説明

接触力制御装置及び集電装置の接触力制御装置

【課題】接触部と被接触部との間の接触力を簡単に制御することができるとともに、接触部の動作にかかわらず押付力を略一定にすることができる接触力制御装置及び集電装置の接触力制御装置を提供する。
【解決手段】主制御装置10が電流指令値を接触力制御部2に出力すると、駆動部5aと被駆動部5eとが磁力によって連結される。押付力発生部3の駆動モータ3aが回転駆動して駆動部5aが回転すると、駆動部5aから被駆動部5eに継続して略一定の大きさのトルクが伝達される。その結果、被駆動部5eから軸継手部6及び歯車機構部7を通じてガイド装置11に押付力が伝達され、トロリ線試験片P2にすり板試験片P1が略一定の押付力で押し付けられる。駆動部5aと被駆動部5eとの間の磁力を可変すると、駆動部5aから被駆動部5eに伝達されるトルクも可変し、トロリ線試験片P2とすり板試験片P1との間の接触力が変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、接触部と被接触部との間の接触力を制御する接触力制御装置、及び集電装置の集電部とこの集電部が接触する電車線路との間の接触力を制御する集電装置の接触力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
接触部を被接触部に接触させながら移動する摺動装置には、架線のトロリ線に電気鉄道用のパンタグラフのすり板を接触させる集電装置や、導電レールに集電靴を接触させる第三軌条式の集電装置をはじめとして、モータ用のブラシ、クレーンやエレベータの集電装置など様々な形態の装置がある。これらの集電装置は、一般にばねやダンパを用いた受動的な緩衝機構で摺動するものが殆どである。従来の集電装置は、車体に固定された固定脚部と、この固定脚部に対して摺動自在に挿入された可動脚部と、この可動脚部に取り付けられて架線のトロリ線と接触する集電板と、この集電板をトロリ線に押し付ける押付用ばねなどを備えている(例えば、特許文献1参照)。このような従来の集電装置では、一定の押付力を得るために、比較的ばね定数の小さい押付用ばねが使用される場合が多い。
【0003】
また、架線のトロリ線を模擬した模擬トロリ線に、パンタグラフのすり板を模擬した模擬すり板を摺動させて、模擬トロリ線又は模擬すり板の摩耗状態を測定する集電摩耗試験装置がある。従来の集電摩耗試験装置は、外周部に模擬トロリ線を取り付けた状態で中心軸回りに回転する回転板と、この模擬トロリ線と接触する模擬すり板を支持する支持板と、模擬トロリ線に模擬すり板が押し付けられるように支持板を回転板に向かって付勢するばねなどを備えている(例えば、特許文献2参照)。このような従来の集電摩耗試験装置では、従来の集電装置と同様に、一定の押付力を得るために、比較的ばね定数の小さいばねが使用される場合が多い。
【0004】
【特許文献1】特開平6-153308号公報
【0005】
【特許文献2】特開2004-93137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の集電装置及び従来の集電摩耗試験装置では、あらかじめ使用前に押付力を変更することは可能であるが、例えば走行中や試験中に速度に応じて押付力を変更するなど、使用中に押付力の変更や制御を行うことはできない問題点がある。このような問題点を解決するために、接触力を制御しながら摺動を行う集電装置が電気鉄道用のパンタグラフとして一部開発されているが、実用レベルには達していない。また、電気鉄道のパンタグラフや集電靴では、離線によるアーク発生や過大な接触力によってトロリ線や集電レールの摩耗が起こることがわかっており、この摩耗が保守のためのコストに大きく影響してしまう問題点がある。
【0007】
この発明の課題は、接触部と被接触部との間の接触力を簡単に制御することができるとともに、接触部の動作にかかわらず押付力を略一定にすることができる接触力制御装置及び集電装置の接触力制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図1及び図2に示すように、接触部(P1)と被接触部(P2)との間の接触力を制御する接触力制御装置であって、前記接触部を前記被接触部に押し付ける押付力を発生する押付力発生部(3)と、前記押付力発生部側から前記接触部側に前記押付力を伝達する押付力伝達部(5)とを備え、前記押付力伝達部は、前記押付力を可変して伝達可能であることを特徴とする接触力制御装置(2)である。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の接触力制御装置において、前記押付力伝達部は、前記接触部側から前記押付力発生部側に伝達しようとする前記押付力とは逆方向の力を緩和することを特徴とする接触力制御装置である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の接触力制御装置において、前記押付力伝達部は、前記接触部の動作にかかわらず、前記押付力発生部側から前記接触部側に前記押付力を略一定に伝達することを特徴とする接触力制御装置である。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の接触力制御装置において、図3に示すように、前記押付力伝達部は、前記押付力発生部側の駆動部(5a)と前記接触部側の被駆動部(5e)とを磁力によって連結可能であり、この磁力を可変することによってこの駆動部側からこの被駆動部側に伝達する前記押付力を可変することを特徴とする接触力制御装置である。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の接触力制御装置において、前記押付力伝達部は、前記押付力発生部側から前記接触部側に伝達する前記押付力を励磁電流に応じて可変するパウダクラッチを備えることを特徴とする接触力制御装置である。
【0013】
請求項6の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の接触力制御装置において、前記接触部は、実際の集電装置のすり板を模擬したすり板試験片(P1)であり、前記被接触部は、前記実際の集電装置のすり板が摺動する実際のトロリ線を模擬したトロリ線試験片(P2)であることを特徴とする接触力制御装置である。
【0014】
請求項7の発明は、図6及び図7に示すように、集電装置(12;29)の集電部(C1;C2)とこの集電部が接触する電車線路(T1;T2)との間の接触力を制御する集電装置の接触力制御装置であって、前記集電部を前記電車線路に押し付ける押付力を発生する押付力発生部(20)と、前記押付力発生部側から前記集電部側に前記押付力を伝達する押付力伝達部(22)とを備え、前記押付力伝達部は、前記押付力を可変して伝達可能であることを特徴とする集電装置の接触力制御装置である。
【0015】
請求項8の発明は、請求項7に記載の集電装置の接触力制御装置において、前記押付力伝達部は、前記集電部側から前記押付力発生部側に伝達しようとする前記押付力とは逆方向の力を緩和することを特徴とする集電装置の接触力制御装置である。
【0016】
請求項9の発明は、請求項7又は請求項8に記載の集電装置の接触力制御装置において、前記押付力伝達部は、前記集電部の動作にかかわらず、前記押付力発生部側から前記集電部側に前記押付力を略一定に伝達することを特徴とする集電装置の接触力制御装置である。
【0017】
請求項10の発明は、請求項7から請求項9までのいずれか1項に記載の集電装置の接触力制御装置において、前記押付力伝達部は、前記押付力発生部側の駆動部(22a)と前記接触部側の被駆動部(22e)とを磁力によって連結可能であり、この磁力を可変することによってこの駆動部側からこの被駆動部側に伝達する前記押付力を可変することを特徴とする集電装置の接触力制御装置である。
【0018】
請求項12の発明は、請求項7から請求項10までのいずれか1項に記載の集電装置の接触力制御装置において、前記押付力伝達部は、前記押付力発生部側から前記集電部側に伝達する前記押付力を励磁電流に応じて可変するパウダクラッチを備えることを特徴とする集電装置の接触力制御装置である。
【0019】
請求項12の発明は、請求項7から請求項11までのいずれか1項に記載の集電装置の接触力制御装置において、図6に示すように、前記押付力伝達部は、前記集電装置の走行速度に応じて前記押付力を可変することを特徴とする集電装置の接触力制御装置である。
【0020】
請求項13の発明は、請求項7から請求項12までのいずれか1項に記載の集電装置の接触力制御装置において、図6に示すように、前記押付力伝達部は、前記集電装置の進行方向(D1,D2)に応じて前記押付力を可変することを特徴とする集電装置の接触力制御装置である。
【0021】
請求項14の発明は、請求項7から請求項13までのいずれか1項に記載の集電装置の接触力制御装置において、図6に示すように、前記集電部は、前記集電装置(12)のすり板(C1)であり、前記電車線路は、前記集電装置のすり板が摺動するトロリ線(T1)であることを特徴とする集電装置の接触力制御装置である。
【0022】
請求項15の発明は、請求項7から請求項13までのいずれか1項に記載の集電装置の接触力制御装置において、図7に示すように、前記集電部は、前記集電装置(29)の集電靴(C2)であり、前記電車線路は、前記集電装置の集電靴が摺動する導電レール(T2)であることを特徴とする集電装置の接触力制御装置である。
【発明の効果】
【0023】
この発明によると、接触部と被接触部との間の接触力を簡単に制御することができるとともに、接触部の動作にかかわらず押付力を略一定にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1は、この発明の第1実施形態に係る接触力制御装置を備える集電試験装置を概略的に示す平面図である。図2は、この発明の第1実施形態に係る接触力制御装置を備える集電試験装置を概略的に示す斜視図である。
【0025】
図1及び図2に示すすり板試験片P1は、実際の集電装置のすり板を模擬した試験片である。すり板試験片P1は、電気車の集電装置の上部に取り付けられるすり板と同じ材質であり、カーボンを主原料として焼成した部材、鉄若しくは銅などの金属粉に潤滑性を有する黒鉛若しくはすずなどの低融点金属とクロム、モリブデンなどの硬質金属とを混合して加熱成型し焼結した部材などである。すり板試験片P1は、外観が長板状の部材であり、トロリ線試験片P2と接触する側の表面が平面状に形成されている。
【0026】
トロリ線試験片P2は、実際の集電装置のすり板が摺動する実際のトロリ線を模擬した試験片である。トロリ線試験片P2は、電気車の集電装置のすり板が摺動しこの電気車に負荷電流を供給する電線であるトロリ線と同じ材質であり、銀又はすずなどを僅かに含有する銅合金又は硬銅である。トロリ線試験片P2は、実際のトロリ線とは異なり外観が円板状の部材であり、すり板試験片P1と接触する側の表面が平面状に形成されており、図示しない回転体に着脱自在に装着されて中心線O1を回転中心として回転する。
【0027】
集電試験装置1は、すり板試験片P1とトロリ線試験片P2とを接触させて種々の試験を実施する装置である。集電試験装置1は、例えば、実際のトロリ線と実際のすり板との摺動状況を模擬するために、すり板試験片P1とトロリ線試験片P2との間に通電させている。集電試験装置1は、トロリ線試験片P2を回転させた状態ですり板試験片P1を摺動させ、すり板試験片P1及びトロリ線試験片P2の摩耗を調査する集電摩耗試験機(高速集電材摩耗試験機)などである。集電試験装置1は、接触力制御装置2と、設定装置8と、記憶装置9と、主制御装置10と、ガイド装置11などを備えている。集電試験装置1は、接触力制御装置2によって押付力を制御して摩耗状態及び集電性能などを測定する。
【0028】
接触力制御装置2は、すり板試験片P1とトロリ線試験片P2との間の接触力を制御する装置である。接触力制御装置2は、すり板試験片P1側に伝達する押付力を制御して、すり板試験片P1の動作にかかわらず押付力が略一定になるように制御する。接触力制御装置2は、押付力発生部3と、歯車機構部4と、押付力伝達部5と、軸継手部6と、歯車機構部7などを備えている。
【0029】
押付力発生部3は、すり板試験片P1をトロリ線試験片P2に押し付ける押付力を発生する部分である。押付力発生部3は、駆動モータ3aなどを備えている。駆動モータ3aは、歯車機構部4の歯車4aを回転駆動する駆動力を発生する部分である。駆動モータ3aは、歯車4aを駆動する駆動軸を有する電動モータ又は油圧モータなどであり、主制御装置10が出力する電気信号(電流指令値)に基づいて所定の回転数で回転し所定のトルクを発生する。
【0030】
歯車機構部4は、押付力発生部3が発生する押付力を押付力伝達部5に伝達する部分であり、歯車4aと歯車4bなどを備えている。歯車4aは、駆動モータ3aの駆動軸と一体となって回転する平歯車であり、この駆動軸に止めねじなどの固定部材によって取り付けられている。歯車4bは、歯車4aと噛み合って回転する平歯車であり、押付力伝達部5の駆動部5aに止めねじなどの固定部材によって取り付けられている。
【0031】
図3は、この発明の第1実施形態に係る接触力制御装置の押付力伝達部を模式的に示す断面図である。
図1及び図2に示す押付力伝達部5は、押付力発生部3側からすり板試験片P1側に押付力を伝達する部分であり、この押付力を可変して伝達可能である。押付力伝達部5は、すり板試験片P1の動作にかかわらず、押付力発生部3側からすり板試験片P1に押付力を略均一に伝達するが、すり板試験片P1側から押付力発生部3側に伝達しようとする押付力とは逆方向の力を緩和する。押付力伝達部5は、例えば、押付力発生部3側からすり板試験片P1側に伝達する押付力を励磁電流に応じて可変するパウダクラッチである。押付力伝達部5は、図1〜図3に示す駆動部5aと、図3に示す電磁石5bと、励磁コイル5cと、図1及び図2に示す電流制御部5dと、図1〜図3に示す被駆動部5eと、図3に示す粉体(パウダ)5fと、軸受5g,5hなどを備えている。図3に示すように、押付力伝達部5は、励磁コイル5cが通電状態になって電磁石5bが磁界を発生するときには、駆動部5aと被駆動部5eとの間の粉体5fを磁束によって結合させて、駆動部5aと被駆動部5eとを連結し駆動部5aから被駆動部5eにトルクを伝達する。一方、押付力伝達部5は、励磁コイル5cが非通電状態になって電磁石5bが磁界を発生しないときには、駆動部5aと被駆動部5eとの間の粉体5fを分散させて磁束による結合を解除させて、駆動部5aと被駆動部5eとの連結を解除し駆動部5aから被駆動部5eへのトルクの伝達を遮断する。このように、押付力伝達部5は、押付力発生部3側の駆動部5aとすり板試験片P1側の被駆動部5eとを磁力によって連結可能であり、この磁力を可変することによってこの駆動部5a側から被駆動部5e側に伝達する押付力を可変する。
【0032】
図1〜図3に示す駆動部5aは、押付力発生部3が発生する押付力によって回転駆動する部分である。駆動部5aは、一方の端部に歯車機構部4の歯車4bが取り付けられており、歯車4bの回転が伝達されて歯車4bと一体となって中心線O2を回転中心として回転する。駆動部5aは、押付力発生部3が発生するトルクが入力する入力軸(駆動軸)である。
【0033】
図3に示す電磁石5bは、電流が流れることによって磁力を発生する部材である。電磁石5bは、被駆動部5eと所定の隙間を形成するようにこの被駆動部5eと対向して駆動部5aの内周部に配置されている。励磁コイル5cは、電磁石5bの外周部に巻き付けられた部材であり、図1及び図2に示す電流制御部5dが出力する電気信号(電流指令値)に応じて電磁石5bに磁力を発生させる。電流制御部5dは、励磁コイル5cに流れる励磁電流を制御する部分であり、励磁コイル5cに流れる電流を主制御装置10からの指令に基づいて制御する。
【0034】
図1〜図3に示す被駆動部5eは、駆動部5aとの間に作用する磁力によって連結して回転駆動する部分である。被駆動部5eは、磁性体によって形成されており、図3に示すように駆動部5aの内周部に回転自在に配置されている。被駆動部5eは、駆動部5aの回転が伝達されて中心線O2を回転中心として回転する軸部5iと、この軸部5iの外周部に形成されており駆動部5aとの間に所定の隙間をあけて対向するフランジ部5jとを備えている。被駆動部5eは、押付力発生部3が発生するトルクを出力する出力軸(従動軸)である。
【0035】
粉体5fは、駆動部5aと被駆動部5eとの間の間隙部に収容される磁性粉である。粉体5fは、励磁コイル5cが通電状態になって電磁石5bが磁力を発生しているときには、駆動部5aと被駆動部5eとの間で磁束によって結合し、駆動部5aと被駆動部5eとを連結状態にする。一方、粉体5fは、励磁コイル5cが非通電状態になって電磁石5bが磁力を発生していないときには、駆動部5aと被駆動部5eとの間の間隙部で分散して、駆動部5aと被駆動部5eとを空転状態にする。軸受5g,5hは、駆動部5a及び被駆動部5eを中心線O2回りに回転自在に支持する部材である。軸受5g,5hは、駆動部5aの内周部と軸部5iの外周部との間に嵌め込まれて装着されている。
【0036】
図4は、この発明の第1実施形態に係る接触力制御装置の押付力伝達部の励磁電流とトルク特性との関係を一例として示すグラフである。図5は、この発明の第1実施形態に係る接触力制御装置の押付力伝達部の相対回転数とトルク特性との関係を一例として示すグラフである。ここで、図4に示す縦軸は伝達トルク(%)であり、横軸は励磁電流(%)である。また、図5に示す縦軸は伝達トルク(%)であり、横軸は相対回転数(rpm/min)である。
押付力伝達部5は、図4に示すように、励磁電流(定格電流)に対する伝達トルクの特性が励磁電流の約10〜100%の広範囲にわたって略直線性を示しており、励磁電流を制御することによって、駆動部5aと被駆動部5eとの間の摩擦係数を可変して伝達トルクを容易に制御可能である。また、押付力伝達部5は、図5に示すように、駆動部5aと被駆動部5eとの間の相対回転数(スリップ回転数)が変化しても、励磁電流に応じて伝達トルクが略一定の値を示しており、駆動部5aから被駆動部5eに略一定のトルクを伝達し、被駆動部5eから駆動部5aにこのトルクと逆方向のトルクが伝達するのを阻止する。
【0037】
図1及び図2に示す軸継手部6は、押付力伝達部5の被駆動部5e側に回転軸と歯車機構部7のピニオン7a側の回転軸とを連結する部分である。軸継手部6は、例えば、図3に示す被駆動部5eの軸部5iの端部と図1及び図2に示すピニオン7aの回転軸の端部とにそれぞれ装着されたフランジ同士を接合して、複数本のボルトによって連結し、これらの回転軸が僅かに偏心していてもトルクを伝達可能なフランジ形たわみ軸継手などである。
【0038】
図1及び図2に示す歯車機構部7は、押付力伝達部5が伝達する押付力をすり板試験片P1に伝達する部分である。歯車機構部7は、ピニオン7aとラック7bなどを備えており、回転運動を直線運動に変換する動作変換部として機能する。ピニオン7aは、軸継手部6の回転軸と一体となって回転する小口径の歯車であり、押付力伝達部5から軸継手部6を通じて伝達されるトルクによって回転する。ラック7bは、ピニオン7aと噛み合って往復運動する部材であり、板状部材の長さ方向の表面に沿ってピニオン7aと噛み合う歯が連続して形成されている。ラック7bは、ガイド装置11のスライド部11aに固定されている。
【0039】
設定装置8は、すり板試験片P1をトロリ線試験片P2に押し付ける押付力を設定する装置である。設定装置8は、集電試験装置1によって試験を実施するときの押付力(設定値)を試験者が設定する入力装置などである。設定装置8は、試験者は設定した押付力を押付力情報として主制御装置10に出力する。設定装置8は、集電試験装置1によって試験を実施中に押付力を変更するときにも試験者によって操作される。
【0040】
記憶装置9は、接触力制御装置2を制御するための種々の情報を記憶する装置である。記憶装置9は、例えば、押付力に対応する電流指令値を押付力−電流指令値情報として予めデータベース化して記憶するメモリであり、主制御装置10が駆動モータ3aに出力する電流指令値と、電流制御部5dが励磁コイル5cに出力する電流指令値とを、設定装置8が出力する押付力情報とに対応させて記憶している。
【0041】
主制御装置10は、接触力制御装置2の種々の動作を制御する装置である。主制御装置10は、例えば、励磁コイル5cに流れる電流の制御を電流制御部5dに指令したりする中央処理部(CPU)である。主制御装置10は、設定装置8が出力する押付力情報に基づいて、記憶装置9が記憶する押付力−電流指令値情報を参照して最適な電流指令値を検索する。主制御装置10は、設定装置8によって設定された押付力を押付力発生部3が発生するように、この最適な電流指令値を駆動モータ3aに出力するとともに、押付力伝達部5が略一定の押付力を伝達するように、この最適な電流指令値を電流制御部5dに出力する。主制御装置10には、駆動モータ3aと、電流制御部5dと、設定装置8と、記憶装置9とが接続されている。
【0042】
ガイド装置11は、すり板試験片P1を移動自在にガイドする装置である。ガイド装置11は、スライド部11aと、ガイドレール部11bなどを備えている。ガイド装置11は、例えば、スライド部11a側の溝とガイドレール部11b側の溝との間に挟み込まれたボールを転動させて、ガイドレール部11bに沿ってスライド部11aを進退自在にガイドするリニアガイド装置などである。スライド部11aは、ガイドレール11bによってガイドされる部分である。スライド部11aは、すり板試験片P1及び歯車機構部7のラック7bを支持した状態で、これらのすり板試験片P1及びラック7bと一体となって前後方向に移動する板状部材である。スライド部11aの一方の端部には、すり板試験片P1がボルトなどの固定部材によって着脱自在に取り付けられており、スライド部11aの縁部にはラック7bがボルトなどの固定部材によって取り付けられている。スライド部11aは、このスライド部11aとすり板試験片P1との間を電気的に絶縁するための絶縁材を備えている。ガイドレール部11bは、スライド部11aを移動自在にガイドする部分であり、スライド部11aの移動方向に沿って配置されている。
【0043】
次に、この発明の第1実施形態に係る接触力制御装置の動作を説明する。
図1及び図2に示す設定装置8によって押付力が設定されると、主制御装置10が駆動モータ3aに駆動電流を流すとともに、主制御装置10が電流指令値を電流制御部5dに出力し、電流制御部5dが励磁コイル5cに励磁電流を流す。駆動モータ3aが回転駆動して歯車4aを回転させると歯車4bも回転して駆動部5aが回転する。図3に示す励磁コイル5cに励磁電流が流れると電磁石5bが磁力を発生して、駆動部5aと被駆動部5eとの間に磁界が発生してこれらの間に粉体5fが吸着される。その結果、駆動部5aと被駆動部5eとの間の粉体5fが磁束によって結合し、駆動部5aと被駆動部5eとが連結状態になって、駆動部5aから被駆動部5eに押付力が伝達される。押付力発生部3が発生する押付力が設定装置8によって設定された押付力に達すると、被駆動部5eに対して駆動部5aがすべりながら駆動部5aから被駆動部5eに継続して略一定の大きさのトルクが伝達される。また、駆動モータ3aが一定の回転数で回転して駆動部5aに伝達される一定のトルクを制御する必要があるときには、電流制御部5dが励磁コイル5cに流す励磁電流を可変する。このため、駆動部5aと被駆動部5eとの間の磁力が変化して、駆動部5aと被駆動部5eとの間で吸着される粉体5fの量が増減する。その結果、駆動部5aから被駆動部5eに伝達される押付力が変化して、すり板試験片P1とトロリ線試験片P2との間の接触力が調整される。
【0044】
被駆動部5eから軸継手部6を通じてピニオン7aにトルクが伝達されると、ラック7b及びスライド部11aに押付力が伝達されて、中心線O1回りに回転するトロリ線試験片P2にすり板試験片P1が略一定の押付力で押し付けられる。トロリ線試験片P2にすり板試験片P1が摺動するときに、トロリ線試験片P2の接触面の凹凸やすり板試験片P1の接触面の凹凸などに起因して、すり板試験片P1の位置変動又は速度変動が生じると、すり板試験片P1の動作が変化して押付力が変動しようとする。例えば、すり板試験片P1が前進する方向(押し付けられる方向)に移動すると、すり板試験片P1とトロリ線試験片P2との間の接触力が増加しようとし、すり板試験片P1が後退する方向(押し戻される方向)に移動すると、すり板試験片P1とトロリ線試験片P2との間の接触力が低下しようとする。しかし、駆動部5aから被駆動部5eに略一定の押付力が継続して伝達されるため、トロリ線試験片P2に対してすり板試験片P1が追従してすり板試験片P1とトロリ線試験片P2との間の接触力が略一定に維持される。また、すり板試験片P1とトロリ線試験片P2との間の接触力が増加しようとすると、この接触力の増加分に相当する力(押付力とは逆方向の力)が被駆動部5eから駆動部5aを通じて駆動モータ3aに伝達されようとする。しかし、駆動部5aと被駆動部5eとが機械的に連結されておらず磁気的に連結されているため、被駆動部5eが逆転しても駆動部5aに対して被駆動部5eがすべり、接触力の増加分に相当する力が被駆動部5eと駆動部5aとの間で吸収されて、被駆動部5eから駆動部5aに殆ど伝達されない。
【0045】
この発明の第1実施形態に係る接触力制御装置は、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、すり板試験片P1をトロリ線試験片P2に押し付ける押付力を押付力発生部3が発生し、この押付力発生部3側からすり板試験片P1側にこの押付力を押付力伝達部5が伝達し、この押付力伝達部5がこの押付力を可変して伝達可能である。このため、すり板試験片P1とトロリ線試験片P2とを接触させた状態で押付力を容易に変更したり制御したりすることが可能になって、トロリ線試験片P2に対するすり板試験片P1の追従性を向上させることができる。その結果、すり板試験片P1がトロリ線試験片P2から離れてアークが発生したり、すり板試験片P1とトロリ線試験片P2とが過大な接触力によって接触したりして、すり板試験片P1やトロリ線試験片P2が必要以上に摩耗するのを低減することができる。
【0046】
(2) この第1実施形態では、すり板試験片P1側から押付力発生部3側に伝達しようとする押付力とは逆方向の力を押付力伝達部5が緩和する。このため、押付力とは逆方向の力によって押付力発生部3に不必要な大きな力が作用するのを防ぐことができる。その結果、駆動モータ3aが破損するような危険な事態が発生するのを防ぐことができる。
【0047】
(3) この第1実施形態では、すり板試験片P1の動作にかかわらず、押付力発生部3側からすり板試験片P1側に押付力伝達部5が押付力を略一定に伝達する。例えば、すり板試験片P1が前進する方向(押し付けられる方向)に動く場合には、押付力Fp=モータが発生する力Fm−減速機などによる摩擦により損失の力Ffとなる。一方、すり板試験片P1が後退する方向(押し戻される方向)に動く場合には、押付力Fp=モータが発生する力Fm+減速機などによる摩擦により損失の力Ffとなる。この第1実施形態では、駆動モータや減速機を回転するときに作用する抵抗(減速機などによる摩擦により損失の力Ff)などの影響を受け難くなるため、すり板試験片P1が前進する方向に動く場合の押付力Fpと、すり板試験片P1が後退する方向に動く場合の押付力Fpとの差が小さくなり、押付力伝達部5が略一定の押付力を継続して伝達することができる。
【0048】
(4) この第1実施形態では、押付力発生部3側の駆動部5aとすり板試験片P1側の被駆動部5eとを押付力伝達部5が磁力によって連結可能であり、押付力伝達部5がこの磁力を可変することによって駆動部5a側から被駆動部5e側に伝達する押付力を可変する。このため、磁力を可変することによって押付力を簡単に制御することができる。また、被駆動部5eに対して駆動部5aを空転させることができるため、押付力とは逆方向の力がすり板試験片P1側から押付力発生部3側に伝達するのを防ぎ、駆動部5aから被駆動部5eに押付力を安定して伝達することができる。
【0049】
(5) この第1実施形態では、押付力発生部3側からすり板試験片P1側に伝達する押付力を励磁電流に応じて可変するパウダクラッチを押付力伝達部5が備えている。このため、押付力を励磁電流によって容易に制御することができるとともに、パウダクラッチの定トルク性によって押付力を安定化させることができる。また、安価で耐久性の高いパウダクラッチを使用することによって、接触力制御装置2を低コストで製造することができるとともに、保守のためのコストを低減することができる。さらに、電動機やシリンダなどによって押付力を変化させる場合に比べて、パウダクラッチによって押付力を変化させる場合には、慣性質量が小さくなるため同じ出力であるときには応答性を高くすることができる。例えば、モータを使用する場合には、ロータ、軸及び減速機の慣性モーメントが応答性に影響を与えるが、パウダクラッチを使用する場合には出力軸の慣性モーメントのみが影響を与え全体として慣性モーメントが比較的小さくなって応答性を向上させることができる。
【0050】
(第2実施形態)
図6は、この発明の第2実施形態に係る集電装置の接触力制御装置を概略的に示す斜視図である。以下では、図1〜図3に示す部分と対応する部分については対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
図6に示すトロリ線T1は、集電装置12のすり板C1が摺動する電車線路(電線)であり、線路上空に架設されている。トロリ線T1は、所定の間隔をあけて支持点で支持されており、集電装置12のすり板C1が摺動することによって車両に負荷電流を供給する。すり板C1は、トロリ線T1と接触する集電部であり、車両の進行方向と直交する方向に伸びた金属製又は炭素製の板状部材である。
【0051】
集電装置12は、トロリ線T1から車両に電力を導くための装置である。集電装置12は、集電舟(舟体)13と、舟支え部14と、枠組15と、主軸16と、支持部17,18と、接触力制御装置19と、走行速度検出装置24と、進行方向検出装置25と、設定装置26と、記憶装置27と、主制御装置28などを備えている。図6に示す集電装置12は、車両の進行方向に対して非対称であり、一方向又は両方向に使用可能なシングルアーム式のパンタグラフである。集電装置12は、接触力制御装置19が主軸16をA1方向に回転すると、集電舟13及び枠組15が上昇し折畳状態から使用状態になる。一方、集電装置12は、接触力制御装置19が主軸16をA1方向とは逆方向のA2方向に回転すると、集電舟13及び枠組15が下降して使用状態から折畳状態になる。
【0052】
集電舟13は、すり板C1を取り付けて支持する部材であり、一般にトロリ線T1と直交する方向に伸びた細長い金属製の部材である。舟支え部14は、集電舟13を支持する部分であり、集電舟13をトロリ線T1に対して水平に押上げるとともに、集電舟13にばねによる緩衝作用を与えている。枠組15は、集電舟13を支持した状態で上下方向に動作する部材であり、上枠15aと、下枠15bと、平衡棒15cと、釣り合い棒15dなどを備えるリンク機構である。上枠15aは、上端が舟支え部14に回転自在に連結される部材である。下枠15bは、上端が上枠15aに回転自在に連結され、下端が主軸16のてこ部16aに固定される部材である。平衡棒15cは、集電舟13及び舟支え部14を所定の姿勢に維持するための部材であり、上端が舟支え部14に回転自在に連結され、下端が下枠15bに回転自在に連結されている。釣り合い棒15dは、上端が上枠15aに回転自在に連結され、下端が支持部18に回転自在に連結される部材である。主軸16は、枠組15の昇降動作に連動して回転する部材である。主軸16は、枠組15の下枠15bが連結されるてこ部16aなどを備えており、このてこ部16aは、主軸16を支点として主軸16と一体となって回転する。支持部17は、主軸16の両端部を回転自在に支持する部分であり、支持部18は枠組15の釣り合い棒15dを回転自在に支持する部分である。支持部17,18は、車体の屋根上に碍子を介して支持される台枠上に取り付けられている。
【0053】
接触力制御装置19は、すり板C1とトロリ線T1との間の接触力を制御する装置である。接触力制御装置19は、すり板C1側に伝達する押付力(押上げ力)を制御して、すり板C1の動作にかかわらず押付力が略一定になるように制御する。接触力制御装置19は、図1及び図2に示す接触力制御装置2と略同一構造であり、図6に示すように押付力発生部20と、歯車機構部21と、押付力伝達部22と、軸継手部23などを備えている。
【0054】
押付力発生部20は、すり板C1をトロリ線T1に押し付ける押付力を発生する部分であり、図1及び図2に示す押付力発生部3と同様に、駆動モータ20aなどを備えている。歯車機構部21は、押付力発生部20が発生する押付力を押付力伝達部22に伝達する部分である。歯車機構部21は、図1及び図2に示す歯車機構部4と同様に歯車21aと歯車21bなどを備えている。
【0055】
押付力伝達部22は、押付力発生部20側からすり板C1側に押付力を伝達する部分であり、この押付力を可変して伝達可能である。押付力伝達部22は、すり板C1の動作にかかわらず、押付力発生部20側からすり板C1に押付力を略均一に伝達するが、すり板C1側から押付力発生部20側に伝達しようとする押付力とは逆方向の力を緩和する。押付力伝達部22は、図1及び図2に示す押付力伝達部5と同様のパウダクラッチであり、図6に示すように駆動部22aと、電流制御部22dと、被駆動部22eなどを備えている。押付力伝達部22は、押付力発生部20側の駆動部22aとすり板C1側の被駆動部22eとを磁力によって連結可能であり、この磁力を可変することによってこの駆動部22a側から被駆動部22e側に伝達する押付力を可変する。押付力伝達部22は、集電装置12の走行速度に応じて押付力を可変したり、集電装置12の進行方向に応じて押付力を可変したりする。軸継手部23は、被駆動部22eの軸部と集電装置12の主軸16とを連結する部分であり、図1及び図2に示す軸継手部6と同様のフランジ形たわみ軸継手などである。
【0056】
走行速度検出装置24は、集電装置12の走行速度を検出する装置である。走行速度検出装置24は、例えば、車両の車輪の回転数に応じて速度発電機が発生する距離パルス信号に基づいて車両の速度を演算し、この演算結果を走行速度情報として主制御装置28に出力する。
【0057】
進行方向検出装置25は、集電装置12の進行方向を検出する装置である。進行方向検出装置25は、例えば、車両の加速度を検出してこの車両の進行方向を検出する加速度センサなどの振動検出装置である。進行方向検出装置25は、枠組15に対してすり板C1が進行方向後側になってD1方向(なびき方向)に集電装置12が進行する場合と、枠組15に対してすり板C1が進行方向前側になってD2方向(反なびき方向)に集電装置12が進行する場合とを検出し、この検出結果を進行方向情報として主制御装置28に出力する。
【0058】
設定装置26は、すり板C1をトロリ線T1に押し付ける押付力を設定する装置である。設定装置26は、車両が走行するときの押付力(設定値)を乗務員が設定する入力装置などであり、乗務員によって設定された押付力を押付力情報として主制御装置28に出力する。設定装置26は、走行中に押付力を変更するときにも乗務員によって操作される。設定装置26は、例えば、押付力を手動で設定する第1の設定モードと、走行速度に応じて押付力を自動的に設定する第2の設定モードと、進行方向に応じて押付力を自動的に設定する第3の設定モードと、走行速度及び進行方向の双方に応じて押付力を自動的に設定する第4の設定モードとを選択し切り替えるときにも操作される。
【0059】
記憶装置27は、集電装置12を制御するための種々の情報を記憶する装置である。記憶装置27は、図1及び図2に示す記憶装置9と同様に、押付力に対応する最適な電流指令値を押付力−電流指令値情報として予めデータベース化して記憶するメモリである。記憶装置27は、例えば、集電装置12の走行速度に応じてこの集電装置12に作用する揚力が変化するような揚力特性を有する集電装置12であるときには、走行速度に対応する押付力を発生するための最適な電流指令値を走行速度−電流指令値情報として予めデータベース化して記憶する。また、記憶装置27は、例えば、集電装置12の進行方向に応じて集電装置12に作用する揚力が変化するような揚力特性を集電装置12が有するときには、進行方向に対応する最適な押付力を発生するための電流指令値を進行方向−電流指令値情報として予めデータベース化して記憶する。
【0060】
主制御装置28は、接触力制御装置19の種々の動作を制御する装置であり、図1及び図2に示す主制御装置10と同様の中央処理部(CPU)である。主制御装置28は、設定装置8が出力する押付力情報に基づいて記憶装置27が記憶する押付力−電流指令値情報を参照して最適な電流指令値を検索したり、走行速度検出装置24が出力する走行速度情報に基づいて記憶装置27が記憶する走行速度−電流指令値情報を参照して最適な電流指令値を検索したり、進行方向検出装置25が出力する進行方向情報に基づいて記憶装置27が記憶する進行方向−電流指令値情報を参照して最適な電流指令値を検索したりする。主制御装置28は、設定装置26によって設定された押付力を押付力発生部20が発生するように駆動モータ20aに電流指令値を出力したり、走行速度検出装置24が出力する走行速度情報又は進行方向検出装置25が出力する進行方向情報に基づいて最適な押付力を押付力発生部20が発生するように駆動モータ20aに電流指令値を出力したり、押付力伝達部22が略一定の押付力を伝達するように電流制御部22dに電流指令値を出力したりする。主制御装置28には、駆動モータ20aと、電流制御部22dと、走行速度検出装置24と、進行方向検出装置25と、設定装置26とが接続されている。
【0061】
次に、この発明の第2実施形態に係る集電装置の接触力制御装置の動作を説明する。
図6に示す設定装置26によって押付力が設定されると、駆動モータ20a及び電流制御部22dに主制御装置28が電流指令値を出力する。その結果、押付力発生部20が発生する押付力が歯車機構部21を通じて押付力伝達部22の駆動部22aに入力すると、駆動部22aと被駆動部22eとが磁気的に連結状態になるため、駆動部22aから被駆動部22eに継続して略一定の大きさのトルクが伝達される。被駆動部22eから軸継手部23を通じて主軸16にA1方向のトルクが伝達されると、枠組15を通じて集電舟13及び舟支え部14に押付力が伝達されて、トロリ線T1にすり板C1が略一定の押付力で押し付けられる。
【0062】
例えば、集電装置12の走行速度が所定速度を越えて集電装置12を下降させる方向に作用する揚力が増大すると、すり板C1とトロリ線T1との間の接触力が低下し、トロリ線T1からすり板C1が離線するようなことがある。このような場合には、走行速度検出装置24が出力する走行速度情報に基づいて、走行速度が所定値を超えたか否かを主制御装置28が判断する。集電装置12の走行速度が所定値を超えたと主制御装置28が判断したときには、記憶装置27が記憶する走行速度−電流指令値情報を主制御装置28が参照して、最適な押付力を発生するための電流指令値を検索し、この電流指令値を接触力制御装置19に主制御装置28が出力する。その結果、押付力伝達部22が駆動部22aから被駆動部22eに伝達する押付力を増加させて、すり板C1とトロリ線T1との間の接触力の減少が抑制される。
【0063】
また、例えば、図6に示すD1方向に集電装置12が移動する場合には、すり板C1とトロリ線T1との間の接触力が減少し、D2方向に集電装置12が移動する場合には、すり板C1とトロリ線T1との間の接触力が増加することがある。このような場合には、進行方向検出装置25が出力する進行方向情報に基づいて、集電装置12の進行方向を主制御装置28が判断し、記憶装置27が記憶する進行方向−電流指令値情報を主制御装置28が参照して、最適な押付力を発生するための電流指令値を検索し、この電流指令値を接触力制御装置19に主制御装置28が出力する。その結果、集電装置12の進行方向がD1方向であると主制御装置28が判断したときには、押付力伝達部22が駆動部22aから被駆動部22eに伝達する押付力を増加させて、すり板C1とトロリ線T1との間の接触力の減少が抑制される。一方、集電装置12の進行方向がD2方向であると主制御装置28が判断したときには、押付力伝達部22が駆動部22aから被駆動部22eに伝達する押付力を減少させて、すり板C1とトロリ線T1との間の接触力の増加が抑制される。
【0064】
例えば、トロリ線T1の高さの変化によってすり板C1の位置が変動すると、押付力とは逆方向の力が被駆動部22eから駆動部22aを通じて駆動モータ20aに伝達されようとする。しかし、駆動部22aと被駆動部22eとが機械的に連結されておらず磁気的に連結されているため、駆動部22aに対して被駆動部22eがすべり、接触力の増加分に相当する力が被駆動部22eと駆動部22aとの間で吸収されて、被駆動部22eから駆動部22aに殆ど伝達されない。
【0065】
この発明の第2実施形態に係る集電装置の接触力制御装置には、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
(1) この第2実施形態では、すり板C1をトロリ線T1に押し付ける押付力を押付力発生部20が発生し、この押付力発生部20側からすり板C1側に押し付ける押付力伝達部22がこの押付力を伝達し、この押付力伝達部22がこの押付力を可変して伝達可能である。このため、押付力を容易に変化させて、すり板C1とトロリ線T1との間の接触力を簡単に制御することができる。その結果、トロリ線T1に対するすり板C1の追従性能が向上し、トロリ線T1からすり板C1が離れる時間的な割合(離線率)が低くなるとともに、過大な接触力が生じてすり板C1やトロリ線T1が摩耗するのを抑制し、保守のためのコストを低減することができる。また、停車中だけではなく走行中にも押付力を簡単に変更して押付力を容易に調整することができる。
【0066】
(2) この第2実施形態では、すり板C1側から押付力発生部20側に伝達しようとする押付力とは逆方向の力を押付力伝達部22が緩和する。このため、トロリ線T1の高さの変化によってすり板C1の位置が変動して、押付力とは逆方向の力が被駆動部22eから駆動部22aを通じて、駆動モータ20aに伝達されようとしても、この押付力とは逆方向の力が押付力発生部20側に伝達するのを押付力伝達部22によって阻止することができる。
【0067】
(3) この第2実施形態では、すり板C1の動作にかかわらず、押付力発生部20側からすり板C1側に押付力伝達部22が押付力を略一定に伝達する。このため、トロリ線T1の高さの変化によりすり板C1の位置が変動しても、押付力発生部20側からすり板C1側に略一定の大きさの押付力を継続的に安定して伝達することができる。
【0068】
(4) この第2実施形態では、押付力発生部20側の駆動部22aとすり板C1側の被駆動部22eとを押付力伝達部22が磁力によって連結可能であり、押付力伝達部22がこの磁力を可変することによってこの駆動部22a側からこの被駆動部22e側に伝達する押付力を可変する。このため、磁力を可変することによってすり板C1とトロリ線T1との間の接触力を簡単に制御することができる。
【0069】
(5) この第2実施形態では、押付力発生部20側からすり板C1側に伝達する押付力を励磁電流に応じて可変するパウダクラッチを押付力伝達部22が備えている。このため、安価で耐久性の高いパウダクラッチを使用することによって、すり板C1とトロリ線T1との間の接触力を安定化させることができる。
【0070】
(6) この第2実施形態では、集電装置12の走行速度に応じて押付力伝達部22が押付力を可変する。このため、例えば、集電装置12の走行速度が上昇するとすり板C1とトロリ線T1との間の接触力が変動するようなときに、押付力発生部20が発生する押付力を集電装置12の走行速度に応じて押付力伝達部22によって可変して接触力の変動を抑えることができる。
【0071】
(7) この第2実施形態では、集電装置12の進行方向に応じて押付力伝達部22が押付力を可変する。このため、例えば、枠組15に対してすり板C1を前にして進行する場合と、枠組15に対してすり板C1を後にして進行する場合とで、すり板C1とトロリ線T1との間の接触力が変動するようなときに、押付力発生部20が発生する押付力を集電装置12の走行速度に応じて押付力伝達部22によって可変して接触力の変動を抑えることができる。
【0072】
(第3実施形態)
図7は、この発明の第3実施形態に係る集電装置の接触力制御装置を概略的に示す斜視図である。以下では、図1及び図2に示す部分と同一の部分については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図7に示す導電レールT2は、集電装置29の集電靴C2が摺動する電車線路(第三レール)であり、支持碍子によって支持された状態で軌道の側方に沿って軌道と平行に敷設されている。導電レールT2は、鉄道車両の車輪を支持する通常の走行用レールとは異なり、車両に電力を供給するための集電用レールであり、車両に負荷電流を供給することを目的として使用される。集電靴C2は、導電レールT2と接触する集電部であり、鉄道車両の台車の両側に絶縁物を介して取り付けられている金属製又はカーボン製の部材である。
【0073】
集電装置29は、導電レールT2から車両に電力を導くための装置である。図7に示す集電装置29は、導電レールT2の長さ方向に沿ってD3,D4方向に集電靴C2を移動させながら、導電レールT2の頭頂面に集電靴C2の下面を摺動させて集電する第三軌条式の集電装置である。集電装置29は、集電靴C2とこの集電靴C2が接触する導電レールT2との間の接触力を制御する接触力制御装置2と、集電靴C2を導電レールT2に押し付ける押付力を設定する設定装置8と、集電装置29を制御するための種々の情報を記憶する記憶装置9と、接触力制御装置2の動作を制御する主制御装置10と、集電靴C2を移動自在にガイドするガイド装置11などを備えている。この発明の第3実施形態には、第1実施形態及び第2実施形態と同様の効果がある。
【0074】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、集電試験装置1及び集電装置12,29に接触力制御装置2,19を適用した場合を例に挙げて説明したが、これらの装置に適用する場合に限定するものではない。例えば、運搬機械又はエレベータなどのような移動体の集電装置、高速で摺動しながら種々の試験を実施する試験装置などについてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、歯車機構部4が歯車装置である場合を例に挙げて説明したが、ベルトやチェーンなどの巻き掛け伝動装置を用いる場合や、モータ軸とクラッチ軸(入力軸)とを直結したりカップリング(軸継手)を介して接続したりするような伝動装置を用いない場合などについてもこの発明を適用することができる。
【0075】
(2) この第1実施形態では、すり板試験片P1とトロリ線試験片P2とが接触する集電試験装置1を例に挙げて説明したがこのような集電試験装置1に限定するものではなく、接触部と被接触部とが接触するような構造の他の装置についてもこの発明を適用することができる。また、この第1実施形態では、集電装置12の走行速度又は進行方向に応じて接触力を制御する場合を例に挙げて説明したが、これらの接触力の制御方法は一例であり、集電装置12の揚力特性に応じて任意の制御方法を適用することができる。さらに、この第1実施形態及び第2実施形態では、シングルアーム式の集電装置及び第三軌条方式の集電装置を例に挙げて説明したが、菱型又は翼型などの他の形式の集電装置についてもこの発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】この発明の第1実施形態に係る接触力制御装置を備える集電試験装置を概略的に示す平面図である。
【図2】この発明の第1実施形態に係る接触力制御装置を備える集電試験装置を概略的に示す斜視図である。
【図3】この発明の第1実施形態に係る接触力制御装置の押付力伝達部を模式的に示す断面図である。
【図4】この発明の第1実施形態に係る接触力制御装置の押付力伝達部の励磁電流とトルク特性との関係を一例として示すグラフである。
【図5】この発明の第1実施形態に係る接触力制御装置の押付力伝達部の相対回転数とトルク特性との関係を一例として示すグラフである。
【図6】この発明の第2実施形態に係る集電装置の接触力制御装置を概略的に示す斜視図である。
【図7】この発明の第3実施形態に係る集電装置の接触力制御装置を概略的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0077】
1 集電試験装置
2 接触力制御装置
3 押付力発生部
3a 駆動モータ
4 歯車機構部
5 押付力伝達部
5a 駆動部
5b 電磁石
5c 励磁コイル
5d 電流制御部
5e 被駆動部
5f 粉体
6 軸継手部
7 歯車機構部
7a ピニオン
7b ラック
10 主制御装置
11 ガイド装置
11a スライド部
11b ガイドレール
12 集電装置
13 集電舟
14 舟支え部
15 枠組
16 主軸
17,18 支持部
19 接触力制御装置
20 押付力発生部
20a 駆動モータ
21 歯車機構部
22 押付力伝達部
22a 駆動部
22d 電流制御部
22e 被駆動部
23 軸継手部
24 走行速度検出装置
25 進行方向検出装置
26 設定装置
27 記憶装置
28 主制御装置
29 集電装置
1 すり板試験片(接触部)
2 トロリ線試験片(被接触部)
1 すり板(集電部)
2 集電靴(集電部)
1 トロリ線(電車線路)
2 導電レール(電車線路)
1,D2 方向(進行方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触部と被接触部との間の接触力を制御する接触力制御装置であって、
前記接触部を前記被接触部に押し付ける押付力を発生する押付力発生部と、
前記押付力発生部側から前記接触部側に前記押付力を伝達する押付力伝達部とを備え、
前記押付力伝達部は、前記押付力を可変して伝達可能であること、
を特徴とする接触力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の接触力制御装置において、
前記押付力伝達部は、前記接触部側から前記押付力発生部側に伝達しようとする前記押付力とは逆方向の力を緩和すること、
を特徴とする接触力制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の接触力制御装置において、
前記押付力伝達部は、前記接触部の動作にかかわらず、前記押付力発生部側から前記接触部側に前記押付力を略一定に伝達すること、
を特徴とする接触力制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の接触力制御装置において、
前記押付力伝達部は、前記押付力発生部側の駆動部と前記接触部側の被駆動部とを磁力によって連結可能であり、この磁力を可変することによってこの駆動部側からこの被駆動部側に伝達する前記押付力を可変すること、
を特徴とする接触力制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の接触力制御装置において、
前記押付力伝達部は、前記押付力発生部側から前記接触部側に伝達する前記押付力を励磁電流に応じて可変するパウダクラッチを備えること、
を特徴とする接触力制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の接触力制御装置において、
前記接触部は、実際の集電装置のすり板を模擬したすり板試験片であり、
前記被接触部は、前記実際の集電装置のすり板が摺動する実際のトロリ線を模擬したトロリ線試験片であること、
を特徴とする接触力制御装置。
【請求項7】
集電装置の集電部とこの集電部が接触する電車線路との間の接触力を制御する集電装置の接触力制御装置であって、
前記集電部を前記電車線路に押し付ける押付力を発生する押付力発生部と、
前記押付力発生部側から前記集電部側に前記押付力を伝達する押付力伝達部とを備え、
前記押付力伝達部は、前記押付力を可変して伝達可能であること、
を特徴とする集電装置の接触力制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の集電装置の接触力制御装置において、
前記押付力伝達部は、前記集電部側から前記押付力発生部側に伝達しようとする前記押付力とは逆方向の力を緩和すること、
を特徴とする集電装置の接触力制御装置。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の集電装置の接触力制御装置において、
前記押付力伝達部は、前記集電部の動作にかかわらず、前記押付力発生部側から前記集電部側に前記押付力を略一定に伝達すること、
を特徴とする集電装置の接触力制御装置。
【請求項10】
請求項7から請求項9までのいずれか1項に記載の集電装置の接触力制御装置において、
前記押付力伝達部は、前記押付力発生部側の駆動部と前記接触部側の被駆動部とを磁力によって連結可能であり、この磁力を可変することによってこの駆動部側からこの被駆動部側に伝達する前記押付力を可変すること、
を特徴とする集電装置の接触力制御装置。
【請求項11】
請求項7から請求項10までのいずれか1項に記載の集電装置の接触力制御装置において、
前記押付力伝達部は、前記押付力発生部側から前記集電部側に伝達する前記押付力を励磁電流に応じて可変するパウダクラッチを備えること、
を特徴とする集電装置の接触力制御装置。
【請求項12】
請求項7から請求項11までのいずれか1項に記載の集電装置の接触力制御装置において、
前記押付力伝達部は、前記集電装置の走行速度に応じて前記押付力を可変すること、
を特徴とする集電装置の接触力制御装置。
【請求項13】
請求項7から請求項12までのいずれか1項に記載の集電装置の接触力制御装置において、
前記押付力伝達部は、前記集電装置の進行方向に応じて前記押付力を可変すること、
を特徴とする集電装置の接触力制御装置。
【請求項14】
請求項7から請求項13までのいずれか1項に記載の集電装置の接触力制御装置において、
前記集電部は、前記集電装置のすり板であり、
前記電車線路は、前記集電装置のすり板が摺動するトロリ線であること、
を特徴とする集電装置の接触力制御装置。
【請求項15】
請求項7から請求項13までのいずれか1項に記載の集電装置の接触力制御装置において、
前記集電部は、前記集電装置の集電靴であり、
前記電車線路は、前記集電装置の集電靴が摺動する導電レールであること、
を特徴とする集電装置の接触力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−240142(P2009−240142A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86664(P2008−86664)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】