説明

接着性積層体

【課題】低温でのヒートシール性が良好で、かつブロッキングの生じにくい特徴を有する接着性積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】接着性樹脂を高分子乳化剤で乳化した水性エマルジョンを含む接着性樹脂組成物にフィラーを含有せしめ、フィルム状基材又はシート状基材の表面に塗工してなる加熱加圧接着型の接着性積層体であり、接着性樹脂100重量部に対し、高分子乳化剤を2〜40重量部含有すると共に、フィラーを0.1〜5重量部含有し、かつ、接着性樹脂組成物からなる接着剤層の厚みL1と、フィラーの体積平均粒径L2とが、所定の関係を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加熱加圧接着型の接着性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
紙やフィルム等に接着剤層を形成させた積層体に他の紙やフィルムを重ね合わせて加熱加圧(ヒートシール)することにより、両者を接着する接着剤は、種々のものが知られている。上記のような積層体の製造・保管に際しては、長尺の紙やフィルムに塗布された接着剤を乾燥した後には巻き取ってロール状にて保管されるのが通常である。
【0003】
このような接着剤は、有機溶剤を用いて製造されたものが多く、製造中や保管中の環境負荷の観点から問題がある。これに対し、近年、環境負荷を軽減する目的で、有機溶剤を用いず、水系エマルジョン化させた接着剤を用いることが検討されている (特許文献1)。
【0004】
また、省エネルギー、省力化を目的として、低温でヒートシールが可能な接着剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−049315号公報([0014])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、低温でのヒートシール性を改良するためには、通常接着剤の主剤となる樹脂を、より低温で軟化しやすい、柔軟なものにすることが一般的である。このような柔軟な樹脂を接着剤として用いた積層体を巻き取って保管した場合、積層体の接着剤未塗布面(裏面)が接着剤層と接することになるが、柔軟な低温軟化性の樹脂を使用した接着剤層では、両者が保管中に接着してしまう、「ブロッキング」と呼ばれる現象が発生して、ロール状に保管されていたものから巻き出す際に、接着による張力がかかるため、安定した巻き出しが困難となって、作業性が悪化したり、接着剤が裏面に転写して、ヒートシール性積層体の品質が低下したりするという問題があった。
【0007】
ブロッキングを防止するためには、脂肪酸系高融点ワックスやステアリン酸アミド等の高級脂肪酸アミド類を添加することが一般的に知られているが、樹脂種類によっては効果が出なかったり、あるいは接着性(ヒートシール性)を低下させたりすることがある。
【0008】
そこで、この発明は、低温でのヒートシール性が良好で、かつブロッキングの生じにくい特徴を有する接着性積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、接着性樹脂を高分子乳化剤で乳化した水性エマルジョンを含む接着性樹脂組成物に特定のフィラーを含有せしめた上で、フィルム状基材又はシート状基材の表面に塗工してなる加熱加圧接着型の接着性積層体であり、上記接着性樹脂100重量部に対し、上記高分子乳化剤を2〜40重量部含有すると共に、上記フィラーを0.1〜5重量部含有し、かつ、上記接着性樹脂組成物からなる接着剤層の厚みL1と、フィラーの体積平均粒径L2とが、下記式(1)の関係を有する接着性積層体とすることにより、上記課題を解決したのである。
0.1≦L1/L2<1 (1)
【発明の効果】
【0010】
この発明によると、特定粒径のフィラーを接着剤層に含有させるので、巻き取り時も積層体の接着剤未塗布面(裏面)と接着剤層との接触箇所が、フィラーの頂部のみとなり、両者の接触面積が低減する。このため、ブロッキングが生じるのを防止できる。
また、接着対象のフィルムやシート(接着対象シート等)とこの発明にかかる接着性積層体の接着剤層とを重ね合わせて加熱加圧したとき、接着対象シート等と、積層体の接着剤層にあるフィラーの頂部との接触部位に圧力が集中してかかるため、接着力がより向上する。これらから、この発明においては、塗膜厚さよりも粒径が大きいフィラーを有するにもかかわらず、接着性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明にかかる接着性積層体断面の模式図
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明にかかる接着性積層体は、接着性樹脂を高分子乳化剤で乳化した水性エマルジョンを含む接着性樹脂組成物を、基材となるフィルム状基材又はシート状基材(以下、「基材シート等」と称する。)の表面に塗布した加熱加圧接着型の接着性積層体である。
【0013】
上記接着性樹脂としては、接着性を有する樹脂をいい、基材や被着体の種類に応じて、熱可塑性樹脂を適宜選択して用いることができる。例えば、オレフィン系モノマー、ビニルエステル類、(メタ)アクリル系モノマーの単独重合体や共重合体等を挙げることができる。
【0014】
上記オレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン等のα−オレフィンがあげられる。また、上記ビニルエステル類としては、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル等があげられる。
【0015】
また、上記(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸及びそのアルキルエステル類、(メタ)アクリル酸2−メトキシメチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル類、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の重合性二塩基酸、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアルキルアミノ(メタ)アクリルエステル類等があげられる。
【0016】
上記熱可塑性樹脂は、単独又は複数を組み合わせて使用することができる。また、熱可塑性樹脂の性質を損なわない範囲で、添加剤を添加することができる。この添加剤としては、粘着付与剤、塩素化ポリオレフィン類、スチレン系ブロック共重合体及びその誘導体等があげられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリルまたはメタクリル」を意味する。
【0017】
上記粘着付与剤としては、ロジン及びその誘導体、テルペン及びその誘導体、脂肪族系炭化水素樹脂及びその誘導体等があげられる。上記塩素化ポリオレフィン類としては、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン等があげられる。上記スチレン系ブロック共重合体及びその誘導体としては、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、並びにこれらの水素添加物及び無水マレイン酸変性物等があげられる。
【0018】
上記熱可塑性樹脂水性エマルジョンの製造方法は、上記の熱可塑性樹脂を乳化・分散させることができれば特に限定されるものではない。例えば、以下のような方法があげられる。すなわち、まず、分散対象物質である接着性樹脂をトルエン等の有機溶剤に溶解し、これと乳化剤及び水系媒体を混合する。そして、ホモミキサー等の高速撹拌機で攪拌して分散対象物質の含有機溶剤分散液を製造する。次いで、有機溶剤を減圧蒸留等の操作によって脱溶剤して水性エマルジョンとする方法があげられる。また、接着性樹脂を溶融した状態で撹拌しながら乳化剤の水溶液を添加混合し、次いで水等の水系媒体を添加することにより、分散質を乳化剤、特に高分子乳化剤によって水系媒体中に乳化分散させてエマルジョンを製造する方法をあげることもできる。
【0019】
このとき、接着性樹脂として、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基やその無水物を含有する熱可塑性樹脂を用いる場合は、この熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度でアミン、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物等のアルカリ性物質と水系媒体中で接触させることにより分散液とする方法も挙げられる。
【0020】
上記の水系媒体とは、水や、水とメタノール、エタノール等の水と相溶可能な有機溶媒との混合溶液をいう。この中でも、特に、環境的な側面から水を用いるのが好ましい。
【0021】
本発明で用いる高分子乳化剤の、好ましい重量平均分子量は5,000〜1,000,000の範囲である。5,000未満であると、分散質である熱可塑性樹脂を安定に分散させるのが難しくなることがある。一方、1,000,000より大きくなると高分子乳化剤が水中に溶解しにくくなり、接着性樹脂組成物の水性分散液の安定性が悪くなる傾向がある。
【0022】
上記高分子乳化剤としては、アニオン性を示す高分子共重合体のアルカリ中和物、カチオン性を示す高分子共重合体の酸中和物、アニオン性とカチオン性を有する両性高分子乳化剤の中和物、ノニオン性水溶性高分子等があげられる。
【0023】
上記アニオン性を示す高分子乳化剤としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、酸性リン酸基などを有するものが用いられる。例えば、スルホン酸基含有単量体として、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。また、酸性リン酸エステル基含有単量体として、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート等が挙げられる。
【0024】
カルボキシル基含有単量体として好ましい単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリルまたはメタクリル」を意味する。
【0025】
アニオン性高分子乳化剤として特に好ましいものとしては、カルボキシル基を含有する単量体、特にマレイン酸を用いた共重合体、例えばスチレン−マレイン酸共重合体及びその部分エステルや、(メタ)アクリル酸を用いた共重合体、例えば、(メタ)アクリル系共重合体等があげられる。
【0026】
上記アニオン性高分子乳化剤中のアニオン性単量体由来の構造単位の含有量は、共重合成分として5モル%以上が必要で、10モル%以上が好ましい。5モル%より少ないと、高分子乳化剤としての安定化効果が低下する。一方、含有割合の上限は80モル%がよく、70モル%が好ましい。80モル%より多いと熱可塑性樹脂水性分散液の安定化効果が低下する傾向があり、さらには、得られる熱可塑性樹脂水性分散液の耐水性が低下し、また、乾燥皮膜が硬くなるため、低温ヒートシール性が低下したり、乾燥皮膜が、白濁したりする。
【0027】
また、上記アニオン性を示す官能基を、アルカリ性物質からなる中和剤で中和してもよい。この中和剤としては、アンモニアや水酸化ナトリウム等があげられる。中和剤は、アニオン性を示す官能基に対して60モル%〜150モル%使用することが望ましい。この範囲未満であったり、この範囲を超えて多く使用すると、いずれの場合も熱可塑性樹脂水性分散液の安定性が悪くなる傾向がある。
【0028】
これらの中でも、アニオン性高分子乳化剤として、特に好ましいものとしては、熱可塑性樹脂水性分散液から得られる皮膜の耐水性の観点から、皮膜に残存しにくい蒸気圧の高い中和剤、例えば、アンモニアを用いて中和した(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体があげられる。なお、これらのアニオン性高分子乳化剤は、2種類以上を併用しても構わない。
【0029】
次に、上記カチオン性を示す高分子乳化剤としては、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート−アルキル(メタ)アクリレート共重合体、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体等があげられる。特に(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキルのアルキルアミノ基で置換されるアルキル基の炭素数は1〜6の範囲にあることがよい。そして、このような(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキルの例としては、(メタ)アクリル酸N,N―ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル等があげられる。
【0030】
これらの中でも、熱可塑性樹脂分散液から得られる皮膜の耐水性の観点から、皮膜に残存しにくい蒸気圧の高い中和剤、例えば、蟻酸、酢酸を用いて中和した(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、カチオン性高分子乳化剤としてより好ましい。中和剤は、カチオン性を示す官能基に対して60モル%〜150モル%使用することが望ましい。この範囲未満であったり、この範囲を超えて多く使用すると、いずれの場合も熱可塑性樹脂水性分散液の安定性が悪くなる傾向がある。
【0031】
上記カチオン性高分子乳化剤中のカチオン性単量体由来の構造単位の含有量は、共重合性成分として1モル%以上が必要で、2モル%以上が好ましい。1モル%よりも少ないと分散安定性が低下する傾向がある。一方、含有割合の上限は85モル%がよく、80モル%が好ましい。85モル%より多いと、分散安定化効果が低下することがある。
【0032】
次に、上記両性高分子乳化剤は、(メタ)アクリル酸を主成分とするアニオン性単量体と(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキルを主成分とするカチオン性単量体とを含有する単量体混合物を共重合して得られる両性の高分子乳化剤である。両性系にすることで、アニオン性の高分子乳化剤としての硬さを抑えることができる。
【0033】
上記のアニオン性単量体とカチオン性単量体の合計モル比率は全単量体の25〜50モル%が好ましい。
【0034】
アニオン性単量体とカチオン性単量体とのモル比率が50/50にならない場合は、得られる高分子乳化剤は、より多い方の単量体に由来する液性を示す。
【0035】
両性高分子乳化剤においても、アニオン性を示す官能基をアンモニアや水酸化ナトリウム等のアルカリ性物質からなる中和剤で、またカチオン性を示す官能基を、蟻酸や酢酸等の酸性物質からなる中和剤で、それぞれ中和してもよい。いずれの場合も中和剤の使用量は、アニオン性又はカチオン性を示す官能基に対して60モル%〜150モル%使用することが望ましい。この範囲未満であったり、この範囲を超過したりすると、いずれの場合も熱可塑性樹脂水性分散液の安定性が悪くなる傾向がある。
なお、これらの両性高分子乳化剤は、2種類以上を併用しても構わない。
【0036】
上記ノニオン性水溶性高分子としては、部分ケン化ポリビニルアルコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体、ヒドロキシエチルセルロース等があげられる。特に、式(1)で示される反応性乳化剤が好ましい。
−(C2nO)m−R・・・・・(1)
なお、式中、Rは下記の2種類の基(a)及び(b)から選ばれる基を示し、Rは、Hまたは炭素数1〜4のアルキル基を示し、nは1〜3の整数を示し、mは4〜25の整数を示す。
(a)(メタ)アクリロイルオキシ基
(CH=CH−COO− または CH=C(CH)−COO−)
(b)(メタ)アクリロイルオキシエトキシ基
(CH=CH−COO−CH−CH−O− 又は CH=C(CH)−COO−CH−CH−O−)
【0037】
上記の式(1)に示されるようなノニオン系反応性乳化剤の具体例としては、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレートテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレートエトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングルコール(メタ)アクリレート等があげられる。これらのなかでもエチレングリコール基の繰り返し単位数が2〜25のポリエチレングリコール鎖を有するものが更に好ましい。繰り返し単位数が2より小さいと分散安定性が低下する。25よりも大きい場合は通常の温度において、親水基が固形化するため、十分な分散安定化効果が得られない場合がある。これらのノニオン性反応性乳化剤は、2種類以上を併用しても構わない。
【0038】
上記ノニオン性高分子乳化剤中のノニオン性単量体由来の構造単位の含有量は、共重合成分として5モル%以上が必要で、10モル%以上が好ましい。5モル%より少ないと、高分子乳化剤としての安定化効果が低下する。一方、含有割合の上限は100モル%がよい。
【0039】
上記各種の高分子乳化剤を構成する共重合体は、各成分をそれぞれ秤量し、次に、重合器に各成分を個別に添加して重合するか、または各単量体をあらかじめ混合した上で重合器に添加して重合することにより製造することが出来る。この共重合反応は、重合開始剤の存在下に0〜180℃、好ましくは40〜120℃で0.5〜20時間の条件で行われる。この共重合はエタノール、イソプロパノール、セロソルブなどの親水性溶媒や水又は水と前記親水性溶媒との混合溶媒を媒体として行うのが好ましい。
【0040】
この発明においては、上記高分子乳化剤に加えて、この発明の効果を阻害しない範囲内で、上記分子量範囲に満たない低分子量の乳化剤を用いてもよい。この低分子量の乳化剤としては、アニオン系乳化剤として、オレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等があげられる。また、ノニオン系乳化剤として、通常、分子量5,000以下のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸等があげられる。さらに、両イオン性乳化剤として、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等があげられる。
【0041】
上記高分子乳化剤の使用量は、得られる分散液の安定性及び皮膜の耐水性の点で、接着性樹脂100重量部に対して2〜40重量部が好ましい。さらに好ましくは3〜20重量部である。2重量部未満であると、熱可塑性樹脂水性分散液の安定性が低下するおそれがある。40重量部を超えると、耐水性が低下すると共にヒートシール性も悪化するおそれがある。
【0042】
上記の接着性樹脂組成物には、ブロッキング防止剤として特定粒径のフィラーを加えると共に、必要に応じて他の助剤を加えて塗工液とされる。そして、図1に示すように、このフィラー3を加えることにより、塗布・乾燥後、基材シート等1の上に形成された接着剤層2は、その表面に、凹凸が形成される。そして、フィラー3は、それ自体が露出することはなく、その表面及び周囲は、接着性樹脂で覆われる。フィラーの表面及び周囲が接着性樹脂に覆われるので、接着対象のフィルムやシート(接着対象シート等)を、フィラーが存在しない部分は勿論、フィラーの部分も、フィラーの周囲を覆う接着性樹脂によって接合することが可能となる。
【0043】
また、フィラーとしては、炭酸カルシウム、シリカ、チタニア、アルミナ等の無機フィラーや、種々の粒状高分子、例えばアクリルビーズ、スチレンビーズ、シリコンビーズ、ウレタンビーズ等の有機フィラーを用いることができる。このうち、塗膜形成時には、その形状を維持するが、加熱・加圧による圧着時は、ある程度の柔軟性や可塑性を示して接着面積を広くできる有機フィラーを少なくともフィラー成分の一部として用いることが好ましい。
【0044】
中でも、架橋したポリメタクリル酸メチル(架橋PMMA)や架橋ポリスチレン(架橋PS)の粒子は、粒径の調整や、粒子の柔軟性と形状保持性のバランス、あるいは接着性樹脂との親和性の点で特に好ましい。
【0045】
上記フィラーは、上記接着剤層を形成したとき、凸状部を形成することが必要である。このため、上記接着剤層の厚みをL1、フィラーの体積平均粒径をL2としたとき、下記式(1)の関係を有することが必要となる。
0.1≦L1/L2<1 (1)
L1/L2が1を超えると、凸部が小さくなるか、フィラーが接着剤層に埋没してしまい、ブロッキングが生じやすくなる傾向がある。一方、L1/L2が0.1より小さいと、フィラーの相対重量が大きくなり、塗工性が悪化したり、基材へのスジ引きなどがおこることがある。より好ましくは、0.25以上である。
【0046】
なお、上記フィラーの体積平均粒径は、(株)島津製作所製:SALD2200(レーザー回折散乱法)を用いて測定した。
【0047】
この発明にかかる接着性積層体が巻き取られる際には、フィラーは圧力を受けるが、この圧力でフィラーが破壊すると、この発明の効果を十分得られないことがあるので、フィラーは、通常の巻き取りや保管時に受ける圧力では破壊しない程度の硬さを有することが好ましい。
【0048】
上記フィラーの使用量は、上記接着性樹脂100重量部に対し、0.1〜5重量部が好ましい。さらに好ましくは0.25〜2.5重量部である。0.1重量部未満であると、ブロッキングが起こるおそれがある。5重量部を超えると、塗工外観が悪化するおそれがある。なお、本発明において、必要に応じて、上記粒径範囲外のフィラーを、接着性樹脂組成物に所望量添加することは、本発明の効果を阻害しない限り、何ら差し支えない。
【0049】
上記基材シート等は、特に限定されるものではなく、紙、織布、不織布、ポリオレフィン等の合成樹脂製のフィルムやシート等、任意のフィルムやシートを使用することができる。
【0050】
この発明にかかる接着性積層体は、まず、フィラーを含有する接着性樹脂組成物を調製し、次いで、基材シート等に塗工し、乾燥することにより製造することができる。フィラーを含有する接着性樹脂組成物は、接着性樹脂組成物を製造した後にフィラーを混合する方法、接着性樹脂を、高分子乳化剤を用いて乳化・分散して水性エマルジョンを製造する段階でフィラーを混合する方法等があげられる。
【実施例】
【0051】
以下、この発明を、実施例を用いてより具体的に示す。なお、この発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
<評価>
(接着性積層体の作製)
接着性樹脂組成物をOPPフィルム(フタムラ化学(株)製:FOS、厚さ:50μm、コロナ表面処理済み)のコロナ表面処理面に、表3又は表4に記載した所定の膜厚となるようにバーコーターを用いて塗布し、80℃×1分間の条件で乾燥し、接着性積層体を作製した。
【0053】
(ブロッキング性)
上記で作製した接着性積層体の塗布面と前記OPPフィルムのコロナ非処理面とを貼り合わせ40℃×0.1MPa・s×48時間放置して評価用サンプルとした。放冷後、手で180°方向に剥離し、その時の剥離感を評価した。
剥離感:○:抵抗感なく剥離する。
△:抵抗感と剥離音を少々発する。
×:抵抗感が強く、剥離音が大きい。
【0054】
(滑り性(静摩擦係数))
上記の接着性積層体を平面圧子に、上昇板にOPPフィルムをそれぞれ設置し、塗布面とOPPフィルム非処理面との滑り性を静摩擦係数測定機 新東科学(株)製:トライボギア TYPE10を用いて静摩擦係数を測定した。
【0055】
(接着強度)
上記の接着性積層体と前記OPPフィルムのコロナ処理面を重なるように載せた。その後、ヒートシールテスター(120℃×0.1MPa×1秒)を用いてヒートシールした。
ヒートシール後のサンプルを室温まで放冷した後、15mm巾に切り出し所定の剥離条件(200mm/min、剥離角90°)で剥離試験を実施し接着強度を測定した。
【0056】
(外観)
日本電色工業(株)製の濁度計(NDH5000)を用いて、拡散透過光の全光線透過光に対する割合からフィルムの濁度を求めた。
【0057】
<原材料>
((メタ)アクリル酸)
・アクリル酸…三菱化学(株)製、以下「AA」と略する。
・メタクリル酸…三菱レイヨン(株)製、以下「MAA」と略する。
【0058】
((メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキル)
・N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート…三洋化成工業(株)製、メタクリレートDMA、以下「DMA」と略する。
【0059】
(他の共重合単量体)
・メチルメタクリレート…三菱レイヨン(株)製、以下「MMA」と略する。
・ラウリルメタクリレート…三菱レイヨン(株)製、以下「SLMA」と略する。
・ブチルメタクリレート…三菱レイヨン(株)製、以下、「BMA」と略する。
・メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート ポリエチレングリコール繰り返し単位数9・・・日本油脂(株)製、以下「PME」と略する。
【0060】
[ブロッキング防止剤]
(フィラー)
・架橋PMMAビーズ(5μm)…ポリメチルメタクリレート架橋重合体ビーズ、積水化成品工業(株)製:テクポリマーMBX−5、体積平均粒子径:5μm
・架橋PMMAビーズ(8μm)…ポリメチルメタクリレート架橋重合体ビーズ、積水化成品工業(株)製:テクポリマーMBX−8、体積平均粒子径:8μm
・架橋PMMAビーズ(12μm)…ポリメチルメタクリレート架橋重合体ビーズ、積水化成品工業(株)製:テクポリマーMBX−12、体積平均粒子径:12μm
・架橋PMMAビーズ(20μm)…ポリメチルメタクリレート架橋重合体ビーズ、積水化成品工業(株)製:テクポリマーMBX−20、体積平均粒子径:20μm
・架橋PMMAビーズ(50μm)…ポリメチルメタクリレート架橋重合体ビーズ、積水化成品工業(株)製:テクポリマーMBX−50、体積平均粒子径:50μm
【0061】
・架橋性PSビーズ(8μm)…ポリスチレン架橋重合体ビーズ、積水化成品工業(株)製:SBX−8、体積平均粒子径:8μm
・架橋性PSビーズ(12μm)…ポリスチレン架橋重合体ビーズ、積水化成品工業(株)製:SBX−12、体積平均粒子径:12μm
【0062】
(滑剤)
・アミド系低分子滑剤…ステアリン酸アミド、日本化成(株)製:ダイヤミッド200(商品名)
【0063】
[その他]
・イソプロパノール…(株)トクヤマ製:トクソーIPA(登録商標)、以下「IPA」と略する。
【0064】
<接着性樹脂組成物>
(高分子乳化剤の製造)(EM1〜EM4)
冷却管、窒素導入管、攪拌機及びモノマー滴下ロート及び加熱用ジャケットを装備した150L反応器に表1に記載した各成分を表記の量仕込み、窒素置換後、内温を80℃まで昇温し、表1に記載した量の重合開始剤(2,2′−アゾビスイソブチロニトリル)を添加して、重合を開始した。内温を80℃に保って4時間重合を行った後、得られた共重合体を表に記載した量の中和剤で中和した後、イソプロパノール(IPA)を留去しながら水を添加して水系に転換し、粘ちょうなアクリル系共重合体からなるカチオン性高分子乳化剤(製造例1)、アニオン性高分子乳化剤(製造例2)、及び両性系高分子乳化剤(製造例3)の中和物の水溶液(以下「EM1」(製造例1)、「EM2」(製造例2)、「EM3」(製造例3)と称する。)を得た(収率はいずれも97%)。なおノニオン性高分子乳化剤は、中和不要であり、反応液からIPAを留去しながら水を添加して水系に転換し、粘ちょうなノニオン性高分子乳化剤(以下、「EM4」(製造例4)と称する。)を得た(収率97%)。
【0065】
【表1】

【0066】
(熱可塑性樹脂水性分散液の製造)(EM1−1〜EM4−1)
エチレンー酢酸ビニル共重合体(三井デュポンポリケミカル(株)製、商品名:エバフレックス220、酢酸ビニル含有量28重量%)70重量部、脂肪族飽和炭化水素樹脂(荒川化学工業(株)製、商品名:アルコンP100 軟化点100℃)30重量部を混合して、二軸押出機((株)池貝製:型式番号PCM45L/D=30、注入口:2箇所)のホッパーから、100重量部/時間の割合で押出機内に連続的に供給した。
次いで、押出機の第1の注入口から、表1に示す高分子乳化剤水溶液を固形分換算で10重量部/時間、第2の注入口から水84重量部/時間を連続的に供給し、バレル温度100℃の条件で押し出して乳白色の熱可塑性樹脂水性分散液を得た。得られた水性分散液に温水を添加し、表に示す固形分濃度になるように調整した。その結果を表2に示す。
各イオン性高分子乳化剤を用いて製造された熱可塑性樹脂水性分散液を、それぞれカチオン系「EM1−1」、アニオン系「EM2−1」、両性系「EM3−1」、及びノニオン系「EM4−1」と称する。
【0067】
【表2】

【0068】
(実施例1〜10、比較例1〜10)
(接着性樹脂組成物の製造)
500mlのガラス製ビーカーに表2に示す熱可塑性樹脂水性分散液を投入した。25mmのディスパーサー型攪拌翼(1500rpm)で攪拌しながら熱可塑性樹脂分散液の固形分に対して表3に示す量のブロッキング防止剤を添加し、引き続き5分間攪拌した。目的とする塗膜厚(乾燥後)を考慮して、組成物の塗工膜厚が添加したフィラーの粒子径以上となるように、IPAの添加量で分散液の固形分含有量を調整して、塗工用の接着性樹脂組成物を作成した。
得られた接着性樹脂組成物を用いて前記の評価を行った。その結果を表3及び表4に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【符号の説明】
【0071】
1 基材シート等
2 接着剤層
3 フィラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性樹脂を高分子乳化剤で乳化した水性エマルジョンを含む接着性樹脂組成物にフィラーを含有せしめ、フィルム状基材又はシート状基材の表面に塗工してなる加熱加圧接着型の接着性積層体であり、
上記接着性樹脂100重量部に対し、上記高分子乳化剤を2〜40重量部含有すると共に、上記フィラーを0.1〜5重量部含有し、
かつ、上記接着性樹脂組成物からなる接着剤層の厚みL1と、フィラーの体積平均粒径L2とが、下記式(1)の関係を有する接着性積層体。
0.1≦L1/L2<1 (1)
【請求項2】
上記フィラーが、粒状高分子からなる有機フィラーである請求項1に記載の接着性積層体。
【請求項3】
上記高分子乳化剤がアニオン性高分子乳化剤又はカチオン性高分子乳化剤である請求項1又は2に記載の接着性積層体。
【請求項4】
上記フィルム状基材又はシート状基材が、紙、織布、不織布、及び合成樹脂製フィルムのフィルム又はシートから選ばれる少なくとも一種である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接着性積層体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−201839(P2012−201839A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69368(P2011−69368)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】