説明

揺動内接噛合式動力伝達装置

【課題】大量の潤滑剤(グリス等)を用いることなく内歯歯車の外ピンを潤滑でき、油漏れの心配のない揺動内接噛合式の動力伝達装置を提供する。
【解決手段】潤滑剤による摩擦低減が最も求められる外ピン142の周辺部や内ローラ128の周辺部をダイレクトに且つ効率よく潤滑するべく、内歯歯車本体140や内ローラ128等に凹部128A、140Aを設け、該凹部128A、140Aに潤滑剤を含んだ含油性部材を外ピン142と接触可能に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揺動内接噛合式動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図11記載の揺動内接噛合式動力伝達装置が広く知られている。この揺動内接噛合式動力伝達装置は、外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合すると共に自身の内歯が内歯本体と独立した外ピンで構成されている内歯歯車と、を備える。ここでは、モータ12の回転を減速し取り出すために、相対回転取出機構Kを備えるが、動力の伝達損失を低下させ、又、構成部材を保護する等のためにケーシング90の内部には相当量の潤滑剤(グリス等)が封入されている。
【0003】
一方、特許文献1に記載されるように、潤滑剤を樹脂材料に含ませた含油性材料を歯車の形に形成し、駆動歯車と噛合させることにより潤滑を行なっている歯車装置も公知である。
【0004】
【特許文献1】特開2001−208176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、装置内部に相当量のグリスが封入されている場合であっても、そのグリス全量が全て潤滑に寄与しているのではなく、潤滑が必要となる部分に確実にグリスが行き渡るように予め必要量以上のグリスを封入しているのであって、その分余分なコストが必要となっている。
【0006】
又、一定時間運転後には、磨耗した金属粉の混入等によりグリスの潤滑性能が低下するため、封入されているグリスを交換する必要があるが、大量の廃油は環境面からも好ましくなく、又、装置内部に付着しているグリスを洗浄する作業も煩雑である。
【0007】
更に、グリスが装置内部に相当量存在することにより、運転時において不要な攪拌損失が発生する。
【0008】
一方、含油性材料を歯車の形に形成し、潤滑を目的とする歯車に噛合させる方法では、本来の動力伝達に必要な構成部材の他に新たに潤滑用の歯車を配置しなければならず、相応のコストを要し、装置をコンパクトに維持できない。
【0009】
又、歯車自体を含油性材料で構成するのは、強度上制約がある。
【0010】
本発明は、これらの不具合を解消した揺動内接噛合式の動力伝達装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合すると共に自身の内歯が内歯本体と独立した外ピンで構成されている内歯歯車と、を有する揺動内接噛合式動力伝達装置において、潤滑剤を含んだ含油性部材を前記外ピンと接触可能な位置に備える構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0012】
本発明により、含油性部材から滲み出る潤滑剤をダイレクトに潤滑対象部材へと供給できるため、大量のグリスの封入は必要でない。
【0013】
又、この種の動力伝達装置に従来よりある部材の中に凹部を設け含油性部材を備えたり、従来よりある部材自身を含油性の部材とすることで、新たな部材(例えば潤滑用の歯車等)を必要とせず、新たな部材の設置に伴うコスト上昇や装置の大型化を防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、極少量の潤滑剤のみで伝達損失が少ないコンパクトな動力伝達装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
先ず、添付図面を用いて本発明に係る実施形態の一例の構成を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態の一例である動力伝達装置を備えたギヤドモータGM100の一部断面図である。
【0017】
該ギヤドモータGM100は、モータ112と動力伝達装置110とからなる。モータ112はボルト150により動力伝達装置110と結合されており、モータ軸120が動力伝達装置110の内部に臨んでいる。
【0018】
該動力伝達装置110は、出力側ケーシング190と、入力側ケーシング(モータケーシング)192とがケーシングも兼ねる内歯歯車141を挟持してボルト150により連結されており、内部に相対回転取出機構K1を備えている。
【0019】
又前記内歯歯車141は、内歯歯車本体140と、内歯に相当する外ピン142とで構成されている。
【0020】
モータ軸120の回転は前記相対回転取出機構K1により減速され、出力軸134を経て図示せぬ相手機械へと伝達される。
【0021】
モータ軸120には偏心体122がキー結合され、該偏心体122には偏心体用軸受124を介して外歯歯車126が回転可能に支持されている。該外歯歯車126はトロコイド歯形や円弧歯形等の外歯を有しており、内歯歯車本体140に備わる外ピン142と内接噛合している。外歯歯車126の歯数と外ピンの数には僅少な差が存在している(一般的には1〜4本外ピンが多い)。前記内歯歯車本体140は略ドーナツ形状である。前記内歯歯車本体140の内周面、即ち、外ピン142との係合面の軸方向略中央部には、1周に亘って凹部140Aが設けられている。更に該凹部140Aにはリング状の含油性部材144が嵌入されているが、該含油性部材144の半径方向の厚みは、前記凹部140Aの深さよりも若干大きく設定されており、他の部材から何らかの応力が付与されない限り、嵌入後も前記凹部140Aから微かに前記含油性部材144が露出している。なお、含油性部材144にはその露出部分が外ピン142と接触するため、若干の窪み部C1が存在する(図4参照)。
【0022】
又、前記外歯歯車126には複数の内ピン孔129が設けられ、内ピン130の一端及び内ローラ128が遊嵌している。該内ローラ128の内周面及び外周面には複数の凹部128Aが設けられ、該凹部128Aにリング状の含油性部材146が備わっている。ここでも、前記含油性部材146の半径方向の厚みは、前記凹部128Aの深さよりも若干大きく設定されているため、何らかの応力が付与されない限り前記凹部128Aから微かに前記含油性部材146が露出している。一方、前記内ピン130の他端はフランジ体132に嵌合している。該フランジ体132は出力軸134と一体形成され、軸受136、138を介してケーシング190に支持されている。
【0023】
次に当該動力伝達装置110の作用について説明する。
【0024】
モータ112に通電されるとモータ軸120、偏心体122が回転する。それに伴い外歯歯車126も揺動回転しようとするが、内接噛合する外ピン142に回転を拘束されているために、ほとんど揺動のみを行なうことになる。このとき、外歯歯車126の歯の数と外ピン142の数とには僅少な差が存在するため、外歯歯車126が1回揺動するとその歯数差分だけ回転(自転)する。即ち、この回転成分(相対回転成分)を取り出すことによって、(外歯歯車の歯の数−外ピンの数)/(外歯歯車の歯の数)の比の減速比を1段で実現することができる。
【0025】
このように、外歯歯車126の揺動回転に伴う内歯歯車141(外ピン142)との相対回転成分を取り出す機構においては、その構造上、特に外歯歯車126と外ピン142との噛合面、内ピン孔129と内ローラ128との摺動面、及び内ローラ128と内ピン130との摺動面の摩擦が問題となる。これは、外歯歯車126と外ピン142との噛合面においては、強大な噛合面圧が掛かりながら滑り接触が生じるためであり、一方、内ピン孔129と内ローラ128との摺動面及び内ローラ128と内ピン130との摺動面では、滑り接触を伴いながら外歯歯車126の揺動成分を吸収して相対回転成分のみを滑らかにフランジ体132へと伝達する必要があるためである。
【0026】
当該動力伝達装置110では、内歯歯車本体140の凹部140Aに含油性部材144を備え潤滑剤をしみ込ませておくことにより、運転時における発熱や圧力、更には外ピン142からの応力を受けて含油性部材144自体が変形することにより潤滑剤が滲み出て、直接外ピン142を潤滑できる。又、内ローラ128に設けられた凹部128Aに含油性部材146を備え、内ピン孔129及び内ピン130との摺動面を直接潤滑することができる。
【0027】
これにより、潤滑が必要な部分に最低限必要な潤滑剤をダイレクトに供給でき、余分な潤滑剤(グリス等)を大量にケーシング内に封入しておく必要がなくなり、コストを抑えることができ、又攪拌損失の影響も発生しない。
【0028】
又、潤滑剤の補給は、前記含油性部材に新たに潤滑剤を含ませたり、部材自体を交換することで対応でき、作業も容易である。更に、ケーシング内部の洗浄も不要であるか、又は行なった場合でも非常に簡易に作業できる。
【0029】
加えて、潤滑剤の供給源となる含油性部材は、従来よりこの種の動力伝達装置に存在する構成部材に設けた凹部の中に組み込み配置されており、配置のために余分なスペースを要せず、本発明の適用が装置のコンパクト性に影響を及ぼすことはない。
【0030】
又、含油性部材は、例えばOリング状の単純な形状のもので十分であり、歯車等の複雑な形状に成形する必要がなく、コスト上昇も極めて僅かである。又、強度上の制約もない。
【0031】
なお、この実施形態では、望ましい形態として内歯歯車本体140と内ローラ128にそれぞれ凹部を設けて含油性部材を備えているが、目的・用途に合わせて一方にのみ、又は一部にのみ適用することも可能である。
【0032】
次に別の実施形態について説明するが、前述の動力伝達装置110と同一又は類似する部分については下2桁が同一の符号を付することとし、重複説明は省略する。
【0033】
図5は、別の実施形態の一例である動力伝達装置510を備えるギヤドモータGM500の一部断面図である。
【0034】
動力伝達装置510は、出力側ケーシング590と、入力側ケーシング(モータケーシング)592とがケーシングを兼ねる内歯歯車541を挟持して、ボルト550により連結・固定されている。前記内歯歯車541は、内歯歯車本体540と外ピン542で構成されている。前記内歯歯車本体540は略ドーナツ形状の部材である。内歯歯車本体540の内周面の軸方向略中央部には、一周に亘って凹部540Aが設けられ、該凹部540Aにはリング状の含油性部材544が配置されている。即ち、含油性部材544は、内歯歯車本体540と外ピン542との間に位置している。
【0035】
外ピン542の軸方向及び半径方向内側(軸心O5側)には、前記ケーシング590、592の一部が係合することにより、該外ピン542の位置が規制されている。これらのケーシング590、592の外ピン542との係合面には、それぞれ凹部590A、592Aが設けられており、該凹部590A、592Aには含油性部材545がそれぞれ配置されている。
【0036】
一方、モータ軸520には偏心体522がキー結合され、偏心体用軸受524を介して外歯歯車526が回転可能に支持されている。該外歯歯車526はトロコイド歯形等の外歯を備え、前記内歯歯車541(の外ピン542)と内接噛合している。前記外歯歯車526には複数の内ピン孔529が設けられ、該内ピン孔529に内ピン530及び内ローラ528が挿嵌している。又、前記内ピンは、フランジ体532とも係合している。
【0037】
前記内ローラ528の内周面及び外周面には複数の凹部528Aが設けられ、図示せぬ含油性部材が嵌入している。
【0038】
本実施形態では、前述した動力伝達装置110に比べて、更にケーシング590、592の外ピン542との係合面に凹部590A、592Aを設け含油性部材545を設けているため、外ピン542周辺部の潤滑がより確実なものとなっている。
【0039】
又、ここで説明した動力伝達装置510では、動力伝達装置110の場合と同様に、内歯歯車本体540及び内ローラ528にもそれぞれ凹部を設けて含油性部材を備えた構成であるが、これはより望ましい構成として採用されているものであり、必ずしも必須の構成ではない。動力伝達装置の用途等に合わせて適宜組合せて構成することが可能である。
【0040】
図6は、複数の外歯歯車626を位相を180°ずらして構成した例である。それぞれの外歯歯車626に対応する位置に含油性部材644が備わっている。
【0041】
更に、2枚の外歯歯車626の軸方向の位置を規制するために、間にスペーサ(さし輪)627が装着されている。動力伝達装置610では、このスペーサ627が含油性部材とされ、滲み出る潤滑剤が各摺動部分を潤滑している。尚、スペーサ自体を含油性部材とする他、スペーサの一部に含油性部材を備えてもよい。このような構成は伝達トルクが大きな場合に有効である。なお、外歯歯車を3枚以上用いて構成することも可能である。
【0042】
又、図7の実施例のように外ピン742に外ローラ743を備えた動力伝達装置に適用してもよい。
【0043】
更に、図8乃至図10に記載したように、内歯歯車本体840に備える含油性部材844の形状を外ピン842の形状に沿った形状とすることで接触面積を広げ、効果的に潤滑剤を供給する構成としてもよい。
【0044】
なお、上記に説明した実施形態は全て1段減速機構で説明したが、これに限定されるものではなく、2段以上の減速機構であっても問題なく適用できる。
【0045】
又、本発明の要部となる「含油性部材」は、含油性の材料であればよく、例えば樹脂は勿論、焼結金属等により構成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、産業機械の駆動に広く用いられることは勿論のこと、特に衛生面の制限が厳しい食品製造分野や医薬品製造分野等での利用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態の一例であるギヤドモータGM100の一部断面図
【図2】図1における矢示II−II線に沿う断面図
【図3】図1におけるIII部拡大図(内ローラ周辺部の拡大図)
【図4】図2におけるIV部拡大図(外ピンと含油性部材の接触状態を表わす図)
【図5】本発明の他の実施形態の一例であるギヤドモータGM500の一部断面図
【図6】本発明の他の実施形態の一例であるギヤドモータGM600の一部断面図
【図7】本発明の他の実施形態の一例であるギヤドモータGM700の一部断面図
【図8】本発明の他の実施形態の一例であるギヤドモータGM800の一部断面図
【図9】図8における矢示IX−IX線に沿う断面図
【図10】ギヤドモータGM800にて使用する含油性部材の単体図であり、(A)が正面図、(B)が側面図
【図11】従来より公知の動力伝達装置を備えたギヤドモータの一部断面図
【符号の説明】
【0048】
GM100…ギヤドモータ
K1…相対回転取出機構
110…動力伝達装置
120…モータ軸
122…偏心体
124…偏心体用軸受
126…外歯歯車
128…内ローラ
128A、140A…凹部
129…内ピン孔
130…内ピン
132…フランジ体
134…出力軸
140…内歯歯車本体
142…外ピン
144、146…含油性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合すると共に自身の内歯が内歯本体と独立した外ピンで構成されている内歯歯車と、を有する揺動内接噛合式動力伝達装置において、
潤滑剤を含んだ含油性部材を前記外ピンと接触可能な位置に備えた
ことを特徴とする揺動内接噛合式動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記外ピンが係合する部分の内歯歯車本体の一部に凹部を備え、
該凹部に前記含油性部材が備わっている
ことを特徴とする揺動内接噛合式動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記外ピンを支持するケーシングの一部に凹部を備え、
該凹部に前記含油性部材が備わっている
ことを特徴とする揺動内接噛合式動力伝達装置。
【請求項4】
外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合すると共に自身の内歯が内歯本体と独立した外ピンで構成されている内歯歯車と、を有する揺動内接噛合式動力伝達装置において、
前記外歯歯車と前記内歯歯車との相対回転成分を取り出す内ピンと、
該内ピンが挿嵌する内ローラを備え、
該内ローラに設けた凹部に含油性部材が備わっている
ことを特徴とする揺動内接噛合式動力伝達装置。
【請求項5】
外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合すると共に自身の内歯が内歯本体と独立した外ピンで構成されている内歯歯車と、を有する揺動内接噛合式動力伝達装置において、
前記揺動内接噛合式動力伝達装置には、前記外歯歯車が複数備わっており、
該複数の外歯歯車の間に位置するスペーサに含油性部材が備わっている
ことを特徴とする揺動内接噛合式動力伝達装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記スペーサ自体が含油性部材である
ことを特徴とする揺動内接噛合式動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−226370(P2006−226370A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39449(P2005−39449)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】