタ機能はインダクタやコンデンサ等の受動素子のみでも実現可能であり、アンプ機能はトランジスタ等の能動素子を活用することで回路基板上に容易に実現可能である。このようにして得られた接合部電流測定結果は、コンピュータ205の記憶装置に随時記憶していく。
【0013】
図3には、接合部電流検出の原理を示す。
接合部電流検出用のコイル状の導体パターン104は、同図に示すように接合部電流301が流れる中心導体と電気的に絶縁されており、接合部電流によって発生する磁界302の磁束に垂直な面内で少なくとも1ターンのループを形成している必要がある。接合部電流は回路基板上のGND等の導体から筐体へネジ等の接合部品等を通して流れ、この接合部電流が発生する磁束が、導体パターンを鎖交することによって導体パターンの両端に電圧が発生する。この時に発生する電圧は磁束に対して垂直な面内での導体パターンのループ面積S、ループの数N、ループ内の透磁率μ、電流の周波数f及び電流強度によって決まる磁界強度Hを用いて数1で表すことが出来、これらの値を考慮することにより、測定した電圧から接合部電流を逆算することが出来る。
【0014】
【数1】
巻き数Nを大きくすると誘起電圧が大きくなる為、電流に対する感度が高くなるが、巻き線同士の容量結合やコイル状導体102自身のインダクタンスによって高周波における出力電圧の低下が生じる為、必要に応じて変更することが好ましい。
このようにして発生した電圧をコネクタ・ケーブル等を介して測定器で測定することにより、接合部電流の周波数や強度を知ることができる。この際、回路基板上のGND等のパターンと接合部であるネジ等の接合部品とは、貫通孔開口部周縁に設けられた導体を介する等して電気的に導通している必要があり、回路基板、接合部、筐体それぞれが導通することで接合部電流が流れうる。
なお、実装用接合部品について大きさや形状に制限は無く、一般的な接合部品であるネジに対しては円形とすることが好ましい。また、ケーブルは同軸ケーブルが好ましいが、これに限られない。さらに、引き出し部の長さは出来るだけ短くすることが好ましい。
また、実際に測定器にて得られる電圧Vmは接合部電流検出用導体パターンと引き出し部のインダクタンス値Lを用いて数2のように見積もる事が出来るが、
コイル状導体102と直列又は並列に抵抗素子又は容量素子を挿入する事で周波数特性を一定とする事も可能である。
【0015】
【数2】
次に、接合部電流検出結果を用いた不要電磁輻射低減の手順について説明する。
通常、製品の量産前に回路基板を試作し、筐体や電子機器等へ実装した状態で機能評価やEMC性能評価を行う。この時、不要電磁輻射が遵守しなければならない規制値を超えていた場合、本発明である接合部電流検出機能を有する回路基板を用いることにより、これを筐体等に実装し、動作させながら不要電磁輻射源となっている電流を筐体等へ流している電流経路を知ることが出来る。
一般に不要電磁輻射源は回路基板上のLSIや電源IC等であることが多く、一方、放射をするアンテナの機能は筐体等であることが多い。電子機器の筐体は通常GND電位であり、回路基板のGND電位と電気的に接続されていることが多い。ここで、回路基板上のGNDはLSIや電源IC等が動作する事によって電位的に不安定であることが多く、結果として筐体等のGNDと電位差が生じてしまい筐体へ電流を流してしまうことになり、それが不要電磁輻射原因電流となる。
【0016】
この、回路基板から筐体等へ電流が漏れ出るのを防ぐために、図4に示すように回路基板102のGND103と、筐体等のGNDと電気的に接続している接合部101の間に接合部フィルタ401を挿入する。挿入された接合部フィルタ401の電気的特性を調整することによって、筐体からの放射低減を図ることができる。ここで、フィルタ401は、回路基板に設けられた複数の接合部ごとに設けても良いし、一部にのみ設けてもよい。このフィルタの電気特性は、本発明である接合部電流検出機能を有する回路基板等によって得られた接合部電流の信号特性を考慮することによってより簡易に、より高精度に調整することが可能となる。
具体的には、接合部電流周波数スペクトラムが、回路基板を実装したシステムからの不要電磁輻射の周波数スペクトラムとより近い接合部の接合部電流測定により特定し、その接合部の接合部フィルタを強化又は調整することによってシステムからの不要電磁輻射を低減することが可能となる。
ここで、接合部の電流又は電圧を検出する方法として、本発明である接合部電流又は電圧検出機能を有する回路基板を用いることが時間短縮という観点から好ましいが、この検出方法に制限は無く、電流プローブや電圧プローブ等を用いて測定しても良い。
【0017】
次に、接合部電流の検出機能と接合部フィルタを電気的に組み合わせた応用例を回路図を用いて説明する。
これまで説明した、接合部を流れる電流と、ループ上の導体パターン検出回路を等価的に表した回路を図5に示す。また、図6には接合部へ搭載するフィルタの位置を回路的に示す。
検出した電流又は電圧の情報に基づき接合部フィルタを用いて接合部の電流又は電圧を制御することが可能であることについて記したが、図7に示すように、フィードバック機能部を設け、検出した接合部電流スペクトラムの周波数・強度・位相の情報を用いて、接合部のフィルタ601へ電気的にフィードバックすることにより、自動的に回路基板から筐体等へ漏れ出る電流を抑制することも可能である。
ここで、接合部フィルタ601はインダクタンス及びキャパシタンス成分によって実現できるため、図8に示すように可変インダクタンス801の値を電気的に調整するフィードバック回路や、図9に示すように可変キャパシタンス901の値を同様に調整する形式が考えられる。値が可変なインダクタンスはトランジスタ等の能動素子を組み合わせることによっても、また、MEMS技術等を活用することによっても実現可能であり、ICとして実装する等しても良い。また、値が可変なキャパシタンスについても同様である。
なお、フィードバック機能部の制御部802についてはマイコンやその他電気的素子及びソフト等を用いて回路的に構成することも可能であり、また自動的なフィードバックとせず、人の手によってフィルタを調整することも可能である。
このように、電気的に接合部電流信号を接合部フィルタへフィードバックする事によって、不要電磁輻射対策はより簡易に、また高精度に実現することが可能となる。
【0018】
また、筐体からの不要電磁輻射の原因である、回路基板から筐体等へ漏れ出る電流は、一箇所の接合部フィルタのみを調整するだけでは効果が出ないことも考えられる。これは、複数個所の接合部における回路基板のGND電位のバランスや、筐体のインピーダンスのバランスに依存しており、結果として複数個所の接合部フィルタのバランスを考慮する必要があるためである。よって、接合部電流信号301を接合部フィルタの調整へフィードバックする場合、複数個所の接合部電流の情報を一の制御部802に収集し、これら全ての情報に基づいていずれかの或いは複数個所の接合部フィルタの特性を同時に調整することが好ましい。この時、フィードバックのアルゴリズムはマイコンやメモリなどを用いて回路基板上で行ってもよく、この方法に制限はない。
【0019】
また、これまでは接続部を流れる電流を検出する事を想定していたが、図10に示すような電圧検出回路1001を用いて接合部における電位の変動を測定することによって接合部電流を推定する等しても良い。特に、初期設定として、図のように回路基板上の接合部が、筐体等と電気的に接続されていない絶縁1002の場合等は、これを電気的に接続すべきか否かを判断する為に、回路基板上の接合部の電位変動を測定し、筐体等のインピーダンスと併せて考慮する事で、導通させた場合の接合部電流を予測する事が可能となる。一般的に、回路基板上のGNDにおいて、電位変動の大きい場所は、筐体のGNDと接続することが好ましいが、筐体のGNDの安定性にも依存する為、これらは接合部電流若しくは電位の情報に基づいて適宜判断することが好ましい。
この際、図11に示すような、検出した電圧変動を抑える為のフィードバック回路を形成することによりを行えば、接合部における電圧変動を抑制することが出来、筐体の電位変動を抑制することが可能となる。電圧変動抑制回路は概念的に図11のような負帰還回路にて表されるが、実際にはトランジスタやオペアンプ等の組み合わせによって実現可能となり、この構成に制限は無い。
【0020】
また、接合部電流を制御する方法として、これまでLやC等を用いたフィルタにより電流を筐体等の外部へ流さない方法について示してきたが、図12に示すように、抵抗などの損失の高い素子を用いて接合部電流を熱等へ変換する方法も考えられる。この時、抵抗等の高損失素子の抵抗値によって検出側のQ値(Quality factor)は変化する。接合部電流の電流強度はこの抵抗値を調整する事によって制御可能となる。
更に、図13に示すように接合部電流検出用のLと直列にコンデンサを挿入し、直列共振を発生させることによって、接合部電流の直列共振周波数成分のみを抵抗成分によって損失させることが可能となる。実際の不要電磁輻射対策時には、低減したい不要電磁輻射の周波数になるようにコンデンサの値を調整し、低減したい強度を抵抗値によって調整することとなる。この時、損失させる為の素子は抵抗だけに限らず、図14のように発光ダイオード等の電流を光に変える発光素子を用いても良く、これに制限は無い。このようにすることで、接合部電流を視覚的に捉える事ができ、不要電磁輻射対策の高効率化が期待できる。
【0021】
次に、これまでに示した構造などについての応用例を示す。
接合部電流検出用のコイル状導体と直列に挿入する電気的容量の実現方法としてはチップコンデンサの組み込み等が考えられるが、基板間の導体パターンによる平行平板コンデンサの容量を利用しても良い。
また、接合部フィルタ回路に用いる形状に制限は無い。インダクタンスはメアンダラインやスパイラル状のパターンにより実現しても良く、キャパシタンスは多層基板を利用して並行平板パターンとして実現しても良い。
また、これまでの説明に用いた回路基板、コイル状の導体パターン、引き出し部等は全てPCBを想定してきたが、全て材料等に制限はなく、セラミック基板を用いることで高周波特性における損失低減が可能となる。
また、コイル状の導体パターンのループ内部の透磁率を上げる為に、高透磁率材料や高誘電率材料を基板若しくはコイル状パターンの内部に用いても良い。これにより、接合部電流による誘起電圧が大きくなり、より微小な接合部電流でも検出可能となる。
また、これまでは一つの測定器に対して一つの接合部電流検出用コネクタを接続する事を想定していたが、図16に示すように複数の接合部電流検出部に対し、セレクタ等を用いる事によって複数箇所の接合部電流を切り替えながら測定する等してもよい。
また、引き出し部、コネクタ、ケーブルの接続方法に制限は無く、半田による接続や小型コネクタを用いた脱着式接続構造としても良い。このようにすることにより測定がより簡易になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】回路基板の構造の上面図及び断面図である。
【図2】測定装置の構成図である。
【図3】接合部電流の検出原理を示す図である。
【図4】回路基板の接合部フィルタを含む上面図である。
【図5】接合部電流検出を表わす等価回路図である。
【図6】接合部フィルタを表わす回路図である。
【図7】接合部電流のフィードバック機能部を表わす回路図である。
【図8】可変接合部フィルタを表わす回路図である。
【図9】可変接合部フィルタを表わす第二の回路図である。
【図10】接合部電位変動の検出系を表わす回路図である。
【図11】接合部電位変動のフィードバック機能部を表わす回路図である。
【図12】接合部電流制御回路を表わす回路図である。
【図13】接合部電流制御回路を表わす第二の回路図である。
【図14】接合部電流制御回路を表わす第三の回路図である。
【図15】第二の回路基板の構造の断面図である。
【図16】第二の測定装置の構成である。
【符号の説明】
【0023】
101:接合部、102:回路基板、103:GND、104:接合部電流検出用導体パターン、105:引き出し部、106:コネクタ、201:筐体、202:ケーブル、203:測定器、204:フィルタ又はアンプ、205:コンピュータ、301:接合部電流、302:磁界、401:接合部フィルタ、501:回路基板GND、502:筐体GND、701:電圧検出回路、801:可変インダクタンス、802:制御部、901:可変キャパシタンス、1001:電圧検出回路、1002:絶縁、1101:接合部品、1201:損失性素子、1301:コンデンサ、1401:発光素子、1501:導体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板であって、
筐体又は電子機器に実装するための貫通孔と、
前記貫通孔に垂直な面上でかつ前記貫通孔を中心とした円周に鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンと、
を有することを特徴とする回路基板。
【請求項2】
回路基板であって、
筐体又は電子機器に実装するための貫通孔と、
前記回路基板内で、前記貫通孔の周囲に形成された導体パターンと、
を有し、
前記導体パターンは、前記貫通孔に導体の接合部品が搭載され場合に、前記接合部品を流れる電流により生じる磁界の磁束と鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンであることを特徴とする回路基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回路基板であって、
前記回路基板は多層配線基板であり、
前記導体パターンの一部は前記多層配線基板内のビアであることを特徴とする回路基板。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の回路基板であって、
前記回路基板の第一の面上に設けられたグランドと、
前記グランドと電気的に接続され、前記貫通孔の開口部周縁に設けられた導体と、
前記グランドと前記導体との間に設けられたフィルタと、
を有することを特徴とする回路基板。
【請求項5】
請求項4記載の回路基板であって、
前記フィルタは可変フィルタであり、
前記導体パターンと前記フィルタとはフィードバック機能部を介して電気的に接続されていることを特徴とする回路基板。
【請求項6】
請求項5記載の回路基板であって、
前記可変フィルタは、可変インダクタンスであることを特徴とする回路基板。
【請求項7】
請求項5記載の回路基板であって、
前記可変フィルタは、可変キャパシタンスを含むことを特徴とする回路基板。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかに記載の回路基板であって、
前記フィードバック機能部は、
電圧検出回路と制御部とを有することを特徴とする回路基板。
【請求項9】
請求項8記載の回路基板であって、
前記制御部はマイコンであることを特徴とする回路基板。
【請求項10】
電子機器であって、
筐体と、
回路基板と、
前記筐体と前記回路基板とを接合する接合部品と、
を有し、
前記回路基板は、前記接合部品に垂直な面上でかつ前記接合部品を中心とした円周に鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンを有することを特徴とする電子機器。
【請求項11】
電子機器であって、
筐体と、
回路基板と、
前記筐体と前記回路基板とを接合する接合部品と、
を有し、
前記回路基板は、前記接合部品を流れる電流により生じる磁界の磁束と鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンを有することを特徴とする電子機器。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の電子機器であって、
前記回路基板は多層配線基板であり、
前記導体パターンの一部は前記多層配線基板内のビアであることを特徴とする電子機器。
【請求項13】
請求項10乃至12のいずれかに記載の電子機器であって、
前記回路基板には、前記導体パターンと引き出し部を介して電気的に接続され、外部の測定器とケーブルを介して接続しうるコネクタを有することを特徴とする電子機器。
【請求項14】
請求項10乃至13のいずれかに記載の電子機器であって、
前記回路基板の第一の面上に設けられたグランドと前記筐体のグランドとは、前記回路基板に設けられたフィルタを介して電気的に接続されていることを特徴とする電子機器。
【請求項15】
請求項14記載の電子機器であって、
前記フィルタは可変フィルタであり、
前記導体パターンと前記フィルタとはフィードバック機能部を介して電気的に接続されていることを特徴とする電子機器。
【請求項16】
請求項15記載の電子機器であって、
前記回路基板と前記筐体とは複数の箇所で接合部品により接合されており、
前記回路基板には、前記接合部品ごとに前記導体パターン及び前記フィルタ及び前記フィードバック機能部を有することを特徴とする電子機器。
【請求項17】
請求項16記載の電子機器であって、
前記フィードバック機能部は、電圧検出回路と制御部とを有することを特徴とする電子機器。
【請求項18】
請求項16記載の電子機器であって、
前記接合部品ごとの複数のフィードバック機能部は、前記接合部品ごとの複数の電圧検出回路に対して一の制御部を有することを特徴とする電子機器。
【請求項19】
請求項18記載の電子機器であって、
前記接合部品ごとに得られる接合部電流信号を前記一の制御部で収集し、これに基づいて一のフィルタ又は複数個のフィルタの特性を調整することを特徴とする電子機器。
【請求項20】
請求項14乃至20記載の電子機器であって、
前記フィルタは自動的に調整され、
電子機器による不要電磁輻射を自動的に低減することを特徴とする電子機器。
【請求項1】
回路基板であって、
筐体又は電子機器に実装するための貫通孔と、
前記貫通孔に垂直な面上でかつ前記貫通孔を中心とした円周に鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンと、
を有することを特徴とする回路基板。
【請求項2】
回路基板であって、
筐体又は電子機器に実装するための貫通孔と、
前記回路基板内で、前記貫通孔の周囲に形成された導体パターンと、
を有し、
前記導体パターンは、前記貫通孔に導体の接合部品が搭載され場合に、前記接合部品を流れる電流により生じる磁界の磁束と鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンであることを特徴とする回路基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回路基板であって、
前記回路基板は多層配線基板であり、
前記導体パターンの一部は前記多層配線基板内のビアであることを特徴とする回路基板。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の回路基板であって、
前記回路基板の第一の面上に設けられたグランドと、
前記グランドと電気的に接続され、前記貫通孔の開口部周縁に設けられた導体と、
前記グランドと前記導体との間に設けられたフィルタと、
を有することを特徴とする回路基板。
【請求項5】
請求項4記載の回路基板であって、
前記フィルタは可変フィルタであり、
前記導体パターンと前記フィルタとはフィードバック機能部を介して電気的に接続されていることを特徴とする回路基板。
【請求項6】
請求項5記載の回路基板であって、
前記可変フィルタは、可変インダクタンスであることを特徴とする回路基板。
【請求項7】
請求項5記載の回路基板であって、
前記可変フィルタは、可変キャパシタンスを含むことを特徴とする回路基板。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかに記載の回路基板であって、
前記フィードバック機能部は、
電圧検出回路と制御部とを有することを特徴とする回路基板。
【請求項9】
請求項8記載の回路基板であって、
前記制御部はマイコンであることを特徴とする回路基板。
【請求項10】
電子機器であって、
筐体と、
回路基板と、
前記筐体と前記回路基板とを接合する接合部品と、
を有し、
前記回路基板は、前記接合部品に垂直な面上でかつ前記接合部品を中心とした円周に鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンを有することを特徴とする電子機器。
【請求項11】
電子機器であって、
筐体と、
回路基板と、
前記筐体と前記回路基板とを接合する接合部品と、
を有し、
前記回路基板は、前記接合部品を流れる電流により生じる磁界の磁束と鎖交するように設けられたコイル状の導体パターンを有することを特徴とする電子機器。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の電子機器であって、
前記回路基板は多層配線基板であり、
前記導体パターンの一部は前記多層配線基板内のビアであることを特徴とする電子機器。
【請求項13】
請求項10乃至12のいずれかに記載の電子機器であって、
前記回路基板には、前記導体パターンと引き出し部を介して電気的に接続され、外部の測定器とケーブルを介して接続しうるコネクタを有することを特徴とする電子機器。
【請求項14】
請求項10乃至13のいずれかに記載の電子機器であって、
前記回路基板の第一の面上に設けられたグランドと前記筐体のグランドとは、前記回路基板に設けられたフィルタを介して電気的に接続されていることを特徴とする電子機器。
【請求項15】
請求項14記載の電子機器であって、
前記フィルタは可変フィルタであり、
前記導体パターンと前記フィルタとはフィードバック機能部を介して電気的に接続されていることを特徴とする電子機器。
【請求項16】
請求項15記載の電子機器であって、
前記回路基板と前記筐体とは複数の箇所で接合部品により接合されており、
前記回路基板には、前記接合部品ごとに前記導体パターン及び前記フィルタ及び前記フィードバック機能部を有することを特徴とする電子機器。
【請求項17】
請求項16記載の電子機器であって、
前記フィードバック機能部は、電圧検出回路と制御部とを有することを特徴とする電子機器。
【請求項18】
請求項16記載の電子機器であって、
前記接合部品ごとの複数のフィードバック機能部は、前記接合部品ごとの複数の電圧検出回路に対して一の制御部を有することを特徴とする電子機器。
【請求項19】
請求項18記載の電子機器であって、
前記接合部品ごとに得られる接合部電流信号を前記一の制御部で収集し、これに基づいて一のフィルタ又は複数個のフィルタの特性を調整することを特徴とする電子機器。
【請求項20】
請求項14乃至20記載の電子機器であって、
前記フィルタは自動的に調整され、
電子機器による不要電磁輻射を自動的に低減することを特徴とする電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−240162(P2007−240162A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58852(P2006−58852)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月7日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会2005年ソサイエティ大会講演論文集」に発表
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月7日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会2005年ソサイエティ大会講演論文集」に発表
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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