説明

揚重運搬装置

【課題】クレーン作業が制約を受ける領域にて重量物を安定的に揚重・水平移動する。
【解決手段】橋体4の下方に設置される揚重運搬装置1は、接続部5近傍の橋脚3の壁面に取り付けられるブラケット11と、上端がブラケット11に固定されるチェーン12と、チェーン12を介して上昇可能なリフト本体13と、を備える。リフト本体13の上面には、補強部材6が搭載される荷台27が配置されている。また、揚重運搬装置1は、荷台27を、リフト本体13の上面に対して水平前後方向に摺動させる摺動装置28を備える。リフト本体13の左右側面に配置されるリフトローラ24,25は、リフト本体13の上昇時に、ブラケット11のガイドレール16を挟み込むようにして回動する。また、ガイドレール16は、荷台27の水平前後方向移動時に、リフト本体13の水平前後方向の移動を制限するストッパ機構として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚重運搬装置に関し、詳しくは、クレーン作業が制約を受ける建築構造物の壁面の所定箇所に部材(重量物)を揚重運搬する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クレーンを用いて、重量物である外装材を建物に沿って建物施工階まで揚重運搬した後に、外装材を建物施工階の壁際に人力で引き込むことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−310501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、上空が制限されてクレーンの吊り代を十分に確保できない等の理由によってクレーン作業が制約を受ける領域では、特許文献1に記載の揚重運搬手法を用いて、重量物を揚重運搬することができない。
また、特許文献1に記載の揚重運搬手法では、吊り下ろされた重量物を人力で水平移動させて建物施工階の壁際に引き込んでいるので、重量物を安定的に水平移動させることは難しい。
【0005】
本発明は、このような実状に鑑み、クレーン作業が制約を受ける領域にて、重量物を揚重し、かつ、安定的に水平移動させる揚重運搬装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため本発明では、揚重運搬装置は、部材を、クレーン作業が制約を受ける建築構造物の壁面に沿って揚重して上記壁面の所定箇所まで水平移動させる。また、揚重運搬装置は、上記所定箇所近傍の上記壁面に取り付けられるブラケットと、部材が搭載されるリフト本体と、一端がブラケットに固定されて、リフト本体を吊下支持する線状部材と、リフト本体に備えられ、かつ、リフト本体を、線状部材を介して、上記所定箇所の高さまで上昇させる上昇装置と、を含んで構成される。リフト本体は、部材を上記壁面に対して近接・離間する方向である水平前後方向に移動可能なスライド装置を備える。ブラケットは、部材の水平前後方向移動時におけるリフト本体の水平前後方向の移動を制限するストッパ機構を備える。
【0007】
尚、本発明における「クレーン作業が制約を受ける建築構造物の壁面」には、以下の壁面が含まれる。
(1)柱状・壁状構造物と天井構造物との接続部下方における柱状・壁状構造物の壁面
・橋脚と橋脚に支承支持された橋体との接続部下方における橋脚の壁面
・構造物屋内の壁面
(2)トンネル、地下道、又は地下空間の壁面
(3)クレーンで部材の引き込みが困難な箇所にある建築構造物の壁面
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リフト本体が上昇装置を備えることにより、上空が制限されてクレーン作業が制約を受ける領域であっても、上記のような吊り代を確保することなく、建築構造物の壁面の所定箇所の高さまで部材を揚重することができる。
【0009】
また本発明によれば、リフト本体がスライド装置を備えることにより、人力を用いることなく、部材を水平前後方向に移動させることができる。
【0010】
また本発明によれば、ブラケットがストッパ機構を備えることにより、部材の水平前後方向移動時におけるリフト本体の水平前後方向の移動が制限されるので、部材を安定的に水平前後方向に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態における揚重運搬装置の概略構成を示す正面図
【図2】同上実施形態における揚重運搬装置の概略構成を示す側面図
【図3】同上実施形態におけるリフト本体の概略構成を示す正面図
【図4】同上実施形態におけるリフト本体の概略構成を示す側面図
【図5】同上実施形態における荷台の最退入位置及び最突出位置を示す図
【図6】同上実施形態における補強部材(第1及び第2部材)の概略構成を示す図
【図7】同上実施形態における揚重運搬装置の作動状態を示す図
【図8】本発明の第2の実施形態におけるリフト本体の概略構成を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は、本発明の第1の実施形態における揚重運搬装置の概略構成を示す。
本実施形態における揚重運搬装置1は、地面(地盤)2に立設された門型の橋脚(柱状・壁状構造物)3と、この橋脚3に支承支持された橋体(天井構造物)4と、の接続部5を補強する重量物である補強部材6(後述する第1及び第2部材6a,6b)を、橋体4の下方にて接続部5まで運搬するものである。換言すれば、揚重運搬装置1は、補強部材6を、橋体4によりクレーン作業が制約を受ける橋脚3の壁面に沿って揚重して接続部5の壁面(橋脚3の壁面の所定箇所)まで水平移動させるものである。ここで、図2に示す橋脚3、橋体4、接続部5、及び補強部材6に関しては、図1のA−A断面での概略構成を示している。また、図1に示す橋体4に関しては、図2のB−B断面での概略構成を示している。尚、本実施形態では、図1に示すように、橋脚3の幅方向を「水平左右方向」として以下説明する。また、本実施形態では、図2に示すように、橋体4の長手方向に沿って橋脚3の壁面に対して近接・離間する方向を「水平前後方向」として以下説明する。
【0013】
橋体4は、並列配置された4本の橋桁4aと、これらの橋桁4aにより支持される平板状の床版4bとからなる。橋体4は、その橋桁4aの長手方向端部が橋脚3に載置されて、橋脚3によって支持されている。
接続部5は、橋体4(橋桁4a)を支承支持する橋脚3の橋桁支承部として機能するものであり、橋脚3の上面と橋体4の内周面(橋桁4aの側面及び床版4bの下面)とにより囲まれる領域にて、場所打ちコンクリートにより形成される。また、接続部5は橋体4と一体化される。
【0014】
揚重運搬装置1は、接続部5の近傍の橋脚3の壁面に取り付けられるブラケット11と、上端がブラケット11に固定される線状部材であるチェーン(例えば、ローラチェーン)12と、このチェーン12を介して上昇・下降可能なリフト本体13と、チェーン12の下端が固定され、かつ、地面2に設置されるリフト本体用架台14と、を備える。
リフト本体用架台14は、その架台重量により、及び/又は、アンカーボルト等を介して、地面2に固定される。これにより、チェーン12は、その下端が、実質的には、リフト本体用架台14を介して地面2に固定される。従って、チェーン12がブラケット11と地面2との両方に固定されることにより、リフト本体13は、その水平左右方向及び水平前後方向の移動が、チェーン12により制限されるので、リフト本体13は安定して上昇・下降することができる。
【0015】
ブラケット11を構成する左右一対の上側ビーム15は水平前後方向に延びており、その一端が、ヒンジ機構を介して、接続部5近傍の橋脚3の壁面にアンカー固定されている。また、各上側ビーム15の他端には、それぞれ、チェーン12の上端が固定される。また、上側ビーム15間の間隔は、補強部材6の幅寸法より大きく設定されている。
ブラケット11を構成する左右一対のガイドレール16は鉛直方向に延びており、各々の上端部が、対応する上側ビーム15の他端に固定されている。ここで、チェーン12は、左右一対のガイドレール16より内側に配置されており、これにより、リフト本体13が、チェーン12を介して、ガイドレール16間を上昇・下降することができる。
【0016】
ガイドレール16は、その中央部から橋脚3の壁面に向かって延びる中央ビーム17を備える。中央ビーム17は、その橋脚3側端にて橋脚3の壁面と接触しつつ回動する、ガイドレール位置調整用の車輪17aを備えている。
また、ガイドレール16のレール間隔を保持するための間隔保持用ビーム18,19が、それぞれ、リフト本体13の上昇・下降範囲を迂回するように、中央ビーム17と、ガイドレール16の下端部とに取り付けられている。
【0017】
図3及び図4は、リフト本体13の概略構成を示す。
リフト本体13は、その直方体状の筐体20の内部に、左右一対の上昇用モータ21を備える。上昇用モータ21は、図示しない電力ケーブル及び通信ケーブルを介して、地面2上の制御盤(図示せず)に接続されている。上昇用モータ21より出力される回転駆動力は、筐体20の左右側面(すなわち、左右一対のチェーン12の各々に対向する面)上に各々配置されるチェーン伝動機構(チェーン12に噛合する駆動スプロケット22及びスプロケット23)を介して、チェーン12に伝達される。このようにして、リフト本体13は、チェーン12を介して、上昇・下降を行う。ここで、上昇用モータ21とチェーン伝動機構(駆動スプロケット22及びスプロケット23)とにより、本発明におけるチェーン駆動装置及び上昇装置の機能が実現される。
【0018】
筐体20の左右側面の上端部と下端部とには、それぞれ、ガイドレール16を挟み込み可能な間隔で対向配置される一対のリフトローラ24,25が取り付けられている。リフトローラ24,25は、それぞれ、ガイドレール16を挟み込むようにして接触しつつ回動することが可能である。
筐体20の上面中央部には、4本の脚を有し、かつ、リフト本体13を構成する台状部材26が取り付けられている。台状部材26は、平面視で矩形形状を有している。
【0019】
台状部材26の上面には、補強部材6が搭載される荷台27が配置されている。荷台27は、平面視で矩形状を有する基部27aと、基部27aから上方に向けて張り出す左右一対の支持部27bと、を備える。
基部27aの長手方向の寸法(図2に示す水平前後方向の寸法)は、台状部材26の長手方向の寸法よりも大きく設定されている。また、基部27aの左右両端部は、それぞれ、上側フランジと下側フランジとを有するH鋼で形成されている。
【0020】
支持部27bは、コの字断面を有する支持部本体27b1と、この支持部本体の補強用プレート27b2とからなる。
基部27aの左右両端部には、それぞれ、摺動装置28が設けられている。この摺動装置28は、荷台27を、台状部材26の上面にて、台状部材26に対して、長手方向(図2に示す水平前後方向)に摺動させるものである。
【0021】
摺動装置28は、台状部材26の左右両端部に各別に設けられたチェーン駆動装置(駆動用モータ30、駆動スプロケット31及びスプロケット32,33)と、基部27aの上記H鋼の一端からスプロケット32,31,33を経て基部27aの上記H鋼の他端まで延びるチェーン(例えば、ローラチェーン)34と、を含んで構成される。ここで、駆動用モータ30は、図示しない電力ケーブル及び通信ケーブルを介して、地面2上の制御盤(図示せず)に接続されている。
【0022】
また、基部27aの左右両端部には、それぞれ、摺動ガイド機構35が設けられている。摺動ガイド機構35は、基部27aを左右両外側から挟み込むように配置され、かつ、基部27aの上記H鋼の下側フランジ上を回動する複数のローラ36を備えている。この摺動ガイド機構35により、荷台27の摺動時の水平左右方向でのズレが抑制されるので、荷台27の摺動時の直進性を向上させることができる。
【0023】
荷台27の基部27aと台状部材26との間には、低摩擦材37(例えば、MCナイロン(登録商標))が介装されている。これにより、摺動時に荷台27に作用する摩擦力が軽減されるので、荷台27をスムーズに摺動させることができる。
ここで、荷台27と摺動装置28とにより、本発明におけるスライド装置の機能が実現される。
【0024】
図5(A)は、荷台27の最退入位置を示す一方、図5(B)は、荷台27の最突出位置を示す。
荷台27が台状部材26に対してその上面を後方に摺動(後退)して、荷台27がその最退入位置にある場合には、荷台27の橋脚3側端面が、台状部材26の橋脚3側端面よりも後方に位置する(図5(A)参照)。
【0025】
一方、荷台27が台状部材26に対してその上面を前方に摺動(前進)して、荷台27がその最突出位置にある場合には、荷台27の橋脚3側端面が、台状部材26の橋脚3側端面よりも前方に位置する(図5(B)参照)。
このように、荷台27は、摺動装置28の作動に応じて、台状部材26の上面を最退入位置と最突出位置との間で摺動することができる。
【0026】
次に、揚重運搬装置1を用いた補強部材6の揚重運搬方法を図6及び図7に基づいて説明する。
【0027】
図6は、揚重運搬装置1により揚重運搬される補強部材6の一例を示す。
図6(A−1)は、補強部材6を構成する第1部材6aの正面図である。図6(A−2)は、第1部材6aの側面図である。
【0028】
図6(B−1)は、補強部材6を構成する第2部材6bの正面図である。図6(B−2)は、第2部材6bの側面図である。図6(B−3)は、第2部材6bの平面図である。
第1部材6aは、正面視で正方形状を有する平板状の部材であり、その四隅にアンカーボルト挿入用の貫通孔60が形成されている。
第2部材6bは、正面視でエの字形状を有する部材である。第2部材6bは、その上部及び下部に、第1部材6aと接触する接触面61を備え、この接触面に接触する第1部材6aの貫通孔60に対応する位置に、アンカーボルト挿入用の貫通孔62,63が形成されている。
【0029】
図7は、補強部材6(第1部材6a及び第2部材6b)を揚重運搬する揚重運搬装置1の作動状態を示す。
補強部材6は、2つの第1部材6aと、1つの第2部材6bと、により構成されている(図1及び図2参照)。
揚重運搬装置1を橋脚3の壁面に設置する前に、まず、図7(A)に示すように、橋脚3の上面と橋体4の内周面とにより囲まれる領域に、アンカーボルト41を設置した上で、場所打ちコンクリートにより、接続部5を形成する。ここで、場所打ちコンクリートによる接続部5の形成手法の一例としては、接続部5用の型枠を予め設置し、コンクリートポンプ等でコンクリートを圧送してコンクリートを打設する手法が挙げられる。
【0030】
次に、接続部5の下方の橋脚3の壁面における第1部材6aの取付部位に、アンカーボルト42を設置する。
【0031】
この後に、以下の手順にて、揚重運搬装置1を橋脚3の壁面に設置する。
〔1〕橋脚3の壁面におけるブラケット11(上側ビーム15)の設置箇所にアンカーボルトを設置する。
〔2〕上側ビーム15を構成するブラケット部材15a(図2参照)を橋脚3の壁面に取り付ける。
〔3〕上側ビーム15のうちブラケット部材15a以外の部分と、ガイドレール16と、中央ビーム17(車輪17aを含む)と、間隔保持用ビーム18,19と、を地上にて予め組立てて一体化させてリフトレールとし、このリフトレールを、ピンを介してブラケット部材15aに固定する(上述のヒンジ機構は、このピンを含んで構成される)。
〔4〕橋脚3の壁面に設置されたブラケット11の下方の地面2上に、リフト本体用架台14及びリフト本体13を配置する。
〔5〕チェーン12の上端をブラケット11(上側ビーム15)に取り付け、途中をリフト本体13の駆動スプロケット22及びスプロケット23に噛合させ(図4参照)、下端をリフト本体用架台14に取り付ける。
【0032】
以上のようにして、揚重運搬装置1を橋脚3の壁面に設置する。
そして、リフト本体13をリフト本体用架台14に載置させた状態で、荷台27上に第1部材6aを載置する。
【0033】
次に、図7(B)に示すように、リフト本体13を上昇させて、第1部材6aを接続部5の高さまで上昇させる。この上昇時に、リフト本体13のリフトローラ24,25は、ブラケット11のガイドレール16を挟み込んで回動する。このようにして、ブラケット11のガイドレール16は、リフト本体13を接続部5に誘導する。
【0034】
次に、図7(C)に示すように、摺動装置28を作動させて荷台27を前進させ、第1部材の貫通孔60にアンカーボルト41に挿入させつつ荷台27の前進を更に進めて、第1部材6aを接続部5の壁面に当接させる。ここで、荷台27の前進に伴って、第1部材6aを搭載したリフト本体13の重心位置が変化するので、リフト本体13を水平前後方向に移動させようとする反力が生じる。しかしながら、この反力は、リフトローラ24,25を介して、ブラケット11のガイドレール16にて吸収され、この結果、リフト本体13の水平前後方向の移動が制限される。すなわち、ブラケット11のガイドレール16が、本発明におけるストッパ機構として機能して、荷台27の前進時におけるリフト本体13の水平前後方向の移動を制限する。ここで、ガイドレール16については、荷台27を水平前後方向に摺動させ得る高さにて、リフトローラ24,25がガイドレール16に接触可能なように、レール長さが予め設定されている。このようにして、第1部材6aが、接続部5に取り付けられる。
【0035】
この後、摺動装置28を作動させて荷台27を後退させ、リフト本体13を下降させる。そして、リフト本体13をリフト本体用架台14に載置させた状態で、荷台27上に第1部材6aを載置する。
この載置された第1部材6aは、接続部5の下方の橋脚3の壁面にアンカーボルト42を介して取り付けられるものであり、この取り付け時における揚重運搬装置1の作動状態は、図7(A)〜(C)に示す作動状態と同様であるが、リフト本体13の上昇位置のみが異なる。
【0036】
このようにして、第1部材6aを橋脚3の壁面に取り付けると、摺動装置28を作動させて荷台27を後退させ、リフト本体13を下降させる。そして、リフト本体13をリフト本体用架台14に載置させた状態で、荷台27上に第2部材6bを載置する。
第2部材6bを接続部5とその下方の橋脚3の壁面とに取り付ける際の揚重運搬装置1の作動状態は、上述の第1部材6aを橋脚3の壁面に取り付ける際の作動状態と同様であるが、荷台27の水平前後方向移動距離(突出位置)のみが異なる。
【0037】
また、第2部材6bを接続部5とその下方の橋脚3の壁面とに取り付ける際には、第2部材6bは、その貫通孔62にアンカーボルト41が挿入される一方、貫通孔63にアンカーボルト42が挿入される。
このようにして、第2部材6bを、第1部材6aを介して、接続部5とその下方の橋脚3の壁面とに取り付けると、摺動装置28を作動させて荷台27を後退させ、リフト本体13を下降させて、補強部材6の運搬を完了する。
【0038】
この後、新規の補強部材6を別の接続部5に設置する場合には、まず、当該設置場所にて、上述の揚重運搬装置1の設置手順〔1〕〜〔3〕と同様に、新規のブラケット11を橋脚3の壁面に取り付ける。次に、今回使用した揚重運搬装置1のうちブラケット11以外の構成要素(チェーン12、リフト本体13、リフト本体用架台14等)を取り外して上記当該設置場所に運搬する。そして、運搬したこれらの構成要素と、橋脚3の壁面に取り付けられた新規のブラケット11と、について、上述の揚重運搬装置1の設置手順〔4〕及び〔5〕を適用する。このようにして、揚重運搬装置1の移設を行うことができる。
【0039】
また、リフト本体用架台14がその架台重量のみにより地面2に固定される場合(すなわち、アンカーボルト等を介して地面2に固定されていない場合)には、揚重運搬装置1の移設を比較的容易に行うことが可能である。この場合には、例えば、複数のブラケット11及びチェーン12を用意し、これらのブラケット11及びチェーン12を橋脚3に事前に設置準備しておくことで、1台のリフト本体13及びリフト本体用架台14を転用することができる。これにより、揚重運搬装置1の移設時には、ブラケット11及びチェーン12の運搬が省略されて、1台のリフト本体13及びリフト本体用架台14のみの運搬で済むので、作業効率を向上させることができる。
【0040】
本実施形態によれば、揚重運搬装置1は、接続部5近傍(橋脚3の壁面の所定箇所の近傍)の橋脚3の壁面に取り付けられるブラケット11と、補強部材6が搭載されるリフト本体13と、一端がブラケット11に固定されて、リフト本体11を吊下支持するチェーン12と、リフト本体13に備えられ、かつ、リフト本体13を、チェーン12を介して、接続部5の高さまで上昇させる上昇装置(上昇用モータ21及びチェーン伝動機構(駆動スプロケット22及びスプロケット23))と、を含んで構成されるので、橋体4によって上空が制限されてクレーン作業が制約を受ける領域であっても、橋体4の下面近傍まで補強部材6を揚重することができる。
【0041】
尚、一般に、橋体4等の天井構造物の下方にて重量物を揚重運搬する手法としては、例えば、天井構造物の下面に金車を予め設置し、この金車を介して、重量物をワイヤロープで吊上げて、このワイヤロープを巻上げウインチ等で巻き上げる手法が考えられる。
【0042】
しかしながら、この手法では、例えば、天井構造物の下端部に鉛直方向に延びるアンカーボルトを予め設置し、このアンカーボルトを介して、金車を天井構造物の下面に固定する。このため、重量物の吊上げ時にはアンカーボルトに引張荷重が作用することになるので、アンカーボルトの引き抜き力が働いてアンカーボルトの抜けが起こり得ると共に、天井構造物に曲げ応力が働いて天井構造物の破損が起こり得る。
【0043】
この点、本実施形態では、柱状・壁状構造物に水平前後方法に延びるアンカーボルトを予め設置し、このアンカーボルトを介して、揚重運搬装置1のブラケット11を柱状・壁状構造物の壁面に固定する。このため、重量物の吊上げ時にはアンカーボルトにせん断荷重が作用することになるので、アンカーボルトの抜け発生を抑制することができ、また、柱状・壁状構造物に軸方向荷重力が加わるので、柱状・壁状構造物の破損の可能性は低い。
【0044】
また本実施形態によれば、リフト本体13は、補強部材6を水平前後方向に移動可能なスライド装置(荷台27及び摺動装置28)を備えることにより、人力を用いることなく、補強部材6を水平前後方向に移動させることができる。
また本実施形態によれば、ブラケット11は、ストッパ機構(ガイドレール16)を備えることにより、補強部材6の水平前後方向移動時におけるリフト本体13の水平前後方向の移動が制限されるので、補強部材6を安定的に水平前後方向に移動させることができる。
【0045】
尚、本実施形態では、中央ビーム17は、その橋脚3側端に車輪17aを備えているが、中央ビーム17の橋脚3側端の構成はこれに限らず、例えば、中央ビーム17は、その橋脚3側端が、上側ビーム15と同様に、橋脚3の壁面にアンカー固定されてもよい。この場合には、ガイドレール16が、上側ビーム15及び中央ビーム17を介して、橋脚3の壁面に固定されるので、ガイドレール16のストッパ機構としての機能を一層強化することができる。
【0046】
また本実施形態によれば、荷台27は、リフト本体13の台状部材26に対してその上面を水平前後方向に摺動可能であることにより、リフト本体13より高位で補強部材6を水平前後方向に移動させることができる。
また本実施形態によれば、ガイドレール16は、リフト本体13の上昇時にリフト本体13を接続部5に誘導することにより、リフト本体13の上昇安定性を確保することができる。
【0047】
また本実施形態によれば、揚重運搬装置1は、チェーン12を介してリフト本体13を上昇させるチェーン駆動装置(上昇用モータ21及びチェーン伝動機構(駆動スプロケット22及びスプロケット23))を含んで構成されるので、比較的簡易な構成で、リフト本体13を上昇・下降させることができる。
また本実施形態によれば、チェーン12は、その他端がリフト本体用架台14を介して地面2に固定される。これにより、リフト本体13は、その水平左右方向及び水平前後方向の移動が、ブラケット11及び地面2に固定されたチェーン12により制限されるので、リフト本体13は安定して上昇・下降することができる。
【0048】
図8は、本発明の第2の実施形態における揚重運搬装置1の概略構成を示す。
図1〜図7に示した第1の実施形態と異なる点について説明する。
線状部材であるワイヤロープ51は、その上端がブラケット11に固定される一方、下端が、リフト本体13に備えられた巻上げウインチ52に固定されている。
そして、巻上げウインチ52がワイヤロープ51を巻き上げることにより、リフト本体13が上昇する。ここで、巻上げウインチ52の駆動用モータ(図示せず)は、図示しない電力ケーブル及び通信ケーブルを介して、地面2上の制御盤(図示せず)に接続されている。また、巻上げウインチ52により、本発明における上昇装置の機能が実現される。
【0049】
特に本実施形態によれば、揚重運搬装置1は、ワイヤロープ51を巻き上げてリフト本体13を上昇させる巻上げウインチ52を含んで構成されるので、比較的簡易な構成で、リフト本体13を上昇・下降させることができる。
【0050】
尚、上述の第1及び第2の実施形態では、本発明における「クレーン作業が制約を受ける建築構造物の壁面」の一例として、橋脚(柱状・壁状構造物)3と橋桁(天井構造物)4との接続部5の下方における橋脚3の壁面を挙げて説明したが、「クレーン作業が制約を受ける建築構造物の壁面」はこれに限らず、この他、「クレーン作業が制約を受ける建築構造物の壁面」として、以下の壁面を挙げることができる。
(1)構造物屋内の壁面
(2)トンネル、地下道、又は地下空間の壁面
(3)クレーンで部材の引き込みが困難な箇所にある建築構造物の壁面
これらの壁面についても、上述の揚重運搬装置1を設置することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 揚重運搬装置
2 地面
3 橋脚
4 橋体
4a 橋桁
4b 床版
5 接続部
6 補強部材
6a 第1部材
6b 第2部材
11 ブラケット
12 チェーン
13 リフト本体
14 リフト本体用架台
15 上側ビーム
16 ガイドレール
17 中央ビーム
17a 車輪
18,19 間隔保持用ビーム
20 筐体
21 上昇用モータ
22 駆動スプロケット
23 スプロケット
24,25 リフトローラ
26 台状部材
27 荷台
27a 基部
27b 支持部
28 摺動装置
30 駆動用モータ
31 駆動スプロケット
32,33 スプロケット
34 チェーン
35 摺動ガイド機構
36 ローラ
37 低摩擦材
41,42 アンカーボルト
51 ワイヤロープ
52 巻上げウインチ
60 貫通孔
61 接触面
62,63 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材を、クレーン作業が制約を受ける建築構造物の壁面に沿って揚重して前記壁面の所定箇所まで水平移動させる装置であって、
前記所定箇所近傍の前記壁面に取り付けられるブラケットと、
前記部材が搭載されるリフト本体と、
一端が前記ブラケットに固定されて、前記リフト本体を吊下支持する線状部材と、
前記リフト本体に備えられ、かつ、前記リフト本体を、前記線状部材を介して、前記所定箇所の高さまで上昇させる上昇装置と、を含んで構成され、
前記リフト本体は、前記部材を前記壁面に対して近接・離間する方向である水平前後方向に移動可能なスライド装置を備え、
前記ブラケットは、前記部材の水平前後方向移動時における前記リフト本体の水平前後方向の移動を制限するストッパ機構を備える、揚重運搬装置。
【請求項2】
前記スライド装置は、前記部材が載置され、かつ、前記リフト本体に対してその上面を水平前後方向に摺動可能な荷台を含んで構成される、請求項1に記載の揚重運搬装置。
【請求項3】
前記ストッパ機構は、前記リフト本体の上昇時に前記リフト本体を前記所定箇所に誘導するガイドレールである、請求項1又は請求項2に記載の揚重運搬装置。
【請求項4】
前記建築構造物の地盤に設置され、かつ、前記リフト本体が載置されるリフト本体用架台を更に含んで構成され、
前記線状部材は、その他端が前記リフト本体用架台を介して前記地盤に固定される、請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の揚重運搬装置。
【請求項5】
前記線状部材は、その他端が、前記建築構造物の地盤に固定されるチェーンであり、前記上昇装置は、前記チェーンを介して前記リフト本体を上昇させるチェーン駆動装置である、請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の揚重運搬装置。
【請求項6】
前記線状部材は、その他端が前記上昇装置に固定されるワイヤロープであり、前記上昇装置は、前記ワイヤロープを巻き上げて前記リフト本体を上昇させる巻上げウインチである、請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の揚重運搬装置。
【請求項7】
前記建築構造物は橋脚であり、前記部材は、前記橋脚の橋桁支承部を補強する補強部材である、請求項1〜請求項6のいずれか1つに記載の揚重運搬装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−136321(P2012−136321A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289305(P2010−289305)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】