説明

接着構造体及びそれを用いた水中移動装置

【課題】液体中の接着構造体とこの接着構造体を用いた水中移動装置を提供する。
【解決手段】接着構造体1は、基部2と、基部2上に形成される突起からなる気泡保持部3と、を備え、気泡保持部3は、水中で気泡9を保持する。気泡保持部3は、接着構造体1が挿入される液体5に対して接触角が大きい材料からなる。また、気泡保持部3に気泡9となる気体を送出する送風手段8を備えていてもよい。さらに、接着構造体1を用いた構造物を構成してもよい。さらに、上記の接着構造体1は、水中移動装置にも適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着構造体及びそれを用いた水中移動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中で固体表面同士を接着する場合、一般には吸盤(特許文献1及び特許文献2参照)や、水中で使用可能な接着剤(非特許文献1参照)などが利用されている。
【0003】
水中硬化タイプのエポキシ樹脂(特許文献3参照)や水中接着タンパク質(特許文献4及び特許文献5参照)などの接着剤は、水中下においても硬化し、高い接合強度を発現することができるが、その接合を剥離することは容易ではなく、一度剥がれると、再度固体表面同士を接着、つまり再接着することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−236912号公報
【特許文献2】特開2003−156586号公報
【特許文献3】特開2002−104860号公報
【特許文献4】特開2003−156586号公報
【特許文献5】特開2002−104860号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】特許マップシリーズ 一般21 接着、特許庁編、社団法人発明協会、p.71, 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
吸盤は、水中下でも使用でき再使用が可能ではあるが、剥離を迅速に行うのは困難である。吸盤を水中で移動させる場合、平坦な表面に吸着した状態では平行移動を容易に行うことができるが、起伏のある表面での移動は困難である。このため、水中のある表面に接合した物体を当該表面に沿って水中で移動させるには迅速な接着や剥離と表面の起伏に対応する仕組みが必要である。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み、液体中で繰り返し接着を行うことができる接着構造体を提供することを第一の目的とし、液体中の接着構造体を用いた水中移動装置を提供することを第二の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ハムシは陸上でのみ生息する昆虫であるが、ハムシが足の下に空気を固定し水中を自由に歩行することを発見し、ハムシは足の裏の剛毛に泡を固定し被着表面上と着脱を可能にしていることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
上記第一の目的を達成するため、本発明の接着構造体は、基部と基部上に形成される突起からなる気泡保持部とを備え、気泡保持部は、水中で気泡を保持することを特徴とするものである。
【0010】
上記構成において、気泡保持部は、好ましくは、接着構造体が挿入される液体に対して接触角が大きい材料からなる。
さらに、好ましくは気泡保持部に気泡となる気体を送出する送風手段を備えている。
【0011】
さらに、本発明の構造物は、上記の何れかに記載された接着構造体を用いたことを特徴とする。
【0012】
上記第二の目的を達成するため、本発明の接着構造体を用いた水中移動装置は、上記の何れかに記載された接着構造体を用いたことを特徴とする。
【0013】
上記構成において、接着構造体を車輪に配設するようにしても、或いは、キャタピラーに配設するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の接着構造体によれば、接着構造体の気泡保持部と液体中に配置された基板とを気泡保持部に保持した泡の力で接着することができ、かつ繰り返し接着することができる。
【0015】
本発明の接着構造体を用いた水中移動装置によれば、液体中の通路を自由に走行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る接着構造体を模式的に示す図であり、それぞれ、(A)は斜視図、(B)は(A)のI-I線に沿う断面を示している。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る接着構造体を水中の物体に接着させる手法を模式的に示す図である。
【図3】接着側を被着側の表面に対して垂直に被着側から離れるように引いた時の気泡の体積の変化を模式的に示す図であり、それぞれ、(A)は引く前の接着構造体と基板との断面図、(B)は引く前の気泡保持部の透視上面図、(C)は垂直に引いた時の接着構造体と基板との断面図、(D)は垂直に引いた時の気泡保持部の透視上面図を示している。
【図4】接着構造体と基板との間に挿入される気泡の体積が不十分な場合を示す模式図であり、それぞれ(A)は気泡が極めて少ない場合を、(B)は気泡が少ない場合を示している。
【図5】接着構造体の外部から気泡を供給する方法を説明するための図であり、それぞれ、(A)は単一の空気供給口を用いる場合、(B)は複数の空気供給口を用いる場合を示している。
【図6】基板の外部から気泡を供給する別の方法を説明するための図であり、(A)は疎水性の基板上に送風手段で気泡を供給している図であり、(B)は(A)の気泡が付着された基板に接着構造体を載置させた図である。
【図7】接着構造体の基部側から気泡を供給する場合を示す断面図であり、(A)は単一の空気供給口を用いる場合、(B)は複数の空気供給口を用いる場合を示している。
【図8】接着構造体を用いて構造物を水中で固定する場合の応用例1を説明するための図であり、(A)は接着構造体の接着面積の小さい場合、(B)は接着構造体の接着面積の大きい場合を示している。
【図9】構造物の基板接着面積の小さい接着構造体を用いた構造物の応用例2を示す断面図であり、(A)は接着前の状態、(B)は接着構造体の基板への移動の状態、(C)は基板から接着構造体を剥がしている状態を示している。
【図10】接着構造体を用いた構造物が図9よりも大きい場合を示している。
【図11】接着構造体を用いた構造物の応用例3を示す図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図12】接着構造体の気泡保持部の変形例を示す部分図であり、それぞれ、(A)は変形例1の上面図、(B)は(A)の側面図、(C)は変形例2の上面図、(D)は(C)の側面図、(E)は変形例3の上面図、(F)は(E)の側面図を示している。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る接着構造体1を用いた水中移動装置の模式図であり、それぞれ(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図14】水中移動装置の変形例の動作を示す模式図であり、それぞれ(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図15】水中移動装置の変形例の動作を示す模式図であり、それぞれ(A)は正面図、(B)は側面図である。
【図16】基部上に形成された気泡保持部の模式的な拡大断面図である。
【図17】基部上に形成された気泡保持部の拡大斜視図である。
【図18】基部に対する気泡保持部の密度を示す図であり、それぞれ(A)は密度が44本/cm、(B)は密度が22本/cm、(C)は密度が11本/cmを示している。
【図19】接着構造体に気泡を形成したときの様子を示す図であり、それぞれ(A)は光学像、(B)は光学像の説明図である。
【図20】接着構造体と基板を接着したときの気泡の体積と、付着力の関係を示す図である。
【図21】基板の水に対する接触角と基板を接着したときの付着力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る接着構造体1を模式的に示す図であり、それぞれ、(A)は斜視図、(B)は(A)のI-I線に沿う断面を示している。
図1に示すように、接着構造体1は、基部2と基部2上に形成された気泡保持部3とから構成されている。基部2と気泡保持部3は、接着構造体1が挿入される液体5に対して接触角の大きい材料からなる。液体5が水や海水の場合には、接着構造体1の材料は撥水性が高い樹脂を使用することができる。撥水性が高い材料の水5に対する接触角は大凡90°以上である。
【0018】
このような撥水性が高い樹脂としては、シリコーン樹脂やフッ素樹脂や疎水性ポリマーを用いることができる。
【0019】
気泡保持部3は、複数の突起3Aからなる。各突起3Aは、図1(A)に示すように基部2の上面から上方へ真直ぐに延びるように形成されている。突起3Aの1本の直径は600μm程度であり、各突起3Aは上方へ行くにつれて直径が次第に小さくなるように形成されている。突起3Aの1本の基部2上面からの高さ、つまり突起の長さは2.5mm程度である。気泡保持部3の突起数は、基部2に対して、後述する空気等の気体からなる泡、つまり気泡が十分に保持できる空間7が確保されるようにすればよい。
【0020】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る接着構造体1を水5中の物体6に接着させる手法を模式的に示す図である。
先ず、図2に示すように、接着構造体1を水5中の下部に配設された物体6上に載置する。ここでは、説明のため物体6は基板であるとする。接着構造体1は、気泡保持部3側の面を物体6に対向させるようにして、物体6の平坦な面上に載せられる。
次に、接着構造体1の気泡保持部3と基板6との間の領域、つまり空間7へ送風手段8によって気体8Aを送り込む。
これにより、気泡保持部3と基板6との間の領域に泡、つまり気泡9が形成される。気体8Aは例えば空気である。送風手段8は、例えば注射器や送風用ポンプを使用することができる。接着構造体1の気泡保持部3と基板6との間に生じる気泡9によって接着構造体1と基板6とが接着される。つまり、接着構造体1と基板6とは、気泡保持部3内の気泡9によって接着されている。本発明では、気泡9を気泡保持部3によって保持する接着構造体1を接着側と呼び、接着構造体1が接着する対象物である基板6を被着側とも称する。
【0021】
接着構造体1と基板6との剥離強度を、気泡9の付着力と呼ぶことにする。この気泡9の付着力は、接着側の基部2の気泡保持部3が形成される側の表面2A、接着側の突起3A、そして被着側の表面6Aで囲まれた空間7に存在する気泡9の表面張力Ftとラプラス力Fpと気泡9を引っ張った時の体積変化による内圧の変化ΔPにより生じている。気泡9の付着力は内部圧力の負圧が大きいほど大きくなる。気泡保持部3の長さが一定の場合には、気泡9の体積量に対して気泡9の付着力は直線的に比例する。気泡9は、接着側表面2Aと被着側表面6Aの両方に接することができる体積が必要である。気泡9が接着側の表面2Aと被着側の表面6Aの両方に接していない場合には、付着力の起源である圧力減少が生じない。
【0022】
図3は、接着側を被着側の表面に対して垂直に被着側から離れるように引いた時の気泡9の体積の変化を模式的に示す図であり、それぞれ、(A)は引く前の接着構造体1と基板6との断面図、(B)は引く前の気泡保持部3の透視上面図、(C)は垂直に引いた時の接着構造体1と基板6との断面図、(D)は垂直に引いた時の気泡保持部3の透視上面図を示している。
図3(A)から図3(C)に示すように、接着側を表面に対して垂直に引いた時、気泡9の体積が増加する。気泡9の体積増加により内部圧力は減少し付着力が増加する。接着側の表面2Aと接触する気泡9の端部9Aは、内部圧力減少を緩和させる方向、つまり図中の矢印Pで示すように移動する。図3(B)及び図3(D)は、突起3Aの最も外側の様子を示しており、突起3A間を結ぶ実線が気泡9の端部9Aである。
これにより、気泡保持部3は気泡9を接着側に固定するのみならず、圧力減少による端部9Aの変移を抑える役割を果たしている。この際、気泡9の端部9Aの変移は、被着側の表面エネルギーないしは表面の濡れ性に影響される。
【0023】
接着側と被着側の疎水性が低い方の表面と接している気泡9の端は変移し易い。このため、接着側に気泡9を固定したい場合は、被着側よりも疎水性の高い素材で表面及び気泡保持部3の構造を作製する必要がある。
【0024】
接着構造体1の気泡9による接着強度は、接着側の材料の性質と被着側の材料の性質に依存し、液体5が水の場合には、疎水性の表面への吸着強度の方が親水性の表面への吸着より高くなる。被着側表面6Aが疎水性、つまり水との濡れ性が低い特性を有する材料は、気泡9と被着側表面6Aの界面エネルギーが高いため、気泡9の端部9Aの変移による気泡9と被着側表面6Aの界面エネルギーの減少が大きくなる。このため、気泡9の付着力が高くなる。
【0025】
逆に、濡れ性の高い被着側表面6Aは、気泡9と基板6の間に薄い水の膜ができ付着力が弱くなったり、気泡9の端部9Aの変移による泡9と被着側表面6Aの界面エネルギー減少が小さく、上記の変移が小さい力で生じるため付着力は弱くなり、好ましくない。
【0026】
基部2の表面上に形成する気泡保持部3は、気泡9が気泡保持部3の基板6に達する長さ以下とする。つまり、接着構造体1が気泡を保持している状態で突起3Aが気泡9から突出しない長さに設定されている。この場合、接着側の表面6Aに気泡9が接している状態である。気泡9は接着側の突起3Aの根元から先端までに達し、基部2の表面上に広がる量とすればよい(図2参照)。図2では、気泡9が接着側の母体、つまり、接着構造体1の基部2に接触しているので、気泡9による接着力は高くなる。
【0027】
気泡保持部3により保持された気泡9の接着強度は、気泡9の気液界面と接する突起3Aの密度には依存しない。ただし、突起3Aの密度の高さは接着側への気泡9の固定し易さに効果的である。気泡保持部3により保持された気泡9の接着強度は、気泡9の体積に依存する。
【0028】
図4は、接着構造体1と基板6との間に挿入される気泡9の体積が不十分な場合を示す模式図であり、それぞれ(A)は気泡9が極めて少ない場合を、(B)は気泡9が少ない場合を示している。
図4(A)及び(B)は、何れも、気泡9が接着側の母体、つまり、接着構造体1の基部2と被着側とに接触していないので、気泡9による接着力は低く、望ましくない。
【0029】
次に、接着構造体1への気泡9の供給について説明する。
図5は、接着構造体1の外部から気泡9を供給する方法を説明するための図であり、それぞれ、(A)は単一の空気供給口を用いる場合、(B)は複数の空気供給口を用いる場合を示している。
図5(A)に示す送風手段8は、単一の空気供給口から接着構造体1の気泡保持部3へ気泡9を供給するので、比較的面積の小さい接着構造体1に適している。
一方、図5(B)に示す送風手段8は、複数の空気供給口から接着構造体1の気泡保持部3へ気泡9を供給するので、比較的面積の大きい接着構造体1に適している。
【0030】
さらに、接着構造体1への気泡9の別の供給方法について説明する。
図6は、基板6の外部から気泡9を供給する別の方法を説明するための図であり、(A)は疎水性の基板6上に送風手段8で気泡9を供給している状態を、(B)は(A)の気泡9が付着された基板6に接着構造体を載置させた状態を示す。
図6(A)に示すように、水中に置かれた疎水性の基板6上に送風手段8としてピペットを用い、気泡9を基板6の表面に付ける。
次に、図6(B)に示すように、気泡9が付着した基板6の表面に接着構造体1を接触させる。このとき、基板6側の気泡を接着構造体1の接着側の表面2Aに接触させる。これにより、気泡9を接着構造体1の突起3Aの間に固定し、接着構造体1を基板6に固定できる。さらに、接着構造体1を基板6から剥がし、気泡9を基板6から接着構造体1に移動させることもできる。
【0031】
図6(B)に示すように、構造物12に接着構造体1を付けると、構造物12を水中の基板6の表面に固定することができる。構造物12は何でもよい。
【0032】
図7は、接着構造体1の基部2側から気泡9を供給する場合を示す断面図であり、(A)は単一の空気供給口を用いる場合、(B)は複数の空気供給口を用いる場合を示している。
図7(A)に示すように、接着構造体1の基部2は接着構造体1に固定される構造物12に配設されている。送風用の通路14は、接着構造体1の構造物12から基部2を貫通するように配設されている。空気は、送風手段8から送風用の単一の通路14を介して気泡保持部3に供給され気泡9が形成されるので、比較的面積の小さい接着構造体1に適している。
一方、図7(B)では、接着構造体1の基部2には複数の送風用の通路14が配設されている。空気は、送風手段8から送風用の複数の通路14を介して気泡保持部3に供給されて複数の気泡9が形成されるので、比較的面積の大きい接着構造体1に適している。
【0033】
(接着構造体1を用いた構造物12の水中固定方法の応用例1)
図8は、接着構造体1を用いて構造物12を水中で固定する場合の応用例1を説明するための図であり、(A)は接着構造体1の接着面積の小さい場合、(B)は接着構造体1の接着面積の大きい場合を示している。
図8(A)及び(B)に示すように、接着構造体1の基部2は構造物12の下部に固定するように配設されており、水5中の基板6に気泡9を介して接着されている。
図8(A)に示す接着構造体1は、構造物12の取付位置の寸法と同じ寸法に構成されており、図8(B)に示す接着構造体1は、構造物12の取付位置の寸法よりも大きく形成されている。この場合、図8(B)に示す接着構造体1では、図8(A)に示す接着構造体1よりも、構造体6に対する付着力を大きくすることができる。このように、基部2や気泡保持部3の大きさは、水5中の基板6に接着させる構造物12の大きさに応じて決めればよい。
【0034】
(接着構造体1を用いた構造物12の応用例2)
図9は、構造物の基板接着面積の小さい接着構造体を用いた構造物の応用例2を示す断面図であり、(A)は接着前、(B)は接着構造体の基板6への移動、(C)は基板6から接着構造体を剥がしているところを示している。
図9(A)に示すように、接着構造体1を用いた構造物12において、気泡保持部3に気泡9を形成する。
【0035】
次に、図示しないが、人力又は動力を用いて、接着構造体1を用いた構造物12を液体中の基板6に載置することによって、接着構造体1を用いた構造物12を液体中の基板6に接着することができる。
【0036】
次に、図9(B)に示すように、構造物12を人力又は動力を用いて移動することによって、液体中の基板6を任意の場所に移動することができる。
【0037】
接着構造体1を用いた構造物12を液体中の基板6から剥離する場合には、図9(C)に示すように、構造物12の一端に人力又は動力を用いて力(F)を印加することによって、接着構造体1を用いた構造物12を液体中の基板6から容易に剥離することができる。
【0038】
図10は、接着構造体1を用いた構造物12が図9に示すものよりも大きい場合を示している。接着構造体1を用いた構造物12が複数の気泡保持部3を有する以外は、図9の場合と同様である。
【0039】
(接着構造体1を用いた構造物12の応用例3)
図11は、接着構造体1を用いた構造物12の応用例3を示す図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
図11に示すように、接着構造体1を用いた構造物12は、楕円形状の構造物12が複数の脚部16を介して接着構造体1に接続されている。これにより、立体形状の構造物12を、液体中の基板6に接着することができる。つまり、立体形状の構造物12を、接着構造体1を介して液体中の基板6に固定することができる。さらに、上記した構造物12の基板6への接着と剥離を繰り返して行うことによって、構造物12を基板6の表面上で移動させることが可能となる。
【0040】
(気泡保持部3の変形例)
図12は、接着構造体1の気泡保持部3の変形例を示す部分図であり、それぞれ、(A)は変形例1の上面図、(B)は(A)の側面図、(C)は変形例2の上面図、(D)は(C)の側面図、(E)は変形例3の上面図、(F)は(E)の側面図を示している。
図12(A)及び(B)に示す接着構造体1は、屈折している細長い突起3Aの先端に突起3Aの長さ方向と異なる方向へ延出した延長部3Bを有する。この延長部3Bは接着表面6Aに平行な突片として形成されている。
図12(C)、(D)に示す接着構造体1は、延長部3Bが針先状に形成されている。
図12(E)、(F)に示す接着構造体1は、延長部3Bが雨滴型に形成されている。
なお、図12(C)〜(F)に示す接着構造体1では、突起3Aが傾斜して形成されている。
【0041】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る接着構造体1を用いた水中移動装置20について説明する。
図13は、本発明の第2の実施形態に係る接着構造体1を用いた水中移動装置20の模式図であり、それぞれ(A)は正面図、(B)は側面図を示している。
図13に示すように、接着構造体1を用いた水中移動装置20は、車両と類似の構造を有しており、シャーシ21上に配設される2つの車軸22と、この2つの車軸22の両端に接続される4つの車輪23と、この4つの車輪23のそれぞれの表面全面に配設される接着構造体1と、これらの接着構造体1に気泡9となる気体8Aを送出する送風手段8等から構成されている。
図13(A)に示すように、水中移動装置の接着構造体1の気泡保持部3に送風手段8から気泡9が供給されることによって、4つの車輪23の基板6との接触部は、基板6に接着される状態となる。
さらに、図13(B)に示すように、車軸22が進行方向に回転すると、接着構造体1の気泡保持部3において、基板6に接触していない部分は剥離するので、車輪23の進行と共に気泡保持部3は基板6上を回転移動する。
【0042】
(第2の実施形態の変形例1)
本発明の第2の実施形態に係る接着構造体1を用いた水中移動装置の変形例1について説明する。
図14は、水中移動装置変形例20Aの動作を示す模式図であり、それぞれ(A)は正面図、(B)は側面図である。
図14に示すように、この水中移動装置20Aが図13の水中移動装置20と異なるのは、図13の車輪23に部分的に接着構造体1を設けた点にある。つまり、本実施形態では、車輪23の外周に複数の接着構造体の端部が、車輪23の表面に固定されて取り付けられている。
図14(B)に示すように、接着構造体1が進行方向に回転すると、接着構造体1の進行と共に気泡保持部3は基板6上で接着しつつ移動する。
【0043】
(第2の実施形態の変形例2)
本発明の第2の実施形態に係る接着構造体1を用いた水中移動装置20Bの変形例について説明する。
図15は、水中移動装置の変形例20Bの動作を示す模式図であり、それぞれ(A)は正面図、(B)は側面図である。
図15に示すように、この水中移動装置が図13の水中移動装置20と異なるのは、図13の車輪23の代わりにキャタピラー25を用いた点にある。このキャタピラー25のベルト25Aが接着構造体1で構成され、ベルト25Aの表面から複数の突起3Aが突出しており、この突起3Aによって気泡9がベルト表面に保持される。図15(B)に示すように、キャタピラー25が進行方向に回転すると、キャタピラー25の進行と共に気泡保持部3は基板6上を回転移動する。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。
接着構造体1を用意した。接着構造体1は、シリコーンラバーからなり、基部2のサイズは18mm×18mmで厚さは2mmである。
図16は、基部2上に形成された気泡保持部3の模式的な拡大断面図であり、図17は、基部2上に形成された気泡保持部3の拡大斜視図である。
図16及び図17に示すように、気泡保持部3は、直径が600μmで長さが2.4mmの針形状を有しており、例えば1.5mm間隔で配設されている。突起3Aの先端の曲率半径は、210μmである。気泡保持部3の間隔を変えることによって、気泡保持部3の基部2に対する密度を変えた。
【0045】
図18は、基部に対する気泡保持部3の密度を示す図であり、それぞれ(A)は密度が44本/cm、(B)は密度が22本/cm、(C)は密度が11本/cmを示している。
【0046】
図19は、接着構造体1に気泡9を形成したときの様子を示すもので、それぞれ(A)は光学像、(B)は光学像の説明図である。気泡9は、気泡保持部3に注射器を用いて送風して形成した。
図19に示すように、基部2上に形成された気泡保持部3の内側に気泡9が形成されていることが分かる。このような気泡9の1つの体積は、0.1ml(10―4リットル)、0.2ml、0.3ml、0.4ml程度とした。
【0047】
基板6としては、低粘度メタクリレート樹脂板、疎水性物質(LIPOCER)を表面にプラズマCVDを用いて堆積したLIPOCERコート層付きポリカーボネート板、親水性物質(AQUACER)を表面にプラズマCVDを用いて堆積したAQUACERコート層付きポリカーボネート板、ガラス板等を使用し、これらの基板6に実施例の接着構造体1を接着した。
ここで、接着構造体1を基板6の垂直方向に引くと、気泡9による吸着力を検出することができる。接着構造体1を繰返し基板6と接触させても、気泡9の位置は変化せず、その都度吸着力を発揮することを確認した。
【0048】
図20は、接着構造体1と基板6を接着したときの気泡9の体積と、付着力の関係を示す図である。図20の横軸は体積(ml)を、縦軸は付着力(mN)を示している。この測定に用いた基板6はポリスチレン基板である。
接着力は、力センサーを用いて測定した。具体的には、基板6に対して垂直方向に接着構造体1を引いて接着力を測定した。力センサーの測定値から気泡9が無いとき、つまり気泡の体積がゼロのときの接着構造体1の重さを引き、気泡の浮力を加算した力を、接着構造体1の基板6に対する接着力とした。
図20から明らかなように、接着構造体1の基板6への付着力は、気泡保持部3に形成される気泡9の体積に比例して、1.4mN〜9.8mNとなり、気泡9の体積の増加に伴い直線的に接着力が増加することが分かった。
【0049】
図20には、図18の突起3Aの密度A、B、Cに相当するデータも示しており、突起3Aの密度は付着力には大きな影響を及ぼさないことが分かった。
【0050】
次に、基板6を代えて気泡9の吸着力を調べた。
図21は、基板6の水5に対する接触角と基板6を接着したときの付着力との関係を示す図である。図21の横軸は接触角(°)を、縦軸は付着力(mN)を示している。基板6としては、AQUACERコート層付きポリカーボネート板(接触角20°〜30°)、ガラス板(接触角40°)、ポリスチレン(接触角98°)、低粘度メタクリレート樹脂板(接触角104°)、LIPOCERコート層付きポリカーボート板(接触角106°)を使用し、これらの基板6に実施例の接着構造体1を接着した。
図21から明らかなように、接着構造体1の基板6への付着力は、水滴の接触角に依存しており、接触角が大きいほど、特に90°以上のポリスチレン、低粘度メタクリレート樹脂板、LIPOCERコート層付きポリカーボート板の場合には付着力が高くなることが判明した。
【0051】
(比較例)
実施例の基部2単体を比較例とした。つまり、比較例は、接着構造体1の基板6から気泡保持部3を除去した基板6の単体である。この比較例では、気泡9を吹き付けても比較例と基板6との間には吸着力は検出されず、気泡9の位置も変化することが判明した。
【0052】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の接着構造体1及びこれを用いた構造物12によれば、水中での物質の移動や気泡の移動に利用することができる。
【0054】
本発明の接着構造体1を用いた水中移動装置20,20A,20Bによれば、水中に配設された基板6等の表面を移動するロボット等に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1:接着構造体
2:基部
2A:表面6A
3:気泡保持部
3A:突起
5:水
6:基板
6A:表面
7:空間
8:送風手段
8A:気体
9:気泡
9A:端部
12:構造物
14:送風用の通路
16:脚部
20,20A,20B:水中移動装置
21:シャーシ
22:車軸
24:車輪
25:キャタピラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、該基部上に形成される突起からなる気泡保持部と、を備え、
上記気泡保持部は、水中で気泡を保持することを特徴とする、接着構造体。
【請求項2】
前記気泡保持部は、前記接着構造体が挿入される液体に対して接触角が大きい材料からなることを特徴とする、請求項1に記載の接着構造体。
【請求項3】
さらに、前記気泡保持部に気泡となる気体を送出する送風手段を備えたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の接着構造体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の接着構造体を用いたことを特徴とする、構造物。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載の接着構造体を用いたことを特徴とする、水中移動装置。
【請求項6】
前記接着構造体が、車輪に配設されていることを特徴とする、請求項5に記載の水中移動装置。
【請求項7】
前記接着構造体が、キャタピラーに配設されていることを特徴とする、請求項5に記載の水中移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図20】
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【図21】
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【図14】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−246076(P2011−246076A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123626(P2010−123626)
【出願日】平成22年5月29日(2010.5.29)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】