説明

揮発性化合物用処理装置

【課題】 光酸化触媒に紫外線を十分に照射することができ、効率よくガス中に含まれる揮発性化合物の酸化分解を行うことができる揮発性化合物用処理装置を提供する。
【解決手段】 両端が閉塞されると共に前記両端にそれぞれガス供給口9とガス排出口11を形成した筒状の容器主体3と、前記容器主体の内部にその中心軸に対して垂直に張設した光酸化触媒を担持したナノファイバー不織布7と、前記容器主体の内部にその中心軸と平行又は中心軸に垂直に挿入されたUVランプ5とからなる揮発性化合物用処理装置。ナノファイバー不織布7としては、ポリエチレンテレフタレートからなる不織布の表面に、繊維径200〜400nmのポリアクリロニトリル極細繊維を吹き付け形成したものが使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光酸化触媒により被処理ガスに含まれる揮発性化合物の酸化分解処理を行う揮発性化合物用処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
引火性や毒性を有する揮発性化合物は、PRTR(有害物質排出及び移動に関する登録制度)において、タンク類への貯蔵、タンカー等で輸送することが義務づけられている。また、国内法においても危険物等として位置づけられ、様々な規制が課せられている。
【0003】
揮発性化合物の中でも、有機塩素系化合物は半導体等の工業製品の洗浄等に広く用いられている。近年、工場跡地からトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の有機塩素系化合物が高濃度で検出され、社会的に問題となっており、土壌や地下水に漏洩した有機塩素系化合物を除去する方法の開発が望まれている。
【0004】
汚染された土壌や地下水からは、真空抽出または曝気により有機塩素系化合物を気体として取り出すことができる。有機塩素系ガスを処理する方法としては、活性炭に有機塩素系化合物を吸着させて除去する方法、光酸化触媒を担持した活性炭素繊維に紫外線を照射して酸化分解処理する方法が従来用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
活性炭を使用して吸着除去する方法は、有機塩素系化合物が吸着した活性炭を再生して再使用する必要があるため、装置が大がかりになり、コスト面において望ましい方法ではない。
【0006】
一方、光酸化触媒を用いる方法は、有機塩素系化合物等の揮発性化合物自体が酸化分解されて無毒化され、光酸化触媒を担持させた活性炭素繊維を半永久的に使用できる。特許文献1には、活性炭素繊維の細孔構造は粒状活性炭に比較して構造が単純で、繊維状の細孔となっているため、細孔には深部にまで紫外線が到達すると記載されている。しかしながら、活性炭素繊維を光酸化触媒の担体として使用した場合、細孔の深部まで紫外線が到達するとしても、細孔の内部に存在する光酸化触媒に対する紫外線照射は例えば平面状の担体に担持させた場合と比較して不十分となり、効率よく酸化分解処理することは難しい。
【特許文献1】特開2000−7586号公報(特許請求の範囲、及び段落番号(0011))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、光酸化触媒反応を利用した揮発性化合物用処理装置であって、光酸化触媒に紫外線を十分に照射することができ、効率よく被処理ガス中に含まれる揮発性化合物の酸化分解処理を行うことができる揮発性化合物用処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意研究の結果、従来使用されている活性炭素繊維や活性炭等に代えて、ナノファイバー不織布を光酸化触媒の担体に使用することにより、高い処理効率で揮発性化合物の酸化分解処理を行う処理装置が得られることを見出し本発明を完成するに到った。
【0009】
〔1〕 両端が閉塞されると共に前記両端にそれぞれガス供給口とガス排出口を形成した筒状の容器主体と、前記容器主体の内部にその中心軸に対して垂直に張設した光酸化触媒を担持した少なくとも1枚のナノファイバー不織布と、前記容器主体の内部にその中心軸と平行又は中心軸に垂直に挿入されたUVランプとからなる揮発性化合物用処理装置。
【0010】
〔2〕 両端が閉塞した筒状の容器主体であって、両端側周壁にそれぞれガス供給口とガス排出口を形成した容器主体と、前記容器主体の内部にその中心軸に対して垂直に張設した光酸化触媒を担持した少なくとも1枚のナノファイバー不織布と、前記容器主体の内部にその中心軸と平行又は中心軸に垂直に挿入されたUVランプとからなる揮発性化合物用処理装置。
【0011】
〔3〕 容器主体が角筒状又は円筒状である〔1〕又は〔2〕に記載の揮発性化合物用処理装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の処理装置は、光酸化触媒を担持する担体として、比表面積が大きく、UV照射効率が高いナノファイバー不織布を使用しているので、多量の光酸化触媒を担持させて効率よく被処理ガス中に含まれる揮発性化合物の酸化分解処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の揮発性化合物用処理装置の一例の平面断面図を図1に、側面断面図を図2に示す。
【0014】
処理装置1において、3は両端が閉塞した角筒状の容器主体である。容器主体3には、その中心軸と垂直に1本以上(本図においては4本)のUVランプ5が側壁13と当該側壁13の対向側壁15を貫通して挿入されている。更に、容器主体3の内部にはその中心軸に対して垂直にかつUVランプ5と交互に1枚以上(本図においては5枚)のナノファイバー不織布7が張設されている。
【0015】
容器主体3の両端の閉塞壁17、19には中心軸に沿って開口部が設けられ、それぞれガス供給口9とガス排出口11を形成する。ガス供給口9から容器主体3の内部に導入された被処理ガスは、容器主体3内を通過するうちに、光酸化触媒が担持した多数のナノファイバー不織布7を通過する。ナノファイバー不織布7を通過する際に、被処理ガス中に含まれる揮発性化合物が酸化分解され、被処理ガスから揮発性化合物が除去される。揮発性化合物が酸化分解された処理済ガスは、ガス排出口11から外部へ排出される。
【0016】
処理装置1においては、容器主体3内に導入された被処理ガスは、ガス供給口9からガス排出口11に向かって容器主体3の中心軸と平行に移動する。ガスの流れる方向に対してナノファイバー不織布7は垂直に張設されているので、ガスの流れ方向に対して平行に張設した場合に比較して、ガス中に含まれる揮発性化合物と光酸化触媒粒子とが接触する確率が高くなり処理効率が向上する。
【0017】
なお、図1及び2においては容器主体3の閉塞した両端に開口部を設けてガス供給口9とガス排出口11を形成したが、本発明においてはいずれか一端又は両端が開放した筒状の容器主体を用いて、開放した一端又は両端をそのままガス供給口9又はガス排出口11としてもよい。
【0018】
本発明において、ナノファイバー不織布7は、木綿、麻などの天然繊維;ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維などの無機繊維;ポリアミド繊維、ポリエステル、芳香族ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリアクリロニトリル繊維などの合成繊維等からなる繊維径が1〜1000 nm、好ましくは1〜500 nm、より好ましくは200〜400 nmの極細繊維で形成される不織布であれば使用が可能である。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる不織布の表面に、ポリアクリロニトリル(PAN)の極細繊維を吹き付けたものが周知となっている。このように、ナノファイバー不織布は、通常補強用の繊維径1〜200μm程度の繊維からなる不織布上に形成された極細繊維からなる不織布である。本発明においては、目付0.01〜300g/m2の補強用不織布上に形成された目付0.01〜20g/m2のナノファイバー不織布を使用することが好ましい。
【0019】
ナノファイバー不織布7に担持させる光酸化触媒としては、酸化チタンが使用できる。酸化チタンの平均粒径は、4〜30nmが好ましい。酸化チタンの結晶系としては、アナターゼ、ルチル、ブルッカイト等がいずれも使用できる。
【0020】
光酸化触媒として使用する酸化チタンは、市販品としても入手できる。市販品としては、例えばパルチタン3607(日本パーカライジング社製)等を挙げることができる。
【0021】
ナノファイバー不織布7への触媒担持方法としては、公知のコーティング法、トッピング法、ディッピング法、ラミネート法、グラビア法等を使用することができる。
【0022】
ナノファイバー不織布における光酸化触媒の担持量としては、補強用不織布と併せた担持量(両面にナノファイバー不織布を形成)で5〜20g/m2とすることが好ましく、10〜20g/m2とすることがより好ましい。なお、補強用不織布のみに光酸化触媒を担持させた場合には、担持量が最大で5〜7g/m2程度である。このことから、表面にナノファイバー不織布を形成した場合には、補強用不織布単独の場合に比較して多くの光酸化触媒を担持させることが可能であることがわかる。
【0023】
紫外線の照射量は、ナノファイバー不織布の単位面積あたり1.0mW/cm2以上とすることが好ましく、2.5〜4.5mW/cm2とすることがより好ましい。
【0024】
本発明の処理装置は、25℃で0.4〜70kPa程度の蒸気圧を示す揮発性の化合物であれば酸化分解することが可能である。本発明の処理装置で酸化分解できる化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、フェノール、テトラヒドロフラン、ヒドラジン、メチルアルコール、メチルエチルケトン、アセトン、アセトアルデヒド、エチレンオキサイド、エチレングリコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、アクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、エピクロロヒドリン、クロロメタン、cis−1,2−ジクロロエチレン、trans−1,2−ジクロロエチレン、ジクロロベンゼン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ブロモメタン、アンモニア等を挙げることができる。
【0025】
被処理ガスの流量としては、被処理ガスに含まれる揮発性化合物の量によっても異なるが、揮発性化合物の含有量が一般的な1000〜3000mg/m3程度である場合には、33.3〜100L/m2・minとすることが好ましい。
【0026】
本発明の処理装置の他の例を示す正面断面図を図3に、側面図を図4に示す。
【0027】
図3及び4中、20は処理装置で、22は円筒状容器主体である。容器主体22の周壁32の両端側には中心軸に垂直に開口部が設けられ、それぞれガス供給口28、ガス排出口30を形成している。図4に示すように、ガス供給口28とガス排出口30は、容器主体22の中心軸に対して180°違えた位置となっている。容器主体22内には、その中心軸に沿って閉塞壁34、36を貫通してUVランプ24が挿入されている。更に、容器主体22内には、少なくとも1枚以上(本図においては5枚)の円盤状のナノファイバー不織布26がその中心軸に対して垂直に張設されている。UVランプ24は、容器主体22の一端から他端まで5枚のナノファイバー不織布26を貫通して挿入されている。ナノファイバー不織布26には光酸化触媒が担持され、UVランプ24はナノファイバー不織布26を紫外線で照射する。
【0028】
ガス供給口28から容器主体22の内部に導入された被処理ガスは、容器主体22内を通過するうちに、ナノファイバー不織布26の表面に担持された光酸化触媒と接触し、被処理ガスに含まれる揮発性化合物が酸化分解処理される。揮発性化合物が酸化分解された処理済ガスは、ガス排出口30から容器主体22の外部へ排出される。
【0029】
なお、図3及び図4に示す処理装置20は、容器主体22の中心軸に沿って1本のUVランプ24を挿入しているが、UVランプは容器主体22の中心軸に平行に2本以上を挿入してもよい。
【実施例】
【0030】
実施例1
図1、2に示す処理装置を用い、下記に示す条件で揮発性化合物含有ガスの酸化分解処理を行った。
(1)ナノファイバー不織布:PET不織布(繊維径80〜200μm、目付7g/m2)にPAN繊維の層(繊維径200nm、目付2g/m2)を形成したものを使用した。
(2)光酸化触媒:パルチタン3607(日本パーカライジング社製、平均粒径 10〜15nm)、
(3)光酸化触媒の担持量:0.83g/m2
(4)被処理ガス:トリクロロエチレン濃度約2000ppm
(5)ガス供給量:33.3L/m2・min
(6)紫外線照射量:2.5mW/cm2
【0031】
比較例1
実施例1のナノファイバー不織布に代えて、PET不織布のみ(光酸化触媒担持量0.30g/m2)を使用した以外は、実施例1と同様にガス中に含まれる揮発性化合物の酸化分解処理を行った。
【0032】
なお、PET不織布への光酸化触媒の担持方法は、実施例1で使用したナノファイバー不織布への担持方法と同じ方法(コーティング法)を使用した。触媒を含有するコーティング溶液をPET不織布に2回重ね塗りした場合には触媒の担持量を0.56g/m2とすることが可能であったが、重ね塗りした場合には触媒の上に更に触媒を塗布する可能性が高くなり、担持量が増加しても実質的に化合物の分解・除去に寄与する触媒の量が少なくなるため、比較例1においては担持量が0.30g/m2の不織布を使用した。
【0033】
実施例1、比較例1において処理装置から排出される処理済ガスをサンプリングし、ガス中のトリクロロエチレン含有量を測定した。実施例1、比較例1におけるトリクロロエチレン除去率の経時変化を図5に示す。
【0034】
実施例2
図1、2に示す処理装置を用い、下記に示す条件で揮発性化合物含有ガスの酸化分解処理を行った。
(1)ナノファイバー不織布:PET不織布(繊維径80〜200μm、目付7g/m2)にPAN繊維の層(繊維径200nm、目付2g/m2)を形成したものを使用した。
(2)光酸化触媒:パルチタン3607(日本パーカライジング社製、平均粒径 10〜15nm)、
(3)光酸化触媒の担持量:0.83g/m2
(4)被処理ガス:アンモニア濃度約430ppm
(5)ガス供給量:0.5L/m2・min
(6)紫外線照射量:2.5mW/cm2
実施例2において処理装置から排出される処理済ガスをサンプリングし、ガス中のアンモニア含有量を測定した。アンモニア除去率の経時変化を図6に示す。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の揮発性化合物用処理装置の一例を示す平面断面図である。
【図2】図1に示す処理装置の側面断面図である。
【図3】本発明の揮発性化合物用処理装置の他の例を示す正面断面図である。
【図4】図3に示す処理装置の側面図である。
【図5】実施例1及び比較例1において測定したトリクロロエチレン除去率の経時変化を示すグラフである。
【図6】実施例2において測定したアンモニア除去率の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
1、20 処理装置
3、22 容器主体
5、24 UVランプ
7、26 ナノファイバー不織布
9、28 ガス供給口
11、30 ガス排出口
13、15 側壁
17、19、34、36 閉塞壁
32 周壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が閉塞されると共に前記両端にそれぞれガス供給口とガス排出口を形成した筒状の容器主体と、前記容器主体の内部にその中心軸に対して垂直に張設した光酸化触媒を担持した少なくとも1枚のナノファイバー不織布と、前記容器主体の内部にその中心軸と平行又は中心軸に垂直に挿入されたUVランプとからなる揮発性化合物用処理装置。
【請求項2】
両端が閉塞した筒状の容器主体であって、両端側周壁にそれぞれガス供給口とガス排出口を形成した容器主体と、前記容器主体の内部にその中心軸に対して垂直に張設した光酸化触媒を担持した少なくとも1枚のナノファイバー不織布と、前記容器主体の内部にその中心軸と平行又は中心軸に垂直に挿入されたUVランプとからなる揮発性化合物用処理装置。
【請求項3】
容器主体が角筒状又は円筒状である請求項1又は2に記載の揮発性化合物用処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−7074(P2006−7074A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186834(P2004−186834)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000221812)東邦化工建設株式会社 (8)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】