説明

接触燃焼式ガスセンサ

【課題】触媒被毒による感度の劣化を防ぐとともに、低コスト且つ小型化が可能な接触燃焼式ガスセンサを提供する。
【解決手段】接触燃焼式ガスセンサ10は、通電から生じる熱によって燃焼する検知対象ガスの燃焼熱に応じて抵抗値が変化する検知抵抗体11と、前記検知抵抗体11との間で熱を伝導するように配設され且つ前記検知対象ガスに対して活性を有する触媒を含む触媒層13と、前記触媒層13の表面を覆うように配設され、且つ、前記検知対象ガスを浸透するとともに、前記検知対象ガスに対して非活性である犠牲層14と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触燃焼式ガスセンサに関し、特に、被毒による感度劣化の対策を施した接触燃焼式ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
メタンガスやイソブタンガス等の可燃性ガスを検知するセンサとして、接触燃焼式ガスセンサが知られており、従来の接触燃焼式ガスセンサ110は、図6に示すように、通電により発熱するヒータコイル111の周囲に、検知対象ガスに対して活性を有する触媒を含む触媒層113を配設し、ヒータコイル111の発熱で燃焼した検知対象ガスの燃焼熱によってヒータコイルの抵抗値が変化して、その抵抗値の変化を電位差としてとらえることで検知対象ガスの検知を行うものであった。
【0003】
そして、接触燃焼式ガスセンサ110が、例えば、一般家屋に設置されるガス漏れ警報器等で用いられた場合など、図7に示すように、室内にある接着剤やゴムなどのシリコン含有物から飛散するシリコンガスを原因とする触媒被毒物質(シリコン化合物)130によって、その触媒層113が被毒し、被毒した箇所の触媒活性が低下して、検知対象ガスに対する感度が劣化してしまい、感度の劣化に伴う検知精度の低下により安全性が確保できなくなるという問題があった。そして、特許文献1にその解決が提案されている。
【0004】
特許文献1に示される、接触燃焼式ガスセンサは、コイル状のヒータの周囲を触媒物質で覆った接触燃焼式ガスセンサであって、前記ヒータの近傍に対向するように棒状の電極を設け、前記ヒータと前記電極とによってその間に前記触媒物質をはさんだコンデンサを構成しており、このコンデンサの静電容量の変化を検知することにより接触燃焼式ガスセンサの感度の劣化を検出して、該検出に基づき接触燃焼式ガスセンサの出力の補正を行い、感度の劣化による影響を回避していた。
【特許文献1】特開2006−300744
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示される接触燃焼式ガスセンサにおいては、感度の劣化による影響を回避するための感度劣化検出回路(容量検出部)および出力補正回路(センサ出力増幅部)を設ける必要があり、部品数増加によって、コストの上昇および接触燃焼式ガスセンサを搭載する装置の小型化の妨げとなるという問題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、触媒被毒による感度の劣化を防ぐとともに、低コスト且つ小型化が可能な接触燃焼式ガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明によりなされた請求項1に記載の接触燃焼式ガスセンサは、通電から生じる熱によって燃焼する検知対象ガスの燃焼熱に応じて抵抗値が変化する検知抵抗体と、前記検知抵抗体との間で熱を伝導するように配設され且つ前記検知対象ガスに対して活性を有する触媒を含む触媒層と、を有する接触燃焼式ガスセンサにおいて、前記検知対象ガスを浸透し、且つ、前記検知対象ガスに対して非活性であり、且つ、前記触媒層の表面に設けられて触媒被毒物質による前記触媒層の被毒を防止する犠牲層を有することを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載の接触燃焼式ガスセンサは、請求項1に記載の接触燃焼式ガスセンサにおいて、前記犠牲層が、前記触媒被毒物質に対する反応性を有することを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に記載の接触燃焼式ガスセンサは、請求項1に記載の接触燃焼式ガスセンサにおいて、前記検知対象ガスがイソブタンガスまたはメタンガスであり、前記犠牲層がアルミナを基材として構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載の接触燃焼式ガスセンサは、請求項2に記載の接触燃焼式ガスセンサにおいて、前記検知対象ガスがメタンガスであり、前記犠牲層が白金を基材として構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載した本発明の接触燃焼式ガスセンサによれば、犠牲層が、触媒層の表面に設けられていることから、触媒層の表面を覆う犠牲層が触媒被毒物質を吸着するなどして、触媒被毒物質が触媒層に到達することを防止できる。そのため、触媒被毒物質による触媒層の被毒を防ぐことができ、即ち、触媒活性の低下を防ぐことができ、接触燃焼式ガスセンサの感度劣化を防止できる。また、犠牲層が検知対象ガスに対して非活性であり、つまり、元来犠牲層は検知対象ガスに対する活性を有していないので、犠牲層が触媒被毒物質を吸着しても接触燃焼式ガスセンサの感度が劣化することはない。よって、部品の追加なく接触燃焼式ガスセンサの感度劣化を防止でき、触媒被毒による感度劣化を防止した、低コスト且つ小型化が可能な接触燃焼式ガスセンサを提供することができる。
【0012】
請求項2に記載した本発明の接触燃焼式ガスセンサによれば、請求項1の効果に加えて、犠牲層が触媒被毒物質に対して反応性を有していることから、犠牲層によって、積極的に触媒被毒物質を吸着することができる。そのため、触媒被毒物質が触媒層に到達することをより一層防止し、触媒層の触媒活性の低下を防ぐことができ、接触燃焼式ガスセンサの感度劣化を防止できる。よって、触媒被毒による感度劣化をより一層防止した接触燃焼式ガスセンサを提供することができる。
【0013】
請求項3に記載した本発明の接触燃焼式ガスセンサによれば、犠牲層の基材として比表面積の大きいアルミナを用いていることから、イソブタンガスまたはメタンガスを検出する接触燃焼式ガスセンサにおいて、アルミナが触媒被毒物質であるシリコン化合物を吸着して、触媒層に到達することを防止できる。そのため、触媒層の触媒活性の低下を防ぐことができ、接触燃焼式ガスセンサのイソブタンガスまたはメタンガスに対する感度劣化を防止できる。よって、触媒被毒による感度劣化を防止したイソブタンガスまたはメタンガスを検出するための接触燃焼式ガスセンサを提供することができる。
【0014】
請求項4に記載した本発明の接触燃焼式ガスセンサによれば、犠牲層の基材としてシリコン化合物との反応性を有する白金を用いていることから、メタンガスを検出する接触燃焼式ガスセンサにおいて、白金が触媒被毒物質であるシリコン化合物と反応して積極的にシリコン化合物を吸着し、シリコン化合物が触媒層に到達することを防止できる。そのため、触媒層の触媒活性の低下を防ぐことができ、接触燃焼式ガスセンサのメタンガスに対する感度劣化を防止できる。よって、触媒被毒による検知感度の劣化を防止したメタンガスを検出するための接触燃焼式ガスセンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明に係る接触燃焼式ガスセンサの第1の実施形態について、図1〜図2を参照して説明する。
【0016】
接触燃焼式ガスセンサ10は、LPガス等で使用されるイソブタンガス及びメタンガス(即ち、検知対象ガス)の検出に用いられ、ヒータ11と、ヒータ11の周囲を覆って内包する楕円球状に形成された焼結体12と、で構成されている。
【0017】
ヒータ11は、請求項の検知抵抗体に相当し、コイル状に形成された白金からなる細線であり、通電することにより発熱して、その周囲を覆う焼結体12を加熱して検知対象ガスであるイソブタンガス及びメタンガスを燃焼させるものである。また、ヒータ11は熱により自らの抵抗値が変化する性質を有している。なお、本実施形態では、ヒータ11として白金を用いているが、これに限定するものではなく、例えば、タングステンなどの、抵抗温度係数が大きく、高温まで安定な金属又は化合物等であればどのようなものを用いても良い。
【0018】
焼結体12は、触媒層13と、触媒層13の全表面を覆うように配設された犠牲層14と、で構成されている。
【0019】
触媒層13は、イソブタンガス及びメタンガスの燃焼を促す触媒であるパラジウム化合物と、触媒を担持する触媒担体である酸化アルミニウム(即ち、アルミナ)と、を混合したペーストを、ヒータ11を内部に包み込むように、ヒータ11の全周囲に厚みをもって塗布して楕円球状に形成したあと、高温で焼結させたものである。なお、本実施形態においては、触媒層13に触媒物質であるパラジウム化合物を混合しているが、これに限定するものではなく、たとえば、アルミナのみを楕円球体に形成し、その表面にパラジウム化合物を塗布して、触媒膜を形成してもよい。また、触媒としてパラジウム化合物に限定するものではなく、検知対象ガスに対して触媒として機能する物質であれば、他のものを用いても良い。また、触媒担体としてアルミナに限定するものではなく、例えば、セラミック粉体など他のものを用いても良い。
【0020】
犠牲層14は、アルミナのみからなるペーストを、触媒層13の全表面を均一の厚みで覆うように塗布したあと、高温で焼結させたものである。アルミナは、イソブタンガス及びメタンガスに対して活性を有しておらず、また、比表面積が大きいため触媒被毒物質であるシリコン化合物の吸着等に好適な材料である。なお、本実施形態においては、犠牲層14の基材としてアルミナを用いているが、これに限定するものではなく、イソブタンガス及びメタンガスを浸透し且つそれらガスに対して不活性であり、触媒層を被毒する被毒物質であるシリコン化合物を吸着等する材料であれば、どのようなものを用いても良い。また、本実施形態において犠牲層14は触媒層13の全表面を覆っているが、これに限定するものではなく、少なくとも犠牲層14による触媒被毒物質の吸着効果、即ち、感度劣化防止効果が確認できる程度に覆っていればよい。
【0021】
また、本実施形態では、焼結体12の直径を1mm程度とし、犠牲層14の厚みを0.1〜0.15mmとしており、これは、被毒物質による触媒層13の被毒を防止し、且つ、検知対象ガスが内層である触媒層13まで到達することができる犠牲層14の厚さとなっている。また、犠牲層14が厚いほど、感度劣化防止効果が期待できるが、その一方で、初期状態における感度低下が生じてしまうので、それらのバランスを考慮して犠牲層14の厚みを設定する必要があり、本実施形態においては、上述した厚みが好適である。なお、犠牲層の厚みは、接触燃焼式ガスセンサの各実施形態に合わせ、被毒による感度劣化および初期状態における感度低下のバランスを考慮して、適宜調整することができる。
【0022】
次に、上記構成の接触燃焼式ガスセンサ10の動作(作用)の一例について説明する。
【0023】
接触燃焼式ガスセンサ10を用いて、イソブタンガスの検知を行うと、イソブタンガスが犠牲層14を通り抜けて触媒層13に到達して、触媒により燃焼し、この燃焼による熱がヒータ11に伝導して、ヒータ11の抵抗値が変化する。そして、図2に示すように、時間経過に伴い、雰囲気中に存在するシリコンガスを原因とするシリコン化合物30が、接触燃焼式ガスセンサ10の表面、即ち、犠牲層14に付着する。そして、このシリコン化合物30の付着は、アルミナで構成された犠牲層14にとどまり、触媒層13に到達することはない。つまり、犠牲層14によって、触媒層13の被毒物質による被毒を防止できる。
【0024】
上記より、本実施形態によれば、アルミナを基材とした犠牲層14が、触媒層13の表面に設けられていることから、触媒層13の表面を覆う犠牲層14が触媒被毒物質であるシリコン化合物を吸着等して、シリコン化合物が触媒層13に到達することを防止できる。そのため、シリコン化合物による触媒層13の触媒活性の低下を防ぐことができ、接触燃焼式ガスセンサ10の感度劣化を防止できる。また、犠牲層14の基材のアルミナがイソブタンガス及びメタンガスに対して非活性であり、つまり、元来犠牲層14はイソブタンガス及びメタンガスに対する活性を有していないので、シリコン化合物が犠牲層14に吸着されても接触燃焼式ガスセンサ10の感度が劣化することはない。よって、部品の追加なく接触燃焼式ガスセンサ10の感度劣化を防止でき、触媒被毒による感度劣化を防止した、低コスト且つ小型化が可能な接触燃焼式ガスセンサ10を提供することができる。
【0025】
以下に、本発明に係る接触燃焼式ガスセンサの第2の実施形態について、図1〜図2を参照して説明する。
【0026】
接触燃焼式ガスセンサ20は、都市ガス等で使用されるメタンガスの検出に用いられ、ヒータ11と、ヒータ11の周囲を覆って内包する楕円球状に形成された焼結体22と、で構成されている。なお、接触燃焼式ガスセンサ20の、ヒータ11および触媒層13は、前述した第1の実施形態と同一であり、同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0027】
焼結体22は、触媒層13と、触媒層13の全表面を覆うように配設された犠牲層24と、で構成されている。
【0028】
犠牲層24は、白金のペーストを、触媒層13の全表面を覆うように均一の厚みをなすように塗布したあと、高温で焼結させたものである。白金は、メタンガスに対して活性を有しておらず、また、シリコン化合物に対する反応性を有しているため、触媒被毒物質であるシリコン化合物を積極的に吸着し、メタンガスに対する犠牲層として好適な材料である。なお、本実施形態においては、犠牲層24の基材として白金を用いているが、これに限定するものではなく、検出対象ガスであるメタンガスに対して不活性であり、触媒層を被毒する被毒物質であるシリコン化合物を吸着する(積極的に吸着するものであればより良い)材料であれば、どのようなものを用いても良い。また、本実施形態において犠牲層24は触媒層13の全表面を覆っているが、これに限定するものではなく、少なくとも犠牲層24による触媒被毒物質の吸着効果、即ち、感度劣化防止効果が確認できる程度に覆ってあればよい。
【0029】
また、本実施形態では、焼結体22の直径を1mm程度とし、犠牲層24の厚みを0.1〜0.15mmとしており、これは、被毒物質による触媒層13の被毒を防止し、且つ、検知対象ガスが内層である触媒層13まで到達することができる犠牲層24の厚さとなっている。また、犠牲層24が厚いほど、感度劣化防止効果が期待できるが、その一方で、初期状態における感度低下が生じてしまうので、それらのバランスを考慮して犠牲層24の厚みを設定する必要があり、本実施形態においては、上述した厚みが好適である。なお、犠牲層の厚みは、接触燃焼式ガスセンサの各実施形態に合わせ、被毒による感度劣化および初期状態における感度低下のバランスを考慮して、適宜調整することができる。
【0030】
次に、上記構成の接触燃焼式ガスセンサ20の動作(作用)の一例について説明する。
【0031】
接触燃焼式ガスセンサ20を用いて、メタンガスの検知を行うと、メタンガスが犠牲層24を通り抜けて触媒層13に到達して、触媒により燃焼し、この燃焼による熱がヒータ11に伝導して、ヒータ11の抵抗値が変化する。そして、図2に示すように、時間経過に伴い、雰囲気中に存在するシリコンガスを原因とするシリコン化合物30が、犠牲層24を構成する白金と反応して吸着され、即ち、接触燃焼式ガスセンサ20の表面に付着する。そして、このシリコン化合物30の付着は、犠牲層24にとどまり、触媒層13には到達することはない。つまり、犠牲層24によって、触媒層13の被毒物質による被毒から保護することができる。
【0032】
上記より、本実施形態によれば、白金を基材とした犠牲層24が、触媒層13の表面に設けられており、且つ、シリコン化合物との反応性を有することから、触媒層13の表面を覆う犠牲層24が触媒被毒物質であるシリコン化合物を積極的に吸着して、シリコン化合物が触媒層13に到達することを防止できる。そのため、シリコン化合物による触媒層13の触媒活性の低下を防ぐことができ、接触燃焼式ガスセンサ20の感度劣化を防止できる。また、犠牲層24の基材の白金がメタンガスに対して非活性であり、つまり、元来犠牲層24はメタンガスに対する活性を有していないので、シリコン化合物が犠牲層24に吸着されても接触燃焼式ガスセンサ20の感度が劣化することはない。よって、部品の追加なく接触燃焼式ガスセンサ20の感度劣化を防止でき、触媒被毒による感度劣化を防止した、低コスト且つ小型化が可能な接触燃焼式ガスセンサ20を提供することができる。
【0033】
次に、本発明者は、本発明に係る第2の実施形態の接触燃焼式ガスセンサ20と、従来の接触燃焼式ガスセンサ110と、を用いて、シリコン化合物による感度劣化の比較試験を行った。その試験内容および結果について説明する。
【0034】
比較対象となる従来の接触燃焼式ガスセンサ110の構成について、図6を参照して説明する。また、試験回路1について、図3を参照して説明する。
【0035】
従来の接触燃焼式ガスセンサ110は、図6に示すように、ヒータコイル111と、ヒータコイル111の周囲を覆って内包する楕円球状に形成された焼結体113、即ち、触媒層113と、で構成されている。ヒータコイル111は、上述の第2の実施形態のヒータ11と同一材質であり、同一形状に形成されている。また、焼結体113は、第2の実施形態の焼結体12と同一形状であるとともに、触媒層13と同一の材料(即ち、アルミナとパラジウム化合物との混合物)および同一の混合比で構成されている。つまり、本発明の本質とは関係しない、形状や材料の違いから生じる結果の差異が極力小さくなるよう、本発明に係る接触燃焼式ガスセンサ20と形状および材料を同一にする。
【0036】
試験回路1は、図3に示すように、ブリッジ回路を構成する接触燃焼式ガスセンサ20(110)、補償素子40(140)、固定抵抗器R1、R2、および、可変抵抗器Rvと、前記ブリッジ回路の中間点の電位差(即ち、検知電圧)を測定する電圧計50と、前記ブリッジ回路に所定の周期の間歇電圧を印可する電圧印可装置60と、を有している。接触燃焼式ガスセンサ10(110)の一方の端子には、固定抵抗器R1の一方の端子と電圧印可装置60の一方の端子が接続され、接触燃焼式ガスセンサ10(110)の他方の端子には、補償素子40(140)の一方の端子が接続されている。補償素子40(140)の他方の端子には、固定抵抗器R2の一方の端子と電圧印可装置60の他方の端子が接続されている。接触燃焼式ガスセンサ10(110)と補償素子40(140)との間には電圧計50の一方の端子が接続されている。また、可変抵抗器Rvの端子は、固定抵抗器R1、R2それぞれの他方の端子と、電圧計50の他方の端子に接続されて、試験回路1を構成している。可変抵抗器Rvは固定抵抗器R1、R2の間に接続されており、可変抵抗器Rvを調整することで、ブリッジ回路の平衡状態(即ち、ゼロ点)を調整することができる。
【0037】
補償素子40は、触媒であるパラジウム化合物を混合せずにアルミナのみで触媒層13を形成した以外は、接触燃焼式ガスセンサ20と形状、材料共、同一のものである。また、補償素子140は、触媒であるパラジウム化合物を混合せずにアルミナのみで触媒層113を形成した以外は、接触燃焼式ガスセンサ110と形状、材料共、同一のものである。
【0038】
(実施例1)
本発明者は、上述の実施形態に示した本発明に係る接触燃焼式ガスセンサ20又は従来の接触燃焼式ガスセンサ110を用いて、シリコン被毒によるメタンガス検知感度の比較試験を実施した。
【0039】
試験は、以下の通り実施した。(1)本発明に係る接触燃焼式ガスセンサ20又は従来の接触燃焼式ガスセンサ110を試験回路1に組み込み、検知対象ガスが存在しない雰囲気中に設置して、検知電圧を0Vに調整する。(2)各接触燃焼式ガスセンサを、大気50リットルに対してシリコンパテ3gが投入された密閉状態の雰囲気中に設置し、その状態において、各接触燃焼式ガスセンサを450℃に加熱する電圧を24時間連続通電する。(3)各接触燃焼式ガスセンサを前記密閉状態の雰囲気中から取り出したのち、メタンガス濃度3000ppmの雰囲気中に設置し、その状態において、接触燃焼式ガスセンサ20又は接触燃焼式ガスセンサ110を450℃に加熱する電圧を通電し、前記ブリッジ回路の電位差(即ち、検知電圧)を検知して、メタンガス濃度の検知動作を行う。(4)以降、上記(2)、(3)を交互に繰り返して、メタンガス濃度の検知動作を複数回行う。試験はそれぞれ各3つずつの接触燃焼式ガスセンサ試料を用いて実施した。試験結果である、検知電圧の変化およびメタンガス感度変動率を図4および図5に示す。
【0040】
図4の検知電圧(センサ出力電圧)の変化を示すグラフは、各ガス検知動作における検知電圧を試験回数とともにプロットしたものであり、図5のメタンガス感度変動率を示すグラフは、図4のグラフで用いた検知電圧に基づいて、初回に測定した検知電圧を基準としたときの各検知動作における検知電圧の変動率をプロットしたものである。
【0041】
これらグラフから、従来の接触燃焼式ガスセンサ110では、初期から2回目までの間でセンサ出力電圧が一気に低下しており、メタンガス感度変動率が著しく感度が劣化していることがわかる。その後も緩やかに劣化が進み、試験終了時点の13回目の検知動作においては、試験試料のすべてで50%以上の感度劣化が認められる。
【0042】
その一方で、本発明に係る接触燃焼式ガスセンサ20では、従来の接触燃焼式ガスセンサ110に比べて初期のセンサ出力電圧が低い、即ち、感度が低いものの、従来の接触燃焼式ガスセンサ110のように時間経過に伴う著しい感度の劣化は認められず、緩やかに感度劣化が進み、試験終了時点の13回目の検知動作においては、25%前後の感度劣化となった。これにより、従来の接触燃焼式ガスセンサ110に比べ、感度劣化を防止できることがわかった。
【0043】
したがって、上述の実施例1からも、本発明に係る接触燃焼式ガスセンサは、触媒被毒による感度劣化を防止できることがわかった。
【0044】
なお、本実施形態においては、イソブタンガスまたはメタンガスを検知対象ガスとし、パラジウム化合物を含む触媒層を、アルミナまたは白金を基材とした犠牲層で覆う構成としているが、これらに限定するものではなく、検出対象ガスに対する活性を有する触媒を含む触媒層を、検出対象ガスに対して不活性であり且つ検出対象ガスを浸透するとともに触媒被毒物質を吸着または跳ね返すなどする材料で構成された犠牲層で覆うことで、他のガス検知用のセンサとしても応用することができる。
【0045】
また、本実施形態においては、コイル状の白金線の周囲に触媒層を設け、さらにその周囲に犠牲層を設けて楕円球状をなしているが、これに限らず、例えば、シリコン基板上にスパッタリングおよびエッチングを施して形成した白金パターンを検知抵抗体として、その上に触媒層、そして触媒層の上に犠牲層を設けたマイクロガスセンサなど、接触燃焼式ガスセンサとして機能し、犠牲層により触媒層の被毒を防止できるものであればどのような形状でも良い。
【0046】
なお、上述した実施例は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る接触燃焼式ガスセンサの一実施形態を示す構成図である。
【図2】図1の接触燃焼式ガスセンサの表面に被毒物質が吸着された状態を示す図である。
【図3】接触燃焼式ガスセンサの比較試験に用いた回路の接続図である。
【図4】接触燃焼式ガスセンサの検知電圧の経時変化を示すグラフである。
【図5】接触燃焼式ガスセンサの感度変動率の経時変化を示すグラフである。
【図6】従来の接触燃焼式ガスセンサの構成を示す図である。
【図7】図6の接触燃焼式ガスセンサの表面に被毒物質が吸着された状態を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
10、20 接触燃焼式ガスセンサ
11 検知抵抗体(ヒータ)
13 触媒層
14、24 犠牲層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電から生じる熱によって燃焼する検知対象ガスの燃焼熱に応じて抵抗値が変化する検知抵抗体と、前記検知抵抗体との間で熱を伝導するように配設され且つ前記検知対象ガスに対して活性を有する触媒を含む触媒層と、を有する接触燃焼式ガスセンサにおいて、
前記検知対象ガスを浸透し、且つ、前記検知対象ガスに対して非活性であり、且つ、前記触媒層の表面に設けられて触媒被毒物質による前記触媒層の被毒を防止する犠牲層を有することを特徴とする接触燃焼式ガスセンサ。
【請求項2】
前記犠牲層が、前記触媒被毒物質に対する反応性を有することを特徴とする請求項1に記載の接触燃焼式ガスセンサ。
【請求項3】
前記検知対象ガスがイソブタンガスまたはメタンガスであり、
前記犠牲層がアルミナを基材として構成されていることを特徴とする請求項1に記載の接触燃焼式ガスセンサ。
【請求項4】
前記検知対象ガスがメタンガスであり、
前記犠牲層が白金を基材として構成されていることを特徴とする請求項2に記載の接触燃焼式ガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−2888(P2009−2888A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166041(P2007−166041)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】