説明

揮発性有機化合物吸着材とその製造方法、並びに樹皮又はその成型体の利用方法

【課題】樹皮又はその成型体を有効利用した、揮発性有機化合物を効果的に吸着する揮発性有機化合物吸着材とその製造方法、並びに樹皮又はその成型体の利用方法を提供する。
【解決手段】樹皮又はその成型体を炭化及び賦活処理した炭化材料からなることとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物吸着材とその製造方法、並びに樹皮又はその成型体の利用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染防止法が改正され、塗装工場や印刷工場などから排出される揮発性有機化合物(VOC)の排出規制が導入された。VOCを排出する各工場施設には、VOC処理装置の整備がより重要性を増し、さらにより安価で高性能な処理装置やVOC吸着材の開発が進められている。
【0003】
ところで、木質バイオマスによる熱生産の一環としてペレットストーブの普及が図られており、燃料には木部あるいは樹皮をペレットに成型した木質ペレットが使用されている。この木質ペレットには、主に樹皮を用いたバークペレットと樹皮を除いた木部を用いたペレットホワイトペレットとがある。このうちバークペレットについては、発熱量が低く、また発煙量が多いという問題があり、係る問題を解消するために様々な検討がされている(例えば、特許文献1及び2)。しかしながら、特許文献1及び2に記載の活性炭は、カーボン粉末や人口黒鉛等を別途添加する必要があり、また発熱量が低い、発煙量が多いという問題はいまだ解消されておらず、燃料としての利用が十分には進んでいない。したがって、例えば杉材の伐採により廃棄される樹皮やその樹皮から製造されるバークペレット等の成型体が大量に発生するが、現時点において、その有効な利用については、依然として十分に検討されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−128575号公報
【特許文献2】特開2006−306925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のとおりの背景から、従来の問題点を解消し、樹皮又はその成型体を有効利用できる新しい技術手段として、揮発性有機化合物を効果的に吸着する揮発性有機化合物吸着材とその製造方法、並びに樹皮又はその成型体の利用方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のことを特徴としている。
【0007】
第1には、樹皮又はその成型体を炭化及び賦活処理した炭化材料からなることを特徴とする。
【0008】
第2には、第1の発明において、樹皮又はその成型体が、針葉樹の樹皮廃棄物由来であることを特徴とする。
【0009】
第3には、第1又は第2の発明において、針葉樹が杉であることを特徴とする。
【0010】
第4には、第1から第3のいずれかの発明において、炭化材料の比表面積が400m/g以上であることを特徴とする。
【0011】
第5には、第1から第4のいずれかの発明において、炭化材料の表面が、酸の洗浄によって疎水化されていることを特徴とする。
【0012】
第6には、揮発性有機化合物吸着材の製造方法の発明として、少なくとも、下記の工程を含むことを特徴とする。
【0013】
(1)700℃から900℃の範囲で樹皮又はその成型体を加熱して炭化処理する工程
(2)炭化処理した樹皮又はその成型体を窒素と二酸化炭素の混合ガス雰囲気下もしくは空気雰囲気下で800℃から1200℃の範囲で加熱して賦活処理する工程
第7には、第6の発明において、炭化処理は窒素ガス雰囲気下で行うことを特徴とする。
【0014】
第8には、第6又は第7の発明において、前記(2)の賦活処理工程の後、さらに酸で洗浄する工程を含むことを特徴とする。
【0015】
第9には、樹皮又はその成型体の利用方法として、樹皮又はその成型体を炭化及び賦活処理して炭化材料とし、これを揮発性有機化合物の吸着材として利用することを特徴とする。
【0016】
第10には、第9の発明において、炭化材料が、賦活処理した後、さらに酸で洗浄したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記発明によれば、従来では有効利用が困難であった樹皮又はその樹皮から製造されるバークペレット等の成型体を活用して、揮発性有機化合物を効率よく吸着させることができる。特に揮発性有機化合物吸着材の製造に際して、賦活処理後に酸洗浄することにより、揮発性有機化合物であるトルエンやキシレン等の疎水性物質の吸着性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】バークペレットから調製した炭化材料の収率と比表面積の関係を示した図である。
【図2】バークペレットから調製した炭化材料の窒素吸脱着等温線からMP法により求めたミクロ孔分布である。
【図3】バークペレットから調製した炭化材料のトルエンの吸着等温線を示した図である。
【図4】塩酸濃度を変えて酸(塩酸)洗浄した炭化材料の比表面積を測定した結果である。
【図5】実施例2においてバークペレットから調製した炭化材料の窒素吸着等温線を示した図である。
【図6】実施例2においてバークペレットから調製した炭化材料のトルエンの吸着等温線を示した図である。
【図7】実施例2における酸処理前の炭化材料のXPS分析結果である。
【図8】実施例2における酸処理後の炭化材料のXPS分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の揮発性有機化合物吸着材は、樹皮又はその成型体を炭化及び賦活処理した炭化材料からなるものである。
【0020】
樹皮は、針葉樹、広葉樹問わないが、資源の有効活用の観点から市場に豊富な杉の樹皮廃棄物を用いることができる。このような樹皮廃棄物は、森林の育成の中で伐採される間伐材等から生じるものである。また、本発明では前記樹皮を粉々に粉砕しこれを圧縮した成型体、例えば直径5〜10mm、長さ10〜25mmの円筒形に成型した木質ペレットであってもよい。このような樹皮を主原料とした木質ペレットは一般的にバークペレットと呼ばれており、市販されている。これに対して樹皮を除いた木部を主原料とした木質ペレットはホワイトペレットと呼ばれ、ペレットストーブの燃料として好適とされている。バークペレットはホワイトペレットに比べて一般的に発熱量が低く発煙量が多いことから、燃料としての利用が進んでいない。
【0021】
本発明者等は樹皮又はその樹皮から製造されるバークペレット等の成型体がトルエン、キシレン、酢酸エチル等の揮発性有機化合物(以下、「VOC」ともいう)を効果的に吸着し得る吸着材として有効に活用できることを見出した。本発明はこのような発明者等の新規な知見に基づいてなされている。
【0022】
なお、以下の実施形態では揮発性有機化合物吸着材の原料としてバークペレットを用いた例を説明するが、本発明において適用される揮発性有機化合物吸着材の原料はこれに限定されるものではく、樹皮そのものやその粉砕品であってもよいし、樹皮から製造される各種の成型体を適用することができる。
【0023】
本実施形態において、バークペレットの炭化及び賦活処理は、下記の炭化処理工程、賦活処理工程を経てなされる。
【0024】
まず、炭化処理工程では、上記バークペレットを炉内に設置し、これを700℃から900℃の範囲の所定温度で加熱して炭化させる。これにより多孔質の炭化材料を得る。700℃未満では炭化が十分に進行せず、逆に900℃を超えると炭化が進行しすぎて、VOC吸着のための十分な比表面積を確保することができない。このような所定温度での保持時間は、炭化処理温度によって異なるが、例えば1時間から3時間の範囲とし、バークペレットの炭化の進行に応じて適宜に設定する。本炭化処理工程では、例えば、窒素ガスを炉内に200ml/minで導入して炉内の酸素を置換した後、バークペレットの炭化処理を行うようにしてもよい。
【0025】
次に賦活処理工程について説明する。この工程では、炭化処理したバークペレットを窒素と二酸化炭素の混合ガス雰囲気下で800℃から1200℃の範囲の所定温度で加熱する。これにより、細孔構造が発達して炭化材料の比表面積が増大する。800℃未満では炭化材料における孔の形成が不十分であり、1200℃を超えると炭化が進行しすぎて、VOC吸着のための十分な比表面積を確保することができない。このような所定温度での保持時間は、賦活処理温度によって異なるが、例えば1時間から2時間の範囲とし、炭化材料の孔の形成度合いや比表面積等に応じて適宜に設定するできる。賦活処理時間が長ければ長いほど、炭化材料の細孔直径が1nm以下のミクロ孔が発達してミクロ孔容積が増加する傾向にある。本賦活処理工程では、窒素と二酸化炭素の混合ガス雰囲気下で処理しているが、この混合ガスの比率(窒素ガス/二酸化炭素ガス)は、例えば、体積比で1/5〜5/1程度、好ましくは1/3〜3/1とすることができる。また、この賦活処理は空気を導入して賦活する方法(空気賦活法)により行ってもよい。
【0026】
以上のようにして炭化及び賦活処理して製造した多孔質の炭化材料の比表面積は、BET法による比表面積で400m/g以上であり、より具体的には500〜700m/g、特に600〜700m/gである。なお、従来より知られているヤシガラ等を原料とするVOC吸着用活性炭の比表面積は1000m/g程度であり、本発明における炭化材料の比表面積の下限値は従来品よりも小さくなっている。
【0027】
本実施形態では、揮発性有機化合物であるトルエンやキシレン等の疎水性物質の吸着性能を向上させるために、炭化及び賦活処理して製造した炭化材料を酸で洗浄する(以下、酸処理ともいう)ことが望ましい(酸洗浄工程)。酸処理を施すと、炭化材料表面の酸素量が減少するとともに、炭化材料表面に親水性金属酸化物(灰分)として存在するCa(カルシウム)、Si(ケイ素)、Mg(マグネシウム)、P(リン)等の酸化物が除去される。炭化材料表面に存在する酸素は、一般的にはOH基、カルボニル基、カルボキシル基等の含酸素官能基として存在しており、これが水素結合等により水と容易に結合して親水性を示すと考えられる。このため、本実施形態のように酸処理を施すと炭化材料表面の含酸素官能基が減少し、また親水性金属酸化物(灰分)が除去されることによる効果をも併せると、炭化材料表面がより疎水化してトルエンやキシレン等の疎水性物質の吸着性能が向上する。
【0028】
炭化材料の酸による洗浄は、例えば、0.2〜2.0mol/Lの濃度に調製された塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等の酸水溶液と炭化材料をビーカー等の容器に供給して、酸水溶液中に炭化材料を1時間〜24時間浸漬する、もしくはマグネチックスターラー等の攪拌手段を用いて1時間〜24時間程度攪拌することにより行う。酸で洗浄した後は、水洗又は湯洗し、次いで乾燥機で105〜115℃程度の温度で十分に乾燥させる。このような酸による洗浄は、複数種の酸を用いて行ってもよい。例えば、塩酸で洗浄後にフッ酸を用いて再度洗浄するようにしていもよい。また酸による洗浄工程を複数回繰り返して行ってもよい。
【0029】
ところで本実施形態では、樹皮を主原料とするベークペレットを用いているが、樹皮あるいはこのバークペレットの特徴の一つとして木部を主原料とするホワイトペレットに比べて灰分を多く含有していることが挙げられる。灰分の構成成分は、例えばCa(カルシウム)、Si(ケイ素)、Fe(鉄)、K(カリウム)等である。このような構成成分からなる灰分の組成は、樹皮の産地により土壌中の無機成分構成に依存するものであり、一般的にはCa成分が灰分全体の5割以上を占めている。灰分は本実施形態における炭化材料の吸着能を妨げる要因の一つになっているため、VOC吸着能向上の観点から、本実施形態では、上記バークペレットを炭化及び賦活処理して製造した炭化材料中の灰分の比率が、炭化材料全体に対して重量比で例えば12%以下に調製されることが考慮される。炭化材料中の灰分の比率が低いほど吸着材としての吸着能が向上するため、好ましくは8%以下、さらには3%以下とすることが考慮される。炭化材料中の灰分の比率の下限値は好ましくは、0である。このような炭化材料中の灰分の含有量の調製は、例えば、上記酸洗浄工程における酸の洗浄によってなされる。特に灰分全体の5割以上を占めるCa成分やSi成分を溶解除去するために、酸としてフッ酸を用いることが好適である。酸洗浄を行うと、酸洗浄前に比べて比表面積が増加する傾向にあり、例えば最大で50%程度、具体的には35〜45%程度増加する傾向にあり、VOCの吸着に効果的である。
【0030】
このように本実施形態の酸洗浄工程では、炭化材料表面の酸素量の減少と親水性金属酸化物(灰分)の除去によって疎水化し、さらに比表面積が増加するため、VOCの吸着能の向上がより簡易な方法で実現できる。
【0031】
このようにして製造された炭化材料は、VOCの吸着に有効な揮発性有機化合物吸着材として、例えば粉末状で使用されてもよいし、使用形態に応じて板状体や筒状体等、任意の形状に成型して使用される。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
<1> 炭化材料の調製
バークペレット(協同組合西川地域木質資源活用センター製、気乾含水率12.7%)50gを、活性炭製造炉((有)マツキ科学製)内に投入した。次いで、窒素を炉内に200ml/minで流し、炉内の酸素を置換した。その後、温度制御プログラムを用いて、昇温速度8℃/minで室温から800℃まで加熱し、800℃を2時間保持して炭化を行った。さらに、昇温速度10℃/minで1050℃まで加熱した後、窒素200ml/min、二酸化炭素300ml/minに混合した混合ガスを炉内に導入して賦活処理を60、90、120分間でそれぞれ行い、炭化材料(以下、「BPC」ともいう)を得た。賦活後は放置して炉内の温度が室温まで低下してから、BPCを取り出した。取り出したBPCを蒸留水で水洗した後、105℃の乾燥機に入れて十分乾燥させ、次いで秤量して、原料であるバークペレットに対するBPCの収率(%)を算出した。なお、BPCの収率は下記式で算出した。
【0033】
収率(%)=(BPCの質量)/(バークペレットの質量)×100
<2> BPCの細孔分布及び比表面積測定
BPCを粉砕して前処理(減圧乾燥)で十分に表面を清浄にした。その後、液体窒素温度(77K)での窒素吸脱着等温線を、BELSORP18 Plus−T(日本ベル(株)製)を用いて容量法(吸着平衡圧力測定)で測定した。細孔径分布と比表面積は、解析ソフトBELSORP WINDOWS(登録商標)(日本ベル(株)製)を用いて算出した。なお、細孔構造などを比較するために、標準活性炭(和光純薬製粉末活性炭)も同様に測定した。また、塗装工場等から排出される代表的なVOCであるトルエンの吸着等温線図(25℃)を測定した。
<3> BPCの無機成分分析
BPCの原料として用いたバークペレットをるつぼに量り取り、電気炉内で室温から700℃に昇温し、1〜3時間保持して灰化した。灰化した試料を円盤状にプレス成形し、蛍光X線分析装置(理学電機工業(株)製RIX−3000)を用い、ファンダメンタル・パラメーター法によるオーダー分析を行った。スギ樹皮(東京都奥多摩産のスギ樹皮、気乾含水率16.7%)についても同様に灰化してオーダー分析を行った。
<4> 酸洗浄後の比表面積と灰分量の測定
塩酸濃度0.5mol/L、1.0mol/L、1.5mol/Lの各水溶液中でBPC(賦活処理時間が60分のもの)を攪拌した。次いで、BPCを塩酸水溶液から取り出して水洗し乾燥機で十分に乾燥して、比表面積と灰分量を測定した。なお、灰分量は塩酸濃度1.5mol/Lの水溶液で洗浄したもののみを測定した。
<5> BPCの評価結果
(1) 収率と比表面積
BPCの収率と比表面積の関係を図1に示す。収率が低下すると、比表面積が増加した。収率が6.3%の場合、比表面積は最も大きく685m/gを示した。標準活性炭の比表面積が約1000m/gであることから、比表面積で比較するとBPCは標準活性炭の7割程度の比表面積を有していることがわかった。
【0034】
また、各BPCの灰分量を測定(JIS K 1474 強熱残分(活性炭試験方法)に準拠)したところ12〜26%程度の範囲となり、各BPC間でばらつきがみられた。これは原料として用いたバークペレットが樹皮廃棄物由来であり、樹皮の産地によってバークペレット中の灰分量が異なるためと思われる。
(2) BPCの細孔構造
賦活処理時間(60分、90分、120分)別に調製したBPCの窒素吸脱着等温線からMP法により求めたミクロ孔分布をそれぞれ図2に示す。細孔直径1nm以下のミクロ孔が賦活処理によって発達し、賦活時間が60分から120分へ増加すると、ミクロ孔容積も増加しているのが確認された。
【0035】
また、BPCと標準活性炭(和光純薬製粉末活性炭)の各特性値を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より、BPCのメソ孔体積(cm/g)は標準活性炭と比べて大きいことが確認された。他方、BPCのマイクロ孔体積(cm/g)は標準活性炭よりも小さくなっていることが確認された。
(3) BPCのトルエン吸着特性
賦活処理時間(60分、90分、120分)別に調製したBPCにおける塗装工場等から排出される代表的なVOCであるトルエンの吸着等温線をそれぞれ図3に示す。賦活時間によって吸着等温線の形が異なっており、賦活時間が長くなると炭化材料単位質量当たりのトルエン平衡吸着量は多くなった。相対圧(P/P)=0.3(低濃度領域での吸着)におけるトルエン吸着量から前記標準活性炭とBPCのトルエン吸着量を比較したところ、BPCは標準活性炭の7割以上のトルエン吸着量があることがわかった。また、相対圧(P/P)=0.8(高濃度領域での吸着)におけるトルエン吸着量から標準活性炭とBPCのトルエン吸着量を比較したところ、BPCは標準活性炭と同等のトルエン吸着量があり、VOC吸着材として有効に活用できることが確認された。
(4)灰分の元素分析
BPCの原料として用いたバークペレットの灰分の元素分析結果を表2に示し、スギ樹皮(東京都奥多摩産のスギ樹皮、気乾含水率16.7%)の灰分の元素分析結果を表3に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
表2、3より、バークペレットとスギ樹皮の元素構成が異なることがわかる。これは、樹皮の産地により土壌中の無機成分構成が異なることが原因であると推察される。
【0041】
両試料とも、灰分の構成成分としてCaが7割近くを占めていることがわかる。灰分は活性炭の吸着能を妨げる要因の一つであることを考慮すると、まず、7割近くを占めたこのCa成分を塩酸等の酸洗浄で効率よく除去することにより、高品質の炭化材料を得ることができる。
(5)酸洗浄後のBPCの比表面積と灰分量
図4は、塩酸濃度を変えて酸(塩酸)洗浄したBPCの比表面積を測定した結果である。
【0042】
図4より、酸洗浄により、比表面積が35〜45%程度増加していることがわかる。また、塩酸1.5mol/Lの水溶液で洗浄したBPCの灰分量を測定(JIS K 1474 強熱残分(活性炭試験方法)に準拠)したところ、11.8%であった。このため灰分量が12%以下に調製されていることが確認できた。
【0043】
また、酸洗浄後のBPCの炭化材料単位質量当たりのトルエン平衡吸着量は酸洗浄前のBPCよりも大きくなっていることが確認された。
<実施例2>
実施例1で用いたバークペレットを活性炭製造炉に投入し、窒素雰囲気下、700℃で2時間炭化処理を施した後、二酸化炭素400ml/minを導入して950℃で60分間、次いでAir200ml/minを導入して950℃で60分間賦活処理を施して炭化材料を得た。
【0044】
得られた炭化材料について下記の酸処理(酸洗浄処理)を施した。
約3gの炭化材料を36%HCl−15mLに室温下に浸漬し一昼夜放置後、濾過して炭化材料を水洗いした後に乾燥した。次いで46%HF−15mLに室温下に浸漬し一昼夜放置後、濾過して炭化材料を水洗いした後に乾燥した。このサイクルを3回繰り返した。
【0045】
酸処理(酸洗浄処理)前後の炭化材料について、実施例1と同様にして比表面積、灰分量、トルエン吸着量を測定した。その結果を表4に示し、炭化材料の窒素吸着等温線とトルエン吸着等温線をそれぞれ図5、図6に示す。なお、表4中のトルエン吸着量は、相対圧(P/P)=0.3におけるトルエン吸着量を示している。また図5、図6の凡例中の「ADS」は吸着のデータを示し、「DES」は脱着のデータを示す。
【0046】
【表4】

【0047】
以上の結果より、炭化材料に酸処理を施すことで比表面積が大きくなるとともに灰分量が少なくなり、トルエン吸着量が増大することが確認できた。
【0048】
また酸処理(酸洗浄処理)前後の炭化材料について、ESCA5600Ci(アルバックファイ製)(分析条件:X線源Al、電圧15V)を用いてXPS(X線光電子分光法)分析した結果を図7、図8に示す。
【0049】
この結果から、酸処理によって除去された灰分がCa,Si,Mg,Pなどの親水性金属酸化物(灰分)であることが確認できた。またこのXPS分析によって炭化材料表面の酸素量を定量したところ、酸処理前は0.12%、酸処理後は0.07%であり、酸処理によって酸素量が減少していることが確認できた。これらの結果から、酸処理によって親水性金属酸化物(灰分)の除去と炭化材料表面の酸素量の減少、すなわち疎水化が起きており、トルエンやキシレン等の疎水性物質の吸着に有効な処理であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹皮又はその成型体を炭化及び賦活処理した炭化材料からなることを特徴とする揮発性有機化合物吸着材。
【請求項2】
樹皮又はその成型体が、針葉樹の樹皮廃棄物由来であることを特徴とする請求項1に記載の揮発性有機化合物吸着材。
【請求項3】
針葉樹が、杉であることを特徴とする請求項1又は2に記載の揮発性有機化合物吸着材。
【請求項4】
炭化材料の比表面積が400m/g以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の揮発性有機化合物吸着材。
【請求項5】
炭化材料の表面が、酸の洗浄によって疎水化されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の揮発性有機化合物吸着材。
【請求項6】
少なくとも、下記の工程を含むことを特徴とする揮発性有機化合物吸着材の製造方法。
(1)700℃から900℃の範囲で樹皮又はその成型体を加熱して炭化処理する工程
(2)炭化処理した樹皮又はその成型体を窒素と二酸化炭素の混合ガス雰囲気下もしくは空気雰囲気下で800℃から1200℃の範囲で加熱して賦活処理する工程
【請求項7】
炭化処理は、窒素ガス雰囲気下で行うことを特徴とする請求項6に記載の揮発性有機化合物吸着材の製造方法。
【請求項8】
前記(2)の賦活処理工程の後、さらに酸で洗浄する工程を含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の揮発性有機化合物質吸着材の製造方法。
【請求項9】
樹皮又はその成型体を炭化及び賦活処理して炭化材料とし、これを揮発性有機化合物の吸着材として利用することを特徴とする樹皮又はその成型体の利用方法。
【請求項10】
炭化材料が、賦活処理した後、さらに酸で洗浄したものであることを特徴とする請求項9に記載の樹皮又はその成型体の利用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−226401(P2009−226401A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46676(P2009−46676)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【Fターム(参考)】