損傷心臓組織治療の方法と方式
心臓組織において新血管新生を生じさせる血小板組成物を送達することにより心臓組織を治療するための方法と方式を開示する。血小板組成物は加えて構造材料そして/あるいは生物活性剤を含有することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照によりその全体が本明細書に記載されているものとみなす2006年6月23日出願の合衆国特許出願No.11/426,211およびNo.11/426,219の関連特許であり、両出願は合衆国法典第35巻§119(e) に基づき、2005年6月23日出願の米国仮特許申請No.60/693,749、2006年3月23日出願のNo.60/743,686に代わり優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は損傷心臓組織治療のための方式と方式に一般に関連している。特に、本発明は損傷組織における新血管新生誘発のための組成物と方式を開示する。
【背景技術】
【0003】
ヒトの心臓壁は、心内膜と称され、厚さの一定しない心筋あるいは心筋層に重なり、単層扁平上皮の内層で構成されており、心嚢と称される多層組織構造内に封入されている。臓側心膜あるいは心外膜として称される心嚢の最内層が心筋を覆っている。心外膜は、心室と心房の臓側心膜の周りに延長して囲まれた嚢から間隔を置いて形成している壁側心膜と称される外側組織層を形成する大動脈弓の起始において外側に反転する。繊維性心膜と称される心嚢最外側層は心臓が縦隔中部内に閉じ込められるように、壁側心膜を胸骨、大血管および横隔膜に付着している。本来であれば、臓側心膜と壁側心膜はお互いに接近しており、嚢内で心臓の摩擦のない動きを可能にする漿液性心嚢液の薄層により分離されている。臓側および壁側心膜間の隙間は心膜腔と称される。普通の専門用語において、臓側心膜は通常心外膜と称され、以下、心外膜を使用する。同様に側壁心膜は通常心嚢と称され、壁側心膜を称するために心嚢を使用する。
【0004】
心筋梗塞(MI)を含めた心疾患は、特に西欧諸国において、とりわけ男性における主要な死因と身体障害である。様々な心臓疾患はリモデリングと呼ばれるありふれた機序により心不全に進行する。リモデリングにより、しばしば臨床的な心不全と随伴症状に導かれ、心臓機能は次第に悪化する。心疾患はついで他の生理的システムを害することになる。毎年110万人以上のアメリカ人が心筋梗塞(MI)を起こしている。心筋梗塞は心室機能の急性低下とストレス下の梗塞組織の拡大を結果として生じることになる。このことがリモデリングとして知られている筋細胞事象の段階的連鎖を引き起こす。多くの事例においては、この進行性の心筋梗塞拡大とリモデリングは、心室機能の悪化と心不全につながる。このような虚血性心筋症は米国における心不全の主要な原因である。
【0005】
心臓病(心虚血)を発現するハイリスクを有している患者に血管供給を改善することが本発明の目的である。増加した血液供給は、急性または慢性的に疾患のある心組織に役立つことになる。成人においてさえ、心臓障害に引き続き正常な修復機序(例えば内在性新生細胞の漸増を含めたもの)が導き出されることが諸研究により示されている。不適当な血液供給により、このような細胞の生存が制限され、治癒が妨げられる。血液供給により、損傷領域に必要な酸素と栄養、血液構成成分(細胞、炎症性細胞遊走因子など)をもたらし、代謝産物を一掃することが必要である。そのような領域への血液供給を改善する治療は、より大きく回復を促進することにより患者に役立つ可能性が高い。
【0006】
心臓組織は急性あるいは慢性的に虚血性であり得る。心細胞死の結果として生じる重度の虚血は梗塞症と称される。病変損傷領域にあるいは周りへの脈管供給を増加し、急性或いは慢性的修復を向上し得る。
【0007】
狭窄或いは閉塞した冠動脈は、心疾患の一つの事例である。完全、もしくは相当程度閉塞した冠動脈は短期、中期、長期の有害影響を引き起こすことができる。短期的には、冠状動脈が閉塞されると心筋梗塞が発生し、それにより生じる心筋細胞死により心筋組織に血液を供給することができなくなる。心筋梗塞が発生すれば、もはや適切な血流を受けていない心筋組織が死亡し、やがて瘢痕組織が置き換わる。
【0008】
心筋梗塞の数秒以内に過少に灌流される心筋細胞は、異常壁運動、梗塞内および周囲の高い壁へのストレス、心室機能低下の原因となる収縮をもはや行わない。梗塞組織と正常な組織間の接合部における高いストレスは、時間がたてば心臓の梗塞性領域およびリモデリングへの拡大の原因となる。これらの高いストレスがまだ存続可能な心筋細胞を害し、結局はそれらの機能を低下させる。このことが元の心筋梗塞領域を含みまたそれ以上の損傷および機能障害を起こしている組織の拡大を結果として生じる。
【0009】
アメリカ心臓協会によれば、2000年にはおよそ1,100,000件の新しい心筋梗塞が米国において発生している。650,000人の患者には最初の心筋梗塞であったが、それ以外の450,000人の患者は再発性事象であった。病院に到達する前に、MIに罹っている22万人の人々が死んでいる。心筋梗塞の1年以内に、男性の25%と女性の38%が死亡する。6年以内に、男性の22%、女性の46%が心不全を発現しており、その67%が身体障害者となっている。最新の医薬療法にもかかわらず、上記の結果を示している。
【0010】
心筋梗塞の結果はしばしば深刻であり、日常生活に支障を来たす。心筋梗塞が発生すれば、もはや適切な血流を受けていない心筋組織が死亡し、瘢痕組織が置き換わる。この梗塞組織は心収縮期の間に収縮することができないので、実際に心収縮期が長くなり、心室機能の迅速な低下の原因となる。梗塞組織のこの異常な動きが、まだ存続している梗塞周囲組織(正常組織と梗塞組織間接合部の組織)に電気活動の遅延、あるいは異常伝導をもたらすことができるので、梗塞周囲組織に対しても余分な構造的ストレスを与える。
【0011】
減少した血流を受け取っている領域は虚血領域として知られている。さらに、マトリクス・メタロプロテイナーゼの上昇、マトリクス・メタロプロテイナーゼの組織抑制剤における減少(コラーゲン分解酵素阻害)、および膠原質の結果として生じる劣化は虚血性心筋症における付加的役割を果たし得る。虚血性心筋症の患者における心臓機能を改善するためには、虚血領域に血流を再度確立する必要がある。
【0012】
即時の血行力学的効果に加えて、心臓梗塞組織は3つの主要なプロセスである梗塞拡大、梗塞伸展、およびチェンバ・リモデリングを遂げる。個々にまた組み合わさって、これらの要因は、梗塞の部位から離れた心臓組織に認められる最終的に起こる機能不全の一因となる。
【0013】
梗塞拡大は梗塞域の中で固定した、永久的な、不相応な領域の非薄化と組織の膨張である。心筋梗塞の後、梗塞拡大は初期に起こる。機序は組織層の滑り(slippage)である。梗塞拡大は心筋梗塞に引き続く付加的な心筋壊死である。
【0014】
梗塞拡大が梗塞組織の合計質量の増加する結果となり、付加的な梗塞組織も梗塞拡大を遂げ得る。梗塞拡大が心筋梗塞の何日も後に起こる。梗塞拡大の機序は組織の増加した酸素要求量に対する梗塞周囲組織への血液供給における不均衡であるように思われる。
【0015】
リモデリングは通常心室機能の低下に伴う心室の進行性肥大である。当初の心筋梗塞から離れた心臓組織における筋細胞機能が低下する。リモデリングが心筋梗塞の後、数週間からも数年にかけて起こる。このようなリモデリングは通常、心臓の左側で起こる。リモデリングが心臓の右側で発生する場合、それは一般に心臓の左側でのリモデリング(あるいは何か他の芳しくない事象)に関連づけることができる。左側よりも頻度は少ないが、リモデリングが単独で右心に発生することができる。リモデリングには多くの潜在的な機序があり、梗塞周囲組織への高いストレスが重要な役割を果たすと一般に信じられている。異なる形状や大きさ等の要因の多様性ゆえに、梗塞形成を取り巻いている心臓組織における壁体へのストレスは正常の場合よりずっと高い。
【0016】
梗塞拡大とリモデリングに関連した変化過程は、梗塞組織と正常な心臓組織(すなわち、梗塞領域周囲)の間の接合部に及ぼされる高いストレスの結果であると信じられている。介入治療がないときには、これらの高いストレスがやがて隣接細胞の機能を殺すか、あるいはひどく低下させる。結果として、梗塞領域周辺は従って時間がたてば初期の梗塞部位から外見上発達することになる。この結果、元の心筋梗塞領域から機能不全に陥った組織が相次ぎ、本疾病の性質をひどく悪化させ、心不全のかなり進行した段階にしばしば進むことがあり得る。
【0017】
現在、そして過去に使われた心筋梗塞に対する治療はさまざまである。心筋梗塞のすぐ後、心室性細動を未然に防ぎ、治療すること、および血行力学を安定させることは定評のある療法である。
【0018】
虚血性心疾患は急性、あるいは慢性で起こり得る。軽度の疾患のために、増加した要求の間(例えば、激しい活動の間)に不十分に血液を供給することになる。重い疾患では、安静時においてさえ不十分な血液供給となる。明白な臨床臨床的後遺症となると予想されるので、両方の症状は増加した血液供給により利益を受けることになる。このことは、労作性能力の増加、症状の軽減、臓器血液潅流の増量、毎分心拍出量の改善、そして/あるいは心収縮性の改善のいずれか、またはすべてを含む可能性がある。
【0019】
より新しいアプローチには、閉塞血管を再開通させる、より積極的な試みを含んでいる。これは血栓溶解剤療法あるいは血管形成術とステントを通して達成されている。当初の閉塞の数時間以内に閉塞した動脈(すなわち脈管再生)を再開することは組織死を減少させ、それによって梗塞拡大、伸展の合計規模を減少させ、それによってリモデリングのための刺激薬を制限することができる。
【0020】
心臓組織への直接、あるいは選択的な作用薬の送達は、いくつかの理由のゆえに、そのような作用薬は全体的な送達より望ましい。1つの理由は、実質的な費用であり入手可能な少量の薬剤、たとえば、遺伝子療法に使用される作用薬である。もう1つの理由は、全身送達を通じて得られるであろう希釈濃度と比較して、心臓組織に直接送達することができるような作用薬の実質的により大きな濃度である。さらにもう1つの理由は、心臓組織における望ましい薬の濃度を得るために必要である投与量における全身投与の全身毒性に関連している。
【0021】
心臓組織に薬剤を送達する1つの方式は、開胸手術中の心臓組織への心外膜直接注入である。心臓組織への薬剤送達にとられるもう1つのアプローチは血管内接近法である。心臓の中から心臓組織に物質を注入するために血管系を通して心臓の中にカテーテルを進めることができ得る。別の到達法は心臓の心室内から心臓壁に物質を配達する心内膜到達法である。さらに、損傷心臓組織治療に対して開発されている付加的療法は、虚血性の心臓組織中への細胞そして/あるいは他の生物学的作用物質の注入、あるいは虚血性の組織への細胞そして/あるいは作用薬の留置を含む。梗塞を起こしている心臓組織を治療する1つの療法は、成熟して積極的に心筋細胞を収縮させることができる細胞の送達、あるいは心臓組織を再生させることを含む。このような細胞の例には、筋細胞、筋芽細胞、間葉系幹細胞および多分化能細胞を含む。このような心臓組織中への細胞送達は有益であり、特に心不全を未然に防ぎ、あるいは治療すると信じられている。
【0022】
急性、あるいは慢性の心臓への損傷の後、内因性新生細胞が若干あるいはすべての機能を損傷組織に回復させようとする試みが要求されて来た。損傷領域への減少した血流量と血管供給が、この回復の機序を阻害するようである。より適切な潅流の供給はより早期に、より速く、そして/あるいはより完全な修復を促進する可能性があり得る。
【0023】
関心の的が症状を減らし、そして/あるいは心臓機能を改善する虚血領域に血流を再確立することであることは、依然として変わりない。血流の再確立は、特定の領域に体が血液供給をもたらし、あるいは血液供給を拡大する脈管形成の刺激を通して達成され得る。血流を再確立し、心臓を元の状態に戻すための従来の方法は、しばしばバイパス手術あるいは血管形成術のような侵襲的手術を必要とした。他の方式は血流を促進するために梗塞と虚血領域を貫いて穴を開けるためにレーザーを使用した。これらの手術は複雑で、しかも危険である。それゆえ、血流再確立のための安全でより少ない侵襲である方法の必要性が存在している。
【0024】
これら論議された方法の何れもが、損傷組織の脈管形成、あるいは新血管新生を具体的に生じさせるものではない。損傷組織中の改善された、あるいは正常な血液供給の確立は、それ以上の悪化を未然に防ぎ、損傷組織の再生を促進することができる。このような療法は以前に使われた治療より有利である。これらの理由で、新血管新生を生じさせるために心臓組織に直接送達することができる作用薬があることは望ましい。
【発明の開示】
【0025】
本発明は損傷心臓組織における新血管新生を生じさせるための生体適合性組成物を提供する。心臓組織損傷を負っている患者治療に関連した方法と方式を同様に提供する。
【0026】
本発明の1つの実施例においては、心臓組織の新血管新生のための方式は、血小板組成物、および心臓組織に血小板組成物を導入し、血小板組成物が心臓組織における新血管新生を生じさせるための少なくとも1つの送達機器を含み提供される。
【0027】
別の実施例では、血小板組成物は血小板ゲル、多血小板血漿および乏血小板血漿で構成される群から選択される。別の実施例では、血小板組成物は自己由来のものである。別の実施例では、血小板ゲルは乏血小板血漿あるいは多血小板血漿および活性化剤から形成される。別の実施例では、活性化剤はトロンビンである。別の実施例では、トロンビンは組換えトロンビン、ヒトのトロンビン、動物トロンビン、改変トロンビンおよび自己トロンビンで構成される群から選択される。別の実施例では、血小板ゲルは約5:1と約25:1の間の比で多血小板血漿あるいは乏血小板血漿とトロンビンにより形成されている。別の実施例では、多血小板血漿あるいは乏血小板血漿のトロンビンに対する乏血小板血漿の比は約10:1である。
【0028】
別の実施例では、血小板組成物はトロンビンの外因性起源のない多血小板血漿を含む。さらに別の実施例では、血小板組成物は治療部位に送達され、治療部位において心臓組織の中でゲルを形成する。
【0029】
本発明の別の実施例では、方式は膠原質、生体適合性重合体、アルギン酸塩、合成/自然化合物、フィブリノーゲン、絹エラスチン重合体、ヒドロゲルおよび歯の複合体物質で構成される群から選択された構造材料をさらに含む。別の実施例では、構造材料は、物理的または化学的架橋、あるいは、酵素、化学、熱、または光活性化で構成される群から組成物の賦活が選択される賦活の結果、固体またはゲルを形成する。
【0030】
本発明の別の実施例では、血小板組成物はさらに生物活性剤を含む。別の実施例では、生物活性剤は医薬的に有効な化合物、副腎皮質ホルモン、成長因子、酵素、DNA、リボ核酸、siRNA 、ウイルス、タンパク質、脂質、重合体、ヒアルロン酸、抗体、抗生物質、反炎症の作用薬、アンチセンスヌクレオチドおよびトランスフォーミング核酸、およびその組み合わせで構成される群から選択される。別の実施例では、血小板組成物はさらにコントラスト剤を含む。
【0031】
本発明の別の実施例では、血小板組成物は、損傷が心臓組織に発生した約1時間後と1年後の間に損傷心臓組織に供給する。別の実施例では、血小板組成物は約1回から20回の注射で供給する。別の実施例では、諸注射は順次行われる。別の実施例では、諸注射は殆ど同時に行われる。別の実施例では、血小板組成物は約15mlまでの合計注入量を含む。別の実施例では、血小板組成物は注射毎に約1100マイクロリットル以下の注入量を含む。
【0032】
本発明の実施例において、血小板組成物は組織表面に直角、あるいは斜めの角度で心臓組織に注射される。別の実施例では、心臓組織は心内膜下、心外膜下および心筋内部位で構成される群から選択される。別の実施例では、血小板組成物は心筋の厚さのほぼ中央の深さにおいて心臓組織に注射される。
【0033】
本発明の別の実施例では、送達器具は内心膜性注入カテーテル、経血管注入カテーテルおよび心外膜注入カテーテルで構成される群から選択された注入カテーテルである。
【0034】
本発明の実施例において、血小板組成物は障害事象の間、あるいは障害事象が起こった後に治療部位に供給される。別の実施例では、治療部位は、損傷領域、損傷周辺領域および損傷領域を取り巻いている健康な組織で構成される群から選択される。
【0035】
本発明の1つの実施例においては、心臓組織における新血管新生を生じさせる方法は、前述の血小板組成物がそこに心臓組織に新血管新生を生じさせる心臓組織の治療部位における血小板組成物を含め提供される。別の実施例では、血小板組成物は血小板ゲル、多血小板血漿および乏血小板血漿で構成される群から選択される。別の実施例では、血小板組成物は自己由来のものである。
【0036】
(用語の定義)
一般に、ここに現れているすべての専門用語及びフレーズは当業者が通常の意味に理解するものとして使用する。しかしながら読者の便宜のため、選択された用語をより具体的に次のように定義する。
【0037】
脈管形成:本明細書で使用される場合、「脈管形成」は既存血管から新しい血管の増大を含めた生理学的過程を意味する。
【0038】
生物活性剤:本明細書で使用される場合、「生物活性剤」は治療剤及び薬物を含み、また医薬的に有効な化合物、副腎皮質ホルモン、増殖因子、酵素、DNA、リボ核酸、siRNA、ウイルス、タンパク質、脂質、重合体、ヒアルロン酸、抗体、抗生物質、消炎剤、アンチセンスヌクレオチドとトランスフォーミング核酸、リモデリング(例えば、アンジオテンシンIIの阻害剤、アンジオテンシン変換酵素、心房性ナトリウム利尿ペプチド、アルドステロン、レニン、ノルエピレナミン、エピネフリン、エンドセリン、など)に関係しているとみなされる化合物の阻害剤、およびその組み合わせを含む。
【0039】
チェンバ・リモデリング:本明細書で使用される場合、「チェンバ・リモデリング」は心房あるいは心室のリモデリングを意味する。「リモデリング」はストレスあるいは損傷後に心臓組織の大きさ、形状および機能に変化をもたらす(遺伝子発現、分子、細胞および間質の変化を含む)一連の事象を意味する。リモデリングは心筋梗塞(MI)、圧力過負荷(例えば、大動脈弁狭窄症、高血圧症)、容量過負荷(例えば、弁閉鎖不全)、炎症性心疾患(例えば、心筋炎)の後、あるいは特発性の症例(例えば、特発性拡張心筋症)に発生することがある。リモデリングは、徐々に悪化する心臓機能および究極的に心不全をもたらし、しばしば病的である。本開示においては前記のごとく病的リモデリングをリモデリングと称することとする。
【0040】
心臓組織損傷:本明細書で使用される場合、「心臓組織損傷」は疾病、疾患あるいは損傷により起こされた心臓における異常組織の任意の領域を意味し、心外膜、心内膜および/あるいは心筋へのダメージを含む。心臓組織損傷の原因の非限定的実例は、急性あるいは慢性のストレス(全身性高血圧症、肺高血圧症、弁機能障害など)、冠状動脈疾患、虚血あるいは梗塞形成、炎症性疾病および心筋症を含む。心臓組織損傷は、心筋に最もしばしば損傷を伴う、それ故本開示に関し、心筋損傷は心臓組織損傷と等しい。さらに、損傷が障害事象と称される急性心筋梗塞症など、損傷が急性である場合がある。損傷心臓組織は、虚血性、梗塞性、またはそうではない焦点的または瀰漫的に病んだ組織を含む。
【0041】
組成物:本明細書で使用される場合、「組成物」は、注射液、物質、あるいは組織の中に送達されることができ、交換可能にここに使われる物質の組合わせを意味する。
例示的組成物は、生物活性剤、構造的な物質などの添加とともに、または無しに、血小板ゲル化、自己血小板ゲル、多血小板血漿および乏血小板血漿を含むがこれに限定されない。
【0042】
送達:本明細書で使用される場合、「送達」は機能性組成物を治療部位に送達するために適切である任意の方法を通じて損傷組織における治療部位に組成物を提供することを意味する。送達方法の非限定的実例は、治療部位における直接の注入、治療部位における直接の局所適用、注入のための経皮的送達、局所適用のための経皮的送達、および当業者によく知られている他の送達方法を含む。
【0043】
損傷領域:本明細書で使用される場合、「損傷領域」は損傷組織を意味する。「損傷周辺領域」は直接損傷組織に隣接している組織を意味する。すなわち、損傷組織と正常組織の間の接合部にある組織。
【0044】
損傷組織:本明細書で使用される場合、「損傷組織」は損傷、虚血組織、梗塞組織、あるいは組織にまったく正常な血流の妨害をもたらすダメージを受けた組織により損傷を受ける組織を意味する。心臓に関しては、「損傷組織」は「心臓組織損傷」のところに記載するあらゆる変化を受けている組織を含む。
【0045】
新血管新生:本明細書で使用される場合、「新血管新生」は血液あるいは血液構成成分により灌流させられ得る機能的な血管ネットワークの形成を意味する。新血管新生は、血管新生、発芽型(budding)血管新生、陥入型(intussusceptive)血管新生、出芽型(sprouting)血管新生、治療的血管新生および脈管形成を含む。
【0046】
経皮的:本明細書で使用される場合、用語「経皮的」は、小さな切口、切開、穿孔、カニューレ、スリーブまたはポートへの管状のアクセス、あるいは同様のものの形態に係わらず、患者の皮膚を通じるあらゆる貫通を意味する。
【0047】
経皮的貫通は、患者の肋骨間の間隙空間、または患者鼠径部領域などの他の部位で行っても良い。
【0048】
構造用支持材:本明細書で使用される場合、用語「構造用支持材」はリモデリングのストレスおよび不適応過程に対して抵抗力を提供している機械的な補強材を意味する。
【0049】
脈管形成:ここに使用されるように、用語「脈管形成」は、発育の間および同様に成人期(例えば、損傷の後あるいは心筋損傷後)に発生する変化過程である内皮細胞の新規産生による血管形成を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
本発明は損傷心臓組織における新血管新生を生じさせるための生体適合性組成物を提供する。心臓組織損傷を負っている患者治療に関連した方法と方式を同様に提供する。
【0051】
虚血性損傷等の損傷後、組織への血液供給は残っている健康な組織を維持するにはしばしば不十分である。持続的虚血組織は死亡し、隣接する組織は虚血のリスク増加にある。 この変化過程が時間とともに虚血領域の増大をもたらす。ダメージを与えられたか、あるいは隣接する組織に血液供給を増加させることは、チェンバ・リモデリングと同様、それ以上の虚血を未然に防ぐことができる。
【0052】
本発明の諸実施例において、組成物および方法は、損傷した、あるいは周囲の心臓組織に血小板組成物を直接注入することにより心臓組織に血管新生を生じさせるために提供される。一実施例では、血小板組成物は新血管新生を生じさせる。別の実施例では、血小板組成物は損傷組織を再生するために新血管新生を生じさせる。別の実施例では、生じた新血管新生はチェンバ・リモデリングを未然に防ぐか、あるいは回復させる。さらに別の実施例では、血小板組成物は心臓の組織あるいは機能の再生を促進するために新血管新生を生じさせる。
【0053】
新血管新生は、既存の血管にリンクする内皮前駆細胞から脈管形成、血管新生、あるいは新しい血管の形成によるなど、あらゆる手段による内皮前駆細胞から新しい血管の発達を意味する。血管新生は、発育した動物において既存血管の内皮から新しい血管が生育する過程である。内皮前駆細胞は血液中を循環し、活発な新血管新生の部位に選択的に移動する、あるいは[帰巣する」(米国特許No.5,980,887、Isne他を参照、本内容は参照によりその全体が本明細書に記載されているものとみなされる)。
【0054】
類似の数字は類似の構造を示す図を参照して本発明を下記に詳細に説明する。図1と4を参照することにより、正常な心臓10の描写を見ることができる。図4の横断面図は、チェンバ・リモデリングを受けなかった正常な心臓の右心室44および左心室42を示す。
【0055】
図2は、心臓20が虚血または梗塞領域24および健全な虚血性でない心筋28により囲まれている梗塞領域周辺26を有することを表す。梗塞が発生すれば、もはや適切な血流を受けていない心臓組織が死亡し、瘢痕組織が置き換わる。損傷により引き金が引かれ、事象の連鎖(リモデリング)が壁を薄くし、広げ、そして最終的には機能を止める。損傷組織における不十分な血流は、そうでなければ損傷組織の再増殖および回復に導くかもしれない体部位内に由来する細胞及び機序を妨げる。
【0056】
図3は図2において破線でふちどられた部位の拡大図である。図2と3は心筋梗塞あるいは他の損傷などのなんらかの虚血性損傷を受けた心筋24の範囲を表す。壊死が起こった場合は、壊死に見舞われた心筋のその部分は完全に梗塞される。虚血性/梗塞性部位26を直接取り囲んでいる領域は梗塞周囲領域として知られており、健全な心筋28によって取り囲まれている。上に論じられるように、梗塞周囲領域26は、なんらかの程度の虚血性の活動に見舞われ得るが、血液供給はまだ虚血性/梗塞性範囲24と同じ程度に遮られていない。
【0057】
リモデリングは通常、心室機能の悪化を伴った心室の進行性肥大であり、心筋梗塞後、数週間から何年にも渡り発生することができる。リモデリングには多くの潜在的な機序があるが、梗塞周囲組織への高いストレスが重要な役割を果たすと一般に信じられている。変貌した形状や大きさゆえに、壁応力は梗塞形成を取り巻いている正常な心筋組織よりずっと高い。図5は図2に示される心臓のの横断面図である。図5は右心室54およびリモデリングを受けた左心室の領域50を有する左心室52を示す。図に見ることができるごとく、拡張された領域50より心臓壁は薄い。
【0058】
限定された量のリモデリングが患者のために有利であり得、2つの前後関係において主に生じる。第1は心臓に関する平均以上の要求量に対する適応応答として若干のパーフォーマンスが高い運動選手に生じる「生理学的リモデリング」と名づけられる。生理学的にリモデリングされた心臓での心臓の形状と大きさ、及び機能における諸代償性変化はパーフォーマンスが高い環境において、心臓がよりうまく働くことができるようにする。2番目の状況は損傷後リモデリングの最も初期段階の間である。時々、このリモデリングの初期段階は実際に適応また保護的であることができる。限られた程度であるならば、心臓壁および増加したチャンバ容積の中で若干の細胞再配列は、心拍出量を維持し、あるいは増大させることすらできる。 これらの変化は有益であることができる。しかしながら、壁組成物はさらに変化し、形状と大きさは次第に機能不全に陥ったチャンバ、そして時には心不全となるこの「病的なリモデリング」はほとんどの場合、適応性があるものを越えて進行する。上記のように説明される「病理学上のリモデリング」を本開示において「リモデリング」と称する。
【0059】
詳細は研究中であるが、レモデリングの機序は事象の連鎖を含むように思われる。機械的応力を受けて筋細胞が伸びると、いくつかの分子の局所的活性が増加する(例えばノルエピレナミン、アンギオテンシン、エンドセリンおよび他のもの)。これら分子が特異タンパク質の発現を促進し、既存筋細胞の肥大に導く。これが心臓機能(例えば加えられた機械的応力)および増大した神経ホルモンの活性化における更なる悪化をもたらす。終結因子のあるものは、さらに患部の線維増多および瘢痕化に導く局部的な膠原質合成を促進する。これらの変化はしばしば代償性を越えてており、進行性心不全に導く。
【0060】
障害領域に適切な血流がない場合、内因性修復機序は心臓の組織あるいは機能を回復することができない。体部位に由来する細胞は成人の心臓においてさえ障害細胞に「帰巣」することが示されているが、血流制限は在住することおよび治癒促進から体部位に由来する細胞を妨げ得る。
【0061】
心臓機能における進行性悪化が初期には症状なく発生することができる。やがて、しかしながら、息切れ、腫脹、背臥位における呼吸困難、不整脈、臓器不全などの臨床的心不全の症状が発現する。無症候性心機能異常のある患者であっても注意を払うことは重要であり、軽度の心不全は突然心臓死のリスクが高い。そのため、初期に、そして効果的に、この疾病過程を治療する大きい誘因がある。
【0062】
心臓のリモデリングを評価する手段は、心臓の質量、心臓の形状、心臓の質量、収縮期の駆出率、拡張終期と収縮終期体積、および収縮のピークの力を含む。左心室体積(特に左心室収縮終期体積)は心筋梗塞後の人死亡率の最も良い予測因子である。
【0063】
アンギオテンシンを変換する酵素阻害(例えば、カプトプリル、エナラプリル)およびβ交感神経遮断(例えば、カルベジロール、メトプロロール、プロプラノロール、チモロール)を提供する薬物療法が心臓のリモデリングの特定のパラメータを遅くすることが示されている。これらの療法が意図するものは、有害な、または機械的なストレスが多い刺激に対する身体のリモデリング反応を減少させることであり、臨床試験において心筋梗塞および心不全患者における死亡率および罹病率を減らすことが示されている。抗高血圧剤のような他の療法が、病的なリモデリングを引き起こし、あるいは悪化させることができる心臓に対して与えられる慢性の負荷量を減少させるために用いられてきた。前述の薬の使用にもかかわらず、リモデリングが、せいぜい部分的に治療可能な過程であることは依然として変わりがない。さらに、これらの薬剤のいづれもが、より一層の心臓障害を未然に防ぎ、または心臓の組織あるいは機能を復活させるための手段として、損傷組織における心血管新生を生じさせるものではない。
【0064】
以下にさらに説明するように、本発明の実施例は、心血管新生を生じさせるために組成物を心臓壁に注入して心臓損傷とリモデリングを取り扱い、そしてこのようにしてリモデリングを未然に防ぐ。
【0065】
注入された組成物は心臓壁領域の細胞間の間隙空間のいくらかを占めることを得、新血管新生を生じさせることに加え、組織の構造補強材を提供する。本発明はあらゆる心臓壁部位に新血管新生を備えることを企図し、心房と心室の両方を含む。注入された血小板組成物は組織において、望ましい新血管新生と同様に構造用支持材のなんらかのレベルを備えることができる物質であっても良い。組織の構造補強と刺激新血管新生の両方を備えることができる諸物質はここに開示する血小板組成物に含めることができる。本文書の目的のために、用語「血小板ゲル」は、活性化剤とともに投与される血小板組成物を意味し、組織の補強材および新血管新生などの生物学的療法の両方を備え得る。さらに、血小板組成物は、活性化剤なしで投与する多血、または乏血小板血漿を意味することができる。多血、または乏血小板血漿等の血小板組成物は、その上、構造用支持材および新血管新生の両方を提供するために、生体内原位置にある組織トロンビンにより賦活化されることができる。例示的に、非限定的血小板組成物は、血小板ゲル、自己血小板ゲル、多血小板血漿および乏血小板血漿を含む。
【0066】
本発明の新血管新生を生じさせる血小板組成物は、これらに限定されないが、膠原質、シアノアクリレート、組織中に注入することにより治癒させる粘着性のもの、組織に注入後固まる、またはゲル化する液体類、縫合素材、寒天、ゼラチン、光により活性化される歯科用複合材料、他の歯科用複合材料、絹エラスチン重合体、Matrigel(登録商標)(BD生物学)、ヒドロゲルおよび他の適切な生体高分子を含む構造用支持材を提供することができる他の組成物とともに投与されることができる。このような組成物は単一あるいは多構成成分の化合物を含むことができる。これらの組成物は、液体として送達され、そして送達後ゲル化、または硬くなり固形物になる薬剤を含むことができる。硬化/ゼリー化は温度、pH、タンパク質、または標的組織に固有の、もしくはその中に創出される他の環境因子により引き起こされることができる。これら諸血小板組成物は、別々に、またはお互いに、および/または血小板ゲルと組み合わせて注入することができる。加えて、その組成物あるいは組み合わせは、他の添加剤を含むことができる。さらにこれら組成物および/または添加物の若干のものを以下に説明する。
【0067】
本発明の血小板構成物は、心臓壁への送達に際し、構造的支持構造を与えるために生体内原位置で固まり、そして/または架橋する生体適合液の全体で補強され、または含まれることができる。本発明の血小板組成物の他の実施例は、例えば、合成、あるいは自然に発生する物質、そして/あるいは強度を備えるための非分解、あるいは生分解性がある物質を含んでも良い。一実施例では、構造材料はシアノアクリレート、あるいは絹エラスチン蛋白重合体を含む。
【0068】
本発明のさまざまな実施例の血小板組成物は、心臓壁の構造強度を増やすためにフィブリノーゲンのような添加物を含むことができる。フィブリノーゲンは、自己のもの、同種異系のもの、組み換え型、ヒト、改変型、動物源からの精製物であることができる。 少なくとも、1つの実施例は治療された心臓壁の弾性を増やすためのエラスチンを含む。重要な可溶性諸因子が内在構造要素を備えることなく標的組織(組織において物理的にまたは部位に結合することにより)に捕えられるように、諸組成物は液体として(架橋あるいは凝固構成成分なしで)送達されることがあり得る。代わりに、組成物は組織に付加的構造用支持材を提供するために単数または複数の構造的材料とともに送達され得る。
【0069】
本発明は送達後に特定の時間間隔の間の強度を提供する合成の生分解性がある物質を含有している物質を使用し、そして再吸収されることが実践され得る。このような諸物質は膠原質あるいはフィブリンのような遺伝組み換えか、あるいは修正された化合物を含む。送達後特定の時間間隔の間の強度を提供し、そしてそれから再吸収の軟骨、骨あるいは骨構成成分、ゼラチン、膠原質、グリコサミノグリカン、でんぷん、多糖類、他のあらゆる物質など、しかしこれに限定されず、自然に発生する物質は同様に使用され得る。
【0070】
本発明の他の実施例は、組織増容の望ましい局部的な効果を作り出すことができる様々な化合物のいずれの組合わせであっても含み得る。局部的浮腫、組織肥大、組織の構造補強、あるいはリモデリングを未然に防ぐ他のあらゆる効果をもたらす構成要素がこの発明に含められる。このような諸化合物は組織の構造補強のための浮腫およびヒドロゲルを引き起こすためにひいて粉にされた縫合物質を含む。これら諸物質は、PRP(多血小板血漿)、あるいはPRP(多血小板血漿)+トロンビンに添加され得る。
【0071】
望ましい効果が組織の構造補強である場合は、注射針による注入のためには十分小さいが毛細管および細静脈に適合するには大きすぎる生分解性がある50-100μm(粒子の最大幅において)の間の大きさの微小粒子が血小板組成物に加え得る。粒子状物質が分解するにつれて溶出する薬物で微小粒子浸透させ得る。本発明の一実施例において、微小粒子だけを冠状静脈洞の中に注入することにより心臓組織に送達される。大きさの特徴に基づき、それらは組織にとどまり、組織の構造補強をもたらすことを期待されている。使われた微小粒子はガラス転位温度 (Tg) >37℃を有するかもしれないので、挿入後数日にわたりゲル化するであろう。注入された微粒子は、即時の組織構造補強剤のための「質量」と容積を備えるが、時間とともに単一部材となるためのゲルに軟化することになる。
【0072】
本発明の血小板組成物の実施例は、注入局所部位における重合体を維持するように、単数または複数の細胞型の表面に位置する単数または複数のタンパク質に共有結合的に直接結合することができる重合体を含むことができる。一実施例では、タンパク質の一級アミングループ(-NH3)に共有結合的に結合する重合体を用い得る。
【0073】
新血管新生を生じさせ、または組織の構造的補強材を備えるため、任意の組成物が損傷組織領域を有する心臓中に注入される前に、注入部位の部位及び範囲を確認する。
臨床家が、正常な、損傷を受け存続能力がない、および損傷を受けているが存続し得る心臓組織を識別し、評価するための複数の技術と手法が入手可能である。これらは、開胸外科手術中の目視検査、局所血流測定値、局所電気、および構造活性、核心臓病学、超音波心臓検査法、心エコー・ストレステスト、冠動脈血管造影、核磁気共鳴映像法(MRI)、コンピューター断層撮影(CT)スキャンおよび脳室造影法を含むが、これらに限定されない。本発明の1つの実施例において、血小板組成物はMedtronic Magellan(登録商標)血小板分離器を使用することにより予製される。抗凝固化全血は、抗凝固薬を被験者から採決した新鮮な全血と組合すことにより調製される。Magellan(登録商標)機器は次に、抗凝固化全血の検体からの多血小板血漿(PRP)および乏血小板血漿(PPP)を抽出するために使用される。血小板ゲルは結果として生じているPRPまたはPPPを賦活物質で結合することにより調製される。一実施例では、賦活物質は10%の塩化カルシウム溶液中1000単位/ミリリットルに戻された牛のトロンビンである。別の実施例では、PRPは牛のトロンビンと約10:1の比に組み合わせられる。
【0074】
本発明の1つの実施例においては、組成物はPRPとトロンビンの比、約10:1を使用して作られる血小板ゲルである。別の実施例は、PRPとトロンビンの比、約11:1を使用する。本発明の他の実施例は、約5:1から約25:1のPRPとトロンビンの比を有する。別の実施例では、PRPとトロンビンの比は約7:1から約20:1である。別の実施例では、PRPとトロンビンの比は約9:1から約15:1である。別の実施例では、PRPの比はトロンビンに対し約10:1から約12:1である。少なくとも1つの実施例において、トロンビンは含まれておらず、PRP単独が心臓組織の中に注入される。本発明の他の実施例は望ましい効果を達成し、あるいは最適化するために必要とされる比率に組成物の多数の構成成分を含む。
【0075】
PRPは賦活後、遊離サイトカイン、細胞増殖因子あるいは酵素と同様に、ゲル化の間に凝集することができる高濃度の血小板を含有する。PRPを構成する血小板及び白血球により遊離される多数の因子の若干が遊離血小板由来増殖因子(PDGF)、血小板由来表皮増殖因子(PDEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、トランスフォーミング成長因子β(変異成長因子-β)および血小板由来血管新生増殖因子(PDAF)を含む。これら諸因子は、膠原質分泌物、血管内殖および線維芽細胞の増殖の割合を増加させることにより癒傷に関係しているとみなされてきている。
【0076】
損傷領域の部位、大きさおよび形状が判断された時点で、臨床家はアクセスし、血小板組成物を心臓壁に注入し始めることができる。一実施例では、血小板組成物はPRPおよびトロンビンを含む。別の実施例では、血小板組成物はPRPだけを含む。別の実施例では、血小板組成物はPPPおよびトロンビンを含む。別の実施例では、血小板組成物はPPPだけを含む。血小板組成物の構成成分は人、そして/あるいは動物、そして/あるいは組換えソース由来のものであっても良い。構成成分は同様に人工的に作り出されても良い。自己由来のもの、あるいは非自己由来のもの、および非自己由来の構成成分に分類することができる血小板組成物のための諸構成成分は、上記に説明されるごとく(すなわち、動物、組み換え型、改変型、ヒト自家型など)さらに分類される。自己血小板ゲル(APG)は、自己PRPから作られた組成物あるいは自己乏血小板血漿および自己、あるいは非自己の賦活物質を意味する。注入する組成物において、自己由来のもの、そして/あるいは組換え構成成分を使うことにおける1つの利点は、それが伝染性および異物作用物質に対する受容個体の炎症反応、あるいは曝露のリスクを減らすということである。
【0077】
加えて、血小板組成物は、ダメージを与えられた心臓組織の治癒あるいは再生を促す単数または複数の生物活性剤を含むことができる。適切な生理活性剤は、医薬的に有効な化合物、副腎皮質ホルモン、細胞増殖因子、酵素、DNA、リボ核酸、siRNA、ウイルス、タンパク質、脂質、重合体、ヒアルロン酸、炎症誘発性分子、抗体、抗生物質、消炎剤、アンチセンスヌクレオチドおよびトランスフォーミング核酸あるいはその組み合わせを含むがこれに限定されない。血小板組成物は同様に幹細胞、白血球、赤血球、培養心臓細胞、あるいは他の分化あるいは未分化細胞のような細胞付加物質を含んでも良い。
【0078】
さらに本発明の血小板組成物は、X線、核磁気共鳴映像法(MRI)あるいは超音波による検出のための造影剤を含むことができる。適切な造影剤は当業者には知られており、放射線不透過性物質、エコー源性物資および常磁性物質を含むがこれらに限定されない。造影剤が注入成功の視覚的確認のために若干の実施例の組成物において使われ得る。そのような造影剤の例としては、しかし制限されないそんなものの実施例、エックス線造影(例えば、IsoVueあるいは高エックス線減衰係数を持っている他の造影剤)、磁気共鳴映像法造影(例えば、MRIにより信号あるいはシグナル・ボイド(無信号)として探知可能なカドリニウムあるいは他の造影剤)および超音波造影(エコー源性あるいはエコー不透過性化合物)を含むがこれらに限定されない。
【0079】
PRPとトロンビンが、心臓組織に血小板ゲルを形成するために混和するように注入される場合(下記の送達器具の説明参照)、それらは組織中でゲルになる。本発明のいくつかの実施例は加速ゲル化時間を備えている。送達カテーテルまたは他の機器を通じて注入部位に局所熱を与え、トロンビン濃度を高め、または混合室にてPRPとトロンビンを結合させ、そしてその混合物がゲル化し始めた後心臓組織にその混合物を注入することにより、生体内位置におけるゲル化時間を加速することができる。本説明は、互いに混和された後、諸構成成分がゲル化し、架橋し、そして/または重合する他の複数の構成成分組成物にも適用する。
【0080】
実施例においてさらに詳しく説明されているごとく、本発明の血小板組成物はテスト被験体(羊および豚)の損傷心臓壁に注入された。諸実験は、梗塞、または非梗塞組織に行われた場合、PRPとトロンビンの諸注入は安全で、また耐用性良好であり、そしてMI後1時間の早期であっても安全に実施できることを示した。制御された注入は心臓安定装置の有無にかかわらず可能であった。また外部からの心臓ペーシングなしで注入が可能であった。注入は0.5から2.5cmの間隔で心臓表面に対して直角及び斜めに行った。安全性の問題なく心臓ごとに複数の注入を実施できる。注入できる容積の合計は15mLまで、そして個々の注入の容積は注入部位ごとに1100ulまで可能である。
【0081】
さらに、心筋損傷に引き続き自己血小板ゲルを投与することは、収縮期の駆出率(EF)に関する梗塞の有害な急性効果を部分的あるいは完全に回復させ、EFを梗塞前のレベルに向けてまたはそれ以上拡張することができる。ある驚くべき結果では、心筋損傷後の自己血小板ゲルの虚血組織への投与は損傷組織の新血管新生を促進する(図16-17)。この血管新生は血小板ゲル療法を受けなかった梗塞動物には観察されなかった。血小板ゲルのすべて、あるいは一部の構成成分(トロンビンの有無にかかわらずPRPあるいはPPP構成成分)が、このような効果を生み出すために使用され得る。
【0082】
本発明を実践し、血小板組成物を心臓壁内にある標的部位に送達するために、臨床家は多様なアクセス手法の一つを使用し得る。これらは、外科的(胸骨切開術、開胸術、ミニ開胸手術、剣状突起)到達法、および経皮的(経血管および内心膜性)到達法を含む。到達が得られると、組成物は心外膜、内心膜、あるいは経血管到達法によって送達し得る。血小板組成物は単数または複数の場所にある心臓壁組織に送達され得る。これは心筋内、心内膜下、そして/あるいは心外膜下投与を含む。
【0083】
このような動いている標的組織の中に血小板組成物を予想された通りに送達する一つの方法は、心周期の精選された部分の間に、特に送達のための諸注入タイミングを合わせることである。本発明の1つの実施例においては、単数または複数の電極が、例えば、組成物送達の間に心臓のペースを保つために、刺激電極として使用されても良い。
この方法において、心周期は予測可能であるようになされ、注入のタイミングを合わせることができ、それに同期させることができる。実際、心拍間隔時間は心周期の特定の(そして比較的)静止期の間に完全な送達を妨げないように人工的に長くすることができる。一実施例では、送達機器は単数または複数の刺激そして/あるいは検出電極を含む。
【0084】
本発明の1つの実施例においては、センサーが心臓のの収縮を感知するために使用されても良く、それによって組成物の送達を心収縮とタイミングを合わせることができるようにする。例えば、心臓の収縮と収縮の間に血小板組成物の単数または複数の構成成分を送達することは望ましいことであり得る。損傷心臓組織領域を有する心臓にアクセスするか、あるいは心臓を安定させるために使用される方法にかかわらず、使用される送達装置は心臓壁の中に別々に多数の構成成分を注入することができ得る必要があることがある。本発明の1つの実施例は、一つの機器による繰り返された注入を可能にする。これは決定できる比において、単一或いは多数の成分組成の決定できる量(例えばダイヤルイン)の予測可能な送達を可能にする近位片手トリガーにより達成され得る。
【0085】
本発明の異なった実施例は2本の内腔針(lumen needle) /送達カテーテルを有している送達装置を利用し、少なくとも1つの他の実施例が3本以上の内腔針(lumen needle) /送達カテーテルを有している送達装置を使用する。針/送達カテーテルの内腔は同軸の構造あるいは双軸の構造にあることができる。
【0086】
本発明の少なくとも1つの実施例は多数の組成物構成成分の片手注入のための2かそれ以上の並んでいる注入器を含む。一実施例では、図9の機器は損傷を受けた心臓100に複数の構成成分の組成物を注入するために使われる。図9の実施例において、本発明の組成物の2つの構成成分が注入器102と104に別々に収容される。注入器102そして104は、組成物の片手注入を可能にするためにハンドルアセンブリ106内のクレードル112に配置される。アダプタ108が双軸注射針110に注入器102と104を連結する。双軸注射針110が、心臓100における治療部位に組成物の二つの構成成分である、非限定的実例において、PRPおよびトロンビンの送達を可能にする。
【0087】
図10は、送達機器300が入っている双軸注入用注射針を使用する本発明に従って、二つの構成成分組成物注入の拡大図を表す。構成成分310は貯蔵器中、または注入器306に保たれ、構成成分308は貯蔵器中、または注入器304に保たれる。構成成分310と308は、構成成分310の注入用針状管腔 (needle lumen) 314と構成成分308の注入用針状管腔 (needle lumen) 312を含む双軸注射針318内を通ることになる。構成成分310および308は同時に治療部位302に注入され、組成物316を形成するために二つの構成成分が結合される。注入後直ちに、構成成分310と308、およびある程度の組成物316が療法部位302において組織を通して拡散する。構成成分および組成物は、心臓組織において最高2cmまで拡散することが観察されている(図11も参照のこと)。
【0088】
送達系は、規定された比で組成物の構成成分を送達しても良い。この比は、あらかじめセットしておく(そして固定)、あるいはダイアルして決めて(そして変えて)も良い。本発明の1つの実施例は、別個のギアあるいはてこを(設定可能な歯数比あるいはレバー比で)注入器間に圧力こう配を生成せしめず異なった比率で多数の化合物の送達を可能にするために利用する。本発明による他の複数の構成成分送達機器は、各構成成分の前もって決定された比を可能にする異なった口径のルーメン(lumen)を含む。本発明の若干の複数構成成分の送達機器は、一つの構成成分が他のものよりいっそう遠位に放出されるように、異なった長さのルーメン(lumen)を含む。それにもかかわらず他の機器は、その機器に単数または複数の混合室を内蔵する。少なくとも本発明の送達機器の1つの実施例は、多数の構成成分の一連(次から次へ)の送達のために使用される一つのルーメン(lumen)注射針/カテーテルを含む。
【0089】
送達機器のいくつかの実施例は、標的治療部位に隣接した血管に置かれ、そして血管壁を突き抜け、針先端あるいは注射針に含まれる極小カテーテルでもって望ましい部位にうまく進ませることにより心臓壁に血小板組成物を送達するために使用することができる。カテーテルあるいは注射針は、標的範囲を識別し、送達機器を適切な位置におくための局所的な画像診断システムを含んでも良い。機器は、閉じられた遠位端を有する1本以上の針、および物質を遠位端から心臓壁内に十分横に向けて方向付けるための単数または複数の脇あきを含んでも良い。望ましくは、注射針は、抜針に際して組成物の漏れを防止するために針刺入経路が十分自己密封であるように十分に小さいゲージ径を有している。最近のデータ(心外膜送達との関連において得られた)は、血小板ゲルが大きい18ゲージ注射針を通してでさえ、注入された場合、止血作用を実証している。 この結果は、注入した構成成分および血小板ゲルに固有の止血効果により達成された迅速な血液凝固に帰すことができるかもしれない。 別の実施例では、注射針のゲージは18ゲージより小さい。1つの実施例では、注射針のゲージは26ゲージである。
【0090】
代わりになるべきものとして、送達アセンプリは、出口ポートに隣接する近接端部上に、多数のライン集合管の間に及ぶ複数のルーメン(lumen)を有する1本以上の針を含んでも良い。複数のルーメン針アッセンブリは、物質の構成成分が単独で注入されることを可能にすることを得、ここに記載されるように、それによって構成成分が、選択された組織領域の中で、送達後に互いに反応することを可能にする。
【0091】
一実施例では、ここに記載されるように、複数のルーメン針アッセンブリが組成物の2つの構成成分が同時に、独立的に注入されることを可能とすることを得、そして次に互いに選択された組織領域内で一度反応し得る。複数のルーメン針アッセンブリを有している別の実施例において、諸ルーメン(lumen)は、その針の遠端位の近くに位置する混合室に注入し、選択された組織領域に注入される前に、注入された物質の構成成分が互いに直ちに混和される。本発明の血小板組成物はカテーテル方式により心臓壁に送達されることができる。
【0092】
本発明のために適したカテーテル送達方式は、ねじれ型あるいは平坦型先端の多数の双軸、あるいは同軸のルーメン(lumen)を有している方式を含む。本発明のカテーテル方式は、遠心端に位置する針あるいは他の注入機器、およびカテーテルの近接端部における注入器を含むことができる。本発明のカテーテルおよび他の送達機器は、望ましい比に複数の構成成分組成物を心臓組織に送達することができることを保証するために異るサイズに定められているルーメン(lumen)を有することができる。カテーテル方式の別の実施例では、徐放するために心臓壁そのものの中に組成物貯蔵器を作成するために用い得る。遠位部が望ましい療法部位に隣接するまで、カテーテルは血管の中に血管導入しても良い。針アッセンブリは血管壁に穴を開け、心臓組織に入れるために正しい方向に向けて置かれ得る。組成物はそして次に心臓組織に注入され、それによって、貯蔵を形成することができる。カテーテル方式を使用する場合、臨床家は血管を通じて心臓にアクセスする、あるいは心外膜性に(FIG. 12) 、心内膜性に(図13A -B)、あるいは経血管性に(図14A -B)組成物の送達のため心腔にうまく進む複数の経路の一つを使用して患者の心臓にうまく進むことができる。 図12と13により、心臓全体の横断面を示す。図14において、右心室と心房は断面図に示され、一方で左心室と心房は閉じられており心外膜表面およびその冠状血管が見えるように示されている。
【0093】
血小板組成物の心外膜送達は、図12に表す心臓の表面、外面である心外膜から心臓200の左心室516にある治療部位520にアクセスすること、および送達機器522で持って治療部位520に組成物を注入することを含む。
血小板組成物の内心膜性送達(図13AおよびB)は、例えば右心室504の中に上大静脈 (送達機器540)または下大静脈(送達機器540)を通じて順行性到達法(図13A) により経皮的に、送達機器540、540’により、心臓200の左心室にある治療部位 (Tg) にアクセスすることを含む。送達機器540は、送達機器540で組成物が注入される療法部位520に達するために心房中隔を通過して左心房508、そしてそれから左心室516の中に入る。図13Bに表す代替の内心膜性送達法は、例えば送達機器560で経皮的に逆行到達法により大動脈512を通って左心房508に入り、そしてそれから送達機器560で組成物を注入する治療部位520に達するために左心室516に入り、心臓200の左心室にある治療部位520にアクセスすることを含む。
【0094】
血小板組成物の経血管送達(図14AおよびB)は、例えば右心室504の中に上大静脈500 (送達機器580)または下大静脈502(送達機器580’)を通じて静脈性到達法(図13A) により経皮的に、送達機器580、580’により心臓200の左心室にある治療部位520にアクセスすることを含む。送達機器580は、これらの静脈を介して心静脈系に冠状静脈洞503を通って通過し、必要であれば心臓組織を通りこれら静脈をたどることにより離れ、組成物が送達機器580で注入される治療部位520に到達する。図14Bに表される代替の経血管送達方法は、例えば、送達機器590で経皮的に動脈性到達法により冠状動脈595を通じて組成物が送達機器590で注入される治療部位520に到達するために心臓200の左心室にある治療部位520にアクセスすることを含む。
【0095】
本発明の血小板組成物を注入するための機器は、さまざまな組成物の構成成分を冷却された状態に保持するための冷蔵部分を含むことができる。本発明を実践するための送達機器のさまざまな実施例は、トロンビン再充填用の冷蔵/冷却式の室、トロンビン用冷蔵/冷却式の室、そして/あるいはPRP再充填用撹拌機構、または沈殿物を未然に防ぐための注液室を含むことができる。送達装置には、送達後のゲル化/硬化速度を速め、または遅くするために心臓組織、または組成物を暖め、または冷やすために用いる加熱もしくは冷却装置を含めることができる。本発明の若干の機器は、機器ルーメン(lumen)を通って移動する間に注入組成物の成分を冷たく保つために冷却された一つのルーメン(lumen)、または複数のルーメン(lumen)のあるカテーテル、または他の送達機器を含むことができる。上記のとおり、一部の機器は、物質が組織の中に送達される前に、注入する組成物の構成成分を混和するための混合室を含むことができる。本発明の1つの実施例において、PRPは、PRPを均質に保つために十分な撹拌を提供する攪拌/振動室に貯蔵される。別の実施例において、臨床家はPRPを均質に保つために機器を傾けるか、あるいは他の方法で操作することにより送達機器に十分な撹拌を提供する。
【0096】
本発明を実践する臨床家は一つの送達アッセンブリを使用して多数の注入をする必要があることがあり得る。そのため、本発明の送達機器の少なくとも1つの実施例は、少なくとも1本の再利用可能な注射針を有している機器を含む。本発明の若干の実施例は、自動投薬システム、例えば、注入器による注入を進める方式を有している送達機器を含んでも良い。自動投薬システムは、各量を前もって決定し、また、ダイアルを合わせること(可変、または固定することができる)、例えば、ネジタイプの設定方式、を可能にすることができる。本発明の1つの実施例は、基部ハンドルが押されるごとに前もって決められた投薬量が前もって決められた、または手動制御可能な割合で送達される基部ハンドルを含んでも良い。
【0097】
さらなる代替の実施例において、カテーテルの外面に沿って前もって決定されている配置に実装されるように、送達システムは複数の針アッセンブリ(上記の個別針アッセンブリに類似している)を含んでも良い。1つの実施例において、針アッセンブリは単数または複数の横列に整えても良い。特に心筋内の、例えば血管に相当な程度並行して広がっている広範囲の離れた組織領域にアクセスするには望ましい。多数から成る針経血管カテーテル方式でもって、一つの機器が血管の中に送達され、正しい位置に置かれても良い。配列された複数の針は広範囲の組織領域に組成物を注入するために順次、または同時に配置されても良く、それにより選択した軌跡パターンを備える。上に記載するようなカテーテルをベースとした機器は、米国特許No.6,283,951に開示されており、その開示はそれを参照することにより本書に組み込まれる。
【0098】
臨床家が最低限外科的な、あるいは経皮的な手法を使って本発明を実践する場合、リアルタイム可視化あるいは誘導のなんらかの種類のものを部位特異的の注入を保証するために必要とすることがある。そのため、少なくとも本発明の一つの実施例は、リアルタイムで標的部位にカテーテルを追跡するために手術前MRI、またはCTイメージを送達カテーテルの蛍光透視イメージの上に重ねるMRI誘導技術を使用する。一つの実施例において、臨床家は、仮想3次元の環境において、注入の間造影剤そして/あるいは針先を追跡する誘導技術を使用する。本手法は将来の注入の適切なスペースを確保するために以前の注入を記録するものである。
【0099】
針アッセンブリ(あるいは他の機器構成成分)は望ましい部位に組成物の送達を導くためにフィードバック要素あるいは生理学的条件反射を計測するためのセンサを含んでも良い。例えば、EKG誘導は遠位端に含まれても、さもなくば心臓組織の電気的に静穏な領域に向けた注入を探知し導くために、あるいは組成物の送達の間モニターされる心臓内の電気的事象を考慮するために選択された組織領域内に送られても良い。治療の間、例えば、組成物を望ましい条件に適合するまで、組織領域の中に送達しても良い。同様に、局所的なEKGモニターは心臓組織の電気的に静穏な領域を標的とし、それに向けて注入を誘導することができる。
【0100】
血小板組成物を送達するために使用する機器、あるいは臨床家がどのように心臓壁にアクセスするかにかかわらず、本発明を実施する臨床家は正確な局所設置、および各注入のための正確な深さ制御を必要としている。本発明の1つの実施例において、物質は心臓壁における外壁および内壁のほぼ真ん中の深さに送達され/注入される。他の実施例において、物質は内壁あるいは外壁により近い深さに送達される。物質は、内心筋性に、準心内膜性に、あるいは準心外膜性に送達され得る。本発明の別の実施例において、注入の深さは、標的組織の肉厚により変化し、深さは、心臓の他の部位におけるよりも心尖においては浅い。
【0101】
深さの対照を得るために、本発明の少なくとも一つの送達機器は、針の遠位端から望ましい距離に、指定された深さを超えて組織を貫通することを未然に防ぐために針体に固定したストッパー(あるいは調整できるように固定された)を含む。若干の実施例は、注入の深さ制御をするために組織に正接で組織内に1またはそれ以上の針を刺し入れる方法を用いる。本発明の少なくとも一つの実施例において、針は、組織に対し垂直(90度)、組織に対し正接(0度)、その間の任意の角度で注入する位置に置くことができる。吸引が注入器の位置決めおよび侵入のコントロールを容易にすることができる。
【0102】
図6を参照すると、本発明の一つの実施例による送達機器(示されていない)の針65が心臓壁60のリモデリング部分に通常垂直の角度で接近している注入の一例を見ることができる。心臓組織内の望ましい送達部位62の上の点61にある心臓壁に直接針が穿通する。機器は、例えば上記のように、針が心筋中に望ましい穿通深さを達成することを確かなものにする単数または複数の手段を含んでも良い。
【0103】
図7は送達機器(示していない)の針75が心臓壁の望ましい注入点71にほとんど接線方向の角度で近づく場合における本発明の一つの実施例に従った注入の例を示す。針は、心臓組織内の望ましい送達部位72から接線方向に望ましい距離に位置する点71で心臓壁を穿通する。図示されていないが、吸引タイプの安定化機器を標的領域、あるいは心拍動隣接部を安定させるため、位置の付近、あるいは注入部位付近の心臓の表面にそれぞれ用いることもある。機器は、組成物が送達されることができるように、心筋70のドーム型部分を確保する。針が心筋中への穿通を達成するが超えないことをたしかなものとするために上記で説明したごとく機器は単数または複数の手段を含むことができる。
【0104】
本発明の少なくとも一つの実施例は、針先端が心臓壁内に維持されるように針先端から心室血液隔壁、あるいは内心膜表面間での距離を探知する「スマート針(Smart-Needle)」を使用する。このような針は超音波のような画像診断方式による針先端の周り、あるいはその先の画像診断に頼ることができる。
【0105】
時には注入部位の周りにできるだけ広く血小板組成物を分布させることが望ましいこともある。注入部位の周りに血小板組成物を一様に分布させるようにすることも同様に望ましいこともある。注入部位周囲での血小板組成物の分布を高めるための一方法は、終末に穴のある針の使用に対し、横に穴のある針を使用することである。多数の横穴は、注入部位の周りに組成物の幅広い分布を提供することができる。横穴はまた、むしろ針の先端のみからよりも多数の場所から組織へのアクセスを備えるので、それにより組成物は広い分布のためにより少ない移動が必要である。これらの針の横の穴の潜在的利益は、針先が心臓壁をたまたま貫通して心チャンバに入ったとしても、心チャンバ内血流に注入されることとは対照的に、この場合でもなお組成物は心臓組織に注入されるだろうということである。注入部位の周りに組成物の分布を高めるもう一つの方法は、注入部位で使用される針の数を増やすことである。必要に応じ、本発明の複数針の送達機器は、単一針の機器の使用に比べて、大きな領域に均一な分布を備えるために複数の針を互いに接近させて置くことが可能である。複数針の機器の針にある横穴の組合わせは、注入部位の周りに組成物の広範囲分布を提供し得る。
【0106】
本発明の一つの実施例において、注入部位周囲に組成物の分布を改善するために吸引を使用しても良い。吸引の使用により間隙空間に陰圧を作り出すことができる。負の圧力勾配により組成物が動かされるので、間隙空間内のこの陰圧は、組成物はより自由に遠くまで移動することを助けことができる。複数針の機器の針にある吸引と横穴の組合わせは、注入部位の周りに組成物のより徹底的にまた広範囲に分布を提供し得る。
【0107】
本発明の一つの実施例において、送達機器から組織への血小板組成物が、電流の適用を介して、例えば電気泳動を介して高められ得る。概して、組織中へのイオン化された物質の送達は、2つの電極間を流れる小電流を介して強められ得る。正のイオンが陰極から陽極、あるいは負のイオンから組織に導入され得る。イオン泳動法の使用は、特定のイオン化された物質の組織を通した移送を著しく促進することがある。
【0108】
一実施例では、送達機器の1本以上の針が正、そして/あるいは負の電極の役割を果たし得る。例えば、標的組織にイオン化した組成物をイオン泳動的に送達するために単極配列を介して針電極との組み合わせでアース電極を使用しても良い。1つの実施例において、組成物が最初に針から組織へ分散され得る。送達に続き、組成物は電流の印加を介して、イオン泳動的により深く組織に追いやることもでき得る。一実施例では、多数の針を有している送達機器が、双極性配列による正負両極を含んでも良い。さらに、一実施例において、多数の針電極が、同時に、あるいは順次物質を注入するため、そして/あるいは電流を与えるために使用され得る。
【0109】
本発明を実践する場合の一つの目標は、心臓の一つあるいは複数の室へ、冠状動脈、あるいは静脈系への不慮の送達を回避することである。一箇所またはそれ以上の領域への物質の送達は、例えば肺、または全身の塞栓形成、脳卒中、心鬱血、そして/または遠隔に置ける血栓塞栓症等の否定的な結果となる得る。本発明は方法の多様性により、これらの否定的な結果を未然に防ぐことに対処し目指すものである。
【0110】
本発明の少なくとも1つの実施例において、構成成分の一つまたはそれ以上の移動を最小にするために、ほとんど瞬時に生体内原位置で組成物がゲル化する、あるいは重合するように組成物の構成成分の比を選択する。 一実施例では、バルーンカテーテルが冠状静脈洞に置かれ、ゲル化が完了するまで送達の間膨らませておく。これにより液体構成成分が組織から冠状静脈枝に移動することを未然に防ぎ、そしてその代わりに標的組織への滞留とゲル化を促進することになる。少なくとも一実施例は送達機器に、注入液圧力が心室のチャンバ圧力を決して超えないことを確かなものとする圧力制御システムを含む。これにより組織に貯留することを促進し、テベージウス静脈系を通して心臓のチャンバへの組成物の圧力駆動移行を未然に防ぐことになる。本発明の一つの実施例は、否定的な結果が発生することを未然に防ぐために上記に説明したごとく「スマート針」を使用する。
【0111】
少なくとも本発明の一つの実施例は、針先を覆い、または複数の注入を必要とする注入と注入の間に針の先から構成成分の外向き流れを未然に防止するための局所的陰圧を適用する近位手動末端スリーブを含む。少なくとも一つの実施例において、カテーテルの構成成分のカラムは、注入と注入の間に流出を防ぐために一定の最小圧力以下に保たれている。少なくとも一つの実施例において、一つの構成成分が他を含んでいる管路内へ流入することを防止するために逆流防止弁を各管路に置いても良い。ゲル化反応が迅速であり異なる構成成分を注入時および注入部位まで分けて保たれねばならない場合、このことは重要である。このことにより、送達機器の詰まりを防ぎ、それにより一つの機器を使用して反復した注入が可能になる。本発明の少なくとも一つの実施例は、注入に続き、抜針する前に出血した血液の逆行を防ぐために「栓」として注入液を利用するように抜針中またはその後、何秒間かその場に針を保ち(例えば、血液凝固時間を越える5-30秒間)針刺入経路からの出血した血液の逆行を防ぐ。本発明の少なくとも1つの実施例において、針を注入する物質の予想されるゲル化時間の間、同じ場所に残し、そしてそれから抜く。本発明の一つの実施例において、注入する組成物のゲル化時間は5秒である。
【0112】
本発明の幾つかの実施例は、望ましい部位まで送達機器を導くセンサ、注入が望ましい深さで起こることを確かなものとし、送達機器が治療部位にあることを確かなものとし、望ましい量の組成物が送達されることを確かなものとし、そして使用されるべきなんらかのタイプのセンサまたは画像化手段を必要とするかもしれない他の機能を含むことができる。例えば、電気的活動のリアルタイム記録(例えば、EKG)、pH、酸素付加、乳酸等の代謝、CO2、あるいは心臓組織の生存度または活動の他の局所的な指標は、望ましい部位に注入を導くことに役立つ。本発明の若干の実施例において、送達機器は単数または複数のセンサを含んでも良い。例えば、センサーは単数または複数の電気のセンサ、光ファイバーのセンサ、化学的なセンサ、画像診断センサ、構造のセンサそして/あるいはコンダクタンスを測る近接センサであっても良い。一実施例では、センサは送達機器周辺組織の深さを決定するための組織深さセンサであっても良い。一実施例では、先端がチャンバー血液に入った場合および時には、pH、酸素付加、血液代謝産物、組織代謝産物等を検出するセンサは、使用者に警告を与えるために送達機器の末端で使用されても良い。これにより操作者は、組成物を送達する前に、送達器具を再配置させることになる。組織中に穿通する針の深さを制御するために1つ以上の深さセンサを使用しても良い。この方法で、針穿通深さを組織、例えば、例を挙げると心臓のチャンバ壁の組織の肉厚に従って制御することができる。若干の実施例において、センサは送達機器の1本以上の針に設置、あるいは配置されても良い。若干の実施例において、センサは送達機器の組織接触表面に設置、あるいは配置されても良い。本発明の他の実施例において、送達機器は単数または複数の指示器を含んでも良い。例えば、例えば視覚あるいは音響の様々な指示器は、望ましい組織深部が達成されたことを医師に示すために使用されても良い。
【0113】
さらに、送達機器は、送達機器が注入時に心室内ではなく心臓壁内にあることを確かなものとすることを外科医、あるいは臨床家が可能にするセンサを含んでも良い。注入器の位置の決定を可能にするようなセンサの非限定的実例は、圧力センサ、pHセンサ、および酸素などの溶け込んでいる気体のためのセンサを含む。本発明と共に使用するために適している送達機器と関連している追加のセンサは、逆流ポートまたは送達機器の針部分が組織内よりむしろ血流を有する領域内にあることを外科医または臨床家に知らせる逆流ルーメン(lumen)等の血流を示すセンサを含んでも良い。
【0114】
注入される血小板組成物の量は、心臓の大きさおよび治療する領域により様々なのであるが、本発明の少なくとも一つの実施例は、約1100μLの血小板組成物を注入部位ごとに心臓壁に注入する。別の実施例においては、約200μLから1000μLの血小板組成物を注入部位ごとに送達する。少なくとも一つの他の実施例において、約100μLおよび10000μLの血小板組成物を注入部位に送達する。別の実施例では、約50μLの血小板組成物を注入部位ごとに心臓壁内に注入する。一実施例では、臨床家は臨床リスクを最小にする一方で、臨床的有益性を最適化する注入量、注入部位の数と注入部位の面間隔、および心臓毎の組成物の総量を調整する。
【0115】
心臓毎の合計注入容積は、心臓の大きさ、心臓壁の損傷領域の大きさ、望ましい範囲の組織構造補強、そして/あるいは必要としている脈管再生の大きさに基づいた用量依存的であっても良い。少なくとも1つの実施例において、心臓壁に注入される血小板組成物の総量は注入部位の合理的な数において、組織により受け入れられることができる量である。別の実施例において、注入する組成物の合計量は15000μL(15mL)以下である。
【0116】
心臓毎の注入部位の数は、損傷領域の大きさおよび形状、注入が望ましい位置、および注入部位を分離している距離に基づき得ることができる。 少なくとも1つの実施例において、注入部位の数は5〜25部位に及ぶことができる。注入部位を分離している距離は、注入部位ごとに注入される血小板組成物の望ましい量、注入される望ましい総量、および損傷を受けている組織の状態に基づき様々である。少なくとも1つの実施例において、注入部位間の距離は約2cmであり、少なくとも1つの他の実施例において、注入部位間の距離は1cmである。さらに別の実施例では、注入部位の分離距離は、約50mmと約2cmの間の範囲に及ぶことができる。別の実施例においては、注入部位の間の距離は0.5cmから2.5cmの範囲に及ぶことができる。別の実施例では、注入部位の間の距離は2.5cmを超える。個別の単一注入としての代わりに、注入を針刺入経路に沿って持続注入または断続注入することができる。本発明の1つの実施例においては、血小板組成物を血管の形成を促進するパターンで心臓組織に注入する。一つの例示的パターンは血管形成が線状型に沿って刺激されるように組織の二つの標的領域を結ぶ線状型である。別の実施例においてパターンは分岐している。特に、血管形成は太い導管の形成を含む。
【0117】
図11に本発明の血小板組成物の多注入後損傷心臓組織の領域を表す。組成物は心室あるいはチャンバの平面402に沿って心外膜表面404および内心膜性表面406の中ほどの損傷心筋中に注入される。組成物は注入部位から数cmに注入液の拡散をもたらすことになる多注入部位410、420、430、および450に注入される。注入する組成物は、多注入が約2cm離れている場合は、組成物が構造用支持材料の重複フィールドを形成するように放散する。例えば、組成物412は注入部位410に注入され、図11に表されるように、拡散する。さらに、組成物422は注入部位420に注入され、拡散し、そして組成物412と混ざり合う。これは、組成物412、422、432、442そして452が構造用支持材料の連続した重複フィールドを形成するように注入部位430、440そして450で繰り返される。 本実施例では、組成物412、422、432、442および452が同じ組成物、非限定的実施例において、自己血小板ゲル化である。別の実施例では、一つ以上の組成物を治療部位を注入することができる。
【0118】
送達の位置は心臓組織の損傷領域および組織の構造補強の望ましい範囲の大きさと形状に基づいて変更することができる。本発明の少なくとも1つの実施例において、組成物は損傷心臓組織にのみ送達され、一方で他の実施例では損傷領域の周りの損傷周囲帯域が治療され、少なくとも他の一つの実施例では、組成物は損傷領域と隣接する健康な組織にのみ送達される。他の実施例において、組成物は損傷心臓組織のあらゆる組み合わせ、周辺損傷帯域の組織、および健康な組織に送達されても良い。
【0119】
障害事象に関連した血小板組成物送達のタイミングは、損傷重篤度、損傷の範囲、患者の状態、そしてあらゆる組織リモデリングの進行に基づくことになる。少なくとも1つの実施例において、血小板組成物はMIなどの障害事象後1ないし8時間、例えば虚血-再灌流の後(再灌流の後直ちにカテーテル検査室の設定において)1ないし8時間以内に送達する。別の実施例において血小板組成物は、障害事象の1時間以内に心臓壁に送達される。別の実施例では、血小板組成物が損傷後三日ないし四日後(患者が別個の処置を受けることを安全にする患者の臨床的安定後)に注入される。少なくとも1つの実施例において、損傷後最高数ヶ月、または数年を含み、血小板組成物を損傷の一週間以上後に送達する。心臓壁の中に組成物を注入するための他の日時も、あらゆる障害事象に先立つことを含み、また障害のある心臓組織の領域の発見にあたり直ちに(古い障害における付加的なリモデリングをあらかじめ予防するため)予測される。本発明の別の実施例において、障害事象の何年も後に組成物を心臓組織に注入することができる。別の実施例では、障害事象の後、約1時間から約2年に血小板組成物を心臓組織に注入する。別の実施例では、障害事象の後、約6時間から約1年に心臓組織に血小板組成物を注入する。別の実施例では、障害事象の後、約12時間から約9ヶ月に心臓組織に血小板組成物を注入する。別の実施例では、障害事象の後、約24時間から約6ヶ月に心臓組織に血小板組成物を注入する。別の実施例では、障害事象の後、約48時間から約3ヶ月に心臓組織に血小板組成物を注入する。別の実施例では、障害事象の後、最高10年までに血小板組成物を心臓組織に注入する。
【0120】
添加において血小板のための前述の使用権に他の損傷組織が、添加において損傷心臓組織に、新血管新生を促進する治療の送達から役立つであろう本発明、それの組成物、方法および方式は当業者には自明である。そのような組織の実施例は、傷、胃腸の組織、腎臓、肝臓、皮膚、および、脳、脊髄と神経のような神経組織を含むがこれに限定されず、臓器または部位における虚血組織を含む。
【実施例】
【0121】
ここに開示する本発明の方法および機器のテストを行うために諸実験は、実験室条件において行った。これらは、生体外実験(実施例1および2に記載)、健康な豚組織において行った生体内研究(実施例3および4)、および損傷羊組織で実施した生体内研究(実施例5)を含む。
【0122】
実施例No.1
自己血小板ゲル(APG)のための構成成分のさまざまな組み合わせをヒト血液、豚血液および羊血液を使用して生体外においてテストした。一つの組成物は、60mL全血(52.5ml全血 + 7.5mL抗凝固剤[クエン酸、クエン酸ナトリウムおよびデキストロースを含むACD-A、抗凝固デキストロース・クエン酸塩溶液A])からの6mL多血小板血漿の抽出を必要とした。このPRPは標的組織においてのみ混合が起こるように牛のトロンビン(10%CaCl2中にある1000U /ml)と約10:1(vol:vol)で混ぜた。これは以下に説明する生体においてテストされた組成物である。
【0123】
実施例No.2
ゲル化に影響を与えるフィブリノーゲンの能力そして/あるいはAPGの物理的性質は生体外において直接テストした。PRPおよび乏血小板血漿(PPP)をMedtronic Magellan(登録商標)血小板分離器を使用して新鮮なヒツジ血液から調製した。エタノール沈殿方法を使った結果生じているPPPから自己フィブリノーゲンをさらに抽出した。寒冷沈降反応のような代替の方法をフィブリノーゲン分離のために使用できる。沈殿したフィブリノーゲンを増強自己フィブチノーゲンPRP(AFFPRP)を産生するためPRP中に再度懸濁した。同じ動物からのものである(1)10:1比の牛のトロンビンPRP + 1000U/mlから作成した従来からのAPGと(2)10:1比の牛のトロンビンAFFPRP + 1000U/mlから作成した増強フィブリノーゲンのAPGの二つの調製品を比較した。同じ動物から精製した増強フィブリノーゲンAPGは、従来のAPGよりも目立ってより硬く/より強いものであった。このことは、ゲル化速度を減ずることなく、APGの機械的特性を増補するセルフィブリノーゲンの有用性を立証するものである。
【0124】
実施例No.3
組織内で接触し凝固する二つの分離された組成物(自己PRPおよび牛トロンビン)としてのAPGの壁内輸送が生体内で安全に達成することができることが成功裏に実証された。
【0125】
モデル&進入路:健全な豚のモデルを送達の安全および有効性をテストするために使用した。180ミリリットルのヘパリン添加していない血液を得、処置の日にMedtronic Magellan(登録商標)自己血小板分離器を使用してPRP18ccを作るために使用した。動物は次に250-300の範囲の活性凝固時間(ACT)にヘパリン処置された。胸骨正中切開術が心臓の心外膜表面に進入路を提供した。
【0126】
注入:3つの注入方式をテストした。方式1はPRP単独を送達する27ゲージの注入器。方式2は、針内へのルアーロック付き2ルーメン(lumen)傾斜カテーテル(各内径[ID]0.0085インチ)を含む18ゲージステンレス針および二つの独立近位注入器 (サイズは12 mLと1 mL)。注入器は、望ましい比において(本実施例では約11:1)二つの組成物の同時注入を確かなものとする片手操作集合管を使用して操作された。
これは、自己PRPおよび牛トロンビンを注入するために使用された。そして、方式3は、2本の針注入器を備えた吸引ヘッド(心臓の心外膜表面上に位置される)と組み合わさった吸引注入器。吸引部材は心臓の拍動の局所的な安定化を達成する吸引ポンプにより駆動される。針(チャンバの平面に平行な組織に入る)が制御可能な深さに送達できるように、加えて心臓壁を吸引カップ内に引き寄せる。図10に表すごとく、針は二つの分離された注入器で駆動され片手注入集合管にも固定されている。自己PRPおよび牛トロンビン(この実施例では11:1)の望ましい比の送達を確かなものとするために12mLと1mLの注入器が使用された。少量の多数の注入(200-400μl/各)は心外膜外科的到達法によって遂行される。上記方式1および2を使用して注入するために、注入は標的組織に垂直になされ、「深さ固定装置」は望ましい深さに注入することを確かなものとするために用いられた。標的深さは左心室において5mm、および右心室において3mmであった。深さ固定装置は、注入針が通過する中央の穴を有するC型の部材で構成されている。針の長さに沿って望ましい位置に、その外側に沿って深さ固定装置を止めるために側部ネジ(ねじ込むにつれて深さ固定装置のルーメンのサイズが狭くなる)を使用した。力を加えることにより標的組織内に穏やかに針が進められるにつれ、深さ固定装置のレベルまで針が到達し、それを超えては進まなくなる。このようにして、本方式は、組織内への針穿通の固定された深さを確かなものとし、壁の肉厚が既知であれば、あるいは見積もることができる場合には壁内注入が生じていることを確かなものとする。
【0127】
本研究におけるすべての注入のために、Medtronic Starfish(登録商標)(米国ミネソタ州ミネアポリスMedtronic, Inc.から入手可能)を心臓拍動の安定化手順として使用した。
【0128】
標的組織:左心室(LV、底部、中間位置、心尖)、および右心室(RV,底部、中間位置、心尖)に注入を行った。LVの中への注入は5mmの深さに目標を定めた。RVの中への注入は3mmの深さに対象を定めた。
【0129】
組成物:異なった注入液をテストした。
1) 自己PRPのみ―外因性トロンビンの欠如において凝血塊形成が発生するか否かを決定するため
2) 自己PRP + 牛のトロンビン
3) 各上記注入は自己PRPにトルイジン青色素の添加のあるなしにより行われた。
これは実験的な目的のために追跡用色素の有用性および有効性をテストするものであった。
4) 食塩水対照
【0130】
結果:APG注入後の止血作用は卓越していた。特に、健全な豚の心筋中において、APGを最高1000μl/各までを多数、左心室へ注入することは可能であり臨床的に安全であった。最高3日間の追跡調査において有害事象は観察されなかった。特に、健全な豚の心筋中において、APGを最高200μl/各までを多数、右心室へ注入することは可能であり臨床的に安全であった。有害事象は2時間を超える追跡調査時間では観察されなかった。
【0131】
23箇所の注入により、注入中または最後の注入後1時間の間、不整脈、低酸素血症、あるいはどのような臨床的に危険な徴候もなく耐用性良好であった。死後、血栓あるいは血栓塞栓性続発症は見いだされなかった。23箇所の注入のすべては成功しており、剖検中注入部位を調べた。
【0132】
さらに、心筋中へのAPG注入は不整脈に対して防護効果があることを実証した。この豚モデルにおいて、左心室分割注入における5600μl注入は、塩化カリウム(KCl)の血管内投与量により引き起こされる致死的不整脈に相対的に抵抗する。KClの標準用量により10-15秒中に予想される細動を来たす代わりに、不整脈は1.5分以上において観察されなかった。なんらかの不整脈が発現する前に、KClの2回目の投与量が必要であった。
【0133】
血小板ゲルは外因性トロンビンの添加なしでPRPのみから形成されることができる。心筋に注入された多血小板血漿はそれのみで(トロンビンなしで)生体内原位置で驚くべきことにゲル化する。本発明者は、組織トロンビンはこのゲル化反応の引き金となるのに十分な量中に存在していても良いとする非拘束仮説を定式化した。それゆえ、単独で生体内における心筋に注入される場合、PRPは組織内にAPGを作り出すために使用されても良い。
【0134】
実施例No.4
PRPにトルイジン青色素を添加することにより多血小板血漿を組織中に探知することができる。この色素は、トロンビンとの組み合わせにおけるPRPのゲル化の特徴(ゲル化の速度、ゲル化の範囲、得られたゲルの硬さ)をはっきりと分かるように変化させない。
【0135】
心筋中への注入によるAPG分布のパターンは、生体において評価した。3匹の豚において、トルイジン青でラベルしたAPGの注入は、各注入が組織内のすべての方向にAPGの分布をもたらす結果を実証した。最も重要な拡散は心室の平面に沿っている。
【0136】
APGは心室の平面において放射状に最高1.5cm移動する。注入によっては、APGは注入部位から1.5cm以上離れて検出された。組織中の素材の更なる拡散を妨ぐ十分なゲル化が起こるまでゲル化過程中APGが移動する可能性は高い。
【0137】
実施例No.5
虚血心筋中へのAPG注入の急性効果は、羊の前壁梗塞モデルにおいて調べられた。このモデルにおいて、心筋梗塞は障害の数分以内に発生する有害な構造的、そして機能的変化をもたらす。リモデリングの初期の特徴は心室弛緩、壁菲薄化、無動症およびしばしば運動障害を含む時間がたてば、リモデリングが継続するとこれらの変化が進行する。損傷心筋にAPGを供給することにより早期梗塞後治療介入がリモデリング過程を妨げることができると決定された。加えて、そのようなAPG処置は、APGを受けなかった対照塞栓動物以上に塞栓を起こしている心臓組織の新血管新生において有意な増加をもたらした。
【0138】
梗塞、あるいは非梗塞組織に行われた場合、注入は安全であり、耐用性は良好であった。また早ければMI後1時間であっても安全に履行できることを実験は示した。制御された注入は心臓安定装置の有無にかかわらず可能であり、また外部からの心臓ペーシングなしで注入が可能であった。注入は0.5から2.5cmの間隔で心臓表面に対して直角及び斜めに行った。総注入量は心臓あたり15.0mlの高い量であっても、また個々の注入は、注入部位ごとに1100μlの高い量であっても、安全であることがテストされた。
【0139】
梗塞後1時間でAPGを受け、2週間追跡調査をした13匹の羊において、APGは不整脈関連梗塞後死亡率を梗塞を受けた既存対照動物の25−30%から梗塞プラスAPGを受けた動物の8%に減少させた。
【0140】
梗塞形成およびAPG注入後、リモデリングは急速に防止された。この13匹の羊の研究において、心臓の形態および機能をAPG注入前後の異なる時点で評価した。MI後1時間のAPG注入は心臓壁が顕著に厚くなることと注入後にMI後運動障害の矯正をもたらした。APG注入なしの梗塞を受けた既存動物に対し、MI後リモデリングが部分的あるいは全体に防がれた場合、この効果は追跡調査2週間で引き起こされつつあった。
【0141】
この前壁梗塞のモデルにおいて、梗塞形成の数分以内に心室は梗塞前拡張期容積の152.4%に容積を広げた。収縮期の駆出率(EF)も梗塞形成後、基線の62.1%に極端に下がった。5匹の動物において梗塞形成1時間後、APGを損傷心筋に注入した。処置を受けた心臓は、心筋内に送達される分注により、それぞれ10から13.6ccの間のAPGを受けた。この処置は、予想された梗塞後拡張期容積の増加を梗塞前容積の152.4%から108.6%に減少させた。これは、リモデリングの鍵となる測定基準の一つである予想されるMI後のチャンバの拡大を防止するAPGの実質的な効果を実証している。前MIレベルの62.1%から70.3%まで回復したごとく、本研究において、APG注入はMI後EFに関する薬効をも有した。1匹の動物において、APG送達はMI前レベルの111.1%であるEFをもたらした。すなわち、この動物において、EFは基線において45%、梗塞直後35%、そしてAPGの投与後50%であった。これは、心臓損傷後のAPG投薬が、EFに関する梗塞形成の部分的または完全な有害急性効果を回復させること、および若干の状態においては梗塞前のレベルにEFを拡張することがあることを実証するものである。
【表1】
【0142】
梗塞1時間後、および8週間後にAPGを受けた12匹の羊において、標的虚血組織における新血管新生にAPGは驚くほど関連していた。標的組織は明らかに虚血性であり、機能的構造を発生するために成長することはいうまでもなく、細胞生存のためには劣悪な環境を備えているのでこの効果は予想されなかった。12匹の動物中12匹において、APG処置された梗塞領域中に多くの小血管が8週間において観察された(図16と17)。血管中に観察される赤血球は周囲組織に新鮮な血液供給を提供することができる機能的な血管であるとみなすことができる灌流の示唆に富んでいる。このような血管はAPG注入なしで梗塞形成に見舞われている動物において通常観察されない。
【0143】
実験は、APGの凝固速度における動物間(そして多分患者間)とAPGの機械的性質のバラつきがあることを明らかにした。改善されたAPG凝固速度/強度を示す方法は、APGを作成するために1000U /mlにおいて高用量牛トロンビンを使用し、APGを作成するために冷却された(〜0℃)トロンビンを使用することを含む。加えて凝固速度/強度は高濃度のフィブリノーゲン(例えば、エタノール抽出あるいは冷凍調整剤により予製する自己フィブリノーゲン)で自己PRPを強化することにより改善することができる。
【0144】
同様に、注入後凝固速度/強度は、最小未活性化を確かなものとするために注入前PRPの極めて注意深い取り扱いにより改善することができる。標的組織における注入液の滞留を増強し、可能性がある漏れ/出血した血液の逆行問題に対処するいくつの方法を明らかにした。これらの方法は、APGを作成するために高用量の牛トロンビン1000U /mlを使用することを含む。PRP送達、および/またはPRPの沈殿物、または分解を妨げるための補充チャンバにおいて、攪拌機の機構を使用することができる。これにより標的組織に均質なPRPの送達を確かなものとし、改善された凝固を促進することになる。注入液が送達された後、注入部位において5-10秒間針が一時停止することを可能にし、組織において注入経路を長くするために斜角を用い、そして針の挿入に関する注入部位の局所的安定を含む。これらの方法のそれぞれは前述の実施例においてテストされた。
【0145】
冷却された(〜0℃)トロンビンを使用してAPGを作成することも標的組織における注入液の滞留を高める。冷却されたトロンビンを使用した実施例のために、トロンビン送達、そして/または補充チャンバにおいて冷蔵された/冷却されたチャンバを使用することができる。
【0146】
適切な針留置、および貯留を確認するために使用できる術中ECHO(超音波心臓検査法)により注入された組成物を視覚することができる。ECHOを別個の機器として使用することができ、あるいは、送達システム(例えば血管内超音波診断法[IVUS]に類似)の中に含めることができる。
【0147】
心腔の意図せざる穿孔、および/またはチャンバ内血液(または血管)への送達は、注入中にECHOまたはIVUSによって提供されるような画像診断誘導装置を使用することにより回避することができる。加えて、心臓の心尖中への直接心外膜注入は、チャンバ穿刺を避けるために避けるべきであることが分かった。それに代わり、尖端組織にアクセスするために斜角注入を用いるべきである。同様に、送達機器の送達部分が、心室あるいは冠状血管などの望ましくない位置にある場合、操作者に知らせるために機器を用いることができる。そのような機器は、送達システムが、その標的組織が血液腔などの位置にある場合、ユニークな信号を発する圧力下逆流血液を表すための少なくとも一つのセンサ、これに限定するものではないが、圧力センサー、色彩検出器、酸素センサ、二酸化炭素センサ、あるいはルーメン(lumen)を含む。使用者は警告された場合、組成物を送達する前に機器を再配置することができる。
【0148】
注入後直ちに梗塞左心室壁の肉厚をMI前の (あるいはそれ以上の)レベルに回復するために、ここに開示する方法を使用することができることをこれらの実験は示した。この好ましい効果は最長1週間(再現可能な方法で)持続する。この方法により同様に、左心室収縮期の駆出率(EF)を心筋梗塞前のレベルに、注入後直ちに回復させることができる。加えて、個々に開示する治療法は、左心室組織無動原体特性の運動障害部分を与えることによりMI後の心臓力学および機能を改善することができる。
【0149】
構造的に組織を補強する組成物でもって、あるいはなしに新血管新生を促進する諸物質を注入することにより、損傷心臓組織を治療する方法を本発明は開示する。図8から明らかなように、方法は通常、治療が望ましい心臓組織の虚血領域を識別し、そして/または画像化する101、望ましい効果(組織の構造的強化のある、あるいはない新血管新生)を達成するために心臓組織に注入する適切な物質(構造支持のある、あるいはない生物学的製剤療法)を決定する、心臓組織に物質を注入するための適切な機器を選定する102、心臓組織にアクセスする103、望ましい治療位置に物質と送達機器を送達すること104、心臓組織に物質を注入すること105、および機器を回収すること106の諸ステップを含む。組成物(物質/注入液)を注入すること、組成物、および送達の諸過程のための方法と諸機器を本明細書に論じて来た。
【0150】
さらに、図15において見られるごとく、本発明のシステムは、心臓組織の損傷領域と治療部位の識別、送達機器による治療部位へのアクセス、心臓組織にある治療部位の一ないしそれ以上の場所への組成物の注入、および患者からの送達機器の回収を含む。
【0151】
特に明記のない限り、明細書および請求項で使用された成分の量を表すすべての数字、分子量などの特性、反応条件などは、すべての例において「約」の用語を付けて修正して理解されるべきである。したがって、特に反対のことを明記しない限り、明細書および請求項に記載の数のパラメータは、本発明により求めて得られた望ましい特性に基づき変化する近似値である。少なくとも請求項の範囲に均等論の適用を制限する試みとしてではなく、公表された有効数字の数を考慮に入れ、また通常の四捨五入手法を適用することにより各数的パラメーターは少なくとも解釈されるべきである。発明の広い範囲に記載されている数的範囲とパラメーターが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に記載の諸数値は可能な限り正確に報告されている。あらゆる数値は、しかしながら、生得的に各テスト測定において見出される偏差から生じているある特定の誤差を必ず含んでいる。
【0152】
本明細書に特に明記がなく、または文脈により明瞭に否定されない限り、本発明を説明する文脈中に使用される用語、「一つの」「その」および類似の指示対象は、単数および複数の両方をカバーすると解釈されるべきである。ここでの値の範囲の記述は、範囲内に収まる各別々の値を個々に参照する簡便な方法としての役割を果たすことを単に意図している。特に明記のない限り、各単一値は、個々に列挙されているかのごとく、明細書に記載される。本明細書に説明されているすべての方法は、特に明記のない限り、あるいは文脈により明瞭に否定されていない限り、あらゆる適切な順序で履行することができる。個々に記された、あらゆるそしてすべての例の使用、あるいは、例示的言語(例えば「等の」)は、ただ発明をよりはっきりさせるものであり、あるいは特許権利を請求している発明の範囲を制限するものではない。本明細書における言語は本発明の実践に欠くことができないあらゆる特許権利を有さない要素を示していると解釈されるべきではない。
【0153】
代替要素の群分け、あるいはここに開示する本発明の実施例を制限として解釈されてはならない。各群の構成材は、個々に、あるいは群の他の構成材または本明細書に見出される他の構成材とのあらゆる組み合わせに言及し、また特許権利を請求し得る。群の一つまたはそれ以上の構成材は、便宜、および/または特許資格の理由のために、群に含め、またはから除かれ得ることが予期される。なんらかのそのような包含または削除が起こった場合、本明細書は、付帯の特許請求項において使用されているすべてのマーカッシュグループの書面による明細を満たし、そのように修正されているグループを含んでいるとみなす。
【0154】
本発明のある特定の実施例は、本発明を実行するために発明者に知られている最も良い方式を含め、ここに記載されている。もちろん、これら説明した諸実施例の変法は前述の説明を読む当業者には明白になる。発明者は当業者が適切であるそのような変法を採用することを期待し、さもなければ本明細書に具体的に説明した以外の方法で本発明が実践されることを意図する。したがって、本発明は、関係法令により許されるここに付加した諸請求項において列挙した主題のすべての修正および等価物を含む。さらに、本明細書に特に明記し、または文脈により明瞭に否定されていない限り、すべての可能なその変法における上記の諸要素のあらゆる組み合わせは、本発明に含有される。
【0155】
さらに、本明細書を通じて、特許と出版物の多数の参考文献が引用されている。上記に引用された参考文献のそれぞれ、および出版物は、参照によりその全体が本明細書に記載されているものとみなす。
【0156】
締めくくりに、ここに開示する本発明の実施例が本発明の原則の図解であることが理解されるはずである。用いられ得る他の修正は本発明の範囲内である。このようにして、実施例として、しかし制限されるものではないが、本発明の代替の構成は本明細書により教示されるものに従って利用され得る。従って、本発明は、正確に示し、説明したものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】正常な、健康な心臓の図である。
【図2】損傷心筋領域のある心臓の図である。
【図3】図2に示される損傷心筋の拡大図である。
【図4】図1に示される心臓横断面を表す。
【図5】左心室壁の損傷を受けリモデリングされた心臓組織の領域を示す心臓横断面を表す。適格損傷心臓組織は異なった肉厚および幾何学的形状を有する。一例は、少し薄くなり弛緩している(動脈瘤)壁で示されている。
【図6】本発明の実施例に従って心臓壁に組成物を送達するために使用される注射針を表す。
【図7】本発明の実施例に従って心臓壁に組成物を送達するために使用される注射針を表す。
【図8】本発明の教示に従って心臓組織を治療するステップを示すブロック図である。
【図9】本発明の1つの実施例に従って、心臓の中への組成物の送達を概略的に表す。
【図10】本発明の別の実施例に従って、心臓組織中への組成物送達の詳細図を概略的に表す。
【図11】本発明の実施例に従って、送達後の心筋組織内における組成物の移行を概略的に表す。
【図12】本発明の教示に従って、心臓組織へ組成物を送達する心外膜到達法を概略的に表す。
【図13A】図13A-Bは本発明の教示に従って、心臓組織へ組成物を送達する心外膜到達法を概略的に表す。図13Aは静脈系を通した順行性内心膜到達法を表す。
【図13B】図13A-Bは本発明の教示に従って、心臓組織へ組成物を送達する心外膜到達法を概略的に表す。図13Bは動脈系を通した逆行性内心膜到達法を表す。
【図14A】図14A-Bは本発明の教示に従って、心臓組織に組成物を送達する経血管到達法を概略的に表す。図14Aは静脈到達法を表す。
【図14B】図14A-Bは本発明の教示に従って、心臓組織に組成物を送達する経血管到達法を概略的に表す。図14Bは冠状動脈を通って動脈到達法を表す。
【図15】本発明の方式のフローチャートを表す。
【図16】本発明の教示に従い、梗塞形成1時間後に自己血小板ゲル(多血小板血漿および牛のトロンビンが10:1の比)注入における8週間後の梗塞性心筋の顕微鏡写真を表す。多くの血管(矢印A)が梗塞組織領域(矢印C)の中に観察される。これらの血管が赤血球(矢印のB)を運んでいる。
【図17】本発明の教示に従い、梗塞形成1時間後に自己血小板ゲル(多血小板血漿および牛のトロンビンが10:1の比)注入における8週間後の梗塞性心筋の強拡顕微鏡写真を表す。多くの血管(矢印A)が梗塞組織領域(矢印C)の中に観察される。これらの血管が赤血球(矢印のB)を運んでいる。
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照によりその全体が本明細書に記載されているものとみなす2006年6月23日出願の合衆国特許出願No.11/426,211およびNo.11/426,219の関連特許であり、両出願は合衆国法典第35巻§119(e) に基づき、2005年6月23日出願の米国仮特許申請No.60/693,749、2006年3月23日出願のNo.60/743,686に代わり優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は損傷心臓組織治療のための方式と方式に一般に関連している。特に、本発明は損傷組織における新血管新生誘発のための組成物と方式を開示する。
【背景技術】
【0003】
ヒトの心臓壁は、心内膜と称され、厚さの一定しない心筋あるいは心筋層に重なり、単層扁平上皮の内層で構成されており、心嚢と称される多層組織構造内に封入されている。臓側心膜あるいは心外膜として称される心嚢の最内層が心筋を覆っている。心外膜は、心室と心房の臓側心膜の周りに延長して囲まれた嚢から間隔を置いて形成している壁側心膜と称される外側組織層を形成する大動脈弓の起始において外側に反転する。繊維性心膜と称される心嚢最外側層は心臓が縦隔中部内に閉じ込められるように、壁側心膜を胸骨、大血管および横隔膜に付着している。本来であれば、臓側心膜と壁側心膜はお互いに接近しており、嚢内で心臓の摩擦のない動きを可能にする漿液性心嚢液の薄層により分離されている。臓側および壁側心膜間の隙間は心膜腔と称される。普通の専門用語において、臓側心膜は通常心外膜と称され、以下、心外膜を使用する。同様に側壁心膜は通常心嚢と称され、壁側心膜を称するために心嚢を使用する。
【0004】
心筋梗塞(MI)を含めた心疾患は、特に西欧諸国において、とりわけ男性における主要な死因と身体障害である。様々な心臓疾患はリモデリングと呼ばれるありふれた機序により心不全に進行する。リモデリングにより、しばしば臨床的な心不全と随伴症状に導かれ、心臓機能は次第に悪化する。心疾患はついで他の生理的システムを害することになる。毎年110万人以上のアメリカ人が心筋梗塞(MI)を起こしている。心筋梗塞は心室機能の急性低下とストレス下の梗塞組織の拡大を結果として生じることになる。このことがリモデリングとして知られている筋細胞事象の段階的連鎖を引き起こす。多くの事例においては、この進行性の心筋梗塞拡大とリモデリングは、心室機能の悪化と心不全につながる。このような虚血性心筋症は米国における心不全の主要な原因である。
【0005】
心臓病(心虚血)を発現するハイリスクを有している患者に血管供給を改善することが本発明の目的である。増加した血液供給は、急性または慢性的に疾患のある心組織に役立つことになる。成人においてさえ、心臓障害に引き続き正常な修復機序(例えば内在性新生細胞の漸増を含めたもの)が導き出されることが諸研究により示されている。不適当な血液供給により、このような細胞の生存が制限され、治癒が妨げられる。血液供給により、損傷領域に必要な酸素と栄養、血液構成成分(細胞、炎症性細胞遊走因子など)をもたらし、代謝産物を一掃することが必要である。そのような領域への血液供給を改善する治療は、より大きく回復を促進することにより患者に役立つ可能性が高い。
【0006】
心臓組織は急性あるいは慢性的に虚血性であり得る。心細胞死の結果として生じる重度の虚血は梗塞症と称される。病変損傷領域にあるいは周りへの脈管供給を増加し、急性或いは慢性的修復を向上し得る。
【0007】
狭窄或いは閉塞した冠動脈は、心疾患の一つの事例である。完全、もしくは相当程度閉塞した冠動脈は短期、中期、長期の有害影響を引き起こすことができる。短期的には、冠状動脈が閉塞されると心筋梗塞が発生し、それにより生じる心筋細胞死により心筋組織に血液を供給することができなくなる。心筋梗塞が発生すれば、もはや適切な血流を受けていない心筋組織が死亡し、やがて瘢痕組織が置き換わる。
【0008】
心筋梗塞の数秒以内に過少に灌流される心筋細胞は、異常壁運動、梗塞内および周囲の高い壁へのストレス、心室機能低下の原因となる収縮をもはや行わない。梗塞組織と正常な組織間の接合部における高いストレスは、時間がたてば心臓の梗塞性領域およびリモデリングへの拡大の原因となる。これらの高いストレスがまだ存続可能な心筋細胞を害し、結局はそれらの機能を低下させる。このことが元の心筋梗塞領域を含みまたそれ以上の損傷および機能障害を起こしている組織の拡大を結果として生じる。
【0009】
アメリカ心臓協会によれば、2000年にはおよそ1,100,000件の新しい心筋梗塞が米国において発生している。650,000人の患者には最初の心筋梗塞であったが、それ以外の450,000人の患者は再発性事象であった。病院に到達する前に、MIに罹っている22万人の人々が死んでいる。心筋梗塞の1年以内に、男性の25%と女性の38%が死亡する。6年以内に、男性の22%、女性の46%が心不全を発現しており、その67%が身体障害者となっている。最新の医薬療法にもかかわらず、上記の結果を示している。
【0010】
心筋梗塞の結果はしばしば深刻であり、日常生活に支障を来たす。心筋梗塞が発生すれば、もはや適切な血流を受けていない心筋組織が死亡し、瘢痕組織が置き換わる。この梗塞組織は心収縮期の間に収縮することができないので、実際に心収縮期が長くなり、心室機能の迅速な低下の原因となる。梗塞組織のこの異常な動きが、まだ存続している梗塞周囲組織(正常組織と梗塞組織間接合部の組織)に電気活動の遅延、あるいは異常伝導をもたらすことができるので、梗塞周囲組織に対しても余分な構造的ストレスを与える。
【0011】
減少した血流を受け取っている領域は虚血領域として知られている。さらに、マトリクス・メタロプロテイナーゼの上昇、マトリクス・メタロプロテイナーゼの組織抑制剤における減少(コラーゲン分解酵素阻害)、および膠原質の結果として生じる劣化は虚血性心筋症における付加的役割を果たし得る。虚血性心筋症の患者における心臓機能を改善するためには、虚血領域に血流を再度確立する必要がある。
【0012】
即時の血行力学的効果に加えて、心臓梗塞組織は3つの主要なプロセスである梗塞拡大、梗塞伸展、およびチェンバ・リモデリングを遂げる。個々にまた組み合わさって、これらの要因は、梗塞の部位から離れた心臓組織に認められる最終的に起こる機能不全の一因となる。
【0013】
梗塞拡大は梗塞域の中で固定した、永久的な、不相応な領域の非薄化と組織の膨張である。心筋梗塞の後、梗塞拡大は初期に起こる。機序は組織層の滑り(slippage)である。梗塞拡大は心筋梗塞に引き続く付加的な心筋壊死である。
【0014】
梗塞拡大が梗塞組織の合計質量の増加する結果となり、付加的な梗塞組織も梗塞拡大を遂げ得る。梗塞拡大が心筋梗塞の何日も後に起こる。梗塞拡大の機序は組織の増加した酸素要求量に対する梗塞周囲組織への血液供給における不均衡であるように思われる。
【0015】
リモデリングは通常心室機能の低下に伴う心室の進行性肥大である。当初の心筋梗塞から離れた心臓組織における筋細胞機能が低下する。リモデリングが心筋梗塞の後、数週間からも数年にかけて起こる。このようなリモデリングは通常、心臓の左側で起こる。リモデリングが心臓の右側で発生する場合、それは一般に心臓の左側でのリモデリング(あるいは何か他の芳しくない事象)に関連づけることができる。左側よりも頻度は少ないが、リモデリングが単独で右心に発生することができる。リモデリングには多くの潜在的な機序があり、梗塞周囲組織への高いストレスが重要な役割を果たすと一般に信じられている。異なる形状や大きさ等の要因の多様性ゆえに、梗塞形成を取り巻いている心臓組織における壁体へのストレスは正常の場合よりずっと高い。
【0016】
梗塞拡大とリモデリングに関連した変化過程は、梗塞組織と正常な心臓組織(すなわち、梗塞領域周囲)の間の接合部に及ぼされる高いストレスの結果であると信じられている。介入治療がないときには、これらの高いストレスがやがて隣接細胞の機能を殺すか、あるいはひどく低下させる。結果として、梗塞領域周辺は従って時間がたてば初期の梗塞部位から外見上発達することになる。この結果、元の心筋梗塞領域から機能不全に陥った組織が相次ぎ、本疾病の性質をひどく悪化させ、心不全のかなり進行した段階にしばしば進むことがあり得る。
【0017】
現在、そして過去に使われた心筋梗塞に対する治療はさまざまである。心筋梗塞のすぐ後、心室性細動を未然に防ぎ、治療すること、および血行力学を安定させることは定評のある療法である。
【0018】
虚血性心疾患は急性、あるいは慢性で起こり得る。軽度の疾患のために、増加した要求の間(例えば、激しい活動の間)に不十分に血液を供給することになる。重い疾患では、安静時においてさえ不十分な血液供給となる。明白な臨床臨床的後遺症となると予想されるので、両方の症状は増加した血液供給により利益を受けることになる。このことは、労作性能力の増加、症状の軽減、臓器血液潅流の増量、毎分心拍出量の改善、そして/あるいは心収縮性の改善のいずれか、またはすべてを含む可能性がある。
【0019】
より新しいアプローチには、閉塞血管を再開通させる、より積極的な試みを含んでいる。これは血栓溶解剤療法あるいは血管形成術とステントを通して達成されている。当初の閉塞の数時間以内に閉塞した動脈(すなわち脈管再生)を再開することは組織死を減少させ、それによって梗塞拡大、伸展の合計規模を減少させ、それによってリモデリングのための刺激薬を制限することができる。
【0020】
心臓組織への直接、あるいは選択的な作用薬の送達は、いくつかの理由のゆえに、そのような作用薬は全体的な送達より望ましい。1つの理由は、実質的な費用であり入手可能な少量の薬剤、たとえば、遺伝子療法に使用される作用薬である。もう1つの理由は、全身送達を通じて得られるであろう希釈濃度と比較して、心臓組織に直接送達することができるような作用薬の実質的により大きな濃度である。さらにもう1つの理由は、心臓組織における望ましい薬の濃度を得るために必要である投与量における全身投与の全身毒性に関連している。
【0021】
心臓組織に薬剤を送達する1つの方式は、開胸手術中の心臓組織への心外膜直接注入である。心臓組織への薬剤送達にとられるもう1つのアプローチは血管内接近法である。心臓の中から心臓組織に物質を注入するために血管系を通して心臓の中にカテーテルを進めることができ得る。別の到達法は心臓の心室内から心臓壁に物質を配達する心内膜到達法である。さらに、損傷心臓組織治療に対して開発されている付加的療法は、虚血性の心臓組織中への細胞そして/あるいは他の生物学的作用物質の注入、あるいは虚血性の組織への細胞そして/あるいは作用薬の留置を含む。梗塞を起こしている心臓組織を治療する1つの療法は、成熟して積極的に心筋細胞を収縮させることができる細胞の送達、あるいは心臓組織を再生させることを含む。このような細胞の例には、筋細胞、筋芽細胞、間葉系幹細胞および多分化能細胞を含む。このような心臓組織中への細胞送達は有益であり、特に心不全を未然に防ぎ、あるいは治療すると信じられている。
【0022】
急性、あるいは慢性の心臓への損傷の後、内因性新生細胞が若干あるいはすべての機能を損傷組織に回復させようとする試みが要求されて来た。損傷領域への減少した血流量と血管供給が、この回復の機序を阻害するようである。より適切な潅流の供給はより早期に、より速く、そして/あるいはより完全な修復を促進する可能性があり得る。
【0023】
関心の的が症状を減らし、そして/あるいは心臓機能を改善する虚血領域に血流を再確立することであることは、依然として変わりない。血流の再確立は、特定の領域に体が血液供給をもたらし、あるいは血液供給を拡大する脈管形成の刺激を通して達成され得る。血流を再確立し、心臓を元の状態に戻すための従来の方法は、しばしばバイパス手術あるいは血管形成術のような侵襲的手術を必要とした。他の方式は血流を促進するために梗塞と虚血領域を貫いて穴を開けるためにレーザーを使用した。これらの手術は複雑で、しかも危険である。それゆえ、血流再確立のための安全でより少ない侵襲である方法の必要性が存在している。
【0024】
これら論議された方法の何れもが、損傷組織の脈管形成、あるいは新血管新生を具体的に生じさせるものではない。損傷組織中の改善された、あるいは正常な血液供給の確立は、それ以上の悪化を未然に防ぎ、損傷組織の再生を促進することができる。このような療法は以前に使われた治療より有利である。これらの理由で、新血管新生を生じさせるために心臓組織に直接送達することができる作用薬があることは望ましい。
【発明の開示】
【0025】
本発明は損傷心臓組織における新血管新生を生じさせるための生体適合性組成物を提供する。心臓組織損傷を負っている患者治療に関連した方法と方式を同様に提供する。
【0026】
本発明の1つの実施例においては、心臓組織の新血管新生のための方式は、血小板組成物、および心臓組織に血小板組成物を導入し、血小板組成物が心臓組織における新血管新生を生じさせるための少なくとも1つの送達機器を含み提供される。
【0027】
別の実施例では、血小板組成物は血小板ゲル、多血小板血漿および乏血小板血漿で構成される群から選択される。別の実施例では、血小板組成物は自己由来のものである。別の実施例では、血小板ゲルは乏血小板血漿あるいは多血小板血漿および活性化剤から形成される。別の実施例では、活性化剤はトロンビンである。別の実施例では、トロンビンは組換えトロンビン、ヒトのトロンビン、動物トロンビン、改変トロンビンおよび自己トロンビンで構成される群から選択される。別の実施例では、血小板ゲルは約5:1と約25:1の間の比で多血小板血漿あるいは乏血小板血漿とトロンビンにより形成されている。別の実施例では、多血小板血漿あるいは乏血小板血漿のトロンビンに対する乏血小板血漿の比は約10:1である。
【0028】
別の実施例では、血小板組成物はトロンビンの外因性起源のない多血小板血漿を含む。さらに別の実施例では、血小板組成物は治療部位に送達され、治療部位において心臓組織の中でゲルを形成する。
【0029】
本発明の別の実施例では、方式は膠原質、生体適合性重合体、アルギン酸塩、合成/自然化合物、フィブリノーゲン、絹エラスチン重合体、ヒドロゲルおよび歯の複合体物質で構成される群から選択された構造材料をさらに含む。別の実施例では、構造材料は、物理的または化学的架橋、あるいは、酵素、化学、熱、または光活性化で構成される群から組成物の賦活が選択される賦活の結果、固体またはゲルを形成する。
【0030】
本発明の別の実施例では、血小板組成物はさらに生物活性剤を含む。別の実施例では、生物活性剤は医薬的に有効な化合物、副腎皮質ホルモン、成長因子、酵素、DNA、リボ核酸、siRNA 、ウイルス、タンパク質、脂質、重合体、ヒアルロン酸、抗体、抗生物質、反炎症の作用薬、アンチセンスヌクレオチドおよびトランスフォーミング核酸、およびその組み合わせで構成される群から選択される。別の実施例では、血小板組成物はさらにコントラスト剤を含む。
【0031】
本発明の別の実施例では、血小板組成物は、損傷が心臓組織に発生した約1時間後と1年後の間に損傷心臓組織に供給する。別の実施例では、血小板組成物は約1回から20回の注射で供給する。別の実施例では、諸注射は順次行われる。別の実施例では、諸注射は殆ど同時に行われる。別の実施例では、血小板組成物は約15mlまでの合計注入量を含む。別の実施例では、血小板組成物は注射毎に約1100マイクロリットル以下の注入量を含む。
【0032】
本発明の実施例において、血小板組成物は組織表面に直角、あるいは斜めの角度で心臓組織に注射される。別の実施例では、心臓組織は心内膜下、心外膜下および心筋内部位で構成される群から選択される。別の実施例では、血小板組成物は心筋の厚さのほぼ中央の深さにおいて心臓組織に注射される。
【0033】
本発明の別の実施例では、送達器具は内心膜性注入カテーテル、経血管注入カテーテルおよび心外膜注入カテーテルで構成される群から選択された注入カテーテルである。
【0034】
本発明の実施例において、血小板組成物は障害事象の間、あるいは障害事象が起こった後に治療部位に供給される。別の実施例では、治療部位は、損傷領域、損傷周辺領域および損傷領域を取り巻いている健康な組織で構成される群から選択される。
【0035】
本発明の1つの実施例においては、心臓組織における新血管新生を生じさせる方法は、前述の血小板組成物がそこに心臓組織に新血管新生を生じさせる心臓組織の治療部位における血小板組成物を含め提供される。別の実施例では、血小板組成物は血小板ゲル、多血小板血漿および乏血小板血漿で構成される群から選択される。別の実施例では、血小板組成物は自己由来のものである。
【0036】
(用語の定義)
一般に、ここに現れているすべての専門用語及びフレーズは当業者が通常の意味に理解するものとして使用する。しかしながら読者の便宜のため、選択された用語をより具体的に次のように定義する。
【0037】
脈管形成:本明細書で使用される場合、「脈管形成」は既存血管から新しい血管の増大を含めた生理学的過程を意味する。
【0038】
生物活性剤:本明細書で使用される場合、「生物活性剤」は治療剤及び薬物を含み、また医薬的に有効な化合物、副腎皮質ホルモン、増殖因子、酵素、DNA、リボ核酸、siRNA、ウイルス、タンパク質、脂質、重合体、ヒアルロン酸、抗体、抗生物質、消炎剤、アンチセンスヌクレオチドとトランスフォーミング核酸、リモデリング(例えば、アンジオテンシンIIの阻害剤、アンジオテンシン変換酵素、心房性ナトリウム利尿ペプチド、アルドステロン、レニン、ノルエピレナミン、エピネフリン、エンドセリン、など)に関係しているとみなされる化合物の阻害剤、およびその組み合わせを含む。
【0039】
チェンバ・リモデリング:本明細書で使用される場合、「チェンバ・リモデリング」は心房あるいは心室のリモデリングを意味する。「リモデリング」はストレスあるいは損傷後に心臓組織の大きさ、形状および機能に変化をもたらす(遺伝子発現、分子、細胞および間質の変化を含む)一連の事象を意味する。リモデリングは心筋梗塞(MI)、圧力過負荷(例えば、大動脈弁狭窄症、高血圧症)、容量過負荷(例えば、弁閉鎖不全)、炎症性心疾患(例えば、心筋炎)の後、あるいは特発性の症例(例えば、特発性拡張心筋症)に発生することがある。リモデリングは、徐々に悪化する心臓機能および究極的に心不全をもたらし、しばしば病的である。本開示においては前記のごとく病的リモデリングをリモデリングと称することとする。
【0040】
心臓組織損傷:本明細書で使用される場合、「心臓組織損傷」は疾病、疾患あるいは損傷により起こされた心臓における異常組織の任意の領域を意味し、心外膜、心内膜および/あるいは心筋へのダメージを含む。心臓組織損傷の原因の非限定的実例は、急性あるいは慢性のストレス(全身性高血圧症、肺高血圧症、弁機能障害など)、冠状動脈疾患、虚血あるいは梗塞形成、炎症性疾病および心筋症を含む。心臓組織損傷は、心筋に最もしばしば損傷を伴う、それ故本開示に関し、心筋損傷は心臓組織損傷と等しい。さらに、損傷が障害事象と称される急性心筋梗塞症など、損傷が急性である場合がある。損傷心臓組織は、虚血性、梗塞性、またはそうではない焦点的または瀰漫的に病んだ組織を含む。
【0041】
組成物:本明細書で使用される場合、「組成物」は、注射液、物質、あるいは組織の中に送達されることができ、交換可能にここに使われる物質の組合わせを意味する。
例示的組成物は、生物活性剤、構造的な物質などの添加とともに、または無しに、血小板ゲル化、自己血小板ゲル、多血小板血漿および乏血小板血漿を含むがこれに限定されない。
【0042】
送達:本明細書で使用される場合、「送達」は機能性組成物を治療部位に送達するために適切である任意の方法を通じて損傷組織における治療部位に組成物を提供することを意味する。送達方法の非限定的実例は、治療部位における直接の注入、治療部位における直接の局所適用、注入のための経皮的送達、局所適用のための経皮的送達、および当業者によく知られている他の送達方法を含む。
【0043】
損傷領域:本明細書で使用される場合、「損傷領域」は損傷組織を意味する。「損傷周辺領域」は直接損傷組織に隣接している組織を意味する。すなわち、損傷組織と正常組織の間の接合部にある組織。
【0044】
損傷組織:本明細書で使用される場合、「損傷組織」は損傷、虚血組織、梗塞組織、あるいは組織にまったく正常な血流の妨害をもたらすダメージを受けた組織により損傷を受ける組織を意味する。心臓に関しては、「損傷組織」は「心臓組織損傷」のところに記載するあらゆる変化を受けている組織を含む。
【0045】
新血管新生:本明細書で使用される場合、「新血管新生」は血液あるいは血液構成成分により灌流させられ得る機能的な血管ネットワークの形成を意味する。新血管新生は、血管新生、発芽型(budding)血管新生、陥入型(intussusceptive)血管新生、出芽型(sprouting)血管新生、治療的血管新生および脈管形成を含む。
【0046】
経皮的:本明細書で使用される場合、用語「経皮的」は、小さな切口、切開、穿孔、カニューレ、スリーブまたはポートへの管状のアクセス、あるいは同様のものの形態に係わらず、患者の皮膚を通じるあらゆる貫通を意味する。
【0047】
経皮的貫通は、患者の肋骨間の間隙空間、または患者鼠径部領域などの他の部位で行っても良い。
【0048】
構造用支持材:本明細書で使用される場合、用語「構造用支持材」はリモデリングのストレスおよび不適応過程に対して抵抗力を提供している機械的な補強材を意味する。
【0049】
脈管形成:ここに使用されるように、用語「脈管形成」は、発育の間および同様に成人期(例えば、損傷の後あるいは心筋損傷後)に発生する変化過程である内皮細胞の新規産生による血管形成を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
本発明は損傷心臓組織における新血管新生を生じさせるための生体適合性組成物を提供する。心臓組織損傷を負っている患者治療に関連した方法と方式を同様に提供する。
【0051】
虚血性損傷等の損傷後、組織への血液供給は残っている健康な組織を維持するにはしばしば不十分である。持続的虚血組織は死亡し、隣接する組織は虚血のリスク増加にある。 この変化過程が時間とともに虚血領域の増大をもたらす。ダメージを与えられたか、あるいは隣接する組織に血液供給を増加させることは、チェンバ・リモデリングと同様、それ以上の虚血を未然に防ぐことができる。
【0052】
本発明の諸実施例において、組成物および方法は、損傷した、あるいは周囲の心臓組織に血小板組成物を直接注入することにより心臓組織に血管新生を生じさせるために提供される。一実施例では、血小板組成物は新血管新生を生じさせる。別の実施例では、血小板組成物は損傷組織を再生するために新血管新生を生じさせる。別の実施例では、生じた新血管新生はチェンバ・リモデリングを未然に防ぐか、あるいは回復させる。さらに別の実施例では、血小板組成物は心臓の組織あるいは機能の再生を促進するために新血管新生を生じさせる。
【0053】
新血管新生は、既存の血管にリンクする内皮前駆細胞から脈管形成、血管新生、あるいは新しい血管の形成によるなど、あらゆる手段による内皮前駆細胞から新しい血管の発達を意味する。血管新生は、発育した動物において既存血管の内皮から新しい血管が生育する過程である。内皮前駆細胞は血液中を循環し、活発な新血管新生の部位に選択的に移動する、あるいは[帰巣する」(米国特許No.5,980,887、Isne他を参照、本内容は参照によりその全体が本明細書に記載されているものとみなされる)。
【0054】
類似の数字は類似の構造を示す図を参照して本発明を下記に詳細に説明する。図1と4を参照することにより、正常な心臓10の描写を見ることができる。図4の横断面図は、チェンバ・リモデリングを受けなかった正常な心臓の右心室44および左心室42を示す。
【0055】
図2は、心臓20が虚血または梗塞領域24および健全な虚血性でない心筋28により囲まれている梗塞領域周辺26を有することを表す。梗塞が発生すれば、もはや適切な血流を受けていない心臓組織が死亡し、瘢痕組織が置き換わる。損傷により引き金が引かれ、事象の連鎖(リモデリング)が壁を薄くし、広げ、そして最終的には機能を止める。損傷組織における不十分な血流は、そうでなければ損傷組織の再増殖および回復に導くかもしれない体部位内に由来する細胞及び機序を妨げる。
【0056】
図3は図2において破線でふちどられた部位の拡大図である。図2と3は心筋梗塞あるいは他の損傷などのなんらかの虚血性損傷を受けた心筋24の範囲を表す。壊死が起こった場合は、壊死に見舞われた心筋のその部分は完全に梗塞される。虚血性/梗塞性部位26を直接取り囲んでいる領域は梗塞周囲領域として知られており、健全な心筋28によって取り囲まれている。上に論じられるように、梗塞周囲領域26は、なんらかの程度の虚血性の活動に見舞われ得るが、血液供給はまだ虚血性/梗塞性範囲24と同じ程度に遮られていない。
【0057】
リモデリングは通常、心室機能の悪化を伴った心室の進行性肥大であり、心筋梗塞後、数週間から何年にも渡り発生することができる。リモデリングには多くの潜在的な機序があるが、梗塞周囲組織への高いストレスが重要な役割を果たすと一般に信じられている。変貌した形状や大きさゆえに、壁応力は梗塞形成を取り巻いている正常な心筋組織よりずっと高い。図5は図2に示される心臓のの横断面図である。図5は右心室54およびリモデリングを受けた左心室の領域50を有する左心室52を示す。図に見ることができるごとく、拡張された領域50より心臓壁は薄い。
【0058】
限定された量のリモデリングが患者のために有利であり得、2つの前後関係において主に生じる。第1は心臓に関する平均以上の要求量に対する適応応答として若干のパーフォーマンスが高い運動選手に生じる「生理学的リモデリング」と名づけられる。生理学的にリモデリングされた心臓での心臓の形状と大きさ、及び機能における諸代償性変化はパーフォーマンスが高い環境において、心臓がよりうまく働くことができるようにする。2番目の状況は損傷後リモデリングの最も初期段階の間である。時々、このリモデリングの初期段階は実際に適応また保護的であることができる。限られた程度であるならば、心臓壁および増加したチャンバ容積の中で若干の細胞再配列は、心拍出量を維持し、あるいは増大させることすらできる。 これらの変化は有益であることができる。しかしながら、壁組成物はさらに変化し、形状と大きさは次第に機能不全に陥ったチャンバ、そして時には心不全となるこの「病的なリモデリング」はほとんどの場合、適応性があるものを越えて進行する。上記のように説明される「病理学上のリモデリング」を本開示において「リモデリング」と称する。
【0059】
詳細は研究中であるが、レモデリングの機序は事象の連鎖を含むように思われる。機械的応力を受けて筋細胞が伸びると、いくつかの分子の局所的活性が増加する(例えばノルエピレナミン、アンギオテンシン、エンドセリンおよび他のもの)。これら分子が特異タンパク質の発現を促進し、既存筋細胞の肥大に導く。これが心臓機能(例えば加えられた機械的応力)および増大した神経ホルモンの活性化における更なる悪化をもたらす。終結因子のあるものは、さらに患部の線維増多および瘢痕化に導く局部的な膠原質合成を促進する。これらの変化はしばしば代償性を越えてており、進行性心不全に導く。
【0060】
障害領域に適切な血流がない場合、内因性修復機序は心臓の組織あるいは機能を回復することができない。体部位に由来する細胞は成人の心臓においてさえ障害細胞に「帰巣」することが示されているが、血流制限は在住することおよび治癒促進から体部位に由来する細胞を妨げ得る。
【0061】
心臓機能における進行性悪化が初期には症状なく発生することができる。やがて、しかしながら、息切れ、腫脹、背臥位における呼吸困難、不整脈、臓器不全などの臨床的心不全の症状が発現する。無症候性心機能異常のある患者であっても注意を払うことは重要であり、軽度の心不全は突然心臓死のリスクが高い。そのため、初期に、そして効果的に、この疾病過程を治療する大きい誘因がある。
【0062】
心臓のリモデリングを評価する手段は、心臓の質量、心臓の形状、心臓の質量、収縮期の駆出率、拡張終期と収縮終期体積、および収縮のピークの力を含む。左心室体積(特に左心室収縮終期体積)は心筋梗塞後の人死亡率の最も良い予測因子である。
【0063】
アンギオテンシンを変換する酵素阻害(例えば、カプトプリル、エナラプリル)およびβ交感神経遮断(例えば、カルベジロール、メトプロロール、プロプラノロール、チモロール)を提供する薬物療法が心臓のリモデリングの特定のパラメータを遅くすることが示されている。これらの療法が意図するものは、有害な、または機械的なストレスが多い刺激に対する身体のリモデリング反応を減少させることであり、臨床試験において心筋梗塞および心不全患者における死亡率および罹病率を減らすことが示されている。抗高血圧剤のような他の療法が、病的なリモデリングを引き起こし、あるいは悪化させることができる心臓に対して与えられる慢性の負荷量を減少させるために用いられてきた。前述の薬の使用にもかかわらず、リモデリングが、せいぜい部分的に治療可能な過程であることは依然として変わりがない。さらに、これらの薬剤のいづれもが、より一層の心臓障害を未然に防ぎ、または心臓の組織あるいは機能を復活させるための手段として、損傷組織における心血管新生を生じさせるものではない。
【0064】
以下にさらに説明するように、本発明の実施例は、心血管新生を生じさせるために組成物を心臓壁に注入して心臓損傷とリモデリングを取り扱い、そしてこのようにしてリモデリングを未然に防ぐ。
【0065】
注入された組成物は心臓壁領域の細胞間の間隙空間のいくらかを占めることを得、新血管新生を生じさせることに加え、組織の構造補強材を提供する。本発明はあらゆる心臓壁部位に新血管新生を備えることを企図し、心房と心室の両方を含む。注入された血小板組成物は組織において、望ましい新血管新生と同様に構造用支持材のなんらかのレベルを備えることができる物質であっても良い。組織の構造補強と刺激新血管新生の両方を備えることができる諸物質はここに開示する血小板組成物に含めることができる。本文書の目的のために、用語「血小板ゲル」は、活性化剤とともに投与される血小板組成物を意味し、組織の補強材および新血管新生などの生物学的療法の両方を備え得る。さらに、血小板組成物は、活性化剤なしで投与する多血、または乏血小板血漿を意味することができる。多血、または乏血小板血漿等の血小板組成物は、その上、構造用支持材および新血管新生の両方を提供するために、生体内原位置にある組織トロンビンにより賦活化されることができる。例示的に、非限定的血小板組成物は、血小板ゲル、自己血小板ゲル、多血小板血漿および乏血小板血漿を含む。
【0066】
本発明の新血管新生を生じさせる血小板組成物は、これらに限定されないが、膠原質、シアノアクリレート、組織中に注入することにより治癒させる粘着性のもの、組織に注入後固まる、またはゲル化する液体類、縫合素材、寒天、ゼラチン、光により活性化される歯科用複合材料、他の歯科用複合材料、絹エラスチン重合体、Matrigel(登録商標)(BD生物学)、ヒドロゲルおよび他の適切な生体高分子を含む構造用支持材を提供することができる他の組成物とともに投与されることができる。このような組成物は単一あるいは多構成成分の化合物を含むことができる。これらの組成物は、液体として送達され、そして送達後ゲル化、または硬くなり固形物になる薬剤を含むことができる。硬化/ゼリー化は温度、pH、タンパク質、または標的組織に固有の、もしくはその中に創出される他の環境因子により引き起こされることができる。これら諸血小板組成物は、別々に、またはお互いに、および/または血小板ゲルと組み合わせて注入することができる。加えて、その組成物あるいは組み合わせは、他の添加剤を含むことができる。さらにこれら組成物および/または添加物の若干のものを以下に説明する。
【0067】
本発明の血小板構成物は、心臓壁への送達に際し、構造的支持構造を与えるために生体内原位置で固まり、そして/または架橋する生体適合液の全体で補強され、または含まれることができる。本発明の血小板組成物の他の実施例は、例えば、合成、あるいは自然に発生する物質、そして/あるいは強度を備えるための非分解、あるいは生分解性がある物質を含んでも良い。一実施例では、構造材料はシアノアクリレート、あるいは絹エラスチン蛋白重合体を含む。
【0068】
本発明のさまざまな実施例の血小板組成物は、心臓壁の構造強度を増やすためにフィブリノーゲンのような添加物を含むことができる。フィブリノーゲンは、自己のもの、同種異系のもの、組み換え型、ヒト、改変型、動物源からの精製物であることができる。 少なくとも、1つの実施例は治療された心臓壁の弾性を増やすためのエラスチンを含む。重要な可溶性諸因子が内在構造要素を備えることなく標的組織(組織において物理的にまたは部位に結合することにより)に捕えられるように、諸組成物は液体として(架橋あるいは凝固構成成分なしで)送達されることがあり得る。代わりに、組成物は組織に付加的構造用支持材を提供するために単数または複数の構造的材料とともに送達され得る。
【0069】
本発明は送達後に特定の時間間隔の間の強度を提供する合成の生分解性がある物質を含有している物質を使用し、そして再吸収されることが実践され得る。このような諸物質は膠原質あるいはフィブリンのような遺伝組み換えか、あるいは修正された化合物を含む。送達後特定の時間間隔の間の強度を提供し、そしてそれから再吸収の軟骨、骨あるいは骨構成成分、ゼラチン、膠原質、グリコサミノグリカン、でんぷん、多糖類、他のあらゆる物質など、しかしこれに限定されず、自然に発生する物質は同様に使用され得る。
【0070】
本発明の他の実施例は、組織増容の望ましい局部的な効果を作り出すことができる様々な化合物のいずれの組合わせであっても含み得る。局部的浮腫、組織肥大、組織の構造補強、あるいはリモデリングを未然に防ぐ他のあらゆる効果をもたらす構成要素がこの発明に含められる。このような諸化合物は組織の構造補強のための浮腫およびヒドロゲルを引き起こすためにひいて粉にされた縫合物質を含む。これら諸物質は、PRP(多血小板血漿)、あるいはPRP(多血小板血漿)+トロンビンに添加され得る。
【0071】
望ましい効果が組織の構造補強である場合は、注射針による注入のためには十分小さいが毛細管および細静脈に適合するには大きすぎる生分解性がある50-100μm(粒子の最大幅において)の間の大きさの微小粒子が血小板組成物に加え得る。粒子状物質が分解するにつれて溶出する薬物で微小粒子浸透させ得る。本発明の一実施例において、微小粒子だけを冠状静脈洞の中に注入することにより心臓組織に送達される。大きさの特徴に基づき、それらは組織にとどまり、組織の構造補強をもたらすことを期待されている。使われた微小粒子はガラス転位温度 (Tg) >37℃を有するかもしれないので、挿入後数日にわたりゲル化するであろう。注入された微粒子は、即時の組織構造補強剤のための「質量」と容積を備えるが、時間とともに単一部材となるためのゲルに軟化することになる。
【0072】
本発明の血小板組成物の実施例は、注入局所部位における重合体を維持するように、単数または複数の細胞型の表面に位置する単数または複数のタンパク質に共有結合的に直接結合することができる重合体を含むことができる。一実施例では、タンパク質の一級アミングループ(-NH3)に共有結合的に結合する重合体を用い得る。
【0073】
新血管新生を生じさせ、または組織の構造的補強材を備えるため、任意の組成物が損傷組織領域を有する心臓中に注入される前に、注入部位の部位及び範囲を確認する。
臨床家が、正常な、損傷を受け存続能力がない、および損傷を受けているが存続し得る心臓組織を識別し、評価するための複数の技術と手法が入手可能である。これらは、開胸外科手術中の目視検査、局所血流測定値、局所電気、および構造活性、核心臓病学、超音波心臓検査法、心エコー・ストレステスト、冠動脈血管造影、核磁気共鳴映像法(MRI)、コンピューター断層撮影(CT)スキャンおよび脳室造影法を含むが、これらに限定されない。本発明の1つの実施例において、血小板組成物はMedtronic Magellan(登録商標)血小板分離器を使用することにより予製される。抗凝固化全血は、抗凝固薬を被験者から採決した新鮮な全血と組合すことにより調製される。Magellan(登録商標)機器は次に、抗凝固化全血の検体からの多血小板血漿(PRP)および乏血小板血漿(PPP)を抽出するために使用される。血小板ゲルは結果として生じているPRPまたはPPPを賦活物質で結合することにより調製される。一実施例では、賦活物質は10%の塩化カルシウム溶液中1000単位/ミリリットルに戻された牛のトロンビンである。別の実施例では、PRPは牛のトロンビンと約10:1の比に組み合わせられる。
【0074】
本発明の1つの実施例においては、組成物はPRPとトロンビンの比、約10:1を使用して作られる血小板ゲルである。別の実施例は、PRPとトロンビンの比、約11:1を使用する。本発明の他の実施例は、約5:1から約25:1のPRPとトロンビンの比を有する。別の実施例では、PRPとトロンビンの比は約7:1から約20:1である。別の実施例では、PRPとトロンビンの比は約9:1から約15:1である。別の実施例では、PRPの比はトロンビンに対し約10:1から約12:1である。少なくとも1つの実施例において、トロンビンは含まれておらず、PRP単独が心臓組織の中に注入される。本発明の他の実施例は望ましい効果を達成し、あるいは最適化するために必要とされる比率に組成物の多数の構成成分を含む。
【0075】
PRPは賦活後、遊離サイトカイン、細胞増殖因子あるいは酵素と同様に、ゲル化の間に凝集することができる高濃度の血小板を含有する。PRPを構成する血小板及び白血球により遊離される多数の因子の若干が遊離血小板由来増殖因子(PDGF)、血小板由来表皮増殖因子(PDEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、トランスフォーミング成長因子β(変異成長因子-β)および血小板由来血管新生増殖因子(PDAF)を含む。これら諸因子は、膠原質分泌物、血管内殖および線維芽細胞の増殖の割合を増加させることにより癒傷に関係しているとみなされてきている。
【0076】
損傷領域の部位、大きさおよび形状が判断された時点で、臨床家はアクセスし、血小板組成物を心臓壁に注入し始めることができる。一実施例では、血小板組成物はPRPおよびトロンビンを含む。別の実施例では、血小板組成物はPRPだけを含む。別の実施例では、血小板組成物はPPPおよびトロンビンを含む。別の実施例では、血小板組成物はPPPだけを含む。血小板組成物の構成成分は人、そして/あるいは動物、そして/あるいは組換えソース由来のものであっても良い。構成成分は同様に人工的に作り出されても良い。自己由来のもの、あるいは非自己由来のもの、および非自己由来の構成成分に分類することができる血小板組成物のための諸構成成分は、上記に説明されるごとく(すなわち、動物、組み換え型、改変型、ヒト自家型など)さらに分類される。自己血小板ゲル(APG)は、自己PRPから作られた組成物あるいは自己乏血小板血漿および自己、あるいは非自己の賦活物質を意味する。注入する組成物において、自己由来のもの、そして/あるいは組換え構成成分を使うことにおける1つの利点は、それが伝染性および異物作用物質に対する受容個体の炎症反応、あるいは曝露のリスクを減らすということである。
【0077】
加えて、血小板組成物は、ダメージを与えられた心臓組織の治癒あるいは再生を促す単数または複数の生物活性剤を含むことができる。適切な生理活性剤は、医薬的に有効な化合物、副腎皮質ホルモン、細胞増殖因子、酵素、DNA、リボ核酸、siRNA、ウイルス、タンパク質、脂質、重合体、ヒアルロン酸、炎症誘発性分子、抗体、抗生物質、消炎剤、アンチセンスヌクレオチドおよびトランスフォーミング核酸あるいはその組み合わせを含むがこれに限定されない。血小板組成物は同様に幹細胞、白血球、赤血球、培養心臓細胞、あるいは他の分化あるいは未分化細胞のような細胞付加物質を含んでも良い。
【0078】
さらに本発明の血小板組成物は、X線、核磁気共鳴映像法(MRI)あるいは超音波による検出のための造影剤を含むことができる。適切な造影剤は当業者には知られており、放射線不透過性物質、エコー源性物資および常磁性物質を含むがこれらに限定されない。造影剤が注入成功の視覚的確認のために若干の実施例の組成物において使われ得る。そのような造影剤の例としては、しかし制限されないそんなものの実施例、エックス線造影(例えば、IsoVueあるいは高エックス線減衰係数を持っている他の造影剤)、磁気共鳴映像法造影(例えば、MRIにより信号あるいはシグナル・ボイド(無信号)として探知可能なカドリニウムあるいは他の造影剤)および超音波造影(エコー源性あるいはエコー不透過性化合物)を含むがこれらに限定されない。
【0079】
PRPとトロンビンが、心臓組織に血小板ゲルを形成するために混和するように注入される場合(下記の送達器具の説明参照)、それらは組織中でゲルになる。本発明のいくつかの実施例は加速ゲル化時間を備えている。送達カテーテルまたは他の機器を通じて注入部位に局所熱を与え、トロンビン濃度を高め、または混合室にてPRPとトロンビンを結合させ、そしてその混合物がゲル化し始めた後心臓組織にその混合物を注入することにより、生体内位置におけるゲル化時間を加速することができる。本説明は、互いに混和された後、諸構成成分がゲル化し、架橋し、そして/または重合する他の複数の構成成分組成物にも適用する。
【0080】
実施例においてさらに詳しく説明されているごとく、本発明の血小板組成物はテスト被験体(羊および豚)の損傷心臓壁に注入された。諸実験は、梗塞、または非梗塞組織に行われた場合、PRPとトロンビンの諸注入は安全で、また耐用性良好であり、そしてMI後1時間の早期であっても安全に実施できることを示した。制御された注入は心臓安定装置の有無にかかわらず可能であった。また外部からの心臓ペーシングなしで注入が可能であった。注入は0.5から2.5cmの間隔で心臓表面に対して直角及び斜めに行った。安全性の問題なく心臓ごとに複数の注入を実施できる。注入できる容積の合計は15mLまで、そして個々の注入の容積は注入部位ごとに1100ulまで可能である。
【0081】
さらに、心筋損傷に引き続き自己血小板ゲルを投与することは、収縮期の駆出率(EF)に関する梗塞の有害な急性効果を部分的あるいは完全に回復させ、EFを梗塞前のレベルに向けてまたはそれ以上拡張することができる。ある驚くべき結果では、心筋損傷後の自己血小板ゲルの虚血組織への投与は損傷組織の新血管新生を促進する(図16-17)。この血管新生は血小板ゲル療法を受けなかった梗塞動物には観察されなかった。血小板ゲルのすべて、あるいは一部の構成成分(トロンビンの有無にかかわらずPRPあるいはPPP構成成分)が、このような効果を生み出すために使用され得る。
【0082】
本発明を実践し、血小板組成物を心臓壁内にある標的部位に送達するために、臨床家は多様なアクセス手法の一つを使用し得る。これらは、外科的(胸骨切開術、開胸術、ミニ開胸手術、剣状突起)到達法、および経皮的(経血管および内心膜性)到達法を含む。到達が得られると、組成物は心外膜、内心膜、あるいは経血管到達法によって送達し得る。血小板組成物は単数または複数の場所にある心臓壁組織に送達され得る。これは心筋内、心内膜下、そして/あるいは心外膜下投与を含む。
【0083】
このような動いている標的組織の中に血小板組成物を予想された通りに送達する一つの方法は、心周期の精選された部分の間に、特に送達のための諸注入タイミングを合わせることである。本発明の1つの実施例においては、単数または複数の電極が、例えば、組成物送達の間に心臓のペースを保つために、刺激電極として使用されても良い。
この方法において、心周期は予測可能であるようになされ、注入のタイミングを合わせることができ、それに同期させることができる。実際、心拍間隔時間は心周期の特定の(そして比較的)静止期の間に完全な送達を妨げないように人工的に長くすることができる。一実施例では、送達機器は単数または複数の刺激そして/あるいは検出電極を含む。
【0084】
本発明の1つの実施例においては、センサーが心臓のの収縮を感知するために使用されても良く、それによって組成物の送達を心収縮とタイミングを合わせることができるようにする。例えば、心臓の収縮と収縮の間に血小板組成物の単数または複数の構成成分を送達することは望ましいことであり得る。損傷心臓組織領域を有する心臓にアクセスするか、あるいは心臓を安定させるために使用される方法にかかわらず、使用される送達装置は心臓壁の中に別々に多数の構成成分を注入することができ得る必要があることがある。本発明の1つの実施例は、一つの機器による繰り返された注入を可能にする。これは決定できる比において、単一或いは多数の成分組成の決定できる量(例えばダイヤルイン)の予測可能な送達を可能にする近位片手トリガーにより達成され得る。
【0085】
本発明の異なった実施例は2本の内腔針(lumen needle) /送達カテーテルを有している送達装置を利用し、少なくとも1つの他の実施例が3本以上の内腔針(lumen needle) /送達カテーテルを有している送達装置を使用する。針/送達カテーテルの内腔は同軸の構造あるいは双軸の構造にあることができる。
【0086】
本発明の少なくとも1つの実施例は多数の組成物構成成分の片手注入のための2かそれ以上の並んでいる注入器を含む。一実施例では、図9の機器は損傷を受けた心臓100に複数の構成成分の組成物を注入するために使われる。図9の実施例において、本発明の組成物の2つの構成成分が注入器102と104に別々に収容される。注入器102そして104は、組成物の片手注入を可能にするためにハンドルアセンブリ106内のクレードル112に配置される。アダプタ108が双軸注射針110に注入器102と104を連結する。双軸注射針110が、心臓100における治療部位に組成物の二つの構成成分である、非限定的実例において、PRPおよびトロンビンの送達を可能にする。
【0087】
図10は、送達機器300が入っている双軸注入用注射針を使用する本発明に従って、二つの構成成分組成物注入の拡大図を表す。構成成分310は貯蔵器中、または注入器306に保たれ、構成成分308は貯蔵器中、または注入器304に保たれる。構成成分310と308は、構成成分310の注入用針状管腔 (needle lumen) 314と構成成分308の注入用針状管腔 (needle lumen) 312を含む双軸注射針318内を通ることになる。構成成分310および308は同時に治療部位302に注入され、組成物316を形成するために二つの構成成分が結合される。注入後直ちに、構成成分310と308、およびある程度の組成物316が療法部位302において組織を通して拡散する。構成成分および組成物は、心臓組織において最高2cmまで拡散することが観察されている(図11も参照のこと)。
【0088】
送達系は、規定された比で組成物の構成成分を送達しても良い。この比は、あらかじめセットしておく(そして固定)、あるいはダイアルして決めて(そして変えて)も良い。本発明の1つの実施例は、別個のギアあるいはてこを(設定可能な歯数比あるいはレバー比で)注入器間に圧力こう配を生成せしめず異なった比率で多数の化合物の送達を可能にするために利用する。本発明による他の複数の構成成分送達機器は、各構成成分の前もって決定された比を可能にする異なった口径のルーメン(lumen)を含む。本発明の若干の複数構成成分の送達機器は、一つの構成成分が他のものよりいっそう遠位に放出されるように、異なった長さのルーメン(lumen)を含む。それにもかかわらず他の機器は、その機器に単数または複数の混合室を内蔵する。少なくとも本発明の送達機器の1つの実施例は、多数の構成成分の一連(次から次へ)の送達のために使用される一つのルーメン(lumen)注射針/カテーテルを含む。
【0089】
送達機器のいくつかの実施例は、標的治療部位に隣接した血管に置かれ、そして血管壁を突き抜け、針先端あるいは注射針に含まれる極小カテーテルでもって望ましい部位にうまく進ませることにより心臓壁に血小板組成物を送達するために使用することができる。カテーテルあるいは注射針は、標的範囲を識別し、送達機器を適切な位置におくための局所的な画像診断システムを含んでも良い。機器は、閉じられた遠位端を有する1本以上の針、および物質を遠位端から心臓壁内に十分横に向けて方向付けるための単数または複数の脇あきを含んでも良い。望ましくは、注射針は、抜針に際して組成物の漏れを防止するために針刺入経路が十分自己密封であるように十分に小さいゲージ径を有している。最近のデータ(心外膜送達との関連において得られた)は、血小板ゲルが大きい18ゲージ注射針を通してでさえ、注入された場合、止血作用を実証している。 この結果は、注入した構成成分および血小板ゲルに固有の止血効果により達成された迅速な血液凝固に帰すことができるかもしれない。 別の実施例では、注射針のゲージは18ゲージより小さい。1つの実施例では、注射針のゲージは26ゲージである。
【0090】
代わりになるべきものとして、送達アセンプリは、出口ポートに隣接する近接端部上に、多数のライン集合管の間に及ぶ複数のルーメン(lumen)を有する1本以上の針を含んでも良い。複数のルーメン針アッセンブリは、物質の構成成分が単独で注入されることを可能にすることを得、ここに記載されるように、それによって構成成分が、選択された組織領域の中で、送達後に互いに反応することを可能にする。
【0091】
一実施例では、ここに記載されるように、複数のルーメン針アッセンブリが組成物の2つの構成成分が同時に、独立的に注入されることを可能とすることを得、そして次に互いに選択された組織領域内で一度反応し得る。複数のルーメン針アッセンブリを有している別の実施例において、諸ルーメン(lumen)は、その針の遠端位の近くに位置する混合室に注入し、選択された組織領域に注入される前に、注入された物質の構成成分が互いに直ちに混和される。本発明の血小板組成物はカテーテル方式により心臓壁に送達されることができる。
【0092】
本発明のために適したカテーテル送達方式は、ねじれ型あるいは平坦型先端の多数の双軸、あるいは同軸のルーメン(lumen)を有している方式を含む。本発明のカテーテル方式は、遠心端に位置する針あるいは他の注入機器、およびカテーテルの近接端部における注入器を含むことができる。本発明のカテーテルおよび他の送達機器は、望ましい比に複数の構成成分組成物を心臓組織に送達することができることを保証するために異るサイズに定められているルーメン(lumen)を有することができる。カテーテル方式の別の実施例では、徐放するために心臓壁そのものの中に組成物貯蔵器を作成するために用い得る。遠位部が望ましい療法部位に隣接するまで、カテーテルは血管の中に血管導入しても良い。針アッセンブリは血管壁に穴を開け、心臓組織に入れるために正しい方向に向けて置かれ得る。組成物はそして次に心臓組織に注入され、それによって、貯蔵を形成することができる。カテーテル方式を使用する場合、臨床家は血管を通じて心臓にアクセスする、あるいは心外膜性に(FIG. 12) 、心内膜性に(図13A -B)、あるいは経血管性に(図14A -B)組成物の送達のため心腔にうまく進む複数の経路の一つを使用して患者の心臓にうまく進むことができる。 図12と13により、心臓全体の横断面を示す。図14において、右心室と心房は断面図に示され、一方で左心室と心房は閉じられており心外膜表面およびその冠状血管が見えるように示されている。
【0093】
血小板組成物の心外膜送達は、図12に表す心臓の表面、外面である心外膜から心臓200の左心室516にある治療部位520にアクセスすること、および送達機器522で持って治療部位520に組成物を注入することを含む。
血小板組成物の内心膜性送達(図13AおよびB)は、例えば右心室504の中に上大静脈 (送達機器540)または下大静脈(送達機器540)を通じて順行性到達法(図13A) により経皮的に、送達機器540、540’により、心臓200の左心室にある治療部位 (Tg) にアクセスすることを含む。送達機器540は、送達機器540で組成物が注入される療法部位520に達するために心房中隔を通過して左心房508、そしてそれから左心室516の中に入る。図13Bに表す代替の内心膜性送達法は、例えば送達機器560で経皮的に逆行到達法により大動脈512を通って左心房508に入り、そしてそれから送達機器560で組成物を注入する治療部位520に達するために左心室516に入り、心臓200の左心室にある治療部位520にアクセスすることを含む。
【0094】
血小板組成物の経血管送達(図14AおよびB)は、例えば右心室504の中に上大静脈500 (送達機器580)または下大静脈502(送達機器580’)を通じて静脈性到達法(図13A) により経皮的に、送達機器580、580’により心臓200の左心室にある治療部位520にアクセスすることを含む。送達機器580は、これらの静脈を介して心静脈系に冠状静脈洞503を通って通過し、必要であれば心臓組織を通りこれら静脈をたどることにより離れ、組成物が送達機器580で注入される治療部位520に到達する。図14Bに表される代替の経血管送達方法は、例えば、送達機器590で経皮的に動脈性到達法により冠状動脈595を通じて組成物が送達機器590で注入される治療部位520に到達するために心臓200の左心室にある治療部位520にアクセスすることを含む。
【0095】
本発明の血小板組成物を注入するための機器は、さまざまな組成物の構成成分を冷却された状態に保持するための冷蔵部分を含むことができる。本発明を実践するための送達機器のさまざまな実施例は、トロンビン再充填用の冷蔵/冷却式の室、トロンビン用冷蔵/冷却式の室、そして/あるいはPRP再充填用撹拌機構、または沈殿物を未然に防ぐための注液室を含むことができる。送達装置には、送達後のゲル化/硬化速度を速め、または遅くするために心臓組織、または組成物を暖め、または冷やすために用いる加熱もしくは冷却装置を含めることができる。本発明の若干の機器は、機器ルーメン(lumen)を通って移動する間に注入組成物の成分を冷たく保つために冷却された一つのルーメン(lumen)、または複数のルーメン(lumen)のあるカテーテル、または他の送達機器を含むことができる。上記のとおり、一部の機器は、物質が組織の中に送達される前に、注入する組成物の構成成分を混和するための混合室を含むことができる。本発明の1つの実施例において、PRPは、PRPを均質に保つために十分な撹拌を提供する攪拌/振動室に貯蔵される。別の実施例において、臨床家はPRPを均質に保つために機器を傾けるか、あるいは他の方法で操作することにより送達機器に十分な撹拌を提供する。
【0096】
本発明を実践する臨床家は一つの送達アッセンブリを使用して多数の注入をする必要があることがあり得る。そのため、本発明の送達機器の少なくとも1つの実施例は、少なくとも1本の再利用可能な注射針を有している機器を含む。本発明の若干の実施例は、自動投薬システム、例えば、注入器による注入を進める方式を有している送達機器を含んでも良い。自動投薬システムは、各量を前もって決定し、また、ダイアルを合わせること(可変、または固定することができる)、例えば、ネジタイプの設定方式、を可能にすることができる。本発明の1つの実施例は、基部ハンドルが押されるごとに前もって決められた投薬量が前もって決められた、または手動制御可能な割合で送達される基部ハンドルを含んでも良い。
【0097】
さらなる代替の実施例において、カテーテルの外面に沿って前もって決定されている配置に実装されるように、送達システムは複数の針アッセンブリ(上記の個別針アッセンブリに類似している)を含んでも良い。1つの実施例において、針アッセンブリは単数または複数の横列に整えても良い。特に心筋内の、例えば血管に相当な程度並行して広がっている広範囲の離れた組織領域にアクセスするには望ましい。多数から成る針経血管カテーテル方式でもって、一つの機器が血管の中に送達され、正しい位置に置かれても良い。配列された複数の針は広範囲の組織領域に組成物を注入するために順次、または同時に配置されても良く、それにより選択した軌跡パターンを備える。上に記載するようなカテーテルをベースとした機器は、米国特許No.6,283,951に開示されており、その開示はそれを参照することにより本書に組み込まれる。
【0098】
臨床家が最低限外科的な、あるいは経皮的な手法を使って本発明を実践する場合、リアルタイム可視化あるいは誘導のなんらかの種類のものを部位特異的の注入を保証するために必要とすることがある。そのため、少なくとも本発明の一つの実施例は、リアルタイムで標的部位にカテーテルを追跡するために手術前MRI、またはCTイメージを送達カテーテルの蛍光透視イメージの上に重ねるMRI誘導技術を使用する。一つの実施例において、臨床家は、仮想3次元の環境において、注入の間造影剤そして/あるいは針先を追跡する誘導技術を使用する。本手法は将来の注入の適切なスペースを確保するために以前の注入を記録するものである。
【0099】
針アッセンブリ(あるいは他の機器構成成分)は望ましい部位に組成物の送達を導くためにフィードバック要素あるいは生理学的条件反射を計測するためのセンサを含んでも良い。例えば、EKG誘導は遠位端に含まれても、さもなくば心臓組織の電気的に静穏な領域に向けた注入を探知し導くために、あるいは組成物の送達の間モニターされる心臓内の電気的事象を考慮するために選択された組織領域内に送られても良い。治療の間、例えば、組成物を望ましい条件に適合するまで、組織領域の中に送達しても良い。同様に、局所的なEKGモニターは心臓組織の電気的に静穏な領域を標的とし、それに向けて注入を誘導することができる。
【0100】
血小板組成物を送達するために使用する機器、あるいは臨床家がどのように心臓壁にアクセスするかにかかわらず、本発明を実施する臨床家は正確な局所設置、および各注入のための正確な深さ制御を必要としている。本発明の1つの実施例において、物質は心臓壁における外壁および内壁のほぼ真ん中の深さに送達され/注入される。他の実施例において、物質は内壁あるいは外壁により近い深さに送達される。物質は、内心筋性に、準心内膜性に、あるいは準心外膜性に送達され得る。本発明の別の実施例において、注入の深さは、標的組織の肉厚により変化し、深さは、心臓の他の部位におけるよりも心尖においては浅い。
【0101】
深さの対照を得るために、本発明の少なくとも一つの送達機器は、針の遠位端から望ましい距離に、指定された深さを超えて組織を貫通することを未然に防ぐために針体に固定したストッパー(あるいは調整できるように固定された)を含む。若干の実施例は、注入の深さ制御をするために組織に正接で組織内に1またはそれ以上の針を刺し入れる方法を用いる。本発明の少なくとも一つの実施例において、針は、組織に対し垂直(90度)、組織に対し正接(0度)、その間の任意の角度で注入する位置に置くことができる。吸引が注入器の位置決めおよび侵入のコントロールを容易にすることができる。
【0102】
図6を参照すると、本発明の一つの実施例による送達機器(示されていない)の針65が心臓壁60のリモデリング部分に通常垂直の角度で接近している注入の一例を見ることができる。心臓組織内の望ましい送達部位62の上の点61にある心臓壁に直接針が穿通する。機器は、例えば上記のように、針が心筋中に望ましい穿通深さを達成することを確かなものにする単数または複数の手段を含んでも良い。
【0103】
図7は送達機器(示していない)の針75が心臓壁の望ましい注入点71にほとんど接線方向の角度で近づく場合における本発明の一つの実施例に従った注入の例を示す。針は、心臓組織内の望ましい送達部位72から接線方向に望ましい距離に位置する点71で心臓壁を穿通する。図示されていないが、吸引タイプの安定化機器を標的領域、あるいは心拍動隣接部を安定させるため、位置の付近、あるいは注入部位付近の心臓の表面にそれぞれ用いることもある。機器は、組成物が送達されることができるように、心筋70のドーム型部分を確保する。針が心筋中への穿通を達成するが超えないことをたしかなものとするために上記で説明したごとく機器は単数または複数の手段を含むことができる。
【0104】
本発明の少なくとも一つの実施例は、針先端が心臓壁内に維持されるように針先端から心室血液隔壁、あるいは内心膜表面間での距離を探知する「スマート針(Smart-Needle)」を使用する。このような針は超音波のような画像診断方式による針先端の周り、あるいはその先の画像診断に頼ることができる。
【0105】
時には注入部位の周りにできるだけ広く血小板組成物を分布させることが望ましいこともある。注入部位の周りに血小板組成物を一様に分布させるようにすることも同様に望ましいこともある。注入部位周囲での血小板組成物の分布を高めるための一方法は、終末に穴のある針の使用に対し、横に穴のある針を使用することである。多数の横穴は、注入部位の周りに組成物の幅広い分布を提供することができる。横穴はまた、むしろ針の先端のみからよりも多数の場所から組織へのアクセスを備えるので、それにより組成物は広い分布のためにより少ない移動が必要である。これらの針の横の穴の潜在的利益は、針先が心臓壁をたまたま貫通して心チャンバに入ったとしても、心チャンバ内血流に注入されることとは対照的に、この場合でもなお組成物は心臓組織に注入されるだろうということである。注入部位の周りに組成物の分布を高めるもう一つの方法は、注入部位で使用される針の数を増やすことである。必要に応じ、本発明の複数針の送達機器は、単一針の機器の使用に比べて、大きな領域に均一な分布を備えるために複数の針を互いに接近させて置くことが可能である。複数針の機器の針にある横穴の組合わせは、注入部位の周りに組成物の広範囲分布を提供し得る。
【0106】
本発明の一つの実施例において、注入部位周囲に組成物の分布を改善するために吸引を使用しても良い。吸引の使用により間隙空間に陰圧を作り出すことができる。負の圧力勾配により組成物が動かされるので、間隙空間内のこの陰圧は、組成物はより自由に遠くまで移動することを助けことができる。複数針の機器の針にある吸引と横穴の組合わせは、注入部位の周りに組成物のより徹底的にまた広範囲に分布を提供し得る。
【0107】
本発明の一つの実施例において、送達機器から組織への血小板組成物が、電流の適用を介して、例えば電気泳動を介して高められ得る。概して、組織中へのイオン化された物質の送達は、2つの電極間を流れる小電流を介して強められ得る。正のイオンが陰極から陽極、あるいは負のイオンから組織に導入され得る。イオン泳動法の使用は、特定のイオン化された物質の組織を通した移送を著しく促進することがある。
【0108】
一実施例では、送達機器の1本以上の針が正、そして/あるいは負の電極の役割を果たし得る。例えば、標的組織にイオン化した組成物をイオン泳動的に送達するために単極配列を介して針電極との組み合わせでアース電極を使用しても良い。1つの実施例において、組成物が最初に針から組織へ分散され得る。送達に続き、組成物は電流の印加を介して、イオン泳動的により深く組織に追いやることもでき得る。一実施例では、多数の針を有している送達機器が、双極性配列による正負両極を含んでも良い。さらに、一実施例において、多数の針電極が、同時に、あるいは順次物質を注入するため、そして/あるいは電流を与えるために使用され得る。
【0109】
本発明を実践する場合の一つの目標は、心臓の一つあるいは複数の室へ、冠状動脈、あるいは静脈系への不慮の送達を回避することである。一箇所またはそれ以上の領域への物質の送達は、例えば肺、または全身の塞栓形成、脳卒中、心鬱血、そして/または遠隔に置ける血栓塞栓症等の否定的な結果となる得る。本発明は方法の多様性により、これらの否定的な結果を未然に防ぐことに対処し目指すものである。
【0110】
本発明の少なくとも1つの実施例において、構成成分の一つまたはそれ以上の移動を最小にするために、ほとんど瞬時に生体内原位置で組成物がゲル化する、あるいは重合するように組成物の構成成分の比を選択する。 一実施例では、バルーンカテーテルが冠状静脈洞に置かれ、ゲル化が完了するまで送達の間膨らませておく。これにより液体構成成分が組織から冠状静脈枝に移動することを未然に防ぎ、そしてその代わりに標的組織への滞留とゲル化を促進することになる。少なくとも一実施例は送達機器に、注入液圧力が心室のチャンバ圧力を決して超えないことを確かなものとする圧力制御システムを含む。これにより組織に貯留することを促進し、テベージウス静脈系を通して心臓のチャンバへの組成物の圧力駆動移行を未然に防ぐことになる。本発明の一つの実施例は、否定的な結果が発生することを未然に防ぐために上記に説明したごとく「スマート針」を使用する。
【0111】
少なくとも本発明の一つの実施例は、針先を覆い、または複数の注入を必要とする注入と注入の間に針の先から構成成分の外向き流れを未然に防止するための局所的陰圧を適用する近位手動末端スリーブを含む。少なくとも一つの実施例において、カテーテルの構成成分のカラムは、注入と注入の間に流出を防ぐために一定の最小圧力以下に保たれている。少なくとも一つの実施例において、一つの構成成分が他を含んでいる管路内へ流入することを防止するために逆流防止弁を各管路に置いても良い。ゲル化反応が迅速であり異なる構成成分を注入時および注入部位まで分けて保たれねばならない場合、このことは重要である。このことにより、送達機器の詰まりを防ぎ、それにより一つの機器を使用して反復した注入が可能になる。本発明の少なくとも一つの実施例は、注入に続き、抜針する前に出血した血液の逆行を防ぐために「栓」として注入液を利用するように抜針中またはその後、何秒間かその場に針を保ち(例えば、血液凝固時間を越える5-30秒間)針刺入経路からの出血した血液の逆行を防ぐ。本発明の少なくとも1つの実施例において、針を注入する物質の予想されるゲル化時間の間、同じ場所に残し、そしてそれから抜く。本発明の一つの実施例において、注入する組成物のゲル化時間は5秒である。
【0112】
本発明の幾つかの実施例は、望ましい部位まで送達機器を導くセンサ、注入が望ましい深さで起こることを確かなものとし、送達機器が治療部位にあることを確かなものとし、望ましい量の組成物が送達されることを確かなものとし、そして使用されるべきなんらかのタイプのセンサまたは画像化手段を必要とするかもしれない他の機能を含むことができる。例えば、電気的活動のリアルタイム記録(例えば、EKG)、pH、酸素付加、乳酸等の代謝、CO2、あるいは心臓組織の生存度または活動の他の局所的な指標は、望ましい部位に注入を導くことに役立つ。本発明の若干の実施例において、送達機器は単数または複数のセンサを含んでも良い。例えば、センサーは単数または複数の電気のセンサ、光ファイバーのセンサ、化学的なセンサ、画像診断センサ、構造のセンサそして/あるいはコンダクタンスを測る近接センサであっても良い。一実施例では、センサは送達機器周辺組織の深さを決定するための組織深さセンサであっても良い。一実施例では、先端がチャンバー血液に入った場合および時には、pH、酸素付加、血液代謝産物、組織代謝産物等を検出するセンサは、使用者に警告を与えるために送達機器の末端で使用されても良い。これにより操作者は、組成物を送達する前に、送達器具を再配置させることになる。組織中に穿通する針の深さを制御するために1つ以上の深さセンサを使用しても良い。この方法で、針穿通深さを組織、例えば、例を挙げると心臓のチャンバ壁の組織の肉厚に従って制御することができる。若干の実施例において、センサは送達機器の1本以上の針に設置、あるいは配置されても良い。若干の実施例において、センサは送達機器の組織接触表面に設置、あるいは配置されても良い。本発明の他の実施例において、送達機器は単数または複数の指示器を含んでも良い。例えば、例えば視覚あるいは音響の様々な指示器は、望ましい組織深部が達成されたことを医師に示すために使用されても良い。
【0113】
さらに、送達機器は、送達機器が注入時に心室内ではなく心臓壁内にあることを確かなものとすることを外科医、あるいは臨床家が可能にするセンサを含んでも良い。注入器の位置の決定を可能にするようなセンサの非限定的実例は、圧力センサ、pHセンサ、および酸素などの溶け込んでいる気体のためのセンサを含む。本発明と共に使用するために適している送達機器と関連している追加のセンサは、逆流ポートまたは送達機器の針部分が組織内よりむしろ血流を有する領域内にあることを外科医または臨床家に知らせる逆流ルーメン(lumen)等の血流を示すセンサを含んでも良い。
【0114】
注入される血小板組成物の量は、心臓の大きさおよび治療する領域により様々なのであるが、本発明の少なくとも一つの実施例は、約1100μLの血小板組成物を注入部位ごとに心臓壁に注入する。別の実施例においては、約200μLから1000μLの血小板組成物を注入部位ごとに送達する。少なくとも一つの他の実施例において、約100μLおよび10000μLの血小板組成物を注入部位に送達する。別の実施例では、約50μLの血小板組成物を注入部位ごとに心臓壁内に注入する。一実施例では、臨床家は臨床リスクを最小にする一方で、臨床的有益性を最適化する注入量、注入部位の数と注入部位の面間隔、および心臓毎の組成物の総量を調整する。
【0115】
心臓毎の合計注入容積は、心臓の大きさ、心臓壁の損傷領域の大きさ、望ましい範囲の組織構造補強、そして/あるいは必要としている脈管再生の大きさに基づいた用量依存的であっても良い。少なくとも1つの実施例において、心臓壁に注入される血小板組成物の総量は注入部位の合理的な数において、組織により受け入れられることができる量である。別の実施例において、注入する組成物の合計量は15000μL(15mL)以下である。
【0116】
心臓毎の注入部位の数は、損傷領域の大きさおよび形状、注入が望ましい位置、および注入部位を分離している距離に基づき得ることができる。 少なくとも1つの実施例において、注入部位の数は5〜25部位に及ぶことができる。注入部位を分離している距離は、注入部位ごとに注入される血小板組成物の望ましい量、注入される望ましい総量、および損傷を受けている組織の状態に基づき様々である。少なくとも1つの実施例において、注入部位間の距離は約2cmであり、少なくとも1つの他の実施例において、注入部位間の距離は1cmである。さらに別の実施例では、注入部位の分離距離は、約50mmと約2cmの間の範囲に及ぶことができる。別の実施例においては、注入部位の間の距離は0.5cmから2.5cmの範囲に及ぶことができる。別の実施例では、注入部位の間の距離は2.5cmを超える。個別の単一注入としての代わりに、注入を針刺入経路に沿って持続注入または断続注入することができる。本発明の1つの実施例においては、血小板組成物を血管の形成を促進するパターンで心臓組織に注入する。一つの例示的パターンは血管形成が線状型に沿って刺激されるように組織の二つの標的領域を結ぶ線状型である。別の実施例においてパターンは分岐している。特に、血管形成は太い導管の形成を含む。
【0117】
図11に本発明の血小板組成物の多注入後損傷心臓組織の領域を表す。組成物は心室あるいはチャンバの平面402に沿って心外膜表面404および内心膜性表面406の中ほどの損傷心筋中に注入される。組成物は注入部位から数cmに注入液の拡散をもたらすことになる多注入部位410、420、430、および450に注入される。注入する組成物は、多注入が約2cm離れている場合は、組成物が構造用支持材料の重複フィールドを形成するように放散する。例えば、組成物412は注入部位410に注入され、図11に表されるように、拡散する。さらに、組成物422は注入部位420に注入され、拡散し、そして組成物412と混ざり合う。これは、組成物412、422、432、442そして452が構造用支持材料の連続した重複フィールドを形成するように注入部位430、440そして450で繰り返される。 本実施例では、組成物412、422、432、442および452が同じ組成物、非限定的実施例において、自己血小板ゲル化である。別の実施例では、一つ以上の組成物を治療部位を注入することができる。
【0118】
送達の位置は心臓組織の損傷領域および組織の構造補強の望ましい範囲の大きさと形状に基づいて変更することができる。本発明の少なくとも1つの実施例において、組成物は損傷心臓組織にのみ送達され、一方で他の実施例では損傷領域の周りの損傷周囲帯域が治療され、少なくとも他の一つの実施例では、組成物は損傷領域と隣接する健康な組織にのみ送達される。他の実施例において、組成物は損傷心臓組織のあらゆる組み合わせ、周辺損傷帯域の組織、および健康な組織に送達されても良い。
【0119】
障害事象に関連した血小板組成物送達のタイミングは、損傷重篤度、損傷の範囲、患者の状態、そしてあらゆる組織リモデリングの進行に基づくことになる。少なくとも1つの実施例において、血小板組成物はMIなどの障害事象後1ないし8時間、例えば虚血-再灌流の後(再灌流の後直ちにカテーテル検査室の設定において)1ないし8時間以内に送達する。別の実施例において血小板組成物は、障害事象の1時間以内に心臓壁に送達される。別の実施例では、血小板組成物が損傷後三日ないし四日後(患者が別個の処置を受けることを安全にする患者の臨床的安定後)に注入される。少なくとも1つの実施例において、損傷後最高数ヶ月、または数年を含み、血小板組成物を損傷の一週間以上後に送達する。心臓壁の中に組成物を注入するための他の日時も、あらゆる障害事象に先立つことを含み、また障害のある心臓組織の領域の発見にあたり直ちに(古い障害における付加的なリモデリングをあらかじめ予防するため)予測される。本発明の別の実施例において、障害事象の何年も後に組成物を心臓組織に注入することができる。別の実施例では、障害事象の後、約1時間から約2年に血小板組成物を心臓組織に注入する。別の実施例では、障害事象の後、約6時間から約1年に心臓組織に血小板組成物を注入する。別の実施例では、障害事象の後、約12時間から約9ヶ月に心臓組織に血小板組成物を注入する。別の実施例では、障害事象の後、約24時間から約6ヶ月に心臓組織に血小板組成物を注入する。別の実施例では、障害事象の後、約48時間から約3ヶ月に心臓組織に血小板組成物を注入する。別の実施例では、障害事象の後、最高10年までに血小板組成物を心臓組織に注入する。
【0120】
添加において血小板のための前述の使用権に他の損傷組織が、添加において損傷心臓組織に、新血管新生を促進する治療の送達から役立つであろう本発明、それの組成物、方法および方式は当業者には自明である。そのような組織の実施例は、傷、胃腸の組織、腎臓、肝臓、皮膚、および、脳、脊髄と神経のような神経組織を含むがこれに限定されず、臓器または部位における虚血組織を含む。
【実施例】
【0121】
ここに開示する本発明の方法および機器のテストを行うために諸実験は、実験室条件において行った。これらは、生体外実験(実施例1および2に記載)、健康な豚組織において行った生体内研究(実施例3および4)、および損傷羊組織で実施した生体内研究(実施例5)を含む。
【0122】
実施例No.1
自己血小板ゲル(APG)のための構成成分のさまざまな組み合わせをヒト血液、豚血液および羊血液を使用して生体外においてテストした。一つの組成物は、60mL全血(52.5ml全血 + 7.5mL抗凝固剤[クエン酸、クエン酸ナトリウムおよびデキストロースを含むACD-A、抗凝固デキストロース・クエン酸塩溶液A])からの6mL多血小板血漿の抽出を必要とした。このPRPは標的組織においてのみ混合が起こるように牛のトロンビン(10%CaCl2中にある1000U /ml)と約10:1(vol:vol)で混ぜた。これは以下に説明する生体においてテストされた組成物である。
【0123】
実施例No.2
ゲル化に影響を与えるフィブリノーゲンの能力そして/あるいはAPGの物理的性質は生体外において直接テストした。PRPおよび乏血小板血漿(PPP)をMedtronic Magellan(登録商標)血小板分離器を使用して新鮮なヒツジ血液から調製した。エタノール沈殿方法を使った結果生じているPPPから自己フィブリノーゲンをさらに抽出した。寒冷沈降反応のような代替の方法をフィブリノーゲン分離のために使用できる。沈殿したフィブリノーゲンを増強自己フィブチノーゲンPRP(AFFPRP)を産生するためPRP中に再度懸濁した。同じ動物からのものである(1)10:1比の牛のトロンビンPRP + 1000U/mlから作成した従来からのAPGと(2)10:1比の牛のトロンビンAFFPRP + 1000U/mlから作成した増強フィブリノーゲンのAPGの二つの調製品を比較した。同じ動物から精製した増強フィブリノーゲンAPGは、従来のAPGよりも目立ってより硬く/より強いものであった。このことは、ゲル化速度を減ずることなく、APGの機械的特性を増補するセルフィブリノーゲンの有用性を立証するものである。
【0124】
実施例No.3
組織内で接触し凝固する二つの分離された組成物(自己PRPおよび牛トロンビン)としてのAPGの壁内輸送が生体内で安全に達成することができることが成功裏に実証された。
【0125】
モデル&進入路:健全な豚のモデルを送達の安全および有効性をテストするために使用した。180ミリリットルのヘパリン添加していない血液を得、処置の日にMedtronic Magellan(登録商標)自己血小板分離器を使用してPRP18ccを作るために使用した。動物は次に250-300の範囲の活性凝固時間(ACT)にヘパリン処置された。胸骨正中切開術が心臓の心外膜表面に進入路を提供した。
【0126】
注入:3つの注入方式をテストした。方式1はPRP単独を送達する27ゲージの注入器。方式2は、針内へのルアーロック付き2ルーメン(lumen)傾斜カテーテル(各内径[ID]0.0085インチ)を含む18ゲージステンレス針および二つの独立近位注入器 (サイズは12 mLと1 mL)。注入器は、望ましい比において(本実施例では約11:1)二つの組成物の同時注入を確かなものとする片手操作集合管を使用して操作された。
これは、自己PRPおよび牛トロンビンを注入するために使用された。そして、方式3は、2本の針注入器を備えた吸引ヘッド(心臓の心外膜表面上に位置される)と組み合わさった吸引注入器。吸引部材は心臓の拍動の局所的な安定化を達成する吸引ポンプにより駆動される。針(チャンバの平面に平行な組織に入る)が制御可能な深さに送達できるように、加えて心臓壁を吸引カップ内に引き寄せる。図10に表すごとく、針は二つの分離された注入器で駆動され片手注入集合管にも固定されている。自己PRPおよび牛トロンビン(この実施例では11:1)の望ましい比の送達を確かなものとするために12mLと1mLの注入器が使用された。少量の多数の注入(200-400μl/各)は心外膜外科的到達法によって遂行される。上記方式1および2を使用して注入するために、注入は標的組織に垂直になされ、「深さ固定装置」は望ましい深さに注入することを確かなものとするために用いられた。標的深さは左心室において5mm、および右心室において3mmであった。深さ固定装置は、注入針が通過する中央の穴を有するC型の部材で構成されている。針の長さに沿って望ましい位置に、その外側に沿って深さ固定装置を止めるために側部ネジ(ねじ込むにつれて深さ固定装置のルーメンのサイズが狭くなる)を使用した。力を加えることにより標的組織内に穏やかに針が進められるにつれ、深さ固定装置のレベルまで針が到達し、それを超えては進まなくなる。このようにして、本方式は、組織内への針穿通の固定された深さを確かなものとし、壁の肉厚が既知であれば、あるいは見積もることができる場合には壁内注入が生じていることを確かなものとする。
【0127】
本研究におけるすべての注入のために、Medtronic Starfish(登録商標)(米国ミネソタ州ミネアポリスMedtronic, Inc.から入手可能)を心臓拍動の安定化手順として使用した。
【0128】
標的組織:左心室(LV、底部、中間位置、心尖)、および右心室(RV,底部、中間位置、心尖)に注入を行った。LVの中への注入は5mmの深さに目標を定めた。RVの中への注入は3mmの深さに対象を定めた。
【0129】
組成物:異なった注入液をテストした。
1) 自己PRPのみ―外因性トロンビンの欠如において凝血塊形成が発生するか否かを決定するため
2) 自己PRP + 牛のトロンビン
3) 各上記注入は自己PRPにトルイジン青色素の添加のあるなしにより行われた。
これは実験的な目的のために追跡用色素の有用性および有効性をテストするものであった。
4) 食塩水対照
【0130】
結果:APG注入後の止血作用は卓越していた。特に、健全な豚の心筋中において、APGを最高1000μl/各までを多数、左心室へ注入することは可能であり臨床的に安全であった。最高3日間の追跡調査において有害事象は観察されなかった。特に、健全な豚の心筋中において、APGを最高200μl/各までを多数、右心室へ注入することは可能であり臨床的に安全であった。有害事象は2時間を超える追跡調査時間では観察されなかった。
【0131】
23箇所の注入により、注入中または最後の注入後1時間の間、不整脈、低酸素血症、あるいはどのような臨床的に危険な徴候もなく耐用性良好であった。死後、血栓あるいは血栓塞栓性続発症は見いだされなかった。23箇所の注入のすべては成功しており、剖検中注入部位を調べた。
【0132】
さらに、心筋中へのAPG注入は不整脈に対して防護効果があることを実証した。この豚モデルにおいて、左心室分割注入における5600μl注入は、塩化カリウム(KCl)の血管内投与量により引き起こされる致死的不整脈に相対的に抵抗する。KClの標準用量により10-15秒中に予想される細動を来たす代わりに、不整脈は1.5分以上において観察されなかった。なんらかの不整脈が発現する前に、KClの2回目の投与量が必要であった。
【0133】
血小板ゲルは外因性トロンビンの添加なしでPRPのみから形成されることができる。心筋に注入された多血小板血漿はそれのみで(トロンビンなしで)生体内原位置で驚くべきことにゲル化する。本発明者は、組織トロンビンはこのゲル化反応の引き金となるのに十分な量中に存在していても良いとする非拘束仮説を定式化した。それゆえ、単独で生体内における心筋に注入される場合、PRPは組織内にAPGを作り出すために使用されても良い。
【0134】
実施例No.4
PRPにトルイジン青色素を添加することにより多血小板血漿を組織中に探知することができる。この色素は、トロンビンとの組み合わせにおけるPRPのゲル化の特徴(ゲル化の速度、ゲル化の範囲、得られたゲルの硬さ)をはっきりと分かるように変化させない。
【0135】
心筋中への注入によるAPG分布のパターンは、生体において評価した。3匹の豚において、トルイジン青でラベルしたAPGの注入は、各注入が組織内のすべての方向にAPGの分布をもたらす結果を実証した。最も重要な拡散は心室の平面に沿っている。
【0136】
APGは心室の平面において放射状に最高1.5cm移動する。注入によっては、APGは注入部位から1.5cm以上離れて検出された。組織中の素材の更なる拡散を妨ぐ十分なゲル化が起こるまでゲル化過程中APGが移動する可能性は高い。
【0137】
実施例No.5
虚血心筋中へのAPG注入の急性効果は、羊の前壁梗塞モデルにおいて調べられた。このモデルにおいて、心筋梗塞は障害の数分以内に発生する有害な構造的、そして機能的変化をもたらす。リモデリングの初期の特徴は心室弛緩、壁菲薄化、無動症およびしばしば運動障害を含む時間がたてば、リモデリングが継続するとこれらの変化が進行する。損傷心筋にAPGを供給することにより早期梗塞後治療介入がリモデリング過程を妨げることができると決定された。加えて、そのようなAPG処置は、APGを受けなかった対照塞栓動物以上に塞栓を起こしている心臓組織の新血管新生において有意な増加をもたらした。
【0138】
梗塞、あるいは非梗塞組織に行われた場合、注入は安全であり、耐用性は良好であった。また早ければMI後1時間であっても安全に履行できることを実験は示した。制御された注入は心臓安定装置の有無にかかわらず可能であり、また外部からの心臓ペーシングなしで注入が可能であった。注入は0.5から2.5cmの間隔で心臓表面に対して直角及び斜めに行った。総注入量は心臓あたり15.0mlの高い量であっても、また個々の注入は、注入部位ごとに1100μlの高い量であっても、安全であることがテストされた。
【0139】
梗塞後1時間でAPGを受け、2週間追跡調査をした13匹の羊において、APGは不整脈関連梗塞後死亡率を梗塞を受けた既存対照動物の25−30%から梗塞プラスAPGを受けた動物の8%に減少させた。
【0140】
梗塞形成およびAPG注入後、リモデリングは急速に防止された。この13匹の羊の研究において、心臓の形態および機能をAPG注入前後の異なる時点で評価した。MI後1時間のAPG注入は心臓壁が顕著に厚くなることと注入後にMI後運動障害の矯正をもたらした。APG注入なしの梗塞を受けた既存動物に対し、MI後リモデリングが部分的あるいは全体に防がれた場合、この効果は追跡調査2週間で引き起こされつつあった。
【0141】
この前壁梗塞のモデルにおいて、梗塞形成の数分以内に心室は梗塞前拡張期容積の152.4%に容積を広げた。収縮期の駆出率(EF)も梗塞形成後、基線の62.1%に極端に下がった。5匹の動物において梗塞形成1時間後、APGを損傷心筋に注入した。処置を受けた心臓は、心筋内に送達される分注により、それぞれ10から13.6ccの間のAPGを受けた。この処置は、予想された梗塞後拡張期容積の増加を梗塞前容積の152.4%から108.6%に減少させた。これは、リモデリングの鍵となる測定基準の一つである予想されるMI後のチャンバの拡大を防止するAPGの実質的な効果を実証している。前MIレベルの62.1%から70.3%まで回復したごとく、本研究において、APG注入はMI後EFに関する薬効をも有した。1匹の動物において、APG送達はMI前レベルの111.1%であるEFをもたらした。すなわち、この動物において、EFは基線において45%、梗塞直後35%、そしてAPGの投与後50%であった。これは、心臓損傷後のAPG投薬が、EFに関する梗塞形成の部分的または完全な有害急性効果を回復させること、および若干の状態においては梗塞前のレベルにEFを拡張することがあることを実証するものである。
【表1】
【0142】
梗塞1時間後、および8週間後にAPGを受けた12匹の羊において、標的虚血組織における新血管新生にAPGは驚くほど関連していた。標的組織は明らかに虚血性であり、機能的構造を発生するために成長することはいうまでもなく、細胞生存のためには劣悪な環境を備えているのでこの効果は予想されなかった。12匹の動物中12匹において、APG処置された梗塞領域中に多くの小血管が8週間において観察された(図16と17)。血管中に観察される赤血球は周囲組織に新鮮な血液供給を提供することができる機能的な血管であるとみなすことができる灌流の示唆に富んでいる。このような血管はAPG注入なしで梗塞形成に見舞われている動物において通常観察されない。
【0143】
実験は、APGの凝固速度における動物間(そして多分患者間)とAPGの機械的性質のバラつきがあることを明らかにした。改善されたAPG凝固速度/強度を示す方法は、APGを作成するために1000U /mlにおいて高用量牛トロンビンを使用し、APGを作成するために冷却された(〜0℃)トロンビンを使用することを含む。加えて凝固速度/強度は高濃度のフィブリノーゲン(例えば、エタノール抽出あるいは冷凍調整剤により予製する自己フィブリノーゲン)で自己PRPを強化することにより改善することができる。
【0144】
同様に、注入後凝固速度/強度は、最小未活性化を確かなものとするために注入前PRPの極めて注意深い取り扱いにより改善することができる。標的組織における注入液の滞留を増強し、可能性がある漏れ/出血した血液の逆行問題に対処するいくつの方法を明らかにした。これらの方法は、APGを作成するために高用量の牛トロンビン1000U /mlを使用することを含む。PRP送達、および/またはPRPの沈殿物、または分解を妨げるための補充チャンバにおいて、攪拌機の機構を使用することができる。これにより標的組織に均質なPRPの送達を確かなものとし、改善された凝固を促進することになる。注入液が送達された後、注入部位において5-10秒間針が一時停止することを可能にし、組織において注入経路を長くするために斜角を用い、そして針の挿入に関する注入部位の局所的安定を含む。これらの方法のそれぞれは前述の実施例においてテストされた。
【0145】
冷却された(〜0℃)トロンビンを使用してAPGを作成することも標的組織における注入液の滞留を高める。冷却されたトロンビンを使用した実施例のために、トロンビン送達、そして/または補充チャンバにおいて冷蔵された/冷却されたチャンバを使用することができる。
【0146】
適切な針留置、および貯留を確認するために使用できる術中ECHO(超音波心臓検査法)により注入された組成物を視覚することができる。ECHOを別個の機器として使用することができ、あるいは、送達システム(例えば血管内超音波診断法[IVUS]に類似)の中に含めることができる。
【0147】
心腔の意図せざる穿孔、および/またはチャンバ内血液(または血管)への送達は、注入中にECHOまたはIVUSによって提供されるような画像診断誘導装置を使用することにより回避することができる。加えて、心臓の心尖中への直接心外膜注入は、チャンバ穿刺を避けるために避けるべきであることが分かった。それに代わり、尖端組織にアクセスするために斜角注入を用いるべきである。同様に、送達機器の送達部分が、心室あるいは冠状血管などの望ましくない位置にある場合、操作者に知らせるために機器を用いることができる。そのような機器は、送達システムが、その標的組織が血液腔などの位置にある場合、ユニークな信号を発する圧力下逆流血液を表すための少なくとも一つのセンサ、これに限定するものではないが、圧力センサー、色彩検出器、酸素センサ、二酸化炭素センサ、あるいはルーメン(lumen)を含む。使用者は警告された場合、組成物を送達する前に機器を再配置することができる。
【0148】
注入後直ちに梗塞左心室壁の肉厚をMI前の (あるいはそれ以上の)レベルに回復するために、ここに開示する方法を使用することができることをこれらの実験は示した。この好ましい効果は最長1週間(再現可能な方法で)持続する。この方法により同様に、左心室収縮期の駆出率(EF)を心筋梗塞前のレベルに、注入後直ちに回復させることができる。加えて、個々に開示する治療法は、左心室組織無動原体特性の運動障害部分を与えることによりMI後の心臓力学および機能を改善することができる。
【0149】
構造的に組織を補強する組成物でもって、あるいはなしに新血管新生を促進する諸物質を注入することにより、損傷心臓組織を治療する方法を本発明は開示する。図8から明らかなように、方法は通常、治療が望ましい心臓組織の虚血領域を識別し、そして/または画像化する101、望ましい効果(組織の構造的強化のある、あるいはない新血管新生)を達成するために心臓組織に注入する適切な物質(構造支持のある、あるいはない生物学的製剤療法)を決定する、心臓組織に物質を注入するための適切な機器を選定する102、心臓組織にアクセスする103、望ましい治療位置に物質と送達機器を送達すること104、心臓組織に物質を注入すること105、および機器を回収すること106の諸ステップを含む。組成物(物質/注入液)を注入すること、組成物、および送達の諸過程のための方法と諸機器を本明細書に論じて来た。
【0150】
さらに、図15において見られるごとく、本発明のシステムは、心臓組織の損傷領域と治療部位の識別、送達機器による治療部位へのアクセス、心臓組織にある治療部位の一ないしそれ以上の場所への組成物の注入、および患者からの送達機器の回収を含む。
【0151】
特に明記のない限り、明細書および請求項で使用された成分の量を表すすべての数字、分子量などの特性、反応条件などは、すべての例において「約」の用語を付けて修正して理解されるべきである。したがって、特に反対のことを明記しない限り、明細書および請求項に記載の数のパラメータは、本発明により求めて得られた望ましい特性に基づき変化する近似値である。少なくとも請求項の範囲に均等論の適用を制限する試みとしてではなく、公表された有効数字の数を考慮に入れ、また通常の四捨五入手法を適用することにより各数的パラメーターは少なくとも解釈されるべきである。発明の広い範囲に記載されている数的範囲とパラメーターが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に記載の諸数値は可能な限り正確に報告されている。あらゆる数値は、しかしながら、生得的に各テスト測定において見出される偏差から生じているある特定の誤差を必ず含んでいる。
【0152】
本明細書に特に明記がなく、または文脈により明瞭に否定されない限り、本発明を説明する文脈中に使用される用語、「一つの」「その」および類似の指示対象は、単数および複数の両方をカバーすると解釈されるべきである。ここでの値の範囲の記述は、範囲内に収まる各別々の値を個々に参照する簡便な方法としての役割を果たすことを単に意図している。特に明記のない限り、各単一値は、個々に列挙されているかのごとく、明細書に記載される。本明細書に説明されているすべての方法は、特に明記のない限り、あるいは文脈により明瞭に否定されていない限り、あらゆる適切な順序で履行することができる。個々に記された、あらゆるそしてすべての例の使用、あるいは、例示的言語(例えば「等の」)は、ただ発明をよりはっきりさせるものであり、あるいは特許権利を請求している発明の範囲を制限するものではない。本明細書における言語は本発明の実践に欠くことができないあらゆる特許権利を有さない要素を示していると解釈されるべきではない。
【0153】
代替要素の群分け、あるいはここに開示する本発明の実施例を制限として解釈されてはならない。各群の構成材は、個々に、あるいは群の他の構成材または本明細書に見出される他の構成材とのあらゆる組み合わせに言及し、また特許権利を請求し得る。群の一つまたはそれ以上の構成材は、便宜、および/または特許資格の理由のために、群に含め、またはから除かれ得ることが予期される。なんらかのそのような包含または削除が起こった場合、本明細書は、付帯の特許請求項において使用されているすべてのマーカッシュグループの書面による明細を満たし、そのように修正されているグループを含んでいるとみなす。
【0154】
本発明のある特定の実施例は、本発明を実行するために発明者に知られている最も良い方式を含め、ここに記載されている。もちろん、これら説明した諸実施例の変法は前述の説明を読む当業者には明白になる。発明者は当業者が適切であるそのような変法を採用することを期待し、さもなければ本明細書に具体的に説明した以外の方法で本発明が実践されることを意図する。したがって、本発明は、関係法令により許されるここに付加した諸請求項において列挙した主題のすべての修正および等価物を含む。さらに、本明細書に特に明記し、または文脈により明瞭に否定されていない限り、すべての可能なその変法における上記の諸要素のあらゆる組み合わせは、本発明に含有される。
【0155】
さらに、本明細書を通じて、特許と出版物の多数の参考文献が引用されている。上記に引用された参考文献のそれぞれ、および出版物は、参照によりその全体が本明細書に記載されているものとみなす。
【0156】
締めくくりに、ここに開示する本発明の実施例が本発明の原則の図解であることが理解されるはずである。用いられ得る他の修正は本発明の範囲内である。このようにして、実施例として、しかし制限されるものではないが、本発明の代替の構成は本明細書により教示されるものに従って利用され得る。従って、本発明は、正確に示し、説明したものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】正常な、健康な心臓の図である。
【図2】損傷心筋領域のある心臓の図である。
【図3】図2に示される損傷心筋の拡大図である。
【図4】図1に示される心臓横断面を表す。
【図5】左心室壁の損傷を受けリモデリングされた心臓組織の領域を示す心臓横断面を表す。適格損傷心臓組織は異なった肉厚および幾何学的形状を有する。一例は、少し薄くなり弛緩している(動脈瘤)壁で示されている。
【図6】本発明の実施例に従って心臓壁に組成物を送達するために使用される注射針を表す。
【図7】本発明の実施例に従って心臓壁に組成物を送達するために使用される注射針を表す。
【図8】本発明の教示に従って心臓組織を治療するステップを示すブロック図である。
【図9】本発明の1つの実施例に従って、心臓の中への組成物の送達を概略的に表す。
【図10】本発明の別の実施例に従って、心臓組織中への組成物送達の詳細図を概略的に表す。
【図11】本発明の実施例に従って、送達後の心筋組織内における組成物の移行を概略的に表す。
【図12】本発明の教示に従って、心臓組織へ組成物を送達する心外膜到達法を概略的に表す。
【図13A】図13A-Bは本発明の教示に従って、心臓組織へ組成物を送達する心外膜到達法を概略的に表す。図13Aは静脈系を通した順行性内心膜到達法を表す。
【図13B】図13A-Bは本発明の教示に従って、心臓組織へ組成物を送達する心外膜到達法を概略的に表す。図13Bは動脈系を通した逆行性内心膜到達法を表す。
【図14A】図14A-Bは本発明の教示に従って、心臓組織に組成物を送達する経血管到達法を概略的に表す。図14Aは静脈到達法を表す。
【図14B】図14A-Bは本発明の教示に従って、心臓組織に組成物を送達する経血管到達法を概略的に表す。図14Bは冠状動脈を通って動脈到達法を表す。
【図15】本発明の方式のフローチャートを表す。
【図16】本発明の教示に従い、梗塞形成1時間後に自己血小板ゲル(多血小板血漿および牛のトロンビンが10:1の比)注入における8週間後の梗塞性心筋の顕微鏡写真を表す。多くの血管(矢印A)が梗塞組織領域(矢印C)の中に観察される。これらの血管が赤血球(矢印のB)を運んでいる。
【図17】本発明の教示に従い、梗塞形成1時間後に自己血小板ゲル(多血小板血漿および牛のトロンビンが10:1の比)注入における8週間後の梗塞性心筋の強拡顕微鏡写真を表す。多くの血管(矢印A)が梗塞組織領域(矢印C)の中に観察される。これらの血管が赤血球(矢印のB)を運んでいる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓組織の新血管新生のためのシステムであって、
血小板組成物、および
前記心臓組織に前記血小板組成物を導入するための少なくとも1つの送達機器を有し、
前記血小板組成物が前記心臓組織に新血管新生を生じさせることを特徴とする心臓組織の新血管新生のためのシステム。
【請求項2】
前記血小板組成物、が血小板ゲル、多血小板血漿および乏血小板血漿で構成される群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前述の血小板組成物が自己由来のものである請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記血小板ゲルが乏血小板血漿あるいは多血小板血漿および活性化剤から形成される請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記活性化剤がトロンビンである請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記トロンビンが、組換えトロンビン、ヒト・トロンビン、動物トロンビン、改変トロンビンおよび自己トロンビンで構成される群から選択されている請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記血小板ゲルが多血小板血漿あるいは乏血小板血漿およびトロンビンから約5:1と約25:1の間の比で形成されている請求項4に記載のシステム。
【請求項8】
多血小板血漿あるいは乏血小板血漿のトロンビンに対する前述の比が約10:1である請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記血小板組成物がトロンビンの外因性起源のない多血小板血漿を含む請求項2に記載のシステム。
【請求項10】
前記血小板組成物が前述の治療部位に送達され、前記治療部位における前述の心臓組織内にゲルを形成する請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記膠原質、生体適合性重合体、アルギン酸塩、合成/ 自然化合物、フィブリノーゲン、絹エラスチン重合体、ヒドロゲルおよび歯科用複合材料素材からで構成される群から選択された構造材料をさらに含む請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
物理的、または化学的架橋、または前述の組成物の酵素、化学、熱、または光活性化で構成される群から選択された賦活化の結果、前述の構造材料が固体またはゲルを形成する請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記血小板組成物がさらに生物活性剤を含む請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記生物活性剤は医薬的に有効な化合物、副腎皮質ホルモン、成長因子、酵素、DNA、リボ核酸、siRNA 、ウイルス、タンパク質、脂質、重合体、ヒアルロン酸、抗体、抗生物質、反炎症の作用薬、アンチセンスヌクレオチドおよびトランスフォーミング核酸、およびその組み合わせで構成される群から選択される請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前述の血小板組成物がさらに造影剤を含む請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記心臓組織に損傷が起こった後、約1時間と約1年の間に前述の損傷を受けた心臓組織に前記血小板組成物を提供する請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
約1から20箇所の注入において前述の血小板組成物が提供される請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
順次前記注入を提供する請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
ほとんど同時に前述の注入を提供する請求項17に記載のシステム。
【請求項20】
前述の血小板組成物が最高約15mLまでの総注入量を含む請求項17に記載のシステム。
【請求項21】
前記血小板組成物が注入あたり最高約1100マイクロミリリットルの注入量を含む請求項17に記載のシステム。
【請求項22】
前記血小板組成物が組織表面に直角、あるいは斜めの角度で前述の心臓組織に注入される請求項1に記載のシステム。
【請求項23】
前記心臓組織における前記注入部位が心内膜下、心外膜下および心筋内部位で構成される群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項24】
前記血小板組成物が心筋の肉厚のほぼ真ん中の深さにおいて前記心臓組織に注入される請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記送達機器が内心膜性注入カテーテル、経血管注入カテーテルおよび心外膜注入カテーテルで構成される群から選択した注入カテーテルである請求項1に記載のシステム。
【請求項26】
前記血小板組成物が、障害事象の間あるいは障害事象が起きた後、前記治療部位に提供される請求項1に記載のシステム。
【請求項27】
前記治療部位が、損傷領域、損傷周辺領域および損傷領域を取り巻いている健康な組織で構成される群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項28】
心臓組織における治療部位に血小板組成物を提供するステップを有し、前記血小板組成物が心臓組織に新血管新生を生じさせることを特徴とする心臓組織に新血管新生を生じさせる方法。
【請求項29】
前記血小板組成物が血小板ゲル、多血小板血漿および乏血小板血漿で構成される群から選択される請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記血小板組成物が自己由来のものである請求項28に記載の方法。
【請求項1】
心臓組織の新血管新生のためのシステムであって、
血小板組成物、および
前記心臓組織に前記血小板組成物を導入するための少なくとも1つの送達機器を有し、
前記血小板組成物が前記心臓組織に新血管新生を生じさせることを特徴とする心臓組織の新血管新生のためのシステム。
【請求項2】
前記血小板組成物、が血小板ゲル、多血小板血漿および乏血小板血漿で構成される群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前述の血小板組成物が自己由来のものである請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記血小板ゲルが乏血小板血漿あるいは多血小板血漿および活性化剤から形成される請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記活性化剤がトロンビンである請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記トロンビンが、組換えトロンビン、ヒト・トロンビン、動物トロンビン、改変トロンビンおよび自己トロンビンで構成される群から選択されている請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記血小板ゲルが多血小板血漿あるいは乏血小板血漿およびトロンビンから約5:1と約25:1の間の比で形成されている請求項4に記載のシステム。
【請求項8】
多血小板血漿あるいは乏血小板血漿のトロンビンに対する前述の比が約10:1である請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記血小板組成物がトロンビンの外因性起源のない多血小板血漿を含む請求項2に記載のシステム。
【請求項10】
前記血小板組成物が前述の治療部位に送達され、前記治療部位における前述の心臓組織内にゲルを形成する請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記膠原質、生体適合性重合体、アルギン酸塩、合成/ 自然化合物、フィブリノーゲン、絹エラスチン重合体、ヒドロゲルおよび歯科用複合材料素材からで構成される群から選択された構造材料をさらに含む請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
物理的、または化学的架橋、または前述の組成物の酵素、化学、熱、または光活性化で構成される群から選択された賦活化の結果、前述の構造材料が固体またはゲルを形成する請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記血小板組成物がさらに生物活性剤を含む請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記生物活性剤は医薬的に有効な化合物、副腎皮質ホルモン、成長因子、酵素、DNA、リボ核酸、siRNA 、ウイルス、タンパク質、脂質、重合体、ヒアルロン酸、抗体、抗生物質、反炎症の作用薬、アンチセンスヌクレオチドおよびトランスフォーミング核酸、およびその組み合わせで構成される群から選択される請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前述の血小板組成物がさらに造影剤を含む請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記心臓組織に損傷が起こった後、約1時間と約1年の間に前述の損傷を受けた心臓組織に前記血小板組成物を提供する請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
約1から20箇所の注入において前述の血小板組成物が提供される請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
順次前記注入を提供する請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
ほとんど同時に前述の注入を提供する請求項17に記載のシステム。
【請求項20】
前述の血小板組成物が最高約15mLまでの総注入量を含む請求項17に記載のシステム。
【請求項21】
前記血小板組成物が注入あたり最高約1100マイクロミリリットルの注入量を含む請求項17に記載のシステム。
【請求項22】
前記血小板組成物が組織表面に直角、あるいは斜めの角度で前述の心臓組織に注入される請求項1に記載のシステム。
【請求項23】
前記心臓組織における前記注入部位が心内膜下、心外膜下および心筋内部位で構成される群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項24】
前記血小板組成物が心筋の肉厚のほぼ真ん中の深さにおいて前記心臓組織に注入される請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記送達機器が内心膜性注入カテーテル、経血管注入カテーテルおよび心外膜注入カテーテルで構成される群から選択した注入カテーテルである請求項1に記載のシステム。
【請求項26】
前記血小板組成物が、障害事象の間あるいは障害事象が起きた後、前記治療部位に提供される請求項1に記載のシステム。
【請求項27】
前記治療部位が、損傷領域、損傷周辺領域および損傷領域を取り巻いている健康な組織で構成される群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項28】
心臓組織における治療部位に血小板組成物を提供するステップを有し、前記血小板組成物が心臓組織に新血管新生を生じさせることを特徴とする心臓組織に新血管新生を生じさせる方法。
【請求項29】
前記血小板組成物が血小板ゲル、多血小板血漿および乏血小板血漿で構成される群から選択される請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記血小板組成物が自己由来のものである請求項28に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2009−530411(P2009−530411A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501616(P2009−501616)
【出願日】平成19年1月3日(2007.1.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/060059
【国際公開番号】WO2007/112135
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(502129357)メドトロニック ヴァスキュラー インコーポレイテッド (125)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月3日(2007.1.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/060059
【国際公開番号】WO2007/112135
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(502129357)メドトロニック ヴァスキュラー インコーポレイテッド (125)
【Fターム(参考)】
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