説明

搬送車押し上げ装置

【課題】登り坂において走行不能となった搬送車を好適に押し上げる。
【解決手段】搬送車押し上げ装置は、天井又は天井近傍位置に敷設される軌道(100)に沿って搬送車(200)が走行する搬送システムにおいて、搬送車を軌道の坂道軌道部に沿って坂上側に押し上げる。搬送車押し上げ装置は、坂道軌道部に沿って延在するように設けられたガイドレール(610,620)と、ガイドレールに沿ってスライド可能なスライド部(630,640)と、スライド部に所定の押し上げ力を伝達し、該スライド部をガイドレールに沿って坂道軌道部の坂上側に押し上げる押し上げ力伝達手段と(711,712,721,722)を備える。スライド部は、所定の押し上げ力が伝達されない状態では搬送車と干渉しない位置となり、所定の押し上げ力が伝達される状態では搬送車と当接して搬送車を坂上側に押し上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば天井周辺に敷設された軌道上を複数の搬送車が走行する搬送システムにおいて、登り坂で停止した搬送車を押し上げる搬送車押し上げ装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の搬送システムとして、天井に敷設された軌道を走行することで、FOUP(Front Opening Unified Pod)等の被搬送物を搬送する懸垂型の搬送車(所謂OHT:Overhead Hoist Transport)を備えるものが知られている。このような搬送システムでは、軌道は水平方向に同じ高さで配置されることが好ましい。しかしながら、既存のシステムに新規設備等を増設する際には、やむを得ず軌道に高低差が生じてしまうことがある。
高低差を有する軌道の形成方法としては、例えば複数のレール部材を湾曲するように繋げるという方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、登り坂における搬送車の走行効率を高めるために、補助レール及び補助輪を設けるという技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−13330号公報
【特許文献2】特開2005−29043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した搬送システムでは、搬送車が故障等によって軌道途中で走行不能となる場合がある。走行不能となった搬送車は、他の搬送車の障害とならないよう、例えば手動で搬送軌道から離脱させられる。ここで特に、搬送車が登り坂において走行不能となってしまうと、搬送車を登り坂の上側まで押し上げて離脱させることが求められる。しかしながら、天井周辺の軌道を走行中の搬送車を手動で押し上げることは決して容易ではない。特に、登り坂が急であったり、その距離が長かったりすると、搬送車の押し上げ作業は極めて困難なものとなる。
【0005】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、登り坂において走行不能となった搬送車を好適に押し上げることが可能な搬送車押し上げ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の搬送車押し上げ装置は上記課題を解決するために、天井又は天井近傍位置に敷設される軌道に沿って搬送車が走行する搬送システムにおいて、前記搬送車を前記軌道の坂道軌道部に沿って坂上側に押し上げる搬送車押し上げ装置であって、前記坂道軌道部に沿って延在するように設けられたガイドレールと、前記ガイドレールに沿ってスライド可能なスライド部と、前記スライド部に所定の押し上げ力を伝達し、該スライド部を前記ガイドレールに沿って坂道軌道部の坂上側に押し上げる押し上げ力伝達手段とを備え、前記スライド部は、前記所定の押し上げ力が伝達されない状態では前記搬送車と干渉しない位置となり、前記所定の押し上げ力が伝達される状態では前記搬送車と当接して前記搬送車を坂上側に押し上げる。
【0007】
本発明の搬送車押し上げ装置が設けられる搬送システムによれば、天井又は天井近傍位置に敷設された軌道を搬送車が走行することで、例えばFOUPやレチクル等の被搬送物が搬送される。搬送車は、例えば軌道を走行する走行部と、該走行部に取り付けられた搬送部とを備えている。搬送部は、例えば被搬送物を把持する把持部を備えており、被搬送物の積載時には、把持部に把持された被搬送物が搬送部の収容空間に収容される。収容空間は、例えば下方側に向けて開口したコの字状の搬送部における内部の空間として規定されている。
【0008】
本発明に係る軌道は、少なくとも部分的に坂道軌道部を有している。即ち、水平方向で見た場合に、高さの異なる2つの軌道を接続する傾斜した部分が存在している。そして、本発明の搬送車押し上げ装置は、上述した坂道軌道部に沿って延在するように設けられたガイドレールと、該ガイドレールに沿ってスライド可能なスライド部とを備えている。即ち、スライド部は、ガイドレールに案内されることで、坂道軌道部分に沿う方向にスライド可能とされている。尚、ガイドレールは、坂道軌道部の全てに対応するように設けられることが好ましいが、部分的に設けられる場合であっても、後述する本発明の効果は相応に得られる。
【0009】
本発明の搬送車押し上げ装置は更に、スライド部に所定の押し上げ力を伝達する押し上げ力伝達手段を備えている。尚、ここでの「所定の押し上げ力」とは、坂道軌道部で停止した搬送車を坂道軌道部の坂上側に押し上げるための力であり、典型的には搬送システムを管理する作業員等によって装置外部から加えられる。スライド部は、所定の押し上げ力が伝達されると、ガイドレールに沿って坂道軌道部の坂上側に押し上げられる。
【0010】
ここで特に、上述したスライド部は、押し上げ力伝達手段によって所定の押し上げ力が伝達されない状態では、搬送車と干渉しない位置とされる。即ち、搬送車が坂道軌道部で走行不能になっておらず通常通り走行可能な場合には、搬送車の走行を妨げないような位置に退避される。一方で、押し上げ力伝達手段によって所定の押し上げ力が伝達される状態では搬送車と当接するような位置とされる。即ち、搬送車が坂道軌道部で走行不能になっており、坂道軌道部の坂上側に押し上げようとする場合には、搬送車に対して所定の押し上げ力を伝達可能な状態とされる。スライド部は、所定の押し上げ力が伝達されることで坂道軌道部の坂上側に押し上げられるため、スライド部が当接した搬送車は、スライド部と共に坂道軌道部の坂上側に押し上げられる。坂道軌道部の坂上側に押し上げられた搬送車は、他の搬送車の走行を妨げないような位置へと離脱させられる。
【0011】
本発明では、上述したように、搬送車の押し上げが求められる場合と、搬送車を押し上げる必要のない場合とで、スライド部が互いに異なる位置に存在することになる。よって、通常の搬送における搬送効率を悪化させることなく、必要に応じて好適に搬送車の押し上げを実現できる。また、スライド部は坂道軌道部に沿ったガイドレールに案内されるため、搬送車をより簡単な動作で押し上げることが可能となる。
【0012】
坂道軌道部で走行停止した搬送車は、坂道軌道部以外(即ち、平坦な箇所)で走行停止した搬送車と比べて、搬送軌道から離脱させることが困難である。具体的には、坂道を押し上げる力が加わる分、搬送車を動かすためにより大きな力が求められ、力を加える方向も坂道軌道部に沿った方向であることが求められる。このような搬送車の押し上げ作業は、坂道軌道部が比較的短い場合や傾斜が緩やかな場合には、さほど問題とはならないが、坂道軌道部が比較的長い場合や傾斜が急な場合には、極めて大きな問題となる。よって、坂道軌道部において好適な搬送車の押し上げを実現できる本発明は、実践上極めて有効であるといえる。
【0013】
本発明の搬送車押し上げ装置の一態様では、前記ガイドレールは、前記搬送車よりも下側に配置されており、前記スライド部は、前記ガイドレールに沿ってスライドする第1スライド部、及び該第1スライド部から前記搬送車に当接する上側位置に突出可能とされた第2スライド部を有しており、前記押し上げ力伝達手段は、前記坂道軌道部の坂上側から延在し前記第1スライド部に連結された第1の引き上げ部材、及び前記坂道軌道部の坂上側から延在し前記第2スライド部に連結された長尺状の第2の引き上げ部材を有しており、前記第1の引き上げ部材は、引き上げられることで前記第1スライド部及び前記第2スライド部を一体的に坂上側に上昇させ、前記第2の引き上げ部材は、引き上げられることで前記第2スライド部を前記第1スライド部から前記上側位置へと突出させる。
【0014】
この態様によれば、ガイドレールが搬送車よりも下側に配置されているため、ガイドレールに案内されるスライド部も、搬送車より下側に位置することになる。そして、本態様に係るスライド部には特に、ガイドレールに沿ってスライドする第1スライド部、及び該第1スライド部から搬送車に当接する上側位置に突出可能とされた第2スライド部が有されている。
【0015】
本態様に係る押し上げ力伝達手段には、坂道軌道部の坂上側から延在し第1スライド部に連結された第1の引き上げ部材、及び坂道軌道部の坂上側から延在し第2スライド部に連結された長尺状の第2の引き上げ部材が有されている。第1の引き上げ部材は、引き上げられることで第1スライド部及び第2スライド部を一体的に坂上側に上昇させる。一方、第2の引き上げ部材は、引き上げられることで第2スライド部を第1スライド部から上側位置(即ち、搬送車と当接する位置)へと突出させる。
【0016】
上述した構成では、搬送車を押し上げる際、先ず第1の引き上げ部材が引き上げられることによって、第1スライド部及び第2スライド部が対象となる搬送車の位置までスライドされる。続いて、第2部材が引き上げられることによって、第2スライド部が上側位置へと突出される。そして、第2スライド部が搬送車に当接した後は、再び第1スライド部及び第2スライド部が坂上側にスライドされる。これにより、第2スライド部と当接している搬送車も同様に坂上側に押し上げられる。
【0017】
本態様では、スライド部のガイドレールに沿った移動動作と、搬送車と当接するための突出動作とを別々に行えるため、例えば複数の搬送車が連なって走行不能となった場合等に、対象とする搬送車の押し上げ動作を速やかに行うことができる。
【0018】
本発明の搬送車押し上げ装置の他の態様では、前記所定の押し上げ力が伝達されない状態であっても、前記スライド部が前記ガイドレールの所定位置より坂下側に下降するのを防止する下降防止手段を更に備える。
【0019】
この態様によれば、搬送車の押し上げ作業中において、スライド部に所定の押し上げ力が伝達されなくなった場合(例えば、作業者が押し上げ力伝達手段から手を離した場合や、作業者が途中で休憩したい場合)でも、搬送車の坂下側への下降が制限される。このため、搬送車を所定位置まで押し上げておけば、押し上げ作業を所定位置から再開することができる。従って、搬送車の押し上げ作業の効率を向上させることができる。尚、本態様に係る「所定位置」は、一のガイドレールに対して複数設定されていてもよい。
【0020】
上述した下降防止手段を備える態様では、前記スライド部は、スライド方向と直交し且つ水平な軸線周りに回動可能とされると共に、重心が前記軸線よりも坂下側を向いた位置とされており、前記下降防止手段は、前記ガイドレールの下側に配置され鋸状の刃部が複数形成された鋸状部材、及び前記スライド部に形成され該スライド部の坂下側が下方に向いて回動した場合に刃部に係止される係止部を有している。
【0021】
この構成によれば、スライド部は、スライド方向と直交し且つ水平な軸線周りに回動可能に支持される。尚、ここでの「直交」及び「水平」とは、完全な直交及び水平を含むほか、直交及び水平とみなせるまでに近い値を含む広い概念である。また、スライド部の重心は、スライド部が回動可能とされた軸線よりも坂下側を向いた位置とされているため、スライド部へ何ら力を加えない場合は、スライド部は坂下側が下方に向いて回動した状態となる。
【0022】
他方、下降防止手段には、ガイドレールの下側に配置され鋸状の刃部が複数形成された鋸状部材、及びスライド部に形成された係止部が有されている。このため、スライド部の坂下側が下方に向いて回動した場合(即ち、スライド部に所定の押し上げ力が伝達されない場合)には、係止部が鋸状の刃部に係止され、坂下側への下降が制限される。一方で、スライド部の坂下側が下方に向いて回動しない場合(即ち、スライド部に所定の押し上げ力が伝達される場合)には、係止部と鋸状の刃部は互いに干渉せず、スライド可能となったスライド部は好適に押し上げられる。
【0023】
上述した構成よれば、比較的簡単な構成で下降防止手段を実現でき、スライド部に所定の押し上げ力が伝達されなくなった場合の下降を確実に防止できる。また、スライド部に所定の押し上げ力が伝達される場合には、下降防止手段が自動的に機能しない状態とされるため、好適に押し上げ作業を進めることができる。
【0024】
本発明の搬送車押し上げ装置の他の態様では、前記スライド部は、前記搬送車に当接する部分に弾性体を有している。
【0025】
この態様によれば、弾性体によってスライド部と搬送車との当接時の衝撃が緩和される。従って、搬送車の破損や傷つきを的確に抑制することができる。尚、弾性体は、スライド部における搬送車に当接する部分の全てを覆うように設けられる必要はなく、部分的に設けられている場合であっても相応に効果を発揮できる。
【0026】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】搬送システムの全体構成を示す上面図である。
【図2】搬送車の構成を示す側面図である。
【図3】搬送車の移載動作を示す斜視図である。
【図4】搬送車の横移載動作を示す斜視図である。
【図5】搬送車押し上げ装置の全体構成を示す斜視図である。
【図6】搬送車押し上げ装置における可動クッションの位置変化を示す斜視図である。
【図7】スライド板及びガイドレールの構成を示す側面図(その1)である。
【図8】スライド板及びガイドレールの構成を示す側面図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0029】
先ず、本実施形態に係る搬送車押し上げ装置が備えられる搬送システムの全体構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、搬送システムの全体構成を示す上面図である。
【0030】
図1において、本実施形態に係る搬送システムは、軌道100と、搬送車200と、コントローラ300とを備えて構成されている。
【0031】
軌道100は、例えば天井に敷設されており、アルミニウムやステンレス等の金属から構成される。尚、ここでの図示は省略しているが、本実施形態に係る軌道100は、傾斜する坂道軌道部を有しており、坂道軌道部には搬送車押し上げ装置が設けられる。搬送車押し上げ装置の構成については後述する。
【0032】
搬送車200は、軌道100上に複数配置されており、軌道100に沿って走行することで、被搬送物であるFOUPを搬送することが可能である。
【0033】
また搬送車200は、車上コントローラ205を夫々有している。車上コントローラ205は、コントローラ300から搬送指令を受け取り、搬送車200の走行を制御する。尚、車上コントローラ205は、搬送車200の走行を制御するだけでなく、搬送車200に備えられた各機器を総括的に制御するという機能も有している。
【0034】
コントローラ300は、例えば演算回路やメモリ等を含んで構成されており、車上コントローラ205を介して、搬送車200に搬送指令を与えることが可能に構成されている。
【0035】
尚、ここでの図示は省略しているが、軌道100に沿った位置には、FOUPを一時的に保管する棚(例えば、バッファやポート等)及び半導体製造装置が設けられている
【0036】
次に、搬送車200のより具体的な構成について、図2を参照して説明する。ここに図2は、搬送車の構成を示す側面図である。
【0037】
図2において、搬送車200は、走行部210、本体部220、移動部230、昇降部235、昇降ベルト240、把持部250を備えて構成されている。
【0038】
搬送車200は、走行部210が例えばリニアモータ等によって推進力を与えることで、走行ローラ215が転動されつつ、軌道100に沿って走行する。走行部210の下面には、本体部220が吊り下がる形で取り付けられている。
【0039】
本体部220には、移動部230が取り付けられている。移動部230は、軌道100の側方(即ち、図における左右方向)に移動することが可能である。移動部230の下面には、昇降部235が取り付けられている。
【0040】
昇降部235の下面には、FOUPを把持する把持部250が昇降ベルト240によって取り付けられている。把持部250は、昇降ベルト240を巻き出す或いは巻き取ることで、本体部220に対し昇降可能である。
【0041】
次に、搬送車によるFOUPの移載方法について、図3及び図4を参照して説明する。ここに図3及び図4は夫々、実施形態に係る搬送車のFOUPの移載方法を示す斜視図である。
【0042】
図3において、搬送車200が、軌道100の真下に位置するポート510上のFOUP400を移載する際には、先ず搬送車200が軌道100上を走行して、ポート510上に設置されたFOUP400の上方に停止する。
【0043】
続いて、図に示すように、昇降部235によって昇降ベルト240が巻き出されることで把持部250がFOUP400の位置まで降下する。そして、把持部250とFOUP400との位置の微調整が行われ、FOUP400が把持される。
【0044】
FOUP400が把持されると、昇降ベルト240が巻き取られ、把持部250及び把持されたFOUP400が本体部220の位置まで上昇する。そして、再び搬送車200が軌道100上を走行して、FOUP400が搬送される。
【0045】
図4において、FOUP400が、軌道100の側方にそれた位置にあるサイドバッファ520に設置されている場合には、移動部230が軌道100の側方に移動した後に、昇降部235によって昇降ベルト240が巻き出され、把持部250がFOUP400の位置まで降下する。このように動作することで、軌道部100からFOUP400の横移載を行うことが可能となる。
【0046】
次に、本実施形態に係る搬送車押し上げ装置の構成及び搬送車の押し上げ動作について、図5及び図6を参照して説明する。ここに図5は、搬送車押し上げ装置の全体構成を示す斜視図である。また図6は、搬送車押し上げ装置における可動クッションの位置変化を示す斜視図である。
【0047】
図5において、本実施形態に係る搬送車押し上げ装置は、2本のガイドレール610及び620と、スライド板630と、可動クッション640と、複数のワイヤ711、712、721及び722と、引き上げワイヤ810及び820とを備えて構成されている。
【0048】
2本のガイドレール610及び620は、軌道100における坂道軌道部に沿うように、軌道部100の下側側方に夫々設けられている。これら2本のガイドレール610及び620間には、本発明の「第1スライド部」の一例であるスライド板630が支持されている。スライド板630は、2本のガイドレール610及び620に沿ってスライド可能とされている。
【0049】
スライド板630には、ワイヤ711及び712によって可動クッション640が取り付けられている。可動クッション640は、本発明の「第2スライド部」の一例であり、スライド板630と共に、2本のガイドレール610及び620に沿ってスライド可能とされている。可動クッション640は、弾性体として構成されている。尚、可動クッション640を支えるワイヤ711及び712の各々には、可動クッション640が落下することを防止するストッパ730が設けられている。
【0050】
スライド板630には更に、ワイヤ721及び722が取り付けられている。ワイヤ721及び722は、スライド板630に取り付けられる側と反対側の端部で、ワイヤ711及び712と互いに接続されている。そして、ワイヤ711とワイヤ721との接続部分、及びワイヤ712とワイヤ722との接続部分には、本発明の「第1引き上げ部材」の一例である引き上げワイヤ810が接続されている。また、引き上げワイヤ810よりワイヤ711及び712側には、本発明の「第2引き上げ部材」の一例である引き上げワイヤ820が接続されている。
【0051】
本実施形態に係る搬送車押し上げ装置によって、坂道軌道部の途中で走行停止した搬送車200を押し上げようとする場合には、先ず引き上げワイヤ810が作業員等によって引っ張られる。これにより、スライド板630に取り付けられたワイヤ721及び722、並びに可動クッション640に取り付けられたワイヤ711及び722が概ね均等に引き上げられ、スライド板630及び可動クッション640が一体的に坂上側に移動する。
【0052】
図6において、スライド板630が搬送車200の下側に到達すると、引き上げワイヤ810に代えて引き上げワイヤ820が引っ張られる。ここで、引き上げワイヤ820は、上述したように、引き上げワイヤ810よりワイヤ711及び712側に接続されている。このため、引き上げワイヤ820を引っ張ると、スライド板630に取り付けられたワイヤ721及び722より、可動クッション640に取り付けられたワイヤ711及び712がより多く引き上げられ、結果として可動クッション640がスライド板630上に移動する。
【0053】
スライド板630上に移動した可動クッション640は、搬送車200の下端側と当接する。従って、当接後も引き上げワイヤ820を引き続ければ、スライド板630及び可動クッション640と共に搬送車200も坂上側へと押し上げられる。坂道軌道部から押し上げられた搬送車200は、他の搬送車200の走行を妨げないよう、搬送軌道とは異なる軌道に離脱させられる。
【0054】
坂道軌道部で走行停止した搬送車200は、坂道軌道部以外(即ち、平坦な箇所)で走行停止した搬送車200と比べて、搬送軌道から離脱させることが困難である。具体的には、坂道を押し上げる力が加わる分、搬送車200を動かすためにより大きな力が求められ、力を加える方向も坂道軌道部に沿った方向であることが求められる。このような搬送車200の押し上げ作業は、坂道軌道部が比較的短い場合や傾斜が緩やかな場合には、さほど問題とはならないが、坂道軌道部が比較的長い場合や傾斜が急な場合には、極めて大きな問題となる。よって、坂道軌道部において好適な搬送車200の押し上げを実現できる本実施形態の構成は、実践上極めて有効であるといえる。
【0055】
次に、上述した搬送車押し上げ装置におけるスライド板及びガイドレールの具体的な構成について、図7及び図8を参照して説明する。ここに図7及び図8は夫々、スライド板及びガイドレールの構成を示す側面図である。尚、図7及び図8では、説明の便宜上、図5及び図6で示した搬送車押し上げ装置を構成する詳細な部材の図示を適宜省略している。
【0056】
図7において、スライド板630は、突起部631がガイドレール610及び620に設けられたガイド溝部910に係合することで支持されている。またスライド板630は、突起部631を軸心として回動可能とされている。尚、ここでの突起部631の形状は、突起しているもの限定されない。即ち、スライド板630に係合し、該スライド板630をガイド溝部910の延在方向にのみスライド可能とする(即ち、他の方向への移動を不能とする)ような形状の部材が、突起部631に代えて設けられてもよい。スライド板630の坂下側の端部には錘632が取り付けられている。このため、スライド板の重心は坂下側となり、図に示すようにワイヤ721が引き上げられていない状態であれば、錘632を取り付けた側が下方になるよう回動する。
【0057】
スライド板630の下方側には、鋸状部材920が設けられている。このため、スライド板630が錘632を下にして回動すると、鋸状部材920の刃部に、錘632が係止された状態となる。即ち、ここでの錘632は、本発明の「係止部」の一例としても機能し、スライド板630の坂下側への下降を制限する。
【0058】
図8において、ワイヤ721が引き上げられている場合には、スライド板630は、ガイド溝部910に概ね平行な状態となる。よって、錘632が鋸状部材920の刃部に係止されず、スライド板630は、ガイド溝部910に沿ってスライド可能な状態となる。
【0059】
上述した構成によれば、搬送車200の押し上げ作業中において、スライド板630及び可動クッション640に所定の押し上げ力が伝達されなくなった場合(例えば、作業者が引き上げワイヤ820から手を離した場合や、作業者が途中で休憩したい場合)でも、搬送車200の坂下側への下降が制限される。このため、搬送車200を所定位置まで押し上げておけば、押し上げ作業を所定位置から再開することができる。従って、搬送車200の押し上げ作業の効率を向上させることができる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態に係る搬送車押し上げ装置によれば、登り坂において走行不能となった搬送車200を、好適に坂上側に押し上げることが可能である。
【0061】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う搬送車押し上げ装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0062】
100…軌道、200…搬送車、210…走行部、215…走行ローラ、220…本体部、230…移動部、240…昇降ベルト、250…把持部、300…コントローラ、400…FOUP、510…ポート、520…サイドバッファ、610,620…ガイドレール、630…スライド板、631…突起部、632…錘、640…可動クッション、711,712,721,722…ワイヤ、810,820…引き上げワイヤ、910…ガイド溝部、920…鋸状部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井又は天井近傍位置に敷設される軌道に沿って搬送車が走行する搬送システムにおいて、前記搬送車を前記軌道の坂道軌道部に沿って坂上側に押し上げる搬送車押し上げ装置であって、
前記坂道軌道部に沿って延在するように設けられたガイドレールと、
前記ガイドレールに沿ってスライド可能なスライド部と、
前記スライド部に所定の押し上げ力を伝達し、該スライド部を前記ガイドレールに沿って坂道軌道部の坂上側に押し上げる押し上げ力伝達手段と
を備え、
前記スライド部は、前記所定の押し上げ力が伝達されない状態では前記搬送車と干渉しない位置となり、前記所定の押し上げ力が伝達される状態では前記搬送車と当接して前記搬送車を坂上側に押し上げる
ことを特徴とする搬送車押し上げ装置。
【請求項2】
前記ガイドレールは、前記搬送車よりも下側に配置されており、
前記スライド部は、前記ガイドレールに沿ってスライドする第1スライド部、及び該第1スライド部から前記搬送車に当接する上側位置に突出可能とされた第2スライド部を有しており、
前記押し上げ力伝達手段は、前記坂道軌道部の坂上側から延在し前記第1スライド部に連結された第1の引き上げ部材、及び前記坂道軌道部の坂上側から延在し前記第2スライド部に連結された長尺状の第2の引き上げ部材を有しており、
前記第1の引き上げ部材は、引き上げられることで前記第1スライド部及び前記第2スライド部を一体的に坂上側に上昇させ、
前記第2の引き上げ部材は、引き上げられることで前記第2スライド部を前記第1スライド部から前記上側位置へと突出させる
ことを特徴とする請求項1に記載の搬送車押し上げ装置。
【請求項3】
前記所定の押し上げ力が伝達されない状態であっても、前記スライド部が前記ガイドレールの所定位置より坂下側に下降するのを防止する下降防止手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の搬送車押し上げ装置。
【請求項4】
前記スライド部は、スライド方向と直交し且つ水平な軸線周りに回動可能とされると共に、重心が前記軸線よりも坂下側を向いた位置とされており、
前記下降防止手段は、前記ガイドレールの下側に配置され鋸状の刃部が複数形成された鋸状部材、及び前記スライド部に形成され該スライド部の坂下側が下方に向いて回動した場合に刃部に係止される係止部を有している
ことを特徴とする請求項3に記載の搬送車押し上げ装置。
【請求項5】
前記スライド部は、前記搬送車に当接する部分に弾性体を有していることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の搬送車押し上げ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−171765(P2012−171765A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37331(P2011−37331)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】