接触式の座標位置決め装置の測定サイクルを最適化する方法
測定プローブ(4)を備える座標位置決め装置によって獲得すべき表面位置測定に最適のスタンドオフ距離(74)を計算する方法について説明する。座標位置決め装置は、工作機械を備えることができ、前記測定プローブ(4)は、可撓性のスタイラス(12)を有するタッチトリガプローブを備えることができる。この方法は、座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して最適のスタンドオフ距離(74)を計算するステップを含む。このようにして、測定サイクル時間を最適化することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座標を位置決めする装置(以下、座標位置決め装置)によって実施される測定サイクルを設定する方法に関し、詳細には、測定プローブを備える座標位置決め装置によって獲得すべき表面位置測定に最適のスタンドオフ距離を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械または座標測定機(CMM)などの座標位置決め装置が知られている。そのような座標位置決め装置とともに使用するための様々な測定プローブも知られている。たとえば、特許文献1に記載のタイプのタッチトリガ(touch trigger)式の測定プローブは運動学的機構を備え、スタイラスが物体に接触すると、スタイラスホルダはプローブ本体内の関連する台座から離れる。運動学的機構が台座から離れると電気回路を切断し、それによってトリガ信号を生成する。歪み計などを使用してスタイラスのたわみが測定され、特定のスタイラスたわみ閾値を超過すると、トリガ信号が発行されるタッチトリガプローブも知られている。タッチトリガプローブによって発行されたトリガ信号は、物体と接触したことを示し、座標位置決め装置によって行われるプローブ位置の機械測定と組み合わせて使用して、物体の表面上の接触点の位置を決定する。
【0003】
座標位置決め装置によって保持されるタッチトリガプローブを使用して測定を獲得する様々な方策またはサイクルが知られている。これには、測定プローブのスタイラスを駆動して測定されている物体内へ入れ、装置によって測定された測定プローブの位置から物体の表面上の1点の位置を見出し、その瞬間にトリガ信号を発行するといういわゆるワンタッチ測定サイクルが含まれる。比較的遅い速度での測定に先行して、物体の表面上の同じ点の初期測定をより速い速度で行い、その点のおおよその位置を確立するというツータッチ測定サイクルも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4153998号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のタイプの測定サイクルは、プローブの移動速度や、プローブが測定を行う前に事前設定する必要のある物体からのスタンドオフ距離などの様々な測定パラメータを必要とする。これらのパラメータは、測定サイクル時間と測定の精度の両方に影響を与え、通常、測定精度を確実に保護しまたは必要な測定サイクル時間を与える標準値に対する機械コミッショニング中に設定される。同じ製造者によって生産された同一の機械モデル間でも、座標位置決め装置の特性は幅広く変動するため、通常機械コミッショニング中に設定される標準的な測定パラメータでは、性能が最適以下になる可能性があることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、測定プローブを備える座標位置決め装置によって獲得すべき表面位置測定に最適のスタンドオフ距離を計算する方法であって、座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して最適のスタンドオフ距離を計算するステップを含む方法が提供される。
【0007】
したがって本発明は、座標位置決め装置に取り付けられた測定プローブを使用して行うべき測定に最適のスタンドオフ距離を計算する方法を提供する。下記でより詳細に説明するように、また当業者には知られているように、スタンドオフ距離とは、物体の表面上の1点から測定プローブ(たとえば、接触型測定プローブのスタイラス先端部)の、その点の位置が測定される前の最初の距離または隙間である。言い換えれば、物体上の1点の方への測定プローブの相対的な移動は、測定プローブと物体上の点の間の特定のスタンドオフ距離で開始される(たとえば、静止した開始)。本発明の方法によって計算される最適のスタンドオフ距離は、所与の測定精度レベルに対して最も短い測定時間を提供するスタンドオフ距離である。
【0008】
本発明の方法は、座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して最適のスタンドオフ距離を計算する。具体的には、異なる座標位置決め装置は、同じ製造者からの同じ機械モデルでも、著しく異なる加速特性を有する可能性があることがわかった。上記のように、設備技術者は、すべての可能な機械タイプに適した標準化されたスタンドオフ距離を使用するため、必要な測定精度を確実にするのに必要なものより通常著しく長いスタンドオフ距離を広範にわたって使用してきた。本発明の方法では、座標位置決め装置の加速特性の1つまたは複数の測定を使用して最適のスタンドオフ位置を計算することができ、それによって、計量精度を必要なレベル未満に劣化させることなく、測定時間を低減させることができる。
【0009】
座標位置決め装置の少なくとも1つの加速特性は、事前に測定しておくこともできる。たとえば、製造者は、機械の開発、構築、および/または較正中に1つまたは複数の加速特性を測定することができる。この方法は、座標位置決め装置の少なくとも1つの加速特性を測定するステップを含むと有利である。
【0010】
座標位置決め装置の加速特性は、複数の方法で測定することができる。座標位置決め装置の少なくとも1つの加速特性を測定するステップは、座標位置決め装置の可動部分が命令される速度で既知の離隔距離の2点間を動くのに費やす時間に対応する第1の時間間隔を測定するステップを含むと有利である。座標位置決め装置の可動部分は、たとえば、座標位置決め装置のうち、測定すべき物体に対して動くために測定プローブが取り付けられる部分を含むことができる。既知の離隔距離の2点は、開始点および終了点を含むことができる。したがってこの方法は、開始点で可動部分を静止状態(または特定の速度)から加速させること、および/または終了点で可動部分を停止状態(または特定の速度)まで減速させることを含むことができる。このとき、可動部分の加速および/または減速が必要であるため、命令される速度にすぐには到達しないことがわかる。任意の適切なクロックを使用して、第1の時間間隔を測定することができる。たとえば、座標位置決め装置のクロックを使用して、第1の時間間隔の持続時間を計ることができる。
【0011】
この方法はまた、第1の時間間隔と、命令される速度に等しい一定の速度で既知の離隔距離の2点間を動くのに費やすはずの時間に対応する第2の(たとえば、理論上の、または測定された)時間間隔とを比較するステップを含むと有利である。言い換えれば、一定の速度で2点間を進む時間と、その一定の速度まで加速および/または減速もするときに費やした時間とを比較する。2点間を進むのに費やす実際の時間(すなわち、第1の時間間隔)は、可動部分の加速および/または減速のため、第2の時間間隔より長い。この第1の時間間隔と第2の時間間隔の差は、座標位置決め装置の加速特性の尺度を提供する。言い換えれば、座標位置決め装置の加速区間は、空間内の2点間の実際の移動を計り、その時間と、一切加速しないでこれらの点の間を動くのに費やすはずの時間とを比較することによって見出すことができる。
【0012】
上記の代替手段として、第1の命令される速度を使用することで費やす第1の時間間隔と、第2の(異なる)命令される速度を使用する類似の動きで測定される第2の時間間隔とを比較することによって、加速特性を見出すこともできる。2つ以上の異なる速度の動きにおける加速の差は、加速特性の尺度を提供する。言い換えれば、動きを完了するのに費やす時間を2つ以上の異なる速度または送り速度で測定して、少なくとも1つの加速特性を確立することができる。
【0013】
測定プローブは、時間間隔を測定する間、座標位置決め装置の可動部分に取り付けても取り付けなくてもよいことに留意されたい。さらに、座標位置決め装置の加速特性(複数可)の測定は、最適のスタンドオフ距離を計算するステップの直前に先行して行うことができ、または機械の開発、構築、または較正中に実行することができる。本明細書では、加速特性という用語は、加速の影響と減速の影響の両方を包含することにも留意されたい。1つの座標位置決め装置に対して、複数の加速特性を測定することができる。たとえば、各機械軸に対して別個に加速区間を測定することができる。
【0014】
本発明の方法を使用して計算される最適のスタンドオフ距離は、必要な測定精度に依存することができる。たとえば、より低い精度の表面位置測定を必要とする場合、後の表面位置測定中の機械加速をわずかな量にすることも許容可能とすることができる。しかし、表面位置測定の獲得中に測定プローブと測定されている物体の間の相対的な速度が実質上一定になるように、最適のスタンドオフ距離を計算することが好ましい。測定プローブとプロービングされている物体の間の相対的な運動は、測定プローブの移動および/または物体の移動によって提供することができる。測定プローブは、座標位置決め装置の可動部分(たとえば、中空軸またはスピンドル)によって保持されて、静止した物体に接触することが好ましい。したがって、最適のスタンドオフ距離を計算するステップは、後に表面位置測定を獲得する間に測定プローブが実質上一定の速度で動くことを確実にする最適のスタンドオフ距離を計算するステップを含むと有利である。
【0015】
少なくとも1つの加速特性に加えて、最適のスタンドオフ距離を計算するステップは、他の要因または成分を考慮することもできる。たとえば、最適のスタンドオフ距離は、加速特性の距離成分およびさらなる距離成分を追加することによって形成することができる。最適のスタンドオフ距離を計算するステップは、表面位置測定を獲得すべき点の推定される位置または公称位置のあらゆる不確実性を考慮するステップを含むと好都合である。言い換えれば、プロービングすべき表面の公称位置が、特定の公差内に入ることが知られている場合、公差の距離成分は、この不確実性を考慮する最適のスタンドオフ距離内に含むことができる。この公差成分は、定義された公差範囲内であらゆる表面に対して一定の速度で測定を確実に行うのに役立つ。
【0016】
特定の座標位置決め装置では、静止状態から所与の速度まで加速または減速させるのに費やす時間は一定である。他の装置では、加速は一定の加速度で行われる。したがって最適のスタンドオフ距離は、後の表面位置測定で使用される所与の速度または送り速度に対して計算されることが好ましい。この方法は、複数の測定速度のそれぞれに最適のスタンドオフ距離を計算するステップを含むと有利である。たとえば、この方法は、第1の送り速度で第1の最適のスタンドオフ距離を計算するステップと、少なくとも1つのさらなる送り速度に対して少なくとも1つのさらなる最適のスタンドオフ距離を計算するさらなるステップとを含むことができる。
【0017】
上記で概説したように、最適のスタンドオフ距離は、表面位置測定に使用すべき各送り速度に対して別個に計算することができる。あるいは、少なくとも2つの送り速度に対して1つの最適のスタンドオフ距離を計算し、これを使用(たとえば、補外技法によって)して、他の速度での最適のスタンドオフ距離を確立することができる。この方法は、複数の測定速度または送り速度で計算された最適のスタンドオフ距離から、測定速度の範囲にわたって最適のスタンドオフ距離を推定できる関数または関係を導出するステップを含むことができると有利である。
【0018】
この方法は、任意のタイプの測定プローブとともに使用することができ、たとえば、測定プローブは、必要に応じて接触式のプローブであっても非接触式のプローブであってもよい。座標位置決め装置の測定プローブは、たわみ可能で加工物に接触するスタイラスを有するタッチトリガプローブを含むと有利である。
【0019】
可撓性のスタイラスを有する典型的なタッチトリガプローブは、オーバートラベルリミット(overtravel limit)を有する。オーバートラベルリミットとは、測定プローブ機構またはスタイラスの一部が機械的損傷を受ける前に起こりうるスタイラスの最大たわみである。オーバートラベルリミットは、安全余裕を含むことができ、通常、プローブ製造者によって定義される。この方法はまた、プローブのオーバートラベルリミットを超過することなく表面位置測定に使用できる最大測定速度または送り速度を計算するステップを含むと有利である。言い換えれば、スタイラスが表面に接触するときと、座標位置決め装置が測定プローブを完全停止させるときとの間の様々な遅延を決定および使用して、タッチトリガプローブのオーバートラベルリミットを違反しないようにするために使用できる最大送り速度を確立することができる。
【0020】
本方法を使用して計算される最適のスタンドオフ距離は、表面位置測定の獲得で後に使用するために、座標測定装置内に記憶することができる。最適のスタンドオフ距離の計算後、この方法は、最適のスタンドオフ距離を使用して物体の1つまたは複数の表面位置測定を行う追加のステップを含むと好都合である。言い換えれば、測定プローブは、最適のスタンドオフ距離だけ表面から隔置された空間内の最初の点から測定すべき表面の方へ動かすことができる。
【0021】
下記でより詳細に概説するように、表面位置測定を獲得するプロセスは、ワンタッチまたはツータッチのプロービング方策または測定サイクルを使用して実施することができる。ツータッチ測定サイクルでは、第1のタッチを使用して、推定される表面位置またはおおよその表面位置を提供し、第2のタッチで、最適のスタンドオフ距離を使用して表面位置測定を獲得する。そのようなツータッチ測定サイクルでは、各表面位置測定に先行して、物体の表面上の実質上同じ点の初期測定を行うことが好ましい。表面位置測定(すなわち、第2のタッチ)は第1の測定速度で実施され、初期測定(すなわち、第1のタッチ)は第2の測定速度で実施されると好都合である。第2の測定速度は、第1の測定速度より速いことが好ましい。このようにして、高速の第1のタッチの動きを使用して、物体の表面上の1点のおおよその位置を迅速に見出す。次いで測定プローブは、最適のスタンドオフ距離まで動き、第2のタッチの動きを実施(たとえば、より遅い速度で)して、表面上の点の位置を精密に測定する。
【0022】
ツータッチ測定サイクルでは、第1のタッチ測定(通常、高速で行われる)は、表面測定において実質的な誤差または不確実性を含みうることに留意されたい。これは、数値制御装置の応答時間の何らかの不確実性に起因する誤差を含むことがあり、したがって、走査時間制御装置がより遅い場合は特に著しい。数値制御装置を含む座標位置決め装置の場合、最適のスタンドオフ距離を計算するステップは、数値制御装置の応答時間のあらゆる不確実性を考慮するステップを含むことが好ましい。具体的には、最適のスタンドオフ距離は、制御装置の応答時間の不確実性が測定サイクルの第1のタッチ中に見出される推定される表面位置に与える影響を考慮することが好ましい。たとえば、最適のスタンドオフ距離は、制御装置の応答時間の不確実性に起因する表面上で測定すべき点の推定される位置の誤差に相当する距離成分を含むことができる。
【0023】
座標位置決め装置は数値制御装置を備え、この方法は、数値制御装置の応答時間の不確実性を評価するステップを含むことが好ましい。この不確実性を使用して、ツータッチ方策に対する上述の距離成分を計算することができる。そのようにして見出された数値制御装置の応答時間の不確実性を使用して、物体の表面位置測定を行うために使用すべき適当なプロービング方策(たとえば、ワンタッチ方策またはツータッチ方策)を選択することができると有利である。
【0024】
本発明の方法は、工作機械または専用の座標測定機(CMM)などの任意の座標位置決め装置上で実施することができる。この方法は、測定プローブを解放可能に保持できるスピンドルを有する数値的に制御される工作機械を備える座標位置決め装置上で実施されると有利である。
【0025】
本発明はまた、コンピュータ(たとえば、汎用コンピュータまたは数値制御装置)上で実行されると上記の方法を実施するコンピュータプログラムにも適用される。本発明によれば、この方法を実施するようにプログラムされたコンピュータ(たとえば、汎用コンピュータまたは数値制御装置)を提供することもできる。そのようなプログラムを記憶するためのコンピュータ記憶キャリア(たとえば、小型ディスク)を提供することもできる。
【0026】
本発明の第2の態様によれば、座標位置決め装置は、表面位置測定を獲得する測定プローブを備え、座標位置決め装置は、座標位置装置によって獲得すべき表面位置測定に最適のスタンドオフ距離を計算する処理装置を備え、処理装置は、座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して最適のスタンドオフ距離を計算する。
【0027】
本発明の第3の態様によれば、測定プローブを備える座標位置決め装置上の保護された位置決めする動きに対する最大速度を計算する方法であって、座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して最大速度を計算するステップを含む方法が提供される。当業者には理解されるはずであるように、保護された位置決めする動きとは、座標位置決め装置が測定プローブを動かしながら、そのプローブのトリガまたは信号線を監視するときに行われる位置決めする動きである。したがって、保護された位置決めする動きは、測定サイクルの一部として実行される動き、またはプローブを所望の位置へ動かすために測定の前もしくは後に実施される動きを含む。座標位置決め装置は、オーバートラベルリミットを有する測定プローブを備えると有利である。そのような例では、保護された位置決めする動きに対する最大速度は、物体に接触してプローブの移動を停止させた場合にオーバートラベルリミットを超過しないようにするために使用できる最も速い速度である。
【0028】
表面位置測定を獲得する測定プローブを備える座標位置決め装置を提供することもでき、座標位置決め装置は、測定プローブを使用して保護された位置決めする動きに対する最大速度を計算する処理装置を備え、処理装置は、座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して最大速度を計算する。
【0029】
本発明の第4の態様によれば、数値制御装置を備える座標位置決め装置に対する測定方策を選択する方法であって、数値制御装置の応答時間の不確実性を決定するステップを含む方法が提供される。言い換えれば、測定プローブから受け取ったトリガ信号に応答するのに数値制御装置が費やす時間の不確実性の尺度を確立することができる。下記でより詳細に概説するように、これは、異なるスタンドオフおよび/または測定速度を使用して物体の表面上の同じ点の複数の測定を行うことによって実現することができる。そのような一連の測定の不確実性は、数値制御装置の応答時間の不確実性の尺度を提供する。
【0030】
そのようにして見出された数値制御装置の応答時間の不確実性を使用して、物体の表面位置測定を行うために使用すべき適当なプロービング方策を選択することができる。たとえば、数値制御装置が高速で動作する(すなわち、応答時間の不確実性が低い)ことがわかった場合、いわゆるワンタッチプロービング方策を実施することができる。数値制御装置が低速である(すなわち、応答時間の不確実性が高い)ことがわかった場合、いわゆるツータッチのプロービング方策を実施することができ、各表面位置測定に先行して、物体の表面上の実質上同じ点の初期測定が行われる。そのようなツータッチ方策では、表面位置測定が第1の測定速度で実施され、初期測定が第2の測定速度で実施され、第2の測定速度が第1の測定速度より速いことが好ましい。
【0031】
本発明のさらなる態様によれば、測定プローブを備える座標位置決め装置によって獲得された表面位置測定を最適化する方法であって、座標位置決め装置の少なくとも1つの加速特性を測定するステップを含む方法が提供される。
【0032】
本発明について、例示のみを目的として、添付の図面を参照して次に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】可撓性のスタイラスを有する測定プローブを保持する座標位置決め装置の図である。
【図2】工作機械のプロービングシステムの典型的なアーキテクチャを示す図である。
【図3】プローブのオーバートラベルに寄与する異なる要因を示す図である。
【図4】1つのタイプの工作機械上に存在する加速区間を示す図である。
【図5】機械の加速期間中に獲得した測定がどのように測定誤差をもたらすかを示す図である。
【図6】ツータッチのプロービングルーチンを示す図である。
【図7a】機械の加速区間をどのように測定して加速距離を確立できるかを示す図である。
【図7b】機械の加速区間をどのように測定して加速距離を確立できるかを示す図である。
【図8】図7aおよび7bの機械の加速区間を示す図である。
【図9】動的な誤差の概念を示す図である。
【図10】最適化されていないツータッチのプロービング方策を使用して測定サイクルの速度を示す図である。
【図11】本発明の最適化されたツータッチのプロービング方策とワンタッチ方策の測定速度を比較する図である。
【図12】ワンタッチのプロービング方策に対する送り速度の関数として誤差の増大を示す図である。
【図13】速い送り速度を使用すると速度の影響が安定することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1を参照すると、タッチトリガプローブ4を保持するスピンドル2を有する工作機械が示されている。
【0035】
工作機械は、工作機械の作業領域内で加工物ホルダ7上に位置する加工物6に対してスピンドル2を動かす1つまたは複数のモータ8などの周知の手段を備える。機械の作業領域内のスピンドルの位置は、エンコーダなどを使用して周知の方法で精密に測定され、そのような測定は、機械の座標系(x,y,z)内に画定されたスピンドル位置データを提供する。数値制御装置(NC)20は、(x,y,z)を制御し、工作機械の作業領域内のスピンドル2の移動を制御し、また様々なエンコーダからスピンドルの位置に関する情報を受け取る。NC20は、フロントエンドのコンピュータを備えることができ、またはそのようなコンピュータに接続することができる。
【0036】
タッチトリガプローブ4は、標準的な解放可能なシャンクコネクタを使用して工作機械のスピンドル2に取り付けられたプローブ本体10を備える。プローブ4はまた、加工物に接触するスタイラス12を備え、スタイラス12は筐体から突出する。スタイラス12の遠位端部には、関連する加工物6に接触するスタイラス球14が提供される。タッチトリガプローブ4は、スタイラスのたわみが所定の閾値を超過すると、いわゆるトリガ信号を生成する。プローブ4は、遠隔のプローブインターフェース18の対応する無線受信器/送信器部分にトリガ信号を渡す無線送信器/受信器部分16を備える。無線リンクは、たとえばRFまたは光学式とすることができる。
【0037】
NC20は、スピンドル位置(x,y,z)データおよびトリガ信号を受け取り(プローブインターフェース18を介する)、トリガ信号を受け取った瞬間に、見掛け上のスピンドル位置データ(x,y,z)を記録する。適当な較正後、これにより、加工物6などの物体の表面上の点の位置を測定することができる。
【0038】
図2に概略的に示すように、工作機械に適合されたプロービングシステムは、5つの要素からなると見なすことができる。これには、測定プローブアセンブリ30、プローブインターフェース32(プローブ伝送システムと、CNCシステム36へのプローブ伝送システムのインターフェースとを含む)、工作機械34、CNC制御システム36、およびCNC制御システム36上に常駐するプローブ制御ソフトウェア38が含まれる。これらの要素はそれぞれ、プロービングシステムの計量性能および任意の所与の測定またはプロービングサイクルの持続時間に関わる。
【0039】
前述のプロービングシステムを使用して実施される任意の測定サイクル内の主な事象はトリガである。測定プローブ30のスタイラスが物体の表面上の1点と接触すると、CNC制御装置36へ渡されるプローブインターフェース32内に変化を引き起こす。このプロセスは、図3を参照して下記でより詳細に説明するが、操作者には瞬間的に起こっているように見えることがある。しかし実際には、このプロセスは一連の個別のステップを伴い、これらのステップによって、CNC制御装置36がトリガ信号に作用する。
【0040】
図3を参照すると、典型的なタッチトリガ式のプロービングシーケンスの様々な段階が示されている。
【0041】
測定プロセス中、プローブは、測定すべき物体42の表面の方へ駆動される。第1の瞬間Aで、スタイラスの先端部40は、物体の表面上の1点に接触する。測定プロセスのこの第1の段階中、プローブは引き続き物体の方へ動き、スタイラスはさらにたわみする。第2の瞬間Bで、測定プローブのスタイラスたわみ閾値を超過する。表面との最初の接触からプローブ感知閾値に到達するまでにプローブが進む必要のある距離を、機械的事前移動距離(mechanical pre−travel)と呼ぶ。周知のタイプの運動学的なプローブでは、機械的事前移動距離とは、復帰ばねの力に打ち勝ってローラの台座からローラを持ち上げ始めるのに十分な歪みエネルギーを蓄積するのに十分にスタイラスを湾曲させる必要のある距離である。いわゆる歪み計プローブでは、スタイラスは、歪み計構成が事前設定された値を超過する歪みの変化を示すまで湾曲する。機械的事前移動距離は、プローブのハードウェアに依存しており、測定サイクル中、プローブの移動速度とともに変動しない。したがって、通常、適当な較正および応用ソフトウェアで機械的事前移動距離の影響を「較正して取り除く」ことが可能である。
【0042】
機械的事前移動距離または第1の段階後に開始する測定プロセスの第2の段階は、プローブインターフェースが機械的トリガ事象が発生したことを認識し、CNC制御装置にトリガ信号を発行することを伴う。機械的トリガ事象とトリガ信号がCNC制御装置に伝送されるときとの間の遅延は通常、インターフェース応答時間と呼ばれる。言い換えれば、インターフェースは、図3に示す瞬間Cでトリガ信号を発行し、この時点でプローブは、よりいっそう物体の方へ進み、それによってスタイラスをさらにたわみさせる。
【0043】
インターフェース応答時間は通常、信号のフィルタリングに関連する遅延を含むことに留意されたい。この信号のフィルタリングによる遅延は、典型的なプローブインターフェースが関連する測定プローブの状態を連続して監視し、測定プローブが表面と接触すると、CNCシステムへトリガ信号を伝送するために生じる。しかし、スタイラスに作用する力(たとえば、慣性)が、表面に接触する事象としてインターフェースによって誤って解釈される可能性がある。たとえば、プローブの大きな加速とともに長いスタイラスが使用された場合、スタイラスが過渡的にたわみし、いわゆる「誤トリガ(false triggering)」(すなわち、スタイラスが実際には表面と接触していないときのトリガ)を招く可能性が大きい。トリガ信号の信頼性を改善するために、プローブインターフェースは通常、あらゆる過渡信号をフィルタ除去するように構成されており、所定の長さの時間(たとえば、0.01秒)にわたってたわみ閾値信号レベルを超過した場合にのみ、トリガ信号を制御装置に伝送する。トリガ事象をプローブからインターフェースに伝送することに関連するインターフェース応答時間には、わずかな遅延成分が存在する可能性があり、たとえば、典型的な光伝送システムの場合は0.002秒、または標準的なRF通信システムの場合は0.01秒である。プローブインターフェースの応答時間は、測定システム間でかなり変動する可能性があるが、通常、特定の設定に対して一定であり、したがって通常、較正して取り除くことができる。
【0044】
典型的なプローブトリガシーケンスの第3の段階は、機械のCNC制御装置がプローブインターフェースから受け取ったトリガ信号を認識して作用するプロセスである。したがってCNC制御装置は、図3に示す瞬間Dで、受け取ったトリガ信号に作用(たとえば、プローブ移動を停止させることによる)し、この時点でプローブは、よりいっそう進み、それによってスタイラスのたわみを増大させている。CNC制御装置によって導入されるこの時間遅延は、制御装置の応答時間と呼ばれることが多い。
【0045】
適当な較正手順によって実質上一定の遅延(たとえば、機械的事前移動距離の影響およびプローブインターフェース応答時間)を補償することが可能であるが、制御装置の応答時間に関連する不確実性のレベルが高くなることが多い。さらに、異なる製造者およびタイプのCNC制御装置では、制御装置の応答時間は数桁分変動する可能性がある。たとえば、トリガ信号の発行と、CNC制御装置が信号に応答して行動できるときとの間の時間遅延は、制御装置の仕様および購入した制御装置の選択肢に応じて、短くても4μ秒、または長ければ4m秒となる可能性がある。
【0046】
遅い方では、特定の市販のCNC制御装置が入力を走査している。そのようなCNC制御装置は通常、走査時間を有し、走査時間中、様々な入力線の状態を検査し、また様々な出力線の状態を設定する。したがって、トリガ信号の入力線が走査され、1サイクルに1回状態に作用するが、これは、ゼロの走査時間と完全な走査時間の間の不定の時点で発生する。したがって、この走査時間をジッタと見なすことができる。そのような遅い制御装置に対する典型的な走査時間またはジッタは、1〜4m秒前後である。スペクトルの速い方では、トリガ信号を受け取るいわゆる直接または高速のスキップ割込みまたは入力をもつNC制御装置が利用可能である。そのような制御装置では、プローブのトリガ信号を各軸の制御盤に直接接続することができ、トリガ信号を受け取るとほぼ瞬間的に現在の軸の位置をラッチまたは記録することができる。通常、このタイプのプローブ信号と軸制御盤を統合することで、4μ秒程度の応答時間または待ち時間を提供し、ジッタはごくわずかである。
【0047】
制御装置の走査時間が増大するにつれて、特定の速度または送り速度で物体の方へ駆動される測定プローブを使用して行われる測定に関連する誤差も増大する。関連する時間遅延が4μ秒である直接または高速の入力をもつ機械上では、制御装置の応答時間の影響は、この時間中に機械が進む距離がごくわずかであるため、極めて速い送り速度でも無視することができる。しかし、より長い走査時間を有する機械上でより速い送り速度で測定を行うと、計量精度が著しく劣化する可能性があることがわかった。下記でより詳細に概説するように、本発明は、制御装置が長い走査時間を有する場合でもやはり高い計量性能を提供する最適化されたツータッチ測定サイクルを提供することができる。しかし、使用されている制御装置に最も適当なプロービング方策(たとえば、ワンタッチ方策またはツータッチ方策)を選択することが望ましいであろう。
【0048】
ワンタッチ方策もしくはツータッチ方策は、自動的に選択することができ(たとえば、下記の通り)、または既知の制御装置の走査時間に基づいて使用者によって設定することができる。具体的には、遅い(たとえば、ミリ秒の)制御装置にはツータッチ測定方策を使用することができ、高速の(たとえば、マイクロ秒の)制御装置にはワンタッチ測定方策を用いることができる。使用者は、CNC制御装置の既知の走査速度に応じて必要な方策を実施するように、CNC制御装置を簡単にプログラムすることができる。制御装置の応答時間を自動的に評価することができると有利である。これは、物体の表面上の同じ点の複数の測定の反復性を分析することによって実行することができる。たとえば、同じスタンドオフ距離を使用して、同じ点を複数の異なる速度で測定することができる。あるいは、複数の異なるスタンドオフ距離を使用して、同じ点を単一の速度で測定することができる。そのような測定の反復性は、より速い制御装置の場合ますます高くなり、それによってそのような制御装置を識別することができる。したがって、反復性または測定の不確実性の閾値を設定することができ(たとえば、10μmで)、測定の不確実性がそのような閾値を下回ることがわかった場合、ワンタッチ方策を実施することができる。
【0049】
図4を参照すると、測定プローブを保持する工作機械のスピンドルがどのように特定の時間を費やして一定の速度もしくは送り速度へ加速し、またはその速度もしくは送り速度から減速するかが示されている。言い換えれば、工作機械のスピンドルは、特定の送り速度で動き始めるようにCNC制御装置によって命令された場合、特定の時間を費やしてその送り速度まで加速する。スピンドルのこの加速/減速は、機械の加速区間と呼ばれることが多い。
【0050】
工作機械が加速および減速する方法を決定する制御アルゴリズムは、CNC制御システムの製造者によって設定される。これらの制御アルゴリズムは、機械の構造間で変動する可能性があり、また機械が再較正されると変わることもある。主要なCNC制御システムの製造者であるSiemens、Fanuc、Heidenhein、およびMitsubishiはすべて、独自の特定の論理方式および計算を実施する。しかし原則として、工作機械は通常、一定の加速度で加速しない。たとえばFanucおよびMitsubishiの制御装置の場合、加速度は、所定の時間(たとえば、0.06秒)でプログラムされた送り速度に到達するように設定される。したがって、プログラムされた送り速度を実現するために工作機械軸が進む距離は、送り速度とともに直線的に増大する。これを図4に示し、第1の送り速度1000mm/秒および第2の送り速度2000mm/秒で命令される動きに対して、速度を時間の関数として示す。第1の送り速度および第2の送り速度の速度プロファイルは、それぞれ線50および52で示す。
【0051】
図5を参照して、機械の加速区間で測定を行う悪影響について説明する。通常、すべての測定プローブシステムは較正を必要とすることが理解され、受け入れられている。これには通常、測定サイクルで後に使用される送り速度で既知の表面をプロービングする必要がある。上記で説明したように、CNC制御システムによって記録される物体の表面上の1点の位置と、その点の実際の位置との間には差がある。この差は、測定プローブの機械的事前移動距離およびプローブインターフェース応答時間による遅延に起因する。この差はまた、スタイラスが物体に接触するときと、CNC制御システムがトリガ信号を受け取るときとの間の時間遅延と考えることもできる。理解を容易にするために、加速の影響に関する以下の説明では、制御装置の応答時間の不確実性を無視する。
【0052】
図5は、工作機械に対する典型的な速度と時間の関係の図60を示す。機械的事前移動距離、および測定に関連するプローブインターフェースの応答時間による時間遅延は、所与の設備に対して実質上一定である。
【0053】
測定システムで獲得される測定から時間遅延の影響を除去するために、スタイラスが物体に接触する時間Tpとプローブインターフェースによってトリガ信号が発行される時間Tiとの間の時間で進んだ距離Aが計算される。次いで、特定の送り速度に対して有効なこの距離Aを記憶および使用して、その送り速度で得られるすべての将来報告される位置を補正することができる。機械の加速区間で行われる測定について、次に考慮されたい。機械が加速しているため、スタイラスが物体に接触する時間Tpとトリガ信号が発行される時間Tiとの間の時間で測定プローブが進む距離Bは、距離Aと異なる。言い換えれば、測定された位置の補正は、加速区間のうち測定に使用される部分に依存する大きさの誤差Cを受けやすい。
【0054】
したがって、測定プローブが加速区間内に位置する間は、表面測定の獲得を回避するべきであることがわかる。言い換えれば、精密な計量を確実にするには、スタイラスが物体の表面と接触しているときに測定プローブを一定の速度で確実に動かすべきである。したがって、測定サイクルが静止した開始から開始された場合、測定プローブは、あらゆる表面測定が行われる前に必要な一定の速度まで測定プローブを加速させるのに十分ほど、物体の表面から距離を離して位置決めするべきであり、表面からのこの最初の距離をスタンドオフ距離と呼び、最適のスタンドオフ距離を計算する方法について、図6〜9を参照して下記で説明する。
【0055】
可撓性のスタイラスを有する接触式の測定プローブは、いわゆるオーバートラベルリミットを有することにも留意されたい。プローブのスタイラスがこのオーバートラベルリミットを超えてたわんだ場合、プローブのたわみを感知する機構の機械的損傷、および/またはスタイラスの破損が発生することがある。したがって、測定中に使用するための最大送り速度は、表面に接触した後、オーバートラベルリミットに到達する前にプローブが確実に停止できるように見出すことができる。そのような最大送り速度は、トリガプロセス(たとえば、図3を参照して説明した機械的事前移動距離、インターフェースの応答時間、および制御装置の応答時間)における様々な遅延と、CNC制御装置によって指示されたときにプローブを減速させて停止させるのに必要な時間とを考慮することによって計算することができる。
【0056】
図6を次に参照すると、物体68の表面上の1点の位置を測定するいわゆるツータッチ測定サイクルが示されている。
【0057】
矢印70で示す第1のステップで、測定プローブは、静止した開始位置から物体68の表面の方へ比較的速い送り速度で加速する。測定プローブのスタイラスは物体の表面に接触し、スタイラスのたわみは、CNC制御装置によってプローブトリガが確認され、次いでCNC制御装置が測定プローブの移動を停止させるまで続く。この第1のステップは、測定されている物体の表面を見出すために実行されるものであり、精密な表面位置測定を提供するために使用されるものではない。
【0058】
矢印72で示す第2のステップで、プローブの移動方向は逆になり、測定プローブはスタンドオフ位置74まで動く。
【0059】
矢印76で示す第3のステップで、測定プローブのスタイラスは、物体の表面上の点と接触するように再び駆動されるが、より遅い送り速度で駆動される。図6には横に並べて示すが、測定プローブのスタイラスは第3のステップで、物体の表面上で、第1のステップで接触した点と実質上同じ点に接触することに注意されたい。この第2のより遅い速度の測定では、物体の表面上の点の必要な位置測定を提供する。
【0060】
矢印78で示す第4のステップ78で、測定プローブは表面から離れて、次の測定の開始位置へ、または任意の他の必要な位置へ動く。もちろんこの方法を複数回繰り返して、物体の表面上の複数の点を測定することができる。
【0061】
第2のステップで使用されるスタンドオフ距離で、第3のステップで獲得される測定の速度および精度が決まる。スタンドオフ距離が小さすぎる場合、プローブが工作機械によって必要な速度まで加速されている間に測定が行われることがあり、それによって計量の精度を低減させる。逆に、スタンドオフ距離が大きすぎる場合、より遅い送り速度でプローブを駆動して物体の表面と接触させるのに費やす時間が非常に大きくなる可能性があり、それによって測定サイクルを完了するのに必要な時間を増大させ、全体的な生産性を低減させる。すべての工作機械は異なる特性を有しており、典型的なプロービングシステムの場合、設備技術者または末端使用者は、計量に影響を与えないようにスタンドオフ距離を設定するときに用心深すぎる傾向があることがわかった。しかしこれにより、必要なものより著しく遅く、したがって最適以下のツータッチ測定サイクルが実施されることがわかった。
【0062】
図6を再び参照すると、第2のタッチ測定(すなわち、より遅い送り速度で実行される方法の第3のステップの測定)に対する加速距離D1、および第1のタッチ測定(すなわち、より速い送り速度で方法の第1のステップで実行される測定)中にCNC制御装置の応答時間の不確実性を許す距離D2を考慮して、最適のスタンドオフ距離または位置74をどのように計算できるかが示されている。送り速度とともに変動する動的区間距離D3も示す。動的区間距離D3は、スタイラスが物体の表面に接触するときと、NC制御装置がその結果得られるトリガ信号に作用するときとの間の時間遅延に起因する物体の表面上の1点の測定された位置のオフセットに相当する。この(実質上一定の)遅延を生成する典型的なタッチトリガ式のプロービングシーケンスの様々な段階については、図3を参照して上記で説明した。第2のタッチ測定は比較的遅い速度で行われるため、この第2の測定に対する制御装置の応答時間の不確実性はごくわずかであり、無視することができる。すなわち、スタイラスが物体の表面に接触するときと、NC制御装置がその結果得られるトリガ信号に作用するときとの間の時間遅延は、実質上一定であると仮定することができる。しかし、第1のタッチのより速い送り速度に対する距離D2によって、制御装置の応答時間の不確実性が考慮される。
【0063】
最適のスタンドオフ距離は、加速が測定に影響を与えない最も速い測定サイクル時間を提供するように計算されることが好ましい。しかし、より低い計量性能が必要とされる場合、必要な測定精度を提供する特定のレベルまで加速の影響を低減させる最適のスタンドオフ距離を設定することが可能であることに留意されたい。言い換えれば、本明細書に記載の様々な例は、最も高い可能な精度レベルで測定を得ることについて説明するが、この方法を適用して、より低い所定の測定精度を実現することもできる。
【0064】
図7a、7b、および8を参照して、加速距離D1を測定する技法について説明する。具体的には、図7bは、測定プローブの試験動作に対する速度と時間の関係の図を示し、曲線下の積分または面積は、動き距離Dcに等しい。図7bからわかるように、試験動作中、測定プローブは既知の送り速度まで加速され、次いで停止まで減速される。図7aは、同じ動き距離Dcであるが一定の速度の測定プローブの理論上の動きに対する速度と時間の関係の図を示す。
【0065】
加速距離D1は、図7bに示す実際の試験動作の時間を計り、そのような動きが図7aに示すように一定の速度(すなわち、いかなる加速または減速もなし)で費やすはずの時間と比較することによって見出される。次いで、この動きに対する実際の時間Taと、同じ距離Dcを一定の速度で動くのに費やされるはずの理論上の時間Tcとの間の時間差Tdを計算することができる。これを図8に示す。
【0066】
図8に示すように、一定の速度Vへの加速/減速は、期間Tdにわたって行われる。したがって加速距離D1は、次の数式によって計算することができる。
【0067】
【数1】
【0068】
この時点で、加速区間または距離は、工作機械の様々な(たとえば、x、y、z)軸に対して異なることがあることに留意することが重要である。たとえば、工作機械のz軸は、重力の影響により、x軸およびy軸とは異なる加速特性を有することがある。したがって加速区間は、各軸に対して別個に計算し、次いで関連する軸に沿って行われた任意の測定に適用することができ、または最も長い加速区間をすべての測定に適用することができる。あるいは、加速区間は、最も長い加速区間を有するとわかっている、または仮定できる既知の単一の軸に対して測定することができる。
【0069】
距離D2は、CNC制御装置の応答時間の不確実性を許すものであり、所与の送り速度に対して、工作機械のはしご形の走査時間から決定することができる。具体的には、この距離D2は、より速い送り速度で第1のタッチ測定から決定されるおおよその表面位置の不確実性に相当する。CNC制御装置が高速の入力を有する場合、および/または第1のタッチ測定に比較的遅い送り速度が使用される場合、距離D2はごくわずかであり、無視することができる。
【0070】
図9を参照すると、動的区間距離D3がどのように送り速度とともに直線的に変動するかが示されている。具体的には、図9は、第1の送り速度F1および第2の送り速度F2をそれぞれ使用するときの、物体の表面(A=0)上の単一の点の測定された位置P1およびP2を示す。上記で概説したように、こうして見掛け上の位置が送り速度とともに変化することは、プローブのスタイラスが表面上の点と接触するときと、CNC制御装置がそのトリガに作用するときとの間の遅延に起因する。送り速度がゼロまで低減されるにつれて、動的区間D3がどのように送り速度とともに直線的に増大し、ゼロに接近するかもわかる。送り速度に対するD3の直線的な変動は、2つの異なる送り速度で物体の表面上の1点を測定することによって決定することができる。たとえば、この計算は、ツータッチ測定サイクル中に行われる2つの表面測定を使用して実行することができる。
【0071】
図10を次に参照すると、最適化されていないツータッチ測定プロセスのサイクル時間が、接近(第1のタッチ)送り速度の関数として示されている。
【0072】
具体的には、図10のグラフは、送り速度3000mm/分で接近する最初の開始位置から2mm離れた表面上で実行される標準的なツータッチ測定サイクルのサイクル時間を示す。第1のタッチ後、プローブは、標準化された距離4mmだけ後退し、30mm/分という計量送り速度を使用して、表面上の点が測定される(すなわち、第2のタッチが実行される)。この測定サイクルは、7.05秒を費やすことがわかった。
【0073】
図11を参照すると、第1の曲線110は、上記のように最適化されたツータッチ測定サイクルのサイクル時間を示す。具体的には、第2のタッチまたは計量動作のためにプローブを表面から十分に離す最適化された後退距離を見出すことで、30mm/分という計量送り速度で動く距離をわずか数分の1ミリメートルまで低減させ、それによってサイクル時間を大幅に低減させる。たとえば、上述の測定のサイクル時間を7.05秒から0.444秒に低減させることができ、すなわち6.606秒改善する。
【0074】
図11の第2の曲線112は、いわゆるワンタッチプロービングサイクルのサイクル時間を示し、プローブは、ツータッチサイクルの場合と同じ距離だけ物体の表面から離れたところで開始し、トリガが確認され、制御装置の作用を受けるまで、測定送り速度で物体の方へ動く。次いでプローブは、減速して静止し、開始位置に戻り、または後の測定のためのさらなる開始位置に戻る。トリガまたはスキップ位置は、CNC制御装置内に記憶され、表面位置を計算するために使用される。3000mm/分という接近および測定速度を使用するワンタッチサイクルのサイクル時間は、0.254秒であることがわかった。上記で概説したように、3000mm/分という接近速度、30mm/分という測定の最適化されたツータッチルーチンのサイクル時間は、0.444秒であった。したがって、ワンタッチルーチンの持続時間はやはり、最適化されたツータッチルーチンよりわずかに短いことがわかる。ワンタッチ測定サイクルは通常、ツータッチサイクルより速いが、そのようなワンタッチ測定サイクルの精度は、CNC制御装置がより長い走査時間を有する場合、著しく劣化する可能性があることがわかった。
【0075】
図12を参照すると、ワンタッチ測定の測定不確実性が、送り速度(すなわち、プロービング速度)の関数として示されている。具体的には、線121は、CNC制御装置の走査時間が4μ秒であるときの不確実性を示し、線120は、CNC制御装置の走査時間が1m秒であるときの不確実性を示し、線122は、CNC制御装置の走査時間が4m秒であるときの不確実性を示す。3000mm/分という接近および測定速度を使用するワンタッチサイクルのサイクル時間は0.254秒であるが、図12に示すように、CNC制御装置が4m秒の走査時間を有する場合、関連する測定不確実性は0.2mm前後である。これは、同じCNC制御装置を使用して実施される最適化されたツータッチ測定サイクルの場合、わずか0.002mmという不確実性に匹敵する。
【0076】
図13を参照すると、特定の工作機械がまたどのように、加速から一定の送り速度への遷移が通常瞬間的に行われないために生じる「安定(settling down)」期間130を有するかが示されている。典型的な機械では、軸が安定するのに最大0.01秒を費やす可能性があり、加速から一定の送り速度へのこの遷移段階の速度が変動しており、不確実であることがわかった。したがって、動きのこの段階で測定を行うと、測定の不確実性を増大させる可能性がある。この影響は、ワンタッチ測定プロセスで使用する送り速度など、速い送り速度を使用するときに特に有害である。軸が静止した開始から最大5000mm/分進む場合、この安定が発生する距離は0.83mmである。加速区間以外で測定を確実に行うのに2.5mmというスタンドオフ距離が必要とされる場合、この安定距離を追加すると、そのようなワンタッチサイクルに対する最適のスタンドオフ距離が3.33mmになる。これは、第2のタッチまたは計量動作がたとえば30mm/分という比較的遅い送り速度で実施される上述の最適化されたツータッチルーチンと対比させるべきである。そのような例では、第2のタッチに対するスタンドオフ距離は、測定を確実に機械の加速区間以外で行うために、0.015mmより大きいだけでよい。この場合、安定距離は、わずか0.005mmであり、最適のスタンドオフ距離の計算内に含まれる場合、測定速度にごくわずかな影響しか与えない。
【0077】
上記を考えると、通常、最も速いCNC制御装置を除くすべてのCNC制御装置に対して、本発明の最適化されたツータッチ方策を使用することが好ましいことがわかる。そのようなツータッチサイクルを使用すると、計量を確実に保護しながら、サイクル時間に与える悪影響が最小になる。最適のツータッチ測定サイクルはまた、CNC制御装置に対して高速入力の選択肢を購入する必要を回避することができる。上記では、ツータッチ測定サイクルに最適のスタンドオフまたは後退距離を見出すことについて説明したが、ワンタッチサイクルまたは任意の他の測定サイクルで測定するためのスタンドオフ位置を確立するために、同じ技法を等しく適用できることにも留意されたい。
【0078】
上記の例では、工作機械上で実施される可撓性のスタイラスを有する測定プローブを備えるタッチトリガ式のプロービングシステムに関して説明した。しかし、同じ原理は、任意のタイプの座標位置決め装置および任意のタイプのプロービングシステムに適用することができる。たとえば、これらの技法を座標測定機(CMM)に適用することができる。同様に、任意の周知のタイプの測定プローブ(たとえば、接触式または非接触式のプローブ)を、座標位置決め装置によって保持することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、座標を位置決めする装置(以下、座標位置決め装置)によって実施される測定サイクルを設定する方法に関し、詳細には、測定プローブを備える座標位置決め装置によって獲得すべき表面位置測定に最適のスタンドオフ距離を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械または座標測定機(CMM)などの座標位置決め装置が知られている。そのような座標位置決め装置とともに使用するための様々な測定プローブも知られている。たとえば、特許文献1に記載のタイプのタッチトリガ(touch trigger)式の測定プローブは運動学的機構を備え、スタイラスが物体に接触すると、スタイラスホルダはプローブ本体内の関連する台座から離れる。運動学的機構が台座から離れると電気回路を切断し、それによってトリガ信号を生成する。歪み計などを使用してスタイラスのたわみが測定され、特定のスタイラスたわみ閾値を超過すると、トリガ信号が発行されるタッチトリガプローブも知られている。タッチトリガプローブによって発行されたトリガ信号は、物体と接触したことを示し、座標位置決め装置によって行われるプローブ位置の機械測定と組み合わせて使用して、物体の表面上の接触点の位置を決定する。
【0003】
座標位置決め装置によって保持されるタッチトリガプローブを使用して測定を獲得する様々な方策またはサイクルが知られている。これには、測定プローブのスタイラスを駆動して測定されている物体内へ入れ、装置によって測定された測定プローブの位置から物体の表面上の1点の位置を見出し、その瞬間にトリガ信号を発行するといういわゆるワンタッチ測定サイクルが含まれる。比較的遅い速度での測定に先行して、物体の表面上の同じ点の初期測定をより速い速度で行い、その点のおおよその位置を確立するというツータッチ測定サイクルも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4153998号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のタイプの測定サイクルは、プローブの移動速度や、プローブが測定を行う前に事前設定する必要のある物体からのスタンドオフ距離などの様々な測定パラメータを必要とする。これらのパラメータは、測定サイクル時間と測定の精度の両方に影響を与え、通常、測定精度を確実に保護しまたは必要な測定サイクル時間を与える標準値に対する機械コミッショニング中に設定される。同じ製造者によって生産された同一の機械モデル間でも、座標位置決め装置の特性は幅広く変動するため、通常機械コミッショニング中に設定される標準的な測定パラメータでは、性能が最適以下になる可能性があることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、測定プローブを備える座標位置決め装置によって獲得すべき表面位置測定に最適のスタンドオフ距離を計算する方法であって、座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して最適のスタンドオフ距離を計算するステップを含む方法が提供される。
【0007】
したがって本発明は、座標位置決め装置に取り付けられた測定プローブを使用して行うべき測定に最適のスタンドオフ距離を計算する方法を提供する。下記でより詳細に説明するように、また当業者には知られているように、スタンドオフ距離とは、物体の表面上の1点から測定プローブ(たとえば、接触型測定プローブのスタイラス先端部)の、その点の位置が測定される前の最初の距離または隙間である。言い換えれば、物体上の1点の方への測定プローブの相対的な移動は、測定プローブと物体上の点の間の特定のスタンドオフ距離で開始される(たとえば、静止した開始)。本発明の方法によって計算される最適のスタンドオフ距離は、所与の測定精度レベルに対して最も短い測定時間を提供するスタンドオフ距離である。
【0008】
本発明の方法は、座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して最適のスタンドオフ距離を計算する。具体的には、異なる座標位置決め装置は、同じ製造者からの同じ機械モデルでも、著しく異なる加速特性を有する可能性があることがわかった。上記のように、設備技術者は、すべての可能な機械タイプに適した標準化されたスタンドオフ距離を使用するため、必要な測定精度を確実にするのに必要なものより通常著しく長いスタンドオフ距離を広範にわたって使用してきた。本発明の方法では、座標位置決め装置の加速特性の1つまたは複数の測定を使用して最適のスタンドオフ位置を計算することができ、それによって、計量精度を必要なレベル未満に劣化させることなく、測定時間を低減させることができる。
【0009】
座標位置決め装置の少なくとも1つの加速特性は、事前に測定しておくこともできる。たとえば、製造者は、機械の開発、構築、および/または較正中に1つまたは複数の加速特性を測定することができる。この方法は、座標位置決め装置の少なくとも1つの加速特性を測定するステップを含むと有利である。
【0010】
座標位置決め装置の加速特性は、複数の方法で測定することができる。座標位置決め装置の少なくとも1つの加速特性を測定するステップは、座標位置決め装置の可動部分が命令される速度で既知の離隔距離の2点間を動くのに費やす時間に対応する第1の時間間隔を測定するステップを含むと有利である。座標位置決め装置の可動部分は、たとえば、座標位置決め装置のうち、測定すべき物体に対して動くために測定プローブが取り付けられる部分を含むことができる。既知の離隔距離の2点は、開始点および終了点を含むことができる。したがってこの方法は、開始点で可動部分を静止状態(または特定の速度)から加速させること、および/または終了点で可動部分を停止状態(または特定の速度)まで減速させることを含むことができる。このとき、可動部分の加速および/または減速が必要であるため、命令される速度にすぐには到達しないことがわかる。任意の適切なクロックを使用して、第1の時間間隔を測定することができる。たとえば、座標位置決め装置のクロックを使用して、第1の時間間隔の持続時間を計ることができる。
【0011】
この方法はまた、第1の時間間隔と、命令される速度に等しい一定の速度で既知の離隔距離の2点間を動くのに費やすはずの時間に対応する第2の(たとえば、理論上の、または測定された)時間間隔とを比較するステップを含むと有利である。言い換えれば、一定の速度で2点間を進む時間と、その一定の速度まで加速および/または減速もするときに費やした時間とを比較する。2点間を進むのに費やす実際の時間(すなわち、第1の時間間隔)は、可動部分の加速および/または減速のため、第2の時間間隔より長い。この第1の時間間隔と第2の時間間隔の差は、座標位置決め装置の加速特性の尺度を提供する。言い換えれば、座標位置決め装置の加速区間は、空間内の2点間の実際の移動を計り、その時間と、一切加速しないでこれらの点の間を動くのに費やすはずの時間とを比較することによって見出すことができる。
【0012】
上記の代替手段として、第1の命令される速度を使用することで費やす第1の時間間隔と、第2の(異なる)命令される速度を使用する類似の動きで測定される第2の時間間隔とを比較することによって、加速特性を見出すこともできる。2つ以上の異なる速度の動きにおける加速の差は、加速特性の尺度を提供する。言い換えれば、動きを完了するのに費やす時間を2つ以上の異なる速度または送り速度で測定して、少なくとも1つの加速特性を確立することができる。
【0013】
測定プローブは、時間間隔を測定する間、座標位置決め装置の可動部分に取り付けても取り付けなくてもよいことに留意されたい。さらに、座標位置決め装置の加速特性(複数可)の測定は、最適のスタンドオフ距離を計算するステップの直前に先行して行うことができ、または機械の開発、構築、または較正中に実行することができる。本明細書では、加速特性という用語は、加速の影響と減速の影響の両方を包含することにも留意されたい。1つの座標位置決め装置に対して、複数の加速特性を測定することができる。たとえば、各機械軸に対して別個に加速区間を測定することができる。
【0014】
本発明の方法を使用して計算される最適のスタンドオフ距離は、必要な測定精度に依存することができる。たとえば、より低い精度の表面位置測定を必要とする場合、後の表面位置測定中の機械加速をわずかな量にすることも許容可能とすることができる。しかし、表面位置測定の獲得中に測定プローブと測定されている物体の間の相対的な速度が実質上一定になるように、最適のスタンドオフ距離を計算することが好ましい。測定プローブとプロービングされている物体の間の相対的な運動は、測定プローブの移動および/または物体の移動によって提供することができる。測定プローブは、座標位置決め装置の可動部分(たとえば、中空軸またはスピンドル)によって保持されて、静止した物体に接触することが好ましい。したがって、最適のスタンドオフ距離を計算するステップは、後に表面位置測定を獲得する間に測定プローブが実質上一定の速度で動くことを確実にする最適のスタンドオフ距離を計算するステップを含むと有利である。
【0015】
少なくとも1つの加速特性に加えて、最適のスタンドオフ距離を計算するステップは、他の要因または成分を考慮することもできる。たとえば、最適のスタンドオフ距離は、加速特性の距離成分およびさらなる距離成分を追加することによって形成することができる。最適のスタンドオフ距離を計算するステップは、表面位置測定を獲得すべき点の推定される位置または公称位置のあらゆる不確実性を考慮するステップを含むと好都合である。言い換えれば、プロービングすべき表面の公称位置が、特定の公差内に入ることが知られている場合、公差の距離成分は、この不確実性を考慮する最適のスタンドオフ距離内に含むことができる。この公差成分は、定義された公差範囲内であらゆる表面に対して一定の速度で測定を確実に行うのに役立つ。
【0016】
特定の座標位置決め装置では、静止状態から所与の速度まで加速または減速させるのに費やす時間は一定である。他の装置では、加速は一定の加速度で行われる。したがって最適のスタンドオフ距離は、後の表面位置測定で使用される所与の速度または送り速度に対して計算されることが好ましい。この方法は、複数の測定速度のそれぞれに最適のスタンドオフ距離を計算するステップを含むと有利である。たとえば、この方法は、第1の送り速度で第1の最適のスタンドオフ距離を計算するステップと、少なくとも1つのさらなる送り速度に対して少なくとも1つのさらなる最適のスタンドオフ距離を計算するさらなるステップとを含むことができる。
【0017】
上記で概説したように、最適のスタンドオフ距離は、表面位置測定に使用すべき各送り速度に対して別個に計算することができる。あるいは、少なくとも2つの送り速度に対して1つの最適のスタンドオフ距離を計算し、これを使用(たとえば、補外技法によって)して、他の速度での最適のスタンドオフ距離を確立することができる。この方法は、複数の測定速度または送り速度で計算された最適のスタンドオフ距離から、測定速度の範囲にわたって最適のスタンドオフ距離を推定できる関数または関係を導出するステップを含むことができると有利である。
【0018】
この方法は、任意のタイプの測定プローブとともに使用することができ、たとえば、測定プローブは、必要に応じて接触式のプローブであっても非接触式のプローブであってもよい。座標位置決め装置の測定プローブは、たわみ可能で加工物に接触するスタイラスを有するタッチトリガプローブを含むと有利である。
【0019】
可撓性のスタイラスを有する典型的なタッチトリガプローブは、オーバートラベルリミット(overtravel limit)を有する。オーバートラベルリミットとは、測定プローブ機構またはスタイラスの一部が機械的損傷を受ける前に起こりうるスタイラスの最大たわみである。オーバートラベルリミットは、安全余裕を含むことができ、通常、プローブ製造者によって定義される。この方法はまた、プローブのオーバートラベルリミットを超過することなく表面位置測定に使用できる最大測定速度または送り速度を計算するステップを含むと有利である。言い換えれば、スタイラスが表面に接触するときと、座標位置決め装置が測定プローブを完全停止させるときとの間の様々な遅延を決定および使用して、タッチトリガプローブのオーバートラベルリミットを違反しないようにするために使用できる最大送り速度を確立することができる。
【0020】
本方法を使用して計算される最適のスタンドオフ距離は、表面位置測定の獲得で後に使用するために、座標測定装置内に記憶することができる。最適のスタンドオフ距離の計算後、この方法は、最適のスタンドオフ距離を使用して物体の1つまたは複数の表面位置測定を行う追加のステップを含むと好都合である。言い換えれば、測定プローブは、最適のスタンドオフ距離だけ表面から隔置された空間内の最初の点から測定すべき表面の方へ動かすことができる。
【0021】
下記でより詳細に概説するように、表面位置測定を獲得するプロセスは、ワンタッチまたはツータッチのプロービング方策または測定サイクルを使用して実施することができる。ツータッチ測定サイクルでは、第1のタッチを使用して、推定される表面位置またはおおよその表面位置を提供し、第2のタッチで、最適のスタンドオフ距離を使用して表面位置測定を獲得する。そのようなツータッチ測定サイクルでは、各表面位置測定に先行して、物体の表面上の実質上同じ点の初期測定を行うことが好ましい。表面位置測定(すなわち、第2のタッチ)は第1の測定速度で実施され、初期測定(すなわち、第1のタッチ)は第2の測定速度で実施されると好都合である。第2の測定速度は、第1の測定速度より速いことが好ましい。このようにして、高速の第1のタッチの動きを使用して、物体の表面上の1点のおおよその位置を迅速に見出す。次いで測定プローブは、最適のスタンドオフ距離まで動き、第2のタッチの動きを実施(たとえば、より遅い速度で)して、表面上の点の位置を精密に測定する。
【0022】
ツータッチ測定サイクルでは、第1のタッチ測定(通常、高速で行われる)は、表面測定において実質的な誤差または不確実性を含みうることに留意されたい。これは、数値制御装置の応答時間の何らかの不確実性に起因する誤差を含むことがあり、したがって、走査時間制御装置がより遅い場合は特に著しい。数値制御装置を含む座標位置決め装置の場合、最適のスタンドオフ距離を計算するステップは、数値制御装置の応答時間のあらゆる不確実性を考慮するステップを含むことが好ましい。具体的には、最適のスタンドオフ距離は、制御装置の応答時間の不確実性が測定サイクルの第1のタッチ中に見出される推定される表面位置に与える影響を考慮することが好ましい。たとえば、最適のスタンドオフ距離は、制御装置の応答時間の不確実性に起因する表面上で測定すべき点の推定される位置の誤差に相当する距離成分を含むことができる。
【0023】
座標位置決め装置は数値制御装置を備え、この方法は、数値制御装置の応答時間の不確実性を評価するステップを含むことが好ましい。この不確実性を使用して、ツータッチ方策に対する上述の距離成分を計算することができる。そのようにして見出された数値制御装置の応答時間の不確実性を使用して、物体の表面位置測定を行うために使用すべき適当なプロービング方策(たとえば、ワンタッチ方策またはツータッチ方策)を選択することができると有利である。
【0024】
本発明の方法は、工作機械または専用の座標測定機(CMM)などの任意の座標位置決め装置上で実施することができる。この方法は、測定プローブを解放可能に保持できるスピンドルを有する数値的に制御される工作機械を備える座標位置決め装置上で実施されると有利である。
【0025】
本発明はまた、コンピュータ(たとえば、汎用コンピュータまたは数値制御装置)上で実行されると上記の方法を実施するコンピュータプログラムにも適用される。本発明によれば、この方法を実施するようにプログラムされたコンピュータ(たとえば、汎用コンピュータまたは数値制御装置)を提供することもできる。そのようなプログラムを記憶するためのコンピュータ記憶キャリア(たとえば、小型ディスク)を提供することもできる。
【0026】
本発明の第2の態様によれば、座標位置決め装置は、表面位置測定を獲得する測定プローブを備え、座標位置決め装置は、座標位置装置によって獲得すべき表面位置測定に最適のスタンドオフ距離を計算する処理装置を備え、処理装置は、座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して最適のスタンドオフ距離を計算する。
【0027】
本発明の第3の態様によれば、測定プローブを備える座標位置決め装置上の保護された位置決めする動きに対する最大速度を計算する方法であって、座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して最大速度を計算するステップを含む方法が提供される。当業者には理解されるはずであるように、保護された位置決めする動きとは、座標位置決め装置が測定プローブを動かしながら、そのプローブのトリガまたは信号線を監視するときに行われる位置決めする動きである。したがって、保護された位置決めする動きは、測定サイクルの一部として実行される動き、またはプローブを所望の位置へ動かすために測定の前もしくは後に実施される動きを含む。座標位置決め装置は、オーバートラベルリミットを有する測定プローブを備えると有利である。そのような例では、保護された位置決めする動きに対する最大速度は、物体に接触してプローブの移動を停止させた場合にオーバートラベルリミットを超過しないようにするために使用できる最も速い速度である。
【0028】
表面位置測定を獲得する測定プローブを備える座標位置決め装置を提供することもでき、座標位置決め装置は、測定プローブを使用して保護された位置決めする動きに対する最大速度を計算する処理装置を備え、処理装置は、座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して最大速度を計算する。
【0029】
本発明の第4の態様によれば、数値制御装置を備える座標位置決め装置に対する測定方策を選択する方法であって、数値制御装置の応答時間の不確実性を決定するステップを含む方法が提供される。言い換えれば、測定プローブから受け取ったトリガ信号に応答するのに数値制御装置が費やす時間の不確実性の尺度を確立することができる。下記でより詳細に概説するように、これは、異なるスタンドオフおよび/または測定速度を使用して物体の表面上の同じ点の複数の測定を行うことによって実現することができる。そのような一連の測定の不確実性は、数値制御装置の応答時間の不確実性の尺度を提供する。
【0030】
そのようにして見出された数値制御装置の応答時間の不確実性を使用して、物体の表面位置測定を行うために使用すべき適当なプロービング方策を選択することができる。たとえば、数値制御装置が高速で動作する(すなわち、応答時間の不確実性が低い)ことがわかった場合、いわゆるワンタッチプロービング方策を実施することができる。数値制御装置が低速である(すなわち、応答時間の不確実性が高い)ことがわかった場合、いわゆるツータッチのプロービング方策を実施することができ、各表面位置測定に先行して、物体の表面上の実質上同じ点の初期測定が行われる。そのようなツータッチ方策では、表面位置測定が第1の測定速度で実施され、初期測定が第2の測定速度で実施され、第2の測定速度が第1の測定速度より速いことが好ましい。
【0031】
本発明のさらなる態様によれば、測定プローブを備える座標位置決め装置によって獲得された表面位置測定を最適化する方法であって、座標位置決め装置の少なくとも1つの加速特性を測定するステップを含む方法が提供される。
【0032】
本発明について、例示のみを目的として、添付の図面を参照して次に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】可撓性のスタイラスを有する測定プローブを保持する座標位置決め装置の図である。
【図2】工作機械のプロービングシステムの典型的なアーキテクチャを示す図である。
【図3】プローブのオーバートラベルに寄与する異なる要因を示す図である。
【図4】1つのタイプの工作機械上に存在する加速区間を示す図である。
【図5】機械の加速期間中に獲得した測定がどのように測定誤差をもたらすかを示す図である。
【図6】ツータッチのプロービングルーチンを示す図である。
【図7a】機械の加速区間をどのように測定して加速距離を確立できるかを示す図である。
【図7b】機械の加速区間をどのように測定して加速距離を確立できるかを示す図である。
【図8】図7aおよび7bの機械の加速区間を示す図である。
【図9】動的な誤差の概念を示す図である。
【図10】最適化されていないツータッチのプロービング方策を使用して測定サイクルの速度を示す図である。
【図11】本発明の最適化されたツータッチのプロービング方策とワンタッチ方策の測定速度を比較する図である。
【図12】ワンタッチのプロービング方策に対する送り速度の関数として誤差の増大を示す図である。
【図13】速い送り速度を使用すると速度の影響が安定することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1を参照すると、タッチトリガプローブ4を保持するスピンドル2を有する工作機械が示されている。
【0035】
工作機械は、工作機械の作業領域内で加工物ホルダ7上に位置する加工物6に対してスピンドル2を動かす1つまたは複数のモータ8などの周知の手段を備える。機械の作業領域内のスピンドルの位置は、エンコーダなどを使用して周知の方法で精密に測定され、そのような測定は、機械の座標系(x,y,z)内に画定されたスピンドル位置データを提供する。数値制御装置(NC)20は、(x,y,z)を制御し、工作機械の作業領域内のスピンドル2の移動を制御し、また様々なエンコーダからスピンドルの位置に関する情報を受け取る。NC20は、フロントエンドのコンピュータを備えることができ、またはそのようなコンピュータに接続することができる。
【0036】
タッチトリガプローブ4は、標準的な解放可能なシャンクコネクタを使用して工作機械のスピンドル2に取り付けられたプローブ本体10を備える。プローブ4はまた、加工物に接触するスタイラス12を備え、スタイラス12は筐体から突出する。スタイラス12の遠位端部には、関連する加工物6に接触するスタイラス球14が提供される。タッチトリガプローブ4は、スタイラスのたわみが所定の閾値を超過すると、いわゆるトリガ信号を生成する。プローブ4は、遠隔のプローブインターフェース18の対応する無線受信器/送信器部分にトリガ信号を渡す無線送信器/受信器部分16を備える。無線リンクは、たとえばRFまたは光学式とすることができる。
【0037】
NC20は、スピンドル位置(x,y,z)データおよびトリガ信号を受け取り(プローブインターフェース18を介する)、トリガ信号を受け取った瞬間に、見掛け上のスピンドル位置データ(x,y,z)を記録する。適当な較正後、これにより、加工物6などの物体の表面上の点の位置を測定することができる。
【0038】
図2に概略的に示すように、工作機械に適合されたプロービングシステムは、5つの要素からなると見なすことができる。これには、測定プローブアセンブリ30、プローブインターフェース32(プローブ伝送システムと、CNCシステム36へのプローブ伝送システムのインターフェースとを含む)、工作機械34、CNC制御システム36、およびCNC制御システム36上に常駐するプローブ制御ソフトウェア38が含まれる。これらの要素はそれぞれ、プロービングシステムの計量性能および任意の所与の測定またはプロービングサイクルの持続時間に関わる。
【0039】
前述のプロービングシステムを使用して実施される任意の測定サイクル内の主な事象はトリガである。測定プローブ30のスタイラスが物体の表面上の1点と接触すると、CNC制御装置36へ渡されるプローブインターフェース32内に変化を引き起こす。このプロセスは、図3を参照して下記でより詳細に説明するが、操作者には瞬間的に起こっているように見えることがある。しかし実際には、このプロセスは一連の個別のステップを伴い、これらのステップによって、CNC制御装置36がトリガ信号に作用する。
【0040】
図3を参照すると、典型的なタッチトリガ式のプロービングシーケンスの様々な段階が示されている。
【0041】
測定プロセス中、プローブは、測定すべき物体42の表面の方へ駆動される。第1の瞬間Aで、スタイラスの先端部40は、物体の表面上の1点に接触する。測定プロセスのこの第1の段階中、プローブは引き続き物体の方へ動き、スタイラスはさらにたわみする。第2の瞬間Bで、測定プローブのスタイラスたわみ閾値を超過する。表面との最初の接触からプローブ感知閾値に到達するまでにプローブが進む必要のある距離を、機械的事前移動距離(mechanical pre−travel)と呼ぶ。周知のタイプの運動学的なプローブでは、機械的事前移動距離とは、復帰ばねの力に打ち勝ってローラの台座からローラを持ち上げ始めるのに十分な歪みエネルギーを蓄積するのに十分にスタイラスを湾曲させる必要のある距離である。いわゆる歪み計プローブでは、スタイラスは、歪み計構成が事前設定された値を超過する歪みの変化を示すまで湾曲する。機械的事前移動距離は、プローブのハードウェアに依存しており、測定サイクル中、プローブの移動速度とともに変動しない。したがって、通常、適当な較正および応用ソフトウェアで機械的事前移動距離の影響を「較正して取り除く」ことが可能である。
【0042】
機械的事前移動距離または第1の段階後に開始する測定プロセスの第2の段階は、プローブインターフェースが機械的トリガ事象が発生したことを認識し、CNC制御装置にトリガ信号を発行することを伴う。機械的トリガ事象とトリガ信号がCNC制御装置に伝送されるときとの間の遅延は通常、インターフェース応答時間と呼ばれる。言い換えれば、インターフェースは、図3に示す瞬間Cでトリガ信号を発行し、この時点でプローブは、よりいっそう物体の方へ進み、それによってスタイラスをさらにたわみさせる。
【0043】
インターフェース応答時間は通常、信号のフィルタリングに関連する遅延を含むことに留意されたい。この信号のフィルタリングによる遅延は、典型的なプローブインターフェースが関連する測定プローブの状態を連続して監視し、測定プローブが表面と接触すると、CNCシステムへトリガ信号を伝送するために生じる。しかし、スタイラスに作用する力(たとえば、慣性)が、表面に接触する事象としてインターフェースによって誤って解釈される可能性がある。たとえば、プローブの大きな加速とともに長いスタイラスが使用された場合、スタイラスが過渡的にたわみし、いわゆる「誤トリガ(false triggering)」(すなわち、スタイラスが実際には表面と接触していないときのトリガ)を招く可能性が大きい。トリガ信号の信頼性を改善するために、プローブインターフェースは通常、あらゆる過渡信号をフィルタ除去するように構成されており、所定の長さの時間(たとえば、0.01秒)にわたってたわみ閾値信号レベルを超過した場合にのみ、トリガ信号を制御装置に伝送する。トリガ事象をプローブからインターフェースに伝送することに関連するインターフェース応答時間には、わずかな遅延成分が存在する可能性があり、たとえば、典型的な光伝送システムの場合は0.002秒、または標準的なRF通信システムの場合は0.01秒である。プローブインターフェースの応答時間は、測定システム間でかなり変動する可能性があるが、通常、特定の設定に対して一定であり、したがって通常、較正して取り除くことができる。
【0044】
典型的なプローブトリガシーケンスの第3の段階は、機械のCNC制御装置がプローブインターフェースから受け取ったトリガ信号を認識して作用するプロセスである。したがってCNC制御装置は、図3に示す瞬間Dで、受け取ったトリガ信号に作用(たとえば、プローブ移動を停止させることによる)し、この時点でプローブは、よりいっそう進み、それによってスタイラスのたわみを増大させている。CNC制御装置によって導入されるこの時間遅延は、制御装置の応答時間と呼ばれることが多い。
【0045】
適当な較正手順によって実質上一定の遅延(たとえば、機械的事前移動距離の影響およびプローブインターフェース応答時間)を補償することが可能であるが、制御装置の応答時間に関連する不確実性のレベルが高くなることが多い。さらに、異なる製造者およびタイプのCNC制御装置では、制御装置の応答時間は数桁分変動する可能性がある。たとえば、トリガ信号の発行と、CNC制御装置が信号に応答して行動できるときとの間の時間遅延は、制御装置の仕様および購入した制御装置の選択肢に応じて、短くても4μ秒、または長ければ4m秒となる可能性がある。
【0046】
遅い方では、特定の市販のCNC制御装置が入力を走査している。そのようなCNC制御装置は通常、走査時間を有し、走査時間中、様々な入力線の状態を検査し、また様々な出力線の状態を設定する。したがって、トリガ信号の入力線が走査され、1サイクルに1回状態に作用するが、これは、ゼロの走査時間と完全な走査時間の間の不定の時点で発生する。したがって、この走査時間をジッタと見なすことができる。そのような遅い制御装置に対する典型的な走査時間またはジッタは、1〜4m秒前後である。スペクトルの速い方では、トリガ信号を受け取るいわゆる直接または高速のスキップ割込みまたは入力をもつNC制御装置が利用可能である。そのような制御装置では、プローブのトリガ信号を各軸の制御盤に直接接続することができ、トリガ信号を受け取るとほぼ瞬間的に現在の軸の位置をラッチまたは記録することができる。通常、このタイプのプローブ信号と軸制御盤を統合することで、4μ秒程度の応答時間または待ち時間を提供し、ジッタはごくわずかである。
【0047】
制御装置の走査時間が増大するにつれて、特定の速度または送り速度で物体の方へ駆動される測定プローブを使用して行われる測定に関連する誤差も増大する。関連する時間遅延が4μ秒である直接または高速の入力をもつ機械上では、制御装置の応答時間の影響は、この時間中に機械が進む距離がごくわずかであるため、極めて速い送り速度でも無視することができる。しかし、より長い走査時間を有する機械上でより速い送り速度で測定を行うと、計量精度が著しく劣化する可能性があることがわかった。下記でより詳細に概説するように、本発明は、制御装置が長い走査時間を有する場合でもやはり高い計量性能を提供する最適化されたツータッチ測定サイクルを提供することができる。しかし、使用されている制御装置に最も適当なプロービング方策(たとえば、ワンタッチ方策またはツータッチ方策)を選択することが望ましいであろう。
【0048】
ワンタッチ方策もしくはツータッチ方策は、自動的に選択することができ(たとえば、下記の通り)、または既知の制御装置の走査時間に基づいて使用者によって設定することができる。具体的には、遅い(たとえば、ミリ秒の)制御装置にはツータッチ測定方策を使用することができ、高速の(たとえば、マイクロ秒の)制御装置にはワンタッチ測定方策を用いることができる。使用者は、CNC制御装置の既知の走査速度に応じて必要な方策を実施するように、CNC制御装置を簡単にプログラムすることができる。制御装置の応答時間を自動的に評価することができると有利である。これは、物体の表面上の同じ点の複数の測定の反復性を分析することによって実行することができる。たとえば、同じスタンドオフ距離を使用して、同じ点を複数の異なる速度で測定することができる。あるいは、複数の異なるスタンドオフ距離を使用して、同じ点を単一の速度で測定することができる。そのような測定の反復性は、より速い制御装置の場合ますます高くなり、それによってそのような制御装置を識別することができる。したがって、反復性または測定の不確実性の閾値を設定することができ(たとえば、10μmで)、測定の不確実性がそのような閾値を下回ることがわかった場合、ワンタッチ方策を実施することができる。
【0049】
図4を参照すると、測定プローブを保持する工作機械のスピンドルがどのように特定の時間を費やして一定の速度もしくは送り速度へ加速し、またはその速度もしくは送り速度から減速するかが示されている。言い換えれば、工作機械のスピンドルは、特定の送り速度で動き始めるようにCNC制御装置によって命令された場合、特定の時間を費やしてその送り速度まで加速する。スピンドルのこの加速/減速は、機械の加速区間と呼ばれることが多い。
【0050】
工作機械が加速および減速する方法を決定する制御アルゴリズムは、CNC制御システムの製造者によって設定される。これらの制御アルゴリズムは、機械の構造間で変動する可能性があり、また機械が再較正されると変わることもある。主要なCNC制御システムの製造者であるSiemens、Fanuc、Heidenhein、およびMitsubishiはすべて、独自の特定の論理方式および計算を実施する。しかし原則として、工作機械は通常、一定の加速度で加速しない。たとえばFanucおよびMitsubishiの制御装置の場合、加速度は、所定の時間(たとえば、0.06秒)でプログラムされた送り速度に到達するように設定される。したがって、プログラムされた送り速度を実現するために工作機械軸が進む距離は、送り速度とともに直線的に増大する。これを図4に示し、第1の送り速度1000mm/秒および第2の送り速度2000mm/秒で命令される動きに対して、速度を時間の関数として示す。第1の送り速度および第2の送り速度の速度プロファイルは、それぞれ線50および52で示す。
【0051】
図5を参照して、機械の加速区間で測定を行う悪影響について説明する。通常、すべての測定プローブシステムは較正を必要とすることが理解され、受け入れられている。これには通常、測定サイクルで後に使用される送り速度で既知の表面をプロービングする必要がある。上記で説明したように、CNC制御システムによって記録される物体の表面上の1点の位置と、その点の実際の位置との間には差がある。この差は、測定プローブの機械的事前移動距離およびプローブインターフェース応答時間による遅延に起因する。この差はまた、スタイラスが物体に接触するときと、CNC制御システムがトリガ信号を受け取るときとの間の時間遅延と考えることもできる。理解を容易にするために、加速の影響に関する以下の説明では、制御装置の応答時間の不確実性を無視する。
【0052】
図5は、工作機械に対する典型的な速度と時間の関係の図60を示す。機械的事前移動距離、および測定に関連するプローブインターフェースの応答時間による時間遅延は、所与の設備に対して実質上一定である。
【0053】
測定システムで獲得される測定から時間遅延の影響を除去するために、スタイラスが物体に接触する時間Tpとプローブインターフェースによってトリガ信号が発行される時間Tiとの間の時間で進んだ距離Aが計算される。次いで、特定の送り速度に対して有効なこの距離Aを記憶および使用して、その送り速度で得られるすべての将来報告される位置を補正することができる。機械の加速区間で行われる測定について、次に考慮されたい。機械が加速しているため、スタイラスが物体に接触する時間Tpとトリガ信号が発行される時間Tiとの間の時間で測定プローブが進む距離Bは、距離Aと異なる。言い換えれば、測定された位置の補正は、加速区間のうち測定に使用される部分に依存する大きさの誤差Cを受けやすい。
【0054】
したがって、測定プローブが加速区間内に位置する間は、表面測定の獲得を回避するべきであることがわかる。言い換えれば、精密な計量を確実にするには、スタイラスが物体の表面と接触しているときに測定プローブを一定の速度で確実に動かすべきである。したがって、測定サイクルが静止した開始から開始された場合、測定プローブは、あらゆる表面測定が行われる前に必要な一定の速度まで測定プローブを加速させるのに十分ほど、物体の表面から距離を離して位置決めするべきであり、表面からのこの最初の距離をスタンドオフ距離と呼び、最適のスタンドオフ距離を計算する方法について、図6〜9を参照して下記で説明する。
【0055】
可撓性のスタイラスを有する接触式の測定プローブは、いわゆるオーバートラベルリミットを有することにも留意されたい。プローブのスタイラスがこのオーバートラベルリミットを超えてたわんだ場合、プローブのたわみを感知する機構の機械的損傷、および/またはスタイラスの破損が発生することがある。したがって、測定中に使用するための最大送り速度は、表面に接触した後、オーバートラベルリミットに到達する前にプローブが確実に停止できるように見出すことができる。そのような最大送り速度は、トリガプロセス(たとえば、図3を参照して説明した機械的事前移動距離、インターフェースの応答時間、および制御装置の応答時間)における様々な遅延と、CNC制御装置によって指示されたときにプローブを減速させて停止させるのに必要な時間とを考慮することによって計算することができる。
【0056】
図6を次に参照すると、物体68の表面上の1点の位置を測定するいわゆるツータッチ測定サイクルが示されている。
【0057】
矢印70で示す第1のステップで、測定プローブは、静止した開始位置から物体68の表面の方へ比較的速い送り速度で加速する。測定プローブのスタイラスは物体の表面に接触し、スタイラスのたわみは、CNC制御装置によってプローブトリガが確認され、次いでCNC制御装置が測定プローブの移動を停止させるまで続く。この第1のステップは、測定されている物体の表面を見出すために実行されるものであり、精密な表面位置測定を提供するために使用されるものではない。
【0058】
矢印72で示す第2のステップで、プローブの移動方向は逆になり、測定プローブはスタンドオフ位置74まで動く。
【0059】
矢印76で示す第3のステップで、測定プローブのスタイラスは、物体の表面上の点と接触するように再び駆動されるが、より遅い送り速度で駆動される。図6には横に並べて示すが、測定プローブのスタイラスは第3のステップで、物体の表面上で、第1のステップで接触した点と実質上同じ点に接触することに注意されたい。この第2のより遅い速度の測定では、物体の表面上の点の必要な位置測定を提供する。
【0060】
矢印78で示す第4のステップ78で、測定プローブは表面から離れて、次の測定の開始位置へ、または任意の他の必要な位置へ動く。もちろんこの方法を複数回繰り返して、物体の表面上の複数の点を測定することができる。
【0061】
第2のステップで使用されるスタンドオフ距離で、第3のステップで獲得される測定の速度および精度が決まる。スタンドオフ距離が小さすぎる場合、プローブが工作機械によって必要な速度まで加速されている間に測定が行われることがあり、それによって計量の精度を低減させる。逆に、スタンドオフ距離が大きすぎる場合、より遅い送り速度でプローブを駆動して物体の表面と接触させるのに費やす時間が非常に大きくなる可能性があり、それによって測定サイクルを完了するのに必要な時間を増大させ、全体的な生産性を低減させる。すべての工作機械は異なる特性を有しており、典型的なプロービングシステムの場合、設備技術者または末端使用者は、計量に影響を与えないようにスタンドオフ距離を設定するときに用心深すぎる傾向があることがわかった。しかしこれにより、必要なものより著しく遅く、したがって最適以下のツータッチ測定サイクルが実施されることがわかった。
【0062】
図6を再び参照すると、第2のタッチ測定(すなわち、より遅い送り速度で実行される方法の第3のステップの測定)に対する加速距離D1、および第1のタッチ測定(すなわち、より速い送り速度で方法の第1のステップで実行される測定)中にCNC制御装置の応答時間の不確実性を許す距離D2を考慮して、最適のスタンドオフ距離または位置74をどのように計算できるかが示されている。送り速度とともに変動する動的区間距離D3も示す。動的区間距離D3は、スタイラスが物体の表面に接触するときと、NC制御装置がその結果得られるトリガ信号に作用するときとの間の時間遅延に起因する物体の表面上の1点の測定された位置のオフセットに相当する。この(実質上一定の)遅延を生成する典型的なタッチトリガ式のプロービングシーケンスの様々な段階については、図3を参照して上記で説明した。第2のタッチ測定は比較的遅い速度で行われるため、この第2の測定に対する制御装置の応答時間の不確実性はごくわずかであり、無視することができる。すなわち、スタイラスが物体の表面に接触するときと、NC制御装置がその結果得られるトリガ信号に作用するときとの間の時間遅延は、実質上一定であると仮定することができる。しかし、第1のタッチのより速い送り速度に対する距離D2によって、制御装置の応答時間の不確実性が考慮される。
【0063】
最適のスタンドオフ距離は、加速が測定に影響を与えない最も速い測定サイクル時間を提供するように計算されることが好ましい。しかし、より低い計量性能が必要とされる場合、必要な測定精度を提供する特定のレベルまで加速の影響を低減させる最適のスタンドオフ距離を設定することが可能であることに留意されたい。言い換えれば、本明細書に記載の様々な例は、最も高い可能な精度レベルで測定を得ることについて説明するが、この方法を適用して、より低い所定の測定精度を実現することもできる。
【0064】
図7a、7b、および8を参照して、加速距離D1を測定する技法について説明する。具体的には、図7bは、測定プローブの試験動作に対する速度と時間の関係の図を示し、曲線下の積分または面積は、動き距離Dcに等しい。図7bからわかるように、試験動作中、測定プローブは既知の送り速度まで加速され、次いで停止まで減速される。図7aは、同じ動き距離Dcであるが一定の速度の測定プローブの理論上の動きに対する速度と時間の関係の図を示す。
【0065】
加速距離D1は、図7bに示す実際の試験動作の時間を計り、そのような動きが図7aに示すように一定の速度(すなわち、いかなる加速または減速もなし)で費やすはずの時間と比較することによって見出される。次いで、この動きに対する実際の時間Taと、同じ距離Dcを一定の速度で動くのに費やされるはずの理論上の時間Tcとの間の時間差Tdを計算することができる。これを図8に示す。
【0066】
図8に示すように、一定の速度Vへの加速/減速は、期間Tdにわたって行われる。したがって加速距離D1は、次の数式によって計算することができる。
【0067】
【数1】
【0068】
この時点で、加速区間または距離は、工作機械の様々な(たとえば、x、y、z)軸に対して異なることがあることに留意することが重要である。たとえば、工作機械のz軸は、重力の影響により、x軸およびy軸とは異なる加速特性を有することがある。したがって加速区間は、各軸に対して別個に計算し、次いで関連する軸に沿って行われた任意の測定に適用することができ、または最も長い加速区間をすべての測定に適用することができる。あるいは、加速区間は、最も長い加速区間を有するとわかっている、または仮定できる既知の単一の軸に対して測定することができる。
【0069】
距離D2は、CNC制御装置の応答時間の不確実性を許すものであり、所与の送り速度に対して、工作機械のはしご形の走査時間から決定することができる。具体的には、この距離D2は、より速い送り速度で第1のタッチ測定から決定されるおおよその表面位置の不確実性に相当する。CNC制御装置が高速の入力を有する場合、および/または第1のタッチ測定に比較的遅い送り速度が使用される場合、距離D2はごくわずかであり、無視することができる。
【0070】
図9を参照すると、動的区間距離D3がどのように送り速度とともに直線的に変動するかが示されている。具体的には、図9は、第1の送り速度F1および第2の送り速度F2をそれぞれ使用するときの、物体の表面(A=0)上の単一の点の測定された位置P1およびP2を示す。上記で概説したように、こうして見掛け上の位置が送り速度とともに変化することは、プローブのスタイラスが表面上の点と接触するときと、CNC制御装置がそのトリガに作用するときとの間の遅延に起因する。送り速度がゼロまで低減されるにつれて、動的区間D3がどのように送り速度とともに直線的に増大し、ゼロに接近するかもわかる。送り速度に対するD3の直線的な変動は、2つの異なる送り速度で物体の表面上の1点を測定することによって決定することができる。たとえば、この計算は、ツータッチ測定サイクル中に行われる2つの表面測定を使用して実行することができる。
【0071】
図10を次に参照すると、最適化されていないツータッチ測定プロセスのサイクル時間が、接近(第1のタッチ)送り速度の関数として示されている。
【0072】
具体的には、図10のグラフは、送り速度3000mm/分で接近する最初の開始位置から2mm離れた表面上で実行される標準的なツータッチ測定サイクルのサイクル時間を示す。第1のタッチ後、プローブは、標準化された距離4mmだけ後退し、30mm/分という計量送り速度を使用して、表面上の点が測定される(すなわち、第2のタッチが実行される)。この測定サイクルは、7.05秒を費やすことがわかった。
【0073】
図11を参照すると、第1の曲線110は、上記のように最適化されたツータッチ測定サイクルのサイクル時間を示す。具体的には、第2のタッチまたは計量動作のためにプローブを表面から十分に離す最適化された後退距離を見出すことで、30mm/分という計量送り速度で動く距離をわずか数分の1ミリメートルまで低減させ、それによってサイクル時間を大幅に低減させる。たとえば、上述の測定のサイクル時間を7.05秒から0.444秒に低減させることができ、すなわち6.606秒改善する。
【0074】
図11の第2の曲線112は、いわゆるワンタッチプロービングサイクルのサイクル時間を示し、プローブは、ツータッチサイクルの場合と同じ距離だけ物体の表面から離れたところで開始し、トリガが確認され、制御装置の作用を受けるまで、測定送り速度で物体の方へ動く。次いでプローブは、減速して静止し、開始位置に戻り、または後の測定のためのさらなる開始位置に戻る。トリガまたはスキップ位置は、CNC制御装置内に記憶され、表面位置を計算するために使用される。3000mm/分という接近および測定速度を使用するワンタッチサイクルのサイクル時間は、0.254秒であることがわかった。上記で概説したように、3000mm/分という接近速度、30mm/分という測定の最適化されたツータッチルーチンのサイクル時間は、0.444秒であった。したがって、ワンタッチルーチンの持続時間はやはり、最適化されたツータッチルーチンよりわずかに短いことがわかる。ワンタッチ測定サイクルは通常、ツータッチサイクルより速いが、そのようなワンタッチ測定サイクルの精度は、CNC制御装置がより長い走査時間を有する場合、著しく劣化する可能性があることがわかった。
【0075】
図12を参照すると、ワンタッチ測定の測定不確実性が、送り速度(すなわち、プロービング速度)の関数として示されている。具体的には、線121は、CNC制御装置の走査時間が4μ秒であるときの不確実性を示し、線120は、CNC制御装置の走査時間が1m秒であるときの不確実性を示し、線122は、CNC制御装置の走査時間が4m秒であるときの不確実性を示す。3000mm/分という接近および測定速度を使用するワンタッチサイクルのサイクル時間は0.254秒であるが、図12に示すように、CNC制御装置が4m秒の走査時間を有する場合、関連する測定不確実性は0.2mm前後である。これは、同じCNC制御装置を使用して実施される最適化されたツータッチ測定サイクルの場合、わずか0.002mmという不確実性に匹敵する。
【0076】
図13を参照すると、特定の工作機械がまたどのように、加速から一定の送り速度への遷移が通常瞬間的に行われないために生じる「安定(settling down)」期間130を有するかが示されている。典型的な機械では、軸が安定するのに最大0.01秒を費やす可能性があり、加速から一定の送り速度へのこの遷移段階の速度が変動しており、不確実であることがわかった。したがって、動きのこの段階で測定を行うと、測定の不確実性を増大させる可能性がある。この影響は、ワンタッチ測定プロセスで使用する送り速度など、速い送り速度を使用するときに特に有害である。軸が静止した開始から最大5000mm/分進む場合、この安定が発生する距離は0.83mmである。加速区間以外で測定を確実に行うのに2.5mmというスタンドオフ距離が必要とされる場合、この安定距離を追加すると、そのようなワンタッチサイクルに対する最適のスタンドオフ距離が3.33mmになる。これは、第2のタッチまたは計量動作がたとえば30mm/分という比較的遅い送り速度で実施される上述の最適化されたツータッチルーチンと対比させるべきである。そのような例では、第2のタッチに対するスタンドオフ距離は、測定を確実に機械の加速区間以外で行うために、0.015mmより大きいだけでよい。この場合、安定距離は、わずか0.005mmであり、最適のスタンドオフ距離の計算内に含まれる場合、測定速度にごくわずかな影響しか与えない。
【0077】
上記を考えると、通常、最も速いCNC制御装置を除くすべてのCNC制御装置に対して、本発明の最適化されたツータッチ方策を使用することが好ましいことがわかる。そのようなツータッチサイクルを使用すると、計量を確実に保護しながら、サイクル時間に与える悪影響が最小になる。最適のツータッチ測定サイクルはまた、CNC制御装置に対して高速入力の選択肢を購入する必要を回避することができる。上記では、ツータッチ測定サイクルに最適のスタンドオフまたは後退距離を見出すことについて説明したが、ワンタッチサイクルまたは任意の他の測定サイクルで測定するためのスタンドオフ位置を確立するために、同じ技法を等しく適用できることにも留意されたい。
【0078】
上記の例では、工作機械上で実施される可撓性のスタイラスを有する測定プローブを備えるタッチトリガ式のプロービングシステムに関して説明した。しかし、同じ原理は、任意のタイプの座標位置決め装置および任意のタイプのプロービングシステムに適用することができる。たとえば、これらの技法を座標測定機(CMM)に適用することができる。同様に、任意の周知のタイプの測定プローブ(たとえば、接触式または非接触式のプローブ)を、座標位置決め装置によって保持することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定プローブを備える座標位置決め装置によって獲得すべき表面位置測定に最適のスタンドオフ距離を計算する方法であって、前記座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して最適のスタンドオフ距離を計算するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記座標位置決め装置の少なくとも1つの加速特性を測定するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記座標位置決め装置の少なくとも1つの加速特性を測定する前記ステップは、
前記座標位置決め装置の可動部分が命令される速度で既知の離隔距離の2点間を動くのに費やす時間に対応する第1の時間間隔を測定するステップであって、前記2点間の前記動きが前記可動部分の加速を含む、ステップと、
前記第1の時間間隔と、前記命令される速度に等しい実質上一定の速度で既知の離隔距離の前記2点間を動くのに費やすはずの時間に対応する第2の時間間隔とを比較するステップとを含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
最適のスタンドオフ距離を計算する前記ステップは、後に表面位置測定を獲得する間に前記測定プローブが実質上一定の速度で動くことを確実にする最適のスタンドオフ距離を計算するステップを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記最適のスタンドオフ距離を計算する前記ステップは、表面位置測定を獲得すべき前記点の前記推定される位置または公称位置のあらゆる不確実性を考慮するステップを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
複数の測定速度のそれぞれに最適のスタンドオフ距離を計算するステップを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の測定速度で計算された前記最適のスタンドオフ距離から、測定速度の範囲にわたって最適のスタンドオフ距離を推定できる関数または関係を導出するステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記座標位置決め装置の前記測定プローブは、可撓性のスタイラスを有するタッチトリガプローブを備えることを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記タッチトリガプローブはオーバートラベルリミットを有し、前記方法は、前記オーバートラベルリミットを超過することなく表面位置測定に使用できる最大測定速度を計算するステップを含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記最適のスタンドオフ距離を使用して物体の1つまたは複数の表面位置測定を行う追加のステップを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
各表面位置測定に先行して、前記物体の前記表面上の実質上同じ点の初期測定を行い、前記表面位置測定は第1の測定速度で実施され、前記初期測定は第2の測定速度で実施され、前記第2の測定速度は前記第1の測定速度より速いことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記座標位置決め装置が数値制御装置を備え、前記方法は、前記数値制御装置の前記応答時間の前記不確実性を評価するステップを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記最適のスタンドオフ距離を計算する前記ステップは、前記数値制御装置の前記応答時間のあらゆる不確実性を考慮するステップを含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法は、測定プローブを解放可能に保持できるスピンドルを有する数値的に制御される工作機械を備える座標位置決め機械とともに使用されることを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
コンピュータ上で実行されると、請求項1に記載の方法を実施することを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項16】
表面位置測定を獲得する測定プローブを備える座標位置決め装置であって、前記座標位置装置によって獲得すべき表面位置測定に最適のスタンドオフ距離を計算する処理装置を備え、前記処理装置は、前記座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して前記最適のスタンドオフ距離を計算することを特徴とする座標位置決め装置。
【請求項17】
測定プローブを備える座標位置決め装置上の保護された位置決めする動きに対する最大速度を計算する方法であって、前記座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して前記最大速度を計算するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
数値制御装置を備える座標位置決め装置に対する測定方策を選択する方法であって、前記数値制御装置の前記応答時間の前記不確実性を決定するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項1】
測定プローブを備える座標位置決め装置によって獲得すべき表面位置測定に最適のスタンドオフ距離を計算する方法であって、前記座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して最適のスタンドオフ距離を計算するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記座標位置決め装置の少なくとも1つの加速特性を測定するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記座標位置決め装置の少なくとも1つの加速特性を測定する前記ステップは、
前記座標位置決め装置の可動部分が命令される速度で既知の離隔距離の2点間を動くのに費やす時間に対応する第1の時間間隔を測定するステップであって、前記2点間の前記動きが前記可動部分の加速を含む、ステップと、
前記第1の時間間隔と、前記命令される速度に等しい実質上一定の速度で既知の離隔距離の前記2点間を動くのに費やすはずの時間に対応する第2の時間間隔とを比較するステップとを含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
最適のスタンドオフ距離を計算する前記ステップは、後に表面位置測定を獲得する間に前記測定プローブが実質上一定の速度で動くことを確実にする最適のスタンドオフ距離を計算するステップを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記最適のスタンドオフ距離を計算する前記ステップは、表面位置測定を獲得すべき前記点の前記推定される位置または公称位置のあらゆる不確実性を考慮するステップを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
複数の測定速度のそれぞれに最適のスタンドオフ距離を計算するステップを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の測定速度で計算された前記最適のスタンドオフ距離から、測定速度の範囲にわたって最適のスタンドオフ距離を推定できる関数または関係を導出するステップを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記座標位置決め装置の前記測定プローブは、可撓性のスタイラスを有するタッチトリガプローブを備えることを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記タッチトリガプローブはオーバートラベルリミットを有し、前記方法は、前記オーバートラベルリミットを超過することなく表面位置測定に使用できる最大測定速度を計算するステップを含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記最適のスタンドオフ距離を使用して物体の1つまたは複数の表面位置測定を行う追加のステップを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
各表面位置測定に先行して、前記物体の前記表面上の実質上同じ点の初期測定を行い、前記表面位置測定は第1の測定速度で実施され、前記初期測定は第2の測定速度で実施され、前記第2の測定速度は前記第1の測定速度より速いことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記座標位置決め装置が数値制御装置を備え、前記方法は、前記数値制御装置の前記応答時間の前記不確実性を評価するステップを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記最適のスタンドオフ距離を計算する前記ステップは、前記数値制御装置の前記応答時間のあらゆる不確実性を考慮するステップを含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法は、測定プローブを解放可能に保持できるスピンドルを有する数値的に制御される工作機械を備える座標位置決め機械とともに使用されることを特徴とする前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
コンピュータ上で実行されると、請求項1に記載の方法を実施することを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項16】
表面位置測定を獲得する測定プローブを備える座標位置決め装置であって、前記座標位置装置によって獲得すべき表面位置測定に最適のスタンドオフ距離を計算する処理装置を備え、前記処理装置は、前記座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して前記最適のスタンドオフ距離を計算することを特徴とする座標位置決め装置。
【請求項17】
測定プローブを備える座標位置決め装置上の保護された位置決めする動きに対する最大速度を計算する方法であって、前記座標位置決め装置の少なくとも1つの測定された加速特性を使用して前記最大速度を計算するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
数値制御装置を備える座標位置決め装置に対する測定方策を選択する方法であって、前記数値制御装置の前記応答時間の前記不確実性を決定するステップを含むことを特徴とする方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2012−515911(P2012−515911A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546934(P2011−546934)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000038
【国際公開番号】WO2010/084302
【国際公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(391002306)レニショウ パブリック リミテッド カンパニー (166)
【氏名又は名称原語表記】RENISHAW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000038
【国際公開番号】WO2010/084302
【国際公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(391002306)レニショウ パブリック リミテッド カンパニー (166)
【氏名又は名称原語表記】RENISHAW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】
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