説明

揮発性茶化合物の回収方法

蒸気を濃縮する工程、水相から油相濃縮物を分離する工程、及び実質的に油を含まない水相を還流する工程を含む、分留によって水性茶抽出物を蒸留することによって水性茶抽出物から揮発性化合物を回収する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性茶抽出物から揮発性化合物を回収する方法に関する。本発明は、特に、希釈した水性茶濃縮物のストリーム及び他の廃棄物のストリームから、茶の揮発性化合物、例えば、香りを有する化合物を回収及び濃縮するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茶は、世界中で最も広く消費されている飲料の1つである。茶は、多くの形態、例えば、緑茶、紅茶、ホットインスタントティー、アイスティーなどにおいて得ることが可能である。
【0003】
緑茶は、新しく摘んだ葉を加熱処理(例えば、蒸気をあたえるか又は鉄鍋で煎る)ことで、酵素活性を停止させ、次いで、葉を一連の乾燥及び回転工程に供することによって一般的には調製される。
【0004】
紅茶は、新しい茶葉を萎れさせ、且つ、軟化させ、続いて紅茶に特徴的な色、味、及び香りに主に寄与する発酵を含む一連の加工条件に新しく摘んだ茶葉を供することによって一般的には調製される。発酵後に高温で葉を乾燥させ、酵素活性を停止させて、水分量を低レベルにする。
【0005】
緑茶及び紅茶は、湯中で茶の滲出液を作るために湯中で淹れた製品である。滲出液を消費する前に、茶葉の不溶物を濾す必要がある。ホットインスタントティーは、水に対する不溶物を含まない製品である。このホットインスタントティー製品は、湯に完全に可溶性であり、この可溶化された製品は、濾す必要なく、そのまま消費することが可能である。アイスティーは、茶の完全に水溶性である画分が、追加の香味を含めるか又は含めずに水に溶解されている茶から製造される製品であり、溶解された茶溶液は消費前に冷蔵庫で冷やされた状態に維持される。
【0006】
ホットインスタントティー及びアイスティーの調製方法は、文献に開示されている。その様な開示の1つは、参考文献「Tea - Cultivation to Consumption' edited by K. C. Wilson & M. N. Clifford & published by Chapman & Hall (1992)」において認められ得る。
【0007】
多数の茶製造方法は、香りを有する揮発性化合物を含む副産物のストリームを生じる。茶葉からの茶の製造方法では、香りを有する揮発性物質を含む乾燥器からの排気を冷やして、香りを有する揮発性化合物を含む水性濃縮物を得ることが可能である。インスタントティー製造方法における蒸発器の濃縮物のストリームも、香りを有する揮発性化合物を含む。しかしながら、これらの濃縮物のストリームの香りは、大抵の場合は非常に低いレベルで存在する。典型的には、前記濃縮物のストリームにおける香りを有する揮発性物質の濃度は、500mg/l未満、多くの場合50mg/l未満、10mg/lほど低い可能性がある。前記濃縮物のストリームにおける香りが薄いことによって、それらの香りを戻す供給源としての用途が制限されている。これらの濃縮物のストリームは、多くの場合において、非常に低い濃度のために利用されないか、又はそれらの使用は限定的である。多くの場合において、これらのストリームは廃棄すらされ、貴重な香りを有する化合物の喪失を引き起こしている。これは、これらの化合物を回収するための既知の方法が、技術的及び/又は経済的に実行可能でないか、或いは非常に非効率的であるためである。茶の香りは、茶の品質を決定するための最も重要な因子の1つである。したがって、良好な香りの特性を有する茶は、市場において高値で売れる。前記濃縮物のストリームから香りを有する揮発性化合物を回収することによって、茶の香りを戻す又は改善するために使用することが可能な天然の茶の香りの供給源が提供される。
【0008】
薄いストリームから揮発性化合物を回収及び濃縮する多数の方法が知られており、実施されている。これらの方法は、逆浸透、蒸留、冷凍濃縮、凍結乾燥、段階的/部分的濃縮、及び圧力変動吸着を含む。蒸留は、常に好ましい方法の1つである。GB 1061009(Salada Foods,1967)は、不活性雰囲気下において実施される、蒸留を使用して水性の茶のストリームから香りを回収する方法を開示する。本発明者は、前記GB文献に開示されている方法を使用して、回収される茶の香りの量は小さい程度で改善されるが、茶の水性抽出物に存在する香りの大半は、当該方法を使用しても回収できず、多くの損失があることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】GB 1061009
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Tea - Cultivation to Consumption' edited by K. C. Wilson & M. N. Clifford & published by Chapman & Hall (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
かくして、本発明の主題は、従来技術の欠点の少なくとも1つを克服又は緩和することである。
【0012】
本発明の主題は、ホットインスタントティー及びアイスティーの製造に由来する濃縮物ストリームなどの水性茶抽出物ストリームから揮発性化合物を回収する改善された方法を提供することである。
【0013】
本発明の他の主題は、従来技術の既知の方法と比較して、より濃縮された形態で香りを有する化合物などの揮発性化合物を回収するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第一の態様によれば、蒸気を濃縮する工程、水相から油相濃縮物を分離する工程、及び実質的に油を含まない水相を還流する工程を含む、分留によって水性茶抽出物を蒸留することによって、水性茶抽出物から揮発性化合物を回収するための方法が提供される。
【0015】
前記蒸留は、0.7バールの絶対圧力以上で実施されることが特に好ましい。
【0016】
前記分留は、蒸留を開始する前に、5容量%未満の濃縮不可能な気体を含む、蒸留装置で実施されることがさらに特に好ましい。
【0017】
前記蒸留装置は蒸留の開始前に蒸気で満たされることが、さらに特に好ましい。
【0018】
本発明の第二の態様によれば、本発明の第一の態様によって回収された揮発性化合物と茶とを混合する工程を含む、香りを強化した茶の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の1つの態様による蒸留装置の実施態様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】

本発明に関して、「茶」は、カメリア・シネンシス・ヴァル・シネンシス(Camellia sinensis var. sinensis)又はカメリア・シネンシス・ヴァル・アッサミカ(Camellia sinensis var. assamica)由来の材料である。アスパラシスリネアリス(Aspalathus linearis)から得られるルイボスティーも含む。「茶」は、これらの材料のいずれかの2以上を混合した製品を含むことも意図する。
【0021】
本発明の水性茶抽出物は、以下の茶の供給源:発酵茶(すなわち、紅茶)、半発酵茶(すなわち、ウーロン茶)、及び/又は実質的に未発酵の茶(すなわち、緑茶)のいずれかに由来するものであってよい。「発酵」は、ある内在性の酵素及び基質が、例えば葉の浸漬による細胞の機械的破壊によって、一緒にされた際に葉に生じる、酸化又は加水分解プロセスを意味する。このプロセスの間に、葉中の無色のカテキンが、黄色及び橙色から暗褐色のポリフェノール物質の複雑な混合物に変換される。代替的に、好ましくは、前記水性茶抽出物は、ホットインスタントティー/アイスティーの調製のための方法からの使用済み又は廃棄する濃縮物のストリームであってよい。
【0022】
多数の揮発性化合物が、茶の香りに寄与している。多数の香りを有する揮発性化合物のリストが、「Tea - C. Wilson & M. N. Clifford & published by Chapman & Hall (1992)」に報告されている。当該リストにおける重要な茶の香りの化合物の幾つかは、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、t,t−2,4−デカジエナール、b−ダマセノン、ジアセチル、ゲラニオール、c−4−ヘプテナール、t,t−2,4−ヘプタジエナール、t−2−ヘプタナール、2,4−ヘキサジエノール、1−ヘキサナール、1−ヘキサノール、へキサン酸、c−3−ヘキセノール、t−2−ヘキセナール、b−イオノン、リナロール及びその酸化物、メチオナール、2−メチルブタナール、3−メチルブタナール、2−メチルプロパナール、メチルスルフィド、メチルサリチレート、ネロール、t−2,c−6−ノナジエナール、t,t−2,4−ノナジエナール、ノナナール、オクタナール、t−2−オクテナール、1−オクテン−3−オール、1−ペンタノール、t−2−ペンテナール、1−ペンテン−3−オール、フェニルアセトアルデヒド、2−フェニルエタノール、a−テルペニアール、及びバニリンである。
【0023】
香りを有する揮発性物質を含む多数の水性濃縮物のストリームが、茶の製造プロセスから利用可能であるか又は潜在的に利用可能である。これらの水性濃縮物ストリームにおける香りを有する揮発性物質の濃度は、10mg/lから500mg/lの範囲である。その様なストリームは、WO 2007/039018に開示されている茶製造における乾燥排気からの香りの吸着に由来するものを含む。その濃縮前に茶の抽出プロセスからの香りの揮散は、特許GB 855 423、GB 1 490 370、及びUS 3,717,472に開示されている。これらのプロセスの全てが水性の香りの濃縮物をもたらす。同様に、可溶性の固体の濃縮のための蒸発工程において回収した濃縮物も、香りを有する揮発性物質を、非常に低いレベルではあるが、有する。
【0024】
本発明では、前記揮発性化合物は、その他に価値が無い、廃棄物ストリームから回収されてよい。本発明は、前記揮発性化合物を低い水分含量で回収及び濃縮する点に利点を有する。本発明は、ほぼ純粋な油の形態に香りを有する化合物を濃縮することも提供する。本発明の方法による揮発性化合物の濃度は、前記揮発性化合物を茶に戻して、香りの強化された茶を製造する際に、改善された経済性を提供する。前記濃縮物は低い水分含量を有するため、添加される茶は、香りが強化された茶製品を製造するための事後的な乾燥工程を非常に僅かに又は全く必要としない。したがって、本発明の方法は、好ましくは、前記濃縮物を茶に単純にスプレーする工程、及びスプレーした茶をパックする工程を含む。
【0025】
本発明の第一の態様は、蒸気を実質的に濃縮し、濃縮物の油相を水相から分離し、実質的に油を含まない水相を還流する、蒸留装置における水性茶抽出物の分留を含む、水性茶抽出物から揮発性化合物を回収するための方法を提供する。前記分留は、好ましくは、多段回分蒸留である。
【0026】
本発明の方法は、好ましくは、オーバーヘッド/精留した蒸気の実質的な濃縮を含む。これは、冷トラップ、コールドフィンガー、又は任意の他の濃縮方法を使用して達成されてよい。
【0027】
本発明の好ましい態様は、濃縮装置が、水性茶抽出物を該装置に入れる前に、5容量%未満の濃縮不可能な気体を含む、方法を提供する。
【0028】
更なる好ましい態様は、蒸留を開始する前に、空気又は任意の他の濃縮不可能な気体を実質的に含まない、蒸留装置を提供する。最も好ましくは、前記蒸留装置は、蒸留を開始する前に蒸気で満たされる。用語「濃縮不可能な気体」によって、0℃で1バール(絶対)超の蒸気圧を有する気体を含むことが意味される。一般的に使用される濃縮不可能な気体の例は、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、及びヘリウムである。
【0029】
本発明の方法は、10から500ppmの揮発性化合物を一般的に有する水性茶抽出物を回収及び濃縮することが可能である。その様な濃度で開始して、本発明の蒸留方法は、20000ppm超の濃度まで香りを有する化合物を回収及び濃縮する。ほぼ純粋な油にまで濃縮することも可能である。本発明者は、彼らに既知である、水性茶抽出物の濃縮の技術分野において利用可能な回収及び濃縮装置の全てを使用し、既知の装置を使用して、前記抽出物を最大で40倍まで濃縮し得ることを見出した。本発明の方法を使用して、80倍超の濃度、時には100倍超の濃度も得られた。水性茶抽出物における揮発性化合物の全量うち、ほぼ70から85%の揮発性化合物が本発明の方法で回収し得ることも見出した。かくして、損失は最大で30%である。
【0030】
前記蒸留装置は、好ましくは、実質的に大気圧で操作される。
【0031】
本発明の方法に使用される蒸留装置は、一般的には、リボイラー、蒸留塔、濃縮器、及び液体−液体分離器を含む。本発明の方法は、リボイラーへの全供給物と、蒸留の終了時における濃縮器及び液体−液体分離器の全濃縮物ホールドアップとの容量比が100を超え、好ましくは100から2000、より好ましくは100から500の範囲である際に、最適に実施されている。
【0032】
本発明の非常に重要な利点は、本発明の方法がほぼ環境圧力、すなわち、大気に近い圧力条件下で実施できる点である。蒸留は、一般的には、ほぼ100℃、好ましくは80から100℃の範囲のリボイラーの温度で実施される。リボイラーは、任意の既知の加熱手段、例えば、電気的に加熱される抵抗コイルを使用して当該温度まで加熱されてよく、又はリボイラーにジャケットを付けて、湯又は蒸気をジャケットに通して蒸留される物質を加熱してよい。
【0033】
蒸留を開始する前に蒸留装置が5%超の濃縮不可能な気体を含まないことを確実にする適切な方法は、前記装置から空気を抜きながら蒸気で満たすことである。蒸気は、外部の供給源、例えば、ボイラーから流され、前記装置にパイプで送られてよい。代替的には、少量の水を最初にリボイラーに入れて、全ての水を蒸発させて、蒸気で蒸留装置を満たし、空気を前記装置から追い出す。
【0034】
高い回収率を確実にし、気体の損失を最小化するための好ましい方法は、濃縮することが望まれる水性茶抽出物を前記方法の開始時点にはリボイラーに添加しないで実施することによる。最初に、低い割合、すなわち、5から10重量%の蒸留すべき全水性茶抽出物を含む水をリボイラーに添加する。この供給物で蒸留を開始し、全還流を確立する。蒸留塔から空気が追い出されるまで、その操作を実施する。その後、水性茶抽出物をリボイラーに徐々に添加し、蒸留プロセスを実施され還流が維持されるのを確実にする。100kgの水性茶抽出物の典型的なバッチでは、蒸留は一般的に4から6時間で完了することが認められた。
【0035】
蒸留装置は、10から20%の範囲の低いホールドアップを好適に提供するパッキングで好適に満たされた蒸留塔を有する。この目的を達成するために、パッキングは、一般的には、構成されたパッキング、ワイヤメッシュパッキング、サドル、ラシヒリング(Raschig ring)から選択される。本発明の方法のための充填された蒸留塔は、一般的に短く維持されており、大抵の場合には10平衡段階、好ましくは3から5平衡段階より多くは必要としない。その様な短い蒸留塔を有する事で、より低い設備コストを確実にし、それによって本発明の方法の経済的な実施可能性が改善される。本発明の方法を実施するための好ましい条件は、低い煮沸速度、好ましくは、30から40%のフラッディングで蒸留を実施することを含む。蒸留は、好ましくは、ほぼ全還流条件下で実施する。
【0036】
前記蒸留装置は、好ましくは垂直に取り付けられた、シェル&チューブ式の濃縮器である濃縮器を有することが好ましい。蒸気は、好ましくは、上部から垂直な濃縮器に供給される。前記蒸気は、好ましくは、濃縮器のチューブ側に供給される。
【0037】
前記蒸留装置は、好ましくは、内部還流が殆ど又は全くないことを確実にする条件で操作される。これは、例えば、蒸気が流れるユニット及びパイプラインの全てに良好な断熱材を提供することによって確実にされる。内部還流を最小限に又は実質的に無くすことを確実にすることは、開始(start−up)工程で特に重要であり、揮発性化合物の損失を最小化し、同化合物の回収率を最大化することを確実にする。これは、例えば、開始時に蒸留塔を外部から加熱することを確実にすることによって達成される。加熱工程は、既知の方法、例えば、蒸留塔周囲のジャケットに蒸気を供給することによるものであってよい。
【0038】
蒸留装置に蒸気を移すためのパイプラインは、好ましくは小さな直径のものであることが決定されている。液体−液体分離器の直径に対するその下流のパイプラインの直径の比率は、2超、好ましくは2から20、より好ましくは10から20の範囲であることが特に好ましい。
【0039】
次に、本発明を、以下の非制限的な図面及び実施例によって説明する。
【0040】
(図面の詳細な説明)
図1に示すように、蒸留装置は、ジャケット(J1)を取り付けたリボイラー(E1)を備え、そこに水性茶抽出物をバルブ(V1)から加えて、バルブ(V2)を使用して残留物を廃棄する。前記装置には、ラシヒリングパッキングをつめた充填カラム(E2)を取り付けている。垂直シェル及びチューブ熱交換器(E3)を提供して、揮発性物質を濃縮する。バルブ(V3)を濃縮器(E3)に設け、任意の濃縮物を排水する。液体−液体分離器(E4)を前記濃縮器の下流に設け、濃縮した揮発性化合物を回収する。各種の液体−液体分離器が使用されてよい。リボイラーの容量に対する液体−液体分離器の容量との好ましい比率は、50から2000の範囲内であり、より好ましくは100から500の範囲である。バルブ(V4)を、オイル廃液バルブとして液体−液体分離器の最上部に設ける。生成物排出バルブ(V6)を図示したように設けて、濃縮した揮発性化合物を回収する。還流バルブ(V5)を設けて還流率を調節し、そこで蒸留を実施する。
【0041】
使用時において、算出した量の水を最初にリボイラー(E1)に添加し、リボイラー中の水をジャケット(J1)中の蒸気に通すことによって加熱する。リボイラー中の水が蒸発して蒸気を形成して、前記蒸気が蒸留装置の全体を満たし、各種の通気弁を使用して装置から空気を除く。蒸留装置が濃縮ガス、すなわち、蒸気で実質的に満たされる際に、水性茶抽出物を前記リボイラーに添加して、蒸留を開始する。最初に、茶抽出物の全量の一部をリボイラーに添加する。上向きの蒸気を濃縮器で濃縮して、前記濃縮物の油相を水相から分離して、実質的に油を含まない水相を還流する。還流バルブを所望の位置に調節して、所望の還流率を得る。そのプロセスを安定状態運転に近づけて、茶抽出物の残部をリボイラーに断続的に添加する。前記リボイラーは、たいてい、5から70容量パーセントのまで充填された状態にある。蒸留が進むと、濃縮した揮発性化合物が液体−液体分離器(E4)に回収される。そのプロセスの終わりには、濃縮した揮発性化合物をバルブ(V6)から排出し、所望のように回収する。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
200mg/lの揮発性の香りを有する化合物を含む水性茶抽出物の20Lのバッチを、図1に示す蒸留装置を使用して本発明の方法を用いて蒸留した。前記蒸留装置では、リボイラーの容量は40リットルであった。Sulzer BXパッキングで満たした2メートルの高さのガラスカラムを使用した。回収した濃縮物の容量は1000mlであった。約3リットルの水を最初に使用して空気を前記装置から排除し、茶抽出物の添加の前に蒸気で満たした。2相の濃縮物が、蒸留の開始時付近で現れた−より軽い相は油相であり、より重い相は水相であった。2相を注意深く分離して、水相のみを全作業の間に蒸留塔で還流した。(a)揮発性化合物の損失割合、(b)濃度比率、及び(c)回収率(%)に関する結果を測定し、表1に示した。
【0043】
(実施例2)
茶抽出物の添加前に装置を満たすために水を使用しなかったこと以外は、実施例1と全く同じ条件のバッチで実施した。蒸留装置の空いたスペースを空気で満たして、蒸留を開始した。対応する結果を表1に示す。
【0044】
(実施例3)
346mg/lの揮発性化合物を含む水性茶抽出物の144Lのバッチを、図1に示す蒸留装置を使用して本発明の方法を用いて蒸留した。約6リットルの水を最初に使用して、前記装置から空気を排除して、茶抽出物の添加前に蒸気で前記装置を満たした。2相の濃縮物が蒸留の開始時付近で現れた−より軽い相は油相であり、より重い相は水相であった。2相を注意深く分離して、水相のみを全作業の間に蒸留塔で還流した。前記蒸留は、8時間に亘ってリボイラーに茶抽出物を次第に添加することによって実施した。蒸留の総時間は10時間であった。蒸留装置において、リボイラーの容量は200リットルであった。約335mlの香りに富んだ全蒸留産物を、液体−液体分離器から回収し、その30mlは純粋な油相の芳香成分であった。対応する結果を表1に示す。
【0045】
(実施例4)
302mg/lの揮発性の香りを有する化合物を含む水性茶抽出物の100Lのバッチを、実施例3と同様の蒸留装置及びプロセスを使用して本発明の方法を用いて蒸留した。約800mlの香りに富んだ濃縮物を液体−液体分離器から回収した。対応する結果を表1に示す。
【0046】
(実施例5)
還流が油相及び水相の混合物を含んだこと以外は、実施例4と同様にバッチの蒸留を実施した。対応する結果を表1に示す。
【0047】
表1において、
濃度比率=生成物中の香りを有する化合物の濃度/供給物中の香りを有する化合物の濃度;
香りを有する化合物の物質収支は、以下のように与えられる:
F=P+B+L
式中、Fは供給物中の香りを有する化合物の量であり、Pは生成物中の香りを有する化合物の量であり、Bは残留物中の香りを有する化合物の量であり、Lはプロセス中に損失した香りを有する化合物の量である;
回収率(%)=P/F*100
損失率(%)=L/P*100。
【0048】
【表1】

【0049】
表1のデータは、本発明に係る実施例(実施例1から4)の揮発性の香りを有する化合物の損失は、従来技術の方法(実施例5)と比較して非常に少ないことを示す。また、本発明の実施例における回収率は、従来技術の例よりも顕著に良好である。さらに、従来技術と比較して、本発明の方法では、より高い濃度の香りを有する化合物を含む生成物が得られる。
【0050】
(実施例4から10)
(i)リボイラーの容量が10リットルであり、(ii)濃縮器の容量が43mlであり、且つ、(iii)カラムが1mの高さまで充填され、38mmの直径を有していたこと以外は、図1に示すものと類似の蒸留装置で実験を実施した。カラムは、12mmの直径及び12mmの長さを有するガラスラシヒリングで充填した。実験を実施して、茶抽出物溶液に存在する2種の香りを有するモデル化合物の水溶液を濃縮した。使用した2種のモデル化合物は、2メチルプロパナール(低沸点化合物)及びリナロール(比較的高沸点の化合物)であった。以下に記載の条件を使用したこと以外は、実施例1と同様に実験を実施した。
【0051】
実施例6、8、及び9では、約3リットルの供給物をリボイラーに蒸留の過程で供給した。実施例7、10、及び11では、約5リットルの供給物をリボイラーに蒸留の過程で供給した。全ての実施例において、30%の供給物が沸騰によってこぼれた。
【0052】
実施例6、7
蒸留を開始する前に、装置から空気を排除して、蒸気で満たした後に蒸留を実施した。供給物を3時間に亘って次第に添加した。蒸留の総時間は4時間であった。
【0053】
実施例8、9
装置に存在する空気から始めて、蒸留を実施した。リボイラーは、実験の開始時点で供給物の全てで満たした。蒸留の総時間は4時間であった。
【0054】
実施例9、11
蒸留の開始の前に、装置から空気を排除して、窒素で満たした後に蒸留を実施した。供給物の蒸気で系が満たされた後に、窒素の供給を次第に停止した。蒸留の総時間は4時間であった。
【0055】
回収率及び損失率の結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2のデータは、優れた回収率が、本発明の好ましい態様(実施例6及び7)を使用して得られることを示す。さらに、本発明の好ましい方法を使用すると、損失が非常に小さい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気を濃縮する工程、水相から油相濃縮物を分離する工程、及び実質的に油を含まない水相を還流する工程を含む、分留によって水性茶抽出物を蒸留することによって、水性茶抽出物から揮発性化合物を回収するための方法。
【請求項2】
0.7バールの絶対圧力以上で蒸留することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
蒸留操作を開始する前に、5容量%未満の濃縮不可能な気体を含有する蒸留装置で蒸留することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
蒸留操作を開始する前に、前記蒸留装置が、空気又は任意の他の濃縮不可能な気体を実質的に含まない、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
蒸留操作を開始する前に、蒸留装置が蒸気で満たされている、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記蒸留装置が、リボイラー、蒸留塔、濃縮器、及び液体−液体分離器を含み、前記リボイラーへの全供給物と、蒸留操作の完了時における濃縮器及び液体−液体分離器の全濃縮物ホールドアップとの容量比が100超である、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記容量比が100から2000の範囲内である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記蒸留塔が、10から20%の範囲内の低いホールドアップを提供するパッキングを有する、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
濃縮器のレシーバーの直径とその下流のパイプラインの直径との比率が2から20である、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
3から5の平衡段階の比較的短い充填カラムを含む、請求項6から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記濃縮器が、垂直に取り付けられたシェル及びチューブ濃縮器である、請求項6から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
フラッディングが30から40%の範囲という、低いボイルアップ率で蒸留することを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ほぼ全還流条件で分留を実施することを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって回収される揮発性化合物を茶と混合する工程を含む、香りを強化した茶の製造方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−505816(P2011−505816A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537337(P2010−537337)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010836
【国際公開番号】WO2009/077189
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(590003065)ユニリーバー・ナームローゼ・ベンノートシヤープ (494)
【Fターム(参考)】